EL装置および電子機器
【課題】 出力される光の色純度を向上させることが可能で、しかも構成が簡単で製造が容易なEL装置を提供する。
【解決手段】 EL装置100は、赤色のR画素と、緑色のG画素と、青色のB画素とを備え、各R,G,B画素は一対の電極4,9間に介在した発光層7を備える。透光性電極4のうち発光層7と反対側の面に形成された絶縁体積層膜18は、低屈折率層17a,17b,17cと高屈折率層16a,16b,16cとを有する。低屈折率層と高屈折率層の各々は一様な厚さを有する。発光層7が発光すると、透光性電極4と絶縁体積層膜18の間の界面ならびに低屈折率層17a,17b,17cと高屈折率層16a,16b,16cの間の界面での反射により、R画素、G画素およびB画素のどの発光ピーク波長でも、絶縁体積層膜がない場合よりも高い強度の光が絶縁体積層膜から放出されるように低屈折率層と高屈折率層の厚さが決定されている。
【解決手段】 EL装置100は、赤色のR画素と、緑色のG画素と、青色のB画素とを備え、各R,G,B画素は一対の電極4,9間に介在した発光層7を備える。透光性電極4のうち発光層7と反対側の面に形成された絶縁体積層膜18は、低屈折率層17a,17b,17cと高屈折率層16a,16b,16cとを有する。低屈折率層と高屈折率層の各々は一様な厚さを有する。発光層7が発光すると、透光性電極4と絶縁体積層膜18の間の界面ならびに低屈折率層17a,17b,17cと高屈折率層16a,16b,16cの間の界面での反射により、R画素、G画素およびB画素のどの発光ピーク波長でも、絶縁体積層膜がない場合よりも高い強度の光が絶縁体積層膜から放出されるように低屈折率層と高屈折率層の厚さが決定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EL装置および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコン、携帯電話機、電子手帳等の電子機器において、情報を表示する手段として複数のエレクトロルミネッセンス(以下、ELと称す)素子を備えるEL装置が提案されている。EL素子では、対向する一対の電極の間にEL層(発光層)が配置されている。
【0003】
EL装置の分野において、異なる屈折率を有する層を交互に積層した多層膜を用いて、特定波長の光を共振させることが知られている。例えば、特許文献1には、ガラス基板全面に形成された誘電体からなる半透明反射膜と、その上に形成されたSiO2からなるスペーサーと、その上に形成された透明陽極と、その上に形成された正孔注入層と、その上に形成された発光層と、その上に形成された陰極とを有するEL装置が開示されている。この発光層は、どの画素においても共通の材料から形成されており白色光を発するが、目的とする出力色を異ならせるために、透明陽極と正孔注入層と発光層の光学距離の和またはSiO2のスペーサの厚さは、目的とする出力色により異なる。従って、同じ白色発光材料から発光層を形成しても、R(赤色)、G(緑色)、B(青色)の出力色が得られる。
【0004】
また、特許文献2には、R,G,B画素についてそれぞれ異なる材料から形成された発光層と、すべての発光層に重なる半透明な反射層群を備えるEL装置が開示されている。半透明な反射層群はすべての発光層に対して同じ構造であるが、出力色の色純度を向上させることを目的として、R光の共振に適した半反射層と、G光の共振に適した半反射層と、B光の共振に適した半反射層を有する。これらの半反射層の各々は、複数の低屈折率層(例えばSiO2の層)と複数の高屈折率層(例えばTiO2の層)とを有しており、これらの低屈折率層と高屈折率層は交互に積層されている。半反射層の各々において、高屈折率層の屈折率n1、その厚さd1、低屈折率層の屈折率n2、その厚さd2は、式(1)の関係を満たすように設定されている。
【0005】
n1・d1=n2・d2=(1/4+m/2)・λ ...(1)
ここで、λは反射されて共振されるべき光の波長であり、mは0以上の整数のいずれかである。従って、半反射層の各々において、低屈折率層は互いに同じ厚さd2を有し、高屈折率層は互いに同じ厚さd1を有する。
【0006】
【特許文献1】特許第2797883号公報
【特許文献2】特表2003−528421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1のEL装置では、白色発光から異なる色を出力することができても、出力される光の色純度を向上させるのは困難である。また、R,G,Bのすべての波長帯域に対して、ある程度の発光強度を持つ白色発光材料は限られている。
【0008】
また、特許文献2のEL装置では、実際には、例えばR画素の赤色発光は、G又はBの光に適した層でかなり反射される。従って、どの色の画素の発光も半透明な反射層群を通過する間にかなり減衰し、所望の共振効果は得られない。また、発光層で発せられた光は、様々な界面で反射したり透過したりして、出力されるまでに多様な経路を通るので、式(1)に準拠して低屈折率層および高屈折率層の厚さを決定することが、顕著な共振効果に結びつくとはいえない。さらに、半透明な反射層群は、R光の共振に適した半反射層と、G光の共振に適した半反射層と、B光の共振に適した半反射層を有するので、層の数が必然的に多く、製造が困難である。
【0009】
そこで、本発明は、出力される光の色純度を向上させることが可能で、しかも構成が簡単で製造が容易なEL装置と、このようなEL装置を備えた電子機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るEL装置の一つの態様は、赤色に相当する光を発光可能なR画素と、緑色に相当する光を発光可能なG画素と、青色に相当する光を発光可能なB画素とを備えるEL装置であって、前記各画素は、一対の電極と、これらの電極の間に挟まれて電気エネルギを与えられることにより発光する発光層とを少なくとも有しており、前記電極のうち一方は透光性電極であり、前記透光性電極のうち前記発光層と反対側の面には、絶縁体積層膜が形成されており、前記絶縁体積層膜は、透光性絶縁体から形成された複数の低屈折率層と、前記低屈折率層よりも高い屈折率を有する透光性絶縁体から形成された複数の高屈折率層とを有しており、これらの低屈折率層と高屈折率層は交互に積層されており、各低屈折率層は、前記R画素、前記G画素および前記B画素の発光領域全域にわたって形成され、前記R画素、前記G画素および前記B画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有しており、各高屈折率層は、前記R画素、前記G画素および前記B画素の発光領域全域にわたって形成され、前記R画素、前記G画素および前記B画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有しており、複数の前記低屈折率層は互いに異なる厚さを有しており、複数の前記高屈折率層は互いに異なる厚さを有しており、前記発光層が発光すると、少なくとも前記透光性電極と前記絶縁体積層膜の間の界面ならびに前記低屈折率層と前記高屈折率層の間の界面での反射により、前記R画素、前記G画素および前記B画素のいずれの発光ピーク波長においても、前記絶縁体積層膜がない場合よりも高い強度の光が前記絶縁体積層膜から放出されるように、前記低屈折率層と前記高屈折率層の厚さが決定されていることを特徴とする。
【0011】
この態様のEL装置では、透光性電極の発光層と反対側において、複数の低屈折率層と複数の高屈折率層が交互に積層された絶縁体積層膜が配置される。低屈折率層と高屈折率層の厚さが適切に決定されることにより、発光層が発光すると、少なくとも透光性電極と絶縁体積層膜の間の界面ならびに低屈折率層と高屈折率層の間の界面での反射により、R画素、G画素およびB画素のいずれの発光ピーク波長においても、絶縁体積層膜がない場合よりも高い強度の光が絶縁体積層膜から放出される。「発光ピーク波長」とは、画素の発光層から放出される光の波長のうち最も強度が高い波長である。本発明では、R画素の発光ピーク波長でも、G画素の発光ピーク波長でも、B画素の発光ピーク波長でも、絶縁体積層膜により高い強度の光が放出される。従って、出力される光の色純度を向上させることが可能である。複数の低屈折率層は互いに異なる厚さを有するが、各低屈折率層は、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有し、複数の高屈折率層は互いに異なる厚さを有するが、各高屈折率層は、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有するので、画素に応じて厚さを変化させる必要がない。すなわちR画素、G画素およびB画素に重なる絶縁体積層膜は共通の構造を有する。また、R光の共振に適した層と、G光の共振に適した層と、B光の共振に適した層を別々に設計する必要もない。従って、このEL装置の構成は簡単であり、製造が容易である。
【0012】
本発明に係るEL装置の他の態様は、赤色に相当する光を発光可能なR画素と、緑色に相当する光を発光可能なG画素と、青色に相当する光を発光可能なB画素とを備えるEL装置であって、前記各画素は、一対の電極と、これらの電極の間に挟まれて電気エネルギを与えられることにより発光する発光層とを少なくとも有しており、前記電極のうち一方は透光性電極であり、前記透光性電極のうち前記発光層と反対側の面には、絶縁体積層膜が形成されており、前記絶縁体積層膜は、透光性絶縁体から形成された低屈折率層と、前記低屈折率層よりも高い屈折率を有する透光性絶縁体から形成された高屈折率層とを有しており、前記低屈折率層は、前記R画素、前記G画素および前記B画素の発光領域全域にわたって形成され、前記R画素、前記G画素および前記B画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有しており、前記高屈折率層は、前記R画素、前記G画素および前記B画素の発光領域全域にわたって形成され、前記R画素、前記G画素および前記B画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有しており、前記絶縁体積層膜側から前記透光性電極および前記発光層に向けて光を入射したとき、少なくとも前記透光性電極と前記絶縁体積層膜の間の界面ならびに前記低屈折率層と前記高屈折率層の間の界面での反射により、前記R画素、前記G画素および前記B画素の各発光ピーク波長の±20nm内にある波長での反射率が、各発光ピーク波長の±50nm内の他の波長での反射率よりも低くなるように、前記低屈折率層と前記高屈折率層の厚さが決定されていることを特徴とする。
【0013】
この態様のEL装置では、透光性電極の発光層と反対側において、低屈折率層と高屈折率層を有する絶縁体積層膜が配置される。低屈折率層と高屈折率層の厚さが適切に決定されることにより、発光層側から透光性電極および絶縁体積層膜に向けて光を入射したとき、少なくとも透光性電極と絶縁体積層膜の間の界面ならびに低屈折率層と高屈折率層の間の界面での反射により、各発光ピーク波長の±20nm内にある波長での反射率が、各発光ピーク波長の±50nm内の他の波長での反射率よりも低くなる。例えば、R画素の発光ピーク波長の±50nmの範囲内で、R画素の発光ピーク波長の±20nm内にある一つの波長での反射率が最低になる。このことによって、出力される光の色純度を向上させることが可能である。この明細書で、「±20nm内」とは、発光ピーク波長の+20nmの波長および−20nmの波長を含み、「±50nm内」とは、発光ピーク波長の+50nmの波長および−50nmの波長を含む意図である。低屈折率層は、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有し、高屈折率層は、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有するので、画素に応じて厚さを変化させる必要がない。すなわちR画素、G画素およびB画素に重なる絶縁体積層膜は共通の構造を有する。また、R光の共振に適した層と、G光の共振に適した層と、B光の共振に適した層を別々に設計する必要もない。従って、このEL装置の構成は簡単であり、製造が容易である。
【0014】
前記透光性電極と前記発光層を含む前記透光性電極から前記発光層までの層の厚さの組合せが、前記画素の発光色に応じて異なると好ましい。これによれば、R画素、G画素およびB画素に重なる絶縁体積層膜が共通の構造を有しながらも、透光性電極から前記発光層までの層の厚さの組合せが、画素の発光色により異なるので、各発光色に応じた適切な反射特性を得ることが容易である。
【0015】
また、本発明に係るEL装置は有機EL装置であってよく、前記発光層と前記透光性電極の間に、前記発光層から前記透光性電極に向けて正孔または電子が漏出することを低減する中間層が配置されていると好ましい。これによれば、中間層がない場合に比べて、発光層内での厚さ方向での発光位置が異なる。例えば、発光層の両面に発光層と電極の間のこのような中間層(正孔ブロック層および電子ブロック層)がない場合に比べて、発光層と透光性電極の間に中間層を設けた場合には、発光層内での発光位置は、この中間層ひいては透光性電極の方に変位し、中間層の材質および/または厚さによっては発光層と中間層の界面で発光することもありうる。従って、この中間層を設けて、その材質および/または厚さを選択することにより、発光層内での厚さ方向での発光位置ひいては発光位置から絶縁体積層膜まで光が進行する光学距離を調整することが可能である。
【0016】
前記絶縁体積層膜は、複数の低屈折率層と、複数の高屈折率層とを有しており、これらの低屈折率層と高屈折率層は交互に積層されており、複数の前記低屈折率層は互いに異なる厚さを有しており、複数の前記高屈折率層は互いに異なる厚さを有していると好ましい。
従来、複数の低屈折率層と複数の高屈折率層が交互に積層された絶縁体積層膜で光を共振させようとする構造では、上記の式(1)に準拠して、低屈折率層は互いに同じ厚さを有し、高屈折率層は互いに同じ厚さを有することが一般的であったが、このような構造で顕著な共振効果が得られるとは限らないことが、本発明の発明者により既に見いだされている。むしろ、複数の低屈折率層は互いに異なる厚さを有し、複数の高屈折率層は互いに異なる厚さを有する方が、R,G,Bのいずれの光も共振させて高いエネルギで放出することが可能である。
【0017】
また、前記絶縁体積層膜の光射出側にカラーフィルタが配設されていてもよい。このようにカラーフィルタを設けることにより、コントラスト及び色純度を向上させることができる。
【0018】
本発明に係る電子機器は、本発明に係る上記のEL装置を例えば表示部として備えることを特徴とする。このような電子機器によれば、出力される光の色純度が高い表示を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明に係る様々な実施の形態を説明する。これらの図面においては、各層や各部材の寸法の比率は、実際のものとは適宜に異なっている。
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態に係るフルカラー発光型の有機EL装置について説明する。図1は有機EL装置100の配線構造を示す図であり、図2は有機EL装置100の断面図である。
図1に示すように、有機EL装置100は、複数の走査線101と、走査線101に対して交差する方向に延びる複数の信号線102と、信号線102に並列に延びる複数の電源線103を備える。走査線101及び信号線102の各交点付近に画素領域Aがマトリクス状に形成されている。
【0020】
信号線102には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン及びアナログスイッチを備えたデータ側駆動回路104が接続されている。また、走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備えた走査側駆動回路105が接続されている。
【0021】
画素領域Aの各々には、走査線101を介して走査信号がゲート電極に供給される第1の薄膜トランジスタ122と、この第1の薄膜トランジスタ122を介して信号線102から供給される画素信号を保持するキャパシタcapと、キャパシタcapによって保持された画素信号がゲート電極に供給される第2の薄膜トランジスタ2とが設けられている。また、画素領域Aには、第2の薄膜トランジスタ2により電源線103に通電されたときに前記電源線103から駆動電流が流れ込む画素電極(陽極)4と、この画素電極4と対向電極(陰極)9との間に配置された発光層7とが設けられている。これらの画素電極4、対向電極9、および発光層7により有機EL素子が構成されている。
【0022】
このような構成によれば、走査線101が駆動されて第1の薄膜トランジスタ122がオンになると、そのときの信号線102の電位がキャパシタcapに保持され、前記キャパシタcapの状態に応じて、第2の薄膜トランジスタ2のオン・オフ状態が決まる。そして、第2の薄膜トランジスタ2のチャネルを介して、電源線103から画素電極4に電流が流れ、さらに発光層7を介して対向電極9に電流が流れる。発光層7は、これを流れる電流量に応じて発光する。
【0023】
図2に示すように、有機EL装置100は、ガラス等の透光性材料から形成された透明基板1と、この透明基板1上にマトリックス状に形成配置された多数の有機EL素子7aを具備する。具体的には有機EL素子7aは、透明基板1に積層された薄膜トランジスタ(TFT)2、透明な画素電極(透明陽極)4、発光層7、対向電極(陰極)9を備える。
【0024】
透明基板1としては、ガラス基板の他に、シリコン基板、石英基板、セラミックス基板、金属基板、プラスチック基板、プラスチックフィルム基板等、公知の様々な基板を使用しうる。透明基板1の図の上面には、発光領域としての複数の画素領域Aがマトリクス状に配列されている。具体的には、カラー表示を行うために、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の各色に対応する画素領域が配列されている。各画素領域Aには、画素電極4が配置され、その近傍には信号線、電源線、走査線等が配置されている。この明細書においては、赤色(R)を発光可能な画素領域AをR画素、緑色(G)を発光可能な画素領域AをG画素、青色(B)を発光可能な画素領域AをB画素と言う。
【0025】
また、透明基板1上には、画素領域Aの画素電極(透明陽極)4にそれぞれ電気的に接続された複数の薄膜トランジスタ2が形成されている。薄膜トランジスタ2の各々は、透明基板1上に島状に配された半導体層13と、半導体層13のドレイン領域に重なるが半導体層13から離間しているゲート電極12と、半導体層13の一端のゲート領域に接続されたゲート電極12と、半導体層13の他端のソース領域に接続されたソース電極11を備える。半導体層13は例えば多結晶シリコン膜から形成され、電極10,11,12は、例えばアルミニウム等から形成されている。公知の技術の通り、ゲート絶縁層30、第1層間絶縁層31および第2層間絶縁層16a〜16c,17a〜17cが設けられることにより、半導体層13、電極10,11,12は互いに異なる高さに配置されている。具体的には、半導体層13はゲート絶縁層30で覆われ、ゲート絶縁層30上に配置されたゲート電極12は第1層間絶縁層31で覆われ、第1層間絶縁層31の上に配置されたソース電極11は第2層間絶縁層16aで覆われ、ドレイン電極10は第2層間絶縁層17cの上に配置されている。
