説明

EGRクーラー診断システム

【課題】EGRクーラーの冷却効率を低コストで診断することができるEGRクーラー診断システムを提供する。
【解決手段】ディーゼルエンジン1のインテークマニホールド7に設置されたシリンダー吸気圧力センサ15及びインテークマニホールド温度センサ16と、吸気管3の吸入口2近傍に設置された吸入空気量センサ17と、処理手段20とから構成され、その処理手段20は、EGRクーラー11が作動時にEGR弁12を一時的に閉止してインテークマニホールド温度センサ16の測定値を記憶し、次いでEGR弁12を開放して、上記3台のセンサ15〜17の測定値等を用いた一群の式により診断値ΔT4を算出し、所定値と比較することでEGRクーラー11の冷却効率を診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はEGRクーラー診断システムに関し、更に詳しくは、EGRクーラーの冷却効率を低コストで診断することができるEGRクーラー診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排気ガス中の窒素酸化物(NOx:Nitrogen Oxide)を低減することを目的として、排気ガスの一部を吸気に還流させることで、燃焼温度を低く抑えてNOxの生成を抑制する排気ガス再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)が広く実用化されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
通常、EGRは、ディーゼルエンジンの排気管から吸気管へ接続するEGR通路に設けたEGR弁で、排気ガスの分流(EGRガス)量を調整することにより行われる。このとき、EGRガスをそのまま吸気側に循環させると、高温で膨張しているEGRガスがインテークマニホールドに供給されるので、吸気時に気筒内でEGRガスが占める割合が増加し、その分だけ空気量が減少してしまう。その結果、気筒内での燃焼状態が悪化して、排気ガス中の不純物が増加してしまうことになる。そのため、EGR通路の途中に水冷式のEGRクーラーを設置して、EGRガスを冷却して体積を減少させてから、インテークマニホールドに供給することが行われている。
【0004】
一方、EGRガスがEGRクーラーにおいて過度に冷却されると、エンジンの暖機が遅れたり、EGRガス中の水分が結露して気筒内での燃焼不良やエンジンの耐久性低下などを招くおそれがある。このようなことから、EGRクーラーの冷却効率を診断することが重要になっている。
【0005】
従来より、EGRクーラーの冷却効率の診断は、EGRクーラーの出入口にそれぞれ温度センサを設置して、それらの測定値の偏差をモニタすることにより実施されている。しかし、このような方法では、新たに複数台の温度センサを追加することが必要となるため、製造コストの増加を招くという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−41110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、EGRクーラーの冷却効率を低コストで診断することができるEGRクーラー診断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成する本発明のEGRクーラー診断システムは、ディーゼルエンジンのEGRクーラーの冷却効率を診断するEGRクーラー診断システムであって、前記ディーゼルエンジンのインテークマニホールドに設置されたシリンダー吸気圧力センサ及びインテークマニホールド温度センサと、そのインテークマニホールドに接続する吸気管の吸入口近傍に設置された吸入空気量センサと、それら3台のセンサの測定値を処理し、かつEGR通路を開閉するEGR弁を制御する処理手段とを備え、前記処理手段は、前記EGRクーラーの作動時に、前記EGR弁を一時的に閉止して前記インテークマニホールド温度センサの測定値T4OFFを記憶し、次いで前記EGR弁を開放して、前記インテークマニホールド温度センサの測定値T4、シリンダー吸気圧力センサの測定値P2、吸入空気量センサーの測定値m1及びT4OFFを用いて以下の(1)〜(7)式により診断値ΔT4を算出し、前記診断値ΔT4が所定値以下であるときに前記EGRクーラーの冷却効率が劣化していると診断することを特徴とするものである。

