説明

DAST結晶の製造方法及び種結晶の植付け方法

【課題】 種結晶成長方法による形状の良いDAST結晶の製造方法及び種結晶の植付け方法を提供する。
【解決手段】 DAST(4−ジメチルアミノ−N−メチル−4−スチルバゾリウムトシレート)を溶解した溶液中で土台に植付けたDASTの種結晶を育成してDAST結晶を得るDAST結晶の製造方法において、前記種結晶を、そのa軸[100]方向及びb軸[010]方向を含む面にほぼ一致する表面が土台の上面に対して略直交すると共に、当該表面の2辺が前記土台の上面に対して略平行となり且つ成長方向が前記土台の上面に対して上向きになるように植付けてDAST結晶を成長させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種結晶成長方法により形状の良いDAST結晶を製造する方法及び種結晶の植付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DAST(4−ジメチルアミノ−N−メチル−4−スチルバゾリウムトシレート)からなる結晶は、高い非線形光学効果を持ち、且つ広帯域テラヘルツ(THz)波発生特性が確認されているため、THz分光装置や、被ばくの恐れがない安全な非破壊検査用光源、例えば、セキュリティ(空港の荷物検査)などの非破壊検査用光源への応用が期待されている。このようなDAST結晶を製造する方法として、種結晶を土台に植付けてDASTを溶解した溶液中で育成する種結晶成長方法や、DASTを溶解した溶液中で自然核を発生させ育成する自然核成長方法等の、溶液成長法がある(特許文献1〜3)。
【0003】
自然核成長方法によりDAST結晶を製造すると、形状の良いDAST結晶を得ることができるが、発生する自然核の個数や発生時期等を制御することは困難であり、得られるDAST種結晶を定量的に得ることはできなかった。一方、種結晶成長方法では、結晶の部位によって厚さにバラツキが生じてしまい、平面性の良いDAST結晶は得られ難かった。
【0004】
【特許文献1】特開2002−29899号公報
【特許文献2】特開2004−83345号公報
【特許文献3】特許第3007972号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情に鑑み、種結晶成長方法による形状の良いDAST結晶の製造方法及び種結晶の植付け方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、DAST(4−ジメチルアミノ−N−メチル−4−スチルバゾリウムトシレート)を溶解した溶液中で土台に植付けたDASTの種結晶を育成してDAST結晶を得るDAST結晶の製造方法において、前記種結晶を、そのa軸[100]方向及びb軸[010]方向を含む面にほぼ一致する表面が土台の上面に対して略直交すると共に、当該表面の2辺が前記土台の上面に対して略平行となり且つ成長方向が前記土台の上面に対して上向きになるように植付けてDAST結晶を成長させることを特徴とするDAST結晶の製造方法にある。
【0007】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記種結晶を前記土台の端部近傍に成長方向が端部から外向きになるように植付けることを特徴とするDAST結晶の製造方法にある。
【0008】
本発明の第3の態様は、DASTを溶解した溶液中で土台に植付けたDASTの種結晶を育成してDAST結晶を得る際に、前記種結晶を、そのa軸[100]方向及びb軸[010]方向を含む面にほぼ一致する表面が土台の上面に対して略直交すると共に、当該表面の2辺が前記土台の上面に対して略平行となり且つ成長方向が前記土台の上面に対して上向きになるように植付けることを特徴とする種結晶の植付け方法にある。
【発明の効果】
【0009】
