説明

ELシートおよび押釦スイッチ用カバー部材

【課題】 延性を向上させて、絞り加工等における延伸や屈曲に耐え得るELシートおよび押釦スイッチ用カバー部材を提供する。
【解決手段】 押釦スイッチ用カバー部材1は、キートップ部2と、キートップ部2を支持するための支持部材とを備え、基板部材20は、回路基板21と、固定接点22,23と、金属製皿バネ部材24とを備える。キートップ部2は、芯材6および芯材6の上面および側面を覆うように積層して形成された絶縁層5、ELシート4および樹脂フィルム3を有する。ELシート4は、透明電極41、易接着層42、発光層43、誘電体層44および対向電極45を有する。易接着層42は、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエステル等の熱可塑性樹脂により形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照光機能を有する電子機器に用いるELシートおよび押釦スイッチ用カバー部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば携帯電話機等の入力部に用いられる押釦スイッチ用カバー部材には、暗所での視認性を確保するために、押釦を構成するキートップ部を照光する照光機能が備えられている。これにより、ユーザが暗所で携帯電話機を使用した場合であっても、各押釦の機能を容易に認識することができる。
【0003】
下記特許文献1には、上述した照光機能を実現するための部材としてEL(エレクトロルミネッセント)シートが用いられた照光式スイッチに関する技術が開示されている。ここで、ELシートは、一般に、透明電極、発光層、誘電体層および対向電極により構成されている。そして、上述した特許文献1に記載されたELシートでは、透明電極と発光層との間に、熱硬化性樹脂または紫外線硬化性樹脂のいずれかからなる密着改善層が設けられている。また、このELシートはフラット状に形成されている。
【特許文献1】特開2004−14144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ELシートの透明電極と発光層との間に、熱硬化性樹脂または紫外線硬化性樹脂からなる密着改善層を形成した場合には、この密着改善層が硬化してしまうため、ELシートの柔軟性が低下し、機械特性が悪化する。また、加熱硬化時と冷却時における熱膨張係数の差が大きくなるため、残留応力が増大する。これらに起因して、接着強度の低下や脆性の増大が招来されるため、例えば、このようなELシートを絞り加工した場合には、延伸させたり屈曲させた際に、クラックや破れが生じてしまうおそれが高い。
【0005】
そこで、本発明は、上述した課題を解決するために、延性を向上させて、絞り加工等における延伸や屈曲に耐え得るELシートおよび押釦スイッチ用カバー部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のELシートは、少なくとも、透明電極、発光層、誘電体層および対向電極を有するELシートであって、透明電極と発光層との間に、熱可塑性樹脂を含む接着層が形成されることを特徴とする。この発明によれば、透明電極と発光層との間に形成される接着層が、熱可塑性樹脂を含んで形成されるため、接着層が熱硬化性樹脂または紫外線硬化性樹脂により形成される場合に比して、延性を向上させることができるとともに、延伸や屈曲によるクラックや破れ、層間剥離を防止することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るELシートおよび押釦スイッチ用カバー部材によれば、延性を向上させることができるため、絞り加工等における延伸や屈曲にも耐えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係る押釦スイッチの実施形態を図面に基づき説明する。なお、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0009】
まず、図1を参照して、実施形態におけるELシートが適用された押釦スイッチについて説明する。図1は、押釦スイッチの断面図である。図1に示す押釦スイッチは、押釦スイッチ用カバー部材1と、基板部材20とに大別される。押釦スイッチ用カバー部材1は、キートップ部2と、必要に応じてキートップ部2を支持するための支持部材(不図示)とを備える。また、基板部材20は、回路基板21と、固定接点22,23と、固定接点22および固定接点23を接続するための金属製皿バネ部材24とを備える。なお、固定接点22,23および金属製皿バネ部材24は、必ずしも基板部材20に含ませて構成する必要はなく、基板部材20から独立した接点部材として構成させてもよい。また、固定接点22と固定接点23とを接続する部材は、上述した金属製皿バネ部材24に限られず、可動接点であればよい。
【0010】
キートップ部2は、キートップ部2の本体を形成する芯材6と、芯材6の上面および側面を覆うように積層して形成された絶縁層5、ELシート4および樹脂フィルム3とを有する。また、樹脂フィルム3とELシート4の間には、凸文字または抜き文字により表された文字・記号等が印刷された印刷部7が形成される。なお、芯材6の固定接点22に対向する面上には、金属製皿バネ部材24を押下するための突起部61が形成されている。
【0011】
絶縁層5は、絶縁性および防湿性を有する材料により形成することが望ましい。このような材料としては、例えば、ポリエステル系、アクリル系、ポリカーボネート系、シリコーン系およびフッ素系の樹脂やゴム、またはこれらの複合物が該当する。また、絶縁層5を絶縁フィルムにより形成してもよい。
