D−アロースの生理活性作用の利用への使用
【課題】希少糖について、特にD-アロースの生理活性作用の利用及び希少糖の生理活性を活用した機能性食品、医薬品等の創生。
【解決手段】D−アロースを有効成分とする生体内抗酸化剤。組織保存液又は輸液に用いられることを特徴とする生体内抗酸化剤。その生体内抗酸化剤を含有する哺乳類(ヒトを含む)の飲食物、医薬組成物または皮膚外用剤。癌、皮弁壊死、一過性脳虚血発作、脳卒中、及び外傷性てんかんから選択される脳神経系疾患、急性腎不全、及び尿毒症から選択される腎疾患、網膜変性症、未熟児網膜症、白内障、及び眼炎症から選択される眼科疾患の治療又は予防に有効な医薬組成物。
【解決手段】D−アロースを有効成分とする生体内抗酸化剤。組織保存液又は輸液に用いられることを特徴とする生体内抗酸化剤。その生体内抗酸化剤を含有する哺乳類(ヒトを含む)の飲食物、医薬組成物または皮膚外用剤。癌、皮弁壊死、一過性脳虚血発作、脳卒中、及び外傷性てんかんから選択される脳神経系疾患、急性腎不全、及び尿毒症から選択される腎疾患、網膜変性症、未熟児網膜症、白内障、及び眼炎症から選択される眼科疾患の治療又は予防に有効な医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希少糖(D−アロース)を有効成分として配合した生体内抗酸化剤およびそれを含有する組成物、特に機能性食品、医薬品または化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
単糖はポリヒドロキシルアルデヒド構造を持つアルドース、ポリヒドロキシルケトン構造を持つケトース、およびそれらを還元して得られる糖アルコールに大別される。一方単糖は、自然界における存在量によっても分類される。即ち、希少糖は国際希少糖学会の定義によれば「自然界に希にしか存在しない糖」と定義されており、自然界における存在量が少ない単糖である。希少糖は、一般に有機化学的合成方法における合成反応においては収量の少ないものが多い。このため、希少糖は未知の性質のものが多く、D-アロースを含めたアルドヘキソース(六炭糖のアルドース)の希少糖においても未知の性質が多いというのが現状である。
このアルドヘキソースに属する希少糖としては、D-アロースの他にD-グロース、D-イドース、D-タロース、D-アルトロース、L-マンノース、L-グルコース、L-ガラクトース等が例示される。また、D-プシコースを含めたケトヘキソース(六炭糖のケトース)の希少糖においても同様である。ケトヘキソースに属する希少糖としては、D-プシコース、L-プシコース、D-ソルボース、L-ソルボース、D-タガトース、L-タガトース、L-フラクトース等が例示される。
ここで、従来、糖類と癌との関係については、例えば、特許文献1に記載されているように、癌の予防に有効である多糖類が知られている。また、オリゴ糖が整腸作用を持つことを利用して便秘を解消し大腸癌などになりにくい効果をもつことや、最近ではアガリスクなどの多糖体が癌抑制効果を持つことなどの報告、糖鎖と癌転移関連の報告もある。
一方、糖類の活性酸素に対する性質を利用したものでは、例えば、特許文献2に記載されているように、活性酸素を抑制する性質を有する多糖類を含有させた活性酸素抑制剤は知られている。
単糖類の中で、プシコースはケトヘキソース(六炭糖)である。このプシコースには光学異性体としてD体とL体とが有ることが知られている。ここで、D-プシコースは既知物質であるが自然界に希にしか存在しないので、国際希少糖学会の定義によれば「希少糖」と定義されているが、このD-プシコースは、近年、エピメラーゼの出現(例えば、特許文献3参照)により高価ではあるが、比較的入手が容易となった。そして、この公報に従えば、調製されたD-プシコースは、甘味料、醗酵用炭素源、試薬、化粧品・医薬品の原料・中間体などとして有効に利用できることが示唆されている。この公報によれば、この甘味料としては、飲食物、飼料、歯磨き、内服薬など経口摂取物の甘味付け嗜好性向上に利用できる旨記載されているが、可食配合物としての具体的な構成については開示されていない。D-プシコースの光学異性体であるL-プシコースについては、可食配合物として利用可能であることが、例えば、特許文献4で詳細に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−112455号公報
【特許文献2】特開平7−285871号公報
【特許文献3】特開平6−125776号公報
【特許文献4】特開昭57−129671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
希少糖の生理活性に着目し、細胞を用いる実験によりその裏付けをすることは本発明者らによってはじめられた。21世紀は生命科学の世紀とも言われており、現在、国際的にDNA研究、タンパク質研究が進められている。ポストゲノム研究における糖と言えば糖鎖研究が中心であるが、本発明者らは「単糖」に着目し、単糖に生理活性はないかという切り口で研究を進めている。本発明の背景としては、希少糖の生産に関する網羅的な研究が長年積み重ねられてき、近年になり一部の希少糖の大量生産技術が確立されたことが挙げられる。
本発明は、希少糖について、特にD-アロース、D-プシコースの生理活性作用の利用方法の提供及び希少糖の生理活性を活用した機能性食品、医薬品等の創生を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の(1)および(2)の生体内抗酸化剤を要旨としている。
(1)D−アロースを有効成分とする生体内抗酸化剤。
(2)組織保存液又は輸液に用いられることを特徴とする、上記(1)に記載の生体内抗酸化剤。
【0006】
また、本発明は、以下の(3)および(4)の飲食物を要旨としている。
(3)上記(1)に記載の生体内抗酸化剤を含有する哺乳類(ヒトを含む)の飲食物。
(4)機能性飲食物である上記(3)に記載の飲食物。
【0007】
また、本発明は、以下の(5)および(6)の医薬組成物を要旨としている。
(5)上記(1)に記載の生体内抗酸化剤を含有する哺乳類(ヒトを含む)の医薬組成物。
(6)癌、皮弁壊死、一過性脳虚血発作、脳卒中、及び外傷性てんかんから選択される脳神経系疾患、急性腎不全、及び尿毒症から選択される腎疾患、網膜変性症、未熟児網膜症、白内障、及び眼炎症から選択される眼科疾患の治療又は予防に有効な上記(5)に記載の医薬組成物。
【0008】
また、本発明は、以下の(7)の皮膚外用剤を要旨としている。
(7)上記(1)に記載の生体内抗酸化剤を含有す哺乳類(ヒトを含む)の皮膚外用剤。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明についてのD-アロースが、肝臓癌細胞(HepG2)に対する増殖抑制効果があることを示す図である。
【図2】本発明についてのD-アロースが、子宮癌細胞(Hela)に対する増殖抑制効果があることを示す図である。
【図3】本発明についてのD-アロースが、卵巣癌細胞(OVCAR3)に対する増殖抑制効果があることを示す図である。
【図4】本発明についてのD-アロースが、皮膚角化細胞(HaCaT)に対する増殖抑制効果があることを示す図である。
【図5】本発明についてのD-アロースが、癌細胞増殖抑制に対する濃度依存性を有することを示す図である。
【図6】実施例3の希少糖によるHL60の増殖抑制効果を示す図面である。
【図7】実施例3の希少糖によるDaudi細胞の増殖抑制効果を示す図面である。
【図8】実施例3の希少糖によるTHP1の増殖抑制効果を示す図面である。
【図9】実施例3の希少糖によるKS1の増殖抑制効果を示す図面である。
【図10】実施例3の希少糖によるMT2の増殖抑制効果を示す図面である。
【図11】実施例3の希少糖によるKG1の増殖抑制効果を示す図面である。
【図12】フローサイトメトリーによるD-アロースの細胞周期への影響を示す図面である。
【図13】白血球からの活性酸素産生の経時変化を示す図である。
【図14】本発明についてのD−アロースが、白血球の活性酸素の産生の抑制に効果があることを示す図である。
【図15】各糖が、白血球の活性酸素産生が始まった後での活性酸素抑制については効果がないことを示す図である。
【図16】実施例9の本発明についてのD−アロースが、活性酸素産生抑制に対する濃度依存性を有することを示す図である。
【図17】網膜虚血・再環流障害に対するD-アロースの効果を示す図面である。
【図18】実施例7のD-アロースの皮弁虚血再環流障害軽減効果に関し、生着面積(%)の全データを示す表である。
【図19】実施例7のD-アロースの皮弁虚血再環流障害軽減効果に関し、分散分析(一元配置)を示す表である。
【図20】実施例7のD-アロースの皮弁虚血再環流障害軽減効果に関し、平均値と標準偏差を示す図である。
【図21】実施例7のD-アロースの皮弁虚血再環流障害軽減効果に関し、多重比較検定の結果を示す表である。
【図22】実施例8のラット腎虚血再環流障害に及ぼす希少糖の効果に関し、ノーザンブロッティングの結果を示す図面に代わる写真である。図はCINC-1のmRNAの発現量を示すものである。標準としてGAPDH(glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase)のmRNAを取り、これがほぼ一定であることを確認した(写真上)。その上で、CINC-1のmRNAの発現量を比較した。左から、虚血前、虚血後、D-アロース投与後虚血、D-プシコース投与後虚血での腎臓を示す。CINC-1 mRNAは虚血前には全く発現していないが、虚血により発現し、D-アロースとD-プシコース投与により発現量が抑えられていた。
【図23】実施例9の希少糖による海馬神経細胞死の抑制効果を示す図面である。
【図24】実施例9の脳虚血に伴う神経細胞外へのグルタミン酸の放出、およびアロースによる放出抑制効果を示す図面である。
【図25】実施例9の脳虚血に伴う神経細胞外へのグルタミン酸の放出、および2-デオキシグルコースによる放出抑制効果を示す図面である。
【図26】参考例1で、D-プシコースがMCP−1の分泌抑制効果があることを示す図である。
【図27】参考例1で、D-プシコースがMCP−1の分泌を刺激するサイトカインに作用してMCP−1の分泌を抑制することを示す図である。
【図28】参考例2で、D-プシコースがマイクログリアの出現数に与える影響を示す図である。
【図29】参考例3で、D-プシコースがインスリンの分泌刺激効果に与える影響を示す図である。
【図30】参考例3で使用される反転腸管の実験例を説明する図である。
【図31】参考例3で、D-プシコースが、ブドウ糖の吸収に与える影響を示す図である。
【図32】参考例3で、希少糖投与によるラット血糖値に対する影響に関し、麻酔下生理食塩水投与による血糖への影響を示す図面である。
【図33】参考例4の希少糖投与によるラット血糖値に対する影響に関し、麻酔下D-グルコース投与による血糖への影響を示す図面である。
【図34】参考例4の希少糖投与によるラット血糖値に対する影響に関し、D-プシコース投与による血糖への影響を示す図面である。
【図35】参考例5のケトースの高血糖状態改善効果に関し、IVGTTでの血中D-グルコース濃度への影響を示す図である。
【図36】参考例6のケトースの高血糖状態改善効果に関し、インスリンの分泌動態を示す図である。
【図37】参考例6のケトースの高血糖状態改善効果に関し、高血糖時におけるD-プシコースの作用を示す図である。
【図38】参考例6の希少糖に高血糖下における糖化抑制効果があるか否かの検討に関し、GA測定原理を説明する図である。
【図39】参考例6の希少糖に高血糖下における糖化抑制効果があるか否かの検討に関し、希少糖によるグリケーションの検討を示す図である。
【図40】参考例6の希少糖に高血糖下における糖化抑制効果があるか否かの検討に関し、グルコース共存下での希少糖によるグリケーションの検討を示す図である。
【図41】イズモリング(Izumoring)連携図である。
【図42】図41の下段のイズモリングC6の説明図である。
【図43】図41の中断のイズモリングC5の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
「希少糖」とは、自然界に微量にしか存在しない単糖と定義づけることができる。本発明においても前記定義に基づく希少糖であり、好ましくはアルドースであるD-アロース、またはケトースであるD-プシコースである。自然界に多量に存在する単糖は、D-グルコース、D-フラクトース、D-ガラクトース、D-マンノース、D-リボース、D-キシロース、L-アラビノースの7種類あり、それ以外の単糖は全て希少糖である。また、糖アルコールは単糖を還元してできるが、自然界にはD-ソルビトールが比較的多いが、それ以外のものは量的には少ないので、これらも本発明に従う希少糖と定義される。これらの希少糖は、これまで入手が困難であったが、自然界に多量に存在する単糖から希少糖を生産する方法が開発されつつあり、その技術を利用して製造することができる。
以下、これらの単糖の関係を一層容易に理解するために提案されたIzumoringに基づき説明を加える。
図41で示される生産過程と分子構造(D型、L型)により、炭素数4から6の単糖全てをつないだ連携図がイズモリング(Izumoring)の全体図である。すなわち、図41から理解できることは、単糖は、炭素数4、5、6全てがつながっているということである。全体図は、イズモリングC6の中でのつながりと、イズモリングC5の中でのつながりと、イズモリングC4の中でのつながりと、C4、C5、C6が全てつながっていることである。この考え方は重要である。炭素数を減少させるには主に発酵法を用いる。炭素数の異なる単糖全てをつなぐという大きな連携図であることも特徴である。また、利用価値がないということも理解することができる。
炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリングは、図41の下段および図42に示すように、炭素数が6つの単糖(ヘキソース)は全部で34種類あり、アルドースが16種類、ケトースが8種類、糖アルコールが10種類ある。これらの糖は、酸化還元酵素の反応、アルドース異性化酵素の反応、アルドース還元酵素の反応で変換できることは、本発明者らの研究を含めた研究で知られている。しかしながら、これまでの研究では上のグループ、真ん中のグループ、下のグループは酵素反応でつながっていなかった。つまり、上のグループに属しているD-グルコース(ブドウ糖)やD-フラクトースは自然界に多量に存在する糖であり安価であるが、これらから希少糖を合成することができなかった。ところが、本発明者らの研究の過程で、これを結ぶ酵素が発見された。それはガラクチトールからD-タガトースを合成する酵素を持つ菌の培養液中に、全く予期しなかったD-ソルボースが発見されたことに端を発する。その原因を調べた結果、この菌がD-タガトース3エピメラーゼ(DTE)という酵素を産生していることを発見した。
【0011】
図41の下段および図42に示すように、このDTEはこれまで切れていたD-タガトースとD-ソルボースの間をつなぐ酵素であることがわかる。そしてさらに驚くことに、このDTEは全てのケトースの3位をエピ化する酵素であり、これまで合成接続できなかったD-フラクトースとD-プシコース、L-ソルボースとL-タガトース、D-タガトースとD-ソルボース、L-プシコースとL-フラクトース、に作用するという非常に幅広い基質特異性を有するユニークな酵素であることが分かった。このDTEの発見によって、すべての単糖がリング状につながり、単糖の知識の構造化が完成し、イズモリング(Izumoring)と名付けた。
この図42をよく見てみると、左側にL型、右側にD型、真ん中にDL型があり、しかもリングの中央(星印)を中心としてL型とD型が点対称になっていることもわかる。例えば、D-グルコースとL-グルコースは、中央の点を基準として点対称になっている。しかもイズモリング(Izumoring)の価値は、全ての単糖の生産の設計図にもなっていることである。先の例で、D-グルコースを出発点としてL-グルコースを生産しようと思えば、D-グルコースを異性化→エピ化→還元→酸化→エピ化→異性化するとL-グルコースが作れることを示している。
炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリング(Izumoring)を使って、自然界に多量に存在する糖と微量にしか存在しない希少糖との関係が示されている。D-グルコース、D-フラクトース、D-マンノースと、牛乳中の乳糖から生産できるD-ガラクトースは、自然界に多く存在し、それ以外のものは微量にしか存在しない希少糖と分類される。DTEの発見によって、D-グルコースからD-フラクトース、D-プシコースを製造し、さらにD-アロース、アリトール、D-タリトールを製造することができるようになった。
炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリング(Izumoring)の意義をまとめると、生産過程と分子構造(D型、L型)により、すべての単糖が構造的に整理され(知識の構造化)、単糖の全体像が把握できること、研究の効果的、効率的なアプローチが選択できること、最適な生産経路が設計できること、欠落部分について予見できること、が挙げられる。
【0012】
炭素数が5つの単糖(ペントース)のイズモリングは、図41の中段および図43に示すように、炭素数6のイズモリングよりも小さいリングである。しかし、C6のイズモリングと同じようにアルドース8個、ケトース4個および糖アルコール4個全てを含むことに変わりは無く、全てが酵素反応で結ばれる。異なる点は、酸化還元反応、異性化反応のみでリング状に全てが連結できることである。一方、DTEを用いることによって、さらに効率のよい生産経路が設計できることがわかる。炭素数5のイズモリングの特徴は、特に図43から明らかなように、炭素数6のイズモリングが点対象に全単糖が配置されているのに対し、左右が対象に配置されていることが大きな特徴である。これら全ペントースは、酵素反応により連結されていることから、炭素数6のイズモリングの場合と全く同様に、すべてのペントースが構造的に整理され(知識の構造化)、全体像が把握できること、研究の効果的、効率的なアプローチが選択できること、最適な生産経路が設計できること、欠落部分について予見できる意義を持っている。
炭素数が4つの単糖(テトロース)のイズモリングは、図41の上段に示すように、テトロースの構造上の特性のため、リングが完成しないという特徴がある。炭素数5のイズモリング上部半分の構造を持っている。このリングの場合も、炭素数5,6の場合と同様の酸化還元および異性化反応によって連結されている。DTEが炭素数4のケトースに反応しないため、ケトース間の反応は現在のところ存在しない。しかし、新規のエピメラーゼの存在が予測され、この研究は現在研究途上である。全体の配置は、炭素数5と同様に左右対称であり、アルドース4個、ケトース2個および糖アルコール3個全てを含んでいる。すなわち炭素数5,6のイズモリングと同様の意義が存在する。
【0013】
イズモリングC6のD-グルコースは、イズモリングC5のD-アラビトールおよびイズモリングC4のエリスリトールとつながっている。この線は、発酵法によってD-グルコースからD-アラビトールおよびエリスリトールを生産できることを示している。すなわち、イズモリングC6,イズモリングC5およびイズモリングC4は連結されている。この連結は、炭素数の減少という主に発酵法による反応であり、このD-アラビトールおよびエリスリトールへの転換反応の二つ以外の発酵法によるイズモリングC6とイズモリングC5,C4との連結は可能である。例えばD-グルコースからD-リボースの生産も可能である。このように、3つのイズモリングにより全ての炭素数4,5,6の単糖(アルドース、ケトース、糖アルコール)が連結されたことで、それぞれの単糖が全単糖の中でその存在場所を明確に確認できる。
最も有名なキシリトールは、未利用資源の木質から生産できるD-キシロースを還元することで容易に生産できることを明確に確認できる。もしも特定の単糖が生物反応によって多量に得られた場合には、それを原料とした新たな単糖への変換の可能性が容易に見いだすことが可能である。すなわち、この全体像から全ての単糖の原料としての位置を確実につかむことができるため、有用な利用法を設計することができる。特に廃棄物や副産物から単糖が得られた場合の利用方法を容易に推定できるのである。希少糖の生産分野ばかりではなく、希少糖の持つ生理活性を探索する研究においても有効性を発揮する。例えば、ある希少糖に生理活性が判明したとき、図41で示される連携図の存在位置を確認する。そして構造の近い希少糖に関しての生理活性との比較、あるいは、構造的に鏡像関係にある希少糖の生理活性を検討することで、生理活性の機構を分子の構造から類推する助けになるであろう。また、希少糖の生理機能を解析し、イズモリング上に性質を集積することにより、これまで単純な羅列的理解から、単糖全体を、「単糖の構造」、「単糖の生産法」、および「単糖の生理機能」を包括的に理解することに大いに利用できると期待される。
【0014】
希少糖のうち、現在大量生産ができているD-アロースとD-プシコースという二つの希少糖について説明する。
本発明で用いられるD-アロース(D-アロヘキソース)は、アルドース(アルドヘキソース)に分類されるアロースのD体であり、融点が178℃の六炭糖(C6H12O6)である。
そして、このD-アロースの製法としては、D-アロン酸ラクトンをナトリウムアマルガムで還元する方法による製法や、また、シェイクワット・ホセイン・ブイヤン等による「ジャーナル・オブ・ファーメンテーション・アンド・バイオエンジニアリング(Journal of Fermentation and Bioengineering)」第85巻、539乃至541頁(1998年)において記載されている、L-ラムノース・イソメラーゼを用いてD-プシコースから合成する製法がある。
さらに近年では、特開2002-17392号公報に記載されている。D-プシコースを含有する溶液にD-キシロース・イソメラーゼを作用させて、D-プシコースからD-アロースを生成する製法が発明されている。
本発明の例えば癌細胞増殖抑制物質に用いるD-アロースは、前記製法、或いはその他の製法のいずれによって得られたものでもよいが、前記特開2002-17392号公報に記載されている製法によれば、大量生産が期待されるため、より容易に入手することができるようになることが期待される。しかし、これまでの製造法は、D-アロースの分離回収に関して完全に満足できるものではなく、従って工業的製造をするには未だ不経済な作業を必要としている。D-アロースを分離回収することに関する従来技術の不利な点「最もエネルギーの必要な過程」を克服すること、すなわち、効率よく分離回収する方法を提供すること、ならびに、高純度D-アロースの製造に関して技術的に実行可能な連続的製造法を提供することを目的として、D-アロースの結晶化法による分別法とその大量生産への応用について別途出願中である(特願平2003-95828号)。当該高純度D-アロースの分離回収法は、D-プシコースの一部分をD-アロースに変換した酵素反応産物である例えば35%D-プシコースと15%D-アロースの混合溶液からD-アロースを回収するに際し、D-アロースのエタノールおよび/またはメタノールに難溶性の性質を利用してD-アロースを結晶化させ、該D-アロースの結晶を分離することを特徴とする。上記の方法において、D-プシコースを酵素反応でD-アロースに変換する際に用いる酵素は「L-ラムノースイソメラーゼ」が例示される。L-ラムノースイソメラーゼは、上記1998年の文献で発表された公知酵素であり、Pseudomonas stutzerii 由来の酵素を好ましいものとして例示される。菌株 Pseudomonas stutzerii LL172a は、上記文献に記載された公知菌であり、香川大学農学部生物資源食糧化学科の何森健研究室に保存されている。財団法人発酵研究所から同一のPseudomonas stutzerii は得られる。Pseudomonas stutzerii IFO 3773, Pseudomonas stutzerii IFO 13596 が同一の活性を持っていると思われる。L-ラムノースイソメラーゼは各種の微生物から容易に入手が可能であり、L-ラムノースが存在する培養条件の時に、誘導的に生産される。通常、L-ラムノースイソメラーゼ産生能を有する微生物を培養して得ることができる。例えば、L-ラムノースイソメラーゼは各種の微生物をL-ラムノースを炭素源として培養すると、L-ラムノースが誘導剤となって菌体内に生産される。酵素を大量に構成的に産生する変異株を用いることは、L-ラムノースなどの高価な炭素源を必要としないので特に有利である。得られた培養菌体からL-ラムノースイソメラーゼを抽出したもの、または菌体そのものを用いる。L-ラムノースイソメラーゼは、使用目的に応じて、必ずしも高純度に精製されたものでなくてもよく、粗酵素であっても用いることができる。粗酵素の具体的例としては、上記のL-ラムノースイソメラーゼ産生能を有する微生物自体を、また、その培養物や部分精製した培養物を用いることができる。本発明では特定の固定化法による固定化酵素または固定化菌体の形態で用いることにより、送液圧力が低く安定で長期間連続使用可能なリアクターを構築することができる。
