説明

DFA含有難吸収水溶性生理活性物質吸収促進剤。

【課題】 難吸収性であるαG−ルチンなどの水溶性生理活性物質あるいは難吸収性の水溶性医薬の吸収促進剤を提供する。
【解決手段】ダイフラクトース アンハイドライドを、吸収促進剤の有効成分として含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイフラクトース アンハイドライドを含有することを特徴とする難吸収性の水溶性生理活性物質あるいは難吸収性の水溶性医薬の吸収促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
難吸収性の水溶性生理活性物質あるいは難吸収性の水溶性医薬の吸収率を向上させる技術が求められている。フラボノイド類及びその配糖体は難吸収性の生理活性物質であり、抗酸化作用、動脈硬化予防、癌予防、血圧上昇抑制、老化予防等の人体に有効な作用を有する。フラボノイド類は主に水溶性の配糖体として存在しているために、胆汁酸ミセルへの溶解性が低く、小腸から吸収され難い。また、大腸の腸内細菌のβ−グルコシダーゼ作用により、配糖体が加水分解されてアグリコンが生成され、脂溶性が高まり大腸から一部吸収されると考えられている(非特許文献1)。
難・低吸収性薬物の吸収促進剤として、Labrasolのエチルエーテル抽出物が知られており、難吸収性の水溶性薬剤である硫酸ゲンタマイシンの吸収促進効果が示されている(特許文献1)。しかしながら、Labrasolは界面活性剤であり、組織障害性の副作用の危険性がある。
腸管からの吸収経路は、細胞膜に備わるトランスポーター群等に依存する細胞内輸送(非特許文献2)と、細胞間隙を介した受動拡散に分けられる。イオンの受動的輸送はこの細胞間隙を介する経路が主役と考えられはじめている(非特許文献3)。
難消化性の二糖類であるダイフラクトース アンハイドライドIII(以下DFAIIIということもある)が腸管の粘膜上皮細胞間隙に存在するタイトジャンクションの透過性を高めることによりCaの吸収を亢進することが知られている(非特許文献4、特許文献2)。しかしながら、DFAIIIが金属イオン以外の難吸収性の水溶性生理活性物質あるいは水溶性医薬の吸収率を向上させることは知られていなかった。
【特許文献1】特開2003−026605号公報
【特許文献2】特開平11−043438号公報
【非特許文献1】吉川敏一編集、講談社、フラボノイドの医学、1998年発行、pp.18−23
【非特許文献2】辻彰、生体膜輸送の分子機構に関する生物薬剤学的研究、薬学雑誌、2002年、122巻、pp.1037−1058
【非特許文献3】武藤泰敏ら、第一出版、消化・吸収、2002年発行、p.129
【非特許文献4】峯尾仁ら、難消化性糖は細胞間経路を介して腸管のカルシウム吸収を促進する、消化と吸収、2001年、24巻、pp.56−60
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、難吸収性の水溶性生理活性物質あるいは難吸収性の水溶性医薬の安全で副作用の無い吸収促進剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、DFAが腸管の粘膜上皮細胞間隙に存在するタイトジャンクションの透過性を高めることに着目し、研究を続けた結果、難吸収性の水溶性生理活性物質であるαG−ルチン(易水溶性ケルセチン配糖体)が腸管の粘膜上皮細胞間輸送経路により吸収され、DFAがその吸収を促進することを見出した。すなわち本発明はダイフラクトース アンハイドライドを有効成分として含有することを特徴とする難吸収性の水溶性生理活性物質あるいは難吸収性の水溶性医薬の吸収促進剤に関するものである。
【0005】
本発明の構成は次のとおりである。
1.ダイフラクトース アンハイドライドを含有することを特徴とする水溶性生理活性物質あるいは水溶性医薬の吸収促進剤。
2.水溶性生理活性物質がフラボノイドあるいはその配糖体である請求項1記載の水溶性生理活性物質あるいは水溶性医薬の吸収促進剤。
3.前記1.又は2.記載の水溶性生理活性物質あるいは水溶性医薬の吸収促進剤を含有する経口薬あるいは坐薬。
