説明

CZTS系薄膜太陽電池の光吸収層の作製方法

【課題】CZTS系薄膜太陽電池の光吸収層として、結晶品質の良いCuZnSnS(CuZnSnSe、CuZnSn(SSe))を形成させ、これにより変換効率の高いCZTS系薄膜太陽電池を提供する。
【解決手段】銅(Cu)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、及び、硫黄(S)又はセレン(Se)少なくともいずれか一方から構成されるカルコゲン元素(α)からなる化合物半導体を用いたCZTS系薄膜太陽電池の光吸収層の作製方法であって、ガラス基板11上に製膜された金属裏面電極層12上に、ZnSnα膜133を製膜する工程と、ZnSnα膜133上にCu膜134を製膜し、ZnSnα膜133とCu膜134からなるプリカーサ膜13aを形成する工程と、プリカーサ膜13aを、カルコゲン元素(α)を有する雰囲気中で熱処理し、CZTS系光吸収層13を形成する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CZTS系薄膜太陽電池において、結晶品質の良い光吸収層を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光吸収層に化合物系半導体を用いた薄膜太陽電池として、CZTS系薄膜太陽電池とよばれる、光吸収層に銅(Cu)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、及び、硫黄(S)又はセレン(Se)のいずれかのカルコゲン元素からなる化合物系半導体を用いた薄膜太陽電池が注目されている。
【0003】
このCZTS系薄膜太陽電池は、CIS(CIGS)系薄膜太陽電池とは異なり、インジウム(In)等の希少元素を用いないことから将来的な実用が期待されている。
しかしながら、現在のところ、CIS(CIGS)系薄膜太陽電池のような高い変換効率は得られておらず、さらなる研究開発が必要とされている。
【0004】
この点、特許文献1では、従来のCZTS系薄膜太陽電池を構成するCZTS系光吸収層作製方法として、Cu、Zn、及びSnの積層膜となるプリカーサ膜を、スパッタ法等により電極層上に形成し、これを硫化水素(HS)雰囲気中で熱処理する方法が開示されている。
【0005】
この従来の作製方法は、詳しくは、図5に示されるように、まず、ガラス基板21上に製膜された金属裏面電極層22上に、ZnS膜(Zn膜)231、Sn膜(SnS膜)232、及びCu膜233を積層したプリカーサ膜23aを製膜し、プリカーサ膜23aが金属裏面電極層22上に製膜された太陽電池半製品1Hを得る。そして、この太陽電池半製品1Hのプリカーサ膜23aを硫化することにより、金属裏面電極層22上にCZTS系光吸収層23が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−135316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような従来の作製方法では、硫化によってCuZnSnSが生成する反応と並行して、Cu、Sn、Zn夫々が硫黄(S)と結合してCuS、ZnS、SnSといった中間生成物が生成する反応や、これらの中間生成物同士が結合したCuZnS、CuSnS等が生成する反応が進んでしまい、CuZnSnSの生成反応の制御が困難であった。
その結果、結晶品質の良いCuZnSnSを形成することができず、CZTS系薄膜太陽電池そのものの変換効率も満足できるものではなかった。
【0008】
そこで本発明は、CZTS系薄膜太陽電池の光吸収層として、結晶品質の良いCuZnSnS(CuZnSnSe、CuZnSn(SSe))を形成させ、これにより変換効率の高いCZTS系薄膜太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係るCZTS系薄膜太陽電池の光吸収層の作製方法は、光吸収層に、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、及び、硫黄(S)又はセレン(Se)の少なくともいずれか一方から構成されるカルコゲン元素(α)からなる化合物半導体を用いたCZTS系薄膜太陽電池の光吸収層の作製方法であって、ガラス基板上に製膜された金属裏面電極層上に、ZnSnα化合物膜を製膜する工程と、上記ZnSnα化合物膜上にCu膜を製膜し、ZnSnα化合物膜とCu膜からなるプリカーサ膜を形成する工程と、上記プリカーサ膜を、カルコゲン元素(α)を有する雰囲気中で熱処理し、光吸収層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