【0009】
但し、T4calc:インテークマニホールド温度計算値、T1:インタークーラー出口温度計算値、T2:EGRクーラー出口温度計算値、m2:EGRクーラー出口ガス質量流量計算値、m3:インテークマニホールドガス質量流量計算値、n:ディーゼルエンジンのシリンダー数、R:空気のガス定数、V:ディーゼルエンジンの排気量、η:体積効率、ηEGR:EGRクーラー効率(正常時)、dT:燃焼によるガスの温度上昇をそれぞれ示す。
【0010】
EGRクーラーの冷却効率を診断するための所定値としては20〜30℃の範囲の値を用いることが望ましい。
【0011】
また、処理手段がEGRクーラーの冷却効率の診断結果を通知する通知手段を備えることで、車両の運転者などにEGRクーラーの冷却効率の劣化を早期かつ確実に伝達することができる。
【0012】
本発明のEGRクーラー診断システムは、一般の内燃機関に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のEGRクーラー診断システムによれば、EGRクーラーの出入口に新たに温度センサを設置することなく、従来のセンサを用いるだけでよいため、EGRクーラーの冷却効率を低コストで診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態からなるEGRクーラー診断システムの構成図である。
【図2】処理手段の処理内容を示すフロー図である。
【図3】本発明の別の実施形態からなるEGRクーラー診断システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態からなるEGRクーラー診断システムを示す。
【0017】
このEGRクーラー診断システムが装備されるディーゼルエンジン1では、吸入口2から吸気管3内へ吸入された空気は、エアクリーナー4を通過してからターボチャージャー5により圧縮され、インタークーラー6で冷却された後にインテークマニホールド7を経て4つの気筒8のそれぞれに供給される。そして、各気筒8から燃焼ガスとなって排気管9へ排気されるが、その一部はインタークーラー6の下流側の吸気管3に接続するEGR通路10にEGRガスとなって分流する。EGR通路10には、水冷式のEGRクーラー11と、EGRガスの流量を調整するEGR弁12とが、排気管9側から順に配置されている。また、EGRクーラー11によるEGRガスの過冷却を防止するために、EGRクーラー11の出口と上流側の排気管9とを接続する排気戻し通路13が設けられている。EGR通路10に分流しなかった排気ガスは、ターボチャージャー5を回転駆動させた後に、排出口14から外部へ放出される。
【0018】
本発明のEGRクーラー診断システムは、インテークマニホールド7に設置されたシリンダー吸気圧力センサ15及びインテークマニホールド温度センサ16と、エアクリーナー4とターボチャージャー5との間の吸気管3に設置された吸入空気量センサ17と、それら3台のセンサ15〜17、EGR弁12及びECU(エンジンコントロールユニット)18に、それぞれ信号線19a〜19eを通じて接続する処理手段20とから構成されている。
【0019】
シリンダー吸気圧力センサ15及びインテークマニホールド温度センサ16は、インテークマニホールド7内の空気の圧力及び温度をそれぞれ測定するものである。また、吸入空気量センサ17は、吸入口2から吸入された空気の質量流量を測定する。これら3台のセンサ15〜17は、ディーゼルエンジン1の運転状態を示す測定値をECU18に提供するために、従来から設置されているものである。
【0020】
処理手段20は、記憶部を備えたCPU(中央演算処理装置)から構成され、信号線19a〜10cを通じて3台のセンサ15〜17から測定値を取得するとともに、その処理結果に基づいて、信号線19dを通じてEGR弁12の開度を制御する。なお、図1の例では、処理手段20とECU18とを別体にしているが、処理手段20の機能をECU18に持たせることで一体化するようにしてもよい。
【0021】
このような構成を有するEGRクーラー診断システムの機能を、図2に示すフロー図を基に以下に説明する。
【0022】
処理手段20は、ディーゼルエンジン1の運転条件が成立していることをECU18から送られる信号で確認(S10)すると、EGR弁12を閉止してEGRクーラー11の機能を一時的にオフにする(S20)。そして、インテークマニホールド温度センサ16の測定値をT4OFFとして記憶部に格納する。なお、運転条件が成立する場合としては、EGRクーラー11の入口ガス温度が比較的高温になる高回転かつ高負荷の運転時などが例示される。
【0023】
次に、EGR弁12を開放してEGRクーラー11の機能をオンにしてから(S40)、インテークマニホールド温度センサ16の測定値T4、シリンダー吸気圧力センサ15の測定値P2及び吸入空気量センサ17の測定値m1を取得する(S50)。それら取得した測定値T4、P2、m1及び記憶部に格納している測定値T4OFFを用いて、以下に示す(1)〜(7)式によりEGRクーラーの冷却効率の診断値ΔT4を算出する(S60)。

