説明

DNA担持支持金ナノ粒子、その調製のためのプロセスおよびその使用

本発明は、植物中へ効率的により多くのDNAを送達するのに有用な、鋭利な炭素質担体に包埋されたDNA担持金ナノ粒子に関する。ナノ金が包埋されたこれらの炭素マトリックスは、生体細胞内金ナノ粒子の熱処理によって調製される。DNA送達効率は、モデル植物で試験されている。これらの材料は、単位面積当たりにより多くの数のGUSフォーカスを生じさせて、輸送材料の良好な分散を示す。合成担体の追加利点は、プラスミドおよび金を少量しか必要としないことである。調製された炭素支持粒子による植物細胞損傷はごくわずかであり、それは、市販のマイクロメートル大の金粒子の植物再生および形質転換効率と比較した植物再生および形質転換効率の増大から判断することができる。これは、わずかな損傷でより優れた穿孔能力をもたらす、炭素支持体が有する鋭利な先端に原因があると考えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA担持支持金ナノ粒子、その調製のためのプロセスおよびその使用に関する。より具体的には、本発明は、遺伝子送達に有用な鋭利な先端を有する炭素に包埋されたナノ金粒子に関する。本発明はさらに、鋭利な先端を有する該炭素に包埋されたナノ金粒子の調製のためのプロセスおよびそれを用いた植物の形質転換の方法に関する。炭素支持体が不活性およびより優れた穿孔能力のような特性を有すると考えられる一方、包埋された金ナノ粒子は、DNAに対する最も良好な支持を提供する。
【背景技術】
【0002】
生物学的要素に所望の形質を提示させる遺伝子操作は多くの新たな道を開いた。ウイルスベクターは、良好な遺伝子送達媒体として同定されている。それらには、急性毒性、細胞免疫応答、挿入突然変異による発癌性、限られたカーゴ能力、感染の繰返しに対する抵抗性ならびに生産および品質管理の他の選択肢のような限界があるので、脂質、ポリマー化合物、糖質デンドリマーおよびポリペプチドに基づくシステムのような非ウイルスベクターが、より優れた代替法であることが示されている。ナノ粒子、特に、炭素ナノ構造体は、遺伝子送達用途について研究途上である。しかしながら、研究の大半は、動物システムまたは細胞株に限定されている。他方、植物システム用の非ウイルスベクターは、Sanfordらによって開発された、Nature,1987 327,70−73に報告されているような、DNAを無傷の植物細胞に送達する加速されたDNAコーティングマイクロ金発射体を利用するパーティクルガン(particle gun)を用いる新規の方法を除いて、比較的開発が遅れている。マイクロ金構造体の改良として、Wangおよび共同研究者らは、Nature Nanotech.,2007,2,295−300に発表されているような、ナノ金が担持された多重遺伝子送達用のメソ多孔質シリカを合成した。金で被覆された低密度メソ多孔質シリカは、軟らかいトウモロコシ胚を透過することが示されていたが、木質樹種の1つのような硬い胚の透過を示す明らかなデータはなかった。
【0003】
最近、"Small"2006,2,621−625というジャーナル中のLeng Nieらによる、"Three dimensional functionalized tetrapodlike ZnO nanostructures for plasmid DNA delivery"というタイトルの論文で、プラスミドを運ぶ4本脚の鋭利な頂端が細胞に侵入した場合に、4本脚の鋭利な構造体が、ウイルスベクターカプシドを模倣して、DNAをヒト細胞株に送達し、必要なトランスフェクション(transfection)を誘発することが報告された。同様に、Langmuir,2007,23,10893−10896では、Vakarelskiらにより、形質膜を透過するためにより低い力(0.1〜0.2nN)を必要とする(直径30〜40nmの)カーボンナノチューブと比較して、(直径200〜300nmの)シリコンナノ針は0.7〜2.0nNの力を必要としたことも報告されており、これもまた、遺伝子送達タイプの用途のための鋭利な物体の有用性を強調した。
【0004】
ここで、細胞内と細胞外の両方における、微生物による金属ナノ粒子の合成に関する十分な文献が入手可能であることに触れるのは価値のあることである(Narayanan,K.B.およびSakthivel,N.2010.Advances in Colloids and Interface Science.156[1−2]:1−13を参照されたい)。しかしながら、軟らかい組織だけでなく、硬い組織へのDNA導入も容易にすることができる、鋭利な先端の支持体に担持されたナノ粒子による遺伝子送達に関する報告で、入手可能なものはない。
【0005】
