説明

DNA入り日焼け止め化粧料

【課題】安全性の優れた安価な紫外線吸収剤を含有する日焼け止め化粧料を提供する。
【解決手段】ヒト以外の生体から核酸を抽出し、これを紫外線吸収剤として化粧材に配合することにより、紫外線の皮膚への到達およびそれによる細胞内のDNAの損傷を防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日焼け止め化粧料に関するものである。具体的には、皮膚の老化や皮膚がんの大きな原因の1つである太陽光中のUV−A(波長320−400nm)、UV−B(波長280−320nm)などの紫外線を吸収する性質を持つデオキシリボ核酸(DNA)を化粧料に配合して皮膚に塗布することにより、これらの有害な紫外線を遮蔽し、皮膚の日焼けや老化を防止する化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線の最も重要な標的の1つは細胞内のDNAである。紫外線、特にエネルギーの強いUV−BはDNAを構成する4種の塩基に吸収されることによってDNAの損傷を引き起こし、皮膚がん等の重篤な症状の原因となる。見方を変えれば、DNAは最も有効な紫外線吸収剤の1つと考えられ、ヒト以外の材料から抽出したDNAを皮膚に塗布して積極的に紫外線を吸収するようにすれば、皮膚細胞内のDNAに到達する紫外線の量を軽減することが可能となる。
【0003】
これまでに発明された日焼け止め化粧料としては、そのほとんどが紫外線吸収能を持つ合成化合物の単体もしくは混合物を含有するものであった(特許文献1−3他多数)。本発明は、新規合成化合物よりも安全性に関する懸念が少ないと思われる食材由来のDNAを皮膚に塗布することにより、紫外線による皮膚への害作用を防ぐことに特徴がある。また、そのDNAによる効果について、ヒト由来培養細胞の紫外線存在下での増殖を指標としたバイオアッセイ系を用いて本質的な評価を行っている点に特徴がある。
【0004】
DNAはUVBより短い波長(260nm)に吸収極大を持ち、この性質はいかなる生物由来のDNAでも全く変わらない。本発明は、この有用な紫外線吸収材としてのDNAを動物または植物材料より調製し、化粧品に配合するものである。原料として、長年にわたって食用に供され、アレルギー等の報告例のない食材(例えばサケ白子、ブロッコリー等)を用いることにより、従来の合成化合物を配合した日焼け止め用成分に比べて安全性に優れたものになりうる。また、有機合成や精製を必要とするこれまでの日焼け止め用化合物の生産に比べて大量調製は極めて安価かつ容易であり、高齢化社会での経済効果はきわめて高い。
【特許文献1】特開2007−153746号広報
【特許文献2】特開2007−145722号広報
【特許文献3】特開2007−131612号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
皮膚の老化や皮膚がんの主要な原因である紫外線による害作用から皮膚を保護するために、これまでよりも安全性に優れた紫外線吸収剤の配合により有用な日焼け止め化粧料を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ブロッコリー等の植物材料もしくはヒト以外の動物由来の食材(サケ白子等)から抽出されたデオキシリボ核酸(DNA)を含有することにより、紫外線を皮膚に到達する前に積極的に吸収し、皮膚を紫外線から守る化粧料に関する。
【0007】
本発明は、これまでに用いられてきた日焼け止め用の紫外線吸収剤のどれよりも安価な原料を用い、安全性の高い紫外線吸収剤を用いることに特徴がある。また、その効果に関して、ヒト由来の培養細胞の増殖を指標としたバイオアッセイによって人体への本質的な影響を評価している点に特徴がある。
【発明の効果】
【0008】
近年のオゾン層の減少による紫外線照射量の増大や、高齢化社会の進行に伴う抗老化(アンチエイジング)への関心の高まりにより、紫外線から皮膚を守る化粧料への需要は今後大いに拡大すると見込まれる。これまでにも紫外線を特異的に吸収する化合物やそれを含有する日焼け止め化粧料は数多く開発されてきたが、本発明は食材からの抽出成分を用いるためこれまでの日焼け止め化粧料に比べて安全性が高く、大量製造も容易であるので、今後の需要の拡大に最も適合した日焼け止め化粧料であると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に関して詳述する。
【0010】
本発明による化粧料の成分としては、長年の間食用に供され、アレルギー等の報告例のない動植物材料から抽出されるデオキシリボ核酸(DNA)を紫外線吸収剤として用いる。例としてサケ白子またはブロッコリーを用い、それらを破砕する道具および試薬としてジュースミキサーもしくはフードプロセッサーおよび台所用洗剤、抽出のための試薬として食塩または塩化ナトリウムおよびエタノールを用いる。
【実施例1】
【0011】
以下の手順・方法でブロッコリーからのDNAの抽出を行った。
【0012】
食塩24gを純水200mlに溶かした後にブロッコリーの蕾90gおよび台所用洗剤5mlを混ぜ、ジュースミキサーで1−5分間かけて破砕する。それをビーカー等の容器に移して100℃で5分間加熱したのち、ふるいもしくはざるでろ過する。ろ液を氷冷した後に、ろ液の2倍量のエタノールを静かに加え、生じたDNAを遠心分離(9,000xg,5−10分)により回収する。
【0013】
上記の方法でブロッコリーの蕾90gから4mgのDNAが調製された。
【実施例2】
【0014】
サケ白子からは、以下の手順・方法でDNAの調製を行った。
【0015】
サケ白子23.1gを純水100mlおよび台所用洗剤1mlと混ぜ、ジュースミキサーで1−2分間破砕を行う。その後100℃で5分間加熱する。食塩を12g加えて溶解した後に9,000xg,5−10分間の遠心分離で沈殿を除く。上清をビーカーに移し、氷冷した後に、2倍量のエタノールを加える。生じたDNAを遠心分離(9,000xg,5−10分)により回収する。回収したDNAにリン酸緩衝液(PBS)を加え、105℃で5分間加熱してDNAを完全に溶解する。