【0024】
但し、T4calcはインテークマニホールド7の温度の計算値を、T1はインタークーラー6の出口温度の計算値を、T2はEGRクーラー11の出口温度の計算値を、m2はEGRクーラー11の出口ガス質量流量の計算値を、m3はインテークマニホールド7のガス質量流量の計算値をそれぞれ示す。また、定数として、nはディーゼルエンジン1のシリンダー数(気筒8の数)を、Rは空気のガス定数を、Vはディーゼルエンジン1の排気量をそれぞれ示す。更に、ηは体積効率を、ηEGRは正常時におけるEGRクーラー11の冷却効率を、dTは燃焼によるガスの温度上昇をそれぞれ示すが、それらは機器の特性を表すマップデータから得ることができる。例えば、dTは、ディーゼルエンジン1の種類毎に設定された燃料噴射量とエンジン回転数とからなるマップデータから得ることができる。また、通常のηの値は70〜100%、ηEGRの値は80〜100%となる。
【0025】
そして、診断値ΔT4と所定値とを比較して(S70)、診断値ΔT4が所定値以下の場合には、EGRクーラー11の冷却効率が劣化していると診断し(S80)、反対に所定値よりも大きい場合には、EGRクーラー11の冷却効率が正常であると診断する(S90)。
【0026】
以上のように、EGRクーラー11の出入口に新たに温度センサを設置することなく、従来のセンサ15〜17を用いて診断を行うので、EGRクーラー11の冷却効率を低コストで診断することができる。また、従来のセンサ15〜17をそのまま利用するため、既存のディーゼルエンジン1へのEGRクーラー診断システムの取り付けが容易である。
【0027】
EGRクーラー11の冷却効率の診断に用いる所定値は、ディーゼルエンジン1のサイズや性能により変化するが、一般的な大型車両を対象にした場合には、約20〜30℃の範囲の値を用いることが望ましい。
【0028】
図3は、本発明の実施形態からなるEGRクーラー診断システムを示す。
【0029】
このEGRクーラー診断システムは、EGRクーラー11の冷却効率の診断結果を通知する通知手段21を、信号線19fを通じて処理手段20に接続したものである。通知手段21としては、ディーゼルエンジン1を搭載する車両の運転席などに設置されたモニタや警報器などが例示される。
【0030】
このように通知手段21を設けることにより、EGRクーラー11の冷却効率の劣化を、車両の運転者などに早期かつ確実に伝達することができる。
【0031】
本発明のEGRクーラー診断システムの用途は、上述したような車両のディーゼルエンジン1に限るものではなく、その他一般の内燃機関にも適用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 ディーゼルエンジン
2 吸入口
3 吸気管
4 エアクリーナー
5 ターボチャージャー
6 インタークーラー
7 インテークマニホールド
8 気筒
9 排気管
10 EGR通路
11 EGRクーラー
12 EGR弁
13 排気戻し通路
14 排出口
15 シリンダ吸気圧力センサ
16 インテークマニホールド温度センサ
17 吸入空気量センサ
18 ECU
19a〜19f 信号線
20 処理手段
21 通知手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンのEGRクーラーの冷却効率を診断するEGRクーラー診断システムであって、
前記ディーゼルエンジンのインテークマニホールドに設置されたシリンダー吸気圧力センサ及びインテークマニホールド温度センサと、そのインテークマニホールドに接続する吸気管の吸入口近傍に設置された吸入空気量センサと、それら3台のセンサの測定値を処理し、かつEGR通路を開閉するEGR弁を制御する処理手段とを備え、
前記処理手段は、前記EGRクーラーの作動時に、前記EGR弁を一時的に閉止して前記インテークマニホールド温度センサの測定値T4OFFを記憶し、次いで前記EGR弁を開放して、前記インテークマニホールド温度センサの測定値T4、シリンダー吸気圧力センサの測定値P2、吸入空気量センサーの測定値m1及びT4OFFを用いて以下の(1)〜(7)式により診断値ΔT4を算出し、
前記診断値ΔT4が所定値以下であるときに前記EGRクーラーの冷却効率が劣化していると診断することを特徴とするEGRクーラー診断システム。

但し、T4calc:インテークマニホールド温度計算値、T1:インタークーラー出口温度計算値、T2:EGRクーラー出口温度計算値、m2:EGRクーラー出口ガス質量流量計算値、m3:インテークマニホールドガス質量流量計算値、n:ディーゼルエンジンのシリンダー数、R:空気のガス定数、V:ディーゼルエンジンの排気量、η:体積効率、ηEGR:EGRクーラー効率(正常時)、dT:燃焼によるガスの温度上昇をそれぞれ示す。
【請求項2】
前記所定値が20〜30℃である請求項1に記載のEGRクーラー診断システム。
【請求項3】
前記処理手段が前記EGRクーラーの冷却効率の診断結果を通知する通知手段を備える請求項1又は2に記載のEGRクーラー診断システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のEGRクーラー診断システムを搭載したことを特徴とする内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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