このように、先行技術調査によって、鋭利な先端を有する遺伝子材料の担体の必要性が明らかにされている。さらに、担体は、遺伝子材料を運ぶ十分な能力および損傷をより少なくして硬い材料を透過する鋭利さも有するべきである。該担体の調製のプロセスは、簡単で、容易に実行でき、またさらに、先行技術と当技術分野における必要性とのギャップを埋めるものであるべきである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】"Small"2006,2,621−625 "Three dimensional functionalized tetrapodlike ZnO nanostructures for plasmid DNA delivery"
【非特許文献2】N.2010.Advances in Colloids and Interface Science.156[1−2]:1−13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
それゆえ、本発明の主な目的は、鋭利な先端の遺伝子担体組成物を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、鋭利な先端の支持体に包埋された遺伝子送達用の金ナノ粒子を提供することである。
【0009】
本発明のさらに別の目的は、材料の損傷をごくわずかにして硬い材料を透過する能力を有する遺伝子材料の担体を提供することである。
【0010】
本発明のまた別の目的は、プラスミドおよび金を少量しか必要としない遺伝子送達用の合成担体を提供することである。
【0011】
本発明のさらなる目的は、鋭利な先端を有するDNA担持支持金ナノ粒子の調製のためのプロセスおよびそれを用いた植物の形質転換の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
鋭利な先端を有する担体とナノ金の組合せは、遺伝子銃に基づく形質転換における重要なブレークスルーとなり得ると予想して、本明細書において、本発明者らは、生化学的/物理的/化学的形質転換の組合せを用いる炭素支持金ナノ粒子の調製を記載している。粒子は、ATCC 18500に対応する真菌アスペルギルス・オクラセウス(Aspergillus ochraceus)ITCC 6436によって生体内原位置(in situ)で合成される細胞内金ナノ粒子の不活性加熱によって調製される。簡潔にするため、600℃で熱処理された細胞内金ナノ粒子は、本テキストでさらにHTC−600 Auと表される。このマトリックスは、金ナノ粒子を支持し、DNAが結合して担体に最小密度を提供し、植物システムの硬い細胞壁を穿孔するために遺伝子銃で閾値速度を得るためのプラットフォームを与える。炭素マトリックスに包埋された金ナノ粒子は、DNAが結合することができるプラットフォームを提供する。炭素支持体は、金ナノ粒子を固定し、DNAコーティング手順で必要とされる工程である超音波処理の間にそれらが浸出するのを防いだ。他方、純粋な炭素材料では、金が存在しないのでDNAを結合させることができなかった。
【0013】
したがって、本発明は、DNA担持支持金ナノ粒子が、図2Aの曲線2に示すような鋭利な先端を有することを特徴とする、DNA担持支持金ナノ粒子を提供する。
【0014】
本発明はさらに、DNA担持支持金ナノ粒子の調製のためにプロセスを提供するものであり、ここで、その工程は、
[a]栄養培地中で細胞内金ナノ粒子を合成することができる微生物培養物を植菌し、培養して、バイオマスを得ることと、
[b]工程[a]で得られるバイオマスを回収し、次いで、バイオマスを無菌条件下にて滅菌蒸留水で洗浄することと、
[c]工程[b]で得られる洗浄されたバイオマスをHAuCl溶液に懸濁し、2〜3日間培養(incubating)し、次いで、バイオマスを無菌条件下にて滅菌蒸留水で洗浄することと、
[d]工程[c]で得られる洗浄されたバイオマスを不活性条件下にて管状炉中で6〜8時間熱処理して、熱処理された炭素金HTC−600 Auを得ることと、
[e]工程[d]で得られるようなHTC−600 Auをエタノールで洗浄することと、
[f]エタノール洗浄した、滅菌HTC−Au−600をXHO緩衝液(Tris.Cl、NaCベースの緩衝液)に懸濁したDNAと混合することと、
[g]工程[f]で得られるような混合物をスペルミジンおよびPEGで順次平衡化し、次いで、2.5MのCaCl中で超音波処理することと、
[h]工程[g]で得られるような超音波処理した混合物を12000rpmで遠心分離し、ペレットを無水アルコールを用いて2回洗浄し、最終的に所要の容量のエタノールに再懸濁して、DNA担持支持金ナノ粒子を得ることと
