説明

EML4−ALK融合遺伝子

【課題】肺がんの新たな原因遺伝子を解明し、これにより、当該遺伝子、その検出方法及びそのためのキット、癌治療剤のスクリーニング方法、並びに医薬組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】癌患者の一部に存在している融合遺伝子が癌の原因遺伝子であることを見出し、当該遺伝子及びそれによりコードされる蛋白質の検出方法を構築した。前記蛋白質を用いた前記蛋白質抑制剤(即ち前記融合遺伝子陽性の癌治療剤)スクリーニング方法を構築した。前記蛋白質抑制剤が抗腫瘍効果を示すことを明らかにした。これらにより、スクリーニングツールとして有用な新規融合遺伝子、融合蛋白質、スクリーニング方法、並びに前記融合遺伝子陽性の癌治療用医薬組成物を提供した。また、前記融合遺伝子陽性の癌を検出するのに有用な検出方法を提供して本発明を完成させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、新規な融合蛋白質であるポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有するベクター、該ベクターを含有する形質転換細胞、前記融合蛋白質又はポリヌクレオチドの検出方法、癌治療剤のスクリーニング方法及び癌治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在までに、癌化関連遺伝子はいくつか知られており、特に、チロシンキナーゼ遺伝子は細胞の増殖を直接制御する重要な酵素をコードしており、アミノ酸配列の置換や欠失などによる自己リン酸化の亢進として検出されるキナーゼ活性の自発活性化により細胞を癌化に導くことが知られている。
【0003】
例えば、未分化大細胞リンパ腫 (ALCL)ではNPMとALKチロシンキナーゼとの融合遺伝子NPM/ALKが半数以上の症例で認められるが、NPM/ALKによる腫瘍細胞の増殖にはALKキナーゼの活性化が重要である事が示された(非特許文献25、非特許文献14)。
【0004】
肺癌の約1割に存在する新規な異常キナーゼの存在が報告されているが具体的な分子に関する言及はない(非特許文献2)。
【0005】
エキノダームマイクロチューブルアソシエートプロテインライク4(echinoderm microtubule-associated protein like protein 4; EML4)(非特許文献3)は、アミノ末端に塩基性領域を有し、さらにそのカルボキシル末端側にWDドメインを有している(非特許文献8)。EML4の生理的機能はほとんど知られていない。
【0006】
一方、アナプラスチックリンフォーマキナーゼ(Anaplastic Lymphoma Kinase; ALK)(非特許文献4)は受容体型チロシンキナーゼであり、中央部に細胞膜貫通領域を有し、そのカルボキシル末端側にチロシンキナーゼ領域、アミノ末端側に細胞外領域を有する蛋白質である(非特許文献5)。
【0007】
これまでに、神経芽細胞腫、神経膠芽腫、乳癌、メラノーマなど幾つかの外胚葉を起源とする癌細胞において全長ALKが発現していることが報告されている(非特許文献13)が内胚葉及び中胚葉を起源とする癌細胞においては全長ALKの発現は観察されていない。神経芽細胞腫細胞株の多くで全長ALKが発現しているが、これら神経芽腫細胞株ではALKの自己リン酸化が観察されず、また神経芽細胞腫患者でのコホート解析からALKの発現と癌化との関連性は低いことが報告されており、神経芽細胞腫でのALKの発現は癌化との関連性というよりはむしろ正常の神経分化における発現を反映している可能性が示唆されている(非特許文献10)。一方で、プレイオトロフィン(pleiotrophin)やミッドカイン(midkine)といったリガンドやALK自身の遺伝子増幅によりALKの自己リン酸化の増加や細胞内シグナルが動員される例も報告されており、ALKが癌細胞の増殖に寄与している可能性も報告されている(非特許文献12)。
【0008】
また、ヒト悪性リンパ腫や炎症性筋線維芽細胞腫瘍(inflammatory myofibroblastic tumor)の一部の症例において、ALK遺伝子が染色体転座又は逆位の結果他の遺伝子(NPM、CLTCL、TFG 、CARS、SEC31L1など)と融合し、融合型チロシンキナーゼを作ることが報告されている(非特許文献9、11、14〜19、非特許文献26〜28)。また、ALK抗体を用いてALKと融合体を形成する蛋白質を同定する方法が報告されていた(非特許文献6)。一方、EML4とALKとの融合遺伝子は報告されていない。また、パートナー分子の多くは複合体形成ドメインを有していることから、融合体自身も複合体を形成していると考えられており、この複合体形成がALKのチロシンキナーゼ活性の制御不能を引き起こし、細胞内シグナルが異常に活性化され癌化を惹き起こしていると考えられている(非特許文献10)。実際にALK融合体を発現したリンパ腫細胞に対して、ALKのshRNAやALKのキナーゼ抑制化合物を用いることで、細胞増殖抑制及び細胞死を誘導できることが報告されていることから、上記ALK融合体がリンパ腫や炎症性筋線維芽細胞腫瘍の治療ターゲットとなる可能性が示唆されている(非特許文献20〜22)。また、前述のようにALKが増殖に関与するその他の癌に対して、ALKが治療ターゲットとなる可能性があることが示唆されている(非特許文献21〜22)。
【0009】
JAK3チロシンキナーゼ抑制物質として利用されていたWHI-P131およびWHI-P154がNPM-ALKの活性を抑制すること(非特許文献22)、また、低分子量ALK該抑制剤がNPM-ALK発現リンパ腫細胞株の細胞死を誘導することが報告されている(非特許文献21)。その他にも、複数のALK抑制活性を有する低分子化合物が報告されている(非特許文献23、非特許文献24、特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2004/080980号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2005/009389号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2005/016894号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(The New England journal of medicine)」,(米国),2005年,353巻,p.172−187
【非特許文献2】第65回日本癌学会要旨集O-324(2006年8月28日発行)
【非特許文献3】GenBankTM アクセッション番号NM_019063、インターネット<URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/viewer.fcgi?db=nuccore&id=19923496>
