説明

Cu−Ag合金線の製造方法及びCu−Ag合金線

【課題】極細のCu-Ag合金線を生産性よく製造できるCu-Ag合金線の製造方法及び極細のCu-Ag合金線を提供する。
【解決手段】Agを0.5〜15.0質量%含有する鋳造材を伸線して、最終線径が0.05mm以下の極細線を製造する。鋳造材は、断線に関与し得る0.2μm超の異物が非常に少ないものを用いる。最終線径に至るまでの伸線の途中段階にある線材であって線径φが1.0mm以下の線材の表面層を除去する。この表面層の除去は、表面層の除去前の線材の線径φの1/2をrとするとき、除去する表面層の厚さtがt/r≧0.02を満たすように行う。得られた極細のCu-Ag合金線や、このCu-Ag合金線を撚り合わせた撚り線は、同軸ケーブルの中心導体に好適に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cu-Ag合金からなる極細線、この極細線を素線とする撚り線、これら極細線や撚り線を導体とする同軸ケーブル、及び上記極細線の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の電子機器の小型化、軽量化の要望に伴い、電子機器に利用される同軸ケーブルなどの導体の細径化が望まれている(特許文献1)。極細の導体材料として、導電率が高く、銅よりも高強度であるCu-Ag合金線が提案されている(特許文献2)。
【0003】
極細の導体に利用される極細線は、一般的に、鋳造材を伸線することで製造される。製造工程のうち、溶解から鋳造に至るまでの工程で利用する坩堝や鋳型、これらを繋ぐ桶などの構成材料に由来すると考えられる異物が素材に混入されることがある。この異物の混入は、高純度の原料を用いても回避することが難しい。また、伸線工程でも、素材表面に疵が生じたり、素材表面に異物が巻き込まれたりすることがある。このような異物や表面疵の存在は、極細線を製造する際に断線の要因となり、極細線の生産性を低下させる。特許文献1では、断線を生じ難くするために、伸線加工された素線の線径から最終線径にまで縮径するにあたり、化学溶解を利用することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-140935号公報
【特許文献2】特開2001-040439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の技術では、0.05mm以下の極細のCu-Ag合金線を生産性よく製造できるとは言い難い。
【0006】
特許文献1は、線径20μm(0.02mm)まで伸線した銅素線に電気化学溶解を施すことを開示している。しかし、従来の方法では、0.05mm以下まで伸線して長尺な極細線を製造すること自体が難しいことから、線径0.02mmまで伸線する間に断線が多発して、長尺な銅素線を得ることが困難である。また、異物径の絶対値は変化しないため、線径0.02mmの線材の表面層を除去する場合、線径に対する異物径の割合が大きくなることから、除去量が少ないと異物を完全に除去することが難しく、異物を完全に除去するために除去量を多くすると、廃棄分(表面層を除去した後の線材重量/表面層を除去する前の線材重量)が多くなる。特許文献1に記載されるように線径20μmの素線を線径14μmに縮径すると、歩留まりが約50%であり、半分を廃棄していることになる。この廃棄分は、0.02mmまで加工した費用が加わった部分であることから、この部分を廃棄することで歩留まりが悪く、コスト高になるという問題もある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、伸線時の断線を低減して、線径0.05mm以下のCu-Ag合金線を生産性よく製造することができるCu-Ag合金線の製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、高導電性で高強度な極細のCu-Ag合金線、及びこの極細線を撚り合わせた撚り線、並びにこの極細線や撚り線を中心導体とした同軸ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、高純度の原料を利用することによる鋳造材に含まれる異物の低減には限界があることから、鋳造材に含まれる異物の量がどの程度であれば極細線用の鋳造材として許容できるかという観点から検討した。その結果、鋳造材の一部をサンプルとして取得し、含有される異物の濃度を測定し、一定以上の径を有する異物の量が所定値以下であれば、断線に関与する異物が非常に少ない鋳造材になることを見出した。そして、この鋳造材は、伸線時に断線し難いため、生産性よく極細線を製造できるとの知見を得た。また、この鋳造材は、特定の条件の鋳造を行うことで製造できるとの知見を得た。
