説明

CT装置およびCT装置の撮影方法

【課題】層状構造を有する被検体の断面像を短い断層撮影時間で得るCT装置を提供する。
【解決手段】層状構造を有する被検体5の断面像を撮影するCT装置であって、回転・昇降機構7とX線検出器3を制御して、第一の角度範囲で回転をさせつつ第一の角度間隔毎に検出された複数の透過像を第一のスキャンデータとして取り込んで記憶する第一のスキャン、および、第二の角度範囲で前記回転をさせつつ第一の角度間隔より小さな第二の角度間隔毎に検出された複数の透過像を第二のスキャンデータとして取り込んで記憶する第二のスキャンを実施するスキャン制御部9cと、第一のスキャンデータに基づいて、層面が放射線光軸Lと平行となる回転位置から±60°内にあって平行となる回転位置を包含する第二の角度範囲を設定する角度範囲設定部9dと、少なくとも第二のスキャンデータを用いて被検体5の断層撮影面に平行な断面像を再構成する再構成部9eとを有するCT装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の断面像を撮影するコンピュータ断層撮影装置(以下CT(Computed Tomography)装置と記載する)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などのモバイル機器の発達や電気自動車の実用化でリチウムイオン電池やニッケル水素電池などの二次電池の需要が拡大している。それに伴いショートや発火が生じない安全で信頼性の高い電池を供給するための電池検査の重要度がますます高まってきている。この電池検査としては、層状構造を有する被検体の断面像を撮影して、検査する方法が知られている。
【0003】
まず、図7に被検体である電池90の概念図(断面図)を示す。この図は、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、ニカド電池等の構造の概略を示す断面図である。ケース91内には、正極板92と負極板93がセパレータ(不図示)を介して何重にも巻かれて収められ、空隙には電解液94が満たされている。例えば、層のピッチ(正極板−正極板)は0.3mm程度で巻数は数十回で、断面全体の寸法としては30mm×120mm程度である。
【0004】
このような構造の電池を検査するために、CT装置を用いた電池の検査においては、図7に示すような断面像を撮影し、電極板(正極板92と負極板93の総称)の層の皺や層間隔の乱れ等を確認でき、電池を使用したときの経時的変化を追跡して検査することができる。
【0005】
この電池の検査に用いられている従来のCT装置について記載する。従来のCT装置で、回転のみを行う所謂RR(Rotate Rotate)方式(第三世代方式)と呼ばれるCT装置は、放射線源から発生する放射線(X線)を被検体に向けて照射し、被検体を放射線の光軸の方向に対し交差する回転軸で放射線に対して相対的に回転させ、照射された一回転中の所定の回転角度間隔毎に被検体から透過してくる放射線を1次元あるいは2次元の複数検出チャンネルを有する放射線検出器で検出し、この検出器出力から被検体の断面像ないし3次元データを得る(断層撮影する)ものである。
【0006】
従来技術として図8に、特許文献1に記載されているCT装置の構成を示す((a)平面図、(b)正面図)。図中では、X線管101と、ここから発生する角錐状のX線ビーム102を2次元の分解能で検出するX線検出器103が対向して配置され、このX線ビーム102に入るようにテーブル104上に載置された被検体105の透過像(透過データ)を得るようになっている。
【0007】
テーブル104はXY機構106上に配置され、XY機構106は回転・昇降機構107上に配置されている。被検体105の断面像を撮影する場合は、テーブル104を回転軸RAに対し回転・昇降機構107により1回転させながら多数の方向について透過像を得る(スキャンと言う)。このスキャンにより得られた多数の透過像を制御処理部108で処理して被検体105の断面像(1枚ないし多数枚)を得る。
【0008】
ここで、XY機構106は、回転軸RAに対しテーブル104を回転軸RAと直交する面内で移動させ、被検体105の着目部105aが回転軸RA上になるように位置調整するために用いられる。
【0009】
さらに、回転軸RAおよびX線検出器103はシフト機構109によりX線管101に近づけあるいは遠ざけることができ、目的に応じて撮影倍率(=FDD/FCD)を変更できるようになっている。
【0010】
一方、再構成処理の方法は、通常、角錐状のX線ビームの場合、非特許文献1記載の方法が用いられる。この方法は、フィルター補正逆投影法(FBP(Filtered Back Projection)法)の一種で、3次元的に逆投影するものである。
【0011】
図8に示す断面像視野(あるいはスキャン領域という)110は、テーブル104が回転軸RAに対して1回転する間に常に検出器103で検出されるX線ビーム102に包含される領域と定義される。断面像視野110は回転軸RAを軸とする略円筒状の領域であり、無理なく断面像を再構成できる領域である。なお、断面像視野110は、撮影倍率を上げると、これに反比例して直径と高さが小さくなる。
【0012】
ところで、特許文献1に記載されているように、被検体105の一部を拡大して断層撮影する手法が知られている(以下ROI(Region of Interest:着目領域)スキャンという)。この断層撮影では、図8(a)に示すように、断面像視野110を小さくし、被検体105の着目部105aがこの断面像視野110にちょうど収まるようにシフト機構109及びXY機構104を位置決めする。これにより、着目部105aの空間分解能の高い拡大断面像を得ることができる。
【0013】
さらに、従来のCT装置により、例えばROIスキャンで電池90の層構造の着目部分を高い分解能で断面像撮影をすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2002−310943号公報
【非特許文献1】L.A.Feldkamp,L.C.Davis and J.W.Kress,Practical cone−beam algorithm,J.Opt.Soc.Am.A/Vol.1,No.6/June1984
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、電池等の層状構造を有する被検体を断層撮影するとき、回転中に透過像を検出する回転角度間隔(回転方向のサンプリングピッチ)を小さくする必要がある。
【0016】
図7の電池の場合を例にして説明する。断面上で、電極層の直線的な部分では、各電極板およびセパレータは厚さ約0.1mmで、長さ100mm程度と非常に細長いものである。このような細長い電極板は回転角度間隔が大きいと電極板に沿った方向に直線状の偽像が生じて厚さ方向の分解能(層構造に対する分解能)を損なうため、分解能を確保して断面像を作成するためには、この場合で、一回転中に透過像を検出する回転角度間隔を0.06°程度に細かくする必要があり、360°のビュー数(1回転中の透過像撮影数)が6000と大きくなる。
