説明

D−トレオメチルフェニデートを用いた治療

【解決手段】 メチルフェニデート及び/又は1若しくはそれ以上のその異性体の投与に対して反応性のある疾患を治療する方法であって、この方法は、チック症又はトゥレットシンドロームの家族歴又は診断を受けた疾病若しくは疾患に罹患した患者を特定する工程と、l−トレオ異性体及びエリトロメチルフェニデートを実質的に含まないD−トレオメチルフェニデートの治療的有効量を前記患者に投与する工程とを有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2004年12月9日付で提出された米国出願第60,634,562号を基礎として優先権を主張するものであり、その開示はこの参照により全体が組み込まれるものである。
【0002】
本発明は、とりわけ、トゥレットシンドロームに罹患した患者であって例えばD−トレオメチルフェニデート塩酸塩等のD−トレオメチルフェニデート若しくはその塩の投与に対して反応性のある疾患に罹患した患者群の治療方法に関するものである。また、l−トレオ異性体及びエリトロメチルフェニデートを実質的に含まないD−トレオメチルフェニデートの治療的有効量を前記患者に投与する方法もまた開示する。
【背景技術】
【0003】
トゥレットシンドロームは、多発性顔面及び他の身体のチックによって特徴付けられる深刻な神経疾患であり、通常幼児期若しくは青年期に発症し、しばしば呻き声及び強迫発声を伴うものである。その症状は一般的に小学生の時に始まり、青年期後にはその状態の多くはなくなる。トゥレットシンドロームに対する治療法は存在しないが、薬物により前記症状の一部は緩和される場合がある。
【0004】
チック症は突発性であり、急速性であり、再発性である運動(運動性チック)若しくは発声(声帯チック)である。運動性チックは、通常、顔面の単一箇所若しくは上半身における筋肉が関与するものである。チック症には主に2種類がある。単純なチック症は、例えば、頭部反転動作、瞬目、スニッフィング(sniffing)、頸痙攣、肩をすくめる動作(shoulder shrugging)、及び顔面の歪める等の1連の筋肉が関与している。複雑なチック症は、例えば、自己打撲若しくは自咬症、歩行中の跳躍、ホッピング、及び旋回など1つ以上の筋肉群が関与している。
【0005】
チック症は、単純型のチック症から別の単純型に、或いは、単純型から複合型に時間と共に進展する場合がある。また、いくつかのチック症は、短時間且つ急激なものというより、緩徐且つ持続するものであり、いくつかのチック症は下半身が関与する。声帯チックはまた、単純(咳、咳払い、怒鳴る)であるか若しくは複雑(意味不明な言葉を繰り返すこと、他の人が言ったことをオウム返しに言うこと、卑猥な言葉を大声で発すること)である場合がある。
【0006】
チック症は、体の運動系に影響する遺伝的神経疾患であると考えられている。チック症はまた、頭部損傷、若しくは、ある種の刺激剤等の薬物によっても引き起こされる可能性がある。チック障害を患った人は、チックが現れる前にその人の内部に鬱積された衝動が示される。この感情の鬱積は徴候と呼ばれる。チックを患った人は、チックが終わった後に解放感を感じることが多い。チックは無意識のものであるが、その衝動は、自主的な努力により短期間抑制することが可能である。爆発的なチックの後には、自発的な抑制がおとずれることが多く、内部感覚の鬱積から解放される。
【0007】
トゥレットシンドローム若しくはチックに罹患した患者はまた、注意欠陥障害(Attention Deficit Disorder:ADD)、注意欠陥多動性障害(Attention Deficit−Hyperactivity Disorder:ADHD)、及び/又は、鎮痛剤の投与とは無関係であるが、潜伏する癌、癌の治療、又はその両者に関係する可能性のある、認知機能の低下、疲労、及び/若しくは、神経行動学的緩徐化の1若しくはそれ以上を含む他の病気にも罹患している可能性がある。例えば、一部の医者によると、トゥレットシンドローム患者の50パーセント以上がADHDでもあると推定される。
【0008】
