説明

DHA含有栄養組成物およびそれらの製造方法

【課題】充分なDHAを稚魚に供給することができたならば、稚魚の生き残り率は、増加し、従って、養殖場で養殖した海産食物のコストは減少すると期待される。
【解決手段】ドコサヘキサエン酸(DHA)含有微生物およびアラキドン酸(ARA)含有微生物からの極性脂質抽出物を含むスラリーを乾燥させることによって調製した、DHA残基およびARA残基を持つリン脂質を含む粒子状物質が提供される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
この十年間は、自然漁業資源の減少を目の当たりにし、今では世界的な環境危機のレベルに達した。世界の17の主要な漁業の内の13が、国連食糧農業機構(F.A.O.)によって、危機的または衰退段階にあると分類されている。一億(メートル)トンの水産漁獲高記録および保存的母集団の増殖の両方を維持する最良のシナリオを取ったとしても、この10年の終わりには人類史上始めて、世界的に海産食品の供給が不足するであろう。さらに、次の20年間は、工業国から今日未開発のエマージング経済の海産食品の伝統的大量消費者に世界人口がシフトするため、一人当たりの世界の海産食品の消費は増加する、と予想される。海産食料の世界的要求を満たす唯一の方法は、2000年までに、養殖により、不充分な天然漁業資源の漁獲高を元に戻すことである。
【0002】
養殖工業の広がりは、いくつかの重大な問題の解決を必要とし、経済的に実行可能な養殖経営を確立し維持するための最も重大な障害の一つは、栄養的にバランスのとれた餌の供給の難しさである。野生で育った稚魚、二枚貝および甲殻類は、バランスのとれた栄養をまとめて供給する食料生物の混合母集団を消費する。一方、養殖場で飼育された稚魚、二枚貝および甲殻類では、それらの栄養として生きた餌(藻類または藻類を供給するワムシ、およびアルテミア)を育て要求するのは難しい可能性がある。このような生きた餌を、生産維持するのは難しく、高い労働力の投入および専門設備を必要とし、結果として、稚魚の餌は、養殖工業の重大なコスト高の原因となる。
【0003】
養殖の餌は、栄養的にバランスがとれ、その結果、稚魚が適当な栄養を摂取することが重要である。DHA(ドコサヘキサエン酸)は、明らかに稚魚の成長および生き残りに貢献する、重要な栄養素として単離された(Fulks,W.およびKLMain編、1991、”Rotiferand Microalgae Culture Systems.Proceedings of a US−Asia Workshop”,Honolulu,HI.TheOceanic Institute ; 非特許文献1、Tamaru,CS,CSLee and H Ako,1991”Improvingthe larval rearing of striped mullet(Mugilcephalus)by man ipulating quantity and qualityof the rotifer,BrachionusPlicatilis”、W.FulksおよびKLMain編、1991; 非特許文献2)。結果として、稚魚は、高レベルの不飽和ポリ脂肪酸を持つ藻類を直接摂取することによって、または不飽和ポリ脂肪酸に富む藻類で育てた、ワムシおよびアルテミアを摂取することによって、藻類からこれらの脂肪酸を獲得する。残念なことに、養殖場で用いられる藻類、アルテミアおよびワムシは、DHAが低く、低い稚魚の生き残り率をそれらの最大率より減少させ、最終的な養殖場の生産コストを増加させる。充分なDHAを稚魚に供給することができたならば、稚魚の生き残り率は、増加し、従って、養殖場で養殖した海産食物のコストは減少すると期待される。
【非特許文献1】Fulks,W.およびKLMain編、1991、”Rotiferand Microalgae Culture Systems.Proceedings of a US−Asia Workshop”,Honolulu,HI.TheOceanic Institute
【非特許文献2】Tamaru,CS,CSLee and H Ako,1991”Improvingthe larval rearing of striped mullet(Mugilcephalus)by man ipulating quantity and qualityof the rotifer,BrachionusPlicatilis”、W.FulksおよびKLMain編、1991
