説明

DNAインクを用いたオンサイト物品認証システム

【課題】商品や財産あるいは著作物の真贋を判定する仕掛けでは、その場において即座に判定できるものはない。
【解決手段】 本発明に係るDNAインクを用いたオンサイト物品認証システムは固定核酸(1)を含有するDNAインク(2)と、該固定核酸(1)とのみ結合する検出核酸(3)を包含する。該DNAインク(2)により物品(6)上に印刷あるいはマーキングによる表示を行う。該物品(6)の真贋の是非を判定する際は、その場で該検出核酸(3)を該固定核酸(1)上に塗布する。該検出核酸(3)は該固定核酸(1)と結合したときは信号を発信し、結合しないと発信しないので、発信の有無で該物品の真贋の是非を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はDNAインクを用いたオンサイト物品認証システムに関し、物品(譲渡の対象となる有体物全般を含む。以下同じ。)に正規直交配列などによるDNA塩基配列の核酸物質を含むインクを用いて印刷、塗布等によって、「点、線、これらの集合体等」(以下「表示」と称する。)を施し、他方、該塩基配列物質とのみ結合し、結合時に信号(例えば発光、電流、電磁波、音等で、以下同じ。)を発信する別の塩基配列物質を用意し、該物品の真贋を判定する際に、該物品に該別の塩基配列物質を塗布し、該別の塩基配列物質の発信の有無を検知することで物品の真贋を判定するようにしたものである。なお、本明細書中の発明の名称、この段落0001及び以下の説明、及び要約書中の説明で、「オンサイト」は「その場(での)」の意味で使用され、「DNAインク」は、それだけでは単独に発信せず、かつ他の塩基配列物質とは混合や結合をせず、単独で存在する塩基核酸配列に基づく核酸物質(以下「固定核酸」と称する。)を混合させたインクを意味する。
【背景技術】
【0002】
従来、可視できない波長での発光蛍光体を用いたインクを物品に塗布し、その発光の有無を用いて物品の真贋を判定するシステム(例えば、特開2006−77191号公報)がある。また、DNA塩基配列の正規直交配列による核酸塩基配列の定量的分析を行うもの(例えば、特開2006−211982号公報)がある。更に、固体物に付着したマークパターンを観察し、そのパターンの出現により、マークの存在の有無を検知するもの(例えば、特表2003−525429号公報)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−77191号公報
【特許文献2】特開2006−211982号公報
【特許文献3】特表2003−525429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の発明は、発光蛍光体の組成が判る、あるいは他の発光蛍光体を用いても同様な真贋判定として用いることができることになる。これは発光蛍光体があれば物品の真贋判定を偽装することが容易であることになり、本来の真正物品の真贋判定として用いることはできない。
【0005】
特許文献2に記載の発明は、正規直交配列により新しい塩基配列の核酸を形成し、それを用いるものである。正規直交配列とは、たとえば乱数から得られた塩基のDNA配列に対して連続一致長、融解温度予測、ハミング距離、二次構造予測の計算を行うことにより設計される。正規直交配列は、核酸分子の配列であって、その融解温度が均一であるもの、即ち融解温度が一定範囲内に揃うように設計された配列であって、その相補的な塩基配列との結合を阻害するような安定な二次構造を形成することのない配列であり、しかもその相補的な塩基配列以外とは安定した結合を形成しない性質を有するものであるが、それのみでは真贋判定としての能力を持ち得ない。
【0006】
