説明

DNAアプタマーの選択方法およびDNAアプタマー

【課題】標的分子に対する汎用性に優れたDNAアプタマーの選択方法を提供する。
【解決手段】DNAアプタマーの選択方法は、標的分子に特異的に結合するDNAアプタマーを含む一本鎖DNAの一群に標的分子を接触させることにより、DNAアプタマーと標的分子とから構成される複合体を得る工程と、上記複合体を構成しない上記一群中の一本鎖DNAを一本鎖DNA分解酵素で分解することにより、上記複合体を残す工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAアプタマーの選択方法およびDNAアプタマーに関する。
【背景技術】
【0002】
アプタマーとは、特定の標的分子と結合する能力を有する核酸(DNA、RNA、PNA)およびペプチドを指す。このアプタマーは、標的分子に対する特異性が高いことから、抗体と同様に標的分子の検出に用いられており、さらに治療薬として医療への応用にも期待が高まっている。
【0003】
このようなアプタマーを得る方法としては、SELEX(Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment)法を用いることが知られている。このSELEX法については、例えば、非特許文献1に記載されている。
非特許文献1に記載のSELEX法を用いたアプタマーの取得方法は、次の工程を含む。まず、ランダム配列を有する一本鎖DNAの一群(以下、DNA断片群またはDNAプールとも称することがある)を化学合成により作製する。これらのDNAプールには、標的分子と特異的に結合するDNAアプタマーが含まれるものとする。次いで、DNAアプタマーを含むDNAプールと担体に固定化された標的分子とを混合し、インキュベートを行う。これにより、標的分子との結合能を有する一本鎖DNA(DNAアプタマーとなる)と標的分子とを結合させることができる。次いで、固定化された標的分子に結合していないDNAプールのDNAアプタマー以外のDNA断片(他の一本鎖DNA)を洗い流して、当該標的分子に結合しているアプタマーを選択的に残す。このようにして、固定化された標的分子を反応系から分離することで、DNAプールの中から、標的分子に結合したDNAアプタマーを回収することができる。この後、標的分子に結合した状態で回収したDNAアプタマーをPCRにより増幅する。増幅された二本鎖から分離して得られた一本鎖DNA(DNAアプタマー)を含む混合物を新たなプールとして、前述の一連の工程を繰り返す。このようにして増幅されたDNAアプタマーを取得することができると記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】A DNA aptamer which binds to and inhibits Thrombin exhibits a new structural motif for DNA, Ke Yu Wang et al, Biochemistry, 32, pp1899−1904 (1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが検討した結果、非特許文献1に代表的に開示されているSELEX法においては、使用できる標的分子が限定的であり、標的分子に対する汎用性に改善の余地があった。
たとえば、従来のSELEX法では、アプタマーをDNAプールから選択的に分離することが求められている。従来のSELEX法においては、アプタマーを担体に固定化された標的分子に結合させた後、アプタマー以外のDNA断片を洗浄除去することによって、この固定化された標的分子上にアプタマーを選択的に残すことができる。
しかし、標的分子によっては、例えばその分子量が小さい等により担体への結合に必要な官能基を有しないものが存在する。こうした標的分子を利用した場合には、担体に標的分子を介してアプタマーを固定化できないために、上記の洗浄除去により、アプタマーとアプタマー以外のDNA断片とを分離することができなくなるので、従来のSELEX法を使用することが困難となり得る。
【0006】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであり、使用できる標的分子が限定されないような、標的分子に対する汎用性に優れたアプタマーの選択方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
標的分子に特異的に結合するDNAアプタマーを含む一本鎖DNAの一群に前記標的分子を接触させることにより、前記DNAアプタマーと前記標的分子とから構成される複合体を得る工程と、
前記複合体を構成しない前記一群中の前記一本鎖DNAを一本鎖DNA分解酵素で分解することにより、前記複合体を残す工程と、を含む、DNAアプタマーの選択方法が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、上記DNAアプタマーの選択方法を用いて得られたDNAアプタマーが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、標的分子に対する汎用性に優れたDNAアプタマーの選択方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態におけるアプタマー選択方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態におけるアプタマー選択方法を説明する模式図である。