【0017】
このように、従来のCT装置では、層状構造の被検体の層に直交する方向の分解能を確保するためにビュー数を多くする必要があり、断層撮影時間が長いという問題があった。
【0018】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、層状構造を有する被検体の断面像を短い断層撮影時間で得るCT装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、層状構造を有する被検体の断面像を撮影するCT装置であって、撮影する層状構造の層面が断層撮影面に交差するようにテーブル上に載置された被検体に向けて前記断層撮影面に沿った放射線光軸を中心に放射線を放射する放射線源と、前記被検体を透過した放射線を検出して透過像として出力する放射線検出手段と、前記断層撮影面と直交する回転軸に対し前記テーブルと前記放射線とを相対的に回転させる回転手段と、前記回転手段と前記放射線検出手段を制御して、第一の角度範囲で前記回転をさせつつ第一の角度間隔毎に検出された複数の透過像を第一のスキャンデータとして取り込んで記憶する第一のスキャン、および、第二の角度範囲で前記回転をさせつつ前記第一の角度間隔より小さな第二の角度間隔毎に検出された複数の透過像を第二のスキャンデータとして取り込んで記憶する第二のスキャンを実施するスキャン制御手段と、前記第一のスキャンデータに基づいて、前記層面が前記放射線光軸と平行となる回転位置から±60°内にあって前記平行となる回転位置を包含する前記第二の角度範囲を設定する角度範囲設定手段と、少なくとも前記第二のスキャンデータを用いて前記被検体の前記断層撮影面に平行な断面像を再構成する再構成手段と、を有することを要旨とする。
【0020】
この構成により、透過像を検出する角度間隔の粗い第一のスキャンを実施して検出した第一のスキャンデータに基づいて、被検体の平面状の層状構造の層面が光軸と平行になる回転位置を優先した第二の角度範囲を設定し、この第二の角度範囲で角度間隔の小さな第二のスキャンを実施し、少なくともこの第二のスキャンで検出されたスキャンデータから被検体の断面像を再構成しているので、角度間隔の小さなスキャンを1回転するのと比べ、断面像上の層構造の分解能に寄与する光軸が層面に小さな角度で交差する回転範囲を優先してスキャンすることができ、層面に直交する方向の分解能を保ったままスキャンに要する時間を短縮できる。また、断面像再構成に要する時間も短縮できる。
【0021】
前記目的を達成するため、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のCT装置において、前記角度範囲設定手段は、前記第一のスキャンデータのサイノグラム上での透過が小さな部分の配分に基づいて前記第二の角度範囲を設定することを要旨とする。
【0022】
この構成により、第一のスキャンデータの透過が小さな部分の配分に基づくことで、自動的に、第二の角度範囲を、被検体の平面状の層状構造の層面が光軸と平行になる回転位置を優先した範囲に設定できる。
【0023】
前記目的を達成するため、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のCT装置において、前記再構成手段は前記第一のスキャンデータから前記被検体の前記断層撮影面に平行な概略断面像を再構成し、前記角度範囲設定手段は、前記概略断面像に基づき前記第二の角度範囲を設定することを要旨とする。
【0024】
この構成により、概略断面像に基づくことで、自動的に、第二の角度範囲を、被検体の平面状の層状構造の層面が光軸と平行になる回転位置を優先した範囲に設定できる。
【0025】
前記目的を達成するため、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のCT装置において、前記再構成手段は、前記第二のスキャンデータに加え前記第一のスキャンデータも用いて前記被検体の前記断層撮影面に平行な断面像を再構成することを要旨とする。
【0026】
この構成により、被検体に平面状の層状構造以外の構造が含まれる場合、層状構造を撮影した断面像上で他の構造もある程度良好に表されるようにできる。
【0027】
前記目的を達成するため、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のCT装置において、前記再構成手段は、前記第一のスキャンデータと前記第二のスキャンデータを合わせたときの複数の透過像に対して、回転角度方向のデータ点密度に反比例する重みを用いて再構成することを要旨とする。
【0028】
この構成により、断面像の画素値(CT値)が均質にできる。
【0029】
前記目的を達成するため、請求項6に記載の発明は、層状構造を有する被検体の断面像を撮影するCT装置であって、撮影する層状構造の層面が断層撮影面に交差するようにテーブル上に載置された被検体に向けて前記断層撮影面に沿った放射線光軸を中心に放射線を放射する放射線源と、前記被検体を透過した放射線を検出して透過像として出力する放射線検出手段と、前記断層撮影面と直交する回転軸に対し前記テーブルと前記放射線とを相対的に回転させる回転手段と、前記回転手段と前記放射線検出手段を制御して、前記回転をさせつつ複数の角度間隔のうちいずれかの角度間隔毎に順次検出される複数の透過像をスキャンデータとして取り込んで記憶するスキャン制御手段であり、前記順次検出される透過像の値に基づいて前記複数の角度間隔のうちいずれかの角度間隔に切換えつつスキャンを実施する前記スキャン制御手段と、前記スキャンデータを用いて前記被検体の前記断層撮影面に平行な断面像を再構成する再構成手段と、を有することを要旨とする。
【0030】
この構成により、順次検出される透過像の値に基づいて、被検体の平面状の層状構造の層面が光軸と平行になる回転位置を中心とした回転角度範囲で小さな角度間隔の詳細スキャンを実施し、断面像上の層構造の分解能に寄与しない光軸が層面に大きな角度で交差する回転範囲で大きな角度間隔の高速スキャンを実施することで、1回転の詳細スキャンと比べ、層面に直交する方向の分解能を保ったままスキャンに要する時間を短縮できる。また、断面像再構成に要する時間も短縮できる。
【0031】
前記目的を達成するため、請求項7に記載の発明は、層状構造を有する被検体の断面像を撮影するCT装置の撮影方法であって、撮影する層状構造の層面が断層撮影面に交差するようにテーブル上に載置された被検体に向けて前記断層撮影面に沿った放射線光軸を中心に放射線を放射する放射線源と、前記被検体を透過した放射線を検出して透過像として出力する放射線検出手段と、前記断層撮影面と直交する回転軸に対し前記テーブルと前記放射線とを相対的に回転させる回転手段と、前記回転手段と前記放射線検出手段を制御して所定の回転角度範囲で前記回転をさせつつ検出された複数の透過像をスキャンデータとして取り込んで記憶するスキャンを実施するスキャン制御手段と、前記記憶されたスキャンデータから前記被検体の断面像を再構成する再構成手段とを有するCT装置において、第一の角度範囲で前記回転をさせつつ第一の角度間隔毎に検出された複数の透過像を第一のスキャンデータとして取り込んで記憶する第一のスキャンを実施する過程と、前記第一のスキャンデータに基づいて、前記層面が前記放射線光軸と平行となる回転位置から±60°内にあって前記平行となる回転位置を包含する第二の角度範囲を設定する過程と、前記第二の角度範囲で前記回転をさせつつ前記第一の角度間隔より小さな第二の角度間隔毎に検出された複数の透過像を第二のスキャンデータとして取り込んで記憶する第二のスキャンを実施する過程と、少なくとも前記第二のスキャンデータを用いて前記被検体の前記断層撮影面に平行な断面像を再構成する過程と、を有することを要旨とする。
