説明

COD測定システム

【課題】可搬型の化学的酸素要求量(COD)測定システム及びそれに用いられる光反応器を提供すること。
【解決手段】光触媒を充填した光反応容器及び光反応用光源を備えた光反応器において、光反応用光源が可搬型直流電源によって駆動される。この光反応器を用いた、バッテリーによって駆動でき、小型軽量で持ち運びが容易であるような、フローインジェクション分析(FIA)法に基づいた可搬型COD測定システムが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
化学的酸素要求量(COD)測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
化学的酸素要求量(COD)は、排水規制項目の一つであり、水質汚濁の重要な指標である。CODは、試料水に酸化剤を添加し、酸性下において高温で加熱して試料水に含まれる有機物等の被酸化性物質(COD成分)を酸化させ、このとき消費された酸化剤の量を酸素量に換算して表したもの、と定義されている(例えば、日本工業規格(JIS)規格番号K0102「工場排水試験方法」参照)。その測定方法の一つとして、上記JIS K0102において、「17.100℃における過マンガン酸カリウムによる酸素消費量」という測定法(以下、JIS-CODMn法と略記する)が公定されている。
【0003】
ところが、JIS-CODMn法は、手作業で行われており、試料を採取した後、測定結果を得るまでに1.5時間程度の時間を要する。また、測定値の再現性が低く個人差も大きい。さらに測定操作について、一定の条件で正確に30分間加熱する、加熱後に残留する過マンガン酸イオン(MnO4-)濃度が添加時の1/2になるように試料液量を調製する等、操作条件が細かく規定されているため、熟練した技術が要求される。
【0004】
そこで、JIS-CODMn法よりも簡単・迅速且つ正確にCODの測定を行うために、例えば、フローインジェクション分析(FIA)法により行うCOD自動測定装置が提唱されている(特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2005−140531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CODの測定は、産業排水、下水、湖沼水、河川水等の水質を管理する目的に実施されることが多いので、CODの測定対象となる試料は戸外で採取される場合が多い。試料が採取された後、上記JIS K0102等によってCODの正確な測定結果を得るためには、直ちに測定操作を開始する必要がある。だが、従来のFIA法によるCOD測定装置は、交流電源によって駆動され消費電力も大きいため、商用電源が利用できないような戸外で使用することは困難である。さらに、その重量や寸法も大きいので、試料採取の現場やその近くまで持ち運んで、試料の採取直後にCOD測定を実施することは容易ではない。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み、消費電力が小さく、小型軽量で持ち運びが容易な、可搬型のCOD測定システム及びそれに用いることのできる光反応器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る化学的酸素要求量(COD)を測定するために用いられる光反応器は、光触媒を充填した反応容器と光触媒に光を照射する光反応用光源とを備え、光反応用光源が可搬型直流電源によって駆動されることを特徴とする。光反応用光源はLEDであってもよい。
【0008】
次に、本発明に係る化学的酸素要求量(COD)測定システムは、CODを測定する試料を導入するための試料導入部と、試料を酸化させるための酸化剤を導入するための酸化剤導入部と、導入された試料と酸化剤とを混合する混合部と、試料の酸化剤による酸化反応を触媒する光触媒を充填した反応容器及び光触媒に光を照射する光反応用光源を備えた光反応器と、酸化反応後の酸化剤の量を検出する検出部と、検出された酸化剤の量からCODを算出する算出部と、可搬型直流電源を備え光反応用光源を駆動する電源部、を備えることを特徴とする。光反応用光源はLEDであってもよく、測定システムは可搬型であってもよい。