説明

Dダイマー測定用標準物質

【課題】ヒト血漿との反応性が同等となるようなDダイマー測定用標準物質を提供することを課題とする。
【解決手段】分子量50万以上のフィブリン分解産物の量が、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分析で全ピーク面積の70%以上を占めるフィブリン分解産物を含有するDダイマー測定用標準物質により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床検査の分野、特にDダイマーの測定において用いることができるDダイマー測定用標準物質に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査、特に血液凝固線溶検査の分野において、Dダイマーを測定することが知られている。Dダイマーは血液凝固分子マーカーの1つであり、これを測定することは、凝固・線溶系を亢進する各種血栓症やDIC(播種性血管内凝固症候群)の診断、それらの病態把握や治療効果判定などの指標を得るために重要である。
Dダイマーとは、血液中のフィブリノゲンがトロンビンなどの働きにより凝固して形成されるポリマーである安定化フィブリンがプラスミンのような酵素により分解されて得られるフィブリン分解産物のことであり、DD/E画分およびこれを基本単位とする多量体(XDP)の総称である。DD/E画分の多量体は、DXD/YY画分(DD/E画分の3量体)、YXY/DXXD画分(DD/E画分の5量体)、DXXD/YXXY画分(DD/E画分の7量体)などを含む。
【0003】
臨床検査の分野においては、一般的に、標準物質を用いて検量線を得ることや、精度管理用試剤を用いて、検査の信頼性を高めることが行われている。Dダイマーの検査は、ヒト血漿を検体とするため、用いる標準物質または精度管理用試剤の反応性がヒト血漿と同程度であることが望まれる。また、測定対象である検体中のDダイマーの濃度が検量点の範囲内に収まるのが好ましいことから、検量線を得るための標準物質の濃度は、高濃度のDダイマーを含有する検体も測定可能なように、正常値の上限以上に設定される場合が多い。
【0004】
従来、ヒトから採取した血漿をそのまま標準物質または精度管理用試剤として用いることが知られている。このような標準物質は、反応性が同じである点では好ましいが、Dダイマーの濃度が安定せず、またその濃度が低いことから、所望の検量線を得るには不充分であった。さらに、ヒト由来原料の安定供給についての問題点も有する。
【0005】
血栓症患者の血漿中のDダイマーは、従来、分子量約23万のDD/E画分が主成分であると考えられていたが、近年、実際にはDXD/YY画分、YXY/DXXD画分、DXXD/YXXY画分などのより高分子量の多量体が主成分であることが明らかになってきている(非特許文献1および2参照)。しかしながら、従来のDダイマー画分の精製方法(非特許文献3および4参照)により得られるDダイマー標準物質は、DD/E画分を多く含むものであり、実際の血栓症患者における臨床挙動に適合した、高分子量の多量体を多く含むDダイマー測定用標準物質を得ることが望まれていた。
【非特許文献1】Dempfle CE, Zips S, Ergul H, Heene DL; Fibrin Assay Comparative Trial study group. The Fibrin Assay Comparison Trial (FACT): evaluation of 23 quantitative D-dimer assays as basis for the development of D-dimer calibrators. FACT study group. Thromb Haemost. (2001) 85: 671〜678
【非特許文献2】Francis CW, Marder VJ, Martin SE; Plasmic degradation of crosslinked fibrin. I. Structural analysis of the particulate clot and identification of new macromolecular-soluble complexes. Blood. 1980 Sep;56(3):456〜464
【非特許文献3】Gaffney PJ, Edgell T, Creighton-Kempsford LJ, Wheeler S, Tarelli E; Fibrin degradation product (FnDP) assays: analysis of standardization issues and target antigens in plasma. Br J Haematol. 1995 May;90(1):187〜194
【非特許文献4】Olexa SA, Budzynski AZ; Primary soluble plasmic degradation product of human cross-linked fibrin. Isolation and stoichiometry of the (DD)E complex. Biochemistry. 1979 Mar 20;18(6):991〜995
