説明

Cu合金膜、及びそれを備えた表示装置または電子装置

【課題】基板及び/又は絶縁膜との高い密着性を有し、且つ、液晶表示装置などの製造過程で施される熱処理後も低い電気抵抗率を有する新規なCu合金膜を提供する。
【解決手段】基板上にて、基板及び/又は絶縁膜と直接接触するCu合金膜であって、前記Cu合金膜は基板側から順に、合金成分としてX(Xは、Ag、Au、C、W、Ca、Mg、Al、Sn、BおよびNiよりなる群から選択される少なくとも一種の元素)を含有するCu−Mn−X合金層(第一層)と、純Cu、またはCuを主成分とするCu合金であって前記第一層よりも電気抵抗率の低いCu合金からなる層(第二層)で構成されたCu合金膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上にて、基板及び/又は絶縁膜と直接接触するCu合金膜に関するものである。本発明のCu合金膜は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどの平面表示装置;ULSI(超大規模集積回路)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、ダイオード、薄膜トランジスタ、薄膜トランジスタ基板などの電子装置などに用いられる配線材料および電極材料として好適に用いられる。以下では、液晶表示装置を代表的に取り上げて説明するが、これに限定する趣旨ではない。
【背景技術】
【0002】
小型の携帯電話から、30インチを超す大型のテレビに至るまで様々な分野に用いられる液晶表示装置は、薄膜トランジスタ(以下「TFT」と呼ぶ。)をスイッチング素子とし、画素電極を構成する透明導電膜(酸化物導電膜)と、ゲート配線およびソース−ドレイン配線等の配線部と、アモルファス・シリコン(a−Si)や多結晶シリコン(p−Si)などのSi半導体層を備えたTFT基板と、TFT基板に対して所定の間隔をおいて対向して配置され共通電極を備えた対向基板と、TFT基板と対向基板との間に充填された液晶層と、から構成されている。
【0003】
液晶ディスプレイに代表される表示装置の配線には、これまでアルミニウム(Al)合金膜が使用されている。しかし表示装置の大型化および高画質化が進むにつれて、配線抵抗が大きいことに起因する信号遅延および電力損失といった問題が顕在化している。そのため配線材料として、Alよりも低抵抗である銅(Cu)が注目されている。Alの電気抵抗率は2.5×10−6Ω・cmであるのに対し、Cuの電気抵抗率は1.6×10−6Ω・cmと低い。
【0004】
しかしCuは、ガラス基板との密着性が低く、剥離するという問題がある。またガラス基板との密着性が低いために、Cuは、配線形状に加工するためのウエットエッチングが困難であるという問題がある。そこでCuとガラス基板との密着性を向上させるための様々な技術が提案されている。
【0005】
例えば特許文献1〜3は、Cu配線とガラス基板との間に、モリブデン(Mo)やクロム(Cr)などの高融点金属層を介在させて密着性の向上を図る技術を開示している。しかしこれらの技術では、高融点金属層を成膜する工程が増加し、表示装置の製造コストが増大する。さらにCuと高融点金属(Mo等)という異種金属を積層させるため、ウエットエッチングの際に、Cuと高融点金属との界面で腐食が生ずるおそれがある。またこれら異種金属ではエッチングレートに差が生じるため、配線断面を望ましい形状(例えばテーパー角が45〜60°程度である形状)に形成できないという問題が生じ得る。さらに高融点金属、例えばCrの電気抵抗率(12.9×10−6Ω・cm)は、Cuのものよりも高く、配線抵抗による信号遅延や電力損失が問題となる。
【0006】
特許文献4は、Cu配線とガラス基板との間に、密着層としてニッケル又はニッケル合金と高分子系樹脂膜とを介在させる技術を開示している。しかしこの技術では、表示ディスプレイ(例えば液晶パネル)の製造時における高温アニール工程で樹脂膜が劣化し、密着性が低下するおそれがある。
【0007】
特許文献5は、Cu配線とガラス基板との間に、密着層として窒化銅を介在させる技術を開示している。しかし窒化銅自体は高温の熱履歴をうけると分解するため、この技術では、表示ディスプレイ(例えば液晶パネル)の製造時におけるアニール工程が高温となる場合に密着性が低下するおそれがある。
