説明

Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材、それを用いた薄膜トランジスタ配線及び薄膜トランジスタ

【課題】高いバリア性を有するCu−Mn合金膜を形成する。
【解決手段】半導体素子の配線の形成に用いられるCu−Mn合金スパッタリングターゲット材10であって、濃度が8原子%以上30原子%以下のMnと、不可避的不純物とを含むCu−Mn合金からなり、Cu−Mn合金の平均結晶粒径が10μm以上50μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材、それを用いて形成されたCu−Mn合金膜を有する薄膜トランジスタ配線及び薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶パネルの大画面化や高精細化が進んでいる。パネルメーカーでは、更なる臨場感を求めてスーパーハイビジョン(高画角化)や裸眼3Dパネルの実現を目指している。これにしたがい、液晶パネルに用いられる薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)についても、現行のアモルファスシリコン(α−Si)半導体を用いたものから、高移動度による高速動作が可能で、閾値電圧のバラツキが少なく、駆動電流均一性に優れた酸化物半導体を用いたTFTの開発が、急ピッチで進められている。酸化物半導体としては、酸化インジウムガリウム亜鉛(InGaZnO:以下、IGZOとも記載する)や酸化亜鉛(ZnO)等の材料の研究が進められており、これらの材質に適した配線電極材料の検討が必要となっている。
【0003】
配線電極材料について、α−Si系TFTの例でその動向をみると、動作速度を高速化するため、従来のアルミニウム(Al)配線よりも低抵抗の銅(Cu)配線への切り替えが進んでいる。一方で、Al配線やCu配線等のメタル配線とα−Si半導体との界面には、拡散バリア膜となるモリブデン(Mo)膜やチタン(Ti)膜が使用されてきたが、MoやTiには材料コストが高いという課題があった。そこで、液晶パネルの製造コスト低減のため、代替となる合金や製造プロセスが検討されている。
【0004】
例えば特許文献1,2及び非特許文献1には、銅−マンガン(Cu−Mn)合金をα−Si系TFTの全ての電極(ソース−ドレイン及びゲート)に適用することが開示され、その有効性が実証されている。
【0005】
また、非特許文献2には、テトラエトキシシラン(TEOS)ガスを用いたプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)により成膜した酸化シリコン(SiO2)膜上に、スパッタリングにより成膜したCu−Mn合金膜について開示されている。係る構成においては、熱処理によりCu−Mn合金膜中のMnがSiO2膜の界面に移動し、SiO2膜から拡散した酸素(O)と反応してMnの酸化膜からなる拡散バリア膜が形成される。非特許文献2では、拡散バリア膜の形成にあたり、熱処理温度、熱処理時間及びMnの濃度と、拡散バリア膜の厚さとの関係について検討しており、これによれば、Mnの濃度が高いほど拡散バリア膜の厚さが増加し、30原子%以上の添加量で拡散バリア膜の成長が飽和する。係る結果については、合金の融点が低下していく間は添加元素の拡散係数が増加するという一般的な傾向に一致するとの考察がなされている。Cu−Mn合金の融点は、Mn濃度が30原子%付近で最小を示す。したがって、Mnの濃度が30原子%まではCu−Mn合金膜中のMnの拡散係数は増加し、拡散バリア膜の成長が促進される。一方、Mnの濃度が30原子%を超えると、添加元素の供給量が充分であってもMnの拡散係数は減少傾向となり、拡散バリア膜の成長が飽和する。
【0006】
また、非特許文献3には、Cu−4原子%Mn合金膜をIGZO系TFTに採用し、良好な結果が得られた旨が開示されている。すなわち、IGZO膜上に、スパッタリングによりCu−4原子%Mn合金膜を成膜し、一般的なTFTの製造プロセス温度に近い250℃で熱処理を行う。これにより、合金膜の界面に酸化マンガン(MnOx)膜を形成し、合金膜中のCuがIGZO膜中へ拡散することを抑制する。非特許文献3によれば、係る積層膜においては良好なオーミック特性が得られ、接触抵抗が10-4Ωcmと充分低い値が得られたとある。また、電極の加工性についても、ウェットエッチングにより良好な結果が得られている。具体的には、硝酸系のエッチャントを使用しており、Cu−4原子%Mn合金膜とIGZO膜とのエッチングレートの選択比は10:1であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−050112号公報
