説明

Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法及びCu−Ga合金スパッタリングターゲット

【課題】高品質なCu−Ga合金スパッタリングターゲットを作製する。
【解決手段】Cu粉末とGaとが質量比で85:15〜55:45の割合で配合された混合粉末が不活性雰囲気中で30℃以上400℃以下の温度で合金化されて得られたCu−Ga合金粉末1を真空又は不活性雰囲気中で400℃以上900℃以下の温度で熱処理した後に、加圧して焼結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CIGS(Cu−In−Ga−Se四元系合金)太陽電池の光吸収層の形成に使用されるCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法及びCu−Ga合金スパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンエネルギーの一つとして、太陽光発電が注目されている。主に、結晶系Siの太陽電池が使用されているが、供給面やコストの問題から、変換効率の高いCIGS(Cu−In−Ga−Se四元系合金)系の太陽電池が注目されている。
【0003】
CIGS太陽電池は、基本構造として、ソーダライムガラス基板の上に形成された裏面電極となるMo電極層と、このMo電極層の上に形成された光吸収層となるCu−In−Ga−Se四元系合金膜と、このCu−In−Ga−Se四元系合金膜からなる光吸収層の上に形成されたZnS、CdSなどからなるバッファ層と、このバッファ層の上に形成された透明電極とを備える。
【0004】
Cu−In−Ga−Se四元系合金膜からなる光吸収層の形成方法としては、蒸着法が知られているが、より広い面積で均一な膜を得るために、スパッタリングにより作製された金属プリカーサ膜をセレン化する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
具体的には、Inターゲット及びCu−Ga合金スパッタリングターゲットを使用してスパッタすることにより得られたIn膜及びCu−Ga合金膜からなる積層膜をSe雰囲気中で熱処理してCu−In−Ga−Se四元系合金膜を形成する方法である。このスパッタ法により形成されたCu−In−Ga−Se四元系合金膜の品質は、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの品質に大きく依存するため、高品質なCu−Ga合金スパッタリングターゲットが望まれている。また更なる量産化のために安価なCu−Ga合金スパッタリングターゲットも望まれている。
【0006】
Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法としては、溶解法と粉末焼結法が知られている。溶解法は、溶解鋳造したCIGS系太陽電池用の組成となっているCu−Ga合金が脆くて割れやすいという問題がある。一方、粉末焼結法は、均一な組成が得られることからスパッタリングターゲットの製造方法として有望視されている。
【0007】
粉末焼結法としては、例えば、高Ga含有Cu−Ga合金粉末と、純Cu又は低Ga含有Cu−Ga合金粉末とを配合してホットプレスにてスパッタリングターゲットを製造する方法が記載されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許3249408号公報
【特許文献2】特開2008−138232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
原料のGaは、融点が29.78℃であり、極めて低融点であるため、Cu粉とGaから直接焼結体を得ることができない。このため、粉末焼結法では、原料にCu−Ga合金粉末を用いる。
【0010】
しかしながら、Cu−Ga合金粉末を用いてCu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造する場合に、Cu−Ga合金粉末の均質化反応が十分に進んでいないと、局所的にGaの液相が生成されてしまう。このような液相が生成されたCu−Ga合金粉末を加圧焼結すると、液相の漏れが発生し、割れ等の不具合が生じ、使用可能な高品質のCu−Ga合金スパッタリングターゲットを得ることができない。
【0011】
したがって、粉末焼結法において、割れ等の不具合が発生することなく、高品質なCu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造することができる方法が求められている。
【0012】