中枢神経(Central Nervous System:CNS)刺激剤は、ADHDを治療するために処方されることが多い。現在、このような刺激剤から作られる薬物は、(a)トゥレットシンドローム又はチック症に罹患した患者、及び/又は、(b)家族がトゥレットシンドローム又はチック症の家族歴を有する患者群に対して禁忌である可能性がある。トゥレットシンドロームはまた、メチルフェニデート塩酸塩薬物の投与に対する副作用が懸念されている。過去のいくつかの参考文献によれば、トゥレットシンドローム若しくはチック症に罹患した患者、又は、トゥレットシンドローム若しくはチック症の家族歴を有する罹患した患者は、メチルフェニデートを含む薬を服用すべきではない。本発明は、とりわけ、トゥレットシンドローム若しくはチック症に罹患した患者、又は、トゥレットシンドローム若しくはチック症の家族歴を有する患者に対するメチルフェニデートの投与に関するものである。
【0009】
メチルフェニデートは、以下の4つの別々の光学異性体として存在し、
【0010】
【化1】

【0011】
式中、Rはフェニルである。薬学的に許容可能な塩が通常臨床的に投与される。
【0012】
トレオラセミ体(エナンチオマーの対)のメチルフェニデートは、アンフェタミンのものと質的に同様の生理学的活性を伴った穏やかな中枢神経興奮剤である。メチルフェニデートのDL−トレオラセミ体の使用に伴って生じる望ましくない副作用は、拒食症、減量、不眠症、目眩、及び不快感を含む。さらに前記ラセミ体は、Schedule II規制物質であり、静脈内に投与された際若しくは吸入又は摂取を通して陶酔感をもたらすため、乱用の可能性が高い。
【0013】
DL−トレオメチルフェニデートの徐放性放出製剤が開発されており、1日に亘る前記薬物の持続放出が提供される。しかしながら、一日を通して投与される従来の製剤と比較すると、徐放性放出製剤が使用される場合には前記薬物の血漿濃度のピークが低くなることが観察されている。いくつかの研究において、DL−トレオメチルフェニデートの徐放性放出製剤が従来の製剤よりも有効性が低いことが示されている。
【0014】
2回の投与を含む単一製剤のパルス放出の製剤の場合、その1つは摂取後直ぐに放出され、もう一方は、数時間の遅延後に放出されるものであり、最も効果的な用法の投与方法として近年提案されている。パルス製剤は、所定の間隔で薬物を複数回投与して効果的な放出をもたらす一方で、そのような製剤は、製造するには複雑且つ費用がかかる可能性がある。しなしながら、すべての患者に対して最も効果的且つ効率的に薬物を投与することが望ましく、メチルフェニデートの場合、単一の効果的異性体、すなわち、D−トレオメチルフェニデートを投与することによりこの目的が最も良く達成されると現在考えられている。
【0015】
実質的にl−トレオ異性体及びエリトロメチルフェニデートを含まないメチルフェニデートのD−トレオ異性体(2R:2’R)を使用することにより、高活性レベルを保持すると同時に、抑制された陶酔感を有し、更に患者間での乱用の可能性が抑制されたメチルフェニデート薬物療法をもたらすことが発見されている。米国特許第5,908,850号を参照(この参照により本願明細書にその全体が組み込まれる)。従って、D−トレオメチルフェニデート(2R:2’R)は、副作用の減少と共に増強された治療活性を有し、L−トレオ−メチルフェニデートは患者に望ましくない副作用、陶酔感、薬物乱用の可能性をもたらす。
【0016】
トゥレットシンドロームに罹患し、D−トレオメチルフェニデートに反応性のある別の疾患を併発した患者を治療するための改善された方法の必要性が残されている。本発明は、この目的と他の重要な目的を対象とするものである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0017】
