説明

DGKγをターゲットとする抗アレルギー剤のスクリーニング方法

【課題】抗アレルギー効果を有する物質を探索する方法を提供すること。
【解決手段】ジアシルグリセロールキナーゼγ(DGKγ)活性を抑制する被験物質をスクリーニングする工程を含む、抗アレルギー剤のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルギー剤のスクリーニング方法に関する。より詳細には、本発明は、ジアシルグリセロールキナーゼγ(DGKγ)活性を抑制する被験物質をスクリーニングする工程を含む、抗アレルギー剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)は、脂質シグナルであるジアシルグリセロール(DG)をリン酸化しフォスファチジン酸(PA)を産生する脂質キナーゼである。DGはPKC(プロテインキナーゼC)などの活性化剤であり、PAはmTORやRaf1キナーゼの活性化剤であることから、DGKはPKCの活性を間接的に抑制することや、mTORやRaf1キナーゼなどの下流因子を活性化することで生体内で重要な働きをしていると考えられている。哺乳類が有するDGKは、これまでに10種のサブタイプ(α、β、γ、δ、η、κ、ε、ζ、ι、θ)が報告され、5種のタイプ(TypeI〜V)に分類されている(図1)。このうち、いくつかのサブタイプについては、近年ノックアウトマウスを用いた解析から、サブタイプ特異的な機能が明らかにされつつある。例えば、DGKαのノックアウトマウスは免疫寛容が阻害されるし、DGKδのノックアウトマウスは2型の糖尿病となる。しかし、DGKγの機能は未だ不明であった。
【0003】
一方、マスト細胞(肥満細胞)や好塩基球において、アレルゲン及びアレルゲン特異的なIgE抗体等によって脱顆粒が誘導されると、ヒスタミン等の物質が分泌され、アレルギー反応を引き起こすことが知られている。従って、脱顆粒を抑制することができれば、アレルギー反応を抑制することができ、各種疾患の予防及び治療に役立つと考えられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Biochem.J. (2008) 409, 1-18
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、抗アレルギー効果を有する物質を探索すること、及び探索する方法を提供すること、を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、驚くべき事に、DGKγの発現をノックダウンすると、脱顆粒を抑制できることを見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は例えば以下の項1〜7に記載の方法及びキットを包含する。
項1.
ジアシルグリセロールキナーゼγ(DGKγ)活性を抑制する被験物質をスクリーニングする工程を含む、抗アレルギー剤のスクリーニング方法。
項2.
前記抗アレルギー剤が、脱顆粒に起因するアレルギー用の抗アレルギー剤である、項1に記載のスクリーニング方法。
項3.
細胞の脱顆粒に起因して起こる疾患が、花粉症、アトピー性皮膚炎、喘息、及び鼻炎からなる群より選択される少なくとも1種である、項2に記載のスクリーニング方法。
項4.
(a)DGKγ活性を抑制する被験物質をスクリーニングする工程、及び(b)DGKγ以外のDGKサブタイプ活性を抑制しない被験物質をスクリーニングする工程、を含む、項1〜3のいずれかに記載の抗アレルギー剤のスクリーニング方法。
項5.
被験物質がDGKγ活性抑制効果を有する場合に、該被験物質はアレルギー抑制効果を有すると判定する方法。
項6.
被験物質のDGKγ活性抑制効果の強弱を指標として、当該被験物質の抗アレルギー効果の強弱を判定する方法。
項7.
DGKγを備える、抗アレルギー剤スクリーニング用キット。
【発明の効果】
【0008】
本発明のスクリーニング法によれば、簡便に抗アレルギー効果を有する物質(抗アレルギー剤)をスクリーニングすることができる。当該スクリーニング法でスクリーニングされた抗アレルギー剤は、公知の抗アレルギー剤とは異なるメカニズムにより(具体的には、DGKγの活性を抑制して細胞内カルシウム濃度の上昇を抑制することにより)脱顆粒を抑制することで、抗アレルギー効果を奏するとも考えられるため、アレルギー関連疾患における選択薬を増やすことにもつながる可能性がある。
【0009】
また、本発明は、上記の通り、被験物質がアレルギー抑制効果を有するか否かを判定する方法にも係る。当該方法であれば、簡便に、被験物質がアレルギー抑制効果を有するか否かを判定することができる。また、当該方法でアレルギー抑制効果を有すると判定された被験物質は、公知の抗アレルギー剤とは異なるメカニズムにより脱顆粒を抑制することで、抗アレルギー効果を奏するとも考えられるため、アレルギー関連疾患における選択薬を増やすことにもつながる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】哺乳類のDGKファミリーの構造の模式図を示す。
【図2】タイプIのDGK阻害剤R59949の、抗原(DNP−BSA)刺激に対する脱顆粒抑制効果をβ−ヘキソサミニダーゼ活性を指標として検討した結果を示す(n=3)。なお、β−ヘキソサミニダーゼ活性は脱顆粒の指標の一つとして広く用いられている。