【0026】
図示しないが、公知の技術の通り、絶縁層30,31の間にはゲート電極12に接続されたゲート線が配置され、絶縁層31,16aの間にはソース電極11に接続されたソース線が配置されており、図1に示された様々な線の各々も絶縁層30,31,16a〜16c,17a〜17cのいずれかの層間に配置されている。絶縁層30,31には、ソース電極11と半導体層13のソース領域を電気的に接続するためのコンタクトホール23が形成されている。絶縁層30,31,16a〜17cには、ドレイン電極10と半導体層13のドレイン領域を電気的に接続するためのコンタクトホール24が形成されている。
【0027】
絶縁体積層膜18は、透光性絶縁体から形成された複数の低屈折率層と、低屈折率層よりも高い屈折率を有する透光性絶縁体から形成された複数の高屈折率層とを有しており、これらの低屈折率層と高屈折率層は交互に積層されている。第2層間絶縁層16a〜16cは高屈折率層であり、例えばSiNxまたはTiO2から形成されている。第2層間絶縁層17a〜17cは低屈折率層であり、例えばSiO2から形成されている。第2層間絶縁層16a〜16c,17a〜17cの各々は、透明基板1の上面全体にわたって一様な厚さで形成されており、従って、R画素、G画素およびB画素の発光領域全域にわたって延在し、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有する。後述するように、複数の第2層間絶縁層16a〜16cは互いに異なる厚さを有しており、複数の第2層間絶縁層17a〜17cは互いに異なる厚さを有する。
【0028】
ゲート絶縁層30および第1層間絶縁層31は、例えばSiO2から形成されている。ゲート絶縁層30および第1層間絶縁層31の各々は、TFT2の特性を定める要素であり、一様な厚さを有する。
【0029】
各画素領域Aの画素電極4は、絶縁体積層膜18の最上層の第2層間絶縁層17c上に形成されており、対応するTFT2のドレイン電極10と電気的に接続されている。画素電極4は、例えばITO(インジウム錫酸化物)等の透光性導電材料から形成されている。画素電極4の各々の上には正孔注入/輸送層28が成膜され、正孔注入/輸送層28の各々の上には中間層29が成膜され、中間層29の各々の上には発光層7が成膜されている。さらにすべての発光層7の上には電子注入層8が成膜され、その上には対向電極9が形成されている。つまり、電子注入層8および対向電極9は、すべての画素に共通であり、R画素、G画素およびB画素の発光領域全域にわたって延在する。このようにして、画素電極4は発光層7を挟んで対向電極9と対向しており、発光層7及び対向電極9とともに有機EL素子(発光素子)7aを構成する。
【0030】
正孔注入/輸送層28、中間層29および発光層7は、バンク部(隔壁部)51,52で画定された凹部内に形成されている。第1のバンク部51はSiO2等の無機材料から形成され、第2のバンク部52はアクリルまたはポリイミド等の有機材料またはSiO2等の無機材料から形成されている。第1のバンク部51は、第2層間絶縁層17c上であって、画素電極4の外縁を一部覆っており、内部に発光層7等を配置するための開口部を有する。さらに、第2のバンク部52は第1のバンク部51上に配置され、第1のバンク部51の開口部よりも大径の開口部を有する。
【0031】
正孔注入/輸送層28は、各画素領域Aごとに配置されるが、すべての画素について同じ材料、例えば、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルフォン酸(PSS)との混合物(以下、「PEDOT/PSS」と呼ぶ)によって形成されている。中間層29も、各画素領域Aごとに配置されるが、すべての画素について同じ材料から形成されている。この中間層29は、陰極から来た電子が発光層7から画素電極(陽極)4に向けて漏出することを低減する電子ブロック層であり、例えば正孔注入性の良好なトリフェニルアミン系ポリマーまたはTFB(poly(2,7-(9,9-di-n-octylfluorene)-(1,4-phenylene-(4-secbutylphenyl)imino)-1,4-phenylene))により形成されている。
【0032】
発光層7には、電極4,9間を流れる電流により赤色(R)を発光する赤色発光層7Rと、緑色(G)を発光する緑色発光層7Gと、青色(B)を発光する青色発光層7Bがある。発光層7は、各色毎に異なる有機EL材料にて形成されている。
【0033】
上述の通り、電子注入層8および対向電極9は、すべての画素の共通である。電子注入層8は、例えばLiFから形成されており、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有する。対向電極(陰極)9は、詳細には図示しないが、例えば、カルシウム層とアルミニウム層から構成されている。電子注入層8に近い方がカルシウム製の極めて薄い第2対向電極層であり、電子注入層8に遠い方がアルミニウム製で、より厚い第1対向電極層である。第1対向電極層および第2対向電極層の各々は、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有する。
【0034】
この実施の形態の各発光素子の構成は上記の通りであるが、本発明に利用可能な発光素子のバリエーションとしては、電子注入層8がないタイプや、電子注入層8と発光層7の間に電子輸送層を設けたタイプなど他の層を有するタイプであってもよい。例えば、低分子系の発光層7を使用する場合には、陰極、電子注入層、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層および陽極を有するタイプが一般的に利用されており、高分子系の発光層7については、陰極、発光層、正孔注入層および陽極を有するタイプが多く利用されており、これらのタイプに本発明を利用してもよい。
【0035】
また、この実施の形態では、陽極が透明で陰極が反射性であり発光層7からの光が透明陽極4および絶縁体積層膜18を通じて外部に放出されるが、陽極を反射性、陰極を透明にし透明陰極側に絶縁体積層膜18を配置して発光層7からの光が透明陰極および絶縁体積層膜を通じて外部に放出されるタイプに本発明を利用してもよい。また、この実施の形態の有機EL装置100は、発光層7からの光が基板1を通じて外部に放出されるボトムエミッションタイプであるが。発光層7からの光が基板と反対側に放出されるトップエミッションタイプに本発明を利用してもよい。
【0036】
上述の通り、中間層29は電子ブロック層である。中間層29がない場合に比べて、中間層29があると、発光層内での厚さ方向において中間層29ひいては画素電極(透明陽極)4の方に変位し、中間層29の材質および/または厚さで定まる電子ブロック性能によっては発光層7と中間層29の界面で発光することもありうる。この実施の形態では、発光層7と透明陽極4の間に電子ブロック層としての中間層29が配置されているが、陽極を反射性にし陰極を透明にしたタイプでは、発光層と透明陰極の間に正孔ブロック層としての中間層が配置される。正孔ブロック層とは、陽極から来た正孔が発光層7から対向電極(陰極)9に向けて漏出することを低減する層である。正孔ブロック層があると、発光層内での厚さ方向において正孔ブロック層ひいては陰極の方に変位し、正孔ブロック層の材質および/または厚さで定まる正孔ブロック性能によっては発光層と正孔ブロック層の界面で発光することもありうる。もし発光層7の両側に中間層を設けた場合、すなわち正孔ブロック層と電子ブロック層の両方を設けた場合には、発光層内での厚さ方向での発光位置は、正孔ブロック層と電子ブロック層のうち、ブロック性能の大きい方に近い。従って、少なくとも一方の中間層を設けて、その材質および/または厚さを選択することにより、発光層内での厚さ方向での発光位置ひいては発光位置から絶縁体積層膜まで光が進行する光学距離を調整することが可能である。
【0037】
図3は、この実施の形態に係る有機EL装置100における各層の特性を示す表である。図3において、同じ材料でも重なる画素の色により屈折率が異なるのは、屈折率に波長依存性があるためである。図3に示された屈折率は、R画素が620nm、G画素が540nm、B画素が470nmの光を発することを前提とする。図3の各層の光学距離は、層の厚さと屈折率の積である。図3に示すように、絶縁体積層膜18内の第2層間絶縁層16a〜16c,17a〜17cの各々は、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有する。また、複数の第2層間絶縁層16a〜16cは互いに異なる厚さを有しており、複数の第2層間絶縁層17a〜17cは互いに異なる厚さを有する。
【0038】
絶縁体積層膜18がすべての画素について同じ構成で同じ厚さであるのに対して、画素電極4から発光層7までの層(画素電極4と発光層7を含む)の組合せは、画素の発光色により異なる。R画素に重なる領域では画素電極4の厚さが95nmであるが、G画素およびB画素に重なる領域では画素電極4の厚さは50nmである。R画素およびG画素に重なる領域では正孔注入/輸送層28の厚さが70nmであるが、B画素に重なる領域では正孔注入/輸送層28の厚さは30nmである。発光層7の厚さは、画素の発光色により異なる。
【0039】
図4は、この実施の形態に係る有機EL装置100における画素で発光した光の進路の例を示す模式図である。図4において、実線は層間の界面を示し、一点鎖線は光の進路を示す。図示された光の進路は代表的な例であり、これら以外にも多数の光の進路があるが図を簡明にするために省略する。また、図の一点鎖線の角度は、光の進行角度を正確に示すのではなく、複数の進路を区別しやすいように描写されている。
【0040】
図4は、発光層7と中間層29の間の界面BOで発光したことを前提とする。発光位置からは全方位に向けて発光するが、反射性の対向電極9と電子注入層8の間の界面では、対向電極9に吸収されなかったすべての光が図の右方に反射される。また、光を透過する二つの層の間の界面では反射および屈折が生ずる。すなわち光の一部が界面で反射し、他の一部が屈折して進む。なお、屈折率の高い物質(例えば第2層間絶縁層16a〜16c)から低い物質(例えば第2層間絶縁層17a〜17c)へ光が進むとき、入射角がある角度(臨界角)をこえると,その界面で光がすべて反射する現象、すなわち全反射が生ずるが、屈折率の高い物質から低い物質へ光が進むときでも、入射角が臨界角より小さい場合(垂直入射に近似する場合)には、光は界面で一部だけが反射し残りが屈折して進む。
【0041】
以上の構成により、発光層7が発光すると、中間層29と正孔注入/輸送層28の間の界面、正孔注入/輸送層28と画素電極4の間の界面、画素電極4と絶縁体積層膜18の間の界面ならびに低屈折率の第2層間絶縁層17a〜17cと高屈折率の第2層間絶縁層16a〜16cの間の界面での反射により、共振作用が起こり、R画素、G画素およびB画素のいずれの発光ピーク波長においても、絶縁体積層膜18がない場合より高い強度の光が絶縁体積層膜18から外側(絶縁体積層膜18にとって発光層7の反対側、すなわち透明基板1側)に向けて放出される。「発光ピーク波長」とは、画素の発光層7から放出される光の波長のうち最も強度が高い波長である。本発明では、R画素の発光ピーク波長(620nm)でも、G画素の発光ピーク波長(540nm)でも、B画素の発光ピーク波長(470nm)でも、絶縁体積層膜18により高い強度の光が放出される。従って、出力される光の色純度を向上させることが可能である。
【0042】
換言すれば、この実施の形態では、発光層7が発光すると、前記界面での反射により、R画素、G画素およびB画素のいずれの発光ピーク波長においても、絶縁体積層膜18がない場合よりも高い強度の光が絶縁体積層膜18から外側に向けて放出されるように高屈折率層(第2層間絶縁層16a,16b,16c)及び低屈折率層(第2層間絶縁層17a,17b,17c)の厚さが決定されている。以下、これらの層の厚さの決定手順を説明する。
【0043】
まず、以下に説明する各層の厚さの決定手順の前提を説明する。垂直入射での二つの層の界面での反射率R、透過率T、反射での位相変化φrおよび透過での位相変化φtは、以下の式(2)〜(5)で求められる。但し、n1は入射側の媒質の屈折率、n2は出射側の媒質の屈折率、k2は出射側の媒質の消光係数であり、屈折率および消光係数は光の波長に依存する。
【0044】
R={(n1−n2)2+k22}/{(n1+n2)2+k22} ...(2)
T=4n1n2/{(n1+n2)2+k22} ...(3)
φr=tan−1{2n1k2/(n12−n22−k22)} ...(4)
φt=tan−1{k2/(n1+n2)} ...(5)
【0045】
式(2)〜(5)および各層の厚さを用いて、垂直入射での各界面での反射光の強度(振幅)および位相、ならびに透過光の強度(振幅)および位相を求め、さらに絶縁体積層膜18から外側に向けて放出される合計の光(出力光)の強度(または振幅)を推定した。そして、各層の厚さを変えながら、絶縁体積層膜18から外側に向けて放出される合計の光の発光ピーク波長での強度(または振幅)を推定することを繰り返して、各層の最適な厚さを求めた。強度の推定にあたっては、発光から最大で3回まで反射した光を合計した。それより多く反射した光は層内での光の吸収によりかなり減衰しているためである。
【0046】
条件として、画素電極4、正孔注入/輸送層28および発光層7の厚さを現実的な厚さの範囲内で変化させた。具体的には、画素電極4の材料にはITOを用いることを想定し、その厚さの範囲を40nm〜100nmに限定した。正孔注入/輸送層28の材料にはPEDOT/PSSを用いることを想定し、その厚さの範囲を20nm〜100nmに限定した。発光層7の厚さの範囲は60nm〜100nmに限定した。また、発光層7と中間層29の間の界面BOで発光したことを前提とする(図4参照)。
【0047】
外側に向けて放出される合計の光の発光ピーク波長での強度は、ソフトウェアを使用してシミュレーションにより推定した。具体的には、2005年8月現在で日本国東京のサイバネットシステム株式会社(Cybernet Systems Co., Ltd)から「OPTAS−FILM」という商品名で入手可能なソフトウェアを使用した。
【0048】
(ステップ1)最終的には、R画素、G画素およびB画素に重なる領域のいずれについても、外側に向けて放出される合計の光の発光ピーク波長での強度を可能な限り大きくすることを目的とするが、絶縁体積層膜18の高屈折率層(第2層間絶縁層16a,16b,16c)及び低屈折率層(第2層間絶縁層17a,17b,17c)の厚さをどの領域でも共通にするため、まず、可視光領域のほぼ中心波長である約540nmの発光ピーク波長を持つG画素に重なる領域で、高屈折率層16a、低屈折率層17a、高屈折率層16b、低屈折率層17b、高屈折率層16c、低屈折率層17c、画素電極4G、正孔注入/輸送層28G、中間層29G、および発光層7Gの厚さを最適化した。具体的には、各層の厚さを変えながら、絶縁体積層膜18から外側に向けて放出される合計の光の発光ピーク波長での強度を推定することを繰り返して、発光ピーク波長で最も高い強度の光が放出される厚さの組合せを最適な厚さの組合せとして選択した。屈折率および消光係数は光の波長に依存するので、この段階では、緑波長(540nm)についての光学定数(屈折率および消光係数)を用いた。このようにして得られたのが、図3のG画素に重なる領域についての各層の厚さである。
【0049】
(ステップ2)次に、R画素(発光ピーク波長は約620nm)に重なる領域について、高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの厚さをステップ1で求めた値に固定する一方、画素電極4R、正孔注入/輸送層28R、中間層29R、および発光層7Rの厚さを最適化した。具体的には、高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの厚さを確定条件とし、画素電極4R、正孔注入/輸送層28R、中間層29R、および発光層7Rの厚さを変えながら、絶縁体積層膜18から外側に向けて放出される合計の光の発光ピーク波長での強度を推定することを繰り返して、発光ピーク波長で最も高い強度の光が放出される厚さの組合せを最適な厚さの組合せとして選択した。この段階では、赤波長(620nm)についての光学定数(屈折率および消光係数)を用いた。このようにして得られたのが、図3のR画素に重なる領域についての各層の厚さである。
【0050】
(ステップ3)次に、B画素(発光ピーク波長は約470nm)に重なる領域について、高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの厚さをステップ1で求めた値に固定する一方、画素電極4R、正孔注入/輸送層28R、中間層29R、および発光層7Rの厚さを最適化した。具体的には、高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの厚さを確定条件とし、画素電極4R、正孔注入/輸送層28R、中間層29R、および発光層7Rの厚さを変えながら、絶縁体積層膜18から外側に向けて放出される合計の光の発光ピーク波長での強度を推定することを繰り返して、発光ピーク波長で最も高い強度の光が放出される厚さの組合せを最適な厚さの組合せとして選択した。この段階では、青波長(470nm)についての光学定数(屈折率および消光係数)を用いた。このようにして得られたのが、図3のB画素に重なる領域についての各層の厚さである。
【0051】
以上のように、まずG画素に重なる領域について、絶縁体積層膜18の高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの厚さを含む各層の厚さを決定し、この後、他の画素に重なる領域について、絶縁体積層膜18のこれらの層を固定し、他の層の厚さを決定する。但し、高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの最適化ステップ(ステップ1)でR,G,Bのいずれの画素に重なる領域を厚さ決定の基準にしてもよい。しかし、この実施の形態のように、可視光のほぼ中心波長であるG画素に重なる領域を基準にすると、R画素、G画素、B画素に重なる領域のいずれについても、高い強度の光を外側に放出するように、画素電極4、正孔注入/輸送層28、中間層29、および発光層7の厚さを決定するのが容易である。
