説明

DNA固定化法及びその固定化法により調製されたDNA固定化担体

【課題】DNAを基体に確実に固定化することのできるDNA固定化法及びその固定化法により調製されたDNA固定化担体を提供することを目的とする。
【解決手段】
基体にDNAを固定するにあたり、Mgイオンを含むDNA溶液中に基体を浸漬するDNA固定化工程を含み(請求項1)。上記請求項1において、Mgイオンが、MgClであり(請求項2)。上記請求項2記載のDNA固定化法において、DNA溶液として、DNA:0.05〜1μg/μL、及びMgイオン:1〜25mMを含むDNA溶液を用いる(請求項3)。上記請求項1〜3のいずれかにおいて、基体を水溶性カルボジイミド及びN−ヒドロキシスクシンイミドを含む活性化反応液に浸漬する基体活性化工程を、DNA固定化工程に先立って行うことを特徴とする(請求項4)。請求項1〜4のいずれかに記載のDNA固定化法により調製されたDNA固定化担体であることを特徴とする(請求項5)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA固定化法に関し、詳しくは、短時間で簡便な処理のみで、DNAを基体に確実に固定化することのできるDNA固定化法及びその固定化法により調製されたDNA固定化担体に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAチップ(マイクロアレイなど)やDNAビーズアレイなどのDNA固定化担体は、疾病診断、治療のほか、ゲノム解析などにも広く用いられている。
DNA固定化担体の製造は、基体に所望のDNAを固定化して行われ、従来はリガーゼなどの酵素を利用する酵素的DNA固定化法が用いられていた(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
酵素的DNA固定化法では、基体を活性化した後、まず2本鎖の短いオリゴヌクレオチドをチップ上に固定して、その後で所望のオリゴヌクレオチドを制限酵素末端を利用して、DNAリガーゼを利用して固定化させていた。
しかし、この方法では、DNAを基体に確実に固定化することが困難であったほか、多くの工程を経る必要があり、多くの試薬や機器が必要なほか、処理に相当の長時間を要するという問題点があった。
【0004】
【特許文献1】国際特許公開WO01−68368号公報
【特許文献2】国際特許公開WO01−40173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の問題に鑑みて、短時間で簡便な処理のみで、DNAを基体に確実に固定化することのできる手段を提供することを目的とする。すなわち、DNAを基体に確実に固定化することのできるDNA固定化法及びその固定化法により調製されたDNA固定化担体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、マグネシウムイオンを利用することにより、DNAを基体に直接固定化することができ、しかもごく短時間で処理を完了することができることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
本発明の請求項1記載のDNA固定化法は、基体にDNAを固定するにあたり、マグネシウムイオンを含むDNA溶液中に基体を浸漬するDNA固定化工程を含むことを特徴とする。
請求項2記載のDNA固定化法は、上記請求項1において、マグネシウムイオンが、MgClであることを特徴とする。
請求項3記載のDNA固定化法は、上記請求項2において、DNA溶液として、DNA:0.05〜1μg/μL、及びマグネシウムイオン:1〜25mMを含むDNA溶液を用いることを特徴とする。
請求項4記載のDNA固定化法は、上記請求項1〜3のいずれかにおいて、基体を水溶性カルボジイミド及びN−ヒドロキシスクシンイミドを含む活性化反応液に浸漬する基体活性化工程を、DNA固定化工程に先立って行うことを特徴とする。
本発明の請求項5記載のDNA固定化担体は、上記請求項1〜4のいずれかに記載のDNA固定化法により調製されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のDNA固定化法によれば、短時間で簡便な処理のみで、DNAを基体に確実に固定化することができる。
また、本発明のDNA固定化法により、制限酵素およびDNAリガーゼ等の酵素を用いた処理工程を省くことが可能となり、1日かかるような処理を1〜2時間程度まで短縮することが可能である。