上記の高純度D-アロースを連続的に製造する方法によって、D-アロースの分離と同時に脱塩、脱イオン、そして濃縮、結晶化が行え、従来、すべて別々の工程で行っていた分離方法をワンステップに統合処理できる。したがって、短時間に大量の処理が可能である。
【0015】
本発明で用いられるD-プシコースは、希少糖に属するケトヘキソースに分類されるプシコースのD体であり六炭糖(C6H12O6)である。このようなD-プシコースは、自然界から抽出されたもの、化学的又はバイオ的な合成法により合成されたもの等を含めて、どのような手段により入手してもよい。比較的容易には、例えば、エピメラーゼを用いた手法(特開平6-125776号公報等参照)により調製されたものでもよい。得られたD-プシコース液は、必要により、例えば、除蛋白、脱色、脱塩などの方法で精製され、濃縮してシラップ状のD-プシコース製品を採取することができ、更に、カラムクロマトグラフィーで分画、精製することにより99%以上の高純度の標品も容易に得ることができる。このようなD-プシコースは単糖としてそのまま利用できるほか、必要に応じて各種の誘導体として用いることも期待される。
【0016】
本発明において、生理活性作用感受細胞とは希少糖を作用させて当該細胞の機能を変化させることができる細胞をいい、このような機能を備えた細胞であれば特に限定されない。希少糖は当該細胞に影響して当該細胞の機能を変化させる。希少糖の種類により生理活性作用が異なるが、細胞を用いた予備実験によりその作用を予測することができ、本実験により確認することができる。当該細胞としては、好ましくはヒト細胞であるが、ヒト以外の細胞をも包含する。細胞の形態は生体の臓器、培養細胞のどちらでもよい。
生理活性作用感受細胞に希少糖を影響して当該細胞の機能を変化させる作用を発揮させるためには、細胞に希少糖を作用させることにより行う。本発明に用いられる希少糖は水溶性であり、作用させる態様には制限はない。用途に応じて適宜な手段を採用して希少糖を作用させることができる。
希少糖を有効成分とする物質の形態で用いて、細胞に希少糖を作用させることが好ましい。希少糖として希少糖を有効成分として配合した物質はいかなる形態のものも包含する。
【0017】
希少糖のうち、アルドースとしてイズモリングにおいてD-フラクトースから最も近いD-アロースを、ケトースとしてD-プシコースを2つの代表的な希少糖としてとりあげその生理活性について説明する。
まず第1に、D-アロースについての例を示す。
本発明者らは、アルドースである希少糖が活性酸素の産生を抑制する性質を有することを見いだした。本発明は、アルドースである希少糖を有効成分とする活性酸素産生抑制剤を提供することができる。
すなわち、D-アロースが臓器の虚血障害を保護するというデータがある。肝臓などの臓器の手術の際には、必ず血流を一時的に止める。その結果、臓器は虚血状態に陥る。手術終了後、再び血液を流すと、この時、白血球から活性酸素が多量に産生され、これが臓器障害を起こす一つの大きな原因と考えられている。本発明者らは、希少糖を用いてラットで90分間というかなり長い時間肝臓を虚血にし、その後再還流して3ヶ月後の生存率を調べた。通常では3割くらいしか生存しないものが、虚血前にD-アロースを0.2g/kg還流しておくと、生存率が約7割に増加した。これを実証するために白血球を用いて様々な希少糖および現在自然界に多量に存在する糖(ブドウ糖など)を用いて、白血球からの活性酸素の産生に対する効果を調べた。白血球から活性酸素を産生させておき様々な糖を加えると、D-アロースのみが非常に強い活性酸素の産生抑制効果を示した。これが臓器保護の一つの要因であると考えられる。
このような虚血に対する保護作用は小腸、あるいは、脳の神経細胞死にも有効であることがわかった。神経細胞は特に虚血に弱く、海馬の神経細胞は5分間の虚血でも死滅することがわかっている。ラットの脳を用いて5分間の虚血を起こすと、海馬の神経細胞の8割が死んでしまうが、虚血の前にD-アロースを含む溶液で還流しておくと5分間の虚血でも約7割の生存が確認された。D-プシコースではこの作用は認められなかった。
さらに、この虚血保護作用は、網膜の虚血の保護作用があること、皮弁の生着率が著しく向上すること、腎臓虚血保護作用があることを裏付け、脳神経細胞虚血保護作用がグルタミン酸分泌抑制によることがわかった。
本発明者らは、希少糖に属するアルドヘキソース(六炭糖)が癌細胞の増殖を抑制する性質を有することを見いだした。本発明は、希少糖に属するアルドヘキソースを有効成分とする癌細胞増殖抑制剤を提供することができる。すなわち、ヒトがん由来の株化細胞を用いたがん細胞の増殖に対する効果を調べた。後述する実施例に結果を示しているが、がん細胞はシャーレに撒いておき、十分な栄養と酸素を与えるとどんどん増殖する。ここにD-アロースを添加すると増殖を非常に強力に押えるという効果があることが分かった。この効果は肝臓がんや皮膚がんの細胞においても同様に認められた。D-アロースを有効成分とする癌細胞増殖抑制剤は、用法としては経口投与でもよく、また、静脈注射、動脈注射、リンパ管内注射および疾患部位への直接投与でもよい。また、癌細胞増殖抑制剤に有効成分として含有させるものはD-アロースに限定されず、癌細胞の増殖を抑制する効果(癌細胞増殖抑制効果)を有する他のアルドース希少糖も癌細胞増殖抑制剤の有効成分として含有させることができる。
さらにD-アロースの白血病細胞に対する影響について、ある種の白血病細胞の増殖を抑制することを確認し、細胞増殖の抑制は細胞周期のG2-M期を延長するというD-アロースの細胞周期への影響のメカニズムを解明した。
【0018】
次に、ケトヘキソースの生理活性についての例を示す。
このような希少糖に属するケトヘキソースは糖代謝に影響を及ぼさず、ケモカイン抑制物質、マイクログリア遊走抑制物質、インスリン分泌促進物質又は癌細胞増殖抑制物質として経口摂取、腹腔内投与、静脈投与など種々の経路で使用することができる。また、病巣内或いは病巣周辺に非経口的に投与することもできる。この場合、希少糖に属するケトヘキソースは単独で、又は希少糖に属するケトヘキソースの作用に悪い影響を与えない添加物を添加したり、誘導体としたり、また、他の物質(薬理活性成分)と併用して用いることもできる。
以下、各用途に分けてこの発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明者等は希少糖に属するケトヘキソースがケモカインの分泌を抑制する性質を有することを見出した。これにより、希少糖に属するケトヘキソースを有効成分とするケモカイン分泌抑制剤又は物質を提供することができる。
動脈硬化症に起因する死亡は、死因の第一位である。動脈硬化症の危険因子としては、糖尿病、高脂血症、高血圧などが指摘されている。最近の報告によれば、これら危険因子と動脈硬化症発症の機序について、分子レベルでの解析が進んでいる。動脈硬化症発症の契機は、単球の血管壁への遊走およびscavenger receptorによるコレステロール蓄積とマクロファージの泡沫細胞化である。その進展には種々のサイトカインやケモカインの関与が示唆されている。特にケモカイン(細胞遊走を起こすサイトカイン)の一つであるMCP-1(monocyte chemoattractant protein-1)は動脈硬化巣の血管内皮細胞から分泌され単球の遊走に関係する因子であり、動脈硬化進展に重要な役割を演じている因子として注目されている。
MCP-1又はMCP-1の受容体であるCCR2をノックアウトしたマウスにおいては動脈硬化が起こりにくく、MCP-1が動脈硬化発症において中心的な役割を持っていることが明らかになった。
MCP-1は、IL-1βやTNF-αという炎症性サイトカインにより刺激されて分泌される。こうしたサイトカインの産生を抑制する薬剤として、pyrazolotriazin誘導体薬剤やnitric oxide(NO)分泌誘発剤が知られており、臓器保存に使用されている。
炎症性サイトカイン・ケモカイン産生抑制剤としてコハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム(薬効:副腎皮質ホルモン剤)も市販されている(例えば、ファルマシア社、富士製薬社、ユーシービージャパン社、沢井製薬社)。
一方、糖類又はその誘導体の動脈硬化治療剤としては、血中コレステロール濃度を低下させるヘキソースリン酸カルシウム(グルコースリン酸カルシウムなど)が特開昭63-198630号公報で公表されている。
また、コラーゲンの合成を抑制するピラノピラノン化合物が特開平10-330268号公報で公表されている。
しかしながら、希少糖に属するケトヘキソース及びその誘導体によるMCP-1分泌の抑制効果やこれを利用した動脈硬化抑制についてはまだ知られていない。
本発明により、希少糖に属するケトヘキソースのMCP-1分泌の抑制効果を確認することにより希少糖に属するケトヘキソースの動脈硬化における有用性及び臨床応用への可能性を裏付けることができる。以下の実施例(参考例)では、第一に希少糖に属するケトヘキソースの一つとしてのD-プシコースによる血管内皮細胞からのMCP-1分泌に対する影響について検討する。また、血管内皮細胞からのMCP-1分泌を刺激するサイトカイン存在下におけるD-プシコースのMCP-1分泌抑制効果についても検討する。
これにより、希少糖に属するケトヘキソースはMCP-1の分泌を抑制することにより、単独で、又は他の物質(薬理活性成分)と併用して、動脈硬化症の予防又は治療に有効である可能性が示唆される。また、糖尿病、高脂血症、高血圧などの予防物質、治療物質として期待される。また、炎症性サイトカイン・ケモカイン産生抑制物質、副腎皮質ホルモン剤や抗炎症剤の代用物質としての利用が期待される。更に、臓器保存剤としての適用も期待される。
D-プシコースはインスリン分泌を促進する。インスリンを分泌するラットの膵臓β細胞株を用いた実験において、生理的な分泌物質であるD-グルコースの濃度を徐々に上げていくと、濃度に依存してインスリンの分泌が増えていく。D-グルコースの濃度をゼロにしておき、D-プシコースの濃度を上げていくと、D-グルコースと同じように濃度依存性にインスリンを分泌するという反応が見られた。また、D-グルコースを11.2mM投与すると最大のインスリン分泌となるが、その状態でさらにD-プシコースを加えるとD-グルコースと等濃度くらいまで加えた時さらにインスリン分泌が促進され、D-グルコースでの最大分泌量とD-プシコースでの最大分泌量を足した量のインスリンが分泌された。
このように、希少糖が生理活性を持つということが次々と分かってきた。希少糖を細胞の外に投与した場合、(1)輸送体を通って細胞の中に入ってくる可能性、(2)受容体に結合する可能性、あるいは、(3)細胞内の代謝を希少糖が存在することで変える可能性、などが考えられる。それらいずれの経路でも、恐らく情報は核に伝わり核のDNAの転写に変化が起こり、蛋白の発現に変化が生じ、その結果、細胞機能が変化するのではないかと考えている。D-プシコースのインスリン分泌の例を見ても、今まで知られているメカニズムと異なっている可能性が高い。希少糖の作用メカニズムについては、これまでほとんど行われておらず、そのような場合においてメカニズムを探るためには、希少糖を処理した細胞あるいは臓器での情報経路を網羅的に解析する手法を取らなければならないと考えている。
そこで、本発明者らはさらに研究をすすめて、インスリン分泌促進作用について、D-プシコースが血糖値を緩やかに押さえる作用を動物(ラット)で裏付け、D-プシコースが高血糖時の血糖降下とインスリン分泌促進作用があること、ならびに、D-プシコースにより蛋白質の糖化がほとんどおこらないことを確認した。
【0019】
以上、医薬品としての応用を例に示したが、その他にも、D-プシコースでは動脈硬化の増悪因子であるケモカインMCP-1の血管内皮細胞からの分泌を抑制する効果に加え、肝臓での脂肪の合成を抑制する効果があることもわかっており動脈硬化予防作用などにつながる可能性がある。また血管新生に対する作用や免疫抑制作用など、さまざまな生理活性効果の可能性が出てきている。また、希少糖の用途としては医薬品以外の可能性については、食品、飲料、特に機能性食品(肥満予防など)、化粧品、飼料、農薬(植物成長調整剤、植物病害抵抗性増幅剤など)が例示される。
農薬の使用量を飛躍的に減少させる可能性のある、植物に対して病害抵抗性を増幅する作用の物質を提供することを目的として、本発明者らの別のグループは、希少糖による植物病害抵抗性増幅剤の発明を別途出願中である〔特願平2003-95826号(特許4009720号)〕。希少糖を、植物に対して病害抵抗性を増幅する作用の物質として用いる場合の利点は、(1)低濃度(100 μg/ml)の希少糖水溶液が、展着剤なしで、抵抗性遺伝子を迅速に起動し、(2)希少糖は自然界に微量しか存在しないが、「天然物」であるため、安全性の高い散布剤であることが期待され、(3)希少糖は病原菌に対する作用は強い殺菌作用ではないので、耐性菌の発生を考慮する必要がなく、(4)希少糖単独の剤としてのみならず、殺菌剤との混合商品等としての開発が期待される点が挙げられる。
【0020】
食品、飲料または化粧品、あるいは飼料における配合量は特に制限されないが0.01〜10重量%程度が好ましい。医薬品の場合、カプセルや粉末、錠剤などとして経口投与することができ、水に溶けることから経口投与以外に静脈注射、筋肉注射などの投与方法を採用することが可能である。投与量は例えば糖尿病の症状の度合いや体重、年齢、性別などにより異なるものであり、使用に際して適当な量を症状に応じて決めることが望ましい。医薬品における配合量は特に制限はされないが、体重1kgあたり、経口投与の場合0.01〜2,000mg、静脈注射投与の場合0.01〜1,000mg、筋肉注射投与の場合0.01〜1,000mg程度が好ましい。
また本発明の希少糖は食品素材に微量に存在し、安全性が高く、大量生産技術が開発されればコスト面でも利用価値は高いものである。なお急性経口毒性試験では5,000mg/kg以上であった。
【0021】
本発明の機能性食品は、特定の疾病などを予防(肥満予防)する健康食品、予防医薬品の分野の利用に適している。特定の疾病を予防する健康食品においては、必須成分である希少糖の他に、任意的成分として、通常食品に添加されるビタミン類、炭水化物、色素、香料など適宜配合することができる。食品は液状または固形の任意の形態で食することができる。ゼラチンなどで外包してカプセル化した軟カプセル剤として食することができる。カプセルは、例えば、原料ゼラチンに水を加えて溶解し、これに可塑剤(グリセリン、D-ソルビトールなど)を加えることにより調製したゼラチン皮膜でつくられる。
【0022】
本発明の薬剤においては、有効成分である希少糖はそれ自体のみならずそれの薬剤として許容される塩として使用される。該薬剤は、希少糖を単独で製剤として用いることができるほか、製薬上使用できる担体もしくは希釈剤を加えた製剤組成物に加工したものを用いることもできる。このような製剤または薬剤組成物は、経口または非経口の経路で投与することができる。例えば、経口投与用の固体または流体(ゲルおよび液体)の製剤または薬剤組成物は、タブレット、カプセル、錠剤、丸剤、粉末、顆粒もしくはゲル調製品の形態をとる。製剤または薬剤組成物の正確な投与量は、その目的とする使用形態および処置時間により変化するため、担当の医師または獣医が適当であると考える量になる。服用および投与用量は製剤形態によって適宜調整できる。錠剤などの経口固形製剤、経口液剤などとして1日服用量を1回ないし数回に分けて服用してもよい。また、例えばシロップやトローチ、チュアブル錠などの幼児頓服して、局所で作用させるとともに内服による全身性作用をも発揮させる製剤形態では1日服用量の1/2〜1/10を1回量として配合し服用すればよく、この場合全服用量が1日量に満たなくてもよい。
逆に、製剤形態からみて無理な服用容量とならなければ1日服用量に相当する量を1回分として配合してもよい。製剤の調製にあたっては、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、コーティング剤、徐放化剤など、希釈剤や賦形剤を用いることができる。この他、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、保存剤、可溶化剤、等張化剤、乳化剤、懸濁化剤、分散剤、増粘剤、ゲル化剤、硬化剤、吸収剤、粘着剤、弾性剤、可塑剤、吸着剤、香料、着色剤、矯味剤、抗酸化剤、保湿剤、遮光剤、光沢剤、帯電防止剤などを使用することができる。
【0023】
本発明は、希少糖の抗炎症作用を利用する皮膚外用剤、すなわち治療薬、皮膚外用剤、化粧料等が知られている肌荒れ、荒れ性に対して改善・予防効果を有する皮膚外用剤を提供することができる。本発明の皮膚外用剤には、希少糖を必須成分とし、それ以外に、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば水性成分、油性成分、粉末成分、アルコール類、保湿剤、増粘剤、紫外線吸収剤、美白剤、防腐剤、酸化防止剤、界面活性剤、香料、色剤、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。その他、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤、カフェイン、タンニン、ベラバミル、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸、トラネキサム酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸クルコシド、アルブチン、コウジ酸、D-グルコース、D-フルクトース、トレハロース等の糖類なども適宜配合することができる。本発明の皮膚外用剤は、例えば軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤等、従来の皮膚外用剤に用いられる形態であればいずれでもよく、剤型は特に問わない。
【0024】
以下、本発明の詳細を実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されない。
【実施例1】
【0025】
(希少糖の培養細胞増殖に及ぼす影響)
以下の条件により、各種の希少糖を培養液中に50mMの濃度で添加して、各希少糖が株化癌細胞の増殖進行に及ぼす影響を調べた。
(1) 添加対象細胞:肝臓癌細胞(HepG2)、子宮癌細胞(Hela)、卵巣癌細胞(OVCAR3)、皮膚角化細胞(HaCaT)を、添加する対象細胞とした。
(2) 添加した希少糖:D-アロースの他に、比較する他の糖として、グルコース、及びケトース希少糖のD-アルトロースを各添加対象細胞に添加した。また、コントロールとしては、D-フルクトースを採用した。
(3) 実験方法:96穴のマルチウェルプラスティックディッシュ(ウェル)に各添加対象細胞を3,000〜5,000個撒き、細胞種により5〜10%のFetal Bovine Serum(FBS)を添加した媒体で4〜5日間培養した。D-アロース、D-グルコース、D-アルトロースを、各々50mMの濃度で各添加対象細胞に添加した。コントロールとしてのD-フルクトースを、前記同様に50mMの濃度で添加した。細胞増殖に及ぼす影響を調べるため、24時間毎に下記のMTT法により細胞数を確認した。
<MTT法>
(i)試薬の調製:MTT(tetrazolium salt)の所定量をオートクレープで滅菌したPBS(-)で溶解し、濾過滅菌しMTT溶液を得る。酸性溶液としては、SDSの所定量(20g)にN,N-ジメチルホルムアミドの50mL及び水を加えて100mLとし、1Nの塩酸約200mLを加えてpH4.7に調整する。室温で保存して使用前に37℃とする。
(ii)試験方法:細胞をTEPで処理し、細胞浮遊液を調製する。その細胞浮遊液を所定数(300〜52000細胞/ウェル)、各ウェルに分注する(96ウェルプレート:培地0.1mL)。薬剤としての糖を所定量添加し、炭酸ガスインキュベーターで一昼夜前培養する。上述のMTT液0.5mg/mLを添加し、炭酸ガスインキュベーター内で4時間培養後、培地を完全に取り除く。さらに、37℃に保たれた室内で酸性溶液を0.1mL/ウェルの量で加え、マイクロプレートミキサーに載せ、37℃で20分間振動させながら溶解させる(formazanを酸性溶液で溶解させる)。分光光度計を用いて、570〜600nmの波長で吸光度を測定する。着色物質(formazan)酸性溶液で溶解させた後、そのままプレートリーダで吸光度を測定できる。
(4) 実験結果:(i)肝臓癌細胞(HepG2)…肝臓癌細胞(HepG2)の細胞数の経時変化を図1に示す。図1により、D-アロースがHepG2細胞の増殖を強く抑制したことがわかる。D-アルトロースにも抑制作用が認められたが、D-アロースと比し癌細胞増殖抑制効果は弱いものであった。グルコースにはほとんど抑制効果が認められなかった。
(ii)子宮癌細胞(Hela)…子宮癌細胞(Hela)の細胞数の経時変化を図2に示す。D-アロースはHela細胞の増殖を強く抑制したことがわかる。
(iii)卵巣癌細胞(OVCAR3)…卵巣癌細胞(OVCAR3)の細胞数の経時変化を図3に示す。D-アロースはOVCAR3細胞の増殖を強く抑制したことがわかる。D-アルトロースにも抑制作用が認められたが、D-アロースと比し癌細胞増殖抑制効果は弱いものであった。グルコースは癌細胞の増殖に対して促進的に働いた。
(iv)皮膚角化細胞(HaCaT)…皮膚角化細胞(HaCaT)の細胞数の経時変化を図4に示す。D-アロースはHaCaT細胞の増殖を強く抑制したことがわかる。他の希少糖ではD-アルトロースに中等度の抑制効果が認められたが、D-アロースと比し癌細胞増殖抑制効果は弱いものであった。図1〜図4より、D-アロースの癌細胞増殖抑制効果は、細胞種により強さが異なっていることがわかる。アルドース希少糖としてのD-アロースには癌細胞の増殖を抑制する効果があり、制癌剤としての有効利用が期待された。さらに、D-アロースと比しケトース希少糖のD-アルトロースの癌細胞増殖抑制効果は弱いものであったことから、D-アロースだけでなく他のアルドース希少糖も制癌剤としての有効利用が期待できる。
【実施例2】
【0026】
(D-アロースの癌細胞増殖抑制効果の濃度依存性)
実施例2として、D-アロースの癌細胞増殖抑制効果の濃度依存性を調べた。
(1) 実験方法:添加対象細胞として、卵巣癌細胞(OVCAR3)を選択し、D-アロース濃度を1mM、5mM、10mM、20mM、50mM、100mMとして添加した。卵巣癌細胞(OVCAR3)の培養方法、細胞数の計測方法(MTT法)等の実験条件は前記実施例1と同様である。
(2) 実験結果:各濃度のD-アロースを添加した卵巣癌細胞(OVCAR3)の細胞数の経時変化を図5に示す。癌細胞増殖抑制効果は10mMで認められ始め、20mM、50mM、100mMと次第に強くなった。すなわち、D-アロースの抑制効果には濃度依存性が認められた。抑制効果が見られる濃度は本実施例2の実験条件(10%胎仔血清)では10mMであったが、この有効濃度は他の細胞においても同じであった。さらに、D-アロースを投与した細胞を顕微鏡で見ると、死んだ細胞はほとんどなく、このことはトリパンブルー色素排泄試験でも確かめられた。本実験結果からは、D-アロースは細胞増殖を抑制するものの、細胞を殺す働きはないと考えられる。
【実施例3】
【0027】
(希少糖の血液系の癌細胞株の増殖への影響)