4.請求項1又は2記載の水溶性生理活性作用あるいは水溶性医薬の吸収促進作用を有するものであることを特徴とし、水溶性生理活性物質あるいは水溶性医薬の吸収促進作用のために用いられるものである旨の表示を付した飲食品。
【発明の効果】
【0006】
ダイフラクトース アンハイドライドを吸収促進剤として用いることにより、難吸収性の水溶性生理活性物質あるいは水溶性医薬の腸管からの吸収を亢進することができる。
ダイフラクトース アンハイドライドと難吸収性の水溶性生理活性物質あるいは水溶性医薬を配合した経口組成物あるいは坐薬を提供することにより、効率よく、生理活性物質あるいは医薬を体内に吸収することができる。
ダイフラクトース アンハイドライドを配合することにより、フラボノイドあるいはその配糖体の吸収を促進できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の詳細を説明する。
本発明でいうダイフラクトース アンハイドライド(DFA)とは、2個のフラクトースの還元末端が、互いに一方の還元末端以外の水酸基に結合した環状二糖である。従来、カラメルなどに存在することが知られていたが、工業的には、イヌリンをイヌリン分解酵素、例えば、Arthrobacter sp.H65−7株が産生するイヌリンフラクトトランスフェラーゼ(EC2.4.1.93)により発酵させたり、レヴァンをArthrobacter nicotinovorans GS−9が産生するレヴァンフルクトトランスフェラーゼ(EC2.4.1.10)により発酵させたりすることにより製造することができる。二分子のフラクトースの結合様式の差異により、誘導体が5種類存在し、それぞれ、DFAI、DFAII、DFAIII、DFAIV、DFAV と称される。本発明でいうDFAとは、それら全てをいうが、本発明では、もっぱら、工業的生産の効率、精製してからの安定性などが優れているDFAIII
(di-D-fructofuranose-1,2’: 2,3’ dianhydride)、DFAIV(di-D-fructofura
nose-2,6’:6,2’dianhydride)
が好ましく使用される。
【0008】
本発明に係る難吸収性の水溶性生理活性物質あるいは水溶性医薬の吸収促進剤は、DFAそのもの、あるいはDFAを有効成分として含有するものであって、医薬品タイプ、飲食品タイプ、動物用飼餌料タイプの組成物として利用することができ、例えば、ヒト又は動物用の医薬品、飲食品、調製粉乳、経腸栄養剤、健康飲食品、飼餌料添加物など、最終的に経口投与可能な形態あるいは坐薬として使用可能な形態であれば制限はない。また、有効成分の含有量は、特に限定されない。
飲食品タイプの組成物として使用する場合には、DFA又はその処理物をそのまま使用したり、他の食品ないし食品成分と併用したりして、適宜常法に従い使用できる。また、加工にあたっては、熱安定性、酸安定性が高いため、通常の食品加工方法がなんら問題なく適用できる。DFAを含有する食品タイプの経口組成物は、粉末、顆粒状、ペースト状、液状、懸濁状など特段の限定は受けない。例えば甘味料、酸味料、ビタミン剤その他ドリンク剤製造に常用される各種成分を用いて、健康ドリンクに製剤化することも例示できる。
【0009】
医薬品タイプの組成物として使用する場合、本有効成分は、種々の形態で投与される。その投与形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与や坐剤等による経腸投与が例示できる。これらの各種製剤は、常法に従って主薬に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。その使用量は症状、年令、体重、剤形によって異なるが、通常は、成人に対して、経口投与の場合に1日当たり、体重1kg当たり0.5〜2000mg、好ましくは1〜1000mgの範囲で投与するのがよい。
【0010】