理論による制限されることなく、本発明は、部分的に、l−トレオ異性体及びエリトロメチルフェニデートを実質的に含まないD−トレオメチルフェニデートが、トゥレットシンドローム及び/若しくはチック症に罹患し、ADD、ADHD、或いは、D−トレオメチルフェニデート又はそれらの塩、例えば、D−トレオフェニダート塩酸塩等に反応性のある別の疾患を併発する患者群に安全に投与されるという仮説に関連する。前記別の疾患は、鎮痛剤の投与に無関係ではあるが、潜伏する癌、癌の治療、若しくはその両者に関連する可能性がある、認知機能の低下、疲労、神経行動学的緩徐化の1若しくはそれ以上を含む可能性がある。本発明は、単に特定の適応症の治療のみを対象とするのではなく、ある群の患者の治療方法を開示するものである。その目的のために、D−トレオメチルフェニデート、若しくは例えば、D−トレオメチルフェニデート塩酸塩等のメチルフェニデートの塩の投与に反応性のある疾病若しくは疾患を治療する方法が開示されており、この法は、そのような疾病若しくは疾患に罹患した患者、及びチック症又はトゥレットシンドロームの家族歴又は既往歴を有する患者を特定する工程と、前記患者に、l−トレオ異性体及びエリトロメチルフェニデートを実質的に含まないD−トレオメチルフェニデートの治療的有効量を含む製剤を投与する工程とを有するものである。他の実施形態は、注意欠陥障害若しくは注意欠陥多動性障害患者と診断された患者、及びチック症状を示すか或いはトゥレットシンドロームの家族歴がある患者を治療する方法であり、この方法は、患者を特定する工程と、l−トレオ異性体及びエリトロメチルフェニデートを実質的に含まないD−トレオメチルフェニデートの治療的有効量を含む製剤を前記患者に投与する工程とを有するものである。
【0018】
本発明の一部の実施形態において、前記治療的有効量は、D−トレオメチルフェニデートの急性静脈投与量である。その製剤は、好ましい実施形態において経口投与に適したものであっても良い。前記有効量の投与は、皮下、静脈内、筋肉内、若しくは腹膜内であっても良い。一部の実施形態において、前記投与はまた、アルコール、グリコール、グリセロールケタール、及びエーテルの滅菌液体若しくは液体混合物から成る群から選択された薬学的担体を介したものであっても良い。
【0019】
前記有効量がD−トレオメチルフェニデート若しくはその塩の0.01重量%であることが好ましい実施形態がある。一部の実施形態における製剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、デキストラン、及び安定剤から成る群から選択される粘性増強物質を有する。別の実施形態におけるボーラス製剤は、患者の体重に対して約0.01mg/kg〜約1mg/kg若しくは約0.1mg/kg〜約0.5mg/kgである。ボーラス製剤はまた、当然のことながら、薬学的許容可能な担体を含むものであっても良い。パルス製剤が本発明の使用に適していることもまた理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の一態様によると、(a)トゥレットシンドローム及び/又はチック症、並びに(b)D−トレオメチルフェニデート若しくは、例えば、D−トレオメチルフェニデート塩酸塩等のD−トレオメチルフェニデート塩の投与に反応性のある別の疾患の両者に罹患したある群の患者を治療する方法が提供される。前記方法は、注意欠陥障害若しくは注意欠陥多動性障害患者等の疾病又は疾患に罹患した患者、及びチック症又はトゥレットシンドロームの家族歴を有するか又は診断を受けた患者を特定する工程と、l−トレオ異性体及びエリトロメチルフェニデートを実質的に含まないD−トレオメチルフェニデートの治療的有効量を前記患者に投与する工程とが関与する。前記D−トレオメチルフェニデートは、1回の投与が24時間間隔で投与される、単一のボーラス投与量で投与されても良い。薬物は、パルス製剤若しくは2回の薬物投与をもたらす製剤により投与されても良い。
【0021】
D−トレオメチルフェニデート若しくは、例えば、D−トレオメチルフェニデート塩酸塩等のD−トレオメチルフェニデート塩の投与に反応性のある疾患は、本出願の譲渡人に譲渡された米国特許第6,486,177号に記載されており、これはこの参照によりその全体が本願明細書に組み込まれるものである。前記疾患は、癌、或いは例えば化学療法、放射線治療、痛みを抑制するための薬物の投与等の癌の治療に起因した疲労、神経行動学的緩徐化、及び認知的副作用、及び腫瘍学的症状のための投与治療に起因する神経行動学的緩徐化を含むものである。他の疾患は、閉経期の症状、認知障害に引き起こされる鬱(「認知的副作用」)、及び、癌及びその治療に伴って生じる疲労を含む。腫瘍学的症状の治療は疼痛管理及び生物学的療法を行うことであっても良く、鎮痛剤、化学療法、放射線治療、及び外科的手術を含む。