説明

DNA合成酵素阻害剤

【課題】DNA合成酵素阻害活性を有する化合物、及び該化合物を有効成分として含有する医薬組成物(DNA合成酵素阻害剤及び抗癌剤)の提供。
【解決手段】一般式(1):


[式中、RとRは異なって、水素原子、又は2位がメチル基,4,6位が水酸基、アルコキシ基等の特定の置換基で置換されたベンゾイル基を示し、Rは水酸基を有していてもよいアルケニル基を示す。]で表される化合物、及びこれを有効成分として含有する医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA合成酵素阻害作用を有する化合物とその利用に関する。この化合物は、DNA合成酵素阻害剤として、例えば生化学試薬などに利用できるほか、抗癌剤として利用し得る。
【背景技術】
【0002】
真核生物のDNA合成酵素(DNAポリメラーゼ)は、これまでα、β、γ、δ、ε、ζ、η、θ、ι、κ、λ、μ、σ及びTdT(ターミナル・デオキシヌクレオチジル・トランスフェラーゼ)、Rev1の15種類の分子種が知られている。これらのDNA合成酵素群は、細胞の増殖、分裂、分化などに関与しているが、α型はDNA複製、β型、λ型及びTdTは修復と組換え、δ型及びε型は複製と修復の双方、ζ〜κ型とRev1型は修復を担うといった具合にタイプによって異なる機能を有することが知られている。
【0003】
このようにDNA合成酵素は細胞の増殖等に関与することから、その酵素活性を阻害するDNA合成酵素阻害剤は、例えば、癌に対して癌細胞の増殖抑制作用を示し、エイズに対してHIV由来逆転写酵素に対する阻害作用を示し、また、免疫疾患に対して抗原に対する特異的抗体産生を抑制する免疫抑制作用を示すことが考えられる。このため、DNA合成酵素阻害剤を用いた癌、エイズ等のウイルス疾患、免疫疾患の予防・治療に効果のある医薬品の開発が期待されている。
【0004】
例えば、DNA合成酵素阻害活性を有する糖脂質が、制癌剤、HIV由来逆転写酵素阻害剤、免疫抑制剤として有用であることが報告されている(下記特許文献1参照)。現在、DNA合成酵素阻害剤として、ジデオキシTTP(ddTTP)、N-メチルマレイミド、ブチルフェニル-dGTPなどが知られている(下記非特許文献1参照)。また植物由来の糖脂質であるスルホキノボシルアシルグリセリドにもDNA合成酵素阻害作用が見出されている(下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11‐106395号公報
【特許文献2】特開平2000‐143516号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Annual Review of Biochemistry, 2002, 71, 133-163頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、DNA合成酵素阻害活性を有する化合物、及び該化合物を有効成分として含有する医薬組成物(DNA合成酵素阻害剤及び抗癌剤)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、一般式(1)で示される化合物が、優れたDNA合成酵素阻害活性を有することを見出した。さらに、この化合物が癌細胞の増殖を特異的に抑制することも見出した。かかる知見に基づきさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の構成を有するものである。
【0010】
項1. 一般式(1):
【0011】
【化1】

【0012】
[式中、RとRは異なって、水素、又は一般式(2):
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、R及びRは同一又は異なって水素、低級アルキル基、又はアルカノイル基を示す。)
で表される基を示し、Rは水酸基を有していてもよいアルケニル基を示す。]
で表される化合物を有効成分として含有するDNA合成酵素阻害剤。
【0015】
項2. Rが水酸基を有していてもよいC3〜5のアルケニル基であり、R及びRが水素である項1に記載のDNA合成酵素阻害剤。
【0016】
項3. 項1に記載の一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有する抗癌剤。
【0017】
項4. 一般式(3):
【0018】
【化3】

【0019】
[式中、RとRは異なって、水素、又は一般式(2):
【0020】
【化4】

【0021】
(式中、R及びRは同一又は異なって水素、低級アルキル基、又はアルカノイル基を示す。)
で表される基を示し、Rが一般式(2)で表される基であり且つRが水素である場合は、Rはアルケニル基を示し、Rが水素であり且つRが一般式(2)で表される基である場合は、Rは水酸基を有するアルケニル基を示す。]
で表される化合物。
【0022】
項5. 項4に記載の一般式(3)で表される化合物を有効成分として含有する医薬組成物。
【0023】
項6. 項4に記載の一般式(3)で表される化合物を配合してなる食品組成物。
【0024】
項7. 一般式(1)で表される化合物の製造方法であって、penicillium pinofhilum Hedgcockの培養物を精製する工程を含むことを特徴とする製造方法。
【0025】
項8. 一般式(4):
【0026】
【化5】

【0027】
(式中、R及びRは前記に同じ。)
で表される化合物の製造方法であって、一般式(5):
【0028】
【化6】

【0029】
で表される化合物と、一般式(6):
【0030】
【化7】

【0031】
(式中、R及びR10は同一又は異なって保護基を示す。)
で表される化合物を反応させることを特徴とする製造方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、DNA合成酵素阻害活性を有する化合物、及び該化合物を有効成分として含有する医薬組成物(DNA合成酵素阻害剤及び抗癌剤)を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】化合物1a及び1bの構造及び炭素番号を示す構造式と、化合物1cの構造を示す構造式を示す。
【図2】(A)には化合物1aのHMBC相関、及び化合物1bのHMQC相関を示し、(B)には化合物1a及び化合物1bの1H-1H NOESY相関を示す。
【図3】CDCl3中で測定した、化合物1a及びMeOD中で測定した1bの1H-NMR、13C-NMRデータを示す。
【図4】化合物1cの合成計画を示す。
【図5】化合物1a、1b、又は1cの、DNA合成酵素に対する阻害活性の評価結果を示す。
【図6】化合物1aの、DNA合成酵素の阻害様式の判定結果を示す。
【図7】化合物1a、1b、又は1cの、ヒト癌細胞及びヒト正常細胞の増殖への影響の評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0035】
1.化合物
本発明の化合物は、一般式(1):
【0036】
【化8】

【0037】
[式中、RとRは異なって、水素、又は一般式(2):
【0038】
【化9】

【0039】
(式中、R及びRは同一又は異なって水素、低級アルキル基、又はアルカノイル基を示す。)
で表される基を示し、Rは水酸基を有していてもよいアルケニル基を示す。]
で表される化合物である。
【0040】
一般式(1)におけるRとRは異なって、水素又は一般式(2)で表される基を示す。すなわち、Rが一般式(2)で表される基である場合は、Rは水素であり、Rが水素である場合は、Rは一般式(2)で表される基である。好ましくはRが一般式(2)で表される基であり、Rが水素である。
【0041】
一般式(1)におけるRは「水酸基を有していてもよいアルケニル基」を示す。
【0042】
「水酸基を有していてもよいアルケニル基」の「アルケニル基」としては、例えば、炭素数(以下「C」と表記する)2〜8、好ましくはC3〜5、より好ましくはC3〜4のアルケニル基が挙げられる。また、「アルケニル基」は、直鎖状、分枝状のいずれでもよいが、直鎖状のアルケニル基が好ましく挙げられる。具体例としては、ビニル、1−プロペニル、2−プロペニル、1−メチル−1−プロペニル、2−メチル−1−プロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル、1−ペンテニル、2−ペンテニル、3−ペンテニル、4−ペンテニル、1,3−ブタジエニル、1,3−ペンタジエニル、2−ペンテン−4−イニル、2−ヘキセニル、1−ヘキセニル、5−へキセニル、3−ヘキセニル、4−へキセニル、3,3−ジメチル−1−プロペニル、2−エチル−1−プロペニル、1,3,5−ヘキサトリエニル、1,3−ヘキサジエニル、1,4−ヘキサジエニル等が挙げられる。
【0043】
「水酸基を有するアルケニル基」としては、上記「アルケニル基」の炭素上に、例えば1〜4、好ましくは1〜3、より好ましくは1〜2の水酸基を有する基が挙げられる。具体例としては、3−ヒドロキシ−1−プロペニル、4−ヒドロキシ−1−ブテニル、4−ヒドロキシ−2−ブテニル等が挙げられる。
【0044】
一般式(1)におけるRとしては、好ましくはアルケニル基が挙げられる。
【0045】
一般式(2)におけるR及びRは、同一又は異なって水素、低級アルキル基、又はアルカノイル基を示す。
【0046】
低級アルキル基としては、例えばC1〜6、好ましくはC1〜4、より好ましくはC1〜2のアルキル基が挙げられる。低級アルキル基は、直鎖状又は分枝状のいずれでもよいが、好ましくは直鎖状の低級アルキル基が挙げられる。具体例としては、メチル、エチル、n‐プロピル、イソプロピル、n‐ブチル、イソブチル、sec‐ブチル、tert‐ブチル等が挙げられる。
【0047】
アルカノイル基としては、例えばC1〜6、好ましくはC1〜4、より好ましくはC1〜2のアルカノイル基が挙げられる。アルカノイル基は、直鎖状又は分枝状のいずれでもよいが、好ましくは直鎖状のアルカノイル基が挙げられる。具体例としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、ペンタノイル、tert‐ブチルカルボニル、ヘキサノイル等が挙げられる。
【0048】
一般式(2)におけるR及びRとしては、好ましくは同一又は異なって水素又は低級アルキル基、より好ましくは水素が挙げられる。
【0049】
一般式(1)で表される化合物には、立体異性体及び光学異性体が含まれ、これらは特に限定されるものではない。一般式(1)で表される化合物の中でも、好ましい立体構造を有する化合物としては、下記一般式(1’):
【0050】
【化10】

