説明

DGJNAcのD−グルクロノラクトンからの合成およびα−N−アセチルガラクトサミニダーゼを阻害するための使用

D−グルクロノラクトンからDGJNAc 1Dを全収率20%で合成するための簡便でスケーラブルな方法を提供する。DGJNAcは、GalNAcaseの極めて強力で特異的な第1の競合的阻害剤である。DGJNAc 1Dは、β−ヘキソサミニダーゼ(-hexosaminidase)の競合的阻害剤でもある。L−DGJNAc 1Lの合成および活性についても示す。DGJNAcをGalNAcaseの強力で特異的な阻害剤として使用することによって、シンドラー病を含むいくつかの疾患の有用な研究および治療が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2010年2月2日に出願された米国仮特許出願第61/282,393号の利益を主張するものであり、その開示内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
分野
本開示は一般に、医療用イミノ糖の使用および合成に関し、特に、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ(GalNAcase)またはβ−ヘキソサミニダーゼを阻害するためのイミノ糖の使用、およびこれらの酵素に関連した疾患の治療に関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
要旨
一実施形態によれば、本発明は、D−グルクロノラクトンからDGJNAcまたはDGJNAc誘導体を合成する方法を開示する。DGJNAcの合成は、グルクロノラクトンのC5に窒素を導入するステップ、C3のヒドロキシル基の立体配置(configuration)を反転させるステップ、および、C6とC2との間に窒素を導入することによってピペリジン環を形成するステップを含む。
【0004】
別の実施形態によれば、多数の新規DGJNAc誘導体が開示される。これらの組成物は、次式
【化7】


の化合物またはその医薬的に許容される塩を含むものであり、式中、
Rは、置換または非置換アルキル基、置換または非置換シクロアルキル基、置換または非置換アリール基、および置換または非置換オキサアルキル基からなる群から選択されるか、あるいは、式中、
Rは、
【化8】


であり、
は、置換または非置換アルキル基であり、
1〜5は独立して、H、NO、N、またはNHから選択され、
Yは存在しないか、または置換もしくは非置換C−アルキル基(カルボニルを除く)であり、そして
Zは結合またはNHから選択されるが、ただし、Zが結合である場合はYは存在せず、ZがNHである場合はYは置換または非置換C−アルキル基(カルボニルを除く)である。
【0005】
別の実施形態において、本発明は、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ(GalNAcase)またはβ−ヘキソサミニダーゼの阻害方法であって、次式
【化9】


の化合物またはその医薬的に許容される塩
[式中、
Rは、水素、置換または非置換アルキル基、置換または非置換シクロアルキル基、置換または非置換アリール基、および置換または非置換オキサアルキル基からなる群から選択されるか、あるいは、式中、
Rは、
【化10】


であり、
は、置換または非置換アルキル基であり、
1〜5は独立して、H、NO、N、またはNHから選択され、
Yは存在しないか、または置換もしくは非置換C−アルキル基(カルボニルを除く)であり、そして
Zは結合またはNHから選択されるが、ただし、Zが結合である場合はYは存在せず、ZがNHである場合はYは置換または非置換C−アルキル基(カルボニルを除く)である]
をα−N−アセチルガラクトサミニダーゼ(GalNAcase)またはβ−ヘキソサミニダーゼを含む組成物に添加するステップを含む方法に関する。さらなる実施形態において、Rは水素であり、化合物はDGJNAcである。
【0006】
別の実施形態において、本発明は、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ(GalNAcase)またはβ−ヘキソサミニダーゼ活性に関連する疾患を治療または予防する方法であって、そのような疾患の治療または予防を必要とする被験体に、有効量の次式
【化11】


の化合物またはその医薬的に許容される塩
[式中、
Rは、水素、置換または非置換アルキル基、置換または非置換シクロアルキル基、置換または非置換アリール基、および置換または非置換オキサアルキル基からなる群から選択されるか、あるいは、式中、
Rは、
【化12】