この実施例は、希少糖に属するアルドースを有効成分とする癌細胞増殖抑制物質に関する。各種の抗腫瘍薬・制ガン剤が知られているが、一般的にその副作用が問題となっている。また、現在では疾患の治療にターゲットを置いた薬剤より、むしろその予防にターゲットを置いた薬剤又は食品(機能性食品)に対する意識や期待が高まっている。糖と癌との関係では、オリゴ糖が整腸作用を持つことを利用して便秘を解消し大腸癌などになりにくい効果を有することや、最近ではアガリクスなどの多糖体が癌抑制効果を持つことなどの報告、糖鎖と癌転移などの関連の報告などはあるが、単糖そのものが癌細胞増殖抑制効果を持つことについてはほとんど報告がない。本実施例では、希少糖に属するアルドースやケトースの各種の株化癌細胞に対する増殖の影響を検討した。これにより、希少糖に属するアルドースが株化癌細胞の増殖抑制が確認された。糖代謝に影響を及ぼさない希少糖に属するアルドースが株化癌細胞の増殖を抑制させる効果が確認されたことは、副作用の少ない癌の治療剤、予防剤、増殖抑制剤として期待される。また、希少糖に属するアルドースは機能性食品としての付加価値が高まることが期待される。なお、希少糖に属するアルドースとしてはD-アロースが最も有効であった。
【0028】
(1) 目的:希少糖による細胞株の増殖抑制効果を比較検討する。
(2) 方法:Myeloid(HL-60, THP-1, KG-1)、T-cell(MT-2)、B-cell(Daudi, KS-1)の合計6株、希少糖3種(D-psicose, D-altrose, D-allose)を使用した。培養液と各細胞を1×105個、計1mlになるようにし、4日目と7日目の細胞数をコールターカウンターでカウントした。糖はそれぞれ0.05、0.5、5、50mMで添加し、コントロールにはD-glucoseを用いた。
培地;FBS10%添加RPMI1460
培養条件;37℃, 5%CO2
培養容器;FALCON, MULTIWELL, 12well
培養日数;7日間
糖濃度;0.05、0.5、5、50mM
(3) 結果(図6〜図11):6株の細胞のうち、HL60とDaudi細胞において効果が認められたが、他の細胞においては明らかな影響は認められなかった。
1) 図6に示すように、psicoseとalloseで抑制が見られたが、altroseでは見られなかった。
(i)allose; 糖濃度が高くなる程、7日目の細胞増殖抑制は強くなる傾向にあった。0.05mM; 62.6%, 0.5mM; 67.7%, 5mM; 41.5%, 50mM; 30.7%, (glucoseを100%とする)
(ii)psicose; 細胞増殖抑制は、糖濃度には関わりなく、ほぼ一定であった。0.05mM; 84.7%, 0.5mM; 80.7% 5mM; 84.2%, 50mM; 93.6%, (glucoseを100%とする)
2) 図7に示すように、alloseで抑制が見られたが、psicoseとaltroseでは認められなかった。
(i)allose; 糖濃度が大きくなる程、7日目の細胞増殖抑制は大きくなる傾向にあった。0.05mM; 85.9%, 0.5mM; 80.6% 5mM; 62.2%, 50mM; 3.9%, (glucoseを100%とする)
3) 図8および図9に示すように、allose 50mMで細胞増殖抑制が見られたが、他の糖、濃度でははっきりとした抑制は見られなかった。
4) 図10および図11に示すように、コントロールを含め、すべての糖および濃度で抑制が見られたため、糖そのものにこれら細胞にたいする非特異的な影響があることが想定された。
以上より、D-alloseは、HL60, Daudi, KS1, KG1の4種類の細胞において抑制効果が認められ、使用した希少糖の中で最も抑制効果が高かった。D-alloseの効果には細胞の種類により差があることが確認された。
【実施例4】
【0029】
(D-アロースの細胞周期に及ぼす影響)
(1) 目的:様々な糖を試した中で、D-アロースのみがミリM濃度で癌細胞の増殖を抑えた。作用メカニズムは未だ不明だが、そのために、D-アロースが細胞周期に及ぼす影響を調べることとした。
(2) 方法:フローサイトメーターによる解析を行った。使用した細胞は、OVCAR-3 (卵巣癌)細胞である。
1)細胞をトリプシンで処理し、細胞浮遊液を調製する。
2)直径100mmのplastic tissueに細胞を撒き、CO2 インキュベーターで24時間培養する (overnight)。
3)希少糖(D-アロース50mM)を添加と無添加 (controlとしてD-グルコース)して、3日間培養する。
4)分離した細胞をPBS(-)で2回洗浄する。
5)遠心後PBS(-)3mlを加えピペッティングにより撹拌する。
6)7ml 100% ethanolを加える、4℃で、2h固定する。
7)1500rpm, 5min遠心する。
8)Cold PBS(-)で2回洗浄する。
9)遠心後, RNase200ug/mlを加える、37℃で30分インキュベーションする。
10)0.5mlPI (propidium iodide) を加える、15分インキュベーションする。
11)フローサイトメーターで測定する。
(3) 結果:D-アロースを添加した細胞は細胞周期においてG2―M期の細胞の割合が22.6%であり、コントロールでの細胞の割合12.6%に比べて有意に多かった(図12)。
(4) 考察:1)希少糖はこれまでほとんど研究されていないため、その生理機能もほとんど知られていないのが現状である。そのなかD-アロースは癌細胞の増殖を抑制効果があることは、今まで全く知られていない新規な働きである。2)そのメカニズムについてはまた明らかでないが、今回の解析によって、細胞周期G2期を遅延させる効果があることがわかった。
【実施例5】
【0030】
(希少糖の白血球からの活性酸素の産生に対する影響)
以下の条件により、各種の希少糖の白血球からの活性酸素の産生に対する影響を調べた。ここでは白血球からの活性酸素産生に対する作用を、L012化学発光により調べた。
(1) 添加対象白血球:ラット白血球(顆粒球)を用いた。
(2) 添加した希少糖:アルドース希少糖としてのD-アロースの他に、比較する他の希少糖として、ケトース希少糖のD-プシコースとD-アルトロースを、ポリオールのD-タリトールを用いた。さらに、自然界に多量存在する糖としてD-グルコースとD-フラクトースを使用した。
(3) 実験方法:(i)ラット白血球からの活性酸素産生の経時変化…ラット白血球(顆粒球)にzymosan粒子を添加することにより起こる活性酸素産生の時間経過を調べた。さらに、各希少糖の存在化における活性酸素産生の時間経過も調べた。
(ii)活性酸素産生に希少糖が及ぼす影響…白血球からの活性酸素産生系に対して、さまざまな糖を添加して産生量を測定した。添加した糖の濃度はそれぞれ10mMを使用した。また、糖を添加しない条件下でも測定を行った。
(iii)希少糖の活性酸素産生に対する作用…白血球においてzymosan添加し貪食が始まり活性酸素産生が始まった後にそれぞれ10mMの濃度の各希少糖を添加した。
(iv)D-アロースの活性酸素産生抑制効果の濃度依存性…D-アロースの活性酸素産生抑制効果の濃度依存性を調べた。D-アロース濃度を0mM、5mM、10mMとして添加した。
(4) 実験結果:(i)ラット白血球からの活性酸素産生の経時変化…ラット白血球(顆粒球)にzymosan粒子を添加することにより起こる活性酸素産生の時間経過を調べた結果を図13に示す。活性酸素産生は、2〜3分で極大になりその後は随時減少することが判明した。また、この結果は、希少糖存在下でも変化しなかった。
(ii)活性酸素産生に希少糖が及ぼす影響…各糖を添加して産生量を測定した結果を図14に示す。活性酸素産生は、D-アロースのみにより抑制された(n=4)。グルコースをはじめ、他の希少糖(D-プシコース、D-アルトロース、D-タリトール)では全く抑制が認められなかった。
(iii)希少糖の活性酸素産生に対する作用…活性酸素産生が始まった後に希少糖を添加したときの実験結果を図15に示す。白血球においてzymosan添加し貪食が始まり活性酸素産生が始まった後に希少糖を10mMの濃度添加した場合には、D-アロースにおいて抑制効果がみられた。本実施例5により、活性酸素の産生の時間的経過は希少糖の存在に拘わらず同じであることが判明した。また、調べた希少糖の中では、D-アロースに特異的に、活性酸素の産生を抑制する効果(活性酸素産生抑制効果)があることが判明した。
(iv)D-アロースの各濃度における活性酸素抑制効果の実験結果を図16に示す。この結果、この系においては5mMでは作用が現れず、10mMになって初めて50%以上の抑制効果が現れることが判明し、D-アロースの有効濃度は10mM近辺にあることが判明した。また、本実施例10および前記実施例5により、D-アロースには活性酸素の産生を抑制する作用があることが判明した。他のアルドースについてもこの作用があることも予想され、今後の課題として調べていかなければならない。
この活性酸素産生抑制効果は幅広い活性酸素が関連する病態・疾患に対して、有効であり、今後、治療薬、機能性食品、外用剤などとしての応用の可能性があると思われる。例えば、脳神経系疾患(一過性脳虚血発作、脳卒中、パーキンソン症候群、外傷性てんかん、脊髄損傷等)、心血管系病変(動脈硬化症、虚血性心筋傷害等)、呼吸器疾患〔Adult respiratory distress syndrome(ARDS)、間質性肺炎、肺線維症、ウイルス性肺炎等〕、消化器疾患(胃粘膜病変、肝の虚血・再循環障害、黄疸病態、膵炎等)、腎疾患(糸球体腎炎、急性腎不全、慢性腎不全、尿毒症等)、糖尿病、癌、眼科疾患(網膜変性、未熟児網膜症、白内障、眼炎症、角膜疾患等)、皮膚疾患(アトピー性皮膚炎、しみ、そばかす、色素沈着、皮膚の老化等)、膠原病等のための治療薬への応用や、その他の用途としても 臓器保存剤、各種臓器幹細胞保存剤、精子・卵子保存剤としても応用の可能性がある。また、本実施の形態では、アルドース希少糖として、D-アロースを用いているが、活性酸素産生抑制効果を有する他のアルドース希少糖も前記のような用途への応用の可能性がある。
【実施例6】
【0031】
(網膜虚血・再還流障害に対する希少糖の効果)
(1) 目的:一過性眼虚血モデル(ラット)に対してD-アロースの網膜に対する影響を検討する。
(2) 方法:一過性眼虚血モデルは眼圧を120 mmHg程度まで上昇させることにより作製した。45分間の虚血を行い、その後再還流を行った。マイクロダイアリーシス法により虚血再還流時に放出されるグルタミン酸濃度を測定した。
(3) 結果:図17に示すように、D-アロースを虚血前に静脈内投与(200mg/kg体重)することにより、虚血時のグルタミン酸濃度はコントロール(D-アロース非投与)に比べ抑制され、また再還流時には完全に抑制された。
(4) 考察:網膜の虚血・再還流障害においては、海馬の神経細胞のそれと同様に、多量のグルタミン酸の放出による神経毒性があることが指摘されている。D-アロースがグルタミン酸の放出を抑制することはD-アロースが網膜神経保護効果を有する可能性を強く示唆している。
【実施例7】
【0032】
〔希少糖(D-アロース)の皮弁虚血再灌流障害軽減効果に関する実験〕
(1) 目的:本発明者らはこれまでの基礎研究で、島状皮弁の虚血再灌流後の皮弁壊死および乱走皮弁遠位部の壊死メカニズムの解明に取り組んできた。その結果、島状皮弁の虚血再灌流後の壊死および乱走皮弁遠位部の壊死に活性酸素が関与していることを明らかにした。また、島状皮弁の虚血再灌流後の壊死および乱走皮弁遠位部の壊死には、血腫や炎症により産生される活性酸素の関与することも示唆されている。本実施例7は、希少糖の活性酸素産生抑制作用の基礎的データを得ることを第一の目的とし、島状皮弁および乱走皮弁の壊死を効果的に予防するための臨床応用を第二の目的とする。さらに、遊離皮弁、切断肢の長期保存における保存液としての応用および血行再開後の再灌流障害予防法を開発することを第三の目的とする。(2) 実験方法:1)ウイスター系ラット(♂、7〜8週、300g弱)にペントバルビタール(ネンブタール)を腹腔内投与して麻酔をする。2) バリカンで腹部全体を剃毛する。3) 左大腿動静脈を血管茎とする3×5cmの島状皮弁を左腹部に作成する。4) 挙上した皮弁は、4-0ナイロン糸を用いて元の位置に縫合する5) 薬剤(いずれも0.6ml)を右大腿静脈よりワンショットで静注する。投与する薬剤は、各種濃度のD-アロース、グルコース(0.2mg/g)、生理食塩水。
6) 薬剤を投与して15分間待った後、血管茎を動静脈ともクランプする。クランプには、バスキュラークリップ(静脈用60g)を2個使用した。
7) レーザードップラー血流計を用いて、血行が完全に遮断されたことを確認する。
8) 8時間後、クランプを外す。同様に、レーザードップラー血流計を用いて血行が再開したことを確認する。
9) 1週間後に、皮弁の生死を判定する。
10) デジタルカメラで撮影後コンピューターに取り込み、生着面積(%)を面積計算ソフトで計算する。
(3) 実験群:下記の6群:各群いずれもn=15
1) D-アロース :150mg(0.5 mg/g)
2) D-アロース : 60mg(0.2 mg/g)
3) D-アロース : 30mg(0.1 mg/g)
4) D-アロース : 15mg(0.05mg/g)
5) D-グルコース: 60mg(0.2 mg/g)
6) 生理食塩水(コントロール)
(4) 結果(図17〜20):生着面積(%)の全データを図18に、分散分析(一元配置)の結果を図19に、平均値と標準偏差を図20に、多重比較検定(Fisher’s PLSD)の結果を図21に示す。多重比較検定は、p<0.05で有意差ありと判定した。
30mg(0.1 mg/g)以上D-アロースを投与した 1)2)3)の3群は、生食投与群6)に対してともに統計的有意差を認める。さらに、1)2)の2群はグルコース投与群5)に対しても統計的有意差を認める。しかし、D-アロースを15mg(0.05mg/g)投与した4)は、生食投与群6)やグルコース投与群5)に対して統計的有意差を認めない。また、グルコース投与群5)は生食投与群6)に対して統計的有意差を認めない。したがって、D-アロースはD-グルコースと異なり皮弁生着面積の延長効果があり、その効果発現には30mg(0.1 mg/g)以上の投与が必要であるといえる。
(5) 考察:上記の実験によりD-アロースに皮弁虚血再灌流障害軽減効果があることが証明された。この機序がいかなる作用によるものなのかを検証する必要がある。われわれはD-アロースが抗酸化作用を持つのではないかと考えている。この証明のためには、各種酸化ストレスの指標を測定する必要がある。まず、皮弁組織中の過酸化脂質をTBA(チオバルビタール)法により経時的に測定すること、4-hydroxy-2-noneal-modified protein(HNEによる免疫染色から測定)や白血球数(HE標本から測定)などの他のパラメーターも測定することが必要がある。
作用機序の概要が分かることにより、どのタイミングで投与するのが最も効果的なのかを検討することが可能である。現在は皮弁挙上直後(皮弁の血管茎をクランプする15分前)に経静脈的に全身投与しているが、血管茎のクランプを解除する直前に全身または局所投与してみる実験を続けるべきと考えている。また、至適投与量についても再検討し、至適投与量・最も効果的な投与方法(タイミング)が判明したところで、既存の抗酸化剤(SOD、アロプリノールなど)と効果を比較してみることが必要であると考えている。今後の展望として、皮弁保護作用のある注射薬または軟膏の開発につながると考えている。効果的な皮弁壊死予防薬が開発されれば、皮弁による手術成績が飛躍的に向上する。また、切断肢の保存が可能になれば、緊急手術で再接着術を行う必要はなくなり、待機手術として定時に行うことができるようになる。
(6) 参考文献:1)Ashoori F, Suzuki S, et al:Involvement of lipid peroxidation in necrosis of skin flaps and its suppression by ellagic acid. Plast Reconstr Surg, 94:1027-1037, 1994.
2)Um SC, Suzuki S, et al:Formation of 4-hydroxy-2-noneal-modified proteins and 3-nitro-L-tyrosine in rat island skin flaps during and after ischemia. Ann Plast Surg, 42:293-298, 1999.
3)佐藤美樹, 鈴木茂彦, 宗内巌:皮弁虚血再灌流障害時における組織内Galectin-9の発現変化. 日本形成外科学会会誌, 22:428-433, 2002.
4)Yagi K:A simple fluorometric assay for lipid peroxide in blood plasma. Biochem Med, 15:212-216,1976.
5)Ohkawa H, Ohishi S, Yagi K:Assay for lipid peroxides in animal tissues by thiobarbituric acid reaction. Anal Biochem, 95:351-358, 1979.
【実施例8】
【0033】
(ラット腎虚血再灌流障害に及ぼす希少糖の効果)
(1) 目的:ショックや腎虚血を伴う手術時などで、急性腎不全は生命予後に悪影響を及ぼす重篤な合併症の一つである。そこで、今まで腎虚血性障害に対してはischemic preconditioningや各種薬物の有効性が検討されている。今回はラット腎虚血再灌流障害モデルを使用して腎虚血性障害に及ぼす希少糖の効果を検討した。
(2) 方法:
対象…体重300g前後の雄性ラット。
実験方法…ラットをネンブタールで麻酔後に腎虚血モデルを作製。
腎虚血…右腎摘出後、左腎血管を45分間クランプすることで作製。
使用薬剤…D-アロース、D-プシコース(ともに400mg/kg)腎虚血30分前に静脈内投与する。
測定項目…障害性因子であるcytokine-induced neutrophil chemoattractant(CINC)-1 mRNA(再灌流 2時間後)の発現に及ぼす影響。
(3) 結果(図22):ノーザンブロッティグの結果を図22に示す。再灌流2時間後のCINC-1mRNAの発現量はアロース、プシコースともに減少しているように思われる。
(4) 考察:本実施例8では、たった1回の予備実験の結果であるので、今後回数を重ねて、必要濃度などの効果の検討を行う必要がある。CINC-1mRNAの発現量だけでなく、CINC-1蛋白に及ぼす影響も検討しなければならないと考えている。腎虚血性障害に対する希少糖の有効性が立証できれば、ショック、腎虚血を伴う手術時など新しい治療薬および輸液製剤の開発として有望であると考えている。
【実施例9】
【0034】
(希少糖の脳虚血保護作用の研究)
(1) 目的:一過性の脳虚血に伴い、海馬の神経細胞が死にいたることが知られている。この原因は明らかではないが、いくつかの可能性がある仮説が提案されており、現在、多くの研究者がこれらの仮説の証明を行っている。我々もこのモデルを用いて研究を行っているが、D-アロースの前投与によりこの細胞死が抑制されることを明らかにした。さらに、より詳細な投与量の決定や、作用機序の一部を明らかにした。
(2) 方法:砂ネズミを用い、5分間の両側性の総頸動脈を閉塞する。1週間後にサクリファイスし、常法に従い、切片作成を行い、ヘマトキシリン エオジン染色を行う。顕微鏡下で海馬の神経細胞数をカウントし、残存率を計測した。正常コントロール群、虚血を与えたのみの群、200mg/kgのD-アロースまたはD-プシコースを虚血前に投与した群で実験を行った。虚血にともない細胞外に放出される大量のグルタミン酸が神経細胞に毒性を有することが知られている。これを明らかにするため、脳定位固定装置に砂ネズミを固定後、海馬にグルタミン酸オキシダーゼを溶解した液をマイクロダイアリシス用のプローブに還流し、海馬の神経細胞外のグルタミン酸濃度をリアルタイムで測定した。またD-アロースや2-デオキシグルコースの前投与を行い、虚血に伴うグルコースの代謝とD-アロースの作用機序の関連を明らかにした。
(3) 結果:D-アロースは虚血に伴う神経細胞死を有意に抑制した。しかしD-プシコースではこの抑制効果は認められなかった(図23)。虚血に伴い、海馬ではグルタミン酸は二相性に分泌される(図24)。最初のピークは虚血に伴うもので、第二のピークは虚血終了後の過還流時に伴うものである。この過還流は1時間ほど持続し、この過還流時に神経細胞が障害を受けると考えられている。D-アロースの前投与により、1番目のピークは一部抑制されたが、その抑制は25%程度であった。しかし2番目のピークはD-アロースの投与によって90%前後に強く抑制された(図24)。またこのような効果は非代謝性のD-グルコース関連物質である2-デオキシグルコース投与によっても同様の効果が観察された(図25)。
(4) 考察:D-グルコースは神経活動には必須のものであると同時に、過不足にともない細胞毒性をもたらすことはよく知られている。また虚血のような強いストレスが与えられ、かつ酸素の供給が断たれた場合は、強い細胞毒性を発揮する。おそらくこれは活性酸素の発生を伴う細胞障害であると考えられる。D-アロースはD-グルコース代謝に何らかの影響を与えて、神経細胞死を抑制するものと考えられる。これは非代謝性の2-デオキシグルコースの投与によっても同様な効果がもたらされたことから、証明された。一方、脳虚血におけるD-グルコース消費は神経細胞のみならず、星状グリア細胞でもおこっており、両者がD-グルコースを取り合うような可能性が示された。星状グリア細胞におけるD-グルコース消費は最終産物が、神経とは異なっており、嫌気的代謝系が働き、乳酸が放出されると報告されている。プレリミナリーデーターであるが、実際に虚血時における乳酸分泌が観察されていることから、D-アロースの作用部位の一部は星状グリア細胞ではないかと推測される。また、グルタミン酸放出の2番目のピークは活性酸素によってもたらされる可能性もある。
[参考例1]
【0035】
(ケトヘキソースによる動脈硬化増悪に関連するケモカインMCP-1の分泌抑制作用)
ヒト血管内皮細胞(HUVECs)を常法に従い培養液(DMEM+10%FBS)の条件下で細胞培養を行った。HUVECsを約70%の濃度で96穴培養ディッシュに分注し以下の実験に供した。
(実験1)
D-プシコース濃度を0mM、5.6mM、11.2mMにてHUVECsの培養液に添加し、24時間培養後、培養液中のMCP-1をELISA(Quantikine,R&D)キットで測定し、結果を図26に示した。
(実験2)
HUVECsに作用してMCP-1の分泌を刺激するサイトカイン、IL-1β(最大分泌刺激濃度1ng/mL)およびTNF-α(最大分泌刺激濃度10ng/mL)で1時間HUVECsを前処理し、次にD-プシコースを0mM、5.6mM、11.2mMの濃度になるように添加し24時間培養後の培養液中のMCP-1濃度をELISAキットで測定し、結果を図27に示した。図26より、血管内皮細胞におけるMCP-1の基礎分泌に関して、D-プシコースは濃度依存的にMCP-1の分泌を抑制することが理解される。また、血管内皮細胞におけるMCP-1の分泌はサイトカイン(TNF-α,IL-1β)によって刺激され、最大刺激濃度はそれぞれIL-1βが最大分泌刺激濃度1ng/mLであり、TNF-αが最大分泌刺激濃度10ng/mLである。図27より、血管内皮細胞をIL-1β(1ng/mL)で刺激するとMCP-1が分泌され、その分泌は添加されたD-プシコースにより濃度依存的に抑制されることが理解される。
一般に、種々の血球成分に対する遊走活性を有するサイトカインであるケモカインの一つとしてのMCP-1は単球に対する遊走活性を有しており、生理的には炎症病巣における単球・マクロファージの集積に重要な役割を担っている。また、臨床的には動脈硬化巣の形成において血管内皮細胞の障害に引き続き、泡末細胞形成のための細胞成分の遊走に重要な役割を演じている。最近、動脈硬化巣の免疫染色で、動脈硬化病変におけるMCP-1の過剰発現が指摘されている。