【図3】RBL-2H3細胞から抽出したmRNAを用いてRT−PCRを行い、RBL-2H3細胞で発現するDGKサブタイプを確認した結果(アガロースゲル電気泳動像)を示す。
【図4】各DGKサブタイプ(α及びγ)ノックダウンRBL-2H3細胞(図ではshDGKα又はγと表記)における、DGK阻害剤(R59949)の脱顆粒抑制効果をβ−ヘキソサミニダーゼ活性を指標として検討した結果を示す(n=3)。白棒グラフは抗原(DNP−BSA)刺激を行わなかった場合を、黒棒グラフは、抗原(DNP−BSA)刺激を行った場合の結果を示す。
【図5】各DGKサブタイプ(δ及びε)ノックダウンRBL-2H3細胞(図ではshDGKδ又はεと表記)における、DGK阻害剤(R59949)の脱顆粒抑制効果をβ−ヘキソサミニダーゼ活性を指標として検討した結果を示す(n=1)。白棒グラフは抗原(DNP−BSA)刺激を行わなかった場合を、黒棒グラフは、抗原(DNP−BSA)刺激を行った場合の結果を示す。
【図6】コントロール(pSUPER neo-GFPそのものを導入したRBL-2H3細胞;図ではcont.と表記)、DGKγノックダウンRBL-2H3細胞(図ではshDGKγと表記)、及びDGKαノックダウンRBL-2H3細胞(図ではshDGKαと表記)の、脱顆粒時(即ち抗原(DNP−BSA)処理時)における細胞内カルシウム濃度を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0012】
本発明により、DGKγ発現をノックダウンすると、マスト細胞(肥満細胞)や好塩基球において脱顆粒が抑制されることが見出された。そして、上述の通り、脱顆粒が起こると、ヒスタミン等の物質が分泌され、アレルギー反応を引き起こすことが知られている。従って、DGKγ活性を抑制することにより脱顆粒を抑制することができるため、DGKγ活性を抑制する物質は、抗アレルギー効果を有する。
【0013】
本発明のスクリーニング方法は、当該新知見に基づいて完成されたものである。具体的には、本発明は、ジアシルグリセロールキナーゼγ(DGKγ)活性を抑制する被験物質をスクリーニングする工程を含む、抗アレルギー剤のスクリーニング方法に係る。DGKγ活性を抑制する物質は、脱顆粒を抑制するため、抗アレルギー効果を有すると判定することができる。よって、本発明のスクリーニング方法は、DGKγを抑制する被験物質を抗アレルギー剤としてスクリーニングする方法ともいえる。また、本発明は、被験物質がDGKγ活性抑制効果を有する場合に、該被験物質はアレルギー抑制効果を有すると判定する方法も好ましく包含する。
【0014】
DGKγ活性を抑制する被験物質をスクリーニングする工程について、さらに詳述する。
【0015】
DGKγは、上述の通り、哺乳類が有する10種のDGKサブタイプの1種であり、EF-hand及びRVH doaminを有し(図1参照)、活性にカルシウムを要する。例えば、ヒト(NM_001346.2)、マウス(NM_138650.2)、ラット(NM_013126.1)等で見出されている(括弧内はNCBIのアクセッションNo.を示す)。また、ヒト、マウス、ラットのDGKγのアミノ酸配列を、それぞれ配列番号27、28、29に示す。 本発明におけるDGKγとしては、公知のDGKγであれば特に制限されず、例えば上述のアミノ酸配列からなるポリペプチド(即ち上述のヒト、マウス、ラットのDGKγ)を用いることができる。また、公知のDGKγのアイソフォームも用いることができる。さらにまた、公知のDGKγのアミノ酸配列において、1又は複数個(例えば2〜20個、より具体的には例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15個)のアミノ酸が置換、欠失、又は付加され(置換、欠失、付加はそれぞれ一つのポリペプチドにおいて同時に起こっていてもよく、前述のアミノ酸数は、置換数、欠失数、及び付加数の合計を表す)、且つ脱顆粒(好ましくはマスト細胞又は好塩基球における脱顆粒)を抑制するポリペプチドも、本発明のDGKγとして用いることができる。
【0016】
本発明のスクリーニング方法における被験物質は、特に制限はされない。例えば、低分子化合物、高分子化合物(ペプチド、タンパク質、糖鎖等の生体高分子化合物を含む)等の化合物であり得る。
【0017】
被験物質が、DGKγ活性を抑制するか否かを判定する方法は、特に制限はされない。DGKγは、上述の通りキナーゼの1種であり、キナーゼ活性を有しており、ジアシルグリセロール(DG)をリン酸化しフォスファチジン酸(PA)を産生する反応を引き起こす。また、このリン酸化反応の際、ATP(アデノシン三リン酸)はADP(アデノシン二リン酸)へと変換される。従って、DGKγ活性を測定するには、DGをPAへ変換する活性、又はATPをADPへと変換する活性、のいずれかを測定すればよい。
【0018】