難吸収性の水溶性生理活性物質としてはポリフェノール類、フラボノイド類及びそれらの配糖体を挙げることができる。ポリフェノールとはベンゼン環に複数の水酸基を持つ化合物を指し、タンニン(加水分解タンニンとしてガロタンニン、エラジタンニン、縮合型タンニンとしてカテキンやエピカテキンの縮合体)、カテキン(カテキン、エピカテキン)、フラボノイド(フラボン、フラボノール、フラバノン、フラバノノール、イソフラボン、カルコン、オーロン、ロイコアントシアニン、カテキン)、リグナン(セサミノール、ピノレジノール)、リグニン、クマリン、シンプルフェノール(プロトカテチュ酸、没食子酸、シリンガ酸)などが上げられ、抗酸化作用を有することが知られている。
【0011】
また、フラボノイドは上記ポリフェノールにも含まれるが、狭義にはフラボン(ルテオリン、アピゲニン等)、フラボノール(ケルセチン、ケンフェロール等)、フラバノン(ナリンゲニン、ヘスペレチン等)、フラバノノール、イソフラボン(ダイゼイン、ゲニステイン、グリシテイン等)の5種類を指し、広義にはアントシアニジン、ロイコシアニジン、カテキン、カルコン(フロレチン、イソリクイリチゲニン等)、オーロン、クメスタン(クメステロール等)等を含むものである。
フラボノイドには抗酸化作用が期待されるが、カルコン類のイソリクイリチゲニン、イソフラボン類のゲニステイン、ダイゼイン、グリシテイン、フラボノール類のケンフェロール、フラバノン類のナリンゲニン、フラボン類のアピゲニン、クメスタン類のクメステロールなどは、エストロジェン作用を有するフラボノイドとしても挙げることができる。
【0012】
水溶性生理活性物質としては、水溶性ビタミン類やペプチド類を挙げることができるが、本発明が対象とする水溶性生理活性物質はこれらに限定されるものではない。
また、水溶性医薬としてはフェノールスルホンフタレイン、スルファグアニジン、アミノ糖系抗生物質として硫酸ゲンタマイシン、硫酸アミカシン、硫酸アルベカシン、硫酸イセバマイシン、硫酸カナマイシン、硫酸シソマイシン、硫酸ジベカシン、硫酸ストレプトマイシン、トブラマイシン等、ペニシリン系抗生物質としてクラブラン酸カリウム、スルバクタムナトリウム、チカルシリンナトリウム、ピペラシリンナトリウム、ベンジルペニシリンカリウム等、セフェム系抗生物質としてセファゾリンナトリウム、セファロチンナトリウム、セフォタキシムナトリウム、硫酸セフォチアム、セフチゾキシムナトリウム、セフメタゾールナトリウム、フロモキセフナトリウム、ラタモキセフナトリウム等、抗ウイルス剤として塩酸セビメリン水和物、モンテルカストナトリウム等、抗リウマチ薬としてザルトプロフェン、ロキソプロフェンナトリウム等、抗悪性腫瘍薬としてシタラビン、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバジド、塩酸プロカルバジン等を例示できるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0013】
消化管剥離粘膜を用いて、DFAIIIによるαG−ルチンの透過促進効果を測定した。
1)試験方法
・αG−ルチン
αG−ルチンはケルセチンの配糖体であるルチンに酵素処理によってグルコースを一分子結合させ、水溶性を高めたフラボノイド配糖体であり、市販品を購入した。
・DFAIII(di-D-fructofuranose-1,2’: 2,3’ dianhydride)
DFAIIIは日本甜菜製糖株式会社製を使用した。
【0014】
・Ussing(ユッシング)チャンバーを用いた消化管剥離粘膜によるαG−ルチンの透過実験
αG−ルチンの透過実験は、対になった2つの水槽(チャンバー)の間に剥離した粘膜などをはさんで、粘膜側と漿膜側の物質の輸送を調べる実験器具であるUssingチャンバーを用いて行った。9週齢のWistar系雄性ラットから空腸(Jejunum)、回腸(Ileum)、盲腸(Cecum)を摘出し、漿膜をはがした粘膜を1cm角のシートにしてUssingチャンバーにマウントした。それぞれのチャンバーをHEPES bufferで満たし、酸素を常にバブリングしながら、37℃でプレインキュベートした。プレインキュベート後、粘膜側のチャンバーにαG−ルチンを0、1又は10μmol/ml、DFAIIIを0又は100μmol/ml添加して37℃で30分インキュベートし、漿膜側の溶液を回収してLC/MS法により、αG−ルチン及びαG−ルチンが加水分解されて生じたルチンの濃度を測定した。
