説明

DNA及び該DNAの利用並びにDNAの異同識別方法

【課題】 ハイブリダイゼーション法を用いて、短時間でDNA試料を効率よく同定し、かつ塩基配列を決定する。また、付与した特定情報を短時間で精度よく、迅速に増幅し、埋め込まれた特定情報に基づく蛍光発光によって、目的とするDNA配列が存在するか否かを識別することが可能なDNA及び該DNAの利用並びにDNAの異同識別方法を提供する。
【解決手段】 一対のプライマー間にハイブリッド形成が可能な蛍光物質とドナー色素と相補的な関係にある塩基配列を含んだ、少なくとも2種類以上のプローブを組み込んで構成されるDNAとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA及び該DNAの利用並びにDNAの異同識別方法に関する。特に、DNAを任意に設計し、該DNAを添加物として含有させた含有物、その含有物を用いた用紙及び印刷物等としての利用、並びに該DNAの異同識別方法である。
【背景技術】
【0002】
近年、カラー複写機の普及により誰でも簡単に高精度な複写物を得ることができるようになっており、銀行券、有価証券、身分証明書及び重要書類等の印刷物が容易に偽造されるということが問題になっている。このような偽造印刷物の作製を牽制する目的で、種々の偽造防止技術が考えられ提案されている。
【0003】
情報の分野では電子すかしを入れたり、インキ材料の分野では蛍光又は燐光等の機能性インキを用いて印刷物を作製する技術が数多く提案されている。
【0004】
また、最近では特定のDNAの塩基配列を利用してDNAインキを作製し、このDNAインキを用いて商品等に印刷することで、偽造又は改ざんを防止する技術も提案されている。特定の物質で作製した人工DNAを組成物として含む添加物を、セキュリティー管理における個人の識別や商品の真偽鑑定などに利用する識別情報保持物(例えば、特許文献1参照)が開示されている。
【0005】
また、合成DNA及び/又はダミーDNAを含有する組成物及びその利用物を得ることで、偽造や複製をより困難とするインキ及び印刷物(例えば、特許文献2参照)が開示されている。
【0006】
また、DNA試料に含まれる4種類のヌクレオチド配列を決定する速度は重要な技術的課題であり、従来よりDNAを重合酵素連続反応(以下、「PCR」という。(Polymerase Chain Reaction))を通じ、同じ塩基配列を有する核酸として大量増幅が可能で、増幅された核酸の塩基配列を、ゲル電気泳動法及びシークエンシング(塩基配列の決定)又はDNAチップで分析することにより、極微量として存在する元の核酸の塩基配列を決定していた。
【0007】
【特許文献1】特開2003−157004号公報
【特許文献2】特開2005−97346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、特定の物質で作製した人工DNAの組成物や人の口腔から採取したもの、つまり唾液を単純に添加しているだけなので、最新の分析技術を駆使すればその塩基配列が解読されてしまうという問題がある。
【0009】
また、特許文献2では、数種類の合成DNAと、より多くのダミーDNAを混入させたDNAインキを作製しているが、一つの合成DNAは一つの情報部分を有する構成であるので、偽造を防止するために多くの情報を付与するためには、多種類の合成DNAが必要になり、インキの組成物のDNA分析に際して非常に多くの時間が必要となり、その結果、その塩基配列情報を読み出すまでの膨大な手間と時間を要するという問題がある。
【0010】
さらに、従来の測定法では、結果が判別できるまでに長時間を要していた。また、判定に要する時間を短縮するために、ゲル電気泳動法のみで判定を行う方法がとられていたが、ゲル電気泳動法のみでは精度が悪かった。精度を上げるためのシークエンシング又はDNAチップ等で確認を行う方法では、高度の技術と設備が必要となり、時間もかかるという問題があった。
【0011】
そこで、近年、核酸の配列を決定する方法としては、ハイブリダイゼーション法が有利となってきた。本発明の目的は、上記した従来技術の問題点を解決するために、ハイブリダイゼーション法を用いて短時間でDNA試料を効率よく同定し、かつ塩基配列を決定することにある。また、付与した特定情報を短時間で精度よく、迅速に増幅し、埋め込まれた特定情報に基づく蛍光発光によって、目的とするDNA配列が存在するかを識別することが可能なDNA及び該DNAの利用並びにDNAの異同識別方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは今般、ゲル電気泳動法を用いることなく、ハイブリダイゼーション法により短時間でDNA試料を効率よく同定し、かつ塩基配列を決定することができるDNAを設計することができた。また、これらのDNAを、ハイブリダイゼーションプローブ法によって蛍光を発するように設計することにより、特定の塩基配列に情報を付与することができるという知見を得た。本発明は、かかる知見によるものである。
