説明

DNAアレイ、蛍光検出装置及び蛍光検出方法

【課題】蛍光検出の精度を向上させることが可能なDNAアレイを提供する。
【解決手段】 複数の区画9a、9b、9cのそれぞれに所定のピッチで一方向に配列された複数のスポット8を表面に有する基板3と、複数のスポット8に固定され、複数の区画9a、9b、9cのそれぞれにおいては、同一の塩基配列を有し、複数の区画9a、9b、9cの間では、互いに異なる塩基配列を有するDNAプローブ7a、7b、7cとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAアレイ、蛍光検出装置及び蛍光検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デオキシリボ核酸(DNA)、抗体、たんぱく質、糖鎖等のバイオ分子や、細胞等を支持体上に固定したバイオチッブが、バイオ分子の機能解析に用いられている。バイオチップ上のバイオ分子(プローブ)と特異的に相互作用する標的分子や化合物を、大量に、且つ同時並行的に分析することができる。代表的なものに、DNAチップがある。DNAチップは、DNAマイクロアレイとも呼ばれている(以下、DNAアレイと総称する。)。
【0003】
DNAアレイは、マイクロアレイ技術によって所定のDNAが微細配列された集積基板である。現在、DNAアレイは、遺伝子の突然変異、一塩基多型(SNPs)分析、遺伝子発現頻度解析等のバイオアッセイに利用されており、創薬、臨床診断、薬理ジェノミクス、法医学その他の分野において広範に活用され始めている。
【0004】
DNAアレイの作製方法や測定方法については、例えば、特許文献1で提案されている。通常、DNAアレイは、DNAプローブの1つである所定の塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(DNA断片)を適当な間隔で、板状の支持体にスポット状に固定化したものである。一つのスポットの大きさは、20μm〜200μm程度であり、一つのスポット内には、数百万本程度の同一のオリゴヌクレオチドが固定化されている。固定化される各オリゴヌクレオチドの塩基数は、20程度であることが一般的である。支持体としては、ガラス基体、シリコン(Si)基体、樹脂基体が用いられている。
【0005】
一つのDNAアレイ全体では、このようなスポットは50μm〜500μmの間隔でマトリクス状に配列されている。各スポットに含まれるオリゴヌクレオチドは、スポット毎に互いに異なる塩基配列を有している。
【0006】
基板上にオリゴヌクレオチドを固定化する方法としては、基板上で一層ずつ、オリゴヌクレオチドを合成させながら固定化する方法と、あらかじめ別途合成させておいたオリゴヌクレオチドを基板上に固定化する方法がある。前者の方法における代表的な技術は、フォトリソグラフィ技術である。また、後者の方法には、メカニカルマイクロスポッティング技術がある。インクジェット技術はどちらの方法にも使用される。
【0007】
DNAアレイによる解析手法の一例を簡潔に説明する。まず、基板上にDNAプローブを固定化する。細胞、組織等から抽出したメッセンジャリボ核酸(mRNA)を逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等によって蛍光標識デオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)を組み込みながらPCR増幅し、固定化されたDNAプローブに対して、基板上においてハイブリダイゼーションを行う。その後、所定の検出器により、ハイブリダイゼーションされたDNAプローブの蛍光測定を行うというものである。
【0008】
しかし、DNAプローブで検出すべき蛍光量は、他の細胞や組織を検出対象とした蛍光量に比較して非常に微量であることが知られている。したがって、微量の蛍光を高精度で検出する必要がある。そのための蛍光読み取り装置としては、共焦点レーザ顕微鏡を使用してDNAアレイ上を2次元走査して測定する方式が一般的である。以下に、共焦点レーザ顕微鏡での光検出原理を説明する。
【0009】
ハイブリダイゼーションさせるサンプルDNAに組み込まれた蛍光標識を効率よく励起するための波長の励起光が、レーザ素子からハーフミラー及び対物レンズを介して、DNAアレイのDNAプローブのスポットに照射される。そして、スポットに照射された励起光により発光した蛍光は、対物レンズ及び集光レンズを介してピンホールに焦点を結ぶ。その後、蛍光の波長のみを通過させるフィルターを通して、光検出素子で蛍光のみが検出される。この光学系は、ピンホールにより共焦点方式であるため、外乱光によるノイズの除去ができ、高い信号雑音(SN)比で測定することができる。