一部の特に好ましい実施形態において、腫瘍学的症状の治療は、化学療法若しくは鎮痛剤の投与である。開示された方法のさらなる実施形態において、前記鎮痛剤は、1若しくはそれ以上のオピオイド鎮痛剤、神経阻害剤、若しくは他の向精神剤である。D−トレオメチルフェニデート、若しくは例えば、D−トレオメチルフェニデート塩酸塩等のD−トレオメチルフェニデート塩の投与に対して反応性のある別の疾患は、後天性免疫不全症候群(Acquired Immunodeficiency Syndrome:AIDS)若しくは、AIDS−関連の症状に罹患した患者が合併する認識衰退の特定のタイプであり、米国特許第6,602,887号(この参照により本願明細書にその全体が完全に組み込まれるものである)に含まれているように、例えば、AIDS関連の認知症(これに限定されない)を含む。
【0022】
D−トレオメチルフェニデート、若しくは例えば、D−トレオメチルフェニデート塩酸塩等のD−トレオメチルフェニデート塩の投与に反応性のある疾患はまた、この参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,528,530号に概説されているように、例えば、ADD及びADHDを含む。
【0023】
D−トレオメチルフェニデート、若しくは例えば、D−トレオメチルフェニデート塩酸塩等のD−トレオメチルフェニデート塩の投与に反応性のある疾患はまた、この参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,486,177号に概説されているように、例えば、血管運動不安定性、神経過敏、興奮、疲労、神経行動学的緩徐化、無感情、精神的抑制、短期間の記憶障害などを有する閉経期に伴って生じるこのような症状を含む。
【0024】
本発明の一方法によると、ボーラス製剤は、l−トレオ異性体及びエリトロメチルフェニデートを実質的に含まないD−トレオメチルフェニデートが投与される。本明細書において使用される「実質的にない」とは、化合物の他の光学異性体をほぼ若しくは完全に排除したある化合物の1つの光学異性体の存在に言及するものである。例えば、本発明の文脈において、D−トレオメチルフェニデートの量が、製剤内におけるメチルフェニデートの全量の、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%である場合、D−トレオメチルフェニデートは、製剤内でメチルフェニデートの他の光学異性体を「実質的に含まない」ものである。前記D−トレオ形態は、当業者に既知の方法により単離することが可能である。
【0025】
本明細書において使用される「慢性の」とは、治療を必要とする患者において神経疾患を治療する目的のために、継続的、規則的、長期的治療的投与に言及し、すなわち、例えば、少なくとも数週間又は数ヶ月〜数年の間、毎日といったように、実質的に中断なく周期的に投与することに言及するものである。
【0026】
本明細書において使用される「ボーラス」は、1回の事象としての薬物投与に言及する。「ボーラス」の用語は、徐放性放出、パルス放出、持続放出等の製剤を排除することが意図されており、単回投与を送達するために使用可能な任意の製剤を含むように意図されている。本発明によるとボーラスは、好ましくは1日に1回、好ましくは朝に、治療を必要とする患者に投与される。本発明のボーラス投与は、当業者に周知の任意の従来の形態において投与される。適切な投与方法は、経口製剤、注入、点滴を含む。メチルフェニデート薬剤のボーラス製剤は、例えば、米国特許第6,602,887号により教示されており、これはこの参照により本願明細書にその全体が組み込まれるものである。
【0027】
本発明の方法はまた、Mehtaらによる米国特許第5,837,284号に記載されているように、パルス製剤によって実行されても良く、前記特許は本出願の譲渡人に譲渡されており、この参照によりその全体が本願明細書に組み込まれるものである。そのような製剤において、第一の投与量の放出は、好ましくは実質的に瞬時に行われ、例えば放出は投与後約30分以内に行われても良い。その後、薬物放出はほとんど若しくは実質的になく、第二の投与量が放出される。そのような放出特性は「パルス」と呼ばれる。
【0028】
