説明

COPDの判定方法およびそれに使用する装置

【課題】ヒトの慢性閉塞性肺疾患(COPD)の状態を判定する方法が提供される。
【解決手段】その方法は、(a)前記ヒトから採取した唾液試料の分光分析を行なう工程と、(b)工程(a)における前記分析によって生成されたスペクトルを対照標準と比較する工程と、(c)工程(b)で判定された任意の変化に基づいて、前記ヒトにおけるCOPDの状態を判定する工程とを有する。また、COPDを判定するための装置も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトにおけるCOPDの状態を判定する方法およびそのような方法に使用される装置に関する。前記装置および方法は、COPDの監視および管理を容易にし得る。
【背景技術】
【0002】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は世界的に大きな公衆衛生問題である。該疾患は、過去10年に、世界的な罹患率の順位において第12位から第5位に推移し、欧米の中所得国および低所得国の双方において、医療システムおよび社会経済的責任に与えるその影響は益々増大している。
【0003】
COPDは一般的で、複雑かつ種々雑多な病態である。該疾患は気管支気道内における空気の流れの持続的な閉塞を特徴とし、慢性咳、痰の生成および呼吸困難を含む、日常生活に支障を来すような症状を伴う。COPDの状態は、慢性気管支炎、慢性喘息、気管支拡張症および気腫の臨床的症状(α−1−アンチトリプシン欠乏症におけるような一次性のものおよび/または喫煙および/または他の環境刺激物による二次性のもの)を包含し得る。痰の生成を伴うかまたは伴わない咳を示し得る現喫煙者および元喫煙者の気道内には、無症状または診断未確定のCOPDが存在し得る。
【0004】
診断されたCOPD患者のほとんど90%以上は、日々の活動の中で最も簡単なことに困難を感じており、単に入浴した後および/または階段を上がった後に息切れしている。COPDにおける根本的な空気流の閉塞は、通常、従来の気管支拡張薬による治療によって完全には回復可能ではないので、COPD患者における症状の軽減は限られる。更に、COPDに関連する空気流の制限は、常に進行性であり、気道内の異常な炎症性細胞および生物学的変化、並びに結果として生じる気道の微視的および巨視的な生体構造の構造的再構築に関連している。
【0005】
COPDは、しばしば、個々の患者を非常に苦しめ、生活の質の低下および予後不良の一因となる急性再燃(増悪)を伴う。これらの急性発作は、気管支気道内における炎症の増大および/または感染症の発症によって促進される可能性がある。これらの症状の発現は、疾病重症度によって増大し、患者の肺機能の可変的であるが持続的に進行する自然な低下を背景に生じる。したがって、かなりの数のCOPD患者は、それらの患者の健康状態が悪化すると、再入院を要することは避けられない。
【0006】
COPDは、現在、気管支拡張の後に、肺活量測定の評価、特にFEV(1秒間努力呼気肺活量)測定によって評価されている。COPDの「再燃」は、通常、臨床的根拠に基づいて診断される。これらの臨床的根拠としては、特定の症状の悪化(例えば、息切れの増大、咳嗽の増大、および過度の痰生成)および/または運動耐容能および肺機能の低下および/または呼吸不全の発現が挙げられ得る。現在、特にどのCOPD患者でその疾患が自然に進行する傾向にあるか、肺機能が急速に悪化する傾向にあるか、増悪が増進する傾向にあるかを予測するような、個々のCOPD患者の遍歴を監視するための一貫した診断テストは存在しない。連続した肺活量測定法によるFEV測定は、高いレベルの再現性および有効性を示すが、FEVは患者の健康状態に対するCOPDの影響のうちの非常に限られた側面を反映していることが一般に認められている。特にこの従来の方法は、疾患進行、起こり得る急性発作(再燃)の発生、および治療的介入の効果の予測マーカーとしては有用ではない。
【0007】
COPDに関連する気道炎症および/または感染原因の評価はまた、気管支生検、気管支肺胞洗浄または外科標本の検査のような侵襲的方法、および最先端の分子生物学的技術およびプロテオミクスを用いた自発喀痰または誘発喀痰のような非侵襲的方法の使用によっても行なわれてきた。進歩としては呼気分析もある。しかしながら、この後者のバイオマーカーは、個人によって、測定される吐き出された揮発性有機化合物および窒素酸化物マーカーに大きな差が見られるので、依然として臨床上の確認を必要とする。さらに、呼気中における吐き出された化合物の濃度は非常に低いので、このような測定は技術的に制限されることがあり、したがって、診断プロファイルは臨床的に確固としたものではないことがある。
【0008】
したがって、現在の方法は、初期段階の研究中であるか、または前臨床試験段階であるか、または日常の臨床診療に全く適用可能でない。更に、COPDの感染増悪中において、痰の型通りの微生物学的分析は簡単であるものの、多大な時間を要し、関連する院外費用、および試験所から患者および臨床医に対するフィードバックの不可避の遅れを伴う。日常の診療における痰の微生物学的分析の臨床有用性はまた、通常のバックグラウンドの気道細菌叢に対する十分な細菌存在負荷(bacterial presence load)へのその依存性によって妨げられることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
よって、初期の疾患診断、特に、非侵襲性のCOPD重症度の特性解析、COPD状態の経時的な監視、および治療の迅速な開始のためのCOPDの「再燃」の早期認識を可能にする有効な実用的手段に対するCOPDにおける未対処の臨床的要求および課題が残されている。
【0010】
従って、本発明は、本願においてまたは他において検討した従来技術に関連する少なくとも1つの不都合に対処することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1態様によれば、ヒトの慢性閉塞性肺疾患(COPD)の状態を判定する方法が提供される。該方法は、
(a)前記ヒトから採取した試料の分光分析を行なう工程と、
(b)工程(a)における前記分析によって生成されたスペクトルを対照標準(reference)と比較する工程と、
(c)工程(b)で判定された任意の変化に基づいて、前記ヒトにおけるCOPDの状態を判定する工程とを有する。
【0012】
用語「痰」は、本願では、通常は上気道であるがこれに限られない患者の気道からの自発性かつ/または誘発性であり得る喀出生成物としての用語「粘液」と同義的に用いられる。誘発痰の場合には、収集物は、恐らくは上気道の初期分泌物と、更にずっと下位の気道からの生成物を示し得る後期分泌物とに分離され得る。
