説明

DNAマイクロアレイにおけるプローブ設計方法、当該方法により設計されたプローブを有するDNAマイクロアレイ

【課題】ゲノムDNAに含まれるSNP等の多型の検出効率に優れたDNAマイクロアレイにおけるプローブを提供する。
【解決手段】本発明に係るプローブの設計方法は、対象とする生物由来のゲノムDNAに含まれる、制限酵素が認識する制限酵素認識部位によって挟み込まれる断片について、当該断片内の少なくとも一部をカバーする1又は複数の領域を特定するステップ、特定した1又は複数の領域を、供試生物における上記断片を検出するためのプローブとして設計するステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ゲノムDNAにおける変異を検出するためのDNAマイクロアレイにおけるプローブを設計する方法、当該方法により設計されたプローブを有するDNAマイクロアレイ、当該DNAマイクロアレイを用いた変異検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一塩基多型(SNP)に代表される多型のなかには、同種生物におけるバリエーションを特徴づける変異として利用できるものがある。すなわち、同種生物における所定のバリエーションは、多型といったゲノムDNAにおける特定の変異を検出・同定することで他のバリエーションと区別することができる。また、当該変異を検出・同定することで、供試された生物のバリエーションを特定することができる。
【0003】
このようなゲノムDNAにおける変異を検出する手法としては、変異箇所を直接配列決定する方法や、制限酵素断片長多型(RFLP)を利用する方法、増幅断片長多型(AFLP)を利用する方法等が知られている。また、DArT(Diversity Array Technology)法と呼ばれるDNAマイクロアレイを利用した、多型の同定に基づくバリエーションの解析方法が知られている(Nucleic Acids Research, 2001, Vol. 29, No. 4, e25)。
【0004】
DArT法に使用するDNAマイクロアレイの作製方法を図9に示す。先ず、特定の生物種からゲノムDNAを抽出し、ゲノムDNAを制限酵素A及び制限酵素Bを用いて断片化する。次に、制限酵素処理によって得られたゲノムDNA断片の両端部にアダプターを連結し、各ゲノムDNA断片をベクターにクローニングする。次に、当該アダプターにハイブリダイズしうるプライマーを用いて各ゲノムDNA断片をPCRによって増幅する。そして、増幅した各ゲノムDNA断片をプローブとして基板上にスポットすることで、DNAマイクロアレイを作製する。
【0005】
このように作製されたDNAマイクロアレイを用いて、供試生物種のバリエーションを解析することができる。先ず、供試生物からゲノムDNAを抽出し、DNAマイクロアレイの作製の際に利用した制限酵素A及び制限酵素Bを用いてゲノムDNAを断片化する。断片化したゲノムDNAに対してDNAマイクロアレイの作製の際と同様にアダプターを連結し、PCRによって増幅する。増幅したゲノムDNA断片を蛍光標識等でラベル化し、DNAマイクロアレイにスポットされたプローブとハイブリダイズさせる。ラベル化したゲノムDNA断片とプローブとのハイブリダイズの有無を検出することで、DNAマイクロアレイ作製時に使用された特定の生物種と上記供試生物種との相違を解析することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
DArT法によれば、上述のように作製したDNAマイクロアレイを使用することで生物種の多様性をゲノムDNAにおける遺伝子型のレベルで判別できるとしている。しかしながら、上述のように作製したDNAマイクロアレイでは、制限酵素認識部位により挟み込まれる領域として規定されるプローブの検出能力が十分でないといった問題があった。すなわち、供試生物種由来のゲノムDNA断片に、例えばSNP等の僅かの変異が含まれていたとしても、DNAマイクロアレイにおけるプローブに対してハイブリダイズしてしまう場合がある。言い換えれば、DArT法では、多型等の変異が制限酵素認識部位に存在するか、数百塩基対に亘って欠失があるような場合でなければ検出できないといった検出限界があった。
【0007】
そこで、本発明は、上述したような実情に鑑み、ゲノムDNAに含まれるSNP等の多型の検出効率に優れたDNAマイクロアレイにおけるプローブの設計方法、当該方法により設計されたプローブを有するDNAマイクロアレイ及び当該DNAマイクロアレイを用いた変異検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した実情に鑑み、本発明者らが鋭意検討し、ゲノムDNAにおけるSNP等の僅かな変異であっても優れた感度で検出できるプローブの設計方法、また、当該プローブを固定したDNAマイクロアレイを用いた変異検出方法を案出するに至った。
【0009】
本発明は以下を包含する。
すなわち、本発明に係るプローブの設計方法は、対象とする生物由来のゲノムDNAに含まれる、制限酵素が認識する制限酵素認識部位によって挟み込まれる断片について、当該ゲノムDNA断片より短い塩基長を有し、当該断片内の少なくとも一部をカバーする1又は複数の領域を特定するステップ、特定した1又は複数の領域を、供試生物における上記断片を検出するためのプローブとして設計するステップを含む。
【0010】
上記1又は複数の領域は、以下の工程によって特定することができる。
(1a)上記ゲノムDNAを抽出する工程
(1b)抽出したゲノムDNAを上記制限酵素で消化する工程
(1c)上記(1b)で得られたゲノムDNA断片にアダプターを連結する工程
(1d)上記アダプターにハイブリダイズするプライマーを用いて上記ゲノムDNA断片を増幅する工程
(1e)増幅した上記ゲノムDNA断片の塩基配列を決定する工程
(1f)決定した塩基配列に基づいて上記1又は複数の領域を決定する工程
【0011】
ここで、上記(1b)においては、複数の制限酵素で上記ゲノムDNAを消化しても良いし、単独の制限酵素で上記ゲノムDNAを消化しても良い。また、上記(1c)において、上記アダプターとしては、上記(1b)で得られたゲノムDNA断片の突出末端に相補的な配列を有するものを使用することが好ましい。さらに、上記(1f)において決定する領域は、例えば20〜10000塩基長、好ましくは100〜8000塩基長、より好ましくは200〜6000塩基長とする。
【0012】