【特許文献2】特開2008−261895号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】大西 順雄、外1名、"大型TFT液晶パネルのゲート電極とソース・ドレイン電極を共にCu配線にするCu−Mn合金プロセス技術を東北大が開発≪訂正あり≫"、[online]、2008年9月9日、日経BP社「Tech-On!」、[2011年5月11日検索]、インターネット<URL:http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080909/157714>
【非特許文献2】M.Haneda, J.Iijima, and J.koike,"Growth behavior of self-formed barrier at Cu-Mn/SiO2 interface at 250-450℃,"APPLIED PHYSICS LETTERS 90.252107(2007)
【非特許文献3】Pilsang Yun, Junichi Koike,"Microstructure Analysis and Electrical Properties of Cu-Mn Electrode for Back-Channel Etching a-IGZO TFT,"17th International Display Workshops(IDW'10),pp.1873-1876
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者等は、上記の非特許文献3の結果を検証すべく、上記に倣ってIGZO系TFTを製作した。電極構造は、低抵抗の純Cu膜をCu−Mn合金のバリア膜で挟んだCu−Mn/Cu/Cu−Mn構造のスパッタリング積層膜とした。また、ソース−ドレイン電極上にはSiO2膜からなる保護膜を形成した。その結果、充分な拡散バリア性が得られた非特許文献3と異なり、IGZO膜中へのCuの拡散が原因と思われる素子特性のバラツキがみられた。また、SiO2保護膜を形成する際の純Cu膜の酸化が原因と思われる配線の抵抗値の上昇がみられ、耐酸化性も不充分であった。係る結果から、より高い拡散バリア性及び酸化バリア性(耐酸化性)を有するCu−Mn合金膜を得ることが急務の課題である。
【0010】
本発明の目的は、高いバリア性を有するCu−Mn合金膜を形成することができるCu−Mn合金スパッタリングターゲット材、それを用いた薄膜トランジスタ配線及び薄膜トランジスタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様によれば、半導体素子の配線の形成に用いられるCu−Mn合金スパッタリングターゲット材であって、濃度が8原子%以上30原子%以下のMnと、不可避的不純物とを含むCu−Mn合金からなり、前記Cu−Mn合金の平均結晶粒径が10μm以上50μm以下であるCu−Mn合金スパッタリングターゲット材が提供される。
【0012】
本発明の第2の態様によれば、Cu−Mn合金膜と、純Cu膜と、Cu−Mn合金膜と、がこの順に形成された積層構造を基板上に有し、前記Cu−Mn合金膜の少なくとも一方は、第1の態様に記載のCu−Mn合金スパッタリングターゲット材を用いて形成され、濃度が8原子%以上30原子%以下のMnと、不可避的不純物とを含むCu−Mn合金からなる薄膜トランジスタ配線が提供される。
【0013】
本発明の第3の態様によれば、前記Mnの濃度が8原子%以上30原子%以下である前記Cu−Mn合金膜中の前記Mnの濃度の標準偏差が0.05原子%未満である第2の態様に記載の薄膜トランジスタ配線が提供される。
【0014】
本発明の第4の態様によれば、第2又は第3の態様に記載の薄膜トランジスタ配線が、InGaZnO膜から構成される酸化物半導体を介して前記基板上に形成されている薄膜トランジスタが提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高いバリア性を有するCu−Mn合金膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るCu−Mn合金スパッタリングターゲット材が装着されたスパッタリング装置の縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る薄膜トランジスタの概略断面図である。
【図3】本発明の実施例1〜12及び比較例1〜7に係る評価サンプルの説明図であって、(a)はCu−Mn/Cu/Cu−Mn積層膜がブロック状に複数個形成された評価サンプルの平面図であり、(b)はCu−Mn/Cu/Cu−Mn積層膜の1ブロックを示す斜視図である。
【図4】本発明の実施例1〜12及び比較例1〜7に係る評価サンプルのシート抵抗を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例1,4,7,10及び12〜15並びに比較例8〜17に係る評価サンプルの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上述のように、非特許文献3にしたがって、スパッタリングにより形成されるCu−Mn合金膜を含む配線をIGZO系TFTに適用したところ、IGZO膜に対して充分な拡散バリア性が得られなかった。つまり、TFT基板内の領域によってはCu−Mn合金膜中のCuがIGZO膜中に拡散してしまい、素子特性にバラツキが生じてしまった。また、配線上にSiO2膜からなる保護膜を形成する際、Cu−Mn合金膜の下層の純Cu膜に対して充分な酸化バリア性(耐酸化性)が得られず、純Cu膜が酸化されて配線の抵抗値が上がってしまった。