すなわち、本発明のDNAは、一対のプライマー間に、前記プライマーとは異なる塩基配列を有する少なくとも2種類以上のプローブを配置して設計されたものである。
【0013】
また、本発明のDNAは、ハイブリダイゼーションプローブ法によって蛍光を発するように設計されたものである。
【0014】
また、本発明の別の態様としてのDNAに組み込まれた塩基配列の識別方法は、印刷物、塗工紙、用紙又は混抄紙のDNAを含む部分を切り出す工程と、切り出した部分をバッファを加えた抽出溶液中に入れ、切り出した部分からDNAを抽出する工程と、抽出したDNAをハイブリダイゼーション法によって、特定の波長での蛍光発光の有無を検出する工程と、検出した蛍光発光する特定の波長を、あらかじめ記録部に記録してある特定の波長における蛍光発光と比較する工程と、抽出したDNAに目的とする塩基配列が含まれているか否かを識別する工程とよりなるものである。
【0015】
本発明によれば、このようなDNAは、例えば、組成物、DNAインキ、DNA塗工液、DNA含有物及びDNA繊維等として、さらにDNAインキを用いて基材に印刷した印刷物、DNA塗工液を塗工してなる塗工紙、DNA含有物を含む用紙及びDNA繊維を含む混抄紙等の真偽判別及び偽造防止を要求される分野に好適に利用できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、設計した塩基配列を有するDNAを短時間で精度よく識別することができる。また、DNAに付与した特定情報を短時間で精度よく、迅速に読み出すことができ、埋め込まれた特定情報に基づく蛍光発光によって目的とするDNA配列が存在する否かを、破壊又は非破壊のどちらの方法でも識別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態による、DNA及びDNAの異同識別方法について、図面を用いて説明する。本発明において、DNA、プローブ、ハイブリダイゼーション、プライマー、ハイブリダイゼーションプローブ法、PCR法及びRT−PCR等の用語は、現在分子生物学、遺伝子工学及び微生物工学等で一般的に使用されている用語と同じ意味である。
【0018】
本実施の形態により設計されるDNAは、従来のDNAが、一つのDNAは一つの情報部分を有するというような構成であるので、多くの情報を付与するためには、多種類のDNAが必要になり、かつ判別に長時間を要し、判定の時間を短縮するためゲル電気泳動法を用いると、ゲル電気泳動法では精度が悪いという問題を解決するためになされたものである。
【0019】
本実施の形態において設計したDNAの構成としては、一対のプライマー間にハイブリッド形成が可能な蛍光物質とドナー色素とで標識したプローブと相補的な関係にある塩基配列を含んだ、少なくとも2種類以上のプローブを組み込んで構成されるDNAとしている。
蛍光色素は、一般に核酸プローブに標識して、核酸の測定及び検定に用いられるものが使用でき、例えば、フルオレイセン又はその誘導体類、ローダミン又はその誘導体類等が好適に用いられる。
【0020】
例えば、2種類の塩基配列を組み込んで構成されるDNAの場合、一般的な6波長での検出が可能であるとするならば21種類、3種類の塩基配列を組み込んで構成されるDNAの場合は50種類以上のDNAを識別することが可能となる。
このように組み込むプローブの数を増やすことにより、情報部分であるプローブの数が多くなるので、一つのDNAに多くの情報を入れることが可能となる。
【0021】
DNAの識別方法としては、抽出したDNAに目的とする塩基配列が含まれているかどうかを短時間で迅速かつ精度良く情報の分析を行うため、特定の塩基配列と相補的な関係にある蛍光色素とドナー色素とを含んだプローブを使用するハイブリダイゼーションプローブ法を用いる。
【0022】
本実施の形態において、設計されたDNAを用いた用紙又は印刷物等の識別に用いるハイブリダイゼーションプローブ法についての概要を述べる。
