説明

CaCO3及び/又はMgCO3の固化方法

【目的】 CaCO3 及び/又はMgCO3 、或いはこれらを主成分とする物質を緩やかな条件で固化する。
【構成】 CaCO3 及び/又はMgCO3 或いはこれらを主成分とする物質に、CaO,Ca(OH)2 ,MgO及びMg(OH)2 よりなる群から選ばれる1種又は2種以上のCa及び/又はMg系物質と、シリカ系物質とを混合した後、オートクレーブ反応を利用して固化させる。
【効果】 一般的な装置であるオートクレーブによる処理のみで原料物質を、比較的低温、低圧の緩やかな条件下で容易かつ効率的に固化させて高強度固化体を得ることができ、省エネルギー、省コスト化を図ることができる。燃焼排ガス中のCO2 をCaCO3 及び/又はMgCO3 として固定化して回収したものを低処理コストにて固化して、建設・土木材料等への有効利用を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はCaCO3 及び/又はMgCO3 の固化方法に係り、特に、CaCO3 及び/又はMgCO3 、或いはこれらを主成分とする物質を緩やかな処理条件にて固化させる方法に関する。
【0002】
【従来の技術】各種産業分野で排出される排ガス中のCO2 は、地球の温暖化現象への影響が懸念されていることから、大気中のCO2 の低減について検討が進められている。
【0003】従来、大気中のCO2 の低減技術として、燃焼排ガスなどのCO2 含有ガスを海水に吸収させて、CO2 をCaCO3 及び/又はMgCO3 として固定化する方法がある。しかして、固定化されたCaCO3 やMgCO3 を固化させて建設・土木材料等に有効利用する試みがなされている。
【0004】従来、CaCO3 の固化方法としては、ホットプレス法又は水熱ホットプレス法などが提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来のCaCO3 の固化方法は、いずれも天然のCaCO3 固化体である大理石や石灰石の生成条件に準じた処理条件を必要とするため、処理条件が高温、高圧の過酷な条件であると共に、装置設備が複雑であることから、大量処理には不向きであり、消費エネルギーが大きく、処理コストが高くつくという欠点がある。
【0006】本発明は上記従来の問題点を解決し、CaCO3 及び/又はMgCO3 、或いはこれらを主成分とする物質を緩やかな条件で固化することができる方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】請求項1のCaCO3 及び/又はMgCO3 の固化方法は、CaCO3 及び/又はMgCO3 或いはこれらを主成分とする物質に、CaO,Ca(OH)2 ,MgO,Mg(OH)2 ,スラグ及びコンクリート廃材よりなる群から選ばれる1種又は2種以上のCa及び/又はMg系物質と、シリカ系物質とを混合した後、オートクレーブ反応を利用して固化させることを特徴とする。
【0008】請求項2のCaCO3 及び/又はMgCO3 の固化方法は、請求項1において、原料として、さらに、CaCO3 及び/又はMgCO3 ないしはシリカ系物質の溶解度を高める物質(以下、「溶解度増大物質」ということがある。)を混合することを特徴とする。
【0009】請求項3のCaCO3 及び/又はMgCO3 の固化方法は、請求項2の方法において、溶解度増大物質が、LiOH,NaOH,KOH,NH4 OH,Li2CO3 ,Na2 CO3 ,K2 CO3 ,(NH42 CO3 ,LiHCO3 ,NaHCO3 ,KHCO3 ,NH4 HCO3 ,LiNO3 ,NaNO3 ,KNO3 ,NH4 NO3 ,Ca(NO32 ,LiF,NaF,KF,NH4 F,LiCl,NaCl,KCl,NH4 Cl,LiBr,NaBr,KBr及びNH4 Brよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする。
【0010】以下に本発明を詳細に説明する。
【0011】本発明のCaCO3 及び/又はMgCO3 の固化方法において、原料となるCaCO3 及び/又はMgCO3 、或いはこれらを主成分とする物質(以下「原料物質」と称する。)としては、例えば、燃焼排ガス中のCO2 を海水等に吸収させて、CaCO3 及び/又はMgCO3 として固定化して得られる物質が挙げられるが、何らこれらの物質に制限されるものではなく、本発明はCaCO3 及び/又はMgCO3 、或いは、CaCO3 及び/又はMgCO3 を主体とする物質であれば有効に適用することができる。この物質はドロマイト、塩基性MgCO3 であっても良い。
【0012】シリカ系物質としては、非晶質SiO2 ,結晶質SiO2 の他、ケイ砂、キラ微砂、ケイ藻土、粘土、シリカヒューム、ホワイトカーボン、タイル屑、ガラス屑、レンガ屑、スラグ、セメント・コンクリート廃材、石炭灰、汚泥、釉汚泥、汚泥焼却灰、Ca分を抽出後の産業廃棄物(例えばセメント・コンクリート廃材、スラグ、釉汚泥、石炭灰、汚泥焼却灰、ガラス屑のCa分を抽出したもの)等を用いることができる。これらのシリカ系物質と前記Ca及び/又はMg系物質とが反応することにより、得られる固化体中に(CaO及び/又はMgO)−SiO2 −H2 O系固形物質が効率的に生成し、固化体の強度を高めることができる。