【0008】
一方、特許文献6には、Mnを含むCu合金配線材料が開示されている。特許文献6では、成膜雰囲気を厳密に制御する(酸素含有量100ppmのArガス雰囲気)ことにより、Cuの酸化を抑制し得るMn酸化物被膜を表面または界面に形成させており、これにより、密着性向上と電気抵抗率の低減化が得られる旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−66423号公報
【特許文献2】特開平8−8498号公報
【特許文献3】特開平8−138461号公報
【特許文献4】特開平10−186389号公報
【特許文献5】特開平10−133597号公報
【特許文献6】国際公開第2006/025347号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献6では、成膜条件を非常に厳しくして所望の酸化被膜を形成しており、実用性に極めて乏しい。また、特許文献6に記載の配線材料では、熱処理後の電気抵抗率が充分に低下せず、この配線材料を用いた液晶表示装置は、発熱や消費電力が高いという問題を抱えている。特に、液晶表示装置などは、その製造過程で約250℃以上の熱履歴に曝されており(例えば、SiO膜などの絶縁膜成膜時や成膜後の熱処理など)、上記の熱履歴(熱処理)後、低電気抵抗率である配線材料が強く切望されている。
【0011】
本発明は上記事情に着目してなされたものであって、その目的は、基板及び/又は絶縁膜との高い密着性を有し、且つ、液晶表示装置などの製造過程で施される熱処理の後も低い電気抵抗率を有する新規なCu合金膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決し得た本発明のCu合金膜は、基板上にて、基板及び/又は絶縁膜と直接接触するCu合金膜であって、前記Cu合金膜は基板側から順に、合金成分としてX(Xは、Ag、Au、C、W、Ca、Mg、Al、Sn、BおよびNiよりなる群から選択される少なくとも一種の元素)を含有するCu−Mn−X合金層(第一層)と、純Cu、またはCuを主成分とするCu合金であって前記第一層よりも電気抵抗率の低いCu合金からなる層(第二層)と、を含む積層構造で構成されているところに要旨を有するものである。
【0013】
好ましい実施形態において、前記第一層におけるMnの含有量は1.0〜20原子%である。また前記第一層におけるX元素の合計量は0.2〜10原子%であることも好ましい。更に前記第一層の膜厚は5〜100nmであることも好ましい。
【0014】
本発明の実施形態において、前記第二層の膜厚は100nm以上であることも好ましい。
【0015】
本発明の実施形態において、前記絶縁膜は、SiO、SiON、またはSiNで構成されていることが好ましい。
【0016】
本発明には、上記Cu合金膜を備えた表示装置、または電子装置も包含される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、基板及び/又は絶縁膜と直接接続しても、これらとの密着性に優れた表示装置用または電子装置用のCu合金膜を提供することができた。更に本発明によれば、特別な熱処理を施さなくても、Cu系材料の特徴である低い電気抵抗率を、表示装置や電子装置などの製造過程における熱履歴後も実現可能なCu合金膜を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の代表的な配線構造を示す概略断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、TiやMoなどの高融点金属(バリアメタル層)を省略してCu合金膜を、基板及び/又は絶縁膜と電気的に直接接続しても、これらとの密着性に優れており、しかも、膜自体の電気抵抗率も低く、且つ、表示装置などの製造過程における熱履歴の後も電気抵抗率が上昇せずに低い電気抵抗率を維持でき、しかも加工性に優れた特性を有する新規なCu合金膜を提供するため、検討を重ねてきた。その結果、Cu−Mn合金に、Ag、Au、C、W、Ca、Mg、Al、Sn、BおよびNiよりなる群から選択される少なくとも一種の元素(以下、XもしくはX元素ということがある)を添加したCu−Mn−X合金(第一層)と、純Cu、またはCuを主成分とするCu合金であって第一層よりも電気抵抗率の低いCu合金からなる第二層とを含む積層構造で構成したCu合金膜を用いれば所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0020】