特許文献3に記載の発明は、マークパターンの出現の検出に映像観察装置などを必要とし、その検知によってマークをオンサイトにより5秒以内に検出することはできない。又、粒子でマークを描くため、マークのサイズはある程度の大きさを必要するが、本発明では粒子を使用しないので、より小さな、たとえば、数マイクロメートルの大きさのマークも描けるため、あらゆる物品への塗布が可能である。さらに、本発明は37℃ではなく室温でマークの検出ができるため、加温装置も必要とせず、熱に弱い物品でも利用可能である。
【0007】
本発明は、DNAインクを真贋の判定が必要な物品に塗布する。該物品はこの状態では発信をせず、真贋判定対策を施した物品であることは第三者には不明の状態である。他方、該固定核酸とのみ結合し、結合が行われた時に発信する性質を有する別の塩基配列物質(以下「検出核酸」と称する。)を用意する。該物品の真贋の判定が必要になった場合に、該固定核酸上に該検出核酸を塗布することで、該固定核酸と該検出核酸とが結合し、該検出核酸が即時に発信を開始する。本発明は、このような、物品の真贋の是非をオンサイトで5秒以内に判定するDNAインクを用いたオンサイト物品認証システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(請求項1)本発明に係るDNAインクを用いたオンサイト物品認証システムは、固定核酸を含有するDNAインクと、該固定核酸とのみ結合する検出核酸を包含している。
【0009】
該検出核酸は該固定核酸とのみ結合するので、その一方、例えば該固定核酸を物品に施し、他方、例えば該検出核酸をこの一方に接触させて両者の結合を検出すれば、結合の有無で物品の同一性が判断できる。該固定核酸と該検出核酸は結合が行われた時に即時に信号、例えば光を発する性質を有するので、該物品の真贋を判定が必要になった場合、該固定核酸に該検出核酸を結合させて、オンサイトで該検出核酸が信号を発するか否かを調べることができる。
【0010】
(請求項2)該固定核酸と該検出核酸との結合を検出の直前に行うようにしてもよい。
該物品の真贋を判定する時期としてはいろいろ選べるが、このように判定が必要になったその場で行うと、即座の判定が可能で、認証者と検知者を一致させることも容易で、該検出核酸を保有している認証者は何時、如何なる場所においてもオンサイトで認証を行うことが可能となる。
【0011】
(請求項3)該固定核酸と該検出核酸との結合は、物品認証のための検出を行う直前より以前で該固定核酸を物品に貼付あるいは塗布して直ぐに行ってもよい。
こうすると、該検出核酸は常に発信している状態なので、該物品の真贋の判定が必要になった時には何時でも、発信の有無を検知するだけで、判定作業を行える。
【0012】
(請求項4)該固定核酸は該物品又は該物品に対する付設物の固相上に固定されたものであってもよい。
こうすると、該固定核酸は該物品又は該付設物から簡単には剥離せず、長期の寿命を有する物品に対する真贋判定手段として効果的である。
【0013】
(請求項5)該固定核酸は、正規直交配列あるいは該固定核酸の特異的検出の妨げにならないような配列であってもよい。
こうすると、正規直交配列が有する特性により、該検出核酸による該固定核酸の特異的な検出が可能になる。又、該固定核酸とは別の固定核酸により、該検出核酸が該物品又は該付設物の固相上に非特異的に結合することを防ぎ、該検出核酸の該固定核酸に対する選択的結合を確実に検出することが可能となる。
【0014】
(請求項6)該固定核酸は、該固定核酸と同じ長さを持ちかつ該検出核酸による塩基核酸配列検出を妨げないような配列を持つダミーの固定核酸を含んでいてもよい。
こうすると、贋物品を真正物品であるように見せる目的で、該固定核酸を剥離して該固定核酸の塩基配列を分析し、同様の塩基配列物質を偽造して物品に塗布しても、大量の該ダミーの固定核酸をDNAインクに混合させることで、真贋判定の対象となる該固定核酸の特定を妨げて偽物の流通を効果的に防ぐことができる。
【0015】