ハイブリダイゼーションプローブ法(以下、「リアルタイム検出PCR法」ということもある。)は定量性が高く、被検核酸の定量には優れた方法である。ハイブリダイゼーションプローブ法では、その原理においてドナー色素とアクセプター蛍光色素とを標識とした一組のハイブリダイゼーションプローブが用いられる。ドナー色素の例としてフルオレイセン、アクセプター蛍光色素の例としてLC Red640等があり、蛍光色素の組合せは周知であり市販もされている。
【0023】
目的とするDNA(テンプレートDNA)に所定のプライマーとハイブリダイゼーションプローブを入れてPCRを行うと、プライマーのアニーリングと同時にハイブリダイゼーションプローブが目的とするDNAとアニーリングする。この状態において、一組のハイブリダイゼーションプローブが近接して存在する場合、蛍光共鳴エネルギー転移効果が起き、蛍光を発する。
その後、通常のPCRと同様に、ポリメラーゼ反応により新しいDNAが複製され、ハイブリダイゼーションプローブがDNA鎖からはずれ、消光する。
【0024】
(実施例1)
図1及び図2に、実施例1としてDNAの設計の一例を示す。本実施例において、用いるDNAとしてはタカラバイオ社製の塩基鎖長250bpをICAN法により増幅したものを用いた。
【0025】
実施例1では、一対のプライマー間に3種類のプローブを含むDNAの設計をする。各プローブとは、蛍光物質とドナー色素で標識した相補的な塩基配列の関係にあるプローブがハイブリッド形成を行うことができる。また、設計されたDNAのプローブに、あらかじめ特定情報を組み込み、このDNAの各プローブと、該プローブに組み込んだ特定情報を関連付けてデータベースに記憶しておく。
【0026】
リアルタイムPCR装置におけるPCR中のDNAの蛍光標識方法には幾つかの種類があり、一つには、2本鎖状態のDNAに特異的に結合する蛍光標識(一般にはサイバーグリーンとして知られている)を利用するサイバーグリーン法、また一つには、PCRにより合成されたDNAの内部の塩基配列に特異的に結合する蛍光標識を利用するハイブリダイゼーションプローブ法がある。
【0027】
(DNA(X)の設計)
図1に、一対のプライマー間に3種類のプローブを組み込んで設計したDNA(X)の設計図の一例を示す。
DNA(X)の構成としては、一対のプライマー(F)とプライマー(R)の間に、プローブ(A)、プローブ(B)及びプローブ(C)の3種類を配置する。また、3種類のプローブには特定情報を付与することとする。
【0028】
図2に、DNA(X)の全体の塩基配列を示した。
本実施例では、塩基鎖数は250bp、アンプリコンサイズは240bpとしているが、塩基配列及び鎖長においての制限は特にない。また、プライマー部分に関しても特に制限はないが、8塩基鎖長以上が適当である。
【0029】
プローブ(A)、プローブ(B)及びプローブ(C)の情報の付与の方法に関しての制限はない。また、プローブ(A)、プローブ(B)及びプローブ(C)の塩基配列はそれぞれ異なっていても、また同じでも良い。さらに、プローブ(A)、プローブ(B)及びプローブ(C)、がDNA(X)上にあれば、同一の鎖上でなくともよい。
【0030】
本実施例1では、DNA(X)がハイブリダイゼーションプローブを用いて蛍光が観察できた場合のみ、プローブ(A)、プローブ(B)及びプローブ(C)の塩基配列を同定できたとし、DNAの存在の有無と同時に特定情報を読み取れたことになる、という設定条件としている。
【0031】
具体的には、ハイブリダイゼーションプローブを次のように設計した。
プローブ(A)と相補的な塩基配列の関係にあるハイブリダイゼーションプローブ(a−a’の組)は、塩基鎖長54bpで25番目の3’末端にドナー色素としてフルオレイセンで標識した。さらに27番目の5’末端を蛍光発光する色素LCRed640 で標識し、3’末端はリン酸化を行った。検出波長は640nmである。
【0032】
プローブ(B)と相補的な塩基配列の関係にあるハイブリダイゼーションプローブ(b−b’の組)は、塩基鎖長56bpで27番目の3’末端にドナー色素としてフルオレイセンで標識した。さらに29番目の5’末端を蛍光発光する色素LCRed705 で標識し、3’末端はリン酸化を行った。検出波長は705nmである。
【0033】
プローブ(C)と相補的な塩基配列の関係にあるハイブリダイゼーションプローブ(c−c’の組)は、塩基鎖長54bpで27番目の3’末端にドナー色素としてフルオレイセンで標識した。さらに29番目の5’末端を蛍光発光する色素LCRed610 で標識し、3’末端はリン酸化を行った。検出波長は610nmである。