【0016】
上記の方法でサケ白子23.1gから82.8mgのDNAが調製された。
【実施例3】
【0017】
調製されたDNAの紫外線吸収剤としての効果を調べるために以下の試験を行った。
【0018】
ヒトの皮膚由来の黒色腫(メラノーマ)細胞G−361を24ウェルプレートに播種し、5%炭酸ガス(CO)の存在下、37℃で1日間培養した。培地としては、RPMI1640培地に牛胎児血清を10%添加したものを用いた。その後培地を完全に除き、細胞をリン酸緩衝液(PBS)で洗った後に0.5−4.0mg/mlのDNAを含むPBSを1ウェル当り100micro L加えて細胞を覆った。120microW/cmの紫外線UV−B(波長302nm)を1分間または2分間照射した。その際に、対照実験として一部のウェルはアルミホイルでUVを遮蔽した(未処理細胞)。UVの照射後はPBSで細胞を洗ってDNAを除き、再び培地を加えて5%炭酸ガス(CO)の存在下、37℃で3日間培養した。その後、トリクロロ酢酸沈殿により細胞内たんぱく質を固定し、SRB(Sulforhodamine B)で染色して波長490nmでの吸光度(A490)を定量した。UV−BおよびDNAによる増殖への影響は、未処理細胞でのA490に対する比率(%)の平均値および標準偏差(n≧3)で評価した(図1)。
【実施例4】
【0019】
DNAの効果について、別の組織由来の培養細胞を用いて以下の試験を行った。
【0020】
ヒトの乳がん由来のMCF−7細胞を24ウェルプレートに播種し、5%炭酸ガス(CO)の存在下、37℃で1日間培養した。培地としては、RPMI1640培地に牛胎児血清を10%添加したものを用いた。その後培地を完全に除き、細胞をリン酸緩衝液(PBS)で洗った後に1mg/mlのDNAを含むPBSを1ウェル当り100micro L加えて細胞を覆った。120microW/cmの紫外線UV−B(波長302nm)を30秒間または1分間照射した。その際に、対照実験として一部のウェルはアルミホイルでUVを遮蔽した(未処理細胞)。UVの照射後はPBSで細胞を洗ってDNAを除き、再び培地を加えて5%炭酸ガス(CO)の存在下、37℃で3日間培養した。その後、トリクロロ酢酸沈殿により細胞内たんぱく質を固定し、SRB(Sulforhodamine B)で染色して波長490nmでの吸光度(A490)を定量した。UV−BおよびDNAによる増殖への影響は、未処理細胞でのA490に対する比率(%)の平均値および標準偏差(n≧3)で評価した(図2)。
【0021】
「図1の説明」実施例3について、DNAの存在下・非存在下での紫外線UV−Bによる細胞への影響を、メラノーマ由来G−361細胞の増殖を指標として調べた。その結果、DNAの非存在下ではメラノーマ細胞は1分間のUV−Bの照射により未処理細胞の24%まで増殖が低下したが、0.5,1および2mg/mlのDNAの存在下ではそれぞれ39%、58%、86%程度まで回復した。また、3mg/ml以上のDNAの存在下では未処理細胞の90%以上まで増殖の回復が見られた。一方、2分間のUV−Bの照射では、DNAの非存在下では未処理細胞の8.3%まで増殖が低下したが、0.5,1,2および3mg/mlのDNAの添加によりそれぞれ20%、35%、65%まで回復した。また、4mg/ml DNAの添加により90%まで増殖が回復した。
【0022】
「図2の説明」実施例4について、DNAの存在下・非存在下での紫外線UV−Bによる細胞への影響を、乳がん由来MCF−7細胞の増殖を指標として調べた。その結果、DNAの非存在下では乳がん細胞は30秒間のUV−Bの照射により未処理細胞の51%まで増殖が低下したが、1mg/ml DNAの添加により83%まで回復した。一方、1分間のUV−Bの照射では、DNAの非存在下では未処理細胞の12%まで増殖が低下したが、1mg/mlのDNAの添加により50%まで回復した。
【0023】
以上の試験結果より、DNAがUV−Bによる細胞への損傷を防ぐ効果があることが2種の培養細胞によって証明された。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明で紫外線吸収剤として使用されるDNAの原料は、サケ白子やブロッコリー等の一般に流通している比較的安価な食材であるため、これまでになく安価かつ容易に、有効な紫外線吸収剤を含有する化粧料の提供を可能にするものである。また、DNAの原料は長年にわたって食用に供されてきたものであるため、皮膚に塗布してもアレルギーや肌荒れ等の皮膚障害の可能性は考慮する必要がないと思われる。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線を吸収する物質として、ヒト以外の動物または植物から抽出されたデオキシリボ核酸(DNA)を含有することを特徴とする日焼け止め化粧料。
【請求項2】
紫外線を吸収する物質として、魚や野菜等の食材から抽出されたデオキシリボ核酸(DNA)を含有することを特徴とする日焼け止め化粧料。
【請求項3】
紫外線を吸収する物質として、サケ白子、ブロッコリー等の食材から抽出されたデオキシリボ核酸(DNA)を含有することを特徴とする日焼け止め化粧料。

【公開番号】特開2009−167150(P2009−167150A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28158(P2008−28158)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(508039629)株式会社インフォジーンズ (1)
【出願人】(502424458)
【Fターム(参考)】