説明

EGFR阻害剤治療のための予測マーカー

本発明は、癌患者における、EGFR阻害剤を用いた治療に対する応答を予測するバイオマーカー(RAPGEF5)を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌患者におけるEGFR阻害剤を用いた治療に対する応答を予測するバイオマーカーを提供する。
【背景技術】
【0002】
多くのヒトの悪性疾患は、上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)の異常又は過剰発現に関連する。EGF、形質転換増殖因子−α(TGF−α)、及びその他多くのリガンドは、受容体の細胞内チロシンキナーゼドメインの自己リン酸化を刺激するEGFRに結合する。その後、様々な細胞内経路が活性化され、これらの下流事象はインビトロ(in vitro)での腫瘍細胞増殖をもたらす。EGFRを介する腫瘍細胞の刺激が、インビボ(in vivo)における腫瘍増殖及び腫瘍生存の双方にとって重要であると考えられている。
【0003】
EGFRチロシンキナーゼの阻害剤であるタルセバ(Tarceva(商標))(エルロチニブ)の初期の臨床データは、当該化合物が、目標有効濃度(前臨床データにより決定される)(前臨床データにより決定される)を提供する用量で、安全且つ一般的に十分耐性であることを示唆している。進行疾患に罹患する患者における、第I相及びII相臨床試験では、タルセバ(商標)が、様々な上皮腫瘍において臨床活性を有する見込みが実証されている。実際、タルセバ(商標)は、頭部及び頸部の癌、及びNSCLC(非小細胞肺癌)に罹患する事前の治療された患者において、確立された二次化学療法と類似するオーダーで耐久性のある部分寛解を誘導できるが、化学療法より良好な安全プロファイル及び利便性の向上(静脈[i.v.]投与の代わりにタブレット)という追加的利益を有することが示されている。近年完了した無作為二重盲検プラセボ対照試験(BR.21)から、進行疾患のため標準的療法が失敗したNSCLC患者の生存が、タルセバ(商標)単剤により顕著に延長及び向上させたことが示されている。
【0004】
タルセバ(商標)(エルロチニブ)は、小化学分子で経口活性があり、EGFRチロシンキナーゼ(EGFR−TKI)の強力な選択的阻害剤である。
【0005】
肺癌は、北米や欧州において癌関連死亡の主要原因である。米国においては、肺癌による死亡者が、第二(結腸)、第三(乳房)、及び第四(前立腺)がもたらす複合した癌死亡原因による複合した総死者を超える。全肺癌の約75%〜80%は非小細胞肺癌(NSCLC)であり、患者のおよそ40%は、局所的に増悪且つ/又は切除不能な疾患症状を呈する。典型的にこの群には、悪性胸膜浸潤のない、バルキーな病期IIIA及びIIIBに罹患する者が含まれる。
【0006】
欧州にける肺癌のおおよその罹患率は年間100,000人当たり52.5人であり、死亡率は48.7人である。当該率は、男性においてはそれぞれ79.3人及び78.3人であり、女性においては21.6人及び20.5人である。NSCLCは、全ての肺癌患者の80%を占めている。肺癌致死率は、男性で約90%、女性では80%であり、これは喫煙に起因する。
【0007】
米国癌協会によると、米国では2004年に新規の肺癌患者がおよそ173,800人おり(男性で93,100人、及び女性で807,000人)、全新規癌の約13%を占めた。大半の患者は、診断から2年以内にその疾患の結果死亡した。多くのNSCLC患者にとって、成功する治療は依然として不明である。進行した腫瘍は、多くの場合外科手術に適さず、放射線療法及び化学療法の耐容用量に対して耐性となることもある。無作為試験において、現在最も盛んな組み合わせ化学療法では、応答比率がおよそ30%〜40%であり、1年生存率が35%から40%に達した。これは支持療法のみの治療で観察される、1年生存率10%と比較すると非常に大きな進歩である(Shepherd 1999)。
【0008】
これまで、後に再発する患者のための療法の選択肢は、最良の支持療法又は緩和に限定されていた。ドセタキセル(タキソテール(登録商標))と、最良の支持療法を比較した最近の試験では、NSCLCに罹患する患者は、シスプラチンベースの一次治療計画失敗後、二次化学療法から利益を受けられることが示された。ECOGパフォーマンスステータスが0、1、又は2である全年齢の患者は、ドセタキセルによる生存率の向上が実証され、プラチナベースの以前の治療が無効であった者でも同様であった。療法から利益が得られなかった患者には、10%超の体重減少、高レベルの乳酸脱水素酵素、多臓器併発、又は肝臓併発を示す者がいた。さらに、ドセタキセルの単剤療法の利益は、二次以上の設定には及ばなかった。ドセタキセルを三次又はそれ以上の療法で受ける患者は、生存の延長を示さなかった。単剤ドセタキセルは、NSCLCのための標準的な二次療法となった。最近、NSCLCの二次療法における別の無作為第III相試験で、ペメトレキセド(アリムタ(Alimta(登録商標)))をドセタキセルと比較した。ペメトレキセドでの治療の結果は、臨床的に同等の有効性であったが、ドセタキセルと比較して副作用が有意に少なかった。
【0009】
個別の癌治療法の開発の必要性が長年認識されている。標的とする癌治療の開発に関して、腫瘍標的の分子プロファイルを提供できる方法論(即ち、臨床的利益に対する予測となるようなもの)が特に注目されている。癌における遺伝子発現プロファイリング原理の論証は、現在の形態学的及び免疫組織化学的試験に基づくと不明な腫瘍タイプの分子分類において、既に確立されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って、癌患者におけるEGFR阻害剤に対する応答を予測する発現バイオマーカーを提供することが、本発明の目的である。
【0011】
第一の目的において本発明は、EGFR阻害剤を用いた治療に対する癌患者の応答を予測する、インビトロでの方法であって、以下のステップ:患者の腫瘍試料における、RAPGEF5遺伝子の発現レベルを決定し、そしてRAPGEF5遺伝子の発現レベルと、非応答性の患者群の腫瘍におけるRAPGEF5遺伝子の発現レベルの代表値と比較すること、を含み、ここで当該患者の腫瘍試料における少なくとも1つの遺伝子のより高い発現レベルが、当該治療に応答することになる患者のための指標となる、当該方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、試験計画を示す。