ここで、「α」は、硫黄(S)又はセレン(Se)の少なくともいずれか一方からなるカルコゲン元素を示す。
また、「x」は、組成式中の「α」の原子数を示し、0<X≦2を満たす自然数である。
この「α」と「x」を用いて示される「ZnSnα」は、「ZnSnS」、「ZnSnSe」、又は「ZnSn(SeS)」のいずれかを表す。
【0010】
また、上記ZnSnα化合物膜を製膜する工程は、上記ガラス基板上に、Zn又はZnα化合物からなるZn系薄膜を製膜する工程と、上記Zn系薄膜上に、Sn又はSnα化合物からなるSn系薄膜を製膜する工程と、上記Zn系薄膜とSn系薄膜からなる積層膜を、カルコゲン元素(α)を有する雰囲気中で熱処理し、上記ZnSnα膜を形成する工程と、からなるものとしてもよい。
【0011】
また、上記Zn系薄膜は、Znα化合物からなり、上記Zn系薄膜を製膜する工程が、Zn膜を製膜する工程と、上記Zn膜を、カルコゲン元素(α)を有する雰囲気中で熱処理し、上記Znα化合物からなるZn系薄膜を形成する工程と、からなるものとしてもよい。
【0012】
また、上記ZnSnα化合物膜を製膜する工程は、上記ガラス基板上に、Sn又はSnα化合物からなるSn系薄膜を製膜する工程と、上記Zn系薄膜上に、Zn又はZnα化合物からなるZn系薄膜を製膜する工程と、上記Sn系薄膜とZn系薄膜からなる積層膜を、カルコゲン元素(α)を有する雰囲気中で熱処理し、上記ZnSnα膜を形成する工程と、からなるものとしてもよい。
【0013】
また、上記Sn系薄膜は、Snα化合物からなり、上記Sn系薄膜を製膜する工程が、Sn膜を製膜する工程と、上記Sn膜を、カルコゲン元素(α)を有する雰囲気中で熱処理し、上記Snα化合物からなるSn系薄膜を形成する工程と、からなるものとしてもよい。
【0014】
また、上記ガラス基板上に製膜された金属裏面電極層上に、ZnSnα化合物膜を製膜する工程は、ZnSnα化合物をターゲットとしたスパッタリングにより、上記金属裏面電極層上に上記ZnSnα化合物を製膜するものとしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、CZTS系薄膜太陽電池の光吸収層として、結晶品質の良いCuZnSnS(CuZnSnSe、CuZnSn(SSe))を形成させ、これにより変換効率の高いCZTS系薄膜太陽電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るCZTS系薄膜太陽電池の光吸収層の作製方法により作製したCZTS系薄膜太陽電池の積層構造を示す図である。
【図2】本実施形態に係るCZTS系薄膜太陽電池の光吸収層の作製方法において、ガラス基板上に金属裏面電極層を積層させた状態から、金属裏面電極層上にZnSnα膜を積層させるまでの工程を説明する模式図である。
【図3】本実施形態に係るCZTS系薄膜太陽電池の光吸収層の作製方法において、金属裏面電極層上にZnSnα膜を積層させた状態から、金属裏面電極層上にCZTS系光吸収層を積層させるまでの工程を説明する模式図である。
【図4】本発明の別の実施形態に係るCZTS系薄膜太陽電池の光吸収層の作製方法において、ガラス基板上に金属裏面電極層を積層させた状態から、金属裏面電極層上にZnSnα膜を積層させるまでの工程を説明する模式図である。
【図5】従来のCZTS系薄膜太陽電池の作製方法の工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係るCZTS系薄膜太陽電池の光吸収層(以下、「CZTS系光吸収層」という)の作製方法について、図を参照して説明する。
なお、本実施形態において、CZTS系光吸収層とは、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、及び、硫黄(S)又はセレン(Se)のいずれかのカルコゲン元素からなる化合物系半導体をいう。また、CZTS系薄膜太陽電池とは、このCZTS系光吸収層を積層した化合物系薄膜太陽電池をいう。