【0052】
図5は、この実施の形態の有機EL装置100の各画素に重なる領域から透明基板1を経て放出された光のスペクトルを示すグラフである。図6は、比較例の有機EL装置の各画素に重なる領域から透明基板を経て放出された光のスペクトルを示すグラフである。これらの図において、赤、緑、青で区別される曲線は、それぞれR画素、G画素およびB画素に重なる領域から放出された光のスペクトルを示す。図示しないが、比較例の有機EL装置は、ガラス製の透明基板と、その上に形成された厚さ600nmのSiNx製の単一の層間絶縁層と、その上に形成されたR,G,Bの有機EL素子を有する。比較例の各有機EL素子は、層間絶縁層上に形成された厚さ50nmのITO製の画素電極(透明陽極)と、その上に形成されたPEDOT/PSS製の正孔注入/輸送層と、その上に形成された中間層(電子ブロック層)と、その上に形成された発光層と、その上に形成された反射性の金属製の陰極を有する。いずれの色の有機EL素子についても、画素電極、正孔注入/輸送層、中間層および発光層の厚さは共通である。
【0053】
図5において、相対強度は、絶縁体積層膜18がないが他の条件はこの実施の形態と同じ有機EL装置のR画素、G画素およびB画素に重なる領域から放出された光のスペクトルにおける最大強度で、この実施の形態の有機EL装置100の放出光の強度を除算して得られたものである。図6において、相対強度は、層間絶縁層がないが他の条件は比較例と同じ有機EL装置のR画素、G画素およびB画素に重なる領域から放出された光のスペクトルにおける最大強度で、比較例の有機EL装置の放出光の強度を除算して得られたものである。図5および図6から明らかなように、この実施の形態によれば、比較例すなわち従来技術の有機EL装置に比べて、各色の強度が大きく、スペクトル半値幅が狭い。従って、この実施の形態によれば、出力される光の色純度を向上させることが可能である。
【0054】
以上のように、この実施の形態によれば、R画素の発光ピーク波長でも、G画素の発光ピーク波長でも、B画素の発光ピーク波長でも、絶縁体積層膜18により高い強度の光が放出される。従って、出力される光の色純度を向上させることが可能である。絶縁体積層膜18内の複数の低屈折率層17a,17b,17cは互いに異なる厚さを有するが、低屈折率層17a,17b,17cの各々は、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有し、複数の高屈折率層16a,16b,16cは互いに異なる厚さを有するが、高屈折率層16a,16b,16cの各々は、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有するので、画素に応じて厚さを変化させる必要がない。すなわちR画素、G画素およびB画素に重なる絶縁体積層膜18は共通の構造を有する。また、R光の共振に適した層と、G光の共振に適した層と、B光の共振に適した層を別々に設計する必要もない。従って、この有機EL装置100の構成は簡単であり、製造が容易である。
【0055】
従来、複数の低屈折率層と複数の高屈折率層が交互に積層された絶縁体積層膜で光を共振させようとする構造では、上記の式(1)に準拠して、低屈折率層は互いに同じ厚さを有し、高屈折率層は互いに同じ厚さを有することが一般的であったが、このような構造で顕著な共振効果が得られるとは限らないことが、本発明の発明者により既に見いだされている。むしろ、この実施の形態のように、複数の低屈折率層17a,17b,17cは互いに異なる厚さを有し、複数の高屈折率層16a,16b,16cは互いに異なる厚さを有する方が、R,G,Bのいずれの光も共振させて高い強度で放出することが可能である。
【0056】
また、この実施の形態によれば、画素電極(透光性電極)4から発光層7までの層(画素電極4と発光層7を含む)の厚さの組合せが、画素の発光色に応じて異なるので、R画素、G画素およびB画素に重なる絶縁体積層膜18が共通の構造を有しながらも、各発光色に応じた適切な反射特性を得ることが容易である。領域によって異なる厚さの薄膜を形成することは、困難であったり工程が複雑化したりすることが多いが、特に高分子系の発光層7を使用する場合には、正孔注入/輸送層28および発光層7の形成にあたってインクジェット法のように液体材料を滴下する方法をとることが可能であるため、液体材料の滴下量を適切に調整することで、正孔注入/輸送層28および発光層7の厚さを制御することが容易である。
【0057】
この実施の形態では、発光層7と正孔注入/輸送層28の間に電子ブロック層としての中間層29を設けており、出力光の強度の推定では、発光層7と中間層29の間の界面BO(図4参照)で発光したことを前提とする。但し、このような中間層を設けなくてもよい。中間層29が無い場合、発光位置は正孔注入/輸送層28、発光層7および電子注入層8の特性で定まる電子と正孔のバランスする位置で発光する。例えば、中間層が無く、正孔注入/輸送層28としてPEDOT/PSSを用い、電子注入層8としてLiFを用いた場合、いずれの画素についても界面BOではなく発光層7内で発光する。R画素では界面BOから約30nmの位置で発光し、G画素では界面BOから約40nmの位置で発光し、B画素では界面BOからで約30nmの位置で発光する。中間層がない場合には、これらの発光位置を用いて、上記の方法に準じて出力光の強度を計算できる。
【0058】
次に、上記の有機EL装置の製造方法の一例を説明する。
先ず、図7(a)に示すように、予め用意した透明基板1の上に島状の半導体層13を形成する。ここでは、多結晶シリコン膜をフォトリソグラフィ法により、各画素領域A(図2参照)に半導体層13が一対一で対応するように形成する。
【0059】
次に、半導体層13を覆うように透明基板1上にゲート絶縁層30を形成する。具体的には、SiO2をCVD法またはその他の蒸着法等により、膜厚75nmに形成する。そして、前記ゲート絶縁層30上であって、半導体層13のチャネル領域に重なる領域上に島状のゲート電極12を形成する。具体的には、Al膜をスパッタリング法等により形成し、これをフォトリソグラフィ法にてパターニングする。
【0060】
続いて、図7(b)に示すように、第1層間絶縁層31を形成する。具体的には、SiO2膜をCVD法またはその他の蒸着法等により、膜厚800nmに形成する。続いて、半導体層13のソース領域に接続されるコンタクトホール23を形成する。具体的には、ゲート絶縁層30および第1層間絶縁層31に対するマスクエッチングにより、半導体層13のソース領域に達する貫通孔を形成し、この貫通孔にAl等の導電材料を充填することでコンタクトホール23を形成する。その後、第1層間絶縁層31上に、コンタクトホール23に接続されるソース電極11を形成し、さらに、ソース電極11を覆うように第1層間絶縁層31上に第2層間絶縁層16a,16b,17a,17b,16c,17cを形成する。
【0061】
次に、第2層間絶縁層16a〜17cに、半導体層13のドレイン領域に接続されるコンタクトホール24を形成する。具体的には、第2層間絶縁層16a〜17cに対するマスクエッチングにより、半導体層13のドレイン領域に達する貫通孔を形成し、この貫通孔にAl等の導電材料を充填することでコンタクトホール24を形成する。その後、第2層間絶縁層17c上に、コンタクトホール24に接続される画素電極4を形成する。具体的には、ITOをスパッタリング法等により所定パターンに形成する。画素電極4は、各色毎に上述した最適化膜厚に形成する。具体的にはR画素の画素電極4Rは95nm、G画素の画素電極4Gは50nm、B画素の画素電極4Bは50nmの厚さに形成する。
【0062】
次に、図8(a)に示すように、各画素領域A(図2参照)に対応する開口部51aを有するSiO2製の第1のバンク部(隔壁)51を形成する。具体的には、SiO2薄膜形成工程、フォトリソグラフィ工程およびエッチング工程を行う。第1のバンク部51は、開口部51aの周縁部が画素電極4の外縁部に重なるよう形成する。さらに、第1のバンク部51の上に、各画素領域Aに対応する開口部52aを有する第2のバンク部(隔壁)52を形成する。この第2のバンク部52は、ポリアクリル樹脂製であり、ポリアクリル樹脂を含有する溶液の塗布工程、塗布された膜の乾燥工程、フォトリソグラフィ工程、およびエッチング工程により形成する。
【0063】
次に、図8(b)に示すように、各バンク部51,52で形成された開口部51a,52a内の画素電極4上に液状組成物61を配置する。ここで、前記液状組成物61の配置方法としては、公知の液相法(ウエットプロセス、湿式塗布法)が採用され、例えば、スピンコート法、インクジェット(液滴吐出)法、スリットコート法、ディップコート法、スプレー成膜法、印刷法等が用いられる。このような液相法は高分子材料を成膜するには好適な方法であり、気相法と比較して真空装置等の高価な設備を用いることなく安価に有機EL装置を製造することができる。このような液相法を用いることにより、液状組成物61が各開口部5内の画素電極4上に形成される。
【0064】
液状組成物61は、正孔注入/輸送層28を形成するための材料を溶媒に溶解ないし分散したもの、中間層29を形成するための材料を溶媒に溶解ないし分散したもの、発光層(有機EL層)7を形成するための材料を溶媒に溶解ないし分散したものである。つまり、正孔注入/輸送層28、中間層29および発光層7の各々を形成するたびに、各層の材料となる液状組成物61の配置が行われ、乾燥される。図8(C)に示すように、正孔注入/輸送層28を形成した後、中間層29を形成し、さらにこの後、各色の発光層7R,7G,7Bを形成する。
【0065】
正孔注入/輸送層28は、各色毎に上述した最適化膜厚に、具体的にはR画素の正孔注入/輸送層28Rは70nm、G画素の正孔注入/輸送層28Gは70nm、B画素の正孔注入/輸送層28Bは30nmの厚さに形成する。また、中間層29は、各色毎に上述した最適化膜厚に、具体的にはR画素の中間層29Rは8nm、G画素の中間層29Gは8nm、B画素の中間層29Bは8nmの厚さに形成する。また、発光層7は、各色毎に上述した最適化膜厚に、具体的にはR画素の発光層7Rは96nm、G画素の発光層7Gは90nm、B画素の発光層7Bは70nmの厚さに形成する。
【0066】
続いて、透明基板1上の全面(すなわち、画素領域内に相当する開口部5内の発光層7上と第2隔壁52上)にLiFからなる電子注入層8を真空蒸着法等により形成し、さらに電子注入層8上にAlからなる対向電極(陰極)9を真空蒸着法等により形成することで、図2に示す構成を有した有機EL装置100を得る。
【0067】
<第2の実施の形態>
次に、第1の実施の形態と同じ構造の有機EL装置100の各層の厚さを決定する他の手順を説明する。この方法では、外部から有機EL装置100に、透明基板1および絶縁体積層膜18から画素電極4および発光層7に向けて、等エネルギー白色光を垂直入射したと仮定して、R,G,Bの画素の各発光ピーク波長での反射光強度が最小となるように、各層の厚さを決定する。但し、外部から有機EL装置100に垂直入射する光は等エネルギー白色光に限定する必要はなく、反射率に着目すると、この実施の形態の厚さを決定する方法は、R画素、G画素およびB画素の各発光ピーク波長での反射率が最小となるように、各層の厚さを決定することと等価である。ここでいう「反射光強度」とは、絶縁体積層膜18から画素電極4および発光層7に向かう入射光の反射光つまり画素電極4から絶縁体積層膜18に向かう方向への合計の出力光の強度であり、「反射率」とは、絶縁体積層膜18から画素電極4および発光層7に向かう入射光の強度に対する反射光つまり画素電極4から絶縁体積層膜18に向かう方向への合計の出力光の強度の比である。この決定方法によっても、第1の実施の形態と同様の厚さの組合せ(図3に示す)が得られ、出力される光の色純度を向上させることが可能である。
【0068】
従って、得られる有機EL装置100では、発光層7が発光すると、中間層29と正孔注入/輸送層28の間の界面、正孔注入/輸送層28と画素電極4の間の界面、画素電極4と絶縁体積層膜18の間の界面ならびに低屈折率の第2層間絶縁層17a〜17cと高屈折率の第2層間絶縁層16a〜16cの間の界面での反射により、共振作用が起こり、R画素、G画素およびB画素のいずれの発光ピーク波長においても、絶縁体積層膜18がない場合よりも高い強度の光が絶縁体積層膜18から外側(絶縁体積層膜18にとって発光層7の反対側、すなわち透明基板1側)に向けて放出される。また、同じ有機EL装置100で、絶縁体積層膜18側から画素電極(透光性電極)4および発光層7に向けて光を垂直入射したとき、中間層29と正孔注入/輸送層28の間の界面、正孔注入/輸送層28と画素電極4の間の界面、画素電極4と絶縁体積層膜18の間の界面ならびに低屈折率の第2層間絶縁層17a〜17cと高屈折率の第2層間絶縁層16a〜16cの間の界面での反射により、R画素、G画素およびB画素の各発光ピーク波長±20nm内にある一つの波長での反射率が、その発光ピーク波長の±50nm内の他の波長での反射率よりも低くなる。例えば、外部から有機EL装置100に光を垂直入射したときに、R画素の発光ピーク波長(620nm)の±50nmの範囲内で、R画素の発光ピーク波長の±20nm内にある一つの波長での反射率が最低になる。
【0069】
図9は、この実施の形態に係る有機EL装置100における垂直入射光ILに起因する光の進路の例を示す模式図である。図9において、実線は層間の界面を示し、一点鎖線は光の進路を示す。図示された光の進路は代表的な例であり、これら以外にも多数の光の進路があるが図を簡明にするために省略する。また、図の一点鎖線の角度は、光の進行角度を正確に示すのではなく、複数の進路を区別しやすいように描写されている。図9から明らかなように、反射性の対向電極9と電子注入層8の間の界面では、対向電極9に吸収されなかったすべての光が図の右方に反射される。また、光を透過する二つの層の間の界面では反射および屈折が生ずる。結果的に画素電極4から絶縁体積層膜18に向かう方向への反射光が絶縁体積層膜18から図の右側に出射される。これらの反射光の合計、または入射光に対する反射光の合計の比である反射率を用いて、この実施の形態では、各層の厚さを決定する。
【0070】
まず、以下に説明する各層の厚さの決定手順の前提を説明する。垂直入射での二つの層の界面での反射率R、透過率T、反射での位相変化φrおよび透過での位相変化φtは、以下の式(2)〜(5)で求められる。但し、n1は入射側の媒質の屈折率、n2は出射側の媒質の屈折率、k2は出射側の媒質の消光係数であり、屈折率および消光係数は光の波長に依存する。
【0071】
R={(n1−n2)2+k22}/{(n1+n2)2+k22} ...(2)
T=4n1n2/{(n1+n2)2+k22} ...(3)
φr=tan−1{2n1k2/(n12−n22−k22)} ...(4)
φt=tan−1{k2/(n1+n2)} ...(5)
【0072】
式(2)〜(5)および各層の厚さを用いて、外部から透明基板1を経て有機EL装置100に垂直入射する等エネルギー白色光について各界面での反射光の強度(振幅)および位相、ならびに透過光の強度(振幅)および位相を求め、内部反射して透明基板1を経て外部に出射する合計の反射光の強度(または振幅)を推定した。そして、各層の厚さを変えながら、絶縁体積層膜18から外側に向けて放出される合計の反射光の強度を推定することを繰り返して、各層の最適な厚さを求めた。強度の推定にあたっては、発光から最大で3回まで反射した光を合計した。それより多く反射した光は層内での光の吸収によりかなり減衰しているためである。
【0073】
条件として、画素電極4、正孔注入/輸送層28および発光層7の厚さを現実的な厚さの範囲内で変化させた。具体的には、画素電極4の材料にはITOを用いることを想定し、その厚さの範囲を40nm〜100nmに限定した。正孔注入/輸送層28の材料にはPEDOT/PSSを用いることを想定し、その厚さの範囲を20nm〜100nmに限定した。発光層7の厚さの範囲は60nm〜100nmに限定した。
【0074】
外側に向けて放出される合計の反射光の強度は、ソフトウェアを使用してシミュレーションにより推定した。具体的には、2005年8月現在で日本国東京のサイバネットシステム株式会社(Cybernet Systems Co., Ltd)から「OPTAS−FILM」という商品名で入手可能なソフトウェアを使用した。
【0075】
(ステップ1)最終的には、R画素、G画素およびB画素に重なる領域のいずれについても、対応する画素の発光ピーク波長での反射光強度を可能な限り小さくすることを目的とするが、絶縁体積層膜18の高屈折率層(第2層間絶縁層16a,16b,16c)及び低屈折率層(第2層間絶縁層17a,17b,17c)の厚さをどの領域でも共通にするため、まず、可視光領域のほぼ中心波長である約540nmの発光ピーク波長を持つG画素に重なる領域で、高屈折率層16a、低屈折率層17a、高屈折率層16b、低屈折率層17b、高屈折率層16c、低屈折率層17c、画素電極4G、正孔注入/輸送層28G、中間層29G、および発光層7Gの厚さを最適化した。具体的には、各層の厚さを変えながら、外側に向けて放出される合計の反射光の発光ピーク波長での強度を推定することを繰り返して、発光ピーク波長で最も低い強度の反射光が放出される厚さの組合せを最適な厚さの組合せとして選択した。屈折率および消光係数は光の波長に依存するので、この段階では、緑波長(540nm)についての光学定数(屈折率および消光係数)を用いた。このようにして、図3のG画素に重なる領域についての各層の厚さと同じ厚さが得られた。
【0076】
(ステップ2)次に、R画素(発光ピーク波長は約620nm)に重なる領域について、高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの厚さをステップ1で求めた値に固定する一方、画素電極4R、正孔注入/輸送層28R、中間層29R、および発光層7Rの厚さを最適化した。具体的には、高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの厚さを確定条件とし、画素電極4R、正孔注入/輸送層28R、中間層29R、および発光層7Rの厚さを変えながら、絶縁体積層膜18から外側に向けて放出される合計の反射光の発光ピーク波長での強度を推定することを繰り返して、発光ピーク波長で最も低い強度の反射光が放出される厚さの組合せを最適な厚さの組合せとして選択した。この段階では、赤波長(620nm)についての光学定数(屈折率および消光係数)を用いた。このようにして、図3のR画素に重なる領域についての各層の厚さと同じ厚さが得られた。
【0077】