【図3】エキソヌクレアーゼIによるストレプトアビジンアプタマーの分解の結果を示す図である。
【図4】エキソヌクレアーゼIによるトロンビンアプタマーの分解の結果を示す図である。
【図5】トロンビン存在下あるいは非存在下におけるトロンビンアプタマー量の時間変化を示す図である。
【図6】トロンビン存在下におけるトロンビンアプタマーおよびプールDNA量の時間変化を示す図である。
【図7】トロンビン存在下におけるトロンビンアプタマーとプールDNAの量比の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0012】
図1は、本実施の形態のアプタマーの選択方法を示すフローチャートである。また、図2は、本実施の形態におけるアプタマーの選択方法を説明するための模式図である。
【0013】
以下、本実施の形態のアプタマーの選択方法の概要を説明した後、当該選択方法の各工程の詳細を説明する。
【0014】
本実施の形態のDNAアプタマー100の選択方法は、標的分子102に特異的に結合するDNAアプタマー100を含む一本鎖DNAの一群(DNA断片群)に標的分子102を接触させることにより、DNAアプタマー100と標的分子102とから構成される複合体110を得る工程と、当該複合体110を構成しない当該DNA断片群中の一本鎖DNA(DNA断片101)を一本鎖DNA分解酵素(分解酵素104)で分解することにより、複合体110を残す工程と、を含む。
【0015】
標的分子は、タンパク質、ペプチド、核酸、又は各種の有機分子等で構成される。本実施の形態では、標的分子は、基質や担体などの基材に結合する官能基を有しているものや、当該官能基を有していないもののいずれでもよい。なお、こうした基材への結合方法としては各種の手法が確立されている。
【0016】
アプタマーとは、特定の標的分子と結合する能力を有する核酸(DNA、RNA、PNA)およびペプチドを指す。したがって、本実施の形態において、DNAアプタマーとは、当該核酸がDNA(Deoxyribonucleic acid)である場合を意味するものであり、一本鎖DNAを有するものである。DNAアプタマーにおける標的分子への結合特性は、特に限定されないが、高親和性であることが好ましい。
【0017】
また、DNA断片群とは、ランダム配列を有する一本鎖DNAの一群(以下、DNAプールと称することもある)を指す。例えば、DNA断片群中の2種の一本鎖DNAにおいては、所定の領域内で、互いの塩基配列が一致しないものでもよい。本実施の形態では、こうしたDNAプールには、所望のDNAアプタマーが含有されているものとして説明する。
【0018】
また、複合体とは、一本鎖DNAが標的分子に補足されて、標的分子と特異的な結合を形成しているものである。こうした特異的な結合としては、各種公知のものが知られている。
【0019】
本発明者らの検討によれば、一本鎖DNAと標的分子とが特異的に結合して構成された複合体は、一本鎖DNAを分解する分解酵素に対して耐性を有しており、複合体を構成しない単なる一本鎖DNAと比較して当該分解酵素に分解されにくいという特性を有することが判明した。
こうした当該分解酵素に対する耐性特性の差を利用することにより、複合体を構成する一本鎖DNA及び単なる一本鎖DNAを含む混合物において、単なる一本鎖DNAのみを分解除去できると考えた。
本発明者らは、こうした知見に基づいて検討した結果、DNAアプタマーと標的分子とから構成される複合体と標的分子と結合しない不要な一本鎖DNAとの混合物に一本鎖DNA分解酵素を添加することにより、複合体の分解を抑制しつつ、不要な一本鎖DNAを分解除去して、複合体を構成するDNAアプタマーを選択的に取得できることを見出し、本発明を完成させた。
【0020】
こうした分解酵素による分解メカニズムは明確ではないが以下のように推察される。
図2(a)に示すように、複合体110は、DNAアプタマー100と標的分子102とから構成されている。このDNAアプタマー100は、標的分子102との特異的結合形成領域108を有する。このような複合体110に対して、例えば、3'末端から5'末端方向に一塩基ずつ除去する分解酵素104を接触させると、DNAアプタマー100を構成する一本鎖DNAの3'末端の一部は、分解酵素104に分解されて分解された領域106となる。
しかし、特異的結合形成領域108では分解酵素104は進めないので、DNAアプタマー100が分解されずに残る。すなわち、この特異的結合形成領域108が分解酵素104による分解を抑制する機能を果たしていると考えられる。また、こうした特異的結合形成領域108が残っているので、複合体110を構成する一本鎖DNAは、DNAアプタマーとして機能すると言える。なお、分解酵素104で分解された領域106は、予め一本鎖DNAのランダム配列(標的分子との特異的結合形成領域108となる)の端部に設けられたプライマー配列に相当する。