さらに、基体にDNAを結合させるために、従来法と異なり酵素活性部位に必要な間隔を設ける必要がなく数10〜100倍程度のDNAの固定化密度量を得られ、高価な酵素を使わないので安価にDNAの固定化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のDNA固定化法は、基体にDNAを固定する方法である。ここで、基体としては、素材及び形状のいずれも特に限定されない。素材としては、ガラス、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボンなどを挙げることができる。また、形状としては、チップ状、ビーズ状などのいずれであっても良い。中でも、いわゆるDNAチップとして用いられている素材及び形状であれば、特に限定されない。
【0010】
本発明のDNA固定化法の特徴は、マグネシウムイオンを含むDNA溶液中に基体を浸漬するDNA固定化工程を含むことにある。マグネシウムイオンをDNA溶液中に溶解させておくことにより、DNAの立体構造を安定化し、基体との結合を効率よく媒介する。
DNA溶液に含ませるDNAは、基体に固定させたいDNAであれば良く、鎖長、1本鎖か2本鎖の別、直鎖状か環状を問わないが、特に鎖長については3bp以上、中でも20bp〜100kbpであることが好ましい。また、DNAの由来や調製方法も特に限定されず、動植物、微生物、ウイルスなど天然の生物由来のものであっても良いし人工的に合成したものであっても良い。更に、DNAは、予め制限酵素処理がなされたものであっても良いし、PCR増幅産物などであっても良い。
また、DNA溶液には1種類のDNAだけでなく複数種類のDNAを含ませることもでき、この場合には、DNAライブラリーなど、塩基配列の異なる複数種類のDNAを固定化させたDNA固定化担体を得ることができる。
【0011】
本発明では、3mm角のチップを用いているが、DNA溶液において、DNAの濃度は、0.05μg/μL以上とすることが好ましい。DNAの量が0.05μg/μL未満であると、DNAを十分量基体に固定させることができず、一方、基体の大きさにより結合するDNA量の上限は決まるが、その後のPCR等の実験に用いる量を鑑みて1μg/μLを上限とする。
【0012】
一方、DNA溶液に含ませるマグネシウムイオンとしては、MgCl、MgSO、(CHCOO)Mg等のマグネシウム塩などが挙げられるが、扱いやすさ、手に入れやすさ等の理由からMgClを用いることが好ましい。なお、マグネシウム塩であっても水溶性でない場合は、DNA溶液中に溶解させることが困難となり、本発明の目的が十分に達成されないことから、好ましくない。
【0013】
一方、DNA溶液におけるマグネシウムイオンの濃度は、1mM以上とすることが好ましい。一般に、PCRの場合はMg濃度(上限)は非特異的な増幅を行うので問題になるが、本発明の場合は、Mg濃度の上限が特に問題になることはない。よって、1mM以上、好ましくは10〜20mMとする。
【0014】
マグネシウムイオンを含むDNA溶液は、上記マグネシウムイオン及びDNAをdH2Oなどと混合撹拌して作成することができる。DNA溶液の量は、基体のサイズなどによって適宜調製することができる。
マグネシウムイオンを含むDNA溶液中に基体を浸漬する際の浸漬時間や浸漬温度は、適宜設定することができる。一般に、浸漬時間は30分〜48時間、好ましくは30分〜24時間とすることができ、温度は20〜70℃、好ましくは30〜60℃とすることができる。
【0015】
本発明においては、上記したDNA固定化工程に先立って、基体を水溶性カルボジイミド及びN−ヒドロキシスクシンイミドを含む活性化反応液に浸漬する基体活性化工程を、DNA固定化工程に先立って行っておくと、より効率よくDNAの固定を進めることができるので好ましい。
ここで、活性化反応液には、水溶性カルボジイミド及びN−ヒドロキシスクシンイミドの両方を含ませておく必要がある。水溶性カルボジイミドのみとした場合には、活性基が不安定で分解しやすく、一方、N−ヒドロキシスクシンイミドのみとした場合には、活性化エステル基を生成しないので、好ましくない。
活性化反応液における水溶性カルボジイミドの濃度は、1〜50mg/mL、好ましくは5〜40mg/mL、特に好ましくは10〜30mg/mLとすることができる。一方、N−ヒドロキシスクシンイミドの濃度は、0.01〜30mg/mL、好ましくは0.1〜20mg/mL、特に好ましくは0.5〜10mg/mLとすることができる。上記数値範囲を下回ると、基体活性化工程を行う意味がなく、一方、上記数値範囲を超えると、