(請求項7)該検出核酸は、特定の固定核酸にのみ特異的に結合する性質を有していてもよい。
こうすると、該検出核酸は真贋判定の対象となる物品上に塗布された該固定核酸とのみ結合し、他の固定核酸とは結合しないので、該物品の真贋の判定を確実に行える。
【0016】
(請求項8)該検出核酸は特定の固定核酸と結合した場合にのみ発信する性質を有していてもよい。
こうすると、該検出核酸は対象とする該固定核酸に選択的に結合して発信するので、該物品の真贋の判定を該検出核酸が発信するか否かで行える。
【0017】
(請求項9)該検出核酸は、固定核酸が持つ正規直交配列の相補配列、固定核酸の特異的検出において相補配列と同等の性能を有する配列又は固定核酸の特異的検出の妨げにならない配列を有していてもよい。
こうすると、該検出核酸とは別の検出核酸により、該検出核酸が該物品又は該付設物の固相上に非特異的に結合することを防ぎ、該検出核酸の該固定核酸に対する選択的結合を確実にし、該検出核酸による検出をより確実なものとなるとともに、贋物品を真正物品であるように見せる目的で該検出核酸の贋物が作成されるのを防げるため、偽物の流通を効果的に阻止できる。
【0018】
(請求項10)該検出核酸は、該固定核酸の塩基核酸配列を検出するための該検出核酸以外に、自身の該検出核酸と同じ長さの塩基核酸配列を持ち、それらの検出核酸による塩基核酸配列の検出を妨げないような配列を持つダミーの検出核酸を含んでいてもよい。
こうすると、該検出核酸の塩基配列の贋物が作成されても、該検出核酸物質と同一の長さの塩基配列を持つ大量の核酸塩基をDNAインクと混合してダミーの検出核酸を用意することで、真贋判定の検出物質としての該検出核酸の特定を妨げることができ、偽物の流通を効果的に防ぐことができる。
【0019】
(請求項11)該固定核酸は複数種類が用意され、その中から更に一つ以上の種類を選択して選択固定核酸とし、該選択固定核酸に対応する種類の検出核酸を同時に含む検出核酸を用いて検出されてもよい。
こうすると、物品の真贋を判定する用途は多岐にわたるため、該固定核酸は1種類では対応が取れないが、複数種類の塩基配列を選択的に混合することで複数種類の選択固定核酸が得られ、これに対応する種類の検出核酸の採用で、多岐にわたる用途への要求に応えることができる。例えば、M種類の選択固定核酸を用いると、2M−1種類の選択固定核酸種を有する認証システムを提供できる。
【0020】
(請求項12)該選択固定核酸の一つ以上を選択的に含有する各別のDNAインクにより複数の異なる種類の表示が該物品又は該付設物に施されてもよい。
これにより、認証システムの信頼性、安全性を向上させることができる。例えば、1種類の該DNAインクを用いて施した1種類の該表示を検知して該物品の真贋判定を行うより、複数の異なる種類の該DNAインクを用いて施した複数の異なる種類の該表示を検知して物品の真贋判定を行えば、認証の信頼性を高めることができる。また、あらかじめ、複数の異なる種類の該DNAインクを用いて複数の異なる種類の該表示を該物品に施しておけば、仮にある該表示が偽造されてしまった場合でも、それと異なる該表示を検知して該物品の真贋判定を行うようにすれば、別の異なる種類のDNAインクを用いて該物品に新たに別の異なる種類の表示を施さなくとも、引き続き該物品の認証を行うことができるので、認証の安全性が向上する。このことは、とくに、該DNAインクを用いて該物品に繰り返して該表示を施すことが困難な場合の認証において有効である。
【0021】
(請求項13)該固定核酸に結合した該検出核酸は、該検出核酸による検出を行った後、制信処理により検出不可能な状態にされてもよい。
こうすると、物品が販売済み等で検出の必要が無くなった場合に便利となる。検出不可能な状態にするのには、除去核酸により該検出核酸を除去する方法、発信が発光の場合では、該検出核酸に更に該検出核酸の発光能力を妨げる物質を塗布してその発光を止めるやり方や強い光により該検出核酸の発光能力を消失させるやり方等がある。