【0010】
しかし、共焦点レーザ顕微鏡では、1度に5μm〜100μm程度の径の一つのスポット領域しか測定できない。そのため、DNAアレイ、あるいは、顕微鏡ヘッドを2次元走査して、DNAアレイ全体を測定する。例えば、DNAアレイの載ったステージをXとYの2軸方向に走査することで実現する。典型的な走査時間は、20mm×60mmの領域を10μmの解像度でスキャンした場合、測定には5分〜15分程度必要である。
【0011】
測定されたDNAアレイ上の蛍光強度分布は2次元の画像データとして出力される。この際、画像判定を容易にするために、擬似色付け処理が行われる場合もある。出力された画像内で蛍光強度が大きいスポットは、検体中にオリゴヌクレオチドの配列と相補的なヌクレオチド配列が含まれていることを示している。このようにして、スポットの蛍光強度により、検体の遺伝子の注目部位でのヌクレオチド配列を知ることができる。
【0012】
被処理ターゲット物質数の増大、並びに検出精度及び検出速度の向上を図るために、ディスク基板をDNAチップ技術に適用することが提案されている(特許文献2及び3参照)。ディスク基板を用いたDNA解析では、ディスク基板を回転させながら、励起光を微小セルに照射する。励起光の照射により蛍光標識から発生する蛍光を、光検出器で検出する。検出された蛍光の発光位置から、ターゲットDNAとハイブリダイゼーションしたプローブDNAを特定する。
【0013】
ディスク基板状のDNAアレイを用いたDNA解析では、ディスク基板を回転させながら相互反応を行わせるとともに、ディスク基板を高速回転させて蛍光検出を行うことができる。そのため、解析装置を簡易化することができるとともに、検出速度の向上を図ることができる。ディスク基板を用いるDNA解析においても、蛍光検出には共焦点レーザ顕微鏡が用いられる。したがって、外乱光によるノイズの除去ができ、プローブDNAの蛍光を高いSN比で測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平11−315095号公報
【特許文献2】特開2001−238764号公報
【特許文献3】特開2005−147681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述のように、ディスク基板を用いることにより、従来の2次元走査方式に比べて高速の測定が可能となる。しかし、ディスク基板を用いる方式でも、蛍光検出には従来の2次元走査方式と同様に共焦点レーザ顕微鏡が用いられる。そのため、外乱光によるノイズの除去はできるが、蛍光検出の感度の更なる向上は望めない。
【0016】
蛍光標識を付けたサンプルDNAを結合させたDNAアレイに光を照射した際に発生する蛍光には、目的のサンプルDNAの蛍光標識から発生する蛍光の他に、DNAアレイ基板自体から発生する蛍光も含まれる。また、ハイブリダイゼーションしたあとに、結合しなかったサンプルDNAを除去するためにDNAアレイを水洗するが、スポット以外の部分に微量のサンプルDNAが残ってしまう。このようなスポット以外から発生する蛍光がバックグラウンドとなり、目的とする蛍光の検出の精度が悪くなるという問題がある。
【0017】
本発明の目的は、蛍光検出の精度を向上させることが可能なDNAアレイ、蛍光検出装置及び蛍光検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の態様によれば、複数の区画のそれぞれに所定のピッチで一方向に配列された複数のスポットを表面に有する基板と、複数のスポットに固定され、複数の区画のそれぞれにおいては、同一の塩基配列を有し、複数の区画の間では、互いに異なる塩基配列を有するDNAプローブとを備えるDNAアレイが提供される。
【0019】
本発明の第2の態様によれば、基板の表面に所定のピッチで配列されたスポットに固定された同一の塩基配列を有する複数のDNAプローブに、蛍光標識が付加されたサンプルDNAを結合させたDNAアレイと、複数のDNAプローブのそれぞれに蛍光標識を励起する励起光を照射する光源、複数のDNAプローブから発生する蛍光を検出する蛍光検出器を含む蛍光検出部と、複数のDNAプローブのそれぞれが一定の移動速度で順次移動するように、DNAアレイ及び蛍光検出部の少なくとも一方を制御する制御部と、ピッチ及び移動速度で規定される周波数を用いて、複数のDNAプローブからの蛍光を順次検出して取得された電気信号を抽出する信号処理部とを備える蛍光検出装置が提供される。
【0020】