また、上記1又は複数の領域は、上記ゲノムDNAに関する塩基配列情報を用いて以下の工程によって特定することができる。
(2a)上記ゲノムDNAに関する塩基配列情報から上記制限酵素の認識配列を検索し、上記ゲノムDNAを上記制限酵素で消化した場合に生ずるゲノムDNA断片の塩基配列を特定する工程
(2b)上記特定した塩基配列に基づいて上記1又は複数の領域を決定する工程
ここで、上記(2b)において決定する領域は、例えば20〜10000塩基長、好ましくは100〜8000塩基長、より好ましくは200〜6000塩基長とする。
【0013】
さらに、上記1又は複数の領域は、以下の工程によって特定することができる。
(3a)上記ゲノムDNAを抽出する工程
(3b)抽出したゲノムDNAを上記制限酵素で消化する工程
(3c)上記(3b)で得られたゲノムDNA断片にアダプターを連結する工程
(3d)上記アダプターにハイブリダイズするプライマーを用いて上記ゲノムDNA断片を増幅する工程
(3e)増幅した上記ゲノムDNA断片を他の制限酵素で消化する工程
(3f)上記(3e)で消化して得られたDNA断片を分離してプローブとする工程
【0014】
さらにまた、本発明に係るプローブの設計方法において、上記制限酵素認識部位によって挟み込まれる断片は、認識配列の異なる複数の制限酵素により挟み込まれる断片であってもよい。
【0015】
ここで、上記(3b)においては、複数の制限酵素で上記ゲノムDNAを消化しても良いし、単独の制限酵素で上記ゲノムDNAを消化しても良い。また、上記(3c)において、上記アダプターとしては、上記(1b)で得られたゲノムDNA断片の突出末端に相補的な配列を有するものを使用することが好ましい。
【0016】
一方、本発明に係るDNAマイクロアレイは、上述した本発明に係るプローブの設計方法により設計されたプローブを担体に固定したものである。特に、本発明に係るDNAマイクロアレイにおいて上記プローブは、上記担体上にて配列情報に基づいて合成されたものであることが好ましい。
【0017】
一方、本発明に係るDNAマイクロアレイを用いた変異検出方法は、上述した本発明に係るDNAマイクロアレイを用いて、検査対象の生物由来のゲノムDNAにおける変異を検出するものである。特に、本発明に係るDNAマイクロアレイを用いた変異検出方法は、以下の工程:検査対象の生物由来のゲノムDNAを抽出する工程;本発明に係るプローブの設計方法において使用した制限酵素と同じ認識配列を有する制限酵素によって当該ゲノムDNAを消化する工程;制限酵素処理で得られたゲノムDNA断片にアダプターを連結する工程;上記アダプターにハイブリダイズするプライマーを用いて上記ゲノムDNA断片を増幅する工程;増幅した上記ゲノムDNA断片を本発明に係るDNAマイクロアレイに接触させ、当該ゲノムDNA断片とプローブとのハイブリダイズを検出する工程を含んでいる。
【0018】
ここで、上記制限酵素によりゲノムDNAを消化する工程では、上記プローブの設計方法と同様に、複数の制限酵素で上記ゲノムDNAを消化しても良いし、単独の制限酵素で上記ゲノムDNAを消化しても良い。また、上記アダプターを連結する工程では、上記アダプターとして、上記制限酵素によりゲノムDNAを消化する工程で得られたゲノムDNA断片の突出末端に相補的な配列を有するものを使用することが好ましい。また、上記ゲノムDNA断片を増幅する工程は、増幅したゲノムDNA断片に標識分子を付加する工程を更に有していても良いし、上記ゲノムDNA断片を増幅する際に標識分子を取り込んでもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ゲノムDNAに含まれるSNP等の多型の検出効率に優れた、DNAマイクロアレイにおけるプローブの設計方法を提供することができる。また、本発明によれば、ゲノムDNAに含まれるSNP等の多型の検出効率に優れたDNAマイクロアレイ及び当該DNAマイクロアレイを用いた変異検出方法を提供することができる。
【0020】
本発明を適用することによって、従来の方法では検出することが困難であった、遺伝子型に基づく生物種の判別や同定といった解析が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を適用したプローブの設計方法の一例を模式的に示すフロー図である。
【図2】本発明を適用したプローブの設計方法の他の例を模式的に示すフロー図である。
【図3】本発明を適用したプローブの設計方法の更に他の例を模式的に示すフロー図である。
【図4】本発明を適用して設計したプローブを有するDNAマイクロアレイを用いて、変異を検出する工程を模式的に示すフロー図である。
【図5】A_1とA_2のアライメント及び設計したプローブの位置を示す特性図である。
【図6】B_1とB_2のアライメント及び設計したプローブの位置を示す特性図である。
【図7】プローブに導入した変異割合と、検出されたシグナル強度との関係を示す特性図である。
【図8】実施例3で作製したプローブにおける変異部位プローブの割合と、シークエンス情報のうち変異が検出されたものの割合との関係を示す特性図である。
【図9】従来のDArT法において使用されるDNAマイクロアレイの作製工程を模式的に示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るDNAマイクロアレイにおけるプローブの設計方法、当該設計方法により設計されたプローブを有するDNAマイクロアレイ及び当該DNAマイクロアレイを用いた変異検出方法について図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
プローブの設計方法
本発明において設計するプローブは、特に、いわゆるオリゴヌクレオチドマイクロアレイに適用されることが好ましい。オリゴヌクレオチドマイクロアレイとは、担体上にて目的の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを合成し、これをプローブとするマイクロアレイである。ここで、プローブとなる合成オリゴヌクレオチドは、例えば20〜100塩基長、好ましくは30〜90塩基長、より好ましくは50〜75塩基長とする。
【0024】
なお、本発明において設計したプローブは、いわゆるスタンフォード型マイクロアレイと同様に、上記塩基長を有する合成オリゴヌクレオチドをスポットすることで担体上に固定するタイプのマイクロアレイに適用されてもよい。
【0025】