【発明の開示】
【0004】
発明の要約
一つの実施態様では、本発明は、養殖用の餌としての使用に適した粒子状物質を提供する。粒子状物質は、脂質フラクション内に高い割合でDHA残基を持ち、その割合は、最大で物質の35%であることができる。好ましくは、物質は、約5ミクロンから約10ミクロンの平均粒子サイズを持つ。
【0005】
もう一つの実施態様では、本発明は、微生物バイオマスからの、好ましくは高含有量のDHA残基を持つ藻類細胞からの、養殖用の餌としての使用に適した粒子状物質の調製方法であって、バイオマスから脂質フラクションを、好ましくは破砕細胞の溶媒抽出によって得、そしてリン脂質およびタンパク質を含むフラクションを脂質フラクションから分離し、そして、好ましくはタンパク質/リン脂質フラクションを噴霧乾燥させることによって、タンパク質/リン脂質フラクションから水を除去して低水分の粒子を形成させることによる、前記の粒子状物質の調製方法を提供する。
【0006】
さらにもう一つの実施態様では、本発明は、ドコサヘキサエン酸(DHA)残基を持つリン脂質を含む粒子状物質であって、前記粒子状物質は、DHA含有微生物からの極性脂質抽出物を含むスラリーを乾燥させることによって調製され、そして乾燥した粒子状物質は、DHA含有微生物からでない物質を実質上含まないスラリーから、特にスラリーを噴霧乾燥することによって、調製することができる、前記粒子状物質を提供する。典型的には、DHA含有微生物の極性脂質抽出物中の乾燥物質の少なくとも2/3が微生物細胞からの誘導物質であり、好ましくは25%より少ない乾燥物質が微生物由来ではなく、その割合は、より好ましくは20%より少なく、さらにより好ましくは15%またはそれより少ない。典型的には、噴霧乾燥した粒子は、5ミクロンから10ミクロンの間の平均粒子サイズを持つ。
【0007】
さらなるもう一つの実施態様では、本発明は、DHA含有粒子状物質を調製するための方法であって、(a)DHA含有微生物細胞を溶解し;(b)溶解した細胞を溶媒で抽出し;(c)抽出物から極性脂質フラクションを分離し;そして(d)その他の栄養を付加するかまたは付加せずに、極性脂質フラクションを乾燥して、粒子状物質を形成する;ことを含む、前記のDHA含有粒子状物質の調製方法を提供する。
【0008】
特別な実施態様では、本発明は、渦鞭毛虫類から抽出された極性脂質を含むスラリーを乾燥することを含む、DHA含有粒子状物質を調製する方法であって、乾燥した物質が5−10ミクロンの平均粒子直径を持つ粒子の型である、前記のDHA含有粒子状物質の調製方法を提供する。
【0009】
さらなるもう一つの実施態様では、本発明は、DHA含有微生物からの極性脂質抽出物から得られたDHA残基を持つリン脂質を含む水性乳濁液または縣濁液を提供する。好ましくは、DHA含有微生物の脂質中の少なくとも10%の脂肪酸残基が、DHA残基である。より好ましくは、DHA含有微生物の極性脂質の少なくとも10%の脂肪酸残基がDHA残基である。
【0010】
さらなるもう一つの実施態様では、本発明は、(a)DHA含有微生物からの極性脂質抽出物、および(b)タンパク質および/または炭水化物を含むミール、を含むスラリーを乾燥することによって調製されたDHAを持つリン脂質を含む粒子状物質を含む組成物を提供する。好ましくは、ミールは、微生物細胞または細胞フラグメントを含み、それらは、細胞、または、抽出して脂質の一部分あるいは脂質の大部分を除去した細胞フラグメントであることができる。好ましい微生物細胞または細胞フラグメントは、クロレラ、Crypthecodium、またはサッカロミセスのような酵母、またはMorteriella、Schizochytrium、あるいはThraustochytriumのような真菌である。
好ましい実施態様の詳細な説明
バイオマスからのDHA高含有油脂の製造は、いくつかの異なるプロセシングおよび精製段階を必要とする。それぞれの精製段階は、油脂精製の副産物としての廃棄フラクションを生成する。これらの副産物は、有意なレベルのDHA、および稚魚、二枚貝および甲殻類の養殖の餌として用いる可能性を持つことのできるその他の栄養を含む。
【0011】