より詳細には、例えば、(i)DG及びATPを含む溶液にDGKγを加えた系、及び(ii)DG及びATPを含む溶液にDGKγ及び被験物質を加えた系、の2種類の反応系において、上記反応(DGをリン酸化しPAを産生する反応)を進行させ、DGの減少量又はPAの生産量、あるいはATPの減少量又はADPの生産量、を測定し、(i)と(ii)とで、これらのいずれかの測定値を比較することによって、該被験物質のDGKγ活性抑制能を測定できる。つまり、〔α〕DGの減少量又はATPの減少量を測定した場合は、系(i)における測定値よりも系(ii)における測定値(減少量)が小さい場合、該被験物質はDGKγ活性抑制能を有すると判定でき、また、〔β〕PAの生産量又はADPの生産量を測定した場合は、系(i)における測定値よりも系(ii)における測定値(生産量)が小さい場合、該被験物質はDGKγ活性抑制能を有すると判定できる。また、測定値の大きさから、該被験物質のDGKγ活性抑制能の強弱をも判定できる。つまり、〔α〕DGの減少量又はATPの減少量を測定した場合は、系(i)における測定値よりも系(ii)における測定値が小さいほど、該被験物質のDGKγ活性抑制能は強く、〔β〕PAの生産量又はADPの生産量を測定した場合は、系(i)における測定値よりも系(ii)における測定値が小さいほど、該被験物質のDGKγ活性抑制能は強い、と判定できる。
【0019】
DGKγ活性抑制能を有する被験物質は、脱顆粒を抑制するため、抗アレルギー効果を有する。よって、DGKγ活性抑制能を有する被験物質を選択することにより、抗アレルギー剤として用い得る物質をスクリーニングすることができる。また、DGKγ活性抑制能が強い物質ほど、抗アレルギー効果も強いと考えられる。
【0020】
なお、反応系に用いる液(すなわち、DG、ATP、及び被験物質を溶解させる溶液)は、緩衝水溶液であることが好ましい。例えば、グッド緩衝剤(Good's buffer:グッドバッファー)の水溶液であることが好ましく、中でもMOPS水溶液が好ましい。
【0021】
DGの減少量又はPAの生産量、あるいはATPの減少量又はADPの生産量、を測定する方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜選択して用いることができる。
【0022】
例えば、DGの減少量又はPAの生産量の測定には、DG又はPAに特異的な抗体を用いて、ウエスタンブロッティング法やELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法により、DG量又はPA量を測定する方法が例示される。
【0023】
また、例えば、ATPの減少量又はADPの生産量の測定には、ルシフェラーゼを用いたATP又はADP量を測定するキットが他種類市販されているので、それらを利用することができる。このようなキットとしては、例えばADP-GloTM Kinase and Max Assay (Promega)等が例示される。
【0024】
なお、これらの測定において、用いられるDGは特に制限はされず、公知のジアシルグリセロールを適宜選択して用いることができる。例えば、1,2-dioleoyl-sn-glycerolを用いることができる。また、DGKγの活性化には、活性化剤としてホスファチジルセリン及び/又はカルシウムイオンが必要といわれているため、反応系には、このDGKγ活性化剤(ホスファチジルセリン及び/又はカルシウムイオン)を加えることが好ましい。またさらに、DGKγは水溶性である一方、基質であるDGは脂溶性であるため、反応効率がよくない場合がある。そこで、これらを効率よく反応させるため、反応を阻害しない範囲で、反応系に界面活性剤を適当量加えることが好ましい。このような界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤が好ましく、例えばn-octyl-β-d-glucosideが例示される。
【0025】
また、測定に用いるDGKγは、公知のタンパク質発現方法及び精製方法を用いて製造することができる。例えば、GST−DGKγ(グルタチオン−S−トランスフェラーゼとDGKγの融合タンパク質)をコードするcDNAをバキュロウイルスに組み込み、これを昆虫細胞に感染させ、感染細胞抽出液を得た後、グルタチオンセファロースカラムを用いて感染細胞抽出液を精製することで製造することができる。なお、このようにして製造したGST−DGKγは、GSTが融合されたままでも十分な活性を有するが、必要に応じてfactor Xa(プロテアーゼ)によりGSTタグを切断してから用いることが好ましい。
【0026】
また、さらに、特に必要な訳ではないが、DGKγ活性の抑制能が確認された被験物質が、他のDGKサブタイプの機能を抑制しないことが好ましい。他のDGKサブタイプの活性を抑制しなければ、当該被験物質を抗アレルギー剤(“抗アレルギー剤の有効成分”との意味を含む)として用いた場合に、副作用が低減されることが期待されるからである。
【0027】
よって、本発明の抗アレルギー剤のスクリーニング方法は、(a)ジアシルグリセロールキナーゼγ(DGKγ)活性を抑制する被験物質をスクリーニングする工程、及び(b)DGKγ以外のDGKサブタイプ活性を抑制しない被験物質をスクリーニングする工程、を含む、抗アレルギー剤のスクリーニング方法をも、好ましく包含する。ここでの工程(a)及び工程(b)はいずれを先に行ってもよく、一方の工程でスクリーニングされた被験物質を、もう一方の工程へ供することが好ましい。工程(a)でスクリーニングされた被験物質を、工程(b)へ供することが、より好ましい。なお、工程(b)における「DGKγ以外のDGKサブタイプ」とは、DGKγ以外の少なくとも1種のDGKサブタイプをいう。すなわち、DGKα、β、δ、η、κ、ε、ζ、ι、及びθからなる群より選択される少なくとも1種のDGKサブタイプである。