以上の実験により、血管内皮細胞からのケモカインMCP-1の分泌が希少糖に属するケトヘキソースにより抑制されることが判明した。また動脈硬化巣におけるMCP-1の発現は種々のサイトカインにより刺激されており、特にIL-1β,TNF-αは重要な因子として位置付けられているが、以上の実験により、少なくともIL-1βによるMCP-1の分泌刺激を希少糖に属するケトヘキソースが抑制することが示唆された。
MCP-1は動脈硬化病変形成に重要な役割を演じることが指摘されており、希少糖に属するケトヘキソースのMCP-1分泌抑制効果は、動脈硬化の予防の観点からも重要であり、動脈硬化治療に有益な物質(例えば、動脈硬化治療物質や予防物質)への用途となり得ると考えられた。
これらの結果から、希少糖に属するケトヘキソースは、それ単独でMCP-1分泌を抑制する物質としての用途に利用できる。また、その誘導体や配糖体について検討すれば、MCP-1分泌を抑制する物質ができる可能性が示唆される。またMCP-1は動脈硬化症のみならず、他の疾患発症に関与していることが指摘されている。例えば慢性関節リウマチにおける関節での炎症の惹起にMCP-1の関与が指摘されている。また喘息などの肺疾患においても単球の遊走および単球・マクロファージの活性化を介して疾患形成に関与している。このような局所の炎症、および単球・マクロファージが関与する疾患において希少糖に属するケトヘキソースは疾患の活動性を調節する可能性があり、幅広い疾患の治療薬としての応用が期待される。
[参考例2]
【0036】
(ケトヘキソースによるマイクログリア遊走抑制作用)
本参考例2は、希少糖に属するケトヘキソースを有効成分とするマイクログリア遊走抑制物質に関する。生体内の臓器は長時間血流が途絶え虚血状態に陥ると壊死に陥る。虚血状態は、臓器の手術時に血流を一時遮断し術後に再開する場合に必ず生じる。また、臓器移植等で臓器を摘出保存し移植する場合も同様である。臓器保存法には、単純冷却法、持続灌流法、凍結法などがあるが現在もっとも臨床的に応用されているのは、単純冷却法である。これは臓器摘出時に保存液で灌流し、摘出後に同様の冷却した保存液に浸漬する方法である。現在ではBelzerらWisconsin大学外科のグループにより開発されたUniversity of Wisconsin(UW)液により飛躍的に保存時間が延長され、主としてこれが使用されるようになった。しかし、保存終了後の血流再開時には、臓器に対して活性酸素、細胞外プロテアーゼおよびサイトカインなどによる障害性変化が出現する。これを抑制する目的で種々の薬剤〔pyrazolotriazin 誘導体薬剤やnitric oxide(NO)分泌誘発剤など〕を灌流液に添加する方法が提唱されているが臨床的にまだ十分ではない〔松本光司 J Nippon Med Sch 第68巻第3号、2001年〕。
そこで、本参考例2では、希少糖に属するケトヘキソースのマイクログリア遊走抑制効果を確認することにより希少糖に属するケトヘキソースの脳臓器保存における有用性及び臨床応用への可能性について検討する。
以下の本参考例2では、虚血で出現するマイクログリアの数に及ぼす希少糖に属するケトヘキソースの影響について検討する。これにより、希少糖に属するケトヘキソースはマイクログリアの出現数を減少させて脳臓器保存における有用性及び脳の治療への臨床的応用へ有効であることが示唆される。なお、希少糖に属するケトヘキソースとしては、D-プシコースを使用した。脳虚血モデルとして、体重70g程度の雄砂ネズミの両側総頚動脈を5分間結紮するモデルを使用する。このモデルでは、脳の海馬CA1領域の神経細胞が特異的に虚血性細胞死を起こす。
虚血を行わない対象(コントロール:Sham)、虚血+生理食塩水処理、虚血+D-プシコース処理の各3例の各群に分けて比較検討した。
D-プシコース処理としては、生理食塩水中にD-プシコースを溶解させて濃度200mg/mLのD-プシコース溶液として、虚血前5分と虚血直後にそれぞれ、200mg/kgずつ、大腿静脈より虚血モデルに投与した。生理食塩水処理としては、D-プシコース溶液に代えて生理食塩水のみを同様に投与した。虚血後1週間して灌流固定し、20μmの凍結脳切片を作成し、ヘマトキシリン・エオジン染色を行った。
結果を図28に示すが、炎症細胞であるマイクログリアの出現数がD-プシコースの添加により減少され、マクログリアの遊走がD-プシコースの投与によって確実に抑制されることが理解される。この虚血モデルでは、炎症細胞であるマイクログリアの遊走はD-プシコースの投与によって抑えられた。一過性脳虚血の際には、海馬の神経細胞死が起こり症状として記憶障害が伴うことが知られている。脳虚血による神経細胞死に関しては、薬剤や低体温療法などで一時的に虚血性神経細胞死を抑制した後でも、脳グリア細胞の一種であるマイクログリアがグルタミン酸や活性酸素を出して、治療後の慢性的な細胞死に関与するということが指摘されている。これにより、こうしたマイクログリアの動きを抑制することも、脳の虚血保護や移植時保存に関して有用であると言える。したがって、D-プシコースは薬剤や低体温療法など他の治療法との併用でその治療効果を上げることが期待される。
[参考例3]
【0037】
(ケトヘキソースの血糖降下に関連する作用)
本参考例3は、希少糖に属するケトヘキソースを有効成分とする血糖降下作用物質に関する。糖尿病は耐糖能異常も含めると1000万人を遙かに超える国民病となっている。糖尿病の本態はグルコースによる特異的なインスリン分泌不全であり、膵臓からのインスリン分泌が減弱した状態およびその作用不足のために発症する代謝疾患と考えられている。一般にインスリン分泌を促進する薬剤として、スルホニル尿素薬やフェニールアラニン誘導体などの糖尿病治療薬があるが、副作用などの種々の問題点がある。そこで本参考例3では、希少糖に属するケトヘキソースの糖尿病における有用性および臨床応用の可能性について検討した。第一に希少糖に属するケトヘキソースによる膵β細胞からのインスリン分泌刺激能について、グルコースと比較して検討し、また、グルコースと希少糖に属するケトヘキソースの共存下における膵β細胞からのインスリン分泌動態について検討する。またグルコースは、食物が消化分解され腸から吸収されて供給されているので、グルコース吸収における希少糖に属するケトヘキソースの影響について腸管を用いて検討する。これにより、希少糖に属するケトヘキソースは、インスリンの分泌を促進する効果があり、特にグルコースと併用することにより加算的(追加的)にインスリンの分泌を促進させること、また、糖代謝に影響を及ぼさない希少糖に属するケトヘキソースがグルコースの吸収を抑制していることにより、希少糖に属するケトヘキソースの糖尿病の予防又は治療への有用性が示唆される。
インスリノーマ由来の膵β細胞株INS-1を常法に従い培養液(DMEM+10%FBS)の条件下で細胞培養を行った。INS-1細胞を約70%の密度で96穴培養ディッシュに分注し以下の実験に供した。希少糖に属するケトヘキソースとしては、D-プシコースを使用した。
(実験1)
培養液のグルコース濃度を2.8mM、5.6mM、11.2mM、16.7mMにして24時間培養後、培養液中のインスリン濃度をELISA(レビス インスリンキット)で測定した。この結果、インスリノーマ由来の膵β細胞株INS-1細胞は培養液中のグルコース濃度に反応してインスリン分泌が刺激された。この分泌刺激はグルコース濃度11.2mMでプラトーに達した。
(実験2)
培養液のD-プシコース濃度を0mM、2.8mM、5.6mM、11.2mM、16.7mMに変えた時の培養液中のインスリン濃度をELISA法にて測定し結果を図29に示した。この結果、膵β細胞株INS-1細胞を種々の濃度のD-プシコースで刺激すると、濃度依存的にインスリン分泌が認められた。この分泌刺激は、D-プシコース濃度11.2mMでプラトーに達した。
(実験3)
グルコースに基づくインスリン分泌がプラトーに達するグルコース濃度を11.2mMに固定し、更にD-プシコースを加えてプシコース濃度を2.8mM、5.6mM、11.2mM、16.7mMと変化させて24時間培養した。膵β細胞株INS-1細胞からのインスリン分泌の状況を検討し結果を図29に併せて示した。この結果、グルコースに基づくインスリン分泌の最大刺激濃度に保ったにもかかわらず、D-プシコースの濃度を追加的に増加させると、培養液中へのインスリンの分泌がさらに加算的に刺激されたことが確認された。
(実験4)
グルコースの吸収に与えるD-プシコースの影響を調べるためにラットの腸管を用いてD-プシコースの吸収に及ぼす影響を解析した。グルコースの吸収はグルコースオキシダーゼ法による定量法により腸管粘膜を隔てて外部と内部の濃度を測定することで解析する。D-プシコースがグルコースと併存することでグルコースの吸収がどのように変化するかを測定する。またD-プシコースを長期間投与したラットの腸管を用いて、同様に糖の吸収系がどのように変化するかを解析する。
グルコースを含む緩衝液中に、図30に示すように、ラット反転腸管を浸漬し、一定時間後に漿膜側の溶液をサンプリングしグルコース濃度を測定する。種々の濃度のD-プシコースを添加することによって、粘膜側から漿膜側へのグルコースの輸送に与えるD-プシコースの影響について検討し、結果を図31に示した。
この結果、ラット反転腸管にグルコースと同濃度のD-プシコースを加えておくと、漿膜側のグルコース濃度の上昇が有意に抑制された。D-プシコースの添加が、グルコースの輸送系に影響を与えている可能性が示唆された。以上の結果より、希少糖に属するケトヘキソースは、膵β細胞からのインスリン分泌を刺激することが判明した。また最大のインスリン分泌刺激が得られるグルコース濃度下の細胞において、希少糖に属するケトヘキソースを追加的に添加することにより、さらなるインスリン分泌が観察された。一般に、糖尿病の本態はグルコースによる特異的なインスリン分泌不全であるが、グルコースに基づくインスリン分泌が不全である場合にも希少糖に属するケトヘキソースの作用により有効にインスリン分泌を促進させることができると期待される。これにより、希少糖に属するケトヘキソースの膵β細胞からのインスリン分泌刺激作用および高血糖状態における希少糖に属するケトヘキソースのインスリン分泌増強作用が判明され、希少糖に属するケトヘキソースは、今までにない新しい作用機序を有する物質として期待される。また、臨床的に高血糖が認められる糖尿病患者において希少糖に属するケトヘキソースがインスリン分泌を促進し、血糖値を改善することが期待される。また経腸管的に投与された希少糖に属するケトヘキソースがグルコースの吸収を抑制すること及び希少糖に属するケトヘキソースが糖代謝に影響を及ぼさないことは、糖尿病における食後過血糖を抑制する可能性があり、糖尿病における予防又は治療に有益な物質として期待される。さらに、希少糖に属するケトヘキソースには糖尿病およびその合併症とも関連が大きい動脈硬化の予防効果も認められ、糖尿病の主死因は動脈硬化性疾患であるので、動脈硬化抑制作用もある希少糖に属するケトヘキソースは血糖値の改善および動脈硬化症の予防という画期的な糖尿病治療薬として期待される。また、希少糖に属するケトヘキソースは、これらの治療効果や抗肥満等が期待される健康補助食品となり得ると期待される。
[参考例4]
【0038】
(希少糖投与によるラット血糖値に対する影響)
(1) 目的:希少糖、特にD-プシコースの投与によってD-フラクトースの長期大量投与負荷で発生する高インスリン血症が抑制されることが報告されている。今回我々は希少糖の投与によって正常ラットの血糖値がどのように変動するかを調べた。
(2) 方法:1) 希少糖投与:SDラットオス(体重300g前後)を20-24時間絶食後に実験に用いた。ラットにネンブタール(58mg/kg B.W)を腹腔内投与し、麻酔下にて頚部を切開して経静脈にシリコンチューブを留置した。このチューブに1mlシリンジを接続し、希少糖を投与した。
2) 採血:頚静脈に挿入したシリコンチューブから1mlシリンジを用いて採血を行った。採血は希少糖投与直前、5,10,15,20,25,30, 60,120,180,240分後に行った。
3) 血糖測定:採血した血液中の血糖値はアントセンスII(バイエルメディカル)によって決定した。
(3) 結果:
1) 麻酔下生理食塩水投与による血糖への影響(図32):まず、3匹のラットに生理食塩水(0.7ml)のみを静注して血糖値に対する麻酔等の影響を調べた。その結果、生理食塩水のみの投与では血糖値の大きな変化はみられなかった。
2) 麻酔下D-グルコース投与による血糖値への影響(図33):D-グルコース(200mg/kg BW)を頚静脈より静注して注入前後の血糖値を測定した(N=2)。血糖値はD-グルコース投与によって一過性に上昇し、60分程度で正常値に近づいた。
3) D-プシコース投与による血糖値への影響(図34):ラットに麻酔下でPsicose(200mg/ kg BW)を静脈内投与して血糖値を測定した(N=4)。そのうち2匹では血糖値が希少糖投与30−60分で減少し、徐々に回復をしたが、他の2匹では血糖低下ののちに初期値より上昇またはほとんど変化しなかった。
(4) 考察:本参考例4が用いた正常ラット麻酔下における実験系にてネンブタール麻酔や生理食塩水静脈内投与が血糖値やD-グルコース負荷に対して影響しないことが確認された。本参考例4の実験では、ラットのうち半数はD-プシコースを投与することによって血糖値が投与後30-60分で低下し、その後ゆっくりとした回復が見られた。残りのラットは早期に血糖低下を起こしその後上昇するか、または徐々に血糖低下を示した。これらのことから個体差はあるが正常ラットでは希少糖(D-プシコース)により、軽度の血糖低下が起こることがわかった。今後、実験動物数を増やしてデータを解析する必要がある。また、高血糖ラットにおいての作用を検討する必要性がある。同時に行った、D-アロースの実験では、血糖低下は認められなかった。
[参考例5]
【0039】
(ケトースの高血糖状態改善効果)
(1) 目的:糖尿病は耐糖能異常も含めると1000千万人を遥かにこえる国民病となっている。糖尿病の本態はグルコースによる特異的なインスリン分泌不全である。そこで今回我々は、希少糖、特にケトースであるD-プシコースの糖尿病における有用性および臨床応用の可能性について検討した。現在までに、ケトースによる膵β細胞からのインスリン分泌刺激能について、in vitroで検討してきた。今回の検討は、無麻酔無拘束ラットをもちいてD-プシコースのインスリン分泌能および糖代謝に与える影響について検討をおこなう。本研究により、ケトースの膵β細胞からのインスリン分泌刺激作用および高血糖状態におけるケトースのインスリン分泌増強作用をin vivoで検証するものである。以上のことより今後ケトースの糖尿病における予防/治療薬としての可能性を検討する目的である。
(2)方法:1) 経静脈ブドウ糖負荷試験(IVGTT)…8週令SDラット雄を使用して頚静脈よりカテーテルを挿入してIVGTTを施行する。希少糖3匹・グルコース3匹とする。
プロトコール1
0.5g/kg(0.5g/1000g=500mg/1000g=0.5mg/g)でIVする。0.5g/ml(0.5g/1000ul=500mg/1000ul=0.5mg/ul)の濃度の希少糖およびグルコースの溶液を調整する。溶液は2ml作成する。
200gのラットであれば、200ulを静脈注射(IV)する。
250gであれば250ulとなる。
IVのあと生理食塩水を300ul注入する。
血液サンプルは150ul採血する。
前処置として16時間絶食とする。飲水は可。
採血時間は0、5、10,15,20,25,30,45,60分の9ポイントとする。 2) 高血糖時におけるプシコースの影響
8週令SDラット雄を使用して頚静脈よりカテーテルを挿入して50%グルコースを20分間隔で注入し高血糖状態を作成し、プシコースおよびデオキシグルコースを使用しIVGTTを施行する。希少糖1匹・デオキシグルコース1匹とする。
プロトコール2
0.5g/kg(0.5g/1000g=500mg/1000g=0.5mg/g)でIVする。 0.5g/ml(0.5g/1000ul=500mg/1000ul=0.5mg/ul)の濃度の希少糖およびデオキシグルコースの溶液を調整する。溶液は2ml作成する。
200gのラットであれば、200ulをIVする。
250gであれば250ulとなる。
IVのあと生理食塩水を300ul注入する。
血液サンプルは150ul採血する。
採血時間は0、5、10,15,20,25,30,45,60分の9ポイントとする。
(3) 結果:IVGTT…コントロールとしてブドウ糖を使用した。図35に示すように、ブドウ糖を負荷すると血糖値の上昇をみとめた。プシコースを静脈内に投与しても血糖値の上昇を認めなかった。またIVGTT に経時的に血中insulinを測定すると、ブドウ糖負荷群では血糖値の上昇に一致してinsulinの上昇を認めたが、プシコース投与群においては血糖値が上昇しなかったためかinsulinの分泌にも影響を与えなかった(図36)。
正常の血糖レベルではプシコースはインスリン分泌を促進しないことが示唆されたので、次にブドウ糖を連続して投与し高血糖状態を作成したラットにおいてプシコースの影響を検討した。コントロールとしてデオキシグルコースを使用した。コントロールに比較して、プシコース投与群においては血糖値に低下が速やかであった。また経時的に測定したinsulin濃度はコントロールに比較して分泌が増加していた(図37)。
(4) 考察:本参考例5の検討においてin vivoにおいてD-プシコースは糖代謝に影響を及ぼさずに膵β細胞からのインスリン分泌を刺激することが判明した。またインスリン分泌作用に関しては、高血糖時にインスリン分泌作用を有するが、通常の血糖においてはインスリン分泌促進作用がほとんど認められず、低血糖の誘発は認められなかった。糖尿病の本態はグルコースによる特異的なインスリン分泌不全であるが、希少糖は、そのような状態においても有効にインスリン分泌を促進させることより、今までにない新しい作用機序を有する物質として期待される。臨床的に高血糖が認められる糖尿病患者においてD-プシコースがインスリン分泌を促進し、血糖値の改善が得られる可能性があり、糖尿病治療に有益な医薬品または健康補助食品となりえると考えられる。
[参考例6]
【0040】
(希少糖の蛋白質の糖化に対する効果)
(1) 目的:糖尿病における持続的高血糖状態は,生体内での蛋白質の非酵素的糖付加反応(糖化)を促進する。この反応はアマドリ産物など(前期生成物)を経由して,やがて後期反応生成物(advanced glycation end products: AGE)を形成し、酸化ストレスを増大させ、糖尿病における網膜症、腎障害などの血管合併症を進展させる。本参考例6では,希少糖に高血糖下における糖化、酸化ストレス抑制効果があるか否かを検討する。
(2) 方法:グリコアルブミン(GA)測定試薬(オリエンタル酵母社製)プロテアーゼKによりアルブミンをアミノ酸断片にした後,ケトアミンオキシダーゼによりグリコリジンを測定する(図38)。各種希少糖によるヒトアルブミンのグリケーションを検討した。試料の調整は,PBSにヒトアルブミン純品を3g/dlにして,それに各種希少糖をそれぞれ終濃度55.5mMになるように溶解した。調整した溶液を0.25μmのフィルターでろ過滅菌し,37℃で7日間インキュベーションした。途中,正確に24時間おきにGA濃度(グリコリジン濃度)を測定した。さらに、アルブミン(終濃度3g/dl)、グルコース(終濃度55.5mM)溶液に各希少糖を終濃度55.5mMになるように添加し、同様に実験した。
(3) 結果:1) 最も糖化反応が顕著だったのはD-アロースであり,その糖化速度は約90μmol/dayであった。次に糖化反応が進んだのはD-グルコースとD-マンノースであり,約50μmol/dayであった。他の希少糖(D-プシコースなど)ではアルブミンのグリケーションは見られなかった(図39)。
2) グルコース共存下での希少糖の糖化作用…次にアルブミン(終濃度3g/dl)、D-グルコース(終濃度55.5mM)溶液に各希少糖を終濃度55.5mMになるように添加し、グリコアルブミン濃度を測定した。その結果、D-アロースはD-グルコース存在下でも急速な糖化反応が見られた。その糖化速度は実験1の結果通りで、約140μmol/day(D-グルコース+D-アロースの糖化速度)であった。またD-マンノースでは約100μmol/dayであり,グルコースの糖化速度をプラスした糖化速度が得られた。一方、D-プシコースなどの各希少糖ではグリケーションの抑制効果は認められなかった(図40)。
(4) 考察:生体内ではタンパク質とグルコースなとが非酵素的に結合(glycation)が起こっている。蛋白質のアミノ基とアルデヒド基の反応が初期反応において重要である。今回の検討結果でアルブミンのグリケーションが認められた糖類(D-アロース、D-グルコース、D-マンノース)はいずれもアルドース類である。アルドースは糖化反応のみならず、アルドース還元酵素によるポリオール代謝への影響も考えられる。臨床検査では、糖尿病患者の血糖コントロールの指標としてHbA1cやグリコアルブミンなどが有用とされている。いずれも蛋白質のグルコースによる糖化反応生成物を測定している。糖化部位は、ヘモグロビンのグロビンβ鎖N末端のバリン、アルブミンの199,281,439,525番目のリジンと言われている。今回希少糖の糖化反応の検討に使用したアルブミンはヘモグロビンに比べて糖化部位が多いので、短い期間の実験でデータが得られた。
ヘモグロビンによる同様の検討を行うには問題点がある。糖化速度が遅いので、インキュベーション中に蛋白の変性が進みすぎてうまく測定できない。現在、市販ヘモグロビン粉末にて検討中である。
本参考例6の実験データで分かったようにD-プシコースはアルブミンの糖化を促進しない。他のD-フラクトースなどの糖も糖化は起こさなかったが、それらの糖は体内に代謝経路をもっており、多量に存在すると結果としてアルドースなどが増加することになる。今後の実験でD-プシコースのヒト体内代謝をあきらかにするべきだが、少なくともD-プシコースは多量に服用しても糖化反応などがもたらす合併症の進展を促進しない可能性がある。加えて、D-プシコースのインスリン分泌作用があることから有用な糖尿病患者への利用価値があると考えられる。一方、今回のアルブミンを使用した実験では希少糖に糖化抑制作用は認められなかった。しかし、今後さらに希少糖の濃度を変更して検討し、さらに酸化抑制効果を検討していきたい。
以上、本発明を実施例により説明した。ここで希少糖は常用の糖類とは反対に身体により同化されないか又はたとえ同化されてもその程度は僅かであること、また、希少糖の脂質代謝に及ぼす影響から体脂肪蓄積の抑制効果が期待されていることにより、希少糖は、本発明の開示により各種の医薬品への期待に加えて、機能性食品としての付加価値を高くすることが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に従えば、希少糖、特にD-アロース、D-プシコースが細胞に取り込まれ又は作用されて当該細胞を変化させるので、希少糖が生理活性作用を有する物質として有効に利用されることが理解される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、希少糖(D−アロース)を有効成分として配合した生体内抗酸化剤およびそれを含有する組成物、特に機能性食品、医薬品または化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
単糖はポリヒドロキシルアルデヒド構造を持つアルドース、ポリヒドロキシルケトン構造を持つケトース、およびそれらを還元して得られる糖アルコールに大別される。一方単糖は、自然界における存在量によっても分類される。即ち、希少糖は国際希少糖学会の定義によれば「自然界に希にしか存在しない糖」と定義されており、自然界における存在量が少ない単糖である。希少糖は、一般に有機化学的合成方法における合成反応においては収量の少ないものが多い。このため、希少糖は未知の性質のものが多く、D-アロースを含めたアルドヘキソース(六炭糖のアルドース)の希少糖においても未知の性質が多いというのが現状である。
このアルドヘキソースに属する希少糖としては、D-アロースの他にD-グロース、D-イドース、D-タロース、D-アルトロース、L-マンノース、L-グルコース、L-ガラクトース等が例示される。また、D-プシコースを含めたケトヘキソース(六炭糖のケトース)の希少糖においても同様である。ケトヘキソースに属する希少糖としては、D-プシコース、L-プシコース、D-ソルボース、L-ソルボース、D-タガトース、L-タガトース、L-フラクトース等が例示される。