特に、一つの副産物は、稚魚の栄養として有用で価値のある、非常に高レベルのDHAならびにその他の栄養(炭水化物、タンパク質等)を含む。この副産物は、以後「DHAリン脂質」と呼ばれ、また、稚魚に必須であると考えられるすべてのアミノ酸を有意のレベルで含む。大部分の魚の種に必須であることが一般的に認められている10のアミノ酸は、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファンおよびバリンであり、例えば、Shepherd,Jonathanand Nial Bromage,IntensiveFish Farming,第5章、Nutrition and Growth,Blackwell Scientific Pulications,Boston、1992、154−197を参照のこと。DHAリン脂質物質は、いくつかのその他の養殖の餌に認められるレベルと比較しうるレベルで、これらのすべてのアミノ酸を含む。DHAリン脂質物質は、DHA残基を高い割合で持つリン脂質、ならびに、トリグリセリド、遊離脂肪酸、ステロール、糖脂質等のような、その他の脂質成分を含む。噴霧乾燥粒子として得られた、DHAリン脂質の生化学的組成を、表1に示す。粒子状物質の脂肪酸組成を、表2に示す。
DHA含有物質の起源
生物圏内のDHAの主要な起源は、藻類である。多数の藻類の種がDHAを生成する。特に一つの種(Crypthecodiniumcohnii)を巧みに操作すると、非常に高レベルのDHAが生成される。この生物体を大規模で培養し、バイオマスを、DHA高含有油脂の生成に用いた。C.cohniiからのDHA含有バイオマスを生成する適当な方法は、合衆国特許第5,397,591号および第5,492,938号に提供されており、ここに参考として採用する。
【0012】
類似のDHAリン脂質物質を、有意な量のDHAを含む、任意の単細胞生物体から生成することができる。これは、様々な油性真菌、様々な藻類(特にDinophyceae、Bacillariophyceae、Chlorophyceae、PrymnesiopheceaeおよびEuglenophyceaeのクラスの藻類)、ならびに、ThraustochytriumまたはSchizochytriumのような分類学的に不確かな状態の生物体を含むであろう。ThraustochytriumまたはSchizochytriumからDHA含有バイオマスを製造する適当な方法は、合衆国特許第5,130,242号に提供されており、ここに参考として採用する。
【0013】
典型的には、本発明のDHAリン脂質の源として供給される微生物は、少なくとも5%の脂肪酸およびDHAとしての微生物中の脂肪酸残基、より典型的には少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、を持つであろう。好ましくは、起源微生物の極性脂質内の少なくとも10%の脂肪酸残基はDHAであり、より好ましくは、少なくとも20%の残基がDHAであろう。
調製方法
DHAリン脂質は、DHA含有バイオマスの脂質フラクションから得ることができる。適当な脂質フラクションを得るための好ましい方法は、溶解細胞の溶媒抽出物である。好ましい様式で、バイオマスを噴霧乾燥し、それにより大部分の細胞を溶解し、噴霧乾燥物質をヘキサンのような溶媒で抽出することができる。すりつぶしホモジナイズした溶媒−バイオマス混合物は、脂質フラクション(油脂)の抽出を容易にし、また、養殖の餌として望ましい非脂質成分の回収を促進することができる。DHAリン脂質物質を、水/塩含有沈殿物として油脂から分離する。そのような分離を行うための適当な方法は、野菜油の精製に類似した方法から容易に応用される。
【0014】
DHAリン脂質副産物は、有用なレベルのDHAおよびその他の栄養を含むが、この物質を稚魚に提供するための適当な方法を見つけださねばならない。多くの稚魚は生きた餌を要求し、また二枚貝および甲殻類も、生きた餌生物または限定されたサイズの範囲の粒子のいずれかを要求する。このように、さらなる処理をおこなうことが、稚魚、二枚貝または甲殻類に直接この物質をただ提供するために、好ましい。
【0015】
生きた餌を要求するそのような生物体のためには、DHAリン脂質をアルテミアおよび/またはワムシ(両方とも稚魚の天然の食料生物)に摂取させ、アルテミア/ワムシのDHAレベルを上昇させ、それに伴って稚魚のDHAレベルを上昇させることをゴールとすることができる。フィルターフィーダーであるそのような生物体のために、物質を小さな粒子として供給し、餌に直接、豊富なDHAを提供する。