【図2】図2は、試料プロセスのスキームを示す。
【図3a】図3aは、Genechip(登録商標)プロファイリングに関する、RAPGEF5発現レベル対臨床転帰を示す。
【図3b】図3bは、qRT−PCRに関する、RAPGEF5発現レベル対臨床転帰を示す。
【図3c】図3cは、RAPGEF5に関する、Genechip(登録商標)とqRT−PCRとの間の相関を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
略語RAPGEF5は、Rapグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)5を意味する。ヒトRAPGEF5遺伝子、並びにその転写物変異体(transcript variants)1、6及び11のヌクレオチド配列は、Seq.Id.No.1〜4で与えられる。RAPGEF5遺伝子及びその変異体のGeneBank受託番号、並びに対応する配列番号(Seq.Id.No.)が、表4に記載されている。
【0014】
「非応答性患者群の腫瘍におけるRAPGEF5遺伝子の発現レベルの代表値」なる用語は、EGFR阻害剤を用いた治療に対して応答しない患者群の腫瘍におけるマーカー遺伝子の、平均発現レベルの推定値のことを言う。
【0015】
好ましい実施態様によれば、マーカー遺伝子RAPGEF5は、応答性患者の腫瘍試料において、非応答性患者群の腫瘍におけるRAPGEF5遺伝子の発現レベルの代表値と比較して、通常1.5〜2.7倍の間の、又はそれ以上に高い発現を示す。
【0016】
好ましい実施態様によれば、RAPGEF5遺伝子の発現レベルは、マイクロアレイ技術、若しくは定量RT−PCRのようなRNA発現レベルを評価する他の技術によって、又は個々のタンパク質の発現レベルを調べる任意の方法、例えば免疫組織化学(IHC)によって決定される。。遺伝子チップの構成及び使用は、当業界で周知であり、米国特許第5,202,231号、第5,445,934号、第5,525,464号、第5,695,940号、第5,744,305号、第5,795,716号及び第15,800,992号を参照されたい。また、Johnston,M.Curr.Biol.8:R171−174(1998);Iyer VR et al.,Science 283:83−87(1999)も参照されたい。当然、遺伝子発現レベルは、例えば、ノーザンブロット、RT−PCR、リアルタイム定量PCR、プライマー伸長、RNase保護、RNA発現プロファイリングのような、当業者に既知のその他の方法により決定することができる。
【0017】
本発明の遺伝子は、他の予測バイオマーカーと一緒になったバイオマーカーセットと組み合わせることができる。バイオマーカーセットは、予測バイオマーカーの任意の組み合わせから構築でき、癌患者におけるEGFR阻害剤治療の効果についての予測が可能となる。本明細書に記載の様々なバイオマーカー及びバイオマーカーセットは、例えば癌に罹患する患者が、EGFR阻害剤による治療介入に対してどのような応答をするかを予測するために使用できる。
【0018】
本明細書で使用される「遺伝子」なる用語は、その遺伝子の変異体を含んでなる。「変異体」なる用語は、GenBank受託番号によって与えられる核酸配列と実質的に相同な核酸配列に関する。「実質的に相同な」なる用語は当業者に十分理解される。特に、遺伝子変異体は、ヒト群における最も一般的な対立遺伝子の核酸配列と比較して、ヌクレオチド交換を示す対立遺伝子であってもよい。好ましくは、かかる実質的に相同な核酸配列は、最も一般的な対立遺伝子と、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の配列相同性を有する。用語「変異体」はまた、スプライシングバリアントに関するものを意味する。
【0019】
EGFR阻害剤は、ゲフィチニブ、エルロチニブ、PKI−166、EKB−569、GW2016、CI−1033及び抗erbB抗体、例えばトラスツズマブ及びセツキシマブからなる群から選択できる。
【0020】
別の実施態様によれば、EGFR阻害剤はエルロチニブである。
【0021】
さらに別の実施態様によれば、癌はNSCLCである。
【0022】
本発明により記載される遺伝子の遺伝子発現の検出のための技術には、限定するものではないが、ノーザンブロット、RT−PCR、リアルタイム定量PCR、プライマー伸長、RNase保護、RNA発現プロファイリング及び関連技術がある。当該技術は、当業者に周知であり、例えば、Sambrook J et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual, Third Edition(Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,2000)を参照されたい。
【0023】
本発明により記載されるそれぞれの遺伝子のタンパク質発現の検出のための技術には、限定するものではないが、免疫組織化学(IHC)がある。
【0024】
本発明によれば、患者の組織試料、例えば腫瘍又は癌の生検由来の細胞を評価し、1つ以上のバイオマーカーの発現パターンを決定するためにアッセイされ得る。癌治療の成功又は失敗を、1つ以上のバイオマーカーの対照セットの発現パターンと比較的に類似するか又は異なるとして、被検組織由来の細胞(被検細胞)、例えば腫瘍又は癌の生検のバイオマーカー発現パターンに基づいて決定できる。本発明では、EGFR阻害剤治療に応答しない患者の腫瘍と比較して、EGFR阻害剤治療に応答する患者の腫瘍において、表3に列挙される遺伝子がアップレギュレートされる、すなわちより高い発現レベルを示すことが分かった。したがって、この被検細胞が、癌治療に応答した患者のものに相当するバイオマーカー発現プロファイルを示す場合、その個体の癌又は腫瘍は、EGFR阻害剤での治療に順調に応答する可能性が高いか、又はそうであると予測される。反対に、この被検細胞が、癌治療に応答しなかった患者のものに相当するバイオマーカー発現パターンを示す場合、その個体の癌又は腫瘍は、EGFR阻害剤での治療に応答しない可能性が高いか、又はそうであると予測される。