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、ヒト血漿との反応性が同程度となるように高分子量のDダイマーを多く含有するDダイマー測定用標準物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、分子量50万以上のフィブリン分解産物の量が、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分析で全ピーク面積の70%以上を占めるフィブリン分解産物を含有するDダイマー測定用標準物質である。
【0008】
本明細書において、「フィブリン分解産物」とは、フィブリンに酵素を作用させて得られる分解産物であり、DD画分、DD/E画分(分子量約23万)、DXD/YY画分(DD/E画分の3量体)、YXY/DXXD画分(DD/E画分の5量体)、DXXD/YXXY画分(DD/E画分の7量体)のような多量体を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、血栓症患者の臨床挙動に合致したDダイマー測定用標準物質およびDダイマー測定用精度管理試剤を提供することができ、DICや深部静脈血栓/肺血栓症(DVT/PE)の診断の感度および特異性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のDダイマー測定用標準物質は、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分析において、分子量50万以上のフィブリン分解産物が全ピーク面積の70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上を占めるフィブリン分解産物を含む。
分子量50万以上のフィブリン分解産物としては、例えばDXD/YY画分、YXY/DXXD画分、DXXD/YXXY画分などが挙げられるが、これらに限定されない。また、このようなフィブリン分解産物の分子量の上限は特に限定されないが、通常200万程度である。
【0011】
上記のゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分析の条件は、次のとおりである。
カラム:セファクリルS−300HR(アマシャムファルマシアバイオテク社製)、1.6×70cm
溶出液:0.1M NaCl含有50mM Tris−酢酸緩衝液、pH7.1
流速:0.375mL/分
検出波長:280nm
フラクション容量:1.5mL
ピーク面積算出:Peak Fitソフトウェア
【0012】
本発明のDダイマー測定用標準物質は、フィブリンを分解し得る酵素をフィブリンに作用させる工程(以下、分解工程という)、および得られるフィブリン分解産物をゲルろ過クロマトグラフィーを用いて分画する工程(以下、分画工程という)を含む方法により得ることができる。
【0013】
原料として用いられるフィブリンとしては、市販のものを用いてもよいし、フィブリノゲンから調製してもよい。また、フィブリンのアミノ酸配列から遺伝子工学的手法により調製したものを用いることもできる。フィブリノゲンから調製する方法としては、精製フィブリノゲンを含む溶液にトロンビン、XIII因子およびカルシウム塩を作用させる方法が挙げられる。この方法で得られるフィブリンはゲル状であり、これをそのまま分解工程に用いることができるが、凍結乾燥法などにより水分を除去し、さらに粉砕して粉末の形状にしたものを分解工程に用いることもできる。
【0014】
フィブリンを分解し得る酵素としては、プラスミン、ウロキナーゼおよびエラスターゼが好ましく、これらの2種以上を組み合わせて用いることもできる。
分解工程におけるフィブリンと酵素との混合比は、フィブリン1mg当たり1〜100mUの酵素を混合するのが好ましく、より好ましくは1〜75mU、さらに好ましくは5〜50mU、特に好ましくは10〜20mUである。
分解工程において、フィブリンと酵素とを反応させる時間は、1〜24時間程度が好ましく、より好ましくは4〜10時間程度である。反応温度は用いる酵素の至適温度により適宜選択することができ、プラスミン、ウロキナーゼおよびエラスターゼの場合、約37℃が好ましい。
【0015】
上記の分解工程の最終段階で、分解反応を停止させることが好ましい。分解反応を停止させる方法としては、酵素活性を阻害し得る方法であれば特に限定されず、例えば酵素阻害剤を反応系に添加する方法が挙げられる。好ましい酵素阻害剤としては、アプロチニンが挙げられる。
【0016】
分画工程において、ゲルろ過クロマトグラフィーに用いるゲル粒子としては、タンパク質の分離に通常用いられるものであれば特に限定されないが、排除限界が分子量104〜106であるものが好ましく、セファクリルS−300HR(アマシャムファルマシアバイオテク社製)が特に好ましい。
ゲルろ過クロマトグラフィーで用いられる溶出溶媒は、カラムの種類に応じて適宜選択することができ、上記のセファクリルS−300HRの場合には、pH6〜9程度の緩衝液を用いることができ、例えばTris−酢酸緩衝液が挙げられる。
