説明

CXADRL1またはGCUD1タンパク質を発現する胃癌または結腸直腸癌の治療のためのペプチドワクチン

【課題】癌ワクチンとして有効な新規ペプチド、及び該ペプチドを含む腫瘍の治療及び予防のための医薬組成物を提供する。
【解決手段】癌ワクチンとして有効な新規ペプチドとして、胃癌又は結腸直腸癌においてその発現が顕著に上昇しているCXADRL1またはGCUD1タンパク質から、エピトープペプチドをそれぞれ見出した。これらのペプチドは細胞傷害性T細胞活性の誘導活性が大きいことから、癌ワクチンをはじめとする医薬組成物の有効成分となり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌ワクチンとして有効な新規ペプチド、及びこれを含有する腫瘍の治療および/または予防のための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
胃癌および結腸直腸癌(colorectal cancer)は世界的に癌による死亡の主な原因である。診断および治療の戦略の最近の進歩にもかかわらず、進行癌の患者の予後は依然として極めて悪い。腫瘍抑制遺伝子または癌遺伝子の変化が発癌に関与することが分子的な研究によって明らかになってきたが、その厳密な機序は依然として不明である。
【0003】
cDNAマイクロアレイ技術により、正常細胞および悪性細胞における遺伝子発現の包括的プロファイルを得ること、ならびに悪性細胞および対応する正常細胞における遺伝子発現を比較することが可能になった(非特許文献1〜4)。このアプローチは癌細胞の複雑な性質を明らかにすることを可能にし、発癌の機序を解明する一助となる。腫瘍において脱制御される遺伝子の同定は、個々の癌のより正確で間違いのない診断、および新規な治療標的の開発につながる可能性がある(非特許文献5)。腫瘍の基礎をなす機序を全ゲノム的な観点から解明するため、ならびに診断および新規治療薬の開発のための標的分子を探索するために、本発明者らは、23040種の遺伝子を含むcDNAマイクロアレイを用いて腫瘍細胞の発現プロファイルを分析してきた(非特許文献1〜4)。
【0004】
発癌の機序を明らかにする目的で設計された研究により、抗腫瘍薬の分子標的を同定することは既に容易である。例えば、Rasが関係する増殖シグナル伝達経路を阻害するために当初開発されたファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(FTI)は、動物モデルにおけるRas依存性腫瘍の治療に有効であった(非特許文献6)。抗癌薬と原癌遺伝子受容体HER2/neuの拮抗を目的とした抗HER2モノクローナル抗体トラスツズマブ(trastuzumab)を併用したヒトに対する臨床試験が実施されており、乳癌患者の臨床効果および全般的な生存率の改善が達成されている(非特許文献7)。bcr-abl融合タンパク質を選択的に不活性化するチロシンキナーゼ阻害剤STI-571は、bcr-ablチロシンキナーゼの構成的活性化が白血球のトランスフォーメーションに決定的な役割を果たす、慢性骨髄性白血病の治療を目的として開発された。これらの種類の薬剤は、特定の遺伝子産物の発癌活性を抑制する目的で設計されている(非特許文献8)。このため、癌細胞で高頻度に上方制御される遺伝子産物は、新規抗癌薬を開発するための標的候補として役立つ可能性がある。
【0005】
CD8+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)は、MHCクラスI分子上に提示された腫瘍関連抗原(TAA)に由来するエピトープペプチドを認識して、腫瘍細胞を溶解することが示されている。TAAの最初の例としてMAGEファミリーが発見されて以来、他の多くのTAAが免疫学的アプローチを用いて発見されている(非特許文献9〜13)。発見されたTAAのいくつかは現在、免疫療法の標的として臨床開発の段階にある。これまでに発見されたTAAには、MAGE(非特許文献11)、gp100(非特許文献13)、SART(非特許文献14)およびNY-ESO-1(非特許文献15)が含まれる。一方、腫瘍細胞において特異的に過剰発現されることが示された遺伝子産物は、細胞性免疫応答を誘導する標的として認識されることが示されている。このような遺伝子産物には、p53(非特許文献16)、HER2/neu(非特許文献17)、CEA(非特許文献18)などが含まれる。
【0006】
TAAに関する基礎研究および臨床研究の著しい進歩にもかかわらず(非特許文献19〜21)、結腸直腸癌、胃癌を含む腺癌の治療のための候補となるTAAの数は非常に限られている。癌細胞で大量に発現されると同時にその発現が癌細胞に限定されるTAAは、免疫治療の標的として有望な候補になると考えられる。さらに、強力かつ特異的な抗腫瘍免疫応答を誘発する新たなTAAの同定は、様々な種類の癌におけるペプチドワクチン接種の臨床使用を促すと考えられる(非特許文献10〜15、22〜29)。
【0007】
ある一定の健常ドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)がペプチド刺激を受けると、ペプチドに反応して著しいレベルのIFN-γを産生するが、51Cr放出アッセイでHLA-A24またはHLA-A0201拘束的な様式で腫瘍細胞に対して細胞傷害性を及ぼすことはほとんどないと繰り返し報告されている(非特許文献30〜32)。しかし、HLA-A24およびHLA-A0201はどちらも日本人に多いHLAアレルであり、白人でも同様である(非特許文献33〜37)。このため、これらのHLAによって提示される癌の抗原ペプチドは、日本人および白人の癌の治療に特に有用な可能性がある。さらに、インビトロでの低親和性CTLの誘導は通常、ペプチドを高濃度で用いて、抗原提示細胞(APC)の表面に、これらのCTLを効果的に活性化すると考えられる特異的ペプチド/MHC複合体を高レベルに生じさせることによって起こることが知られている(非特許文献38)。
【非特許文献1】Okabe et al.、Cancer Res 61: 2129-37 (2001)
【非特許文献2】Kitahara et al.、Cancer Res 61: 3544-9 (2001)
【非特許文献3】Lin et al.、Oncogene 21: 4120-8 (2002)
【非特許文献4】Hasegawa et al.、Cancer Res 62: 7012-7 (2002)
【非特許文献5】Bienz and Clevers、Cell 103: 311-20 (2000)
【非特許文献6】Sun J, et al., Oncogene 16:1467-73 (1998)
【非特許文献7】Molina MA, et al., Cancer Res 61:4744-9 (2001);