ここで、従来、糖類と癌との関係については、例えば、特許文献1に記載されているように、癌の予防に有効である多糖類が知られている。また、オリゴ糖が整腸作用を持つことを利用して便秘を解消し大腸癌などになりにくい効果をもつことや、最近ではアガリスクなどの多糖体が癌抑制効果を持つことなどの報告、糖鎖と癌転移関連の報告もある。
一方、糖類の活性酸素に対する性質を利用したものでは、例えば、特許文献2に記載されているように、活性酸素を抑制する性質を有する多糖類を含有させた活性酸素抑制剤は知られている。
単糖類の中で、プシコースはケトヘキソース(六炭糖)である。このプシコースには光学異性体としてD体とL体とが有ることが知られている。ここで、D-プシコースは既知物質であるが自然界に希にしか存在しないので、国際希少糖学会の定義によれば「希少糖」と定義されているが、このD-プシコースは、近年、エピメラーゼの出現(例えば、特許文献3参照)により高価ではあるが、比較的入手が容易となった。そして、この公報に従えば、調製されたD-プシコースは、甘味料、醗酵用炭素源、試薬、化粧品・医薬品の原料・中間体などとして有効に利用できることが示唆されている。この公報によれば、この甘味料としては、飲食物、飼料、歯磨き、内服薬など経口摂取物の甘味付け嗜好性向上に利用できる旨記載されているが、可食配合物としての具体的な構成については開示されていない。D-プシコースの光学異性体であるL-プシコースについては、可食配合物として利用可能であることが、例えば、特許文献4で詳細に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−112455号公報
【特許文献2】特開平7−285871号公報
【特許文献3】特開平6−125776号公報
【特許文献4】特開昭57−129671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
希少糖の生理活性に着目し、細胞を用いる実験によりその裏付けをすることは本発明者らによってはじめられた。21世紀は生命科学の世紀とも言われており、現在、国際的にDNA研究、タンパク質研究が進められている。ポストゲノム研究における糖と言えば糖鎖研究が中心であるが、本発明者らは「単糖」に着目し、単糖に生理活性はないかという切り口で研究を進めている。本発明の背景としては、希少糖の生産に関する網羅的な研究が長年積み重ねられてき、近年になり一部の希少糖の大量生産技術が確立されたことが挙げられる。
本発明は、希少糖について、特にD-アロース、D-プシコースの生理活性作用の利用方法の提供及び希少糖の生理活性を活用した機能性食品、医薬品等の創生を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の(1)および(2)の生体内抗酸化剤を要旨としている。
(1)D−アロースを有効成分とする生体内抗酸化剤。
(2)組織保存液又は輸液に用いられることを特徴とする、上記(1)に記載の生体内抗酸化剤。
【0006】
また、本発明は、以下の(3)および(4)の飲食物を要旨としている。
(3)上記(1)に記載の生体内抗酸化剤を含有する哺乳類(ヒトを含む)の飲食物。
(4)機能性飲食物である上記(3)に記載の飲食物。
【0007】
また、本発明は、以下の(5)および(6)の医薬組成物を要旨としている。
(5)上記(1)に記載の生体内抗酸化剤を含有する哺乳類(ヒトを含む)の医薬組成物。
(6)癌、皮弁壊死、一過性脳虚血発作、脳卒中、及び外傷性てんかんから選択される脳神経系疾患、急性腎不全、及び尿毒症から選択される腎疾患、網膜変性症、未熟児網膜症、白内障、及び眼炎症から選択される眼科疾患の治療又は予防に有効な上記(5)に記載の医薬組成物。
【0008】
また、本発明は、以下の(7)の皮膚外用剤を要旨としている。
(7)上記(1)に記載の生体内抗酸化剤を含有す哺乳類(ヒトを含む)の皮膚外用剤。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明についてのD-アロースが、肝臓癌細胞(HepG2)に対する増殖抑制効果があることを示す図である。
【図2】本発明についてのD-アロースが、子宮癌細胞(Hela)に対する増殖抑制効果があることを示す図である。
【図3】本発明についてのD-アロースが、卵巣癌細胞(OVCAR3)に対する増殖抑制効果があることを示す図である。
【図4】本発明についてのD-アロースが、皮膚角化細胞(HaCaT)に対する増殖抑制効果があることを示す図である。
【図5】本発明についてのD-アロースが、癌細胞増殖抑制に対する濃度依存性を有することを示す図である。
【図6】実施例3の希少糖によるHL60の増殖抑制効果を示す図面である。
【図7】実施例3の希少糖によるDaudi細胞の増殖抑制効果を示す図面である。
【図8】実施例3の希少糖によるTHP1の増殖抑制効果を示す図面である。
【図9】実施例3の希少糖によるKS1の増殖抑制効果を示す図面である。
【図10】実施例3の希少糖によるMT2の増殖抑制効果を示す図面である。
【図11】実施例3の希少糖によるKG1の増殖抑制効果を示す図面である。
【図12】フローサイトメトリーによるD-アロースの細胞周期への影響を示す図面である。
【図13】白血球からの活性酸素産生の経時変化を示す図である。
【図14】本発明についてのD−アロースが、白血球の活性酸素の産生の抑制に効果があることを示す図である。
【図15】各糖が、白血球の活性酸素産生が始まった後での活性酸素抑制については効果がないことを示す図である。
【図16】実施例9の本発明についてのD−アロースが、活性酸素産生抑制に対する濃度依存性を有することを示す図である。
【図17】網膜虚血・再環流障害に対するD-アロースの効果を示す図面である。
【図18】実施例7のD-アロースの皮弁虚血再環流障害軽減効果に関し、生着面積(%)の全データを示す表である。
【図19】実施例7のD-アロースの皮弁虚血再環流障害軽減効果に関し、分散分析(一元配置)を示す表である。
【図20】実施例7のD-アロースの皮弁虚血再環流障害軽減効果に関し、平均値と標準偏差を示す図である。
【図21】実施例7のD-アロースの皮弁虚血再環流障害軽減効果に関し、多重比較検定の結果を示す表である。
【図22】実施例8のラット腎虚血再環流障害に及ぼす希少糖の効果に関し、ノーザンブロッティングの結果を示す図面に代わる写真である。図はCINC-1のmRNAの発現量を示すものである。標準としてGAPDH(glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase)のmRNAを取り、これがほぼ一定であることを確認した(写真上)。その上で、CINC-1のmRNAの発現量を比較した。左から、虚血前、虚血後、D-アロース投与後虚血、D-プシコース投与後虚血での腎臓を示す。CINC-1 mRNAは虚血前には全く発現していないが、虚血により発現し、D-アロースとD-プシコース投与により発現量が抑えられていた。
【図23】実施例9の希少糖による海馬神経細胞死の抑制効果を示す図面である。
【図24】実施例9の脳虚血に伴う神経細胞外へのグルタミン酸の放出、およびアロースによる放出抑制効果を示す図面である。
【図25】実施例9の脳虚血に伴う神経細胞外へのグルタミン酸の放出、および2-デオキシグルコースによる放出抑制効果を示す図面である。
【図26】参考例1で、D-プシコースがMCP−1の分泌抑制効果があることを示す図である。
【図27】参考例1で、D-プシコースがMCP−1の分泌を刺激するサイトカインに作用してMCP−1の分泌を抑制することを示す図である。
【図28】参考例2で、D-プシコースがマイクログリアの出現数に与える影響を示す図である。
【図29】参考例3で、D-プシコースがインスリンの分泌刺激効果に与える影響を示す図である。
【図30】参考例3で使用される反転腸管の実験例を説明する図である。
【図31】参考例3で、D-プシコースが、ブドウ糖の吸収に与える影響を示す図である。
【図32】参考例3で、希少糖投与によるラット血糖値に対する影響に関し、麻酔下生理食塩水投与による血糖への影響を示す図面である。
【図33】参考例4の希少糖投与によるラット血糖値に対する影響に関し、麻酔下D-グルコース投与による血糖への影響を示す図面である。
【図34】参考例4の希少糖投与によるラット血糖値に対する影響に関し、D-プシコース投与による血糖への影響を示す図面である。
【図35】参考例5のケトースの高血糖状態改善効果に関し、IVGTTでの血中D-グルコース濃度への影響を示す図である。
【図36】参考例6のケトースの高血糖状態改善効果に関し、インスリンの分泌動態を示す図である。
【図37】参考例6のケトースの高血糖状態改善効果に関し、高血糖時におけるD-プシコースの作用を示す図である。
【図38】参考例6の希少糖に高血糖下における糖化抑制効果があるか否かの検討に関し、GA測定原理を説明する図である。
【図39】参考例6の希少糖に高血糖下における糖化抑制効果があるか否かの検討に関し、希少糖によるグリケーションの検討を示す図である。
【図40】参考例6の希少糖に高血糖下における糖化抑制効果があるか否かの検討に関し、グルコース共存下での希少糖によるグリケーションの検討を示す図である。
【図41】イズモリング(Izumoring)連携図である。
【図42】図41の下段のイズモリングC6の説明図である。
【図43】図41の中断のイズモリングC5の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
「希少糖」とは、自然界に微量にしか存在しない単糖と定義づけることができる。本発明においても前記定義に基づく希少糖であり、好ましくはアルドースであるD-アロース、またはケトースであるD-プシコースである。自然界に多量に存在する単糖は、D-グルコース、D-フラクトース、D-ガラクトース、D-マンノース、D-リボース、D-キシロース、L-アラビノースの7種類あり、それ以外の単糖は全て希少糖である。また、糖アルコールは単糖を還元してできるが、自然界にはD-ソルビトールが比較的多いが、それ以外のものは量的には少ないので、これらも本発明に従う希少糖と定義される。これらの希少糖は、これまで入手が困難であったが、自然界に多量に存在する単糖から希少糖を生産する方法が開発されつつあり、その技術を利用して製造することができる。
以下、これらの単糖の関係を一層容易に理解するために提案されたIzumoringに基づき説明を加える。
図41で示される生産過程と分子構造(D型、L型)により、炭素数4から6の単糖全てをつないだ連携図がイズモリング(Izumoring)の全体図である。すなわち、図41から理解できることは、単糖は、炭素数4、5、6全てがつながっているということである。全体図は、イズモリングC6の中でのつながりと、イズモリングC5の中でのつながりと、イズモリングC4の中でのつながりと、C4、C5、C6が全てつながっていることである。この考え方は重要である。炭素数を減少させるには主に発酵法を用いる。炭素数の異なる単糖全てをつなぐという大きな連携図であることも特徴である。また、利用価値がないということも理解することができる。
炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリングは、図41の下段および図42に示すように、炭素数が6つの単糖(ヘキソース)は全部で34種類あり、アルドースが16種類、ケトースが8種類、糖アルコールが10種類ある。これらの糖は、酸化還元酵素の反応、アルドース異性化酵素の反応、アルドース還元酵素の反応で変換できることは、本発明者らの研究を含めた研究で知られている。しかしながら、これまでの研究では上のグループ、真ん中のグループ、下のグループは酵素反応でつながっていなかった。つまり、上のグループに属しているD-グルコース(ブドウ糖)やD-フラクトースは自然界に多量に存在する糖であり安価であるが、これらから希少糖を合成することができなかった。ところが、本発明者らの研究の過程で、これを結ぶ酵素が発見された。それはガラクチトールからD-タガトースを合成する酵素を持つ菌の培養液中に、全く予期しなかったD-ソルボースが発見されたことに端を発する。その原因を調べた結果、この菌がD-タガトース3エピメラーゼ(DTE)という酵素を産生していることを発見した。
【0011】
図41の下段および図42に示すように、このDTEはこれまで切れていたD-タガトースとD-ソルボースの間をつなぐ酵素であることがわかる。そしてさらに驚くことに、このDTEは全てのケトースの3位をエピ化する酵素であり、これまで合成接続できなかったD-フラクトースとD-プシコース、L-ソルボースとL-タガトース、D-タガトースとD-ソルボース、L-プシコースとL-フラクトース、に作用するという非常に幅広い基質特異性を有するユニークな酵素であることが分かった。このDTEの発見によって、すべての単糖がリング状につながり、単糖の知識の構造化が完成し、イズモリング(Izumoring)と名付けた。
この図42をよく見てみると、左側にL型、右側にD型、真ん中にDL型があり、しかもリングの中央(星印)を中心としてL型とD型が点対称になっていることもわかる。例えば、D-グルコースとL-グルコースは、中央の点を基準として点対称になっている。しかもイズモリング(Izumoring)の価値は、全ての単糖の生産の設計図にもなっていることである。先の例で、D-グルコースを出発点としてL-グルコースを生産しようと思えば、D-グルコースを異性化→エピ化→還元→酸化→エピ化→異性化するとL-グルコースが作れることを示している。
炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリング(Izumoring)を使って、自然界に多量に存在する糖と微量にしか存在しない希少糖との関係が示されている。D-グルコース、D-フラクトース、D-マンノースと、牛乳中の乳糖から生産できるD-ガラクトースは、自然界に多く存在し、それ以外のものは微量にしか存在しない希少糖と分類される。DTEの発見によって、D-グルコースからD-フラクトース、D-プシコースを製造し、さらにD-アロース、アリトール、D-タリトールを製造することができるようになった。
炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリング(Izumoring)の意義をまとめると、生産過程と分子構造(D型、L型)により、すべての単糖が構造的に整理され(知識の構造化)、単糖の全体像が把握できること、研究の効果的、効率的なアプローチが選択できること、最適な生産経路が設計できること、欠落部分について予見できること、が挙げられる。
【0012】
炭素数が5つの単糖(ペントース)のイズモリングは、図41の中段および図43に示すように、炭素数6のイズモリングよりも小さいリングである。しかし、C6のイズモリングと同じようにアルドース8個、ケトース4個および糖アルコール4個全てを含むことに変わりは無く、全てが酵素反応で結ばれる。異なる点は、酸化還元反応、異性化反応のみでリング状に全てが連結できることである。一方、DTEを用いることによって、さらに効率のよい生産経路が設計できることがわかる。炭素数5のイズモリングの特徴は、特に図43から明らかなように、炭素数6のイズモリングが点対象に全単糖が配置されているのに対し、左右が対象に配置されていることが大きな特徴である。これら全ペントースは、酵素反応により連結されていることから、炭素数6のイズモリングの場合と全く同様に、すべてのペントースが構造的に整理され(知識の構造化)、全体像が把握できること、研究の効果的、効率的なアプローチが選択できること、最適な生産経路が設計できること、欠落部分について予見できる意義を持っている。
炭素数が4つの単糖(テトロース)のイズモリングは、図41の上段に示すように、テトロースの構造上の特性のため、リングが完成しないという特徴がある。炭素数5のイズモリング上部半分の構造を持っている。このリングの場合も、炭素数5,6の場合と同様の酸化還元および異性化反応によって連結されている。DTEが炭素数4のケトースに反応しないため、ケトース間の反応は現在のところ存在しない。しかし、新規のエピメラーゼの存在が予測され、この研究は現在研究途上である。全体の配置は、炭素数5と同様に左右対称であり、アルドース4個、ケトース2個および糖アルコール3個全てを含んでいる。すなわち炭素数5,6のイズモリングと同様の意義が存在する。
【0013】
イズモリングC6のD-グルコースは、イズモリングC5のD-アラビトールおよびイズモリングC4のエリスリトールとつながっている。この線は、発酵法によってD-グルコースからD-アラビトールおよびエリスリトールを生産できることを示している。すなわち、イズモリングC6,イズモリングC5およびイズモリングC4は連結されている。この連結は、炭素数の減少という主に発酵法による反応であり、このD-アラビトールおよびエリスリトールへの転換反応の二つ以外の発酵法によるイズモリングC6とイズモリングC5,C4との連結は可能である。例えばD-グルコースからD-リボースの生産も可能である。このように、3つのイズモリングにより全ての炭素数4,5,6の単糖(アルドース、ケトース、糖アルコール)が連結されたことで、それぞれの単糖が全単糖の中でその存在場所を明確に確認できる。
最も有名なキシリトールは、未利用資源の木質から生産できるD-キシロースを還元することで容易に生産できることを明確に確認できる。もしも特定の単糖が生物反応によって多量に得られた場合には、それを原料とした新たな単糖への変換の可能性が容易に見いだすことが可能である。すなわち、この全体像から全ての単糖の原料としての位置を確実につかむことができるため、有用な利用法を設計することができる。特に廃棄物や副産物から単糖が得られた場合の利用方法を容易に推定できるのである。希少糖の生産分野ばかりではなく、希少糖の持つ生理活性を探索する研究においても有効性を発揮する。例えば、ある希少糖に生理活性が判明したとき、図41で示される連携図の存在位置を確認する。そして構造の近い希少糖に関しての生理活性との比較、あるいは、構造的に鏡像関係にある希少糖の生理活性を検討することで、生理活性の機構を分子の構造から類推する助けになるであろう。また、希少糖の生理機能を解析し、イズモリング上に性質を集積することにより、これまで単純な羅列的理解から、単糖全体を、「単糖の構造」、「単糖の生産法」、および「単糖の生理機能」を包括的に理解することに大いに利用できると期待される。
【0014】
希少糖のうち、現在大量生産ができているD-アロースとD-プシコースという二つの希少糖について説明する。
本発明で用いられるD-アロース(D-アロヘキソース)は、アルドース(アルドヘキソース)に分類されるアロースのD体であり、融点が178℃の六炭糖(C6H12O6)である。
そして、このD-アロースの製法としては、D-アロン酸ラクトンをナトリウムアマルガムで還元する方法による製法や、また、シェイクワット・ホセイン・ブイヤン等による「ジャーナル・オブ・ファーメンテーション・アンド・バイオエンジニアリング(Journal of Fermentation and Bioengineering)」第85巻、539乃至541頁(1998年)において記載されている、L-ラムノース・イソメラーゼを用いてD-プシコースから合成する製法がある。
さらに近年では、特開2002-17392号公報に記載されている。D-プシコースを含有する溶液にD-キシロース・イソメラーゼを作用させて、D-プシコースからD-アロースを生成する製法が発明されている。
本発明の例えば癌細胞増殖抑制物質に用いるD-アロースは、前記製法、或いはその他の製法のいずれによって得られたものでもよいが、前記特開2002-17392号公報に記載されている製法によれば、大量生産が期待されるため、より容易に入手することができるようになることが期待される。しかし、これまでの製造法は、D-アロースの分離回収に関して完全に満足できるものではなく、従って工業的製造をするには未だ不経済な作業を必要としている。D-アロースを分離回収することに関する従来技術の不利な点「最もエネルギーの必要な過程」を克服すること、すなわち、効率よく分離回収する方法を提供すること、ならびに、高純度D-アロースの製造に関して技術的に実行可能な連続的製造法を提供することを目的として、D-アロースの結晶化法による分別法とその大量生産への応用について別途出願中である(特願平2003-95828号)。当該高純度D-アロースの分離回収法は、D-プシコースの一部分をD-アロースに変換した酵素反応産物である例えば35%D-プシコースと15%D-アロースの混合溶液からD-アロースを回収するに際し、D-アロースのエタノールおよび/またはメタノールに難溶性の性質を利用してD-アロースを結晶化させ、該D-アロースの結晶を分離することを特徴とする。上記の方法において、D-プシコースを酵素反応でD-アロースに変換する際に用いる酵素は「L-ラムノースイソメラーゼ」が例示される。L-ラムノースイソメラーゼは、上記1998年の文献で発表された公知酵素であり、Pseudomonas stutzerii 由来の酵素を好ましいものとして例示される。菌株 Pseudomonas stutzerii LL172a は、上記文献に記載された公知菌であり、香川大学農学部生物資源食糧化学科の何森健研究室に保存されている。財団法人発酵研究所から同一のPseudomonas stutzerii は得られる。Pseudomonas stutzerii IFO 3773, Pseudomonas stutzerii IFO 13596 が同一の活性を持っていると思われる。L-ラムノースイソメラーゼは各種の微生物から容易に入手が可能であり、L-ラムノースが存在する培養条件の時に、誘導的に生産される。通常、L-ラムノースイソメラーゼ産生能を有する微生物を培養して得ることができる。例えば、L-ラムノースイソメラーゼは各種の微生物をL-ラムノースを炭素源として培養すると、L-ラムノースが誘導剤となって菌体内に生産される。酵素を大量に構成的に産生する変異株を用いることは、L-ラムノースなどの高価な炭素源を必要としないので特に有利である。得られた培養菌体からL-ラムノースイソメラーゼを抽出したもの、または菌体そのものを用いる。L-ラムノースイソメラーゼは、使用目的に応じて、必ずしも高純度に精製されたものでなくてもよく、粗酵素であっても用いることができる。粗酵素の具体的例としては、上記のL-ラムノースイソメラーゼ産生能を有する微生物自体を、また、その培養物や部分精製した培養物を用いることができる。本発明では特定の固定化法による固定化酵素または固定化菌体の形態で用いることにより、送液圧力が低く安定で長期間連続使用可能なリアクターを構築することができる。
上記の高純度D-アロースを連続的に製造する方法によって、D-アロースの分離と同時に脱塩、脱イオン、そして濃縮、結晶化が行え、従来、すべて別々の工程で行っていた分離方法をワンステップに統合処理できる。したがって、短時間に大量の処理が可能である。
【0015】
本発明で用いられるD-プシコースは、希少糖に属するケトヘキソースに分類されるプシコースのD体であり六炭糖(C6H12O6)である。このようなD-プシコースは、自然界から抽出されたもの、化学的又はバイオ的な合成法により合成されたもの等を含めて、どのような手段により入手してもよい。比較的容易には、例えば、エピメラーゼを用いた手法(特開平6-125776号公報等参照)により調製されたものでもよい。得られたD-プシコース液は、必要により、例えば、除蛋白、脱色、脱塩などの方法で精製され、濃縮してシラップ状のD-プシコース製品を採取することができ、更に、カラムクロマトグラフィーで分画、精製することにより99%以上の高純度の標品も容易に得ることができる。このようなD-プシコースは単糖としてそのまま利用できるほか、必要に応じて各種の誘導体として用いることも期待される。
【0016】
本発明において、生理活性作用感受細胞とは希少糖を作用させて当該細胞の機能を変化させることができる細胞をいい、このような機能を備えた細胞であれば特に限定されない。希少糖は当該細胞に影響して当該細胞の機能を変化させる。希少糖の種類により生理活性作用が異なるが、細胞を用いた予備実験によりその作用を予測することができ、本実験により確認することができる。当該細胞としては、好ましくはヒト細胞であるが、ヒト以外の細胞をも包含する。細胞の形態は生体の臓器、培養細胞のどちらでもよい。