であり、
は、置換または非置換アルキル基であり、
1〜5は独立して、H、NO、N、またはNHから選択され、
Yは存在しないか、または置換もしくは非置換C−アルキル基(カルボニルを除く)であり、そして
Zは結合またはNHから選択されるが、ただし、Zが結合である場合はYは存在せず、ZがNHである場合はYは置換もしくは非置換C−アルキル基(カルボニルを除く)である]
を投与するステップを含む方法に関する。
【0007】
さらなる実施形態において、被験体はヒトであり、疾患はシンドラー病である。さらに、Rは水素とすることができ、化合物はDGJNAcとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
詳細な説明
i.イミノ糖
ピラノース環酸素またはフラノース環酸素が窒素で置換された化合物であるイミノ糖は、炭水化物プロセシング酵素との相互作用の原型である。(1)。しかし、報告されている無数の糖模倣物のうち、α−N−アセチル−ガラクトサミニダーゼ(GalNAcase)の有効な阻害例は一例もない。
【0009】
ii.概説
本発明では、GalNAcaseの強力で特異的かつ競合的な第1の阻害剤として、DGJNAc 1Dおよびその誘導体が報告される。さらに、アミノ酸(2)およびイミノ糖(3)を含む多くのホモキラル標的の合成の確立したカイロン(chiron)であるD−グルクロノラクトン2Dを、DGJNAc[2−アセトアミド−1,2−ジデオキシ−D−ガラクト−ノジリマイシン]1Dの効率的な合成(全収率20%)の出発材料として使用することができる。多くのイミノ糖のL−鏡像異性体は、D−天然物に比べて驚くべき生物活性を有する。(4) 容易に入手可能な(5)L−グルクロノラクトン2LからのL−DGJNAc 2Lの合成も提供される。1Dの以前の唯一の合成は、デオキシノジリマイシンを出発原料とするものであり(6)、1Dと1Lのラセミ混合物も調製された。(7) しかし、1Dのグリコシダーゼ阻害特性に関する研究はこれまで確認されていない。
【0010】
iii.グルクロノラクトンからのDGJNAcの合成
DGJNAc1Dの合成には、グルクロノラクトンのC5への窒素の導入(スキーム1)、C3のヒドロキシル基の立体配置の反転、およびC6とC2との間に窒素を導入することによるピペリジン環の形成(立体配置の反転を伴う)が必要である。
【化13】

【化14】

【0011】
iv.シンドラー病
先天性代謝異常であるシンドラー病は、α−NAGA(α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ)酵素の欠損によって引き起こされるリソソーム蓄積障害である。このリソソーム蓄積障害は、神崎病およびα−N−アセチルガラクトサミニダーゼ欠損症とも呼ばれる。第22染色体に存在するNAGA遺伝子の変異によって、リソソームにおける糖タンパク質の形成および身体全体におよぶグリコスフィンゴ脂質の蓄積に至る。この糖蓄積によって、この疾患に伴う臨床的特徴が引き起こされる。シンドラー病は、自律神経性劣性遺伝障害(autonomic recessive disorder)である。
【0012】
この疾患は3つのタイプに大別される。タイプIの小児型では、乳児は約1歳まで正常に発達する。その後、小児は、以前に獲得された、身体的および精神的挙動の協調に関連した技能の喪失が始まる。筋緊張低下、衰弱、不随意性急速眼球運動、視力喪失、および発作を含む、追加の神経症状および神経筋症状が存在することがある。経時的に、症状は悪化し、小児は、筋硬直によって特定の筋肉を動かす能力の低下を経験し、外部刺激に応答する能力が低下する。他の症状としては、出生時からの神経軸索ジストロフィー、皮膚の変色、毛細血管拡張または血管の拡大が挙げられる。
【0013】
タイプIIの成人型では、症状はより軽度であり、30代半ばまで現れない可能性がある。被角血管腫、粗大化顔貌の増加(increased coarsening of facial features)、および軽度の知能障害が典型的な症状である。タイプIIIの型は、患者の間で様々な症状を伴う中等度の障害とみなされる。重度の症状としては、発作および精神遅滞が挙げられる。重度でない症状としては、言語遅滞(delayed speech)、軽度の自閉症様症状(autistic like presentation)、および/または行動の問題が挙げられる。
【0014】
v.β−ヘキソサミニダーゼ
他のリソソーム酵素も、多数の疾患におけるそれらの役割で周知である。これらの酵素の一例が、β−ヘキソサミニダーゼである。β−ヘキソサミニダーゼの選択的阻害は、変形性関節症(8)、アレルギー(9)、アルツハイマー病(10)、O−GlcNAcase阻害(11)、ガン転移(12)、II型糖尿病(13)、テイサックス病やサンドホフ病などの遺伝病(14)、および植物制御(15)の研究に有用である。N−アセチルグルコサミンDGJNAc 3の合成ピペリジン類似体(16)およびそのN−アルキル誘導体(17)は、β−ヘキソサミニダーゼの強力な阻害剤である。ガラクト立体配置の天然物ナグスタチン(nagstatin)4(18)は、β−ヘキソサミニダーゼの強力な阻害剤であっても、GalNAcaseを阻害しない。(19) グルコ立体配置の合成類似体5(20)はPUG誘導体6(21)およびGlcNAc−チアゾリン7(22)とともに、β−ヘキソサミニダーゼの非常に強力な阻害剤である。ピロリジンの強力なヘキソサミニダーゼ阻害剤のまれな例(rare example)は、LABNAc 8であり(23)、最初のピロリジジンのβ−ヘキソサミニダーゼ阻害剤であるポコニシン9[またはその鏡像異性体]は、真菌株ポコニア・スクラスポリア変種スクラスポリア(Pochonia suchlasporia var. suchlasporia)TAMA87から単離されたものである。(24) いくつかの7員環イミノ糖も、強力な阻害を示す。(25)
【0015】
別段の指定のない限り、「a」または「an」は、1つ以上を意味する。
【0016】
vi.DGJNAcおよびそのDGJNAc誘導体
本発明者らは、DGJNAcやDGJNAc誘導体などの特定のイミノ糖が、GalNAcaseまたはβ−ヘキソサミニダーゼの阻害に有効であり得ることを見出した。特に、DGJNAcおよびDGJNAc誘導体は、GalNAcase)もしくはβ−ヘキソサミニダーゼによって引き起こされたまたはそれらに関連した疾患もしくは病態を治療または予防するのに有用であり得る。
【0017】
多くの実施形態において、イミノ糖はDGJNAcまたはDGJNAC誘導体である。DGJNAc(2−アセトアミド−1,2−ジデオキシ−D−ガラクト−ノジリマイシン)は、次式の化合物である。
【化15】