【非特許文献8】O'Dwyer ME and Druker BJ, Curr Opin Oncol 12:594-7 (2000)
【非特許文献9】Boon、Int J Cancer 54: 177-80 (1993)
【非特許文献10】Boon and van der Bruggen、J Exp Med 183: 725-9 (1996)
【非特許文献11】van der Bruggen et al.、Science 254: 1643-7 (1991)
【非特許文献12】Brichard et al.、J Exp Med 178: 489-95 (1993)
【非特許文献13】Kawakami et al.、J Exp Med 180: 347-52 (1994)
【非特許文献14】Shichijo et al.、J Exp Med 187: 277-88 (1998)
【非特許文献15】Chen et al.、Proc Natl Acad Sci USA 94: 1914-8 (1997)
【非特許文献16】Umano et al.、Brit J Cancer 84: 1052-7 (2001)
【非特許文献17】Tanaka et al.、Brit J Cancer 84: 94-9 (2001)
【非特許文献18】Nukaya et al.、Int J Cancer 80: 92-7 (1999)
【非特許文献19】Rosenberg et al.、Nature Med 4: 321-7 (1998)
【非特許文献20】Mukherji et al.、Proc Natl Acad Sci USA 92: 8078-82 (1995)
【非特許文献21】Hu et al.、Cancer Res 56: 2479-83 (1996)
【非特許文献22】Harris、J Natl Cancer Inst 88: 1442-55 (1996)
【非特許文献23】Butterfield et al.、Cancer Res 59: 3134-42 (1999)
【非特許文献24】Vissers et al.、Cancer Res 59: 5554-9 (1999)
【非特許文献25】van der Burg et al.、J Immunol 156: 3308-14 (1996)
【非特許文献26】Tanaka et al.、Cancer Res 57: 4465-8 (1997)
【非特許文献27】Fujie et al.、Int J Cancer 80: 169-72 (1999)
【非特許文献28】Kikuchi et al.、Int J Cancer 81: 459-66 (1999)
【非特許文献29】Oiso et al.、Int J Cancer 81: 387-94 (1999)
【非特許文献30】Kawano et al.、Cancer Res 60: 3550-8 (2000)
【非特許文献31】Nishizaka et al.、Cancer Res 60: 4830-7 (2000)
【非特許文献32】Tamura et al.、Jpn J Cancer Res 92: 762-7 (2001)
【非特許文献33】Date et al.、Tissue Antigens 47: 93-101 (1996)
【非特許文献34】Kondo et al.、J Immunol 155: 4307-12 (1995)
【非特許文献35】Kubo et al.、J Immunol 152: 3913-24 (1994)
【非特許文献36】Imanishi et al.、Proceeding of the eleventh International Hictocompatibility Workshop and Conference Oxford University Press、Oxford、1065 (1992)
【非特許文献37】Williams et al.、Tissue Antigens 49: 129 (1997)
【非特許文献38】Alexander-Miller et al.、Proc Natl Acad Sci USA 93: 4102-7 (1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような状況を鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、胃癌または結腸直腸癌においてその発現が顕著に上昇している遺伝子CXADRL1またはGCUD1を標的とした細胞傷害性T細胞活性を誘導することが可能な、癌ワクチンとして有効な新規ペプチド、及びこれを含有する腫瘍の治療および/または予防のための医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、胃癌または結腸直腸癌においてその発現が顕著に上昇している2つの遺伝子CXADRL1またはGCUD1を標的とした癌ワクチン療法の可能性に着目し、ワクチンとして有効に用いることができるペプチドの探索を試みた。その結果、アンカー残基の修飾によりHLAに対する結合親和性が増大したエピトープペプチドを見出すことに成功し、本発明を完成するに到った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(18)を提供する。
(1)以下(a)、(b)のいずれかに記載のペプチド;
(a)配列番号:3または6に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、および
(b)配列番号:3または6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入さされたペプチドであって、N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはイソロイシン、および/またはC末端のアミノ酸がロイシン、イソロイシンまたはバリンである、細胞傷害性T細胞の誘導活性を有するペプチド、
(2)(1)に記載のペプチドの少なくとも1種類を含む、腫瘍の治療および/または予防のための医薬組成物、
(3)腫瘍が胃癌または結腸直腸癌である(2)に記載の医薬組成物、
(4)(1)に記載のペプチドの少なくとも1種類を含む、腫瘍の増殖および/または転移を抑制するためのワクチン、
(5)HLA抗原がHLA−A02である患者に対して投与するための、(4)に記載のワクチン、
(6)腫瘍が胃癌または結腸直腸癌である(5)に記載のワクチン、
(7)(1)に記載のペプチドの少なくとも1種類とHLA抗原とを含む複合体を表面に提示しているエキソソーム、
(8)HLA抗原がHLA−A02である、(7)に記載のエキソソーム、
(9)HLA抗原がHLA−A0201である、(8)に記載のエキソソーム、
(10)(1)に記載のペプチドの少なくとも1種類を抗原提示能を有する細胞に接触させる工程を含む、細胞傷害性T細胞の誘導活性を有する抗原提示細胞の製造方法、