目的の活性基が得られないので好ましくない。
活性化反応液は、水溶性カルボジイミド及びN−ヒドロキシスクシンイミドを、リン酸緩衝液等の一般的な緩衝液に溶解させることにより調製される。
【0016】
基体にDNAが固定化したかどうかの確認は、PCRを利用して行うことができる。すなわち、目的のDNAを増幅させるように設計したプライマーを用いて、DNAを固定化させた基体を直接鋳型としたPCRを行い、PCR増幅産物を電気泳動等により視覚化して確認することができる。
こうして、本発明のDNA固定化法によって、短時間でかつ簡便な処理により、所望のDNAを固定化させたDNA固定化担体を得ることができる。
【実施例】
【0017】
実施例1(本発明のDNA固定化法)
(1)ダイヤモンドチップの活性化
まず、リン酸緩衝液(0.1M リン酸二水素カリウム及び0.01M リン酸水素二カリウム)1mL中に、水溶性カルボジイミド15.5mg及びN−ヒドロキシスクシンイミド2.3mgを含む活性化反応液を調製した。
この活性化反応液中に、ダイヤモンドチップを時々撹拌しながら30分浸した。その後、チップを取り出し、蒸留水で3〜5回洗浄して、活性化ダイヤモンドチップを得た。
【0018】
(2)DNAの固定化
λDNAをEcoR I処理して得られる21kbpのDNA断片を固定化するDNA試料とした。
【0019】
こうして得られた21kbpのλDNA断片(1μg/μL)1μLと、25mMのMgCl25μL及びdHO74μLとを混合し、全量100μlにしてDNA固定化溶液を調製した。このDNA固定化溶液中に活性化ダイヤモンドチップを挿入し、室温で60分反応させた。その後、チップを取り出し、蒸留水で3〜5回洗浄した。
【0020】
(3)固定化の確認のためのPCR
まず、プライマー(センス:配列表の配列番号(1)記載の塩基配列参照)1μL、プライマー(アンチセンス:配列表の配列番号(2)記載の塩基配列参照)1μL、10xPCRバッファー(Applied Biosystem社製)5μL、dNTP溶液5μL、DNAポリメラーゼ0.25μL、dH2O37.75μLを加えて全量50μLとして、PCR反応液を調製した。なお、上記プライマーは、上記DNA試料である21kbpDNA断片内の500bp断片が増幅されるように設計されたものである。
このPCR反応液にDNA固定化チップを挿入し、PCRにて2サイクル増幅した。PCR条件は、(95℃30秒−65℃1分−72℃1分)×12サイクルとした。
【0021】
PCR終了後、DNA固定化チップを取り出し、蒸留水で3〜5回洗浄した。洗浄したチップを、70%エタノール中、4℃で保存した。
PCR反応液は、残りのサイクル分PCRを行い、アガロースゲル電気泳動で解析した。
すなわち、PCRは全体で12サイクル行っており、そのうち固定化したチップを挿入した状態で2サイクル、取り出したあとで残り10サイクル行ったという意味である。サイクル条件は上記の通りである。結果を図1のレーン2に示す。
なお、対照として上記(2)においてMgClを添加しないDNA固定化溶液にて反応を行ったほかは、同様の処理を行った。結果を図1のレーン1に示す。
【0022】
比較例1(酵素的DNA固定化法(従来法))
(1)ダイヤモンドチップの活性化
実施例1の1.と同様の条件で、活性化反応液中にダイヤモンドチップを時々攪拌しながら室温で30分間浸し、蒸留水で3〜5回洗浄して、活性化ダイヤモンドチップを得た。
【0023】
(2)オリゴヌクレオチドの固定化
5’末端に(dA)3とEcoR I部位に対応した塩基配列を含むオリゴヌクレオチド溶液を調製し、この0.5μMオリゴヌクレオチド溶液中に、上記活性化ダイヤモンドチップを室温で30〜60分浸してから(液量100μLでチップ2枚浸漬が可能である)、蒸留水で3〜5回洗浄して、オリゴヌクレオチド固定化チップを得た。
【0024】
(3)相補的オリゴヌクレオチドのハイブリダイズ
上記のオリゴヌクレオチドに相補的な0.5μMオリゴヌクレオチド溶液中に、上記のオリゴヌクレオチド固定化チップを4℃で30分間浸してから(液量100μLでチップ2枚の浸漬が可能である)、氷冷蒸留水で3〜5回洗浄して、制限酵素部位固定化チップを得た。
【0025】