【0012】
ELシート4は、透明電極41と、発光層43と、誘電体層44と、対向電極45とを有する。透明電極41と発光層43との間には、易接着層42が形成される。
【0013】
易接着層42は、熱可塑性樹脂により形成される。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ウレタン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、“PMMA”等のアクリル系樹脂、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリアミド、ジエン系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、および“塩化ビニル,ポリビニルエーテル,ポリビニルケトン”等のビニル系樹脂、またはこれらの複合物が該当する。
【0014】
易接着層42を、上述した熱可塑性樹脂で形成することによって、易接着層42の硬度を低く抑えることができる。すなわち、易接着層を熱硬化性樹脂または紫外線硬化性樹脂により形成させた場合に比して、易接着層42の延性を向上させることができる。これにより、ELシート4を絞り加工する際の延伸や屈曲にも耐えることができるようになり、クラックや破れ、層間剥離の発生を防止することができる。
【0015】
ここで、一般に、ELシートを、キートップ部の表面に絞り加工で形成させる場合には、キートップ部の天面に形成されるELシート部分の延伸を最小限に抑えることが好ましい。これは、キートップ部2の天面の加飾印刷部の変形を防止するためである。
【0016】
本実施形態における易接着層42を有するELシート4を、キートップ部2の表面に絞り加工で形成させる場合には、キートップ部2の高さが、各キートップ部2のキー間の半分位までであれば、ELシート4を問題なく延伸させて形成させることが判明している。したがって、本実施形態におけるELシート4は、絞り加工時の屈曲や延伸によってクラックや破れ、層間剥離を生ずることなく、凸凹を有する面、すなわち各キートップ部2の表面に形成させることができる。
【0017】
なお、押釦スイッチ用カバー部材1に用いられるELシート4を、およそ120〜130[℃]に加熱された金型で成形加工する場合には、変形温度が成形温度に近い(金型温度±20[℃])熱可塑性樹脂を易接着層42に用いると、接着性をより向上させることができ有効である。このような変形温度を有する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエステルが該当する。したがって、ポリアクリロニトリルまたはポリエステルを、易接着層42に用いることによって、絞り加工するときの温度領域では、柔らかすぎず硬すぎない程度の流動性を持たせつつ、ある程度の接着力を持たせることができるとともに、成形後の常温においては、十分な接着力を持続させることができる。
【0018】
また、熱可塑性樹脂にカップリング剤を添加して易接着層42を形成させることとしてもよい。これにより、易接着層42の接着力をより高めることができる。すなわち、透明電極41と発光層43との間の接着をより強固にすることができるため、透明電極41と発光層43とが剥離し難くなる。
【0019】
また、熱可塑性樹脂に、熱硬化性樹脂を添加して易接着層42を形成させることとしてもよい。一般に、熱硬化性樹脂は、熱可塑性樹脂に比して、硬度および耐熱性(高温時の接着力)を有する。これにより、熱可塑性樹脂による低い残留応力によって強接着性が保持されつつ、さらに耐熱性をより向上させることができる。また、易接着層42の硬度を適度に高めることができる。
【0020】
透明電極41は、導電性ポリマーにより形成されるが、より好ましくは、透明性を有し、かつ導電性が高いポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンの誘導体により形成するのがよい。
【0021】
発光層43は、例えば、防湿被膜をコーティングした硫化亜鉛等の無機蛍光体粉を、バインダーに分散することにより形成される。バインダーとしては、例えば、フッ素系、ポリエステル系、アクリル系およびエポキシ系の樹脂やゴム、またはこれらの共重合物が該当する。ここで、誘導率の高いバインダーを選択することによって、発光層43をより高輝度に発光させることが可能となる。
【0022】
誘電体層44は、例えば、チタン酸バリウム、酸化チタン等の誘電体粉を、バインダーに分散することにより形成される。なお、バインダーに関しては、発光層43に用いられるバインダーと同様であるため説明を省略する。
【0023】
対向電極45は、例えば、金、銀、銅、ニッケル等の金属もしくは合金、またはカーボンブラック、グラファイト等の導電性フィラーを、ポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系、エポキシ系の樹脂もしくはゴム、またはこれらの共重合物に分散したものからなる導電膜により形成される。また、金、銀、銅、ニッケル等の金属もしくは合金からなる金属膜、またはこれらの複合膜により形成してもよい。なお、複合膜は、例えば、電着、転写、化学メッキ、蒸着により形成される。
【0024】
樹脂フィルム3は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン、ポリアミドからなるフィルムにより形成される。また、これらのアロイ、共重合体等の変性物からなるフィルムにより形成されてもよいし、これらのフィルム数種をラミネーションした複層品により形成されてもよい。