【0051】
[式中、RとRは異なって、水素、又は一般式(2)で表される基を示し、Rは水酸基を有していてもよいアルケニル基を示す。式は相対配置を示す。]
で表される化合物が挙げられる。
【0052】
一般式(1)で表される化合物の特に好ましい具体例としては、
式(1a):
【0053】
【化11】

【0054】
で表される化合物、
式(1b):
【0055】
【化12】

【0056】
で表される化合物、又は
式(1c):
【0057】
【化13】

【0058】
で表される化合物
が挙げられる。式(1a)、(1b)、及び(1c)は、相対配置を示す。これらの中でも、DNA阻害活性がより高いという観点、及び癌細胞の増殖を抑制する作用がより強いという観点から、好ましくは式(1a)又は式(1c)で表される化合物、より好ましくは式(1a)で表される化合物が挙げられる。
【0059】
一般式(1)で表される化合物の別の好ましい態様としては、一般式(3):
【0060】
【化14】

【0061】
[式中、RとRは異なって、水素、又は一般式(2)で表される基を示し、Rが一般式(2)で表される基であり且つRが水素である場合は、Rはアルケニル基を示し、Rが水素であり且つRが一般式(2)で表される基である場合は、Rは水酸基を有するアルケニル基を示す。]
で表される化合物が挙げられる。
【0062】
一般式(3)におけるRは、水素、又は一般式(2)で表される基を示す。
【0063】
一般式(3)におけるRは、水素、又は一般式(2)で表される基を示す。
【0064】
但し、Rが一般式(2)で表される基である場合は、Rは水素を示し、Rが水素である場合は、Rは一般式(2)で表される基を示す。
【0065】
一般式(3)におけるRは、アルケニル基、又は水酸基を有するアルケニル基を示す。
【0066】
但し、Rが一般式(2)で表される基であり且つRが水素である場合は、Rはアルケニル基を示し、Rが水素であり且つRが一般式(2)で表される基である場合は、Rは水酸基を有するアルケニル基を示す。
【0067】
におけるアルケニル基は、Rにおけるアルケニル基と同じであり、Rにおける水酸基を有するアルケニル基は、Rにおける水酸基を有するアルケニル基と同じである。
【0068】
一般式(3)で表される化合物の特に好ましい具体例としては、式(1a)又は式(1b)で表される化合物が挙げられる。これらの中でも、DNA阻害活性がより高いという観点、及び癌細胞の増殖を抑制する作用がより強いという観点から、好ましくは式(1a)で表される化合物が挙げられる。
【0069】
2.化合物の製造方法‐1
本発明の製造方法‐1は、一般式(1)で表される化合物の製造方法であって、penicillium pinofhilum Hedgcockの培養物を精製する工程を含むことを特徴とする製造方法である。
【0070】
一般式(1)で表される化合物のうち、式(1a)、式(1b)、及び式(1c)で表される化合物は、Penicillium pinofhilum Hedgcockの培養物を精製する工程により得ることができる。精製後、必要に応じて、式(1a)、(1b)、又は(1c)における、式(2a):
【0071】
【化15】

【0072】
で表される基中の水酸基を、低級アルキル基、又はアルカノイル基で保護する工程を経ることによって、一般式(1)で表される化合物を製造することができる。
【0073】
Penicillium pinofhilumHedgcockは公知のアオカビの一種であり、種々の微生物寄託機関から入手することができる。例えば、NBRC (NITE Biological Resource Center)から、IFO番号33285T、100533T、6345、又は106907のカビとして入手することができる。
【0074】
培養物を得る方法としては、Penicillium pinofhilum Hedgcockを、例えばPDB培地(ポテトデキストロース液体培地)、コーンミールとローズベンガルとの混合培地、麦芽エキス培地、又は肉エキス培地等の公知の培地中で静置培養し、培養液から菌体を除去して得られる濾液を溶媒で抽出する方法が挙げられる。抽出溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタ ノール等のアルコール類、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール等のグリコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、エチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル,テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素等の極性有機溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の無極性有機溶媒等を用いることができるこれらの溶媒を単独で又は2種以上の混合溶媒として用いることもできる。
【0075】
これらの内で、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール等のアルコール類、酢酸エチル等のエステル類からなる群から選ばれる少なくとも一種の抽出溶媒を用いることが好ましい。溶媒を混合して用いる場合には、各溶媒の混合比は、溶媒の種類に応じて適宜調整すればよい。
【0076】
培養物を精製する方法としては、特に限定されないが、好ましくはDNA合成酵素阻害活性を指標として精製する方法が挙げられる。精製手法としては、特に限定されるものではなく、公知の精製手法を採用することができるが、好ましくはクロマトグラフィー精製が挙げられる。
【0077】
クロマトグラフィーとしては、例えばアルミナカラムクロマトグラフィー、シリカゲルクロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等が挙げられ、シリカゲルクロマトグラフィーが好ましく挙げられる。
【0078】
クロマトグラフィーの移動相としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、クロロホルム、酢酸エチル、トルエン、ヘキサン、ベンゼン等 の有機溶媒を1種又は2種以上組み合わせたものが挙げられる。
【0079】
培養物を精製する工程で得られた精製物を、さらに精製してもよい。この場合の精製条件は、培養物を精製する工程と同じ条件でもよいし、担体の種類や移動相の種類などを変えた条件でもよい。
【0080】
式(2a)で表される基中の水酸基を保護する基は、低級アルキル基又はアルカノイル基である。低級アルキル基は、一般式(2)におけるR及びRの低級アルキル基と同じである。アルカノイル基は、一般式(2)におけるR及びRのアルカノイル基と同じである。保護する方法は、特に限定されず、公知の手法を採用することができる。
【0081】
上記本発明の製造方法‐1により、一般式(1)で表される化合物に包含される化合物、例えば、式(1a)で表される化合物、式(1b)で表される化合物、式(1c)で表される化合物、一般式(3)で表される化合物、又は後述の一般式(4)で表される化合物も製造することができる。
【0082】
なお、培養物からの化合物の製造及び同定は、具体的 には実施例1の記載に従い行うことができる。
【0083】
3.化合物の製造方法‐2
本発明の製造方法‐2は、一般式(4):
【0084】
【化16】