【非特許文献4】GenBankTM アクセッション番号AB209477、インターネット<URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/viewer.fcgi?db=nuccore&id=62088533>
【非特許文献5】「オンコジーン(Oncogene)」,(米国),1997年,30巻,p.439−449
【非特許文献6】「プロシーディング・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proceedings of the National Academy of Scineces),(米国),2006年,103巻,p.7402−7407
【非特許文献7】「セミナー・イン・オンコロジー(Seminars in oncology)」,(米国),1993年,20巻,p.105−127
【非特許文献8】「ジェノミクス(Genomics)」,(米国),2000年,68巻,p.348−350
【非特許文献9】「オンコジーン(Oncogene)」,(米国),1994年,9巻,p.1567−1574
【非特許文献10】「セルラー・アンド・モレキュラー・ライフ・サイエンス(Cellular and molecular life sciences)」,(スイス),2004年,61巻,p.2939−2953)
【0012】
【非特許文献11】「アメリカン・ジャーナル・オブ・パソロジー(American Journal of Pathology)」,(米国),2002年,160巻,p.1487−1494
【非特許文献12】「ジャーナル・オブ・セルラー・フィジオロジー(Journal of cellular physiology)」,(米国),2004年,99巻,p.330−358)。
【非特許文献13】「インターナショナル・ジャーナル・オブ・キャンサー(International journal of cancer)」,(米国),2002年,100巻,p.49−56
【非特許文献14】「サイエンス(Science)」,(米国),1994年,263巻,p.1281−1284)
【非特許文献15】「ブラッド(Blood)」,(米国),1995年,86巻,p.1954−1960)
【非特許文献16】「ブラッド(Blood)」,(米国),2000年,95巻,p.3204−3207)
【非特許文献17】「ブラッド(Blood)」,(米国),1999年,94巻,p.3265−3268))。
【非特許文献18】「ラボラトリー・インベスティゲーション;ア・ジャーナル・オブ・テクニカル・メソッド・アンド・パソロジー(Laboratory investigation; a journal of technical methods and pathology)」,(米国),2003年,83巻,p.1255−1265)
【非特許文献19】「インターナショナル・ジャーナル・オブ・キャンサー(International journal of cancer), (米国),2006年,118巻,p.1181−1186
【非特許文献20】「ブラッド(Blood)」,(米国),2006年,107巻,p.689−697
【0013】
【非特許文献21】「ブラッド(Blood)」,(米国),2006年,107巻,p.1617−1623
【非特許文献22】「ラボラトリー・インベスティゲーション;ア・ジャーナル・オブ・テクニカル・メソッド・アンド・パソロジー(Laboratory investigation; a journal of technical methods and pathology)」,(米国),2005年,85巻,p.1544−1554
【非特許文献23】「ジャーナル・メディシナル・ケミストリー(Journal of medicinal chemistry)」,(米国),2006年,49巻,p.1006−1015
【非特許文献24】「ジャーナル・オブ・コンビナトリアル・ケミストリー(Journal of Combinatorial Chemistry)」,(米国),8巻,p.401−409
【非特許文献25】「サイエンス(Science)」,(米国),1997年,278巻,p.1309−1312
【非特許文献26】「アメリカン・ジャーナル・オブ・パソロジー(American Journal of Pathology)」,(米国),2000年,157巻,p.377−384
【非特許文献27】「ブラッド(Blood)」,(米国),1997年,90巻,p.2901−2910
【非特許文献28】「アメリカン・ジャーナル・オブ・パソロジー(American Journal of Pathology)」,(米国),2000年,156巻,p.781−789
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
癌の新たな原因遺伝子であるポリヌクレオチドを解明し、これにより、当該ポリヌクレオチドの検出方法及びそのためのキット、癌治療剤のスクリーニング方法、並びに治療方法及び治療剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、肺癌患者から得た試料から、染色体逆位によって産生される、EML4遺伝子の一部とキナーゼであるALK遺伝子の一部とが融合した新規な融合ポリヌクレオチド(以下、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1)のcDNA及びゲノムDNAの一部を単離することに成功した(実施例1、実施例2)。また、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1とは異なる部分で融合している新規融合ポリヌクレオチドであるEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2のcDNA及びゲノムDNAの一部、並びに新規融合ポリヌクレオチドであるEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv3のcDNAを単離することに成功した(実施例4(1)、実施例3(3)、実施例11(1))。臨床検体を用いた解析により、前記EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2又はEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv3が肺癌患者の一部に存在していることを見出した(実施例3、実施例11(1))。一方、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドは腫瘍形成能を示す癌の原因遺伝子であること(実施例6、実施例10(3)、実施例11(2))から、EML4とALKの融合ポリペプチドは、前記融合ポリヌクレオチドが陽性である癌の治療剤スクリーニングのツールとなることを明らかにした。