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】A:金イオンと培養(incubation)する前のバイオマス。B:金イオンと培養(incubation)した後のバイオマス。C:SEM下の真菌の極細微小菌糸。D:SEM下の焼成バイオマス。
【図2】A:XRDスペクトル。曲線1:1×10−3MのHAuClと培養(incubated)した未焼成バイオマス。曲線2:600℃で熱処理した炭素金(HTC 600−Au)。B:バイオマス(サンプル1)のラマンスペクトル。C:600℃で熱処理した炭素金(HTC 600−Au)のラマンスペクトル。
【図3】(A)600℃で熱処理した炭素金(HTC 600−Au)のSEM画像。(B、CおよびD):600℃で熱処理した炭素金(HTC 600−Au)のTEM画像。CおよびDのTEM画像によって明らかにされているような炭素マトリックスに包埋された小さい金粒子平面の存在に注目すべきである。(Dの中の挿入写真)金の111相に対応する「d」スペーシングを示す金ナノ粒子のHRTEM画像。
【図4】得られるようなGUSフォーカスの数を市販のマイクロ金の仕様と一致させるための、1mgの600℃で熱処理した炭素金(HTC 600−Au)表面の様々な濃度のプラスミドDNAの標準化。
【図5】微粒子銃で打ち込まれたレウカエナ(Leucaena)胚のSEM画像。A、B、CおよびD:100、30、10および3μm規模の胚。EおよびF:10および3μm規模のHTC 600−Auが打ち込まれた胚。GおよびH:10および3μm規模のマイクロ金粒子が打ち込まれた胚。IおよびJ:1μmおよび300nm規模の打ち込まれていない胚。
【図6】微粒子銃で打ち込まれたイネカルスのSEM画像。(AおよびB)HTC 600−Auが打ち込まれたカルス。(CおよびD)マイクロ金粒子が打ち込まれたカルス。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の目的のために、「ナノ金が担持された鋭利な先端の炭素弾」、「鋭利な炭素質シート表面に支持された金ナノ粒子」および「HTC 600−Au」という表現は、本明細書の全体を通じて互換的に用いられ、それらは、当業者によって、そのようなものとして理解されうる。
【0017】
本明細書で使用されるように、「HTC 600−Au」という用語は、本発明のプロセスによって調製される、「600℃で熱処理した炭素金」を指す。
【0018】
本発明では、鋭利な炭素質シート表面に支持された金ナノ粒子を含む合成材料が、Sanfordおよび共同研究者らにより開発された遺伝子銃を用いる遺伝子送達用の代替材料として記載されている。炭素支持体が、不活性、より優れた穿孔能力などの所要の特性を有すると考えられる一方、包埋された金ナノ粒子は、DNAに対する最も良好な支持を提供する。
【0019】
上記の合成材料の調製を目的とした第1の工程は、細胞内で金ナノ粒子を合成することができる微生物バイオマスを金イオンと培養(incubation)して、細胞内マトリックス内部での金イオンの金ナノ粒子への還元を示す真紅色の発色をバイオマスに対して生じさせることを含む。バイオマトリックスに対する金前駆体の濃度は、最大量の金ナノ粒子がバイオマトリックスに担持されるように最適化された。さらに、焼成後に得られた金の濃度は、試験されたロットの違いを越えて一貫していることが分かった。
【0020】
合成材料のHTC−600 Auが効率的なDNA送達剤として機能することができることを確かめるために、マイクロメートル大の金粒子[Bio−Rad Laboratories,Hercules,USA]について規定されている通常の日常的な手順を用いて、上記の合成HTC−600 AuにDNAをコーティングした。最後に、DNAがコーティングされたHTC−600 Auを無水エタノールに懸濁し、使用する前に、−20℃で保存した。DNAがコーティングされた上記のHTC−600 AuのアリコートをBiolistic−PDS 100/Heシステムとともに用いて、形質転換実験を実施した。
【0021】
双子葉植物樹種のギンゴウカン(Leucaena leucocephala)へのプラスミドDNA送達を標準化することにより、市販の非生物ミクロン金担体表面に担持された600ngのプラスミドDNAで得られた結果と一致させるのに、HTC 600−Au(600℃で熱処理した炭素金)表面に担持されたわずか200ngのプラスミドDNAで十分であることが分かった(図3B)。それゆえ、さらなる研究は全て、HTC 600−Au表面に担持された200ngのプラスミドDNAを用いて実施された。さらに、粒径分布(図2C;差し込み図)および使用された金の重量を用いて、この200ngのプラスミドDNAが、1個の金粒子表面に担持される約0.23個のプラスミドに相当することが明らかにされた。それに比べて、ミクロン大の金表面に担持される600ngのプラスミドは、各粒子表面に担持される約2100個のプラスミドに相当する。したがって、プラスミドDNAは、表面積がより大きいために、HTC 600−Au表面により均一に広がり、かつそれらは、所望の位置に効率的に送達されることが明白である。
