説明

Cu−Zn−Sn系合金板及びCu−Zn−Sn系合金Snめっき条

【課題】プレス加工性だけでなく、強度、導電率、及び曲げ加工性にも優れたCu−Zn−Sn系合金板及びCu−Zn−Sn系合金Snめっき条を提供する。
【解決手段】2〜12質量%のZn及び0.1〜1.0質量%のSnを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなり、X線回折法により板表面から5μmの深さまでの結晶方位を測定したとき、{111}正極点図上のα=0±10°(但し、α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転軸に垂直な軸)の領域に相当するせん断集合組織の極密度が2〜8であるCu−Zn−Sn系合金板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコネクタ、端子、リレ−、スイッチ等の導電性ばね材に好適なCu−Zn−Sn系合金板及びCu−Zn−Sn系合金Snめっき条に関する。
【背景技術】
【0002】
端子、コネクタ等はCu系合金板をプレス加工して所望の形状に成形されるが、電子部品の小型化に伴い、打抜き後の寸法精度が従来以上に重要となっている。プレス加工では打抜き回数の増加に伴って金型磨耗が進行し、バリが高くなるため、部品の精度が高まるにつれて金型のメンテナンス頻度が増加する。このようなダレやバリは従来、金型調整で対応する事が多かったが、寸法精度の向上に伴い、ダレが小さくバリが低いCu系材料が求められている。
このような背景から、Cu系材料の集合組織や表面構造の調整、微細化合物の均一分散等の方法によってプレス加工性を改善した技術が開発されている。例えば、Sn、Ni、P、Zn、Si、Fe、Co、Mg、Ti、Cr、Zr、Alから選ばれる少なくとも1種の元素を0.01〜30wt%含有した銅基合金で、所定の加工率Z%で冷間圧延し、次いで再結晶温度未満の温度で低温焼鈍を行い、表面のX線強度比SNDをSND=I{220}÷I{200}≧10に調整する技術が開示されている。(特許文献1)
又、材料断面のX線回折強度で{111}と{222}の回折強度の合計を、{200}回折強度の2倍以上とする銅基合金が開示されている(特許文献2)。さらに、Znを5〜35wt%、Snを0.1〜3wt%含む銅合金部材上にPdを層状に形成した半導体装置用リードフレームが開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−180165号公報
【特許文献2】特開2001−152303号公報
【特許文献3】特開平11−36027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、プレス加工性の改善を目的として集合組織や表面構造を過度に調整すると、強度、導電率や曲げ加工性といった材料特性が低下する。
従って、本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、プレス加工性だけでなく、強度及び曲げ加工性にも優れたCu−Zn−Sn系合金板及びCu−Zn−Sn系合金Snめっき条の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明のCu−Zn−Sn系合金板は、2〜12質量%のZn及び0.1〜1.0質量%のSnを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなり、X線回折法により板表面から5μmの深さまでの結晶方位を測定したとき、{111}正極点図上のα=0±10°(但し、α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転軸に垂直な軸)の領域に相当するせん断集合組織の極密度が2〜8である。
【0006】
酸素濃度1質量%以上の表面酸化層の厚みが0.5μm以下であることが好ましい。
さらにNi、Mg、Fe、P、Mn及びCrの群から選ばれる少なくとも一種以上を合計で0.005〜0.5質量%含有することが好ましい。
【0007】