これらの知見をもとに、本発明者らは、被験者から得た試料における前記融合ポリヌクレオチド又は融合ポリペプチドの検出方法(実施例3、実施例4(2)、実施例5(2)、実施例9、実施例11(3))、ついで、癌の原因となる前記融合ポリヌクレオチド及び/又は前記融合ポリペプチドの抑制剤(即ち前記融合ポリヌクレオチドが陽性の癌の治療剤)をスクリーニングする方法を構築し(実施例7、実施例10(3)、実施例11(4)(5)(8))、スクリーニングにより得られた化合物が抗腫瘍効果を示すことを確認した(実施例8(3)(7)(8)、実施例11(6)(9))。これらにより、前記融合ポリヌクレオチドが検出された被験者は、該融合ポリヌクレオチド及び/又はそれによりコードされるポリペプチドの抑制剤による癌治療が可能である。前記検出方法により治療剤の適用対象を選別することができ、これにより、前記抑制剤による治療の高い有効性が期待されるテーラーメード医療が実践できる。
【0016】
これらの知見から、本発明者らは、スクリーニングツールとして有用な新規ポリヌクレオチド、ポリペプチド、スクリーニング方法、並びにEML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子陽性の癌治療用医薬組成物を提供した。また、EML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子陽性の癌を検出するのに有用な検出方法を提供して本発明を完成させた。
【0017】
すなわち本発明は、
[1]配列番号2、配列番号7又は配列番号130で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、キナーゼ活性を有するポリペプチド、あるいは、配列番号2、配列番号7又は配列番号130で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもキナーゼ活性を有するポリペプチド、
[2]配列番号2、配列番号7又は配列番号130で表されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を含み、しかもキナーゼ活性を有するポリペプチド、
[3]配列番号2、配列番号7又は配列番号130で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
[4][1]乃至[3]に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
[5][4]に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター、
[6][5]に記載の発現ベクターで形質転換された細胞、
[7]ポリペプチドの発現に適した条件下で[6]に記載の形質転換された細胞を培養すること、及び前記ポリペプチドを細胞から回収することを含んでなる、[1]乃至[3]のポリペプチドの製造方法、
[8]被験者から得た試料中の、[1]乃至[3]に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの存在を検出する工程を含むことを特徴とする、EML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子の検出方法、
[9]被験者から得た試料中の、[1]乃至[3]に記載のポリペプチドの存在を検出する工程を含むことを特徴とする、EML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子によってコードされる融合蛋白質の検出方法、
[10][1]乃至[3]に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを特異的に増幅できるように設計したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを含む、EML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子の検出用キット、
[11]EML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子を検出するためのプライマーセットであって、下記a)〜c)からなる群より選択されるプライマーセット;
a)[4]に記載のポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子からなるアンチセンスプライマー及び該ポリヌクレオチドの相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸分子からなるセンスプライマーを含むプライマーセット、
b)配列番号4で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子からなるアンチセンスプライマー及び該ポリヌクレオチドの相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸分子からなるセンスプライマーを含むプライマーセット、
c)配列番号5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子からなるアンチセンスプライマー及び該ポリヌクレオチドの相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸分子からなるセンスプライマーを含むプライマーセット、
[12]配列番号1の塩基番号1から1759間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドからなるセンスプライマー及び配列番号1の塩基番号1760から3926間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドに対して相補的であるオリゴヌクレオチドからなるアンチセンスプライマーのプライマーセットであって、センスプライマーとアンチセンスセンスプライマーにより増幅される増幅産物の大きさが1kb以下である前記プライマーセット又はその相補鎖からなるプライマーセット、
[13]配列番号6の塩基番号1から2242の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドからなるセンスプライマー及び配列番号6の塩基番号2243から3933の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドに対して相補的であるオリゴヌクレオチドからなるアンチセンスプライマーのプライマーセットであって、センスプライマーとアンチセンスセンスプライマーにより増幅される増幅産物の大きさが1kb以下である前記プライマーセット又はその相補鎖からなるプライマーセット、