【0085】
(式中、R及びRは前記に同じ。)
で表される化合物の製造方法であって、一般式(5):
【0086】
【化17】

【0087】
で表される化合物と、一般式(6):
【0088】
【化18】

【0089】
(式中、R及びR10は同一又は異なって保護基を示し、R11は塩素、ヨウ素、臭素、又はフッ素を示す)
で表される化合物を反応させることを特徴とする製造方法である。
【0090】
一般式(5)で表される化合物は、例えば、後述の実施例2における前駆体13の合成方法によって得ることができる。
【0091】
一般式(6)におけるR及びR10は同一又は異なって保護基を示す。保護基としては、特に限定されず、公知の保護基、例えば、アシル基(アセチル、プロパノイル、ベンゾイル基等)、シリル基(トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリイソプロピルシリル、tert−ブチルジメチルシリル基等)、アルキル基(メチル、エチル、プロピル、ブチル基等)、アルケニル基(アリル、クロチル基等)、アラルキル基(ベンジル、フェネチル基等)、アルコキシメチル基(メトキシメチル基等)、スルホニル基(メタンスルホニル、ベンゼンスルホニル基等)等が挙げられる。Rとしては、好ましくはベンジル基が挙げられ、R10としては、好ましくはアルキル基、より好ましくはメチル基が挙げられる。
【0092】
一般式(6)におけるR11は塩素、ヨウ素、臭素、又はフッ素を示す。R11としては、好ましくは塩素、臭素、又はヨウ素、より好ましくは塩素又は臭素、特に好ましくは塩素が挙げられる。
【0093】
一般式(5)で表される化合物と一般式(6)で表される化合物の反応としては、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、一般式(5)で表される化合物と一般式(6)で表される化合物を、塩基存在下、好ましくは有機塩基存在下、より好ましくは3級アミン類存在下で反応させる方法が挙げられる。
【0094】
塩基としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、N−メチル−ジエチルアミン、N−エチル−ジメチルアミン、N−エチル−ジアミルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、N,N−ジメチル−シクロヘキシルアミン、N,N−ジエチル−シクロヘキシルアミン等の脂肪族アミン;N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン等の芳香族アミン;ピリジン、ピコリン、N,N−ジメチルアミノピリジン、4−ピロリジノピリジン等の複素環アミン; 1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0] ノン−5−エン、キヌクリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等の脂環式アミン等が挙げられ、好ましくはN,N−ジイソプロピルエチルアミン、又はN,N−ジメチルアミノピリジンが挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0095】
溶媒としては、特に限定されないが、例えば有機溶媒を使用することができる。有機溶媒としては、例えば、ヘプタン、ヘキサン、オクタン、ジクロロメタン、クロロホルム、エチレンジクロライド、アセトン、アセトニトリル、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ヘプタノン、γ−ブチロラクトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2−メトキシエチルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジエチルエーテル、ジt-ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等が挙げられ、好ましくはジクロロメタンが挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0096】
反応温度、反応時間はいずれも公知の条件を採用することが出来る。また、反応終了後
の反応液から一般式(4)で表される化合物を単離及び精製する手段も公知の方法(分液
、蒸留、クロマトグラフィー、再結晶等)を採用できる。
【0097】
上記のように、一般式(5)で表される化合物と一般式(6)で表される化合物の反応させた後、必要に応じて、R及びR10に示される保護基を公知の方法によって脱保護してもよい。
【0098】
さらに、必要に応じて、R及びR10に示される保護基の脱保護後、脱保護後に生じる水酸基を、低級アルキル基、又はアルカノイル基で保護してもよい。低級アルキル基は、一般式(2)におけるR及びRの低級アルキル基と同じである。アルカノイル基は、一般式(2)におけるR及びRのアルカノイル基と同じである。保護する方法は、特に限定されず、公知の手法を採用することができる。
【0099】
上記本発明の製造方法‐2により、一般式(4)で表される化合物に包含される化合物、例えば式(1c)で表される化合物も製造することができる。
【0100】
4.化合物の用途
本発明の一般式(1)で表される化合物は、DNA合成酵素選択的阻害作用を有することから、医薬品への利用、具体的にはDNA合成酵素阻害剤等への利用が可能である。またこの化合物は、特に哺乳類のDNA合成酵素を選択的に阻害するという性質を有すること、及び鋳型DNAに対して非拮抗阻害であり、デオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)に対して拮抗阻害であるという性質を有することから、これらの性質に特化した用途のDNA合成酵素阻害剤としても利用することができる。さらに、一般式(1)で表される化合物は、ヒト正常細胞(例えば、正常ヒト皮膚線維芽細胞、正常ヒト臍帯静脈内皮細胞等)の増殖には影響を与えず、ヒト癌細胞(ヒト肺癌細胞、ヒト白血病性B細胞、ヒト大腸癌細胞、ヒト子宮頸癌細胞、ヒト胃癌細胞等)の増殖を選択的に抑制するという特徴を有している。従って、一般式(1)で表される化合物、又は一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有するDNA合成酵素阻害剤は、癌、腫瘍等の予防又は治療剤、具体的には抗癌剤として利用することもできる。DNA合成酵素阻害活性と癌細胞の増殖抑制活性には同じ傾向の構造活性相関が見られる。
【0101】
本発明の化合物を体内投与する際は経口投与よりも非経口投与が好ましく、またリポソームなどの運搬体に封入して投与することが好ましい。このとき癌細胞を特異的に認識する運搬体などを利用すれば、標的部位(病変部位)に本発明の化合物を効率よく運ぶことができ効果的である。
【0102】
本発明の化合物を有効成分とする医薬品は、これをそのまま、あるいは慣用の医薬製剤担体とともに医薬組成物となし、動物およびヒトに投与することができる。医薬組成物の剤形としては特に制限されるものではなく必要に応じて適宜選択すればよいが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤が挙げられ、好適には非経口剤を挙げることができる。
【0103】
本発明において錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤としての経口剤は、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。これらの製剤中の本発明の化合物の配合量は特に限定されるものではなく適宜設計できる。この種の製剤には本発明の化合物の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を適宜に使用することができる。
【0104】
ここに、結合剤としてデンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等を例示できる。崩壊剤としてはデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース等を例として挙げることができる。界面活性剤の例としてラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、蔗糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等を挙げることができる。滑沢剤では、タルク、ロウ類、水素添加植物油、蔗糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール等を例示できる。流動性促進剤では、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等を例として挙げることができる。また、本発明の化合物は懸濁液、エマルション剤、シロップ剤、エリキシル剤としても投与することができ、これらの各種剤形には、矯味矯臭剤、着色剤を含有させてもよい。
【0105】
非経口剤として本発明の所望の効果を発現せしめるには、患者の年齢、体重、疾患の程度により異なるが、通常、成人で本発明の化合物の重量として1日あたり1〜60mgの静注、点滴静注、皮下注射、筋肉注射が適当である。この非経口投与剤は常法に従って製造され、希釈剤として一般に注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、ゴマ油、ラッカセイ油、大豆油、トウモロコシ油、プロピレングリコール等を用いることができる。さらに必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤を加えてもよい。また、この非経口剤は安定性の点から、バイアル等に充填後冷凍し、通常の凍結乾燥処理により水分を除き、使用直前に凍結乾燥物から液剤を再調製することもできる。さらに必要に応じて、等張化剤、安定剤、防腐剤、無痛化剤を加えてもよい。これら製剤中の本発明の化合物の配合量は特に限定されるものではなく任意に設定できる。その他の非経口剤の例として、外用液剤、軟膏等の塗布剤、直腸内投与のための坐剤等が挙げられ、これらも常法に従って製造される。
【0106】
また、本発明の化合物は、医薬品への利用以外に、食品への利用が可能である。例えば、飲食品へ添加・配合することにより抗癌効果、あるいは抗発癌効果をもった食用組成物(例えば、健康食品等)として利用することも可能である。
【0107】
即ち、本発明の化合物は、これをそのまま液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、粉末状または液状の乳製品、パン、クッキー等に添加したり、必要に応じてデキストリン、乳糖、澱粉等の賦形剤や香料、色素等とともにペレット、錠剤、顆粒等に加工したり、またゼラチン等で被覆してカプセルに成形加工して健康食品や栄養補助食品等として利用できる。
【0108】
なお、ヒトと他の哺乳類のDNA合成酵素の構造は殆ど同じであるため、本発明のDNA合成酵素阻害剤は、ヒト以外の哺乳類由来のDNA合成酵素阻害剤としても利用可能である。
【0109】
さらに、本発明の化合物は、生化学的試薬、具体的にはDNA合成酵素阻害剤、又は癌7細胞特異的増殖抑制剤としての利用も可能である。即ち、本発明の化合物は、単独、若しくは生化学試薬に含有させるものとして公知の成分、例えば緩衝剤、塩等と共に、生化学的試薬として利用できる。
【0110】
また、本発明の化合物は、さらに上記の薬剤の開発過程におけるリード化合物として利用することもできる。本発明の化合物をリードとして、DNA合成酵素に対する阻害活性を調べることにより、抗癌剤の候補化合物の効率的なスクリーニングが期待できる。本発明には、このようなスクリーニング方法も含まれる。なお、本スクリーニング方法において、DNA合成酵素に対する阻害活性を調べる方法は実施例記載の方法に限定されるものではなく、公知の試験方法の中から適した方法を選択すればよい。
【実施例】
【0111】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0112】
実施例1.化合物の精製
(1)菌株の単離
佐渡島の海岸に生息する海藻を5%酢酸で処理後、滅菌水に懸濁させた。該懸濁液をPDA培地プレート(ポテトデキストロース寒天培地プレート)に滴下し、該プレートを27℃で培養した。培養後、プレートから公知の手法により菌株を単離した。単離した菌株は、菌株同定(株式会社テクノスルガ・ラボ)の結果、Penicillium pinofhilum Hedgcock(IFO番号33285T、100533T、6345、又は106907)であると同定された。
【0113】
(2)化合物の精製
単離した菌株を本菌株は2L×2のPDB培地(ポテトデキストロース液体培地)を入れた2個の3L三角フラスコで14日間、暗所で静置培養した。本菌株を培養した培養液はガーゼを用いて菌体を除去した。得られた濾液を塩化メチレン(CH2Cl2)で抽出し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗抽出物(160 mg)を得た。この粗抽出物はシリカゲルを担体とし、展開溶媒としてクロロホルム-メタノール(100:0→0:100)を用いたカラムクロマトグラフィーによって4つのフラクション(Fr.1〜Fr.4)に分画した。