すなわち、本発明において設計するプローブは、従来公知の如何なるマイクロアレイに対しても適用することができる。したがって、本発明において設計するプローブは、ガラスやシリコーン等の平面基板を担体とするマイクロアレイや、マイクロビーズを担体とするビーズアレイに対しても適用することができる。
【0026】
具体的に、本発明に係るプローブの設計方法は、図1に示すように、先ず、所定の生物からゲノムDNAを抽出する(工程1a)。生物としては、細菌、真菌等の微生物、昆虫、植物及び動物のいずれであっても良い。なお、図1に示すプローブの設計方法は、ゲノムDNAの塩基配列情報が明らかとなっていない生物を使用する場合に好適な例である。また、ゲノムDNAの抽出方法は、特に限定されず、従来公知の手法を使用することができる。
【0027】
次に、抽出したゲノムDNAを1又は複数の制限酵素により消化する(工程1b)。なお、図1に示した例では、制限酵素A及び制限酵素Bの2種類の制限酵素をこの順で用いてゲノムDNAを消化している。ここで、制限酵素としては、特に限定されないが、例えば、PstI、EcoRI、HindIII、BstNI、HpaII、HaeIII等を使用することができる。特に制限酵素としては、ゲノムDNAを完全に消化した際に20〜10000塩基長のゲノムDNA断片となるよう、認識配列の出現頻度等を考慮して適宜選択することができる。また、複数の制限酵素を使用する場合、全ての制限酵素を使用した後のゲノムDNA断片が200〜6000塩基長となっていることが好ましい。さらに、複数の制限酵素を使用する場合、処理に供する制限酵素の順序は特に限定されず、また、処理条件(溶液組成や温度等)が共通する場合には複数の制限酵素を同一の反応系で使用しても良い。すなわち、図1に示した例においては、制限酵素A及び制限酵素Bをこの順で使用してゲノムDNAを消化しているが、制限酵素A及び制限酵素Bを同じ反応系で同時に使用してゲノムDNAを消化しても良いし、制限酵素B及び制限酵素Aをこの順で使用してゲノムDNAを消化してもよい。さらに、使用する制限酵素の数は3以上であってもよい。
【0028】
次に、制限酵素処理後のゲノムDNA断片に対してアダプターを結合する(工程1c)。ここで、アダプターとは、上述した制限酵素処理によって得られたゲノムDNA断片の両端に結合できるものであれば特に限定されない。アダプターとしては、例えば、制限酵素処理によってゲノムDNAの両末端に形成される突出末端(粘着末端)に対して相補的な一本鎖を有し、詳細を後述する増幅処理の際に使用するプライマーがハイブリダイズしうるプライマー結合配列を有するものを使用することができる。また、アダプターとしては、上記突出末端(粘着末端)に対して相補的な一本鎖を有し、クローニングする際のベクターに組み入れるための制限酵素認識部位を有するものを使用することもできる。
【0029】
また、複数の制限酵素を使用してゲノムDNAを消化した場合には、各制限酵素に対応する複数のアダプターを準備して使用することができる。すなわち、複数の制限酵素でゲノムDNAを消化した場合に生ずる複数種類の突出末端のそれぞれに対して、相補的な一本鎖を有する複数のアダプターを使用することができる。このとき、複数の制限酵素に対応する複数のアダプターは、共通するプライマーがハイブリダイズできるように共通するプライマー結合配列を有しているものであっても良いし、それぞれ異なるプライマーがハイブリダイズできるように異なるプライマー結合配列を有するものであっても良い。
【0030】
さらに、複数の制限酵素を使用してゲノムDNAを消化した場合、アダプターとしては、使用した複数の制限酵素のなかから選ばれる1つ制限酵素若しくは、使用した制限酵素のうち一部の制限酵素に対応するアダプターを準備して使用することもできる。
【0031】
次に、両末端にアダプターが付加されたゲノムDNA断片を増幅する(工程1d)。プライマー結合配列を有するアダプターを使用した場合には、当該プライマー結合配列にハイブリダイズできるプライマーを使用することで上記ゲノムDNA断片を増幅することができる。或いは、アダプターを付加したゲノムDNA断片を、アダプター配列を利用してベクターにクローニングし、当該ベクターにおける所定の領域にハイブリダイズできるプライマーを用いてゲノムDNA断片を増幅することができる。なお、プライマーを用いたゲノムDNA断片の増幅反応としては、一例としてPCRを使用することができる。
【0032】
また、複数の制限酵素を使用してゲノムDNAを消化するとともに、各制限酵素に対応する複数のアダプターをゲノムDNA断片に連結した場合、複数の制限酵素を用いた処理によって得られたゲノムDNA断片の全てにアダプターが連結されることとなる。この場合、アダプターに含まれるプライマー結合配列を用いて核酸増幅反応を行うことで、得られた全てのゲノムDNA断片を増幅することができる。
【0033】
或いは、複数の制限酵素を使用してゲノムDNAを消化するとともに、使用した複数の制限酵素のなかから選ばれる1つ制限酵素若しくは、使用した制限酵素のうち一部の制限酵素に対応するアダプターをゲノムDNA断片に連結した場合、得られたゲノムDNA断片のうち、選ばれた制限酵素の認識配列を両末端に有するゲノムDNA断片のみを増幅することができる。
【0034】
次に、増幅されたゲノムDNA断片の塩基配列を決定し(工程1e)、当該ゲノムDNA断片より短い塩基長を有し、ゲノムDNA断片内の少なくとも一部をカバーする1又は複数の領域を特定し、特定した1又は複数の領域を、供試生物における上記増幅されたゲノムDNA断片を検出するためのプローブとして設計する(工程1f)。ゲノムDNA断片の塩基配列を決定する方法は、特に限定されず、サンガー法等を適用したDNAシークエンサーを利用した従来公知の方法を使用することができる。
【0035】
本工程(工程1e及び1f)では、増幅されたゲノムDNA断片よりも短い塩基長の1又は複数の領域を、当該ゲノムDNA断片を検出するためのプローブとして設計している。ここで、所定のゲノムDNA断片について複数の領域を設計した場合には、当該ゲノムDNA断片を複数のプローブを用いて検出することを意図している。また、あるゲノムDNA断片については1の領域を設計し、他のゲノムDNA断片については2以上の所定数の領域を設計してもよい。すなわち、ゲノムDNA断片毎に異なる数の領域を設計しても良い。ここで、設計する領域としては、上述したように、例えば20〜10000塩基長、好ましくは100〜8000塩基長、より好ましくは200〜6000塩基長とする。また、複数の領域を設計する場合、隣接する領域は一部重複していても良いし、数塩基離間していても良い。