【0018】
まず、本実施形態に係るCZTS系光吸収層を積層したCZTS系薄膜太陽電池の積層構造の一例を図1により説明する。
CZTS系薄膜太陽電池1は、ガラス基板11上に、金属裏面電極層12、CZTS系光吸収層13、高抵抗バッファ層14、透明導電膜15を順次積層したpnヘテロ接合デバイスである。
【0019】
ガラス基板11は例えば、その上に金属裏面電極層12、CZTS系光吸収層13、高抵抗バッファ層14、及び透明導電膜15を積層させる基板であり、青板ガラス等のガラス基板、ステンレス等の金属基板や、ポリイミド膜等の樹脂基板により構成される。
【0020】
金属裏面電極層12は、膜厚200〜500nmのモリブデン(Mo)からなる薄膜であって、ガラス基板11上にDCスパッタ法で製膜される。なお、金属裏面電極層12には、モリブデン(Mo)のほかに、チタン(Ti)やクロム(Cr)など、高耐腐食性を備え、高融点の金属を用いることができる。
【0021】
CZTS系光吸収層13は、入射光を吸収してキャリアを発生する、p型の導電性を有する化合物半導体薄膜である。
その作製方法の詳細は後述する。
【0022】
高抵抗バッファ層14は、膜厚数nm〜200nmの半導体薄膜である。この高抵抗バッファ層14は、CdS、Zn(O,S,OH)、ZnS、ZnO等のII−VI族化合物半導体薄膜、これらの混晶、In、In、In(OH)等のIn系化合物半導体薄膜などにより構成され、化学的溶液生長法(CBD:Chemical Bath Deposition)や、有機金属化学的気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)等により、CZTS系光吸収層上に製膜される。
【0023】
透明導電膜15は、導電型がn型の透明導電膜であり、酸化亜鉛(ZnO)やITO(Indium Tin Oxide)からなる、膜厚0.5〜2.5μmの半導体薄膜である。この透明導電膜15は、MOCVD法やスパッタ等により、高抵抗バッファ層14上に製膜される。
【0024】
なお、本実施形態の説明においては、上記の通り、ガラス基板11上に、金属裏面電極層12、CZTS系光吸収層13、高抵抗バッファ層14、透明導電膜15が順次積層されたサブストレート構造からなるCZTS系薄膜太陽電池1を例に挙げたが、本発明はCZTS系光吸収層13の作製方法に係り、CZTS系薄膜太陽電池1を構成する各層の積層構造がこれに限定されることはない。
【実施例1】
【0025】
次に、本発明の第一の実施形態に係るCZTS系光吸収層の作製方法について説明する。
まず図2により、CZTS系光吸収層の作製工程のうち、ガラス基板11上に金属裏面電極層12が製膜された状態から、金属裏面電極層12上にZnSnα膜133を積層させるまでの工程を説明する。
なお、以下の本実施形態において、「α」は硫黄(S)又はセレン(Se)の少なくともいずれか一方から構成されるカルコゲン元素を示し、「x」は組成式における原子の個数を示し、0<x≦2を満たす自然数である。
【0026】
(Step1a):ガラス基板11上に金属裏面電極層12が製膜された太陽電池半製品1Aにおいて、DCスパッタにより、金属裏面電極層12上にZn膜131aを製膜し、金属裏面電極層12上にZn膜131aが積層した太陽電池半製品1Bを得る。
【0027】
(Step2a):太陽電池半製品1BのZn膜131aを硫化又はセレン化することにより、Znα膜131を形成させ、金属裏面電極層12上にZnα膜131が積層した太陽電池半製品1Cを得る。
なお、Znα膜131は、硫化を行った場合はZnS膜であり、セレン化を行った場合はZnSe膜である。
【0028】
ここで、硫化又はセレン化は、石英チャンバ等の炉体内に太陽電池半製品1Bを入れ、ヒータで加熱して熱処理を行うと共に、これを硫黄源又はセレン源と接触させることにより行われる。
硫化又はセレン化は、自然対流方式や強制対流方式等を用いることができるが、特にその方式は限定されない。
【0029】
硫化又はセレン化の条件として、熱処理は例えば、550℃で60分間行う。