(ステップ3)次に、B画素(発光ピーク波長は約470nm)に重なる領域について、高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの厚さをステップ1で求めた値に固定する一方、画素電極4R、正孔注入/輸送層28R、中間層29R、および発光層7Rの厚さを最適化した。具体的には、高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの厚さを確定条件とし、画素電極4R、正孔注入/輸送層28R、中間層29R、および発光層7Rの厚さを変えながら、絶縁体積層膜18から外側に向けて放出される合計の反射光の発光ピーク波長での強度を推定することを繰り返して、発光ピーク波長で最も低い強度の反射光が放出される厚さの組合せを最適な厚さの組合せとして選択した。この段階では、青波長(470nm)についての光学定数(屈折率および消光係数)を用いた。このようにして、図3のB画素に重なる領域についての各層の厚さと同じ厚さが得られた。
【0078】
以上のように、まずG画素に重なる領域について、絶縁体積層膜18の高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの厚さを含む各層の厚さを決定し、この後、他の画素に重なる領域について、絶縁体積層膜18のこれらの層を固定し、他の層の厚さを決定する。但し、高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの最適化ステップ(ステップ1)でR,G,Bのいずれの画素に重なる領域を厚さ決定の基準にしてもよい。しかし、この実施の形態のように、可視光のほぼ中心波長であるG画素に重なる領域を基準にすると、R画素、G画素、B画素に重なる領域のいずれについても、高い強度の光を外側に放出するように、画素電極4、正孔注入/輸送層28、中間層29、および発光層7の厚さを決定するのが容易である。
【0079】
図10から図12は、このようにして得られた有機EL装置100での各画素に重なる領域についての外部から透明基板1を経て有機EL装置100に垂直入射する光に対する反射率スペクトルを示す図である。図10は、R画素に重なる領域についての反射率スペクトルを示し、図11はG画素に重なる領域についての反射率スペクトルを示し、図12はB画素に重なる領域についての反射率スペクトルを示す。これらの図から、R画素、G画素およびB画素の各発光ピーク波長±20nm内にある一つの波長での反射率が、その発光ピーク波長の±50nm内の他の波長での反射率よりも低くなることが確認された。例えば、外部から有機EL装置100に光を垂直入射したときに、R画素の発光ピーク波長(620nm)の±50nmの範囲内で、R画素の発光ピーク波長の±20nm内にある一つの波長での反射率が最低になった。
【0080】
この実施の形態に係る各層の厚さの決定方法によれば、第1の実施の形態と同じ有機EL装置100(図3に詳細を示す)が得られる。従って、この実施の形態に従って得られる有機EL装置100の各画素に重なる領域から透明基板1を経て放出された光のスペクトルを示すグラフは図5と同じである。第1の実施の形態に関して上述した通り、図5と比較例に関する図6を参照すると明らかな通り、この実施の形態によれば、出力される光の色純度を向上させることが可能である。
【0081】
また、絶縁体積層膜18内の複数の低屈折率層17a,17b,17cは互いに異なる厚さを有するが、低屈折率層17a,17b,17cの各々は、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有し、複数の高屈折率層16a,16b,16cは互いに異なる厚さを有するが、高屈折率層16a,16b,16cの各々は、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有するので、画素に応じて厚さを変化させる必要がない。すなわちR画素、G画素およびB画素に重なる絶縁体積層膜18は共通の構造を有する。また、R光の共振に適した層と、G光の共振に適した層と、B光の共振に適した層を別々に設計する必要もない。また、第2層間絶縁層16a〜16c,17a〜17cが一様な厚さを有するので、エッチングによりすべてのコンタクトホール24を一括して形成することが出来る。従って、この有機EL装置100の構成は簡単であり、製造が容易である。
【0082】
従来、複数の低屈折率層と複数の高屈折率層が交互に積層された絶縁体積層膜で光を共振させようとする構造では、上記の式(1)に準拠して、低屈折率層は互いに同じ厚さを有し、高屈折率層は互いに同じ厚さを有することが一般的であったが、このような構造で顕著な共振効果が得られるとは限らないことが、本発明の発明者により既に見いだされている。むしろ、この実施の形態のように、複数の低屈折率層17a,17b,17cは互いに異なる厚さを有し、複数の高屈折率層16a,16b,16cは互いに異なる厚さを有する方が、R,G,Bのいずれの光も共振させて高い強度で放出することが可能である。
【0083】
また、この実施の形態によれば、画素電極(透光性電極)4から発光層7までの層(画素電極4と発光層7を含む)の厚さの組合せが、画素の発光色に応じて異なるので、R画素、G画素およびB画素に重なる絶縁体積層膜18が共通の構造を有しながらも、各発光色に応じた適切な反射特性を得ることが容易である。領域によって異なる厚さの薄膜を形成することは、困難であったり工程が複雑化したりすることが多いが、特に高分子系の発光層7を使用する場合には、正孔注入/輸送層28および発光層7の形成にあたってインクジェット法のように液体材料を滴下する方法をとることが可能であるため、液体材料の滴下量を適切に調整することで、正孔注入/輸送層28および発光層7の厚さを制御することが容易である。
【0084】
<他の厚さの組合せ>
上述の第1の実施の形態および第2の実施の形態に従って各層の厚さを算出すると、上述した厚さの組合せ(図3)だけでなく、他の組合せが得られる。これらの組合せ(タイプA〜タイプL)を図13から図15に示す。図13から図15でR,G,Bは、それぞれR画素に重なる領域、G画素に重なる領域、B画素に重なる領域を表す。図3と同様に、これらの図で上の行ほど、第1対向電極層から遠い層に対応する。
【0085】
図13から図15に示されたタイプA〜タイプLの有機EL装置でも、発光層7が発光すると、中間層29と正孔注入/輸送層28の間の界面、正孔注入/輸送層28と画素電極4の間の界面、画素電極4と絶縁体積層膜18の間の界面ならびに低屈折率の第2層間絶縁層17a〜17cと高屈折率の第2層間絶縁層16a〜16cの間の界面での反射により、共振作用が起こり、R画素、G画素およびB画素のいずれの発光ピーク波長においても、絶縁体積層膜18がない場合よりも高い強度の光が絶縁体積層膜18から外側(絶縁体積層膜18にとって発光層7の反対側、すなわち透明基板1側)に向けて放出される。また、同じ有機EL装置で、絶縁体積層膜18側から画素電極(透光性電極)4および発光層7に向けて光を垂直入射したとき、中間層29と正孔注入/輸送層28の間の界面、正孔注入/輸送層28と画素電極4の間の界面、画素電極4と絶縁体積層膜18の間の界面ならびに低屈折率の第2層間絶縁層17a〜17cと高屈折率の第2層間絶縁層16a〜16cの間の界面での反射により、R画素、G画素およびB画素の各発光ピーク波長±20nm内にある一つの波長での反射率が、その発光ピーク波長の±50nm内の他の波長での反射率よりも低くなる。従って、第1の実施の形態および第2の実施の形態に関して上述した効果が得られる。
【0086】
第1の実施の形態および第2の実施の形態では、絶縁体積層膜18内部の層数、つまり高屈折率層と低屈折率層の合計の層数は6であった。しかし、図14のタイプGとして例示されているように、絶縁体積層膜18内部の層数は8でもよく、そのほかの層数、例えば2、4、10、或いはそれ以上であってもよい。但し、積層数が増えると視角依存性が強くなる傾向がある。つまり視野角が狭くなる傾向がある。
【0087】
<第3の実施の形態>
さらに、上記の有機EL装置100を図16に示すように変形してもよい。図16に示す第3の実施の形態では、R,G,Bの画素の各々にカラーフィルタCFが重ねられている。カラーフィルタCFは、対応する画素の発光色の波長領域の光を透過し、他の波長領域の光を吸収する。例えば、R画素に重なるカラーフィルタCFは、赤の波長領域(620nm付近)の光を透過し、他の波長領域の光を吸収する。カラーフィルタCFは画素から光が放出される側である透明基板1に接合され、その周囲はブラックマトリクスBMで囲まれている。カラーフィルタCFとブラックマトリクスBMには保護膜19が重ねられ、その上には絶縁体積層膜18が設けられている。このように各画素にカラーフィルタCFを重ねることにより、コントラスト及び色純度を向上させることができる。すなわち画素が発光したときの光の色純度が向上し、画素が発光しないときはその画素がより暗く視認される。
【0088】
<第4の実施の形態>
図17は本発明の第4の実施の形態に係る無機EL装置の一部を示す。本発明に係るEL装置の実施の形態として、有機EL装置を例示して説明してきたが、無機EL装置も本発明の範囲内にある。図17に示すように、無機EL装置は、例えばガラス製の透明基板201上に例えばITOで形成された透光性電極202と、その上に例えばSiNxで形成された第1の絶縁膜203と、その上に形成された発光層204と、その上に例えばSiNxで形成された第2の絶縁膜205と、その上に例えばAlで形成された背面電極206を有する。本発明によれば、透明基板201と透光性電極202の間に、例えばSiO2で形成された低屈折率層208と例えばSiNxで形成された高屈折率層209を有する層絶縁体積層膜207を介在させ、R,G,Bの画素のいずれに重なる領域でも、低屈折率層208と高屈折率層209の各々の厚さは一様にし、透光性電極201と第1の絶縁膜203と発光層204の厚さの組合せを画素の発光色により異なるようにする。
【0089】
そして、各層の厚さを第1の実施の形態または第2の実施の形態と同様に決定する。得られた無機EL装置では、発光層204が発光すると、第1の絶縁膜203と透光性電極202の間の界面、透光性電極202と層絶縁体積層膜207の間の界面ならびに低屈折率層208と高屈折率層209の間の界面での反射により、共振作用が起こり、R画素、G画素およびB画素のいずれの発光ピーク波長においても、層絶縁体積層膜207がない場合よりも高い強度の光が絶縁体積層膜207から外側(絶縁体積層膜207にとって発光層204の反対側、すなわち透明基板201側)に向けて放出される。また、同じ無機EL装置で、絶縁体積層膜207側から透光性電極202および発光層204に向けて光を垂直入射したとき、第1の絶縁膜203と透光性電極202の間の界面、透光性電極202と層絶縁体積層膜207の間の界面ならびに低屈折率層208と高屈折率層209の間の界面での反射により、R画素、G画素およびB画素の各発光ピーク波長±20nm内にある一つの波長での反射率が、その発光ピーク波長の±50nm内の他の波長での反射率よりも低くなる。従って、第1の実施の形態および第2の実施の形態に関して上述した効果が得られる。但し、第1の絶縁膜203はなくてもよい。
【0090】
<電子機器>
次に、本発明のEL装置を備えた各種電子機器について、図18を参照して説明する。図18(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図18(a)において、符号600は携帯電話本体を示し、符号601は前記のいずれかのEL装置を用いた表示部を示している。図18(b)は、ワープロ、パソコンなどの携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。図18(b)において、符号700は情報処理装置、符号701はキーボードなどの入力部、符号703は情報処理装置本体、符号702は前記のいずれかのEL装置を用いた表示部を示している。図18(c)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。図18(c)において、符号800は時計本体を示し、符号801は前記のいずれかのEL装置を用いた表示部を示している。
【0091】
図18(a)〜(c)に示すそれぞれの電子機器は、前記のいずれかのEL装置を表示部として備えたものであるため、色純度の高い表示を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明に係るフルカラー発光型の有機EL装置の配線構造を示す図である。
【図2】図1の有機EL装置の断面図である。
【図3】本発明に係る有機EL装置における各層の特性を示す表である。
【図4】本発明に係る有機EL装置における画素で発光した光の進路の例を示す模式図である。
【図5】本発明に係る有機EL装置の各画素に重なる領域から放出された光のスペクトルを示すグラフである。
【図6】比較例の有機EL装置の各画素に重なる領域から放出された光のスペクトルを示すグラフである。
【図7】(a)は本発明に係る有機EL装置の製造の一工程を示す断面図であり、(b)は(a)の後の工程を示す断面図であり、(c)は(a)の後の工程を示す断面図である。
【図8】(a)は図7(c)にの後の工程を示す断面図であり、(b)は(a)の後の工程を示す断面図であり、(c)は(a)の後の工程を示す断面図である。
【図9】本発明に係る有機EL装置における垂直入射光に起因する光の進路の例を示す模式図である。
【図10】本発明に係る有機EL装置でのR画素に重なる領域についての外部から有機EL装置に垂直入射する光に対する反射率スペクトルを示す図である。
【図11】本発明に係る有機EL装置でのG画素に重なる領域についての外部から有機EL装置に垂直入射する光に対する反射率スペクトルを示す図である。
【図12】本発明に係る有機EL装置でのB画素に重なる領域についての外部から有機EL装置に垂直入射する光に対する反射率スペクトルを示す図である。
【図13】本発明に係る他の有機EL装置における各層の特性を示す表である。
【図14】本発明に係る他の有機EL装置における各層の特性を示す表である。
【図15】本発明に係る他の有機EL装置における各層の特性を示す表である。
【図16】本発明に係るフルカラー発光型の有機EL装置の第3の実施の形態の断面図である。
【図17】本発明の第4の実施の形態に係るフルカラー発光型の無機EL装置の一部を示す断面図である。
【図18】(a)は本発明に係る電子機器を示す図であり、(b)は本発明に係る他の電子機器を示す図であり、(c)は本発明に係る電子機器を示す図である。
【符号の説明】
【0093】
4…画素電極(陽極,透光性電極)、7…発光層、9…対向電極(陰極)、16a,16b,16c…第2層間絶縁層(高屈折率層)、17a,17b,17c…第2層間絶縁層(低屈折率層)、18…絶縁体積層膜、100…有機EL装置(EL装置)、202…透光性電極、204…発光層、206…背面電極、207…絶縁体積層膜、208…低屈折率層、209…高屈折率層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、EL装置および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコン、携帯電話機、電子手帳等の電子機器において、情報を表示する手段として複数のエレクトロルミネッセンス(以下、ELと称す)素子を備えるEL装置が提案されている。EL素子では、対向する一対の電極の間にEL層(発光層)が配置されている。
【0003】
EL装置の分野において、異なる屈折率を有する層を交互に積層した多層膜を用いて、特定波長の光を共振させることが知られている。例えば、特許文献1には、ガラス基板全面に形成された誘電体からなる半透明反射膜と、その上に形成されたSiO2からなるスペーサーと、その上に形成された透明陽極と、その上に形成された正孔注入層と、その上に形成された発光層と、その上に形成された陰極とを有するEL装置が開示されている。この発光層は、どの画素においても共通の材料から形成されており白色光を発するが、目的とする出力色を異ならせるために、透明陽極と正孔注入層と発光層の光学距離の和またはSiO2のスペーサの厚さは、目的とする出力色により異なる。従って、同じ白色発光材料から発光層を形成しても、R(赤色)、G(緑色)、B(青色)の出力色が得られる。
【0004】
また、特許文献2には、R,G,B画素についてそれぞれ異なる材料から形成された発光層と、すべての発光層に重なる半透明な反射層群を備えるEL装置が開示されている。半透明な反射層群はすべての発光層に対して同じ構造であるが、出力色の色純度を向上させることを目的として、R光の共振に適した半反射層と、G光の共振に適した半反射層と、B光の共振に適した半反射層を有する。これらの半反射層の各々は、複数の低屈折率層(例えばSiO2の層)と複数の高屈折率層(例えばTiO2の層)とを有しており、これらの低屈折率層と高屈折率層は交互に積層されている。半反射層の各々において、高屈折率層の屈折率n1、その厚さd1、低屈折率層の屈折率n2、その厚さd2は、式(1)の関係を満たすように設定されている。
【0005】
n1・d1=n2・d2=(1/4+m/2)・λ ...(1)
ここで、λは反射されて共振されるべき光の波長であり、mは0以上の整数のいずれかである。従って、半反射層の各々において、低屈折率層は互いに同じ厚さd2を有し、高屈折率層は互いに同じ厚さd1を有する。
【0006】
【特許文献1】特許第2797883号公報
【特許文献2】特表2003−528421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1のEL装置では、白色発光から異なる色を出力することができても、出力される光の色純度を向上させるのは困難である。また、R,G,Bのすべての波長帯域に対して、ある程度の発光強度を持つ白色発光材料は限られている。
【0008】
また、特許文献2のEL装置では、実際には、例えばR画素の赤色発光は、G又はBの光に適した層でかなり反射される。従って、どの色の画素の発光も半透明な反射層群を通過する間にかなり減衰し、所望の共振効果は得られない。また、発光層で発せられた光は、様々な界面で反射したり透過したりして、出力されるまでに多様な経路を通るので、式(1)に準拠して低屈折率層および高屈折率層の厚さを決定することが、顕著な共振効果に結びつくとはいえない。さらに、半透明な反射層群は、R光の共振に適した半反射層と、G光の共振に適した半反射層と、B光の共振に適した半反射層を有するので、層の数が必然的に多く、製造が困難である。
【0009】