さらに本発明に係る測定システムは、試料導入部及び酸化剤導入部の少なくとも一方が、試料または酸化剤を含有する溶液を送液するための送液ポンプと脈流防止装置とを備え、送液ポンプが可搬型直流電源によって駆動され、脈流防止装置が2つ以上のエアーダンパと2つ以上の背圧管とを備えた脈流防止機構を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、消費電力が小さく、小型軽量で持ち運びが容易な、可搬型のCOD測定システム、及びそれに用いることのできる光反応器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施の形態を以下に詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載する発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0011】
[CODの測定方法と測定システム]
(1)試料溶液と酸化剤の混合
CODの測定においては、一般にまず、COD測定の対象となる試料溶液と、所定の酸化剤を含む酸化剤溶液とを混合して、混合溶液を得る工程が必要である。ここで試料溶液として、水質管理の対象となる産業排水、下水、湖沼水、河川水等のほか、化学実験で使用される水、製造プロセスで使用される工業用水、あるいは実験用に調製したCOD成分含有溶液等が対象となる。本発明の測定システムは、上記のいずれの溶液についてもそのCODを測定することが可能である。
【0012】
次に、酸化剤としては、COD成分を効率的に酸化することができる電子受容体となるものであれば、どのような酸化剤を用いてもよく、例えば、JIS K0102で用いられる過マンガン酸カリウムを含む過マンガン酸塩や、セリウム(IV)、二クロム酸塩等の金属塩のほか、過塩素酸塩、過酸化水素、過硫酸塩等を用いることができる。しかし、後述する光触媒による酸化反応促進効果のある物質、例えば過マンガン酸カリウムを使用することが、本発明の実施には好ましい。
【0013】
これら試料溶液と酸化剤を混合するための装置としては、2種類の溶液を混合するための任意の装置を用いればよい。例えば、それぞれの溶液を一つのビーカーに入れて攪拌器(スターラ)で攪拌するという構成の装置を用いてもよいし、両者の少なくとも一方を細管の中に流しておき、他方をその流れの中に導入することによって混合する、フローインジェクション分析法による装置を用いてもよい。
【0014】
ここで、「フローインジェクション分析(FIA)法」とは、一般に、細管内の試薬(または測定対象の試料)の流れの中に、試料(または試薬)を導入し、反応操作などを行った後、下流に設けた検出部で分析成分を検出して定量する分析方法であり、例えばJIS規格番号K0126に規定されている。このFIA法に基づく測定法は、測定の精度や感度が高く、多数の試料を簡単な操作で再現性よく測定することができ、省力化や自動化が容易であり、試料や試薬の少量化もできる、といった利点を有している。本発明のCOD測定システムにおいてFIA法に基づく測定装置を採用する場合、試料と混合する試薬として前述の酸化剤が該当し、一般のFIA法における送液部および試料導入部の構成要素として、本発明でいう試料導入部、酸化剤導入部、混合部が該当することとなる。そして装置全体の構成には、これらに加えて、後述する光反応器および検出部、並びにそれらを互いに接続する細管の各要素を含む。
【0015】
この場合、試料溶液と酸化剤溶液の混合のために必要な、試料導入部、酸化剤導入部ならびに混合部の各部分並びにそれらの構成は、FIA法に用いられる一般的なものであってよい。例えば前述したように酸化剤または試料の一方のみが流れる細管を設け、もう一方を注入してもよいし、両者をそれぞれ細管に流してから、それらの細管の流路を混合部で合流させることにより両者を混合させてもよい(マージングゾーン法)。また、試料および酸化剤を流路に導入するための方法並びに装置は一般的なものであってよく、例えば注射器に採取した試料(または酸化剤)をインジェクタを介して流路に注入してもよいし、多数の試料を順次自動的に導入できるようなオートサンプラー等の機構を備えていてもよい。さらに試料導入部または酸化剤導入部には、一定の流速で液体を送り出すことのできる任意の送液装置を設けてもよく、例えば液体ポンプを用いる場合は、一般的なペリスタ(チュービング)ポンプや、ダブルプランジャポンプを用いることもできるし、あるいはまた、窒素ガスやその他のガスによる圧力を利用した、ガス圧式の送液装置を用いてもよい。さらに、送液装置には、同時に複数の液体を送液できる装置、例えば2つ以上のポンプヘッドが装着されたペリスタポンプ等があるので、これを試料導入部および酸化剤導入部の両方において使用する場合、その結果として試料導入部、酸化剤導入部、及び混合部の一部または全体が一体となった構成になっても構わない。