(11)(1)に記載のペプチドをコードする少なくとも1種類のポリヌクレオチドを抗原提示能を有する細胞に導入する工程を含む、細胞傷害性T細胞の誘導活性を有する抗原提示細胞の製造方法、
(12)(1)に記載のペプチドの少なくとも1種類を含む、細胞傷害性T細胞の誘導活性を有する抗原提示細胞の誘導剤、
(13)(1)に記載のペプチドの少なくとも1種類を抗原提示能を有する細胞に接触させる工程を含む、活性化された細胞傷害性T細胞の製造方法、
(14)(1)に記載のペプチドの少なくとも1種類を含む、活性化された細胞傷害性T細胞の誘導剤、
(15)HLA抗原と(1)に記載のペプチドとの複合体を提示してなる抗原提示細胞、
(16)(12)に記載の誘導剤によって誘導された、(15)に記載の抗原提示細胞、
(17)(1)に記載のペプチドによって誘導された、単離された細胞傷害性T細胞、
(18)(14)に記載の誘導剤によって誘導された、(17)に記載の細胞傷害性T細胞。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、胃癌または結腸直腸癌においてその発現が顕著に上昇している遺伝子CXADRL1またはGCUD1を標的とした細胞傷害性T細胞活性を誘導することが可能な、癌ワクチンとして有効となる新規ペプチド、及びこれを含有する腫瘍の治療および/または予防のための医薬組成物が提供された。癌細胞で大量に発現されると同時にその発現が癌細胞に限定される腫瘍関連抗原(TAA)は、免疫治療の標的として有望な候補になる。さらに、強力かつ特異的な抗腫瘍免疫応答を誘発する新たなTAAの同定は、様々な種類の癌におけるペプチドワクチン接種の臨床使用を促すと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者らは、配列番号:1(CXADRL1由来)に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドのアンカー修飾ポリペプチドが、野生型ペプチドよりも高い頻度で、かつより豊富に、天然ペプチド特異的CTLを誘発することを明らかにした。本発明者らは、アンカー修飾ポリペプチドがHLA-A0201分子に対する結合親和性を増加させ、さらに、腫瘍細胞によって提示される天然に処理された野生型エピトープペプチドを認識する特定の一部のTCRレパートリーを活性化することを見出した。したがって本発明は、CXADRL1由来のポリペプチドにおいてアンカー残基が修飾されたポリペプチドを提供する。これらアンカー修飾ポリペプチドの例として、配列番号:3(CXADRL1由来)に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドが挙げられる。
【0013】
本発明者らはまた、配列番号:2(GCUD1由来)に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドのアンカー修飾ポリペプチドもまた、野生型ペプチドよりも高い頻度で、かつより豊富に、天然ペプチド特異的CTLを誘発することを明らかにした。本発明者らは、アンカー修飾ポリペプチドがHLA-A0201分子に対する結合親和性を増加させ、さらに、腫瘍細胞によって提示される天然に処理された野生型エピトープペプチドを認識する特定の一部のTCRレパートリーを活性化することを見出した。したがって本発明は、GCUD1由来のポリペプチドにおいてアンカー残基が修飾されたポリペプチドを提供する。このようなアンカー修飾ポリペプチドの例としては、配列番号:6(GCUD1由来)に記載のアミノ酸配列が挙げられる。
【0014】
本発明において「アンカー残基」とは、HLAクラスIペプチド結合溝に結合するが、TCRとは接触しないエピトープのアミノ酸残基を意味する。エピトープペプチドの2位および9位がアンカー残基として知られており、HLA-A02抗原モチーフでは、2位におけるロイシン(Leu)およびイソロイシン(Ile)が、HLA-A*0201分子に対するペプチドの結合親和性を増強する最適なアンカー残基であると報告されている(Smith et al., Mol Immunol: 35 1033-43 (1998))。同様に、9位のバリン(Val)もまた、最適なアンカー残基として知られている。
【0015】
本発明はまた、配列番号:3または6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入さされたペプチドであって、N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはイソロイシン、および/またはC末端のアミノ酸がロイシン、イソロイシンまたはバリンである、細胞傷害性T細胞の誘導活性を有するペプチドを提供する。このようなペプチドの例としては、配列番号:4または5に記載のアミノ酸配列を有するペプチドが挙げられる。
【0016】
アミノ酸残基を改変する場合には、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異させることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、及び、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。これらの各グループ内のアミノ酸の置換を保存的置換と称す。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark, D. F. et al., Proc Natl Acad Sci USA (1984)81:5662-6; Zoller, M. J. and Smith, M., Nucleic Acids Res.(1982)10:6487-500; Wang, A. et al., Science(1984)224:1431-3; Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc Natl Acad Sci USA (1982)79:6409-13)。変異するアミノ酸数は特に制限されないが、通常、7個以内であり、好ましくは5個以内であり、さらに好ましくは3個以内(例えば、2個以内)である。アミノ酸配列の同一性は、例えば、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc Natl Acad Sci USA (1993) 90: 5873-7)によって決定することができる。
【0017】