【0034】
ハイブリダイゼーションプローブを構成するドナー色素で標識されるプローブと、蛍光発光する色素で標識したプローブとの間隔は1〜5塩基以内が望ましく、1〜2塩基が最も望ましい。
ハイブリダイゼーションプローブを構成するドナー色素は特にフルオレイセンに限定されるものではなく、また、蛍光発光する色素は、前述の色素に限定されるものではない。
【0035】
次に、DNA含有物を含む用紙からの抽出液及び特定情報を付与したDNA(X)を用いて、リアルタイムPCR(以下、「RT−PCR」という。)装置によりDNAの検出を行う。本実施例1においては、ロッシュ社製のRT−PCR装置(ライトサイクラー400 DXシステム(商品名))を使用した。
また、本発明のDNAを含有して成る各種組成物、印刷物、用紙、混抄紙又は塗工紙等からDNAを抽出する方法としては、DNAを含む部分を破壊しないで抽出する方法又はDNAを含む部分を切り抜き、破断して用いる方法等がある。本実施例においては、DNA部分を切り抜き、破断して用いる方法を用いたが、非破壊で溶出転写する方法でも同様の結果を得ることができる。
【0036】
DNA含有物を含む用紙(Xy)の作製方法としては、DNA(X)と、水溶性高分子とを含む混合物を固化して得られた硬化物を含んで成るDNA含有物を用紙に含んで作製した。このDNA含有物を含む用紙(Xy)を5mmφに打ち抜き、打ち抜いた用紙をCTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)50μLを用いて超音波抽出を行い、抽出液(XL)を得た。
【0037】
抽出液(XL)、DNA(X)及びネガティブコントロールとしての水を用い、ハイブリダイゼーションプローブ法によりPT−PCRを行った。蛍光検出の結果を図3に示す。
図3(a)は、LCRed640で標識されたプローブ(A)が検出波長640nmで蛍光発光した図である。
図3(b)は、LCRed705で標識されたプローブ(B)が検出波長705nmで蛍光発光した図である。
図3(c)は、LCRed610で標識されたプローブ(C)が検出波長610nmで蛍光発光した図である。
いずれの検出波長においても、抽出液(XL)では14サイクル以降で蛍光を確認することができた。
【0038】
本実施例1の方法を用いることで、目的とするDNAの存在を確認するとともに、塩基配列に含まれる特定情報を読み出すことができた。本実施例1の方法を用いた一例としての作業時間は約60分でDNAの抽出及び確認を終了することが可能だった。それぞれの工程に要した時間の概略は、DNA抽出が10分、試薬調製及び準備が20分、RT−PCRが30分(40サイクル)であった。
【0039】
(比較例)
(DNA(Y)の設計)
図4に、上記実施例1による比較例として、DNA(Y)の設計の一例を示す。比較例において、用いるDNAとしてはタカラバイオ社製の塩基鎖長250bpをICAN法により増幅したものを用いた。塩基鎖数及び塩基配合率はDNA(X)と同一である。
【0040】
(比較例1)
図5に、DNA(Y)の塩基配列を示した。本比較例1では、塩基鎖数は250bp、アンプリコンサイズは240bpとしているが、塩基配列及び鎖長においての制限は特にない。また、プライマー部分に関しても特に制限はないが、8塩基鎖長以上が適当である。
【0041】
DNA含有物を含む用紙(Yy)の作製方法としては、DNA(Y)と、水溶性高分子とを含む混合物を固化して得られた硬化物を含んで成るDNA含有物を、用紙に含んで作製した。DNA含有用紙(Yy)を5mmφに打ち抜き、打ち抜いた用紙をCTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)50μLを用いて、超音波抽出を行い、抽出液(YL)を得た。
【0042】
増幅産物の検出は、サイバーグリーン法を用いた融解曲線分析により増幅産物の確認を行う。
抽出液(YL)、DNA(X)、DNA(Y)及びネガティブコントロールとしての水を用い、サイバーグリーン法によりRT−PCRを行い、融解曲線を測定した。結果を図6に示す。増幅産物の配列に固有の値が融解温度(Tm値)であるので、融解曲線から、抽出液(YL)のPCR産物、DNA(X)のPCR産物、DNA(Y)のPCR産物の塩基組成が同一であることが分かる。したがって、抽出液(YL)、DNA(X)及びDNA(Y)の識別を融解曲線から判別することはできないことが分かる。
【0043】
(比較例2)
次に、ゲル電気泳動による確認を行う。