【0016】
なお、ペリスタポンプ等を送液ポンプとして用いる場合、ポンプから生じる脈流によって測定精度の低下の問題が生じるようなときは、流路の中でポンプより下流で検出部より上流の部分に、後述する脈流防止機構を備えた装置を接続してもよい。
【0017】
(2)光触媒による試料中のCOD成分の酸化反応
次に、上記のようにして得られた混合溶液に対して、それに含まれるCOD成分を酸化させるために、酸化反応を行わせる。JIS-CODMn法においては、この酸化反応の操作は、沸騰水中(100℃)において30分間加熱することによって実施するが、この方法では反応完了までに時間を要し、また加熱のためのエネルギー消費が大きく操作に危険性も伴う。そこで、酸化反応を光触媒を用いて常温において行うという方法が、これらの問題を解決するためには有効である(例えば特許文献1参照)。
【0018】
ここで光触媒は、酸化剤によるCOD成分の酸化反応速度を促進することができるものであればよく、例えば酸化チタン(TiO2)、CdS、CdSe、GaP、ZnO、SrTiO3、InP、GaAs、BaTiO3、K2NbO、Fe2O3、Ta2O5、WO3、SnO2、Bi2O3、NiO、Cu2O、SiC、SiO2、MoS2、InPb、RuO2、CeO2等の物質が考えられる。これらのうち酸化チタンは、無毒で安価なので、COD測定を安全に且つ低コストで行うことができて好ましい。
【0019】
つぎに、光触媒に照射して酸化反応を促進させるための光は、紫外線などの、光触媒の価電子帯と伝導帯との間のバンドギャップエネルギー以上のエネルギーを有して、光触媒に照射することにより光触媒活性を生じるような光の成分を含むものであれば、どのようなものでもよい。光触媒としてアナタース型の酸化チタンを用いる場合は、この光は387nm以下の波長の紫外線を含むことが望ましい。
【0020】
ところで、このような光を発する光源としては、紫外線ランプやブラックライトランプ・蛍光灯などの低圧水銀ランプ、タングステン−ヨウ素ランプのほか、LED(Light Emitting Diode)等が使用できる。しかし、本発明の実施のためには、小型であってバッテリーで駆動できる光源であることが望ましく、例えばLEDは、消費電力が小さくかつ直流電源によって直接駆動でき、寸法および重量も小さいため、COD測定のための光源にこれを用いると、省電力化や小型軽量化のために非常に有効である。そのほかLEDは、低圧水銀ランプ等の放電管に比べてランプ寿命が長く、廃棄時の水銀の取り扱いの問題がないこと等も長所としてあげられる。
【0021】
光触媒及び光反応用光源を用いて酸化反応を行わせるための反応容器は、試料と酸化剤の混合溶液が光触媒と接触できて、光反応用光源が発する光が光触媒に到達して酸化反応を促進することが出来るような構成であれば、どのような容器でもよい。例えば、粒子状の光触媒や、光触媒を表面に付着させた粒子(光触媒粒子)等を混合溶液に添加して、スターラ等を使って溶液を撹拌して光触媒と接触させる容器や、内周面に光触媒を塗布した容器に混合溶液を投入してスターラ等を使って溶液を撹拌して光触媒と接触させる容器、光触媒粒子を充填したカラム又はコイルに混合溶液を通液して光触媒と接触させる容器等を用いてもよい。これらのうち、光触媒充填カラム(またはコイル)を反応容器として用いると、FIA法における反応部として容易に利用できるため好ましい。このような反応容器を、前述の光反応用光源が発する光が光触媒に到達するようにして光源と組み合わせることにより、光反応器を構成する。
【0022】
(3)残存酸化剤の検出及びCODの算出
COD測定の最後の工程においては、酸化反応後の混合溶液中に残存する酸化剤を検出し、その残存量よりCODを算出する。本発明の検出部における酸化剤の検出のための手段としては、滴定分析装置、重量分析装置や、分光測光装置、電位差測定装置、ポーラログラフィー装置、電導度測定装置、偏光測定等の測定機器を含む、酸化剤を検出することのできる任意の装置を、検出部として用いることができる。