【0114】
クロロホルム-メタノール(80:1→60:1)で溶出したFr.2は、シリカゲルを担体とし、展開溶媒としてトルエン-酢酸エチル(12:1〜10:1)を用いたカラムクロマトグラフィーによって、3つのフラクション(Fr.2-1〜Fr.2-3)に分画した。そして、トルエン-酢酸エチル(12:1)で溶出したFr. 2-1から、黄色の粉末として化合物1aを、トルエン酢酸エチル(10:1)で溶出したFr. 2-2から、黄色の粉末として化合物1cを得た。
【0115】
クロロホルム-メタノール(40:1→20:1)で溶出したFr.4は、シリカゲルを担体とし、展開溶媒としてトルエン-酢酸エチル(4:1〜3:1)を用いたカラムクロマトグラフィーによって、3つのフラクション(Fr.4-1〜Fr.4-3)に分画した。そして、トルエン-酢酸エチル(4:1〜3:1)で溶出したFr. 4-1から、黄色の固形状物として化合物1bを得た。
【0116】
(3)精製化合物の構造決定
化合物1a、1b、及び1cは、HR-ESIMS、IR、1H-NMR、13C-NMR、1H-1H NOESY、HMBC、HMQCによって構造決定した。図1には化合物1a及び1bの構造並びに炭素番号を示す構造式と、化合物1cの構造式を示す。図2の(A)には化合物1aのHMBC相関(図2(A)中の「1a」)、及び化合物1bのHMQC相関(図2(A)中の「1b」)を示し、(B)には化合物1aの1H-1H NOESY相関(図2(B)中の「1a」)及び化合物1bの1H-1H NOESY相関(図2(B)中の「1b」)を示した。図3にはCDCl3中で測定した化合物1a及びMeOD中で測定した化合物1bの1H-NMR、13C-NMRデータを示した。
【0117】
化合物1aの諸性質及びスペクトルデータ(NMRデータは除く)は次の通りである。黄色固体状; mp 213-215°C (decomp.); [α]23D-114.5 (c 0.065, MeOH); IR (neat) νmax 3373, 2919, 2828, 1728, 1648, 1585 cm-1; HR ESIMS m/z 387.1430 (M+H+)(calcd for 387.1438)。
【0118】
化合物1bの諸性質及びスペクトルデータ(NMRデータは除く)は次の通りである。黄色固体状; mp 212-214°C (decomp.); [α]23D+92.4 (c 0.62, MeOH); IR (neat) νmax 3376, 2923, 2853, 1725, 1651, 1585 cm-1; HR ESIMS m/z 403.1390 (M+H+)(calcd for 403.1387)。
【0119】
化合物1cは、解析の結果、公知化合物であるSch 725680であることが明らかとなった。図1の「1c」に構造式を示す。
【0120】
化合物1aは、HR-ESIMSから分子式C22H22O7を持つことが示された。IRスペクトラムから、水酸基(3373 cm-1)、共役したエステル基(1728 cm-1)、及び共役したケトン基(1648 cm-1)の存在が示唆された。図3に示す1H及び13C-NMRスペクトルより、化合物1aは部分構造として、アザフィロン骨格及び2,4-ジヒドロキシ-6-メチル安息香酸を有していることが示唆された。アザフィロン骨格は、主に、HMBC実験において測定された1H-13C ロングレンジ相関によって決定された。H-3’からC-1’及びC-2’へのHMBC相関より、1H-NMRにおいて二重の二重線を示しているメチル基は、2つのメチン炭素からなる二重結合に隣接していると決定された。H-4からC-1’及びC-5へのHMBC相関、並びにH-5からC-4へのHMBC相関に基づくと、この二重結合は、さらに2つの二重結合に共役し、C-6’ケトンにまでつながる。H-5からC-7(δ18.4)へのHMBC相関から判定すると、ケトン(C-6)の隣は、酸素官能基を持つ第4級炭素原子(C-7)であった。これは、7- CH3からC-6、及びC-7、C-8へのHMBC相関に基づくと、メチル基(7-CH3)及び酸素官能基を持つメチン基(C-8)で置換されていた。H-1、H-5、及びH-8からのロングレンジ相関を示す脂肪族のメチン(C-8a)は、C-1、及びC-4a、C-8に隣接していると決定された。以上より、シクロヘキセノン環が決定された。酸素官能基を有するメチレンのプロトンシグナル(H-1α及びH-1β)からオレフィン炭素(C-3)へのHMBC相関より、ジヒドロピラン部分の存在が示唆された。以上より、6,7,8,8a-テトラヒドロ-1H-イソクロメン環骨格が決定された。H-4”からC-2”及びC-3”、C-5”、C-6”へのHMBC相関、H-6”からC-2”及びC-4”、7”-MeへのHMBC相関、並びに 7”-MeからC-2”及びC-6”、C-7”へのHMBC相関より、残りの7つの炭素を2,4-ジヒドロ-6-メチルベンゾイル基と決定した。H-8及び8-OHの相関に基づき、ベンゾイル基の位置は7-O位に決定した。化合物1aの相対的立体配置は、1H-1H結合定数及びNOESY相関より決定された。H-8とH-8aの相対配置は、結合定数(J8-8a=10.0 Hz)から、antiであると決定した。H-8aと7-O-ベンゾイル基の相対立体化学は、7”-CH3とH-8aとの間のNOE相関、 7-CH3と8-Hとの間のNOE相関、並びに7-CH3と8-OHとの間のNOE相関から、synであると決定した。化合物1aの絶対立体化学を,CD励起子キラリティー法を用いて決定した。化合物1aのCDスペクトルは325nm(Δε=-28.2),297nm(Δε=+9.2)と負のコットン効果をとることからC-7の絶対立体化学をSと決定した。以上より、化合物1aを(7S,8S,8aS)-8-hydroxy-7-methyl-6-oxo-3[(1E)-prop-1-en-1-yl]-6,7,8,8a-tetrahydro-1H-isochromen-7-yl 2,4-dihydroxy-6-methylbenzoateであると決定した。図1の「1a」に構造式を示す。
【0121】
化合物1bは、HR-ESIMSから分子式C22H22O8を持つことが示された。図3に示す1H及び13C-NMRスペクトラより、化合物1bは、化合物1a及び化合物1cと類似した構造を有しており、側鎖のC-3’においてのみ異なっていることが示唆された。HMQCスペクトラムにおいて、化合物1bにおいては、化合物1cのH-3’(δ1.84)の1Hシグナルが、C-3’(δ61.1)と相関を示すH-3’(δ4.22)に置換されていた。このことは、HR-ESIMSの結果とも一致し、C-3’アルコールの存在を示唆している。化合物1bの相対的立体配置は、1H-1H結合定数及びNOESY相関より決定した。H-8とH-8aの相対立体化学は、結合定数(J8-8a=10.0 Hz)から、antiであると決定した。7-OHとH-8の相対立体化学は、7”-CH3とH-8との間のNOE相関から、antiであると決定した。以上より、化合物1bを(7R*,8R*,8aR*)-7-hydroxy-3-[(1E)-3-hydroxyprop-1-en-1-yl]-7-methyl-6-oxo-6,7,8,8a-tetrahydro-1H-isochromen-8-yl 2,4-dihydroxy-6-methylbenzoateであると決定した。図1の「1b」に構造式を示す。
【0122】
化合物1cの絶対立体化学を,CD励起子キラリティー法を用いて決定した。化合物1cのCDスペクトルは362nm(Δε=6.7),307nm(Δε=-5.3)と正のコットン効果をとることからC-8の絶対立体化学をSと決定した。
【0123】
実施例2.化合物1cの有機合成
化合物1cを、図4に示す合成計画に従って、既知化合物である化合物1から合成した。図4に示す構造式は相対配置を示す。合成方法の詳細は下記の通りである。
【0124】
前駆体2の合成:既知のイミド(化合物1)5.0gのテトラヒドロフラン溶液をリチウムジイソプロピルアミド(LDA, 1.6当量)のTHF溶液に加え、-78℃で30分攪拌した。オルトチタン酸クロロトリイソプロピルのヘキサン溶液(1 M, 56.4 mL)を加えた後-40℃で3時間攪拌した。再び-78℃に冷却した後、既知のアルデヒド(前駆体1)4.1gのテトラヒドロフラン溶液を加え-45℃で一晩攪拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液を室温で加え有機層を分取した。水層を酢酸エチルで2回抽出した。有機層と一緒にして飽和食塩水で洗い、乾燥、減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し5.71gを得た。
【0125】
前駆体2の諸性質及びスペクトルデータは次の通りである。透明油状;[α]D22 +54.8 (c 0.085, CHCl3); 1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 7.29 - 7.39 (m, 8H), 7.18 (d, J = 8.7 Hz, 2H), 5.21 (s, 1H), 4.67 (dd, J = 8.9, 4.6 Hz, 1H), 4.39 (s, 2H), 3.98 (ddd, J = 11.9, 4.6, 0.8 Hz, 1H), 3.94 (dd, J = 11.7, 9.1 Hz, 1H), 3.92 (dd, J -= 11.9, 9.1 Hz, 1H), 3.79 (ddd, J = 11.7, 4.6, 0.8 Hz, 1H), 2.62 (d, J = 8.9 Hz, 1H, OH), 1.92 (ddddd, J = 9.1, 9.1, 4.6, 4.6, 4.6 Hz, 1H), 1.82 (s, 3H), 1.59 (s, 3H), 1.41 (s, 3H), 1.36 (s, 3H), 0.99 (s, 3H); 13H NMR (150 MHz, CDCl3) δ173.3, 151.9, 137.9, 136.2, 128.9, 128.8, 128.4, 127.7, 127.6, 97.7, 86.4, 82.4, 72.4, 69.1, 67.0, 62.9, 60.9, 37.4, 28.8, 26.7, 23.9, 21.4, 16.7; IR (ATR) νmax 3510, 2990, 1781, 1697, 1456, 1369, 831 ; HR ESIMS m/z 520.2326 (M+Na+)(calcd for 520.2305)。
【0126】
前駆体3の合成:前駆体2(5.71g)のアセトニトリル溶液(100 ml)に硝酸亜鉛六水和物(13.7g)を加え60℃で30分攪拌した。0℃に冷却した後、反応液に飽和重曹水を加え有機層を分取した。水層を酢酸エチルで2回抽出した。有機層と一緒にして飽和食塩水で洗い、乾燥、減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し2.55gを得た。
【0127】
前駆体4及び5の合成:前駆体3(309mg)のジクロロメタン溶液に、ジメトキシプロパン(610μl)とカンファースルホン酸(29mg)を順に加え一晩攪拌した。反応液に飽和重曹水を加え有機層を分取した。水層を酢酸エチルで2回抽出した。有機層と一緒にして飽和食塩水で洗い、乾燥、減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し前駆体4(266.3mg)と前駆体5(68.1mg)を得た。
【0128】
前駆体4の諸性質及びスペクトルデータは次の通りである。透明油状;[α]D23 -6.14 (c 0.12, CHCl3) ; 1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 7.30 - 7.35 (m, 5H), 4.70 (d, J = 11.7 Hz, 1H), 4.50 (d, J = 11.7 Hz, 1H), 4.30 (dd, J = 11.5, 5.5 Hz, 1H), 3.89 (dd, J = 11.5, 5.5 Hz, 1H), 3.88 (dd, J = 11.5, 11.5 Hz, 1H), 3.77 (d, J = 11.5 Hz, 1H), 3.65 (dd, J = 11.5, 11.5 Hz, 1H), 2.99 (ddddd, J = 11.5, 11.5, 11.5, 5.5, 5.5 Hz, 1H), 1.58 (s, 3H), 1.49 (s, 3H), 1.49 (s, 3H); 13H NMR (150 MHz, CDCl3) δ 169.1, 138.5, 128.2, 127.4, 127.2, 99.3, 77.1, 74.4, 67.9, 66.4, 60.8, 29.9, 29.5, 18.9, 16.1; IR (ATR) νmax 3483, 2992, 2947, 1740, 1455, 1382, 1143, 876; HR ESIMS m/z 329.1347 (M+Na+)(calcd for 329.1359)。
【0129】
