説明

DHAエステルならびに心血管疾患の治療および予防におけるその使用

本発明は、ドコサヘキサエン酸エスエルであって、有利には下式(I)のニコチニルアルコール、下式(II)のパンテノール、および下式(III)のイノシトールからなるビタミンB群もしくはプロビタミンの中から選択されるアルコールとの、または下式(IV)のイソソルビドもしくは下式(V)の一硝酸イソソルビドとのドコサヘキサエン酸エステルに関する。本発明はまた、これらの製造方法、これらを含んでなる医薬組成物、および心血管疾患、特に、心房細動の治療または予防におけるこれらの使用に関する。


【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、ニコチニルアルコール(B3)、パンテノール(B5)もしくはイノシトール(B7)などのビタミンB群またはプロビタミンの中から選択されるアルコール、あるいはイソソルビドまたは一硝酸イソソルビドとのドコサヘキサエン酸(DHA)エステルに関する。特に、ピリジン−3−イルメチルドコサヘキサエノエート、ならびに心血管疾患の治療および予防における薬剤としてのそれらの使用に関する。
【0002】
ω−3多価不飽和脂肪酸、特に、EPAおよびDHA、有利にはエチルエステルの形態で精製および濃縮されたものは、ある種の心血管疾患の治療に、また、対応するリスク因子の調整における、それらの潜在的使用に関して知られている。特に、それらは高脂血症、高コレステロール血症および高血圧症の治療において知られている。心筋梗塞患者に対して高濃度のEPAおよびDHAエチルエステルを含有する処方物を用いて行った臨床試験では、罹患率、特に突然死の減少におけるそれらの有効性が示された。これらの結果は、1つには、心室の心筋細胞の細胞膜に対する安定化作用に帰され、これは梗塞後の患者またはこのような症状を再現する試験モデルにおいて見られるような、虚血筋細胞の存在下での有害な不整脈の出現を防ぐ。
【0003】
さらに、特許出願WO2004/047835によれば、DHAおよびEPAエチルエステルが心房細動の予防に使用することができることも知られている。しかしながら、驚くことに、本願の発明は、DHAおよびEPAは心房細動に対して同じ作用を持たず、DHAはEPAよりも心房細動に対してより大きな作用を有することを見出した。よって、心房細動の治療において、そして疑いなくほとんどの心血管疾患の治療において、DHAとEPAの混合物よりもDHA単独の方が有利である。
【0004】
ビタミンB群は極めて多様な分子種に属する水溶性分子であるが、総てのものが主要機能として、いずれの場所でも、代謝において酵素活性を制御する能力を持っている。これらのビタミンは、チアミン(B1)、リボフラビン(B2)、ナイアシン(B3)、パントテン酸(B5)、ピリドキシン(B6)、ビオチン(B8)、葉酸(B9)およびシアノコバラミン(B12)と呼ばれている。
【0005】
ビタミンB群およびプロビタミンは、それらの機能に関連した利点を有している。特に、ニコチニルアルコールは、ニコチン酸(ビタミンB3)に由来するアルコールである。それはヒトの体内で急速にニコチン酸へと変換される。
【0006】