前記第一の投与量の放出は、摂取後約30分以内であっても良く、好ましくは摂取後約15分、より好ましくは約5分以内である。前記第二の放出、若しくは遅延放出は、特定の製剤における薬物の約10%以下が放出される期間を含むものであっても良く、その後、約70%以上、好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上の薬物が、約0.5時間〜約2.5時間、好ましくは約1.5時間、より好ましくは約1時間の間放出される。必要に応じて、一部の実施形態においては第三の放出が続き、適切な製剤が使用される。従って、3回若しくはそれ以上の投与が提供される製剤が、本方法において使用される。
【0029】
パルス形態において送達される投与量は、様々な方法において変化しても良い。例えば、前記第一の投与量によって、患者に処方された薬物の1日摂取量の約30パーセント〜約70パーセントが提供され、前記第2の投与量によって、約70パーセント〜約30パーセントが提供される。この2つがほぼ等しい投与量であることが好ましい場合、最初の投与量において、好ましくは約40パーセント〜約60パーセントが提供され、第二の投与量によって、好ましくは、患者に処方された薬物の1日摂取量の約60パーセント〜約40パーセントが提供される。必要に応じて、前記第一の投与量及び第二の投与量はそれぞれ、患者に処方された薬物の1日摂取量の約50パーセントが提供されても良い。しかしながら、当業者には明らかであるように、体内における薬物代謝の効果は、各投与の相対量を調節することが必要とされる場合があり、これにより、例えば、第一の投与量よりも多くの薬物が提供されるように第二の投与量が調節され、薬物放出と薬物代謝との間のあらゆる競合を補填しなければならない場合がある。
【0030】
遅延製剤は、当業者に周知の方法を使用して達成されても良い。そのような製剤は部分的に「メタクリル酸アンモニオコポリマー」と称される特定のコポリマーの使用により提供されるものである。メタクリル酸アンモニオコポリマーは、第4級アンモニウム基と共にアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステル基を含む。コポリマーは、薬物を含む粒子を被膜するために使用される製剤の中に組み込まれるものである。
【0031】
本発明の方法において使用されるコポリマーにおけるアクリル酸エステル及び/若しくはメタクリル酸エステル基は、「アクリル酸基」と称される。前記アクリル酸基は、好ましくは、アクリル酸のC〜Cアルキルエステル及びメタクリル酸のC〜Cアルキルエステルから選択されるモノマーに由来するものである。アクリル酸及びメタクリル酸のC〜Cアルキルエステルが好ましい。適切なモノマーは、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルを含む。アクリル酸エチル及びメタクリル酸メチルが好ましく、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチルを含むコポリマーが非常に好ましい。また好ましくは、前記コポリマーは、約150,000の分子量を有する。
【0032】
ボーラスを利用する実施形態において、本明細書で記載される化合物は、例えば、溶液、懸濁液、錠剤、カプセル、軟膏、エリキシル剤、注入可能な組成物等の薬学的に許容可能な担体中において摂取されても良い。薬学的調製物は、全体的に、活性成分の約1重量%〜約90重量%を含む可能性がある。単一製剤、「製剤単位」における調製物は、好ましくは約20%〜約90%の活性成分を含む。本明細書に使用される「活性成分」の用語は、本明細書で記載される化合物、それらの塩、及び他の薬学的活性化合物と本明細書に記載される化合物との混合物に言及する。例えば、錠剤、若しくはカプセル等の投与単位形態は、一般的に約0.001g〜約1.0gの活性成分を含む。薬学的調製物は、経口、非経口、若しくは、局所的に投与されても良い。
【0033】