[14]配列番号4の塩基番号1から3629間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドからなるセンスプライマー及び配列番号4の塩基番号3630から3979間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドに対して相補的であるオリゴヌクレオチドからなるアンチセンスプライマーのプライマーセットであって、センスプライマーとアンチセンスセンスプライマーにより増幅される増幅産物の大きさが1kb以下である前記プライマーセット又はその相補鎖からなるプライマーセット、
[15]配列番号5の塩基番号1から579の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドからなるセンスプライマー及び配列番号5の塩基番号580から853の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドに対して相補的であるオリゴヌクレオチドからなるアンチセンスプライマーのプライマーセット又はその相補鎖からなるプライマーセット、
[16]配列番号129の塩基番号1から700間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドからなるセンスプライマー及び配列番号129の塩基番号701から1691間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドに対して相補的であるオリゴヌクレオチドからなるアンチセンスプライマーのプライマーセットであって、センスプライマーとアンチセンスセンスプライマーにより増幅される増幅産物の大きさが1kb以下である前記プライマーセット又はその相補鎖からなるプライマーセット、
[17](1)[1]乃至[3]に記載のポリペプチド又は前記ポリペプチドを発現している細胞に試験物質を接触させる工程、(2)前記ポリペプチドが抑制されるか否かを分析する工程、及び(3)前記ポリペプチドを抑制する物質を選択する工程を含むことを特徴とする前記ポリペプチドを抑制する物質をスクリーニングする方法、
[18][1]乃至[3]に記載のポリペプチドを抑制する物質がEML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子陽性の癌の治療剤である、[17]のスクリーニングする方法、
[19][1]乃至[3]に記載のポリペプチドを抑制する物質を含有する、EML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子陽性の癌治療用医薬組成物、
[20][1]乃至[3]に記載のポリペプチドを抑制する物質が、5−クロロ−N−[2−(イソプロピルスルホニル)フェニル]−N−{2−メトキシ−4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]フェニル}ピリミジン−2,4−ジアミン又は2−[(5−ブロモ−2−{[2−メトキシ−4−(4−メチルピペラジン−1−イル)フェニル]アミノ}ピリミジン−4−イル)アミノ]−N−メチルベンゼンスルホンアミドである[19]に記載のEML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子陽性の癌治療用医薬組成物、
[21]二重鎖部分が配列番号1の第1743番から第1761 番、第1744番から第1762番、第1750番から第1768番、第1753番から第1771番、第1756番から第1774番又は第1757番から第1775番に記載の塩基に基づいて設計される、[1]乃至[3]に記載のポリペプチドの発現抑制活性を有する二重鎖核酸、
[22][21]に記載の二重鎖核酸を有効成分とする、EML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子陽性の癌治療用医薬組成物
に関する。
【0018】
前記何れの文献にも、EML4遺伝子とALK遺伝子とが融合遺伝子を形成すること、ましてやEML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子が一部の癌患者に発現しているという報告は全くなく、EML4遺伝子とALK遺伝子とが融合遺伝子を形成し、一部の癌患者に発現していることは、本発明者らが初めて見出した知見であり、EML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子を用いたスクリーニング方法は、本発明者らが初めて行なった発明である。また、該融合遺伝子陽性の癌の検出を行うのに有用な該融合遺伝子の検出方法、該検出に有用なプライマーセット、及び検出用キットは、上記本発明者らが見出した知見によって、初めて提供された発明である。5−クロロ−N−[2−(イソプロピルスルホニル)フェニル]−N−{2−メトキシ−4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]フェニル}ピリミジン−2,4−ジアミン又は2−[(5−ブロモ−2−{[2−メトキシ−4−(4−メチルピペラジン−1−イル)フェニル]アミノ}ピリミジン−4−イル)アミノ]−N−メチルベンゼンスルホンアミドを含む種々のALK阻害剤(特許文献3〜4、非特許文献20〜22、非特許文献24、本願第一優先日後第二優先日前に出版された文献であるPNAS,2007,Jan2, 104(1), 270-275 Epub2006 Dec)及びALK阻害剤がNPM-ALK融合体を発現しているリンパ腫細胞において増殖抑制及び細胞死を誘導できること(非特許文献20〜22)、リンパ腫を抑制したこと(本願第一優先日後第二優先日前に出版された文献であるPNAS,2007,Jan2, 104(1), 270-275 Epub2006 Dec)が報告されていたが、これらが、EML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子陽性の癌(特には肺癌)治療の用途を有することは全く知られておらず、EML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子陽性の癌(特には肺癌)治療用医薬組成物は、上記本発明者らが見出した知見によって、初めて提供された発明である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド、発現ベクター及び細胞は、本発明のポリペプチドを抑制する物質(特にはEML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子陽性の肺癌治療剤)のスクリーニングに用いることができる。