【0023】
ここで、酸化剤として、過マンガン酸カリウムなどの、酸化反応によって光学濃度が変化する物質を用いると、その量を光学濃度によって正確に検出できる。この場合、酸化剤の検出部としては、液体の光学濃度を測定できる、任意の分光測光装置を使用することができる。しかし本発明の実施においては、小型・軽量で、消費電量が小さい装置であることが望ましく、検出部として例えば吸光検出器を利用し、その中の光学濃度測定用光源としてLEDを用いることが、前述の光反応用光源の場合と同様の理由から好適である。
【0024】
さらに、CODを算出するためには、既知の濃度のCOD成分を含有する溶液(COD標準液)を試料と同様に測定して、検量線を作成することが必要となることがある。このための計算や図表化の操作は、作業者が手作業で行ってもよいが、酸化剤検出装置による測定結果からCODを算出することのできる算出プログラムを備えたコンピュータを、検出装置に接続して、算出部として用いてもよい。この場合コンピュータは、検出装置と一体となっていてもよいし、あるいは別個の装置であってもよく、例えば携帯型(ノート型)コンピュータを用いることもできる。また、算出プログラムも、測定結果の記録機能を有するものであれば市販の任意のものを用いてもよいが、本発明の実施のために市販のプログラムを改変したもの、もしくは新たに作成したものであってもよい。
【0025】
COD算出部にこのようなコンピュータを含む場合、このコンピュータはさらにほかの部分と接続され、それらの制御のためのプログラムをさらに備えていてもよく、このような構成にすることによって、測定操作の省力化・自動化を図ることが容易となる。
【0026】
[COD測定システムにおける電源]
本発明においては、可搬型のCOD測定システムを提供するため、その構成要素(光反応器に含まれる光反応用光源を含む)は、直流電源によって駆動される。このことにより、システム全体を小型軽量な可搬型直流電源(ポータブルバッテリー)によって駆動することが可能になり、正確なCOD測定のために求められる、試料水採取の現場やその付近(オンサイト)での迅速な測定が実現できる。このようなバッテリーは、可搬性があり、本発明の測定システムを構成して電源による駆動を必要とする要素を駆動できるものであれば、どのようなものでもよい。また駆動のための電圧も、特に制約されるものではない。しかし、駆動電圧が12Vあるいは24Vであれば、自動車などの一般的なバッテリーと電圧の面で互換性があるため、本発明のためのバッテリーとして自動車用のものを利用することができる。さらに本システムを自動車に搭載して測定現場まで運搬し、自動車の電源回路と接続してバッテリーを消費せずに使用することなども可能となる。
【0027】
このような可搬型のバッテリーを含んだ、本発明のCOD測定システムの電源部は、システム中の他の構成要素をさらに駆動してもよく、例えば酸化剤の検出を分光測光により行う場合に用いられる吸光検出器も、同じ電源部によって駆動してもよい。ただし、電源による駆動を必要とする他の構成要素は、システム全体の可搬性を損なわなければ独自の電源を有していてもよく、例えば前述したように検出・記録部に携帯型コンピュータを用いる場合、それは内蔵バッテリーによって独自に駆動されてもよい。電源部はさらに、交流を直流に変換するコンバータを有していてもよく、これにより、商用電源が利用できる屋内などにおいて、本システムを商用電源に接続して、バッテリーを消費せずに使用することができるようになる。
【0028】
[測定システムの構成]
本発明のCOD測定システムは、これまでに述べてきたCOD測定の各工程のための構成要素部分を含むものであれば、どのような構成であってもよい。例えば、試料および酸化剤導入部と溶液混合器、光反応部、残存酸化剤検出部、COD算出部を独立して配置し、それぞれに対して作業者が手作業で溶液を供給し、そこでの工程を終了させた後、次の工程のための部分に移す操作を順次行うこともできる。しかし、これらの構成要素を、工程の順に従って細管によって互いに接続し、測定方法として前述のFIA法を用いれば、一連の溶液の流れにおいて全工程を完了することが可能となるため、操作の省力化、迅速化等の観点から好ましい。
【0029】
さらに、このシステム全体の配置は、COD測定が実施できて、可搬性を損なわないものであればどのようなものであってもよく、例えば各部が一つの筐体に含まれていてもよいし、あるいは複数の筐体に分かれていてもよい。