本発明のペプチドは、得られた上記アミノ酸配列に基づいて、任意の位置からペプチドを合成して得ることができる。ペプチドの合成は、通常のペプチド化学において用いられる方法に準じて行うことが可能である。通常用いられる合成方法は、例えば、Peptide Synthesis, Interscience, New York, 1966; The Proteins, Vol 2, Academic Press Inc., New York, 1976; ペプチド合成、丸善(株)、1975; ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株)、1985; 医薬品の開発 続 第14巻・ペプチド合成、広川書店、1991等の文献や、国際公開WO99/67288号等の公報に記載されている。
【0018】
また本発明のペプチドは、公知の遺伝子工学的手法により合成することも可能である。遺伝子工学的な合成手法の一例としては、以下の方法が挙げられる。すなわち、目的のペプチドをコードするDNAを適当な宿主細胞に導入し、形質転換細胞を作製する。この形質転換細胞から産生されるペプチドを回収することにより、本発明のペプチドを得ることが可能である。
【0019】
また本発明のペプチドは、一度融合タンパク質として作製し、それを適切なプロテアーゼで分解することにより得ることも可能である。融合タンパク質を作製する方法は、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドと他のペプチドをコードするポリヌクレオチドをフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよく、当業者に公知の手法を用いることができる。本発明のペプチドとの融合に付される他のペプチドとしては、例えば、FLAG(Hopp, T. P. et al., BioTechnology (1988) 6, 1204-1210)、6個のHis(ヒスチジン)残基からなる6×His、10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc-mycの断片、VSV-GPの断片、p18HIVの断片、T7-tag、HSV-tag、E-tag、SV40T抗原の断片、lck tag、α-tubulinの断片、B-tag、Protein C の断片等の公知のペプチドを使用することができる。また本発明のペプチドは、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、HA(インフルエンザ凝集素)、イムノグロブリン定常領域、β−ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)等との融合タンパク質とすることも可能である。このようにして作製された融合タンパク質を適切なプロテアーゼで処理し、目的のペプチドを回収することにより、本発明のペプチドを得ることが出来る。ペプチドの回収は当業者に公知の方法、例えばアフィニティークロマトグラフィー等によって行うことが可能である。
【0020】
HLA抗原との結合は、細胞表面にHLA抗原を有する細胞、例えば樹状細胞を単離して、細胞へのペプチドの結合を通常行われる手法を用いて測定することができる。
【0021】
あるいはまた、インターネット上で利用可能となっているソフトウェア、例えばParker K. C., J. Immunol. 152, 163-75 (1994)に記載されているもの等を用いて、種々のペプチドとHLA抗原との結合親和性をin silicoで計算することもできる。尚、HLA抗原との結合親和性は、例えばParker, K.C., J. Immunol., 152, 163-75 (1994); Nukaya, I., Int. J. Cancer, 80, 92-7 (1999)等に記載のように測定することができる。
【0022】
HLA抗原としては、例えば日本人において多く発現しているといわれるA-02型等を用いることが有効な結果を得るために好ましく、更に好ましくはA-0201等のサブタイプである。臨床においては、治療を必要とする患者のHLA抗原の型を予め調べることにより、これとの結合親和性、あるいは抗原提示による細胞傷害性T細胞(CTL)誘導活性の高いペプチドを適宜選択することができる。
【0023】
上記の本発明のペプチドは、1種または2種以上の組み合わせとして、生体内でCTLを誘導し得る癌ワクチンとして使用することができる。本発明のペプチドの投与により、抗原提示細胞のHLA抗原に該ペプチドが高密度に提示され、提示されたペプチドとHLA抗原との複合体に対して特異的に反応するCTLが誘導され、標的細胞となるべき腫瘍細胞内の血管内皮細胞に対する攻撃力が高まる。あるいは、患者から樹状細胞を取り出して本発明のペプチドで刺激することにより、細胞表面に本発明のペプチドを拘束した抗原提示細胞が得られ、これを再度患者に投与することで患者においてCTLを誘導し、標的細胞に対する攻撃力を高めることができる。
【0024】
すなわち、本発明は、本発明のペプチドの少なくとも1種類を含む、腫瘍の治療および/または予防、もしくは腫瘍の増殖および/または転移を抑制するための医薬組成物を提供する。
【0025】
本発明において「腫瘍の増殖」とは、腫瘍細胞が無制限あるいは不可逆的に増え、周囲の細胞・組織と調和しない状態を指す。腫瘍細胞は、血管内皮に付着し周囲の組織に侵入することによって「転移」を引き起こす。転移した腫瘍細胞はそこに残存し、遠隔部位に独立した新たな腫瘍をつくる。このような腫瘍の転移により腫瘍細胞の増殖が再び始まり、正常な組織と器官の機能を破壊する。さらに、転移した腫瘍から他の転移が起こることもある。本発明において腫瘍の「治療」とは、このように発生した腫瘍細胞を消滅または減少させること、もしくは腫瘍の転移を抑制することを言う。さらに腫瘍の「予防」とは、腫瘍細胞の増殖や転移をあらかじめ抑制することを指す。本発明における腫瘍は、特に限定されるものではない。好ましい例として、例えば胃癌もしくは結腸直腸癌が、本発明の腫瘍に含まれる。
【0026】
本発明の医薬組成物は、本発明のペプチドを単独で医薬組成物とすることが出来る。もしくは、通常用いられる製剤学的方法によって製剤化されたものであっても良い。その場合、本発明のペプチドの他に、通常医薬に用いられる担体、賦形剤等を適宜含むことができ、特に限定されるものではない。本発明の医薬組成物の用途としては、例えば胃癌、結腸直腸癌、十二指腸癌、大腸癌、肺癌、乳癌、前立腺癌、脳腫瘍等の種々の腫瘍の治療および/または予防が挙げられるが、特に好ましくは胃癌または結腸直腸癌の治療および/または予防が挙げられる。
【0027】
本発明のペプチドを有効成分とする腫瘍の治療および/または予防のための医薬組成物は、細胞性免疫が効果的に成立するようにアジュバントと共に投与したり、他の抗癌剤等の有効成分と共に投与したり、また粒子状の剤型にして投与することができる。アジュバントとしては、文献(Johnson AG., Clin. Microbiol. Rev., 7:277-289, 1994)に記載のものなどが応用可能である。また、リポソーム製剤、直径数μmのビーズに結合させた粒子状の製剤、リピッドを結合させた製剤なども考えられる。