ニコチン酸は、ナイアシンとも呼ばれ、トリプトファンから合成される水溶性のビタミンB群である。しかしながら、コレステロールおよび脂質を降下させりための有効治療用量は、身体によって合成される量よりも高い。従って、コレステロールおよび/またはトリグリセリドの降下を標的とする上で、経口サプリメントが不可欠であることが分かる。
【0007】
作用機序の点で、ニコチン酸は脂肪組織からの遊離脂肪酸の放出を阻害して、肝臓への脂肪酸供給の低下をもたらすものと推測される。トリグリセリドへとエステル化される脂肪酸が少ないほど低密度リポタンパク質(LDL)に組み込まれるものが少なくなるので、LDLコレステロールレベルは低くなる。また、ニコチン酸は、おそらくこの形態のHDLコレステロールの異化作用を阻害することによって、HDLコレステロールレベルを明らかに高めることも示されている。
【0008】
特に、ニコチン酸は強い末梢血管拡張作用を有する。よって、ニコチニルアルコールをニコチン酸へ変換した後に静脈注射すると、動脈圧の降下に好ましい血管拡張がもたらされる。
【0009】
ニコチン酸はコレステロールおよび脂質を降下させるための療法に広く用いられている。
【0010】
また、例えば、スタチンなどのHMG−CoAレダクターゼ阻害剤によるコレステロールの降下が十分であると分かっていない場合には、ニコチン酸をこれらのHMG−CoAレダクターゼ阻害剤と組み合わせることができることも示されている。このような組合せは、特にスタチンによるLDLコレステロールの降下およびニコチン酸によるHDLコレステロールの上昇に、各化合物の作用からの利益が求められる場合に有益であり得る。さらに、ニコチン酸は混合型異脂肪血症の治療にも好適であり、従って、コレステロールおよびトリグリセリドの両レベルに影響を及ぼし得る。
【0011】
パンテノールは、ビタミンB5として一般に知られている、パントテン酸のアルコール誘導体である。体内で、パンテノールはパントテン酸に変換される。その後、パントテン酸は、細胞の代謝において特に着目される化合物補酵素Aの重要な部分となる。実際、それは脂質、炭水化物およびタンパク質の代謝に関与する。パンテノールはまた、アセチルコリンおよび腎ステロイドの形成にも関与する。パンテノールは異物の解毒および感染に対する抵抗性にも働く。
【0012】
イノシトール(ビタミンB7)は、脂肪の蓄積を妨げることによって脂肪を可動化する。イノシトールはまた、抗不安作用も有し、神経系および肝臓を刺激し、血中コレステロールレベルを引き下げる。イノシトールは、セロトニン活性の増強、細胞内カルシウム濃度の維持、細胞膜電位の維持および細胞骨格の組み立てに関連している。
【0013】
イソソルビド、特に、一硝酸イソソルビドは、強力な末梢血管拡張薬である。
【0014】
驚くことに、本発明者らは、ニコチニルアルコール(B3)、パンテノール(B5)およびイノシトール(B7)などのビタミンB群またはプロビタミンの中から選択されるアルコールとの、またはイソソルビドもしくは一硝酸イソソルビドとのドコサヘキサエン酸(DHA)エステル、特に、ピリジン−3−イルメチルドコサヘキサエノエート(ニコチニルアルコールとのドコサヘキサエン酸(DHA)エステルが心血管疾患に関しても著しい活性を有することを見出した。
【0015】
よって、本発明は、ドコサヘキサエン酸エスエルであって、有利には下式:
【化1】