【0013】
適切には、前記ヒトから採取した試料は、痰および/または唾液試料を含む。
適切には、工程(a)は、前記ヒトから採取した痰試料の分光分析を行なうことを含む。
【0014】
適切には、工程(b)において用いられる前記対照標準は、健康者に対する予測範囲および/または本人自身の定常状態プロファイルを含む。
適切には、工程(b)において用いられる前記対照標準は、健康者の痰に対する予測範囲および/または本人自身の定常状態プロファイルを含む。
【0015】
COPDの状態を判定する方法は、COPDを監視する方法を含み得る。前記方法は、例えば、ある人物のCOPD状態を、健康者に対する予測範囲および/または前記人物自身の定常状態プロファイルに対して監視することを含む。前記方法は、COPDの監視、例えば、使用者によるCOPDの自己監視に用いられ得る。
【0016】
COPDの状態を判定する方法は、適切にはCOPDを監視することを含むが、COPDを管理する方法を含んでいてもよい。前記方法は、COPDの管理、例えば使用者によるCOPDの自己管理に用いられ得る。
【0017】
適切には、工程(a)で行なわれる前記分光分析は、FTIR(フーリエ変換赤外分光)分析を含む。
工程(a)で行なわれる分析は、例えばFTIRのような1種類のスペクトル法を、1つ以上の他のスペクトル法および/またはバイオセンサーおよび/またはバイオディテクターと併用してもよい。
【0018】
前記方法は、慢性気管支炎、慢性喘息、気管支拡張症および気腫(これらはα−1−アンチトリプシン欠乏症におけるように一次性であってもよいし、かつ/または喫煙および/または他の環境刺激物による二次性であってもよい)のうちの1つ以上の状態を判定する方法を含む。前記方法は、無症状および/または診断未確定のCOPDに罹患している人、例えば、痰生成を伴うか、または伴わない咳を示す現喫煙者および元喫煙者のCOPDの状態を判定する方法を含み得る。
【0019】
適切には、前記方法は、
(a)前記ヒトから採取した痰および/または唾液試料のFTIR分光分析を行なう工程と、
(b)工程(a)における前記分析によって生成されたスペクトルを対照標準と比較して、対照標準に対するスペクトルの偏移および/または強度の変化を判定する工程と、
(c)工程(b)で判定された任意の変化に基づいて、前記ヒトにおけるCOPDの状態を判定する工程とを有する。
【0020】
適切には、工程(a)は、前記ヒトから採取した痰試料のFTIR分光分析を行なうことを含む。
工程(b)は、スペクトルの多数の領域を1つ以上の対照標準と比較することを含み得る。その対照標準または各対照標準は、多数のスペクトル特徴に対する値、例えば波数および強度を有してもよく、かつ工程(b)は、前記対照標準と工程(a)からのスペクトルとの間において、これらの値の各々における変化を比較し得る。
【0021】
COPDの状態を判定する工程(c)は、COPDの存在を判定することを含んでもよい。前記方法は、以前にCOPDと診断された人のCOPDの状態を確認および/または監視する方法を含み得る。前記方法は、COPDを発症する危険性が高い人および/またはCOPDに罹患している臨床的疑いがあるが、従来の方法によってまだ確認されていない人のCOPDの状態を確認および/または監視する方法を含み得る。
【0022】
適切には、前記方法は、利用者が使いやすい方法で、試料を採取された人に対して、判定されたCOPDの状態を提示することを含む。前記方法は、例えば、試料を採取された人に対して、有限数のCOPD状態の定義(例えば、「COPDなし」、「COPDあり」、「安定したCOPD」、「COPD再燃の可能性あり」)のうちの1つを提示し得る。
【0023】
健康な痰/粘液およびCOPD罹患者からの痰/粘液の双方は、とりわけ、水性担体媒体中において可変濃度のレクチン、帯電したムコ多糖類、糖タンパク質、タンパク質、ウロン酸、シアル酸、ヘキソサミン、および糖タンパク質に由来した様々な他の分子から構成されている。驚くべきことに、本願では、気道内における疑似自然なおよび/または病理学的な細胞的事象および炎症性事象には、健康な非喫煙者からの正常な痰/粘液から、COPDの確定診断を有する者から得られた痰/粘液に至るまでに特異的に、生化学的パターンが存在し得ることが分かった。更に、本発明は、慢性COPD痰の生化学的パターンは急性発作の間に生成されるCOPD痰のそれとは異なり得るという発見を包含している。よって、痰組成の構成、例えば成分の比率の変化は、それを生成した患者の健康状態を反映し得る。
【0024】
FTIR分光法は、官能基内の結合の振動を測定する確立された物理化学的方法である。FTIR分析において、特定の結合は特定の波長において光の電磁(EM)放射を吸収する。例えば、タンパク質の赤外(IR)スペクトルは、1653cm−1前後に、特有なC=OおよびC−Nの伸縮およびN−H結合の屈曲に関連する強いアミドI吸収バンドを示す。従って、生体試料に中IR範囲(4000〜600cm−1)の多数の波長のEM放射線を当てることによって、生体試料のIRフィンガープリントが生成され得る。
【0025】
よって、工程(a)〜(c)による痰の分光分析、好ましくはFTIR分析は、その痰が被験中である人の健康状態が判定されるのを適切に可能にし得る。前記健康状態は、基準値と比較した、かつ/またはその人の以前の健康状態の判定、例えばその診断時点に行なわれた基線プロファイルと比較した、その人の健康状態の測定値であり得る。
【0026】
適切には、工程(a)は、痰または唾液試料提供者と、被分析試料とを含む。
適切には、工程(a)は、痰喀出者と、被分析試料とを含む。前記喀出者が痰を自然に喀出してもよいし、または痰生成が誘発されてもよい。適切には、未処理の痰試料は、分光計の試料領域内に配置されて、適切には自動的に、分析される。
【0027】
人が痰または唾液試料を提供し、その試料を工程(a)の分析のための分光計に提示してもよい。適切には、人が痰試料を提供し、その試料を該方法の工程(a)の分析のための分光計に提示する。これに代わって、人がその試料を医師または看護師のような第三者に提供して、それらの第三者が前記試料を工程(a)の分析のための分光計に提示してもよい。いったん分析したならば、いかなる残りの試料も、適切に廃棄される。
【0028】
適切には、前記分光計はFTIR分光計を備える。適当な分光計は、スペクトラム(Spectrum) GX FT−IR(パーキンエルマー(PerkinElmer))および/または類似した分光分析装置を備え得る。好ましくは、臨床上の目的のために、前記方法に用いられる分光計は持ち運び可能であり、診断室内における使用に適しており、かつ家庭において使用可能である。
【0029】