【0021】
これに対して、図2(b)に示すように、DNA断片101は、標的分子との特異的結合形成領域が形成されていない、単なる一本鎖DNAである。このため、分解酵素104は、通常通り、DNA断片101を構成する一本鎖DNAの3'末端から、停止させずに次々と塩基を除去する。これにより、分解された領域107がDNA断片101の全体に広がり、DNA断片101が完全に分解される。
【0022】
このように同種の分解酵素104を用いて、その分解に対する耐性の差を利用することにより、DNA断片101を分解しつつも、複合体110を残すことができる。以上の分解メカニズムにより、本実施の形態では、複合体110を構成する一本鎖DNAであるDNAアプタマー100を選択的に取得することが可能となる。
【0023】
したがって、本実施の形態によれば、基材に標的分子を固定化する必要がないので、基材への固定化が困難な標的分子を用いたとしても、当該標的分子に特異的な結合活性を有する核酸アプタマーを選択することが可能となる。これにより、標的分子に対する汎用性に優れたDNAアプタマーの選択方法を実現することができる。
【0024】
次に、本実施の形態のDNAアプタマーの選択方法の各工程について詳細に説明する。なお、本実施の形態では、酵素反応に用いる緩衝液、反応温度又は反応時間などの条件は酵素に添付される指示書に従って行われるが、標的分子やアプタマーに適した条件を検討することも可能である。また、本実施の形態では、分解酵素としてエキソヌクレアーゼを用いた例について説明する。
【0025】
図1に示すDNAアプタマーの選択方法は、下記ステップ100〜ステップ114の工程を含む。ステップ100では、DNAプールを作製する。ステップ102では、DNAプールと標的分子とを混合して、当該標的分子にDNAアプタマーを補足させる。ステップ104では、分解酵素により、DNAアプタマー以外の一本鎖DNAを分解する。ステップ106では、未分解のDNAアプタマーを回収する。ステップ108では、回収されたDNAアプタマーの3'末端にオリゴマーを付加する。ステップ110では、DNAアプタマーをPCRにより増幅する。ステップ102〜ステップ110を含む一連の工程を複数回繰り返す。ステップ112では、複製されたDNAアプタマーの塩基配列を決定する。また、このDNAアプタマーと標的分子との結合能(例えば、親和性度合い)を評価する。ステップ114では、得られたDNAアプタマーの中から当該結合能に優れたものを選択する。
【0026】
まず、ステップ100に示すように、ランダム配列の両端にプライマー配列を有する一本鎖DNAを含むDNAプール(一本鎖DNAの一群)を化学合成により作製する。ランダム配列の長さは、任意であるが、通常は30mer程度である。また、プライマー配列の長さも、任意であるが、20mer程度のものがよく使われる。以後のステップでは、ランダム配列を有するDNAプール中の全ての一本鎖DNAをDNAアプタマー候補と仮定し、DNAアプタマー候補の中から、標的分子と特異的に結合する好適なDNAアプタマーを選択する。なお、DNAアプタマーとなる当該候補はDNAプール中に複数存在していてもよい。
【0027】
次いで、ステップ102に示すように、DNAプールと標的分子との混合液をインキュベートする。こうしたDNAプール中の一本鎖DNAは塩基配列に応じた一定の立体構造を取るようになり、混合液中の標的分子との結合能を有する一本鎖DNAは、当該標的分子と特異的結合を形成する。これにより、標的分子と(DNAアプタマーとなる)一本鎖DNAとの複合体が得られる。
【0028】
次いで、当該複合体を含む混合液中に一本鎖DNAを分解する分解酵素を添加して所定の温度および時間インキュベートする。たとえば、混合液中にエキソヌクレアーゼIを添加し、37℃で適当な時間インキュベートする。これにより、前述のとおり、複合体を形成していない未結合の一本鎖DNAを分解できる。ここでは、一本鎖DNAに特異的であり、3'末端から5'末端方向に一塩基ずつ除去するという酵素活性を有しているエキソヌクレアーゼIを用いることができる。
【0029】
この後、分解されずに残存する一本鎖DNAを回収する。回収手段は、公知の各種手段を用いて、複合体を構成している一本鎖DNAを回収することができる。この回収工程を実行することにより、操作のバラツキにより、分解を免れている不要なDNA断片が増幅されることによるノイズを除くことができる。これにより、後述の工程で得られる増幅DNAアプタマーの精製度合いを向上させることできる。
【0030】
また、この回収段階では、分解酵素の添加前に存在していた複合体を構成する一本鎖DNAの3'末端のプライマー配列は分解されていると考えられる。しかしながら、3'末端プライマーが残存している一本鎖DNAも残存する可能性があり、こうした一本鎖DNAは単に分解を免れたものと推測される。こうした分解を免れた一本鎖DNAを除去することにより、上記ノイズを小さくすることができる。除去する手段としては、例えば、プライマー配列の相補鎖を固定化した磁気ビーズ等を用いて、このような未分解の一本鎖DNAを除去する手法を用いることができる。