【0025】
本発明のマーカー遺伝子は、他のバイオマーカーと組み合わされてバイオマーカーセットとなり得る。バイオマーカーセットは、予測マーカーの任意の組み合わせから構成され得、癌患者におけるEGFR阻害剤治療の効果についての予測を可能とする。本明細書において記載されたバイオマーカー及びバイオマーカーセットは、例えば、癌患者がEGFR阻害剤を用いた治療的介入に対してどのように応答するかを予測するために使用され得る。
【0026】
さらなる目的によれば、本発明は、本発明のインビトロの方法により特定される、患者を治療する治療方法を提供する。前記治療方法は、表3に列挙するRAPGEF5遺伝子の予測発現パターンに基づき治療が選択された患者に、EGFR阻害剤を投与することを含んでなる。好ましいEGFR阻害剤はエルロチニブであり、治療される好ましい癌は、NSCLCである。
【実施例】
【0027】
実験の部
試験及び試験設計の原理
近年、NSCLC患者のサブセットの腫瘍組織におけるEGFR遺伝子内の変異、及びエルロチニブ及びゲフィチニブに対する感受性と当該変異との関連が報告された(Pao W,et al.2004;Lynch et al.2004;Paez et al.2004)。2つの試験から組み合わせた患者について、変異EGFRは、ゲフィチニブに応答した14人中13人において観察され、応答しなかった11人のゲフィチニブ治療患者では一人も観察されなかった。報告された当該変異の有病率は、非選択NSCLC患者において8%(25人中2人)であった。当該変異は、腺癌(21%)、女性の腫瘍(20%)、及び日本人患者の腫瘍(26%)においてより頻繁に発見された。当該変異は、EGFRのインビトロ活性を増加させ、ゲフィチニブに対する感受性を増加させる。この変異と、安定疾患期間又は生存期間の延長との関連は、予め評価されていなかった。
【0028】
BR.21の研究による診査解析に基づくと、目的の応答を有する患者が解析から除外されても有意な生存利益が維持されるため(社内資料)、観察された生存利益は、EGFR変異のみに起因する可能性は低いようである。当該効果には、その他の分子メカニズムも寄与しているに違いない。
【0029】
タルセバ(商標)治療に対する応答/利益の予測となる遺伝子発現レベルにおいて変化があるという仮定に基づき、これらの変化を検出するためにマイクロアレイ解析を使用した。
【0030】
この目的のために、一次療法の失敗後にタルセバ(商標)単剤療法で治療した、明確に規定される対象母集団が必要であった。BR.21試験の経験に基づき、利益群とは、目的の応答を有するか、12週以上疾患安定であることとして規定した。臨床及びマイクロアレイのデータセットを、既定の統計計画に従って解析した。
【0031】
本技術の応用には、新鮮凍結組織(fresh frozen tissue(FFT))が必要である。従って、必須の生体検査は治療の開始前に行わなければならなかった。回収した物質を、液体窒素(N2)中で凍結させた。
【0032】
第二の腫瘍試料は、同時に回収しパラフィンに保存した(ホルマリン固定パラフィン包埋(formalin fixed paraffin embedded:FFPE)。この試料を、EGFRシグナル伝達経路における変化について解析した。
【0033】
この試験のためには、気管支鏡検査を用いて腫瘍の生体検査を行うことができなければならない。気管支鏡検査は、肺癌の診断を確認するための標準的方法である。一般的には安全であるが、依然として併発症、即ち出血のリスクがある。
【0034】
この試験は、難治性NSCLCに罹患する患者に対する個別療法の第一歩であった。この個別療法により、治療する医師は、この適応症のために存在する薬物の中から最も適切な剤を選択することが可能となるであろう。
【0035】
個別療法が利用可能となれば、将来の患者各々のための利益は、現在の試験において患者が取らなければならないリスクを上回り、利益を受ける患者の応答率/数を増加させ、非有効治療による副作用のリスクを低減させるだろう。
【0036】
投薬量選択の原理
タルセバ(商標)は、疾患進行、不耐性毒性、又は死亡まで、150mgの用量で1日に1回経口で投与した。この用量の選択は、薬物動態的パラメータに基づいているとともに、この用量の安全性及び耐性プロファイルは、事前に重度の治療をされた進行癌に罹患する患者における、第I、II及びIII相治験において観察された。150mg/日投与される癌患者の血漿中に見られる薬物レベルは、臨床的有効性の目標である平均血漿濃度500ng/mlを常に超えていた。BR.21はこの用量で生存利益を示した。
【0037】
試験の目的
第一の目的は、タルセバ(商標)治療の臨床的利益(CR、PR又はSD≧12週)を予測する、遺伝子の発現差異の確認であった。タルセバ(商標)治療に対して「応答」(CR、PR)を予測する遺伝子の発現差異の確認は、重要なもう一つの目的であった。
第二の目的は、治療からの利益に関するEGFRシグナル経路伝達経路における変化を評価することであった。
【0038】
試験計画
試験設計及び用量計画の概説
これは、非盲検、予測マーカー特定の第II相試験であった。試験は、約12カ国のおよそ26箇所で行われた。少なくとも1回の事前の化学療法計画に失敗した後、進行NSCLCに罹患する264人の患者が、12ヶ月間にわたって登録された。タルセバ(商標)の経口連続投与を、150mg/日の用量で投与した。臨床的及び実験的なパラメータを、疾患制御及び毒性の評価として判断した。疾患の増悪、受容不能毒性又は死亡まで治療を継続した。この試験計画を図1に示す。
【0039】
腫瘍組織及び血液試料は、タルセバ(商標)の有効性を評価するため、及び療法から利益を受ける患者のサブグループを特定するための分子解析用として入手した。
【0040】
予測マーカー評価
治療の開始から2週間以内に腫瘍の生検を採取した。2つの異なる試料を回収した。
第一の試料は、常に液体N2中で速やかに凍結させた。
第二の試料は、ホルマリンで固定化し、パラフィンに包埋させた。
本研究においては、急速凍結(snap frozen)組織の優先度が最も高い。
図2には、試料処理のスキームを示す。
【0041】
マイクロアレイ解析