【実施例】
【0030】
[COD測定システムの構築]
(1)設計: 測定に必要な、システムの主な構成は、送液ポンプ、インジェクションバルブ、光反応器(触媒充填コイル、光源)、検出器(光源、フローセル、光検出器)、検出信号データ処理装置である。設計の目標にあたって、小型で省電力なシステムとするため、DC電源駆動方式で、可能な限り小型なものを条件とした。また、DC電源供給電圧はカーバッテリーの利用も考慮し12Vとし、ポータブルバッテリーを用いることとした。また、ACも使用可能にするためAC/DCコンバータを装備することとした。システムの概略構成は図1に示すとおりである。
【0031】
(2)製作: オンサイトCOD測定システムの構成の条件を満足する部品の調達について調査・検討した結果、以下の各部品を採用した。すなわち、試料導入部100のインジェクタはレオダイン製7000を、試料導入部100及び酸化剤導入部200に用いる送液ポンプはマスタフレックス社製 77120-62を、検出部500の吸光検出器にはOcean Optics社製 USB2000、その光源にはOcean Optics社製 LS-450(518 nm LED)、フローセルはOcean Optics社製 FIA-Z-SMA-PEEK(光路長10 mm)、専用光ファイバーはQP400-25-SR、を採用した。算出部600のコンピュータ及びプログラムは、富士通製FMV-BIBLO LOOX T50G/Wおよび検出器用ドライバソフト(OOIWinIP)のサンプルプログラムを改良・追加して用いた。電源部700において、日本電池製PT8000(ポータブルバッテリー)を可搬型直流電源710とした。
【0032】
これらの部品を筐体に組込み、FIAシステムを構成した。筐体には、光反応用光源のための定電流駆動電源回路、DC−DC昇圧コンバータ、およびAC/DC−2電源回路等を電源部700の一部として装備し、容易にメンテナンスできるように主要構成部品を引き出せる構造とし、且つ可搬型のものを製作した。
【0033】
(3)調整・機能確認: 組込み部品の試薬溶液びん、ポンプ、インジェクタ、光反応器、フローセルを、内径0.5 mmのPTFEチューブを用い、混合部300を介して図1の実線で示すように接続して、FIAフローシステムの流路系を構成し、各部の調整等を行い、機能確認を行った。
【0034】
[光反応器に用いる光源の検討]
(1)光反応器
小型化・低電力化を図るため、光触媒作用に必要な光源として370 nm以下の光を発光する紫外LEDを採用した、光反応器の検討を行った。まず、LEDにナイトライド・セミコンダクター製NS365DSを用い、これを16個ガラス管の内部へ配置して、光反応用光源420とした(図2A)。
【0035】
石原産業製STS-01(X線粒径7nmアナタース型酸化チタン(TiO2) 30%ゾル溶液)をコーティングした、粒径0.2 mmのガラスビーズを光触媒粒子として使用し、これを内径1.5 mm、長さ1mのPTFEチューブに充填して、酸化チタンカラム(チタニアカラム)を作製した。これをガラス管の外部へコイル状に巻きつけて、酸化反応のための反応容器410とし、内部の光反応用光源と合わせて光反応器400を構成した(図2A)。
【0036】
一方、光出力がより大きい高輝度LED(12 mW/個)が開発されたため、これを用いて検討を行った。このLED(ナイトライド・セミコンダクター製NS365MD)は、複数のチップを集合させた構造であるため発熱量が大きく、前述の実施例のようにガラス管の内部へ配置するとLEDの最高使用温度(80℃)を超えるため、ガラス管の外部へ8個配置し、コイル状のチタニアカラムをその内部へ挿入した光反応器を製作した(図2B)。カラムをコイル状に巻くために巻付軸を用いる場合、その表面は例えばアルミホイル等の光反射性素材で被覆してもよい。
【0037】
(2)フローインジェクション分析