【0022】
したがって、本発明は、鋭利な炭素質シート表面に支持された金ナノ粒子を含む合成材料を開示する。
【0023】
一実施形態では、本発明は、任意で金属、金属イオンまたは酸化金属ナノ粒子の支持担体組成物を提供する。
【0024】
別の実施形態では、本発明の金属ナノ粒子の支持担体組成物は、限定するものではないが、DNA送達、金属イオン除去、燃料電池、抗菌剤および触媒反応のための使用などの多くの分野で用途を見出す。
【0025】
さらに別の実施形態では、支持体は、炭素質物質、窒素性物質、硫黄物質、リン物質、細胞物質、生物などから選択される。
【0026】
別の実施形態では、微生物は、好ましくは、シュードモナス・スタッツェリ(Pseudomonas stutzeri)AG 259 ATCC 17588、シワネラ・アルゲ(Shewanella algae)、プレクトネマ・ボリアヌム(Plectonema boryanum)UTEX485、大腸菌(Escherichia coli)DH5α、ロドバクター・カプスラーツス(Rhodobacter capsulatus)、コルネバクテリウム属種(Corynebacterium sp.)SH09、バシルス属種(Bacillus sp.)、ラクトバシルス属種(Lactobacillus sp.)、バーティシリウム属種(Verticillium sp.)(AAT−TS−4)(ATCC.16312)、トリコデルマ属種(Trichothecium sp.)、V.ルテオアルブム(V.luteoalbum)、アスペルギルス・オクラセウス(Aspergillus ochraceus)およびアスペルギルス・フラブス(Aspergillus flavus)から選択される。
【0027】
さらに別の実施形態では、本発明は、好ましくは炭素質支持体表面での、DNA担持支持金ナノ粒子の調製のためのプロセスを提供するものであり、ここで、その工程は、
a)真菌胞子を、マルトース−グルコース−酵母抽出物とペプトンブロスとを含有する培地に植菌することと、
b)胞子を発芽させ、菌糸を37℃で3日間生成させて、回収されたバイオマスを得、次いで、バイオマスを滅菌条件下にて、オートクレーブしたMilliQ(登録商標)水で洗浄することと、
c)工程(b)で得られるバイオマスをHAuCl溶液に再懸濁し、次いで、37℃で2日間培養(incubation)し、次いで、MilliQ(登録商標)水で洗浄することと、
d)工程(c)で得られるバイオマスを、窒素流下にて、管状炉中600℃で6時間熱処理して、生成物のHTC 600−Auを得ることと、
e)工程(d)で得られるようなHTC−600 Auをエタノールで洗浄し、XHO緩衝液(Tris.Cl、NaCベースの緩衝液)に懸濁されたDNAと混合することと、
f)工程(e)で得られるような混合物をスペルミジンおよびPEGで順次平衡化し、次いで、2.5MのCaCl中で超音波処理することと、
g)工程(f)で得られるような超音波処理した混合物を12000rpmで遠心分離し、ペレットを無水アルコールを用いて2回洗浄し、最終的に所要の容量のエタノールに再懸濁して、炭素質支持体表面に支持されたDNA担持金ナノ粒子を得ることと
を含む。
【0028】
本発明の別の実施形態では、胞子は、好ましくは、ATCC 18500に対応するアスペルギルス・オクラセウスITCC 6436のものである。HAuCl溶液の濃度は、好ましくは10−3モルである。
【0029】
また別の実施形態では、湿重量ベースで60gの洗浄されたバイオマスを200mLの10−3MのHAuClに懸濁した。生成物を熱処理して、400mgのHTC−600 Auを得た。
【0030】
さらに別の実施形態では、本発明の担体組成物は、実施例1で例示するように、ATCC 18500に対応する真菌アスペルギルス・オクラセウスITCC 6436によって生体内原位置(in situ)で合成された細胞内金ナノ粒子の不活性加熱によって調製される。このマトリックスは、金ナノ粒子を支持し、DNAが結合して担体に最小密度を提供し、また植物システムの細胞壁を穿孔するために遺伝子銃で閾値速度を得るためのプラットフォームを与える。
【0031】
本発明のまた別の実施形態では、打ち込み1回につき1〜10mgの担体組成物と少なくとも2ngのDNAの組合せにより、様々な種での様々なレベルの形質転換が示される。
【0032】