工程(b)に用いられる対照標準は、基準スペクトルを有し得る。基準スペクトルは、健康(COPD非罹患)者のスペクトルを含む。健康(COPD非罹患)者は、現在または以前の慢性呼吸器症状の病歴および/または任意の慢性呼吸病の診断を有しておらず、従来の方法および通常の胸部X線によって検査されるような通常の生理学的な肺機能パラメーターを有する者として定義され得る。基準スペクトルは、多数の健康(COPD非罹患)者の痰/唾液、適切には痰の分析から生成される平均スペクトルであってもよい。
【0030】
これに代わって、基準スペクトルは、COPDと診断されたヒトのスペクトルを有してもよい。基準スペクトルは、COPDと診断された多数のヒトからの痰/唾液、適切には痰の分析から適切に生成された平均スペクトルであってもよい。
【0031】
対照標準が健康(COPD非罹患)者に対するものである場合には、痰試料は誘発喀出法によって得られ得る。
工程(c)において行なわれる判定は、健康(COPD非罹患)者に対する、測定された前記ヒトのCOPDの状態のものであり得る。これは、疾患の存在、および/または経時的な疾患の進行、および/または再燃発生の前兆となる兆候(「早期警告」)、および/または医学的介入に対する反応、例えば、吸入および/または全身性(例えば、摂取、静脈内、筋肉内、および/または皮下)治療の導入または変更に対する反応を判断するために用いられ得る。
【0032】
これに代わって、またはこれに加えて、工程(c)において行なわれる判定は、COPDと診断されたヒトに対する、測定された前記ヒトのCOPDの状態(重症度の程度)についてであってもよい。そのような状態の判定は、適切には、COPDと診断されたヒトに対する、測定された前記ヒトのCOPDの重症度の程度についてである。これは、疾患の存在、および/または起こり得る予測される転帰、および/または経時的な疾患の進行、および/または再燃発生の早期警告/可能性、および/または医学的介入に対する反応を判断するために用いられ得る。
【0033】
工程(c)で行なわれる判定は、COPDの診断を含み得る。
再燃は、急性発作、すなわちCOPDの急性増悪、または慢性気管支炎状態下の急性気管支炎(acute-on-chronic bronchitis)としても知られ得る。
【0034】
再燃は、痰生成の増加、咳の増加、息切れの増悪、運動耐性の低下、日々の雑用および/または自己管理を行うのにより労力を要するようになること、またはそれらを行えなくなること、および/または健康状態の低下を含み得る臨床症状の変化によって特徴付けられ得る。
【0035】
基準スペクトルは、工程(a)においてその痰/唾液、適切には痰が分析されるヒトについてのスペクトルを含み得、前記基準スペクトルは予め記録された。
よって、工程(c)において行なわれる判定は、前記ヒトの先のCOPDの状態に対する、測定された前記ヒトのCOPDの状態についてであり得る。これは、疾患進行および/または再燃発生の前兆となる兆候/可能性を判断するために用いられ得る。前記方法は、安定したまたは通常の臨床状態の悪化および症状の発症/増悪の前に、疾患進行および/または再燃発生の前兆となる兆候/可能性を測定するために用いられ得る。
【0036】
これに代わって、またはこれに加えて、工程(b)において用いられる対照標準は、基準点および/または基準値を含み得る。適切には、対照標準は1つ以上の基準点および/または基準値を含む。対照標準は、例えば、ピークのようなスペクトル特性に対する波数および/または強度を含み得る。工程(b)において用いられる対照標準は、多数の基準点および/または基準値を含み得る。前記基準点および/または基準値は、基準スペクトルの多数の領域から得られ得る。対照標準は、例えば、所与のプロファイル内の特定のパターンを含み得る。
【0037】
基準点/基準値は、健康(COPD非罹患)者に対する点/値を含み得る。基準点/基準値は、多数の健康(COPD非罹患)者の分析から生成される平均基準点/基準値であってもよい。
【0038】
よって、工程(c)において行なわれる判定は、健康(COPD非罹患)者に対する、測定された前記ヒトのCOPDの状態についてであり得る。
基準点/基準値は、工程(a)においてその痰/唾液、適切には痰が分析されるヒトに対する点/値であり得、基準点/基準値は以前に記録されたものである。
【0039】
よって、工程(c)において行なわれる判定は、前記ヒトのCOPDの以前の状態に対する、測定された前記ヒトのCOPDの状態についてであり得る。
工程(b)は、工程(a)における前記分析によって生成されたスペクトルを、多数の対照標準と比較して、対照標準に対する前記スペクトルの偏移および/または強度および/またはパターンの変化を判定することを含む。各対照標準は、スペクトル、または1つ以上の、好ましくは複数の、スペクトルから導出された基準点/基準値を含む。適切には、対照標準は、COPDの様々な状態に対応する対照標準を含む。
【0040】
工程(b)は、前記スペクトルを健康(COPD非罹患)者に対応する対照標準(r1)と比較することを含む。
工程(b)は、前記スペクトルを、COPD罹患者が再燃を経験していないときの該COPD罹患者のスペクトルに対応する対照標準(r2)と比較することを含み得る。前記対照標準(r2)は、適切には、それらの人が医療処置を受けているか、受けていないかにかかわらず、その人のCOPDの安定期(安定したまたは通常の臨床状態とも称される)のときからのものであり得る。
【0041】
工程(b)は、前記スペクトルを、COPD罹患者の再燃時におけるスペクトルに対応する対照標準(r3)と比較することを含み得る。前記対照標準(r3)は、急性発作の直前、最中、または後の事象を含み得る再燃前後のときからのものであり得る。前記対照標準は、医療処置の導入および/または医療処置になされた変更によって引き起こされた変化の捕捉を含み得る。
【0042】
工程(b)は、(r1)、(r2)、および(r3)のうちの2つ以上、例えば3つすべてとの比較を行うことを含む。ヒトにおけるCOPDの状態は、最も合致する対照標準によって判定され得る。
【0043】
適切には、工程(b)は、工程(a)における前記分析によって生成されたスペクトルを対照標準と比較して、対照標準に対する前記スペクトルの偏移、適切には波数偏移を判定することを含む。
【0044】
適切には、工程(b)は、1560cm−1前後の波数のスペクトルを対照標準と比較して、健康者では1559cm−1前後に生じるピークの偏移を判定することを含む。
対照標準は、1559cm−1の波数を含み得る基準点を備え得る。工程(b)は、1559cm−1からより高い波数に移動するスペクトルをピークが示されるまで分析することを含み得る。よって、判定される偏移は、1559cm−1と示されたピークとの差であり得る。