本発明の第3の態様によれば、基板表面の複数の区画の中の一区画に所定のピッチで一方向に配列されたスポットに、同一の塩基配列を有する複数のDNAプローブを固定するステップと、複数のDNAプローブのそれぞれに、蛍光標識が付加されたサンプルDNAを結合させるステップと、蛍光標識を励起する励起光を複数のDNAプローブのそれぞれに一定の移動速度で順次移動させながら照射するステップと、複数のDNAプローブのそれぞれから発生する蛍光を順次検出するステップと、複数のDNAプローブのそれぞれが順次一定の移動速度で移動するように、DNAアレイ及び蛍光検出部の少なくとも一方を制御するステップと、ピッチ及び移動速度で規定される周波数を用いて、複数のDNAプローブからの蛍光を順次検出するステップと、ピッチ及び移動速度で規定される周波数を用いて、順次検出された蛍光の電気信号を抽出するステップとを含む蛍光検出方法が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、蛍光検出の精度を向上させることが可能なDNAアレイ、蛍光検出装置及び蛍光検出方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るDNAアレイの一例を示す概略図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る蛍光検出装置の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る蛍光検出装置の信号処理部の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る蛍光検出装置の蛍光検出の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るDNAアレイのスポット配列の他の例を示す概略図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係るDNAアレイのスポット配列の他の例を示す概略図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る蛍光検出装置の一例を示す概略図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る蛍光検出装置の蛍光検出及び位置検出の一例を示す概略図である。
【図9】本発明のその他の実施の形態に係るDNAアレイの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下図面を参照して、本発明の形態について説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号が付してある。但し、図面は模式的なものであり、装置やシステムの構成等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な構成は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また図面相互間においても互いの構成等が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0024】
又、以下に示す本発明の実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0025】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係るDNAアレイ1は、図1に示すように、ディスク状の基板3、及びスポット8に固定されたDNAプローブ7a、7b、・・・、7c、・・・を備える。基板3は、支持孔5、及び支持孔5を中心とする同心円状の複数のトラックに沿って所定のピッチで配列された複数のスポット8を有する。基板3は、支持孔5を回転中心として回転方向Rに回転可能である。基板3として、シリコン(Si)、ガラス、樹脂等が用いられる。なお、支持孔5を中心とする螺旋状のトラックに複数のスポット8を配列してもよい。
【0026】
各トラックには、複数の区画9a、9b、・・・、9c、・・・が設けられる。区画9a、9b、・・・、9c、・・・のそれぞれに含まれる複数のスポット8には、同一の塩基配列を有するDNAプローブ7a、7b、・・・、7c、・・・が固定される。DNAプローブ7a、7b、・・・、7c、・・・は、互いに異なる塩基配列を有する。
【0027】
DNAアレイ1を用いる分析では、ターゲットであるサンプルDNAをDNAプローブ7a、7b、・・・、7cのいずれかと特異的に反応させてハイブリダイゼーションを行う。特異的に反応したサンプルDNAは、サンプルDNAに付加された蛍光標識からの蛍光を用いて検出される。
【0028】