急速凍結試料を、腫瘍試料のレーザー・キャプチャ・マイクロダイセクション(LCM)のために使用し、腫瘍周辺組織から腫瘍RNAとRNAを抽出した。RNAを、Affymetrixマイクロアレイチップス(HG−U133A)で解析し、患者の腫瘍遺伝子の発現プロファイルを確立した。統計比較に対し十分な品質の試料を選択するために、Affymetrixチップスの品質管理を使用した。
【0042】
ホルマリン固定パラフィン包埋組織での単一バイオマーカー解析
第二の腫瘍生検、FFPE試料を、以下に記載のDNA変異、IHC及びISH解析を行うために使用した。同様の解析を、第一の診断で回収した組織で行った。
【0043】
EGFRをコードする遺伝子のDNA変異状態及びEGFRシグナル伝達経路に関与するその他の分子を、DNA配列解析により解析した。EGFR及び関連遺伝子の遺伝子増幅を、FISHにより調べた。
【0044】
タンパク質発現解析には、EGFR及びEGFRシグナル伝達経路内でのその他のタンパク質の免疫組織化学(IHC)解析がある。
【0045】
応答評価
応答を評価するために、RECIST(単次元の腫瘍測定(Uni−dimensional))基準を使用した。当該基準は、以下のリンク(http://www.eortc.be/recist/)で見ることができる。
【0046】
CR又はPRの状態を割り当てるために、腫瘍における変化の測定は、治療期間中の少なくとも4週間の間隔を置いた任意の時点で評価を繰り返すことにより確認すべきである。
【0047】
SDの場合において、最低6週間の間隔で試験開始後少なくとも1回、追跡測定をSD基準に適合させるべきである。
【0048】
維持SDの場合において、少なくとも12週の維持期間中、試験開始後少なくとも1回、追跡測定をSD基準に適合させるべきである。
【0049】
生存評価
患者の来院又は電話により、3ヶ月ごとに通常状態の確認を行った。死亡は全例記録した。試験の最後に、生存の最終的な確認を患者に要請した。
【0050】
エルロチニブ治療に対する応答
12カ国、26センターからの、合計264名の患者が本試験において登録された。26%がステージIIIBのNSCLCを有し、そして24%がステージIVのNSCLCを有した。患者の13.6%(n=36)は目的の応答を達成したが、31.4%(n=83)は、(目的の応答又は12週間以上の安定のいずれかを有するものとして定義された)臨床的利益を得た。生存期間中央値(Median overall survival)は7.6(CI 7〜9)カ月であり、無増悪生存期間中央値(median progression−free survival)は11.3(CI 8〜12)週間であった。臨床データについての完全な詳細を表1に示す。
【0051】
気管支鏡検査で採取され、新鮮凍結された生検試料を全ての対象から回収したが、全ての試料が、顕微解剖(LCM)に先立って十分な腫瘍量を有するとは限らないか、又はマイクロアレイ分析へと進めるためのLCMの後において十分なRNA収量を有しないかのいずれかであり、その結果、腫瘍材料は125人の患者においてのみ利用可能であり;これらの内122人は評価可能なRNAを有した。20試料の別のセットは、マイクロアレイデータにおける我々の品質制御評価を通過しなかった。統計分析に好適であった102個のマイクロアレイデータにおける臨床特性を、表1に示す。全試験を通じて、36人の患者が目的の応答を達成したが、これらのうち6人がマイクロアレイデータを有した;同様に臨床的利益を得る者に対して、マイクロアレイデータを有する対象の数は、完全なデータセットにおける83人と比較して、たった21人であった。6人は部分的な応答者(PR)であると判断され、31人はSDであり、そして49人はPDであった;PRである6人の患者のうち、5人は腺癌を有し、そして1人は扁平上皮細胞癌を有した。当該データセットにおいて、CRを達成する患者はいなかった。
【0052】
方法
RNA試料調製及びRNA試料の品質管理
全ての生検試料処理は、病理参照研究所で処理された。新鮮凍結組織試料は、調査部門からRoche Baselにおける臨床試料操作設備(Clinical Sample Operations facility)に輸送され、さらなる処理のためにそこから病理研究室に輸送された。周囲の組織から腫瘍細胞を選択するために、レーザー・キャプチャ・マイクロダイセクションを使用した。LCM後に、RNAを富化腫瘍物質から精製した。その後、病理研究室では、RNAの濃度及び品質の推定値を作成するための多数の工程を行った。
【0053】
RNaseは、RNA分解酵素であり、あらゆる場所に存在するため、RNAを使用する場合は、RNA分解を最小限にするよう厳密に制御されるべきである。多くのmRNA種それ自身の半減期はかなり短いため、非常に不安定であると考えられている。従って、任意のアッセイの前に、RNA完全性チェックと定量を行うことは重要である。
【0054】
RNA濃度及び品質プロファイルは、Agilent(Agilent Technologies,Inc.,Palo Alto,CA)製の2100 Bioanalyzer(登録商標)と呼ばれる装置を用いて評価することができる。この装置ソフトウェアは、RNA完全数(RIN)、定量推定値(Schroeder,A., et al.,The RIN:an RNA integrity number for assigning integrity values to RNA measurements.BMC Mol Biol,2006.7:p.3)を出し、総RNA試料のリボソーム比率を計算する。RNA試料の全ての電気泳動バンドからRINを決定するが、ここには分解産物の存在物又は非存在物が含まれる。
【0055】
RNA品質は、2100 Bioanalyzer(登録商標)により解析した。添加したpoly−Iノイズと十分なRNAを超える少なくとも1つのrRNAピークを有する試料だけを、Affymetrix プラットフォームでのさらなる解析のために選択した。精製RNAは、マイクロアレイによる解析のため、Roche Centre for Medical Genomics(RCMG;Basel,Switzerland)に送られた。この病理研究室から受け取った122個のRNA試料をさらに処理した。
【0056】
組織RNA試料の標的標識