DAST結晶は研磨・カット等の結晶形成後の後加工が困難であったが、本発明によれば、DAST結晶を製造する際にa軸[100]方向及びb軸[010]方向を含む面にほぼ一致する表面が土台の上面に対して略直交すると共に、当該表面の2辺が土台の上面に対して略平行となり且つ成長方向が土台の上面に対して上向きになるように種結晶を植付けることにより、種結晶成長方法で結晶を育成した時点で形状の良いDAST結晶が得られる。また、種結晶成長方法により結晶を製造しているため、自然核成長法ではできなかった結晶の個数等製造の制御がし易くなる。このように形状が良いDAST単結晶は、例えばTHz発生素子として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の製造方法は、種結晶成長方法にてDAST結晶を製造する際に、土台に対して特定の方向になるように種結晶を植付けるものである。種結晶の植付け方以外は、通常の種結晶成長方法と同様の方法でDAST結晶を製造する。
【0011】
成長を阻害するような方向で種結晶を植え付けると、得られるDAST結晶がc軸[001]方向に厚くなったり、透明でなくなったりするが、本発明にしたがって特定の方向になるように種結晶を植え付けることにより、ほぼ種結晶と同じ形状で大きさが大きいDAST結晶が得られる。また、成長が阻害されないため、本発明の製造方法で得られる結晶の大きさは、同じ育成期間であれば従来のものより大きくすることができる。
【0012】
本発明の製造方法では、種結晶を、そのa軸[100]方向及びb軸[010]方向を含む面にほぼ一致する表面が土台の上面に対して略直交すると共に、当該表面の2辺が土台の上面に対して略平行となり且つ成長方向が土台の上面に対して上向きになるように植付ける。
【0013】
種結晶は、通常種結晶成長方法に用いるDAST結晶であれば特に限定されないが、例えば、自然核育成方法により形成することができる。具体的には、例えば、メタノールやエタノール等DASTの溶解性が高い溶媒に、DAST粉末を溶解させ、この溶液を40〜44℃程度まで冷却してDASTが過飽和になるようにし、冷却又は等温保持してDAST結晶を析出させる、すなわちDAST結晶の核を発生させる。この際、DAST溶液にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製等の基板を入れ、基板上に核を発生させてもよい。この核そのもの、または、核をDAST溶液中で4〜28日間程度育成させたものを種結晶とすることができる。
【0014】
種結晶の一例を図1に示す。図1に示すように、DAST種結晶のa軸[100]方向及びb軸[010]方向を含む2つの面は、通常ほぼ平行四辺形だが、長方形や正方形でもよい。また、種結晶のc軸[001]方向の長さ、すなわち、種結晶の厚さは、均一であることが好ましい。なお、a軸[100]方向、b軸[010]方向及びc軸[001]方向は、各結晶に固有のものであり、X線回折を測定することにより各方向が分かる。ここで、種結晶はa軸[100]方向、b軸[010]方向及びc軸[001]方向の各方向に成長するが、a軸[100]方向の成長が早い。この成長が早いa軸[100]方向を、結晶の成長方向という。
【0015】
この種結晶の成長方向が土台の上面に対して上向きになるようにして、種結晶を土台に植付ける。種結晶の成長方向が土台の上面に対して上向きになるように植付けた状態を例示すると、図2(a)や図2(b)等になる。このように土台の上面に対して成長方向が上を向くように植付けると、図4(a)に示すように、種結晶の相似形の結晶を得ることができる。一方、図2(c)に示すように、土台の上面に対して成長方向が下向きになるように種結晶を植付けた場合は、図4(b)に示すように、成長が土台によって阻害されるため、土台に回り込んだ状態になるなど、形状のよいDAST結晶を得ることはできず、また、大きな結晶は得られない。
【0016】
また、a軸[100]方向及びb軸[010]方向を含む面にほぼ一致する表面の2辺が、土台の上面に対して略平行になるように、種結晶を植付ける。表面の2辺が土台の上面に対して略平行となる状態とは、例えば図3(a)に示すような状態である。なお、図3(a)では表面の2辺が完全に土台の上面に対して平行になっている状態を示したが、ほぼ平行であればかまわない。一方、図3(b)のように当該2辺が土台と平行ではない場合は、得られるDAST結晶11は図4(c)のようになり、種結晶の相似形のDAST結晶を得ることはできない。
【0017】
さらに、a軸[100]方向及びb軸[010]方向を含む面にほぼ一致する表面が土台の上面に対して略直交するように種結晶を植付ける必要がある。種結晶とほぼ相似形であるDAST結晶を得るためである。なお、完全に土台の上面に対し完全に直交していなくてもよく、ほぼ直行していればかまわない。