【0017】
得られる溶出液を一定量のフラクションに分画し、各フラクションの吸光度を280nmの波長で測定し、フラクション中に含まれるタンパク質の分子量を確認して高分子量の画分を分取することにより、所望のフィブリン分解産物を得ることができる。タンパク質の分子量を確認する方法は、従来公知の方法であれば特に限定されず、例えば非変性SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)法、ゲルろ過クロマトグラフィー法などが挙げられる。
得られるフィブリン分解産物中のDダイマーの収率は30%以上であることが好ましく、より好ましくは40%以上、特に好ましくは50%以上である。
【0018】
本発明のDダイマー測定用標準物質は、上記のようにして得られるフィブリン分解産物をそのまま、または適当な希釈液で希釈するか、あるいは濃縮することにより濃度を適宜調節して用いることができる。さらに、上記のようにして得られるフィブリン分解産物を凍結乾燥に付したものに使用時に緩衝液を添加して用いることもできる。
【0019】
本発明のDダイマー測定用標準物質は、緩衝液、タンパク質安定化剤(例えばウシ血清アルブミン(BSA)など)、pH調整剤、防腐剤(例えばアジ化ナトリウム、抗生物質など)などを含み得る。
【0020】
緩衝液としては、pH5〜10、好ましくはpH6〜9に緩衝作用を有するものが好ましく、リン酸緩衝液、イミダゾール緩衝液、トリエタノールアミン−塩酸、グッド緩衝液などが挙げられる。グッド緩衝液としては、MES、Bis−Tris、ADA、PIPES、Bis−Tris−Propane、ACES、MOPS、MOPSO、BES、TES、HEPES、HEPPS、Tricine、Tris、Bicine、TAPSなどの各種緩衝液が挙げられる。特に好ましくは、Trisである。
【0021】
本発明のDダイマー測定用標準物質は、Dダイマー測定において、標準物質または精度管理用試剤のいずれとしても用いることができる。
Dダイマー測定法は、当該分野で通常用いられている方法であれば特に限定されず、ラテックス凝集法、ELISAなどが挙げられる。
【実施例】
【0022】
以下に、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例において、以下の測定方法を用いた。
タンパク質濃度測定
280nmにおける吸光度の測定により100〜700μg/mLになるように生理食塩水で希釈したタンパク質溶液のタンパク質濃度を、吸光度法(係数1.37;はじめての組換え蛋白質の精製ハンドブック、アマシャムファルマシアバイオテク出版)、Lowry法(Bio-Rad社製のキット;Lowry OH, Rosebrough NJ, Farr AL, Randall RJ. Protein measurement with the folin phenol reagent. J Biol Chem (1951) 193: 265〜275)またはBradford法(Bio-Rad社製のキット;DCプロテインアッセイの操作法、日本バイオラッド社版)のいずれかを用いて測定した。標準品としてBSA由来の標準品(Bio-Rad社製)を用いた。
【0023】
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)
5〜10%グラジエントポリアクリルアミドゲル、MINI−PROTEIN II電気泳動装置(Bio-Rad社製)を用い、非還元下で行った。タンパク質染色はクーマシーブリリアントブルー(CBB)キット(Bio-Rad社製)を用いて行った。高分子量のタンパク質と低分子量のタンパク質の割合は、PhotoCaptMW (Ver 99.03) ソフトウェアによる画像解析で算出した。
【0024】
実施例1
(1)フィブリンの調製
出発原料であるヒトフィブリノゲンからフィブリン塊を次の手順で調製した。精製フィブリノゲン原料(Enzyme Research Laboratories社製)を5 mg/mLとなるように50 mM TBS(Tris 50 mM、NaCl 0.15 mM、pH7.4)に溶解し、塩化カルシウム(最終濃度25 mM、キシダ化学社製)、XIII因子(最終濃度10μg/ml、フィブロガミン製剤)を加えた後、ヒトトロンビン(最終濃度2 U/ml、三菱ウェルファーマ社製)を添加した。この混合物を37℃で18時間インキュベートして、ゲル状のフィブリンを得た。得られたゲルを50 mM TBS(pH7.4)で1時間洗浄し、水分を除去した後、ガラス製ナス型フラスコに入れ、PE2049型凍結乾燥装置(日本真空技術社製)を用いて凍結乾燥して粉砕し、フィブリン粉末を得た。
【0025】
(2)分解工程
得られたフィブリン粉末700 mgを50 mL容量のポリプロピレン容器に入れ、フィブリンの濃度が20 mg/mL となるように50 mM TBS(pH7.4)35 mLを添加して溶解した。この溶液にプラスミン(P4895、シグマ社製)を添加し(最終濃度10 mU/mL)、37℃で6時間攪拌した。最終濃度として1000 U/mlとなるようにアプロチニン(バイエル社製)を加えた後、10,000×gで15分間、9℃にて遠心分離し、上清(粗Dダイマー画分)を得た。