本明細書において記載される化合物を含む薬学的調製物は、例えば、従来の混合、顆粒化、溶解、凍結乾燥など、当業者に周知の方法によって調製される。経口製剤は、カプセル、ピル、錠剤、トローチ、トローチ剤、溶解物、パウダー、溶液、懸濁液、エマルジョンを含む。経口製剤は、錠剤、カプセル等の形態であっても良く、球状、キューブ状、卵型、豆型、楕円型等、経口投与に適切な任意の形であっても良い。経口製剤に関して、例えば、前記化合物は、1若しくはそれ以上の固体の薬学的に許容可能な担体と混合され手も良く、選択的に得られる混合物は顆粒化される。例えば、流量調節剤及び潤滑剤等の1若しくはそれ以上の薬学的に許容可能なアジュバントが選択的に含まれていても良い。適切な担体は、例えば、糖、セルロース調製物、及びリン酸カルシウム等の充填剤、メチルセルロース及びヒドロキシメチルセルロース等の結合剤、並びにトウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、米デンプン、小麦デンプン等のデンプンを含む。前記製剤は、不規則な形の顆粒形態であっても良い。前記製剤は、粒子を含むカプセルを含む可能性がある。経口投与可能な薬学的調製物の例は、ゼラチンから成る乾燥充填されたカプセル、及び、ゼラチン、並びにグリセロール若しくはソルビトール等の可塑剤から成る密封軟カプセルである。前記乾燥充填カプセルは、例えば、充填剤、結合剤、滑走剤、及び安定剤の混合中において、顆粒形態の活性成分を含む。軟カプセルにおいて、前記活性剤は好ましくは、選択的に安定剤の存在下、例えば、脂肪酸、パラフィン油、若しくは液体ポリエチレングリコール等の適切な液体アジュバント中に溶解若しくは懸濁化される。他の経口投与可能な形態は、例えば、約0.01%〜20%の濃度で、或いは、例えば約2〜約5ミリリットルの量等で投与の際に適切な単一投与量を提供する同様の濃度で懸濁化された形態の活性成分を含むシロップを含む。経口的液体製剤の使用に適切な賦形剤は、水、及び例えば、エタノール、ベンジルアルコール、及びポリエチレンアルコール等のアルコールなどの希釈剤を含み、薬学的に許容可能な界面活性剤、懸濁剤、又は乳化剤の添加剤を含むか或いは含まない。また、ミルクなどの液体との混合に対しては、粉末若しくは液体濃縮物が適切である。そのような濃縮物はまた、単一投与量として包装されていても良い。
【0034】
本明細書において記載される化合物は、その化合物が許容可能な担体と共に生理学的に許容可能な希釈剤中で注入可能な投与量である場合、皮下、静脈内、筋肉内、若しくは腹膜内の非経口的に投与される。非経口投与の溶液は輸液形態であっても良い。薬学的担体は、例えば水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、及び関連糖溶液等の混合物、エタノール等のアルコール、プロピレングリコール若しくはポリエチレングリコール等のグリコール、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール等のグリセロールケタール、ポリ(エチレングリコール)400等のエーテル、油、脂肪酸、脂肪酸エステル、若しくはグリセリド等の滅菌液体又は液体の混合液であってもよく、例えば石鹸又は洗剤などの薬学的に許容可能な界面活性剤、ペクチン、カルボマー、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロース等の懸濁化剤、乳化剤、又は他の薬学的に許容可能なアジュバント等を添加しても添加しなくても良い。非経口製剤で使用される油の例は、例えば落花生油、大豆油、ごま油、綿実油、コーン油、オリーブ油、ワセリン油、鉱物油等の油、動物油、植物油、若しくは合成油を含む。適切な脂肪酸は、例えば、オレイン酸、ステアリン酸、及びイソステアリン酸を含む。適切な脂肪酸エステルは、オレイン酸エチル及びミリスチン酸イソプロピルを含む。適切な石鹸は、脂肪酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、及びトリエタノールアミン塩を含む。適切な洗剤は、ジメチルジアルキル塩化アンモニウム及びアルキル塩化ピリジニウム等のカチオン性洗剤、アルキル、アリール、及びオレフィンのスルホン酸塩、モノグリセリド硫酸塩、及びスルホサクシネート等のアニオン性洗剤、脂肪族アミンオキシド、脂肪酸アルカノールアミド、及びポリオキシエチレンプロピレンコポリマー等の非イオン性洗剤、アルキル−アミノプロピオン酸塩、及び2−アルキルイミダゾリン第4級アンモニウム塩等の両性洗剤、及び洗剤混合物を含む。