【0028】
DGKγ以外のDGKサブタイプ活性を抑制しない被験物質をスクリーニングする工程については、例えば、上記の反応系((i)(ii))において、DGKγの代わりに、各種DGKサブタイプが発現した細胞(但しDGKγ発現はノックダウン又はノックアウトされている)の溶解液を用いることにより、当該被験物質が各種DGKサブタイプの活性を抑制するか否か測定することで、行うことができる。DGKγ以外の各種DGKサブタイプが発現した細胞溶解液のキナーゼ活性抑制能を測定し、抑制能を有する場合は、当該被験物質はDGKγ以外のDGKサブタイプの活性をも抑制することがわかり、逆に、抑制能を有さない場合は、当該被験物質はDGKγ以外のDGKサブタイプの活性は抑制しない(すなわち、当該被験物質はDGKγ特異的活性抑制能を有する)ことがわかる。上述の通り、DGKγ特異的活性抑制能を有する物質は、抗アレルギー剤として用いた場合に副作用の虞が小さいと考えられるため、好ましい。
【0029】
なお、DGKγ以外のDGKサブタイプが発現した細胞は、例えば、DGKγの発現が抑制された細胞を得、さらに当該細胞において各種DGKを発現させることにより、得ることが出来る。DGKγの発現が抑制された細胞としては、DGKγ遺伝子の発現を公知の方法(例えばジーンターゲティング法、RNAi法等)により恒常的に抑制した細胞が例示される。より具体的には、例えば実施例に記載のDGKγノックダウンRBL−2H3細胞が例示される。このようなDGKγの発現が抑制された細胞に、例えば、各種DGKサブタイプをコードするプラスミドを導入することで、DGKγ以外の特定のDGKサブタイプが発現した細胞を得ることができる。
【0030】
上述のように、ジアシルグリセロールキナーゼγ(DGKγ)活性を抑制する被験物質は、脱顆粒を抑制するため、抗アレルギー効果を有する。従って、当該被験物質が有する抗アレルギー効果は、脱顆粒(特に肥満細胞、好塩基球、又は好酸球、或いはこれら由来の細胞における脱顆粒)に起因するアレルギーに対して特に有効である。従って、本発明のスクリーニング方法でスクリーニングされる抗アレルギー剤は、脱顆粒に起因するアレルギー用の抗アレルギー剤として好ましい。脱顆粒に起因するアレルギーとしては、特に制限されないが、例えば、花粉症、アトピー性皮膚炎、喘息、及び鼻炎からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく例示される。
【0031】
このようにして得られたアレルギー効果を有する被験物質を含有する、抗アレルギー組成物も本願発明に包含される。さらにまた、本発明は、DGKγ阻害剤(公知のDGKγ阻害剤でもよい)を含む、抗アレルギー組成物を包含する。公知のDGKγ阻害剤としては、例えばR59949(構造式は下述)が例示される。本発明の抗アレルギー組成物は、少なくとも、当該アレルギー効果を有する被験物質、又は公知のDGKγ阻害剤と、薬学的に又は衛生学的に許容される担体を含む。このような抗アレルギー組成物は、例えば医薬組成物、化粧品組成物、食品組成物等として用いることができる。医薬組成物として用いる場合は、投与形態は適宜設定することができ、例えば経口投与、経血管投与(静脈投与、動脈投与、皮下投与等)等であり得る。当該抗アレルギー組成物は、当該抗アレルギー効果を有する被験物質を適当量含んでおり、例えば0.1〜99.9重量%含み得る。
【0032】
上述のように、本願発明の最大の特徴の一つは、DGKγ活性を抑制することにより脱顆粒を抑制することができるため、DGKγ活性を抑制する物質は抗アレルギー効果を有することを見出した点にある。よって、DGKγ活性抑制効果が強い物質ほど、抗アレルギー効果も強いと考えられる。従って、本願発明は、下述する発明をも包含する。
【0033】
本願発明は、被験物質がDGKγ活性抑制効果を有する場合に、該被験物質はアレルギー抑制効果を有すると判定する方法を包含する。被験物質が、DGKγ活性抑制効果を有するか否かは、上述したようにして判定することができる。
【0034】
また、本願発明は、被験物質のDGKγ活性抑制効果の強弱を指標として、当該被験物質の抗アレルギー効果の強弱を判定する方法を包含する。被験物質の、DGKγ活性抑制効果の強弱は、上述したようにして判定することができる。
【0035】
また、本願発明は、被験物質を適用した生体(細胞、組織、又は個体)において、DGKγ活性が抑制される程度を指標として、アレルギー症状改善度合を判定する方法を包含する。被験物質を細胞や組織に適用する場合においては、DGKγ活性が抑制される程度は、上述したようにして測定することができる。被験物質を個体(例えば哺乳動物:ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ、ヤギ、ブタ等)に適用する場合においては、当該個体のDGKγ発現細胞(肥満細胞、好塩基球、又は好酸球等)を公知の方法(例えばバイオプシー、又は採血及びフローサイトメーター)により採取し、当該細胞中のDGKγ活性を、例えば上述の方法と同様にして測定することで、DGKγ活性が抑制される程度を測定することができる。また、この場合、DGKγは臨床バイオマーカーとして用いられることとなる。よって、本願発明は、臨床バイオマーカーとしてのDGKγの使用も包含する。