前駆体5の諸性質及びスペクトルデータは次の通りである。透明油状;[α]D25 +34.9 (c 0.24, CHCl3) ; 1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 7.40 (d, J= 7.6 Hz, 1H), 7.32 (dd, J = 7.6, 7.6 Hz, 1H), 7.25 (d, J = 7.6 Hz), 4.87 (d, J = 11.0, 11.0 Hz, 1H), 4.83 (d, J = 11.7 Hz, 1H), 4.80 (d, J = 11.7 Hz, 1H), 4.36 (dd, J = 11.0, 7.0 Hz, 1H), 4.35 (d, J = 2.4 Hz, 1H), 4.10 (dd, J = 12.3, 2.4 Hz, 1H), 3.62 (dd, J = 12.3, 2.4 Hz, 1H), 2.27 (ddddd, J = 11.0, 7.0, 2.4, 2.4, 2.4 Hz, 1H), 1.56 (s, 3H), 1.40 (s, 3H), 1.39 (s, 3H); 13C NMR (150 MHz, CDCl3) 139.5, 171.7, 128.2, 127.3, 127.2, 99.6, 76.9, 74.9, 74.2, 69.5, 67.2, 60.1, 32.1, 29.2, 24.1, 18.7; IR (ATR) νmax 3503, 2991, 2941, 1746, 1455, 1382, 1142, 851; HR ESIMS m/z 329.1351 (M+Na+)(calcd for 329.1359)。
【0130】
前駆体6の合成(前駆体4から):前駆体4(343mg)のテトラヒドロフラン溶液(10ml)を0℃に冷却し、N,O-ジメチルヒドロキシアミン 塩酸塩(328mg)と臭化イソプロピルマグネシウムのテトラヒドロフラン溶液(0.75 M, 9ml)を順に加えた。0℃で30分攪拌した後、反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え有機層を分取した。水層を酢酸エチルで2回抽出した。有機層と一緒にして飽和食塩水で洗い、乾燥、減圧濃縮した。得られたアルコールを次の反応にそのまま用いた。得られたアルコールのジクロロメタン溶液に、モレキュラーシーブス4A(750mg)とクロロクロム酸ピリジニウム(362mg)を室温で順に加えた後、一晩攪拌した。反応液をフロリジル層を通してろ過し、ろ液を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、前駆体6(266mg)を得た。
【0131】
前駆体6の諸性質及びスペクトルデータは次の通りである。透明油状;[α]D24 +22.2 (c 2.9, CHCl3) ; 1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 9.7 (d, J = 3.4 Hz, 1H), 7.22 - 7.35 (m, 5H), 5.02 (d, J = 9.5 Hz, 1H), 4.69 (d, J= 11.1 Hz, 1H), 4.31 (d, J = 11.1 Hz, 1H), 4.08 (dd, J = 11.7, 9.5 Hz, 1H), 3.88 (dd, J = 11.7, 5.4 Hz, 1H), 3.55 (s, 3H), 3.25 (s, 3H), 2.99 (dddd, J= 9.5, 9.5, 5.4, 3.4 Hz, 1H), 1.66 (s, 3H), 1.44 (s, 3H), 1.36 (s, 3H); 13H NMR (150 MHz, CDCl3) δ 200.1, 171.3, 137.4, 128.4, 127.5, 127.2, 99.2, 83.4, 71.9, 66.4, 60.8, 58.9, 49.5, 34.9, 29.3, 19.9, 16.6; IR (ATR) νmax 2993, 2940, 2877, 2738, 1719, 1657, 1455, 1381, 1103, 858; HR ESIMS m/z 388.1715 (M+Na+)(calcd for 329.1730)。
【0132】
前駆体7の合成:前駆体5(614mg)のテトラヒドロフラン溶液(20ml)を0℃に冷却し、N,O-ジメチルヒドロキシアミン 塩酸塩(590mg)と臭化イソプロピルマグネシウムのテトラヒドロフラン溶液(0.75 M, 16ml)を順に加えた。0℃で30分攪拌した後、反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え有機層を分取した。水層を酢酸エチルで2回抽出した。有機層と一緒にして飽和食塩水で洗い、乾燥、減圧濃縮した。得られたアルコールを次の反応にそのまま用いた。得られたアルコールのジクロロメタン溶液(40ml)に、モレキュラーシーブス4A(1.5g)とクロロクロム酸ピリジニウム(862mg)を室温で順に加えた後、2時間攪拌した。反応液をフロリジル層を通してろ過し、ろ液を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、前駆体7(498mg)を得た。
【0133】
前駆体7の諸性質及びスペクトルデータは次の通りである。透明油状;[α]D24 -75.4 (c 0.85, CHCl3); 1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 10.9 (d, J = 4.9 Hz, 1H), 7.25 - 7.36 (m, 5H), 4.88 (d, J = 11.0 Hz, 1H), 4.68 (d, J= 2.6 Hz, 1H), 4.61 (d, J = 11.0 Hz, 1H), 4.20 (dd, J = 12.1, 2.6 Hz, 1H), 4.04 (dd, J = 12.1, 2.6 Hz, 1H), 3.50 (s, 3H), 3.20 (s, 3H), 2.54 (dddd, J= 4.9, 2.6, 2.6, 2.6 Hz, 1H), 1.70 (s, 3H), 1.53 (s, 3H), 1.50 (s, 3H); 13H NMR (150 MHz, CDCl3) δ 204.1, 172.2, 137.9, 128.4, 127.6, 127.5, 100.37, 82.5, 77.1, 67.3, 62.4, 61.1, 48.3, 34.9, 29.2, 19.0, 17.4; IR (ATR) νmax 2991, 2940, 2873, 1713, 1650, 1454, 1381, 1195, 1097, 987, 865; HR ESIMS m/z 388.1741 (M+Na+)(calcd for 329.1730)。
【0134】
前駆体6の合成(前駆体7から):前駆体7(10.3mg)のテトラヒドロフラン溶液(500μl)に1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(50μl)を室温で加え2時間攪拌した。反応液を濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、前駆体6(9.8mg)を得た。
【0135】
前駆体8の合成:前駆体6 (81.1mg)のテトラヒドロフラン溶液を-78℃に冷却した後、(3E)-1,1-ジブロモ-1,3-ペンタジエンから調製した既知のアルキニルリチウムのテトラヒドロフラン溶液(約0.2M, 1.65ml)を-78℃で加え、5分間攪拌した。0℃に昇温し15分間攪拌した後、再び-78℃に冷却した。メチルリチウム(1.07M, 1.0ml)を加えた後、再び0℃に昇温し、2時間攪拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え有機層を分取した。水層を酢酸エチルで2回抽出した。有機層と一緒にして飽和食塩水で洗い、乾燥、減圧濃縮した。得られたアルコールは次の反応にそのまま用いた。得られたアルコールのジクロロメタン溶液にモレキュラーシーブス4A(380mg)とクロロクロム酸ピリジニウム(190mg)を室温で順に加え、一晩攪拌した。反応液をフロリジル層を通してろ過し、ろ液を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、前駆体8(77mg)を得た。
【0136】
前駆体8の諸性質及びスペクトルデータは次の通りである。透明油状;1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.23-7.35 (m, 5H), 6.41 (dq, J = 15.9, 6.8 Hz, 1H), 5.60 (dq, J = 15.9, 1.7 Hz, 1H), 4.65 (d, J = 9.9 Hz, 1H), 4.52 (d, J = 11.5 Hz, 1H), 4.14 (dd, J = 11.6, 9.9 Hz, 1H), 4.11 (d, J = 11.5 Hz, 1H), 3.94 (dd, J = 11.6, 5.2 Hz, 1H), 3.20 (ddd, J = 9.9, 9.9, 5.2 Hz, 1H), 2.17 (s, 3H), 1.87 (dd, J = 6.8, 1.7 Hz, 3H), 1.49 (s, 3H), 1.47 (s, 3H), 1.34 (s, 3H); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 208.8, 185.0, 147.9, 137.5, 128.2, 127.4, 127.1, 108.7, 98.8, 91.8, 87.2, 84.8, 73.3, 66.1, 61.1, 50.8, 28.7, 24.1, 19.3, 19.2, 13.2; IR (ATR) νmax 3419, 2992, 2924, 1719, 1383, 1092; HR ESIMS m/z 407.1817 (M+Na+)(calcd for 407.1828)。
【0137】
前駆体9及び10の合成:前駆体8(209mg)のテトラヒドロフラン溶液を0℃に冷却した後、フッ化テトラブチルアンモニウムのテトラヒドロフラン溶液(1M, 160μl)を加え、0℃で50分間攪拌した。さらに、フッ化テトラブチルアンモニウムのテトラヒドロフラン溶液(1M, 380μl)を加え、さらに一時間攪拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え有機層を分取した。水層を酢酸エチルで2回抽出した。有機層と一緒にして飽和食塩水で洗い、乾燥、減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し前駆体9(144mg)と前駆体10(22.2mg)を得た。
【0138】
前駆体9の諸性質及びスペクトルデータは次の通りである。主に占めるE体のデータ。透明油状;1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ7.33-7.35 (m, 4H), 7.26-7.30 (m, 1H), 6.15 (dq, J = 15.9, 6.8 Hz, 1H), 5.46 (dq, J = 15.9, 1.9 Hz, 1H), 4.75 (d, J= 11.7 Hz, 1H), 4.30 (d, J = 11.7 Hz, 1H), 4.19 (dd, J = 11.1, 4.9 Hz, 1H), 4.10 (dd, J = 11.1, 11.1 Hz, 1H), 3.92 (d, J = 11.1 Hz, 1H), 3.34 (d, J = 13.6 Hz, 1H), 2.78 (ddd, J = 11.1, 11.1, 5.3 Hz, 1H), 2.56 (d, J = 13.6 Hz, 1H), 1.92 (s, 1H, OH), 1.79 (dd, J = 6.8, 1.9 Hz, 3H), 1.48 (s, 3H), 1.45 (s, 3H), 1.42 (s, 3H); 13C NMR (150 MHz, CDCl3) δ 204.3, 141.5, 138.7, 128.3, 127.4, 127.1, 109.4, 99.1, 86.4, 84.6, 82.2, 73.9, 68.3, 66.6, 60.3, 52.2, 41.0, 29.5, 19.1, 18.6, 13.3; IR (ATR) νmax 3419, 2924, 2854, 1723, 1675, 1455, 1382, 1198, 1089, 876; HR ESIMS m/z 407.1846 (M+Na+)(calcd for 407.1828)。
【0139】