本発明のCu−Zn−Sn系合金Snめっき条は、前記Cu−Zn−Sn系合金板の表面に0.3〜2μm厚のSnめっきを施したものであるが、これに限定されるものではない。例えば、前記Cu−Zn−Sn系合金板にCu層、Cu−Sn合金層及びSn層の各めっき層がこの順に形成されているSnめっき材、さらに前記Cu−Zn−Sn系合金板にNi層、Cu−Sn合金層、Sn層の各めっき層がこの順に形成されているSnめっき材も含まれる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、プレス加工性だけでなく、強度及び曲げ加工性にも優れたCu−Zn−Sn系合金板及びCu−Zn−Sn系合金Snめっき条が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の銅合金板と従来の銅合金圧延板のせん断集合組織の極密度を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態に係るCu−Zn−Sn系合金板について説明する。
【0011】
(組成)
[Zn及びSn]
合金板中のZnの濃度を2〜12質量%とし、Snの濃度を0.1〜1.0質量%とする。Znは合金板の強度を向上させ、Snめっきの加熱下での剥離度合を減少させる。また、Snは圧延の際の加工硬化を促進する作用を持つ。
Znが2%未満の場合、合金板の硬さが低下する。Znが12%を超えると、合金板表面の酸化膜のZn成分が多くなり(Znリッチ)、合金板をオス端子に加工し、プリント基板のスルーホールに実装する際、鉛フリーはんだの濡れ上がり性が劣化する。Snが0.1%未満の場合、所望の加工硬化特性が得られず、Snが1.0%を超えると曲げ加工性および導電性が低下する。
[他の添加元素]
合金板中に、強度、耐熱性、耐応力緩和性等を改善する目的で、さらにNi、Mg、P、Fe、Mn及びCrの群から選ばれる少なくとも一種以上を合計で0.005〜0.5質量%含有してもよい。これらの元素の合計量が0.005%未満の場合、所望の特性が得られず、合計量が0.5質量%を超えると所望の特性は得られるものの、導電性や曲げ加工性が低下することがある。
【0012】
(せん断集合組織の極密度)
通常、冷間圧延において、材料の塑性変形に伴って結晶格子回転が進行し、集合組織が形成されるが、圧延時にロールと接する材料の表層領域と材料中央部では形成される集合組織に差異があることが知られている(上城ら、日本金属学会誌、p33、36巻,1972年,五弓勇雄編、「金属塑性加工の進歩」、p499、コロナ社、1978年)。これは、材料中央部では、板厚方向の圧縮応力と圧延方向の引張応力とが組み合わさった二軸応力により材料が変形されるのに対して、材料表層部では、ロールとの摩擦力の影響で材料がせん断変形されるためであり、これを表面集合組織(せん断集合組織)と呼んで、圧延集合組織と区別している。上記文献によれば、例えばAl板では最適条件下で、板の両面から板厚の30%ずつに表面集合組織が形成され、薄い遷移層によって急激に内部組織に変わることが判明している。
【0013】
本発明者らは、Cu−Zn−Sn系合金板において表面集合組織(せん断集合組織)を積極的に導入させた結果、従来のCu系合金板に比べて、バリが低くプレス加工性が良好になることを見出した。表面集合組織は{111}方位を主成分とする集合組織であり、通常の圧延集合組織は{110}方位を主成分とする集合組織である。単結晶の単軸引張試験では、{111}方位は{110}方位に比べて破断伸びが小さいことが知られており、プレス加工時に表面に形成されるバリの低下は、合金板表面における破断伸びに各方位で差があることが影響すると考えられる。
又、本発明者らはCu−Zn−Sn系合金板に表面集合組織(せん断集合組織)を積極的に導入する方法として、最終冷間圧延時の圧延条件を変化させ、表面集合組織と圧延条件の相関を調査した。その結果、圧延速度及び圧延油の粘性を制御することで、従来は表面近傍にのみ形成される表面集合組織を、板厚の10〜20%程度の深さまで形成させることに成功した。
【0014】
本発明において、X線回折法により板表面から5μmの深さまでの結晶方位を測定したとき、{111}正極点図上のα=0±10°(但し、α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転軸に垂直な軸)の領域に相当する、せん断集合組織の極密度を2〜8に制御する。
ここで、板表面から5μmの深さまでを対象とする理由は、本発明のCu−Zn−Sn系銅合金圧延板を用いて表面集合組織とプレス加工性の関係を調査したところ、5μm以上の表面集合組織が形成されるとプレス加工性に有意な差異が生じた事から、この深さまでを測定対象とした。
又、本発明の銅合金のせん断集合組織に相当する{111}方位は、{111}正極点図におけるα=0±10°の領域となるため、この領域を極密度の測定対象とした。