本発明のさらに別の実施形態では、本発明の担体組成物を遺伝子改変細胞について調べるために、ナス科、イネ科およびマメ科の植物に対して研究を実施した。しかしながら、本発明のプロセスの遺伝子改変細胞は、限定するものではないが、植物種、細菌、真菌、酵母および動物細胞から選択される。
【0033】
さらなる実施形態では、それぞれ、HTC 600−Auおよびマイクロ金について、タバコから得られた3つの複製の平均の再生効率は41.73および38.93%であり、形質転換効果は14.80および12.40%であった。イネの場合、それぞれ、HTC 600−Auおよびマイクロ金について、再生効率は26.42および23.25%であり、形質転換効果は9.33および8.42%であった。レウカエナの場合、必要とされる再生時間はより長い(6〜7カ月)ので、推定トランスジェニック植物はまだ選択の過程にあり、したがって、再生および形質転換効率は算出されなかった。
【0034】
別の実施形態では、炭素マトリックスが担体の95%を形成するので、1回の形質転換で使用される金およびDNAの量は、本発明によって低下する。さらに、SEM研究で証明されたように、モデル植物のタバコ(Nicotiana tobaccum)、単子葉植物のイネ(Oryza sativa)および双子葉植物樹種のギンゴウカン(Leucaena leucocephala)における、調製された材料を用いて観察されたより高い一過性のまたは安定なGUS発現および形質転換効率は、標準的な1.0μmの非生物担体と比較して、このより小さくかつ鋭利な先端の担体によって生じたより少ない損傷が原因であった。HTC 600−Au積載量に対するGUSフォーカスの比率がより高いことによって、遺伝子銃アプローチにおける重大な懸念であるキメラ率を低下させる可能性がもたらされる。
【0035】
また別の実施形態では、金粒子はナノ規模であり、より多くの遺伝子カーゴを処理するためのより大きい金表面積を提供する。また、鋭利な先端を有するグラファイト様炭素は、硬い植物細胞壁および核膜を穿孔し、遺伝子をクロマチン糸に位置させることができる。SEM画像により、遺伝子銃を用いた形質転換の後に、創傷が極めて迅速に治癒したこと(これは、効率的な形質転換に必要とされる)が示されている。
【実施例1】
【0036】
好ましい実施形態を含む以下の実施例は、本発明の実施を例証するのに役立ち、示された詳細は、一例であり、かつ本発明の好ましい実施形態の例示的な考察を目的とするものであって、本発明の範囲を限定するものとみなされるべきではないことが理解される。
【0037】
実施例1
一般的な反応において、単離された真菌胞子を、200mLのマルトース−グルコース−酵母抽出物およびペプトンブロスを含有する500mLのエルレンマイヤーフラスコに植菌した。ATCC 18500に対応するアスペルギルス・オクラセウスITCC 6436の胞子をシェーカー(200rpm)にて37℃で3日間発芽させ、菌糸を生成させておいた。この胞子は、湿重量ベースで60gのバイオマスを生成させた。これを回収し、滅菌条件下にて、オートクレーブしたMilliQ(登録商標)水で3回洗浄した(1000rpm、15分間)。次に、バイオマスを200mLの10−3MのHAuClに再懸濁し、次いで、シェーカー(200rpm)にて37℃で2日間培養(incubation)した。生成物のバイオマスをMilliQ(登録商標)で洗浄し、窒素流下にて管状炉中で熱処理(600℃、6時間)した。これによって400mgの生成物が得られた。この生成物を微粉砕して、特徴付けた。このサンプル中の金濃度をAASを用いて分析し、約5wt%であることが分かった。このサンプルをHTC 600−Auと命名した。バイオマス中で真紅色の発色を生じさせる真菌バイオマスと金イオンとの培養(incubation)により、細胞マトリックス内部での金イオンのAuナノ粒子への還元が示された(図1AおよびB)。
【0038】
実施例2
室温で乾燥させて、粉粒化したバイオマス(図2A、曲線1);および不活性雰囲気下にて600℃で焼成したバイオマス(図2A、曲線2)のXRDシグナルを記録した。調製されたままの状態のサンプル(曲線1)のXRDパターンは、面心立方金に特徴的な、約2.36、2.04、1.45および1.23Åd値におけるいくつかのブラッグ反射を示した。これにより、これらのナノ粒子が金イオンとバイオマスとの処理のみによって形成されることが明確に示された。HTC 600−Au(曲線2)におけるピークは、加熱なしで調製されたサンプルにおけるピークよりも鋭く、加熱による結晶化度の改善を示した。
【0039】
実施例3