非経口調製物は、一般に、溶液中の活性成分の少なくとも約0.01重量%を含む。保存料及び緩衝剤はまた、有利になるように使用することも可能である。注入懸濁液は、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、若しくはデキストラン等の粘性増強物質を含み、更に安定剤も含む。注入部位の刺激を最小限にするために、注入可能組成物は、約12〜約17の親水性−親油性バランス(hydrophile−lipophile balance:HLB)を有する非イオン性界面活性剤を含む。そのような製剤中の界面活性剤の量は、約5重量%〜約15重量%である。前記界面活性剤は、上記のHLBを有する単一の成分、又は所望のHLBを有する2若しくはそれ以上の成分である。有用な界面活性剤の特定例は、例えば、モノオレイン酸ソルビタン等のポリエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含む。
【0035】
特定の患者を治療するための投与量において使用されるD−トレオメチルフェニデートの好ましい量は、当業者であれば容易に決定することが可能である。適切な投与量の決定要因は、例えば、患者の体重及び年齢、治療疾患の種類及び程度、及び他の疾患を含む患者の他の症状、及びもしあれば患者が服用している他の薬物を含む。全体的に、D−トレオメチルフェニデートの投与量は、患者の体重あたり約0.01mg/kg〜1mg/kgである。適切な量は当業者であれば決定することが可能である。例えば、比較的小さな子供若しくは成人は、約0.1mg/kg〜約0.4若しくは0.5mg/kgの投与量が必要とされるが、比較的小さな子供は、一般に約0.03〜約0.3mg/kgの投与量が必要とされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
D−トレオメチルフェニデート又はその塩の投与に反応する疾病若しくは疾患を治療する方法であって、
前記疾病若しくは疾患に罹患した患者、及びトゥレットシンドローム又はチック症に罹患した患者、又はトゥレットシンドローム又はチック症の家族歴がある患者を特定する工程と、
治療的有効量のD−トレオメチルフェニデート又はその塩を含む製剤を前記患者に投与する工程であって、前記D−トレオメチルフェニデートは、l−トレオ異性体及びその塩と、エリトロメチルフェニデート及びその塩との両方を実質的に含まないものである、前記投与する工程と
を有する方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記治療的有効量は、ボーラス投与量である。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、前記製剤は、経口投与に適したものである。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、前記投与は、皮下、静脈内、筋肉内、若しくは腹膜内投与である。
【請求項5】
請求項1記載の方法において、前記投与は、アルコール、グリコール、グリセロールケタール、及びエーテルの滅菌液体若しくは液体混合物から成る群から選択される薬学的担体を介するものである。
【請求項6】
請求項5記載の方法において、前記滅菌液体若しくは液体混合物は、水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、若しくは関連糖溶液である。
【請求項7】
請求項5記載の方法において、前記アルコールは、エタノールである。
【請求項8】
請求項5記載の方法において、前記グリコールは、プロピレングリコール若しくはポリエチレングリコールである。
【請求項9】
請求項5記載の方法において、前記グリセロールケタールは、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールである。
【請求項10】
請求項5記載の方法において、前記エーテルは、ポリ(エチレングリコール)400、油、脂肪酸、脂肪酸エステル、若しくはグリセリドである。
【請求項11】
請求項10記載の方法において、この方法は、さらに、
薬学的に許容可能な界面活性剤、懸濁剤、乳化剤、若しくはその他の薬学的に許容可能なアジュバントの少なくとも1つを有するものである。