のニコチニルアルコール、
下式:
【化2】

のパンテノール、および
下式:
【化3】

のイノシトール
からなるビタミンB群もしくはプロビタミンの中から選択されるアルコールとの、または
下式:
【化4】

のイソソルビドもしくは下式:
【化5】

の一硝酸イソソルビド
とのドコサヘキサエン酸エステルに関する。
【0016】
有利には、本発明のエステルは、下記の一般式(1):
【化6】

のピリジン−3−イルメチルドコサヘキサエノエートである。
本発明はまた、本発明のドコサヘキサエン酸エステル、特に、本発明のピリジン−3−イルメチルドコサヘキサエノエート(1)の製造方法であって、ドコサヘキサエン酸エチルエステルの、ニコチニルアルコール、パンテノール、イソソルビド、一硝酸イソソルビドおよびイノシトールの中から選択されるアルコールとの、有利にはニコチニルアルコールとのエステル交換による、方法。
【0017】
エステル交換は、当業者に周知の方法によって行うことができる。
有利には、本発明のエステル交換は触媒の存在下で行われる。有利には、このような触媒はアルカリ金属炭酸塩またはアルカリ土類炭酸塩、有利にはKCOである。有利には、DHAエチルエステルに対するアルカリ金属炭酸塩またはアルカリ土類炭酸塩のモル比は1/1〜6/1の範囲である。有利には、DHAエチルエステルに対するアルコールのモル比は1/1〜6/1の範囲であり、よりいっそう有利には、DHAエチルエステルに対するニコチニルアルコールのモル比は1/1〜6/1の範囲である。有利には、エステル交換反応は、有利にはジオキサンまたはTHFの中から選択される溶媒中で行われる(有利には、THFが選択される)。有利には、THFは窒素吹き込みにより脱気する。よりいっそう有利には、反応混合物を還流下で、有利には少なくとも14時間加熱する。
【0018】
本発明の別の特定の実施形態では、本発明のエステル交換法の触媒はリパーゼであり、有利にはカンジダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)リパーゼである。特に、このリパーゼは固定化形態である。有利には、このリパーゼはNovo Nordiskにより販売されているノボザイム(Novozyme)(登録商標)である。有利には、この反応は溶媒を含まない媒体中、または2−メチル−2−ブタノールまたはアセトニトリルなどの溶媒中、有利には、ニコチニルアルコールの場合には溶媒を含まない媒体中で、パンテノールの場合には溶媒中で行う。有利には、イノシトールの場合、使用溶媒は1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムBFまたは1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムC(CN)などのイオン性極性溶媒である。有利には、この反応は室温より高い温度、有利には60℃で行う。
【0019】
有利には、エタノールは反応中に、有利には真空下または窒素吹き込みにより、いっそうより有利には窒素吹き込みにより除去する。このようにすれば、変換率が上昇し、反応が加速化され、副次的加水分解反応が排除される。
【0020】
有利には、DHAエチルエステルに対するアルコールのモル比は1〜5の間、有利には1.5〜4.5の間である。
【0021】
有利には、この反応は1時間〜100時間の間、有利には1時間〜72時間の間、有利には1時間〜48時間の間、いっそうより有利には1時間〜3時間の間行う。
【0022】
本発明の方法の別の特定の実施形態では、エステル交換反応は無水溶媒中で、または例えば塩かリチウム、MgClもしくはシリカゲルなどの水捕捉剤の存在下、非無水溶媒中で、または乾燥雰囲気下、溶媒無しで行う。このようにすれば、副次的加水分解反応が排除される。
【0023】
有利には、エステル交換反応は、純粋なドコサヘキサエン酸エチルエステル(少なくとも95%の純度、市販されているか、またはエチルエステル脂肪酸の混合物から、当業者に周知の方法によって精製される)を用いて、あるいは少なくとも70%モルのDHAエチルエステルを含有する混合物を用いて行う。使用するDHAエチルエステルが混合物である場合には、エステル交換反応の後に得られたエステルを精製することが勧められる。
【0024】
本発明はまた、本発明のドコサヘキサエン酸エステル、特に本発明のピリジン−3−イルメチルドコサヘキサエノエートと少なくとも1種類の薬学上許容される賦形剤とを含む医薬組成物に関する。
【0025】
本発明の医薬組成物は、ヒトを含む哺乳類に投与するために処方することができる。用量は治療法および対象とする疾病によって異なる。これらの組成物は、経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、局所または直腸経路によって投与されるように調製される。この場合、有効成分は単位投与形または従来の医薬ビヒクルとの混合物として動物またはヒトに投与することができる。好適な単位用量投与形としては、錠剤、ゼラチンカプセル剤、散剤、顆粒剤および経口溶液または懸濁液、舌下および経口投与形、皮下、局所、筋肉内、静脈内、鼻腔内または眼内投与形、および直腸投与形が挙げられる。
【0026】
固形組成物が錠剤形態で調製される場合、主要な有効成分をゼラチン、デンプン、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、アラビアガム、シリカまたは類似体などの医薬ビヒクルと混合する。錠剤はスクロースまたは他の好適な材料でコーティングすることもできるし、あるいはそれらが活性の遅延または持続を示し、かつ、所定量の有効成分を継続的に放出するように処理することもできる。
【0027】
ゼラチンカプセル製剤は、有効成分と希釈剤を混合した後、得られた混合物をゼラチン軟カプセルまたは硬カプセルに充填することにより得られる。
【0028】
シロップまたはエリキシル形態の製剤は、有効成分を甘味剤、防腐剤ならびに香味剤および好適な着色剤とともに含み得る。
【0029】
水に分散可能な散剤または顆粒剤は、有効成分を、分散剤、湿潤剤または沈殿防止剤、ならびに矯味剤または甘味剤との混合物として含み得る。
【0030】
坐剤は、例えばカカオバターまたはポリエチレングリコールなどの直腸温度で融解する結合剤を用いて調製され、直腸投与に使用される。
【0031】
非経口(静脈内、筋肉内など)、鼻腔内または眼内投与に用いるものとしては、薬学上適合する分散剤および/または湿潤を含有する剤水性懸濁液、等張性生理食塩水または無菌注射溶液がある。
【0032】
有効成分はまた、所望により1種類以上の添加剤とともにマイクロカプセルの形態で処方することもできる。
【0033】
有利には、本発明の医薬組成物は、経口または静脈内経路により、心筋梗塞後の処置の場合は有利には静脈内経路により投与するためのものである。
【0034】
本発明の医薬組成物は、補足作用または可能性としての相乗作用を生じる他の有効成分を含むことができる。有利には、この医薬組成物はEPAエステルを含む。
【0035】
本発明はまた、薬剤として用いられる、本発明のドコサヘキサエン酸エステル、特に本発明のピリジン−3−イルメチルドコサヘキサエノエート、または本発明の医薬組成物に関する。
【0036】
本発明はまた、心血管疾患、有利には心調律に関する疾患(好ましくは、心調律異常または伝導異常)、好ましくは、心房および/または心室不整脈、頻脈および/または細動の中から選択されるものの予防および/または治療のため;心筋細胞の電気伝導異常によって現れる疾病の予防および/または治療のため;有利には高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、高血圧症、高脂血症、異脂肪血症、有利には混合型異脂肪血症、および/または血液凝固におけるVII因子の活性亢進の中から選択される心血管疾患の多くのリスク因子の予防および/または治療のため;心房および/または心室不整脈、頻脈、細動および/または心筋梗塞により誘発される電気伝導異常などの心血管疾患に由来する調律異常、有利には突然死の治療および/または一次もしくは二次予防のため;および/または心筋梗塞後の治療のための薬剤として用いられる、本発明のドコサヘキサエン酸エステル、特に本発明のピリジン−3−イルメチルドコサヘキサエノエート、または本発明の医薬組成物に関する。
【0037】
調律異常は、特に、洞性頻脈などの洞房結節異常;心房期外収縮、規則的心房性頻脈または心房細動などの心房不整脈;発作性接合部頻脈またはウルフ−パーキンソン−ホワイト症候群などの接合部頻脈;あるいは若年性心室収縮、心室頻脈または心室細動などの心室不整脈を含む。
【0038】
伝導異常は、特に、徐脈を含む。
【0039】
最後に、本発明は、心房細動の予防および/または治療のための薬剤として用いられる、本発明のドコサヘキサエン酸エステル、特に、本発明のピリジン−3−イルメチルドコサヘキサエノエート、または本発明の医薬組成物に関する。
【0040】
特定の理論に縛られるものではないが、本発明のドコサヘキサエン酸エステル、特に、本発明のピリジン−3−イルメチルドコサヘキサエノエートは、体内で、エステラーゼ活性を介して、アルコールおよびDHA、特に、ピリジン−3−イルメチルドコサヘキサエノエートの場合には、ニコチニルアルコールおよびDHAを放出することが明らかである。よって、本発明のドコサヘキサエン酸エステルは、DHAとアルコールの混合物と同様の活性を有することが明らかである。よって、このアルコールがビタミンB群またはプロビタミンである場合には、本発明のドコサヘキサエン酸エステルはDHAとビタミンB群またはプロビタミンの混合物と同様の効果を有すると考えられる。また、ピリジン−3−イルメチルドコサヘキサエノエートの場合、ニコチニルアルコールは体内でニコチン酸へ変換されることも明らかである。よって、本発明のピリジン−3−イルメチルドコサヘキサエノエートは、DHAとニコチン酸の混合物と同様の活性を有することが明らかである。ニコチン酸の血管拡張作用の利点は、特にピリジン−3−イルメチルドコサヘキサエノエートの静脈内注射の場合に、ニコチニルアルコールがニコチン酸へ変換された後、末梢において最も満足のいくDHAの分布が得られることである。
【0041】
本発明は、以下の図面および実施例を参照すれば、よりよく理解できる。
【0042】
図1は、60℃にて、アルコール/エステル比3のノボザイム(登録商標)200mgの存在下でエステル交換反応を行った際のDHA−EE消費%を、実施例3.1(開放試験管)、3.2(真空下)および3.3(窒素吹き込み下)に関して、時間の関数として表したものである。
【0043】
以下に非限定例を示す。
【実施例】
【0044】
実施例1:KCOを用いたピリジン−3−イルメチルドコサヘキサエノエートの合成
1g(2.8mmol)のエチルドコサヘキサエノエート(純度95%以上;Interchimにより提供)を、1.53g(11mmol)の粉砕KCOおよび1.06ml(10.9mmol)のニコチニルアルコール(純度98%以上;Acrosにより提供)の存在下、窒素吹き込みにより脱気した5mlのTHF中に入れる。この反応混合物を7時間、還流下で加熱した後、0.76g(5.5mmol)のKCOを加え、加熱を7時間続ける。
【0045】
冷却後、反応混合物を水に取り、次いで、酢酸エチルで抽出する。有機相をMgSOで乾燥させ、濾過した後、濃縮乾固した。得られた残渣をシリカフラッシュクロマトグラフィー(CHCl→90/10CHCl/酢酸エチル勾配、15分)により精製する。透明な油状物が単離される(0.84g、収率71%)。
シリカゲルTLC60F 254 Merck、90/10CHCl/AcOEt、Rf=0.35。
【0046】
実施例2:リパーゼを用いたピリジン−3−イルメチルドコサヘキサエノエートの合成
反応は総て、各酵素に最適な温度で、不連続混合反応器(磁気混合)で行う。
【0047】
用いた生成物は次の通りである;
DHAエチルエステル(DHA−EE)中に70%まで濃縮されたエチルエステル混合物(Croda Chemical Ltd.により販売)(以下、「70%DHA−EEエステル混合物」と呼ぶ);
Novo Nordiskにより販売されているカンジダ・アンタルクチカの固定化形態のリパーゼ、ノボザイム(登録商標);
ニコチニルアルコール。
反応混合物は次のいずれかである:
基質のみを用いる、溶媒を用いない媒体;または
種々の溶媒を用いる有機媒体。
【0048】
この有機媒体に用いられる溶媒は、
多価不飽和脂肪酸エステルなどの疎水性化合物とニコチニルアルコールなどの親水性化合物の同時可溶化を可能とする中程度の極性の溶媒2−メチル−2−ブタノール(2M2B)または
2M2Bと同じ理由で、アセトニトリル
である。
【0049】
反応条件を下表1にまとめる。
【0050】
【表1】

【0051】
各条件で200mgのノボザイム(登録商標)とともに60℃でインキュベートした。開放系(換気フード下)で行った2M2Bの反応を60℃で200mgのノボザイム(登録商標)を用いて試験した。
【0052】
反応が完了するまで、定期的に500μlのサンプルを採取する。反応プロセスを、13,000rpmで5分遠心心分離を行うことによりクエンチし、これにより媒体から固定化酵素が除去される。サンプルは総て、分析まで4℃で保存する。
【0053】
酵素を含まない対照反応および補助基質(ニコチニルアルコール)を含まない対照反応を並行して行う。
【0054】
分析は、次のパラメーターに従い、2つのHPLC法(Agilent 1100シリーズの仕打ちを使用)を使用して行う。
【0055】
方法1
Zorbax SB−C18カラム(4.6mm×25cm)
温度:40℃
流速:1ml/分
溶出剤:0.02%メタノール/酢酸
検出;屈折率測定
測定時間:15分
【0056】
方法2
Zorbax SB−C18カラム(4.6mm×25cm)
温度:40℃
流速:3ml/分
溶出剤:50/50アセトニトリル/アセトン
検出:屈折率測定
測定時間:15分
【0057】
種々の反応中に採取したサンプルを、方法1では0.02%メタノール/酢酸混合物で、方法2ではアセトンで、100mM未満の濃度まで予め希釈する。
結果および考察:
【0058】
エステル交換反応の際に2種類の種が見られる。1つは、分析条件下で4.15分に溶出し、エステル加水分解産物に相当し、もう1つは4.85分に溶出する。後者の化合物は70%DHA−EEエステルとニコチニルアルコールの間のエステル交換の産物に相当する。ここで、ニコチニルアルコールは1つの第1級ヒドロキシルのみを有するので、ただ1つの産物であると予測される。
【0059】
種々の反応条件下で得られた変換率%を下表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
変換率%は、反応が開放系で行われた場合に高く、生成エタノールは蒸発し、反応平衡はDHE−ニコチニルアルコールの合成側へ傾く。これらのエステル交換反応には反応混合物の著しい黒化を伴う。
【0062】
加水分解産物は、反応溶媒として2M2Bを用いる場合が明らかに好ましい。しかしながら、溶媒を用いない媒体でも弱い加水分解反応が存在する。従って、用いたニコチニルアルコール中に水も存在していこと、および周囲水分がこの副反応を起こすことが明らかである。
【0063】
70%DHA−EEエステルの、ニコチニルアルコールとのエステル交換反応の実現可能性は実証され、このような反応は、特に反応混合物から反応中に生じたエタノールを排除すると、90%近く、またはそれを超える有利な変換率を示す。しかしながら、用いた溶媒中の水の存在および/または周囲の水分による副次的加水分解反応がこれらの合成を妨げる。
【0064】
よって、見られる副次的加水分解反応を回避する試みが重要であるのは明らかである。例えば、完全に無水の溶媒を使用することができる。加水分解の可能性を排除するために水捕捉剤(例えば、塩化リチウム、MgClまたはシリカゲル)の存在下でこれらの同じ反応を行うこともできる。
【0065】
ニコチニルアルコール−DHAエステル合成反応では、反応中に生じたエタノールが反応を制限する要素であることが明らかである。それを排除すると、反応平衡が意図するエステルの合成側へ傾く。よって、特に、減圧下で合成を行う場合には、この排除を至適化することが勧められる。これによりエタノールの迅速な蒸発が可能となり、反応速度が高まる。
【0066】
実施例3:リパーゼを用いたピリジン−3−イルメチルドコサヘキサエノエートの合成;エステル交換の至適化;反応中に生じたエタノールの蒸発;および酸化褐変の除去
60℃にて、アルコール/エステル比3のノボザイム(登録商標)200mgの存在下、溶媒を用いない媒体中で、同じ出発品(ニコチニルアルコール、70%DHA−EEエステル混合物、ノボザイム(登録商標))を用い、実施例2と同様の合成反応を行った。用いた反応器は実施例2と同じであり、分析方法も同様である。
【0067】
実施例3.1:
実施例2と比較した場合の違いは、反応が開放容器(開放試験管)で行われたことだけである。
結果(図1):
エステル交換反応は「遅く」、計80時間近くかかる。酸化褐変が見られる。「強い」副次的加水分解も見られる。
【0068】
実施例3.2:
実施例2と比較した場合の違いは、反応が真空下で行われたことだけである。
結果(図1):
実施例3.1と比べて反応の加速化が見られるが、依然として「遅く」、計48時間近くかかる。
さらに、酸化褐変および副次的加水分解が見られる。
【0069】
実施例3.3:
実施例2と比較した場合の違いは、反応が窒素吹き込み下で行われたことである。
結果(図1):
反応中に生じたエタノールの即時排出と混合物の改良により、反応の極めて著しい加速が見られ、計3時間未満となる。
酸化渇変は存在しないことが示される。
副次的加水分解は著しく低下する。
【0070】
実施例4:リパーゼを用いたDHAエステルのパンテノールとの合成
試験および分析条件は、次の違い以外、実施例2と同様である:
反応条件を下表3にまとめる。
【0071】
【表3】

【0072】
結果および考察:
分析条件下で3.9分と4.14分に2種が溶出する。パンテノールは2つの第1級アルコールを示す。よって、数種の産物(3つの極大)の産生が考えられる。しかしながら、補助基質(パンテノール)を含まない対照では、4.14分にピークが見られる。このように、該ピークは使用する溶媒中の水の存在に関連したエチルエステルの加水分解に相当するものであろう。この反応は酵素の存在下でのみ見られる。
【0073】
結論として、パンテノール−DHAエステル合成に相当するのは最初のピークだけである。
【0074】
種々の反応条件下で得られた変換率%を下表4にまとめる。
【0075】
【表4】

【0076】
70%DHA−EEエステルの変換率%は、反応が開放系で行われた場合に上昇することが明らかである。実際、この条件下では、反応中に生じたエタノールは蒸発する。よって、反応平衡はパンテノール−DHEエステルの合成側へ傾く。さらに、これらの変換値は、2M2B溶媒の同時蒸発(媒体濃縮効果)によるものと明らかに理解される。また、これらのエステル交換反応には反応混合物の著しい黒化も伴う。
【0077】
70%DHA−EEエステルのパンテノールとのエステル交換反応の実現可能性は実証され、このような反応は、特に反応混合物から反応中に生じたエタノールを排除すると、90%近く、またはそれを超える有利な変換率を示す。しかしながら、用いた溶媒中の水の存在および/または周囲の水分による副次的加水分解反応がこれらの合成を妨げる。
【0078】
よって、見られる副次的加水分解反応を回避する試みが重要であるのは明らかである。例えば、完全に無水の溶媒を使用することができる。加水分解の可能性を排除するために水捕捉剤(例えば、塩化リチウム、MgClまたはシリカゲル)の存在下でこれらの同じ反応を行うこともできる。
【0079】
パンテノール−DHAエステル合成反応では、反応中に生じたエタノールが反応を制限する要素であることが明らかである。それを排除すると、反応平衡が意図するエステルの合成側へ傾く。よって、特に、減圧下で合成を行う場合には、この排除を至適化することが勧められる。これによりエタノールの迅速な蒸発が可能となり、反応速度が高まる。
【0080】
実施例5:超高速カリウム電流に対する、従って心房細動に対するEPAおよびDHAの作用の結果の比較
心臓活動電位は興奮性心細胞の基本的電気単位であり、活動電位の種々の相を担う数種のイオンチャネルの活動を表す。活動電位の種類の違いは心臓領域の違いに相当し、従って、これらの領域における隔離された、また、協調した活動が可能である。このため、KCNA5遺伝子によってコードされているKv1.5カリウムチャネルは心耳組織にのみ発現し、心房活動電位の再分極に作用する超高速カリウム電流(IKur)を担う。このKv1.5の局在性の高い発現は、実際に、心房活動電位に変化が見られる病態である心房細動の処置の標的選択肢である。
【0081】
従って、IKurに対するDHAおよびEPAの作用を検討した。このため、Kv1.5チャネルのヒトイソ型(hKv1.5)を安定的にHEK293(ヒト胚腎臓)細胞にトランスフェクトし、これらのチャネルの活動から得られた電流をホールセルパッチクランプ法(whole-cell patch clamp)法を用いて検討した。
材料および方法
【0082】
細胞系統の維持
HEK293−hKv1.5細胞を、標準的条件(37℃、95%Oおよび5%COのインキュベーター)下、ファルコン(Falcon)ディッシュ内で、集密度80%まで増殖させた。次に、これらを取り出し、次の培養培地:DMEM(Invitrogen);10%ウシ胎児血清(Invitrogen);100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンおよび0.25mg/mlグルタミン(Invitrogen)の混合物;および選択抗生物質としての1.25mg/mlゲネチシン(Geneticin)(登録商標)を含む35mmのペトリ皿で培養した。
【0083】
電気生理学
Kurを、周囲温度(19〜22℃)でホールセルパッチクランプ法を用いて調べた。ピペット媒体としては、125mM K−アスパラギン酸塩、20mM KCl、10mM EGTA、5mM HEPES、5mM Mg−ATP、1mM MgCl、pH7.3(KOH)を含む。細胞外媒体としては、140mM NaCl、20mM HEPES、5mM D(+)−グルコース、5mM KCl、2mM CaCl、1mM MgCl、pH7.4(NaOH)を含む。
【0084】
Kurを、−80mVの保持電位から−50mVの再分極まで、15秒ごとに300ms、+60mV脱分極性パルスにより誘導する。この電流ピークの大きさは、最初の100msの脱分極性パルス中に得られた最大電流から確立される。パルスの終了時における電流の大きさは、最後の20msの脱分極性パルス中に測定される。
【0085】
試薬
DHAおよびEPAはSigmaから供給されている。エタノールで保存溶液(10mM)を作製し、溶媒の終濃度を0.25%とする。
結果:
結果を下表5にまとめる。
【0086】
【表5】

【0087】
EPAはIKurピークの大きさを若干低下させる(最大阻害17.5±6.4%、n=10、p<0.05、10μM、パルス終了時の電流の大きさ(61.6±7.3%、n=5、p<0.05、25μM)。
【0088】
DHAはIKurピークの大きさを最大58.1±13.6%(n=5、p<0.005)まで阻害し、パルス終了時の電流の大きさを、25μMにて、86.5±3.4%(n=5、p<0.005)まで阻害する。
【0089】
結論:
これらの結果は、DHAの適用が、HEK293細胞にトランスフェクトされたヒトKv1.5チャネルの超高速カリウム電流(IKur)を、EPAよりも強く、かつ、濃度依存的に阻害することを示す。DHAパルス終了時に優先的に作用するが、このことはKv1.5チャネルの不活性化に対する作用を示唆する。さらに、この作用はIKurピークの低下を伴い(EPAで見られたものと対照的)、DHAによるIKurの阻害を増強する。
【0090】
Kurに対するこれらの作用は心房細動に対するDHAの有益な作用を示す。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】60℃にて、アルコール/エステル比3のノボザイム(登録商標)200mgの存在下でエステル交換反応を行った際のDHA−EE消費%を、実施例3.1(開放試験管)、3.2(真空下)および3.3(窒素吹き込み下)に関して、時間の関数として表したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドコサヘキサエン酸エスエルであって、有利には下式:
【化1】

のニコチニルアルコール、
下式:
【化2】

のパンテノール、および
下式:
【化3】

のイノシトール
からなるビタミンB群もしくはプロビタミンの中から選択されるアルコールとの、または下式:
【化4】

のイソソルビドもしくは下式:
【化5】

の一硝酸イソソルビド
とのドコサヘキサエン酸エステル。
【請求項2】
前記エステルが、下記の一般式(1):
【化6】

のピリジン−3−イルメチルドコサヘキサエノエートである、請求項1に記載のドコサヘキサエン酸エステル。
【請求項3】
ドコサヘキサエン酸エチルエステルの、ニコチニルアルコール、パンテノール、イソソルビド、一硝酸イソソルビドおよびイノシトールとの、有利にはニコチニルアルコールとのエステル交換による、請求項1または請求項2に記載のドコサヘキサエン酸エステルの製造方法。
【請求項4】
前記方法が触媒の存在下で行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒がリパーゼであり、有利にはカンジダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)リパーゼである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
エタノールが反応中に、有利には窒素吹き込みにより除去される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記反応が無水溶媒中で、または乾燥雰囲気下、溶媒無しで行う、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載のドコサヘキサエン酸エステル、有利には請求項2に記載のピリジン−3−イルメチルドコサヘキサエノエートと少なくとも1種類の薬学上許容される賦形剤とを含んでなる、医薬組成物。
【請求項9】
薬剤として用いられる、請求項1もしくは請求項2に記載のドコサヘキサエン酸エステル、または請求項8記載の医薬組成物。
【請求項10】
心血管疾患、有利には心調律に関する疾患、好ましくは、心房および/または心室不整脈、頻脈および/または細動の中から選択されるものの予防および/または治療のため;心筋細胞の電気伝導異常によって現れる疾病の予防および/または治療のため;有利には高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、高血圧症、高脂血症、異脂肪血症、有利には混合型異脂肪血症、および/または血液凝固におけるVII因子の活性亢進の中から選択される心血管疾患の多くのリスク因子の予防および/または治療のため;心房および/または心室不整脈、頻脈、細動および/または心筋梗塞により誘発される電気伝導異常などの心血管疾患に由来する調律異常、有利には突然死の治療および/または一次もしくは二次予防のため;および/または心筋梗塞後の治療のための薬剤として用いられる、請求項1もしくは請求項2に記載のドコサヘキサエン酸エステル、または請求項8記載の医薬組成物。
【請求項11】
心房細動の予防および/または治療のための薬剤として用いられる、請求項1もしくは請求項2に記載のドコサヘキサエン酸エステル、または請求項8記載の医薬組成物。

【図1】
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【公表番号】特表2009−544576(P2009−544576A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517144(P2009−517144)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【国際出願番号】PCT/EP2007/056277
【国際公開番号】WO2007/147899
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(500033483)ピエール、ファーブル、メディカマン (73)
【Fターム(参考)】