炭素支持HTC 600−AuのTEMサンプルは、非晶質炭素をコーティングした銅グリッドをその水分散液の滴で覆い、溶媒を風乾させておくことによって調製した。透過電子顕微鏡(TEM)画像は、300kVの加速電圧で操作されるTechnai G F−30モデルと200kVで操作されるJEM 2100装置とを用いて記録した。図3AのSEM画像は、多くのフラットシート様材料でできた鋭利な粒子を示す。この図は、そのような材料が有する可能性のある鋭利な頂端/先端を強調するために選択した。より低倍率のTEM画像(図3B)は、鋭利な先端を有する炭素マトリックスに包埋された50nmのAu粒子の存在を示した。図3Cでは、少数の50nm粒子とは別に、炭素シート全体に広がった多数の5nm粒子が観察される。図3Dの炭素をさらによく見ると、波形の先端を示しており、1つのシートが突き出して、鋭利な先端を形成しているシート配列の束を示している。単離された粒子のうちの1つのHRTEM画像(図3Dの差し込み図)は、金(111)面の格子スペーシング2.36Åと一致する2.4Åの「d」スペーシングを示している。
【0040】
実施例4
632.8nmのHeNeレーザー励起を用いて、後方散乱配置でラマンスペクトルを測定した。散乱光を電荷結合アレイ検出器とホログラフィックノッチフィルターとを備えたJobin−Yvon HR800質量分析計で分析した。レーザーによるサンプルの損傷を回避するために、低いレーザー出力(2W/cm)で実験を実施した。HTC 600−Auのラマンシグナルは図2Cにプロットされている。曲線は、不規則炭素に特有の特徴を示し、それぞれ、GおよびDピークとして示されている約1590cm−1および−1350cm−1でのピークを有する。データをデコンボリュートして、2つのガウスピークに当てはめた。1365および1590cm−1でのピークの強度から、グラファイト面内ドメインサイズ(L)値は、金ナノ粒子を含まない純粋な炭素サンプルでの0.90nmと比較して、HTC 600−Auでは1.35nmであると決定された。HTC 600−Auでの1.35nmという面内サイズは、非晶質炭素マトリックスの存在をさらに示唆した。
【0041】
実施例5
金中空陰極ランプを備えたChemitoの原子吸光分析計(AAS)201を用いて金濃度を測定した。Leica Stereoscan 440モデルにより、走査電子顕微鏡(SEM)画像を記録した。
【0042】
実施例6
タバコ(タバコ(N.tabaccum)変種アナンド(Anand)119)植物を、植物成長調節因子の非存在下、基本MurashigeおよびSkoog培地(MS培地1962)にて試験管内(in vitro)で成長させた。2カ月齢の植物由来の新鮮な葉を外植片として用いて、約5mmの小片に切断し、2%のショ糖、0.8%の6−ベンジルアミノプリン(BAP)およびα−ナフタレン酢酸(NAA)が補充された、1.4%寒天を含むMS基本培地(pH5.8)中に接種し、成長インキュベーター中、暗所下、25±2℃でカルスを誘導した。90mm直径のペトリプレートの中央に配置した後、25インチのHg真空を含む900ポンド/平方インチ(psi)仕様の破裂板を用いて、葉外植片に由来する選択された胚形成カルスにHTC−600 Auを4時間間隔で2回打ち込んだ。暗所下で2日間培養(incubation)した後、打ち込まれたカルスを、基本MS培地、B5ビタミン類、1mg/LのBAP、0.1mg/LのNAA、30g/Lのショ糖、4g/Lのphytagelを含有する分化培地に1週間移し、その後、植物選択マーカーのカナマイシン(100mg/L濃度)を含有する同じ培地に移した。3回の選択を切り抜けて生き残った推定トランスジェニック植物を解析した。
【0043】
手作業で脱穀したコメ(現地の優良インディカ品種IR64)の種籾の表面を70%エタノールで3分間、次いで、1.5%(v/v)の次亜塩素酸ナトリウムで10〜15分間滅菌し、滅菌蒸留水で5〜7回洗浄した。次に、滅菌した種籾を2.5mg/Lの2,4−Dを含有するMS培地(カルス誘導培地)上に置き、暗所にて25±2℃で3週間培養した。50個の脆い胚形成カルスを計数し、PDS−1000/Heバイオリスティック粒子送達システムを用いて1回目の打ち込みを行なう4時間前に、オスモティカ(osmotica)を含有するカルス誘導培地(36.4g/Lのマンニトールおよび36.4g/Lのソルビトールが補充されたカルス誘導培地)が入った90mm直径のペトリプレートの中央に置いた。先に実施したように、破裂板を用いて外植片に2回打ち込んだ。2回目の打ち込みの48時間後、50mg/LのハイグロマイシンBを含有するMSカルス誘導培地上にカルスを直接移し、25±2℃で15〜18日間培養した。活発に増殖するカルスを新鮮な選択培地上に15〜18日間隔で3回継代培養した。ハイグロマイシンBで3回選択した後の増殖する胚形成カルスをMS再生培地(それぞれ、3mg/Lおよび0.5mg/LでBAPおよびNAA(Sigma,USA)が補充されたMS培地)上に移した。これらのカルスを、シュートが定着するまで、明所(110〜130mM/m/s)にて16時間および暗所にて8時間、25℃で培養した。出現したシュートを、30mg/LのハイグロマイシンBを含有するMS発根培地(半分の濃度のMS基本塩類、MSビタミン類および15g/Lのショ糖)に移した。