例えば、商品としての物品を販売する際、買主を該商品の真贋の判定に立ち会わせ、買主が真正であることを確認した後にその発信を止めて該商品を買主に引き渡すことで売買が成立し、買主の所有物となったとの判定ができ、発信を継続している場合は盗難されたものであるという推定ができる。
【発明の効果】
【0022】
(請求項1)本発明に係るDNAインクを用いたオンサイト物品認証システムによれば、該検出核酸は該固定核酸とのみ結合するので、例えば該固定核酸を物品に施し、該検出核酸を該固定核酸に接触させ、該両者が結合したか否かを検出して物品の同一性をオンサイトで判断できる。
【0023】
請求項2によれば、該物品の真贋を判定する必要が生じた時に、その場で該物品に該検出核酸を塗布して、簡便に、容易にかつ即座に該物品の真贋が判定でき、認証者と検知者を一致させることも容易で、該検出核酸を保有している認証者は何時、如何なる場所においても認証を行うことが可能となる。
【0024】
請求項3によれば、該検出核酸は常に発信している状態なので、該物品の真贋を判定が必要になった時には、その場で何時でも、発信の有無を検知するだけで、判定作業を行える。
【0025】
請求項4によれば、該固定核酸は該物品又は該付設物から簡単には剥離せず、長期の寿命を有する物品に対する真贋判定手段として効果的である。
【0026】
請求項5によれば、該固定核酸とは別の固定核酸により該検出核酸が非特異的に結合することを防ぎ、該検出核酸の該固定核酸に対する選択的結合を確実に検出することが可能となる。
【0027】
請求項6によれば、贋物品を真正物品であるように見せる目的で、該固定核酸を剥離して該固定核酸の塩基配列を分析し、同様の塩基配列物質を偽造して物品に塗布しても、大量の該ダミーの固定核酸とDNAインクを混合させたので、真贋判定の対象となる該固定核酸の特定を妨げて、偽物の流通を効果的に防ぐことができる。
【0028】
請求項7によれば、該検出核酸は真贋判定の対象となる物品上に塗布された該固定核酸とのみ結合し、他の固定核酸とは結合しないので、該物品の真贋の判定を確実に行える。
【0029】
請求項8によれば、該検出核酸は対象とする該固定核酸と選択的に結合して発信するので、該物品の真贋の判定を該検出核酸が発信するか否かで行える。
【0030】
請求項9によれば、該検出核酸物質と相補的な塩基配列を持つ核酸塩基を用意して該検出核酸物質とともにDNAインクと混合させ、別の検出核酸により該固定核酸が非特異的に結合することを防ぎ、該検出核酸の該固定核酸に対する選択的結合を確実にすることができるとともに、真贋判定の検出物質としての該検出核酸の特定を妨げることができ、偽物の流通を効果的に防ぐことができる。
【0031】
請求項10によれば、該検出核酸物質と同一の長さと同じ蛍光分子の塩基配列を持ちかつそれらの検出核酸による塩基核酸配列の検出を妨げないような配列を持つダミーの検出核酸をDNAインクと混合させ、真贋判定の検出物質としての該検出核酸の特定を妨げることができ、偽物の流通を効果的に防ぐことができる。
【0032】
請求項11によれば、物品の多様性により真贋を判定する用途が多岐にわたっても、複数種類の該固定核酸を選択的に混合することで、複数種類の固定核酸を提供でき、多岐にわたる真贋判定にも対応できる。M種類の固定核酸を用いれば2M−1種類の固定核酸種を有する認証システムを提供でき、広く物品の真贋判定に応用できる認証システムが提供できる。
【0033】
請求項12によれば、複数の異なる種類の該DNAインクを用いて施した複数の異なる種類の該表示を用いて物品の真贋判定を行うことができるので、1種類の該表示を用いて物品の真贋判定を行う場合と比べて、信頼性の高い認証システムが提供できる。また、認証に使用していた該表示が盗まれてしまった場合でも、それとは異なる他の該表示を検知して該物品の真贋判定を行うことができるので、新たに別の異なる種類の表示を該物品に施さなくとも認証を引き続き行うことができる。これにより、出荷された後の物品などのように、別の種類のDNAインクを用いて新たに表示を追加することが困難な場合においても有効な認証システムを提供することができる。