【0036】
特に、塩基配列を決定したゲノムDNA断片の全領域を複数の領域でカバーするように複数の領域を設定することが好ましい。この場合、所定の生物由来のゲノムDNAに関して、制限酵素処理によって得られたゲノムDNA断片に複数のプローブが対応し、これら複数のプローブで当該ゲノムDNA断片を検出することとなる。
【0037】
ところで、本発明に係るプローブの設計方法は、上述したような制限酵素を用いてゲノムDNAを消化する工程を含む方法に限定されず、図2に示すように対象とする生物のゲノム情報を利用してもよい。
【0038】
図2に示す方法では、先ず、対象とする生物由来のゲノムに関する塩基配列情報を取得する(工程2a)。ゲノムに関する塩基配列情報は、従来公知の各種データベースから取得することができる。データベースとしては、特に限定されないが、DNA Data Bank of Japanが提供するDDBJデータベース、European Bioinformatics Instituteが提供するEMBLデータベース、National Center for Biotechnology Informationが提供するGenbankデータベース、Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomesが提供するKEGGデータベース又はこれら各種データベースを統合したデータベースを適宜使用することができる。
【0039】
本方法では、次に、取得したゲノムDNAに関する塩基配列情報から上記制限酵素の認識配列を検索し(工程2a)、上記ゲノムDNAを上記制限酵素で消化した場合に生ずるゲノムDNA断片の塩基配列を特定する。ここで、検索する認識配列としては、図1に示した方法で使用した制限酵素に対応する制限酵素である。すなわち、本工程では、1又は複数の制限酵素についてその認識配列を検索する。
【0040】
次に、決定したゲノムDNA断片の塩基配列に基づいて、当該ゲノムDNA断片内の少なくとも一部をカバーする1又は複数の領域を決定する(工程2b)。本工程(工程2b)では、塩基配列が決定されたゲノムDNA断片よりも短い塩基長の1又は複数の領域を、当該ゲノムDNA断片を検出するためのプローブとして設計している。ここで、所定のゲノムDNA断片について複数の領域を設計した場合には、当該ゲノムDNA断片を複数のプローブを用いて検出することを意図している。また、あるゲノムDNA断片については1の領域を設計し、他のゲノムDNA断片については2以上の所定数の領域を設計してもよい。すなわち、ゲノムDNA断片毎に異なる数の領域を設計しても良い。ここで、設計する領域としては、上述したように、例えば20〜100塩基長、好ましくは30〜90塩基長、より好ましくは50〜75塩基長とする。
【0041】
また、塩基配列を決定したゲノムDNA断片の全領域を複数の領域でカバーするように複数の領域を設定することが好ましい。この場合、所定の生物由来のゲノムDNAに関して、制限酵素処理によって得られたゲノムDNA断片に複数のプローブが対応し、これら複数のプローブで当該ゲノムDNA断片を検出することとなる。
【0042】
ところで、本発明に係るプローブの設計方法は、図3に示すように、塩基配列を決定する工程及びデータベースを用いた塩基配列情報の取得工程を有しない方法であって、ゲノムDNA断片を更に異なる制限酵素で消化する工程を含む方法であっても良い。すなわち、図3に示す方法では、先ず、図1に示した方法における工程1aから工程1dまでを適用して、両末端にアダプターが付加されたゲノムDNA断片を増幅する(工程3a〜3d)。次に、増幅した上記ゲノムDNA断片を、工程3bで使用した制限酵素とは異なる認識配列を有する他の制限酵素(以下、制限酵素C)で消化する(工程3e)。本工程によって、工程3dで増幅したPCR断片が更に短い断片にまで消化されることとなる。
【0043】
これにより、制限酵素A及び制限酵素BでゲノムDNAを消化して得られたゲノムDNA断片内の少なくとも一部をカバーする複数の領域を、塩基配列を決定することなく複数のDNA断片で特定することができる。特定する領域としては、上述したように例えば20〜100塩基長、好ましくは30〜90塩基長、より好ましくは50〜75塩基長とする。言い換えれば、制限酵素Cとしては、制限酵素A及び制限酵素BでゲノムDNAを消化して得られたゲノムDNA断片を例えば20〜100塩基長、好ましくは30〜90塩基長、より好ましくは50〜75塩基長とDNA断片に切断できるような制限酵素を使用することができる。
【0044】
次に、制限酵素Cで消化して得られたDNA断片を種類毎に分離してプローブとする(工程3f)。この工程では、制限酵素Cで消化して得られたDNA断片を電気泳動やその後の切り出しなどによって分離することができる。また、分離したDNA断片は、更にベクターにクローニングした状態でプローブとしても良いし、クローニングの後に更に増幅してプローブとしても良い。本方法においても、所定の生物由来のゲノムDNAに関して、工程3dで得られたゲノムDNA断片に対して、複数のプローブが対応することとなる。
【0045】
DNAマイクロアレイ
以上のようにして設計されたプローブを有するDNAマイクロアレイは、従来公知の手法によって作製することができる。例えば、図1又は図2に示す方法で設計された各プローブの塩基配列に基づいて、担体上にて目的の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを合成することで、図1又は図2に示す方法で設計されたプローブを有するDNAマイクロアレイを作製することができる。ここで、オリゴヌクレオチドを合成する方法としては、特に限定されず従来公知の手法を適用することができる。例えば、フォトリソグラフィー技術と光照射化学合成技術を組み合わせて担体上にてオリゴヌクレオチドを合成する方法を適用することができる。また、担体表面との親和性の高いリンカー分子を末端に付加したオリゴヌクレオチドを、図1又は図2に示す方法で設計された各プローブの塩基配列情報に基づいて別途合成し、その後、担体表面の所定の位置に固定する方法を適用することもできる。
【0046】
また、図3に示す方法で設計並びに作製されたプローブを担体上に固定することで、図3に示す方法で設計されたプローブを有するDNAマイクロアレイを作製することができる。この場合、例えば図3に示す方法で作製されたプローブをピンタイプアレイヤーやノズルタイプアレイヤーを用いて担体上にスポットすることでDNAマイクロアレイを作製することができる。