【0032】
この方法で、請求項1記載の発明と同様の効果をあげることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、層状構造を有する被検体の断面像を短い断層撮影時間で得るCT装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第一の実施形態に係るCT装置の構成を示した模式図((a)平面図、(b)正面図)。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る断層撮影のフロー図。
【図3】本発明の第一の実施形態に係るプレスキャンのサイノグラムP(n,φ)。
【図4】本発明の第一の実施形態に係るサイノグラムのn方向の最大値Pmax(φ)。
【図5】本発明の第二の実施形態に係る断層撮影のフロー図。
【図6】本発明の第二実施形態に係る透過像最小値Imin(φ)の回転角度φに対する変化の一例を示した図。
【図7】被検体である電池90の概念図(断面図)。
【図8】従来のCT装置の構成を示した模式図((a)平面図、(b)正面図)。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
【0036】
(本発明の第一の実施の形態の構成)
以下、本発明の第一の実施形態の構成について図1を参照して説明する。図1は本発明の第一の実施形態に係るCT装置の構成を示した模式図((a)平面図、(b)正面図)である。図1に示すとおり、X線管(放射線源)1と、X線管1のX線焦点Fより放射されたX線の一部である光軸(放射線光軸)Lを中心とする角錐状のX線ビーム(放射線)2を2次元の分解能で検出するX線検出器(放射線検出手段)3とが対向して配置され、このX線ビーム2に入るようにテーブル4上に載置された被検体5を透過したX線ビーム2がX線検出器3により検出され、透過像(透過データ)として出力される。
【0037】
テーブル4はXY機構6上に配置され、XY機構6は回転・昇降機構(回転手段)7上に配置されている。テーブル4は回転・昇降機構7によりX線ビーム2と垂直に交差する(X線ビーム2と交差し、かつ、光軸Lの方向に対し実質垂直であればよい)回転軸RAに対して回転されるとともに、回転軸RAと平行なz方向にz移動(昇降)される。XY機構6は、回転軸RA及びX線ビーム2に対しテーブル4を回転軸RAと直交するXY面内でXY移動させる。
【0038】
断層撮影面TPはX線焦点Fを通って回転軸RAに垂直な面と定義され、光軸Lは断層撮影面TP上にある。さらに、シフト機構8により回転軸RA(とテーブル4)およびX線検出器3をX線管1に近づけあるいは遠ざけることができ、X線管1のX線焦点Fと回転軸RAとの間の撮影距離FCD(Focus to rotation Center Distance)と、X線焦点FとX線検出器3の検出面3aとの間の検出距離FDD(Focus to Detector Distance)を変えて設定することができる。
【0039】
ここで、XY機構6は、被検体5の着目部が回転軸RA上になるように位置調整するために用いられ、シフト機構8は目的に応じて撮影倍率(=FDD/FCD)を変更するために用いられ、回転・昇降機構7のz移動は被検体5の着目部をX線ビーム2の高さに合わせるのに用いられる。また、回転・昇降機構7の回転は断面像を撮影する場合に被検体5をX線ビーム2に対し回転させて、多数の方向について透過像を得るために用いられる。
【0040】
図1に示す断面像視野(あるいはスキャン領域と称する)10は1回転の間に、常に測定されるX線ビーム2に包含される領域と定義される。断面像視野10は回転軸RAを軸とする略円筒状の領域であり、無理なく断面像を再構成できる領域である。
【0041】
構成要素として、他に、各機構(XY機構6、回転・昇降機構7、シフト機構8)を制御し、また、X線検出器3からの透過データを処理する制御処理部9、処理結果等を表示する表示部9a、X線管1を制御するX線制御部(図示せず)等がある。
【0042】
制御処理部9は通常のコンピュータで、CPU、メモリ、ディスク(不揮発性メモリ)、表示部9a、入力部(キーボードやマウス等)9b、機構制御ボード、インターフェース、等より成っている。
【0043】
制御処理部9は、機構制御ボードにより、各機構部6,7,8の動作位置の信号(エンコーダパルス等)を受けて各機構部6,7,8を制御して被検体の位置合わせやスキャン(断層撮影走査)等を行わせる他、透過データの収集指令パルス等をX線検出器3に送る。なお、各機構部6,7,8には図示してないエンコーダが取付けられており、テーブル4のXY機構6によるXY移動位置X,Y、回転・昇降機構7によるz移動位置zと回転角度φ、及びシフト機構8によるFCD,FDDが読み取られ、それぞれ制御処理部9に送られる。
【0044】
また、制御処理部9は、断層撮影時にX線検出器3からの透過データを収集し、記憶し、再構成処理して断層撮影面TPに平行な1枚ないし複数枚の被検体5の断面像を作成し、表示部9aに表示する。また、制御処理部9は、X線制御部(図示せず)に指令を出し、管電圧、管電流を指定すると共に、X線の放射、停止の指示を行なう。管電圧、管電流は被検体に合わせて変えることができる。
【0045】
図1に示すように、制御処理部9はソフトウエアを読み込んでCPUが機能する機能ブロックとして、所定の範囲でテーブル4を回転させつつ検出された複数の透過像をスキャンデータとして取り込んで記憶するスキャンを実施するためのスキャン制御部(スキャン制御手段)9c、第一のスキャンのスキャンデータを用いて第二のスキャンの回転の角度範囲を設定する角度範囲設定部(角度範囲設定手段)9dと、スキャンデータを用いて断面像を作成する再構成部(再構成手段)9e、等を備えている。
【0046】
(第一の実施の形態の作用)
上記のような構成を有する第一の実施形態の作用を図7、図2ないし図4を参照して、被検体5として電池90を撮影する場合を例に説明する。
【0047】
図7に被検体である電池90の概念図(断面図)を示す。この図は、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、ニカド電池等の構造の概略を示す断面図である。ケース91内には、正極板92と負極板93がセパレータ(不図示)を介して何重にも巻かれて収められ、空隙には電解液94が満たされている。例えば、層のピッチ(正極板−正極板)は0.3mm程度で巻数は数十回で、断面全体の寸法としては30mm×120mm程度である。
【0048】