また、本発明のポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドの存在を指標にすることにより、EML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子陽性の対象(特には肺癌患者)の検出を行うことが可能である。本発明のスクリーニング方法により、EML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子陽性の癌治療剤(特には肺癌治療剤)のスクリーニングを行うことができる。本発明のプライマー及び検出用キットは、本発明のEML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子陽性を検出するために利用することができ、本発明の検出方法は、EML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子陽性の癌(特には肺癌)を検出する方法として利用できる。また、本発明の検出方法により、本発明の治療剤の適用対象者であるか否かを鑑別することができる。本発明のポリペプチドを抑制する物質は、EML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子陽性の癌、特に肺癌の治療剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】PCRの結果を示す。左レーン(46,XX)は健常人由来ゲノムDNAを基質とした場合の結果を、右レーン(ID#33)は癌患者由来のゲノムDNAを基質とした場合の結果を示す。
【図2】肺がん患者検体におけるEML4−ALK融合ポリヌクレオチドのスクリーニングの結果を示す図である。レーン「46,XX」は健常女性末梢血単核球、「ID#2」〜「ID#42」は肺がん患者切除標本から得た試料を用いた結果を示す。またレーン「NTC」は基質cDNAを加えない状態での結果を示す。レーン「Marker」は、サイズマーカーDNAを泳動したレーンをを示す(上段)。GAPDH cDNAを増幅した結果を下段に示す。各症例の性別(M、男性;F、女性)、病理型(S, squamous cellcarcinoma; A, adenocarcinoma; AS, adenosquamous carcinoma; B, bronchiolo−aleveolar carcinoma)、EGFR変異の有無および喫煙歴の有無についてそれぞれ図上部に示す。
【図3】遺伝子の腫瘍形成能を示す図である。図上段(3T3)は、空ベクター(Vector)、全長ALK/pMXS(ALK)、EML4−ALKv1/pMXS(EML4−ALK)又はEML4−ALK(K589M)/pMXS発現プラスミドを導入した場合の3T3繊維芽細胞を示している。スケールバーは100μmを示す。図下段(Nude mice)は、各3T3繊維芽細胞株をヌードマウスに接種した結果を示す。
【図4】細胞内自己リン酸化に対するEML4−ALK融合ポリペプチド抑制剤(化合物A)の抑制作用を示す図である。「KM」はEML4−ALK(K589M)発現細胞を用いた場合を、「EA」はv1発現BA/F3細胞を用いた場合を示している。「αp−ALK」(上段パネル)は抗リン酸化ALK抗体でイムノブロットしたときの結果を、「αFLAG」(下段パネル)は抗FLAG抗体でイムノブロットしたときの結果を示す。
【図5】CD8蛋白のみ(CD8)、あるいはCD8と共にALK(ALK)、EML4−ALK融合ポリペプチドv1(EA)又はEML4−ALK(K589M)(KM)を発現する細胞のIL−3の存在下(+IL−3)又は非存在下(−IL−3)での増殖能を示す図である。図の横軸は時間経過(Days)を、縦軸は細胞数(Cell number)を示す。
【図6】(a)CD8のみ発現するBA/F3細胞に各濃度の化合物Aを添加してIL−3存在下で培養した際の細胞数の経時的変化を示す。(b)IL−3非存在下でv1発現BA/F3細胞を培養した際の各濃度の化合物A添加による細胞数の経時的変化を示す。図の横軸は時間経過(Days)を、縦軸は細胞数(Cell number)を示す。
【図7】siRNA1〜siRNA9を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明について詳細に説明する。本明細書における遺伝子操作技術は特に断りのない限り「Molecular Cloning」 Sambrook, Jら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年等の公知技術に従って実施可能であり、蛋白質操作技術は特に断りのない限り「タンパク実験プロトコール」(秀潤社、1997年)等の公知技術に従って実施可能である。
【0022】
本明細書における「本発明のポリペプチドが抑制される」とは、「本発明のポリペプチドの発現が抑制される」と「本発明のポリペプチドの活性が抑制される」との両方を含み、「本発明のポリペプチドを抑制する物質」とは、「発明のポリペプチドの発現を抑制する物質」と「本発明のポリペプチドの活性を抑制する物質」との両方を含む。
【0023】
本明細書における「スクリーニング」とは、多数の試験物質の中から目的の活性を有する物質を篩い分けること、及び、ある試験物質について、その物質が目的の性質を有する物質であるか否かを検出することの両方を含む。
【0024】
<本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド、発現ベクター、形質転換された細胞、及びポリペプチドの製造方法>
本発明のポリペプチドには、
(1)配列番号2、配列番号7又は配列番号130で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
【0025】
(2)(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、キナーゼ活性を有するポリペプチド、あるいは、配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも、キナーゼ活性を有するポリペプチド(以下、v1機能的等価改変体);
(b)配列番号7で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、キナーゼ活性を有するポリペプチド、あるいは、配列番号7で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも、キナーゼ活性を有するポリペプチド(以下、v2機能的等価改変体);
(c)配列番号130で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、キナーゼ活性を有するポリペプチド、あるいは、配列番号130で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも、キナーゼ活性を有するポリペプチド(以下、v3機能的等価改変体);