【0018】
「DGJNAc誘導体」は、環窒素が水素原子で置換されていない、DGJNAcの誘導体である。
【0019】
一般に、DGJNAcおよびDGJNAc誘導体は、次式
【化16】


で表わすことができ、
式中、Rは、水素(DGJNAcの場合)、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換シクロアルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換オキサアルキル基から選択することができる。
【0020】
いくつかの実施形態において、Rは、置換もしくは非置換アルキル基および/または置換もしくは非置換オキサアルキル基とすることができ、1〜16個の炭素原子、4〜12個の炭素原子、または8〜10個の炭素原子を含む。「オキサアルキル」という用語は、1〜5個、または1〜3個、または1〜2個の酸素原子を含むことができるアルキル誘導体を指す。「オキサアルキル」という用語は、ヒドロキシ基末端およびメトキシ基末端のアルキル誘導体を包含する。
【0021】
いくつかの実施形態において、Rは、−(CHOCH、−(CHOCHCH、−(CHO(CHCH、−(CHO(CHCH、−(CHO(CHCH、−(CHO(CHCH;−(CHO(CHCH;−(CH−OH;−(CHOCHから選択することができるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
いくつかの実施形態において、Rは、20個まで(up 20)の炭素原子を含有することができる分枝または非分枝の、置換または非置換アルキル基とすることができる。いくつかの実施形態において、アルキル基は、C2〜C12またはC3〜C7アルキル基とすることができる。
【0023】
特定の実施形態において、アルキル基は長鎖アルキル基であることができ、C6〜C20アルキル基、C8〜C16アルキル基、またはC8〜C10アルキル基であることができる。いくつかの実施形態において、Rは、長鎖オキサアルキル基とすることができる。すなわち、1〜5個または1〜3個または1〜2個の酸素原子を含むことができる長鎖アルキル基とすることができる。
【0024】
いくつかの実施形態において、Rは、次式
【化17】