従来のDNAアレイにおいては、スポット毎に互いに異なる塩基配列を有するDNAプローブが固定されている。DNAプローブに励起光を照射して発生する蛍光には、ターゲットのサンプルDNAの蛍光標識だけでなく、DNAアレイの基板から発生する自家蛍光もバックグランドとして含まれる。更に、ハイブリダイゼーションで反応しなかったサンプルDNAが、洗浄後にもスポット以外の部分に残留し、バックグランドの蛍光として検出される。したがって、特異的に反応したサンプルDNAの蛍光の検出精度が劣化する。
【0029】
第1の実施の形態に係るDNAアレイ1のDNAプローブは、複数の区画9a、9b、・・・、9cのそれぞれでは、同一の塩基配列を有し、複数の区画9a、9b、・・・、9cのそれぞれの間では、互いに異なる塩基配列を有する。例えば、サンプルDNAが、区画9aに固定されたDNAプローブ7aと特異的に反応したとすると、連続して配列された複数のDNAプローブ7aにおいて、サンプルDNAに付加された蛍光標識からの蛍光が検出される。複数のDNAプローブ7aが一定速度で順次移動するようにDNAアレイ1を回転させながら励起光を照射して蛍光を検出すると、順次検出された蛍光は、DNAプローブ7aのピッチと移動速度とで規定される周波数を有する交流信号となる。
【0030】
一方、基板3からの自家蛍光は、ほぼ直流的な信号である。また、スポット8以外の部分にランダムに残留したサンプルDNAからの蛍光は、DNAプローブ7aから順次検出された蛍光の電気信号とは異なる周波数の信号になりやすい。したがって、DNAプローブ7aと結合したサンプルDNAからの蛍光の電気信号を選択的に抽出することができ、蛍光検出の精度及び感度を実質的に向上させることができる。
【0031】
第1の実施の形態に係る蛍光検出装置は、図2に示すように、DNAアレイ1、蛍光検出部10、駆動部28、制御部26、周波数設定部24、信号処理部20、出力部22を備える。DNAアレイ1は、図1に示したように、複数の区画9a、9b、・・・、9cのうち、例えば、区画9aに一定のピッチで配列されたスポット8に固定された複数のDNAプローブ7aに対して、蛍光標識が付加されたサンプルDNAが結合されている。
【0032】
蛍光検出部10は、光源12、照射光学系14、検出光学系16、及び検出器18を備える。光源12は、照射光学系14を介して、複数のDNAプローブ7a、7b、・・・、7cのそれぞれに、サンプルDNAに付加された蛍光標識を励起する一定光量の励起光Lbを照射する。検出器18は、検出光学系16を介して、複数のDNAプローブ7a、7b、・・・、7cから発生する蛍光Frを検出して電気信号に変換する。
【0033】
光源12として、半導体レーザダイオード(LD)や半導体発光ダイオード(LED)等の発光素子が用いられる。検出器18として、フォトダイオードやアバランシェフォトダイオード等の半導体光検出器や、光電子増倍管等が用いられる。
【0034】
駆動部28は、図1に示したDNAアレイ1の支持孔5をスピンドル30に保持して回転させる。制御部26は、同一トラック上のスポット8に固定された複数のDNAプローブ7a、7b、・・・、7cのそれぞれが一定の移動速度で順次移動するように、駆動部28によるDNAアレイ1の回転速度、及びDNAアレイ1の同心円状の各トラックに対する蛍光検出部10のトラッキングを制御する。周波数設定部24は、複数のDNAプローブ7a、7b、・・・、7cの配列ピッチ及び移動速度により規定される周波数を設定する。なお、同一トラックのDNAプローブ7a、7b、・・・、7cの移動速度は、トラックの半径及び回転速度で規定される。
【0035】
信号処理部20は、周波数設定部24で取得された周波数を用いて、検出器18により複数のDNAプローブ7a、7b、・・・、7cからの蛍光を順次検出して取得された電気信号を抽出する。例えば、信号処理部20は、図3に示すように、コンデンサ40、増幅回路42、フィルタ回路44を備える。図2に示す検出器18からの電気信号が、信号処理部20の入力信号となる。フィルタ回路44は周波数可変フィルタであり、周波数設定部24で設定された周波数信号を取得して、通過させる周波数帯域を設定する。出力部22は、信号処理部20から出力された信号を取得する。
【0036】
例えば、制御部26の制御に基づいて駆動部28により、DNAアレイ1が一定の回転速度で回転方向Rに回転する。図4に示すように、蛍光検出部10の光源12から励起光が照射される照射位置と、検出器18で蛍光が検出される検出位置とは、DNAアレイ1の一トラック上において距離Dで離間して配置されている。一定ピッチで配列された複数のDNAプローブ7は順次回転方向Rに移動しながら、照射位置で光源12の励起光により励起される。励起された複数のDNAプローブ7は順次回転方向Rに移動しながら、検出位置で検出器18により蛍光が検出される。複数のDNAプローブ7から順次検出された蛍光は、強度が時間的に変動する交流信号である。したがって、検出器18により変換された電気信号は、ピッチ及び回転速度で規定される周波数を有する交流信号となる。検出器18からの電気信号は、信号処理部20に入力される。