【0018】
種結晶の成長をできるだけ阻害しないようにするためには、種結晶を土台の端部近傍に成長方向が端部から外向きになるように植付けることが好ましい。すなわち、図2(b)に示すように、種結晶を土台の端部近傍に成長方向が端部から内向きになるように植付けるよりも、図2(a)に示すように、種結晶を土台の端部近傍に成長方向が端部から外向きになるように植付けるほうが好ましい。
【0019】
種結晶を植付ける土台の材質も特に限定されず通常の種結晶育成方法で用いられる土台を適用することができ、例えば、ポリエチレン樹脂等を土台として用いることができる。
【0020】
以上説明したように特定の方向にDASTの種結晶を植付けた土台を、DASTを溶解した溶液中で育成する。育成溶液の溶媒は特に限定されないが、通常DAST結晶の育成に用いられるDASTの溶解性が高い溶媒、例えば、メタノール、エタノール等や、それらの混合溶媒を用いることができる。
【0021】
育成条件も特に限定されないが、例えば、作製した育成溶液の温度を下げてから、種結晶を植付けた土台を容器に入れ、さらに徐冷した後、低温のまま保持して結晶を育成する。
【0022】
育成した結晶を土台からはずす方法も特に限定されず、例えば、手で折ることもできる。また、ヘキサン等の溶媒で土台を膨潤させることにより、DAST結晶を種結晶ごと土台からはずすこともできる。なお、土台からはずす操作の前後で、必要に応じて、メタノール、イソプロパノール又はヘキサン等でDAST結晶を洗浄してもよい。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0024】
(種結晶の作製)
パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)製の100mL広口瓶に、DAST(1.02g)、および、メタノール:エタノール=1:1の混合溶媒(70mL)を加え、55℃で一晩撹拌し、DASTを溶解した。その後、溶液を43.0℃で保持することによりDAST結晶を析出させた。結晶の析出を確認した後、43.7℃で約2週間放置して、1mm×1mm程度で85°及び95°の角度を有する平行四辺形を成し、厚さが0.1mmであるDASTの種結晶を作製した。
【0025】
(結晶育成溶液の作製)
PFA製の容器(100ml)にホールピペットで測りとったメタノール70mlを入れ重量を測定した後、9g/Lとなるように測りとったDASTを添加した。この容器に攪拌子を入れた後、グリース及びシールテープにより容器を密閉させた。55℃で10時間攪拌を行うことにより、DASTをメタノールに溶解し、結晶の育成溶液を作製した。
【0026】
(実施例1)
ポリエチレン樹脂を土台として、作製した種結晶を、a軸[100]方向及びb軸[010]方向を含む面に一致する表面が土台の上面に対して直交すると共に、当該表面の2辺が土台の上面に対して平行となり且つ成長方向([100]方向)が土台の上面に対して上向きになるようにして、土台の端部の近傍に植付けた。図5に植付け状態を観察した写真を示す。また、模式図も併せて示す。
【0027】
作製した育成溶液を25℃に温度を下げてから、種結晶を植付けたポリエチレン樹脂を容器に入れ、10℃まで徐冷した後、10℃の低温水槽に静置させ28日間結晶育成を行った。育成後、育成容器から育成溶液を取り出し、その直後容器にイソプロパノールを入れ結晶を洗浄した。洗浄後イソプロパノールを取り出し、容器にヘキサンを入れ結晶を洗浄した。ヘキサン洗浄で土台が膨潤した際に、結晶を種結晶ごと土台からはずし、実施例1のDAST単結晶を得た。得られた結晶の写真及び模式図並びに結晶の成長速度を図5に併せて示す。
【0028】
(比較例1)
図6に示すように、作製した種結晶を、a軸[100]方向及びb軸[010]方向を含む面に一致する表面が土台の上面に対して直交すると共に、当該表面の2辺が土台の上面に対して平行となり且つ成長方向([100]方向)が土台の上面に対して下向きになるように、すなわち、[−100]方向を土台の上面に対して上に向け、土台の端部近傍に植付けた以外は、実施例1と同様にして、比較例1のDAST単結晶を作製した。結晶の写真及び結晶の成長速度を図6に示す。また、模式図も併せて示す。