【0018】
本発明者等は、TFT基板内で素子特性にバラツキがあったことから、拡散バリア性の不足はCu−Mn合金膜中の基板内でのMnの濃度ムラによるものと推測した。つまり、IGZO膜上のCu−Mn合金膜に熱処理を施してMnOxを形成する際、TFT基板内のMnの濃度の低い部分ではMnOxが形成されるまでにCuがIGZO膜中に拡散してしまうと考えた。また、酸化バリア性が不足していることから、Cu−Mn合金膜中のMnの濃度の適正化が必要であると考えた。
【0019】
係る考察を基に、本発明者等は、Cu−Mn合金膜のIGZO膜に対する拡散バリア性及び純Cu膜に対する酸化バリア性を向上させるべく、Cu−Mn合金膜の形成に用いるスパッタリングターゲット材の組成及び結晶構造等の諸特性を検討することから開始し、鋭意研究を重ねた。その結果、Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材中の結晶粒径と、これを用いて成膜されたCu−Mn合金膜中のMnの濃度ムラとの間には、相関関係があることを見いだした。また、充分な酸化バリア性を得るために必要なMnの濃度の適正値についても知見を得た。
【0020】
本発明は、発明者等が見いだした上記知見に基づくものである。
【0021】
<本発明の一実施形態>
(1)Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材
以下に、本発明の一実施形態に係る銅−マンガン(Cu−Mn)合金スパッタリングターゲット材10(後述の図1を参照)について説明する。Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材10は、例えば所定の外径と厚さとを備える円板型に形成され、各種半導体素子の配線の形成等に用いられるよう構成される。
【0022】
Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材10を構成するCu−Mn合金は、純度が共に3N(99.9%)以上の無酸素銅(OFC:Oxygen-Free Copper)と純マンガン(Mn)とが所定比率で配合された合金である。すなわち、Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材10は、例えば濃度が8原子%以上30原子%以下のMnと、不可避的不純物とを含むCu−Mn合金からなる。
【0023】
上記所定濃度のMnを含むCu−Mn合金スパッタリングターゲット材10を用いると、係る濃度と略同等の濃度のMnを含むCu−Mn合金膜が成膜される。Cu−Mn合金膜中のMnの濃度が上記所定値以上、つまり、例えば8%以上となることで、例えば後述するTFT配線の積層構造において、Cu−Mn合金膜の下層となる純Cu膜等に対して充分な酸化バリア性を得ることができる。また、Cu−Mn合金膜中のMnの濃度が上記所定値以下、つまり、例えば30%以下となることで、例えば上記積層構造において、IGZO膜や純Cu膜等のCu−Mn合金膜と接する膜中にMnが拡散することを抑制できる。
【0024】
また、Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材10を構成するCu−Mn合金は、その平均結晶粒径が例えば10μm以上50μm以下に調整されている。
【0025】
本発明者等が見いだした上述の結晶粒径とMnの濃度ムラとの相関関係によれば、Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材10中の結晶粒径が微細になるほど、Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材10を用いて成膜したCu−Mn合金膜中のMnの濃度ムラが低減し、TFT基板面内のMnの濃度の均一性が向上する。よって、上記のように、平均結晶粒径を例えば50μm以下とすることで、より均一なCu−Mn合金膜を形成することができ、素子特性のバラツキを低減することができる。
【0026】
以上のようにCu−Mn合金スパッタリングターゲット材10を構成することで、係るCu−Mn合金スパッタリングターゲット材10を用いて、高い拡散バリア性及び酸化バリア性を有するCu−Mn合金膜を形成することができる。
【0027】
Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材10を構成するCu−Mn合金は、上述のTFTで拡散バリア膜として用いられるMoやTi等に比べて材料コストが安い。上記構成により、Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材10をTFTの製造に好適に適用することができ、例えばバリア膜等をCu−Mn合金膜から構成することができるので、TFTや液晶パネルの製造コストの大幅な低減を図ることができる。
【0028】
(2)Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材の製造方法
次に、本発明の一実施形態に係るCu−Mn合金スパッタリングターゲット材10の製造方法について説明する。
【0029】
まず、純度が共に3N(99.9%)以上の無酸素銅と純Mnとを所定比率で配合し、例えば1100℃以上1200℃以下の温度で溶解し鋳造して、例えば濃度が8原子%以上30原子%以下のMnと、不可避的不純物とを含むCu−Mn合金のインゴットを形成する。
【0030】
次に、このインゴットを例えば800℃以上900℃以下の温度で熱間鍛造した後、例えば50%以上70%以下の加工度となるよう冷間圧延を行う。ここで、加工度とは、圧延によるインゴットの厚さの減少率((圧延後のインゴットの厚さ/圧延前のインゴットの厚さ)×100(%))である。
【0031】
続いて、冷間圧延後のインゴットに対し、700℃以上900℃以下の温度で熱処理を施し、インゴットを構成するCu−Mn合金の再結晶化を図る。
【0032】
ここで、冷間圧延の加工度と、その後の熱処理の温度とを所定の組み合わせとすることで、Cu−Mn合金中の結晶粒径を調整することができる。このとき、熱処理の温度が高いと結晶粒径が粗大化する。具体的には、冷間圧延の加工度と熱処理の温度との組み合わせを上記のそれぞれの範囲内から選択し、例えば10μm以上50μm以下の微細結晶粒からなるCu−Mn合金を得る。
【0033】
その後、上記所定の結晶構造となったインゴットに鏡面研磨等の機械加工を施して、例えば所定の外径及び厚さを備える円板型に成形する。
【0034】
以上により、Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材10が製造される。
【0035】
(3)Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材を用いた成膜方法
次に、本発明の一実施形態に係るCu−Mn合金スパッタリングターゲット材10を用いたスパッタリングにより、Cu−Mn合金膜を成膜する方法について、図1を用いて説明する。
【0036】
図1は、本発明の一実施形態に係るCu−Mn合金スパッタリングターゲット材10が装着されたスパッタリング装置20の縦断面図である。なお、図1に示すスパッタリング装置20はあくまでも一例であって、Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材10は、この他、種々のタイプのスパッタリング装置に装着して用いることができる。
【0037】
図1に示すように、スパッタリング装置20は、真空チャンバ21を備えている。真空チャンバ21内の上部には基板保持部22sが設けられ、成膜対象となる基板Sが、成膜される面を下方に向けて保持される。真空チャンバ21内の底部にはターゲット保持部22tが設けられ、例えばCu−Mn合金スパッタリングターゲット材10が、基板Sの被成膜面と対向するよう、スパッタ面を上方に向けて保持される。なお、スパッタリング装置20内に複数の基板Sを保持して、これら基板Sを一括処理、或いは連続処理してもよい。
【0038】
また、真空チャンバ21の一方の壁面にはガス供給管23fが接続され、ガス供給管23fと対向する他方の壁面にはガス排気管23vが接続されている。ガス供給管23fには、アルゴン(Ar)ガス等の不活性ガスを真空チャンバ21内に供給する図示しないガス供給系が接続されている。ガス排気管23vには、Arガス等の真空チャンバ21内の雰囲気を排気する図示しないガス排気系が接続されている。
【0039】
係るスパッタリング装置20にて基板Sへの成膜を行う際は、Arガス等を真空チャンバ21内に供給し、Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材10にアース接続し、基板Sに正の高電圧が印加されるよう、真空チャンバ21に対してDC放電電力を投入する。
【0040】
これにより、主にCu−Mn合金スパッタリングターゲット材10と基板Sとの間にプラズマが生成され、プラスのアルゴン(Ar+)イオンGが、Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材10のスパッタ面に衝突する。Ar+イオンGの衝突により、Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材10から叩き出されたCu及びMnのスパッタ粒子Pが基板Sの被成膜面へと堆積されていき、基板S上には、Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材10と略同等のMnの濃度を有するCu−Mn合金膜Mが形成される。すなわち、Cu−Mn合金膜Mは、例えば濃度が8原子%以上30原子%以下のMnと、不可避的不純物とを含む。