【0028】
投与方法としては、経口投与、皮内投与、皮下投与、静脈注射などが利用でき、全身投与、あるいは目的となる腫瘍の近傍に局所投与しても良い。本発明のペプチドの投与量は、治療すべき疾患、患者の年齢、体重、投与方法等により適宜調整することができるが、通常 0.001mg〜1000mg、好ましくは 0.01mg〜1OOmg、より好ましくはO.1mg〜1Omgであり、数日ないし数月に1回投与するのが好ましい。当業者であれば、適当な投与量を適宜選択することが可能である。
【0029】
あるいはまた、本発明は、本発明のペプチドとHLA抗原との複合体を表面に提示している、エキソソームと呼ばれる細胞内小胞を提供する。エキソソームの調製は、例えば特表平11-510507号、及び特表2000-512161号に詳細に記載されている方法を用いて行うことができるが、好ましくは治療または予防の対象となる患者から得た抗原提示細胞を用いて調製する。本発明のエキソソームは、上記本発明のペプチドと同様に癌ワクチンとして接種することができる。
【0030】
HLA抗原としては、治療および/または予防を必要とする患者のHLA抗原と同じ型のものであることが必要である。例えば、上述したように、日本人の場合にはHLA−A02、特にHLA−A0201とすると好適であることが多い。
【0031】
本発明はまた、本発明のペプチドを抗原提示能を有する細胞に接触させる工程を含む、細胞傷害性T細胞の誘導活性を有する抗原提示細胞の製造方法を提供する。本発明において「抗原提示能を有する細胞」とは、活性化されることによってT細胞やB細胞に対して抗原提示を行うことが可能な細胞を言う。例えば、抗原感作される前の樹状細胞、皮膚ランゲルハンス細胞などが、「抗原提示能を有する細胞」に含まれる。末梢血単球から誘導された抗原提示能を有する細胞は、in vitroまたはin vivoで本発明のペプチドと接触させることによって、抗原提示細胞となる。また本発明のペプチドを患者に投与すると、本発明のペプチドを拘束した抗原提示細胞が産生される。
【0032】
さらに本発明は、本発明のペプチドをコードする少なくとも1種類のポリヌクレオチドを抗原提示能を有する細胞に接触させる工程を含む、細胞傷害性T細胞の誘導活性を有する抗原提示細胞の製造方法を提供する。導入するポリヌクレオチドはDNAの形態であってもRNAの形態であっても良く、目的に応じ、適当なベクターに挿入して用いることができる。例えば、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター等のウイルスベクターや、カチオニックリポソーム、リガンドDNA複合体などの非ウイルスベクター等の中から、適宜選択可能である。また、キャリアーを用いずに、裸のプラスミドDNA(naked pDNA)として大容量の水溶液とともに導入する方法をとることも考えられる。
【0033】
ポリヌクレオチドの導入方法は特に限定されず、当分野において通常行われる方法を使用することが出来る。例えば、リポフェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム法等の種々の方法を挙げることが出来る。具体的には、例えばReeves ME, et al., Cancer Res., 56:5672, (1996); J. Immunol., 161:5607, (1998); J. Exp. Med., 184:465, (1996); 特表2000-509281号に記載のようにして行うことができる。ポリヌクレオチドを抗原提示細胞能を有する細胞に導入することによって、該ポリヌクレオチドは細胞中で転写、翻訳等の処理を受ける。産生したタンパク質は、MHCクラスIまたはクラスIIのプロセッシング及び提示経路を経て、部分ペプチドとして細胞表面に提示される。
【0034】
本発明はまた、本発明のペプチドを含む、細胞傷害性T細胞の誘導活性を有する抗原提示細胞の誘導剤を提供する。本発明の誘導剤を、抗原提示能を有する細胞にin vitroまたはin vivoで接触させることにより、細胞傷害性T細胞の誘導活性を有する抗原提示細胞が得られる。また本発明の誘導剤を患者に投与することにより、患者の体内で、細胞傷害性T細胞の誘導活性を有する抗原提示細胞を誘導することが出来る。本発明の誘導剤は、上述したように、通常用いられる製剤学的方法によって製剤化し、例えばワクチンとして投与することが可能である。
【0035】
本発明は更に、本発明のペプチドを抗原提示能を有する細胞に接触させる工程を含む、活性化された細胞傷害性T細胞の製造方法を提供する。「抗原提示能を有する細胞」の定義は上に述べた通りである。本発明のペプチドを抗原提示能を有する細胞に接触させると、抗原提示細胞が得られる。該抗原提示細胞は、T細胞前駆細胞を細胞傷害性T細胞へと活性化させる。また、細胞傷害性T細胞の活性をさらに増加させる。
【0036】
本発明はまた、本発明のペプチドを含む、活性化された細胞傷害性T細胞の誘導剤も提供する。本発明の誘導剤を患者に投与することによって、患者の体内でCTLが誘導され、腫瘍組織内の内皮細胞を標的とした免疫力が増強される。あるいは本発明の誘導剤と抗原提示能を有する細胞をin vitroで接触させ、CTLを誘導してから患者にもどすex vivoの治療に使用することも出来る。
【0037】
本発明は更に、本発明のペプチドによって誘導された、単離された細胞傷害性T細胞(CTL)を提供する。本発明において、目的とするCTLは、本発明のペプチドを提示する抗原提示細胞と、末梢血から誘導されたT細胞前駆細胞を接触させることにより得ることが出来る。末梢血からのT細胞前駆細胞の精製は、末梢血単核細胞(PBMC)から磁気ビーズやfluorescence activated cell sorter (FACS)を用いることにより行うことが出来る。また、抗原提示細胞との接触により活性化された細胞傷害性T細胞は、IL-2と放射線照射フィーダー細胞とともに培養することによって単離することが出来る。
【0038】
本発明のペプチドを提示した抗原提示細胞による刺激に基づいて誘導された細胞傷害性T細胞は、治療および/または予防の対象である患者由来のものであることが好ましい。CTLは単独で、または本発明のペプチド、エキソソーム等を含む他の医薬組成物と共に、抗腫瘍効果を目的として患者に投与することができる。CTLの投与方法としては、経口投与、皮内投与、皮下投与、静脈注射などが利用でき、全身投与、あるいは目的となる腫瘍の近傍に局所投与しても良い。投与量は、治療すべき疾患、患者の年齢、体重、投与方法等を考慮の上、適宜調整することができる。
【0039】