【0016】
アルテミア、ワムシ、およびフィルターフィーダーが摂取するために適当なサイズの粒子を調製するために、DHAリン脂質物質を、噴霧乾燥、顆粒化、カプセル化およびその類似法等の、任意の適当な方法によって乾燥する。DHAリン脂質物質を凍結乾燥した場合、得られた粒子は大きすぎて有用ではない。凍結乾燥物質内の脂肪含有量は高く、すりつぶしても粒子サイズを減少させることはできなかった。噴霧乾燥では、アルテミア、ワムシおよびフィルターフィーダーによる消費に適当なサイズの範囲内にある粒子からなる崩れやすい塊が得られた。平均粒子サイズは、直径約5−10ミクロンと測定され、平均値の周りの粒子サイズの分布は、極めて広かった(少なくとも>30ミクロンから<1ミクロンまで)。物質は、乾燥処理の間、熱をかけるが、ドライヤーの温度によるDHAレベルの減少は、感知されるほどではなかった。このように、噴霧乾燥すると、高含有量のDHAおよび適当な粒子サイズを持つ生成物が得られた。
【0017】
好ましくは、噴霧乾燥物質のDHAレベルは、最大であるべきであり、これにより、物質を、稚魚にとってより価値の高いDHA源とする。典型的には、DHAレベルは、DHAリン脂質物質内のDHA含有油脂の量を増加させることによって上がり、精製されたトリグリセリド油脂、部分精製されたトリグリセリドまたはDHA高含有の微生物からの脂質の粗抽出物を加えることによって、成し遂げることができる。本発明者は、(エステル化された脂肪酸レベルとして測定された)トリグリセリドレベルが、DHAリン脂質の全乾燥重量の約30%を越えた場合、物質はうまく噴霧乾燥されず、この適用にはあまり適当でない非常に大きな粒子が形成されるらしいことに気付いた。トリグリセリド含有量約40%では、最終的な噴霧乾燥生成物は、脂肪の含有量の高さにより非常に粘着性を持ち、見かけ上の粒子サイズの大きさを説明することができる。この物質は、より低いトリグリセリド物質と比べて取り扱いにくいが、それでもなお、アルテミアおよびワムシの豊富な生成物として用いることができる。もちろん、補充用DHAを、精製されたDHA−アルカノールエステルを含む、非微生物源から供給することもできるが、これらの原料は、経済的でない可能性が高い。
【0018】
DHAリン脂質を、直接、噴霧乾燥することもできるが、スラリーが典型的噴霧乾燥剤を含むならば、それを噴霧乾燥器内に供給する場合、噴霧乾燥を容易にすることができる。適当な噴霧乾燥キャリヤーには、マルトデキストリン、デンプン、ゼラチン、糖および糖蜜が含まれる。適当なキャリヤーには、アルギン酸ナトリウムおよびアラビアゴムが含まれる。さらに、酵母抽出物、デンプン、ゼラチン、グルテン等のような添加物を含む、タンパク質、炭水化物、脂肪酸および脂質、またはビタミン源のように、栄養学的理由から最終粒子内に存在することが、望ましい様々な添加物を、乾燥前にスラリーに添加することができる。さらに、魚の栄養に特に重要なアミノ酸である、メチオニンのようなアミノ酸をスラリーに加えることもできる。代わりに、好ましくは、ワムシまたは稚魚の自然の餌である藻類を用い、藻類バイオマスを噴霧乾燥の補助としてスラリーに加えることもできる。
【0019】
一つの実施態様では、微生物バイオマスを含むDHAリン脂質を調合し噴霧乾燥することによって、粒子状物質を調製することができ、前記微生物バイオマスは、全細胞、溶解細胞または脂質抽出後の細胞内物質であることができる。DHAリン脂質は、1:100−100:1、好ましくは1:10−10:1の比率を含む、任意の比率でバイオマスと混合することができる。典型的には、混合物は、水性スラリーから噴霧乾燥され、コーンミールの出現または調和と共に物質を形成する。典型的には、バイオマスは、クロレラのような、栄養的用途が知られている微生物からのものであろう。クロレラは、ヒトの食料品として消費されており、DHAは重要なヒトの栄養であり、そのような粒子状物質は、ヒトの栄養にも有用である。もちろん、処理条件およびスラリーに含まれる任意のその他の添加物がヒトの消費に適当である限りにおいて、粒子がクロレラを含むか含まないかにかかわらず、発明に従って製造された粒子状物質は、ヒト栄養にDHAを供給するために用いることができる。
【0020】