【0041】
また、このとき、上述したように、Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材10中の平均結晶粒径は10μm以上50μm以下と微細であるので、Cu−Mn合金膜M中のMnの濃度の標準偏差が例えば0.05原子%未満と、Mnの濃度ムラが少なく良好な均一性を有するCu−Mn合金膜Mが形成される。本発明者等によれば、ときにプラズマに異常放電を生じさせる粗大な結晶粒とは異なり、微細結晶粒にはプラズマの安定性を阻害する要因が少ない。よって、より安定した均一なプラズマが保たれることで、形成されるCu−Mn合金膜M中のMnの濃度の均一性が向上するものと推察される。
【0042】
以上、本実施形態によれば、Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材10を用い、高い拡散バリア性及び酸化バリア性を有するCu−Mn合金膜を形成することができる。このようにCu−Mn合金膜Mが形成された基板Sは、例えば所望の配線パターンにCu−Mn合金膜Mをパターニングして配線が形成された後、TFTをはじめとする各種の半導体素子として利用される。
【0043】
(4)薄膜トランジスタの構造
Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材10を用いて形成したCu−Mn合金膜は、上述のように、例えばInGaZnOより構成されるIGZO膜を備える薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)配線として適用することが可能である。以下に、その一例として、薄膜トランジスタとしてのIGZO系TFT30の構造について、図2を用いて説明する。図2は、本実施形態に係るIGZO系TFT30の概略断面図である。
【0044】
図2に示すように、IGZO系TFT30は、例えばガラス基板31と、ガラス基板31上に形成されたゲート電極32と、ゲート電極32上のソース電極35S及びドレイン電極35D(以下、ソース−ドレイン電極35S,35Dともいう)と、を備える。これらの電極32,35S,35Dは例えば素子ごとに形成され、ガラス基板31は例えば素子ごとに矩形形状等に切り出されている。或いは、ガラス基板31は、複数のIGZO系TFT30がアレイ状に配列されて切り出されていてもよい。
【0045】
ゲート電極32には、例えば図示しないゲート配線が接続され、ゲート電極32上には、ゲート絶縁膜33を介して、所定パターンに成形された酸化物半導体としてのチャネル部34が形成されている。ゲート絶縁膜33は、例えば窒化シリコン(SiN)又は酸化シリコン(SiO2)等からなる。また、チャネル部34は、例えばInGaZnO4を原料として、スパッタリング等により形成された酸化インジウムガリウム亜鉛(InGaZnO:IGZO)膜からなる。
【0046】
チャネル部34上には、チャネル部34が備えるバックチャネル34bを挟んで所定パターンに成形されたソース−ドレイン電極35S,35Dが形成されている。ソース−ドレイン電極35S,35Dには、図示しないソース−ドレイン配線が接続されている。ソース−ドレイン配線には、外部と電気信号をやり取りする図示しない電極パッドが形成されている。
【0047】
主に、ソース−ドレイン電極35S,35D、ソース−ドレイン配線、及び電極パッド等により、本実施形態に係る薄膜トランジスタ(TFT)配線が構成される。
【0048】
ソース−ドレイン電極35S,35Dを含むTFT配線は、ガラス基板31側から順に、Cu−Mn合金膜としての下部バリア膜35bと、純Cu膜としての中間膜35mと、Cu−Mn合金膜としての上部バリア膜35tと、がこの順に積層された積層構造を有する。
【0049】
下部バリア膜35b及び上部バリア膜35tは、いずれか一方あるいは両方が上述のCu−Mn合金スパッタターゲット材10を用いて形成され、例えば濃度が8原子%以上30原子%以下、係る濃度の標準偏差が例えば0.05原子%未満のMnと、不可避的不純物とを含むCu−Mn合金からなる。また、下部バリア膜35b及び上部バリア膜35tは、例えば膜厚が50nm以上100nm以下に形成されている。
【0050】
中間膜35mは、例えば純度が3N(99.9%)以上の無酸素銅を原料として、スパッタリング等により形成された純Cuからなる。また、中間膜35mは、例えば膜厚が200nm以上300nm以下に形成されている。
【0051】
このように、低抵抗の純Cuからなる中間膜35mを、Cu−Mn合金からなるバリア膜35b,35tで挟んだ構造とすることで、ソース−ドレイン電極35S,35DやTFT配線の抵抗を抑えることができる。また、形成したCu−Mn/Cu/Cu−Mn積層膜に熱処理を施すことで、チャネル部34と下部バリア膜35bとの界面(IGZO膜/Cu−Mn合金膜)に酸化マンガン(MnOx)膜が形成され、例えば下部バリア膜35bの拡散バリア性を高めることができる。