【0045】
工程(c)は、工程(b)で判定された偏移の程度に基づいて、COPDの状態を判定することを含み得る。工程(c)は、予測健康基準とは異なるプロファイルを生成することを含み得る。偏移の大きさはCOPD重症度に相関し得る。偏移が大きいほど、COPDはより進行しており、かつ/または急性発作の程度がより大きくなり得る。
【0046】
工程(c)は、工程(b)で判定された1560cm−1前後の偏移の程度に基づいて、COPDの状態を判定することを含み得る。
1559cm−1前後に位置するピークは、例えば、健康(COPD非罹患)者を示し得る。前記ピークは、COPD患者については、1560cm−1以上、例えば1560.5cm−1以上、例えば約1561cm−1前後に偏移し得る。
【0047】
1559cm−1前後(例えば、1558.80cm−1〜1559.0cm−1の間)から約1561cm−1前後(例えば1560.84cm−1〜1561.04cm−1の間)への、またはそれに向かうピークの偏移は、その人はCOPDに罹患しているが、急性事象(再燃)は切迫していないことを示し得る。本願においては、「切迫していない」とは、試験の24時間以内に急性事象が生じる確率が小さいことを意味する。「確率が小さい」とは、20%以下の確率を指し得る。
【0048】
1559cm−1前後(例えば、1558.80cm−1〜1559.0cm−1の間)から約1561cm−1前後(例えば1560.84cm−1〜1561.04cm−1の間)以上へのピークの偏移は、その人はCOPDに罹患しており、かつ急性事象(再燃)が切迫していることを示し得る。本願においては、「切迫している」とは、試験の48〜72時間以内に急性事象が生じる確率が高いことを意味する。「確率が高い」とは、80%以上の確率を指し得る。
【0049】
ピークの偏移は急性発作の重症度に比例し、バクテリアまたはウイルスであり得る気管支感染のコ−コミッタント(co-committant)の有/無に依存し得る。ピークの偏移は、酸化ストレス生成物の増大、細胞の偏移、生物学的メディエータまたは他の炎症性事象の増加、および/または呼吸不全および肺性心のような関連合併症の発症によるものであるか否かにかかわらず、気道炎症の増大に比例し得る。現在の再燃のパターンおよび大きさは、本人自身の以前の再燃プロファイルに参照され得る。よって、本方法はまた、再燃発生の可能性と同様に、スペクトル偏移の比較の程度に基づいて再燃の起こり得る程度を予測し得る。次に、その人は、自分の再燃を防止および/または最小限にするために、新たな治療を導入する必要があるか、または既存の薬剤を変更する必要があるかを決定し得る。前記方法は、さらに、新たな治療の導入またはそれらの変更に対する反応を判定してもよい。
【0050】
工程(b)は、波数1070cm−1〜1080cm−1前後のスペクトルを対照標準と比較して、健康者では1077cm−1前後に生じるピークの偏移を判定し得る。
前記対照標準は、1077cm−1の波数を有し得る基準点を含み得る。工程(b)は、1077cm−1から1070cm−1に移動するスペクトルを、ピークが示されるまで分析することを含み得る。よって、判定される偏移は、1077cm−1と示されるピークとの差であり得る。
【0051】
工程(c)は、工程(b)で判定された1070cm−1〜1080cm−1の領域前後の偏移の程度に基づいて、COPDの状態を判定することを含み得る。
1077cm−1前後に位置するピークは、例えば、健康(COPD非罹患)者を示し、1072cm−1〜1073cm−1前後への移動は、その人がCOPDに罹患していることを示し得る。
【0052】
工程(b)は、波数3330cm−1〜3260cm−1前後のスペクトルを対照標準と比較することを含み得る。
工程(b)は、波数3330cm−1〜3260cm−1前後のスペクトルを対照標準と比較して、健康者では3300cm−1前後に生じるピークの偏移を判定することを含む。
【0053】
対照標準は、3300cm−1の波数を含み得る基準点を備え得る。工程(b)は、3330cm−1からそれより低い波数に移動するスペクトルを、ピークが示されるまで分析することを含み得る。よって、判定される偏移は、3300cm−1と示されたピークとの差であり得る。
【0054】
3300cm−1前後、例えば3305〜3295に位置するピークは、例えば、健康(COPD非罹患)者を示し得る。3300cm−1から遠ざかるピークの偏移、例えば3280cm−1に向かうピークの偏移は、その人はCOPDに罹患しているが、急性事象(再燃)は切迫していないことを示し得る。3280cm−1未満のピークの偏移は、その人はCOPDに罹患しており、かつ急性事象(再燃)が切迫していることを示し得る。
【0055】
工程(b)は、波数3330cm−1〜3260cm−1前後のスペクトルを対照標準と比較して、この領域、例えば3300cm−1前後に生じるピークの数およびそれらの幅を判定することを含み得る。
【0056】
適切には、工程(b)は、波数3320cm−1〜3280cm−1前後のスペクトルを対照標準と比較して、この領域で生じるピークの数およびそれらの幅を判定することを含む。COPD罹患者のスペクトルは、この領域において、COPD非罹患者のそれよりも多数のピークおよび/または大きなピーク幅を示す。
【0057】
COPD非罹患者のスペクトルは、例えば3293cm−1〜3306cm−1の下限と上限との間に分散したピークを有するのに対して、COPD罹患者は、3284cm−1〜3315cm−1の下限と上限との間にあり得る、より広い範囲を有し得る。
【0058】
適切には、前記方法は、3292cm−1〜3284cm−1の間、および/または3307cm−1〜3315cm−1の間になんらかのピークがあるかを評価することを含む。これらの領域におけるピークの存在は、その人がCOPDに罹患していることを示し得る。
【0059】
3330〜3260cm−1の波数領域は有益な情報を提供し得るが、1059〜1061cm−1および/または1070〜1080cm−1の波数領域を調査することが好ましい。この領域からの情報は、他の領域からの情報と組み合わせて有用であり得る。
【0060】
適切には、工程(b)は、工程(a)における前記分析によって生成されたスペクトルを対照標準と比較して、対照標準に対するスペクトルの強度の変化を判定することを含み得る。
【0061】