(以下、v1機能的等価改変体、v2機能的等価改変体及びv3機能的等価改変体を総称して機能的等価改変体と称する);及び
【0026】
(3)(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、キナーゼ活性を有するポリペプチド(以下、v1相同ポリペプチド);
(b)配列番号7で表されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、キナーゼ活性を有するポリペプチド(以下、v2相同ポリペプチド);
(c)配列番号130で表されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、キナーゼ活性を有するポリペプチド(以下、v3相同ポリペプチド);
(以下、v1相同ポリペプチド、v2相同ポリペプチド及びv3相同ポリペプチドを総称して相同ポリペプチドと称する);
が含まれる。
【0027】
「機能的等価改変体」としては、「配列番号2、配列番号7又は配列番号130で表されるアミノ酸配列において、1〜10個、好ましくは1〜数個、更に好ましくは1〜7個、最も好ましくは1〜5個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも、キナーゼ活性を有するポリペプチド」が好ましく、「配列番号2、配列番号7又は配列番号130で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、キナーゼ活性を有するポリペプチド」が特に好ましい。
【0028】
「相同ポリペプチド」は、「配列番号2、配列番号7又は配列番号130で表されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、キナーゼ活性を有するポリペプチド」であるが、該同一性が、好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上であるアミノ酸配列を含むポリペプチドが好ましい。
【0029】
なお、本明細書における前記「同一性」とは、NEEDLE program(J Mol Biol 1970; 48: 443−453)検索によりデフォルトで用意されているパラメータを用いて得られた値Identityを意味する。前記のパラメータは以下のとおりである。
【0030】
Gap penalty = 10
Extend penalty = 0.5
Matrix = EBLOSUM62
【0031】
「キナーゼ活性を有する」とは、チロシンをリン酸化する酵素としての活性を有することを意味する。あるポリペプチドが「キナーゼ活性を有する」ことは、実施例7(2)の方法で確認する。機能的等価改変体及び相同ポリペプチドは、キナーゼ活性を有することに加え、腫瘍形成能を併せ持つことが更に好ましい。腫瘍形成能を有することは、実施例6(1)の方法で確認する。
【0032】
以上、本発明のポリペプチドについて説明したが、配列番号2、配列番号7又は配列番号130で表されるアミノ酸からなるポリペプチド、機能的等価改変体、及び相同ポリペプチドを総称して、以下、「本発明のポリペプチド」と称する。本発明のポリペプチドのうち、配列番号2で表されるアミノ酸からなるポリペプチド、v1機能的等価改変体、及びv1相同ポリペプチドを総称して「本発明のポリペプチドv1型」、配列番号7で表されるアミノ酸からなるポリペプチド、v2機能的等価改変体、及びv2相同ポリペプチドを総称して「本発明のポリペプチドv2型」、配列番号130で表されるアミノ酸からなるポリペプチド、v3機能的等価改変体、及びv3相同ポリペプチドを総称して「本発明のポリペプチドv3型」と称する。配列番号2で表されるアミノ酸からなるポリペプチドである蛋白質を「EML4−ALK融合ポリペプチドv1」と称し、配列番号7で表されるアミノ酸からなるポリペプチドである蛋白質を「EML4−ALK融合ポリペプチドv2」と称し、配列番号130で表されるアミノ酸からなるポリペプチドである蛋白質を「EML4−ALK融合ポリペプチドv3」と称する。「EML4−ALK融合ポリペプチドv1」、「EML4−ALK融合ポリペプチドv2」及び「EML4−ALK融合ポリペプチドv3」を総称して「EML4−ALK融合ポリペプチド」と称する。
【0033】
本発明のポリペプチドとしては、「配列番号2、配列番号7又は配列番号130で表されるアミノ酸配列を含み、キナーゼ活性を有するポリペプチド」が好ましく、「配列番号2、配列番号7又は配列番号130で表されるアミノ酸配列を含み、キナーゼ活性及び腫瘍形成能を有するポリペプチド」がより好ましい。「配列番号2、配列番号7又は配列番号130で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド」が最も好ましい。
【0034】
また、本発明のポリペプチドをコードす
るポリヌクレオチド(以下、「本発明のポリヌクレオチド」と称する)は、EML4−ALK融合ポリペプチド、機能的等価改変体、又は、相同ポリペプチドをコードする塩基配列で表されるポリヌクレオチドなら何れでもよい。好ましくは、配列番号2、配列番号7又は配列番号130記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、さらに好ましくは、配列番号1(特に好ましくは配列番号1の第271番から第3447番)、配列番号6又は配列番号129記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドである。
【0035】
本発明のポリヌクレオチドのうち、本発明のポリペプチドv1型をコードする遺伝子を「本発明のポリヌクレオチドv1型」と称し、本発明のポリペプチドv2型をコードする遺伝子を「本発明のポリヌクレオチドv2型」と称し、本発明のポリペプチドv3型をコードする遺伝子を「本発明のポリヌクレオチドv3型」と称する。
【0036】
本明細書における「EML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子」とは、上記本発明のポリヌクレオチドのことをいう。本発明のEML4−ALK融合ポリペプチドv1をコードするポリヌクレオチドを「EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1」、本発明のEML4−ALK融合ポリペプチドv2をコードするポリヌクレオチドを「EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2」、本発明のEML4−ALK融合ポリペプチドv3をコードするポリヌクレオチドを「EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv3」と称する。EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2及びEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv3を総称して「EML4−ALK融合ポリヌクレオチド」と称する。