【請求項12】
請求項11記載の方法において、前記界面活性剤は、石鹸、洗剤、若しくは洗剤の混合物である。
【請求項13】
請求項11記載の方法において、前記懸濁剤は、ペクチン、カルボマー、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロースである。
【請求項14】
請求項10記載の方法において、前記油は、石油、動物性油、植物性油、若しくは合成油から成る群から選択されるものである。
【請求項15】
請求項14記載の方法において、前記油は、ピーナツ油、大豆油、ごま油、綿実油、コーン油、オリーブ油、ワセリン、若しくは鉱物油である。
【請求項16】
請求項10記載の方法において、前記脂肪酸は、オレイン酸、ステアリン酸、及びイソステアリン酸から成る群から選択されるものである。
【請求項17】
請求項10記載の方法において、前記脂肪酸エステルは、オレイン酸エチル及びミリスチン酸イソプロピルから成る群から選択されるものである。
【請求項18】
請求項12記載の方法において、前記石鹸は、脂肪酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、及びトリエタノールアミン塩である。
【請求項19】
請求項12記載の方法において、前記洗剤は、カチオン性洗剤、アニオン性洗剤、非イオン性洗剤、及び両性洗剤から成る群から選択されるものである。
【請求項20】
請求項19記載の方法において、前記洗剤は、ジメチルジアルキル塩化アンモニウム、アルキル塩化ピリジニウム、アルキル、アリール、オレフィンのスルホン酸塩、硫酸モノグリセリド、サルファサクシネート、脂肪族アミンオキシド、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンプロピレンコポリマー、アルキル−アミノプロピオネート、若しくは2−アルキルイミダゾリン第4級アンモニウム塩である。
【請求項21】
請求項1記載の方法において、前記治療的有効量は、D−トレオメチルフェニデート若しくはその塩の0.01重量%である。
【請求項22】
請求項1記載の方法において、この方法は、さらに、
カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、デキストラン、及び安定剤から成る群から選択される粘性増強物質を投与する工程を有するものである。
【請求項23】
請求項11記載の方法において、前記界面活性剤は、製剤の約5重量%〜約15重量%である。
【請求項24】
請求項11記載の方法において、前記界面活性剤は、ポリエテンソルビタン脂肪酸エステルから成る群から選択されるものである。
【請求項25】
請求項24記載の方法において、前記界面活性剤は、モノオレイン酸ソルビタンである。
【請求項26】
請求項1記載の方法において、前記疾患は、注意欠陥多動性障害、閉経期に関連した症状、又は認知機能の低下、疲労、及び鎮痛剤の投与に無関係であるが、潜伏する癌、その癌の治療、若しくはその両者に関連した神経行動学的緩徐化の1若しくはそれ以上に関連した症状である。
【請求項27】
請求項1記載の方法において、前記疾患は、癌、又は例えば、化学療法、放射線治療、痛み抑制のための薬物投与等の癌の治療に起因する、疲労、神経行動学的緩徐化、及び認知上の副作用であるか、或いは腫瘍状態の投与治療に起因する神経行動学的緩徐化である。
【請求項28】
請求項1記載の方法において、前記投与は、パルス製剤によるものである。
【請求項29】
請求項1記載の方法において、前記製剤は、2回用量の薬物を提供するものである。

【公表番号】特表2008−523097(P2008−523097A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545674(P2007−545674)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2005/044677
【国際公開番号】WO2006/063256
【国際公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(505307367)セルジーン・コーポレーション (5)
【Fターム(参考)】