DHAリン脂質は、特に噴霧乾燥に適しているが、本発明では、高レベルのDHAを含む粒子状物質もまた、顆粒化またはカプセル化によって、調製することができる。熟練者は、DHAリン脂質の顆粒化またはカプセル化の条件を、容易に選択することができ、典型的には、アルギン酸塩またはアカシアゴムのような、噴霧乾燥での使用について上記した一つ以上の添加剤が用いられる。もちろん、また、DHAリン脂質をオイルシードミール(例えば、大豆ミール、綿実ミール、トウモロコシ胚種等)上に被覆することもできる。さらに、溶媒抽出された藻類バイオマス(「バイオミール」)を含むDHAリン脂質の混合物は、また、凍結乾燥にも適当である。この発明は特にDHAに富む乾燥製品の製造に適しているが、この発明に従って微生物から得られたDHAリン脂質は、特に栄養添加物として、後に使用するために、縣濁液または乳濁液として調合することもできる。極性脂質を含むそのような乳濁液または縣濁液は、この技術分野で既知の方法に従って、日常的に調製することができる。
【0021】
乾燥させた物質内での粒子サイズの分布は、例えば、サイクロンまたはフィルターバッグ内で分画することによって調整し、大きすぎる粒子を除去することができるが、平均粒子サイズが5−10ミクロンの粒子状物質になるように、乾燥法を提供することが好ましいであろう。典型的には、乾燥したDHAリン脂質を、稚魚、ワムシまたはアルテミアに食糧として供給する前に、海水と混合するであろう。この混合段階での攪拌を変えると、乾燥後に粒子サイズを調整することができるであろう。
【0022】
水産業ならびにヒトおよび動物の栄養の両方に重要なその他の脂肪酸は、アラキドン酸(AA)である。アラキドン酸は、また、微生物の脂質抽出物内でも得ることができるが、AAの好ましい源は、好ましいDHA源とは異なる種である。適当な微生物のAA源およびそれらを増殖させる方法は、例えば、合衆国特許第5,658,767号に教授されている。AA含有微生物からの粗脂質の抽出物は、脂肪酸および/または脂肪酸残基として少なからぬ量のAAを持つことのできる、タンパク質−および−炭水化物含有残基を残す。この物質は、AAバイオミールと呼ばれる。
【0023】
AA含有脂質粗抽出物の処理工程および精製の間に、AAリン脂質を含むいくつかのフラクションが作り出される。また、AAリン脂質を、DHAリン脂質と混合し、最適な栄養として提供されるであろう比率で両脂肪酸を含む物質を製造することもできる。そのような混合物を、乾燥物質として、または乳濁液あるいは懸濁液として、調製することができる。また、AAリン脂質をDHAバイオミールと混合して、乾燥するかまたは乳化して、アラキドン酸高含有物質を作ることもできる。異なる比率のDHAリン脂質、DHAバイオミール、AAバイオミール、および/またはAAリン脂質の使用を通して、最適な栄養として適当なDHAおよびAAの比率を持つ物質を、作り出すこともできる。
実施例
本発明のより完全な理解を容易にするために、多数の実施例を以下に提供する、しかしながら、本発明の範囲は、これらの実施例に開示された具体的実施態様により制限されるものではなく、これらの実施例は、説明の目的のためのみに提供される。
実施例1. DHAリン脂質の生成方法
Crypthecodimiumcohniiを、合衆国特許第5,407,957号(ここに参照として採用する)に記載の方法に従って、従属栄養発酵により増殖させる。発酵終了時、DHAを多く含むバイオマスを、遠心分離により、固体約18%(固体5−35%の範囲)に濃縮した。濃縮したバイオマスを、噴霧乾燥するまで、冷蔵タンク(50−60゜F)に保つ。物質を、ポンプで高圧下、噴霧乾燥器を通し、その入り口温度は、300−400゜Fの範囲、典型的には350−380゜F、とする。噴霧乾燥器内の流速は、出口温度が180−240゜F、典型的には、205−215゜Fに達するために必要なように、調整する。噴霧乾燥器から回収した乾燥バイオマスは、1−15%(典型的には6%)の範囲の水分含量を持つ。
【0024】
乾燥したバイオマスを、ヘキサンで、ヘキサン約2リットル/kg(乾燥バイオマス)の比率で、スラリーにする。ヘキサン/バイオマス混合物を、コロイドミルにかけ、すべての細胞の破砕および油脂の最大抽出を確かなものにする。代わりに、バイオマス/ヘキサン混合物をホモジナイズ(例えば、おおよそ7−800atmの圧力でオリフィスを通して加圧)することもできる。ヘキサンフラクション(DHAの豊富な油脂を含む)を、向流抽出器を用いて固体から分離する。抽出器から抽出したヘキサンは、約5%(v:v)の油脂含量を持つ。
【0025】