これらの光反応器を使用した場合の酸化反応の効率を評価するために、フローインジェクション分析(FIA)法に基づく測定システムを構築した。この評価用システムの流路系の模式図を図3に示す。ダブルプランジャポンプ(サヌキ工業製RX-703T)を送液ポンプ(P)用い、試料を流すためのキャリヤー液(C)、および酸化剤溶液(R)をそれぞれ流量0.3 ml/minで送液した(試薬類の組成等については後述する)。キャリヤー液中への試料(S)の導入には、6方バルブ(試料量:100μl、レオダイン社製9010)(V)を用いた。キャリヤー液と反応試薬液の流れを合流させた後に、光反応器400に導いて、試料液中のCOD成分を酸化反応させた後、吸光検出器(D)(相馬光学製S-3250、フローセル光路長:10 mm、容量8μl 、測定波長525 nm)で吸光度を検出した。ピークの記録計(REC)として、クロマトグラフィーデータ処理システム(ジーエルサイエンス製 Vstation)を用いた。なお前述の光反応器400における光源には、紫外LEDのほか、比較のため従来のブラックライト(ピーク波長:352 nm、光出力:4W、NEC社製FL4BL)を用いた。試料導入部のサンプルループや流路の配管のための細管(図3の実線)には、内径0.5 mmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)チューブを用いた。背圧コイル(BPC)には、長さ1.5m内径0.25mmのPTFEチューブを用いた。酸化反応において、酸化剤溶液中の過マンガン酸カリウムが消費されることにより、吸光度が減少するため、検出器を試料が通過すると、検出器からの信号は、負のピークとなって現れる。
【0038】
(3)試薬類の調製
キャリヤー溶液、ならびにCOD標準液および反応試薬液の調製のための溶媒には、電気脱塩水を超純水製造装置(ミリポア、milli-Q SPTOC)で処理した、電気伝導度18.3 MΩ・cm-1の超純水を使用した。反応試薬液(R)には、1.0×10-3 M 過マンガン酸カリウム、0.9 M硫酸、および3%リン酸の混合溶液を用いた。COD標準液は、D-グルコースを超純水に溶解し1000 mg/l溶液を調製した。検量線用標準液は、この溶液を適宜、正確に希釈して調製した。このCOD標準液はJIS法グルコース試験液(JIS規格番号K 0806「化学的酸素要求量(COD)自動計測器」を参照)に準じて調製したもので、濃度はJIS-CODMn値に相当する値である。その他標準液は、D-グルコース標準液に準じて調製した。試薬類は市販の分析試薬特級グレードのものを使用した。
【0039】
(4)反応効率の評価
COD標準液としてD-グルコースを用いて測定を行った結果、紫外LED(NS365DS)を光反応用光源として用いた場合に検出される吸光度は、ブラックライトや紫外線ランプなどの低圧水銀ランプを用いた場合と比較すると、約1/5程度であった。そしてKMnO4溶液の分解率は、低圧水銀ランプと比べると1/10程度であった。次に、高輝度紫外LED(NS365MD)を光反応用光源として用いた結果、検出吸光度は低圧水銀ランプを用いた場合の0.7〜0.8程度となり、KMnO4溶液の分解率は1/5程度に改善された。
【0040】
これらの結果を、用いた各光源の定格や寸法等と合わせて表1にまとめた。光反応の効率の比較のため、検出吸光度やKMnO4の分解率を、低圧水銀ランプの場合を1とする相対値で表し、さらに各光源の総光出力当りの値に換算した。これらの比較から、LEDを光源として使用することにより、従来の光源に比べて消費電化や小型化が実現できたほか、総光出力当たりに換算すると吸光度の検出効率は約1.5倍に向上する一方、KMnO4の分解率は約半分となった。
【0041】
〔表1〕光反応用光源としてLEDを用いた場合と、従来の低圧水銀ランプを用いた場合との反応効率の比較

【0042】
[チタニアカラムの内径の検討]
これまでの検討に用いたチタニアカラム(内径1 mm、外径2 mm) は、送液流量0.6 ml min-1 の場合、0.2〜0.3 MPa程度の圧力が必要であった。送液ポンプには、省電力化、小型・軽量化を図るため、DC12Vで駆動が可能なチュービングポンプ(ペリスタポンプ)を採用したが、このポンプの吐出圧は低いため、送液圧力を下げる目的で、内径の大きいチタニアカラム(内径1.5 mm・外径2.1 mm) を採用することとした。そこで、このカラムの変更による影響を、COD標準物質の測定により確認した。その結果、検出吸光度は低圧水銀ランプを用いた場合と同程度で、KMnO4溶液の分解率は1/2程度となった。この結果を、表1と同様にして、表2にまとめた。これより、光反応の効率を総光出力当たりに換算して比較すると、LEDの使用により、検出吸光度は低圧水銀ランプの約2倍にまで向上し、KMnO4溶液の分解率も同程度にまで改善した。