電池90は、平行平面の層面12を持った層構造を有し、層面12に平行に各電極板92,93およびセパレータは厚さ約0.1mmで、長さ100mm程度と非常に細長い構造となっている。
【0049】
図2は第一の実施形態に係る断層撮影のフロー図である。
【0050】
ステップS1では、操作者は電池90をテーブル4に層状構造の層面12が断層撮影面TPと交差(実質的に直交)するように載置し、断層撮影の撮影条件を設定する。撮影条件には幾何条件、X線条件、スキャン条件、再構成条件等が含まれる。
【0051】
撮影条件設定として、スキャン制御部9cは、操作者の入力により本スキャン(第二のスキャン)の撮影条件を以下のように設定する。
【0052】
まず、本スキャンの幾何条件設定として、入力部9bから指令を入力して、電池90が概略として、回転軸RA上になるようXY機構6を制御し、さらに、電池90が断面像視野10に入るようにシフト機構8を制御して撮影倍率を設定する。また、入力部9bから回転昇降機構7を制御して電池90の高さを断層撮影面TPに合わせる。なお、幾何条件設定は、X線検出器3が出力した透過像を表示部9aにリアルタイムで表示させ、これを目視しながら行うことができる。
【0053】
本スキャンのX線条件設定として、被検体に適合する管電圧、管電流を設定する。なお、X線条件設定は、X線検出器3が出力した透過像を表示部9aにリアルタイムで表示させ、これを目視しながら行うことができる。
【0054】
本スキャンのスキャン条件設定として、透過像を検出する回転の角度間隔(第二の角度間隔)(例えば0.06°)あるいは1回転あたりの検出数(たとえば6000サンプル/回転)、1透過像の積分フレーム数(例えば5)、等を設定する。なお、本スキャンの角度範囲はここでは設定しない。また、本スキャンの再構成条件として、断面像枚数とその回転軸方向の間隔(断層撮影面TPに対する断面位置)等を設定する。
【0055】
スキャン制御部9cは入力設定された本スキャンの撮影条件からスキャン条件のみを予め定めたプレスキャンのスキャン条件に変更して、プレスキャンの撮影条件を設定する。プレスキャンのスキャン条件としては、回転の角度範囲(第一の角度範囲)を0°から360°までとし、透過像を検出する回転の角度間隔(第一の角度間隔)を本スキャンより大きな(例えば0.6°)粗い角度間隔に設定する。また、積分フレーム数を少ない値(例えば1)、に設定する。角度間隔および積分フレーム数としては、本スキャンの値を一定倍して求めてもよいし、予め定めた一定値としてもよい。
【0056】
ステップS2では、プレスキャン(第一のスキャン)を行う。操作者がスキャン開始を入力すると、スキャン制御部9cは回転昇降機構7とX線検出器3を制御して、設定した(第一の)角度範囲でテーブル4を(連続あるいはステップで)回転をさせつつ設定した(第一の)角度間隔毎に検出された複数の透過像を(第一の)スキャンデータとして取り込んで記憶する。
【0057】
ステップS3では、角度範囲設定部9dは、プレスキャンのスキャンデータに基づいて以下のように本スキャンの(第二の)角度範囲を設定する。
【0058】
まず、角度範囲設定部9dは、プレスキャンのスキャンデータIに対し、オフセット補正を加えた後、式、
P=LOG(IA/I) ………(1)
によりエアー補正及び対数変換を加え、断層撮影面TP上でのサイノグラムP(n,φ)を作成する。ここで、IAは被検体が無いときのデータで予め較正して記憶してあるものを用いる。なお、P(n,φ)の値は透過が小さなとき大きな値となる。
【0059】
図3はプレスキャンの断層撮影面TP上でのサイノグラムP(n,φ)である。ここで、φは回転角度、nは断層撮影面TPに沿った検出チャンネル番号である。サイノグラムP(n,φ)上では、光軸Lが層面12と平行となる回転位置φ1、φ2付近でX線ビーム2が各電極板92,93を長手方向に透過するため透過が小さな部分ができる。
【0060】
角度範囲設定部9dは、プレスキャンのサイノグラム上での透過が小さな部分の配分に基づいて本スキャンの角度範囲を設定する。具体的には、角度範囲設定部9dは、サイノグラムP(n,φ)に対しn方向の最大値Pmax(φ)を求める。ここで、さらにこのPmax(φ)にφ方向にスムージング処理を行っておく。
【0061】
図4はサイノグラムのn方向の最大値Pmax(φ)(スムージング後)である。角度範囲設定部9dは、Pmax(φ)から所定の閾値P0以上のφの部分を抽出し、この抽出した部分の中央をφ1,φ2として求める。所定の閾値P0としては、例えば、Pmax(φ)の最大値の70%とする。
【0062】
次に、角度範囲設定部9dは、求めたφ1,φ2の一方、例えば小さい方のφ1を選択し、φ1を中心とする45°(±22.5°)の範囲φsからφeまでを本スキャンの角度範囲(第二の角度範囲)として設定する。
【0063】
ステップS4では、ステップS1とステップS3で設定された本スキャンの撮影条件にて、引き続き本スキャンを実施する。スキャン制御部9cは回転昇降機構7とX線検出器3を制御して、設定した(第二の)回転角度範囲でテーブル4を(連続あるいはステップで)回転をさせつつ設定した(第二の)角度間隔毎に検出された複数の透過像を(第二の)スキャンデータとして取り込んで記憶する。
【0064】
ステップS5で、再構成部9eは本スキャンのスキャンデータから電池90の断面像視野10内の断面像を断層撮影面TPに平行な(設定した断面位置の)少なくとも1枚の断面像を再構成して、表示および記憶を行う。再構成は、通常のフィルター補正逆投影法で行うが、異なるのは、通常は360°分のフィルター補正逆投影を行うのに対し、ここではスキャンした角度範囲のデータのみをフィルター補正逆投影するだけの違い(すなわちスキャンしなかった角度範囲に対し0を逆投影するのと等価)である。
【0065】
なお、プレスキャンのスキャンデータは再構成には用いない。
【0066】
以上で図2のフローが終了する。
【0067】
(第一の実施の形態の効果)
第一の実施形態によれば、電池90の平面状の層状構造の層面12が光軸Lと平行になる回転位置を中心とした(45°の)スキャンの回転角度範囲で本スキャンを実施し、この回転角度範囲で検出されたスキャンデータから電池90の断面像を再構成しているので、1回転の本スキャンと比べ、断面像上の層構造の分解能に寄与しない光軸Lが層面12に大きな角度で交差する回転範囲の透過像検出を省くことで層面に直交する方向の分解能を保ったままスキャンに要する時間を短縮できる。また、断面像再構成に要する時間も短縮できる。具体的には、通常では360°で行う本スキャンが、45°の本スキャンで済むためスキャン時間と再構成時間が約1/8となる。
【0068】
実際に、{画像1:第一の実施形態の条件(45°のスキャン)で断層撮影した断面像}と、{画像2:同じ条件で360°のスキャンで断層撮影した断面像}を比較すると、若干、画像1の方が画像ノイズが大き目ではあるが、層面12に直交する方向の分解能は同等であった。画像1がノイズが大き目なのは、光軸Lが層面に沿う方向のデータ量が画像2の半分になるからである。そこで、画像1の撮影条件の積分フレーム数を2倍にして画像1’を撮影し、比較すると、画像1’と画像2は見分けが付かないほどの画像となった。