油脂/ヘキサン混合物を遠心分離して、前に抽出器内で取り出されなかった任意の微細粒子を取り出す。ヘキサンを蒸発により部分除去すると、ヘキサン中約65%油脂の混合物が生成された。この油脂/ヘキサン混合物を約40゜Fに冷却し、この温度に約12時間保った。低温状態下で沈殿した物質を遠心分離により除去する。油脂を含む残留ヘキサンを蒸発により除去し、ヘキサンを含まない油脂を生成させる。
【0026】
油脂を精製タンクに移し、50%アルカリ(油脂の0.74%w/w)、85%リン酸(油脂の0.2%w/w)、およびオレイン酸(油脂内の最終遊離脂肪酸レベルを5%にする)を、粗油に加える。混合物を攪拌し、おおよそ70゜Fに15−30分加熱する。熱と化学薬品の組み合わせにより、DHAリン脂質を油脂から沈殿させる。DHAリン脂質を、遠心分離により収集する。
【0027】
DHAリン脂質フラクションをホモジナイズして、均一混合物にする。この時点で、物質を「そのまま」噴霧乾燥するか、または、噴霧乾燥を行う前に様々な栄養素およびその他の化合物(例えば、ビタミン、タンパク質、アルギン酸塩、消泡剤等)と混合することができる。DHAリン脂質の固体含量は、10%から最大で80%を超える範囲であることができる。典型的には、固体含量を、おおよそ25−35%に希釈し、噴霧乾燥用ポンプを通過できるスラリーにするが、スラリー中の固体含量は、10−50%の範囲内であることができる。高圧注入ノズルまたは回転噴霧器のいずれかを用いて、物質を噴霧乾燥する。適当な入り口温度は、170−240゜F、典型的には200゜F周辺、の範囲であり、物質は、噴霧乾燥器の出口温度を150−200゜F、典型的には180−190゜Fに保持する十分な速度で、噴霧乾燥器に供給される。代わりの様式では、スラリーを入り口温度約300゜C(540゜F)および出口温度約110゜C(230゜F)で、噴霧乾燥する。本発明では、本明細書中に提供されたガイドラインにかんがみて入り口温度および流速を調整することにより、乾燥条件を日常的に最適化することを、計画している。
【0028】
噴霧乾燥器から収集されたDHAリン脂質物質は、水分含量約4%であり、3つのそれぞれのバッチの生化学組成を表1に示し、これと同じ3バッチ+4番目のバッチの脂肪酸組成を表2に示す。これらのバッチは、すべて噴霧乾燥に適している。もし、エステル化された脂肪酸レベルが約30−35%を越えたならば、物質はうまく噴霧乾燥されない。それは、別個の粒子を形成するというよりはむしろ、多分、物質内の油脂含量がより高いことにより、大きな塊を形成する傾向にある。
実施例2. DHA含有粒子状混合物
DHAリン脂質は、その他の物質および栄養素と調合することができる。表3に、噴霧乾燥したDHAリン脂質を、以下の方法に従って調製したDHAリン脂質+バイオミールおよびDHAリン脂質+クロレラの組成と比較する:a.DHAリン脂質を、溶媒抽出後、実施例1からの乾燥バイオマスからなるバイオミールと混合し、次に実施例1に記載の方法に従って、噴霧乾燥した。この混合の目的は、粘らないように、噴霧乾燥する物質の全脂肪酸含量を減少させることである。この混合物は確かに粘りが少ないので、たとえバイオミール中への混合が元のDHAリン脂質と比較して全脂肪含量を減少させたとしても、この物質は元の物質を改良すると考えることができる。
【0029】
b. DHAリン脂質を、藻類クロレラと混合し、この混合物を、実施例1記載の方法に従って、噴霧乾燥した。クロレラは、ワムシの天然の食料源であり、タンパク質を多く含む。クロレラと混合することによって、噴霧乾燥した最終のDHAリン脂質の粘りを減少させ、同時に天然の食料源からの栄養素を提供することができる。最初の試行では、3:1(w:w)DHAリン脂質:クロレラの混合であり、これは非常に扱いやすい物質を作り出した。広範囲の混合比率を用いることができる。一つの変法は、DHAリン脂質に対して高比率のクロレラを持つことである。これは、基本的に余分なDHAを持つ天然の海洋食料源を提供し、その結果、物質は、それらを稚魚に与える前のワムシのDHA含量を増加させるための強化物としてではなく、正規の日常的食料としてあることができる。
【0030】
c. また、DHAリン脂質を、噴霧乾燥物質のタンパク質含量(その後の栄養物含量)を改善する目的で、タンパク質源と混合した。具体的には、DHAリン脂質を、比率3:1(w:w)のDHA−リン脂質:大豆タンパク質加水分解物で、大豆タンパク質加水分解物と混合した。このことは、DHAリン脂質をその他の栄養素と混合すると、粒子状にすることができることを、証明している。