以下、図1を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を説明するが、本発明はこれに限定されない。なお、図1では、ボトムゲート型の例を示しているが、これに限定されず、トップゲート型も含まれる。また、図1では、Si半導体層としてアモルファスSiを用いたがこれに限定されず、例えばポリシリコンなどを用いても良い。また、図1では、ゲート絶縁膜や保護膜としてSiO2を用いたが、これに限定されず、例えば、SiONであっても良いし、SiNであっても良い。
【0021】
図1に示すTFT基板は、基板20側から順に、ゲート電極(本発明の第一層2aと第二層2で構成されているCu合金)、ゲート絶縁膜3(図ではSiO)、Si半導体層4、ソース電極・ドレイン電極(図ではMo層11、Al層5の二層構造)、保護層10(図ではSiO)、透明画素電極(7、8、9)を順次積層した配線構造(ボトムゲート型)を有している。
【0022】
(Cu−Mn−X合金層:第一層)
本発明のCu合金膜は、基板側から順に第一層と第二層とを含む積層構造である。第一層はCu−Mn合金にX元素(Ag、Au、C、W、Ca、Mg、Al、Sn、BおよびNiよりなる群から選択される少なくとも一種の元素)を添加したCu−Mn−X合金から構成されている。すなわち、本発明の第一層は、密着性向上元素であるMnと、X元素(Ag、Au、C、W、Ca、Mg、Al、Sn、BおよびNiよりなる群から選択される少なくとも1種の元素)と、を両方含んでいるところに特徴がある。上記X元素は、Mn添加による密着性向上作用を有効に発揮させつつ、しかも、Cu合金膜自体の電気抵抗率や熱処理後の電気抵抗率の低減化に大きく寄与する元素である。特に後記する実施例で実証したように、上記第一層と後記する第二層とで構成されている本発明のCu合金膜を用いた場合は、成膜後、及び熱処理後の電気抵抗率を低く抑えることができる。
【0023】
本発明において、Mnの好ましい含有量は1.0原子%以上、20原子%以下である。Mnの含有量が1.0原子%未満では、基板及び/又は絶縁膜との密着性が不十分で充分な特性が得られない。基板などとの密着性向上を考慮すれば、Mnの含有量は多いほど良いが、20原子%を超えると、Cu合金成膜時または成膜後の熱処理(例えば、SiN膜の絶縁膜を成膜する工程といった表示装置の製造過程における熱履歴を含む)によってCu−Mn−X中のMn及びXが、第二層に拡散し、Cu合金膜自体の電気抵抗率が高くなるので望ましくない。Mnのより好ましい含有量は、2.0原子%以上、15.0原子%以下であり、更に好ましくは5.0原子%以上、12.5原子%以下である。
【0024】
本発明において、上記X元素は単独で含まれていても良いし、2種以上を併用しても良い。上記X元素の好ましい含有量(単独量または合計量)は、0.2原子%以上、10原子%以下である。X元素含有量は上記Mnとの関係で適切に設定することができる。X元素の含有量が0.2原子%未満では、X元素添加による上記密着性向上作用、熱処理後の電気抵抗率低減効果が十分に発揮されない。X元素の含有量が10原子%を超えると、熱処理後の電気抵抗率が高いため望ましくない。X元素のより好ましい含有量は0.4原子%以上7原子%以下であり、更に好ましくは、0.5原子%以上3原子%以下である。
【0025】
本発明に係るCu−Mn−X合金層の好ましい膜厚は5nm以上、100nm以下である。膜厚が5nm未満であると、Cu−Mn−X合金層が、成膜時または成膜後の熱処理によって基板との剥離が生じ、密着性が低下することがある。剥離を防止する観点から、より好ましくは10nm以上である。また膜厚が100nmを超えると、Cu合金膜自体の配線抵抗が上昇するので望ましくない。配線抵抗の上昇を抑える観点から、より好ましい膜厚は50nm以下である。
【0026】