【0052】
また、ガラス基板31上の略全面には、ソース−ドレイン電極35S,35D及び露出したバックチャネル34bを覆って保護膜36が形成されている。
【0053】
保護膜36は、例えばプラズマCVD等により形成されたSiO2からなり、例えば、一酸化二窒素(N2O)ガス等の酸化ガスと、水素(H2)及び水素バランスとしてモノシラン(SiH4)ガスを用いて成膜する。
【0054】
ここで、予めN2Oガスのみのプラズマ照射による前処理を施し、チャネル部34のIGZO膜中の酸素を飽和させた後、N2OとSiH4/H2ガスによるSiO2膜を生成することにより、チャネル部34のIGZO膜中の酸素欠損量を良好な半導体特性を得るための適度なものとすることができる。
【0055】
しかしながら、上記手法による保護膜36の形成時には、ソース−ドレイン電極35S,35D等の配線も酸化雰囲気に曝されることとなる。このため、上述のように、非特許文献3の記載に基づき製作したIGZO系TFTにおいては、純Cuからなる中間膜の酸化が原因とみられる配線の抵抗値の上昇が生じてしまった。
【0056】
そこで、本実施形態では、上部バリア膜35tや下部バリア膜35bのMnの濃度を例えば8原子%以上としている。これにより、例えば上部バリア膜35tの酸化バリア性(耐酸化性)が向上し、N2Oガスのプラズマ等の酸化雰囲気中で、下層である中間膜35mを構成する純Cuの酸化を抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態では、上部バリア膜35tや下部バリア膜35bのMnの濃度を例えば30原子%以下としている。これにより、チャネル部34を構成するIGZO膜や、純Cu膜としての中間膜35m等、バリア膜35t,35bと接する膜へのMnの拡散を抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態では、上部バリア膜35tや下部バリア膜35bの形成に用いるCu−Mn合金スパッタリングターゲット材10は、例えば平均結晶粒径が10μm以上50μm以下のCu−Mn合金からなる。これにより、例えば下部バリア膜35b中のMnの濃度の均一性が向上し、ガラス基板31上の略全面において下部バリア膜35bの拡散バリア性が向上する。すなわち、熱処理によりMnOx膜を形成する際、下部バリア膜35bの下層のチャネル部34へのCuの拡散をガラス基板31上の略全面において抑制することができる。よって、IGZO系TFT30の素子特性のバラツキを低減することができ、IGZO系TFT30や液晶パネルの製造歩留まりを向上させることができる。
【0059】
なお、Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材10を用いて形成可能なTFTの構成は、上記に記載のものに限られない。例えば、上記とは異なる膜構成を有するIGZO系TFTや、ZnO系TFT、或いはα−Si系TFT等にもCu−Mn合金スパッタリングターゲット材10を用いることができる。また、TFTのみならず、Si太陽電池素子等のSi半導体を用いた各種の半導体素子にCu−Mn合金スパッタリングターゲット材10を適用可能である。
【0060】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【実施例】
【0061】
本発明の実施例に係るCu−Mn合金膜における酸化バリア性及び拡散バリア性の評価結果について、以下に説明する。
【0062】
(1)酸化バリア性の評価
以下の表1を参照しながら、酸化バリア性の評価に係る実施例1〜12について比較例1〜7と共に説明する。
【0063】
【表1】

【0064】
(評価サンプルの製作)
まず、図3に示す実施例1〜12及び比較例1〜7に係る評価サンプルを以下の手順で製作した。図3は、実施例1〜12及び比較例1〜7に係る評価サンプルの説明図であって、(a)はCu−Mn/Cu/Cu−Mn積層膜がブロック状に複数個形成された評価サンプルの平面図であり、(b)はCu−Mn/Cu/Cu−Mn積層膜の1ブロックを示す斜視図である。
【0065】
50mm角のガラス基板51上に、InGaZnO4スパッタリングターゲット材を用い、スパッタリングにより30nmの厚さにIGZO膜54を形成した。
【0066】
次に、3mm角の開口部を2mm間隔で100マス(縦10マス×横10マス)有するメタルマスク(図示せず)を、IGZO膜54の形成されたガラス基板51上に保持した状態で、Cu−Mn合金膜55b、純Cu膜55m、Cu−Mn合金膜55tをこの順に積層し、Cu−Mn/Cu/Cu−Mn積層膜を3mm角のブロック状に100個、IGZO膜54上に形成した。
【0067】