【0013】なお、シリカ系物質の使用割合は、多過ぎると相対的に原料物質の割合が低減してCaCO3 及び/又はMgCO3 の固化による有効利用の面での効率が低下するため、シリカ系物質の使用量は、混合後の原料中において占める割合がSiO2 換算で50重量%以下、特に10〜30重量%となるようにするのが好ましい。
【0014】Ca及び/又はMg系物質としては、CaO,Ca(OH)2 ,MgO,Mg(OH)2 ,スラグ及びコンクリート廃材の1種又は2種以上が用いられる。この中でも、CaO及び/又はCa(OH)2 あるいはこれを主成分とするものが好ましく、更に、CaOにおいては成形前に消化しておくのが好ましい。なお、スラグやコンクリート廃材は、シリカ系物質としても作用する。
【0015】Ca及び/又はMg系物質は、混合後の原料中において占める割合がCaO換算で及び/又はMgO換算で50重量%以下、とりわけ10〜30重量%となるようにするのが好適である。
【0016】シリカ系物質とCa及び/又はMg系物質の総量は、混合後の原料中において占める割合がSiO2 換算とCaO換算及び/又はMgO換算で50重量%以下であると、原料物質の割合が低減せずに好適である。
【0017】溶解度増大物質としては、LiOH,NaOH,KOH,NH4 OH,Li2CO3 ,Na2 CO3 ,K2 CO3 ,(NH42 CO3 ,LiHCO3 ,NaHCO3 ,KHCO3 ,NH4 HCO3 ,LiNO3 ,NaNO3 ,KNO3 ,NH4 NO3 ,Ca(NO32 ,LiF,NaF,KF,NH4 F,LiCl,NaCl,KCl,NH4 Cl,LiBr,NaBr,KBr,NH4 Brなどの水酸化アルカリ、アルカリ塩、炭酸アルカリ、炭酸水素アルカリ、ハロゲン化アルカリ等アルカリ系物質ならびにアンモニウム系物質や、これらを含む物質が好適である。また、酸化アルカリを含む物質(例えばガラス、鉱物など)等も好適である。この溶解度増大物質は、産業廃棄物を利用するのが好適である。なお、これらの溶解度増大物質は、CaCO3 ,MgCO3 及び/又はシリカ系物質の溶解度を高める作用を有する。このような溶解度増大物質は、同時に複数種類を混合しても良い。
【0018】このような溶解度増大物質は、混合後の原料中においてアルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンの占める割合が10重量%以下、特に0.1〜5重量%となるようにするのが好適である。
【0019】原料物質にCa及び/又はMg系物質と、シリカ系物質と、必要に応じて更にアルカリ系物質を混合して得られる固化原料は、プレス成形、鋳込成形、押出成形、流し込み成形等の成形法により所望の形状に成形した後、オートクレーブ処理する。なお、固化原料は特に成形を行なわず、そのままオートクレーブ処理しした後、成形し、さらにオートクレーブ処理しても良い。
【0020】本発明では、オートクレーブ処理液は、水であっても良く、上記アルカリ系物質の溶液であっても良い。
【0021】アルカリ系物質の溶液は、その中に含まれるアルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンが5mol/l以下、とりわけ0.01〜1mol/lとなるようにするのが好適である。
【0022】オートクレーブ処理は、100〜300℃、特に150〜250℃程度の飽和蒸気圧(40kgf/cm2 以下)下という比較的緩やかな条件で行なうことができ、その処理時間は通常の場合、2〜20時間、特に5〜10時間程度とされる。
【0023】得られた固化体は、必要に応じて適当な条件で乾燥した後、各種建設・土木材料等として利用される。
【0024】本発明においては、原料物質を酸処理、イオン交換樹脂による処理等により表面処理しておいても良い。
【0025】なお、本発明は、BaCO3 やSrCO3 の固化への適用も期待できる。
【0026】
【作用】本発明方法においては、オートクレーブ処理により、CaCO3 及び/又はMgCO3 の溶解と再析出反応が進行し、CaCO3 及び/又はMgCO3 等の固形粒子が結合する。これにより、従来法に比べて低温、低圧の緩やかな条件で、CaCO3 及び/又はMgCO3 、或いはこれらを主成分とする物質を固化させることができる。
【0027】特に、本発明においては、原料物質にCa及び/又はMg系物質とシリカ系物質を混合してオートクレーブ処理するため、(CaO及び/又はMgO)−SiO2 −H2 O系固形物質の生成により、高強度の固化体を得ることができる。
【0028】更に、CaCO3 及び/又はMgCO3 の溶解度を高めるアルカリ系物質を併用することにより、より一層強度の高い固化体を得ることができる。
【0029】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、実施例において用いたCaCO3 ,MgCO3 及びSiO2 原料は下記表1の通りである。その他の原料は試薬を用いた。
【0030】
【表1】