【0009】
更に、0.05mm以下といった非常に極細のCu-Ag合金線を製造する場合は、上記断線に関与し得る異物が少ない鋳造材を用いることに加えて、伸線の途中段階にある特定の大きさの線材に対して、特定の量の表面層を除去することで、伸線時の断線を効果的に低減することができ、所望の大きさの極細線を生産性よく製造することができるとの知見を得た。
【0010】
上記知見に基づき、本発明のCu-Ag合金線の製造方法は、特定の鋳造材を用いると共に、特定の表面層の除去を行う。具体的には、本発明Cu-Ag合金線の製造方法は、Agを0.5質量%以上15.0質量%以下含有する鋳造材に伸線加工を施して、最終線径が0.05mm以下の極細線を製造する方法であり、以下の鋳造工程及び表面層除去工程を具える。
(1) 鋳造工程:用意した原料Cu及び原料Agを高純度のカーボンからなる坩堝で溶解し、この混合溶湯をCuとAgとの混合物の液相点温度以上に30分以上保持して、混合溶湯の表面に不純物を分離させる。この後、高純度のカーボンからなる鋳型を用いて、上記不純物を分離した混合溶湯から鋳造材を作製する。
(2) 表面層除去工程:最終線径に至るまでの伸線の途中段階にある線材の表面層を除去する。この表面層除去工程は、特に、線径φが1.0mm以下の細い線材の表面層を除去する細線加工工程を具える。そして、この細線加工工程において表面層の除去は、表面層の除去前の線材の線径φの1/2をrとするとき、除去する表面層の厚さtがt/r≧0.02を満たすように行う。
【0011】
断線に関与し得る異物が少ない鋳造材を用いると共に、伸線前の素材に皮剥ぎを行って異物や表面疵を除去したものを伸線に供することが考えられる。しかし、このような上流の工程で皮剥ぎを行っても、0.05mm以下、特に0.04mm以下、取り分け0.025mm未満といった非常に極細のCu-Ag合金線を伸線により製造する場合、断線が多発して、連続して極細線を製造することが難しいとの知見を得た。つまり、上流で皮剥ぎしても、素材のごく表面に存在する異物や疵しか除去できないため、その後の伸線により、素材の内部に存在した異物や疵が表面側に現れることで断線する恐れがある。また、上流で皮剥ぎしても、伸線途中に新たに異物を巻き込んだり疵が生じたりすることでも、断線する恐れがあり、連続して極細線を製造することが難しい。一方、引用文献1のように伸線後(最終線径直前)といった最下流の工程で表面層を除去すると、上述のように歩留まりの低下やコストの上昇を招き易い。これに対し、本発明者らは、1.0mm以下といった細径になってから表面層の除去を行うと、断線が生じ難くなり、0.025mm未満といった非常に極細の線材であっても連続して製造することができ、断線回数の減少から生産性を向上できる、との知見を得た。そこで、本発明製造方法では、伸線の途中段階である細径の線材に対して、表面層の除去を行う。
【0012】
上記構成を具える本発明製造方法は、0.05mm以下の極細のCu-Ag合金線の製造にあたり、断線が生じ難く、連続して伸線することができる。そのため、本発明製造方法によれば、長尺で極細の線材を製造することができ、生産性に優れる。以下、本発明をより詳細に説明する。
【0013】
上記鋳造工程では、特に、混合溶湯の表面に不純物を分離させるための保持時間が重要である。この保持時間が30分より短いと、不純物の分離が不十分になり、鋳造材に含まれる異物も多くなる。特に、保持時間が0〜20分の場合、断線に関与する異物が高い確率で鋳造材に含有され、このような鋳造材を利用することで、伸線時に断線が生じ易くなる。保持時間は、30分以上であればよく、上限は特に問わないが、生産性を考慮すると、10時間以下が好ましい。
【0014】