【0069】
さらに、第一の実施形態によれば、副次的効果として、リング状アーチファクトが生じにくいという効果がある。実際に、上述した画像1、画像2を比較すると、画像2では回転軸RAを中心としたかすかなリング状アーチファクトを認めることができたが、画像1では全く認められなかった。
【0070】
さらに、第一の実施形態によれば、透過像を検出する角度間隔の粗いプレスキャンにより、時間をかけずに本スキャンのスキャン範囲を設定することができる。
【0071】
また、第一の実施形態によれば、本スキャンの撮影条件を設定してスキャン開始を入力するだけで、全自動でプレスキャンと高速化された本スキャンが実施され断面像を得ることができる。
【0072】
(第一の実施の形態の変形)
その他、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することが可能である。以下に示す変形例は組合わせて実施することもできる。
【0073】
(変形例1)
第一の実施形態では、層状構造の層面12が光軸Lと平行になる回転位置φ1を中心に45°のスキャンの回転角度範囲を設定したが、回転角度範囲は必ずしも45°でなくてもよい。電池90の層状構造は巻むらや皺によって局所的に層面12から傾斜している。この傾斜範囲内の方向からの透過像が得られれば良いので、見込まれる傾斜角度範囲αを含むように回転角度範囲を設定すればよい。
【0074】
正確には、電池の層構造は視野内において、厚みがあるので、厚みの上端層に平行にX線が透過する回転位置から厚みの下端層に平行にX線が透過する回転位置までの角度βだけ回転角度範囲を増やす必要がある。したがって、回転角度範囲としては、βだけ増やしてα+βを超えて設定すればよい。この角度βは概略X線焦点Fから見たこの厚みの張る角度に相当し、βの値としては、最大厚み(=断面像視野10の直径)のとき最大で、このときβはファン角θ0に一致する(図1参照)。通常の電池では、このα+βは120°を超えないので、回転角度範囲はφ1から±60°(全幅120°以下)内でφ1を含むように設定すればよいが、被検体に合せて、できるだけ狭く設定することでより高速化が可能である。回転角度範囲の幅は、被検体の平面性が良い場合は例えば20°とか10°とか小さな範囲で済むこともある。
【0075】
(変形例2)
第一の実施形態では、層状構造の層面12が光軸Lと平行になる回転位置φ1を中心に対称に45°のスキャンの回転角度範囲を設定した(通常は対称が好ましい)が、正確に対称でなくてよく、概略として対称であればよい。
【0076】
(変形例3)
第一の実施形態で、層状構造の層面12が光軸Lと平行になる回転位置φ1,φ2のそれぞれを中心とした45°の範囲を合わせた2つの角度範囲を設定してもよい。スキャンはまずφ1を中心とした角度範囲をスキャンし、次にφ2を中心とした角度範囲をスキャンし、両方のスキャンで得られたスキャンデータを合せて本スキャンのスキャンデータとする。
【0077】
ここで、変形例1と同様に、φ2を中心とした角度範囲は45°には限られず、φ2から±60°(全幅120°以下)内でφ2を含むように設定すればよく、また、変形例2と同様に、φ2に対し正確に対称でなくてよい。
【0078】
この場合の再構成は、φ1を中心としたスキャンデータをフィルター補正逆投影した断面像に続けてφ2を中心としたスキャンデータをフィルター補正逆投影すればよい。または、φ1を中心とした角度範囲のスキャンデータを再構成し、同様にφ2を中心とした角度範囲のスキャンデータを再構成し、両方の断面像を加算するようにしてもよい。
【0079】
変形例3によれば、第一の実施形態と同様の効果をあげることができる。具体的には、通常では360°で行う本スキャンが、45°と45°の本スキャンで済むためスキャン時間と再構成時間が約1/4となる。実際に、{画像3:変形例3の条件(45°と45°のスキャン)で断層撮影した断面像}と、{画像2:同じ条件で360°のスキャンで断層撮影した断面像}を比較すると、画像3と画像2は見分けが付かないほどの画像となった。また、画像2では回転軸RAを中心としたかすかなリング状アーチファクトを認めることができたが、画像3では全く認められなかった。
【0080】
(変形例4)
第一の実施形態では、本スキャンは電池90の全体を断面像視野10に収めた全体スキャンであったが、撮影しようとする着目部のみを収めるROIスキャンであってもよい。
【0081】
(変形例5)
第一の実施形態では、プレスキャンは角度範囲の幅が360°の通常スキャンであったが、180°+ファン角θ0以上で360°未満のハーフスキャンでも、360°を超えるオーバースキャンでもよい。すなわち断面像視野10対して180°方向のデータを得ることで、光軸Lが層面12と平行となる回転位置φ1,φ2(=φ1+180°)のどちらかを見つけことができればよいのである。
【0082】
(変形例6)
第一の実施形態で、サイノグラム上での透過が小さな部分の配分に基づいて本スキャンの角度範囲を設定する方法はこれには限られない。
【0083】
例えば、断層撮影面TP上でのサイノグラムP(n,φ)を用いる代わりに、サイノグラム全体P(n,m,φ)を用いてもよい。ここで、mは回転軸RA方向の検出チャンネル番号である。この場合は、サイノグラムP(n,φ)に対しn方向の最大値Pmax(φ)を求める代わりにサイノグラムP(n,m,φ)に対しn,m面内の最大値Pmax(φ)を求めればよいのである。
【0084】
また、例えば、φ1を中心とする45°の範囲を角度範囲とする代わりに、サイノグラムのn方向の最大値Pmax(φ)(スムージング後)から所定の閾値P0以上の部分を抽出し、この抽出した部分を直接、角度範囲として設定するようにしてもよい。これにより、自動的に、層状構造の局所的な層面12からの傾斜や層構造の厚みを考慮したα+β(変形例1参照)を超えた幅を持った角度範囲を設定することができる。
【0085】
また、対数変換後のサイノグラムPを用いる代わりに、対数変換前のサイノグラムIを用いてもよい。この場合は、n方向の最小値Imin(φ)の閾値I0以下の部分を抽出して角度範囲を設定するようにする。
【0086】
(変形例7)
第一の実施形態で、角度範囲設定部9dは、プレスキャンのサイノグラム上での透過が小さな部分の配分に基づいて本スキャンの角度範囲を設定しているが、代わりに、プレスキャンのスキャンデータを再構成して概略断面像を再構成し、この概略断面像に基づき本スキャンの角度範囲を設定することもできる。
【0087】
この場合は、ステップS3で、まず、再構成部9eが概略断面像を再構成し、角度範囲設定部9dは、この概略断面像上で直線パターンの方向を求め、この方向から層状構造の層面12が光軸Lと平行になる回転位置φ1,φ2を求め、その後、第一実施形態と同様に本スキャンの角度範囲を設定することができる。
【0088】
なお、直線パターンの方向を求める方法は公知の画像処理技術が用いられる。
【0089】
また、画像処理で直線パターンの方向を求める代わりに、表示した概略断面像上で操作者が直線パターンの方向を入力してφ1を設定するようにしてもよい。