【0026】
(3)分画工程
上記の分解工程で得られた粗Dダイマー画分を、カラムの3倍容量のTris-酢酸(pH7.1)緩衝液(流速0.375 mL/分)で平衡化したセファクリルS-300HRカラム(1.6×70 cm:120 mL;アマシャムファルマシアバイオテク社製)に、タンパク質の量が80 mgとなるようにロードした。アプロチニン100 KIU/mLおよび0.1M NaClを含有する50 mM Tris-酢酸(pH7.1)緩衝液を溶出液として、流速0.375 mL/分で溶出した。なお、ボイドマーカーとしてブルーデキストラン(アマシャムファルマシアバイオテク社製)を用いた。1.5 mLずつ分画し、得られたフラクションについて280 nmの波長で吸光度を測定した。得られた結果を図1に示す。
【0027】
予め分子量が既知のタンパク質を用いて分子量とフラクションの関係を調べたところ、フラクション番号30、40、50および60に、それぞれ分子量約100万、分子量約50万、分子量約20万および分子量約10万のタンパク質が溶出した。
なお、上記の(1)〜(3)と同様の手順を3回繰り返したが、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー後に得られるチャートは全て同様の挙動を示し(図1)、上記の手順の再現性が確認された。
【0028】
ブルーデキストランの溶出後、280 nmの吸光度の最初のピークから3本目のフラクションまで(図1のフラクション27〜39)を回収してDダイマー測定用標準物質を得た。得られたDダイマー測定用標準物質のタンパク質の量を測定したところ、42.4 mgであり、収率は53%であった。
また、このDダイマー測定用標準物質を分画工程と同じ条件でゲルろ過クロマトグラフィーにかけた。得られたフラクションについて280 nmの波長で吸光度を測定した結果を図2に示す。
予め分子量が既知のタンパク質を用いて分子量とフラクションの関係を調べたところ、フラクション番号30、40、50および60に、それぞれ分子量約100万、分子量約50万、分子量約20万および分子量約10万のタンパク質が溶出した。よって、フラクション番号40までのピーク面積をPeak Fitソフトウェアを用いて算出したところ、全ピーク面積の83%であった。
【0029】
試験例1
実施例1で得られたDダイマー測定用標準物質を、3% (w/v) BSAを含むリン酸緩衝液(pH 7.5)で1/1、1/2、1/4、1/8、1/16、1/32のように段階希釈して、以下のラテックス凝集法を用いてDダイマー量を測定した。同様に、30μg/mL程度の濃度のDIC患者の血漿(3検体)を段階希釈して、以下のラテックス凝集法を用いてDダイマー量を測定した。
【0030】
ラテックス凝集法によるDダイマー量の測定方法
まず、Dダイマーを認識するモノクローナル抗体を感作したラテックス粒子を作製した。10% (w/v)ポリスチレンラテックス懸濁液(積水化学社製、粒径0.245μm)0.5 mLを、受託番号FERM P-19867として、独立行政法人産業技術総合研究所に寄託したハイブリドーマ細胞が産生し、Dダイマーを認識するモノクローナル抗体であるDD-M1653抗体を含むリン酸緩衝液(pH 7.5) 2.0 mL (抗体濃度0.625 mg/mL)に添加してボルテックスミキサーで混合した。この混合液を遠心分離し(25,000×g、20分間)、1% (w/v) BSAを含むMOPSO緩衝液(pH 7.1) 2.5 mLに懸濁した。この懸濁液を遠心分離し(25,000×g、20分間)、2% (w/v) BSAを含むMOPSO緩衝液(pH 7.1) 40 mLに懸濁して、DD-M1653抗体が固定化されたラテックス粒子を含む試薬を得た。
【0031】
本発明のDダイマー測定用標準物質を3% (w/v) BSAを含むリン酸緩衝液(pH 7.5)で希釈した溶液、および陰性コントロールとしての3% (w/v) BSAを含むリン酸緩衝液(pH 7.5) 各14μLを、ポリエチレングリコールを含むMOPSO緩衝液(pH 7.1) 84μLと混合して37℃で5分間反応させた。これに、上記のモノクローナル抗体結合ラテックス粒子を含む試薬84μLを添加して、800 nmの波長で1分間当たりの吸光度変化量を測定した。
【0032】
結果を図3に示す。
図3で用いた試料とそれらの希釈前の濃度は次のとおりである:DIC患者からの検体:DIC患者A:濃度33 μg/ml;DIC患者B:濃度28 μg/ml;DIC患者C:濃度31μg/ml;本発明のDダイマー測定用標準物質:DD標準物質A:濃度32μg/ml;DD標準物質B:濃度31μg/ml;DD標準物質C:濃度32μg/ml。
【0033】
図3の結果から、本発明のDダイマー測定用標準物質は、ラテックス凝集法によるDダイマー量の測定に用いることができ、また、希釈比率に応じた検量線を得ることができることがわかった。さらに、DIC患者の血漿から得られた結果と同じ検量線の挙動を示すことがわかった。
なお、実施例1の手順を3回繰り返して得られた3つの異なるロットのDダイマー測定用標準物質(DD標準物質A、BおよびC)のそれぞれについて、ラテックス凝集法で同様の結果が得られた(図3)。