硫黄源には例えば、窒素ガス(N)等の不活性ガスにより、常温におけるモル比濃度を15%に希釈した硫化水素ガス(HS)を用いる。
また、セレン源には例えば、窒素ガス(N)等の不活性ガスにより、常温におけるモル比濃度を15%に希釈したセレン化水素ガス(HSe)を用いる。
【0030】
なお、太陽電池半製品1Aから太陽電池半製品1Cに至る工程は、Zn膜131aを製膜し、これを硫化又はセレン化するという二段階の工程によらず、Znαをターゲットとしたスパッタリングによって、一工程で行うことも可能である(Step1a’)。
【0031】
(Step3a):DCスパッタにより、太陽電池半製品1CのZnα膜131上にSn膜(又はSnα膜)132を製膜し、金属裏面電極層12上に順次、Znα膜131、Sn膜(Snα膜)132が積層した太陽電池半製品1Dを得る。
なお、Snα膜132は、SnS膜又はSnSe膜のいずれかを示す。
【0032】
(Step4a):太陽電池半製品1DのZnα膜131及びSn膜(Snα膜)132を硫化又はセレン化することにより、ZnSnα膜133を形成させ、金属裏面電極層12上にZnSnα膜133が積層した太陽電池半製品1Eを得る。
なお、ZnSnα膜133は、ZnSnS膜、ZnSnSe膜、又はZnSn(SeS)膜のいずれかを示す。
また、硫化又はセレン化は、Step2aにおけるのと同様の例によって行うことができる。
【0033】
次に図3により、本実施形態に係るCZTS系光吸収層の作製工程のうち、金属裏面電極層12上にZnSnα膜133を積層させた状態から、金属裏面電極層12上にCZTS系光吸収層13を積層させるまでの工程を説明する。
【0034】
(Step5):金属裏面電極層12上にZnSnα膜133が製膜された太陽電池半製品1Eにおいて、DCスパッタにより、金属裏面電極層12上にCu膜134を製膜し、ZnSnα膜133とCu膜134からなるプリカーサ膜13aを積層した太陽電池半製品1Fを得る。
【0035】
(Step6):太陽電池半製品1Fのプリカーサ膜13aを硫化又はセレン化することにより、CZTS系光吸収層13を形成させ、金属裏面電極層12上にCZTS系光吸収層13が積層した太陽電池半製品1Gを得る。
【0036】
ここで形成されるCZTS系光吸収層13は、CuZnSnS、CuZnSnSe、CuZnSn(SSe)のいずれかであり、硫化又はセレン化を行うStep2a、Step4a、Step6の全ての工程が硫化であり、製膜されるZnα膜131とSnα膜132として硫化物が用いられた場合には、CZTS系光吸収層13としてCuZnSnSが形成される。
また、Step2a、Step4a、Step6の全ての工程がセレン化であり、製膜されるZnα膜131とSnα膜132としてセレン化物が用いられた場合には、CZTS系光吸収層としてCuZnSnSeが形成される。
さらに、Step2a、Step4a、Step6の工程において硫化とセレン化が並存したり、製膜されるZnα膜131とSnα膜132として一方に硫化物が用いられ、他方にセレン化物が用いられた場合などにおいては、CZTS系光吸収層としてCuZnSn(SSe)が形成される。
なお、この工程における硫化又はセレン化も、Step2aにおけるのと同様の例によって行うことができる。
【0037】
以上の通り、本実施形態に係るCZTS系光吸収層の作製方法は、CZTS系光吸収層を形成させる最終的な工程において、Cu、Zn、Snの3種類の金属が個別に存在する状態から、一度の熱処理によってCuZnSnS(CuZnSnSe、CuZnSn(SSe))を形成するのではなく、一旦ZnSnα化合物を形成し、その後に、CuとZnSnα化合物とを、熱処理によって反応させる2段階の処理を経る。これにより、CuS、ZnS、SnSといった中間生成物の生成や、中間生成物同志からなるCuZnS、CuSnS等の生成が抑えられるなど、CuZnSnS(CuZnSnSe、CuZnSn(SSe))の生成反応を制御し易く、結晶品質のよいCZTS系光吸収層が形成される。
以上により作製された太陽電池半製品1Gは、高抵抗バッファ層や透明導電膜を積層させることで、発電素子として完成したCZTS系薄膜太陽電池を構成する。
【0038】
本実施形態により作製したCZTS系光吸収層の結晶品質を示すデータとして、下記表1を挙げる。