また、通電時に配線部分の発熱温度が上昇する問題を防ぐため、Cu合金膜全体(第一層+第二層)の電気抵抗を低く抑える必要がある。本発明のCu−Mn−X合金層(第一層)の膜厚の割合はCu合金膜(第一層+第二層)の膜厚に対して好ましくは50%以下、より好ましくは20%以下であることが好ましい。
【0027】
尚、本発明に用いられる第一層は、夫々上記元素を含み、残部:Cuおよび不可避不純物である。
【0028】
(純Cu、またCuを主成分とするCu合金層:第二層)
本発明におけるCu合金膜における第二層は、第一層の上(直上)に形成されており、純Cu、またはCuを主成分とするCu合金であって第一層よりも電気抵抗率の低いCu合金で構成されている。このような第二層を設けることにより、Cu合金膜全体の電気抵抗を低く抑えることができる。
【0029】
本発明において第一層よりも電気抵抗率の低いCu合金とは、上記第一層に比べて電気抵抗率が低くなるように合金元素の種類および/または含有量を適切に制御したCu合金である。たとえば文献記載の数値を参照し、電気抵抗率が低い元素(好ましくは電気抵抗率が純Cu合金と同等、あるいはそれ以下の元素)を、適宜選択してもよいし、電気抵抗率が純Cu合金よりも高い元素であっても、含有量を少なくすれば電気抵抗率を低減できるため、第二層に適用可能な合金元素は、必ずしも電気抵抗率が低い元素に限定されず、第一層であるCu−Mn−X合金層の具体的な電気抵抗率に応じて適宜選択すればよい。
【0030】
第二層における純Cuとは、Cu及び残部不可避不純物であるものをいい、Cuを主成分とするとは、第二層におけるCuが99原子%以上であることをいい、電気抵抗を低減する観点から、好ましくは99.5原子%以上がCuであって、残部が上記元素及び不可避不純物である。
【0031】
本発明の第二層の好ましい膜厚は、100nm以上、1μm以下である。膜厚が100nm未満であると、電気抵抗率の低減効果が十分でないことがある。また膜厚が1μmを超えると、膜が剥離しやすくなるので望ましくない。より好ましい膜厚は200nm以上、600nm以下である。
【0032】
また上記Cu合金膜全体(第一層+第二層)の膜厚は必要とされる特性に応じて適宜設定すればよく、上記第一層と第二層の膜厚の範囲内で適宜調節すればよいが、生産効率の観点から好ましくは1μm以下、より好ましくは600nm以下である。下限については電気抵抗率を低く抑える観点から上記特性を発揮するには好ましくは150nm以上、より好ましくは200nm以上とすることが望ましい。
【0033】
本発明におけるCu合金膜(第一層、第二層)に含まれる各合金元素の含有量は、たとえばICP発光分析(誘導結合プラズマ発光分析)法によって求めることができ、各層の各合金元素の含有量は、各層の成膜後に測定すればよい。また第一層の膜厚及び第二層の膜厚は、触針型段差計KLA-TENCOR社製α-stepによって各々を測定することができる。
【0034】
以下、本発明のCu合金膜(第一層+第二層)の好ましい成膜方法を記載するが、本発明のCu合金膜の成膜方法はこれに限定されず、各種方法で成膜してもよい。
【0035】
上記積層構造を有する本発明のCu合金膜は、スパッタリング法によって成膜することが好ましい。具体的には上記第一層を構成する材料をスパッタリング法によって成膜した後、その上に上記第二層を構成する材料をスパッタリング法によって成膜することによって積層構造とすればよい。
【0036】
本発明に用いられる上記Cu合金膜は、上述したように、スパッタリング法によって成膜することが好ましい。スパッタリング法とは、真空中にAr等の不活性ガスを導入し、基板とスパッタリングターゲット(以後、ターゲットという場合がある)との間でプラズマ放電を形成し、該プラズマ放電によりイオン化したArを上記ターゲットに衝突させて、該ターゲットの原子をたたき出し基板上に堆積させて薄膜を作製する方法である。スパッタリング法を用いれば、スパッタリングターゲットとほぼ同じ組成のCu合金膜を成膜できる。すなわち、イオンプレーティング法や電子ビーム蒸着法、真空蒸着法で形成された薄膜よりも、成分や膜厚の膜面内均一性に優れた薄膜を容易に形成でき、かつas−deposited状態で合金元素が均一に固溶した薄膜を形成できるため、高温耐酸化性を効果的に発現できる。スパッタリング法としては、例えばDCスパッタリング法、RFスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、反応性スパッタリング法等のいずれのスパッタリング法を採用してもよく、その形成条件は、適宜設定すればよい。