【0090】
また、さらに、φ1を中心とした45°を設定する代わりに、概略断面像上で層構造の厚みdを求め、この厚みdから、厚みの上端層に平行にX線が透過する回転位置から厚みの下端層に平行にX線が透過する回転位置までの角度βを、式、
β=2・asin(d/(2・FCD)) ………(2)
で求め、さらに、層状構造の局所的な層面12から傾斜の見込まれる傾斜角度範囲αを用いて、α+βを計算し、φ1を中心としたα+βを本スキャンの角度範囲として設定することもできる。
【0091】
(変形例8)
第一の実施形態では、プレスキャンの幾何条件とX線条件は本スキャンと同じに設定したが、本スキャンとは別に設定するようにもできる。この場合は、例えば、プレスキャンで、電池90の全体が断面像視野10に収まる全体スキャンを実施し、概略断面像を再構成すると共に本スキャンの角度範囲を設定し、その後、概略断面像上でROIを設定してこのROIが断面像視野10にちょうど収まるROIスキャンを幾何条件とする本スキャンを実施してROIの拡大断面像を得ることも可能である。
【0092】
(変形例9)
第一の実施形態では、本スキャンのスキャンデータのみを用いて断面像を再構成しているが、プレスキャンと本スキャン両方のスキャンデータを用いて再構成することもできる。
【0093】
この場合の再構成は、本スキャンのスキャンデータをフィルター補正逆投影した断面像に続けてプレスキャンのスキャンデータを(あるいはプレスキャンのスキャンデータから本スキャンの角度範囲を除いたスキャンデータを)フィルター補正逆投影すればよい。なお、逆投影するときに、回転位置ごとに重み付けしながら逆投影し、重み付けとしては、2つのスキャンデータを合わせたときの回転角度方向のデータ点密度に反比例する重み(検出の角度間隔に比例する重み)を用いるのが好ましい。具体的には、重みとして、ある回転位置に対して、両隣のサンプル点(回転角度位置)間の角度の2分の1に比例する重みを用いればよい。この重みを用いることで、断面像の画素値(CT値)が均質にできる。
【0094】
また、これと等価な再構成として、本スキャンのスキャンデータを再構成した断面像とプレスキャンのスキャンデータを(あるいはプレスキャンのスキャンデータから本スキャンの角度範囲を除いたスキャンデータを)再構成した断面像とを加算するようにしてもよい。なお、この場合は、それぞれの再構成で、回転位置ごとに上述した重み付けをしながら逆投影するのが好ましい。
【0095】
この変形により、第一の実施形態で、電池90に層状構造以外の構造が含まれる場合、層状構造を撮影した断面像上で他の構造もある程度良好に表されるようにできる。
【0096】
(本発明の第二の実施の形態の構成)
以下、本発明の第二の実施形態の構成は、図1に示す第一の実施形態の構成から、角度範囲設定部9dを除き、スキャン制御部9cの機能を変えたものである。第一の実施形態と同一の構成は説明省略し、スキャン制御部9cの機能については作用の項に記載するのでここでは説明省略する。
【0097】
(第二の実施の形態の作用)
図7、図5、図6を参照して、被検体5として電池90を撮影する場合を例に、第二の実施の形態の作用を説明する。
【0098】
図7は被検体である電池90の概念図(断面図)である。電池90については第一の実施形態で説明しているのでここでは説明省略する。
【0099】
図5は本発明の第二の実施形態に係る断層撮影のフロー図である。
【0100】
ステップT1では、操作者は電池90をテーブル4に層状構造の層面12が断層撮影面TPと交差(実質的に直交)するように載置し、断層撮影の撮影条件を設定する。撮影条件には幾何条件、X線条件、スキャン条件、再構成条件等が含まれる。
【0101】
撮影条件設定として、スキャン制御部9cは、操作者の入力によりスキャンの撮影条件を以下のように設定する。
【0102】
まず、幾何条件設定として、入力部9bから指令を入力して、電池90が概略として、回転軸RA上になるようXY機構6を制御し、さらに、電池90が断面像視野10に入るようにシフト機構8を制御して撮影倍率を設定する。また、入力部9bから回転昇降機構7を制御して電池90の高さを断層撮影面TPに合わせる。なお、幾何条件設定は、X線検出器3が出力した透過像を表示部9aにリアルタイムで表示させ、これを目視しながら行うことができる。
【0103】
次に、X線条件設定として、被検体に適合する管電圧、管電流を設定する。なお、X線条件設定は、X線検出器3が出力した透過像を表示部9aにリアルタイムで表示させ、これを目視しながら行うことができる。
【0104】
また、スキャン条件設定として、詳細スキャンの条件を設定する。透過像を検出する回転の角度間隔(第二の角度間隔)(例えば0.06°)あるいは1回転あたりの検出数(たとえば6000サンプル/回転)、1透過像の積分フレーム数(例えば5)、等を設定する。
【0105】
さらに、再構成条件として、断面像枚数とその回転軸方向の間隔(断層撮影面TPに対する断面位置)等を設定する。
【0106】
次に、スキャン制御部9cは、入力設定された詳細スキャンのスキャン条件とは別に高速スキャンの撮影条件を設定する。高速スキャンのスキャン条件としては、透過像を検出する回転の角度間隔(第一の角度間隔)を詳細スキャンより大きな値(例えば0.6°)とし、積分フレーム数を少ない値(例えば1)、に設定する。角度間隔および積分フレーム数としては、詳細スキャンの値を一定倍して求めてもよいし、予め定めた一定値としてもよい。
【0107】
ステップT2では、操作者がスキャン開始を入力すると、スキャン制御部9cは回転昇降機構7を制御して回転をリセットすると共にX線を放射開始させる。
【0108】
引き続き、スキャン制御部9cは回転昇降機構7とX線検出器3を制御してステップT3ないしステップT6の繰り返しに相当するスキャンを実施する。スキャンは、回転テーブル4を回転をさせつつ第一の角度間隔毎に、あるいは第二の角度間隔毎にX線検出器3で順次検出される複数の透過像をスキャンデータとして取り込んで記憶し、順次検出される透過像の値に基づいて第一の角度間隔と第二の角度間隔のどちらかに切換えつつスキャンを実施するものである。以下ステップT3ないしステップT6を詳細に説明する。
【0109】
ステップT3では、X線検出器3が検出してフレーム積分して出力した透過像を取込みスキャンデータとして記憶する。なお透過像1は透過が小さなとき小さな値となる。
【0110】
ステップT4では、取込んだ透過像I(n,m,φ)から角度間隔を以下のように設定する。ここでφは回転位置、n,mは画像の横と縦のチャンネル番号で、nは断層撮影面TPに沿った方向、mは回転軸RAに沿った方向である。
【0111】
スキャン制御部9cは、先ず、取込んだ透過像I(n,m,φ)の最小値Imin(φ)(最小透過位置でのI)を求める。ここで最小値は断層撮影面TP上の最小値とするが、断層撮影面TPに近い所定領域の最小値あるいは透過像全面(全n,m)中の最小値としてもよい。
【0112】
図6は透過像最小値Imin(φ)の回転角度φに対する変化の一例を示した図である。
【0113】