この表1は、従来の作製方法により作製したCZTS系光吸収層を積層させたCZTS系薄膜太陽電池と、本実施形態により作製したCZTS系光吸収層を積層させたCZTS系薄膜太陽電池の変換効率を対比したものであり、従来例として3つ、本実施形態(実施例)として2つのサンプルを示している。なお、従来例と実施例との違いは、CZTS系光吸収層の製造方法にあり、CZTS系光吸収層以外の構成については、従来例も実施例も同様の構成である。具体的に従来例のCZTS系光吸収層の製造方法を説明すると、まず、金属裏面電極層12上に、Zn、Sn、Cuをこの順に積層してプリカーサ膜を製膜し、このプリカーサ膜を硫化することによって、CZTS系光吸収層を製膜した。なお、硫化の条件は、実施例1において説明した条件と同様である。
【0039】
【表1】

【0040】
従来例との対比によれば、従来例では平均0.78%の変換効率であるのに対し、本実施形態(実施例)では平均1.15%の変換効率を示しており、本実施形態に係るCZTS系光吸収層の作製方法の有効性が実証されている。
【実施例2】
【0041】
本発明の第一の実施形態では、ZnSnα膜133の形成過程において、金属裏面電極層12上に順次、Znα膜131、Sn膜(Snα膜)132を積層させたが、本発明の第二の実施形態として、金属裏面電極層12上に順次、Snα膜、Zn膜(Znα膜)を積層させるものとしてもよく、この場合の工程を図4に示し、以下に説明する。
【0042】
(Step1b):ガラス基板11上に金属裏面電極層12が製膜された太陽電池半製品1Aにおいて、DCスパッタにより、金属裏面電極層12上にSn膜135aを製膜し、金属裏面電極層12上にSn膜135aが積層した太陽電池半製品1B’を得る。
【0043】
(Step2b):太陽電池半製品1BのSn膜135aを硫化又はセレン化することにより、Snα膜135を形成させ、金属裏面電極層12上にSnα膜135が積層した太陽電池半製品1C’を得る。
なお、Snα膜135は、硫化を行った場合はSnS膜であり、セレン化を行った場合はSnSe膜である。
また、硫化又はセレン化は、第一の実施形態におけるStep2aの例と同様に行うことができる。
【0044】
なお、太陽電池半製品1Aから太陽電池半製品1C’に至る工程は、Sn膜135aを製膜し、これを硫化又はセレン化するという二段階の工程によらず、Snαをターゲットとしたスパッタリングによって、一工程で行うことも可能である(Step1b’)。
【0045】
(Step3b):DCスパッタにより、太陽電池半製品1C’のSnα膜135上にZn膜(又はZnα膜)136を製膜し、金属裏面電極層12上に順次、Snα膜131、Zn膜(Znα膜)136が積層した太陽電池半製品1D’を得る。
なお、Znα膜136は、ZnS膜又はZnSe膜のいずれかを示す。
【0046】
(Step4b):太陽電池半製品1D’のSnα膜135及びZn膜(Znα膜)136を硫化又はセレン化することにより、ZnSnα膜133を形成させ、金属裏面電極層12上にZnSnα膜133が積層した太陽電池半製品1Eを得る。
なお、ZnSnα膜133は、ZnSnS膜、ZnSnSe膜、又はZnSn(SeS)膜のいずれかを示す。
また、硫化又はセレン化は、Step2aにおけるのと同様の例によって行うことができる。
以上により、太陽電池製品1Eが得られると、第一の実施形態におけるのと同様の工程を経ることにより、金属裏面電極層12上にCZTS系光吸収層13が積層した太陽電池半製品1Gが得られる。
【実施例3】
【0047】
第一及び第二の実施形態では、金属裏面電極層上に、Zn膜(Znα膜)やSn膜(Snα膜)を積層させ、これを硫化又はセレン化してZnSnα膜を形成させたが、本発明の第三の実施形態として、ZnSnα化合物をターゲットとしたスパッタリングにより、金属裏面電極層上にZnSnα膜を形成するものとしてもよい。
【0048】
スパッタリングによりZnSnαx膜を金属裏面電極層上に積層させた後は、第一又は第二の実施形態と同様にして、Cu膜を製膜した上、硫化又はセレン化を行うことで、CZTS系光吸収層を形成させることができる。