【0034】
試験例2
本発明のDダイマー測定用標準物質と、血栓症患者の血漿中のDダイマー画分の電気泳動パターンの比較
実施例1で得られたDダイマー測定用標準物質、および血栓症と診断された患者の血漿をクロットセパレータ(シスメックス社製)で血清化した試料を用い、これらを1% (w/v) SDS溶液で4倍に希釈し、0.1% (w/v) SDSを含む7.5% ポリアクリルアミドゲル上で60ボルトの定電圧で2.5時間展開させた。緩衝液には0.02% (w/v) SDS を含む 25 mM Tris-192 mM グリシン緩衝液(pH 7.5)を用いた。
【0035】
このゲルに、PVDF (ポリビニリデンフルオライド)メンブレン(アマシャムファルマシアバイオテク社製)を密着させ、1 mA/cm2の電流を3時間流してメンブレンにタンパク質をトランスファーした。その後、メンブレンをブロッキング液(5%スキムミルク、1% (w/v) BSA、0.1% (w/v)アジ化ナトリウムを含むPBS(137 mM NaCl、2.7 mM KCl、1.5 mM KH2PO4、8.1 mM Na2HPO4))に浸して30分間振とうした。ブロッキング液を捨て、0.05% (w/v) Tween 20を含むPBS(洗浄液)を用いて5分間、3回洗浄した。メンブレンを、1次抗体としてウサギ抗フィブリノゲンポリクローナル抗体(ダコサイトメトリー社製)100 μg/mLおよび0.05% (w/v) Tween 20を含むPBSに浸して60分間振とうした。洗浄液で5分間、3回洗浄後、メンブレンを、2次抗体としてHRP (ホースラディッシュペルオキシダーゼ)標識ヤギ抗ウサギ抗体(ダコサイトメトリー社製)100 μg/mLおよび0.05% (w/v) Tween 20を含むPBSに浸して60分間振とうした。メンブレンを洗浄液で5分間、3回洗浄後、4−クロロ−1−ナフトールと過酸化水素を用いるHRP標識キット(Bio-Rad社製)を用いてタンパク質のバンドを視覚化した。
【0036】
結果を図4に示す。
図4に示す検体は次のとおりである;レーン1:分子量マーカー;レーン2:本発明のDダイマー測定用標準物質;レーン3:フィブリン分解産物のうち、X画分、Y画分、D画分、E画分およびDD画分(森永生化学研究所社製);レーン5〜22:血栓症患者からの検体。
【0037】
図4の結果から、本発明のDダイマー測定用標準物質は、血栓症患者の検体により近似したDダイマーの分布を示すことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によりDダイマー標準化に即した物質を提供することができ、Dダイマー測定の臨床検査の精度管理や測定間格差の是正に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、本発明のDダイマー測定用標準物質を得るための分画工程におけるゲルろ過クロマトグラフィーの280 nmの波長でのチャートを示す。
【図2】図2は、本発明のDダイマー測定用標準物質のゲルろ過クロマトグラフィーにおける280 nmの波長でのチャートを示す。
【図3】図3は、本発明のDダイマー測定用標準物質およびDIC患者からの血漿を用いて、ラテックス凝集法によりDダイマー量を測定したときの結果を示す。
【図4】図4は、本発明のDダイマー測定用標準物質と血栓症患者からの血漿のウェスタンブロッティングの結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量50万以上のフィブリン分解産物の量が、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分析で全ピーク面積の70%以上を占めるフィブリン分解産物を含有することを特徴とするDダイマー測定用標準物質。
【請求項2】
分子量50万以上のフィブリン分解産物の量が、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分析で全ピーク面積の75%以上を占める、請求項1に記載のDダイマー測定用標準物質。
【請求項3】
分子量50万以上のフィブリン分解産物の量が、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分析で全ピーク面積の80%以上を占める、請求項2に記載のDダイマー測定用標準物質。
【請求項4】
フィブリン分解産物が、フィブリンにプラスミン、ウロキナーゼまたはエラスターゼを作用させて得られるものである、請求項1〜3のいずれか1つに記載のDダイマー測定用標準物質。
【請求項5】
Dダイマー測定精度管理用試剤である、請求項1〜4のいずれか1つに記載のDダイマー測定用標準物質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−234675(P2006−234675A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−51524(P2005−51524)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】