【0047】
以上のように作製されたDNAマイクロアレイは、所定の生物由来のゲノムDNAを制限酵素処理して得られたゲノムDNA断片に対して、当該ゲノムDNA断片よりも短い塩基長の1又は複数のプローブを有するものである。すなわち、以上のように作製されたDNAマイクロアレイは、所定のゲノムDNA断片を、当該ゲノムDNA断片よりも短い塩基長の1又は複数のプローブで検出するものである。特に、DNAマイクロアレイとしては、所定のゲノムDNA断片に対して複数のプローブを有し、これら複数のプローブで当該ゲノムDNA断片を検出するものであることが好ましい。
【0048】
なお、DNAマイクロアレイとしては、ガラスやシリコーン等の平面基板を担体とするマイクロアレイや、マイクロビーズを担体とするビーズアレイ、或いは中空繊維の内壁にプローブを固定する3次元マイクロアレイ等の如何なるタイプのマイクロアレイであってもよい。
【0049】
変異検出方法
以上のように作製されたDNAマイクロアレイを使用することで、ゲノムDNAに存在する変異を検出することができる。ここで、変異とは、同種生物間に存在する一塩基多型等の多型、近縁種の間に存在する塩基配列の相違、若しくは所定の生物に対して人為的に導入された突然変異を意味する。
【0050】
より詳細には、図4に示すように、先ず供試生物からゲノムDNAを抽出する。この供試生物とは、DNAマイクロアレイを作製する際に使用した生物に対して比較する生物である。次に、抽出したゲノムDNAを、DNAマイクロアレイを作製する際に使用した制限酵素で消化して複数のゲノムDNA断片を調整する。次に、得られたゲノムDNA断片と、DNAマイクロアレイを作製する際に使用したアダプターとを連結する。次に、両末端にアダプターが付加されたゲノムDNA断片を、DNAマイクロアレイを作製する際に使用したプライマーを用いて増幅する。これにより、DNAマイクロアレイを作製する際の工程1dで増幅したゲノムDNA断片、工程2aで塩基配列を特定したゲノムDNA断片、工程3dで増幅したゲノムDNA断片に対応する、供試生物由来のゲノムDNA断片を増幅することができる。
【0051】
この工程においては、アダプターが付加されたゲノムDNA断片のうち、所定のゲノムDNA断片を選択的に増幅してもよい。例えば、複数の制限酵素に対応する複数のアダプターを使用した場合には、特定のアダプターが付加されたゲノムDNA断片を選択的に増幅することができる。また、複数の制限酵素でゲノムDNAを消化した場合、得られたゲノムDNA断片のうち、所定の制限酵素に対応する突出末端を有するゲノムDNA断片のみにアダプターを付加することで、アダプターが付加されたゲノムDNA断片を選択的に増幅することができる。このように、所定のゲノムDNA断片を選択的に増幅することで濃縮することができる。
【0052】
次に、増幅したゲノムDNA断片に標識を付加する。標識としては、従来公知の如何なる物質を使用しても良い。標識としては、例えば蛍光分子、色素分子、放射性分子等を使用することができる。なお、本工程は、ゲノムDNA断片を増幅する工程において標識を有するヌクレオチドを用いることで省略することができる。上記工程において標識を有するヌクレオチドを用いてゲノムDNA断片を増幅することで、増幅されたDNA断片が標識化されるためである。
【0053】
次に、標識を有するゲノムDNA断片を所定の条件下でDNAマイクロアレイに接触させ、DNAマイクロアレイに固定されたプローブと標識を有するゲノムDNA断片とをハイブリダイズさせる。このとき、ゲノムDNA断片の一部に対してプローブがハイブリダイズすることとなるが、1塩基のミスマッチが存在する場合にハイブリダイズせず、完全にマッチする場合のみにハイブリダイズするような高いストリンジェンシー条件とすることが好ましい。このような高いストリンジェンシー条件とすることによって、一塩基多型等の僅かな変異を検出することができる。
【0054】
なお、ストリンジェンシー条件は、反応温度及び塩濃度で調節することができる。すなわち、より高温とすることでより高いストリンジェンシー条件となり、またより低い塩濃度でより高いストリンジェンシー条件となる。例えば、50〜75塩基長のプローブを使用する場合、ハイブリダイゼーション条件としては、40〜44℃、0.21SDS、6×SSCの条件とすることでより高いストリンジェンシー条件とすることができる。
【0055】
また、プローブと標識を有するゲノムDNA断片とのハイブリダイズは、標識に基づいて検出することができる。すなわち、上述した標識を有するゲノムDNA断片とプローブのハイブリダイズ反応の後、未反応のゲノムDNA断片等を洗浄し、その後、プローブに対して特異的にハイブリダイズしたゲノムDNA断片の標識を観察する。例えば、標識が蛍光物質である場合にはその蛍光波長を検出し、標識が色素分子であればその色素波長を検出する。より具体的には、通常のDNAマイクロアレイ解析に使用している、蛍光検出装置やイメージアナライザー等の装置を使用することができる。
【0056】
特に、上述したDNAマイクロアレイを使用すると、供試生物由来のゲノムDNA断片を、当該ゲノムDNA断片よりも塩基長が短い1又は複数のプローブによって検出することとなる。従来のDArT法(図9)においては、所定の生物由来のゲノムDNA断片をPCRによって増幅してプローブとしていたため、数十塩基のミスマッチを有する供試生物由来のゲノムDNA断片であってもハイブリダイズ(擬陽性)してしまうことがあった。しかし、上述したようDNAマイクロアレイにおいては、当該ゲノムDNA断片よりも塩基長が短い1又は複数のプローブによって検出することとなるため、このような擬陽性の発生確率を低くすることができ、供試生物由来のゲノムDNA断片をより高精度に検出することができる。特に、供試生物由来のゲノムDNA断片を複数のプローブによって検出する場合には、これら複数のプローブにおけるハイブリダイズの有無を検出することで、供試生物由来のゲノムDNA断片に含まれる僅かな変異を検出することができる。
【0057】
また、上述したDNAマイクロアレイにおいては、未知の変異を検出することができる。従来、担体上にてオリゴヌクレオチドを合成して変異検出用のプローブとしていたDNAマイクロアレイでは、配列情報が知られている既知の変異しか検出対象とならなかった。しかしながら、上述したプローブの設計方法によれば、ゲノムDNA断片に配列情報が未知の変異が含まれていても、これら未知の変異を検出対象とすることができる。換言すれば、上述したプローブを有するDNAマイクロアレイを使用することで、未知の変異を同定することができる。