本実施形態によっても、CZTS系光吸収層を形成させる最終的な工程において、CuS、ZnS、SnSといった中間生成物の生成が抑えられるなど、CuZnSnS(CuZnSnSe、CuZnSn(SSe))の生成反応が制御し易く、結晶品質のよいCZTS系光吸収層が形成される。なお、本実施形態においては、CZTS系光吸収層を構成するカルコゲン元素を、硫黄(S)及び/又はセレン(Se)として説明したが、硫黄(S)およびセレン(Se)の一部を、テルル(Te)に置き換えてもCZTS系光吸収層を形成することが可能と考えられる。
【符号の説明】
【0049】
1 CZTS系薄膜太陽電池
11 ガラス基板
12 裏面電極層
13 CZTS系光吸収層
13a プリカーサ膜
131 Znα膜
131a Zn膜
132 Sn膜(Snα膜)
133 ZnSnα
134 Cu膜
135 Sn膜
136 Zn膜(Znα膜)
14 高抵抗バッファ層
15 透明導電膜
21 ガラス基板
22 金属裏面電極層
23 CZTS系光吸収層
23a プリカーサ膜
231 Znα膜(Zn膜)
232 Snα膜(Sn膜)
233 Cu膜
1A、1B、1B’、1C、1C’、1D、1D’、1E、1F、1G、1H、1I 太陽電池半製品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光吸収層に、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、及び、硫黄(S)又はセレン(Se)の少なくともいずれか一方から構成されるカルコゲン元素(α)からなる化合物半導体を用いたCZTS系薄膜太陽電池の光吸収層の作製方法であって、
ガラス基板上に製膜された金属裏面電極層上に、ZnSnα化合物膜を製膜する工程と、
上記ZnSnα化合物膜上にCu膜を製膜し、ZnSnα化合物膜とCu膜からなるプリカーサ膜を形成する工程と、
上記プリカーサ膜を、カルコゲン元素(α)を有する雰囲気中で熱処理し、光吸収層を形成する工程と、を有する、
ことを特徴とするCZTS系薄膜太陽電池の光吸収層の作製方法。
【請求項2】
上記ZnSnα化合物膜を製膜する工程は、
上記ガラス基板上に、Zn又はZnα化合物からなるZn系薄膜を製膜する工程と、
上記Zn系薄膜上に、Sn又はSnα化合物からなるSn系薄膜を製膜する工程と、
上記Zn系薄膜とSn系薄膜からなる積層膜を、カルコゲン元素(α)を有する雰囲気中で熱処理し、上記ZnSnα膜を形成する工程と、からなる、
請求項1記載のCZTS系薄膜太陽電池の光吸収層の作製方法。
【請求項3】
上記Zn系薄膜は、Znα化合物からなり、
上記Zn系薄膜を製膜する工程が、
Zn膜を製膜する工程と、
上記Zn膜を、カルコゲン元素(α)を有する雰囲気中で熱処理し、上記Znα化合物からなるZn系薄膜を形成する工程と、からなる、
請求項2記載のCZTS系薄膜太陽電池の光吸収層の作製方法。
【請求項4】
上記ZnSnα化合物膜を製膜する工程は、
上記ガラス基板上に、Sn又はSnα化合物からなるSn系薄膜を製膜する工程と、
上記Zn系薄膜上に、Zn又はZnα化合物からなるZn系薄膜を製膜する工程と、
上記Sn系薄膜とZn系薄膜からなる積層膜を、カルコゲン元素(α)を有する雰囲気中で熱処理し、上記ZnSnα膜を形成する工程と、からなる、
請求項1記載のCZTS系薄膜太陽電池の光吸収層の作製方法。
【請求項5】
上記Sn系薄膜は、Snα化合物からなり、
上記Sn系薄膜を製膜する工程が、
Sn膜を製膜する工程と、
上記Sn膜を、カルコゲン元素(α)を有する雰囲気中で熱処理し、上記Snα化合物からなるSn系薄膜を形成する工程と、からなる、
請求項4記載のCZTS系薄膜太陽電池の光吸収層の作製方法。
【請求項6】
上記ガラス基板上に製膜された金属裏面電極層上に、ZnSnα化合物膜を製膜する工程は、
ZnSnα化合物をターゲットとしたスパッタリングにより、上記金属裏面電極層上に上記ZnSnα化合物を製膜する、
請求項1記載のCZTS系薄膜太陽電池の光吸収層の作製方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−59847(P2012−59847A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200388(P2010−200388)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】