【0043】
〔表2〕反応容器として内径1.5mmのチタニアカラムを用いた場合の、光反応用光源として用いた光源の違いによる反応効率の比較

【0044】
[脈流防止機構の検討]
(1)脈流防止装置
本システムの実施例における送液ポンプには、小型軽量で直流電源で駆動のできるチュービングポンプ(ペリスタポンプ)を採用したが、このチュービングポンプは送液の機構上、脈流が発生する。ところが脈流は、検出器の吸光度の変動(ノイズ)として現れ、測定結果に影響を与える。このため、脈流の低減について検討を行った。
【0045】
システムの流路系のうち、ポンプ出口の送液ラインの背圧配管、エアーダンパの組合せにより、脈流の抑制について検討を行った。この結果、図4に示すような背圧配管111及びエアーダンパ112の構成から成る、脈流防止機構110を備えた脈流防止装置を送液ポンプ(P)の下流に接続することにより、ベースラインの脈流が測定に影響のないレベルにまで抑制できた。接続前・後のベースラインノイズの比較の一例を図5に示す。
【0046】
(2)CODの検出と記録
検出器のUSB2000用ドライバソフト(OOIWinIP)のサンプルプログラム(Microsoft(登録商標)Excel用マクロ)は、連続スペクトル(波長範囲:200〜900 nm)を測定する目的で作られている。これに対してFIAの測定では、一般にインテグレータと呼ばれている機能(特定の波長の吸光度の経時変化の測定、吸収ピークの検出、ピーク強度の測定、および標準溶液による校正等)が必要である。このためインテグレータとしての機能を持たせるため、サンプルプログラムの改良や、インテグレータプログラムの追加を行った。
【0047】
標準物質としてD-グルコースを用いて0〜30 ppmの標準溶液を調製し、COD測定を行った。標準物質のCOD検出結果を表示したモニター画面の一例を図6に示す。この測定値に基づき検量線のグラフを作成した結果、0 〜 10 ppmの範囲で良好な直線性が得られた(図7)。10 ppmを超える濃度の場合、試料水中のCOD成分に対する酸化剤や触媒作用が不足し、COD濃度と吸光度が比例しなくなるので、試料液注入量(現状:100 ml)を減少させることにより測定が可能である。検出下限(LOD: S/N=3)は0.1 ppm、再現性(相対標準偏差:RSD)は、10 ppmで0.7%、2 ppmで5.3%と、精度の良い測定ができた。試料のCOD算出結果を表示したモニター画面の一例を図8に示す。
【0048】
[従来のCOD測定法との比較]
これまでの検討結果に基づき、内径の大きいチタニアカラム(内径1.5 mm)を組込んで高輝度LEDを光源とした光反応器(図2B)を使用し、図3に示すフローシステムを用いて、D-グルコース等の各種の有機・無機物質13種類の溶液についてCODを測定した。各有機物質の濃度は、JIS-CODMn法による測定で概ね5 ppmまたは10 ppm になるように調製した。なお、得られたCOD値は、しゅう酸ナトリウムあるいはD-グルコースを標準として算出した。
【0049】
一方、同じ試料について、従来法であるJIS-CODMn法によりCODを測定した。本発明による測定結果と比較するため、それぞれの測定法における、理論酸素要求量に対する酸化率を算出した。これらの結果を表3にまとめた。また図9に、横軸に従来法によるCOD測定結果の値を、縦軸に本発明の実施例による測定結果の値を用いてプロットした、相関図のグラフを示した。
【0050】
〔表3〕従来のJIS-COD Mn法によって測定されたCOD値および酸化率に対する比較

【0051】
この結果、一部の物質(二チオン酸、アミド硫酸、塩化ヒドラジニウム)を除いた有機物質について、本発明の測定システムによる測定結果とJIS-CODMn法による結果との間に、良好な相関が得られた。二チオン酸は、JIS-CODMn法において非常に酸化されにくいが(酸化率は0.1程度)、本法の場合においてもほとんど酸化されず、測定値はJIS-CODMn法の1/100以下であった。他方、アミド硫酸・塩化ヒドラジニウムの場合は、本法のほうがJIS-CODMn法より高い測定値となった。過マンガン酸カリウム溶液を用いた100℃・30分間の酸化より、本発明における過マンガン酸カリウム溶液と光触媒を用いた常温・約5分間の酸化のほうが、酸化力が大きいためである。また、標準に用いる物質としてD-グルコースまたは酸ナトリウムを用いた場合の差はほとんど見られないことがわかった。