抽出液(YL)、DNA(X)及びDNA(Y)のそれぞれのRT−PCR産物を用いてゲル電気泳動を行った。図7にゲル電気泳動写真を示す。
レーン1がDNAマーカー、レーン2が抽出液(YL)のRT−PCR産物、レーン3がDNA(X)のRT−PCR産物、レーン4がDNA(Y)のRT−PCR産物であり、抽出液(YL)、DNA(X)及びDNA(Y)の塩基鎖長が同じであることが分かる。したがって、ゲル電気泳動から判別することはできないことが分かる。
【0044】
(比較例3)
以上の従来法を用いた判別方法では確認することができなかった。そこで、抽出液(YL)、DNA(X)及びDNA(Y)を用い、ハイブリダイゼーションプローブ法によりRT−PCRを行った。蛍光検出の結果を図8に示す。640nm及び705nmの検出波長のいずれにおいても発光は検出されず、抽出液(YL)には、プローブ(A)、プローブ(B)に対応する塩基配列を含んでいないことが分かった。610nmの検出波長では発光が検出された。このことから、抽出液(YL)には、プローブ(C)に対応する塩基配列を含んでいることが分かった。
【0045】
ハイブリダイゼーションプローブは、波長の異なる蛍光物質の組合せが可能であるため、実施例1のように、一対のプライマー間に3種類のプローブを組み込んでもよいが、A、B及びCの3種類の蛍光物質を用いる場合には、AAB、ABB、ACC、AAC、BBC、BCC及びABCの7種類の組合せが考えられるので、それぞれの場合に応じた強度情報を加味しての異同識別が可能となる。
【0046】
すなわち、同一のプローブを複数使用した組み合わせにおいては、さらに検出のための増幅に関わる時間の短縮が可能となると共に、発光強度比による判別も可能となる。
【0047】
また、DNAの構成として、波長が異なる蛍光発光するプローブを一対のプライマー間に、以下に示した6種類の蛍光物質を用いて一つのDNAに3種類のプローブを組み込んだ場合は、50種類以上の組合せの利用が考えられ、その判別が可能となる。
プローブ1:フルオレイセン/LcRed530標識・・検出波長530nm
プローブ2:フルオレイセン/LcRed555標識・・検出波長555nm
プローブ3:フルオレイセン/LcRed610標識・・検出波長610nm
プローブ4:フルオレイセン/LcRed640標識・・検出波長640nm
プローブ5:フルオレイセン/LcRed670標識・・検出波長670nm
プローブ6:フルオレイセン/LcRed710標識・・検出波長710nm
【0048】
以上のようにして設計したDNA(X)を用いた使用例としては、複数の特定情報を有するDNA入り用紙、塗工紙又は印刷物等を製造することができる。
【0049】
また、以上のように設計されたDNA(X)を構成するプローブ(A)、プローブ(B)及びプローブ(C)の蛍光発光をいずれか2つ以上又はすべての発光を確認することによって、DNAの存在を確認すると共にプローブ(A)、プローブ(B)及びプローブ(C)に基づく塩基配列を識別できたことになる。
【0050】
(実施例2)
実施例1で作製したDNA(X)を0.005%含むDNA入りオフセットインキを一般に公知のインキ製造方法により作製し、このオフセットインキを用いて印刷適性印刷機にて印刷物を作製する。
【0051】
本実施例2では、DNA(X)がハイブリダイゼーションプローブを用いて蛍光が観察できた場合のみ、プローブ(A)、プローブ(B)及びプローブ(C)の塩基配列を同定できたとし、DNAの存在の有無と同時に塩基配列の読み取れたことになる、という設定条件としている。
【0052】
(DNA入りオフセット印刷物からのDNAの抽出)
得られた印刷物を5mmφに打ち抜き、打ち抜いた印刷部分にDNA(X)を含んだ印刷画線が含まれた印刷用紙を、CTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)50μLを用いて超音波抽出を行って、抽出液(Xp)を得た。抽出液(Xp)を用いて、実施例1の用紙の場合と同様にハイブリダイゼーションプローブ法を用いてPT−PCRを行った結果、いずれの検出波長においても、抽出液(Xp)では14サイクル以降で蛍光を確認することができた。
【0053】
本実施例2の方法を用いることで、目的とするDNAの存在を確認すると共に塩基配列から特定の情報を読み出すことができた。本実施例2の方法を用いた一例としての作業時間は約60分でDNAの抽出及び確認を終了することが可能だった。それぞれの工程に要した時間の概略は、DNA抽出が10分、試薬調製及び準備が20分、RT-PCRが30分(40サイクル)であった。