【0058】
以上のように、本発明に係るDNAマイクロアレイによれば、供試生物のゲノムDNAに含まれる変異を、DNAマイクロアレイを作製する際に使用した所定の生物との比較において検出することができるため、例えば、同種生物における多様性を遺伝子レベルで解析することが可能となる。また、本発明に係るDNAマイクロアレイを同種生物に包含される種々の変異体について作製しておくことで、供試生物が如何なる変異体に帰属するのか遺伝子レベルで解析することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
〔実施例1〕
本実施例では、全シークエンス情報及び変異情報を使用せず、図1に示した手順に従ってプローブを設計することで、サトウキビ品種NiF8及びNi9の対立遺伝子における変異を検出できることを示した。
【0061】
(1)材料
サトウキビ品種NiF8及びNi9を用いた。
【0062】
(2)制限酵素処理
サトウキビ品種NiF8及びNi9からそれぞれゲノムDNAを定法に従って抽出した。ゲノムDNA(750ng)を制限酵素PstI(NEB社、25unit)で37℃、2時間処理後、制限酵素BstNI(NEB社、25unit)を添加、60℃、2時間処理した。
【0063】
(3)アダプターライゲーション
(2)で処理したゲノムDNA断片(120ng)にPstI配列アダプター(5’-CACGATGGATCCAGTGCA-3’(配列番号1)、5’-CTGGATCCATCGTGCA-3’ (配列番号2))とT4 DNA Ligase(NEB社、800 unit)を加え、16℃、一昼夜処理した。これにより、(2)で処理したゲノムDNA断片のうち、両末端にPstI認識配列を有するゲノムDNA断片に対して選択的にアダプターを付加した。
【0064】
(4)PCR増幅
(3)で得られたアダプターを有するゲノムDNA断片(15ng)にPstI配列アダプター認識プライマー(5’-GATGGATCCAGTGCAG-3’(配列番号3))とTaq polymerase(TAKALA社PrimeSTAR、1.25unit)を加え、PCR( 98℃を10秒間、55℃を15秒間、72℃を1分間、30サイクル後、72℃で3分間処理後、4℃で保存)でゲノムDNA断片を増幅した。
【0065】
(5)ゲノムシークエンス取得
(4)においてPCR増幅したゲノムDNA断片についてサンガー法により塩基配列を決定した。その結果、NiF8由来の2種類のゲノムシークエンス情報(A_1(配列番号4)及びB_1(配列番号5))を取得した。また、ゲノムシークエンスA_1及びB_1の配列情報を用い、Ni9の対立遺伝子座領域のゲノムシークエンス情報(A_2(配列番号6)及びB_2(配列番号7))を取得した
【0066】
(6)プローブ設計
(5)のゲノムシークエンス情報(A_1、B_1)をもとに50〜70bpのプローブをそれぞれ5及び6個設計した。すなわち、本実施例では、サトウキビ品種NiF8についてプローブを設計した。A_1とA_2のアライメント及び設計したプローブの位置を図5に示す。また、B_1とB_2のアライメント及び設計したプローブの位置を図6に示す。
【0067】
(7)アレイ作成
設計したプローブの塩基配列情報をもとに、これらプローブを有するDNAマイクロアレイを作製した(Roche社に委託)。
【0068】
(8)サンプルの調整
上述した(2)〜(4)の方法により、サトウキビ品種NiF8及びNi9からそれぞれPCR増幅断片を調整した。PCR増幅断片をカラム(Qiagen社)で精製後、Cy3-labeled 9mers(TriLink社、1O.D.)を加え、98℃、10分間処理後、氷上で10分間静置した。その後、Klenow(NEB社、100unit)を加え37℃、2時間処理した。そして、エタノール沈殿によりラベル化サンプルを調整した。
【0069】
(9)ハイブリ・シグナル検出
(8)のラベル化サンプルを用い、NimbleGen Array User’s Guideに従い、(7)で作製したDNAマイクロアレイを用いてハイブリダイズを行い、ラベルに基づくシグナルを検出した。
【0070】
(10)変異割合の算出
変異割合は、各プローブ内のNiF8及びNi9の対立遺伝子座領域のゲノムシークエンスの相同性をもとに算出した。
【0071】
(11)シグナル強度比の算出
シグナル強度比は、NiF8をサンプルとしたアレイのシグナル強度に対しNi9をサンプルとしたアレイのシグナル強度で割った値を用いた。
【0072】
(12)結果および考察
シグナル強度を測定した結果及びそれから算出したシグナル強度比を表1及び表2に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
図5より、A_1とA_2の間には101bpの挿入欠失変異が1ヶ所、1〜数塩基の変異が3ヶ所存在する。表1より、NiF8及びNi9間で変異が見られないプローブ(PA_3及びPA_5、変異割合0%)では、NiF8及びNi9いずれも強いシグナルが検出された。これは、NiF8及びNi9のサンプル内に、シークエンス情報に対応するA_1及びA_2のシークエンスがそれぞれ存在することを示している。また、両者のシグナル強度比は1.1〜1.4と低いことから、変異が見られないプローブでのシグナル強度比は小さい。
【0076】
一方、変異割合が大きくなるに従い、両者のシグナル強度比は大きくなった(1.9(PA_4)〜10.2(PA_1))。これは、Ni9のサンプル内にA_2のシークエンスが存在するものの、PA_1、PA_2、PA_4のプローブに対応するA_2のシークエンスに変異があるため、ハイブリ強度が下がり、Ni9のシグナルが下がっているためである。
【0077】
同様に、図6より、B_1とB_2の間には挿入欠失変異が3ヶ所およびSNPが14ヶ所存在する。B_1とB_2についても、表2より、変異割合が大きくなるにつれて、シグナル強度比が大きくなることが明らかとなった(1.1(PB_6)〜12.5(PB_2))。
【0078】
以上の結果から、サンプルとなるゲノムDNA断片よりも短い塩基長のプローブを用いて数塩基レベルのDNAの変異検出および数十bpレベルで変異部位の特定が可能であることが明らかとなった。
【0079】