を有することができ、式中、
は、置換または非置換アルキル基であり、
1〜5は独立して、H、NO、N、またはNHから選択され、
Yは存在しないか、または置換もしくは非置換C−アルキル基(カルボニルを除く)であり、そして
Zは結合またはNHから選択されるが、ただし、Zが結合である場合はYは存在せず、ZがNHである場合はYは置換または非置換C−アルキル基(カルボニルを除く)である。
【0025】
いくつかの実施形態において、ZはNHであり、かつR−Yは、C2〜C20アルキル基またはC4〜C12アルキル基またはC4〜C10アルキル基などの置換または非置換アルキル基である。
【0026】
いくつかの実施形態において、XはNOであり、かつXはNである。いくつかの実施形態において、X、X、およびXはそれぞれ、水素である。
【0027】
vii.塩、プロドラッグ、医薬組成物
いくつかの実施形態において、イミノ糖は、無機または有機酸に由来する塩の形態であることができる。医薬的に許容される塩および塩の形態を調製する方法が、例えば、Bergeら(J. Pharm. Sci. 66:1-18, 1977)に開示されている。適切な塩の例としては、以下の塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない:酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、ショウノウ酸塩、ショウノウスルホン酸塩、ジグルコン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、シュウ酸塩、パルモ酸塩(palmoate)、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トシル酸塩、メシル酸塩、およびウンデカン酸塩。
【0028】
いくつかの実施形態において、イミノ糖は、プロドラッグの形態で使用することもできる。
【0029】
いくつかの実施形態において、イミノ糖を組成物の一部分として使用することができる。その組成物は、医薬的に許容される担体および/または組成物を動物に送達するのに有用な成分をさらに含むものである。組成物をヒトに送達するのに有用な医薬的に許容される多数の担体および組成物をウシなどの他の動物に送達するのに有用な成分は、当技術分野において公知である。このような担体および成分を本発明の組成物に添加することは、十分に当業者のレベルの範囲内である。
【0030】
いくつかの実施形態において、医薬組成物は、DGJNAcまたはDGJNAc誘導体から本質的になることができ、これによって、DGJNAcまたはDGJNAc誘導体は組成物中で唯一の活性成分であることが示唆される。
【0031】
さらにいくつかの他の実施形態において、DGJNAcまたはDGJNAc誘導体を1種以上の追加の化合物とともに投与することができる。
【0032】
いくつかの実施形態において、イミノ糖は、米国特許出願公開第2008/0138351号;2009年3月25日出願の米国特許出願第12/410,750号、および2009年3月27日出願の米国特許仮出願第61/202,699号に開示されるものなどのリポソーム組成物において使用することができる。
【0033】
viii.投与およびGalNAcaseまたはβ−ヘキソサミニダーゼの阻害
DGJNAcまたはDGJNAc誘導体などのイミノ糖を、GalNAcaseまたはβ−ヘキソサミニダーゼ活性に関連した障害に冒されている細胞または動物に投与することができる。イミノ糖は、動物においてGalNAcaseまたはβ−ヘキソサミニダーゼを阻害し、疾患を低減、緩和、または軽減させるのに役立つことができる。
【0034】
さらに、インビトロまたはインビボ研究で、DGJNAcまたはDGJNAc誘導体を使用して、GalNAcaseまたはβ−ヘキソサミニダーゼの阻害を研究することができる。
【0035】
疾患を患っている動物としては、サルおよびヒトを含む霊長類が挙げられる。
【0036】
本発明の方法に従って動物または動物細胞に投与されるイミノ糖の量は、GalNAcaseまたはβ−ヘキソサミニダーゼを阻害するのに有効な量とすることができる。本明細書において使用される場合、「阻害する」という用語は、イミノ糖の非存在下で示される生物活性の検出可能な低減および/または消失を指すことができる。「有効量」という用語は、指示された効果を実現するのに必要なイミノ糖の量を指すことができる。本明細書において使用される場合、「治療」という用語は、被験体における症状を低減もしくは緩和すること、症状の悪化もしくは進行を予防すること、病原因子の阻害もしくは消失、または被験体におけるGalNAcaseもしくはβ−ヘキソサミニダーゼ活性に関連した障害の予防を指すことができる。
【0037】
細胞または動物に投与することができるイミノ糖の量は、好ましくはその投与に伴う利点を上回る毒作用を誘発しない量である。
【0038】
医薬組成物中の活性成分の実際の投与量レベル(dosage level)は、特定の患者にとって所望の治療効果を実現するのに有効な量の活性化合物が投与されるように変動することができる。
【0039】
選択された用量レベル(dose level)は、イミノ糖の活性、投与経路、治療される病態の重症度、ならびに治療される患者の状態および既往歴(prior medical history)によって異なり得る。しかし、化合物の用量を、所望の治療効果を実現するのに必要とされるレベルより少ないレベルで始め、所望の効果が実現されるまで投与量を徐々に増加させることは、当技術分野の技術の範囲内である。所望される場合、例えば1日当たり2〜4回用量の投与の目的のために、有効一日用量(effective daily dose)を複数回用量に分割することができる。しかし、任意の個々の患者に対する具体的な用量レベルは、体重、全身的健康状態、食事、投与の時間および経路ならびに他の治療剤との組合せ、さらに治療される病態または疾患の重症度を含む種々の要因によって異なり得ることが理解されるであろう。成体のヒトの1日投与量は、体重10キログラム当たりイミノ糖約1マイクログラム〜約1グラムの間、または約10mgと100mgの間の範囲であることができる。言うまでもなく、細胞または動物に投与されるべきイミノ糖の量は、イミノ糖の分子量や投与経路など、当業者によって十分理解される多数の要因によって異なり得る。
【0040】
本発明の方法において有用である医薬組成物は、経口用固体製剤として全身投与することができ、眼科用製剤、坐薬製剤、エアロゾル製剤、局所用製剤、または他の同様の製剤として投与することができる。例えば、散剤、錠剤、カプセル剤、ロゼンジ剤、ゲル剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤などの物理的形態とすることができる。活性剤に加えて、このような医薬組成物は、薬物投与を増強および促進することが知られている医薬的に許容される担体および他の成分を含有することができる。ナノ粒子、リポソーム再封鎖赤血球(liposomes resealed erythrocytes)、および免疫学をベースとしたシステムなどの他の可能な製剤を使用して、薬剤を投与することもできる。このような医薬組成物は、いくつかの経路で投与することができる。本明細書において使用される場合、「非経口の」という用語は、皮下、静脈内、動脈内、髄腔内、ならびに注射および注入技法を制限なく包含する。例として、医薬組成物は、経口投与、局所投与、非経口投与、全身投与、または経肺投与することができる。
【0041】
これらの組成物は、単回用量、または異なる時間に投与される複数回用量で投与することができる。
【0042】
以下の実施例により、本発明をさらに詳細に説明することができるが、本発明はこれらに限定されるものでないことを理解されたい。
【0043】
本明細書に記載される実施形態を、以下のワーキング実施例(working example)によりさらに説明するが、決してこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
実施例1
D−グルクロノラクトン2DからのDJGNAc 1Dの合成
【化18】