【0034】
請求項13によれば、買主が立ち会って真正品であるとして購入した該物品は、販売後直ちに制信処理によりその発信を止められるので、正常な販売が行われたことの証拠となり、発信を継続している場合は盗難されたものであるという推定が成り立ち、盗難防止用の認証システムとしても供用できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明にかかるDNAインク2を用いたオンサイト物品認証システムの流れ図である。
【図2】物品6又は付設物6’に塗布されたDNAインク2による表示7の固定核酸1と検出核酸3との結合反応の概念図である。
【図3】正規直交配列の手法を用いて生成された複数の固定核酸1aから1種類の固定核酸1を選択してDNAインク2とする流れ図である。
【図4】固定核酸1と複数個のダミーの固定核酸1bを混合させてDNAインク2とし、容器2’に収容した説明図である。
【図5】検出核酸3と複数個のダミーの検出核酸3aを混合させて容器9に収容した状態の説明図である。
【図6】正規直交配列の手法を用いて生成された複数の固定核酸1aから複数の固定核酸1cを選択して容器2’に収容する流れ図である。
【図7】固定核酸1と検出核酸3が結合した発信状態から制信処理11を施して発信を制止する状態の流れ図である。
【図8】DNAインク4秒検出の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して、説明する。
(請求項1)図1及び図2で、本発明に係るDNAインクに基づく物品認証システムは、DNA塩基を分析した塩基核酸配列を基本シードとして分析して得られた固定核酸1を含有するDNAインク2と、この固定核酸1とのみ結合する検出核酸3から成っている。
【0037】
正規直交配列の手法を用いて生成された固定核酸1をインク基材と混合したDNAインク2を、印刷機4あるいはインクジェット機5などを用いて物品6に印刷又は塗布し、表示7を施す。他方、検出核酸3はこの固定核酸1とのみ結合し、結合したときに発信8、例えば発光を行うもので、容器9に収容しておく。
物品6の真贋を判定する際は、この検出核酸3を検出核酸用の塗布機10で物品6の表示7に塗布する。
【0038】
この操作により、DNAインク2が付設されている物品6では、固定核酸1と検出核酸3が結合して発信8を行う。この物品認証システムがこの発信8を検知することで、当該物品6が真正品であることが証明される。一方、DNAインク2による固定核酸1の塗布がされていない物品6では検出核酸3を塗布しても何の結合も起こらず、従って発信8も行わない。このため、この発信8の有無を検知することで、当該物品6が真正な商品であるか否かがオンサイトで認証できる。
【0039】
(請求項2)固定核酸1と検出核酸3の結合を検出の直前に行うようにする。
この場合、固定核酸1と検出核酸3は結合してから4秒程度で発信8をするので、この4秒を超えてかつこの4秒に直近の時間帯がここでいう直前といえる。従って、物品6の真贋を判定する必要が生じた時に、その場で物品6の表示7に検出核酸3を塗布して、簡便に、容易にかつ即座にこの物品6の真贋が判定でき、認証者と検知者を一致させることも容易で、検出核酸3を保有している認証者は何時、如何なる場所においても認証を行うことが可能となる。
【0040】
(請求項3)固定核酸1と検出核酸3の結合は、物品認証のための検出を行う直前より以前で固定核酸1を物品6に貼付あるいは塗布した直後に行うようにする。
この場合、検出核酸3は固定核酸1との結合により常時発信している状態なので、認証者は発信を検知するための装置や器具を保有してさえいれば、何時、如何なる場所においても認証を行うことが可能となる。