【0054】
以上詳述したように、ハイブリダイゼーションプローブ法によってプローブ(A)、プローブ(B)及びプローブ(C)に由来する波長の蛍光が検出された場合に、DNAの存在を確認でき、かつ組み込まれた塩基配列を読み取れたこととなる。
【0055】
表1に、DNAの分析による本実施例と比較例による結果の比較をまとめたものを示す。
【0056】
【表1】

【0057】
以上の実施例は、プローブに相当する部分の塩基配列を異なるように設計しているが、同じ塩基配列情報を有するプローブを組み込んだDNAを使用した場合には、鍵となる蛍光発光させる波長の強度差を利用すれば検出精度を上げ、識別をより高度なものとすることができる。
【0058】
以上、本発明に係るDNA入り用紙、DNAインキを用いた印刷物を作製した実施例について説明したが、本発明のDNAの使用物に係るDNA入り含有物を用いた用紙又は塗工物を使用した印刷物等も同様の操作で迅速に識別を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例1における特定情報を有するDNA(X)を示す図である。
【図2】実施例1におけるDNA(X)の全体配列を示す図である。
【図3】実施例1における抽出液(Xy)のRT−PCRの結果を示す図である。
【図4】比較例における特定情報を有する合成DNA(Y)を示す図である。
【図5】比較例におけるDNA(Y)の全体配列を示す図である。
【図6】比較例1における、融解曲線を示す図である。
【図7】比較例1における、ゲル電気泳動の結果を示す図である。
【図8】比較例1における、RT−PCRの結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のプライマー間に、前記プライマーとは異なる塩基配列を有する少なくとも2種類以上のプローブを配置して設計されたことを特徴とするDNA。
【請求項2】
前記DNAがハイブリダイゼーションプローブ法によって蛍光を発するように設計されている請求項1に記載のDNA。
【請求項3】
前記プローブの少なくとも1つには、特定の塩基配列に基づく情報が付与される請求項1又は2に記載のDNA。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載のDNAを添加物として含有する組成物。
【請求項5】
請求項1、2又は3に記載のDNAと、染料又は/及び顔料と、バインダーとを含有することを特徴とするDNAインキ。
【請求項6】
請求項1、2又は3に記載のDNAと、バインダーとを含有することを特徴とするDNA塗工液。
【請求項7】
請求項1、2又は3に記載のDNAと、水溶性高分子とを含む混合物を固化して得られた硬化物を含んで成る、DNA含有物。
【請求項8】
請求項1、2又は3に記載のDNAと、高分子とを含む混合物から成る、DNA繊維。
【請求項9】
請求項5に記載のDNAインキを用いて基材に印刷した印刷物。
【請求項10】
請求項6に記載のDNA塗工液を塗工してなる塗工紙。
【請求項11】
請求項7に記載のDNA含有物を含む用紙。
【請求項12】
請求項8に記載のDNA繊維を含む混抄紙。
【請求項13】
請求項9〜請求項12のいずれかに記載の印刷物、塗工紙、用紙又は混抄紙に含有されるDNAに組み込まれた塩基配列の識別方法であって、
前記印刷物、塗工紙、用紙又は混抄紙のDNAを含む部分からDNAを抽出する工程と、
前記抽出したDNAをハイブリダイゼーションプローブ法によって、特定の波長での蛍光発光の有無を検出する工程と、
前記検出した蛍光発光する特定の波長を、あらかじめ記録部に記録してある特定の波長における蛍光発光と比較する工程と、
前記抽出したDNAに目的とする塩基配列が含まれているか否かを識別する工程とを備えたDNAの異同識別方法。
【請求項14】
請求項13において、特定の波長における蛍光発光のサイクル数及び蛍光強度比を検出し、抽出したDNAに目的とする塩基配列が含まれているか否かを識別するDNAの異同識別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−187991(P2008−187991A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28952(P2007−28952)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】