そこで、本発明は、出力される光の色純度を向上させることが可能で、しかも構成が簡単で製造が容易なEL装置と、このようなEL装置を備えた電子機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るEL装置の一つの態様は、赤色に相当する光を発光可能なR画素と、緑色に相当する光を発光可能なG画素と、青色に相当する光を発光可能なB画素とを備えるEL装置であって、前記各画素は、一対の電極と、これらの電極の間に挟まれて電気エネルギを与えられることにより発光する発光層とを少なくとも有しており、前記電極のうち一方は透光性電極であり、前記透光性電極のうち前記発光層と反対側の面には、絶縁体積層膜が形成されており、前記絶縁体積層膜は、透光性絶縁体から形成された複数の低屈折率層と、前記低屈折率層よりも高い屈折率を有する透光性絶縁体から形成された複数の高屈折率層とを有しており、これらの低屈折率層と高屈折率層は交互に積層されており、各低屈折率層は、前記R画素、前記G画素および前記B画素の発光領域全域にわたって形成され、前記R画素、前記G画素および前記B画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有しており、各高屈折率層は、前記R画素、前記G画素および前記B画素の発光領域全域にわたって形成され、前記R画素、前記G画素および前記B画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有しており、複数の前記低屈折率層は互いに異なる厚さを有しており、複数の前記高屈折率層は互いに異なる厚さを有しており、前記発光層が発光すると、少なくとも前記透光性電極と前記絶縁体積層膜の間の界面ならびに前記低屈折率層と前記高屈折率層の間の界面での反射により、前記R画素、前記G画素および前記B画素のいずれの発光ピーク波長においても、前記絶縁体積層膜がない場合よりも高い強度の光が前記絶縁体積層膜から放出されるように、前記低屈折率層と前記高屈折率層の厚さが決定されていることを特徴とする。
【0011】
この態様のEL装置では、透光性電極の発光層と反対側において、複数の低屈折率層と複数の高屈折率層が交互に積層された絶縁体積層膜が配置される。低屈折率層と高屈折率層の厚さが適切に決定されることにより、発光層が発光すると、少なくとも透光性電極と絶縁体積層膜の間の界面ならびに低屈折率層と高屈折率層の間の界面での反射により、R画素、G画素およびB画素のいずれの発光ピーク波長においても、絶縁体積層膜がない場合よりも高い強度の光が絶縁体積層膜から放出される。「発光ピーク波長」とは、画素の発光層から放出される光の波長のうち最も強度が高い波長である。本発明では、R画素の発光ピーク波長でも、G画素の発光ピーク波長でも、B画素の発光ピーク波長でも、絶縁体積層膜により高い強度の光が放出される。従って、出力される光の色純度を向上させることが可能である。複数の低屈折率層は互いに異なる厚さを有するが、各低屈折率層は、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有し、複数の高屈折率層は互いに異なる厚さを有するが、各高屈折率層は、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有するので、画素に応じて厚さを変化させる必要がない。すなわちR画素、G画素およびB画素に重なる絶縁体積層膜は共通の構造を有する。また、R光の共振に適した層と、G光の共振に適した層と、B光の共振に適した層を別々に設計する必要もない。従って、このEL装置の構成は簡単であり、製造が容易である。
【0012】
本発明に係るEL装置の他の態様は、赤色に相当する光を発光可能なR画素と、緑色に相当する光を発光可能なG画素と、青色に相当する光を発光可能なB画素とを備えるEL装置であって、前記各画素は、一対の電極と、これらの電極の間に挟まれて電気エネルギを与えられることにより発光する発光層とを少なくとも有しており、前記電極のうち一方は透光性電極であり、前記透光性電極のうち前記発光層と反対側の面には、絶縁体積層膜が形成されており、前記絶縁体積層膜は、透光性絶縁体から形成された低屈折率層と、前記低屈折率層よりも高い屈折率を有する透光性絶縁体から形成された高屈折率層とを有しており、前記低屈折率層は、前記R画素、前記G画素および前記B画素の発光領域全域にわたって形成され、前記R画素、前記G画素および前記B画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有しており、前記高屈折率層は、前記R画素、前記G画素および前記B画素の発光領域全域にわたって形成され、前記R画素、前記G画素および前記B画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有しており、前記絶縁体積層膜側から前記透光性電極および前記発光層に向けて光を入射したとき、少なくとも前記透光性電極と前記絶縁体積層膜の間の界面ならびに前記低屈折率層と前記高屈折率層の間の界面での反射により、前記R画素、前記G画素および前記B画素の各発光ピーク波長の±20nm内にある波長での反射率が、各発光ピーク波長の±50nm内の他の波長での反射率よりも低くなるように、前記低屈折率層と前記高屈折率層の厚さが決定されていることを特徴とする。
【0013】
この態様のEL装置では、透光性電極の発光層と反対側において、低屈折率層と高屈折率層を有する絶縁体積層膜が配置される。低屈折率層と高屈折率層の厚さが適切に決定されることにより、発光層側から透光性電極および絶縁体積層膜に向けて光を入射したとき、少なくとも透光性電極と絶縁体積層膜の間の界面ならびに低屈折率層と高屈折率層の間の界面での反射により、各発光ピーク波長の±20nm内にある波長での反射率が、各発光ピーク波長の±50nm内の他の波長での反射率よりも低くなる。例えば、R画素の発光ピーク波長の±50nmの範囲内で、R画素の発光ピーク波長の±20nm内にある一つの波長での反射率が最低になる。このことによって、出力される光の色純度を向上させることが可能である。この明細書で、「±20nm内」とは、発光ピーク波長の+20nmの波長および−20nmの波長を含み、「±50nm内」とは、発光ピーク波長の+50nmの波長および−50nmの波長を含む意図である。低屈折率層は、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有し、高屈折率層は、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有するので、画素に応じて厚さを変化させる必要がない。すなわちR画素、G画素およびB画素に重なる絶縁体積層膜は共通の構造を有する。また、R光の共振に適した層と、G光の共振に適した層と、B光の共振に適した層を別々に設計する必要もない。従って、このEL装置の構成は簡単であり、製造が容易である。
【0014】
前記透光性電極と前記発光層を含む前記透光性電極から前記発光層までの層の厚さの組合せが、前記画素の発光色に応じて異なると好ましい。これによれば、R画素、G画素およびB画素に重なる絶縁体積層膜が共通の構造を有しながらも、透光性電極から前記発光層までの層の厚さの組合せが、画素の発光色により異なるので、各発光色に応じた適切な反射特性を得ることが容易である。
【0015】
また、本発明に係るEL装置は有機EL装置であってよく、前記発光層と前記透光性電極の間に、前記発光層から前記透光性電極に向けて正孔または電子が漏出することを低減する中間層が配置されていると好ましい。これによれば、中間層がない場合に比べて、発光層内での厚さ方向での発光位置が異なる。例えば、発光層の両面に発光層と電極の間のこのような中間層(正孔ブロック層および電子ブロック層)がない場合に比べて、発光層と透光性電極の間に中間層を設けた場合には、発光層内での発光位置は、この中間層ひいては透光性電極の方に変位し、中間層の材質および/または厚さによっては発光層と中間層の界面で発光することもありうる。従って、この中間層を設けて、その材質および/または厚さを選択することにより、発光層内での厚さ方向での発光位置ひいては発光位置から絶縁体積層膜まで光が進行する光学距離を調整することが可能である。
【0016】
前記絶縁体積層膜は、複数の低屈折率層と、複数の高屈折率層とを有しており、これらの低屈折率層と高屈折率層は交互に積層されており、複数の前記低屈折率層は互いに異なる厚さを有しており、複数の前記高屈折率層は互いに異なる厚さを有していると好ましい。
従来、複数の低屈折率層と複数の高屈折率層が交互に積層された絶縁体積層膜で光を共振させようとする構造では、上記の式(1)に準拠して、低屈折率層は互いに同じ厚さを有し、高屈折率層は互いに同じ厚さを有することが一般的であったが、このような構造で顕著な共振効果が得られるとは限らないことが、本発明の発明者により既に見いだされている。むしろ、複数の低屈折率層は互いに異なる厚さを有し、複数の高屈折率層は互いに異なる厚さを有する方が、R,G,Bのいずれの光も共振させて高いエネルギで放出することが可能である。
【0017】
また、前記絶縁体積層膜の光射出側にカラーフィルタが配設されていてもよい。このようにカラーフィルタを設けることにより、コントラスト及び色純度を向上させることができる。
【0018】
本発明に係る電子機器は、本発明に係る上記のEL装置を例えば表示部として備えることを特徴とする。このような電子機器によれば、出力される光の色純度が高い表示を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明に係る様々な実施の形態を説明する。これらの図面においては、各層や各部材の寸法の比率は、実際のものとは適宜に異なっている。
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態に係るフルカラー発光型の有機EL装置について説明する。図1は有機EL装置100の配線構造を示す図であり、図2は有機EL装置100の断面図である。
図1に示すように、有機EL装置100は、複数の走査線101と、走査線101に対して交差する方向に延びる複数の信号線102と、信号線102に並列に延びる複数の電源線103を備える。走査線101及び信号線102の各交点付近に画素領域Aがマトリクス状に形成されている。
【0020】
信号線102には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン及びアナログスイッチを備えたデータ側駆動回路104が接続されている。また、走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備えた走査側駆動回路105が接続されている。
【0021】
画素領域Aの各々には、走査線101を介して走査信号がゲート電極に供給される第1の薄膜トランジスタ122と、この第1の薄膜トランジスタ122を介して信号線102から供給される画素信号を保持するキャパシタcapと、キャパシタcapによって保持された画素信号がゲート電極に供給される第2の薄膜トランジスタ2とが設けられている。また、画素領域Aには、第2の薄膜トランジスタ2により電源線103に通電されたときに前記電源線103から駆動電流が流れ込む画素電極(陽極)4と、この画素電極4と対向電極(陰極)9との間に配置された発光層7とが設けられている。これらの画素電極4、対向電極9、および発光層7により有機EL素子が構成されている。
【0022】
このような構成によれば、走査線101が駆動されて第1の薄膜トランジスタ122がオンになると、そのときの信号線102の電位がキャパシタcapに保持され、前記キャパシタcapの状態に応じて、第2の薄膜トランジスタ2のオン・オフ状態が決まる。そして、第2の薄膜トランジスタ2のチャネルを介して、電源線103から画素電極4に電流が流れ、さらに発光層7を介して対向電極9に電流が流れる。発光層7は、これを流れる電流量に応じて発光する。
【0023】
図2に示すように、有機EL装置100は、ガラス等の透光性材料から形成された透明基板1と、この透明基板1上にマトリックス状に形成配置された多数の有機EL素子7aを具備する。具体的には有機EL素子7aは、透明基板1に積層された薄膜トランジスタ(TFT)2、透明な画素電極(透明陽極)4、発光層7、対向電極(陰極)9を備える。
【0024】
透明基板1としては、ガラス基板の他に、シリコン基板、石英基板、セラミックス基板、金属基板、プラスチック基板、プラスチックフィルム基板等、公知の様々な基板を使用しうる。透明基板1の図の上面には、発光領域としての複数の画素領域Aがマトリクス状に配列されている。具体的には、カラー表示を行うために、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の各色に対応する画素領域が配列されている。各画素領域Aには、画素電極4が配置され、その近傍には信号線、電源線、走査線等が配置されている。この明細書においては、赤色(R)を発光可能な画素領域AをR画素、緑色(G)を発光可能な画素領域AをG画素、青色(B)を発光可能な画素領域AをB画素と言う。
【0025】
また、透明基板1上には、画素領域Aの画素電極(透明陽極)4にそれぞれ電気的に接続された複数の薄膜トランジスタ2が形成されている。薄膜トランジスタ2の各々は、透明基板1上に島状に配された半導体層13と、半導体層13のドレイン領域に重なるが半導体層13から離間しているゲート電極12と、半導体層13の一端のゲート領域に接続されたゲート電極12と、半導体層13の他端のソース領域に接続されたソース電極11を備える。半導体層13は例えば多結晶シリコン膜から形成され、電極10,11,12は、例えばアルミニウム等から形成されている。公知の技術の通り、ゲート絶縁層30、第1層間絶縁層31および第2層間絶縁層16a〜16c,17a〜17cが設けられることにより、半導体層13、電極10,11,12は互いに異なる高さに配置されている。具体的には、半導体層13はゲート絶縁層30で覆われ、ゲート絶縁層30上に配置されたゲート電極12は第1層間絶縁層31で覆われ、第1層間絶縁層31の上に配置されたソース電極11は第2層間絶縁層16aで覆われ、ドレイン電極10は第2層間絶縁層17cの上に配置されている。
【0026】
図示しないが、公知の技術の通り、絶縁層30,31の間にはゲート電極12に接続されたゲート線が配置され、絶縁層31,16aの間にはソース電極11に接続されたソース線が配置されており、図1に示された様々な線の各々も絶縁層30,31,16a〜16c,17a〜17cのいずれかの層間に配置されている。絶縁層30,31には、ソース電極11と半導体層13のソース領域を電気的に接続するためのコンタクトホール23が形成されている。絶縁層30,31,16a〜17cには、ドレイン電極10と半導体層13のドレイン領域を電気的に接続するためのコンタクトホール24が形成されている。
【0027】
絶縁体積層膜18は、透光性絶縁体から形成された複数の低屈折率層と、低屈折率層よりも高い屈折率を有する透光性絶縁体から形成された複数の高屈折率層とを有しており、これらの低屈折率層と高屈折率層は交互に積層されている。第2層間絶縁層16a〜16cは高屈折率層であり、例えばSiNxまたはTiO2から形成されている。第2層間絶縁層17a〜17cは低屈折率層であり、例えばSiO2から形成されている。第2層間絶縁層16a〜16c,17a〜17cの各々は、透明基板1の上面全体にわたって一様な厚さで形成されており、従って、R画素、G画素およびB画素の発光領域全域にわたって延在し、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有する。後述するように、複数の第2層間絶縁層16a〜16cは互いに異なる厚さを有しており、複数の第2層間絶縁層17a〜17cは互いに異なる厚さを有する。
【0028】
ゲート絶縁層30および第1層間絶縁層31は、例えばSiO2から形成されている。ゲート絶縁層30および第1層間絶縁層31の各々は、TFT2の特性を定める要素であり、一様な厚さを有する。
【0029】
各画素領域Aの画素電極4は、絶縁体積層膜18の最上層の第2層間絶縁層17c上に形成されており、対応するTFT2のドレイン電極10と電気的に接続されている。画素電極4は、例えばITO(インジウム錫酸化物)等の透光性導電材料から形成されている。画素電極4の各々の上には正孔注入/輸送層28が成膜され、正孔注入/輸送層28の各々の上には中間層29が成膜され、中間層29の各々の上には発光層7が成膜されている。さらにすべての発光層7の上には電子注入層8が成膜され、その上には対向電極9が形成されている。つまり、電子注入層8および対向電極9は、すべての画素に共通であり、R画素、G画素およびB画素の発光領域全域にわたって延在する。このようにして、画素電極4は発光層7を挟んで対向電極9と対向しており、発光層7及び対向電極9とともに有機EL素子(発光素子)7aを構成する。
【0030】
正孔注入/輸送層28、中間層29および発光層7は、バンク部(隔壁部)51,52で画定された凹部内に形成されている。第1のバンク部51はSiO2等の無機材料から形成され、第2のバンク部52はアクリルまたはポリイミド等の有機材料またはSiO2等の無機材料から形成されている。第1のバンク部51は、第2層間絶縁層17c上であって、画素電極4の外縁を一部覆っており、内部に発光層7等を配置するための開口部を有する。さらに、第2のバンク部52は第1のバンク部51上に配置され、第1のバンク部51の開口部よりも大径の開口部を有する。
【0031】
正孔注入/輸送層28は、各画素領域Aごとに配置されるが、すべての画素について同じ材料、例えば、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルフォン酸(PSS)との混合物(以下、「PEDOT/PSS」と呼ぶ)によって形成されている。中間層29も、各画素領域Aごとに配置されるが、すべての画素について同じ材料から形成されている。この中間層29は、陰極から来た電子が発光層7から画素電極(陽極)4に向けて漏出することを低減する電子ブロック層であり、例えば正孔注入性の良好なトリフェニルアミン系ポリマーまたはTFB(poly(2,7-(9,9-di-n-octylfluorene)-(1,4-phenylene-(4-secbutylphenyl)imino)-1,4-phenylene))により形成されている。
【0032】
発光層7には、電極4,9間を流れる電流により赤色(R)を発光する赤色発光層7Rと、緑色(G)を発光する緑色発光層7Gと、青色(B)を発光する青色発光層7Bがある。発光層7は、各色毎に異なる有機EL材料にて形成されている。
【0033】
上述の通り、電子注入層8および対向電極9は、すべての画素の共通である。電子注入層8は、例えばLiFから形成されており、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有する。対向電極(陰極)9は、詳細には図示しないが、例えば、カルシウム層とアルミニウム層から構成されている。電子注入層8に近い方がカルシウム製の極めて薄い第2対向電極層であり、電子注入層8に遠い方がアルミニウム製で、より厚い第1対向電極層である。第1対向電極層および第2対向電極層の各々は、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有する。
【0034】