【0045】
D−グルクロノラクトン 2DからのDJGNAc 1Dの合成では、アセトニド10を、ジクロロメタン中ピリジンの存在下で、トリフルオロメタンスルホン酸(トリフル酸)無水物でエステル化し、得られた粗トリフル酸エステルを、DMF中アジ化ナトリウムで処理して、ido−アジド11{mp.112〜114℃;[α]25 +261.4(c 1.0、CHCl)[文献(29) mp.114〜116℃、[α]20 +243(c 1.1、CHC1)]}を収率97%で得た。いくつかの水素化物により、アジドラクトン11からジオール12に直接転化すると、低収率しか得られなかった。このようなα−アジドラクトンは、塩基に極めて高い感受性を示すものであり、通常は最初にラクトールに還元する2段階の還元が必要である。したがって、ジクロロメタン中、アジドラクトン11をDIBALHで還元すると、対応するラクトールが得られ、これをメタノール中、水素化ホウ素ナトリウムでさらに還元すると、ジオール12、mp.120〜122℃、[α]25 −69.6(c 0.94、CHCl)が収率72%で得られた。tert−ブチルジメチルシリル(TBDMS)クロリドとの反応によって、12の第一級アルコールを選択的に保護すると、対応するTBDMSエーテル13、油状物、[α]25 −12.7(c 1.1、CHCl)が収率99%で得られた。グルクロノラクトン2Dから13への全収率は、最終段階までクロマトグラフィー精製を全く必要とすることなく、マルチグラムスケール(multigram scale)で72%であった。
【0046】
DGJNAc 1Dの合成には、反転、その後にシリルエーテル13の残っている未保護のC3 OHの保護が必要であった。ジクロロメタン中、モレキュラーシーブの存在下でクロロクロム酸ピリジニウムで13を酸化すると、対応するケトンが得られ、カルボニルの最も束縛の少ない面から還元すると、反転されたアルコール14、油状物、[α]25 +74.9(c 0.94、CHCl)が収率79%で得られた。14を、DMF中、臭化ベンジルおよび水素化ナトリウムで処理すると、完全に保護されたベンジルエーテル15、油状物、[α]25 +101.5(c 0.56、CHCl)が収率97%で得られた。15のアセトニド保護基とシリル保護基の両方を、メタノール中HClで処理することによって除去して、メチルフラノシド16のアノマーの5:1混合物を得た(97%)。ジクロロメタン中ピリジンの存在下で16を無水トリフル酸と反応させると、ジトリフラート17が得られ、THF中、ベンジルアミンと反応させると、二環式ピロリジン18、油状物、[α]25 +22.8(c 1.11、CHCl)が単一のアノマーとして全収率61%で得られた。したがって、ジトリフラートの環化によるピペリジン環の形成は、効率的であった。ピロリジンの形成などのジトリフラートの環化の成功例は非常に希有である(30)。
【0047】
無水酢酸中、三フッ化ホウ素エーテラート(boron trifluoride etherate)を用いて、フラノシド18のアセトリシスを行うと、エピマー19の4:1混合物が収率93%で得られた。19のOMe基を、ジクロロメタン中DIBALH、続いてメタノール中水素化ホウ素ナトリウムで逐次処理することによって還元的に除去した。得られたジオールをアセチル化すると、ジアセタート20、油状物、[α]25 +79.8(c 0.43、CHCl)の単離を容易に行うことができ、19からの全収率は83%であった。酢酸−無水酢酸−THF中、硫酸銅(II)の存在下で亜鉛末によるXKのアジドの急速な還元(31)、それに続く、対応するアミンのアシル化によって、トリアセタート21の結晶、mp.112〜114℃、[α]25 +26.2(c 1.1、MeCO)が収率79%で得られた。21を、メタノール中ナトリウムメトキシドで処理することによってアセタート保護基を除去し、続いてジオキサン:塩酸水溶液中、パラジウム(炭素担持10%)でベンジル基を水素化分解すると、DGJNAc 1D、mp.150〜154℃、[α]25 +41.9(c 0.67、HO))[文献、油状物、[α]20 +37(c 1、MeOH)]が収率98%で得られた。多くのイミノ糖とは違って、遊離塩基のDGJNAcは、容易に結晶化する。DGJNAc 1DのD−グルクロノラクトン 2Dからの全収率は20%であった。
【0048】
DGJNAc 1Dの選択されたデータ:
【化19】