スキャン制御部9cは、透過像最小値Imin(φ)が閾値I0より大きい場合、高速スキャンの角度間隔(第一の角度間隔)に切換え、閾値I0より小さい場合、詳細スキャンの角度間隔(第二の角度間隔)に切換えて設定する。ここで閾値I0は予め定めておく。なお、チャッタリングを防ぐため、切換えが起こった後の所定角度を不感帯13として切換えを行わないようにする。あるいは、チャッタリングを防ぐために、閾値としてI0とI0より大きなI1の2つの閾値を設け、I0以下になったとき詳細スキャンの角度間隔に切換え、I1以上になったとき高速スキャンの角度間隔に切換える(閾値に不感帯を設けることに相当する)ようにしてもよい。また、Imin(φ)に対しリカーシブフィルタを掛けてスムージングしつつ閾値判定することでチャッタリングを防止することもできる。
【0114】
ステップT4により例えば図6に示すようにφa,φb,φc,φdで、角度間隔設定の切換えが起き、透過像最小値が小さな回転位置で詳細スキャンの角度間隔が設定され、それ以外で高速スキャンの角度間隔が選択される。これにより、光軸Lが層面12と平行となる回転位置φ1、φ2付近で詳細スキャンの角度間隔が設定されることになる。これは、φ1、φ2付近ではX線ビーム2が各電極板92,93を長手方向に透過するため透過が小さな部分ができるので、透過像最小値が小さくなるからである。
【0115】
ステップT5では、ステップT4で設定した角度間隔だけテーブル4をステップ回転させる。
【0116】
ステップT6では、回転位置がリセット位置から360°回転したか?を判定する。回転していない場合はステップT3に戻ってステップT3ないしステップT6を繰り返す。回転した場合はスキャン終了とみなし、ステップT7へ進む。
【0117】
ステップT7では、再構成部9eが、記憶したスキャンデータから電池90の断面像視野10内の断面像を断層撮影面TPに平行な(設定した断面位置の)少なくとも1枚の断面像を再構成して、表示および記憶を行う。再構成は、通常のフィルター補正逆投影法で行う。なお、逆投影するときに、回転位置ごとに重み付けしながら逆投影し、重み付けとしては、回転角度方向のデータ点密度に反比例する重み(検出の角度間隔に比例する重み)を用いるのが好ましい。
【0118】
以上で図5のフローが終了する。
【0119】
(第二の実施の形態の効果)
第二の実施形態によれば、電池90の平面状の層状構造の層面12が光軸Lと平行になる回転位置を中心とした回転角度範囲で小さな角度間隔の詳細スキャンを実施し、断面像上の層構造の分解能に寄与しない光軸Lが層面12に大きな角度で交差する回転範囲で大きな角度間隔の高速スキャンを実施するので、1回転の詳細スキャンと比べ、層面12に直交する方向の分解能を保ったままスキャンに要する時間を短縮できる。また、断面像再構成に要する時間も短縮できる。
【0120】
また、順次検出される透過像の値に基づいて詳細スキャンの小さな角度間隔と高速スキャンの大きな角度間隔のどちらかに切換つつスキャンを実施するので、自動的に層面12が光軸Lと平行になる回転位置の周辺を選択して優先的に(小さな角度間隔で)スキャンができる。
【0121】
また、第二の実施形態によれば、電池90に層状構造以外の構造が含まれる場合、層状構造を撮影した断面像上で他の構造もある程度良好に表されるようにできる。また、再構成するとき回転角度方向のデータ点密度に反比例する重みを用いることで、断面像の画素値(CT値)が均質にできる。
【0122】
(第二の実施の形態の変形)
その他、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱ない範囲で種々変形して実施することが可能である。以下に示す変形例は組合わせて実施することもできる。
【0123】
(変形例1)
第二の実施形態のステップT4では、取込んだ透過像I(n,m,φ)に基づいて角度間隔を設定しているが、対数変換(式(1))した値P(n,m,φ)に基づいて角度範囲を設定するようにしてもよい。
【0124】
(変形例2)
第二の実施形態では、スキャンは角度範囲の幅が360°の通常スキャンであったが、180°+ファン角θ0以上で360°未満のハーフスキャンでも、360°を超えるオーバースキャンでもよい。
【0125】
また、スキャンの角度範囲は決めずにスキャンを実施し、ステップT4で詳細スキャンから高速スキャンに切換る判定がでたときにスキャンを終了させるようにしてもよい。
【0126】
(変形例3)
第二の実施形態のスキャンは、断続的なステップ回転を行っているが、速度を変えつつ連続的に回転させて行ってもよい。
【0127】
(変形例4)
第二の実施形態のスキャンでは、角度間隔を2段階で切換えているが、3段階以上で切換えてもよい。この場合、閾値I0を2つ以上設け、角度間隔は透過像最小透過値Imin(φ)が小さいほど小さくなるように設定する。また、段階数を大きくすることで、透過像の値に基づき角度間隔を連続的に変化させるようにしてもよい。
【0128】
(変形例5)
第二の実施形態では、電池90の全体を断面像視野10に収めた全体スキャンであったが、撮影しようとする着目部のみを収めるROIスキャンであってもよい。
【0129】
(変形例6)
第二の実施形態では、詳細スキャンと高速スキャンの両方のスキャンデータを用いて再構成しているが、詳細スキャンのスキャンデータのみから再構成してもよい。電池90の層状構造のみを良好に再構成したい場合はこれで十分であり、再構成に要する時間をさらに短縮できる。
【0130】
(第一及び第二の実施形態共通の変形例)
(変形例1)
第一及び第二の実施形態で、スキャンが終了してから再構成を行っているが、スキャンを実施しつつ、収集されたスキャンデータから再構成を同時進行させて実施してもよい。
【0131】
(変形例2)
第一及び第二の実施形態で、電池90の周囲にX線吸収材を配し、X線検出器3により空気のみを透過したX線ビーム2が検出されないように構成してもよい。具体的には、電池90の長手方向に沿った両側(図7の上側と下側)に隙間無く電池90を挟むように、X線吸収材を設ける。この場合のX線吸収材は断層面TP及び層面12に沿った方向に一定の厚みを有する均質な材料、あるいは断面像視野10を丁度埋めるような均質な材料が望ましい。X線吸収材は形状が自由に変わる軟体や流体の材料でもよい。また、X線吸収材は、テーブル4に固定されていてもよいし、電池90に固定してもよく、個別のブロックとして、テーブル4上に電池90と一緒に載置するようにしてもよい。また、X線吸収材で挟むように電池90を保持してもよい。
【0132】
電池90の周囲にX線吸収材を配することで、空気のみを透過したX線ビーム2がX線検出器3の検出面3aに入射しないようにでき、X線検出器3の出力が飽和することなくX線を強くすることができ、1透過像の積分フレーム数が少なくても、良好な透過像が得られるので、スキャンを速く実施でき、スキャンに要する時間を短縮できる。
【0133】
(変形例3)
第一及び第二の実施形態で、テーブル4(電池90)をX線ビーム2に対し回転させているが、回転は相対的でよい。例えば、テーブル4を回転させず、X線管1とX線検出器3を回転軸RAに対し回転させてもよい。
【0134】