【0015】
以上のようにして、せん断集合組織の極密度が測定される。そして、せん断集合組織の極密度が2〜8である圧延板を打抜きプレス加工すると、打抜き後に発生するバリが従来材に比べて少ないことが判明した。
板表面から5μmの深さのせん断集合組織の極密度が2未満であると、せん断集合組織が十分に形成されていないため、バリが高くなり、プレス加工性が向上しない。一方、せん断集合組織の極密度が8を超えることは工業的に困難であり極密度の上限を8と設定した。
なお、極密度が2以上3以下の範囲では、せん断集合組織の極密度が増加するのに応じてプレス加工性は向上する(バリは低くなる)が、極密度が3を超えるとプレス加工性の改善の度合いは鈍化し、極密度が5を超えると、プレス加工性に差異が見られなくなる。又、5を超える高い極密度を得るためには、粘度の高い圧延油の使用や圧延速度の高速化が必要であり、材料の表面粗さが大きくなる傾向にある。一方、極密度が4.5を超えると、曲げ加工部にしわが発生するようになる。このようなことから、極密度は2.2以上5以下とするのが好ましく、より好ましくは2.5以上4.5以下とする。
【0016】
なお、従来の銅合金圧延板の場合、せん断集合組織の極密度が高い部分は、板の極表面に限られるので、プレス加工性が十分とはいえない。図1は、本発明の銅合金板と従来の銅合金板のせん断集合組織の極密度を模式的に示す。従来の銅合金圧延においても、板の極表面のせん断集合組織の極密度は2以上となるが、内部になるにつれて極密度が急激に低下し、板表面から5μmの深さでは極密度が2未満となる。
【0017】
板表面から5μmの深さまでのせん断集合組織の極密度を、2〜8に制御する方法としては、合金組成に応じた焼鈍温度で再結晶焼鈍を行い、最終冷間圧延時のロールと銅合金圧延素材との間の摩擦力を高める方法が挙げられる。具体的には最終冷間圧延時の、1)圧延油の粘度を高くする、2)圧延ロールの粗度を高くする、3)圧延速度を高くする(ロール径を小さくする)、ことが挙げられる。
通常、冷間圧延時の圧延油の粘度は0.03〜0.06cm/s程度であり、最終冷間圧延時の圧延油の粘度を0.06cm/s以上とすることで、せん断集合組織の極密度を2〜8にすることができる。
【0018】
(表面酸化層)
本発明の銅合金板において、酸素濃度1質量%以上の表面酸化層の厚みが0.5μm以下であることが好ましい。通常、母相の酸素濃度は0.001〜0.01質量%程度であり、酸素濃度が1質量%以上の部分は酸素が十分に含まれ、プレス加工性に影響を与える層として機能するからである。
本発明者らは、同一圧延条件で作製した試料でもプレス加工性に差異を生じる現象について検討した結果、試料を板や条に加工するまでに実施する焼鈍にて形成される表面酸化層が厚くなると、プレス加工性が劣化する知見を得た。そして、焼鈍時の雰囲気、温度、時間を制御することで表面酸化層の厚みを最適化し、プレス加工性の改善に至った。
酸素濃度1質量%以上の表面酸化層の厚みが0.5μmを超えると、金型が磨耗してクリアランスが大きくなり、バリが増えてプレス加工性が低下する場合がある。これは、表面酸化層がCu母材に比べ硬く、金型の磨耗要因となるためと考えられ、表面酸化層が薄いほど、材料打抜き時の金型鋼と酸化層間で摩擦が生じる頻度が少なくなり、プレス加工性が良好となる。
なお、焼鈍雰囲気中の酸素濃度が0.2%以下であると、表面酸化層の厚みが薄くなるので好ましい。
【0019】
(製造)
本発明の銅合金板は、例えば以下のようにして製造することができる。まず、電気銅又は無酸素銅を主原料とし、上記化学成分その他を添加した組成を溶解炉にて溶解し、インゴットを作製する。インゴットを例えば均質化焼鈍、熱間圧延、面削、冷間圧延、再結晶焼鈍、最終冷間圧延の順に加工し、圧延板が得られる。Snめっきを行う場合、圧延板に付着した圧延油を電解脱脂で除去後、例えば10%硫酸水溶液にて酸洗しSnめっきを行う。
【0020】
本発明の銅合金板は、条、箔等の種々の形態とすることができる。本発明の銅合金条を加工することで、コネクタ、ピン、端子、リレー、スイッチ等の電気部品に適用可能である。コネクタとしては、公知のあらゆる形態、構造のものに適用できるが、通常はオス(ジャック、プラグ)とメス(ソケット、レセプタクル)から構成されるコネクタのオス端子として使用される。
【0021】
<実施例>
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