【0037】
本明細書において、「EML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子陽性の」とは、本発明のポリヌクレオチドが陽性である(すなわち本発明のポリヌクレオチドが存在している)ことをいい、好ましくはEML4−ALK融合ポリヌクレオチドが陽性である(すなわちEML4−ALK融合ポリヌクレオチドが存在している)ことをいう。
【0038】
本発明のポリヌクレオチドの製造方法は、特に限定されるものではないが、(1)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いた方法、(2)常法の遺伝子工学的手法(すなわちcDNAライブラリーで形質転換した形質転換株から所望のアミノ酸配列を含む形質転換株を選択する方法)を用いる方法、又は(3)化学合成法を挙げることができる。各製造方法については、WO01/34785に記載されているのと同様に実施できる。ただし、上記特許出願明細書における「本発明の新規蛋白」を本発明のポリペプチドからなる蛋白質、「本発明の遺伝子」を本発明のポリヌクレオチドと読み替える。
【0039】
PCRを用いた方法では、例えば、WO01/34785の「発明の実施の形態」1)蛋白質遺伝子の製造方法a)第1製造法に記載された手順により、本発明のポリヌクレオチドを製造することができる。本発明の蛋白質を産生する能力を有する細胞あるいは組織、例えば、ヒト肺癌患者由来肺組織からmRNAを抽出する。次いで、このmRNAをランダムプライマー又はオリゴdTプライマーの存在下で、逆転写酵素反応を行い、第一鎖cDNAを合成することが出来る。得られた第一鎖cDNAを用い、目的遺伝子の一部の領域をはさんだ2種類のプライマーを用いてPCRに供し、本発明のポリヌクレオチドを得ることができる。より具体的には、例えば実施例4(1)、実施例11(1)又は実施例11(7)記載の方法により本発明のポリヌクレオチドを製造することが出来る。
【0040】
人工的に、本発明のポリヌクレオチドを部分的にそれぞれ逆転写(RT)−PCRで合成して得たのち、得られた各部分を融合させることでも本発明のポリヌクレオチドの製造が可能である。例えば、(a)本発明のポリヌクレオチドv1型の場合は、EML4のエキソン1からエキソン13までの1489塩基を、本発明のポリヌクレオチドv2型の場合はEML4のエキソン1からエキソン20までの2242塩基を内在性にEML4を発現してる細胞(例えばHeLa細胞等)又は組織から抽出したmRNAを鋳型にして、目的遺伝子の領域をはさんだ2種類のプライマーを用いてRT−PCRを行って増幅する。一方、例えば、(b)本発明のポリヌクレオチドv1型の場合も本発明のポリヌクレオチドv2型の場合も、ALKのエキソン21からエキソン30までの1691塩基を、内在性にALKを発現している細胞(例えばRh30、U−87MG細胞等)又は組織から抽出したmRNAを鋳型にして、目的遺伝子の領域をはさんだ2種類のプライマーを用いてRT−PCRを行って増幅する。増幅された(a)及び(b)のPCR産物を融合させることで、本発明のポリヌクレオチドを得ることができる。融合には、上記(a)及び(b)のRT−PCRを行う際に用いるプライマーに工夫を加えると実施できる。例えば、上記(a)の断片をRT−PCRを行って増幅する際のアンチセンスプライマーの5’末端側にALKのエキソン21の5’末端のアンチセンス側の塩基配列を10塩基程度付加したプライマーを作製しアンチセンスプライマーとして用いて(a)の断片を増幅する。また、上記(b)の断片をRT−PCRを行って増幅する際のセンスプライマーの5’末端側に、本発明のポリヌクレオチドv1型の場合はEML4のエキソン13の3’末端のセンス側の塩基配列を10塩基程度、本発明のポリヌクレオチドv2型の場合の場合はEML4のエキソン20の3’末端のセンス側の塩基配列を10塩基程度付加したプライマーを作製しセンスプライマーとして(b)の断片を増幅する。得られたPCR産物2種類を鋳型として、EML4の開始コドンを含むセンスプライマーとALKの停止コドンを含むアンチセンスプライマーを用いてPCRを行うことで本発明のポリヌクレオチドを得ることができる。または、EML4の開始コドンを含むセンスプライマーとALKの停止コドンを含むアンチセンスプライマーを用いずに上記で得られたPCR産物2種類のみを用いて、アニーリングと伸長反応を行うことでも本発明のポリヌクレオチドを得ることができる。
【0041】
本発明の発現ベクター、形質転換された細胞、ポリペプチドの製造方法は、例えば、WO01/34785の「発明の実施の形態」2)本発明のベクター、本発明の宿主細胞、本発明の組換え蛋白の製造方法に記載された方法により実施できる。単離された本発明のポリヌクレオチドを、適当なベクターDNAに再び組込むことにより、真核生物又は原核生物の宿主細胞を形質転換させることができる。また、これらのベクターに適当なプロモーター及び形質発現にかかわる配列を導入することにより、それぞれの宿主細胞においてポリヌクレオチドを発現させることが可能である。
【0042】
本発明の発現ベクターは、本発明のポリヌクレオチドを含み、本発明のポリペプチドを発現させる限り、特に限定されるものではなく、例えば、用いる宿主細胞に応じて適宜選択した公知の発現ベクターに、本発明のポリヌクレオチドを挿入することにより得られる発現ベクターを挙げることができる。
【0043】
また、本発明の細胞も、本発明の前記発現ベクターでトランスフェクション又はインフェクションにより核酸導入され、本発明のポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、本発明のポリヌクレオチドが、宿主細胞の染色体に組み込まれた細胞であることもできるし、あるいは、本発明によるポリヌクレオチドを含む発現ベクターの形で含有する細胞であることもできる。本発明の細胞は、例えば、本発明の発現ベクターにより、所望の細胞をトランスフェクション又はインフェクションすることにより得ることができる。より具体的には、例えば、実施例1に記載のように、本発明によるポリヌクレオチドを含む発現ベクターとパッケージング用プラスミド(例えばpGP、pE−eco)とを市販のトランスフェクション試薬リポフェクトアミンを用いてBOSC23細胞に導入することで発現レトロウィルスを作製することができ、これをBA/F3細胞に感染させる(すなわちインフェクションする)ことにより本発明の形質転換細胞を製造することができる。
【0044】