生理活性作用感受細胞に希少糖を影響して当該細胞の機能を変化させる作用を発揮させるためには、細胞に希少糖を作用させることにより行う。本発明に用いられる希少糖は水溶性であり、作用させる態様には制限はない。用途に応じて適宜な手段を採用して希少糖を作用させることができる。
希少糖を有効成分とする物質の形態で用いて、細胞に希少糖を作用させることが好ましい。希少糖として希少糖を有効成分として配合した物質はいかなる形態のものも包含する。
【0017】
希少糖のうち、アルドースとしてイズモリングにおいてD-フラクトースから最も近いD-アロースを、ケトースとしてD-プシコースを2つの代表的な希少糖としてとりあげその生理活性について説明する。
まず第1に、D-アロースについての例を示す。
本発明者らは、アルドースである希少糖が活性酸素の産生を抑制する性質を有することを見いだした。本発明は、アルドースである希少糖を有効成分とする活性酸素産生抑制剤を提供することができる。
すなわち、D-アロースが臓器の虚血障害を保護するというデータがある。肝臓などの臓器の手術の際には、必ず血流を一時的に止める。その結果、臓器は虚血状態に陥る。手術終了後、再び血液を流すと、この時、白血球から活性酸素が多量に産生され、これが臓器障害を起こす一つの大きな原因と考えられている。本発明者らは、希少糖を用いてラットで90分間というかなり長い時間肝臓を虚血にし、その後再還流して3ヶ月後の生存率を調べた。通常では3割くらいしか生存しないものが、虚血前にD-アロースを0.2g/kg還流しておくと、生存率が約7割に増加した。これを実証するために白血球を用いて様々な希少糖および現在自然界に多量に存在する糖(ブドウ糖など)を用いて、白血球からの活性酸素の産生に対する効果を調べた。白血球から活性酸素を産生させておき様々な糖を加えると、D-アロースのみが非常に強い活性酸素の産生抑制効果を示した。これが臓器保護の一つの要因であると考えられる。
このような虚血に対する保護作用は小腸、あるいは、脳の神経細胞死にも有効であることがわかった。神経細胞は特に虚血に弱く、海馬の神経細胞は5分間の虚血でも死滅することがわかっている。ラットの脳を用いて5分間の虚血を起こすと、海馬の神経細胞の8割が死んでしまうが、虚血の前にD-アロースを含む溶液で還流しておくと5分間の虚血でも約7割の生存が確認された。D-プシコースではこの作用は認められなかった。
さらに、この虚血保護作用は、網膜の虚血の保護作用があること、皮弁の生着率が著しく向上すること、腎臓虚血保護作用があることを裏付け、脳神経細胞虚血保護作用がグルタミン酸分泌抑制によることがわかった。
本発明者らは、希少糖に属するアルドヘキソース(六炭糖)が癌細胞の増殖を抑制する性質を有することを見いだした。本発明は、希少糖に属するアルドヘキソースを有効成分とする癌細胞増殖抑制剤を提供することができる。すなわち、ヒトがん由来の株化細胞を用いたがん細胞の増殖に対する効果を調べた。後述する実施例に結果を示しているが、がん細胞はシャーレに撒いておき、十分な栄養と酸素を与えるとどんどん増殖する。ここにD-アロースを添加すると増殖を非常に強力に押えるという効果があることが分かった。この効果は肝臓がんや皮膚がんの細胞においても同様に認められた。D-アロースを有効成分とする癌細胞増殖抑制剤は、用法としては経口投与でもよく、また、静脈注射、動脈注射、リンパ管内注射および疾患部位への直接投与でもよい。また、癌細胞増殖抑制剤に有効成分として含有させるものはD-アロースに限定されず、癌細胞の増殖を抑制する効果(癌細胞増殖抑制効果)を有する他のアルドース希少糖も癌細胞増殖抑制剤の有効成分として含有させることができる。
さらにD-アロースの白血病細胞に対する影響について、ある種の白血病細胞の増殖を抑制することを確認し、細胞増殖の抑制は細胞周期のG2-M期を延長するというD-アロースの細胞周期への影響のメカニズムを解明した。
【0018】
次に、ケトヘキソースの生理活性についての例を示す。
このような希少糖に属するケトヘキソースは糖代謝に影響を及ぼさず、ケモカイン抑制物質、マイクログリア遊走抑制物質、インスリン分泌促進物質又は癌細胞増殖抑制物質として経口摂取、腹腔内投与、静脈投与など種々の経路で使用することができる。また、病巣内或いは病巣周辺に非経口的に投与することもできる。この場合、希少糖に属するケトヘキソースは単独で、又は希少糖に属するケトヘキソースの作用に悪い影響を与えない添加物を添加したり、誘導体としたり、また、他の物質(薬理活性成分)と併用して用いることもできる。
以下、各用途に分けてこの発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明者等は希少糖に属するケトヘキソースがケモカインの分泌を抑制する性質を有することを見出した。これにより、希少糖に属するケトヘキソースを有効成分とするケモカイン分泌抑制剤又は物質を提供することができる。
動脈硬化症に起因する死亡は、死因の第一位である。動脈硬化症の危険因子としては、糖尿病、高脂血症、高血圧などが指摘されている。最近の報告によれば、これら危険因子と動脈硬化症発症の機序について、分子レベルでの解析が進んでいる。動脈硬化症発症の契機は、単球の血管壁への遊走およびscavenger receptorによるコレステロール蓄積とマクロファージの泡沫細胞化である。その進展には種々のサイトカインやケモカインの関与が示唆されている。特にケモカイン(細胞遊走を起こすサイトカイン)の一つであるMCP-1(monocyte chemoattractant protein-1)は動脈硬化巣の血管内皮細胞から分泌され単球の遊走に関係する因子であり、動脈硬化進展に重要な役割を演じている因子として注目されている。
MCP-1又はMCP-1の受容体であるCCR2をノックアウトしたマウスにおいては動脈硬化が起こりにくく、MCP-1が動脈硬化発症において中心的な役割を持っていることが明らかになった。
MCP-1は、IL-1βやTNF-αという炎症性サイトカインにより刺激されて分泌される。こうしたサイトカインの産生を抑制する薬剤として、pyrazolotriazin誘導体薬剤やnitric oxide(NO)分泌誘発剤が知られており、臓器保存に使用されている。
炎症性サイトカイン・ケモカイン産生抑制剤としてコハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム(薬効:副腎皮質ホルモン剤)も市販されている(例えば、ファルマシア社、富士製薬社、ユーシービージャパン社、沢井製薬社)。
一方、糖類又はその誘導体の動脈硬化治療剤としては、血中コレステロール濃度を低下させるヘキソースリン酸カルシウム(グルコースリン酸カルシウムなど)が特開昭63-198630号公報で公表されている。
また、コラーゲンの合成を抑制するピラノピラノン化合物が特開平10-330268号公報で公表されている。
しかしながら、希少糖に属するケトヘキソース及びその誘導体によるMCP-1分泌の抑制効果やこれを利用した動脈硬化抑制についてはまだ知られていない。
本発明により、希少糖に属するケトヘキソースのMCP-1分泌の抑制効果を確認することにより希少糖に属するケトヘキソースの動脈硬化における有用性及び臨床応用への可能性を裏付けることができる。以下の実施例(参考例)では、第一に希少糖に属するケトヘキソースの一つとしてのD-プシコースによる血管内皮細胞からのMCP-1分泌に対する影響について検討する。また、血管内皮細胞からのMCP-1分泌を刺激するサイトカイン存在下におけるD-プシコースのMCP-1分泌抑制効果についても検討する。
これにより、希少糖に属するケトヘキソースはMCP-1の分泌を抑制することにより、単独で、又は他の物質(薬理活性成分)と併用して、動脈硬化症の予防又は治療に有効である可能性が示唆される。また、糖尿病、高脂血症、高血圧などの予防物質、治療物質として期待される。また、炎症性サイトカイン・ケモカイン産生抑制物質、副腎皮質ホルモン剤や抗炎症剤の代用物質としての利用が期待される。更に、臓器保存剤としての適用も期待される。
D-プシコースはインスリン分泌を促進する。インスリンを分泌するラットの膵臓β細胞株を用いた実験において、生理的な分泌物質であるD-グルコースの濃度を徐々に上げていくと、濃度に依存してインスリンの分泌が増えていく。D-グルコースの濃度をゼロにしておき、D-プシコースの濃度を上げていくと、D-グルコースと同じように濃度依存性にインスリンを分泌するという反応が見られた。また、D-グルコースを11.2mM投与すると最大のインスリン分泌となるが、その状態でさらにD-プシコースを加えるとD-グルコースと等濃度くらいまで加えた時さらにインスリン分泌が促進され、D-グルコースでの最大分泌量とD-プシコースでの最大分泌量を足した量のインスリンが分泌された。
このように、希少糖が生理活性を持つということが次々と分かってきた。希少糖を細胞の外に投与した場合、(1)輸送体を通って細胞の中に入ってくる可能性、(2)受容体に結合する可能性、あるいは、(3)細胞内の代謝を希少糖が存在することで変える可能性、などが考えられる。それらいずれの経路でも、恐らく情報は核に伝わり核のDNAの転写に変化が起こり、蛋白の発現に変化が生じ、その結果、細胞機能が変化するのではないかと考えている。D-プシコースのインスリン分泌の例を見ても、今まで知られているメカニズムと異なっている可能性が高い。希少糖の作用メカニズムについては、これまでほとんど行われておらず、そのような場合においてメカニズムを探るためには、希少糖を処理した細胞あるいは臓器での情報経路を網羅的に解析する手法を取らなければならないと考えている。
そこで、本発明者らはさらに研究をすすめて、インスリン分泌促進作用について、D-プシコースが血糖値を緩やかに押さえる作用を動物(ラット)で裏付け、D-プシコースが高血糖時の血糖降下とインスリン分泌促進作用があること、ならびに、D-プシコースにより蛋白質の糖化がほとんどおこらないことを確認した。
【0019】
以上、医薬品としての応用を例に示したが、その他にも、D-プシコースでは動脈硬化の増悪因子であるケモカインMCP-1の血管内皮細胞からの分泌を抑制する効果に加え、肝臓での脂肪の合成を抑制する効果があることもわかっており動脈硬化予防作用などにつながる可能性がある。また血管新生に対する作用や免疫抑制作用など、さまざまな生理活性効果の可能性が出てきている。また、希少糖の用途としては医薬品以外の可能性については、食品、飲料、特に機能性食品(肥満予防など)、化粧品、飼料、農薬(植物成長調整剤、植物病害抵抗性増幅剤など)が例示される。
農薬の使用量を飛躍的に減少させる可能性のある、植物に対して病害抵抗性を増幅する作用の物質を提供することを目的として、本発明者らの別のグループは、希少糖による植物病害抵抗性増幅剤の発明を別途出願中である〔特願平2003-95826号(特許4009720号)〕。希少糖を、植物に対して病害抵抗性を増幅する作用の物質として用いる場合の利点は、(1)低濃度(100 μg/ml)の希少糖水溶液が、展着剤なしで、抵抗性遺伝子を迅速に起動し、(2)希少糖は自然界に微量しか存在しないが、「天然物」であるため、安全性の高い散布剤であることが期待され、(3)希少糖は病原菌に対する作用は強い殺菌作用ではないので、耐性菌の発生を考慮する必要がなく、(4)希少糖単独の剤としてのみならず、殺菌剤との混合商品等としての開発が期待される点が挙げられる。
【0020】
食品、飲料または化粧品、あるいは飼料における配合量は特に制限されないが0.01〜10重量%程度が好ましい。医薬品の場合、カプセルや粉末、錠剤などとして経口投与することができ、水に溶けることから経口投与以外に静脈注射、筋肉注射などの投与方法を採用することが可能である。投与量は例えば糖尿病の症状の度合いや体重、年齢、性別などにより異なるものであり、使用に際して適当な量を症状に応じて決めることが望ましい。医薬品における配合量は特に制限はされないが、体重1kgあたり、経口投与の場合0.01〜2,000mg、静脈注射投与の場合0.01〜1,000mg、筋肉注射投与の場合0.01〜1,000mg程度が好ましい。
また本発明の希少糖は食品素材に微量に存在し、安全性が高く、大量生産技術が開発されればコスト面でも利用価値は高いものである。なお急性経口毒性試験では5,000mg/kg以上であった。
【0021】
本発明の機能性食品は、特定の疾病などを予防(肥満予防)する健康食品、予防医薬品の分野の利用に適している。特定の疾病を予防する健康食品においては、必須成分である希少糖の他に、任意的成分として、通常食品に添加されるビタミン類、炭水化物、色素、香料など適宜配合することができる。食品は液状または固形の任意の形態で食することができる。ゼラチンなどで外包してカプセル化した軟カプセル剤として食することができる。カプセルは、例えば、原料ゼラチンに水を加えて溶解し、これに可塑剤(グリセリン、D-ソルビトールなど)を加えることにより調製したゼラチン皮膜でつくられる。
【0022】
本発明の薬剤においては、有効成分である希少糖はそれ自体のみならずそれの薬剤として許容される塩として使用される。該薬剤は、希少糖を単独で製剤として用いることができるほか、製薬上使用できる担体もしくは希釈剤を加えた製剤組成物に加工したものを用いることもできる。このような製剤または薬剤組成物は、経口または非経口の経路で投与することができる。例えば、経口投与用の固体または流体(ゲルおよび液体)の製剤または薬剤組成物は、タブレット、カプセル、錠剤、丸剤、粉末、顆粒もしくはゲル調製品の形態をとる。製剤または薬剤組成物の正確な投与量は、その目的とする使用形態および処置時間により変化するため、担当の医師または獣医が適当であると考える量になる。服用および投与用量は製剤形態によって適宜調整できる。錠剤などの経口固形製剤、経口液剤などとして1日服用量を1回ないし数回に分けて服用してもよい。また、例えばシロップやトローチ、チュアブル錠などの幼児頓服して、局所で作用させるとともに内服による全身性作用をも発揮させる製剤形態では1日服用量の1/2〜1/10を1回量として配合し服用すればよく、この場合全服用量が1日量に満たなくてもよい。
逆に、製剤形態からみて無理な服用容量とならなければ1日服用量に相当する量を1回分として配合してもよい。製剤の調製にあたっては、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、コーティング剤、徐放化剤など、希釈剤や賦形剤を用いることができる。この他、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、保存剤、可溶化剤、等張化剤、乳化剤、懸濁化剤、分散剤、増粘剤、ゲル化剤、硬化剤、吸収剤、粘着剤、弾性剤、可塑剤、吸着剤、香料、着色剤、矯味剤、抗酸化剤、保湿剤、遮光剤、光沢剤、帯電防止剤などを使用することができる。
【0023】
本発明は、希少糖の抗炎症作用を利用する皮膚外用剤、すなわち治療薬、皮膚外用剤、化粧料等が知られている肌荒れ、荒れ性に対して改善・予防効果を有する皮膚外用剤を提供することができる。本発明の皮膚外用剤には、希少糖を必須成分とし、それ以外に、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば水性成分、油性成分、粉末成分、アルコール類、保湿剤、増粘剤、紫外線吸収剤、美白剤、防腐剤、酸化防止剤、界面活性剤、香料、色剤、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。その他、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤、カフェイン、タンニン、ベラバミル、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸、トラネキサム酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸クルコシド、アルブチン、コウジ酸、D-グルコース、D-フルクトース、トレハロース等の糖類なども適宜配合することができる。本発明の皮膚外用剤は、例えば軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤等、従来の皮膚外用剤に用いられる形態であればいずれでもよく、剤型は特に問わない。
【0024】
以下、本発明の詳細を実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されない。
【実施例1】
【0025】
(希少糖の培養細胞増殖に及ぼす影響)
以下の条件により、各種の希少糖を培養液中に50mMの濃度で添加して、各希少糖が株化癌細胞の増殖進行に及ぼす影響を調べた。
(1) 添加対象細胞:肝臓癌細胞(HepG2)、子宮癌細胞(Hela)、卵巣癌細胞(OVCAR3)、皮膚角化細胞(HaCaT)を、添加する対象細胞とした。
(2) 添加した希少糖:D-アロースの他に、比較する他の糖として、グルコース、及びケトース希少糖のD-アルトロースを各添加対象細胞に添加した。また、コントロールとしては、D-フルクトースを採用した。
(3) 実験方法:96穴のマルチウェルプラスティックディッシュ(ウェル)に各添加対象細胞を3,000〜5,000個撒き、細胞種により5〜10%のFetal Bovine Serum(FBS)を添加した媒体で4〜5日間培養した。D-アロース、D-グルコース、D-アルトロースを、各々50mMの濃度で各添加対象細胞に添加した。コントロールとしてのD-フルクトースを、前記同様に50mMの濃度で添加した。細胞増殖に及ぼす影響を調べるため、24時間毎に下記のMTT法により細胞数を確認した。
<MTT法>
(i)試薬の調製:MTT(tetrazolium salt)の所定量をオートクレープで滅菌したPBS(-)で溶解し、濾過滅菌しMTT溶液を得る。酸性溶液としては、SDSの所定量(20g)にN,N-ジメチルホルムアミドの50mL及び水を加えて100mLとし、1Nの塩酸約200mLを加えてpH4.7に調整する。室温で保存して使用前に37℃とする。
(ii)試験方法:細胞をTEPで処理し、細胞浮遊液を調製する。その細胞浮遊液を所定数(300〜52000細胞/ウェル)、各ウェルに分注する(96ウェルプレート:培地0.1mL)。薬剤としての糖を所定量添加し、炭酸ガスインキュベーターで一昼夜前培養する。上述のMTT液0.5mg/mLを添加し、炭酸ガスインキュベーター内で4時間培養後、培地を完全に取り除く。さらに、37℃に保たれた室内で酸性溶液を0.1mL/ウェルの量で加え、マイクロプレートミキサーに載せ、37℃で20分間振動させながら溶解させる(formazanを酸性溶液で溶解させる)。分光光度計を用いて、570〜600nmの波長で吸光度を測定する。着色物質(formazan)酸性溶液で溶解させた後、そのままプレートリーダで吸光度を測定できる。
(4) 実験結果:(i)肝臓癌細胞(HepG2)…肝臓癌細胞(HepG2)の細胞数の経時変化を図1に示す。図1により、D-アロースがHepG2細胞の増殖を強く抑制したことがわかる。D-アルトロースにも抑制作用が認められたが、D-アロースと比し癌細胞増殖抑制効果は弱いものであった。グルコースにはほとんど抑制効果が認められなかった。
(ii)子宮癌細胞(Hela)…子宮癌細胞(Hela)の細胞数の経時変化を図2に示す。D-アロースはHela細胞の増殖を強く抑制したことがわかる。
(iii)卵巣癌細胞(OVCAR3)…卵巣癌細胞(OVCAR3)の細胞数の経時変化を図3に示す。D-アロースはOVCAR3細胞の増殖を強く抑制したことがわかる。D-アルトロースにも抑制作用が認められたが、D-アロースと比し癌細胞増殖抑制効果は弱いものであった。グルコースは癌細胞の増殖に対して促進的に働いた。
(iv)皮膚角化細胞(HaCaT)…皮膚角化細胞(HaCaT)の細胞数の経時変化を図4に示す。D-アロースはHaCaT細胞の増殖を強く抑制したことがわかる。他の希少糖ではD-アルトロースに中等度の抑制効果が認められたが、D-アロースと比し癌細胞増殖抑制効果は弱いものであった。図1〜図4より、D-アロースの癌細胞増殖抑制効果は、細胞種により強さが異なっていることがわかる。アルドース希少糖としてのD-アロースには癌細胞の増殖を抑制する効果があり、制癌剤としての有効利用が期待された。さらに、D-アロースと比しケトース希少糖のD-アルトロースの癌細胞増殖抑制効果は弱いものであったことから、D-アロースだけでなく他のアルドース希少糖も制癌剤としての有効利用が期待できる。
【実施例2】
【0026】
(D-アロースの癌細胞増殖抑制効果の濃度依存性)
実施例2として、D-アロースの癌細胞増殖抑制効果の濃度依存性を調べた。
(1) 実験方法:添加対象細胞として、卵巣癌細胞(OVCAR3)を選択し、D-アロース濃度を1mM、5mM、10mM、20mM、50mM、100mMとして添加した。卵巣癌細胞(OVCAR3)の培養方法、細胞数の計測方法(MTT法)等の実験条件は前記実施例1と同様である。
(2) 実験結果:各濃度のD-アロースを添加した卵巣癌細胞(OVCAR3)の細胞数の経時変化を図5に示す。癌細胞増殖抑制効果は10mMで認められ始め、20mM、50mM、100mMと次第に強くなった。すなわち、D-アロースの抑制効果には濃度依存性が認められた。抑制効果が見られる濃度は本実施例2の実験条件(10%胎仔血清)では10mMであったが、この有効濃度は他の細胞においても同じであった。さらに、D-アロースを投与した細胞を顕微鏡で見ると、死んだ細胞はほとんどなく、このことはトリパンブルー色素排泄試験でも確かめられた。本実験結果からは、D-アロースは細胞増殖を抑制するものの、細胞を殺す働きはないと考えられる。
【実施例3】
【0027】
(希少糖の血液系の癌細胞株の増殖への影響)
この実施例は、希少糖に属するアルドースを有効成分とする癌細胞増殖抑制物質に関する。各種の抗腫瘍薬・制ガン剤が知られているが、一般的にその副作用が問題となっている。また、現在では疾患の治療にターゲットを置いた薬剤より、むしろその予防にターゲットを置いた薬剤又は食品(機能性食品)に対する意識や期待が高まっている。糖と癌との関係では、オリゴ糖が整腸作用を持つことを利用して便秘を解消し大腸癌などになりにくい効果を有することや、最近ではアガリクスなどの多糖体が癌抑制効果を持つことなどの報告、糖鎖と癌転移などの関連の報告などはあるが、単糖そのものが癌細胞増殖抑制効果を持つことについてはほとんど報告がない。本実施例では、希少糖に属するアルドースやケトースの各種の株化癌細胞に対する増殖の影響を検討した。これにより、希少糖に属するアルドースが株化癌細胞の増殖抑制が確認された。糖代謝に影響を及ぼさない希少糖に属するアルドースが株化癌細胞の増殖を抑制させる効果が確認されたことは、副作用の少ない癌の治療剤、予防剤、増殖抑制剤として期待される。また、希少糖に属するアルドースは機能性食品としての付加価値が高まることが期待される。なお、希少糖に属するアルドースとしてはD-アロースが最も有効であった。
【0028】
(1) 目的:希少糖による細胞株の増殖抑制効果を比較検討する。
(2) 方法:Myeloid(HL-60, THP-1, KG-1)、T-cell(MT-2)、B-cell(Daudi, KS-1)の合計6株、希少糖3種(D-psicose, D-altrose, D-allose)を使用した。培養液と各細胞を1×105個、計1mlになるようにし、4日目と7日目の細胞数をコールターカウンターでカウントした。糖はそれぞれ0.05、0.5、5、50mMで添加し、コントロールにはD-glucoseを用いた。
培地;FBS10%添加RPMI1460
培養条件;37℃, 5%CO2
培養容器;FALCON, MULTIWELL, 12well
培養日数;7日間
糖濃度;0.05、0.5、5、50mM
(3) 結果(図6〜図11):6株の細胞のうち、HL60とDaudi細胞において効果が認められたが、他の細胞においては明らかな影響は認められなかった。
1) 図6に示すように、psicoseとalloseで抑制が見られたが、altroseでは見られなかった。
(i)allose; 糖濃度が高くなる程、7日目の細胞増殖抑制は強くなる傾向にあった。0.05mM; 62.6%, 0.5mM; 67.7%, 5mM; 41.5%, 50mM; 30.7%, (glucoseを100%とする)
(ii)psicose; 細胞増殖抑制は、糖濃度には関わりなく、ほぼ一定であった。0.05mM; 84.7%, 0.5mM; 80.7% 5mM; 84.2%, 50mM; 93.6%, (glucoseを100%とする)