得られた細胞傷害性T細胞は、本発明のペプチド、好ましくは誘導に用いられたものと同じペプチドを提示する標的細胞に対して特異的に作用する。標的細胞は、CXADRL1またはGCUD1遺伝子を内在的に発現する細胞であっても、強制的にCXADRL1またはGCUD1遺伝子を発現させた細胞であっても良く、また、本発明のペプチドの刺激によって細胞表面に該ペプチドを提示する細胞であっても攻撃の対象となり得る。
【0040】
本発明は更に、HLA抗原と本発明のペプチドとの複合体を提示してなる抗原提示細胞を提供する。本発明のペプチド、あるいは本発明のペプチドをコードするヌクレオチドとの接触によって得られる該抗原提示細胞は、好ましくは治療および/または予防の対象である患者由来のものであり、単独、または、本発明のペプチド、エキソソーム、細胞傷害性T細胞等を含む、他の医薬組成物と共にワクチンとして投与することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0042】
〔実施例1〕アンカー修飾ペプチド(CXADRL1)によるCTLの誘導
本発明者らは以前に、CXADRL1-9mer-207 (配列番号:1)のエピトープペプチドを同定しているが、それとMHCクラスI分子との結合スコアは比較的低い。そこで、MHCクラスI分子との結合スコアがより大きなエピトープペプチドを得るために、CXADRL1-9mer-207から改変ペプチドを作製した。
【0043】
HLA-A*0201対立遺伝子結合ペプチドは、9merである場合が多い。このペプチドの2位および9位は、HLAクラスIペプチド結合溝のみに結合しTCRと接触しない主要なアンカー残基であると考えられている。Smith et al.(Smith et al., Mol Immunol: 35 1033-43 (1998))によって以前に報告されたHLA-A02抗原モチーフでは、ロイシン(Leu)およびイソロイシン(Ile)が、HLA-A*0201分子に対するペプチドの結合親和性を増強する、2位の最適なアンカー残基であることが判明した。同様に、9位のバリン(Val)もまた9merペプチドにとって好ましい。これらの知見に基づき、HLA-A*0201分子に対する結合親和性を増大させるために、アンカー残基として最適なHLA-A*0201対立遺伝子結合アミノ酸を含むアミノ酸置換を有する、CXADRL1-9mer-207の2つのアンカー修飾改変ペプチドを設計し合成した。
【0044】
合成したアンカー修飾改変ペプチドのうちHLA-A*0201分子に対する結合親和性が増加したペプチドの修飾アミノ酸配列および結合スコアを表1に示す。
【0045】
【表1】

*これらの改変ペプチドの結合スコアは、BIMASのエピトープ予測アルゴリズムにより算出した。
【0046】
これらのペプチドの結合スコアは、以前に記載されている通りにBIMASのエピトープ予測アルゴリズムにより算出したが、どちらの改変ペプチドも、野生型CXADRL1ペプチドよりも高いHLA-A*0201結合スコアを示した。これらのアンカー修飾ペプチドについて、CTLを誘発する能力、さらに誘導されたCTLが改変ペプチドのみならずT2上の親CXADRL1-9mer-207ペプチドも認識するかどうかを試験した。
【0047】
CXADRL1-9V (配列番号:3)およびCXADRL1-9L (配列番号:4)でCTLを誘導したところ、CXADRL1-9Vペプチドによる刺激により、図1A、Bに示すCTL株5およびCTLクローン69が得られた。これらのCTLは、T2細胞上の野生型CXADRL1-9mer-207ペプチドと交差反応し、また、図1Cに示す51Cr放出アッセイにより測定されるように、天然に処理されたCXADRL1由来ペプチドを内因的に提示する腫瘍細胞株SNU475を死滅させた。いくつかの公表された研究から、そのような改変ペプチドの有用性が示されている。MHCクラスI分子に対する高い親和性を有するペプチドは、低い親和性を有するペプチドよりも長い時間細胞表面上に提示される。したがって、MHCクラスIに対する親和性が増大したペプチドは、T細胞媒介性免疫応答を誘導する、より高い可能性を有すると考えられている(Keogh et al., J Immunol 167: 787-96 (2001);Tourdot et al., J Immunol 159: 2391-8 (1997);Sette et al., J Immunol 153: 5586-92 (1994))。
【0048】
Bimasの予測ソフトウェアにより算出されたCXADRL1-9mer-207 (配列番号:1)の結合スコアは、ウイルス抗原または他のTAAと比較して比較的低く、11.4であった(Bednarek et al., J Immunol 147: 4047-53 (1991);Sette et al., J Immunol 153: 5586-92 (1994))。天然エピトープペプチドの免疫原性を増大させるため、2位または9位のアンカー残基をHLA-A*0201にとって最適なアミノ酸で置換した改変ペプチドを設計し合成した(Vierboom et al., J Immunother 21: 399-408 (1998);Irvine et al., Cancer Res 59: 2536-40 (1999);Dyall et al., J Exp Med 188: 1553-61 (1998);Muller et al., J Immunol 147: 1392-97 (1991))。
【0049】
結合スコア49を有するCXADRL1-9V (配列番号:3)に対して産生されたCTLは、CXADRL1-9VペプチドのみならずT2細胞上の親ペプチドCXADRL1-9mer-207にも応答した。さらに、GCUD1-9Vペプチドにより誘導されたこれらのCTLは、腫瘍細胞によって天然に処理された天然ペプチドもまた認識した。
【0050】