適切には、工程(b)は、波数1070cm−1〜1080cm−1前後のスペクトルを対照標準と比較して、この領域に生じるピークの強度の増大を判定することを含む。前記ピークは、健康(COPD非罹患)者では、1077cm−1前後に位置する。COPD患者は、健康(COPD非罹患)者のスペクトルと比較して、ピーク強度の偏移並びに増大を示し得る。前記増大は3倍の増大であり得る。COPD患者では、前記ピークは1072cm−1〜1073cm−1の間に生じ得る。前記方法は、1075cm−1前後におけるバンド強度の増大を比較することを含み得る。
【0062】
工程(c)は、工程(b)で判定された増大の程度に基づいて、COPDの状態を判定することを含み得る。前記増大が大きいほど、COPDはより進行しており、かつ/またはより急性であり得る。
【0063】
工程(b)は、波数1050cm−1〜1030cm−1前後のスペクトルを対照標準と比較して、健康(COPD非罹患)者では1050〜1030cm−1に生じるピークの強度の増大を判定することを含み得る。COPD患者は、健康(COPD非罹患)者のスペクトルと比較して、例えば1050〜1030cm−1に生じるピーク強度において3倍の増大を示し得る。
【0064】
1050〜1030cm−1の波数領域は有益な情報を提供し得るが、1070〜1080cm−1の波数領域を調査することが好ましい。
工程(b)は、波数1450cm−1〜1470cm−1領域の前後のスペクトルを対照標準と比較して、これらの波数前後のスペクトルにおける変化を判定することを含み得る。例えば、COPD罹患者のスペクトルでは、ピークは約1458cm−1前後に生じ、COPDに罹患していない人では、前記ピークはそれほど強くないか、または存在しないことがある。
【0065】
工程(b)は、波数2940cm−1〜2960cm−1領域前後のスペクトルを対照標準と比較して、これらの波数前後のスペクトルにおける変化を判定することを含み得る。例えば、COPD罹患者のスペクトルでは、ピークは約2950cm−1前後に生じ、COPDに罹患していない人では、前記ピークはそれほど強くないことがある。
【0066】
工程(b)は、波数520cm−1〜540cm−1領域前後のスペクトルを対照標準と比較して、これらの波数前後のスペクトルにおける変化を判定することを含み得る。例えば、COPD罹患者のスペクトルでは、ピークは約529cm−1前後に生じ、COPDに罹患していない人では、前記ピークはそれほど強くない場合がある。
【0067】
COPD罹患者のスペクトルは、必ずしもすべてのスペクトル領域において、COPDでないスペクトルのそれからの変化を示さなくてもよい。よって、前記方法は、いくつかのスペクトル領域を比較することと、領域の組み合わせの比較に基づいて、COPDの状態を判定することとを含み得る。興味深いスペクトル領域は、アミドAタンパク質および/またはアミドIIおよび/またはグリコーゲンが豊富なバンドとして帰属される震動バンドに対応する領域であり得る。
【0068】
COPD以外にも他の要因がスペクトル偏移および強度に影響を与えることがある。従って、本願で検討する所与のスペクトル領域に関して、一部のCOPD患者は、健康な被験者に見られる周波数および/または強度でピークを示すことがあり、また逆の場合も同様である。よって、多数の領域からの情報を用いることによって、より信頼性の高いCOPD状態の指標を与え得る。適切には、前記方法は、1070〜1080cm−1および1560のcm−1の領域の基準値を用いる。前記方法は、3330〜3260cm−1および1030〜1050のcm−1の領域の基準値をさらに用いてもよい。
【0069】
前記方法は、適切には、中赤外スペクトルの領域を比較することを含む。前記方法は、近中赤外スペクトルの外側の領域を比較することを含み得る。
前記方法は、COPD患者が該患者自身の疾患の状態、適切にはその進行を監視し、該患者の薬剤に対する反応を監視することを可能にする手段を備え得る。
【0070】
前記方法は、COPD罹患者が、試料を定期的に、例えば毎週、または好ましくは毎日、提供することを含む。前記方法は、適切には、個々の患者に対して自宅での監視を可能にする。前記方法は、分析のために、一般開業医および/または専門家クリニックに通ったり、かつ/または試料を研究所に送付したりする必要性を低減するか、またはその必要をなくし得る。
【0071】
COPD罹患者は、急性症状を有さないとき、適切には、その病気の安定期の間に試料を提供してもよく、これは対照標準、例えば(r2)を提供し得る。これは、「自己フィンガープリント」痰プロファイルになり得る。COPD罹患者は、急性症状を有するときに、試料を提供してもよく、これは対照標準、例えば(r3)を提供し得る。これは「自己フィンガープリント」痰プロファイルになり得る。
【0072】
その人自身の対照標準、例えば(r2)および/または(r3)、(適切には自己フィンガープリント痰プロファイル)は、後に得られる試料との比較に用いられ得る。その人の現在のCOPD状態を示すために、試料を対照標準(複数可)と比較して、どのCOPD状態がその人の現在の状態に最も合致するかを判定する。これは疾病重症度および治療効果を判定し得る。
【0073】
臨床的に、そのような方法は、COPDを発症する危険性が高い生涯喫煙者のような「危険性が高い」人のスクリーニングに有用であり得る。例えば、現喫煙者または元喫煙者または受動喫煙者は、COPDの発症の初期兆候について、定期的に自分の状態を監視するか、またはスクリーニングされ得る。COPDの発症の早期警告は、現行喫煙者に対して、自然に進行する気道機能の低下および呼吸器症状の慢性化を防ぐために、喫煙をやめるように、かつ/または適当な吸入治療によって治療するように奨励し得ることが可能である。
【0074】
適切には、患者自身の対照標準が使用される場合には、後の試料は、日内変動および一貫性を考慮するために、一日のうちの同一時刻前後に採取される。適切には、患者は、疾患進行を監視するために、定期的に、例えば、毎週、または毎日、試料採取され得る。これは、経時的な疾患進行、および現在の治療に対して新たな薬剤および/または変更をもたらす必要性の監視を可能にする。各試料は、後の試料との比較に用いられる対照標準バンク(reference bank)に加えられてもよい。
【0075】
適切には、前記比較および判定は、機械によって、例えば、使用者に対して即時で分かりやすいフィードバックを有する自動装置によって、行なわれる。
前記方法は、適切には、第2態様に関連して以下に記載するような装置を用いる。
【0076】
本発明の第2態様によれば、
(a)ヒト試料の分光分析を行ない、
(b)(a)における前記分析によって生成されたスペクトルを対照標準と比較し、
(c)(b)で判定された任意の変化に基づいて、前記ヒトのCOPDの状態を判定するための装置が提供される。前記装置は、
(i)前記スペクトルを生成するための分光計と、
(ii)前記スペクトルをそれと比較するための対照標準項目を格納するための対照標準手段と、