【0049】
実施例2
L−グルクロノラクトン 2LからのL−DJGNAc 1Lの合成
鏡像異性体L−DGJNAc 1L、mp.152〜156℃、[α]25 46.6(c 0.73、HO)を、L−グルクロノラクトン2Lから同一の手順で調製した。
【0050】
実施例3
DJGNAc 1DおよびL−DGJNAc 1LによるGalNAcaseおよびβ−ヘキソサミニダーゼの阻害
DGJNAc 1Dは、GalNAcaseの非常に強力な競合的阻害剤であった(K 0.081μM、ニワトリ肝由来、K 0.136μM、ホラガイ(Charonia lampas)由来);DGJNAc 1Dは、β−ヘキソサミニダーゼの、良好であるがあまり強力でない競合的阻害剤であった(IC50 1.8μM、タチナタマメ(Jack bean)由来、IC50 1.8μM、 タチナタマメ(Jack bean)由来、IC50 4.2μM、ウシ腎由来、IC50 8.3μM、ヒト胎盤由来、IC50 2.2μM、HL−60由来)。
【0051】
鏡像異性体L−DGJNAc 1Lは、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼの阻害を示さなかったが、β−ヘキソサミニダーゼの、非常に弱いが非競合的な阻害剤であった[DGJNAc 1DのK 2.2μMに対して、K 1100μM、ヒト胎盤由来]。この結果は、L−鏡像異性体は非競合的阻害を示すが、D−イミノ糖は通常、競合的阻害剤であるというAsanoの仮説(32)と一致するものであった。
【0052】
DGJNAc 1Dは、コーヒーマメα−ガラクトシダーゼの中程度の阻害を示した(IC50 64μM)が、L−DGJNAc 1Lは、この酵素の阻害を示さなかった。
【0053】
DGJNAc 1の鏡像異性体は両方とも、いくつかの他のグリコシダーゼの阻害剤としてスクリーニングされたが、両鏡像異性体とも、α−グルコシダーゼ(コメ、酵母)、β−グルコシダーゼ(アーモンド、ウシ肝)、β−ガラクトシダーゼ(ウシ肝)、α−マンノシダーゼ(タチナタマメ(Jack bean))、β−グルクロニダーゼ(大腸菌(E. coli)、ウシ肝)、α−L−ラムノシダーゼ(P.デクムベンス(P.decumbens))、またはα−L−フコシダーゼ(ウシ精巣上体)に対して、何ら顕著な阻害を示さなかった[1000mMにおいて阻害50%未満)。
【0054】
上記では、特に好ましい実施形態が記載されているが、本発明はそのように限定されるものではないことが理解されよう。当業者には、開示された実施形態に対して様々な改変を行うことができること、およびこのような改変が本発明の範囲内であることが意図されていることが理解されるであろう。
【0055】
本明細書に引用されるすべての刊行物、特許出願、および特許は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれたものとする。
【0056】
【化20】