Affymetrix(Affymetrix,Santa Clara,California)製の2サイクル標的標識増幅プロトコル(Two−Cycle Target Labeling Amplification Protocol)を用い、製品の指示書に従い標的標識を行った。
【0057】
方法は、標準Eberwine線形増幅方法に基づくが、マイクロアレイに十分なハイブリダイゼーション用の標識cRNAを作製するため、この方法のうち2つのサイクルを用いる。
【0058】
標識反応で使用される総RNA投入量は、10ng以上のRNAが利用できるような試料では10ngであり、利用できる量がこの量より少ないか、あるいは(RNA濃度が非常に低いことにより)利用できる定量データがない場合、総試料の半分を当該反応に使用した。標識反応から得られる産物は、cRNAが20〜180μgの範囲であった。全試料について、cRNAを15μg使用した場合のハイブリダイゼーションレベルで、標準化ステップを導入した。
【0059】
ヒト参照RNA(Human Reference RNA)(Stratagene,Carlsbad,CA,USA)を、各試料バッチのワークフローにおいて、対照試料として使用した。標識及びハイブリダイゼーション試薬が期待通りに機能しているかを確認するため、試験試料と同時に、この10ngのRNAを投入物として使用した。
【0060】
マイクロアレイハイブリダイゼーション
Affymetrix HG−U133Aマイクロアレイには、およそ18,400個の転写物、及び約14,500個の十分に特徴付けられた遺伝子を表す変種を標的とする、22,000個以上のプローブセットが含まれる。
【0061】
全試料のハイブリダイゼーションは、Affymetrix指示書(Affymetrix Inc.,Expression Analysis Technical Manual,2004)に従って行った。簡潔に述べると、各試料に、15μgのビオチン標識cRNAを、二価カチオンの存在下断片化し、加熱し、Affymetrix HG−U133A全長ゲノムオリゴヌクレオチドアレイとハイブリダイズさせた。後日、アレイをストレプトアビジン−フィコエリトリン(Molecular Probes;Eugene,OR)を用い、製品の指示書に従って染色した。その後、GeneChipスキャナー3000(Affymetrix)を用いてアレイをスキャンし、GeneChipオペレーションソフトウェア(GCOS)バージョン1.4(Affymetrix)を用いて、シグナル強度を自動的に計算した。
【0062】
統計解析
Affymetrix(商標)データの解析は、4つの主要なステップから構成された。
【0063】
ステップ1は、品質管理であった。目的は、標準以下品質のプロファイルのアレイデータ解析を特定し、排除することであった。
【0064】
ステップ2は、前処理及び標準化であった。目的は、チップ間の比較に適する、標準化及びスケール化(scaled)した「解析データセット」を作製することであった。これには、背景ノイズの推定と除去、プローブの要約及びスケーリング(scaling)が含まれる。
【0065】
ステップ3は、調査及び記述であった。目的は、変動性の潜在的な偏り及び原因を特定することであった。これは、多変量及び一変量の記述解析技術を、影響共変量を特定するために適用することから成った。
【0066】
ステップ4は、モデリング及び検査であった。目的は、「応答者」(最良応答(best response)が「部分的な応答」又は「完全な応答」である患者)と「非応答者」(最良応答が「増悪(Progressive Disease)」である患者)との間の平均発現レベルにおける差異の、統計的評価に基づく、候補マーカーのリストを特定することであった。これは、統計的に十分なモデルを各プローブセットに適合させること、及び統計的有意性の測定値を導出することから成った。全ての解析は、Rソフトウェアパッケージを用いて行われた。
【0067】
ステップ1:品質管理
データ品質の評価は、複数のパラメータのチェックを基にした。当該パラメータには、標準Affymetrix GeneChip(商標)品質パラメータ、特に、倍率(Scaling Factor)、存在コールと平均背景の割合(Percentage of Present Call and Average Background)が含まれた。本ステップには、局在化ハイブリダイゼーション問題を検出するための、バーチャルチップ画像の視覚的調査、及び平均的挙動からの任意の異常な解離を検出するための、平均的バーチャルチップと各チップとの比較も含まれた。チップ間の相関分析は、異常値試料を検出するためにも行われた。さらに、Agilent Bioanalyzer(商標)2100による、RNA試料の解析から得られたRNA品質の補助的な測定値を考慮に入れた。
【0068】
これらのパラメータに基づき、20アレイから得られたデータを解析から除外した。すなわち、102人の患者に相当する計102アレイから得られたデータを解析した。当該102個の試料セットの臨床記述を表1で報告する。
【0069】
表1:解析に含まれる患者の臨床的特徴の記述
【0070】
【表1】

【0071】
ステップ2:データの前処理及び標準化
前処理及び標準化のために、rmaアルゴリズム(Irizarry,R.A.,et al.,Summaries of Affymetrix GeneChip probe level data.Nucl.Acids Res.,2003.31(4):p.e15)を使用した。この個々のプローブセットのための検出コールを作成するために、mas5アルゴリズム(AFFYMETRIX, GeneChip(登録商標)Expression:Data Analysis Fundamentals.2004,AFFYMETRIX)を使用した。全試料中、「absent」又は「marginal」とコールされたプローブセットをさらなる解析から除外したため、この基準により5930個のプローブセットが除外された。従って、解析データセットは、102人の患者において、16353個(22283個中)を有するマトリクスから構成された。
【0072】
ステップ3:データの記述及び調査