【0052】
[まとめ]
光触媒により酸化を促進し、FIA法によりCODを測定する手法を用いて、携帯型のCOD測定システムの開発に成功した。このシステムは、次のような特徴を備えている。(1)光触媒反応器の紫外線照射光源や検出器の光学濃度測定用光源にLEDを採用したことにより、小型化・軽量化や省電力化が図られており、ポータブルバッテリー(直流電源)の使用が可能である。(2)測定時間が約5分程度で、高精度・高再現性の測定が可能である。(3)以上により、試料水採取現場に持運びができ、現場(オンサイト)でのCODの迅速な自動測定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施例における、化学的酸素要求量(COD)測定システムの構成を示した模式図である。
【図2】本発明の2つの実施例における、光反応器の組み立てを示す模式図である。
【図3】本発明の実施例において、光反応器の評価に用いた流路系の構成を示す模式図である。
【図4】本発明の実施例における、脈流防止機構の構成を示す模式図である。
【図5】本発明の実施例において、脈流防止装置を接続した場合の、脈流防止効果を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例における、標準物質を用いたCODの検出の結果を示す図表である。
【図7】本発明実施例における、標準物質を用いたCODの検量線を表すグラフである。
【図8】本発明実施例において、測定結果を示すモニター画面の一例である。
【図9】本発明の実施例における、各種有機物のCOD、および酸化率の測定結果と、JIS-COD Mn法による測定結果との比較を示すグラフである。
【符号の説明】
【0054】
100 試料導入部
110 脈流防止機構
111 背圧管
112 エアーダンパ
200 酸化剤導入部
300 混合部
400 光反応器
410 反応容器
420 光反応用光源
500 検出部
600 算出部
700 電源部
710 直流電源
BPC 背圧コイル
C キャリヤー
D 検出器
P 送液ポンプ
R 酸化剤
REC 記録計
S 試料
V 6方バルブ
W 廃水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学的酸素要求量(COD)を測定するために用いられる光反応器であって、
光触媒を充填した反応容器と、
前記光触媒に光を照射する光反応用光源と
を備え、
前記光反応用光源が、可搬型直流電源によって駆動されることを特徴とする、光反応器。
【請求項2】
前記光反応用光源がLEDであることを特徴とする、請求項1に記載の光反応器。
【請求項3】
化学的酸素要求量(COD)を測定する試料を導入するための試料導入部と、
前記試料を酸化させるための酸化剤を導入するための酸化剤導入部と、
前記導入された試料と前記導入された酸化剤を混合する混合部と、
前記試料の前記酸化剤による酸化反応を触媒する光触媒を充填した反応容器と、
前記光触媒に光を照射する光反応用光源と、を備えた
光反応器と、
前記酸化反応後の前記酸化剤の量を検出する検出部と、
前記検出された酸化剤の量からCODを算出する算出部と、
可搬型直流電源を備え、前記光反応用光源を駆動する、電源部と、
を備えたCOD測定システム。
【請求項4】
前記光反応用光源が、LEDであることを特徴とする、請求項3に記載の測定システム。
【請求項5】
可搬型であることを特徴とする、請求項3または4に記載の測定システム。
【請求項6】
前記試料導入部及び前記酸化剤導入部の少なくとも一方が、
試料または酸化剤を含有する溶液を送液するための送液ポンプと、
脈流防止装置とを備え、
前記送液ポンプが、可搬型直流電源によって駆動され、
前記脈流防止装置が、2つ以上のエアーダンパと、2つ以上の背圧管と、
を備えた脈流防止機構を備える
ことを特徴とする、請求項3から5のいずれかに記載の測定システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−271335(P2007−271335A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−94604(P2006−94604)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】