この実施の形態の各発光素子の構成は上記の通りであるが、本発明に利用可能な発光素子のバリエーションとしては、電子注入層8がないタイプや、電子注入層8と発光層7の間に電子輸送層を設けたタイプなど他の層を有するタイプであってもよい。例えば、低分子系の発光層7を使用する場合には、陰極、電子注入層、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層および陽極を有するタイプが一般的に利用されており、高分子系の発光層7については、陰極、発光層、正孔注入層および陽極を有するタイプが多く利用されており、これらのタイプに本発明を利用してもよい。
【0035】
また、この実施の形態では、陽極が透明で陰極が反射性であり発光層7からの光が透明陽極4および絶縁体積層膜18を通じて外部に放出されるが、陽極を反射性、陰極を透明にし透明陰極側に絶縁体積層膜18を配置して発光層7からの光が透明陰極および絶縁体積層膜を通じて外部に放出されるタイプに本発明を利用してもよい。また、この実施の形態の有機EL装置100は、発光層7からの光が基板1を通じて外部に放出されるボトムエミッションタイプであるが。発光層7からの光が基板と反対側に放出されるトップエミッションタイプに本発明を利用してもよい。
【0036】
上述の通り、中間層29は電子ブロック層である。中間層29がない場合に比べて、中間層29があると、発光層内での厚さ方向において中間層29ひいては画素電極(透明陽極)4の方に変位し、中間層29の材質および/または厚さで定まる電子ブロック性能によっては発光層7と中間層29の界面で発光することもありうる。この実施の形態では、発光層7と透明陽極4の間に電子ブロック層としての中間層29が配置されているが、陽極を反射性にし陰極を透明にしたタイプでは、発光層と透明陰極の間に正孔ブロック層としての中間層が配置される。正孔ブロック層とは、陽極から来た正孔が発光層7から対向電極(陰極)9に向けて漏出することを低減する層である。正孔ブロック層があると、発光層内での厚さ方向において正孔ブロック層ひいては陰極の方に変位し、正孔ブロック層の材質および/または厚さで定まる正孔ブロック性能によっては発光層と正孔ブロック層の界面で発光することもありうる。もし発光層7の両側に中間層を設けた場合、すなわち正孔ブロック層と電子ブロック層の両方を設けた場合には、発光層内での厚さ方向での発光位置は、正孔ブロック層と電子ブロック層のうち、ブロック性能の大きい方に近い。従って、少なくとも一方の中間層を設けて、その材質および/または厚さを選択することにより、発光層内での厚さ方向での発光位置ひいては発光位置から絶縁体積層膜まで光が進行する光学距離を調整することが可能である。
【0037】
図3は、この実施の形態に係る有機EL装置100における各層の特性を示す表である。図3において、同じ材料でも重なる画素の色により屈折率が異なるのは、屈折率に波長依存性があるためである。図3に示された屈折率は、R画素が620nm、G画素が540nm、B画素が470nmの光を発することを前提とする。図3の各層の光学距離は、層の厚さと屈折率の積である。図3に示すように、絶縁体積層膜18内の第2層間絶縁層16a〜16c,17a〜17cの各々は、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有する。また、複数の第2層間絶縁層16a〜16cは互いに異なる厚さを有しており、複数の第2層間絶縁層17a〜17cは互いに異なる厚さを有する。
【0038】
絶縁体積層膜18がすべての画素について同じ構成で同じ厚さであるのに対して、画素電極4から発光層7までの層(画素電極4と発光層7を含む)の組合せは、画素の発光色により異なる。R画素に重なる領域では画素電極4の厚さが95nmであるが、G画素およびB画素に重なる領域では画素電極4の厚さは50nmである。R画素およびG画素に重なる領域では正孔注入/輸送層28の厚さが70nmであるが、B画素に重なる領域では正孔注入/輸送層28の厚さは30nmである。発光層7の厚さは、画素の発光色により異なる。
【0039】
図4は、この実施の形態に係る有機EL装置100における画素で発光した光の進路の例を示す模式図である。図4において、実線は層間の界面を示し、一点鎖線は光の進路を示す。図示された光の進路は代表的な例であり、これら以外にも多数の光の進路があるが図を簡明にするために省略する。また、図の一点鎖線の角度は、光の進行角度を正確に示すのではなく、複数の進路を区別しやすいように描写されている。
【0040】
図4は、発光層7と中間層29の間の界面BOで発光したことを前提とする。発光位置からは全方位に向けて発光するが、反射性の対向電極9と電子注入層8の間の界面では、対向電極9に吸収されなかったすべての光が図の右方に反射される。また、光を透過する二つの層の間の界面では反射および屈折が生ずる。すなわち光の一部が界面で反射し、他の一部が屈折して進む。なお、屈折率の高い物質(例えば第2層間絶縁層16a〜16c)から低い物質(例えば第2層間絶縁層17a〜17c)へ光が進むとき、入射角がある角度(臨界角)をこえると,その界面で光がすべて反射する現象、すなわち全反射が生ずるが、屈折率の高い物質から低い物質へ光が進むときでも、入射角が臨界角より小さい場合(垂直入射に近似する場合)には、光は界面で一部だけが反射し残りが屈折して進む。
【0041】
以上の構成により、発光層7が発光すると、中間層29と正孔注入/輸送層28の間の界面、正孔注入/輸送層28と画素電極4の間の界面、画素電極4と絶縁体積層膜18の間の界面ならびに低屈折率の第2層間絶縁層17a〜17cと高屈折率の第2層間絶縁層16a〜16cの間の界面での反射により、共振作用が起こり、R画素、G画素およびB画素のいずれの発光ピーク波長においても、絶縁体積層膜18がない場合より高い強度の光が絶縁体積層膜18から外側(絶縁体積層膜18にとって発光層7の反対側、すなわち透明基板1側)に向けて放出される。「発光ピーク波長」とは、画素の発光層7から放出される光の波長のうち最も強度が高い波長である。本発明では、R画素の発光ピーク波長(620nm)でも、G画素の発光ピーク波長(540nm)でも、B画素の発光ピーク波長(470nm)でも、絶縁体積層膜18により高い強度の光が放出される。従って、出力される光の色純度を向上させることが可能である。
【0042】
換言すれば、この実施の形態では、発光層7が発光すると、前記界面での反射により、R画素、G画素およびB画素のいずれの発光ピーク波長においても、絶縁体積層膜18がない場合よりも高い強度の光が絶縁体積層膜18から外側に向けて放出されるように高屈折率層(第2層間絶縁層16a,16b,16c)及び低屈折率層(第2層間絶縁層17a,17b,17c)の厚さが決定されている。以下、これらの層の厚さの決定手順を説明する。
【0043】
まず、以下に説明する各層の厚さの決定手順の前提を説明する。垂直入射での二つの層の界面での反射率R、透過率T、反射での位相変化φrおよび透過での位相変化φtは、以下の式(2)〜(5)で求められる。但し、n1は入射側の媒質の屈折率、n2は出射側の媒質の屈折率、k2は出射側の媒質の消光係数であり、屈折率および消光係数は光の波長に依存する。
【0044】
R={(n1−n2)2+k22}/{(n1+n2)2+k22} ...(2)
T=4n1n2/{(n1+n2)2+k22} ...(3)
φr=tan−1{2n1k2/(n12−n22−k22)} ...(4)
φt=tan−1{k2/(n1+n2)} ...(5)
【0045】
式(2)〜(5)および各層の厚さを用いて、垂直入射での各界面での反射光の強度(振幅)および位相、ならびに透過光の強度(振幅)および位相を求め、さらに絶縁体積層膜18から外側に向けて放出される合計の光(出力光)の強度(または振幅)を推定した。そして、各層の厚さを変えながら、絶縁体積層膜18から外側に向けて放出される合計の光の発光ピーク波長での強度(または振幅)を推定することを繰り返して、各層の最適な厚さを求めた。強度の推定にあたっては、発光から最大で3回まで反射した光を合計した。それより多く反射した光は層内での光の吸収によりかなり減衰しているためである。
【0046】
条件として、画素電極4、正孔注入/輸送層28および発光層7の厚さを現実的な厚さの範囲内で変化させた。具体的には、画素電極4の材料にはITOを用いることを想定し、その厚さの範囲を40nm〜100nmに限定した。正孔注入/輸送層28の材料にはPEDOT/PSSを用いることを想定し、その厚さの範囲を20nm〜100nmに限定した。発光層7の厚さの範囲は60nm〜100nmに限定した。また、発光層7と中間層29の間の界面BOで発光したことを前提とする(図4参照)。
【0047】
外側に向けて放出される合計の光の発光ピーク波長での強度は、ソフトウェアを使用してシミュレーションにより推定した。具体的には、2005年8月現在で日本国東京のサイバネットシステム株式会社(Cybernet Systems Co., Ltd)から「OPTAS−FILM」という商品名で入手可能なソフトウェアを使用した。
【0048】
(ステップ1)最終的には、R画素、G画素およびB画素に重なる領域のいずれについても、外側に向けて放出される合計の光の発光ピーク波長での強度を可能な限り大きくすることを目的とするが、絶縁体積層膜18の高屈折率層(第2層間絶縁層16a,16b,16c)及び低屈折率層(第2層間絶縁層17a,17b,17c)の厚さをどの領域でも共通にするため、まず、可視光領域のほぼ中心波長である約540nmの発光ピーク波長を持つG画素に重なる領域で、高屈折率層16a、低屈折率層17a、高屈折率層16b、低屈折率層17b、高屈折率層16c、低屈折率層17c、画素電極4G、正孔注入/輸送層28G、中間層29G、および発光層7Gの厚さを最適化した。具体的には、各層の厚さを変えながら、絶縁体積層膜18から外側に向けて放出される合計の光の発光ピーク波長での強度を推定することを繰り返して、発光ピーク波長で最も高い強度の光が放出される厚さの組合せを最適な厚さの組合せとして選択した。屈折率および消光係数は光の波長に依存するので、この段階では、緑波長(540nm)についての光学定数(屈折率および消光係数)を用いた。このようにして得られたのが、図3のG画素に重なる領域についての各層の厚さである。
【0049】
(ステップ2)次に、R画素(発光ピーク波長は約620nm)に重なる領域について、高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの厚さをステップ1で求めた値に固定する一方、画素電極4R、正孔注入/輸送層28R、中間層29R、および発光層7Rの厚さを最適化した。具体的には、高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの厚さを確定条件とし、画素電極4R、正孔注入/輸送層28R、中間層29R、および発光層7Rの厚さを変えながら、絶縁体積層膜18から外側に向けて放出される合計の光の発光ピーク波長での強度を推定することを繰り返して、発光ピーク波長で最も高い強度の光が放出される厚さの組合せを最適な厚さの組合せとして選択した。この段階では、赤波長(620nm)についての光学定数(屈折率および消光係数)を用いた。このようにして得られたのが、図3のR画素に重なる領域についての各層の厚さである。
【0050】
(ステップ3)次に、B画素(発光ピーク波長は約470nm)に重なる領域について、高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの厚さをステップ1で求めた値に固定する一方、画素電極4R、正孔注入/輸送層28R、中間層29R、および発光層7Rの厚さを最適化した。具体的には、高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの厚さを確定条件とし、画素電極4R、正孔注入/輸送層28R、中間層29R、および発光層7Rの厚さを変えながら、絶縁体積層膜18から外側に向けて放出される合計の光の発光ピーク波長での強度を推定することを繰り返して、発光ピーク波長で最も高い強度の光が放出される厚さの組合せを最適な厚さの組合せとして選択した。この段階では、青波長(470nm)についての光学定数(屈折率および消光係数)を用いた。このようにして得られたのが、図3のB画素に重なる領域についての各層の厚さである。
【0051】
以上のように、まずG画素に重なる領域について、絶縁体積層膜18の高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの厚さを含む各層の厚さを決定し、この後、他の画素に重なる領域について、絶縁体積層膜18のこれらの層を固定し、他の層の厚さを決定する。但し、高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの最適化ステップ(ステップ1)でR,G,Bのいずれの画素に重なる領域を厚さ決定の基準にしてもよい。しかし、この実施の形態のように、可視光のほぼ中心波長であるG画素に重なる領域を基準にすると、R画素、G画素、B画素に重なる領域のいずれについても、高い強度の光を外側に放出するように、画素電極4、正孔注入/輸送層28、中間層29、および発光層7の厚さを決定するのが容易である。
【0052】
図5は、この実施の形態の有機EL装置100の各画素に重なる領域から透明基板1を経て放出された光のスペクトルを示すグラフである。図6は、比較例の有機EL装置の各画素に重なる領域から透明基板を経て放出された光のスペクトルを示すグラフである。これらの図において、赤、緑、青で区別される曲線は、それぞれR画素、G画素およびB画素に重なる領域から放出された光のスペクトルを示す。図示しないが、比較例の有機EL装置は、ガラス製の透明基板と、その上に形成された厚さ600nmのSiNx製の単一の層間絶縁層と、その上に形成されたR,G,Bの有機EL素子を有する。比較例の各有機EL素子は、層間絶縁層上に形成された厚さ50nmのITO製の画素電極(透明陽極)と、その上に形成されたPEDOT/PSS製の正孔注入/輸送層と、その上に形成された中間層(電子ブロック層)と、その上に形成された発光層と、その上に形成された反射性の金属製の陰極を有する。いずれの色の有機EL素子についても、画素電極、正孔注入/輸送層、中間層および発光層の厚さは共通である。
【0053】
図5において、相対強度は、絶縁体積層膜18がないが他の条件はこの実施の形態と同じ有機EL装置のR画素、G画素およびB画素に重なる領域から放出された光のスペクトルにおける最大強度で、この実施の形態の有機EL装置100の放出光の強度を除算して得られたものである。図6において、相対強度は、層間絶縁層がないが他の条件は比較例と同じ有機EL装置のR画素、G画素およびB画素に重なる領域から放出された光のスペクトルにおける最大強度で、比較例の有機EL装置の放出光の強度を除算して得られたものである。図5および図6から明らかなように、この実施の形態によれば、比較例すなわち従来技術の有機EL装置に比べて、各色の強度が大きく、スペクトル半値幅が狭い。従って、この実施の形態によれば、出力される光の色純度を向上させることが可能である。
【0054】
以上のように、この実施の形態によれば、R画素の発光ピーク波長でも、G画素の発光ピーク波長でも、B画素の発光ピーク波長でも、絶縁体積層膜18により高い強度の光が放出される。従って、出力される光の色純度を向上させることが可能である。絶縁体積層膜18内の複数の低屈折率層17a,17b,17cは互いに異なる厚さを有するが、低屈折率層17a,17b,17cの各々は、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有し、複数の高屈折率層16a,16b,16cは互いに異なる厚さを有するが、高屈折率層16a,16b,16cの各々は、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有するので、画素に応じて厚さを変化させる必要がない。すなわちR画素、G画素およびB画素に重なる絶縁体積層膜18は共通の構造を有する。また、R光の共振に適した層と、G光の共振に適した層と、B光の共振に適した層を別々に設計する必要もない。従って、この有機EL装置100の構成は簡単であり、製造が容易である。
【0055】
従来、複数の低屈折率層と複数の高屈折率層が交互に積層された絶縁体積層膜で光を共振させようとする構造では、上記の式(1)に準拠して、低屈折率層は互いに同じ厚さを有し、高屈折率層は互いに同じ厚さを有することが一般的であったが、このような構造で顕著な共振効果が得られるとは限らないことが、本発明の発明者により既に見いだされている。むしろ、この実施の形態のように、複数の低屈折率層17a,17b,17cは互いに異なる厚さを有し、複数の高屈折率層16a,16b,16cは互いに異なる厚さを有する方が、R,G,Bのいずれの光も共振させて高い強度で放出することが可能である。
【0056】
また、この実施の形態によれば、画素電極(透光性電極)4から発光層7までの層(画素電極4と発光層7を含む)の厚さの組合せが、画素の発光色に応じて異なるので、R画素、G画素およびB画素に重なる絶縁体積層膜18が共通の構造を有しながらも、各発光色に応じた適切な反射特性を得ることが容易である。領域によって異なる厚さの薄膜を形成することは、困難であったり工程が複雑化したりすることが多いが、特に高分子系の発光層7を使用する場合には、正孔注入/輸送層28および発光層7の形成にあたってインクジェット法のように液体材料を滴下する方法をとることが可能であるため、液体材料の滴下量を適切に調整することで、正孔注入/輸送層28および発光層7の厚さを制御することが容易である。
【0057】
この実施の形態では、発光層7と正孔注入/輸送層28の間に電子ブロック層としての中間層29を設けており、出力光の強度の推定では、発光層7と中間層29の間の界面BO(図4参照)で発光したことを前提とする。但し、このような中間層を設けなくてもよい。中間層29が無い場合、発光位置は正孔注入/輸送層28、発光層7および電子注入層8の特性で定まる電子と正孔のバランスする位置で発光する。例えば、中間層が無く、正孔注入/輸送層28としてPEDOT/PSSを用い、電子注入層8としてLiFを用いた場合、いずれの画素についても界面BOではなく発光層7内で発光する。R画素では界面BOから約30nmの位置で発光し、G画素では界面BOから約40nmの位置で発光し、B画素では界面BOからで約30nmの位置で発光する。中間層がない場合には、これらの発光位置を用いて、上記の方法に準じて出力光の強度を計算できる。
【0058】
次に、上記の有機EL装置の製造方法の一例を説明する。
先ず、図7(a)に示すように、予め用意した透明基板1の上に島状の半導体層13を形成する。ここでは、多結晶シリコン膜をフォトリソグラフィ法により、各画素領域A(図2参照)に半導体層13が一対一で対応するように形成する。
【0059】
次に、半導体層13を覆うように透明基板1上にゲート絶縁層30を形成する。具体的には、SiO2をCVD法またはその他の蒸着法等により、膜厚75nmに形成する。そして、前記ゲート絶縁層30上であって、半導体層13のチャネル領域に重なる領域上に島状のゲート電極12を形成する。具体的には、Al膜をスパッタリング法等により形成し、これをフォトリソグラフィ法にてパターニングする。