(iii)前記スペクトルと対照標準とを比較して、COPDの状態を判定する比較手段と、
(iv)前記COPD状態を示すための表示手段とを備える。
【0077】
適切には、前記ヒト試料は、ヒト痰および/または唾液試料を含む。
適切には、前記装置は、ヒト痰試料の分光分析を行なうように構成されている。
適切には、工程(a)で行なわれる前記分光分析は、FTIR分析を含み、分光計(i)はFTIR分光計を備える。
【0078】
対照標準手段(ii)は、適切には、格納手段、適切には電子格納手段を備える。対照標準手段(ii)は、対照標準項目が予め読み込まれていてもよく、かつ/または対照標準項目は使用を通じて追加されてもよい。
【0079】
適切には、比較手段(iii)は、スペクトルと対照標準とを比較して、COPDの状態を判定する計算手段を備える。
前記装置は、持ち運び可能な診断装置、好ましくは使いやすい在宅検査装置を備え得る。前記装置は、適切には分光計と、分光データを解釈し、それを対照標準と比較し、表示手段によって使用者に提示されるメッセージを提供するためのソフトウェアとを備える単一ユニットからなり得る。
【0080】
前記装置は、適切には、スペクトルを生成するための分光分析能力、適切にはFTIR能力と、前記スペクトルを比較するための格納された項目を含む対照標準手段とを備える。
【0081】
前記装置は、適切には、前記スペクトルおよび対照標準を比較して、COPDの存在および/または状態を自動的に判定する計算手段を備える。
前記装置は、前記COPD状態についての使用者に対するフィードバックを、即時またはほぼ即時に示して提供する表示手段を備える。
【0082】
前記装置は、即時/ほぼ即時の分光能力を備え、かつ適切には主としてFTIR駆動である分光計を備えた持ち運び可能な診断装置からなり得る。前記装置は、適切には、痰を受容して分析することができ、適切な試料採取用付属品付きで提供され得る。
【0083】
対照標準項目を格納するための対照標準手段は、別個のマニュアル、および/または、より好ましくはダウンロード可能な参照プログラム等の、別個の参照ガイドであってもよい。
【0084】
好ましくは、対照標準手段は、分光計を備える装置の必須部分からなる。前記装置は、自動参照ガイドおよびデータ処理装置を、適切には顧客に都合の良い装置内に組み込み得る。
【0085】
格納された対照標準項目は、健康および定常な状態、COPDの発症および漸進的かつ自然な進行、並びにCOPDの状態の変化に関するFTIRスペクトルにおける関連部分のバンクを含み得る。このバンクは、装置の使用を通じて、生成および/または追加され得る。
【0086】
格納された対照標準項目はまた、タバコ煙吸入/習慣、食事、薬剤治療および他の医学的併存疾患のような外生要因からの追加バイアスを組み込み得る。これは、日毎の基準、すなわち、健康な定常状態およびCOPD状態に関するスペクトル、適切にはFTIRスペクトルの関連部分の実用的な予測範囲の生成を可能にし得る。
【0087】
適切には、前記装置は、患者のFTIRスペクトルおよび臨床上の生理学的データを捕捉し、捕捉されたデータおよび格納された対照標準に基づいて、COPDの監視および再燃の予測を可能にするためにアルゴリズムを実行するように構成されている。
【0088】
前記計算手段は、高速のデータ収集、処理および分析計算プログラムを備え、前記プログラムには関連するFTIR情報が組み込まれていてもよい。前記プログラムは、主として家庭用であるが、これに限られない、持ち運び可能なFTIR装置にインストールされ得る。
【0089】
前記装置は、分かりやすく容易なフィードバックシステムを含む表示手段を備え得る。前記表示手段は、使用者に「交通信号のような」信号を提供し得、すなわち、緑は普通の健康状態を反映し、黄色は、COPDのような病態の存在はないが、炎症の発症のような気管支気道内の可能性のある病理変化を反映し、赤は、COPDの存在を示し得る。各色で表される範囲(領域と定義される)内には異なるレベルの状態が組み込まれていてもよく、したがって、状態の進行が領域を越える場合だけでなく、各「領域」内での状態の進行も経時的に監視され得る。このことはまた、喫煙の停止のような習慣の変化、および/または薬剤治療の導入または変更に対する反応の監視を可能にし得る。
【0090】
適切には、前記装置は軽量材料から製造されており、持ち運び可能かつ丈夫であり、痰/唾液、適切には痰を分析する高機能FTIR分光能力を組み込んでいる。
痰/唾液、適切には痰は、装置の内蔵貯蔵器または容器によって受容される。痰/唾液、適切には痰の試料は、使い捨ての棒またはミクロスパチュラの使用によって前記貯蔵器または容器に移され得る。
【0091】
これに代わって、前記装置は、端部格納式のセンサヘッドを備えてもよい。前記センサヘッドは、喀出された痰/唾液(適切には痰)の試料をその場で読み取るために用いられ得る。前記ヘッドは、例えばアルコール綿で容易に清浄にされ得る材料で形成される。
【0092】
適切には、前記装置は、
(a)ヒト痰および/または唾液試料のFTIR分光分析を行なう工程と、
(b)工程(a)における前記分析によって生成されたスペクトルを対照標準と比較して、対照標準に対して前記スペクトルの偏移および/または強度の変化を判定する工程と、
(c)工程(b)で判定された任意の変化に基づいて、前記ヒトのCOPDの状態を判定する工程とを有する方法において使用するために構成されている。
【0093】
適切には、工程(a)は、ヒト痰試料のFTIR分光分析を行なうことを含む。
適当な分光計は、スペクトラ GX FT−IR(パーキン エルマー)または同等の装置を備える。好ましくは、前記分光計は、小型化されたFTIR駆動システムを備える。
【0094】
前記分光計は、約4cm−1、例えば、約2cm−1またはそれより良好な、例えば、1cm−1または0.5cm−1の分解能を有し得る。
前記分光計は、約7800〜370cm−1の走査範囲を有し得る。
【0095】
前記分光計は、約15798.01cm−1のIRレーザー波数を有し得る。
前記装置は第1態様に関して記載したいかなる特徴を備えてもよい。
本発明について、次に一例として添付図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】1070〜1080cm−1の領域においてスペクトルの相違を有する健康(COPDを有さない)者およびCOPD罹患者のFTIRスペクトル。
【図2】1560cm−1前後にスペクトルの相違を有する健康(COPDを有さない)者およびCOPD罹患者のFTIRスペクトル。
【図3】試料採取した被験者の1560cm−1の領域におけるピーク周波数の分布。