【0031】
続いて、回収された複合体から一本鎖DNAを分離して、当該一本鎖DNAの3'末端に任意のヌクレオチドを重合させる。たとえば、ターミナルデオキシヌクレオチドトランスフェラーゼを用いて、当該一本鎖DNAの3'末端にヌクレオチドのホモポリマーを付加する。
【0032】
続いて、5'末端のDNA増幅用のプライマー配列と3'末端のホモポリマーを利用してPCRにより複合体から分離された一本鎖DNAを増幅する。この後、増幅された二本鎖DNAを分離して、増幅工程で鋳型になった+鎖(一本鎖)を回収する。回収された一本鎖DNAを含む混合物を新たなプールとして、さらに選択のラウンドを繰り返し進める。たとえば、10回程度繰り返してもよい。これにより、標的分子と特異的に結合する一本鎖DNAを濃縮し、この一本鎖DNAを標的分子に対するDNAアプタマーとして選択することが可能である。
【0033】
以上のように、本実施の形態のDNAアプタマーの選択方法によれば、基質等に固定化できない標的分子、あるいは固定化可能な分子でも固定化する段階を経ることなく、DNAアプタマーの選択が可能になる。すなわち、本実施の形態の方法によれば、標的分子に結合したDNAアプタマーと結合していない非特異的DNAの識別をエクソヌクレアーゼ等の分解酵素が溶液に浮遊状態で行うことができようになる。従って、基質等に固定化できない標的分子、あるいは固定化可能な分子でも固定化する段階を省略して、アプタマーの選択が可能になる。また、標的分子が基材に固定されていないので、溶液中に拡散しやすくなり、DNAとの接触頻度が向上する。これにより、標的分子とDNAアプタマーとの結合が促進するので、本実施の形態の方法の生産性が向上する。したがって、本実施の形態の方法によれば、DNAアプタマーの作製が容易になり、DNAアプタマーがより広い分野に応用されていくことを支援するものと期待される。
【0034】
本実施の形態に係るDNAアプタマーは標的分子に対する特異性が高く、抗体と同様に標的分子の検出に用いることができる。また、このDNAアプタマーは、抗体に比べて、蛍光色素等の修飾基を容易に導入することができる。このことは、検出に用いるための様々な仕掛けをDNAアプタマー分子内に持たせることを可能にしており、DNAアプタマーを用いた分子検出法の多様化につながっている。たとえば、本実施の形態に係るDNAアプタマーは、蛍光共鳴エネルギー移動を利用した光学的検出法や電子伝達分子を利用した電気化学的検出法などに利用できる。このように、DNAアプタマーはバイオセンサーのセンサー分子として利用することが可能である。
【0035】
また、本実施の形態の方法によれば、標的分子に特異的なDNAアプタマーを分離し、塩基配列を決定すれば、理論的には制限なく、当該DNAアプタマーの化学合成が可能であることも、抗体に比べて有利な点としてあげられる。また、本実施の形態に係るDNAアプタマーは、抗体に比べて合成が容易であり、前述のとおり、測定法が多様であることなどから、臨床検査、食品検査等々への応用が考えられる。さらには治療薬として医療への応用にも期待が高まっている
【0036】
以下、本発明を実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
実施例1では、ストレプトアビジン(SA)結合アプタマーを用いた実験を例に説明する。プラスチック遠心チューブ(1.5ml)に、5mM MgClを含むPBS(Phosphate Buffered Saline、137mM NaCl、2.7mM KCl、8mM NaHPO、 4.2mM NaHPO)を87μl入れる。長さが70merのSAアプタマー(100μM)を2マイクロリットル添加する。SA(+)反応チューブにはSA溶液(5mg/ml)を10μl添加し、SA(−)反応チューブには同量のPBSを添加する。室温で30分間、静置した後、エキソヌクレアーゼI(5ユニット/μl)を1μl添加し、37℃で10、30、および60分間インキュベートする。その後、酵素を熱処理(80℃、15分間)により失活させる。各サンプルを8%ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、SYBR GOLDでDNAを染色した。結果を図3に示す。図3中、+SAはストレプトアビジン添加を示し、−SAはストレプトアビジン無添加を示し、MはDNAマーカーを示す。SAを添加した場合、エキソヌクレアーゼIによる消化を完全に免れることはできないが、60分間のインキュベーションの後でも相当な量のDNAが残存すること分かった。一方、SA(−)の場合は30分のインキュベーションでほぼ完全に消失していた。このことから、標的分子に結合した形で存在するDNAアプタマーはエキソヌクレアーゼIに耐性をもつと考えられる。
【0038】
(実施例2)