【0036】
また、本願発明は、ジアシルグリセロールキナーゼγ(DGKγ)活性を抑制する被験物質をスクリーニングする工程を含む、脱顆粒抑制剤のスクリーニング方法も包含する。
【0037】
また、本願発明は、抗アレルギー剤のスクリーニング用キットを包含する。当該キットは、DGKγ活性を抑制する被験物質をスクリーニングすることで、抗アレルギー剤をスクリーニングするために好ましく用いることができるキットである。よって、当該キットは、被験物質のDGKγ活性抑制効果を測定するために有利な試薬を備える。当該試薬としては、例えば、DGKγの基質であるDG(例えば1,2-dioleoyl-sn-glycerol)、ATP、反応系調製のための緩衝剤又は緩衝水溶液、ATP量測定のためのルシフェラーゼ、DGKγ活性化剤(ホスファチジルセリン及び/又はカルシウムイオン)、界面活性剤(例えばn-octyl-β-d-glucoside)、又は精製DGKγ等が挙げられる。好ましくは、本発明のキットはDGKγ(特に精製済みDGKγ)を備えており、より好ましくは、本発明のキットはDG、ATP、緩衝剤又は緩衝水溶液、ルシフェラーゼ、DGKγ活性化剤(ホスファチジルセリン及び/又はカルシウムイオン)、界面活性剤(例えばn-octyl-β-d-glucoside)、及びDGKγ(好ましくは精製DGKγ)からなる群より選択される少なくとも1種を備える。なお、DGKγをキットに付属する試薬とする場合、適当な緩衝液(例えばPBS、トリス緩衝液等)に溶解させ、冷蔵(例えば−20℃)状態でキットに備えられることが好ましい。
【0038】
またさらに、本発明では、DGKγ阻害剤は、DGKγの活性を抑制して細胞(例えば肥満細胞、好塩基球等)内カルシウム濃度の上昇を抑制することにより、脱顆粒を抑制することが見出された。従って、本発明は、ジアシルグリセロールキナーゼγ(DGKγ)活性を抑制する被験物質をスクリーニングする工程を含む、細胞内カルシウムイオン濃度上昇抑制剤のスクリーニング方法も包含する。また、本発明は、被験物質がDGKγ活性抑制効果を有する場合に、該被験物質は細胞内カルシウムイオン濃度上昇抑制効果を有すると判定する方法も包含する。さらに、本発明は、被験物質のDGKγ活性抑制効果の強弱を指標として、当該被験物質の細胞内カルシウムイオン濃度上昇抑制効果の強弱を判定する方法も包含する。そして、本発明は、DGKγを備える細胞内カルシウムイオン濃度上昇抑制剤スクリーニング用キットも包含する。これらの発明における諸条件は、上記の、抗アレルギー剤のスクリーニング方法、アレルギー抑制効果を有すると判定する方法、被験物質の抗アレルギー効果の強弱を判定する方法、及び抗アレルギー剤スクリーニング用キット、と同様である。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0040】
検討例1:DGK阻害剤の脱顆粒抑制効果の検討
DGK阻害剤の脱顆粒抑制効果を検討した。当該検討では、DGK阻害剤として、特にタイプIのDGK活性を阻害することが知られている化合物R59949(構造式を下に示す)をcalbiochemより購入して用いた。また、当該検討には、マスト細胞モデルとして広く用いられている、ラット好塩基球性白血病細胞(RBL-2H3細胞)を用いた。また、当該検討を含め、以下の実験で用いたSiraganian buffer (SB)(pH7.2,119 mM NaCl, 5 mM KCl, 0.4 mM MgCl2, 25 mM PIPES)は、特に表記しない場合、37℃のものを用いた。
【0041】
【化1】

【0042】
まず、培養中のRBL-2H3細胞をトリプシン処理により剥して回収し、5×105 cells/mlとなるよう、牛胎児血清(FCS)含有PRMI1640培地を用いて希釈し、細胞懸濁液を得た。当該細胞懸濁液を100μlずつ96 well plateに播き、CO2インキュベーターで一晩培養した。なお、培地には終濃度100μg/mlとなるようにIgEを加えた。
【0043】
培養後、各wellの培地を除去し、100μlのSiraganian buffer(SB)を用いて2回washした。そして、各wellに、(i)0.1%TrironX-100を100μl、又は(ii)各濃度(0、1、10、50、若しくは100μM)のR59949を含むSBを加え、37℃湯浴にて15分間incubateした。そして、(ii)のwellには、終濃度が50 ng/mlになるよう抗原DNP-BSA(2,4-Dinitrophenyl ハプテンがBSA(Bovine Serum Albumin)のリジン残基に結合したもの)を50μl加えた(すなわち、100 ng/mlのDNP-BSAを50μl加えた)。(i)はコントロールであり、(ii)は各測定サンプルである。
【0044】