前駆体10の諸性質及びスペクトルデータは次の通りである。主に占めるE体のデータ。透明油状;1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ7.22-7.38 (m, 5H), 6.32 (dq, J = 15.5, 6.8 Hz, 1H), 6.10 (d, J = 2.6 Hz, 1H), 5.69 (dq, J = 15.5, 1.9 Hz, 1H), 4.63 (d, J = 11.7 Hz, 1H), 4.34 (d, J = 11.7 Hz, 1H), 4.24 (dd, J = 11.7, 5.3 Hz, 1H), 3.80 (d, J = 9.1 Hz, 1H), 3.79 (dd, J = 11.7, 11.7 Hz, 1H), 3.24 (dddd, J = 11.7, 9.1, 5.3, 2.6 Hz, 1H), 1.87 (dd, J = 6.8, 1.9 Hz, 3H), 1.49 (s, 3H), 1.46 (s, 3H), 1.44 (s, 3H); 13C NMR (150 MHz, CDCl3) δ 194.8, 144.0, 140.1, 138.8, 130.5, 128.2, 127.2, 127.2, 110.1, 102.1, 99.4, 83.8, 78.3, 77.3, 66.1, 62.2, 36.2, 29.6, 19.0, 18.8, 13.3; IR (ATR) νmax 3421, 2992, 2924, 2854, 1724, 1381, 1197, 1091, 754; HR ESIMS m/z 389.1712 (M+Na+)(calcd for 389.1723)。
【0140】
前駆体10の合成(前駆体9から):前駆体9 (60mg)のトルエン溶液にカルバミン酸メチル-N-(トリエチルアンモニウムスルホニル(37mg)を室温で加えた後、100℃で1時間攪拌した。室温に冷却した後、反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え有機層を分取した。水層を酢酸エチルで2回抽出した。有機層と一緒にして飽和食塩水で洗い、乾燥、減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し前駆体10 (55mg)を得た
前駆体11の合成:前駆体10 (53mg)のメタノール溶液にカンファースルホン酸(3.0mg)を加え一晩室温で攪拌した。反応液に飽和重曹水を加え有機層を分取した。水層を酢酸エチルで2回抽出した。有機層と一緒にして飽和食塩水で洗い、乾燥、減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し前駆体11 (36.1mg)を得た。
【0141】
前駆体11の諸性質及びスペクトルデータは次の通りである。1H NMR (600 MHz, CDCl3) Z体: δ7.20-7.34 (m, 5H), 6.31 (d, J = 3.0 Hz, 1H), 6.23 (dq, J = 11.0, 6.8 Hz, 1H), 5.73 (dq, J = 11.0, 1.9 Hz, 1H), 4.49 (d, J = 11.3 Hz, 1H), 4.28 (d, J = 11.3 Hz, 1H), 4.20-4.25 (m, 2H), 3.92 (dd, J = 10.6, 8.9 Hz, 1H), 2.87 (dddd, J = 8.9, 4.4, 3.0, 3.0 Hz, 1H), 2.49 (d, J = 10.6 Hz, 1H), 2.08-2.13 (br s, 1H, OH), 1.95 (dd, J= 6.8, 1.9 Hz, 3H), 1.55 (s, 3H); E体; δ7.20-7.34 (m, 5H), 6.37 (dq, J = 15.9, 6.8 Hz, 1H), 6.27 (d, J = 3.0 Hz, 1H), 5.73 (dq, J = 15.9, 1.9 Hz, 1H), 4.48 (d, J = 11.3 Hz, 1H), 4.27 (d, J = 11.3 Hz, 1H), 4.14-4.24 (m, 1H), 3.89 (dd, J = 10.6, 8.9 Hz, 1H), 2.84 (dddd, J = 8.9, 4.4, 3.0, 3.0 Hz, 1H), 2.48 (d, J = 10.6 Hz, 1H), 2.08-2.13 (m, 1H), 1.88 (dd, J = 6.8, 1.9 Hz, 3H), 1.55 (s, 3H); 13C NMR (150 MHz, CDCl3) Z体: δ 195.1, 142.7, 138.3, 138.0, 131.7, 128.4, 127.7, 127.6, 109.4, 101.7, 91.1, 79.2, 75.4, 66.1, 61.6, 45.4, 16.5, 14.7; E体; δ 193.9, 144.2, 138.3, 138.2, 131.5, 128.4, 127.7, 127.6, 110.1, 101.5, 85.0, 79.2, 75.4, 66.1, 61.6, 45.5, 19.0, 14.7; IR (ATR) νmax 2924, 2953, 1464, 1121; HR ESIMS m/z 349.1420 (M+Na+)(calcd for 349.1410)。
【0142】
前駆体12の合成:前駆体11のジクロロメタン溶液に、トリフルオロメタンスルホン酸銀(12.3mg)を室温で加えた後、8時間暗所で加熱還流した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え有機層を分取した。水層を酢酸エチルで2回抽出した。有機層と一緒にして飽和食塩水で洗い、乾燥、減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し前駆体12(25.1mg)を得た。
【0143】
前駆体12の諸性質及びスペクトルデータは次の通りである。透明油状;[α]D21 -81 (c 0.09, CHCl3); 1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 7.20-7.32 (m, 5H), 6.45 (dq, J = 15.5, 7.0 Hz, 1H), 5.90 (dq, J = 15.5, 1.5 Hz, 1H), 5.73 (d, J= 1.9 Hz, 1H), 5.53 (s, 1H), 4.78 (dd, J= 11.0, 5.3 Hz, 1H), 4.50 (d, J = 11.0 Hz, 1H), 4.35 (d, J = 11.0 Hz, 1H), 3.76 (dd, J = 14.0, 11.0 Hz, 1H), 3.47 (dd, J = 11.7, 9.8 Hz, 1H), 3.13 (dddd, J = 14.0, 9.8, 5.3,1.9 Hz,1H), 2.37 (d, J = 11.7 Hz, 1H, OH), 1.87 (dd, J = 7.0, 1.5 Hz, 1H), 1.55 (s, 1H); 13C NMR (150 MHz, CDCl3) δ 194.4, 160.7, 151.8, 138.4, 133.7, 128.3, 127.6, 127.0, 125.5, 116.2, 102.8, 79.1, 76.1, 68.9, 65.9, 36.9, 183, 15.1; IR (ATR) νmax 3390, 2924, 2854, 1726, 1644, 1584, 1455, 1386, 1276, 1120; HR ESIMS m/z 349.1401 (M+Na+)(calcd for 349.1410)。
【0144】
前駆体13の合成:前駆体12(20mg)のジクロロメタン溶液を0℃に冷却した後、三塩化ホウ素のヘキサン溶液(1 M, 180 μl)を0℃加え、2時間攪拌した。反応液に飽和重曹水を加え有機層を分取した。水層を酢酸エチルで2回抽出した。有機層と一緒にして飽和食塩水で洗い、乾燥、減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し前駆体13(9.8mg)を得た。
【0145】
前駆体13の諸性質及びスペクトルデータは次の通りである。アモルファス状の固体;[α]D21 -75 (c 0.02, CHCl3); 1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 6.46 (dq, J= 15.5, 7.0 Hz, 1H), 6.90 (dq, 15.5, 1.5 Hz, 1H), 5.70 (d, J = 1.9 Hz, 1H), 5.52 (s, 1H), 4.78 (dd, J = 10.2, 5.5 Hz, 1H), 3.76 (dd, J = 13.4, 10.2 Hz, 1H), 3.30 (dd, J = 11.7, 9.1 Hz, 1H), 2.89 (dddd, J = 13.4, 9.1, 5.5, 1.9 Hz, 1H), 2.30 (d, J = 11.7 Hz, 1H, OH), 1.87 (dddd, J = 7.0, 1.5 Hz, 3H), 1.55 (s, 3H); 13C NMR (150 MHz, CDCl3) δ 196.3, 160.9, 152.1, 134.0, 125.5, 115.6, 102.9, 74.4, 74.3, 66.6, 36.7, 20.6, 16.4; IR (ATR) νmax 3415, 2929, 1584, 1276; HR ESIMS m/z 259.0929 (M+Na+)(calcd for 259.0940)。
【0146】
前駆体14の合成:前駆体13(5.4 mg)、ジイソプロピルエチルアミン(12 μl)、N,N-ジメチルアミノピリジン(2.4 mg)のジクロロメタン溶液を0℃に冷却した後、既知の4-ベンジルオキシ-2-メトキシ-6-メチル安息香酸(68mg)から既知の方法で調製した酸クロリド(約0.25 M、140 μl)を0℃で加え、室温で一時間攪拌した。さらに酸クロリド(約0.25 M、140 μl)を加え2時間攪拌した後、反応液に1 N塩酸を加え有機層を分取した。水層を酢酸エチルで2回抽出した。有機層と一緒にして飽和食塩水で洗い、乾燥、減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し前駆体14(6.0 mg)を得た。
【0147】
化合物1c(Sch 725680)の合成:前駆体14(4.0 mg)のジクロロメタン溶液を0℃に冷却した後、三塩化ホウ素のヘキサン溶液(1M, 10 μl)を0℃加え、 30分攪拌した。反応液に1N塩酸を加え有機層を分取した。水層を酢酸エチルで2回抽出した。有機層と一緒にして飽和食塩水で洗い、乾燥、減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し化合物1c(2.0 mg)を得た。
【0148】
化合物1c(合成品)の諸性質及びスペクトルデータは次の通りである。黄色固体;[α]D22+103 (c 0.1, MeOH); 1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 6.46 (dq, J = 15.5, 7.0 Hz, 1H), 6.26 (d, J= 2.5 Hz, 1H), 6.20 (d, J = 2.5 Hz, 1H), 6.01 (dd, J = 15.5, 1.7 Hz, 1H), 5.76 (d, J = 1.9 Hz, 1H), 5.72 (s, 1H), 5.29 (d, J = 9.8 Hz, 1H), 4.46 (dd, J = 11.0, 4.9 Hz, 1H), 3.84 (dd, J = 13.6, 11.0 Hz, 1H), 3.42 (dddd, J = 13.6, 9.8, 4.9, 1.9 Hz, 1H), 2.58 (s, 3H), 1.85 (dd, J = 7.0, 1.7 Hz, 3H), 1.31 (s, 3H); 13C NMR (150 MHz, CDCl3) δ 197.3, 172.0, 166.1, 164.3, 162.1, 153.6, 145.0, 134.9, 126.6, 116.8, 112.8, 105.5, 103.8, 101.9, 76.6, 75.0, 69.3, 36.3, 24.7, 19.7, 18.4; UV λmax-MeOH nm (log ε): 345 (0.19); CD (c 1.0 ×10-4 M, MeOH) Δε (nm): +8.7(378), -3.2 (308); IR (ATR) νmax 3370, 2926, 2855, 1720, 1649, 1579, 1445, 1255; HR ESIMS m/z 409.1251 (M+Na+)(calcd for 409.1257)。
【0149】
試験例1.DNA合成酵素に対する阻害活性の評価(in vitro)
DNA合成酵素は鋳型となるDNAが存在している場合のみ、4種の前駆体すなわち4種のデオキシヌクレオシド3リン酸〔デオキシアデノシン3リン酸(以下dATPと略)、デオキシグアノシン3リン酸(以下dGTPと略)、デオキシシチジン3リン酸(以下dCTPと略)、デオキシチミジン3リン酸(以下dTTPと略)〕を基質としてDNAを合成する。このことを利用してDNA合成酵素活性は合成DNA(poly(dA)/oligo(dT)18)を鋳型プライマーとし、基質中のdTTPを3Hラベルしておくとポリメラーゼの重合反応により3H-dTTPがDNA鎖のチミン残基として取り込まれる。このDNA鎖をDEAE-セルロース(ジエチルアミノエチル−セルロース)濾紙に吸着させる。この吸着されたDNA鎖の放射比活性がDNA合成酵素活性となる。このとき、阻害の有無は試験物質によりDNA合成酵素の重合反応が阻害された時、DNA鎖への基質の取り込みが少なくなったり全くなくなるため、放射能活性が低下することから判断される。
【0150】
このことを利用して、実施例1で得た化合物1a、1b、及び1cの各種DNA合成酵素群に対する活性を以下の方法で測定した。
【0151】
(1)材料の調製