しかし、最近の多くの研究から、MHCクラスIに対する親和性の増大は、必ずしもペプチドの免疫原性の増大またはCTLを刺激する能力と相関しないことが示されている(Clay et al., J Immunol 162: 1749-55 (1999);Dionne et al., Cancer Immunol Immunother 52: 199-206 (2003);Slansky et al., Immunity, 13: 529-38 (2000);Sloan-Lancaster et al., Annu Rev Immunol 14: 1-27 (1996);Yang et al., J Immunol 169: 531-9 (2002);Trojan et al, Cancer Res 61: 4761-5 (2001);Dionne et al., Cancer Immunol Immunother 53:307-14 (2004))。ペプチドリガンドの改変により、格段に異なる表現型のT細胞をもたらし、場合によっては、T細胞活性化またはTCRシグナル伝達の過程で部分アゴニストとしてまたはアンタゴニストとしてさえも作用するペプチドが生じ得る。改変ペプチドで刺激したCTLが、インビボにおいて天然ペプチドにより誘発されたCTLよりも効率的にエフェクターとして働くかどうかは判断することができない。しかし、本実験では、改変ペプチドCXADRL1-9Vが、腫瘍細胞によって提示される天然に処理された野生型エピトープペプチドを認識する特定の一部のTCRレパートリーを活性化することが明らかになった。さらに重要な点は、この改変ペプチドが、野生型ペプチドよりも高い頻度でかつより豊富に天然ペプチド特異的CTLを誘発し得た点である。この改変ペプチドによる刺激により、4個体のうち3個体で天然ペプチド特異的CTLが産生されたのに対して、野生型ペプチドは健常人1人においてのみCTLを誘導した。CTLのこの誘導の改善は臨床用途におけるいくつかの利点と関係し、これにより臨床試験における選択が提供される。すなわち、アンカー修飾ペプチドの可能性が実証された。
【0051】
〔実施例2〕アンカー修飾ペプチド(GCUD1)によるCTLの誘導
本発明者らは既にGCUD1-196 (配列番号:2)のエピトープペプチドを同定しているが、それとMHCクラスI分子との結合スコアは比較的低い。そこで、MHCクラスI分子との結合スコアがより大きなエピトープペプチドを得るため、GCUD1-196ペプチドから改変ペプチドを作製した。
【0052】
上記のように、HLA-A*0201対立遺伝子結合ペプチドは9merである場合が多く、その2位および9位のアミノ酸は、HLAクラスIペプチド結合溝のみに結合しTCRと接触しない主要なアンカー残基であると考えられている。Smith et al.(Smith et al., Mol Immunol: 35 1033-43 (1998))によって以前に報告されたHLA-A02抗原モチーフでは、ロイシン(Leu)およびイソロイシン(Ile)が、HLA-A*0201分子に対するペプチドの結合親和性を増強する、2位の最適なアンカー残基であることが判明した。同様に、9位のバリン(Val)もまた9merペプチドにとって好ましかった。
【0053】
したがって、HLA-A*0201分子に対する結合親和性を増大させるために、アンカー残基として最適なHLA-A*0201対立遺伝子結合アミノ酸を含むアミノ酸置換を有する、GCUD1-196の2つのアンカー修飾改変ペプチドを設計し合成した。
【0054】
合成したアンカー修飾改変ペプチドのうちHLA-A*0201分子に対する結合親和性が増加したペプチドの修飾アミノ酸配列および結合スコアを表2に示す。
【0055】
【表2】

*N.S.:アミノ酸配列が疎水性であるため、合成されなかった。
*結合スコア:高いスコアは、MHCクラスI分子に対する親和性が高いことを示す。これらの改変ペプチドの結合スコアは、BIMASのエピトープ予測アルゴリズムにより算出した。
【0056】
これらのペプチドの結合スコアは、以前に記載されている通りにBIMASのエピトープ予測アルゴリズムに基づき算出したが、3つの改変ペプチドすべてが、野生型GCUD1ペプチドよりも高いHLA-A*0201結合スコアを獲得した。これらのアンカー修飾ペプチドについて、CTLを誘発する能力、さらに誘導されたCTLが改変ペプチドに加えてT2上の親GCUD1-196ペプチドも認識するかどうかを試験した。GCUD1-9V (配列番号:6)およびGCUD1-2L (配列番号:5)でCTLを誘導したところ、GCUD1-9Vペプチドによる刺激により、図2Aおよび2Bに示すCTL株3およびCTLクローン16が得られた。これらのCTLは、T2細胞上の野生型GCUD1-196ペプチドと交差反応し、また、図2Cに示す51Cr放出アッセイにより測定されるように、天然に処理されたGCUD1-196ペプチドを内因的に提示する腫瘍細胞株SNU475を死滅させた。
【0057】
特に、GCUD1-9Vペプチド(配列番号:6)により、4名のHLA-A*0201陽性個体のうち3名でGCUD1-196特異的CTLが産生されたのに対して、GCUD1-196をCTL誘導に用いた場合には、4個体のうち1個体でGCUD1-196野生型ペプチド特異的応答が認められた。
【0058】
Bimasの予測ソフトウェアにより算出されたGCUD1-196 (配列番号:2)の結合スコアは、ウイルス抗原または他のTAAと比較して比較的低く、21.6であった(Bednarek et al., J Immunol 147: 4047-53 (1991);Sette et al., J Immunol 153: 5586-92 (1994))。天然エピトープペプチドの免疫原性を増大させるため、2位または9位において、HLA-A*0201にとって最適なアミノ酸への置換であるアンカー残基修飾を有する改変ペプチドを設計し合成した(Vierboom et al., J Immunother 21: 399-408 (1998);Irvine et al., Cancer Res 59: 2536-40 (1999);Dyall et al., J Exp Med 188: 1553-61 (1998);Muller et al., J Immunol 147: 1392-97 (1991))。
【0059】
結合スコア70.3を有するGCUD1-9Vペプチド(配列番号:6)に対して産生されたCTLは、GCUD1-9VペプチドのみならずT2細胞上の親の野生型ペプチドGCUD1-196にも応答した。さらに、GCUD1-9Vペプチドにより誘導されたこれらのCTLは、腫瘍細胞によって天然に処理された天然ペプチドもまた認識した。
【0060】
しかし上記のように、最近の多くの研究から、MHCクラスIに対する親和性の増大は、必ずしもペプチドの免疫原性の増大またはCTLを刺激する能力と相関しないことが示されている(Clay et al., J Immunol 162: 1749-55 (1999);Dionne et al., Cancer Immunol Immunother 52: 199-206 (2003);Slansky et al., Immunity, 13: 529-38 (2000);Sloan-Lancaster and Allen, Annu Rev Immunol 14: 1-27 (1996);Yang et al., J Immunol 169: 531-9 (2002);Trojan et al, Cancer Res, 61: 4761-5 (2001);Dionne et al., Cancer Immunol Immunother 53:307-14 (2004))。