〔実施例2〕
本実施例では、実施例1で作製したNiF8由来のプローブに人工的に変異を導入し、変異導入割合とオリジナルプローブに対するシグナル強度割合により、変異検出能力を評価した。
【0080】
(1)材料
サトウキビ品種NiF8を用いた。
【0081】
(2)基本プローブ配列情報取得
実施例1の(2)〜(4)に従いNiF8のPCR増幅断片を作製し、サンガー法によりゲノムシークエンスを決定した。独立したゲノムシークエンス情報をもとに50〜75bpの基本プローブを6個作成した(表3)。
【0082】
【表3】

【0083】
(3)変異プローブ作成
(2)の基本プローブに対し、それぞれ1、2、3、4、5、10、15、20、25塩基の挿入変異、欠失変異、塩基置換変異を導入したプローブを作成した。
【0084】
(4)アレイ作製、ラベリング、ハイブリ・シグナル検出
実施例1の(7)〜(9)に従って同様にDNAマイクロアレイを作製、サンプルを調整し、ハイブリダイズ反応、その後シグナル検出を行った。
【0085】
(5)シグナル強度割合の算出
シグナル強度割合は、基本プローブシグナル強度に対し、変異プローブシグナル強度を割った値を用いた。グラフおよび近似曲線はExcel 2007により作成した。
【0086】
(6)結果および考察
プローブに導入した変異割合と、検出されたシグナル強度との関係を図7に示した。図7に示すように、プローブの変異割合とシグナル強度割合には高い相関関係があった(y=0.0804x-0.518、R2=0.8068)。この相関関係より、変異割合が3%以上になるとシグナル強度割合が50%以下になる傾向が見られた。プローブよっては1bpの変異でも、シグナル強度比が50%を下回るプローブが存在した。以上の結果から、サンプルとなるゲノムDNA断片よりも短い塩基長のプローブを用いて1〜数塩基以上の変異が高精度に検出可能であることが明らかとなった。
【0087】
〔実施例3〕
本実施例では、サトウキビ品種NiF8及びNi9のゲノムシークエンス情報(5,848個)を用い、各ゲノムシークエンス情報あたり数十bpからなるプローブを5〜15個設計し、両サンプル間の変異検出を実施した。
【0088】
(1)材料
サトウキビ品種NiF8及びNi9を用いた。
【0089】
(2)ゲノムシークエンス情報取得
実施例1の(2)〜(4)に従いNiF8及びNi9のPCR増幅断片を作成し、サンガー法によりゲノムシークエンス情報を取得した。具体的には、5,848個のPCR増幅断片のゲノムシークエンス情報が得られた。
【0090】
(3)プローブ作成
(2)で得られたゲノムシークエンス情報について50〜75bpのプローブそれぞれ5〜15個設計した。より具体的には、ゲノムシークエンス情報5,848個について、59,462のプローブを設計した。
【0091】
(4)アレイ作成、ラベリング、ハイブリ・シグナル検出
実施例1の(7)〜(9)に従って同様にDNAマイクロアレイを作製、サンプルを調整し、ハイブリダイズ反応、その後シグナル検出を行った。
【0092】
(5)変異部位プローブの検出
NiF8をサンプルとしたアレイのシグナル強度に対するNi9をサンプルとしたアレイのシグナル強度比が2倍以上又は2分の1以下のプローブを変異部位プローブとした。
【0093】
(6)シークエンス情報あたりの変異部位プローブの割合
各シークエンス情報あたりの変異部位プローブ数に対し、各シークエンス情報あたりの作成プローブ数で割った値を用いた。
【0094】
(7)結果および考察
ゲノムシークエンス情報5,848個より、59,462のプローブを設計した。そのうち、シグナル強度比が2倍を上回ったプローブは5,596個で、これらのプローブを一つ以上含むシークエンス情報は1,497個だった。これらのシークエンス情報のうち全てのプローブでシグナル強度比が2倍以上のものは189個で 全体の12.6%だった(図8)。このシークエンス情報内の変異は、制限酵素認識配列内および数kbpの大きな挿入欠失によるものと考えられた。一方、一部のプローブでも変異が検出されたシークエンス情報は全体の87.4%だった。これは、数十bpのプローブを内部に複数設計することで、変異検出能力が向上したと考えられる。以上の結果から、今回変異が検出されたシークエンス情報は、全てのプローブでシグナル強度比が2倍以上だったシークエンス情報の7.9倍にあたり、サンプルとなるゲノムDNA断片よりも短い数十bpのプローブを複数設計することで変異検出能力が向上することが明らかとなった。
【0095】
〔実施例4〕
本実施例では、他生物の既知シークエンス情報により設計したプローブを有するDNAマイクロアレイの利用可能性を検証するため、図2に示した手順に従って、ソルガムの全シークエンス情報から設計したプローブを有するDNAマイクロアレイを作製し、サトウキビのゲノムDNAの変異を検出した。
【0096】
(1)材料
サトウキビ品種NiF8及びNi9を用いた。
【0097】
(2)ゲノムDBからのソルガムゲノムシークエンス情報の取得
ゲノムDB (Gramene: http://www.gramene.org/)のソルガム全ゲノム配列情報からPstI認識配列間シークエンス情報を取得した。
【0098】
(3)プローブ作成
(2)のシークエンス情報をもとに50〜75bpのプローブを設計した。
【0099】
(4)アレイ作成、ラベリング、ハイブリ・シグナル検出
実施例1の(7)〜(9)に従って同様にDNAマイクロアレイを作製、サンプルを調整し、ハイブリダイズ反応、その後シグナル検出を行った。
【0100】
(5)変異部位プローブ数の算出
NiF8をサンプルとしたアレイのシグナル強度に対するNi9をサンプルとしたアレイのシグナル強度比が2倍以上もしくは2分の1以下のプローブを変異部位プローブとした。
【0101】
(6) 結果および考察
本実施例では、ソルガムゲノムシークエンス情報より、表4に示すように、1,744,104個のプローブを設計した
【0102】
【表4】

【0103】