【0041】
(請求項4)固定核酸1は物品6又はこの物品6に対する付設物6’の固相上に固定されたものとなっている。
この場合、固定核酸1は物品6又は付設物6’から簡単には剥離せず、長期の寿命を有する物品6に対する真贋判定手段として効果的である。付設物6’としては、シール、布片等がある。
【0042】
(請求項5)図3で、固定核酸1は、正規直交配列あるいは固定核酸の特異的検出の妨げにならない配列である。例えば乱数から得られた塩基のDNA配列に対して連続一致長、融解温度予測、ハミング距離、二次構造予測の計算を行うことにより設計された正規直交配列により生成されたものである。
この場合、検出核酸3による固定核酸1とは別の固定核酸1bにより、検出核酸3が物品6又は付設物6’の固相上に非特異的に結合することを防ぎ、検出核酸3の固定核酸1に対する選択的結合を確実に検出することが可能となる。
【0043】
(請求項6)図4で、固定核酸1は、この固定核酸1と同じ長さを持ちかつ検出核酸3による塩基核酸配列検出を妨げないような配列を持つダミーの固定核酸1bを含んでいる。
この場合、当該物品6に塗布される固定核酸1が1種類だと、贋物品を真正物品であるように見せる目的で、該固定核酸を剥離してその塩基配列を分析し、同様の塩基配列物質を偽造して物品に塗布することも考えられるが、固定核酸1を含有するDNAインク2中に、この固定核酸1と同一の塩基長を有するがこの検出核酸3とは結合せず従って発信8を呈しない、核酸を混合させた大量のダミーの固定核酸1bを用意することで、固定核酸1の偽造を防止することができる。
【0044】
(請求項7)検出核酸3は、特定の固定核酸1にのみ特異的に結合する性質を有している。
この場合、固定核酸1が変わると検出核酸3は結合せず、発信8を送出しないので、物品6の真贋を容易に判定できる。
【0045】
(請求項8)検出核酸3は、特定の固定核酸1に結合した場合にのみ発信する性質を有している。
この場合、物品6の真贋の判定を、検出核酸3の発信の有無で行うので、判別が容易である。
【0046】
(請求項9)検出核酸3は、固定核酸1が持つ正規直交配列の相補配列、固定核酸1の特異的検出において相補配列と同等の性能を有する配列又は固定核酸1の特異的検出の妨げにならない配列を有している。
この場合、相補的塩基配列を用いることで、容易かつ確実に固定核酸配列と結合できるようになり、物品6の真贋の判定を確実に行える。
【0047】
(請求項10)図5で、検出核酸3は、固定核酸1の塩基核酸配列を検出するための検出核酸以外に、自身の塩基核酸配列と同じ長さと同じ蛍光分子の塩基核酸配列を持ちかつそれらの検出核酸による塩基核酸配列の検出を妨げないような配列を持つダミーの検出核酸3aを含んでいる。
この場合、ダミーの検出核酸3aは固定核酸1とは結合せず、従って発信しないので、検出核酸3の偽造を防止することができる。
【0048】
(請求項11)図6で、固定核酸1は複数種類1aが用意され、その中から更に一つ以上の種類を選択して選択固定核酸1cとする。この選択固定核酸1cは、それらに対応する種類の検出核酸を同時に含む検出核酸を用いて検出される。
この場合、認証を必要とする物品6はその種類、性質が多岐にわたるため、その各々の種類、性質、製造者あるいは販売者の認証のために塗布される検出核酸3も複数種類を必要とするが、複数種類1aから一つ以上の固定核酸を適宜組み合わせて選択固定核酸1cとし、この選択固定核酸1cを混合したDNAインク2を用意することで、その要求に応えることが可能となる。もし、M種類の固定核酸を用意すれば最大で2のM乗−1の個数の検出種別が可能となる。
【0049】
(請求項12)選択固定核酸1cの一つ以上を選択的に含有する各別のDNAインク2aにより複数の異なる種類の表示7が物品6又は付設物6’に施される。