変動性の潜在的な偏りと主要な原因を特定するために、記述的調査解析を行った。遺伝子発現プロファイルに与える潜在的影響を有する共変量のセットをスクリーニングした。ここには、技術的及び臨床的変動性の双方が含まれていた。技術的共変量には、RNA処理(バッチとして後述する)、RIN(RNA品質/完全性の測定値として)、試料回収の操作者及びセンターがあった。臨床的共変量には、組織構造型、喫煙状況、腫瘍悪性度、行動スコア(Oken,M.M.,et al.,Toxicity and response criteria of the Eastern Cooperative Oncology Group.Am J Clin Oncol,1982.5(6):p.649−55)、人口統計的データ、応答状況及び臨床的利益状況があった。
【0073】
この解析ツールには、単変量ANOVA及び主成分分析がある。前記の共変量の各々については、各プローブセットに対し、独立に単変量ANOVAを適用した。
【0074】
バッチ変数の有意な効果を特定した。実際には、バッチ変数は、試料処理のデータとAffymetrixチップのロットとの間の差異をとらえた。バッチ変数が注目の変数からほぼ独立していることを確認後、Johnson,W.E.,C.Li,and A.Rabinovic,Adjusting batch effects in microarray expression data using empirical Bayes methods.Biostat,2007.8(1):p.118−127に記載の方法を用いて、バッチ効果を補正した。
【0075】
バッチ効果補正後の標準化データセットは、その後の解析における解析データセットとして用いた。
【0076】
組織構造及びRINは、記述解析により強調される、追加的な2つの重要変数であった。
【0077】
ステップ4:データのモデリング及び検査
各プローブセットに対し、線形モデルを個別に適合させた。モデルに含まれる変数を表2で報告する。モデルパラメータを、最大尤度技術により推定した。「応答」変数(X1)に相当するパラメータを、「応答性」患者群と、「非応答性」患者群との間の発現レベルにおける差異を調べるために用いた。
【0078】
表2:線形モデルに含まれる変数の記述。正規分布した誤差項を含む、これらの変数によって定義される線形モデルを各々のプローブセットと適合させた。
【0079】
【表2】

【0080】
本試験において、応答変数を以下のように定義した:
・応答=イエス:最良応答として部分的応答を有する患者(n=6)
・応答=ノー:最良応答として増悪(PD)を有する患者か、または腫瘍評価を有さない患者かのいずれか(n=65)
【0081】
原理は、安定状態である患者は除外された(n=31)。治療においてより際立った応答を有する患者に焦点を当てることによって、非応答者群がより均質となるだろうというものであった。
【0082】
各プローブセットiについて、統計的検定の目的は、表2に列挙されるその他の調整共変量(adjustment covariates)を考慮すると、治療に対して応答性のある患者と、応答性のない患者における平均発現レベルが等しいという仮定を否定することであった。形式的に、両側検定で行う対立仮説(alternative)について、等しさの帰無仮説を検定した。当該帰無仮説下において、本試験に対するWald統計量(Wald Statistic)の分布は、自由度64のカイ2乗分布に従う。対応するp値を表3で報告する。
【0083】
線形モデルの選択は、以下の2つの理由により動機付けされた。第一に、線形モデリングは、汎用的で、十分に特徴付けられ、且つ堅実なアプローチであり、注目の変数の影響を推定する場合、交絡変数の調整を可能とする。第二に、71個という試料サイズ、及びデータセットの標準化とスケーリングを考慮すると、正規分布の推定は、合理的且つ正当であった。
【0084】
多重検定の問題を、特異的に発現された遺伝子のリストを同定するための偽検出率(False Discovery Rate)(FDR)基準を使用することによって取り扱った(Benjamini et al.,Journal of the Royal Statistical Society Series B−Methodological,1995.57(1):p.289−300)。閾値0.3未満のFDRを有するプローブセットが著しく示された。カットオフ値0.3は、偽陽性のリスクの厳密な制御を用いた多重検定のための厳密な補正と、真に特異的なマーカーを見失うリスクとの間の合理的な妥協として選択された。同定されたマーカー遺伝子を表3において報告する。
【0085】
表3:「応答者」と「進行者(Progressors)」との比較に基づくマーカー。応答者は、「部分的応答」(PD)と等しい最良応答を有する患者として定義された。「進行者」は、「増悪」(PD)と等しい最良応答を有する患者、又は利用可能な評価の無い患者として定義された。
【0086】
腫瘍評価を有さない患者は、大部分の場合において、疾患の進行若しくは死による早期の離脱のために評価が不足しているために、「進行者」群に含められた。
【0087】
第一カラムは、プローブセットのAffymetrix識別子である。第二カラムは、対応する遺伝子配列のGenBank受託番号である。第三カラムは、対応する公式な遺伝子名である。第四カラムは、線形モデルで推定した、臨床利益のある患者と臨床利益のない患者との間の発現レベルにおける、対応する調整平均倍率変化(adjusted mean fold change)である。第五カラムは、線形モデルから誘導された、「応答者」と「進行者」との間の発現レベルにおける差異についての検定のp値である。第六カラムは、発現レベルにおける調整された平均倍率変化に関する95%信頼区間である。
【0088】
【表3】

【0089】
個々のプローブセットに関して、分散の一様性の仮説を、モデルの残差(residual)に基づくFligner−Killeen検定を使用して評価した。当該分析は以下の3つのステップからなる:
残差分散の同等性に関するカテゴリー変数の全てを、それらのレベル間で検定し、
より小さなp値を有する変数Vを記録し、
より少ないp値が0.001未満である場合、異なるレベルの変数Vが異なる分散を有することができるようなモデルを再適合させる。
【0090】
追加の統計的解析