【化21】

【化22】

【化23】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
D−グルクロノラクトンからのDGJNAcまたはDGJNAc誘導体を合成する方法であって、
グルクロノラクトンのC5に窒素を導入するステップ、
C3のヒドロキシル基の立体配置を反転させるステップ、および
C6とC2との間に窒素を導入することによってピペリジン環を形成するステップ
を含む、前記方法。
【請求項2】
次式
【化1】


の化合物またはその医薬的に許容される塩
[式中、
Rは、置換または非置換アルキル基、置換または非置換シクロアルキル基、置換または非置換アリール基、および置換または非置換オキサアルキル基からなる群から選択されるか、あるいは、式中、
Rは、
【化2】


であり、
は、置換または非置換アルキル基であり、
1〜5は独立して、H、NO、N、またはNHから選択され、
Yは存在しないか、または置換もしくは非置換C−アルキル基(カルボニルを除く)であり、そして
Zは結合またはNHから選択されるが、ただし、Zが結合である場合はYは存在せず、ZがNHである場合はYは置換または非置換C−アルキル基(カルボニルを除く)である]。
【請求項3】
α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ(GalNAcase)またはβ−ヘキソサミニダーゼを阻害する方法であって、
次式
【化3】


の化合物またはその医薬的に許容される塩
[式中、
Rは、水素、置換または非置換アルキル基、置換または非置換シクロアルキル基、置換または非置換アリール基、および置換または非置換オキサアルキル基からなる群から選択されるか、あるいは、式中、
Rは
【化4】


であり、
は、置換または非置換アルキル基であり、
1〜5は独立して、H、NO、N、またはNHから選択され、
Yは存在しないか、または置換もしくは非置換C−アルキル基(カルボニルを除く)であり、そして
Zは結合またはNHから選択されるが、ただし、Zが結合である場合はYは存在せず、ZがNHである場合はYは置換または非置換C−アルキル基(カルボニルを除く)である]
を、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ(GalNAcase)またはβ−ヘキソサミニダーゼを含む組成物に添加するステップを含む、前記方法。
【請求項4】
Rが水素である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ(GalNAcase)またはβ−ヘキソサミニダーゼ活性に関連する疾患を治療または予防する方法であって、
そのような疾患の治療または予防を必要とする被験体に、有効量の次式
【化5】


の化合物またはその医薬的に許容される塩
[式中、
Rは、水素、置換または非置換アルキル基、置換または非置換シクロアルキル基、置換または非置換アリール基、および置換または非置換オキサアルキル基からなる群から選択されるか、あるいは、式中、
Rは
【化6】


であり、
は、置換または非置換アルキル基であり、
1〜5は独立して、H、NO、N、またはNHから選択され、
Yは存在しないか、または置換もしくは非置換C−アルキル基(カルボニルを除く)であり、そして
Zは結合またはNHから選択されるが、ただし、Zが結合である場合はYは存在せず、ZがNHである場合はYは置換または非置換C−アルキル基(カルボニルを除く)である]
を投与するステップを含む、前記方法。
【請求項6】
被験体がヒトである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記被験体がシンドラー病を患っている、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
Rが水素である、請求項5に記載の方法。

【公表番号】特表2013−518814(P2013−518814A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550532(P2012−550532)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【国際出願番号】PCT/IB2011/000380
【国際公開番号】WO2011/095893
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(511301083)ザ チャンセラー,マスターズ アンド スカラーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ オックスフォード (6)
【Fターム(参考)】