この場合、図8に示すように、正規直交配列を有する複数種類の固定核酸1の中から更に選択された、種類の異なる固定核酸1を含む、3種類のDNAインク2(D1‐16、D1‐27、D1‐44)を用いて、物品6である基板に、3種類の異なる表示7が施されている。D1‐27のDNAインク2に含まれる固定核酸1にのみ結合して発光する検出核酸3を含む検出核酸溶液を塗布して検知すると、D1‐27のDNAインク2を用いて施した、「×」の形をした表示7が検知される。また、D1‐44のDNAインク2に含まれる固定核酸1にのみ結合して発光する検出核酸3を含む検出核酸溶液を塗布して検知すると、D1‐44のDNAインク2を用いて施した、「○」の形をした表示7が検知される。これら2つの形の異なる表示7を用いて物品6の真贋の判定を行えば、1つの表示を用いて判定を行う場合と比べて、認証の信頼性が向上する。また、たとえば、D1‐27のDNAインク2を用いて施した、「×」の形をした表示7を用いて認証を行っていたとき、仮にその「×」の形をした表示7が盗まれて偽造されてしまった場合でも、あらかじめD1‐44のDNAインク2を用いて物品6に施しておいた「○」の形をした表示7を用いて認証を行うように変更すれば、引き続き、物品6の真贋の判定を行うことができるので、安全性の高い認証が可能である。
【0050】
(請求項13)図7で、固定核酸1に結合した検出核酸3は、この検出核酸3による検出を行った後、制信処理11により検出不可能な状態にされる。
この場合、物品6の真贋を判定した後、検出核酸3に制信処理11を施すことで、検出核酸3の発信を停止させられる。
【実施例】
【0051】
図8は本発明に係るDNAインクを用いて物品に施した固定パターンの時間ごとの検出状態を示したものである。
DNAインクの名称、長さ及び配列は下記の表1の通りである。
【表1】

*5’-アミノ修飾DNAが末端で基板に固定されている。
【0052】
*固定パターン上のDNAインクの種類
黒 丸:D1-44
薄黒丸:D1-27
鼠色丸:D1-16
升目丸:D1-44+D1-27
白 丸:インク無し
【0053】
*実験プロトコル
基板に固定されたDNAインクは、1μモルのCy5末端修飾直鎖状DNAを含む検出液(1xSSC、0.1%SDS)を用いて、室温環境下で検出した。直鎖状DNAの配列は、DNAインクの配列に相補的な配列である。検出手順は、以下の通りである。
【0054】
「実験1」検出液20マイクロリットル(μL)をDNAインクが固定されている領域に滴下し、2秒間反応させた後、溶液をワイピングクロスで2秒間吸い取り、直ちに検出する。
【0055】
「実験2」μLをDNAインクが固定されている領域に滴下し、2秒間反応させた後、溶液をワイピングクロスで2秒間吸い取る。その後、洗浄液(1xSSC、0.1%SDS)を20μL滴下し、2秒間待った後、洗浄液をワイピングクロスで2秒間吸い取り、直ちに検出する。
【0056】
「実験3」浄液の滴下、吸い取りまでは同じである。その後、再度、洗浄液を滴下し、2秒間待った後、洗浄液を吸い取り、直ちに検出する。
【0057】
検出はLED光源、ダイクロイックミラーを用いた簡易な蛍光検出装置を用いて肉眼で行うことができる。実施例の図の検出画像は蛍光画像スキャナーで取得したものである。
この図から分かる通り、実験1の場合、実験開始後4秒で、D1-27によるX印や、D1-44による○印が検出されている。実験2の8秒や、実験3の12秒と時間を経るに従って、X印や○印が一層明確に検出されているのが分かる。
【符号の説明】
【0058】
1 固定核酸
1a 複数種類
1b ダミーの固定核酸
1c 選択固定核酸
2 DNAインク
2’ 容器
3 検出核酸
3a ダミーの検出核酸
4 印刷機
5 インクジェット機
6 物品
6’ 付設物
7 表示
8 発信
9 容器
10 塗布機
11 制信処理