また、第一及び第二の実施形態で、テーブル4を回転軸RA及びX線ビーム2に対しXY移動させているが、XY移動は相対的でよい。例えば、テーブル4をXY移動させず、回転軸RA及びX線ビーム2(X線管1とX線検出器3)をXY移動させてもよい。
【0135】
また、第一及び第二の実施形態で、テーブル4をX線ビーム2に対しz移動させているが、z移動は相対的でよい。例えば、テーブル4をz移動させず、X線ビーム2(X線管1とX線検出器3)をz移動させてもよい。
【0136】
(変形例4)
第一及び第二の実施形態では被検体として電池90を例にして説明したが、本発明の被検体は電池に限られること無く、他の層状構造を持つ被検体、例えばコンデンサ、コイル、多層基板、等に対しても有効に適用することができる。
【0137】
(変形例5)
第一または第二の実施形態で、放射線としてX線を用いているが、X線には限られず透過性の放射線であればよい。例えば、放射線としては、γ線やマイクロ波などでもよい。
【符号の説明】
【0138】
1…X線管、2…X線ビーム、3…X線検出器、4…テーブル、5…被検体、6…XY機構、7…回転・昇降機構、8…シフト機構、9…制御処理部、9a…表示部、9b…入力部、9c…スキャン制御部、9d…角度範囲設定部、9e…再構成部、10…断面像視野、12…層面、13…不感帯、90…電池、91…ケース、92…正極板、93…負極板、94…電解液、101…X線管、102…X線ビーム、103…X線検出器、104…テーブル、105…被検体、105a…着目部、106…XY機構、107…回転・昇降機構、108…制御処理部、109…シフト機構、110…断面像視野

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造を有する被検体の断面像を撮影するCT装置であって、
撮影する層状構造の層面が断層撮影面に交差するようにテーブル上に載置された被検体に向けて前記断層撮影面に沿った放射線光軸を中心に放射線を放射する放射線源と、前記被検体を透過した放射線を検出して透過像として出力する放射線検出手段と、前記断層撮影面と直交する回転軸に対し前記テーブルと前記放射線とを相対的に回転させる回転手段と、
前記回転手段と前記放射線検出手段を制御して、第一の角度範囲で前記回転をさせつつ第一の角度間隔毎に検出された複数の透過像を第一のスキャンデータとして取り込んで記憶する第一のスキャン、および、第二の角度範囲で前記回転をさせつつ前記第一の角度間隔より小さな第二の角度間隔毎に検出された複数の透過像を第二のスキャンデータとして取り込んで記憶する第二のスキャンを実施するスキャン制御手段と、
前記第一のスキャンデータに基づいて、前記層面が前記放射線光軸と平行となる回転位置から±60°内にあって前記平行となる回転位置を包含する前記第二の角度範囲を設定する角度範囲設定手段と、
少なくとも前記第二のスキャンデータを用いて前記被検体の前記断層撮影面に平行な断面像を再構成する再構成手段と、
を有することを特徴とするCT装置。
【請求項2】
請求項1に記載のCT装置において、
前記角度範囲設定手段は、前記第一のスキャンデータのサイノグラム上での透過が小さな部分の配分に基づいて前記第二の角度範囲を設定する、
ことを特徴とするCT装置。
【請求項3】
請求項1に記載のCT装置において、
前記再構成手段は前記第一のスキャンデータから前記被検体の前記断層撮影面に平行な概略断面像を再構成し、
前記角度範囲設定手段は、前記概略断面像に基づき前記第二の角度範囲を設定する、
ことを特徴とするCT装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のCT装置において、
前記再構成手段は、前記第二のスキャンデータに加え前記第一のスキャンデータも用いて前記被検体の前記断層撮影面に平行な断面像を再構成する、
ことを特徴とするCT装置。
【請求項5】
請求項4に記載のCT装置において、
前記再構成手段は、前記第一のスキャンデータと前記第二のスキャンデータを合わせたときの複数の透過像に対して、回転角度方向のデータ点密度に反比例する重みを用いて再構成する、
ことを特徴とするCT装置。
【請求項6】
層状構造を有する被検体の断面像を撮影するCT装置であって、
撮影する層状構造の層面が断層撮影面に交差するようにテーブル上に載置された被検体に向けて前記断層撮影面に沿った放射線光軸を中心に放射線を放射する放射線源と、前記被検体を透過した放射線を検出して透過像として出力する放射線検出手段と、前記断層撮影面と直交する回転軸に対し前記テーブルを前記放射線とを相対的に回転させる回転手段と、
前記回転手段と前記放射線検出手段を制御して、前記回転をさせつつ複数の角度間隔のうちいずれかの角度間隔毎に順次検出される複数の透過像をスキャンデータとして取り込んで記憶するスキャン制御手段であり、前記順次検出される透過像の値に基づいて前記複数の角度間隔のうちいずれかの角度間隔に切換えつつスキャンを実施する前記スキャン制御手段と、
前記スキャンデータを用いて前記被検体の前記断層撮影面に平行な断面像を再構成する再構成手段と、
を有することを特徴とするCT装置。
【請求項7】
層状構造を有する被検体の断面像を撮影するCT装置の撮影方法であって、
撮影する層状構造の層面が断層撮影面に交差するようにテーブル上に載置された被検体に向けて前記断層撮影面に沿った放射線光軸を中心に放射線を放射する放射線源と、前記被検体を透過した放射線を検出して透過像として出力する放射線検出手段と、前記断層撮影面と直交する回転軸に対し前記テーブルと前記放射線とを相対的に回転させる回転手段と、前記回転手段と前記放射線検出手段を制御して所定の回転角度範囲で前記回転をさせつつ検出された複数の透過像をスキャンデータとして取り込んで記憶するスキャンを実施するスキャン制御手段と、前記記憶されたスキャンデータから前記被検体の断面像を再構成する再構成手段とを有するCT装置において、
第一の角度範囲で前記回転をさせつつ第一の角度間隔毎に検出された複数の透過像を第一のスキャンデータとして取り込んで記憶する第一のスキャンを実施する過程と、
前記第一のスキャンデータに基づいて、前記層面が前記放射線光軸と平行となる回転位置から±60°内にあって前記平行となる回転位置を包含する第二の角度範囲を設定する過程と、
前記第二の角度範囲で前記回転をさせつつ前記第一の角度間隔より小さな第二の角度間隔毎に検出された複数の透過像を第二のスキャンデータとして取り込んで記憶する第二のスキャンを実施する過程と、
少なくとも前記第二のスキャンデータを用いて前記被検体の前記断層撮影面に平行な断面像を再構成する過程と、
を有することを特徴とするCT装置の撮影方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−8109(P2012−8109A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157246(P2010−157246)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(391017540)東芝ITコントロールシステム株式会社 (107)
【Fターム(参考)】