試験化合物として、化合物1a、1b、又は1cを使用した。NMR解析の結果より、化合物1a、1b、及び1cの精製度は98%以上であった。
【0152】
DNA合成酵素として、哺乳類のDNA合成酵素{A-Family(Human polγ)、B-Family(Calf polα,Human polδ,Human polε)、X-Family(Rat polβ,Human polλ,Calf TdT)、Y-Family(Human polη,Mouse polι,Human polκ)}、植物のDNA合成酵素{Cauliflower polα}、及び原核生物のDNA合成酵素{E.coli pol I,Taq pol,T4 pol}を使用した。他のDNA代謝酵素として、Calf primase of polα、HIV-1 reverse transcriptase、T7 RNA polymerase、T4 polynucleotide kinase、及びBovine deoxyribonuclease Iを使用した。
【0153】
Calf polαは、公知文献(tamai et al., Biochim.Biophys.Acta, 1988, 950, 263)に記載の方法に従って、牛胸腺から免疫アフィニティーカラムクロマトグラフィーによって精製した。Rat polβは、公知文献(Date et al., Biochemistry 1988, 27, 2983)に記載の方法に従って、組換えタンパクとしてE.coli JMpβ5から精製した。Human polγは、コーディング領域をpFastBac(Invitrogen Japan K.K., Tokyo Japan)に組み込み、ヒスチジンタグを連結したリコンビナントタンパクとして、BAC-TO-BAC HT Baculovirus Expression System(Life Technologies, MD, USA)を使用して発現させ、公知文献(Umeda et al., Eur.J.Biochem. 2000, 267, 200)に記載の方法に従って、ProBoundresin(Invitrogen Japan K.K., Tokyo Japan)を使用して精製した。Human polδ及びHuman polεは、抹消血癌細胞(Molt-4)の核画分を、polδの2番目のサブユニット又はpolεのアフィニティーカラムクロマトグラフィーによって、公知文献(Ohige et al., Protein Expr.Purif. 2004, 35, 248)に記載の方法に従って精製した。Human polηは、C末端にHis6タグを連結したリコンビナントタンパク(アミノ酸番号1〜511)としてE.coli細胞中で発現させ、公知文献(Kusumoto et al., Genes Cells 2004, 9, 1139)に記載の方法に従って精製した。Mouse polιは、C末端にHis6タグを連結したリコンビナントタンパクとして、Ni-NTAカラムクロマトグラフィーによって、公知文献(McDonald et al., J. Exp. Med. 2003, 198, 635)に記載の方法に従って精製した。Human polκは、C末端にHis6タグを連結したリコンビナントタンパク(アミノ酸番号1〜560)として、E.coli細胞中で発現させ、公知文献(Ohashi et al., Genes Cells 2004, 9, 523)に記載の方法に従って精製した。Human polλは、ヒスチジンタグを連結したリコンビナントタンパクとして、公知文献(Shimazaki et al., Genes Cells 2000, 7, 639)に記載の方法に従って過剰発現させ、精製した。Cauliflower polαは、公知文献(Sakaguchi et al., 1980, 5, 323)に記載の方法に従って精製した。Calf primase of polα及びBovine deoxyribonuclease Iは、Stratagene Cloning Systems(La Jolla, CA, USA)から得た。E.coli pol I及びHIV-1 reverse transcriptaseは、Worthington Biochemical Corp.(Freehold, NJ, USA)から購入した。Taq pol、T4 pol、T7 RNA polymerase、及びT4 polynucleotide kinaseは、タカラバイオから購入した。
【0154】
(2)酵素阻害活性の測定
(2‐1)DNA合成酵素阻害活性の測定
反応液の調製
Calf polα、Rat polβ、Human polη、Mouse polι、Human polκ、Cauliflower polα、E.coli pol I、Taq pol、及びT4 polについては、公知文献(Mizushina et al., Biochim.Biophys.Acta 1996, 1308, 256、及びMizushina et al., Biochim. Biophys. Acta 1997, 1336, 509)の記載に従って、反応液を調製した。Human polγ、Human polδ、Human polε、及びHuman polλについては、公知文献(Umeda et al., Eur.J.Biochem. 2000, 267, 200、及びOgawa et al. Jpn.J.Cancer Res. 1998, 89, 1154)の記載に従って、反応液を調製した。HIV-1 reverse transcriptase についても公知文献の記載に従って反応液を調製した。Calf polα用反応液を一例として下記に示す。
<Calf polα用反応液>
トリス塩酸緩衝液(pH7.5):50mM
ジチオスレイトール(DTT):1mM
塩化マグネシウム:5mM
グリセリン:15%(v/v)
poly(dA)/:10μg/ml
oligo18(dT):5μg/ml
トリチウムでラベルしたデオキシチミジン3リン酸(3H-dTTP)を含むdTTP:10μM(100cpm/pmol)
阻害活性の測定
16μlの酵素含有溶液(酵素量:0.05 unit)と、試験化合物(化合物1a、1b、又は1c)をDMSOに溶解した液4μl(試験化合物の最終濃度が0〜200μM)を混合したもの8μlを、上記「反応液の調製」に記載の反応液16μlに加えた。該混合液を37℃で60分間(Taq polについては74℃で60分間)でインキュベートした。インキュベート後各試験液18μlをDEAE-セルロースろ紙に吸着させ、このろ紙を5%(w/v)Na2HPO4、水、エタノールで洗浄した。この洗浄条件では10ヌクレオチド以上のポリマーはろ紙に吸着される。次いで、風乾してトルエンシンチレータを入れたバイアルに沈め、液体シンチレーションカウンタで放射線量を測定した。その測定結果により酵素反応の阻害率を以下の式で求めた。
【0155】
阻害率(%)=(1−試験溶液の比活性(cpm)/対照溶液の比活性(cpm))×100
試験化合物の各種濃度における阻害率を基に、50%阻害濃度(IC50)(μM)を求めた。
【0156】
(2‐2)その他のDNA代謝酵素阻害活性の測定
その他のDNA代謝酵素(Calf primase of polα、T7 RNA polymerase、T4 polynucleotide kinase、及びBovine deoxyribonuclease I)の活性の測定は、公知文献(Tamiya et al., Biochem.Mol.Biol.Int. 1997, 41, 1179、Nakayama et al., J.Biochem.(Tokyo)1985, 97, 1385、Mizushina et al., Biochimie 2007, 89, 581、Soltis et al., J.Biol.Chem.1982, 257, 11332、及びLu et al., J.Biol.Chem. 1991, 266, 21060)に記載の方法により行い、試験化合物(化合物1a、1b、又は1c)のこれらの酵素に対する阻害率を測定し、50%阻害濃度(IC50)(μM)を求めた。
【0157】
(2‐3)結果
結果を図5に示す。図5より、化合物1a、1b、又は1cの、哺乳類のDNA合成酵素{A-Family pol(Human polγ)、B-Family pol(Calf polα,Human polδ,Human polε)、及びY-Family pol(Human polη,Mouse polι,Human polκ)}に対する50%阻害濃度は、約45〜100μMであった。化合物1a、1b、及び1cの阻害活性の強さは、阻害活性が強い順に、化合物1a>化合物1c>化合物1bであった。一方、化合物1a、1b、及び1cは、哺乳類のDNA合成酵素{X-Family(Rat polβ,Human polλ,Calf TdT)}、植物のDNA合成酵素{Cauliflower polα}、原核生物のDNA合成酵素{E.coli pol I,Taq pol,T4 pol}、及び他のDNA代謝酵素{Calf primase of polα,HIV-1 reverse transcriptase,T7 RNA polymerase,T4 polynucleotide kinase,Bovine deoxyribonuclease I}に対しては阻害活性を示さなかった。
【0158】
試験例2.DNA合成酵素の阻害様式の判定
Calf polαおよびHuman polκに対する化合物1aの阻害様式は、化合物1aを0〜30μM添加することによるpol活性の変化を両逆数プロットで解析した。2つの基質のうち、鋳型DNA(DNA template-primer)の阻害様式は、鋳型DNA濃度を0〜40μMに振ってのpol阻害活性を測定することで算出した。また、ヌクレオチド(dNTP substrate)の阻害様式は、ヌクレオチド濃度を0〜10μMに振ってのpol阻害活性を測定することで検討した。得られたデータをDixonプロット法で解析することにより阻害定数(Ki)を算出した。
【0159】
結果を図6に示す。化合物1aは、polα、polκともに鋳型DNAに対して非拮抗阻害、ヌクレオチドに対して拮抗阻害であった。またヌクレオチドにおけるKi値は、鋳型DNAにおけるKi値よりも小さかったことから、化合物1aは鋳型DNAよりもヌクレオチドの方に親和性があると考えられる。
【0160】
試験例3.ヒト癌細胞及びヒト正常細胞の増殖への影響の評価(in vitro)
化合物1a、1b、又は1cの癌細胞増殖阻害活性を次の方法を用いて評価した。
本実験においては、ヒト癌細胞として、A549(肺癌細胞)、BALL-1(白血病性B細胞)、HCT116(大腸癌細胞)、Hela(子宮頸癌細胞)、及びNUGC-3(胃癌細胞)を用い、ヒト正常細胞として、HDF(皮膚繊維芽細胞)、及びHUVEC(臍帯静脈内皮細胞)を用いた。これらのヒト細胞は、ATCC(American Type Culture Collection)から入手した。ヒト癌細胞は、牛胎児血清(最終濃度10%)、ペニシリン(最終濃度100 units/mL)、及びストレプトマイシン(最終濃度100 mg/mL)を添加したMcCoy’s 5A培地中で培養した。ヒト正常細胞は、グルコース(最終濃度4.5 g/L)、牛胎児血清(最終濃度10%)、L-グルタミン(最終濃度5 mM)、ペニシリン(最終濃度50 units/mL)、及びストレプトマイシン(最終濃度50 mg/mL)を添加したEagle’s Minimum Essential Medium(MEM)培地中で培養した。培養は、37℃、5%二酸化炭素/95%大気の湿環境で行った。
本試験の培養は、96ウェルマイクロプレートで実施した。各ウェルに1.0×104個の細胞を、試験化合物(化合物1a、1b、又は1c)と共に播種した。試験化合物は、培地中の最終濃度が、0〜200μMとなるように添加した。なお、試験化合物は、培地への添加前に各種濃度でDMSOに溶解しておき、培地中のDMSO濃度が1%になるように添加した。またポジティブコントロールとして、培地に1%のDMSO(試験物質が存在しない)を含むものを用いた。試験化合物の添加後、5% CO2インキュベーター内、37℃で24時間培養した。そして、各試験区の細胞生存率をWST-1法で判定した。すなわち、上記24時間後テトラゾリウム塩WST-1を添加し、さらに4時間培養した。生細胞による還元を経て生産するホルマザン量が生細胞数に比例するとみなし、450 nmの光学密度(O.D.)で定量した。細胞生存率は次の式により算出した。
【0161】
細胞生存率(%)=(試験区のO.D.[450 nm]−培地のみのウェルのO.D.[450 nm])/(対照区のO.D.[450 nm]−培地のみのウェルのO.D.[450 nm])。
【0162】
試験化合物の各種濃度における細胞生存率を基に、50%増殖阻害濃度(LD50)(μM)を求めた。結果を図7に示す。
【0163】
図7より、化合物1a、1b、又は1cのヒト癌細胞に対する50%増殖阻害濃度は、約50〜100μMであった。化合物1a、1b、又は1cの阻害活性の強さは、阻害活性の強さの順に、化合物1a>化合物1c>化合物1bであった。一方、化合物1a、1b、及び1cは、ヒト正常細胞に対しては増殖阻害活性を示さなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