2) 図7に示すように、alloseで抑制が見られたが、psicoseとaltroseでは認められなかった。
(i)allose; 糖濃度が大きくなる程、7日目の細胞増殖抑制は大きくなる傾向にあった。0.05mM; 85.9%, 0.5mM; 80.6% 5mM; 62.2%, 50mM; 3.9%, (glucoseを100%とする)
3) 図8および図9に示すように、allose 50mMで細胞増殖抑制が見られたが、他の糖、濃度でははっきりとした抑制は見られなかった。
4) 図10および図11に示すように、コントロールを含め、すべての糖および濃度で抑制が見られたため、糖そのものにこれら細胞にたいする非特異的な影響があることが想定された。
以上より、D-alloseは、HL60, Daudi, KS1, KG1の4種類の細胞において抑制効果が認められ、使用した希少糖の中で最も抑制効果が高かった。D-alloseの効果には細胞の種類により差があることが確認された。
【実施例4】
【0029】
(D-アロースの細胞周期に及ぼす影響)
(1) 目的:様々な糖を試した中で、D-アロースのみがミリM濃度で癌細胞の増殖を抑えた。作用メカニズムは未だ不明だが、そのために、D-アロースが細胞周期に及ぼす影響を調べることとした。
(2) 方法:フローサイトメーターによる解析を行った。使用した細胞は、OVCAR-3 (卵巣癌)細胞である。
1)細胞をトリプシンで処理し、細胞浮遊液を調製する。
2)直径100mmのplastic tissueに細胞を撒き、CO2 インキュベーターで24時間培養する (overnight)。
3)希少糖(D-アロース50mM)を添加と無添加 (controlとしてD-グルコース)して、3日間培養する。
4)分離した細胞をPBS(-)で2回洗浄する。
5)遠心後PBS(-)3mlを加えピペッティングにより撹拌する。
6)7ml 100% ethanolを加える、4℃で、2h固定する。
7)1500rpm, 5min遠心する。
8)Cold PBS(-)で2回洗浄する。
9)遠心後, RNase200ug/mlを加える、37℃で30分インキュベーションする。
10)0.5mlPI (propidium iodide) を加える、15分インキュベーションする。
11)フローサイトメーターで測定する。
(3) 結果:D-アロースを添加した細胞は細胞周期においてG2―M期の細胞の割合が22.6%であり、コントロールでの細胞の割合12.6%に比べて有意に多かった(図12)。
(4) 考察:1)希少糖はこれまでほとんど研究されていないため、その生理機能もほとんど知られていないのが現状である。そのなかD-アロースは癌細胞の増殖を抑制効果があることは、今まで全く知られていない新規な働きである。2)そのメカニズムについてはまた明らかでないが、今回の解析によって、細胞周期G2期を遅延させる効果があることがわかった。
【実施例5】
【0030】
(希少糖の白血球からの活性酸素の産生に対する影響)
以下の条件により、各種の希少糖の白血球からの活性酸素の産生に対する影響を調べた。ここでは白血球からの活性酸素産生に対する作用を、L012化学発光により調べた。
(1) 添加対象白血球:ラット白血球(顆粒球)を用いた。
(2) 添加した希少糖:アルドース希少糖としてのD-アロースの他に、比較する他の希少糖として、ケトース希少糖のD-プシコースとD-アルトロースを、ポリオールのD-タリトールを用いた。さらに、自然界に多量存在する糖としてD-グルコースとD-フラクトースを使用した。
(3) 実験方法:(i)ラット白血球からの活性酸素産生の経時変化…ラット白血球(顆粒球)にzymosan粒子を添加することにより起こる活性酸素産生の時間経過を調べた。さらに、各希少糖の存在化における活性酸素産生の時間経過も調べた。
(ii)活性酸素産生に希少糖が及ぼす影響…白血球からの活性酸素産生系に対して、さまざまな糖を添加して産生量を測定した。添加した糖の濃度はそれぞれ10mMを使用した。また、糖を添加しない条件下でも測定を行った。
(iii)希少糖の活性酸素産生に対する作用…白血球においてzymosan添加し貪食が始まり活性酸素産生が始まった後にそれぞれ10mMの濃度の各希少糖を添加した。
(iv)D-アロースの活性酸素産生抑制効果の濃度依存性…D-アロースの活性酸素産生抑制効果の濃度依存性を調べた。D-アロース濃度を0mM、5mM、10mMとして添加した。
(4) 実験結果:(i)ラット白血球からの活性酸素産生の経時変化…ラット白血球(顆粒球)にzymosan粒子を添加することにより起こる活性酸素産生の時間経過を調べた結果を図13に示す。活性酸素産生は、2〜3分で極大になりその後は随時減少することが判明した。また、この結果は、希少糖存在下でも変化しなかった。
(ii)活性酸素産生に希少糖が及ぼす影響…各糖を添加して産生量を測定した結果を図14に示す。活性酸素産生は、D-アロースのみにより抑制された(n=4)。グルコースをはじめ、他の希少糖(D-プシコース、D-アルトロース、D-タリトール)では全く抑制が認められなかった。
(iii)希少糖の活性酸素産生に対する作用…活性酸素産生が始まった後に希少糖を添加したときの実験結果を図15に示す。白血球においてzymosan添加し貪食が始まり活性酸素産生が始まった後に希少糖を10mMの濃度添加した場合には、D-アロースにおいて抑制効果がみられた。本実施例5により、活性酸素の産生の時間的経過は希少糖の存在に拘わらず同じであることが判明した。また、調べた希少糖の中では、D-アロースに特異的に、活性酸素の産生を抑制する効果(活性酸素産生抑制効果)があることが判明した。
(iv)D-アロースの各濃度における活性酸素抑制効果の実験結果を図16に示す。この結果、この系においては5mMでは作用が現れず、10mMになって初めて50%以上の抑制効果が現れることが判明し、D-アロースの有効濃度は10mM近辺にあることが判明した。また、本実施例10および前記実施例5により、D-アロースには活性酸素の産生を抑制する作用があることが判明した。他のアルドースについてもこの作用があることも予想され、今後の課題として調べていかなければならない。
この活性酸素産生抑制効果は幅広い活性酸素が関連する病態・疾患に対して、有効であり、今後、治療薬、機能性食品、外用剤などとしての応用の可能性があると思われる。例えば、脳神経系疾患(一過性脳虚血発作、脳卒中、パーキンソン症候群、外傷性てんかん、脊髄損傷等)、心血管系病変(動脈硬化症、虚血性心筋傷害等)、呼吸器疾患〔Adult respiratory distress syndrome(ARDS)、間質性肺炎、肺線維症、ウイルス性肺炎等〕、消化器疾患(胃粘膜病変、肝の虚血・再循環障害、黄疸病態、膵炎等)、腎疾患(糸球体腎炎、急性腎不全、慢性腎不全、尿毒症等)、糖尿病、癌、眼科疾患(網膜変性、未熟児網膜症、白内障、眼炎症、角膜疾患等)、皮膚疾患(アトピー性皮膚炎、しみ、そばかす、色素沈着、皮膚の老化等)、膠原病等のための治療薬への応用や、その他の用途としても 臓器保存剤、各種臓器幹細胞保存剤、精子・卵子保存剤としても応用の可能性がある。また、本実施の形態では、アルドース希少糖として、D-アロースを用いているが、活性酸素産生抑制効果を有する他のアルドース希少糖も前記のような用途への応用の可能性がある。
【実施例6】
【0031】
(網膜虚血・再還流障害に対する希少糖の効果)
(1) 目的:一過性眼虚血モデル(ラット)に対してD-アロースの網膜に対する影響を検討する。
(2) 方法:一過性眼虚血モデルは眼圧を120 mmHg程度まで上昇させることにより作製した。45分間の虚血を行い、その後再還流を行った。マイクロダイアリーシス法により虚血再還流時に放出されるグルタミン酸濃度を測定した。
(3) 結果:図17に示すように、D-アロースを虚血前に静脈内投与(200mg/kg体重)することにより、虚血時のグルタミン酸濃度はコントロール(D-アロース非投与)に比べ抑制され、また再還流時には完全に抑制された。
(4) 考察:網膜の虚血・再還流障害においては、海馬の神経細胞のそれと同様に、多量のグルタミン酸の放出による神経毒性があることが指摘されている。D-アロースがグルタミン酸の放出を抑制することはD-アロースが網膜神経保護効果を有する可能性を強く示唆している。
【実施例7】
【0032】
〔希少糖(D-アロース)の皮弁虚血再灌流障害軽減効果に関する実験〕
(1) 目的:本発明者らはこれまでの基礎研究で、島状皮弁の虚血再灌流後の皮弁壊死および乱走皮弁遠位部の壊死メカニズムの解明に取り組んできた。その結果、島状皮弁の虚血再灌流後の壊死および乱走皮弁遠位部の壊死に活性酸素が関与していることを明らかにした。また、島状皮弁の虚血再灌流後の壊死および乱走皮弁遠位部の壊死には、血腫や炎症により産生される活性酸素の関与することも示唆されている。本実施例7は、希少糖の活性酸素産生抑制作用の基礎的データを得ることを第一の目的とし、島状皮弁および乱走皮弁の壊死を効果的に予防するための臨床応用を第二の目的とする。さらに、遊離皮弁、切断肢の長期保存における保存液としての応用および血行再開後の再灌流障害予防法を開発することを第三の目的とする。(2) 実験方法:1)ウイスター系ラット(♂、7〜8週、300g弱)にペントバルビタール(ネンブタール)を腹腔内投与して麻酔をする。2) バリカンで腹部全体を剃毛する。3) 左大腿動静脈を血管茎とする3×5cmの島状皮弁を左腹部に作成する。4) 挙上した皮弁は、4-0ナイロン糸を用いて元の位置に縫合する5) 薬剤(いずれも0.6ml)を右大腿静脈よりワンショットで静注する。投与する薬剤は、各種濃度のD-アロース、グルコース(0.2mg/g)、生理食塩水。
6) 薬剤を投与して15分間待った後、血管茎を動静脈ともクランプする。クランプには、バスキュラークリップ(静脈用60g)を2個使用した。
7) レーザードップラー血流計を用いて、血行が完全に遮断されたことを確認する。
8) 8時間後、クランプを外す。同様に、レーザードップラー血流計を用いて血行が再開したことを確認する。
9) 1週間後に、皮弁の生死を判定する。
10) デジタルカメラで撮影後コンピューターに取り込み、生着面積(%)を面積計算ソフトで計算する。
(3) 実験群:下記の6群:各群いずれもn=15
1) D-アロース :150mg(0.5 mg/g)
2) D-アロース : 60mg(0.2 mg/g)
3) D-アロース : 30mg(0.1 mg/g)
4) D-アロース : 15mg(0.05mg/g)
5) D-グルコース: 60mg(0.2 mg/g)
6) 生理食塩水(コントロール)
(4) 結果(図17〜20):生着面積(%)の全データを図18に、分散分析(一元配置)の結果を図19に、平均値と標準偏差を図20に、多重比較検定(Fisher’s PLSD)の結果を図21に示す。多重比較検定は、p<0.05で有意差ありと判定した。
30mg(0.1 mg/g)以上D-アロースを投与した 1)2)3)の3群は、生食投与群6)に対してともに統計的有意差を認める。さらに、1)2)の2群はグルコース投与群5)に対しても統計的有意差を認める。しかし、D-アロースを15mg(0.05mg/g)投与した4)は、生食投与群6)やグルコース投与群5)に対して統計的有意差を認めない。また、グルコース投与群5)は生食投与群6)に対して統計的有意差を認めない。したがって、D-アロースはD-グルコースと異なり皮弁生着面積の延長効果があり、その効果発現には30mg(0.1 mg/g)以上の投与が必要であるといえる。
(5) 考察:上記の実験によりD-アロースに皮弁虚血再灌流障害軽減効果があることが証明された。この機序がいかなる作用によるものなのかを検証する必要がある。われわれはD-アロースが抗酸化作用を持つのではないかと考えている。この証明のためには、各種酸化ストレスの指標を測定する必要がある。まず、皮弁組織中の過酸化脂質をTBA(チオバルビタール)法により経時的に測定すること、4-hydroxy-2-noneal-modified protein(HNEによる免疫染色から測定)や白血球数(HE標本から測定)などの他のパラメーターも測定することが必要がある。
作用機序の概要が分かることにより、どのタイミングで投与するのが最も効果的なのかを検討することが可能である。現在は皮弁挙上直後(皮弁の血管茎をクランプする15分前)に経静脈的に全身投与しているが、血管茎のクランプを解除する直前に全身または局所投与してみる実験を続けるべきと考えている。また、至適投与量についても再検討し、至適投与量・最も効果的な投与方法(タイミング)が判明したところで、既存の抗酸化剤(SOD、アロプリノールなど)と効果を比較してみることが必要であると考えている。今後の展望として、皮弁保護作用のある注射薬または軟膏の開発につながると考えている。効果的な皮弁壊死予防薬が開発されれば、皮弁による手術成績が飛躍的に向上する。また、切断肢の保存が可能になれば、緊急手術で再接着術を行う必要はなくなり、待機手術として定時に行うことができるようになる。
(6) 参考文献:1)Ashoori F, Suzuki S, et al:Involvement of lipid peroxidation in necrosis of skin flaps and its suppression by ellagic acid. Plast Reconstr Surg, 94:1027-1037, 1994.
2)Um SC, Suzuki S, et al:Formation of 4-hydroxy-2-noneal-modified proteins and 3-nitro-L-tyrosine in rat island skin flaps during and after ischemia. Ann Plast Surg, 42:293-298, 1999.
3)佐藤美樹, 鈴木茂彦, 宗内巌:皮弁虚血再灌流障害時における組織内Galectin-9の発現変化. 日本形成外科学会会誌, 22:428-433, 2002.
4)Yagi K:A simple fluorometric assay for lipid peroxide in blood plasma. Biochem Med, 15:212-216,1976.
5)Ohkawa H, Ohishi S, Yagi K:Assay for lipid peroxides in animal tissues by thiobarbituric acid reaction. Anal Biochem, 95:351-358, 1979.
【実施例8】
【0033】
(ラット腎虚血再灌流障害に及ぼす希少糖の効果)
(1) 目的:ショックや腎虚血を伴う手術時などで、急性腎不全は生命予後に悪影響を及ぼす重篤な合併症の一つである。そこで、今まで腎虚血性障害に対してはischemic preconditioningや各種薬物の有効性が検討されている。今回はラット腎虚血再灌流障害モデルを使用して腎虚血性障害に及ぼす希少糖の効果を検討した。
(2) 方法:
対象…体重300g前後の雄性ラット。
実験方法…ラットをネンブタールで麻酔後に腎虚血モデルを作製。
腎虚血…右腎摘出後、左腎血管を45分間クランプすることで作製。
使用薬剤…D-アロース、D-プシコース(ともに400mg/kg)腎虚血30分前に静脈内投与する。
測定項目…障害性因子であるcytokine-induced neutrophil chemoattractant(CINC)-1 mRNA(再灌流 2時間後)の発現に及ぼす影響。
(3) 結果(図22):ノーザンブロッティグの結果を図22に示す。再灌流2時間後のCINC-1mRNAの発現量はアロース、プシコースともに減少しているように思われる。
(4) 考察:本実施例8では、たった1回の予備実験の結果であるので、今後回数を重ねて、必要濃度などの効果の検討を行う必要がある。CINC-1mRNAの発現量だけでなく、CINC-1蛋白に及ぼす影響も検討しなければならないと考えている。腎虚血性障害に対する希少糖の有効性が立証できれば、ショック、腎虚血を伴う手術時など新しい治療薬および輸液製剤の開発として有望であると考えている。
【実施例9】
【0034】
(希少糖の脳虚血保護作用の研究)
(1) 目的:一過性の脳虚血に伴い、海馬の神経細胞が死にいたることが知られている。この原因は明らかではないが、いくつかの可能性がある仮説が提案されており、現在、多くの研究者がこれらの仮説の証明を行っている。我々もこのモデルを用いて研究を行っているが、D-アロースの前投与によりこの細胞死が抑制されることを明らかにした。さらに、より詳細な投与量の決定や、作用機序の一部を明らかにした。
(2) 方法:砂ネズミを用い、5分間の両側性の総頸動脈を閉塞する。1週間後にサクリファイスし、常法に従い、切片作成を行い、ヘマトキシリン エオジン染色を行う。顕微鏡下で海馬の神経細胞数をカウントし、残存率を計測した。正常コントロール群、虚血を与えたのみの群、200mg/kgのD-アロースまたはD-プシコースを虚血前に投与した群で実験を行った。虚血にともない細胞外に放出される大量のグルタミン酸が神経細胞に毒性を有することが知られている。これを明らかにするため、脳定位固定装置に砂ネズミを固定後、海馬にグルタミン酸オキシダーゼを溶解した液をマイクロダイアリシス用のプローブに還流し、海馬の神経細胞外のグルタミン酸濃度をリアルタイムで測定した。またD-アロースや2-デオキシグルコースの前投与を行い、虚血に伴うグルコースの代謝とD-アロースの作用機序の関連を明らかにした。
(3) 結果:D-アロースは虚血に伴う神経細胞死を有意に抑制した。しかしD-プシコースではこの抑制効果は認められなかった(図23)。虚血に伴い、海馬ではグルタミン酸は二相性に分泌される(図24)。最初のピークは虚血に伴うもので、第二のピークは虚血終了後の過還流時に伴うものである。この過還流は1時間ほど持続し、この過還流時に神経細胞が障害を受けると考えられている。D-アロースの前投与により、1番目のピークは一部抑制されたが、その抑制は25%程度であった。しかし2番目のピークはD-アロースの投与によって90%前後に強く抑制された(図24)。またこのような効果は非代謝性のD-グルコース関連物質である2-デオキシグルコース投与によっても同様の効果が観察された(図25)。
(4) 考察:D-グルコースは神経活動には必須のものであると同時に、過不足にともない細胞毒性をもたらすことはよく知られている。また虚血のような強いストレスが与えられ、かつ酸素の供給が断たれた場合は、強い細胞毒性を発揮する。おそらくこれは活性酸素の発生を伴う細胞障害であると考えられる。D-アロースはD-グルコース代謝に何らかの影響を与えて、神経細胞死を抑制するものと考えられる。これは非代謝性の2-デオキシグルコースの投与によっても同様な効果がもたらされたことから、証明された。一方、脳虚血におけるD-グルコース消費は神経細胞のみならず、星状グリア細胞でもおこっており、両者がD-グルコースを取り合うような可能性が示された。星状グリア細胞におけるD-グルコース消費は最終産物が、神経とは異なっており、嫌気的代謝系が働き、乳酸が放出されると報告されている。プレリミナリーデーターであるが、実際に虚血時における乳酸分泌が観察されていることから、D-アロースの作用部位の一部は星状グリア細胞ではないかと推測される。また、グルタミン酸放出の2番目のピークは活性酸素によってもたらされる可能性もある。
[参考例1]
【0035】
(ケトヘキソースによる動脈硬化増悪に関連するケモカインMCP-1の分泌抑制作用)
ヒト血管内皮細胞(HUVECs)を常法に従い培養液(DMEM+10%FBS)の条件下で細胞培養を行った。HUVECsを約70%の濃度で96穴培養ディッシュに分注し以下の実験に供した。
(実験1)
D-プシコース濃度を0mM、5.6mM、11.2mMにてHUVECsの培養液に添加し、24時間培養後、培養液中のMCP-1をELISA(Quantikine,R&D)キットで測定し、結果を図26に示した。
(実験2)
HUVECsに作用してMCP-1の分泌を刺激するサイトカイン、IL-1β(最大分泌刺激濃度1ng/mL)およびTNF-α(最大分泌刺激濃度10ng/mL)で1時間HUVECsを前処理し、次にD-プシコースを0mM、5.6mM、11.2mMの濃度になるように添加し24時間培養後の培養液中のMCP-1濃度をELISAキットで測定し、結果を図27に示した。図26より、血管内皮細胞におけるMCP-1の基礎分泌に関して、D-プシコースは濃度依存的にMCP-1の分泌を抑制することが理解される。また、血管内皮細胞におけるMCP-1の分泌はサイトカイン(TNF-α,IL-1β)によって刺激され、最大刺激濃度はそれぞれIL-1βが最大分泌刺激濃度1ng/mLであり、TNF-αが最大分泌刺激濃度10ng/mLである。図27より、血管内皮細胞をIL-1β(1ng/mL)で刺激するとMCP-1が分泌され、その分泌は添加されたD-プシコースにより濃度依存的に抑制されることが理解される。
一般に、種々の血球成分に対する遊走活性を有するサイトカインであるケモカインの一つとしてのMCP-1は単球に対する遊走活性を有しており、生理的には炎症病巣における単球・マクロファージの集積に重要な役割を担っている。また、臨床的には動脈硬化巣の形成において血管内皮細胞の障害に引き続き、泡末細胞形成のための細胞成分の遊走に重要な役割を演じている。最近、動脈硬化巣の免疫染色で、動脈硬化病変におけるMCP-1の過剰発現が指摘されている。
以上の実験により、血管内皮細胞からのケモカインMCP-1の分泌が希少糖に属するケトヘキソースにより抑制されることが判明した。また動脈硬化巣におけるMCP-1の発現は種々のサイトカインにより刺激されており、特にIL-1β,TNF-αは重要な因子として位置付けられているが、以上の実験により、少なくともIL-1βによるMCP-1の分泌刺激を希少糖に属するケトヘキソースが抑制することが示唆された。
MCP-1は動脈硬化病変形成に重要な役割を演じることが指摘されており、希少糖に属するケトヘキソースのMCP-1分泌抑制効果は、動脈硬化の予防の観点からも重要であり、動脈硬化治療に有益な物質(例えば、動脈硬化治療物質や予防物質)への用途となり得ると考えられた。
これらの結果から、希少糖に属するケトヘキソースは、それ単独でMCP-1分泌を抑制する物質としての用途に利用できる。また、その誘導体や配糖体について検討すれば、MCP-1分泌を抑制する物質ができる可能性が示唆される。またMCP-1は動脈硬化症のみならず、他の疾患発症に関与していることが指摘されている。例えば慢性関節リウマチにおける関節での炎症の惹起にMCP-1の関与が指摘されている。また喘息などの肺疾患においても単球の遊走および単球・マクロファージの活性化を介して疾患形成に関与している。このような局所の炎症、および単球・マクロファージが関与する疾患において希少糖に属するケトヘキソースは疾患の活動性を調節する可能性があり、幅広い疾患の治療薬としての応用が期待される。
[参考例2]
【0036】
(ケトヘキソースによるマイクログリア遊走抑制作用)
本参考例2は、希少糖に属するケトヘキソースを有効成分とするマイクログリア遊走抑制物質に関する。生体内の臓器は長時間血流が途絶え虚血状態に陥ると壊死に陥る。虚血状態は、臓器の手術時に血流を一時遮断し術後に再開する場合に必ず生じる。また、臓器移植等で臓器を摘出保存し移植する場合も同様である。臓器保存法には、単純冷却法、持続灌流法、凍結法などがあるが現在もっとも臨床的に応用されているのは、単純冷却法である。これは臓器摘出時に保存液で灌流し、摘出後に同様の冷却した保存液に浸漬する方法である。現在ではBelzerらWisconsin大学外科のグループにより開発されたUniversity of Wisconsin(UW)液により飛躍的に保存時間が延長され、主としてこれが使用されるようになった。しかし、保存終了後の血流再開時には、臓器に対して活性酸素、細胞外プロテアーゼおよびサイトカインなどによる障害性変化が出現する。これを抑制する目的で種々の薬剤〔pyrazolotriazin 誘導体薬剤やnitric oxide(NO)分泌誘発剤など〕を灌流液に添加する方法が提唱されているが臨床的にまだ十分ではない〔松本光司 J Nippon Med Sch 第68巻第3号、2001年〕。