そこで、本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、高品質なCu−Ga合金粉末を作製し、割れ等の不具合が生じることなく、高品質なCu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造することができるCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法及びCu−Ga合金スパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した目的を達成する本発明に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法は、Cu粉末とGaとが質量比で85:15〜55:45の割合で配合された混合粉末を、不活性雰囲気中で30℃以上400℃以下の温度で撹拌して合金化させたCu−Ga合金粉末を真空又は不活性雰囲気中で400℃以上900℃以下の温度で熱処理した後に、加圧して焼結することを特徴とする。
【0014】
また、上述した目的を達成する本発明に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、上記Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法により製造されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、Cu粉末とGaとが質量比で85:15〜55:45の割合で配合された混合粉末を、不活性雰囲気中で30℃以上400℃以下の温度で撹拌して合金化させ、次に合金化したCu−Ga合金粉末を真空又は不活性雰囲気中で400℃以上900℃以下の温度で熱処理することによって、混合粉末の均質化反応を十分に進めることができ、局所的なGaの液相の生成が抑制された高品質なCu−Ga合金粉末を焼結することができ、焼結体に割れ等の不具合が発生せず、高品質なCu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態におけるCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法の概要を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を適用したCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法及びこの製造方法によって得られたCu−Ga合金スパッタリングターゲットについて詳細に説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。
【0018】
図1は、本実施の一実施の形態におけるCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法の概要を説明するための図である。Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法は、Cu−Ga合金粉末を製造するする製造工程(A)と、Cu−Ga合金粉末を熱処理する熱処理工程(B)と、熱処理後のCu−Ga合金粉末を焼結する焼結工程(C)と、仕上げ工程(D)とを有する。
【0019】
Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法では、Cu−Ga合金粉末の製造工程(A)で製造したCu−Ga合金粉末を、熱処理工程(B)で真空又は不活性雰囲気中で400℃以上900℃以下の温度で熱処理した後に、焼結工程(C)で加圧して焼結し、仕上げ工程(D)によりCu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造する。
【0020】
<1.Cu−Ga合金粉末の製造方法>
先ず、Cu−Ga合金粉末の製造工程(A)におけるCu−Ga合金粉末の製造方法について説明する。
【0021】
(原料)
Cu−Ga合金粉末の原料としては、Cu粉末及びGaが用いられる。Cu粉末及びGaの純度は、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットから形成されるCIGS光吸収層の特性に影響を与えないように適宜選択される。
【0022】
Cu粉末は、例えば、電解法又はアトマイズ法により製造される電解Cu粉又はアトマイズCu粉を使用することができる。電解Cu粉は、硫酸銅溶液などの電解液中で電気分解により陰極に海綿状又は樹枝状の形状のCuを析出させて製造される。アトマイズCu粉は、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、遠心アトマイズ法、メルトエクストラクション法などにより球状又は不定形の形状のCu粉末が製造される。なお、Cu粉末は、これらの方法以外で製造されたものを使用してもよい。
【0023】
Cu粉末の平均粒径は、1〜300μmであることが好ましい。Cu粉末の平均粒径が1μm未満の場合には、Cu粉末の飛散防止のための特別な取り扱いが必要となるとともに、Cu粉末のかさ容量が増加し、合金粉末製造装置が大型化し、高額な装置が必要となる。また、Cu粉末の平均粒径が300μmを越えると、Gaが被覆しなければならないCu粉末の表面積(BET)が減少して、被膜に必要となるGaの量も減少し、その結果余剰となった未反応のGaの液相が残るため、Gaを有効に利用することができない。したがって、Cu粉末の平均粒径を1〜300μmとすることによって、Cu粉末の飛散防止の措置をとる必要がなく、合金粉末製造装置の大型化を防止でき、また未反応のGaの液相を少なくでき、Gaを有効に利用することができる。