適当な時間(15分程度)が経過したところでplateを氷上に移し、4℃のSBを150μl加えて反応を停止させた。氷上で5分間静置させた後、各wellから上清50μlをとって新しいプレートに移した。そして濃度が5mMになるよう p-nitrophenyl-N-acetyl-β-D-glucosaminide(p-NAG;β−ヘキソサミニダーゼの基質であり、β−ヘキソサミニダーゼにより生成するp-nitrophenol(p-NAGの分解物)の405nmにおける吸光度を測定することで、β−ヘキソサミニダーゼ活性を測定するため用いられる)を0.2 Mクエン酸バッファーに溶解し、これを50μlずつ、前述の上清を回収したプレートの各wellに加え、37℃で1時間incubateした。0.2 M Trisを150μl加えて十分な発色を確認してから、プレートリーダーを用いて405 nmの吸光度を測定した。(i)コントロールの吸光度を100とした場合の、(ii)各サンプルの吸光度をグラフ化した図を図2に示す。
【0045】
なお、β−ヘキソサミニダーゼは、脱顆粒により顆粒中から放出されることが知られている顆粒内酵素であり、β−ヘキソサミニダーゼ活性は脱顆粒の指標の一つとして広く用いられている。つまり、本検討では、β−ヘキソサミニダーゼ活性が低いほど、脱顆粒が抑制されていることになる。
【0046】
また、肥満細胞や好塩基球は、細胞表面の受容体に結合しているIgE抗体を介して抗原と反応し、脱顆粒を起こすことが知られている。本検討では、培養時にIgEを培地に加えておくことでRBL-2H3細胞表面の受容体にIgEを結合させておき、さらに抗原(DNP-BSA)を加えることで脱顆粒を誘導させている。よって、本検討においては、DNP-BSAを加えた細胞のβ−ヘキソサミニダーゼ活性を測定することにより、R59949がどの程度脱顆粒を抑制したかがわかる。なお、カルシウムイオノフォアが、脱顆粒を誘導することが知られているので、カルシウムイオノフォアを脱顆粒の誘導のため用いることもできる。公知のカルシウムイオノフォアとしては、例えばイオノマイシンが挙げられる。
【0047】
また、0.1%TrironX-100を加えた細胞は、細胞膜が溶解し内容物が放出される。よって、TrironX-100を加えた細胞では、細胞に含まれる全てのβ−ヘキソサミニダーゼの活性(総β−ヘキソサミニダーゼ活性)が測定される。
【0048】
図2から、DGK阻害剤(R59949)が脱顆粒を抑制できること、及びDGK阻害剤が濃度依存的に脱顆粒を抑制できる(即ち、DGK阻害剤濃度が高いほど、脱顆粒抑制効果が高い)ことが確認できた。
【0049】
検討例2:RBL−2H3細胞に存在するDGKサブタイプの検討
R59949が、どのDGKサブタイプを阻害したのかを明らかにするため、まず、RBL-2H3細胞に発現しているDGKサブタイプを同定した。具体的には、RBL-2H3細胞からmRNAを抽出し、RT−PCRを行った。なお、R59949は、タイプIのDGK(即ち、DGKα、β、及びγ)を阻害することが知られているため、R59949が阻害したDGKはDGKα、β、又はγであると考えられたが、その他のDGKサブタイプが発現しているかどうかについても、併せて検討した。
【0050】
RBL-2H3細胞はラット由来細胞であるため、ラットの各DGKをRT−PCRにより検出できるよう、表1に示す9セットのプライマーセットを作成した。プライマー合成は、北海道システム・サイエンス社に依頼した。なお、各プライマーの塩基配列の後の括弧に、各DGKの遺伝子における各プライマーの位置(即ち、何塩基目に作成されたプライマーか)を示す。
【0051】
【表1】

【0052】
RBL-2H3細胞からのRNA抽出は、SV Total RNA Isolation System (Promega)を用いて行った。また、ThermoScriptTM RT-PCR System (Invitrogen)を用いて、抽出したRNAからcDNAを合成及び抽出した。得られたcDNAは、260nm吸光度を測定して濃度を算出した(A260=50μg/mlから算出)。
【0053】
また、RT-PCRは、表2示すミックスを表3に示す温度設定でApplied Biosystems 2720 サーマルサイクラー (Applied Biosystems) を用いて反応させて、行った。
【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
RT−PCRによる増幅産物をアガロースゲル電気泳動により確認した結果を図3に示す。図3より、RBL-2H3細胞では、DGKα、γ、δ、ε、ζ、及びθが発現していることがわかった。また、R59949は、タイプIのDGK(即ち、DGKα、β、及びγ)を阻害する化合物であることから、検討例1においてR59949が阻害したDGKはDGKα又はDGKγであることがわかった。
【0057】
検討例3:DGKノックダウンRBL−2H3細胞における脱顆粒抑制効果の検討
検討例1においてR59949が阻害したDGKがDGKα及びDGKγのいずれであるか(或いは両方かを)同定するため、DGKαノックダウンRBL−2H3細胞、及びDGKγノックダウンRBL−2H3細胞のstable cell lineを作製した。また、参考のため、DGKδ及びεについても、同様にノックダウンRBL−2H3細胞を作製した。
【0058】
具体的には、各DGKサブタイプ遺伝子を特異的にノックダウンするshRNA(ショートヘアピンRNA)を恒常的に発現するよう、RBL−2H3細胞を形質転換することで、各DGKノックダウンRBL−2H3細胞を作製した。
【0059】
<shRNA発現ベクターの作製>
より詳細には、次のようにして作製した。まず、各DGKサブタイプ遺伝子のshRNAのターゲットサイトを選択した。選択した各ターゲットサイトを表4に示す。
【0060】
【表4】

【0061】
そして、ターゲットサイト配列とその逆向きの配列がリンカー部で結合され、さらに5’側に制限酵素BglIIによる切断時の粘着末端部(gatc)を有するオリゴヌクレオチドをforward oligoとした。また、5’側の制限酵素粘着末端部(gatc)を除いたforward oligoと相補的な配列に、さらに制限酵素HindIIIによる切断時の粘着末端部(agct)を付したオリゴヌクレオチドをreverse oligoとした。forward oligo及びreverse oligoの合成はinvitrogenに外注した。
【0062】
DGKαを例にとると、forward oligo及びreverse oligoとして、以下に示すオリゴヌクレオチドを使用した。
【0063】
【表5】

【0064】
また、DGKγの場合は、forward oligo及びreverse oligoとして、以下に示すオリゴヌクレオチドを使用した。
【0065】
【表6】

【0066】
なお、他のサブタイプのshRNA作製においても、リンカー部配列(ttcaagag)及び末端部位への付加塩基配列(cccやttttta)は、同じものを用いた。
【0067】
1μlのforward oligo及び1μlのreverse oligo、並びに48μlのannealing buffer (100 mMNaCl, 50 mM HEPES pH7.4)を混ぜ、以下の条件で反応(アニール)させた。
Annealing 条件
90℃ 4min
70℃ 10min
37℃ 20min
10℃ 10min
【0068】
annealing産物(DGKα及びγの場合、以下のようになる)をベクター(プラスミド)pSUPER neo−GFP(oligoengine)のBglII−HindIIIに組み込んだ(以下当該ベクターを「shRNA発現ベクター」ともいう)。
【0069】
【表7】

【0070】
【表8】

【0071】
なお、作製した各shRNA発現ベクターは、コンピテントセル(大腸菌)DH5αへヒートショック(42℃で30秒間)により導入し、当該ベクターを大量調製してBglII−HindIIIで切断し、所望の配列が挿入されていることを確認した。
【0072】
<DGKノックダウンRBL−2H3細胞の作製>
Lonza社遺伝子導入システムを用いて、RBL−2H3細胞(2×10cell)へ各shRNA発現ベクターを、それぞれ5μgずつ形質導入した。そして、500μMのG418含有培地を用いて培養し、shRNA発現ベクターにより形質転換されたRBL−2H3細胞をセレクションした。当該形質転換RBL−2H3細胞から、上述と同様にしてRNAを抽出し、cDNAを合成した。当該cDNAをテンプレートとし、表1のプライマーセットを用いてPCRを行い、各DGK遺伝子がノックダウンされていること(具体的には、PCR増幅産物が有意に減少していること)を確認した。以上のようにして、各DGKサブタイプがノックダウンされたstable cell line RBL-2H3細胞を得た。
【0073】
なお、コントロールとして用いるため、pSUPER neo-GFPそのものを導入したRBL-2H3細胞も調製した。
【0074】
<DGKノックダウンRBL-2H3細胞におけるDGK阻害剤の脱顆粒抑制効果の検討>
検討例1と同様にして、各DGKサブタイプノックダウンRBL-2H3細胞(及びpSUPER neo-GFPそのものを導入したRBL-2H3細胞:コントロール)における、DGK阻害剤(R59949)の脱顆粒抑制効果をβ−ヘキソサミニダーゼ活性を指標として検討した。但し、細胞培養培地には500μMのG418を加えた。結果を図4及び図5に示す。
【0075】
DGKγノックダウンRBL-2H3細胞では、β−ヘキソサミニダーゼ活性がコントロールの50%以下まで低下した。一方、DGKαノックダウンRBL-2H3細胞では、β−ヘキソサミニダーゼ活性に変化は無かった(図4)。なお、DGKδノックダウンRBL−2H3細胞、及びDGKεノックダウンRBL−2H3細胞でも、β−ヘキソサミニダーゼ活性に変化は無かった(図5)。以上のことから、DGKサブタイプの中でも、DGKγのみが脱顆粒に関する機能を有しており、DGKγ発現を抑制することで脱顆粒を抑制できることがわかった。
【0076】
検討例4:DGKノックダウンRBL−2H3細胞における脱顆粒抑制メカニズムの検討
DGKγによる脱顆粒メカニズムを調べるために、コントロール(pSUPER neo-GFPそのものを導入したRBL-2H3細胞)、DGKγノックダウンRBL-2H3細胞、及びDGKαノックダウンRBL-2H3細胞の、脱顆粒時(即ち抗原(DNP−BSA)処理時)における細胞内カルシウム濃度を測定した。具体的には、細胞内カルシウムの濃度は、Quest Rhod-4 AM(ATT bioquest)を細胞内に取り込ませ、定法に従ってRhodamineの蛍光を共焦点レーザー顕微鏡を用いて経時的に測定した。なお、細胞内カルシウム濃度の上昇が脱顆粒に関わっていることが知られている。
【0077】
結果を図6に示す。脱顆粒時の細胞内カルシウム濃度は、DGKαノックダウンRBL-2H3細胞ではコントロールと同様であったが、DGKγノックダウンRBL-2H3細胞では顕著に低下した。このことから、DGKγをノックダウンした細胞で脱顆粒が抑制された原因は、カルシウム上昇が起こらないためであることが判明した。そして、DGKγは、細胞内カルシウム濃度の上昇のために重要な働きを有することもわかった。
【0078】
DGKγ活性抑制物質のスクリーニング方法
以下に、DGKγ活性抑制物質をスクリーニングする方法の一態様を詳述する。
【0079】
以下の〔I〕及び〔II〕を適当な容器に添加し、窒素気流で乾固させる。
〔I〕2.5μl×測定本数分 1,2-dioleoyl-sn-glycerol(5mg/ml (8 mM)→final 5.4 mol%) (Sigma D0138)
〔II〕8.32μl×測定本数分 phosphatidylserine(10mg/ml (12 mM)→final 27 mol%)(Sigma S6641)
【0080】
次に、当該容器に、5×反応液(250mM MOPS(pH7.2)、100mMNaF、5mMdithiothreitol(DTT))、n-octyl-b-D-glucoside(250mM)(Dojindo 344-05034)、CaCl (5μM)をそれぞれ1μlずつ加え、容器に含まれている乾固物を溶解させる。溶解させるため、軽くvortexした後、sonication(4℃,1min)し、容器の底に何も残っておらず、溶液が透明であることを確認することが好ましい。
【0081】
このようにして得られた溶液を、あらかじめ被検物質が入っている384穴plateのそれぞれのwellに3μlずつ添加し、さらに、バキュロウイルスを用いて発現させたのちに、精製したDGKγを溶解した溶液をそれぞれのwellに1μlずつ添加する。
【0082】
そして、ATP/MgCl溶液(ATPを1mM、MgClを50mM含む)を、それぞれのwellに1μlずつ加え、30℃で30分間インキュベートする。(この工程で、DGKγがDGである1,2-dioleoyl-sn-glycerolをリン酸化し、ATPはADPになる。)
ADP-GloTM Reagent (ADP-GloTM Kinase Assay, Promega社)をそれぞれのwellに5μlずつ添加し、反応を停止させ、40分間室温で静置する。(この工程により、リン酸化反応が停止し、残存ATPを枯渇させる。)
Kinase Detection Reagent(ADP-GloTM Kinase Assay, Promega社)をそれぞれのwellに10μlずつ添加し、60分間室温で静置する(この工程により、ADPがATPへと変換され、当該ATPを用いてルシフェラーゼ/ルシフェリンカップリングが起こり、発光する)。
【0083】
発光量を測定(例えば、Shaking:30sec(low,orbital)を用いる)することで、DGKγ活性の抑制の程度を測定する。以上の工程から明らかなように、DGK活性が抑制されると、発光が弱くなる。従って、発光量が小さくなる場合、用いた被験物質がDGKγ活性抑制能を有することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアシルグリセロールキナーゼγ(DGKγ)活性を抑制する被験物質をスクリーニングする工程を含む、抗アレルギー剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記抗アレルギー剤が、脱顆粒に起因するアレルギー用の抗アレルギー剤である、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
細胞の脱顆粒に起因して起こる疾患が、花粉症、アトピー性皮膚炎、喘息、及び鼻炎からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
(a)DGKγ活性を抑制する被験物質をスクリーニングする工程、及び(b)DGKγ以外のDGKサブタイプ活性を抑制しない被験物質をスクリーニングする工程、を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の抗アレルギー剤のスクリーニング方法。
【請求項5】
被験物質がDGKγ活性抑制効果を有する場合に、該被験物質はアレルギー抑制効果を有すると判定する方法。
【請求項6】
被験物質のDGKγ活性抑制効果の強弱を指標として、当該被験物質の抗アレルギー効果の強弱を判定する方法。
【請求項7】
DGKγを備える、抗アレルギー剤スクリーニング用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−5768(P2013−5768A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141585(P2011−141585)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】