[式中、RとRは異なって、水素、又は一般式(2):
【化2】

(式中、R及びRは同一又は異なって水素、低級アルキル基、又はアルカノイル基を示す。)
で表される基を示し、Rは水酸基を有していてもよいアルケニル基を示す。]
で表される化合物を有効成分として含有するDNA合成酵素阻害剤。
【請求項2】
が水酸基を有していてもよいC3〜5のアルケニル基であり、R及びRが水素である請求項1に記載のDNA合成酵素阻害剤。
【請求項3】
請求項1に記載の一般式(1)で表される化合物を有効成分として含有する抗癌剤。
【請求項4】
一般式(3):
【化3】

[式中、RとRは異なって、水素、又は一般式(2):
【化4】

(式中、R及びRは同一又は異なって水素、低級アルキル基、又はアルカノイル基を示す。)
で表される基を示し、Rが一般式(2)で表される基であり且つRが水素である場合は、Rはアルケニル基を示し、Rが水素であり且つRが一般式(2)で表される基である場合は、Rは水酸基を有するアルケニル基を示す。]
で表される化合物。
【請求項5】
請求項4に記載の一般式(3)で表される化合物を有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項6】
請求項4に記載の一般式(3)で表される化合物を食品に配合してなる食品組成物。
【請求項7】
一般式(1)で表される化合物の製造方法であって、penicillium pinofhilum Hedgcockの培養物を精製する工程を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項8】
一般式(4):
【化5】

(式中、R及びRは前記に同じ。)
で表される化合物の製造方法であって、一般式(5):
【化6】

で表される化合物と、一般式(6):
【化7】

(式中、R及びR10は同一又は異なって保護基を示す。)
で表される化合物を反応させることを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−14546(P2013−14546A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148800(P2011−148800)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(507307374)学校法人神戸学院 (9)
【Fターム(参考)】