説明

DAST結晶の製造方法

【課題】 レーザー耐久性等の品質の良いDAST結晶が得られるDAST結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】 DAST(4−ジメチルアミノ−N−メチル−4−スチルバゾリウムトシレート)を溶解した溶液中で核を発生させその核を当該溶液中で育成することによりDAST結晶を形成するDAST結晶の製造方法において、育成温度を核発生時よりも高い温度にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー耐久性等の品質が良いDAST結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DAST(4−ジメチルアミノ−N−メチル−4−スチルバゾリウムトシレート)からなる結晶は、高い非線形光学効果を持ち、且つ広帯域テラヘルツ(THz)波発生特性が確認されているため、THz分光装置や、被ばくの恐れがない安全な非破壊検査用光源、例えば、セキュリティ(空港の荷物検査)などの非破壊検査用光源への応用が期待されている。このようなDAST結晶を製造する方法として、種結晶を土台に植付けてDASTを溶解した溶液中で育成する種結晶成長方法や、DASTを溶解した溶液中で自然核を発生させ育成する自然核成長方法等の、溶液成長法がある。
【0003】
後者の自然核成長方法によりDAST結晶を製造する場合、一般的には、DAST粉末をメタノール等の揮発性の溶媒に溶解した溶液を40〜44℃程度まで冷却し、DASTが過飽和になるようにしてDAST結晶を析出させた後、徐冷(図1(a)参照)又は等温保持(図1(b)参照)してDAST結晶を育成する(特許文献1及び特許文献2参照)。しかしながら、これらの方法で得られるDAST結晶は、レーザー耐久性等の品質が不十分であった。
【0004】
【特許文献1】特許第3007972号明細書(段落番号[0017]等)
【特許文献2】特開2004−083345号公報(段落番号[0013]等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情に鑑み、レーザー耐久性等の品質の良いDAST結晶が得られるDAST結晶の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は前記課題を解決するために種々検討を重ねた結果、核発生後、核発生温度より高い温度で結晶を育成することにより、レーザー耐久性等の品質が良好なDAST結晶が得られることを知見し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明の第1の態様は、DAST(4−ジメチルアミノ−N−メチル−4−スチルバゾリウムトシレート)を溶解した溶液中で核を発生させ、その核を当該溶液中で育成することによりDAST結晶を形成するDAST結晶の製造方法において、育成温度を核発生時よりも高い温度にすることを特徴とするDAST結晶の製造方法にある。
【0008】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記育成温度が核発生時の温度よりも0.5〜2℃高いことを特徴とするDAST結晶の製造方法にある。
【0009】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様において、前記育成温度を等温で保持することを特徴とするDAST結晶の製造方法にある。
【0010】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様において、前記DASTを溶解した溶液を等温保持して前記核を発生させることを特徴とするDAST結晶の製造方法にある。
【0011】
本発明の第5の態様は、第1〜3の何れかの態様において、前記DASTを溶解した溶液を等速冷却して前記核を発生させることを特徴とするDAST結晶の製造方法にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、自然核成長方法でDAST結晶を形成する際に核発生温度より高い温度で結晶を育成することにより、レーザー耐久性等の品質が良いDAST結晶を得ることができる。本発明の製造方法で得られたDAST結晶は、レーザー耐久性に優れているため、特に光機能デバイス等として好適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のDAST結晶の製造方法では、結晶の育成温度を核発生時の温度よりも高い温度にして、自然核成長方法でDAST結晶を形成する。核発生時よりも高い温度でDAST結晶を育成することにより、結晶の育成速度を抑制することができるため、品質の良いDAST結晶を製造することができるものと推測される。育成温度は、核発生時の温度より高い温度であれば特に限定されないが、核発生時の温度よりも0.5〜2℃高いことが好ましい。育成温度を核発生温度と同温度にすると、結晶の成長速度が速いため品質のよい形状が得られ難くなり、また、2℃よりも高くすると結晶が溶解する傾向があるためである。
【0014】
DAST結晶の核を発生させる方法は特に限定されず、通常行われている方法で発生させればよい。例えば、メタノールやエタノール等の揮発性溶媒にDAST粉末を溶解し、この溶液を42.7〜43.0℃程度まで冷却してDASTが過飽和状態になるようにすることにより、DAST結晶を析出、すなわち、DAST結晶の核を発生させる(図2参照)。なお、図2ではDAST結晶溶液を溶解した後43℃まで冷却してその後等温保持したが、等温保持ではなく等速冷却して核を発生させてもよい。また、DAST溶液にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の基板を入れ、基板上に核を発生させてもよい。