実施例2では、トロンビン結合アプタマーを用いた実験を例に説明する。7.5mM KClと5mM MgClを含むPBSに、長さ20merのトロンビンアプタマーと66merのランダムプールDNAをそれぞれ最終濃度10μMで添加する。反応液を2本のプラスチックチューブに分け、一方にトロンビンを最終濃度25μMで添加する。室温で30分間、静置した後、両チューブにエキソヌクレアーゼI(5ユニット/μl)を1μl添加し、37℃で10、30、および60分間インキュベートする。その後、酵素を熱処理(80℃、15分間)により失活させる。各サンプルを8%ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、SYBR GOLDでDNAを染色した。
【0039】
ゲルイメージを図4に示す。図4中、+Thrombinはトロンビン添加を示し、−Thrombinはトロンビン無添加を示し、MはDNAマーカーを示す。また、図5は、バンドの蛍光量から推測されるトロンビン存在下あるいは非存在下におけるトロンビンアプタマー量の時間変化を示す。この図5は、図4中のトロンビン存在下におけるDNA量の変化をプロットした。DNA量はそれぞれのバンドの蛍光量をもとに推測し、時間0を1とした相対量で表した。図6は、トロンビン存在下におけるトロンビンアプタマーおよびプールDNA量の時間変化を示す。この図6は、図4中のトロンビン存在下におけるDNA量の変化をプロットした。DNA量はそれぞれのバンドの蛍光量をもとに推測し、時間0を1とした相対量で表した。トロンビンを含まない溶液中でトロンビンアプタマーは60分後には当初の10%以下まで減少する。一方、トロンビンを添加しておくと60分後において、50%程度のトロンビンアプタマーが残存していた。
【0040】
また、図7は、トロンビン存在下におけるトロンビンアプタマーとプールDNAの量比の時間変化を示す。この図7は、図4中の各時間における両者のDNA量比をプロットした。両者の量比は当初の0.27から1.0へと、約4倍の増加が見られた。この結果は、本手法を用いることによってランダムプールから標的分子に結合したDNAアプタマーを濃縮できることを示している。
【0041】
なお、当然ながら、上述した実施の形態および複数の変形例は、その内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。また、上述した実施の形態および変形例では、各部の構造などを具体的に説明したが、その構造などは本願発明を満足する範囲で各種に変更することができる。
【符号の説明】
【0042】
100 DNAアプタマー
101 DNA断片
102 標的分子
104 分解酵素
106 分解された領域
107 分解された領域
108 特異的結合形成領域
110 複合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的分子に特異的に結合するDNAアプタマーを含む一本鎖DNAの一群に前記標的分子を接触させることにより、前記DNAアプタマーと前記標的分子とから構成される複合体を得る工程と、
前記複合体を構成しない前記一群中の前記一本鎖DNAを一本鎖DNA分解酵素で分解することにより、前記複合体を残す工程と、を含む、DNAアプタマーの選択方法。
【請求項2】
請求項1に記載のDNAアプタマーの選択方法であって、
前記一本鎖DNA分解酵素は、前記一本鎖DNAを3'末端から5'末端方向に分解する、DNAアプタマーの選択方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のDNAアプタマーの選択方法であって、
前記複合体を構成する前記DNAアプタマーを増幅する工程を含む、DNAアプタマーの選択方法。
【請求項4】
請求項3に記載のDNAアプタマーの選択方法であって、
前記DNAアプタマーが5'末端にDNA増幅用のプライマー配列を有する、DNAアプタマーの選択方法。
【請求項5】
請求項4に記載のDNAアプタマーの選択方法であって、
前記DNAアプタマーを増幅する前記工程が、前記DNAアプタマーの3'末端に任意のヌクレオチドを重合させる工程を含む、DNAアプタマーの選択方法。
【請求項6】
請求項3から5のいずれか1項に記載のDNAアプタマーの選択方法であって、
前記DNAアプタマーを増幅する前記工程で得られた前記DNAアプタマーを含む混合物に対して、少なくとも前記複合体を得る前記工程および前記複合体を残す前記工程とから構成される一連の工程を繰り返し行う、DNAアプタマーの選択方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のDNAアプタマーの選択方法であって、
前記複合体を回収する工程を含む、DNAアプタマーの選択方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のDNAアプタマーの選択方法であって、
前記DNAアプタマーの塩基配列を特定する工程を含む、DNAアプタマーの選択方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のDNAアプタマーの選択方法を用いて得られたDNAアプタマー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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