そのうち、シグナル強度が1,000以上のプローブを含むシークエンス情報が95,420個あり、用いたシークエンス情報に対する割合は、ソルガム染色体毎に4.2%〜7.0%、全体で5.5%だった。この結果から、サトウキビNiF8及びNi9には、これらのプローブ配列と相同な領域が存在すると考えられた。また、これらのプローブのうち、NiF8及びNi9でシグナル強度比2を超えるプローブは25,747個あり、供試したプローブのうち各染色体1.2%〜1.8%、全体で1.5%だった。シグナル強度比2を超えるプローブの領域では、NIF8及びNi9間で変異が存在すると考えられる。以上の結果から、他生物のゲノム情報を利用してプローブを設計することで、所定の生物に関する遺伝子変異の解析に利用できることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象とする生物由来のゲノムDNAに含まれる、制限酵素認識部位によって挟み込まれるゲノムDNA断片について、当該ゲノムDNA断片より短い塩基長を有し、当該ゲノムDNA断片内の少なくとも一部をカバーする1又は複数の領域を特定するステップ、
特定した1又は複数の領域をプローブとして設計するステップを含む、プローブの設計方法。
【請求項2】
上記1又は複数の領域は、以下の工程によって特定することを特徴とする請求項1記載のプローブの設計方法。
(1a)上記ゲノムDNAを抽出する工程
(1b)抽出したゲノムDNAを上記制限酵素で消化する工程
(1c)上記(1b)で得られたゲノムDNA断片にアダプターを連結する工程
(1d)上記アダプターにハイブリダイズするプライマーを用いて上記ゲノムDNA断片を増幅する工程
(1e)増幅した上記ゲノムDNA断片の塩基配列を決定する工程
(1f)決定した塩基配列に基づいて上記1又は複数の領域を決定する工程
【請求項3】
上記(1b)において複数の制限酵素で上記ゲノムDNAを消化することを特徴とする請求項2記載のプローブの設計方法。
【請求項4】
上記(1c)では、上記複数の制限酵素から選ばれる1つの制限酵素若しくは、使用した上記複数の制限酵素のうち一部の制限酵素に対応するアダプターを連結することを特徴とする請求項3記載のプローブの設計方法。
【請求項5】
上記アダプターとしては、上記(1b)で得られたゲノムDNA断片の突出末端に相補的な配列を有することを特徴とする請求項2記載のプローブの設計方法。
【請求項6】
上記1又は複数の領域は、上記ゲノムDNAに関する塩基配列情報を用いて以下の工程によって特定することを特徴とする請求項1記載のプローブの設計方法。
(2a)上記ゲノムDNAに関する塩基配列情報から上記制限酵素の認識配列を検索し、上記ゲノムDNAを上記制限酵素で消化した場合に生ずるゲノムDNA断片の塩基配列を特定する工程
(2b)上記特定した塩基配列に基づいて上記1又は複数の領域を決定する工程
【請求項7】
上記(2a)において複数の制限酵素で上記ゲノムDNAを消化した場合に生ずるゲノムDNA断片の塩基配列を決定することを特徴とする請求項6記載のプローブの設計方法。
【請求項8】
上記(2b)では、上記複数の制限酵素から選ばれる1つの制限酵素若しくは、使用した上記複数の制限酵素のうち一部の制限酵素によって挟み込まれるゲノムDNA断片に対して上記1又は複数の領域を決定することを特徴とする請求項7記載のプローブの設計方法。
【請求項9】
上記1又は複数の領域は、以下の工程によって特定することを特徴とする請求項1記載のプローブの設計方法。
(3a)上記ゲノムDNAを抽出する工程
(3b)抽出したゲノムDNAを上記制限酵素で消化する工程
(3c)上記(3b)で得られたゲノムDNA断片にアダプターを連結する工程
(3d)上記アダプターにハイブリダイズするプライマーを用いて上記ゲノムDNA断片を増幅する工程
(3e)増幅した上記ゲノムDNA断片を他の制限酵素で消化する工程
(3f)上記(3e)で消化して得られたDNA断片を分離してプローブとする工程
【請求項10】
上記(3b)において複数の制限酵素で上記ゲノムDNAを消化することを特徴とする請求項9記載のプローブの設計方法。
【請求項11】
上記(3c)では、上記複数の制限酵素から選ばれる1つの制限酵素若しくは、使用した上記複数の制限酵素のうち一部の制限酵素に対応するアダプターを連結することを特徴とする請求項3記載のプローブの設計方法。
【請求項12】
上記アダプターとしては、上記(3b)で得られたゲノムDNA断片の突出末端に相補的な配列を有することを特徴とする請求項9記載のプローブの設計方法。
【請求項13】
20〜100塩基長のプローブを設計することを特徴とする請求項1記載のプローブの設計方法。
【請求項14】
請求項1乃至13いずれか一項記載のプローブの設計方法により設計されたプローブと、当該プローブを固定した担体とを備えるDNAマイクロアレイ。
【請求項15】
上記プローブは、上記担体上にて配列情報に基づいて合成されたものであることを特徴とする請求項14記載のDNAマイクロアレイ。
【請求項16】
検査対象の生物由来のゲノムDNAを抽出する工程;
請求項1乃至13いずれか一項記載のプローブの設計方法において使用した制限酵素と同じ認識配列を有する制限酵素によって当該ゲノムDNAを消化する工程;
制限酵素処理で得られたゲノムDNA断片にアダプターを連結する工程;
上記アダプターにハイブリダイズするプライマーを用いて上記ゲノムDNA断片を増幅する工程;及び
増幅した上記ゲノムDNA断片を請求項14又は15記載のDNAマイクロアレイに接触させ、当該ゲノムDNA断片とプローブとのハイブリダイズを検出する工程
を含むDNAマイクロアレイを用いた変異検出方法。
【請求項17】
上記ゲノムDNAを消化する工程では、複数の制限酵素で上記ゲノムDNAを消化することを特徴とする請求項16記載のDNAマイクロアレイを用いた変異検出方法。
【請求項18】
上記アダプターを連結する工程では、上記複数の制限酵素から選ばれる1つの制限酵素若しくは、使用した上記複数の制限酵素のうち一部の制限酵素に対応するアダプターを連結することを特徴とする請求項17記載のDNAマイクロアレイを用いた変異検出方法。
【請求項19】
上記アダプターとしては、上記(3b)で得られたゲノムDNA断片の突出末端に相補的な配列を有することを特徴とする請求項16記載のDNAマイクロアレイを用いた変異検出方法。
【請求項20】
上記検査対象の生物は、上記DNAマイクロアレイを作製する際に使用した生物とは異種の生物であることを特徴とする請求項16記載のDNAマイクロアレイを用いた変異検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−120558(P2011−120558A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283430(P2009−283430)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】