上下のCu−Mn合金膜55t,55bはいずれも、純度が共に3Nの無酸素銅及び純Mnを原料として、上述の実施形態と略同様の手順で製作された外径が100mm、厚さが5mmの円板型のCu−Mn合金スパッタリングターゲット材を用い、上述の実施形態と同様の手法のスパッタリングにより50nmの厚さに形成した。ただし、表1に示すように、実施例1〜12及び比較例1〜7に係る評価サンプルごとに、Mnの濃度及びCu−Mn合金中の平均結晶粒径が異なるCu−Mn合金スパッタリングターゲット材を用意し、これを用いて各評価サンプルの成膜を行った。
【0068】
Cu−Mn合金中の上記平均結晶粒径は、上述のように、インゴットの冷間圧延時の加工度と、その後の熱処理時の温度とを適宜、所定の組み合わせとすることで調整した。具体例を挙げると、Mnの濃度が13.9原子%に調整された実施例4においては、加工度を55%とし熱処理の温度を750℃として、40μmの平均結晶粒径を得た。
【0069】
純Cu膜55mは、純度が3Nの無酸素銅スパッタリングターゲット材を用い、スパッタリングにより300nmの厚さに形成した。IGZO膜54を含む各膜のスパッタリング時の成膜条件を表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
次に、CVD装置を用い、図3に示す評価サンプルそれぞれをN2Oガスのプラズマに曝した。このとき、30nmの厚さのIGZO膜中に酸素を十分飽和させるため、N2Oガスのプラズマによる曝露時間を1分間とした。その他のプラズマ条件を表3に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
(シート抵抗の測定)
続いて、上記のように製作した実施例1〜12及び比較例1〜7に係る評価サンプルそれぞれについて、各評価サンプルが備えるCu−Mn/Cu/Cu−Mn積層膜のシート抵抗を測定した。測定方法には、3mm角の各積層膜の4隅付近に電極の針を当てて行うファン・デル・パウ(van der Pauw)法を用いた。測定結果を上記の表1に示す。また、表1に示す測定結果をグラフ化したものを図4に示す。図4は、Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材中に含まれるMnの濃度と、これにより形成されるCu−Mn/Cu/Cu−Mn積層膜のシート抵抗との関係を示すグラフである。図4の横軸はCu−Mn合金スパッタリングターゲット材中に含まれるMnの濃度(原子%)であり、縦軸は対応するCu−Mn/Cu/Cu−Mn積層膜のシート抵抗(mΩ/□)である。
【0074】
表1及び図4に示すように、Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材中のMnの濃度が、実施例1〜12のように8原子%以上30原子%以下の範囲内では、形成される積層膜のシート抵抗は略70mΩ/□の一定値を示した。しかし、比較例1及び2のように、Mnの濃度が8原子%未満では、シート抵抗が急激に上昇した。また、比較例3〜7のように、Mnの濃度が30原子%を超えた場合もシート抵抗の上昇がみられた。
【0075】
Mnの濃度が8原子%未満におけるこのようなシート抵抗の上昇は、形成されるCu−Mn合金膜55tの酸化バリア性が低く、純Cu膜55mが酸化して高抵抗化してしまったことによると考えられる。また、Mnの濃度が30原子%を超えた場合のシート抵抗の上昇は、Cu−Mn合金膜55t,55b中のMnが純Cu膜55m中へ拡散して、純Cu膜55mが高抵抗化してしまったことによると考えられる。係るMnの拡散は、下層のIGZO膜54に対しても起こっていると考えられる。
【0076】
以上の結果から、Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材を構成するCu−Mn合金が、8原子%以上30原子%以下のMnの濃度を有していれば、良好な酸化バリア性を備えるCu−Mn合金膜を形成できることが分かった。
【0077】
(2)拡散バリア性の評価
次に、以下の表4を参照しながら、拡散バリア性の評価に係る実施例1,4,7,10及び12〜15について比較例8〜17と共に説明する。
【0078】
【表4】

【0079】
(評価サンプルの製作)
まず、図5に示す実施例1,4,7,10及び12〜15並びに比較例8〜17に係る評価サンプルを以下の手順で製作した。図5は、実施例1,4,7,10及び12〜15並びに比較例8〜17に係る評価サンプルの平面図である。
【0080】
3mm角の開口部を2mm間隔で100マス(縦10マス×横10マス)有するメタルマスク(図示せず)を、50mm角のガラス基板61上に保持した状態で、Cu−Mn合金膜65をガラス基板61上に直接成膜し、Cu−Mn合金の単膜を3mm角のブロック状に100個、形成した。
【0081】