【0015】
DAST溶液を溶解した溶液中でDAST結晶の核を発生させた後、核発生温度よりも高温で結晶を育成する(図2参照)。育成温度は、等温保持でも等速冷却でもよいが、等温保持することが特に好ましい。育成温度をさらに上昇した場合は結晶が溶解する場合があり、また、冷却した場合は成長速度が速いため品質の良い結晶が得られ難くなる傾向があるためである。DAST溶液中で3〜7週間程度育成させることにより、例えば、2〜3mm角程度のDAST結晶を形成することができる。溶液からDAST結晶を取り出した後、必要に応じて、DAST結晶表面をメタノール等の溶媒で洗浄してもよい。
【0016】
本発明の製造方法で得られるDAST結晶は、レーザー、例えばNd:YAGレーザー等に対して、優れた耐久性を有する。例えば、本発明の製造方法で得られるDAST結晶を用い、約4.5THzのテラヘルツ波を発生させた場合、100nJ以上の強度を60分以上維持することができる。
【実施例】
【0017】
(実施例)
パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)製の100mL広口瓶にDAST(2.45g)及びメタノール(70mL)を加え、55℃で一晩撹拌して結晶を溶解した。その後、溶液を43.0℃で保持することにより結晶を析出させた。結晶の析出を確認した後、溶液を43.7℃に昇温し、43.7℃に保ったまま約6週間放置して、実施例のDAST単結晶を得た。
【0018】
(比較例)
PFA製の100mL広口瓶にDAST(2.45g)、および、メタノール(70mL)を加え、55℃で一晩撹拌して結晶を溶解した。その後、溶液を44.0℃から、0.2℃/dayの速度で冷却を行い、結晶を析出および成長させて、比較例のDAST単結晶を得た。
【0019】
(試験例)
2波長可変光パラメトリック発振器を用いたテラヘルツ波発生装置を用いて、1450nmと1450〜1570nmの2つの波長の光を実施例及び比較例で得られたDAST単結晶に照射し、発生した約4.5THzのテラヘルツ波の強度を測定して、レーザー耐久性の評価を行った。その結果を図3に示す。
【0020】
図3に示すように、結晶育成温度を核発生温度より高くして製造した実施例のDAST単結晶は、60分程度経過後も強度はほぼ140nJ以上を維持しており、レーザー耐久性が良いことがわかった。一方、結晶育成温度を核発生温度よりも低くした比較例のDAST単結晶は、初期の強度は実施例よりも高いがその後急激に低下した。
【0021】
(参考試験例)
実施例と同様の操作により43℃で析出させたDAST結晶を種結晶とし、ポリエチレン樹脂製の土台に植え付けた。これを実施例と同様にして作製したDAST溶液(DAST(2.45g)/メタノール(70mL))に入れ、43、43.5、44、44.5及び45.5℃の各温度で等温保持して結晶を育成し、それぞれ結晶の成長速度を測定した。なお、各温度について、それぞれ3回行った。測定結果を表1及び図4に示す。この結果、35g/LのDAST溶液におけるDAST結晶は、核発生温度の43℃で等温保持した場合、成長が速かった。また、核発生温度より2.5℃高い45.5℃に昇温して保持した場合は、DAST結晶は溶解した。したがって、DAST結晶の育成温度を、核発生温度より0.5〜2℃程度高く設定することが好ましいといえる。
【0022】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来技術にかかる結晶の製造方法の概略を示す図である。
【図2】本発明にかかるDAST結晶の製造方法の概略を示す図である。
【図3】実施例及び比較例で得られた単結晶のレーザー耐久性試験の結果を示す図である。
【図4】各温度における成長速度の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DAST(4−ジメチルアミノ−N−メチル−4−スチルバゾリウムトシレート)を溶解した溶液中で核を発生させ、その核を当該溶液中で育成することによりDAST結晶を形成するDAST結晶の製造方法において、育成温度を核発生時よりも高い温度にすることを特徴とするDAST結晶の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記育成温度が核発生時の温度よりも0.5〜2℃高いことを特徴とするDAST結晶の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記育成温度を等温で保持することを特徴とするDAST結晶の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかにおいて、前記DASTを溶解した溶液を等温保持して前記核を発生させることを特徴とするDAST結晶の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3の何れかにおいて、前記DASTを溶解した溶液を等速冷却して前記核を発生させることを特徴とするDAST結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−265148(P2006−265148A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−84247(P2005−84247)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000242426)北辰工業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】