【0037】
信号処理部20の入力信号は、直流成分がコンデンサ40を通して除去され、増幅回路42に送られる。増幅回路42で増幅された信号は、フィルタ回路44に送られ、設定された周波数帯域の信号だけを出力信号として抽出する。例えば、信号処理部20により、複数のDNAプローブ7aに付加された蛍光標識からの蛍光の電気信号が、選択的に抽出された場合、出力部22に含まれる表示装置(図示省略)において、蛍光が検知されたDNAプローブ7a及び区画9aが表示される。
【0038】
例えば、区画9aが配置されたトラックの半径を50mm、DNAプローブ7aの配列のピッチを0.1mm、区画9a内の同じ塩基配列であるDNAプローブ7aの数が10個、DNAアレイ1の回転速度を3600rpmとする。この場合、検出器18で検出される蛍光の信号は、約190kHzの周波数を有する。したがって、フィルタ回路44の通過周波数帯域を、約170kHz〜約210kHzの範囲に設定すればよい。
【0039】
第1の実施の形態によれば、検出された蛍光は、DNAプローブ7aのピッチと移動速度とで規定される周波数を有する交流電気信号に変換される。一方、光源12の励起光は光量が一定であるので、基板3からの自家蛍光は、ほぼ直流的な信号である。また、スポット8以外の部分にランダムに残留したサンプルDNAからの蛍光は、DNAプローブ7aから順次検出された蛍光の電気信号とは異なる周波数の信号になりやすい。したがって、フィルタ回路44をDNAプローブ7aのピッチと移動速度とで規定される周波数に設定することにより、目的とする電気信号を選択的に抽出することができる。その結果、蛍光検出の精度及び感度を実質的に向上させることができる。
【0040】
また、光源12の照射位置と検出器18の検出位置は、離間している。そのため、光源12の励起光が基板3の表面から反射して直接検出器18に入射することを防止することができる。したがって、検出光学系16等に励起光を遮断するフィルタ等を省略することができる。なお、励起光の迷光を遮断してより高いSN比の電気信号を得るため、励起光遮断フィルタを設置してもよい。
【0041】
なお、上述のように、DNAプローブ7a、7b、・・・、7cを固定するスポット8が配列されたトラックについて説明した。しかし、異なるトラックにおいては、それぞれ半径が異なる。全トラックにおいて同一ピッチでスポット8が配列される場合は、フィルタ回路44に対して、トラック毎にトラック半径に応じて異なる周波数を設定する必要がある。それに対して、各トラックに配列されるスポットの数を同一にすれば、フィルタ回路44に対して、各トラックにおいて、設定周波数が同一となる。したがって、フィルタ回路44として周波数可変フィルタを使用する必要はなく、回路構成を簡単にすることができる。
【0042】
また、各DNAプローブ7は、図4に示した光源12の照射位置と検出器18の検出位置との間の距離Dを、DNAプローブ7に付加された蛍光標識に用いる蛍光体の蛍光寿命以下の時間で移動する必要がある。例えば、検出するトラックの半径が50mm、照射位置と検出位置との距離Dが10mm、DNAアレイ1の回転速度を3600rpmとする。この場合、DNAプローブ7が距離Dを移動する時間は、約0.5m秒である。したがって、蛍光標識の蛍光寿命としては、約1m秒あればよい。従来使用されているシアニン蛍光色素等は、蛍光寿命がn秒レベルと短い。一方、ユウロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)等の希土類元素を含む蛍光体は、蛍光寿命がm秒レベルと長く、蛍光標識として使用可能である。例えば、Eu(III)錯体を用いる蛍光体は、波長が約300nm〜約400nmの励起光で、波長が約616nmの蛍光を発し、蛍光寿命は約1m秒である。
【0043】
また、DNAプローブ7は、互いに離間して配列されている。しかし、図5に示すように、DNAプローブ7が互いに接するように配列してもよい。この場合、交流電気信号の振幅は小さくなるが、DNAアレイ1により多くのDNAプローブ7を配列することができる。
【0044】