1.試料の作製
高周波誘導炉で電気銅を溶解し、溶湯表面を木炭被覆した後、Zn(3質量%)及びSn(0.2質量%)を添加し所望の合金組成に溶湯を調整した。その後、鋳込温度1200℃で鋳造を行い、得られたインゴットを850℃で3時間加熱後、板厚8mmまで熱間圧延し、表面に生じた酸化スケールを面削にて除去した。その後、冷間圧延、再結晶焼鈍、冷間圧延の順で加工を進め、最終的に0.64mmの圧延板に仕上げた。再結晶焼鈍はアンモニア分解ガス中で行い、焼鈍時間は30分とした。再結晶焼鈍の条件、最終冷間圧延の条件(圧延速度及び圧延油の粘度)、及び得られた材料特性を表1に示す。再結晶条件と最終冷間圧延の条件を変化させて、せん断集合組織の極密度を調整した。
【0023】
2.せん断集合組織の極密度の測定
X線ディフラクトメータ(株式会社リガク製 RINT2500)により、各試料の{111}正極点測定を反射法で行い、{111}正極点図を作製した。但し、反射法では、試料面に対するX線の入射角が浅くなると測定が困難になるため、実際に測定できる角度範囲は正極点図上で0°≦α≦75°、0°≦β≦360°(但し、α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転軸に垂直な軸、β:前記回転軸に平行な軸)となる。
測定では、αとβの回転間隔Δα、Δβを5°として上記した角度範囲内を走査し、16×73=1168点のX線強度を測定した。この際、集合組織を有しない状態(すなわち結晶方位がランダムである状態)を1として正極点図上の集合組織の強度を規格化した。結晶方位がランダムである状態として、銅粉末試料の{111}正極点測定を行い、これを1とした。
なお、X線照射条件として、Co管球を使用し、管電圧30kV、管電流100mAとし、板表面から5μmの深さまでX線が浸透するよう、条件を設定した。
以上のようにして、せん断集合組織に相当する{111}正極点図上のα=0°±10°の範囲の結晶方位の極密度を測定し、この範囲内における極密度の最大値を、せん断集合組織の極密度と定義した。
【0024】
3.バリの高さ
各試料について、金型クリアランスを10%とし、250spmの打抜き速度で、長さ30mm、幅0.5mmのリードを打抜き、コンフォーカル顕微鏡で打ち抜き材の断面を撮影した。撮影画像のうち、打ち抜き終了面側の最も高さの高い部分と、最も高さの低い部分との高度差を、バリの高さとみなした。
バリの高さが15μm以下であれば、バリが低く良好と判定した。
【0025】
4.曲げ加工性
日本伸銅協会(JBMA)技術標準 T307(1999年)に従って、各試料の曲げ加工性を評価した。曲げ半径はr=0.3とし、Good Way曲げを実施した。
同技術標準の5段階の評価A〜Eに対応し、以下のような基準で評価した。
○:同技術標準のA(良好)なもの
△:同技術標準のB(しわ小)及びC(しわ大)
×:同技術標準のD(割れ小)及びE(割れ大)
【0026】
5.引張強さ
各試料について、圧延方向に平行な方向に、JISZ2241に準拠して引張試験を行い、引張強さを求めた。引張強さが450MPa以上であれば、ばね材として良好である。
【0027】
得られた結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1から明らかなように、発明例1〜9の場合、プレス加工によるバリが低く、曲げ加工性も良好であった。このため、プレス加工性に優れ、さらに引張強さも高いものとなった。但し、酸素濃度1質量%以上の表面酸化層の厚みが0.5μmを超えた発明例9の場合、他の発明例に比べてバリが高くなったが実用上は問題なかった。
一方、最終冷間圧延時の圧延速度が170mpm未満である比較例1の場合、せん断集合組織の極密度が2未満となり、バリが高く、プレス加工性が劣化した。
又、最終冷間圧延時の圧延油の粘度が0.06cm/s未満である比較例2の場合も、せん断集合組織の極密度が2未満となり、バリが高く、プレス加工性が劣化した。
【0030】
再結晶焼鈍温度が380℃未満の比較例3の場合も、せん断集合組織の極密度が2未満となり、バリが高く、プレス加工性が劣化した。これは、再結晶焼鈍温度が低いため、十分な再結晶が起こらず、再結晶焼鈍以前に形成された圧延集合組織の影響により、所望のせん断集合組織が得られないことが原因である。
再結晶焼鈍温度が430℃を超えた比較例4の場合は、せん断集合組織の極密度は2以上となったが、再結晶焼鈍温度が高過ぎたため、結晶粒径が粗大化し、引張強さが低下した。