実施例3. DHAおよびアラキドン酸物質の混合
DHAリン脂質を、アラキドン酸と調合して、単一の栄養生成物内にこれらの両脂肪酸を提供する物質を作り出すことができる。アラキドン酸含有バイオマスを、合衆国特許第5,658,767号に概説された方法に従って、Morteriellaから製造する。Morteriellaバイオマスを遠心分離により集菌し、真空下で乾燥させる。乾燥バイオマスをヘキサンで抽出し、アラキドン酸含有脂質をとりだし、そして粗脂質フラクションを、実施例1に用いた方法に類似した様式で、処理した。脂質抽出除去後に残ったマス(AAバイオミールと呼ぶ)は、高レベルのタンパク質を含むが、また有意量のアラキドン酸も含む。このAAバイオミールを、DHAリン脂質と混合すると、有意量のアラキドン酸とDHAの両方を含むより高いタンパク質物質を作り出すことができる。
【0031】
理解を明確化にする目的で、前述の発明を、具体的実施態様と結びつけた説明および実施例に詳細に記載するが、その他の態様、利益および修飾は、本発明に関連する当業者らに、明らかであろう。前述の記載および実施例は、説明を意図しており、発明の範囲の制限を意図するものではない。食用油脂抽出物および処理工程、微生物発酵、栄養、医薬、薬理学、および/または関連分野の熟練者には明らかな、本発明を行うにあたっての上記の様式の修飾は、本発明の範囲内にあるつもりであり、添付クレイムによってのみ制限される。
【0032】
この明細書中に取り上げたすべての文献および特許明細書は、本発明に関連する当業者の技術レベルで示している。各々の個々の文献または特許明細書を、具体的にそして個別的に、参照として採用することを示すように、すべての文献および特許明細書を、同じ範囲で、ここに参照として採用する。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドコサヘキサエン酸(DHA)含有微生物およびアラキドン酸(ARA)含有微生物からの極性脂質抽出物を含むスラリーを乾燥させることによって調製した、DHA残基およびARA残基を持つリン脂質を含む粒子状物質。
【請求項2】
平均粒子サイズが5ミクロンから10ミクロンの間である、請求項1記載の粒子状物質。
【請求項3】
スラリーを噴霧乾燥によって乾燥する、請求項1記載の粒子状物質。
【請求項4】
前記DHA含有微生物の脂質の中の少なくとも10%の脂肪酸残基がDHA残基である、請求項1記載の粒子状物質。
【請求項5】
前記DHA含有微生物の極性脂質の中の少なくとも10%の脂肪酸残基がDHA残基である、請求項1記載の粒子状物質。
【請求項6】
前記ARA含有微生物が真菌である、請求項1記載の粒子状物質。
【請求項7】
前記ARA含有微生物がMorteriella種である、請求項1記載の粒子状物質。
【請求項8】
前記DHA含有微生物が渦鞭毛虫類である、請求項1記載の粒子状物質。
【請求項9】
前記微生物がCrypthecodiniumcohniiである、請求項1記載の粒子状物質。
【請求項10】
DHA含有およびARA含有粒子状物質の調製方法であって、渦鞭毛虫類および真菌から抽出した極性脂質を含むスラリーを乾燥することを含み、乾燥された物質が5−10ミクロンの平均粒子直径を持つ粒子の形である、調製方法。
【請求項11】
DHA含有およびARA含有粒子状物質の調製方法であって、DHAを含む微生物細胞およびARAを含む微生物細胞を溶解し、溶解された細胞を溶媒で抽出し、抽出物から極性脂質フラクションを分離し、そしてその他の栄養を付加するか、または付加せずに、極性脂質フラクションを乾燥して、粒子状物質を形成させることを含む、調製方法。
【請求項12】
極性脂質フラクションが噴霧乾燥によって乾燥される水性スラリーである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
DHA含有微生物細胞が渦鞭毛虫類細胞である、請求項11記載の方法。
【請求項14】
DHA含有微生物細胞がCrypthecodiniumcohniiの細胞である、請求項11記載の方法。
【請求項15】
前記ARA含有微生物が真菌である、請求項11記載の方法。
【請求項16】
前記ARA含有微生物がMorteriella種である、請求項11記載の方法。