また、図6に示すように、複数のスポット8i、8jの配列方向に直交する方向に隣接するトラックにおいて、それぞれの配列のピッチPi、Pjは互いに異なることが望ましい。隣接トラック間の半径の差は小さいので、異なるピッチPi、Pjで配列することにより、隣接するトラックからの蛍光を除去することができる。例えば、スポット8iのピッチPiに比べて1.5倍のピッチPjでスポット8jを配列する。スポット8iに固定されたDNAプローブ7iからの蛍光信号の周波数に対して、スポット8jに固定されたDNAプローブ7jからの蛍光信号の周波数は約1.5倍になる。フィルタ回路44により、DNAプローブ7i、7jからのそれぞれの蛍光信号を容易に分離することができる。その結果、隣接するトラックからの蛍光信号を除去でき、高感度で、高いSN比で蛍光検出することが可能となる。
【0045】
また、DNAアレイ1を2色解析法に用いることもできる。この場合、異なる波長の励起光で励起される2種類の蛍光標識がサンプルDNAに付加される。したがって、光源12には、異なる波長の励起光を発する2つのレーザ素子等が含まれる。2種類の蛍光標識からの蛍光の検出感度を向上させるために、それぞれの蛍光の波長の2種類の光学フィルタを検出光学系16に設置して別々に蛍光を検出することが望ましい。更に、2種類の光学フィルタのそれぞれを透過した蛍光を検出する検出素子を別々に設けてもよい。
【0046】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る蛍光検出装置は、図7に示すように、DNAアレイ1a、位置検出部60、蛍光検出部10、駆動部28、制御部26、周波数設定部24a、信号処理部20、出力部22を備える。DNAアレイ1aの基板3aは、図8に示すように、第1基材50、反射膜52、及び第2基材54を有する。第1及び第2基材50、54は、樹脂やガラス等の透明基材である。反射膜52は、アルミニウム等の金属膜であり、複数のスポットのそれぞれに対応する位置に一定の深さを有する凹状の反射マーク56が形成される。位置検出部60は、反射マーク56の検出位置を蛍光検出部10の蛍光検出位置に合わせるように配置される。
【0047】
位置検出部60は、図8に示すように、DNAアレイ1aの裏面側に配置され、光源62、集光レンズ64、ハーフミラー66、対物レンズ68、集光レンズ70、及び検出器72を備える。例えば、光源62には、レーザ素子等が用いられる。検出器72には、フォトダイオード等が用いられる。
【0048】
第2の実施の形態では、DNAアレイ1aの基板3aが、第1及び第2基材50、54と反射膜52を備え、位置検出部60が、DNAアレイ1aの裏面側に配置される点が第1の実施の形態と異なる。他の構成は、第1の実施の形態と同様であるので、重複する記載は省略する。
【0049】
位置検出部60の光源62から発したレーザ光は、集光レンズ64、ハーフミラー66、対物レンズ68を介してDNAアレイ1aの基板3aの裏面に照射される。レーザ光は、透明な第2基材54を通って反射膜52で反射される。反射光は、対物レンズ68、ハーフミラー66、集光レンズ70を介して検出器72で検出される。
【0050】
光源62のレーザ光は、DNAアレイ1aの反射膜52に形成された反射マーク56への入射光と反射光とが互いに干渉して反射強度が減少する波長を有する。DNAアレイ1aを一定の回転速度で回転方向Rに回転させて、蛍光検出部10によりDNAアレイ1aの表面に配列されたDNAプローブ7の蛍光が順次検出される。蛍光検出を行いながら、同時にDNAアレイ1aの裏面側から位置検出部60により蛍光が検出されるDNAプローブ7の位置が順次検出される。
【0051】
例えば、位置検出部60の光源62の照射位置が反射マーク56に合うと、レーザ光の反射強度が減少する。反射マーク56は、DNAプローブ7と同じピッチで配列されているので、検出器72では、検出された反射レーザ光は、蛍光検出部10の検出器18で検出される蛍光の電気信号と同じ周波数及び位相を有する位置信号に変換される。
【0052】
図7に示した制御部26は、駆動部28の回転速度、蛍光検出部10及び位置検出部60のトラッキング等の制御を行う。周波数設定部24aは、制御部26を介して位置検出部60で得られた位置信号の周波数及び位相を取得して、図4に示した信号処理部20のフィルタ回路44の周波数及び位相を設定する。フィルタ回路44により、蛍光検出部10で検出された電気信号の中から、設定された周波数及び位相を有する信号が蛍光信号として抽出される。
【0053】
第2の実施の形態では、DNAプローブ7に対応して反射マーク56をDNAアレイ1aに設けている。蛍光検出部10による蛍光検出に合わせて、位置検出部60により反射マーク56の位置検出を行うことにより、蛍光信号と同じ周波数及び位相を有する位置信号を得ることができる。その結果、位置信号を用いてフィルタ回路44の周波数及び位相が設定され、DNAプローブ7からの蛍光信号を高い感度、且つ高いSN比で抽出することが可能となる。
【0054】