【図4】3300cm−1前後にスペクトルの相違を有する健康(COPDを有さない)者およびCOPD罹患者のFTIRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0097】
(実験の詳細)
1秒間強制呼気容量(FEV)が80%未満(<80%)かつ40%超(>40%)である安定した軽度から中程度のCOPD患者15人からの自然喀出/誘発痰を調査した。対照として、過去/現在に有意な病歴のない正常な肺活量測定値を有する健康な非喫煙者15人からの誘発痰を調査した。痰生成は、7分間にわたるデビルビス ウルトラネブ 2000 ネブライザー(DeVilbiss UltraNeb 2000 nebuliser)による3%滅菌食塩水の噴霧によって誘発し、その後に喀出された痰を収集した。噴霧化をさらに7分間継続し、喀出された痰を収集した。次に、卓上型の実験室ベースのフーリエ変換赤外(FTIR)分光法を用いて、痰を分析した。約100μlの痰をフッ化バリウムの研磨された窓材上にピペットで移して乾燥させた。その後、FTIR分析を行った。
【0098】
(装置)
痰のFTIR分析は、スペクトルを分析する内蔵ソフトウェア(バージョン4.07)を有するスペクトラムGX FT−IR(パーキン・エルマー)を用いて行なった。該システムは4cm−1の分解能および7800〜370cm−1の走査範囲を有し、IRレーザー波数は15798.01cm−1である。
【0099】
(結果)
図1〜図4は、前記試験の試料の結果を示す。対照被検者のスペクトル同士で互いに比較した場合、およびCOPD被検者のスペクトル同士で互いに比較した場合に相違が見られたが、対照被験者とCOPD被検者との間の相違は顕著であり、一貫した相違が存在した。
【0100】
1070〜1080cm−1の領域のバンドに関して、対照被検者と比較して、COPD被検者では、約3倍の強度の増大があった。この領域のバンドは、CHOH振動、C−N振動(アミン)、およびC−OH炭水化物のC−O屈曲と相まったC−O伸縮に起因し得る。これらは、しばしばグリコーゲンが豊富な組織に見られる。DNAもこの領域にピークを生成し得る。図1から分かるように、1070〜1080cm−1の領域のピークにおいて、対照被検者における1077cm−1から、COPD被検者における約1072〜1073cm−1への偏移も存在した。
【0101】
また図1から、対照被検者と比較して、COPD被検者では1030〜1050cm−1の領域において強度の増大があったことも分かる。
対照被検者は、アミドII領域に起因し得る1559cm−1前後においてバンドを有した。COPD被検者では、このバンドは約1561cm−1に偏移している。このバンドはニトロ化合物(NO)の存在に起因し得る。ニトロ化合物は、気道内の炎症細胞、例えばCOPDの被験者の気道内に存在することが分かっている好中球の差の比率における偏移によって生じ、疾患の重症度および特定の臨床的段階に依存する割合で変化するものと理解される。
【0102】
図3は、対照被検者(n=15)およびCOPD被検者(n=15)の1560cm−1の領域におけるピーク周波数の分布を示す。これは、1560cm−1領域のピーク周波数において明白な相違を示している。
【0103】
図4によって示されるように、対照被検者では約3300cm−1にアミドAに起因し得るバンドが存在した。COPD被験者では、痰は、健康な被験者における3305〜3293cm−1と比較して、3315〜3285cm−1にわたってピーク周波数のより大きな変動を示した。タンパク質、アルケイン(alkeynes)、アルコール、フェノールおよびカルボン酸のような様々な化合物がこの領域にピークを生成し得る。
【0104】
多くのCOPD罹患者はまた、1458cm−1において、COPD非罹患者のそれよりも著しく強いピークを示した。しかしながら、COPD罹患者すべてがこのスペクトル変化を示したわけではない。よって、これは決定的な規準ではない可能性がある。同様に、一部のCOPD罹患者は、約529cm−1および2950cm−1前後により強いスペクトルピークを示した。
【0105】
1070〜1080cm−1前後の強度における変化(および1030〜1050cm−1前後における変化でもある程度)、1560cm−1前後および1070〜1080cm−1の領域内における偏移、および3300cm−1の領域におけるピークの周波数および/または周波数のパターンにおけるある程度の変化は、それぞれ、ヒトにおけるCOPDの状態の判定を可能にし得る。興味深いスペクトル領域は、アミドAタンパク質、アミドII、およびグリコーゲンが豊富なバンドとして帰属される震動バンドに対応する領域であり得る。
【0106】
本発明の好ましい実施形態は、個々のCOPD患者に特有であり、その人の再燃の早期発症を確認するために家庭で用いることが容易であるCOPDの予測因子を提供し得ることが認識されるであろう。それは、必要に応じて、適切な治療の早期自己導入、および/または現行の薬剤治療の自己変更を可能にし得、それにより、医師の診察を受け、かつ/または入院する必要をなくす。
【0107】
好ましい実施形態のFTIR分光法の新規な適用は、喀出された気管支気道粘液のプロファイリングおよびバイオマーカー フィンガープリンティングが、COPD疾患についての情報を提供する臨床的に有効かつ効率的な手段を提供し、急性症状の再燃を早期に警告することを可能にし得る。
【0108】
本出願に関して本明細書と同時に、または本明細書に先立って出願され、かつ本明細書によって公衆による閲覧に付されたすべての論文および文書に注意が向けられ、すべてのそのような論文および文書の内容は、参照により本願に援用される。
【0109】
この明細書において開示された特徴のすべて(添付の特許請求の範囲、要約書、および図面を含む)、および/または開示したあらゆる方法またはプロセスの工程の全ては、そのような特徴および/または工程の少なくとも一部が相互に排他的である組み合わせを除く、任意の組み合わせで組み合わせられ得る。
【0110】
本明細書において開示された各特徴(添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)は、明示的に別段の定めをした場合を除き、同一、均等、または類似した目的に役立つ代わりの特徴と置き換えられてもよい。したがって、明示的に別段の定めをした場合を除き、開示された各特徴は、一般的な一連の均等または類似した特徴の一例に過ぎない。
【0111】