【0037】
スパッタリング法を用いれば、スパッタリングターゲットとほぼ同じ組成のCu合金層を成膜できるので、スパッタリングターゲットの組成は、異なる組成のCu合金ターゲットを用いて調整してもよいし、あるいは純Cuターゲットに合金元素の金属をチップオンすることによって調整してもよい。上記スパッタリング法で、例えば、上記Cu−Mn−X合金膜を形成するには、上記ターゲットとして、MnおよびX元素を所定量含有するCu合金からなるものであって、所望のCu−Mn−X合金膜と同一の組成のスパッタリングターゲットを用いれば、組成ズレすることなく、所望の成分・組成のCu−Mn−X合金膜を形成することができるのでよい。また上記第二層を形成するには上記ターゲットとして、純Cuターゲット、または純Cuターゲットに合金元素の金属をチップオンすることによって所望の組成の第二層を形成できる。
【0038】
なおスパッタリング法では、成膜したCu合金膜の組成とスパッタリングターゲットの組成との間でわずかにズレが生じることがある。しかしそのズレは概ね数原子%以内である。そこでスパッタリングターゲットの組成を最大でも±10原子%の範囲内で制御すれば、所望の組成のCu合金膜を成膜できる。
【0039】
ターゲットの形状は、スパッタリング装置の形状や構造に応じて任意の形状(角型プレート状、円形プレート状、ドーナツプレート状など)に加工したものが含まれる。
【0040】
上記ターゲットの製造方法としては、溶解鋳造法や粉末焼結法、スプレイフォーミング法で、Cu基合金からなるインゴットを製造して得る方法や、Cu基合金からなるプリフォーム(最終的な緻密体を得る前の中間体)を製造した後、該プリフォームを緻密化手段により緻密化して得られる方法が挙げられる。
【0041】
本発明に用いられるCu合金膜は、電気抵抗が低く、また基板及び/又は絶縁膜との密着性に優れているため、これらと直接接触する配線膜および電極用の膜として好適に用いられる。本発明では、好ましくは、ソース電極及び/又はドレイン電極が上記Cu合金膜で構成されており、その他の配線部(例えばゲート電極)の成分組成については特に限定されない。また本発明に用いられるCu合金膜は、微細加工が可能である。
【0042】
例えばTFT基板におけるゲート電極、走査線、信号線におけるドレイン配線部などCu合金配線の全てを上記Cu合金膜で構成しても良く、この場合、TFT基板におけるCu合金配線の全てを同一成分組成とすることができる。
【0043】
上記Cu合金膜は、基板及び/又は絶縁膜と、電気的に直接接続されており、ゲート電極用配線膜として好ましく用いられる。上記のCu合金膜は、好ましくはソース電極・ドレイン電極を構成する金属配線膜と電気的に接続されている。あるいは上記のCu合金膜は、好ましくは画素電極を構成する透明導電膜(代表的にはITO、IZO、ZnOなど)と直接接続されている。あるいは、上記Cu合金膜は、外部への信号入出力のために使用されるTAB(タブ)接続電極などにも適用することができる。
【0044】
本発明は、上記Cu合金膜に特徴があり、その他の構成要件は特に限定されない。
【0045】
例えば半導体チャネル層は、代表的にはシリコン(Si)が用いられ、アモルファス・シリコン、水素化アモルファス・シリコン、多結晶または微結晶シリコン、単結晶シリコンなどが挙げられる。
【0046】
また、画素電極を構成する透明導電膜としては、液晶表示装置などに通常用いられる酸化物導電膜が挙げられ、例えば、In、Ga、Zn、およびSnよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物からなる導電膜が挙げられる。代表的には、アモルファスITOやpoly−ITO、IZO、ZnOなどが例示される。
【0047】
また、ゲート絶縁膜などの絶縁膜や半導体の上に形成される保護膜は特に限定されず、通常用いられるもの、例えば、SiO、SiON、SiNなどが挙げられる。