【0031】また、各試料の曲げ強度の測定は、スパン間距離30mm,クロスヘッドスピード0.5mm/minの3点曲げ強度測定条件で行なった。
【0032】実施例1,比較例1表2に示す配合にて固化原料を乳鉢で乾式混合し、300kgf/cm2 で加圧成形して40mm×10mm×約10mm厚さの成形体を得た。得られた成形体の曲げ強度を表2に示す。各成形体をオートクレーブに入れ、表2に示す条件で処理して固化させた。なお、オートクレーブの容器(2000cc容量)中には蒸留水を290cc入れて飽和蒸気圧にて処理した。
【0033】得られた固化体を60℃で乾燥した後、曲げ強度の測定を行ない結果を表2に示した。
【0034】
【表2】


【0035】表2より、次のことが明らかである。即ち、Ca(OH)2 とシリカ系物質を混合してオートクレーブ処理することにより、280℃以下の温度での飽和蒸気圧の処理で、容易に固化させて高強度固化体を得ることができる。これに対して、CaCO3 だけのもの(No. 12)、SiO2 のみを添加したもの(No. 13)、CaOのみを添加したもの(No.14)では、十分な固化強度を得ることができない。
【0036】実施例2,比較例2CaCO3 の代りにMgCO3 を用いて、実施例1と同様にして成形及びオートクレーブ処理を行って、成形体及び固化体の曲げ強度を測定し、結果を表3に示した。
【0037】
【表3】


【0038】表3より、MgCO3 についても、CaCO3 と同様、Mg(OH)2 とシリカ系物質とを混合してオートクレーブ処理することにより、緩やかな条件で、容易に固化させて、高強度固化体を得ることができることが明らかである。
【0039】実施例3,比較例3CaCO3 の代りにCaCO3 とMgCO3 の混合物を用いて、実施例1と同様にして成形及びオートクレーブ処理を行って、成形体及び固化体の曲げ強度を測定し、結果を表4に示した。
【0040】なお、オートクレーブ処理条件はすべて230℃の飽和蒸気圧下,7時間とした。
【0041】
【表4】


【0042】表4より、CaCO3 及びMgCO3 の混合系についても、Ca(OH)2 及び/又はMg(OH)2 とシリカ系物質とを混合してオートクレーブ処理することにより、緩やかな条件で、容易に固化させて、高強度固化体を得ることができることが明らかである。
【0043】実施例4実施例1〜3において、更にアルカリ系物質を混合したこと以外は同様にして成形及びオートクレーブ処理を行って、成形体及び固化体の曲げ強度を測定し、結果を表5,6に示した。
【0044】なお、オートクレーブ処理条件はすべて230℃の飽和蒸気圧下,7時間とした。
【0045】
【表5】


【0046】
【表6】


【0047】表5,6より、アルカリ系物質を混合することにより、より一層高強度な固化体を得ることができることが明らかである。
【0048】実施例5結晶質SiO2 の代わりに表7に示すものを用いたこと以外は実施例4のNo.36(CaCO3 使用)又はNo. 41(MgCO3 使用)と同様にして成形体及び固化体を製造した。強度測定結果を表7に示す。
【0049】
【表7】


【0050】実施例6Ca及び/又はMg系物質としてCa(OH)2 又はMg(OH)2 の代わりに表8のNo. 81,82に示すものを用いたこと以外は実施例5と同様にして成形体及び固化体を製造した。強度測定結果を表8に示す。
【0051】実施例7Ca及び/又はMg系物質として表8のNo. 83,84に示すものを用いたこと、そして、NaOHは固形原料としては添加せず、オートクレーブ処理溶液(0.1mol/l)として用いたこと以外は実施例5と同様にして成形体及び固化体を製造した。強度測定結果を表8に示す。
【0052】
【表8】


【0053】
【発明の効果】以上詳述した通り、本発明のCaCO3 及び/又はMgCO3 の固化方法によれば、一般的な装置であるオートクレーブによる処理のみでCaCO3 及び/又はMgCO3 、或いはこれらを主成分とする物質を、比較的低温、低圧の緩やかな条件下で容易かつ効率的に固化させて高強度固化体を得ることができる。
【0054】本発明によれば、燃焼排ガス中のCO2 をCaCO3 及び/又はMgCO3 として固定化して回収したものを低処理コストにて固化して、建設・土木材料等への有効利用を図ることができる。
【0055】請求項2,3の方法によれば、より一層強度の高い固化体を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 CaCO3 及び/又はMgCO3 或いはこれらを主成分とする物質に、CaO,Ca(OH)2 ,MgO,Mg(OH)2 ,スラグ及びコンクリート廃材よりなる群から選ばれる1種又は2種以上のCa及び/又はMg系物質と、シリカ系物質とを混合した後、オートクレーブ反応を利用して固化させることを特徴とするCaCO3 及び/又はMgCO3 の固化方法。
【請求項2】 請求項1において、原料として、さらに、CaCO3 及び/又はMgCO3 ないしはシリカ系物質の溶解度を高める物質を混合することを特徴とするCaCO3 及び/又はMgCO3 の固化方法。
【請求項3】 請求項2の方法において、溶解度を高める物質が、LiOH,NaOH,KOH,NH4 OH,Li2 CO3 ,Na2 CO3 ,K2 CO3 ,(NH42 CO3 ,LiHCO3 ,NaHCO3 ,KHCO3 ,NH4 HCO3 ,LiNO3 ,NaNO3 ,KNO3 ,NH4 NO3 ,Ca(NO32 ,LiF,NaF,KF,NH4 F,LiCl,NaCl,KCl,NH4 Cl,LiBr,NaBr,KBr及びNH4 Brよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするCaCO3 及び/又はMgCO3 の固化方法。

【公開番号】特開平7−267757
【公開日】平成7年(1995)10月17日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−62358
【出願日】平成6年(1994)3月31日
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【上記1名の復代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛 (外1名)
【出願人】(000000479)株式会社イナックス (1,429)
【上記1名の代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