そこで、本参考例2では、希少糖に属するケトヘキソースのマイクログリア遊走抑制効果を確認することにより希少糖に属するケトヘキソースの脳臓器保存における有用性及び臨床応用への可能性について検討する。
以下の本参考例2では、虚血で出現するマイクログリアの数に及ぼす希少糖に属するケトヘキソースの影響について検討する。これにより、希少糖に属するケトヘキソースはマイクログリアの出現数を減少させて脳臓器保存における有用性及び脳の治療への臨床的応用へ有効であることが示唆される。なお、希少糖に属するケトヘキソースとしては、D-プシコースを使用した。脳虚血モデルとして、体重70g程度の雄砂ネズミの両側総頚動脈を5分間結紮するモデルを使用する。このモデルでは、脳の海馬CA1領域の神経細胞が特異的に虚血性細胞死を起こす。
虚血を行わない対象(コントロール:Sham)、虚血+生理食塩水処理、虚血+D-プシコース処理の各3例の各群に分けて比較検討した。
D-プシコース処理としては、生理食塩水中にD-プシコースを溶解させて濃度200mg/mLのD-プシコース溶液として、虚血前5分と虚血直後にそれぞれ、200mg/kgずつ、大腿静脈より虚血モデルに投与した。生理食塩水処理としては、D-プシコース溶液に代えて生理食塩水のみを同様に投与した。虚血後1週間して灌流固定し、20μmの凍結脳切片を作成し、ヘマトキシリン・エオジン染色を行った。
結果を図28に示すが、炎症細胞であるマイクログリアの出現数がD-プシコースの添加により減少され、マクログリアの遊走がD-プシコースの投与によって確実に抑制されることが理解される。この虚血モデルでは、炎症細胞であるマイクログリアの遊走はD-プシコースの投与によって抑えられた。一過性脳虚血の際には、海馬の神経細胞死が起こり症状として記憶障害が伴うことが知られている。脳虚血による神経細胞死に関しては、薬剤や低体温療法などで一時的に虚血性神経細胞死を抑制した後でも、脳グリア細胞の一種であるマイクログリアがグルタミン酸や活性酸素を出して、治療後の慢性的な細胞死に関与するということが指摘されている。これにより、こうしたマイクログリアの動きを抑制することも、脳の虚血保護や移植時保存に関して有用であると言える。したがって、D-プシコースは薬剤や低体温療法など他の治療法との併用でその治療効果を上げることが期待される。
[参考例3]
【0037】
(ケトヘキソースの血糖降下に関連する作用)
本参考例3は、希少糖に属するケトヘキソースを有効成分とする血糖降下作用物質に関する。糖尿病は耐糖能異常も含めると1000万人を遙かに超える国民病となっている。糖尿病の本態はグルコースによる特異的なインスリン分泌不全であり、膵臓からのインスリン分泌が減弱した状態およびその作用不足のために発症する代謝疾患と考えられている。一般にインスリン分泌を促進する薬剤として、スルホニル尿素薬やフェニールアラニン誘導体などの糖尿病治療薬があるが、副作用などの種々の問題点がある。そこで本参考例3では、希少糖に属するケトヘキソースの糖尿病における有用性および臨床応用の可能性について検討した。第一に希少糖に属するケトヘキソースによる膵β細胞からのインスリン分泌刺激能について、グルコースと比較して検討し、また、グルコースと希少糖に属するケトヘキソースの共存下における膵β細胞からのインスリン分泌動態について検討する。またグルコースは、食物が消化分解され腸から吸収されて供給されているので、グルコース吸収における希少糖に属するケトヘキソースの影響について腸管を用いて検討する。これにより、希少糖に属するケトヘキソースは、インスリンの分泌を促進する効果があり、特にグルコースと併用することにより加算的(追加的)にインスリンの分泌を促進させること、また、糖代謝に影響を及ぼさない希少糖に属するケトヘキソースがグルコースの吸収を抑制していることにより、希少糖に属するケトヘキソースの糖尿病の予防又は治療への有用性が示唆される。
インスリノーマ由来の膵β細胞株INS-1を常法に従い培養液(DMEM+10%FBS)の条件下で細胞培養を行った。INS-1細胞を約70%の密度で96穴培養ディッシュに分注し以下の実験に供した。希少糖に属するケトヘキソースとしては、D-プシコースを使用した。
(実験1)
培養液のグルコース濃度を2.8mM、5.6mM、11.2mM、16.7mMにして24時間培養後、培養液中のインスリン濃度をELISA(レビス インスリンキット)で測定した。この結果、インスリノーマ由来の膵β細胞株INS-1細胞は培養液中のグルコース濃度に反応してインスリン分泌が刺激された。この分泌刺激はグルコース濃度11.2mMでプラトーに達した。
(実験2)
培養液のD-プシコース濃度を0mM、2.8mM、5.6mM、11.2mM、16.7mMに変えた時の培養液中のインスリン濃度をELISA法にて測定し結果を図29に示した。この結果、膵β細胞株INS-1細胞を種々の濃度のD-プシコースで刺激すると、濃度依存的にインスリン分泌が認められた。この分泌刺激は、D-プシコース濃度11.2mMでプラトーに達した。
(実験3)
グルコースに基づくインスリン分泌がプラトーに達するグルコース濃度を11.2mMに固定し、更にD-プシコースを加えてプシコース濃度を2.8mM、5.6mM、11.2mM、16.7mMと変化させて24時間培養した。膵β細胞株INS-1細胞からのインスリン分泌の状況を検討し結果を図29に併せて示した。この結果、グルコースに基づくインスリン分泌の最大刺激濃度に保ったにもかかわらず、D-プシコースの濃度を追加的に増加させると、培養液中へのインスリンの分泌がさらに加算的に刺激されたことが確認された。
(実験4)
グルコースの吸収に与えるD-プシコースの影響を調べるためにラットの腸管を用いてD-プシコースの吸収に及ぼす影響を解析した。グルコースの吸収はグルコースオキシダーゼ法による定量法により腸管粘膜を隔てて外部と内部の濃度を測定することで解析する。D-プシコースがグルコースと併存することでグルコースの吸収がどのように変化するかを測定する。またD-プシコースを長期間投与したラットの腸管を用いて、同様に糖の吸収系がどのように変化するかを解析する。
グルコースを含む緩衝液中に、図30に示すように、ラット反転腸管を浸漬し、一定時間後に漿膜側の溶液をサンプリングしグルコース濃度を測定する。種々の濃度のD-プシコースを添加することによって、粘膜側から漿膜側へのグルコースの輸送に与えるD-プシコースの影響について検討し、結果を図31に示した。
この結果、ラット反転腸管にグルコースと同濃度のD-プシコースを加えておくと、漿膜側のグルコース濃度の上昇が有意に抑制された。D-プシコースの添加が、グルコースの輸送系に影響を与えている可能性が示唆された。以上の結果より、希少糖に属するケトヘキソースは、膵β細胞からのインスリン分泌を刺激することが判明した。また最大のインスリン分泌刺激が得られるグルコース濃度下の細胞において、希少糖に属するケトヘキソースを追加的に添加することにより、さらなるインスリン分泌が観察された。一般に、糖尿病の本態はグルコースによる特異的なインスリン分泌不全であるが、グルコースに基づくインスリン分泌が不全である場合にも希少糖に属するケトヘキソースの作用により有効にインスリン分泌を促進させることができると期待される。これにより、希少糖に属するケトヘキソースの膵β細胞からのインスリン分泌刺激作用および高血糖状態における希少糖に属するケトヘキソースのインスリン分泌増強作用が判明され、希少糖に属するケトヘキソースは、今までにない新しい作用機序を有する物質として期待される。また、臨床的に高血糖が認められる糖尿病患者において希少糖に属するケトヘキソースがインスリン分泌を促進し、血糖値を改善することが期待される。また経腸管的に投与された希少糖に属するケトヘキソースがグルコースの吸収を抑制すること及び希少糖に属するケトヘキソースが糖代謝に影響を及ぼさないことは、糖尿病における食後過血糖を抑制する可能性があり、糖尿病における予防又は治療に有益な物質として期待される。さらに、希少糖に属するケトヘキソースには糖尿病およびその合併症とも関連が大きい動脈硬化の予防効果も認められ、糖尿病の主死因は動脈硬化性疾患であるので、動脈硬化抑制作用もある希少糖に属するケトヘキソースは血糖値の改善および動脈硬化症の予防という画期的な糖尿病治療薬として期待される。また、希少糖に属するケトヘキソースは、これらの治療効果や抗肥満等が期待される健康補助食品となり得ると期待される。
[参考例4]
【0038】
(希少糖投与によるラット血糖値に対する影響)
(1) 目的:希少糖、特にD-プシコースの投与によってD-フラクトースの長期大量投与負荷で発生する高インスリン血症が抑制されることが報告されている。今回我々は希少糖の投与によって正常ラットの血糖値がどのように変動するかを調べた。
(2) 方法:1) 希少糖投与:SDラットオス(体重300g前後)を20-24時間絶食後に実験に用いた。ラットにネンブタール(58mg/kg B.W)を腹腔内投与し、麻酔下にて頚部を切開して経静脈にシリコンチューブを留置した。このチューブに1mlシリンジを接続し、希少糖を投与した。
2) 採血:頚静脈に挿入したシリコンチューブから1mlシリンジを用いて採血を行った。採血は希少糖投与直前、5,10,15,20,25,30, 60,120,180,240分後に行った。
3) 血糖測定:採血した血液中の血糖値はアントセンスII(バイエルメディカル)によって決定した。
(3) 結果:
1) 麻酔下生理食塩水投与による血糖への影響(図32):まず、3匹のラットに生理食塩水(0.7ml)のみを静注して血糖値に対する麻酔等の影響を調べた。その結果、生理食塩水のみの投与では血糖値の大きな変化はみられなかった。
2) 麻酔下D-グルコース投与による血糖値への影響(図33):D-グルコース(200mg/kg BW)を頚静脈より静注して注入前後の血糖値を測定した(N=2)。血糖値はD-グルコース投与によって一過性に上昇し、60分程度で正常値に近づいた。
3) D-プシコース投与による血糖値への影響(図34):ラットに麻酔下でPsicose(200mg/ kg BW)を静脈内投与して血糖値を測定した(N=4)。そのうち2匹では血糖値が希少糖投与30−60分で減少し、徐々に回復をしたが、他の2匹では血糖低下ののちに初期値より上昇またはほとんど変化しなかった。
(4) 考察:本参考例4が用いた正常ラット麻酔下における実験系にてネンブタール麻酔や生理食塩水静脈内投与が血糖値やD-グルコース負荷に対して影響しないことが確認された。本参考例4の実験では、ラットのうち半数はD-プシコースを投与することによって血糖値が投与後30-60分で低下し、その後ゆっくりとした回復が見られた。残りのラットは早期に血糖低下を起こしその後上昇するか、または徐々に血糖低下を示した。これらのことから個体差はあるが正常ラットでは希少糖(D-プシコース)により、軽度の血糖低下が起こることがわかった。今後、実験動物数を増やしてデータを解析する必要がある。また、高血糖ラットにおいての作用を検討する必要性がある。同時に行った、D-アロースの実験では、血糖低下は認められなかった。
[参考例5]
【0039】
(ケトースの高血糖状態改善効果)
(1) 目的:糖尿病は耐糖能異常も含めると1000千万人を遥かにこえる国民病となっている。糖尿病の本態はグルコースによる特異的なインスリン分泌不全である。そこで今回我々は、希少糖、特にケトースであるD-プシコースの糖尿病における有用性および臨床応用の可能性について検討した。現在までに、ケトースによる膵β細胞からのインスリン分泌刺激能について、in vitroで検討してきた。今回の検討は、無麻酔無拘束ラットをもちいてD-プシコースのインスリン分泌能および糖代謝に与える影響について検討をおこなう。本研究により、ケトースの膵β細胞からのインスリン分泌刺激作用および高血糖状態におけるケトースのインスリン分泌増強作用をin vivoで検証するものである。以上のことより今後ケトースの糖尿病における予防/治療薬としての可能性を検討する目的である。
(2)方法:1) 経静脈ブドウ糖負荷試験(IVGTT)…8週令SDラット雄を使用して頚静脈よりカテーテルを挿入してIVGTTを施行する。希少糖3匹・グルコース3匹とする。
プロトコール1
0.5g/kg(0.5g/1000g=500mg/1000g=0.5mg/g)でIVする。0.5g/ml(0.5g/1000ul=500mg/1000ul=0.5mg/ul)の濃度の希少糖およびグルコースの溶液を調整する。溶液は2ml作成する。
200gのラットであれば、200ulを静脈注射(IV)する。
250gであれば250ulとなる。
IVのあと生理食塩水を300ul注入する。
血液サンプルは150ul採血する。
前処置として16時間絶食とする。飲水は可。
採血時間は0、5、10,15,20,25,30,45,60分の9ポイントとする。 2) 高血糖時におけるプシコースの影響
8週令SDラット雄を使用して頚静脈よりカテーテルを挿入して50%グルコースを20分間隔で注入し高血糖状態を作成し、プシコースおよびデオキシグルコースを使用しIVGTTを施行する。希少糖1匹・デオキシグルコース1匹とする。
プロトコール2
0.5g/kg(0.5g/1000g=500mg/1000g=0.5mg/g)でIVする。 0.5g/ml(0.5g/1000ul=500mg/1000ul=0.5mg/ul)の濃度の希少糖およびデオキシグルコースの溶液を調整する。溶液は2ml作成する。
200gのラットであれば、200ulをIVする。
250gであれば250ulとなる。
IVのあと生理食塩水を300ul注入する。
血液サンプルは150ul採血する。
採血時間は0、5、10,15,20,25,30,45,60分の9ポイントとする。
(3) 結果:IVGTT…コントロールとしてブドウ糖を使用した。図35に示すように、ブドウ糖を負荷すると血糖値の上昇をみとめた。プシコースを静脈内に投与しても血糖値の上昇を認めなかった。またIVGTT に経時的に血中insulinを測定すると、ブドウ糖負荷群では血糖値の上昇に一致してinsulinの上昇を認めたが、プシコース投与群においては血糖値が上昇しなかったためかinsulinの分泌にも影響を与えなかった(図36)。
正常の血糖レベルではプシコースはインスリン分泌を促進しないことが示唆されたので、次にブドウ糖を連続して投与し高血糖状態を作成したラットにおいてプシコースの影響を検討した。コントロールとしてデオキシグルコースを使用した。コントロールに比較して、プシコース投与群においては血糖値に低下が速やかであった。また経時的に測定したinsulin濃度はコントロールに比較して分泌が増加していた(図37)。
(4) 考察:本参考例5の検討においてin vivoにおいてD-プシコースは糖代謝に影響を及ぼさずに膵β細胞からのインスリン分泌を刺激することが判明した。またインスリン分泌作用に関しては、高血糖時にインスリン分泌作用を有するが、通常の血糖においてはインスリン分泌促進作用がほとんど認められず、低血糖の誘発は認められなかった。糖尿病の本態はグルコースによる特異的なインスリン分泌不全であるが、希少糖は、そのような状態においても有効にインスリン分泌を促進させることより、今までにない新しい作用機序を有する物質として期待される。臨床的に高血糖が認められる糖尿病患者においてD-プシコースがインスリン分泌を促進し、血糖値の改善が得られる可能性があり、糖尿病治療に有益な医薬品または健康補助食品となりえると考えられる。
[参考例6]
【0040】
(希少糖の蛋白質の糖化に対する効果)
(1) 目的:糖尿病における持続的高血糖状態は,生体内での蛋白質の非酵素的糖付加反応(糖化)を促進する。この反応はアマドリ産物など(前期生成物)を経由して,やがて後期反応生成物(advanced glycation end products: AGE)を形成し、酸化ストレスを増大させ、糖尿病における網膜症、腎障害などの血管合併症を進展させる。本参考例6では,希少糖に高血糖下における糖化、酸化ストレス抑制効果があるか否かを検討する。
(2) 方法:グリコアルブミン(GA)測定試薬(オリエンタル酵母社製)プロテアーゼKによりアルブミンをアミノ酸断片にした後,ケトアミンオキシダーゼによりグリコリジンを測定する(図38)。各種希少糖によるヒトアルブミンのグリケーションを検討した。試料の調整は,PBSにヒトアルブミン純品を3g/dlにして,それに各種希少糖をそれぞれ終濃度55.5mMになるように溶解した。調整した溶液を0.25μmのフィルターでろ過滅菌し,37℃で7日間インキュベーションした。途中,正確に24時間おきにGA濃度(グリコリジン濃度)を測定した。さらに、アルブミン(終濃度3g/dl)、グルコース(終濃度55.5mM)溶液に各希少糖を終濃度55.5mMになるように添加し、同様に実験した。
(3) 結果:1) 最も糖化反応が顕著だったのはD-アロースであり,その糖化速度は約90μmol/dayであった。次に糖化反応が進んだのはD-グルコースとD-マンノースであり,約50μmol/dayであった。他の希少糖(D-プシコースなど)ではアルブミンのグリケーションは見られなかった(図39)。
2) グルコース共存下での希少糖の糖化作用…次にアルブミン(終濃度3g/dl)、D-グルコース(終濃度55.5mM)溶液に各希少糖を終濃度55.5mMになるように添加し、グリコアルブミン濃度を測定した。その結果、D-アロースはD-グルコース存在下でも急速な糖化反応が見られた。その糖化速度は実験1の結果通りで、約140μmol/day(D-グルコース+D-アロースの糖化速度)であった。またD-マンノースでは約100μmol/dayであり,グルコースの糖化速度をプラスした糖化速度が得られた。一方、D-プシコースなどの各希少糖ではグリケーションの抑制効果は認められなかった(図40)。
(4) 考察:生体内ではタンパク質とグルコースなとが非酵素的に結合(glycation)が起こっている。蛋白質のアミノ基とアルデヒド基の反応が初期反応において重要である。今回の検討結果でアルブミンのグリケーションが認められた糖類(D-アロース、D-グルコース、D-マンノース)はいずれもアルドース類である。アルドースは糖化反応のみならず、アルドース還元酵素によるポリオール代謝への影響も考えられる。臨床検査では、糖尿病患者の血糖コントロールの指標としてHbA1cやグリコアルブミンなどが有用とされている。いずれも蛋白質のグルコースによる糖化反応生成物を測定している。糖化部位は、ヘモグロビンのグロビンβ鎖N末端のバリン、アルブミンの199,281,439,525番目のリジンと言われている。今回希少糖の糖化反応の検討に使用したアルブミンはヘモグロビンに比べて糖化部位が多いので、短い期間の実験でデータが得られた。
ヘモグロビンによる同様の検討を行うには問題点がある。糖化速度が遅いので、インキュベーション中に蛋白の変性が進みすぎてうまく測定できない。現在、市販ヘモグロビン粉末にて検討中である。
本参考例6の実験データで分かったようにD-プシコースはアルブミンの糖化を促進しない。他のD-フラクトースなどの糖も糖化は起こさなかったが、それらの糖は体内に代謝経路をもっており、多量に存在すると結果としてアルドースなどが増加することになる。今後の実験でD-プシコースのヒト体内代謝をあきらかにするべきだが、少なくともD-プシコースは多量に服用しても糖化反応などがもたらす合併症の進展を促進しない可能性がある。加えて、D-プシコースのインスリン分泌作用があることから有用な糖尿病患者への利用価値があると考えられる。一方、今回のアルブミンを使用した実験では希少糖に糖化抑制作用は認められなかった。しかし、今後さらに希少糖の濃度を変更して検討し、さらに酸化抑制効果を検討していきたい。
以上、本発明を実施例により説明した。ここで希少糖は常用の糖類とは反対に身体により同化されないか又はたとえ同化されてもその程度は僅かであること、また、希少糖の脂質代謝に及ぼす影響から体脂肪蓄積の抑制効果が期待されていることにより、希少糖は、本発明の開示により各種の医薬品への期待に加えて、機能性食品としての付加価値を高くすることが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に従えば、希少糖、特にD-アロース、D-プシコースが細胞に取り込まれ又は作用されて当該細胞を変化させるので、希少糖が生理活性作用を有する物質として有効に利用されることが理解される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
D−アロースを有効成分とする生体内抗酸化剤。
【請求項2】
組織保存液又は輸液に用いられることを特徴とする、請求項1に記載の生体内抗酸化剤。
【請求項3】
請求項1に記載の生体内抗酸化剤を含有する哺乳類(ヒトを含む)の飲食物。
【請求項4】
機能性飲食物である請求項3に記載の飲食物。
【請求項5】
請求項1に記載の生体内抗酸化剤を含有する哺乳類(ヒトを含む)の医薬組成物。
【請求項6】
癌、皮弁壊死、一過性脳虚血発作、脳卒中、及び外傷性てんかんから選択される脳神経系疾患、急性腎不全、及び尿毒症から選択される腎疾患、網膜変性症、未熟児網膜症、白内障、及び眼炎症から選択される眼科疾患の治療又は予防に有効な請求項5の医薬組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の生体内抗酸化剤を含有する哺乳類(ヒトを含む)の皮膚外用剤。
【請求項1】
D−アロースを有効成分とする生体内抗酸化剤。
【請求項2】
組織保存液又は輸液に用いられることを特徴とする、請求項1に記載の生体内抗酸化剤。
【請求項3】
請求項1に記載の生体内抗酸化剤を含有する哺乳類(ヒトを含む)の飲食物。
【請求項4】
機能性飲食物である請求項3に記載の飲食物。
【請求項5】
請求項1に記載の生体内抗酸化剤を含有する哺乳類(ヒトを含む)の医薬組成物。
【請求項6】
癌、皮弁壊死、一過性脳虚血発作、脳卒中、及び外傷性てんかんから選択される脳神経系疾患、急性腎不全、及び尿毒症から選択される腎疾患、網膜変性症、未熟児網膜症、白内障、及び眼炎症から選択される眼科疾患の治療又は予防に有効な請求項5の医薬組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の生体内抗酸化剤を含有する哺乳類(ヒトを含む)の皮膚外用剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図26】
【図27】
【図29】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図39】
【図40】
【図41】
【図12】
【図17】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図28】
【図30】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図42】
【図43】
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【図39】
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【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図42】
【図43】
【公開番号】特開2010−59200(P2010−59200A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277930(P2009−277930)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【分割の表示】特願2004−506478(P2004−506478)の分割
【原出願日】平成15年5月22日(2003.5.22)
【出願人】(591286270)株式会社伏見製薬所 (50)
【出願人】(000215958)帝國製薬株式会社 (44)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【分割の表示】特願2004−506478(P2004−506478)の分割
【原出願日】平成15年5月22日(2003.5.22)
【出願人】(591286270)株式会社伏見製薬所 (50)
【出願人】(000215958)帝國製薬株式会社 (44)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】
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