【0024】
なお、Cu粉末の平均粒径は、Cu粉末の粒度分布をレーザー回折法で測定し、小径側から存在比率(体積基準)を積算して、その値が全粒径に渡った存在比率の積算値の半分になる粒径(D50)である。
【0025】
Gaは、融点が低い金属(融点:29.78℃)であり、加熱により容易に融解する。融解したGaは、Cu粉末を被覆して二元系合金化する。Gaの形状には、制限はないが、小片であると秤量が容易である。小片は、Gaを室温近傍で溶解して鋳造し、鋳造物を砕いて得ることができる。
【0026】
(配合)
Cu粉末とGaとは、質量比で85:15〜55:45の割合で配合する。Ga量が15質量%以上であることにより、Gaによる均一被覆が可能となると共に、得られた粉末を焼結した際に均一な合金組織にすることが可能となる。また、Ga量が45質量%以下であることにより、Cu粉末の間に存在する多量のGaによってCu粉末同士が結合して塊状になるのを防ぐことができ、合金粉末の収率を向上させることができる。
【0027】
また、Gaの含有量は、25〜41質量%であることが好ましい。Gaが25質量%以上であることにより、短時間で均一にCu粉末を被覆することができ、また、Gaが41質量%以下であることにより、短時間で被覆したGaを合金化することができる。したがって、Gaの含有量を25質量%以上、41質量%以下とすることによって、短時間で均一な合金粉末を製造することができる。
【0028】
(合金化)
上述した質量比でCu粉末とGaとが配合された混合粉末を、不活性雰囲気中で30℃以上400℃以下の温度で攪拌して合金化し、図1に示すようにCu−Ga合金粉末1を作製する。具体的には、上述した質量比で秤量したCu粉末とGa小片を、混合装置2に投入し、加熱手段3で30℃以上400℃以下の範囲で温度を制御し、攪拌機4で撹拌することにより、Cu粉末とGaとを混合し、Cu粉末の表面又は内部にGaが分散したCu−Ga二元系合金粉末1を作製する。
【0029】
Cu−Ga合金粉末1は、次のような過程を経て形成されるものと考えられる。融点を超えて液体となったGaは、混合のせん断運動によって小さな液滴になりながらCu粉末間に均一に分散する。分散したGa液滴は、Cu粉末の周囲に付着し、Cu粉末とGa液滴が接触するとCu粉末にGaの拡散が始まり、Ga濃度が高まるともにCu−Ga金属間化合物を生成しながら合金化反応が進行する。このとき、Cu−Ga合金粉末1の表面は、Ga濃度の高いCu−Ga金属間化合物層であって、中心部は純Cu又はGaを固溶したCu相となる。
【0030】
このCu粉末とGaとの混合は、均一な合金化反応の進行に有効である。また、混合のせん断運動は、粉同士の固着による塊状物の生成も抑制していると思われる。塊状物が生成してしまうと、ホットプレスなどの焼結工程において、焼結体中に空孔が生成したりし、密度が不均一になってしまう。
【0031】
Cu粉末とGaの混合及び合金化のための加熱には、容器内を攪拌羽根や攪拌ブレード等の攪拌機4が運動する混合装置2を使用することができる。また、円筒、ダブルコーン、ツインシェルなどの回転容器型の混合装置を使用してもよい。また、容器の内部にボールを投入して混合を強化してもよい。
【0032】
容器材質は、加熱に対する耐熱性と、Ga及びCu−Ga合金の付着抑制の観点から選ばれる。容器としては、例えば、ホウケイ酸ガラス、石英ガラスなどのガラス容器、アルミナやジルコニアなどのセラミックス容器、テフロン樹脂容器、テフロン被覆容器、ホーロー容器などが使用できる。
【0033】
このようにして作製されたCu−Ga合金粉末1は、強度、成形性に優れているのみならず、作製温度が低温であるがゆえに作製に用いる装置が簡便となるため、安価に合金粉末を作製できるという利点を有する。
【0034】
また、Cu粉末とGaの混合及び合金化は、アルゴンガスや窒素ガスといった不活性ガス雰囲気中で行う。不活性ガス雰囲気中で加熱・混合することにより、合金粉末の酸素含有量の増加を抑制することができる。
【0035】
<2.Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法>
次に、上述したCu−Ga合金粉末1を用いたスパッタリングターゲットの製造方法について説明する。先ず、Cu−Ga合金粉末1を熱処理する熱処理工程(B)について説明する。
【0036】
Cu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造するにあたって、Cu−Ga二元系合金のCu−Ga合金粉末1は組成と温度によって様々な相が存在するため、状態図に基づいて以下の熱処理の条件及び焼結条件を決める必要がある。
【0037】
(熱処理)
Cu−Ga合金粉末1の熱処理は、ホットプレス装置5の高温で耐熱性を有する型6にCu−Ga合金粉末1を入れて行う。熱処理をホットプレス装置5内で行うことによって、後の焼結工程(C)も同一のホットプレス装置5内で行うことができる。熱処理は、真空又は不活性雰囲気中において、Cu−Ga合金粉末1を400℃以上900℃以下に加熱することにより行う。
【0038】
熱処理温度を400℃未満とすると、均質化反応が十分に進まず局所的にGaリッチな液相が出現し、その後の加圧焼結により液相の漏れが発生してしまう。熱処理温度を900℃より高くすると、いかなる組成であっても液相が出現し、焼結体を作製することができなくなってしまう。したがって、熱処理温度を400℃以上900℃以下の範囲とすることによって、局所的にGaリッチな液相が出現しないため、液相漏れを防止でき、後の焼結工程(C)で焼結体を作製することができる。
【0039】
また、熱処理の際には、Cu−Ga合金粉末1に対して無負荷とするか、又は0.1MPa以下の圧力とすることが好ましい。Cu−Ga合金粉末1に0.1MPa以下の圧力を加える場合には、ホットプレス装置5の上パンチ7の自重によって加える。0.1MPa以下の圧力というのは、ホットプレス装置5の上パンチ7の自重による圧力に相当し、無負荷又は0.1MPa以下の圧力というのは実質的にCu−Ga合金粉末1に圧力がかかっていない状態である。
【0040】
熱処理において、Cu−Ga合金粉末1に対して無負荷、又は圧力を0.1MPa以下とすることによって、仮に局所的にGaの液相が出現したとしても、液相がホットプレス装置5のプレス型から押し出されず、十分にCu−Ga合金粉末1の均質化反応を進めることができ、後の焼結工程(C)でCuとGaの組成に変化がない高品質な焼結体を作製することができる。
【0041】
また、熱処理時間は、1時間以上8時間以下とすることが好ましい。熱処理時間を1時間以上とすることによって、CuとGaの拡散が十分に進み、未反応のCuGa相が残ることを防止できる。熱処理時間を8時間以下とすることによって、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造のための時間がかかり過ぎず、安価にCu−Ga合金スパッタリングターゲットを作製することができる。したがって、熱処理時間を1時間以上8時間以下とすることによって、CuとGaの拡散が十分に進み、未反応のCuGa相が残らず、熱処理工程を設けたことによるCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造時間が長くなり過ぎずにCu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造することができる。
【0042】
以上のように、Cu−Ga合金粉末1を焼結の前に、真空又は不活性雰囲気中でCu−Ga合金粉末1を400℃以上900℃以下で熱処理することによって、Cuの中心部にGaが拡散し、Gaの液相の出現が抑えられる。
【0043】
また、このCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法では、Gaの液相が出現したとしても液相がホットプレス装置5から押し出されることがないため、Cu−Ga合金粉末1の組成に変化がなくCu−Ga合金粉末1の均質化反応を進めることができ、後の焼結工程(C)で高品質な焼結体を作製することができる。
【0044】
更に、熱処理において、Cu−Ga合金粉末1に対して無負荷、又は0.1MPa以下の圧力となるようにすることで、仮に局所的にGaの液相が出現したとしても、液相がホットプレス装置5のプレス型から押し出されることなく、均質化反応を進めることができる。
【0045】
また、熱処理において、熱処理時間を1時間以上8時間以下とすることによって、CuとGaの拡散を十分に進ませることができ、また熱処理時間が長くなり過ぎずに熱処理を行うことができる。
【0046】
(焼結)
次に、Cu−Ga合金粉末1を加圧して焼結する焼結工程(C)について説明する。焼結は、真空中又は不活性ガス雰囲気中において、上記熱処理後のCu−Ga合金粉末1をホットプレス装置5の上パンチ7と下パンチ8とで挟み込み、ホットプレス圧力を5MPa以上30MPa以下程度にして加圧焼結する。即ち、焼結は、ホットプレス法にて行う。ホットプレス法によれば、高密度の焼結体を安価に得ることができる。
【0047】
焼結は、熱処理で用いたホットプレス装置5からCu−Ga合金粉末1を取り出さず、熱処理を行った後に引き続いて同一のホットプレス装置5で加圧焼結を行う。これにより、熱処理装置を別に用意する必要はなく、熱処理冷却時間が不要であり、引き続いてプレス圧力を掛けるので合金粉が凝集していても粉砕等の措置をとる必要がなく、容易に焼結を行うことができる。また、同一のホットプレス装置5内で熱処理も焼結も行うことによって、熱処理によりGaの液相が生成されても、液相が漏れることがないため、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの組成が変化したり、収率が低くなることも防止できる。
【0048】
このように、Cu−Ga合金粉末1は、焼結することにより、GaがCuに拡散するため、均一に合金化したCu−Ga合金焼結体を得ることができる。
【0049】
(仕上げ)
仕上げ工程(D)は、焼結工程(C)によって得られたCu−Ga合金の焼結体の表面を研削により平面に仕上げ、Cu製のバッキングプレートにボンディングすることにより、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットを得ることができる。
【0050】
以上のように、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法では、Cu粉末とGaとが85:15〜55:45の割合で配合された混合粉末を、不活性雰囲気中で30℃以上400℃以下の温度で撹拌して合金化させたCu−Ga合金粉末を真空又は不活性雰囲気中で400℃以上900℃以下の温度で熱処理をすることによって、Cu−Ga合金粉末1の均質化反応を十分に進めることができ、焼結体に割れ等の不具合が発生することなく、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造することができる。これにより、この製造方法では、高品質なCu−Ga合金スパッタリングターゲットを得ることができる。
【0051】
なお、上述のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法では、熱処理及び焼結を同一のホットプレス装置で行ったが、このことに限らず、真空熱処理炉等の他の加熱装置を用いて熱処理を行い、ホットプレス装置で焼結を行ってもよい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
実施例1では、アルゴンガス雰囲気にしたグローブボックス内に、マントルヒーターにセットした容量300mLの磁器製ビーカーと、この磁器製ビーカーにガラス製攪拌羽根を取り付けた攪拌装置とを設置した。
【0054】
先ず、Cu−Ga合金粉末を作製した。アトマイズCu粉末(平均粒径106μm)を68.0g、Gaの小片を32.0g秤量し、ビーカーに投入して攪拌しながら230℃、45分間、アルゴンガス雰囲気中で加熱混合を実施してCu−Ga合金粉末を作製した。
【0055】
次に、Cu−Ga合金粉末を熱処理した。熱処理は、ホットプレス装置(大亜真空株式会社製)を用い、直径60mmの黒鉛製プレス型にCu−Ga合金粉末を投入し、真空度5×10−3Paに真空排気した後、上プレスの自重による0.1MPaの圧力がかかった状態で700℃で1時間熱処理をした。
【0056】
次に、熱処理後のCu−Ga合金粉末を焼結した。熱処理後、700℃で保持したまま24.3MPaの圧力をかけて1時間、焼結を行い、直径60mm、厚さ4.2mmのCu−Ga合金の焼結体を作製した。
【0057】
プレス型から取り出した焼結体には割れは見られなかった。
【0058】
また、Cu−Ga合金焼結体に対して平面研削を行い、機械加工により直径60mm、厚さ3.7mmのサイズに仕上げ、Cu製バッキングプレートにボンディングしてCu−Ga合金スパッタリングターゲットとした。
【0059】
(実施例2)
実施例2では、Cu−Ga合金粉末の原料のアトマイズCu粉を55.0g、Gaの小片を45.0g秤量し、熱処理温度を400℃とした以外は実施例1と同じようにしてCu−Ga合金の焼結体を作製した。プレス型から取り出した焼結体に割れは見られなかった。そして、実施例1と同様に、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットを作製した。
【0060】
(実施例3)
実施例3では、原料のアトマイズCu粉を85.0g、Gaの小片を15.0g秤量し、熱処理温度を900℃とした以外は実施例1と同じようにしてCu−Ga合金の焼結体を作製した。プレス型から取り出した焼結体に割れは見られなかった。そして、実施例1と同様に、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットを作製した。
【0061】
(実施例4)
実施例4では、熱処理時間を8時間とした以外は実施例1と同じようにしてCu−Ga合金焼結体を作製した。プレス型から取り出した焼結体に割れは見られなかった。そして、実施例1と同様に、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットを作製した。
【0062】
(実施例5)
実施例5では、アトマイズCu粉末の平均粒径を1μmとした以外は実施例1と同じようにしてCu−Ga合金の焼結体を作製した。プレス型から取り出した焼結体に割れは見られなかった。そして、実施例1と同様に、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットを作製した。なお、熱処理については、上パンチがない状態(無負荷)でホットプレス装置内で熱処理を行った。この後、室温まで冷却して、上パンチをセットして加圧焼結を行った。