選択した候補マーカーRAPGEF5について、以下の追加の解析を、有効環境において別々の統計手法によって行った:
・ Affymetrix一次解析から、PFS(無増悪生存率)についての一変量Cox回帰、
・ Affymetrix一次解析からの応答に対する一変量ロジスティック回帰、及び
・ Affymetrix一次解析から、生存についての一変量Cox回帰。
【0091】
これらの解析の結果を以下に示す。これらは、一次解析の結果と一致し、選択した候補マーカーの選択を確認するものである。
【0092】
結果:Affymetrix一次解析から、PFS(無増悪生存率)についての一変量Cox回帰:
【0093】
【表4】

【0094】
結果:Affymetrix一次解析から、応答についての一変量ロジスティック回帰:
【0095】
【表5】

【0096】
結果:Affymetrix一次解析から、生存についての一変量Cox回帰:
【0097】
【表6】

【0098】
qRT−PCR
qRT−PCR用のSuperScript(商標)III First−strand Synthesis SuperMix(Invitrogen,CA,USA)を用い、RNaseH消化を含む点以外は製品の指示書に従い、cDNAを合成した。
【0099】
定量PCRは、ABI PRISM(登録商標)7900HT配列検出システムで、TaqMan(登録商標)遺伝子発現アッセイを用い、製造業者の推奨(Applied Biosystems, CA, USA)に従って行った。全てのアッセイは三重に行った。
【0100】
遺伝子発現アッセイは、Hs00920287_ml[RAPGEF5]を使用し、そしてプライマー及びプローブが、エクソン境界を超えるか、又は目的のAffymetrix Genechip(登録商標)プローブ配列内に存在するように選択された。。ハウスキーピング遺伝子の、ベータ−2−ミクログロブリン(B2M; Assay Hs99999907−m1)及びヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT;Assay Hs99999909−m1)を、内部対照として用いた。
【0101】
全てのランには、標準物質試料(ヒト成人肺由来のMVP(商標)総RNA; Stratagene,CA,USA)及び標準曲線を用いた。ユニバーサルヒト参照総RNA(Universal Human Reference total RNA)(Stratagene,CA,USA)を、EGFR及びPSPH標準曲線のためのテンプレートとして用いた。RAPGEF5 mRNAは、ユニバーサルヒト参照総RNA中に、許容されないほど低レベルで存在し、そしてヒト成人肺由来のMVP(商標)総RNAは、この遺伝子に関する標準曲線を構築するために使用された。全試料は三重に測定した。相対定量を、−ΔCt法を用いて行った。
【0102】
結果
先に記載した通り、本試験で対象とする102人の患者について、Affymetrix Genechip(登録商標)遺伝子発現プロファイルを決定した。qRT−PCRの結果は、これらの患者のうち75人から得られた(表4)。qRT−PCRの結果を得た患者の人口統計学的及び臨床的特徴は、母集団(n=264)のもの、及び入手可能なGenechip(登録商標)遺伝子発現プロファイルを有する患者のものと類似した。
【0103】
表4:基本特性:qRT−PCR解析を行った患者(n=75)
【0104】
【表7】

【0105】
qRT−PCRの結果を得た75人の患者のうち、4人(5%)が部分的応答(PR)、23人(31%)がSD、39人(52%)がPDであり、9人(12%)が評価できなかった。これらの結果は、全試験母集団(n=264)において観察されたものと非常に類似した。
【0106】
Affymetrix Genechip(登録商標)データ、qRT−PCRデータ、及び臨床転帰との間の相関
図3は、Affymetrix Genechip(登録商標)プロファイリング及びqRT−PCRにより評価した、個別の患者におけるRAPGEF5に対する相対的なmRNAレベルを示す。図3aは、Genechip(登録商標)プロファイリングに関する、発現レベル対臨床転帰を示し、図3bは、qRT−PCRに関する、発現レベル対臨床転帰を示す。
【0107】
図3cは、RAPGEF5に関する、Genechip(登録商標)及びqRT−PCR測定との間の相関を示す。
【0108】
RAPGEF5に関する、Genechip(登録商標)及びqRT−PCR測定との間の相関が存在した。エルロチニブを用いた臨床転帰とqRT−PCRによって評価されるRAPGEF mRNAレベルとの間における関連性は、Genechip(登録商標)プロファイリングを用いて観測されるものよりも幾分低いものであった(図3b)。
【0109】
エルロチニブに対する応答に関連する遺伝子の同定
応答者は、最良応答が部分的応答であった患者として定義され、一方で「進行者」は、増悪を有する患者、又は(大部分において、増悪又は死亡による早期の離脱の結果として)評価のなされなかった患者として定義された。したがって、このモデルにおいて、6人の「応答者」は、65人の「進行者」と比較された。
【0110】
HG−U133Aマイクロアレイ上における全体22283個からの任意の試料中に存在しないプローブセットの除去の後における分析において使用されるプローブセットに残存する16353個の各々について、独立して線形モデルを適合した。各々のプローブセットに関する応答者と非応答者との間の発現の違いに関して、p値を計算した。偽検出率(FDR)0.3を、多重検定における補正のために適用した。この分析から同定されたマーカーを表3に示す。
【0111】
考察
癌治療の手段として上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)を標的とすることは、幾つかの上皮癌における、その偏在する異常な発現に基づいて提案された(Davies&Chamberlin 1996,Mendelsohn,2002)。EGFRは、チロシンキンーゼドメインにおける変異の活性化及び/又はその増幅の結果として、40〜80%のNSCLC腫瘍を含む多くの腫瘍の病因及び進行と関係している(Baselga&Albanell,2002;Normanno et al,2006)。活性化において、当該受容体は二量化し、それにより細胞増殖、転移、アポトーシス及び血管新生の阻害において役割を有する下流標的のリン酸化をもたらす。(Mendelsohn&Baselga,2003)。