【0048】
基板は、液晶表示装置などに用いられるものであれば特に限定されない。代表的には、ガラス基板などに代表される透明基板が挙げられる。ガラス基板の材料は表示装置に用いられるものであれば特に限定されず、例えば、無アルカリガラス、高歪点ガラス、ソーダライムガラスなどが挙げられる。あるいは、フレキシブル樹脂フィルム、金属ホイルなどを用いることもできる。
【0049】
上記配線構造を備えた表示装置を製造するにあたっては、本発明の規定を満たし、かつCu合金膜の熱処理・熱履歴条件を上述した推奨される条件とすること以外は、特に限定されず、表示装置の一般的な工程を採用すればよい。
【0050】
以下、図1を参照しながら、本発明の好ましい実施形態である、アモルファス・シリコンを用いた液晶ディスプレイ用TFT素子の製造方法を説明する。ただし、本発明はこれに限定する趣旨ではない。図1には、基板にゲート電極が形成された、いわゆるボトム型のTFT素子構造を示しているが、これに限定されず、基板はそのままにして、基板以外の構成要素の配列を上下逆にした、所謂トップ型のTFT素子構造を用いても良い。また、図1では、ゲート電極に本発明のCu合金膜を用いたが、これに限定されず、ソース電極・ドレイン電極に本発明のCu合金膜を用いても良い。また、本発明の要件を満足する限り、ゲート電極とソース電極・ドレイン電極とは同一組成であっても良いし、異なる組成であっても良い。
【0051】
まず、基板20上に、スパッタリングなどの方法を用いて、Ar雰囲気で厚さ20nm程度のCu−Mn−X合金層2aを蒸着した後、続けて厚さ300nm程度のCuを主成分とする第二層2を蒸着し、Cu合金膜を成膜する。スパッタリングの成膜温度は、例えば室温とする。なお、窒素、若しくは酸素存在下でCu−Mn−X合金層を成膜すると、基板や絶縁膜との密着性が向上するので望ましい。添加方法は、成膜中にプロセスガスとしてAr希釈した窒素もしくは酸素添加を使用する方法でもよいし、酸素もしくは窒素を含むターゲットを用いて成膜する方法などでもよい。
【0052】
次に、フォトリソグラフィによってレジスト膜をパターニングした後、レジスト膜をマスクとしてCu合金膜をエッチングすることにより、ゲート電極(2、2a)及びこれに続く配線膜(図には表示せず)を形成する。
【0053】
次いで、例えばプラズマCVD法などの方法を用い、厚さ約200nm程度の絶縁性下地層3(例えばSiN膜)を積層する。この絶縁性下地層3はゲート絶縁層と呼ばれる。プラズマCVD法の成膜温度は、例えば約350℃とする。続いて、例えばプラズマCVD法などの方法を用いて、絶縁性下地層3の上に、厚さ200nm程度のアンドープ水素化アモルファス・シリコン膜(a−Si:H)および厚さ約80nm程度のリンをドーピングしたn+型水素化アモルファス・シリコン膜(na−Si:H)を順次積層する。この積層膜は、Si半導体層4に対応する。n+型水素化アモルファス・シリコン膜は、例えばSiH4PH3を原料としたプラズマCVDを行うことによって形成される。
【0054】
次いで、n+型水素化アモルファス・シリコン膜(na−Si:H)の上に、スパッタリングなどの方法を用いて、厚さ200nm程度の金属薄膜(ここでは、Mo/Alの2層の膜(図中11/5、及び6/11)を蒸着する。スパッタリングの成膜温度は、例えば室温とする。この後、例えば、真空中で熱処理を行なう。次に、フォトリソグラフィによってレジスト膜をパターニングした後、レジスト膜をマスクとして上記の金属薄膜をエッチングすることにより、図1のソース電極(図中11と5)、ドレイン電極(図中11と6/11)をパターニングした後、更に、ソース電極及びドレイン電極をマスクとして、n+型水素化アモルファス・シリコン膜をドライエッチングして除去する。
【0055】
次に、例えばプラズマ窒化装置などを用いて厚さ300nm程度のSi窒化膜(保護膜)10を形成する。このときの成膜は、約270℃で行った。次に、Si窒化膜10上にレジストをパターニングし、ドライエッチングなどを行うことによってコンタクトホールを形成する。
【0056】