【0063】
(実施例6)
実施例6では、Cu粉末として平均粒径が300μmの電解Cu粉末を用いた以外は実施例1と同じようにしてCu−Ga合金の焼結体を作製した。プレス型から取り出した焼結体に割れは見られなかった。そして、実施例1と同様に、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットを作製した。
【0064】
(実施例7)
実施例7では、実施例1と同様にしてCu−Ga合金粉末を作製した。この合金粉を真空熱処理炉(東京真空株式会社製)に投入し、真空度5×10−3Paに真空排気した後、無負荷の状態で、700℃で1時間熱処理を行った。16時間冷却して室温になったところで取り出したところ、合金粉は凝集していたので、乳鉢を用いて解砕した。
【0065】
解砕した合金粉をホットプレス装置(大亜真空株式会社製)の直径60mmの黒鉛製プレス型に投入し、真空度5×10−3Paに真空排気した後、700℃、24.3MPa、1時間の加圧焼結を行った結果、直径60mm、厚さ3.4mmのCu−Ga合金焼結体が得られた。
【0066】
この実施例7は、熱処理及び焼結を同一のホットプレス装置で行った実施例1〜6とは異なり、熱処理を真空熱処理炉で行い、焼結をホットプレス装置で行った。
【0067】
(比較例1)
比較例1では、加圧する前の熱処理をせず、加圧したまま昇温し、700℃で2時間30分焼結した以外は実施例1と同じようにしてCu−Ga合金の焼結体を作製した。その結果、液相の漏れに伴い焼結体に割れが発生し、スパッタリングターゲットとして用いることはできなかった。
【0068】
実施例1〜実施例7及び比較例1のCu−Ga合金粉末、熱処理、加圧焼結の条件、焼結体の収率を表1に示す。焼結体の収率とは、仕込んだCu−Ga合金粉末重量に対する得られた焼結体の重量の割合であり、(焼結体の重量/Cu−Ga合金粉末重量)×100により求めた値である。
【0069】
【表1】

【0070】

以上の実施例1〜実施例7に示すように、Cu粉末とGaとを所定の割合で配合し、合金化することにより得られた高品質なCu−Ga合金粉末を無負荷で所定の温度及び時間で熱処理をした後に、加圧して焼結することで、液相が生成せず、割れが発生することなく高品質なCu−Ga合金の焼結体を作製することができる。
【0071】
一方、比較例1では、実施例のように焼結前に熱処理を行っていないため、液相漏れによる割れが発生し、Cu−Ga合金の焼結体を作製することができなかった。
【0072】
また、実施例1〜6では、Cu−Ga合金粉末の熱処理及び焼結を同一のホットプレス装置内で行っているため、Cu−Ga合金粉末の重量にほとんど変化がなく、焼結体の収率が98%以上で高くなっている。これに対して、実施例7では、Cu−Ga合金粉末の熱処理を真空熱処理炉で行い、焼結をホットプレス装置で行い、熱処理と焼結を別の装置で行っているため、真空熱処理炉内にCu−Ga合金粉末が残存してしまったこと等から、Cu−Ga合金粉末の重量が減少し、焼結体の収率が低くなった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法は、高品質で安価なCu−Ga合金ターゲットを製造することに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu粉末とGaとが質量比で85:15〜55:45の割合で配合された混合粉末を不活性雰囲気中で30℃以上400℃以下の温度で合金化して得られたCu−Ga合金粉末に対して、真空又は不活性雰囲気中で400℃以上900℃以下の温度で熱処理を行った後、加圧して焼結することを特徴とするCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項2】
上記熱処理の時間は、1時間以上8時間以下であることを特徴とする請求項1記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項3】
上記Cu粉末の平均粒径が1μm〜300μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項4】
上記熱処理及び上記焼結は、同一のホットプレス装置内で上記熱処理に続けて上記焼結を行い、
上記熱処理は、上記混合粉末に対して無負荷、又は0.1MPa以下の圧力で行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法により製造されることを特徴とするCu−Ga合金スパッタリングターゲット。

【図1】
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【公開番号】特開2012−72466(P2012−72466A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219415(P2010−219415)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】