【0015】
2)結果
結果を図1に示す。Ussingチャンバーを用いた消化管剥離粘膜によるαG−ルチンの透過実験により、DFAIIIのαG−ルチンの吸収への影響を調べた結果である。
空腸、回腸ではDFAIIIを添加することで、αG−ルチンの漿膜側への透過が亢進された。一方で、小腸粘膜酵素のα−グルコシダーゼによって加水分解されたルチンの透過亢進はαG−ルチン程大きくなかった。盲腸では、αG−ルチンの加水分解によるルチンが殆ど生成せず、αG−ルチンの挙動が明確に観察され、DFAIIIの添加によるαG−ルチンの吸収促進が有意に認められた。
本試験において、ルチン(Hydrolysate(Rutin))の透過についても計測した。ルチンは透過の促進効果が認められない。これは、ルチンが難水溶性であることに起因していると推測される。
以上の結果より、DFAIIIが、αG−ルチンの吸収を著しく促進することが明らかになった。
【0016】
3)処方例
DFAIII(ダイフラクトース アンハイドライド)とαG−ルチン(フラボノイド配糖体)を含有する錠剤の処方例を示す。
処方例1 錠剤 (配合量:質量%)
DFAIII 77
αG−ルチン 2
コーンスターチ 20
グアーガム 1
【0017】
DFAIII(ダイフラクトース アンハイドライド)とダイジン(フラボノイド配糖体)を含有するジュースの処方例を示す。
処方例2 ジュース (配合量:質量%)
DFAIII 10
ダイジン 2
冷凍濃縮温州ミカン果汁 5
クエン酸 0.2
L−アスコルビン酸 0.02
香料 0.2
色素 0.1
水 82.48
【0018】
DFAIII(ダイフラクトース アンハイドライド)と硫酸ゲンタマイシンを含有する錠剤の処方例を示す。
処方例3 錠剤 (配合量:質量%)
DFAIII 69
硫酸ゲンタマイシン 10
コーンスターチ 20
グアーガム 1
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】Ussingチャンバーを用いた消化管剥離粘膜によるαG−ルチンの透過実験により、DFAIIIのαG−ルチンの吸収への影響を調べた結果を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイフラクトース アンハイドライドを含有することを特徴とする水溶性生理活性物質あるいは水溶性医薬の吸収促進剤。
【請求項2】
水溶性生理活性物質がフラボノイドあるいはその配糖体である請求項1記載の水溶性生理活性物質あるいは水溶性医薬の吸収促進剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の水溶性生理活性物質あるいは水溶性医薬の吸収促進剤を含有する経口薬あるいは坐薬。
【請求項4】
請求項1又は2記載の水溶性生理活性作用あるいは水溶性医薬の吸収促進作用を有するものであることを特徴とし、水溶性生理活性物質あるいは水溶性医薬の吸収促進作用のために用いられるものである旨の表示を付した飲食品。

【図1】
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【公開番号】特開2006−22003(P2006−22003A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−198746(P2004−198746)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年3月5日 社団法人日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会2004年度(平成16年度)大会講演要旨集」に発表
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【出願人】(000231981)日本甜菜製糖株式会社 (58)
【Fターム(参考)】