【0060】
続いて、図7(b)に示すように、第1層間絶縁層31を形成する。具体的には、SiO2膜をCVD法またはその他の蒸着法等により、膜厚800nmに形成する。続いて、半導体層13のソース領域に接続されるコンタクトホール23を形成する。具体的には、ゲート絶縁層30および第1層間絶縁層31に対するマスクエッチングにより、半導体層13のソース領域に達する貫通孔を形成し、この貫通孔にAl等の導電材料を充填することでコンタクトホール23を形成する。その後、第1層間絶縁層31上に、コンタクトホール23に接続されるソース電極11を形成し、さらに、ソース電極11を覆うように第1層間絶縁層31上に第2層間絶縁層16a,16b,17a,17b,16c,17cを形成する。
【0061】
次に、第2層間絶縁層16a〜17cに、半導体層13のドレイン領域に接続されるコンタクトホール24を形成する。具体的には、第2層間絶縁層16a〜17cに対するマスクエッチングにより、半導体層13のドレイン領域に達する貫通孔を形成し、この貫通孔にAl等の導電材料を充填することでコンタクトホール24を形成する。その後、第2層間絶縁層17c上に、コンタクトホール24に接続される画素電極4を形成する。具体的には、ITOをスパッタリング法等により所定パターンに形成する。画素電極4は、各色毎に上述した最適化膜厚に形成する。具体的にはR画素の画素電極4Rは95nm、G画素の画素電極4Gは50nm、B画素の画素電極4Bは50nmの厚さに形成する。
【0062】
次に、図8(a)に示すように、各画素領域A(図2参照)に対応する開口部51aを有するSiO2製の第1のバンク部(隔壁)51を形成する。具体的には、SiO2薄膜形成工程、フォトリソグラフィ工程およびエッチング工程を行う。第1のバンク部51は、開口部51aの周縁部が画素電極4の外縁部に重なるよう形成する。さらに、第1のバンク部51の上に、各画素領域Aに対応する開口部52aを有する第2のバンク部(隔壁)52を形成する。この第2のバンク部52は、ポリアクリル樹脂製であり、ポリアクリル樹脂を含有する溶液の塗布工程、塗布された膜の乾燥工程、フォトリソグラフィ工程、およびエッチング工程により形成する。
【0063】
次に、図8(b)に示すように、各バンク部51,52で形成された開口部51a,52a内の画素電極4上に液状組成物61を配置する。ここで、前記液状組成物61の配置方法としては、公知の液相法(ウエットプロセス、湿式塗布法)が採用され、例えば、スピンコート法、インクジェット(液滴吐出)法、スリットコート法、ディップコート法、スプレー成膜法、印刷法等が用いられる。このような液相法は高分子材料を成膜するには好適な方法であり、気相法と比較して真空装置等の高価な設備を用いることなく安価に有機EL装置を製造することができる。このような液相法を用いることにより、液状組成物61が各開口部5内の画素電極4上に形成される。
【0064】
液状組成物61は、正孔注入/輸送層28を形成するための材料を溶媒に溶解ないし分散したもの、中間層29を形成するための材料を溶媒に溶解ないし分散したもの、発光層(有機EL層)7を形成するための材料を溶媒に溶解ないし分散したものである。つまり、正孔注入/輸送層28、中間層29および発光層7の各々を形成するたびに、各層の材料となる液状組成物61の配置が行われ、乾燥される。図8(C)に示すように、正孔注入/輸送層28を形成した後、中間層29を形成し、さらにこの後、各色の発光層7R,7G,7Bを形成する。
【0065】
正孔注入/輸送層28は、各色毎に上述した最適化膜厚に、具体的にはR画素の正孔注入/輸送層28Rは70nm、G画素の正孔注入/輸送層28Gは70nm、B画素の正孔注入/輸送層28Bは30nmの厚さに形成する。また、中間層29は、各色毎に上述した最適化膜厚に、具体的にはR画素の中間層29Rは8nm、G画素の中間層29Gは8nm、B画素の中間層29Bは8nmの厚さに形成する。また、発光層7は、各色毎に上述した最適化膜厚に、具体的にはR画素の発光層7Rは96nm、G画素の発光層7Gは90nm、B画素の発光層7Bは70nmの厚さに形成する。
【0066】
続いて、透明基板1上の全面(すなわち、画素領域内に相当する開口部5内の発光層7上と第2隔壁52上)にLiFからなる電子注入層8を真空蒸着法等により形成し、さらに電子注入層8上にAlからなる対向電極(陰極)9を真空蒸着法等により形成することで、図2に示す構成を有した有機EL装置100を得る。
【0067】
<第2の実施の形態>
次に、第1の実施の形態と同じ構造の有機EL装置100の各層の厚さを決定する他の手順を説明する。この方法では、外部から有機EL装置100に、透明基板1および絶縁体積層膜18から画素電極4および発光層7に向けて、等エネルギー白色光を垂直入射したと仮定して、R,G,Bの画素の各発光ピーク波長での反射光強度が最小となるように、各層の厚さを決定する。但し、外部から有機EL装置100に垂直入射する光は等エネルギー白色光に限定する必要はなく、反射率に着目すると、この実施の形態の厚さを決定する方法は、R画素、G画素およびB画素の各発光ピーク波長での反射率が最小となるように、各層の厚さを決定することと等価である。ここでいう「反射光強度」とは、絶縁体積層膜18から画素電極4および発光層7に向かう入射光の反射光つまり画素電極4から絶縁体積層膜18に向かう方向への合計の出力光の強度であり、「反射率」とは、絶縁体積層膜18から画素電極4および発光層7に向かう入射光の強度に対する反射光つまり画素電極4から絶縁体積層膜18に向かう方向への合計の出力光の強度の比である。この決定方法によっても、第1の実施の形態と同様の厚さの組合せ(図3に示す)が得られ、出力される光の色純度を向上させることが可能である。
【0068】
従って、得られる有機EL装置100では、発光層7が発光すると、中間層29と正孔注入/輸送層28の間の界面、正孔注入/輸送層28と画素電極4の間の界面、画素電極4と絶縁体積層膜18の間の界面ならびに低屈折率の第2層間絶縁層17a〜17cと高屈折率の第2層間絶縁層16a〜16cの間の界面での反射により、共振作用が起こり、R画素、G画素およびB画素のいずれの発光ピーク波長においても、絶縁体積層膜18がない場合よりも高い強度の光が絶縁体積層膜18から外側(絶縁体積層膜18にとって発光層7の反対側、すなわち透明基板1側)に向けて放出される。また、同じ有機EL装置100で、絶縁体積層膜18側から画素電極(透光性電極)4および発光層7に向けて光を垂直入射したとき、中間層29と正孔注入/輸送層28の間の界面、正孔注入/輸送層28と画素電極4の間の界面、画素電極4と絶縁体積層膜18の間の界面ならびに低屈折率の第2層間絶縁層17a〜17cと高屈折率の第2層間絶縁層16a〜16cの間の界面での反射により、R画素、G画素およびB画素の各発光ピーク波長±20nm内にある一つの波長での反射率が、その発光ピーク波長の±50nm内の他の波長での反射率よりも低くなる。例えば、外部から有機EL装置100に光を垂直入射したときに、R画素の発光ピーク波長(620nm)の±50nmの範囲内で、R画素の発光ピーク波長の±20nm内にある一つの波長での反射率が最低になる。
【0069】
図9は、この実施の形態に係る有機EL装置100における垂直入射光ILに起因する光の進路の例を示す模式図である。図9において、実線は層間の界面を示し、一点鎖線は光の進路を示す。図示された光の進路は代表的な例であり、これら以外にも多数の光の進路があるが図を簡明にするために省略する。また、図の一点鎖線の角度は、光の進行角度を正確に示すのではなく、複数の進路を区別しやすいように描写されている。図9から明らかなように、反射性の対向電極9と電子注入層8の間の界面では、対向電極9に吸収されなかったすべての光が図の右方に反射される。また、光を透過する二つの層の間の界面では反射および屈折が生ずる。結果的に画素電極4から絶縁体積層膜18に向かう方向への反射光が絶縁体積層膜18から図の右側に出射される。これらの反射光の合計、または入射光に対する反射光の合計の比である反射率を用いて、この実施の形態では、各層の厚さを決定する。
【0070】
まず、以下に説明する各層の厚さの決定手順の前提を説明する。垂直入射での二つの層の界面での反射率R、透過率T、反射での位相変化φrおよび透過での位相変化φtは、以下の式(2)〜(5)で求められる。但し、n1は入射側の媒質の屈折率、n2は出射側の媒質の屈折率、k2は出射側の媒質の消光係数であり、屈折率および消光係数は光の波長に依存する。
【0071】
R={(n1−n2)2+k22}/{(n1+n2)2+k22} ...(2)
T=4n1n2/{(n1+n2)2+k22} ...(3)
φr=tan−1{2n1k2/(n12−n22−k22)} ...(4)
φt=tan−1{k2/(n1+n2)} ...(5)
【0072】
式(2)〜(5)および各層の厚さを用いて、外部から透明基板1を経て有機EL装置100に垂直入射する等エネルギー白色光について各界面での反射光の強度(振幅)および位相、ならびに透過光の強度(振幅)および位相を求め、内部反射して透明基板1を経て外部に出射する合計の反射光の強度(または振幅)を推定した。そして、各層の厚さを変えながら、絶縁体積層膜18から外側に向けて放出される合計の反射光の強度を推定することを繰り返して、各層の最適な厚さを求めた。強度の推定にあたっては、発光から最大で3回まで反射した光を合計した。それより多く反射した光は層内での光の吸収によりかなり減衰しているためである。
【0073】
条件として、画素電極4、正孔注入/輸送層28および発光層7の厚さを現実的な厚さの範囲内で変化させた。具体的には、画素電極4の材料にはITOを用いることを想定し、その厚さの範囲を40nm〜100nmに限定した。正孔注入/輸送層28の材料にはPEDOT/PSSを用いることを想定し、その厚さの範囲を20nm〜100nmに限定した。発光層7の厚さの範囲は60nm〜100nmに限定した。
【0074】
外側に向けて放出される合計の反射光の強度は、ソフトウェアを使用してシミュレーションにより推定した。具体的には、2005年8月現在で日本国東京のサイバネットシステム株式会社(Cybernet Systems Co., Ltd)から「OPTAS−FILM」という商品名で入手可能なソフトウェアを使用した。
【0075】
(ステップ1)最終的には、R画素、G画素およびB画素に重なる領域のいずれについても、対応する画素の発光ピーク波長での反射光強度を可能な限り小さくすることを目的とするが、絶縁体積層膜18の高屈折率層(第2層間絶縁層16a,16b,16c)及び低屈折率層(第2層間絶縁層17a,17b,17c)の厚さをどの領域でも共通にするため、まず、可視光領域のほぼ中心波長である約540nmの発光ピーク波長を持つG画素に重なる領域で、高屈折率層16a、低屈折率層17a、高屈折率層16b、低屈折率層17b、高屈折率層16c、低屈折率層17c、画素電極4G、正孔注入/輸送層28G、中間層29G、および発光層7Gの厚さを最適化した。具体的には、各層の厚さを変えながら、外側に向けて放出される合計の反射光の発光ピーク波長での強度を推定することを繰り返して、発光ピーク波長で最も低い強度の反射光が放出される厚さの組合せを最適な厚さの組合せとして選択した。屈折率および消光係数は光の波長に依存するので、この段階では、緑波長(540nm)についての光学定数(屈折率および消光係数)を用いた。このようにして、図3のG画素に重なる領域についての各層の厚さと同じ厚さが得られた。
【0076】
(ステップ2)次に、R画素(発光ピーク波長は約620nm)に重なる領域について、高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの厚さをステップ1で求めた値に固定する一方、画素電極4R、正孔注入/輸送層28R、中間層29R、および発光層7Rの厚さを最適化した。具体的には、高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの厚さを確定条件とし、画素電極4R、正孔注入/輸送層28R、中間層29R、および発光層7Rの厚さを変えながら、絶縁体積層膜18から外側に向けて放出される合計の反射光の発光ピーク波長での強度を推定することを繰り返して、発光ピーク波長で最も低い強度の反射光が放出される厚さの組合せを最適な厚さの組合せとして選択した。この段階では、赤波長(620nm)についての光学定数(屈折率および消光係数)を用いた。このようにして、図3のR画素に重なる領域についての各層の厚さと同じ厚さが得られた。
【0077】
(ステップ3)次に、B画素(発光ピーク波長は約470nm)に重なる領域について、高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの厚さをステップ1で求めた値に固定する一方、画素電極4R、正孔注入/輸送層28R、中間層29R、および発光層7Rの厚さを最適化した。具体的には、高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの厚さを確定条件とし、画素電極4R、正孔注入/輸送層28R、中間層29R、および発光層7Rの厚さを変えながら、絶縁体積層膜18から外側に向けて放出される合計の反射光の発光ピーク波長での強度を推定することを繰り返して、発光ピーク波長で最も低い強度の反射光が放出される厚さの組合せを最適な厚さの組合せとして選択した。この段階では、青波長(470nm)についての光学定数(屈折率および消光係数)を用いた。このようにして、図3のB画素に重なる領域についての各層の厚さと同じ厚さが得られた。
【0078】
以上のように、まずG画素に重なる領域について、絶縁体積層膜18の高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの厚さを含む各層の厚さを決定し、この後、他の画素に重なる領域について、絶縁体積層膜18のこれらの層を固定し、他の層の厚さを決定する。但し、高屈折率層16a,16b,16cと低屈折率層17a,17b,17cの最適化ステップ(ステップ1)でR,G,Bのいずれの画素に重なる領域を厚さ決定の基準にしてもよい。しかし、この実施の形態のように、可視光のほぼ中心波長であるG画素に重なる領域を基準にすると、R画素、G画素、B画素に重なる領域のいずれについても、高い強度の光を外側に放出するように、画素電極4、正孔注入/輸送層28、中間層29、および発光層7の厚さを決定するのが容易である。
【0079】
図10から図12は、このようにして得られた有機EL装置100での各画素に重なる領域についての外部から透明基板1を経て有機EL装置100に垂直入射する光に対する反射率スペクトルを示す図である。図10は、R画素に重なる領域についての反射率スペクトルを示し、図11はG画素に重なる領域についての反射率スペクトルを示し、図12はB画素に重なる領域についての反射率スペクトルを示す。これらの図から、R画素、G画素およびB画素の各発光ピーク波長±20nm内にある一つの波長での反射率が、その発光ピーク波長の±50nm内の他の波長での反射率よりも低くなることが確認された。例えば、外部から有機EL装置100に光を垂直入射したときに、R画素の発光ピーク波長(620nm)の±50nmの範囲内で、R画素の発光ピーク波長の±20nm内にある一つの波長での反射率が最低になった。
【0080】
この実施の形態に係る各層の厚さの決定方法によれば、第1の実施の形態と同じ有機EL装置100(図3に詳細を示す)が得られる。従って、この実施の形態に従って得られる有機EL装置100の各画素に重なる領域から透明基板1を経て放出された光のスペクトルを示すグラフは図5と同じである。第1の実施の形態に関して上述した通り、図5と比較例に関する図6を参照すると明らかな通り、この実施の形態によれば、出力される光の色純度を向上させることが可能である。
【0081】
また、絶縁体積層膜18内の複数の低屈折率層17a,17b,17cは互いに異なる厚さを有するが、低屈折率層17a,17b,17cの各々は、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有し、複数の高屈折率層16a,16b,16cは互いに異なる厚さを有するが、高屈折率層16a,16b,16cの各々は、R画素、G画素およびB画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有するので、画素に応じて厚さを変化させる必要がない。すなわちR画素、G画素およびB画素に重なる絶縁体積層膜18は共通の構造を有する。また、R光の共振に適した層と、G光の共振に適した層と、B光の共振に適した層を別々に設計する必要もない。また、第2層間絶縁層16a〜16c,17a〜17cが一様な厚さを有するので、エッチングによりすべてのコンタクトホール24を一括して形成することが出来る。従って、この有機EL装置100の構成は簡単であり、製造が容易である。
【0082】
従来、複数の低屈折率層と複数の高屈折率層が交互に積層された絶縁体積層膜で光を共振させようとする構造では、上記の式(1)に準拠して、低屈折率層は互いに同じ厚さを有し、高屈折率層は互いに同じ厚さを有することが一般的であったが、このような構造で顕著な共振効果が得られるとは限らないことが、本発明の発明者により既に見いだされている。むしろ、この実施の形態のように、複数の低屈折率層17a,17b,17cは互いに異なる厚さを有し、複数の高屈折率層16a,16b,16cは互いに異なる厚さを有する方が、R,G,Bのいずれの光も共振させて高い強度で放出することが可能である。
【0083】
また、この実施の形態によれば、画素電極(透光性電極)4から発光層7までの層(画素電極4と発光層7を含む)の厚さの組合せが、画素の発光色に応じて異なるので、R画素、G画素およびB画素に重なる絶縁体積層膜18が共通の構造を有しながらも、各発光色に応じた適切な反射特性を得ることが容易である。領域によって異なる厚さの薄膜を形成することは、困難であったり工程が複雑化したりすることが多いが、特に高分子系の発光層7を使用する場合には、正孔注入/輸送層28および発光層7の形成にあたってインクジェット法のように液体材料を滴下する方法をとることが可能であるため、液体材料の滴下量を適切に調整することで、正孔注入/輸送層28および発光層7の厚さを制御することが容易である。
【0084】
<他の厚さの組合せ>
上述の第1の実施の形態および第2の実施の形態に従って各層の厚さを算出すると、上述した厚さの組合せ(図3)だけでなく、他の組合せが得られる。これらの組合せ(タイプA〜タイプL)を図13から図15に示す。図13から図15でR,G,Bは、それぞれR画素に重なる領域、G画素に重なる領域、B画素に重なる領域を表す。図3と同様に、これらの図で上の行ほど、第1対向電極層から遠い層に対応する。