Cu−Mn合金膜65は、上記酸化バリア性の評価時と同様の原料及び手順で製作された外径が100mm、厚さが5mmの円板型のCu−Mn合金スパッタリングターゲット材を用い、上記表2のCu−Mn合金膜と同一条件のスパッタリングにより、膜厚のみ上記と異なる500nmの厚さに形成した。ただし、表4に示すように、実施例1,4,7,10及び12〜15並びに比較例8〜17に係る評価サンプルごとに、Mnの濃度及びCu−Mn合金中の平均結晶粒径が異なるCu−Mn合金スパッタリングターゲット材を用意し、これを用いて各評価サンプルの成膜を行った。
【0082】
このうち、実施例1,4,7,10及び12については、上述の酸化バリア性の評価において、これらと番号の重複する実施例と同様の条件で製作されたCu−Mn合金スパッタリングターゲット材を用いて成膜した。すなわち、上記と同様、Mnの濃度が13.9原子%の実施例4においては、加工度を55%とし熱処理の温度を750℃として、40μmの平均結晶粒径を得た。
【0083】
また、比較例8〜17については、それぞれが実施例1,4,7,10及び12〜15のいずれかと同等のMnの濃度を備え、平均結晶粒径については所定値から外れる値となるCu−Mn合金スパッタリングターゲット材を用いて成膜した。具体例を挙げると、実施例4と同等の13.9原子%のMnの濃度を備える比較例11においては、加工度を55%とし熱処理の温度を870℃として、70μmの平均結晶粒径を得た。
【0084】
(Mnの濃度の測定)
続いて、上記のように製作した実施例1,4,7,10及び12〜15並びに比較例8〜17に係る評価サンプルそれぞれについて、各評価サンプルが備えるCu−Mn合金膜65のMnの濃度を100ブロック全てについて測定し、Mnの濃度の平均値及び標準偏差を求めた。測定方法には、エネルギー分散型X線分光法(Energy-Dispersive X-ray spectroscopy)を用いた。測定結果を上記の表4に示す。
【0085】
表4に示すように、平均結晶粒径が50μm以下のCu−Mn合金スパッタリングターゲット材を用いてCu−Mn合金膜65を形成した評価サンプルでは、Cu−Mn合金膜65中のMnの濃度の標準偏差は概ね0.05原子%より小さいという結果であった。また、平均結晶粒径が微細であるほど膜中のMnの濃度の標準偏差は小さかった。
【0086】
標準偏差σに対し、統計学上、測定値の99.7%が含まれるとされる平均値±3σの範囲でみると、本実施例においては、平均結晶粒径が50μm以下で3σは±0.15原子%未満となっており、充分に小さなバラツキといえる。
【0087】
以上の結果から、Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材を構成するCu−Mn合金が、10μm以上50μm以下の平均結晶粒径を有していれば、Mnの濃度の均一性が良好なCu−Mn合金膜を形成でき、Cu−Mn合金膜の略全域において良好な拡散バリア性が得られることが分かった。
【符号の説明】
【0088】
10 Cu−Mn合金スパッタリングターゲット材
20 スパッタリング装置
30 IGZO系TFT(薄膜トランジスタ)
31 ガラス基板
32 ゲート電極
33 ゲート絶縁膜
34 チャネル部(酸化物半導体)
35b 下部バリア膜(Cu−Mn合金膜)
35D ドレイン電極
35m 中間膜(純Cu膜)
35S ソース電極
35t 上部バリア膜(Cu−Mn合金膜)
36 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子の配線の形成に用いられるCu−Mn合金スパッタリングターゲット材であって、
濃度が8原子%以上30原子%以下のMnと、不可避的不純物とを含むCu−Mn合金からなり、
前記Cu−Mn合金の平均結晶粒径が10μm以上50μm以下である
ことを特徴とするCu−Mn合金スパッタリングターゲット材。
【請求項2】
Cu−Mn合金膜と、純Cu膜と、Cu−Mn合金膜と、がこの順に形成された積層構造を基板上に有し、
前記Cu−Mn合金膜の少なくとも一方は、
請求項1に記載のCu−Mn合金スパッタリングターゲット材を用いて形成され、
濃度が8原子%以上30原子%以下のMnと、不可避的不純物とを含むCu−Mn合金からなる
ことを特徴とする薄膜トランジスタ配線。
【請求項3】
前記Mnの濃度が8原子%以上30原子%以下である前記Cu−Mn合金膜中の前記Mnの濃度の標準偏差が0.05原子%未満である
ことを特徴とする請求項2に記載の薄膜トランジスタ配線。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の薄膜トランジスタ配線が、InGaZnO膜から構成される酸化物半導体を介して前記基板上に形成されている
ことを特徴とする薄膜トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−67857(P2013−67857A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−197037(P2012−197037)
【出願日】平成24年9月7日(2012.9.7)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】