本発明は前述の実施形態の詳細に限定されない。本発明は、本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書、および図面)において開示された特徴のうち新規な任意の1つまたは新規な組み合わせ、あるいはそのように開示された任意の方法またはプロセスの工程の新規な任意の1つまたは新規な組み合わせに及ぶ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの慢性閉塞性肺疾患(COPD)の状態を判定する方法であって、前記方法は、
(a)前記ヒトから採取した唾液試料の分光分析を行なう工程と、
(b)工程(a)における前記分析によって生成されたスペクトルを対照標準と比較する工程と、
(c)工程(b)で判定された任意の変化に基づいて、前記ヒトにおけるCOPDの状態を判定する工程とを有する方法。
【請求項2】
工程(b)において用いられる前記対照標準は、健康者に対する予測範囲および/または本人自身の定常状態プロファイルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)で行なわれる前記分光分析は、FTIR(フーリエ変換赤外分光)分析を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、
(a)前記ヒトから採取した唾液試料のFTIR分光分析を行なう工程と、
(b)工程(a)における前記分析によって生成されたスペクトルを対照標準と比較して、対照標準に対する前記スペクトルの偏移および/または強度の変化を判定する工程と、
(c)工程(b)で判定された任意の変化に基づいて、前記ヒトにおけるCOPDの状態を判定する工程とを有する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)は、工程(a)における前記分析によって生成されたスペクトルを、多数の対照標準と比較して、対照標準に対する前記スペクトルの偏移および/または強度および/またはパターンの変化を判定することを含む、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程(c)は、工程(b)において決定された、520cm−1〜540cm−1、1030cm−1〜1050cm−1、1070cm−1〜1080cm−1、1450cm−1〜1470cm−1、1560cm−1、2940cm−1〜2960cm−1、および3260cm−1〜3330cm−1のうちの一つ以上の範囲における前記スペクトルの偏移の程度に基づいてCOPDの状態を判定することを含む、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)は、前記スペクトルを健康(COPD非罹患)者に対応する対照標準(r1)と比較することを含み、かつ、前記スペクトルを、再燃を発症していないときのCOPD罹患者のスペクトルに対応する対照標準(r2)と比較することを含み、かつ、前記スペクトルを再燃時のCOPD罹患者のスペクトルに対応する対照標準(r3)と比較することを含み、工程(b)は、(r1)、(r2)、および(r3)との比較を行うことを含み、最も合致する対照標準によって、前記ヒトにおけるCOPDの状態が判定される、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
(a)ヒト唾液試料の分光分析を行ない、
(b)工程(a)における前記分析によって生成されたスペクトルを対照標準と比較し、
(c)工程(b)で判定された任意の変化に基づいて、前記ヒトのCOPDの状態を判定するための装置であって、前記装置は、
(i)前記スペクトルを生成するための分光計と、
(ii)前記スペクトルを比較する対照標準項目を格納するための対照標準手段と、
(iii)前記スペクトルと対照標準とを比較して、COPDの状態を判定する比較手段と、
(iv)前記COPDの状態を示すための表示手段とを備える装置。
【請求項9】
前記分光計(i)は、520cm−1〜540cm−1、1030cm−1〜1050cm−1、1070cm−1〜1080cm−1、1450cm−1〜1470cm−1、1560cm−1、2940cm−1〜2960cm−1、および3260cm−1〜3330cm−1のうちの一つ以上の範囲における分光分析を実行可能である、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
工程(a)において行なわれる前記分光分析は、FTIR分析を含み、分光計(i)はFTIR分光計を備える、請求項8または9に記載の装置。
【請求項11】
対照標準手段(ii)は電子記憶手段を備え、対照標準手段(ii)には、対照標準項目が予め読み込まれており、かつ/または使用を通じて対照標準項目が追加される、請求項8乃至10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
比較手段(iii)は、前記スペクトルと対照標準とを比較して、COPDの状態を判定する計算手段を備える、請求項8乃至11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
前記装置は、前記COPD状態についての使用者に対するフィードバックを即時またはほぼ即時に示して提供する表示手段を備える、請求項8乃至12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
前記装置は、
(a)ヒト唾液試料のFTIR分光分析を行なう工程と、
(b)工程(a)における前記分析によって生成されたスペクトルを対照標準と比較して、対照標準に対するスペクトルの偏移および/または強度の変化を判定する工程と、
(c)工程(b)で判定された任意の変化に基づいて、前記ヒトのCOPDの状態を判定する工程とを有する方法において使用するために構成されている、請求項8乃至13のいずれか1項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−151823(P2010−151823A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17826(P2010−17826)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【分割の表示】特願2010−501598(P2010−501598)の分割
【原出願日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【出願人】(508031999)ザ ユニバーシティ ホスピタル オブ ノース スタフォードシャー エヌエイチエス トラスト (3)
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY HOSPITAL OF NORTH STAFFORDSHIRE NHS TRUST
【Fターム(参考)】