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定核酸(1)を含有するDNAインク(2)と、該固定核酸(1)とのみ結合する検出核酸(3)を包含することを特徴とするDNAインクを用いたオンサイト物品認証システム。
【請求項2】
該固定核酸(1)と該検出核酸(3)との結合を検出の直前に行う請求項1に記載のDNAインクを用いたオンサイト物品認証システム。
【請求項3】
該固定核酸(1)と該検出核酸(3)との結合は物品認証のための検出を行う直前より以前で該固定核酸(1)を物品(6)に貼付あるいは塗布して直ぐに行う請求項1に記載のDNAインクを用いたオンサイト物品認証システム。
【請求項4】
該固定核酸(1)は該物品(6)又は該物品に対する付設物(6’)の固相上に固定されたものである請求項1、2又は3に記載のDNAインクを用いたオンサイト物品認証システム。
【請求項5】
該固定核酸(1)は、正規直交配列あるいは固定核酸の特異的検出の妨げにならない配列である請求項1、2、3又は4に記載のDNAインクを用いたオンサイト物品認証システム。
【請求項6】
該固定核酸(1)は、該固定核酸(1)と同じ長さを持ちかつ該検出核酸(3)による塩基核酸配列検出を妨げないような配列を持つダミーの固定核酸(1b)を含む請求項1から5の一つの項に記載のDNAインクを用いたオンサイト物品認証システム。
【請求項7】
該検出核酸(3)は、特定の固定核酸にのみ特異的に結合する性質を有している請求項1、2、3又は6に記載のDNAインクを用いたオンサイト物品認証システム。
【請求項8】
該検出核酸(3)は、特定の固定核酸に結合した場合にのみ発信する性質を有している請求項1、2、3、6又は7に記載のDNAインクを用いたオンサイト物品認証システム。
【請求項9】
該検出核酸(3)は、該固定核酸(1)が持つ正規直交配列の相補配列、該固定核酸(1)の特異的検出において相補配列と同等の性能を有する配列又は該固定核酸(1)の特異的検出の妨げにならない配列を有する請求項1、2、3、6、7又は8に記載のDNAインクを用いたオンサイト物品認証システム。
【請求項10】
該検出核酸(3)は、該固定核酸(1)の塩基核酸配列を検出するための検出核酸以外に、自身の塩基核酸配列と同じ長さと同じ蛍光分子の塩基核酸配列を持ちかつそれらの検出核酸による塩基核酸配列の検出を妨げないような配列を持つダミーの検出核酸(3a)を含む請求項1、2、3、6、7、8又は9に記載のDNAインクを用いたオンサイト物品認証システム。
【請求項11】
該固定核酸(1)は複数種類(1a)が用意され、その中から更に一つ以上の種類を選択して選択固定核酸(1c)とし、該選択固定核酸(1c)に対応する種類の検出核酸を同時に含む検出核酸を用いて検出される請求項1から10の一つの項に記載のDNAインクを用いたオンサイト物品認証システム。
【請求項12】
該選択固定核酸(1c)の一つ以上を選択的に含有する各別のDNAインク(2a)により複数の異なる種類の表示(7)が該物品(6)又は該付設物(6’)に施される請求項11に記載のDNAインクを用いたオンサイト物品認証システム。
【請求項13】
該固定核酸(1)に結合した該検出核酸(3)は、該検出核酸(3)による検出を行った後、制信処理(11)により検出不可能な状態にされる請求項1から12の一つの項に記載のDNAインクを用いたオンサイト物品認証システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−47(P2013−47A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133492(P2011−133492)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(309016418)株式会社DNAソリューション (4)
【Fターム(参考)】