【請求項17】
ドコサヘキサエン酸(DHA)含有微生物およびアラキドン酸(ARA)含有微生物からの極性脂質抽出物を水と共にホモジナイズすることによって調製される、DHA残基およびARAを含む残基を持つリン脂質を含む水性乳濁液または懸濁液。
【請求項18】
DHA含有微生物の脂質の中の少なくとも10%の脂肪酸残基がDHA残基である、請求項17記載の乳濁液または懸濁液。
【請求項19】
DHA含有微生物の極性脂質の中の少なくとも10%の脂肪酸残基がDHA残基である、請求項17記載の乳濁液または懸濁液。
【請求項20】
前記DHA含有微生物が渦鞭毛虫類である、請求項17記載の乳濁液または懸濁液。
【請求項21】
前記微生物がCrypthecodiniumcohniiである、請求項17記載の乳濁液または懸濁液。
【請求項22】
前記ARA含有微生物が真菌である、請求項17記載の乳濁液または懸濁液。
【請求項23】
前記ARA含有微生物がMorteriella種である、請求項17記載の乳濁液または懸濁液。
【請求項24】
DHA含有微生物およびARA含有微生物からの極性脂質抽出物を含むスラリーを乾燥することによって調製されたDHAおよびARAを持つリン脂質を含む粒子状物質、およびタンパク質、炭水化物またはその両方を含む粗粉、を含む組成物。
【請求項25】
粗粉が微生物細胞または細胞フラグメントを含む、請求項24記載の組成物。
【請求項26】
微生物細胞または細胞フラグメントがクロレラからである、請求項24記載の組成物。
【請求項27】
微生物細胞または細胞フラグメントがCtypthecodiniumである、請求項24記載の組成物。
【請求項28】
微生物細胞または細胞フラグメントが酵母である、請求項24記載の組成物。
【請求項29】
微生物細胞または細胞フラグメントがMorteriellaである、請求項24記載の組成物。
【請求項30】
水産養殖方法であって、
DHA残基を伴うリン脂質およびARA残基を伴うリン脂質を含む微生物からの極性脂質抽出物を含む粒子状物質を、アルテミア、ワムシまたはそれらの組み合わせを含む生きた幼生給餌生物に摂取させることにより、幼生生物中のDHAおよびARAのレベルを富裕化し;そして
DHA富裕化およびARA富裕化幼生生物を、稚魚、二枚貝、甲殻類、又はそれらの組み合わせに摂取させること
を含む方法。
【請求項31】
水産養殖方法であって、
DHA残基を伴うリン脂質およびARA残基を伴うリン脂質を含む微生物からの極性脂質抽出物を含む粒子状物質を、二枚貝および/または甲殻類に摂取させること
を含む方法。
【請求項32】
DHA残基およびARA残基を伴うリン脂質を含む粒子状物質が約5ミクロンから約10ミクロンの平均粒子サイズを有する、請求項30または31記載の方法。
【請求項33】
DHA残基およびARA残基を伴うリン脂質を含む粒子状物質が少なくとも300:1の
比のDHAおよびARAを含む、請求項30または31記載の方法。
【請求項34】
DHA残基およびARA残基を伴うリン脂質を含む粒子状物質がビタミン、アミノ酸又は両方を含む、請求項30または31記載の方法。
【請求項35】
DHA残基およびARA残基を伴うリン脂質を含む粒子状物質がさらにChlorellaバイオマスを含む、請求項30または31記載の方法。
【請求項36】
微小藻類からの脂質抽出物を精製することにおいて生成されたリン脂質含有副産物を噴霧乾燥させることによりDHA残基およびARA残基を伴うリン脂質を含む粒子状物質を製造する、請求項30または31記載の方法。

【公開番号】特開2007−300923(P2007−300923A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122092(P2007−122092)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【分割の表示】特願2005−194776(P2005−194776)の分割
【原出願日】平成10年7月31日(1998.7.31)
【出願人】(598083706)マーテック・バイオサイエンスィズ・コーポレーション (7)
【氏名又は名称原語表記】Martek Corporation
【住所又は居所原語表記】6480 Dobbin Road,Columbia,Maryland 21045,United States of America
【Fターム(参考)】