【0025】
[実施例]
次に、図2および図3を参照して、本発明の実施例について説明する。
【0026】
まず、図2(a)に示すように、厚さ125[μm]のポリカーボネートアロイフィルム3(バイホール:バイエル社製商品名)上に、ポリカーボネート系インク(HTR:PROLL社製商品名)を用いて印刷部7を形成した。ここで、印刷部7は、加飾印刷により文字・数字・記号等が凸文字または抜き文字で形成される。
【0027】
次に、図2(b)に示すように、印刷部7およびポリカーボネートアロイフィルム3上に、透明電極41(Orgacon P3040:アグファ社製商品名)を形成した。
【0028】
次に、図2(c)に示すように、透明電極41上に、易接着層42(ケミトリーL20−3:綜研化学社製商品名)を形成した。そして、この易接着層42上に、発光層インク(8155N ELミディアム:デュポン社製商品名)を用いたスクリーン印刷によって発光層43を形成した。また、発光層43および易接着層42上に、誘電体層インク(8153N EL絶縁体ペースト:デュポン社製商品名)を用いたスクリーン印刷によって誘電体層44を形成した。さらに、誘電体層44上に、対向電極インク(7152 ELカーボンペースト:デュポン社製商品名)を用いたスクリーン印刷によって対向電極45を形成した。
【0029】
次に、図3(a)に示すように、端子部インク(7152 ELカーボンペースト:デュポン社製商品名)を用いて電源接続用の端子部8を形成し、その後、絶縁層インク(IN−10C 十条ケミカル社製商品名)を用いて絶縁層5を形成した。これにより、延伸性および屈曲性に優れたELシートが得られた。
【0030】
次に、図3(b)に示すように、130℃の金型を用いて、コンプレッション成形によりELシートを絞り加工するとともに、絞り加工されたELシートと芯材6を形成するポリカーボネート樹脂(ユーピロン:三菱エンジニアリングプラスチックス社製商品名)とを、射出成形により一体化した。これにより、延伸性および屈曲性に優れた押釦スイッチ用カバー部材が得られた。なお、絞り加工における成形方法は、上述したコンプレッション成形に限られず、例えば、真空成形、圧空成形等であってもよい。
【0031】
以上のように、ELシート4の透明電極41と発光層43との間に、熱可塑性樹脂を含む易接着層42を形成することにより、易接着層が熱硬化性樹脂または紫外線硬化性樹脂により形成される場合に比して、延性を向上させることができるとともに、屈曲や延伸によるクラックや破れ、層間剥離を防止することができる。
【0032】
また、熱可塑性樹脂を、例えば、ポリアクリロニトリルまたはポリエステルにより形成させることによって、押釦スイッチ用カバー部材に用いられるELシートとして絞り加工する際に、樹脂の変形温度と、絞り加工時の加熱温度とをほぼ一致させることができるため、絞り加工するときの温度領域では、柔らかすぎず硬すぎない程度の流動性を持たせつつ、ある程度の接着力を持たせることができるとともに、成形後の常温においては、十分な接着力を持続させることができる。
【0033】
なお、上述した押釦スイッチ用カバー部材1では、易接着層42が、透明電極41と発光層43との間にのみ形成されているが、易接着層を、さらに樹脂フィルム3と透明電極41との間に形成させることとしてもよい。
【0034】
また、上述したELシート4は、透明電極41、発光層43、誘電体層44および対向電極45の各層により形成されているが、ELシート4の構成はこれに限られない。例えば、ELシート4が、透明電極41、発光層43、誘電体層44および対向電極45の各層に加え、樹脂フィルム3等の基材をさらに含めて形成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施形態における押釦スイッチの断面図である。
【図2】実施例1における押釦スイッチ用カバー部材の製造工程を説明するための押釦スイッチ用カバー部材の断面図である。
【図3】実施例2における押釦スイッチ用カバー部材の製造工程を説明するための押釦スイッチ用カバー部材の断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1・・・押釦スイッチ用カバー部材、2・・・キートップ部、3・・・樹脂フィルム、4・・・ELシート、41・・・透明電極、42・・・易接着層、43・・・発光層、44・・・誘電体層、45・・・対向電極、5・・・絶縁層、6・・・芯材、61・・・突起部、7・・・印刷部、8・・・端子部、20・・・基板部材、21・・・回路基板、22,23・・・固定接点、24・・・金属製皿バネ部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、透明電極、発光層、誘電体層および対向電極を有するELシートであって、
前記透明電極と前記発光層との間に、熱可塑性樹脂を含む接着層が形成されることを特徴とするELシート。
【請求項2】
請求項1に記載されたELシートによって本体の上面および側面が覆われたキートップ部を備えることを特徴とする押釦スイッチ用カバー部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−40646(P2006−40646A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216435(P2004−216435)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【出願人】(000132518)株式会社セコニック (22)
【Fターム(参考)】