【0044】
実施例7
多年生のマメ科の樹種であるギンゴウカン(Leucaena leucocephala)(鉛樹、ギンネム(white popinac)、ギンネム(subabul))の、鞘から取り出された種子の表面を1.5%(v/v)の次亜塩素酸ナトリウム溶液で10〜15分間滅菌し、次いで、滅菌水で4回洗浄した。
【0045】
未成熟胚を1本の鋭利な滅菌ピンセットを用いて無菌的に単離し、その生長点を上に向けて、再生培地(1/2のMS+Thia Dia Zuron)(0.5mg/L)を含有する90mm直径のペトリプレートの中央に置いた。これらの胚に先に実施したように打ち込み、暗所に2日間保持した。1週間選択なしで上記の再生培地上で胚を成長させた後、カナマイシン(100mg/L)を含有する同じ再生培地にて15日間隔で3回の選択を胚に施した。カナマイシン(200mg/L)での3回の選択を切り抜けて生き残った植物を、サイトカイニンの2ip(2−イソペンテニルアデニン)を0.5mg/Lで含む1/2のMSに移して、形質転換シュートの伸長を増強した。
【0046】
上記の全ての実験において、植物形質転換は、ポリメラーゼ連鎖反応を用いて確認した。損傷および透過効率を可視化するために、打ち込まれた組織をSEMで調べた。図4から、植物形質転換で用いられる600ngの標準的な非生物ミクロン金担体の結果と一致させるのに、わずか200ngのプラスミドで十分であることが明らかである。また、HTC 600−Auの1ユニット当たりのDNA濃度を増大させると、さらにより高いレベルのGUS発現フォーカスを得ることができることも分かった。これを最適化して、他の植物形質転換系にうまく用いることができる。
【0047】
したがって、細胞内生体ナノ粒子を単に熱処理して生成される鋭利な先端の支持Auナノ粒子は、市販のマイクロメートル大の金粒子よりも優れた植物形質転換非生物担体であることが証明されたと推論することができる。これによって、ナノ粒子がマトリックスから分離されない限り、他の方法では用途のない細胞内で合成されたナノ粒子の独特の用途が明らかにされている。
【0048】
本発明の利点
本発明が提供する合成物の利点は、以下の通りである:
・金粒子がナノ規模であるので、より大きい金表面積が得られ、したがって、より多くの遺伝子カーゴを処理することができる。
・金は高いDNA充填密度を支持することが知られているので、より良い形質転換効率と低いヌクレアーゼ分解とを提供する可能性がある。
・包埋された金も、合成物の密度を向上させるので、必要な閾値速度を獲得することができる。
・さらに、鋭利な先端を有するグラファイト様炭素は、硬い植物細胞壁および核膜を穿孔し、遺伝子を染色体部位に位置させることができる。SEM画像により、形質転換の後に、細胞壁/核膜表面の創傷が極めて迅速に治癒することが示されている。これは、効率的な形質転換に必要とされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前記DNA担持支持金ナノ粒子が図2Aの曲線2に示すような鋭利な先端を有することを特徴とする、DNA担持支持金ナノ粒子。
【請求項2】
支持体が、炭素質物質、窒素性物質、硫黄物質、リン物質、細胞物質、および生物から選択されることを特徴とする請求項1に記載のDNA担持支持金ナノ粒子。
【請求項3】
前記支持体が、好ましくは炭素質であることを特徴とする、請求項1に記載のDNA担持支持金ナノ粒子。
【請求項4】
好ましくは遺伝子送達に有用な細胞壁の穿孔に有用である、請求項1に記載のDNA担持支持金ナノ粒子。
【請求項5】
その工程が、
[a]栄養培地中で細胞内金ナノ粒子を合成することができる微生物培養物を植菌し、培養して、バイオマスを得ることと、
[b]工程[a]で得られるバイオマスを回収し、次いで、前記バイオマスを無菌条件下にて滅菌蒸留水で洗浄することと、
[c]工程[b]で得られる洗浄されたバイオマスをHAuCl溶液に懸濁し、2〜3日間培養し、次いで、前記バイオマスを無菌条件下にて滅菌蒸留水で洗浄することと、
[d]工程[c]で得られる洗浄されたバイオマスを不活性条件下にて管状炉中で6〜8時間熱処理して、熱処理された炭素金HTC−600 Auを得ることと、
[e]工程[d]で得られたHTC−600 Auをエタノールで洗浄することと、
[f]エタノール洗浄した、滅菌HTC−Au−600をXHO緩衝液(Tris.Cl、NaCベースの緩衝液)に懸濁したDNAと混合することと、