(4)二本鎖DNAの固定化(酵素反応)
DNAは実施例1の2と同じλDNAをEcoR I処理して得られる21kbpのDNA断片を用いた。
ライゲーション反応緩衝液、T4DNAリガーゼ及び制限酵素処理された二本鎖DNA溶液とを混合して、以下のライゲーション固定化溶液を得た。
組成や濃度は以下のとおりである。
66mM Tris−HCl(pH7.6)、6.6mM MgCl、10mM Dithiothreitol、0.1mM ATP、300ngの二本鎖DNA、T4DNAリガーゼ 35unitsが入った計50μLの水溶液。
ライゲーション固定化溶液中に上記の制限酵素部位固定化チップを16℃で16時間浸し、蒸留水で3〜5回洗浄した。
【0026】
(5)固定化の確認のためのPCR
実施例1の3.と同様の条件でPCRを行い固定化が行われたかどうか確認した。その結果を図1のレーン3に示す。
【0027】
図1から、MgClを利用した実施例1(図1のレーン2参照)は、酵素を使用した従来法による比較例1(図1のレーン3参照)と比較して、濃いバンドの出現が確認されたことが明らかである。
また、比較例1の従来法は全工程18〜20時間を要したのに対し、実施例1の方法では、全工程60〜90分を要したに過ぎなかった。
このことから、本発明のDNA固定法では、水溶性マグネシウム塩を利用することにより、従来法に比較してDNAを基体に効率よく、しかもごく短時間に処理を済ませることができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のDNA固定化法によれば、短時間で簡便な処理のみで、DNAを基体に確実に固定化することができる。
また、医学、農水畜産分野等でDNAチップを大量に必要としている分野において、本発明により、DNAチップ製造者及び使用者に対し、迅速・安価・高品質なDNAチップの供給が可能となり、より精密な遺伝子操作や遺伝子の解明の促進に寄与することができる。
【0029】
(配列表)
SEQUENCE LISTING
<110> 株式会社日本パーカーライジング広島工場
<110> 独立行政法人科学技術振興機構
<120> DNA固定化法
<160> 2
<210> 1
<211> 25
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> gatgagttcg tgtccgtaca actgg
<210> 2
<211> 25
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> ggttatcgaa atcagccaca gcgcc
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】DNAが固定化されたことを確認するための電気泳動結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体にDNAを固定するにあたり、マグネシウムイオンを含むDNA溶液中に基体を浸漬するDNA固定化工程を含むことを特徴とするDNA固定化法。
【請求項2】
前記マグネシウムイオンが、MgClであることを特徴とする請求項1記載のDNA固定化法。
【請求項3】
DNA溶液として、DNA:0.05〜1μg/μL、及びマグネシウムイオン:1〜25mMを含むDNA溶液を用いる請求項2記載のDNA固定化法。
【請求項4】
基体を水溶性カルボジイミド及びN−ヒドロキシスクシンイミドを含む活性化反応液に浸漬する基体活性化工程を、DNA固定化工程に先立って行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のDNA固定化法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のDNA固定化法により調製されたDNA固定化担体。

【図1】
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【公開番号】特開2007−64770(P2007−64770A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−250377(P2005−250377)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(591091135)株式会社日本パーカーライジング広島工場 (8)
【Fターム(参考)】