なお、適正な再結晶温度の範囲は、銅合金板の組成によって変動し、発明例に適用された380〜430℃の温度域に限定されるものではない。
【実施例2】
【0031】
高周波誘導炉で電気銅を溶解し、溶湯表面を木炭被覆した後、表2の組成となるように合金元素を添加し、所望の合金組成に溶湯を調整した。その後、鋳込温度1200℃で鋳造を行い、得られたインゴットを850℃で3時間加熱後、板厚8mmまで熱間圧延し、表面に生じた酸化スケールを面削にて除去した。その後、冷間圧延、再結晶焼鈍、冷間圧延の順で加工を進め、最終的に0.64mmの圧延板に仕上げた。再結晶焼鈍はアンモニア分解ガス中で行い、酸素濃度を0.1%とし、表3に示す焼鈍温度で30分行った。仕上げ圧延の圧延速度は200mpmとし、粘度0.1cm/sの圧延油を用いた。
【0032】
得られた試料につき、実施例1と同様の評価を行い、さらに、以下のはんだ濡れ上がり性の評価を行った。
<はんだ濡れ上がり性>
プリント基盤のスルーホールに端子を実装した際の鉛フリーはんだのはんだ濡れ上がり性を、以下の試験で模擬した。
まず、実施例2で得られた各銅圧延板に1.2μmのSnめっきを施した後、板幅が0.64mm、長さ30mmの短冊状にプレスし、端面にプレス破面を生じさせた後、相対湿度85%、温度85℃の雰囲気に24h曝露させた(エージング処理)。次に、この短冊板を、250℃の鉛フリーはんだ(Sn−3%Ag−0.5%Cu)に所定深さに10秒間浸漬した後、引き上げた。試料を鉛フリーはんだに浸漬すると、はんだが試料と濡れることにより、浸漬界面から上にはんだが昇ってくる。従って、以下の式により、はんだ濡れ面積率(S)を計算することができる。
S(%)=(浸漬後のはんだ付着部の総面積)/(浸漬時のはんだ浸漬部の初期面積)×100
Sが100%を超える場合は、はんだの濡れ上がり現象が発生している事を示し、Sが110%以上となるとき、前述のはんだ濡れ上がり性が良好となる。従って、以下の基準ではんだ濡れ上がり性を評価した。
○:S≧110%
×:S<110%
【0033】
得られた結果を表3に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
表3に示す通り、発明例10〜25の場合、プレス加工性に優れ、引張強さが高く、さらに半田濡れ上がり性も良好であった。
一方、Zn濃度が2質量%未満である比較例5の場合、引張強さが低下した。Zn濃度が12質量%を超えた比較例6の場合、プレス加工性、強度ともに良好であったが、半田濡れ上がり性が劣化した。Sn濃度が0.1質量%未満である比較例7の場合、圧延時の加工硬化が不十分となり、引張強さが低下した。Sn濃度が1.0質量%を超えた比較例8の場合、曲げ加工性が低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2〜12質量%のZn及び0.1〜1.0質量%のSnを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなり、X線回折法により板表面から5μmの深さまでの結晶方位を測定したとき、{111}正極点図上のα=0±10°(但し、α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転軸に垂直な軸)の領域に相当するせん断集合組織の極密度が2〜8であるCu−Zn−Sn系合金板。
【請求項2】
酸素濃度1質量%以上の表面酸化層の厚みが0.5μm以下である請求項1に記載のCu−Zn−Sn系合金板。
【請求項3】
さらにNi、Mg、Fe、P、Mn及びCrの群から選ばれる少なくとも一種以上を合計で0.005〜0.5質量%含有する請求項1又は2に記載のCu−Zn−Sn系合金板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のCu−Zn−Sn合金板の表面に0.3〜2μm厚のSnめっきを施したCu−Zn−Sn系合金Snめっき条。

【図1】
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【公開番号】特開2010−242121(P2010−242121A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89343(P2009−89343)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】