次に、例えばアミン系などの剥離液を用いてフォトレジスト層(不図示)を剥離する。最後に、厚さ50nm程度のITO膜(酸化インジウムに10質量%の酸化スズを添加)を成膜する。次いで、ウエットエッチングによるパターニングを行って透明画素電極(図中7、8、9)を形成し、最終的に図1のTFT素子やTFT基板が得られる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限されず、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。本実施例では、以下の方法によって作製した試料を用い、基板とCu合金膜との密着性、熱処理後の電気抵抗率を測定した。
【0058】
実施例1
1.密着性の評価
(試料の作製)
まず、ガラス基板上にプラズマCVD法によって、膜厚200nmの、不純物(P)をドーピングした低抵抗のアモルファス・シリコン膜(n−a−Si:H層)を成膜した。この低抵抗アモルファス・シリコン膜(n−a−Si:H層)は、SiH4、PH3を原料としたプラズマCVDを行うことによって形成した。プラズマCVDの成膜温度は320℃とした。
【0059】
続いて、この低抵抗アモルファス・シリコン膜上にCu−Mn−X合金層(第一層)を表1、2に示す条件(Mn含有量、膜厚)で成膜した後、第一層の上に第二層として純Cu層を表1、2に示す厚みとなるように成膜した。
【0060】
なお、スパッタリング装置として島津製作所製の商品名「HSM−552」を使用し、DCマグネトロンスパッタリング法[背圧:0.27×10−3Pa以下、雰囲気ガス:Ar、Arガス圧:2mTorr、Arガス流量:30sccm、スパッタパワー:DC260W、極間距離:50.4mm、基板温度:25℃(室温)]によって、基板上に表1、2に示すCu合金膜または純Cu膜を成膜し、配線膜の試料を得た。
【0061】
純Cu膜の形成には、純Cuをスパッタリングターゲットに用いた。また、各種合金成分のCu合金膜の形成には、真空溶解法で作成したスパッタリングターゲットを用いた。
【0062】
上記Cu合金膜の組成は、ICP発光分光分析装置(島津製作所製のICP発光分光分析装置「ICP−8000型」)を用い、定量分析して確認した。また各層の膜厚は触針型段差計KLA-TENCOR社製α-stepによって測定した。
【0063】
次いでフォトリソグラフィ技術を用いてレジスト膜をパターニングし、レジストをマスクとして上記各試料の積層Cu合金膜(第一層、第二層)をエッチングすることにより、密着性試験用パターンを形成した。また比較のため、純Cuのみからなる試料(No.1)も用意した(電気抵抗率の評価においても同様に比較例として作製した)。
【0064】
(密着性試験)
上記のようにして得られた各試料の密着性をテープによる剥離試験で評価した。詳細には、各試料の積層Cu合金膜表面にカッターナイフで1mm間隔の碁盤目状の切り込み(5×5の升目の切り込み)を入れた。次いで、ニチバン製セロハンテープ(製品番号セロテープ(登録商標)No.405)を上記積層Cu合金膜上にしっかりと貼り付け、上記テープの引き剥がし角度が60°になるように保持しつつ、上記テープを一挙に引き剥がして、上記テープにより剥離しなかった碁盤目の区画数、並びに碁盤目の一部が剥離した場合は、0.5剥離したものとして区画数をカウントし、全区画との比率(膜残存率)を求めた。測定は3回行い、3回の平均値を各試料の膜残存率とした。
【0065】
本実施例では、テープによる剥離率が10%以下のものを○、10%超〜30%のものを△、30%超のものを×と判定した。
【0066】
2.電気抵抗率の評価
(試料の作製)
上記配線膜の各試料に対し、フォトリソグラフィ、およびウエットエッチングを行ない、幅100μm、長さ10mmのアレイ状のパターンに加工し、試料を作製した。この際、ウェットエッチャントとしては、リン酸:硫酸:硝酸:酢酸=75:10:5:10の混酸からなる混合液を用いた。
【0067】
(熱処理後の電気抵抗率の測定)
得られた各試料の熱処理後の電気抵抗率を評価した。詳細には、枚葉式CVD装置を用い、上記試料を加熱して350℃で30分の真空熱処理を行い、この熱処理後の電気抵抗率を直流四探針法で室温にて測定した。このようにして測定された熱処理後の電気抵抗率を下記基準で評価した。
○: 2.6μΩcm以下
△: 2.6μΩcm超〜3.0μΩcm以下