なお、信号処理部20として、ロックインアンプを用いてもよい。位置信号の周波数及び位相をロックインアンプの参照信号として用いることにより、同じ周波数で同じ位相を有する電気信号を蛍光信号として、より高感度、且つ高SN比で抽出することができる。
【0055】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明の実施の形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者にはさまざまな代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0056】
本発明の第1及び第2の実施の形態においては、DNAアレイ1はディスク状の基板3を用いている。しかし、基板の形状は限定されない。例えば、図9に示すように、DNAアレイ1bを矩形状の基板3bを用いて構成してもよい。DNAプローブ7を固定する複数のスポット8は、基板3b上に互いに直交する方向に2次元的に配列される。DNAアレイ1b及び蛍光検出部10の少なくとも一方をスポット8の配列と同じ走査方向Sに繰り返し走査すればよい。例えば、走査方向SでのDNAプローブ7のピッチを0.1mm、走査速度を100mm毎秒〜1000mm毎秒とすれば、検出される蛍光信号の周波数は、1kHz〜10kHzとなる。
【0057】
また、上述の蛍光検出装置による蛍光検出では、DNAアレイを用いているが、DNA以外に、抗体、たんぱく質、糖鎖などのバイオ分子や、これらを有する細胞等をプローブとするバイオチップを用いてもよい。例えば、バイオ分子等を基板上にアレイ状に多数固定する。蛍光標識を付加した標的分子や化合物等を、アレイ上のそれぞれのバイオ分子と特異的に相互作用させる。このようなバイオチップを用いて、蛍光検出装置により蛍光検出を行えばよい。
【0058】
また、第1及び第2の実施の形態では、励起光の照射位置と蛍光の検出位置は離間しているが、照射位置と検出位置が同じあってもよい。その場合、蛍光の波長のみ選択的に検出できるように、蛍光の波長帯域の光学フィルタ等を検出器18に設置すればよい。例えば、蛍光検出部10として、共焦点顕微鏡を用いてもよい。
【0059】
このように、本発明はここでは記載していないさまざまな実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係わる発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0060】
1、1a、1b…DNAアレイ
3、3a、3b…基板
5…支持孔
7、7a、7b、7c、7i、7j…DNAプローブ
7a…DNAプローブ
7i…DNAプローブ
7j…DNAプローブ
8、8i、8j…スポット
9a、9b、9c…区画
10…蛍光検出部
12…光源
14…照射光学系
16…検出光学系
18…検出器
20…信号処理部
22…出力部
24、24a…周波数設定部
26…制御部
28…駆動部
30…スピンドル
40…コンデンサ
42…増幅回路
44…フィルタ回路
50…第1基材
52…反射膜
54…第2基材
56…反射マーク
60…位置検出部
62…光源
64…集光レンズ
66…ハーフミラー
68…対物レンズ
70…集光レンズ
72…検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の区画のそれぞれに所定のピッチで一方向に配列された複数のスポットを表面に有する基板と、
前記複数のスポットに固定され、前記複数の区画のそれぞれにおいては、同一の塩基配列を有し、前記複数の区画の間では、互いに異なる塩基配列を有するDNAプローブとを備えることを特徴とするDNAアレイ。
【請求項2】
前記ピッチが、前記複数の区画の全体で一定であることを特徴とする請求項1に記載のDNAアレイ。
【請求項3】
前記複数の区画の中の一区画に配列された複数のスポットのピッチが、前記複数のスポットの配列方向に直交する方向に隣接する区画に配列された複数のスポットのピッチとは異なることを特徴とする請求項1に記載のDNAアレイ。
【請求項4】
前記複数のスポットが、互いに接して配列されることを特徴とする請求項1に記載のDNAアレイ。
【請求項5】
前記基板が回転中心を有し、前記複数のスポットは、前記回転中心を中心とする同心円状又は螺旋状のトラックに沿って配列されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のDNAアレイ。
【請求項6】
前記基板が、透明な第1及び第2基材の間に、前記複数のスポットのそれぞれに対応する位置に反射マークが形成された反射膜を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のDNAアレイ。
【請求項7】