【0029】
(比較例2)
図7(a)及び(b)に示すように、種結晶を、a軸[100]方向及びb軸[010]方向を含む面に一致する表面が土台の上面に対して直交すると共に、当該表面の2辺が土台の上面に対して平行ではなく且つ成長方向([100]方向)が土台の上面に対して上向きになるようにして、土台の端近傍に植付けた以外は、実施例1と同様にして、比較例2のDAST単結晶を作製した。なお、同様の操作を2度行い、それぞれ比較例2の結晶1(図7(a))及び結晶2(図7(b))とした。結晶の写真及び結晶の成長速度を図7(a)及び(b)に示す。また、模式図も併せて示す。
【0030】
図5に示すように、実施例1では、成長が全く阻害されないため、ほぼ種結晶と同じ形状の平行四辺形のDAST単結晶が得られた。また、成長速度も早く0.16mm/dayであり、長辺5.4mm、短辺5.2mm、厚さ0.8mm程度の大きなDAST単結晶が得られた。
【0031】
一方、図6に示すように、比較例1では、成長が土台に阻害され、結晶が横へ広がるように成長した。また、成長が阻害されるため成長速度が0.06mm/dayとなり、実施例と比較して遅かった。
【0032】
また、図7に示すように、比較例2では、種結晶の成長方向が土台に対して上を向いているため、成長速度は0.08〜0.10mm/dayと比較的早かったが、a軸[100]方向及びb軸[010]方向を含む平行四辺形をなす2辺が土台上面に対して平行でないので、図7(a)及び(b)に示すように、自然核から得られる結晶とは異なる形状の結晶となった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】種結晶の概略及び方位を示す模式図である。
【図2】種結晶の植付け方の一例を示す図である。
【図3】種結晶の植付け方の一例を示す図である。
【図4】種結晶の成長状態の一例を示す図である。
【図5】実施例の種結晶の植付け状態及び得られたDAST結晶の観察結果を示す図並びにそれらの模式図である。
【図6】比較例1の種結晶の植付け状態及び得られたDAST結晶の観察結果を示す図並びにそれらの模式図である。
【図7】比較例2の種結晶の植付け状態及び得られたDAST結晶の観察結果を示す図並びにそれらの模式図である。
【符号の説明】
【0034】
10 種結晶
11 DAST結晶
20 土台



【特許請求の範囲】
【請求項1】
DAST(4−ジメチルアミノ−N−メチル−4−スチルバゾリウムトシレート)を溶解した溶液中で土台に植付けたDASTの種結晶を育成してDAST結晶を得るDAST結晶の製造方法において、前記種結晶を、そのa軸[100]方向及びb軸[010]方向を含む面にほぼ一致する表面が土台の上面に対して略直交すると共に、当該表面の2辺が前記土台の上面に対して略平行となり且つ成長方向が前記土台の上面に対して上向きになるように植付けてDAST結晶を成長させることを特徴とするDAST結晶の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記種結晶を前記土台の端部近傍に成長方向が端部から外向きになるように植付けることを特徴とするDAST結晶の製造方法。
【請求項3】
DASTを溶解した溶液中で土台に植付けたDASTの種結晶を育成してDAST結晶を得る際に、前記種結晶を、そのa軸[100]方向及びb軸[010]方向を含む面にほぼ一致する表面が土台の上面に対して略直交すると共に、当該表面の2辺が前記土台の上面に対して略平行となり且つ成長方向が前記土台の上面に対して上向きになるように植付けることを特徴とする種結晶の植付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−265149(P2006−265149A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−84248(P2005−84248)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000242426)北辰工業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】