×: 3.0μΩcm超
【0068】
これらの結果を表1、表2に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
表1、表2より、以下のように考察することができる。
【0072】
まず、No.5〜9、11〜15、17〜21、23〜27、29〜37はいずれも、本発明の要件を満足するCu−Mn−X合金膜を第一層として用いた例であり、熱処理後の電気抵抗率が低く、且つ基板との密着性にも優れている。
【0073】
これに対し、本発明の要件を満足しない下記の例は、以下の不具合を抱えている。
【0074】
まず、No.1は純Cuの従来例であるが、熱処理後の電気抵抗率は低いものの、半導体層との密着性に劣っている。
【0075】
No.2は、Mnの添加量が少なく、またX元素を添加していない例であるが、Mn含有量が少なく、またX元素を添加していないため、密着性に劣っていた。
【0076】
No.3は、Mn及びX元素(Ag)の添加量が少ない例であるが、MnとX元素の添加量が少ないため、密着性に劣っていた。
【0077】
No.4は、Mnの添加量が多く、またX元素を添加していない例である。No.4はMn添加量が多いため、密着性は良好であるものの、電気抵抗率が上昇した。
【0078】
No.10、16、22、28は、Mnの添加量は適切であるが、X元素の添加量が多い例である。これらの例ではX元素添加量が多いため、密着性は良好であるものの、電気抵抗率が上昇した。なお、密着性を△と評価したが、MnやX元素の添加量が少ない例と比べると(No.1、2)、剥離率は良好であった。
【0079】
No.38は、本発明で規定するX元素以外の元素(Bi)を添加した例であるが、所定量のMn量を含んでいるものの、密着性が劣り、且つ熱処理後の電気抵抗率が上昇した。
【0080】
No.39はCu−Mn−X合金層(第一層)の膜厚が薄い例であり、所定量のMnおよびX元素を含んでいるものの、Cu−Mn−X合金層(第一層)の膜厚が薄いため、密着性向上効果が発揮されなかった。
【0081】
No.40はCu−Mn−X合金層(第一層)の膜厚が厚い例であり、所定量のMn及びX元素を含んでいるものの、Cu−Mn−X合金層(第一層)の膜厚が厚いため、熱処理後の電気抵抗率が上昇した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にて、基板及び/又は絶縁膜と直接接触するCu合金膜であって、前記Cu合金膜は基板側から順に、合金成分としてX(Xは、Ag、Au、C、W、Ca、Mg、Al、Sn、BおよびNiよりなる群から選択される少なくとも一種の元素)を含有するCu−Mn−X合金層(第一層)と、純Cu、またはCuを主成分とするCu合金であって前記第一層よりも電気抵抗率の低いCu合金からなる層(第二層)と、を含む積層構造で構成されていることを特徴とするCu合金膜。
【請求項2】
前記第一層におけるMnの含有量が1.0〜20原子%である請求項1に記載のCu合金膜。
【請求項3】
前記第一層におけるX元素の合計量は0.2〜10原子%である請求項1または2に記載のCu合金膜。
【請求項4】
前記第一層の膜厚は5〜100nmである請求項1〜3のいずれかに記載のCu合金膜。
【請求項5】
前記第二層の膜厚は100nm以上である請求項1〜4のいずれかに記載のCu合金膜。
【請求項6】
前記絶縁膜は、SiO、SiON、またはSiNで構成されている請求項1〜5のいずれかに記載のCu合金膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のCu合金膜を備えた表示装置。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のCu合金膜を備えた電子装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−211378(P2012−211378A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78281(P2011−78281)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】