[g]工程[f]で得られるような混合物をスペルミジン(spermidine)およびPEGで順次平衡化し、次いで、2.5MのCaCl中で超音波処理することと、
[h]工程[g]で得られた超音波処理した混合物を12000rpmで遠心分離し、ペレットを無水アルコールを用いて2回洗浄し、最終的に所要の容量のエタノールに再懸濁して、DNA担持支持金ナノ粒子を得ることと
を含む、DNA担持支持金ナノ粒子の調製のためのプロセス。
【請求項6】
微生物が、好ましくは、シュードモナス・スタッツェリ(Pseudomonas stutzeri)AG 259 ATCC 17588、シワネラ・アルゲ(Shewanella algae)、プレクトネマ・ボリアヌム(Plectonema boryanum)UTEX485、大腸菌(Escherichia coli)DH5α、ロドバクター・カプスラーツス(Rhodobacter capsulatus)、コルネバクテリウム属種(Corynebacterium sp.)SH09、バシルス属種(Bacillus sp.)、ラクトバシルス属種(Lactobacillus sp.), バーティシリウム属種(Verticillium sp.)(AAT−TS−4)(ATCC.16312)、トリコデルマ属種(Trichothecium sp.)、V.ルテオアルブム(V.luteoalbum)、アスペルギルス・オクラセウス(Aspergillus ochraceus)およびアスペルギルス・フラブス(Aspergillus flavus)から選択されることを特徴とする、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記微生物が、好ましくは、ATCC 18500に対応するアスペルギルス・オクラセウス(Aspergillus ochraceus)ITCC 6436であることを特徴とする、請求項5に記載のプロセス。
【請求項8】
HAuCl溶液の濃度が、好ましくは10−3モルであることを特徴とする、請求項5に記載のプロセス。
【請求項9】
その工程が、
(i)ATCC 18500に対応するアスペルギルス・オクラセウス(Aspergillus ochraceus)ITCC 6436の真菌胞子を、マルトース−グルコース−酵母抽出物とペプトンブロスとを含有する培地に植菌することと、
(ii)前記胞子を発芽させ、菌糸を37℃で3日間生成させて、回収されたバイオマスを得、次いで、前記バイオマスを滅菌条件下にて、オートクレーブしたMilliQ(登録商標)水で洗浄することと、
(iii)工程(ii)で得られるバイオマスをHAuCl溶液に再懸濁し、次いで、37℃で2日間培養し、次いで、MilliQ(登録商標)水で洗浄することと、
(iv)工程(iii)で得られるバイオマスを、窒素流下にて、管状炉中600℃で6時間熱処理して、生成物のHTC 600−Auを得ることと、
(v)工程(iv)で得られるようなHTC−600 Auをエタノールで洗浄し、XHO緩衝液(Tris.Cl、NaCベースの緩衝液)に懸濁されたDNAと混合することと、
(vi)工程(v)で得られた混合物をスペルミジンおよびPEGで順次平衡化し、次いで、2.5MのCaCl中で超音波処理することと、
(vii)工程(vi)で得られるような超音波処理した混合物を12000rpmで遠心分離し、ペレットを無水アルコールを用いて2回洗浄し、最終的に所要の容量のエタノールに再懸濁して、炭素質支持体表面に支持されたDNA担持金ナノ粒子を得ることと
を含む、好ましくは炭素質支持体表面での、請求項5に記載されたDNA担持支持金ナノ粒子の調製のためのプロセス。
【請求項10】
本明細書に付随する実施例および図面を参照しながら実質的に本明細書に記載されているような、DNA担持支持金ナノ粒子、その調製のためのプロセスおよびその使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−500740(P2013−500740A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523436(P2012−523436)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【国際出願番号】PCT/IN2010/000513
【国際公開番号】WO2011/016053
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(596020691)カウンスィル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ (42)
【氏名又は名称原語表記】COUNCIL OF SCIENTIFIC & INDUSTRIAL RESEARCH
【Fターム(参考)】