基板の表面に所定のピッチで配列されたスポットに固定された同一の塩基配列を有する複数のDNAプローブに、蛍光標識が付加されたサンプルDNAを結合させたDNAアレイと、
前記複数のDNAプローブのそれぞれに前記蛍光標識を励起する励起光を照射する光源、前記複数のDNAプローブから発生する蛍光を検出する蛍光検出器を含む蛍光検出部と、
前記複数のDNAプローブのそれぞれが一定の移動速度で順次移動するように、前記DNAアレイ及び前記蛍光検出部の少なくとも一方を制御する制御部と、
前記ピッチ及び前記移動速度で規定される周波数を用いて、前記複数のDNAプローブからの蛍光を順次検出して取得された電気信号を抽出する信号処理部
とを備えることを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項8】
前記励起光の照射位置と前記蛍光の検出位置とが、離間していることを特徴とする請求項7に記載の蛍光検出装置。
【請求項9】
前記複数のDNAプローブのそれぞれは、前記蛍光標識の蛍光寿命以下の時間で前記照射位置と前記検出位置との間を移動することを特徴とする請求項8に記載の蛍光検出装置。
【請求項10】
前記蛍光標識が、希土類元素を含む蛍光体であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の蛍光検出装置。
【請求項11】
前記基板が、回転中心を有し、前記スポットが、前記回転中心を中心とする同心円状又は螺旋状のトラックに沿って配列されることを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の蛍光検出装置。
【請求項12】
他の蛍光標識が付加されたサンプルDNAを結合させた複数の他のDNAプローブが、前記DNAアレイの他のスポットに固定され、
前記光源が、前記他の蛍光標識を励起する、前記励起光とは異なる波長の励起光を更に照射することを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載の蛍光検出装置。
【請求項13】
前記基板が、透明な第1及び第2基材の間に、前記複数のスポットのそれぞれに対応する位置に反射マークが形成された反射膜を有し、
前記基板の裏面を介して前記反射マークに光を照射して反射光を検出する位置検出部を更に備え、
前記信号処理部が、検出された前記反射光の位置信号から取得される周波数及び位相を用いて、前記電気信号を抽出することを特徴とする請求項7〜12のいずれか1項に記載の蛍光検出装置。
【請求項14】
基板表面の複数の区画の中の一区画に所定のピッチで一方向に配列されたスポットに、同一の塩基配列を有する複数のDNAプローブを固定するステップと、
前記複数のDNAプローブのそれぞれに、蛍光標識が付加されたサンプルDNAを結合させるステップと、
前記蛍光標識を励起する励起光を前記複数のDNAプローブのそれぞれに一定の移動速度で順次移動させながら照射するステップと、
前記複数のDNAプローブのそれぞれから発生する蛍光を順次検出するステップと、
前記複数のDNAプローブのそれぞれが順次一定の移動速度で移動するように、前記DNAアレイ及び前記蛍光検出部の少なくとも一方を制御するステップと、
前記ピッチ及び前記移動速度で規定される周波数を用いて、前記複数のDNAプローブからの蛍光を順次検出するステップと、
前記ピッチ及び前記移動速度で規定される周波数を用いて、順次検出された前記蛍光の電気信号を抽出するステップ
とを含むことを特徴とする蛍光検出方法。
【請求項15】
前記励起光の照射位置と前記蛍光の検出位置とが、離間していることを特徴とする請求項14に記載の蛍光検出方法。
【請求項16】
前記複数のDNAプローブのそれぞれは、前記蛍光標識の蛍光寿命以下の時間で前記照射位置と前記検出位置との間を移動することを特徴とする請求項15に記載の蛍光検出方法。
【請求項17】
前記スポットが、前記基板の回転中心を中心とする同心円状又は螺旋状のトラックに沿って配列され、前記基板を回転させながら、前記励起光の照射及び前記蛍光の検出を行うことを特徴とする請求項14〜16のいずれか1項に記載の蛍光検出方法。
【請求項18】
前記基板が、透明な第1及び第2基材の間に、前記複数のスポットのそれぞれに対応する位置に反射マークが形成された反射膜を有し、
前記蛍光を順次検出しながら、前記基板の裏面を介して前記反射マークに順次光を照射して反射光を検出するステップを更に備え、
順次検出された前記反射光の位置信号から取得される周波数及び位相を用いて、前記電気信号を抽出することを特徴とする請求項14〜17のいずれか1項に記載の蛍光検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate