説明

DTM推定方法、DTM推定プログラム及びDTM推定装置、並びに、3次元建物モデルの作成方法

【課題】LiDARデータに基づいて推定されるDTMの精度を高める。
【解決手段】航空機による地表のレーザースキャナーデータに基づいて、その所定範囲について地表面のみの標高データであるDTMを推定するDTM推定方法であって、所定範囲における単位グリッド内にデータが存在しない画素を連結して河川領域を抽出し、河川領域を除くデータについて、第1の最大許容傾斜値(例えば3度)を設定して暫定的なDTMを推定し、推定したDTMから局所的な傾斜を計算し、傾斜が所定値を超える場合は、第1の最大許容傾斜値より大きい第2の最大許容傾斜値(例えば4.5度)を設定して再度DTMを推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機による地表のレーザースキャナーデータに基づいてDTM(Digital Terrain Model)を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機から地表をレーザースキャンした反射波として得られるLiDAR(Light Detection And Ranging)データは、高精度な三次元座標の点群データとして、建物の高さや森林の樹高を測定することに利用可能である(例えば、特許文献1参照。)。このLiDARデータにより、所望の領域について、地表面(敷地や道路等の地表面)の他、建物の最上部や樹木の最上端を含むDSM(Digital Surface Model)を得ることができる。
【0003】
一方、部分的に得られた地表面のデータ及び、これらから全体を補間したデータによって、地表面のみを表すDTMを推定することができる。これによって、例えば、建物の高さは、(DSM−DTM)として算出することができる(例えば、非特許文献1参照。)。DTMを推定するには、LiDARデータの所定範囲について、その中の標高最低点が地表面であるとする。そして、当該範囲内で地表面を探索し、かつ、内挿(補間)すれば、DTMを推定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4058293号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「航空機LiDARデータからの密集市街地における地表面データのフィルタリングアルゴリムの構築」、須▲崎▼純一、幸良淳志、児島利治、応用測量論文集Vol.21、第78〜89頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のDTMは、LiDARデータと違って推定であるため、多少の誤差・誤認識が生じることは避けられないが、いかに当該誤差・誤認識を抑制するかが重要である。種々の地表面に対してDTM推定を行ってみた結果、特に、全体として平坦な土地に河川がある場合に、河床、堤防、橋等のデータの点群を、地表面として認識するのが難しいことが判明した。また、道路から徐々に上がっていく屋上駐車場(建物の最上部)が、誤って地表面と認識されることもあった。
【0007】
かかる従来の問題点に鑑み、本発明は、LiDARデータに基づいて推定されるDTMの精度を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、航空機による地表のレーザースキャナーデータに基づいて、その所定範囲について地表面のみの標高データであるDTMを推定するDTM推定方法であって、前記所定範囲における単位グリッド内にデータが存在しない画素を連結して河川領域を抽出し、前記河川領域を除くデータについて、第1の最大許容傾斜値を設定して暫定的なDTMを推定し、推定したDTMから局所的な傾斜を計算し、傾斜が所定値を超える場合は、前記第1の最大許容傾斜値より大きい第2の最大許容傾斜値を設定して再度DTMを推定することを特徴とする。
【0009】
上記のようなDTM推定方法では、DTMの推定にあたって河川領域を除くことで、河川をまたぐ地表面の探索によってDTMの精度が悪くなることを防止できる。また、推定したDTMにおいて局所的に傾斜が所定値を超えるときは、第1の最大許容傾斜値より大きい第2の最大許容傾斜値を設定して再度DTMを推定することにより、1回目には探索できなかった地表面データを追加し、DTM推定の精度を向上させることができる。
【0010】
(2)また、上記(1)のDTM推定方法において、第2の最大許容傾斜値は、地形及び町並みの特徴に応じて増減されるものであってもよい。
この場合、地形及び町並みの特徴に応じて最適なDTM推定を行うことができる。
【0011】
(3)また、本発明は、上記(1)のDTM推定方法を含む3次元建物モデルの作成方法であって、前記レーザースキャナーデータを、前記DTM推定方法によって推定されたDTMと、非地表面データとに分離し、前記非地表面データにおける各領域について、対となる向きの法線ベクトルの有無を調べ、その結果に基づいて屋根の形を推定する3次元建物モデルの作成方法である。
この場合、精度良く推定されたDTMに基づいて正確な非地表面データを取得し、さらに、対となる向きの法線ベクトルの有無を調べることにより、平坦な屋根の他、切妻、寄棟等の屋根の形を推定して3次元建物モデルを作成することができる。
【0012】
(4)また、上記(3)の3次元建物モデルの作成方法において、各領域は、所定範囲の航空写真のデータから少なくとも長方形の形状を優先的に抽出することにより予め抽出されるものであってもよい。
この場合、屋根の形状として確率の高い長方形により、屋根の領域の識別精度を高め、より正確な3次元建物モデルを作成することができる。
【0013】
(5)一方、本発明は、航空機による地表のレーザースキャナーデータに基づいて、その所定範囲について地表面のみの標高データであるDTMを推定するDTM推定プログラムであって、前記所定範囲における単位グリッド内にデータが存在しない画素を連結して河川領域を抽出する機能、前記河川領域を除くデータについて、第1の最大許容傾斜値を設定して暫定的なDTMを推定する機能、推定したDTMから局所的な傾斜を計算する機能、及び、傾斜が所定値を超える場合は、前記第1の最大許容傾斜値より大きい第2の最大許容傾斜値を設定して再度DTMを推定する機能を、コンピュータによって実現させるためのDTM推定プログラムである。
【0014】
上記のようなDTM推定プログラムでは、DTMの推定にあたって河川領域を除くことで、河川をまたぐ地表面の探索によってDTMの精度が悪くなることを防止できる。また、推定したDTMにおいて局所的に傾斜が所定値を超えるときは、第1の最大許容傾斜値より大きい第2の最大許容傾斜値を設定して再度DTMを推定することにより、1回目には探索できなかった地表面データを追加し、DTM推定の精度を向上させることができる。
【0015】
(6)また、本発明は、航空機による地表のレーザースキャナーデータに基づいて、その所定範囲について地表面のみの標高データであるDTMを推定するDTM推定装置であって、航空機による地表のレーザースキャナーデータを読み込む入力装置と、前記レーザースキャナーデータの所定範囲における単位グリッド内にデータが存在しない画素を連結して河川領域を抽出する河川抽出部と、前記河川領域を除くデータについて、第1の最大許容傾斜値を設定して暫定的なDTMを推定し、推定したDTMから局所的な傾斜を計算し、傾斜が所定値を超える場合は、前記第1の最大許容傾斜値より大きい第2の最大許容傾斜値を設定して再度DTMを推定するDTM推定部と、推定されたDTMを表示する表示部とを備えたものである。
【0016】
上記のようなDTM推定装置では、DTMの推定にあたって河川領域を除くことで、河川をまたぐ地表面の探索によってDTMの精度が悪くなることを防止できる。また、推定したDTMにおいて局所的に傾斜が所定値を超えるときは、第1の最大許容傾斜値より大きい第2の最大許容傾斜値を設定して再度DTMを推定することにより、1回目には探索できなかった地表面データを追加し、DTM推定の精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、DTM推定の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は、京都市東山区清水寺、法観寺、高台寺の周辺の航空写真であり、この地域は、建物が密集している平地と、丘陵地とが混在している。(b)は、航空機によるLiDARデータが示す標高分布(建物等の最上部を含むDSM)を便宜的に色分けして(但し、この図ではカラーは表現されていない。)示した図である。
【図2】(a)は、1回目の処理で抽出された地表面データであり、(b)は2回目の処理で抽出された地表面データである。
【図3】(a)は、1回目の処理によるDTMを示し、(b)は、2回目の処理を行った後の最終のDTMを示す。
【図4】(a)は、京都市中京区五条通り周辺の航空写真であり、この地域は、建物が密集している平地の中に、河川がある。(b)は、航空機によるLiDARデータが示す標高分布(建物等の最上部を含むDSM)を便宜的に色分けして(但し、この図ではカラーは表現されていない。)示した図である。
【図5】(a)は、1回目の処理で抽出された地表面データであり、(b)は2回目の処理で抽出された地表面データである。
【図6】(a)は、1回目の処理によるDTMを示し、(b)は、2回目の処理を行った後の最終のDTMを示す。
【図7】(a)は、京都市伏見区伏見桃山周辺の航空写真であり、この地域は、建物が密集している平地の中に、大きな土手を備えた河川がある。(b)は、航空機によるLiDARデータが示す標高分布(建物等の最上部を含むDSM)を便宜的に色分けして(但し、この図ではカラーは表現されていない。)示した図である。さらに、(c)は、1回目の処理によるDTMを示し、(d)は、2回目の処理を行った後の最終のDTMを示す。
【図8】(a)は、図7の(b)に示すLiDARデータの一部を拡大した図であり、(b)は、(a)における矢印方向から見た当該地域の地上写真である。さらに、(c)は、1回目の処理によるDTM(拡大図)を示し、(d)は、2回目の処理を行った後の最終のDTM(拡大図)を示す。
【図9】(a)は、京都市東山区清水寺近くの駐車場及びその周辺の、航空機によるLiDARデータが示す標高分布(建物等の最上部を含むDSM)を便宜的に色分けして(但し、図ではカラーは表現されていない。)示した図であり、(b)は航空写真である。
【図10】(a)は、1回目の処理によるDTMを示し、(b)は、2回目の処理を行った後の最終のDTMを示す。
【図11】(a)は市街地の航空写真であり(75m×75m)、(b)は領域分割の結果である。
【図12】(a)、(b)は、3次元建物ワイヤーフレームモデルで、(a)は平面的な形状を、(b)は立体的な形状を、それぞれ示している。
【図13】(a)は高層ビルを含む市街地の航空写真であり(75m×75m)、(b)は領域分割の結果である。
【図14】(a)、(b)は、3次元建物ワイヤーフレームモデルで、(a)は平面的な形状を、(b)は立体的な形状を、それぞれ示している。
【図15】(a)は高木が建物に隣接している市街地の航空写真であり(75m×75m)、(b)は領域分割の結果である。
【図16】(a)、(b)は、3次元建物ワイヤーフレームモデルで、(a)は平面的な形状を、(b)は立体的な形状を、それぞれ示している。
【図17】(a)は寄棟屋根の多い市街地の航空写真であり(75m×75m)、(b)は領域分割の結果である。
【図18】(a)、(b)は、3次元建物ワイヤーフレームモデルで、(a)は平面的な形状を、(b)は立体的な形状を、それぞれ示している。
【図19】DTM推定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図20】DTM推定方法又は推定プログラムを示すフローチャートである。
【図21】(a)が切妻屋根の法線ベクトル、(b)が寄棟屋根の法線ベクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
《DTMの推定》
図19は、航空機による地表のレーザースキャナーデータに基づいて、その所定範囲について地表面のみの標高データであるDTMを推定する装置の構成の一例を示すブロック図である。このDTM推定装置は、CPU1、バス2を介してCPU1と接続されたメモリ3、ハードディスク等の補助記憶装置4、インターフェース5,6、並びに、インターフェース5及び6にそれぞれ接続されたドライブ7及びディスプレイ8を含むものであり、典型的には、これは、パーソナルコンピュータである。入力装置としてのドライブ7に、LiDARデータ(レーザースキャナーデータ)を収めたCD,DVD等の記憶媒体9を装着することにより、LiDARデータが読込み可能となる。
【0020】
CPU1は、ソフトウェアによって実現される内部機能として、大別すれば、河川抽出部1aと、DTM推定部1bとを備えている。これらの機能についての詳細は後述するが、河川抽出部は、LiDARデータ(レーザースキャナーデータ)の所定範囲における単位グリッド内にデータが存在しない画素を連結して河川領域を抽出する機能を有する。また、DTM推定部1bは、河川領域を除くデータについて、第1の最大許容傾斜値を設定して暫定的なDTMを推定し、推定したDTMから局所的な傾斜を計算し、傾斜が所定値を超える場合は、第1の最大許容傾斜値より大きい第2の最大許容傾斜値を設定して再度DTMを推定するという機能を有する。推定されたDTMは、表示部としてのディスプレイ8に表示可能である。
【0021】
次にCPU1における上記機能すなわちDTM推定方法又は推定プログラムについて、図20のフローチャートを参照して説明する。なお、プログラムは補助記憶装置4(図19)に記憶され、メモリ3を用いて、CPU1により実行される。使用するLiDARデータは、市販品であり、例えば、平均点密度1点/1mで、3次元座標データを持つファーストパルスデータ(最初に地表面で反射される受信データ)のみを含むものである。なお、使用可能なデータは、これに限られるものではない。例えば、フルウェーブタイプと呼ばれる、ファーストからラストまで連続したデータも使用可能である。
【0022】
図20において、まず、CPU1は、LiDARデータから河川領域を抽出する(ステップS1)。具体的には、単位グリッドとしての1mグリッドに設定した画像において、データ(点)が存在しない画素を連結し、一定面積以上を占める領域を、河川領域として抽出する。
【0023】
次に、CPU1は、LiDARデータから局所最低値を抽出する(ステップS2)。具体的には、1回目は50m×50mの窓内で局所最低値を抽出し、2回目は25m×25mの窓内で局所最低値を探索する。2回目の局所最低値が1回目の局所最低値より大幅に高くならず(例えば50cm以内)、かつ、1回目、2回目の局所最低値である3次元座標上の2点から計算される傾斜が第1の最大許容傾斜値(例えば3度)以下のときは、1回目の局所最低値を2回目の局所最低値に更新する。それ以外のときは、1回目の局所最低値を採用する。
【0024】
次に、CPU1は、LiDARデータから最小二乗法により平面を推定し(ステップS3)、平面に対するRMSE(Root Mean Square Errors:平均二乗誤差)が小さい場合の、それらの点は、共通の平面上にあるものとする。具体的には、例えば、4m×4mの領域に含まれる全ての点群を用いて平面の方程式を計算し、平面に対するRMSEが10cm以下であれば、全ての点群に平面の方程式を付与する。この平面とは道路面の候補であり、斜面でもよいが、極端な斜面は道路の可能性が非常に低いので、例えば、平面の法線の鉛直成分が0.9以上に限定する。
【0025】
そして、CPU1は、上記平面上の点のうち、局所最低値の点との標高差が小さく、かつ、局所最低値から見た傾斜以内である点を地表面データの初期値(初期の点群)として選定する(ステップS4)。
続いて、CPU1は、当該地表面データの近隣の点を探索し、地表面データが有する平面の方程式を使って平面までの距離を計算し、その距離が閾値(例えば10cm)以下であれば、追加する地表面データの候補となる。そして、地表面データと成す傾斜が最大許容傾斜値(例えば3度)以下であれば、地表面データとして追加する(ステップS5)。
【0026】
地表面データの追加(ステップS5)は、追加される点が無くなるまで行われる(ステップS6)。追加される点が無くなると、地表面データの抽出は完了である。
続いて、CPU1は、地表面データが存在しない地点について近隣の地表面データを探索し、内挿してDTMを推定する(ステップS7)。この探索時に河川領域に遭遇すれば、CPU1は、その方向への探索を中止する。
【0027】
次に、CPU1は、推定したDTMに基づいて局所的な傾斜を計算する(ステップS8)。傾斜は21m×21mの領域を単位として、まず地表面高さの平均値を計算する。ある領域の地表面高さに対し、周囲の8つ(上下/左右/斜め)の近傍の領域を探索し、領域の中心間の距離と地表面高さの平均値の差から傾斜を計算し、最大の傾斜値を求める。傾斜が閾値(例えば4.5度)以上の場合には、最大許容傾斜値を、より大きく設定して、第2の最大許容傾斜値に更新する(例えば4.5度に更新する。)。
【0028】
続いて、CPU1は、ステップS5〜S8の処理が1回目か否かを判定する(ステップS9)。最初は「Yes」であり、CPU1は、第2の最大許容傾斜値に基づいて再びステップS5,S6を実行する。ここで、第1の最大許容傾斜値より大きい第2の最大許容傾斜値を設定していることによって、局所的に急な傾斜を持つ地点が、地表面データとして追加される。すなわち、最初のステップS5の処理では追加データから漏れていた河川の土手や丘陵地等の点群データが地表面データとして抽出され、追加される。その結果、DTMの推定が1回目よりも精度良く行われることになる。なお、2回目のステップS9では「No」となって、処理終了となる。
【0029】
上記のような処理によるDTMの精度向上を、図1〜10の実例で示す。
(実例1)
図1の(a)は、京都市東山区清水寺、法観寺、高台寺の周辺の航空写真である。この地域は、建物が密集している平地と、丘陵地とが混在している。図1の(b)は、航空機によるLiDARデータが示す標高分布(建物等の最上部を含むDSM)を便宜的に色分けして(但し、この図ではカラーは表現されていない。)示した図である。(b)において、左側の黒っぽい部分が相対的に標高の低い部分であり、右側の黒っぽい部分は相対的に標高の高い部分である。中間の白っぽい部分は、それらの中間的な標高である。DSMは建物等を含んでいるため、地表面がわかりにくい。
【0030】
図2の(a)は、1回目の処理で抽出された地表面データであり、(b)は2回目の処理で抽出された地表面データである。図中の黒い部分が地表面(地盤面)を表している。また、図3の(a)は、1回目の処理によるDTMを示し、(b)は、2回目の処理を行った後の最終のDTMを示す。図2,図3のそれぞれにおいて、(a)、(b)の比較により明らかなように、2回目の処理を行ったことによって丘陵地(向かって右側)や平地の細部のデータが格段に精度良く得られている。
【0031】
(実例2)
図4の(a)は、京都市中京区五条通り周辺の航空写真である。この地域は、建物が密集している平地の中に、河川がある。図4の(b)は、航空機によるLiDARデータが示す標高分布(建物等の最上部を含むDSM)を便宜的に色分けして(但し、この図ではカラーは表現されていない。)示した図である。
【0032】
図5の(a)は、1回目の処理で抽出された地表面データであり、(b)は2回目の処理で抽出された地表面データである。また、図6の(a)は、1回目の処理によるDTMを示し、(b)は、2回目の処理を行った後の最終のDTMを示す。この例では、1回目と、2回目とで、劇的な差は現れていない。言い換えれば、局部的に急な傾斜が無い平坦な地形では2回目の処理に1回目と同じ第1の最大許容傾斜値を用いることになるので、過剰な抽出が行われることはない。
【0033】
(実例3)
図7の(a)は、京都市伏見区伏見桃山周辺の航空写真である。この地域は、建物が密集している平地の中に、大きな土手を備えた河川がある。図7の(b)は、航空機によるLiDARデータが示す標高分布(建物等の最上部を含むDSM)を便宜的に色分けして(但し、この図ではカラーは表現されていない。)示した図である。なお、(a)における楕円は、高速道路であり、(b)のLiDARデータ取得時にはまだ建設されていなかった。また、図7の(c)は、1回目の処理によるDTMを示し、(d)は、2回目の処理を行った後の最終のDTMを示す。
【0034】
図8の(a)は、図7の(b)に示すLiDARデータの一部を拡大した図であり、図8の(b)は、(a)における矢印方向から見た当該地域の地上写真である。また、図8の(c)は、1回目の処理によるDTM(拡大図)を示し、(d)は、2回目の処理を行った後の最終のDTM(拡大図)を示す。(d)において、中央に縦に延びている白い線は河川であり、その左右の黒っぽい部分は土手である。(c)、(d)の比較により、1回目は地表面として扱えなかった土手が、2回目は地表面として精度良く認識されていることがわかる。
【0035】
(実例4)
図9の(a)は、京都市東山区清水寺近くの駐車場及びその周辺の、航空機によるLiDARデータが示す標高分布(建物等の最上部を含むDSM)を便宜的に色分けして(但し、図ではカラーは表現されていない。)示した図である。(b)は航空写真である。また、図10の(a)は、1回目の処理によるDTMを示し、(b)は、2回目の処理を行った後の最終のDTMを示す。(a)、(b)の比較により、1回目は地表面としてその形状を捉えきれなかった駐車場(中央の黒い部分)が、2回目は地表面として精度良く認識されていることがわかる。
【0036】
(実例5)
図示しないが、ビルの屋上駐車場についても同様に1回目、2回目のDTMを得たが、ほとんど変化がなかった。この場合、屋上駐車場を地表面と誤って認識することはなかった。
【0037】
《まとめ》
上記のようなDTM推定方法/プログラム/装置では、DTMの推定にあたって河川領域を除くことで、河川をまたぐ地表面の探索によってDTMの精度が悪くなることを防止できる。また、推定したDTMにおいて局所的に傾斜が所定値を超えるときは、第1の最大許容傾斜値より大きい第2の最大許容傾斜値を設定して再度DTMを推定することにより、1回目には探索できなかった地表面データを追加し、DTM推定の精度を向上させることができる。
【0038】
なお、第2の最大許容傾斜値は、地形及び町並みの特徴に応じて増減すればよい。京都市の場合は4.5度が好適であることが確認された。京都市よりもさらに傾斜の多い土地では4.5度以上も適すると想定される。逆に、京都市よりも傾斜の少ない土地では4.5度未満(3度よりは大きい)が適すると想定される。実験的に最適な数値を選ぶことで、地形及び町並みの特徴に応じて最適なDTM推定を行うことができる。
【0039】
《3次元建物モデルの作成》
LiDARデータ及び、上述の処理により精度良く推定されたDTMを用いて、(DSM−DTM)の演算を行うことにより、データ上で地表面を除去し、建物や木等の、地上に存在する物の高さのデータのみを取得することができる。以下、このようなデータを用いて3次元建物モデルを作成する方法について説明する。まず、航空写真のデータを用いた建物等の領域分割について説明する。
【0040】
(領域分割)
領域分割の概要は、まず、輝度値の分散が大きいテクスチャを持つ領域も抽出するため、輝度値を少数個の値に離散化した上で領域分割を試みる。離散化する輝度値の幅は、異なる分散の程度に対応するために複数用意する。長方形に近い領域を優先的に抽出するため、長方形指数と呼ぶ指数を計算する。影で分断されている可能性を考慮し、隣接する領域と組み合わせて、長方形指数が向上すれば両者を統合する。
【0041】
以下、細部に及ぶが、領域分割の具体例について参考のため説明する。
(1)1バイト(輝度値の範囲:0〜255)×3バンド(RGB)画像の任意の1バンドの輝度値に対し、Ndisc種類の離散化幅を設定する。各離散化幅の下で、Noff種類の異なるオフセット値を適用し、画像輝度値を離散化する。例えば、「輝度値の離散化幅=40」「オフセット数=5」の時に「オフセット値幅=8」となり、「オフセット値={0,8,16,24,32}」のNoff種類の離散化画像が得られる。「オフセット値=0」の下では、原画像の輝度値が「0〜39」が同一離散化値を与えられ、同様に「40〜79」「80〜119」「120〜159」「160〜199」「200〜239」「240〜255」を含めた7つの区分に離散化される。本実験では次のパラメータを使用した。
【0042】
使用バンド:赤(R)バンド
輝度値の離散化幅Δd={40,30,20}
オフセット数Noff=5
オフセット値幅Δoff=Δd/Noff={8,6,4}
【0043】
(2)各離散化画像において、4方向を探索し、同じ値を持つ画素を連結し領域として抽出する。一定面積以上の大領域(本実験では6400画素:以下、実験で採用した値)は除去する。また一定面積未満(80画素)の小領域は周辺に一定面積以上の領域があれば統合し、なければ除去する。その後、各領域のエッジを抽出する。
(3)ある離散化幅におけるNoff種類の離散化画像から得られたエッジを全て1枚に重ね合わせる。
(4)一定強度以上のエッジを残し、それに連結するエッジも抽出する。この時点で本来なら閉じるはずの領域がノイズなどの影響で閉じていないことも多いため、エッジが存在しなくても周辺に直線状のエッジが存在することが確認できれば、エッジを連結する。
(5)エッジで閉じた領域にラベル番号を付与し、RGB輝度値から判断し、植生らしい領域を除去する。(2)と同様に一定面積以上の大領域(6400画素)を除去し、一定面積以下(本実験では30画素)の小領域は周辺に一定面積以上の領域があれば統合し、なければ除去する。
(6)各領域の長方形指数と呼ぶ指数を次のように計算する。
【0044】
(ア)領域のエッジの集合(エッジ群と呼ぶ)の2次元座標から、第1軸と第2軸を決定する。
(イ)領域の存在範囲を第1軸と第2軸の値で表現し、第1軸の(最大値−最小値+1)、第2軸の(最大値−最小値+1)を掛け合わせて、領域を取り囲む矩形の面積を得る。
(ウ)実際の領域の面積/領域を取り囲む矩形の面積を長方形指数と定義する。
(エ)長方形指数が一定値(0.4)を下回ると、建物でない可能性が高いと判断して除外される。
【0045】
(7)ある領域Aの近隣の領域を探索し、
(ア)併合した場合の長方形指数が各々の長方形指数よりも向上する。
(イ)指定した閾値(0.7)以上である。
(ウ)領域の平均輝度値の差が一定値(30)以内である。
という条件を満たす近隣の領域のうち、併合時の長方形指数が最大となる領域を併合の候補とし、仮に領域Bとする。領域Bでも同様に探索し、領域Aが(ア)〜(ウ)の全ての条件を満たし、かつ併合時の長方形指数が最大となる領域である場合に、領域AとBを併合する。
(8)Ndisc種類の離散化幅の下で得られた一定面積以上の領域を、長方形指数が高い順に選んでいく。ただし、当該領域の一部でも既に選ばれた領域に重なっていれば、その領域は選ばない。
(9)選ばれなかった領域に対し、再度選定していく。今度は既に選ばれた領域との重なりが一定値未満(本実験では、30%)で、かつ一定面積未満(30画素未満)であれば、重なっていない部分だけを新たな領域として追加選出する。ただし重なっていない部分に対しても長方形指数を算出し、閾値(0.45)以上である場合に限る。
(10)領域内の穴を埋める。
【0046】
(3次元建物モデル)
領域分割で得られた領域は屋根単位ではなく、同一建物で対となる傾斜のある屋根、あるいは別の建物の屋根が分離されていないこともある。また領域分割では屋根・建物の抽出漏れ、逆に樹木や道路も抽出していることも起こりうる。しかしながら、下記の対策を取ることで、モデリングの漏れを少なくしている。
【0047】
推定したDTMは、LiDARデータから除去する。屋根の平面、法線ベクトルを計算する際にRMSEの許容値を設けることで樹木の大半は削除できる。切妻屋根の建物において向かい合う屋根が分離されていない場合、法線ベクトルの分布状況を調べて混合している可能性が高い場合には分離して、切妻屋根を生成する。隣接する切妻屋根の建物で片側の屋根が分離されていない状況において(屋根の数が棟を挟んで1対2の関係)、分離されていない領域を2つの屋根に分離することで2組の1対1の屋根のペアを生成し、2棟の切妻屋根の建物を生成する。
【0048】
密集市街地における建物の配置に着目し、屋根面がもつ傾斜や法線ベクトルといった情報を利用することで、切妻屋根や寄棟屋根、平屋根の判定を行い、より本来の形に近い建物3次元モデルを生成する。具体的には、近隣の点群間の水平・鉛直距離が一定値以内の点群から主たる方位角を決めて、それに基づいて建物の棟や輪郭を決定することで、現実に近い建物の向きを決定できる。
【0049】
具体的には、3次元座標の点群データであるLiDARデータに対し、DTMを用いて地表面と非地表面を分離するフィルタリング処理を行う。非地表面データから屋根や建物の領域における法線ベクトルを計算する。9m×9mの領域内で、6点以上点が存在する場合に平面の方程式を計算し、RMSEが10cm以下であれば、計算に使用した全ての点群に法線ベクトルを付与する。領域の法線が傾いていれば対となる領域を探索する。
【0050】
非地表面データに対し、最近隣の点データからの水平距離、鉛直距離が一定値以内である点群ごとに分類する。このうち屋根や建物の領域に該当する点群だけを用いて、点群データの主たる方位角を決定する。寄棟屋根、切妻屋根、それ以外の屋根の順にワイヤーフレームモデルを作成する。各モデルを作成する際には棟や輪郭が、点群データの主たる方位角と同一あるいは直交するように配慮する。
【0051】
寄棟屋根については、対となる屋根の組が2組存在する時に生成される。切妻屋根については、対となる屋根が存在する領域があり、両者の領域において切妻屋根を生成する。法線ベクトル分布が複数の法線の混合状態を示す領域については、領域内において2つに分割し、法線ベクトルが明瞭に分離される場合には、切妻屋根を生成する。そうでない場合には平屋根を生成する。なお、図21は、(a)が切妻屋根の法線ベクトル、(b)が寄棟屋根の法線ベクトルを示す。
それ以外の屋根については、平屋根を生成する。建物として抽出されなかったものの、地表面から一定以上の高さを持ち、特定の平面上にある点を選定し、最終結果に含める。
【0052】
上記のような処理による領域分割、3次元建物モデルの作成を、図11〜18の実例で示す。
(実例1)
図11の(a)は市街地の航空写真である(75m×75m)。(b)は領域分割の結果である。便宜上色分けしている(本図では色は表示されていない。)が、色自体に意味はない。(b)に示すように屋根の輪郭が概ね捉えられている。また、切妻、寄棟の特徴が捉えられている個所もある。図12の(a)、(b)は、3次元建物ワイヤーフレームモデルで、(a)は平面的な形状を、(b)は立体的な形状を、それぞれ示している。平坦、切妻、寄棟等の屋根の形状が明瞭に現れていることが分かる。
【0053】
(実例2)
図13の(a)は高層ビルを含む市街地の航空写真である(75m×75m)。(b)は領域分割の結果である。便宜上色分けしている(本図では色は表示されていない。)が、色自体に意味はない。(b)に示すように屋根の輪郭が概ね捉えられている。また、切妻、寄棟の特徴が捉えられている個所もある。図14の(a)、(b)は、3次元建物ワイヤーフレームモデルで、(a)は平面的な形状を、(b)は立体的な形状を、それぞれ示している。平坦、切妻、寄棟等の屋根の形状が明瞭に現れていることが分かる。
【0054】
(実例3)
図15の(a)は高木が建物に隣接している市街地の航空写真である(75m×75m)。(b)は領域分割の結果である。便宜上色分けしている(本図では色は表示されていない。)が、色自体に意味はない。(b)に示すように屋根の輪郭が概ね捉えられている。また、切妻、寄棟の特徴が捉えられている個所もある。図16の(a)、(b)は、3次元建物ワイヤーフレームモデルで、(a)は平面的な形状を、(b)は立体的な形状を、それぞれ示している。平坦、切妻、寄棟等の屋根の形状が明瞭に現れていることが分かる。
【0055】
(実例4)
図17の(a)は寄棟屋根の多い市街地の航空写真である(75m×75m)。(b)は領域分割の結果である。便宜上色分けしている(本図では色は表示されていない。)が、色自体に意味はない。(b)に示すように屋根の輪郭が概ね捉えられている。また、切妻、寄棟の特徴が捉えられている個所もある。図18の(a)、(b)は、3次元建物ワイヤーフレームモデルで、(a)は平面的な形状を、(b)は立体的な形状を、それぞれ示している。平坦、切妻、寄棟等の屋根の形状が明瞭に現れていることが分かる。
【0056】
《まとめ》
以上のように、精度良く推定されたDTMに基づいて正確な非地表面データを取得し、さらに、対となる向きの法線ベクトルの有無を調べることにより、平坦な屋根の他、切妻、寄棟等の屋根の形を推定して3次元建物モデルを作成することができる。
また、3次元建物モデルを作成するための領域を予め抽出することにより、屋根の領域の識別精度を高め、より正確な3次元建物モデルを作成することができる。
【0057】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0058】
1a:河川抽出部
1b:DTM推定部
7:ドライブ(入力装置)
8:ディスプレイ(表示部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機による地表のレーザースキャナーデータに基づいて、その所定範囲について地表面のみの標高データであるDTMを推定するDTM推定方法であって、
前記所定範囲における単位グリッド内にデータが存在しない画素を連結して河川領域を抽出し、
前記河川領域を除くデータについて、第1の最大許容傾斜値を設定して暫定的なDTMを推定し、
推定したDTMから局所的な傾斜を計算し、
傾斜が所定値を超える場合は、前記第1の最大許容傾斜値より大きい第2の最大許容傾斜値を設定して再度DTMを推定する
ことを特徴とするDTM推定方法。
【請求項2】
前記第2の最大許容傾斜値は、地形及び町並みの特徴に応じて増減される請求項1記載のDTM推定方法。
【請求項3】
請求項1のDTM推定方法を含む3次元建物モデルの作成方法であって、
前記レーザースキャナーデータを、前記DTM推定方法によって推定されたDTMと、非地表面データとに分離し、
前記非地表面データにおける各領域について、対となる向きの法線ベクトルの有無を調べ、その結果に基づいて屋根の形を推定する3次元建物モデルの作成方法。
【請求項4】
前記各領域は、前記所定範囲の航空写真のデータから少なくとも長方形の形状を優先的に抽出することにより予め抽出されるものである請求項3記載の3次元建物モデルの作成方法。
【請求項5】
航空機による地表のレーザースキャナーデータに基づいて、その所定範囲について地表面のみの標高データであるDTMを推定するDTM推定プログラムであって、
前記所定範囲における単位グリッド内にデータが存在しない画素を連結して河川領域を抽出する機能、
前記河川領域を除くデータについて、第1の最大許容傾斜値を設定して暫定的なDTMを推定する機能、
推定したDTMから局所的な傾斜を計算する機能、及び、
傾斜が所定値を超える場合は、前記第1の最大許容傾斜値より大きい第2の最大許容傾斜値を設定して再度DTMを推定する機能を、コンピュータによって実現させるためのDTM推定プログラム。
【請求項6】
航空機による地表のレーザースキャナーデータに基づいて、その所定範囲について地表面のみの標高データであるDTMを推定するDTM推定装置であって、
航空機による地表のレーザースキャナーデータを読み込む入力装置と、
前記レーザースキャナーデータの所定範囲における単位グリッド内にデータが存在しない画素を連結して河川領域を抽出する河川抽出部と、
前記河川領域を除くデータについて、第1の最大許容傾斜値を設定して暫定的なDTMを推定し、推定したDTMから局所的な傾斜を計算し、傾斜が所定値を超える場合は、前記第1の最大許容傾斜値より大きい第2の最大許容傾斜値を設定して再度DTMを推定するDTM推定部と、
推定されたDTMを表示する表示部と
を備えていることを特徴とするDTM推定装置。

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2012−256230(P2012−256230A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129316(P2011−129316)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】