上記鋳造工程により、断線に関与し得る異物が少ない鋳造材が得られる。具体的には、鋳造材の一部を酸で溶解した後、孔径0.2μmのフィルターで濾過し、フィルターに回収された残渣物に含まれるAl量及びSi量がそれぞれ溶解させた鋳造材に対して1質量ppm以下である。即ち、この鋳造材は、0.2μm超のAl化合物及びSi化合物が非常に少ない。伸線時に破断の要因となる粗大な異物が少ないため、この鋳造材を利用することで、伸線時の断線を効果的に低減することができる。なお、Al量及びSi量が1質量ppmを超える場合、鋳造材を作り直して、上記異物が少ない鋳造材を伸線に供することが好ましい。
【0015】
また、鋳造材に含有される異物を低減するために高純度のカーボンからなる坩堝や鋳型を利用する。具体的には、不純物量が20質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以下のカーボン製のものを使用することが好ましい。更に、原料Cuや原料Agも純度の高いもの、例えば、フォーナインクラス(純度99.99%)以上のものを利用することが好ましい。
【0016】
原料Agの添加量は、得られた極細線中のAgの含有量が0.5〜15.0質量%となるように調整する。Agの含有量が15.0質量%を超えると、伸線時の加工度(減面率)や中間熱処理を調整しても、後述するような所定の導電率が得られず、0.5質量%を下回ると、伸線時の加工度や中間熱処理を調整しても、後述するような所定の強度が得られない。
【0017】
本発明製造方法において伸線加工(特に冷間)は、最終線径となるまで複数パスに亘って行う。所望の線径や引張強さなどの特性を有する線材が得られるように伸線条件を調整するとよい。特に、最初に行う冷間伸線加工は、加工度が70%以上であると、以降の伸線加工を所定の加工度で行い易い。
【0018】
複数パスの伸線加工を行う場合、途中段階に中間熱処理を行うと、この中間熱処理前に線材に導入された加工歪みを除去して、以降の伸線加工を行い易くすることができる。また、中間熱処理によりAgを析出させて、以降の伸線加工によりAg析出物を繊維状とすることで、極細線の強度を向上できる。中間熱処理の条件は、加熱温度:350〜500℃(好ましくは、400〜450℃)、保持時間:0.5〜10時間が挙げられる。
【0019】
本発明製造方法において、少なくとも細線加工工程における表面層の除去は、化学処理や電気化学処理により行うことが好ましい。細線加工工程において表面層の除去を行う対象となる線材は、線径φが1.0mm以下と細いため、通常の皮剥ぎに利用される皮剥ぎダイスを利用すると、ダイス孔の中心に線材の中心を合わせることが難しく、生産性の低下を招く。一方、化学処理や電気化学処理は、どのような線径の線材に対しても簡単に施すことができる上に、処理後の表面が非常に平滑で断線の原因となる疵などが存在し難いため、処理後の線材に更に伸線加工を施す際、断線し難く、伸線性に優れる。代表的な処理として、電解研磨などが挙げられる。公知の処理を利用してもよい。細線加工工程において表面層の除去を行う線材は、線径がφ1.0mm以下であればよいが、線径が小さ過ぎると、線材から除去される廃棄分が多くなり、製造コストの増加を招くことから、線径がφ0.2mm以上であることが好ましい。
【0020】
上記細線加工工程において表面層の除去割合t/rは、0.02以上とし、好ましくは、0.08以上とする。また、表面層の除去は、細線加工工程を含めて複数回行うと、表面層の除去量が多くなることで、疵や異物を十分に除去することができ、断線の発生を低減することができる。表面層の除去を複数回行う場合、各処理における除去割合t/rの合計が、0.08以上となるように表面層の除去を行うことが好ましく、0.12以上がより好ましい。しかし、除去量が大きくなり過ぎると歩留まりが悪くなるため、t/rの合計の上限は0.20程度である。なお、表面層の厚さtとは、線材の表面から、線材の径方向に沿った距離とする。また、線材の断面形状は、代表的には、円形状である。
【0021】
本発明製造方法により製造するCu-Ag合金線は、めっきを有していてもよい。めっきを施すことで、Cu-Ag合金線の耐食性を向上する他、線材同士の接続や線材を他の部材に接続する際の接続性を高められる。めっきは、Au,Au合金,Ag,Ag合金,Sn,Sn合金,Ni及びNi合金から選択される1種以上が挙げられる。このめっきは、細線加工工程により表面層の除去を行った後の任意の時期に行うとよい。即ち、めっき工程は、最終の伸線終了後でもよいし、細線加工工程以降の伸線途中(パス間)でもよい。表面層の除去後の線材は、表面が平滑で清浄であることからめっきを施し易い。
【0022】
上記本発明製造方法により得られた本発明Cu-Ag合金線は、Agを0.5質量%以上15.0質量%以下含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる。また、本発明Cu-Ag合金線は、上述した鋳造材と同様にAl量及びSi量が少なく、それぞれ1質量ppm以下である。本発明Cu-Ag合金線は、異物の含有量が非常に少ないため、例えば、更に伸線加工を施す場合や、複数のCu-Ag合金線を撚り合わせて撚り線にする場合などで断線が生じ難い。また、Cu-Ag合金線やその撚り線を同軸ケーブルの中心導体とした場合、同軸ケーブルの使用時に断線などの不具合が生じ難い。
【0023】
上記本発明製造方法では、伸線時に断線が生じ難いことから、極細の本発明Cu-Ag合金線が得られる。具体的には、線径を0.05mm以下とすることができる。伸線加工を更に施すことで、線径を0.01mm(10μm)〜0.03mm(30μm)とすることもできる。
【0024】
上記本発明製造方法では、伸線加工による加工硬化や上述したAg析出物を繊維状とした効果などにより、高強度な本発明Cu-Ag合金線が得られる。特に、引張強さが800MPa以上1600MPa以下であることが好ましい。このような引張強さを有する本発明Cu-Ag合金線は、例えば、コイル状に巻回したり、複数のCu-Ag合金線を撚り合わせたりするときに破断し難い。引張強さや後述する導電率が所望の値となるように、Agの含有量や伸線時の加工度(減面率)、中間熱処理条件などを調整するとよい。
【0025】
本発明Cu-Ag合金線は、導電率が65%IACS以上、特に70%IACS以上、更には80%IACS以上であることが好ましい。このような極細で、高強度・高導電率な本発明Cu-Ag合金線は、種々の電気機器の導体材料に好適に利用できると期待される。
【発明の効果】
【0026】
本発明Cu-Ag合金線の製造方法によれば、線径0.05mm以下といった極細なCu-Ag合金線を連続して製造することができ、Cu-Ag合金線の生産性に優れる。また、この製造方法により得られたCu-Ag合金線や、このCu-Ag合金線の撚り線は、高強度で高導電率であり、同軸ケーブルなどの導体に好適に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
Cu-Ag合金からなる複数の極細線を製造し、伸線性を調べた。
【0028】
<鋳造材の作製>
原料Cuとして、純度99.99%以上の電気銅、原料Agとして純度99.99%以上の銀粒(Ag)を用意した。用意した上記電気銅を酸洗し、電気銅の表面に付着した異物を除去した後、酸洗した電気銅と上記銀粒とを高純度カーボン製坩堝に投入して、連続鋳造装置内で真空溶解させ、Cu及びAgが溶解した混合溶湯を作製した。なお、銀粒の添加量は、混合溶湯に対するAg含有量が0.6質量%となるように調整した。
【0029】
上記混合溶湯は、銀粒を添加した後、CuとAgとの混合物の液相点温度以上に30分保持して、上記坩堝内の混合溶湯の表面に異物を含む不純物を分離させた。
【0030】
不純物を分離させた後、高純度カーボン製鋳型を用いて線径8.0mmの丸線(鋳造材)を製造した。得られた鋳造材中のAl量及びSi量を測定した。ここでは、鋳造材を200g取り分けて、6.4mol以上の硝酸を含む水溶液に溶解し、この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過して、残渣物をフィルターで回収した。回収した残渣物を白金製坩堝内で乾燥し、フィルターを灰化した後、融剤を加えて溶融し、ガラス状物質とした。得られたガラス状物質を、塩酸を含む水溶液に溶解した。鋳造材の溶解からガラス状物質の溶解までの作業は、クリーンブース内で実施した。そして、ガラス状物質が溶解した溶液を誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により、Si量及びAl量を定量した。その結果、Si量:0.1質量ppm、Al:0.3質量ppmであり、いずれも1質量ppm以下であった。なお、Si量及びAl量の測定に利用する鋳造材の量は、100g〜200g程度で十分である。
【0031】
得られた鋳造材に複数パスの冷間伸線加工を施し、最終線径0.021mmの線材を得た。伸線加工には、American Wire Gage規格(AWG規格)のダイスを使用した。また、いずれの試料においても、伸線の途中段階である、線径が2.6mmである線材に中間熱処理(400℃×8時間)を施した。更に、いずれの試料においても、伸線の途中段階である、線径が0.3mmである線材にAgめっきを施した。
【0032】
(試料1)
試料1は、伸線の途中段階である、線径φが0.9mm(≦1.0mm)となったとき、線材に電解研磨を施し、表面層を除去した。電解研磨は、電解液にリン酸水溶液を用い、電流密度:40A/dm2、浸漬時間:6.8min、温度:30℃として行った。除去した表面層の厚さtは、t=0.06mmとした。線径φの1/2をrとすると、r=φ×(1/2)=0.9×(1/2)=0.45、t/r≒0.133(≧0.02)である。
【0033】
(試料2)
試料2は、伸線の途中段階である、線径φ1が2.6mm(>1.0mm)となったとき、線材に上記中間熱処理を施した後、化学研磨を施し、表面層を除去した。化学研磨は、研磨液に硫酸水素水溶液を用い、浸漬時間:150min、温度:30℃として行った。除去した表面層の厚さt1は、t1=0.15mmとした。線径φ1の1/2をr1とすると、r1=1.30、t1/r1≒0.115である。更に、この試料2は、伸線の途中段階である、線径φ2が0.9mm(≦1.0mm)となったとき、上記と同様の化学研磨を線材に施し、表面層を除去した。除去した表面層の厚さt2は、浸漬時間を異ならせることで変化させ、t2=0.01mmとした。線径φ2の1/2をr2とすると、r2=0.45、t2/r2≒0.022(≧0.02)である。2回の表面層の除去におけるr1/t1及びt2/r2の合計は、0.115+0.022=0.137(≧0.08)である。
【0034】
(試料3)
試料3は、試料1と同様に線径φが0.9mmとなったとき、試料1と同様の電解研磨を線材に施し、表面層を除去した。除去した表面層の厚さt3は、浸漬時間を異ならせることで変化させ、t3=0.04mmとした。線径φの1/2をrとすると、r=0.45、t/r3≒0.089(≧0.02)である。
【0035】
(試料4)
試料4は、線径φが2.6mmのときに表面層の除去を行わず、線径φが0.9mmとなったとき、試料2と同様の化学研磨を線材に施し、表面層を除去した。除去した表面層の厚さt4は、浸漬時間を異ならせることで変化させ、t4=0.02mmとした。線径φの1/2をrとすると、r=0.45、t/r4≒0.044(≧0.02)である。
【0036】
比較例:(試料I)
試料Iは、伸線の途中段階である、線径φIが2.6mm(>1.0mm)となったとき、線材に上記中間熱処理を施した後、試料2と同様の化学研磨を施し、表面層を除去した。除去した表面層の厚さtIはtI=0.15mmとした。線径φの1/2をrIとすると、rI=1.30、tI/rI≒0.115である。なお、この試料Iは、線径φが0.9mmのときに表面層の除去を行わなかった。
【0037】
比較例:(試料II)
試料IIは、伸線の途中段階に表面層の除去を行わず、上述した中間熱処理及びめっきのみを線材に施した試料である。
【0038】
<伸線性の評価>
各試料に対して、線径8mmの鋳造材を最終線径0.021mmまで伸線したときの伸線性を調べた。その結果を表1に示す。伸線性は、上述した鋳造材を20kgずつ用意し、20kg全量が伸線し終わるまでの間に発生した断線回数を測定し、20kgをその断線回数で割った値(kg/回)により評価した。
【0039】
<Cu-Ag合金線の特性>
また、得られた試料1〜4について、引張強さ(MPa)及び導電率(%IACS)を測定した。その結果も表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、混合溶湯をCuとAgとの混合物の液相点温度以上に30分以上保持して作製した鋳造材を用いると共に、線径が1.0mm以下となった線材に特定量の表面層の除去を行った試料1〜4はいずれも、伸線性が高く、線径が0.025mm未満といった極細の線材の製造であっても、断線し難いことが分かる。特に、表面層の除去を複数回行うと、より一層断線し難くなることが分かる。また、異物が少ない鋳造材を利用していても、特定の線径の線材に表面層の除去を行わないと、0.025mm未満といった非常に極細の線材を製造する場合は、断線が多発することが分かる。
【0042】
更に、得られた試料1〜4はいずれも、引張強さが大きく、導電率も高いことが分かる。これら試料1〜4の線材をそれぞれ7本ずつ用意し、7本撚りの撚り線を製造したところ、断線などが生じることなく、撚り線を作製することができた。また、得られた撚り線を中心導体として、同軸ケーブルを製造したところ、問題なく作製することができた。従って、本発明Cu-Ag合金線は、種々の電気機器に使用される配線などの導体に求められる特性を十分に具えており、上記導体に好適に利用できると期待される。
【0043】
なお、上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、Agの含有量や、表面層の除去割合、表面層の除去を行う線径、最終線径などを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明Cu-Ag合金線の製造方法は、線径が0.05mm以下といった極細の線材の製造に好適に利用することができる。本発明Cu-Ag合金線及び撚り線は、自動車や電子部品、産業用ロボットなどに利用される本発明同軸ケーブルの導体に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Agを0.5質量%以上15.0質量%以下含有する鋳造材に伸線加工を施して、最終線径が0.05mm以下の極細線を製造するCu-Ag合金線の製造方法であって、
用意した原料Cu及び原料Agを高純度のカーボンからなる坩堝で溶解し、この混合溶湯をCuとAgとの混合物の液相点温度以上に30分以上保持して、混合溶湯の表面に不純物を分離させた後、高純度のカーボンからなる鋳型を用いて前記鋳造材を作製する鋳造工程と、
前記最終線径に至るまでの伸線の途中段階にある線材において、線材の表面層を除去する表面層除去工程とを具え、
前記表面層除去工程は、線径φが1.0mm以下の細い線材の表面層を除去する細線加工工程を具え、
前記細線加工工程において表面層の除去は、表面層の除去前の線材の線径φの1/2をrとするとき、除去する表面層の厚さtがt/r≧0.02を満たすように行うことを特徴とするCu-Ag合金線の製造方法。
【請求項2】
前記表面層除去工程を複数回具えており、各工程におけるt/rの合計が0.08以上となるように表面層の除去を行うことを特徴とする請求項1に記載のCu-Ag合金線の製造方法。
【請求項3】
前記細線加工工程を経た線材の表面にめっきを施すめっき工程を具えることを特徴とする請求項1又は2に記載のCu-Ag合金線の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のCu-Ag合金線の製造方法により製造され、
Agを0.5質量%以上15.0質量%以下含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、
線径が0.05mm以下であることを特徴とするCu-Ag合金線。
【請求項5】
引張強さが800MPa以上1600MPa以下であることを特徴とする請求項4に記載のCu-Ag合金線。
【請求項6】
表面にめっきが施されており、
前記めっきは、Au,Au合金,Ag,Ag合金,Sn,Sn合金,Ni及びNi合金から選択される1種以上からなることを特徴とする請求項4又は5に記載のCu-Ag合金線。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載のCu-Ag合金線を素線として撚り合わせたことを特徴とするCu-Ag合金撚り線。
【請求項8】
請求項4〜6のいずれか1項に記載のCu-Ag合金線、又はこのCu-Ag合金線を素線として撚り合わせたCu-Ag合金撚り線を中心導体としたことを特徴とする同軸ケーブル。

【公開番号】特開2010−177055(P2010−177055A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18749(P2009−18749)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】