【0085】
図13から図15に示されたタイプA〜タイプLの有機EL装置でも、発光層7が発光すると、中間層29と正孔注入/輸送層28の間の界面、正孔注入/輸送層28と画素電極4の間の界面、画素電極4と絶縁体積層膜18の間の界面ならびに低屈折率の第2層間絶縁層17a〜17cと高屈折率の第2層間絶縁層16a〜16cの間の界面での反射により、共振作用が起こり、R画素、G画素およびB画素のいずれの発光ピーク波長においても、絶縁体積層膜18がない場合よりも高い強度の光が絶縁体積層膜18から外側(絶縁体積層膜18にとって発光層7の反対側、すなわち透明基板1側)に向けて放出される。また、同じ有機EL装置で、絶縁体積層膜18側から画素電極(透光性電極)4および発光層7に向けて光を垂直入射したとき、中間層29と正孔注入/輸送層28の間の界面、正孔注入/輸送層28と画素電極4の間の界面、画素電極4と絶縁体積層膜18の間の界面ならびに低屈折率の第2層間絶縁層17a〜17cと高屈折率の第2層間絶縁層16a〜16cの間の界面での反射により、R画素、G画素およびB画素の各発光ピーク波長±20nm内にある一つの波長での反射率が、その発光ピーク波長の±50nm内の他の波長での反射率よりも低くなる。従って、第1の実施の形態および第2の実施の形態に関して上述した効果が得られる。
【0086】
第1の実施の形態および第2の実施の形態では、絶縁体積層膜18内部の層数、つまり高屈折率層と低屈折率層の合計の層数は6であった。しかし、図14のタイプGとして例示されているように、絶縁体積層膜18内部の層数は8でもよく、そのほかの層数、例えば2、4、10、或いはそれ以上であってもよい。但し、積層数が増えると視角依存性が強くなる傾向がある。つまり視野角が狭くなる傾向がある。
【0087】
<第3の実施の形態>
さらに、上記の有機EL装置100を図16に示すように変形してもよい。図16に示す第3の実施の形態では、R,G,Bの画素の各々にカラーフィルタCFが重ねられている。カラーフィルタCFは、対応する画素の発光色の波長領域の光を透過し、他の波長領域の光を吸収する。例えば、R画素に重なるカラーフィルタCFは、赤の波長領域(620nm付近)の光を透過し、他の波長領域の光を吸収する。カラーフィルタCFは画素から光が放出される側である透明基板1に接合され、その周囲はブラックマトリクスBMで囲まれている。カラーフィルタCFとブラックマトリクスBMには保護膜19が重ねられ、その上には絶縁体積層膜18が設けられている。このように各画素にカラーフィルタCFを重ねることにより、コントラスト及び色純度を向上させることができる。すなわち画素が発光したときの光の色純度が向上し、画素が発光しないときはその画素がより暗く視認される。
【0088】
<第4の実施の形態>
図17は本発明の第4の実施の形態に係る無機EL装置の一部を示す。本発明に係るEL装置の実施の形態として、有機EL装置を例示して説明してきたが、無機EL装置も本発明の範囲内にある。図17に示すように、無機EL装置は、例えばガラス製の透明基板201上に例えばITOで形成された透光性電極202と、その上に例えばSiNxで形成された第1の絶縁膜203と、その上に形成された発光層204と、その上に例えばSiNxで形成された第2の絶縁膜205と、その上に例えばAlで形成された背面電極206を有する。本発明によれば、透明基板201と透光性電極202の間に、例えばSiO2で形成された低屈折率層208と例えばSiNxで形成された高屈折率層209を有する層絶縁体積層膜207を介在させ、R,G,Bの画素のいずれに重なる領域でも、低屈折率層208と高屈折率層209の各々の厚さは一様にし、透光性電極201と第1の絶縁膜203と発光層204の厚さの組合せを画素の発光色により異なるようにする。
【0089】
そして、各層の厚さを第1の実施の形態または第2の実施の形態と同様に決定する。得られた無機EL装置では、発光層204が発光すると、第1の絶縁膜203と透光性電極202の間の界面、透光性電極202と層絶縁体積層膜207の間の界面ならびに低屈折率層208と高屈折率層209の間の界面での反射により、共振作用が起こり、R画素、G画素およびB画素のいずれの発光ピーク波長においても、層絶縁体積層膜207がない場合よりも高い強度の光が絶縁体積層膜207から外側(絶縁体積層膜207にとって発光層204の反対側、すなわち透明基板201側)に向けて放出される。また、同じ無機EL装置で、絶縁体積層膜207側から透光性電極202および発光層204に向けて光を垂直入射したとき、第1の絶縁膜203と透光性電極202の間の界面、透光性電極202と層絶縁体積層膜207の間の界面ならびに低屈折率層208と高屈折率層209の間の界面での反射により、R画素、G画素およびB画素の各発光ピーク波長±20nm内にある一つの波長での反射率が、その発光ピーク波長の±50nm内の他の波長での反射率よりも低くなる。従って、第1の実施の形態および第2の実施の形態に関して上述した効果が得られる。但し、第1の絶縁膜203はなくてもよい。
【0090】
<電子機器>
次に、本発明のEL装置を備えた各種電子機器について、図18を参照して説明する。図18(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図18(a)において、符号600は携帯電話本体を示し、符号601は前記のいずれかのEL装置を用いた表示部を示している。図18(b)は、ワープロ、パソコンなどの携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。図18(b)において、符号700は情報処理装置、符号701はキーボードなどの入力部、符号703は情報処理装置本体、符号702は前記のいずれかのEL装置を用いた表示部を示している。図18(c)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。図18(c)において、符号800は時計本体を示し、符号801は前記のいずれかのEL装置を用いた表示部を示している。
【0091】
図18(a)〜(c)に示すそれぞれの電子機器は、前記のいずれかのEL装置を表示部として備えたものであるため、色純度の高い表示を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明に係るフルカラー発光型の有機EL装置の配線構造を示す図である。
【図2】図1の有機EL装置の断面図である。
【図3】本発明に係る有機EL装置における各層の特性を示す表である。
【図4】本発明に係る有機EL装置における画素で発光した光の進路の例を示す模式図である。
【図5】本発明に係る有機EL装置の各画素に重なる領域から放出された光のスペクトルを示すグラフである。
【図6】比較例の有機EL装置の各画素に重なる領域から放出された光のスペクトルを示すグラフである。
【図7】(a)は本発明に係る有機EL装置の製造の一工程を示す断面図であり、(b)は(a)の後の工程を示す断面図であり、(c)は(a)の後の工程を示す断面図である。
【図8】(a)は図7(c)にの後の工程を示す断面図であり、(b)は(a)の後の工程を示す断面図であり、(c)は(a)の後の工程を示す断面図である。
【図9】本発明に係る有機EL装置における垂直入射光に起因する光の進路の例を示す模式図である。
【図10】本発明に係る有機EL装置でのR画素に重なる領域についての外部から有機EL装置に垂直入射する光に対する反射率スペクトルを示す図である。
【図11】本発明に係る有機EL装置でのG画素に重なる領域についての外部から有機EL装置に垂直入射する光に対する反射率スペクトルを示す図である。
【図12】本発明に係る有機EL装置でのB画素に重なる領域についての外部から有機EL装置に垂直入射する光に対する反射率スペクトルを示す図である。
【図13】本発明に係る他の有機EL装置における各層の特性を示す表である。
【図14】本発明に係る他の有機EL装置における各層の特性を示す表である。
【図15】本発明に係る他の有機EL装置における各層の特性を示す表である。
【図16】本発明に係るフルカラー発光型の有機EL装置の第3の実施の形態の断面図である。
【図17】本発明の第4の実施の形態に係るフルカラー発光型の無機EL装置の一部を示す断面図である。
【図18】(a)は本発明に係る電子機器を示す図であり、(b)は本発明に係る他の電子機器を示す図であり、(c)は本発明に係る電子機器を示す図である。
【符号の説明】
【0093】
4…画素電極(陽極,透光性電極)、7…発光層、9…対向電極(陰極)、16a,16b,16c…第2層間絶縁層(高屈折率層)、17a,17b,17c…第2層間絶縁層(低屈折率層)、18…絶縁体積層膜、100…有機EL装置(EL装置)、202…透光性電極、204…発光層、206…背面電極、207…絶縁体積層膜、208…低屈折率層、209…高屈折率層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤色に相当する光を発光可能なR画素と、緑色に相当する光を発光可能なG画素と、青色に相当する光を発光可能なB画素とを備えるEL装置であって、
前記各画素は、一対の電極と、これらの電極の間に挟まれて電気エネルギを与えられることにより発光する発光層とを少なくとも有しており、前記電極のうち一方は透光性電極であり、
前記透光性電極のうち前記発光層と反対側の面には、絶縁体積層膜が形成されており、
前記絶縁体積層膜は、透光性絶縁体から形成された複数の低屈折率層と、前記低屈折率層よりも高い屈折率を有する透光性絶縁体から形成された複数の高屈折率層とを有しており、これらの低屈折率層と高屈折率層は交互に積層されており、
各低屈折率層は、前記R画素、前記G画素および前記B画素の発光領域全域にわたって形成され、前記R画素、前記G画素および前記B画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有しており、
各高屈折率層は、前記R画素、前記G画素および前記B画素の発光領域全域にわたって形成され、前記R画素、前記G画素および前記B画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有しており、
複数の前記低屈折率層は互いに異なる厚さを有しており、
複数の前記高屈折率層は互いに異なる厚さを有しており、
前記発光層が発光すると、少なくとも前記透光性電極と前記絶縁体積層膜の間の界面ならびに前記低屈折率層と前記高屈折率層の間の界面での反射により、前記R画素、前記G画素および前記B画素のいずれの発光ピーク波長においても、前記絶縁体積層膜がない場合よりも高い強度の光が前記絶縁体積層膜から放出されるように、前記低屈折率層と前記高屈折率層の厚さが決定されていることを特徴とするEL装置。
【請求項2】
赤色に相当する光を発光可能なR画素と、緑色に相当する光を発光可能なG画素と、青色に相当する光を発光可能なB画素とを備えるEL装置であって、
前記各画素は、一対の電極と、これらの電極の間に挟まれて電気エネルギを与えられることにより発光する発光層とを少なくとも有しており、前記電極のうち一方は透光性電極であり、
前記透光性電極のうち前記発光層と反対側の面には、絶縁体積層膜が形成されており、
前記絶縁体積層膜は、透光性絶縁体から形成された低屈折率層と、前記低屈折率層よりも高い屈折率を有する透光性絶縁体から形成された高屈折率層とを有しており、
前記低屈折率層は、前記R画素、前記G画素および前記B画素の発光領域全域にわたって形成され、前記R画素、前記G画素および前記B画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有しており、
前記高屈折率層は、前記R画素、前記G画素および前記B画素の発光領域全域にわたって形成され、前記R画素、前記G画素および前記B画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有しており、
前記絶縁体積層膜側から前記透光性電極および前記発光層に向けて光を入射したとき、少なくとも前記透光性電極と前記絶縁体積層膜の間の界面ならびに前記低屈折率層と前記高屈折率層の間の界面での反射により、前記R画素、前記G画素および前記B画素の各発光ピーク波長の±20nm内にある波長での反射率が、各発光ピーク波長の±50nm内の他の波長での反射率よりも低くなるように、前記低屈折率層と前記高屈折率層の厚さが決定されていることを特徴とするEL装置。
【請求項3】
前記透光性電極と前記発光層を含む前記透光性電極から前記発光層までの層の厚さの組合せが、前記画素の発光色により異なることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のEL装置。
【請求項4】
前記EL装置は有機EL装置であり、
前記発光層と前記透光性電極の間に、前記発光層から前記透光性電極に向けて正孔または電子が漏出することを低減する中間層が配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のEL装置。
【請求項5】
前記絶縁体積層膜は、複数の低屈折率層と、複数の高屈折率層とを有しており、これらの低屈折率層と高屈折率層は交互に積層されており、
複数の前記低屈折率層は互いに異なる厚さを有しており、
複数の前記高屈折率層は互いに異なる厚さを有していることを特徴とする請求項2に記載のEL装置。
【請求項6】
前記絶縁体積層膜の光射出側にカラーフィルタが配設されていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のEL装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のEL装置を備えることを特徴とする電子機器。
【請求項1】
赤色に相当する光を発光可能なR画素と、緑色に相当する光を発光可能なG画素と、青色に相当する光を発光可能なB画素とを備えるEL装置であって、
前記各画素は、一対の電極と、これらの電極の間に挟まれて電気エネルギを与えられることにより発光する発光層とを少なくとも有しており、前記電極のうち一方は透光性電極であり、
前記透光性電極のうち前記発光層と反対側の面には、絶縁体積層膜が形成されており、
前記絶縁体積層膜は、透光性絶縁体から形成された複数の低屈折率層と、前記低屈折率層よりも高い屈折率を有する透光性絶縁体から形成された複数の高屈折率層とを有しており、これらの低屈折率層と高屈折率層は交互に積層されており、
各低屈折率層は、前記R画素、前記G画素および前記B画素の発光領域全域にわたって形成され、前記R画素、前記G画素および前記B画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有しており、
各高屈折率層は、前記R画素、前記G画素および前記B画素の発光領域全域にわたって形成され、前記R画素、前記G画素および前記B画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有しており、
複数の前記低屈折率層は互いに異なる厚さを有しており、
複数の前記高屈折率層は互いに異なる厚さを有しており、
前記発光層が発光すると、少なくとも前記透光性電極と前記絶縁体積層膜の間の界面ならびに前記低屈折率層と前記高屈折率層の間の界面での反射により、前記R画素、前記G画素および前記B画素のいずれの発光ピーク波長においても、前記絶縁体積層膜がない場合よりも高い強度の光が前記絶縁体積層膜から放出されるように、前記低屈折率層と前記高屈折率層の厚さが決定されていることを特徴とするEL装置。
【請求項2】
赤色に相当する光を発光可能なR画素と、緑色に相当する光を発光可能なG画素と、青色に相当する光を発光可能なB画素とを備えるEL装置であって、
前記各画素は、一対の電極と、これらの電極の間に挟まれて電気エネルギを与えられることにより発光する発光層とを少なくとも有しており、前記電極のうち一方は透光性電極であり、
前記透光性電極のうち前記発光層と反対側の面には、絶縁体積層膜が形成されており、
前記絶縁体積層膜は、透光性絶縁体から形成された低屈折率層と、前記低屈折率層よりも高い屈折率を有する透光性絶縁体から形成された高屈折率層とを有しており、
前記低屈折率層は、前記R画素、前記G画素および前記B画素の発光領域全域にわたって形成され、前記R画素、前記G画素および前記B画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有しており、
前記高屈折率層は、前記R画素、前記G画素および前記B画素の発光領域全域にわたって形成され、前記R画素、前記G画素および前記B画素のいずれに重なる領域でも一様な厚さを有しており、
前記絶縁体積層膜側から前記透光性電極および前記発光層に向けて光を入射したとき、少なくとも前記透光性電極と前記絶縁体積層膜の間の界面ならびに前記低屈折率層と前記高屈折率層の間の界面での反射により、前記R画素、前記G画素および前記B画素の各発光ピーク波長の±20nm内にある波長での反射率が、各発光ピーク波長の±50nm内の他の波長での反射率よりも低くなるように、前記低屈折率層と前記高屈折率層の厚さが決定されていることを特徴とするEL装置。
【請求項3】
前記透光性電極と前記発光層を含む前記透光性電極から前記発光層までの層の厚さの組合せが、前記画素の発光色により異なることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のEL装置。
【請求項4】
前記EL装置は有機EL装置であり、
前記発光層と前記透光性電極の間に、前記発光層から前記透光性電極に向けて正孔または電子が漏出することを低減する中間層が配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のEL装置。
【請求項5】
前記絶縁体積層膜は、複数の低屈折率層と、複数の高屈折率層とを有しており、これらの低屈折率層と高屈折率層は交互に積層されており、
複数の前記低屈折率層は互いに異なる厚さを有しており、
複数の前記高屈折率層は互いに異なる厚さを有していることを特徴とする請求項2に記載のEL装置。
【請求項6】
前記絶縁体積層膜の光射出側にカラーフィルタが配設されていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のEL装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のEL装置を備えることを特徴とする電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2006−173089(P2006−173089A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−257551(P2005−257551)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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