また、ペプチドリガンドの改変により、格段に異なる表現型のT細胞をもたらし、場合によっては、T細胞活性化またはTCRシグナル伝達の過程で部分アゴニストとしてまたはアンタゴニストとしてさえも作用するペプチドが生じ得る。したがって、改変ペプチドで刺激したCTLが、インビボにおいて天然ペプチドにより誘発されたCTLよりも効率的にエフェクターとして働くかどうかは判断することができない。しかし、本実験では、改変ペプチドGCUD1-9Vが、腫瘍細胞によって提示される天然に処理された野生型エピトープペプチドを認識する特定の一部のTCRレパートリーを活性化することが明らかになった。さらに重要な点は、この改変ペプチドが、野生型ペプチドよりも高い頻度でかつより豊富に天然ペプチド特異的CTLを誘発した点である。この改変ペプチドによる刺激により、4個体のうち3個体で天然ペプチド特異的CTLが産生されたのに対して、野生型ペプチドは健常人1人においてのみCTLを誘導した。この証拠は臨床用途におけるいくつかの利点と関係し、本発明によって臨床試験における選択が提供される。すなわち、アンカー修飾ペプチドの可能性が提供された。
【0061】
GCUD1-196 (配列番号:2)およびGCUD1-9V (配列番号:6)のアミノ酸配列を、BLAST相同性解析に供した。高い相同性を有する、任意の他の既知分子に由来するペプチドは検出されなかった。これらの結果は、同定されたペプチドがGCUD-1特異的であり、他の既知分子に対する交差反応性を有する可能性がほとんどないという事実を支持するものである。このことはまた、望ましくない副作用を起こさずに、臨床用途においてこれらのペプチドを使用できる可能性を支持するものである。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、アンカー修飾ペプチドCXADRL1-9Vで誘導したCTLの細胞障害活性を示す。CXADRL1-9Vで誘導したCTL株5 (A)およびCTLクローン69 (B)に関して、ペプチドパルスしたT2細胞(HLA-A*0201陽性細胞株)および腫瘍細胞株に対する細胞障害活性を、4h 51Cr放出アッセイにより試験した。CTL株5およびCTLクローン69のいずれも、CXADRL1-9Vのみならず親ペプチドCXADRL1-9mer-207を、同等かまたはCTLクローン69においては低いE/T比でより強く認識し、またHLA-A*0201分子上に天然に処理された野生型ペプチドCXADRL1-9mer-207を提示するSNU475細胞を死滅させた(C)。
【図2】図2は、アンカー修飾ペプチドGCUD1-9Vで誘導したCTLの細胞障害活性を示す。GCUD1-9Vで誘導したCTL株3 (A)およびCTLクローン16 (B)に関して、ペプチドパルスしたT2細胞(HLA-A*0201陽性細胞株)および腫瘍細胞株に対する細胞障害活性を、4h 51Cr放出アッセイにより試験した。CTL株3およびCTLクローン16のいずれも、GCUD1-9Vのみならず親ペプチドGCUD1-196を、同等かまたはCTLクローン16においては低いE/T比でより強く認識し、またHLA-A*0201分子上に天然に処理された野生型ペプチドGCUD1-196を提示するSNU475細胞を死滅させた(C)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下(a)、(b)のいずれかに記載のペプチド;
(a)配列番号:3または6に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、および
(b)配列番号:3または6に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入さされたペプチドであって、N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはイソロイシン、および/またはC末端のアミノ酸がロイシン、イソロイシンまたはバリンである、細胞傷害性T細胞の誘導活性を有するペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のペプチドの少なくとも1種類を含む、腫瘍の治療および/または予防のための医薬組成物。
【請求項3】
腫瘍が胃癌または結腸直腸癌である請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
請求項1に記載のペプチドの少なくとも1種類を含む、腫瘍の増殖および/または転移を抑制するためのワクチン。
【請求項5】
HLA抗原がHLA−A02である患者に対して投与するための、請求項4に記載のワクチン。
【請求項6】
腫瘍が胃癌または結腸直腸癌である請求項5に記載のワクチン。
【請求項7】
請求項1に記載のペプチドの少なくとも1種類とHLA抗原とを含む複合体を表面に提示しているエキソソーム。
【請求項8】
HLA抗原がHLA−A02である、請求項7に記載のエキソソーム。
【請求項9】
HLA抗原がHLA−A0201である、請求項8に記載のエキソソーム。
【請求項10】
請求項1に記載のペプチドの少なくとも1種類を抗原提示能を有する細胞に接触させる工程を含む、細胞傷害性T細胞の誘導活性を有する抗原提示細胞の製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載のペプチドをコードする少なくとも1種類のポリヌクレオチドを抗原提示能を有する細胞に導入する工程を含む、細胞傷害性T細胞の誘導活性を有する抗原提示細胞の製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載のペプチドの少なくとも1種類を含む、細胞傷害性T細胞の誘導活性を有する抗原提示細胞の誘導剤。
【請求項13】
請求項1に記載のペプチドの少なくとも1種類を抗原提示能を有する細胞に接触させる工程を含む、活性化された細胞傷害性T細胞の製造方法。
【請求項14】
請求項1に記載のペプチドの少なくとも1種類を含む、活性化された細胞傷害性T細胞の誘導剤。
【請求項15】
HLA抗原と請求項1に記載のペプチドとの複合体を提示してなる抗原提示細胞。
【請求項16】
請求項12に記載の誘導剤によって誘導された、請求項15に記載の抗原提示細胞。
【請求項17】
請求項1に記載のペプチドによって誘導された、単離された細胞傷害性T細胞。
【請求項18】
請求項14に記載の誘導剤によって誘導された、請求項17に記載の細胞傷害性T細胞。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−52216(P2006−52216A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−211289(P2005−211289)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】