【0112】
2つの主要な分類のEGFR阻害剤が、当該受容体の細胞外ドメインを標的化するモノクローナル抗体、及び当該受容体の触媒ドメインを標的化する小分子チロシンキナーゼ阻害剤として開発された。後者は、細胞内結合部位に対してATPと競合するエルロチニブを含む。
【0113】
女性であること、非喫煙者である状況、アジア出身であること、及び腺癌組織構造を含む幾つかの要因が、エルロチニブに対する感受性において役割を果たすことが近年明らかとなった;患者のかかる臨床サブセットにおいて応答率の増進が明らかであることを考慮して、患者の層別化に関する予測分子マーカーを明らかにするために、高範囲な取り組みが進行中である。EGFRにおける変異、EGFR遺伝子座の増幅、及びタンパク質レベルにおけるEGFRの過剰発現は、単なる応答の分子決定要因ではないのだが、これらはすべて、変化する程度に対する応答に関連した。
【0114】
高密度オリゴヌクレオチドマイクロアレイ技術を用いて組織試料を分析することによって、そして当該データへ統計的モデリングを適用することによって、我々は、その発現レベルによってエルロチニブに対する応答を(PR対PDの比較により)予測できる遺伝子を同定することができた(表3)。この遺伝子が、7pl5.3に位置しており、そして応答者において過剰発現されている(2.0倍高進されている;p=0.000021)RAPGEF5である。
【0115】
RAPGEF5は、我々の分析において、PDのみ(p=0.000021)と比較して、PRにおいて約2倍高進されることが分かった。RAPGEF5は、RAP1に関するグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)であり、シグナル伝達において機能するGTPaseのRASサブファミリーのメンバーである。GEFは、不活性GDP結合状態と活性GTP結合状態との間を循環することによって、細胞表面受容体とGTPase活性化との間における中心的な連関を提供する。Rap1は、Rasと密接に関連し、そして血小板活性化の制御、T−細胞アネルギー、B細胞活性化、神経分化を含む種々の細胞過程の制御に関係し、そして細胞接着の制御及びインテグリン活性化の調節に関連する。これらの過程の幾つかはまた、NSCLCの進行に関連のある可能性がある。RAPGEF5は、Rap1の制御を通して、血管新生において間接的な役割を有し得、そしてそれは、血管内皮細胞走化性の中心的な調節因子であることが近年示された。血管新生の促進は、腫瘍性成長における顕著な特徴であり;血管新生において中心的な存在の一つである血管内皮増殖因子(VEGF)を特異的に標的とする薬剤であるベバシズマブは、非扁平NSCLCにおける化学療法との併用で、生存期間の延長を近年示した。発癌におけるRAPGEF5の明確な役割が未だ決定されていないが、それは、EGFRがシグナルにおいて知られているMAPK経路へのさらなる連関を提供し得る。
【0116】
表5:RAPGEF5変異体とそれらに対応する配列番号のリスト
【0117】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
EGFR阻害剤を用いた治療に対する癌患者の応答を予測するインビトロ(in vitro)での方法であって、以下のステップ:
患者の腫瘍試料におけるRAPGEF5遺伝子の発現レベルを決定し、そして、
前記RAPGEF5遺伝子の発現レベルを、非応答性患者群の腫瘍における前記RAPGEF5遺伝子の発現レベルの代表値と比較すること
を含み、ここで前記患者の腫瘍試料における前記RAPGEF5遺伝子のより高い発現レベルは、前記治療に応答することになる患者のための指標となる、前記方法。
【請求項2】
前記発現レベルが、マイクロアレイ技術、又はRNA若しくはタンパク質の発現を測定する任意の技術により決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記EGFR阻害剤がエルロチニブである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記癌がNSCLCである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記RAPGEF5遺伝子が、前記応答性患者の腫瘍試料において、非応答性患者群の腫瘍における前記RAPGEF5遺伝子の発現レベルの代表値と比較して、1.5〜2.7倍以上高い発現を示す、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
EGFR阻害剤治療に対する癌患者の応答を予測するための、RAPGEF5遺伝子の使用。
【請求項7】
前記癌がNSCLCである、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記EGFR阻害剤がエルロチニブである、請求項6又は7に記載の使用。
【請求項9】
EGFR阻害剤を患者に投与することを含んでなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により特定される癌患者を治療する方法。
【請求項10】
前記EGFR阻害剤がエルロチニブである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記癌がNSCLCである、請求項9又は10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【公表番号】特表2010−536328(P2010−536328A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520468(P2010−520468)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際出願番号】PCT/EP2008/006519
【国際公開番号】WO2009/021680
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】