上記で得られる所望の形質転換細胞は、常法に従い培養することができ、該培養により本発明のポリペプチドからなる蛋白質が生産される。該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択でき、例えば上記BA/F3細胞であれば牛胎児血清(FBS)等の血清成分を添加したRPMI1640等の培地を使用できる。
【0045】
上記により、形質転換細胞に生産される本発明のポリペプチドは、該ポリペプチドの物理的性質や生化学的性質等を利用した各種の公知の分離操作法により、分離及び精製することができる。本発明のポリペプチドはマーカー配列とインフレームで融合して発現させることで、該蛋白質の発現の確認、精製等が可能になる。
<本発明のプライマーセット>
本発明には、本発明のポリヌクレオチドの存在を検出するために有用なプライマーセットが含まれる。
【0046】
即ち、本発明には、
(1)EML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子を検出するためのプライマーセットであって、下記a)〜c)からなる群より選択されるプライマーセット;
a)本発明のポリヌクレオチド[本発明のポリヌクレオチドv1型(好ましくは、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1、更に好ましくは配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、本発明のポリヌクレオチドv2型(好ましくは、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2、更に好ましくは配列番号6で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、及び/又は本発明のポリヌクレオチドv3型(好ましくは、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv3、更に好ましくは配列番号129で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド)]にストリンジェントな条件下(好ましくは、よりストリンジェントな条件下)でハイブリダイズする連続した少なくとも16塩基の核酸分子からなるアンチセンスプライマー及び該ポリヌクレオチドの相補鎖にストリンジェントな条件下(好ましくは、よりストリンジェントな条件下)でハイブリダイズする連続した少なくとも16塩基の核酸分子からなるセンスプライマーを含むプライマーセット、b)EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1のゲノムの融合点を含む配列の一つである配列番号4の塩基配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下(好ましくは、よりストリンジェントな条件下)でハイブリダイズする連続した少なくとも16塩基の核酸分子からなるアンチセンスプライマー及び該ポリヌクレオチドの相補鎖にストリンジェントな条件下(好ましくは、よりストリンジェントな条件下)でハイブリダイズする連続した少なくとも16塩基の核酸分子からなるセンスプライマーを含むプライマーセット、及び/又はc)EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2のゲノムの融合点を含む配列の一つである配列番号5の塩基配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下(好ましくは、よりストリンジェントな条件下)でハイブリダイズする連続した少なくとも16塩基の核酸分子からなるアンチセンスプライマー及び該ポリヌクレオチドの相補鎖にストリンジェントな条件下(好ましくは、よりストリンジェントな条件下)でハイブリダイズする連続した少なくとも16塩基の核酸分子からなるセンスプライマーを含むプライマーセット、
【0047】
(2)配列番号1の塩基番号1から1759(好ましくは塩基番号271から1759)の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドからなるセンスプライマー及び配列番号1の塩基番号1760から3926(好ましくは塩基番号1760から3447)の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドに対して相補的であるオリゴヌクレオチドからなるアンチセンスプライマーのプライマーセットであって、配列番号1におけるセンスプライマーとアンチセンスセンスプライマーの選択位置の間隔が1kb以下である又はセンスプライマーとアンチセンスセンスプライマーにより増幅される増幅産物の大きさが1kb以下である前記プライマーセット又はその相補鎖からなるプライマーセット、
【0048】
(3)配列番号6の塩基番号1から2242の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドからなるセンスプライマー及び配列番号6の塩基番号2243から3933の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドに対して相補的であるオリゴヌクレオチドからなるアンチセンスプライマーのプライマーセットであって、配列番号6におけるセンスプライマーとアンチセンスセンスプライマーの選択位置の間隔が1kb以下である又はセンスプライマーとアンチセンスセンスプライマーにより増幅される増幅産物の大きさが1kb以下である前記プライマーセット又はその相補鎖からなるプライマーセット、
【0049】
(4)配列番号4の塩基番号1から3629間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドからなるセンスプライマー及び配列番号4の塩基番号3630から3979間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドに対して相補的であるオリゴヌクレオチドからなるアンチセンスプライマーのプライマーセットであって、配列番号4におけるセンスプライマーとアンチセンスセンスプライマーの選択位置の間隔が1kb以下である又はセンスプライマーとアンチセンスセンスプライマーにより増幅される増幅産物の大きさが1kb以下である前記プライマーセット又はその相補鎖からなるプライマーセット、
【0050】
(5)配列番号5の塩基番号1から579の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドからなるセンスプライマー及び配列番号5の塩基番号580から853の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドに対して相補的であるオリゴヌクレオチドからなるアンチセンスプライマーのプライマーセット又はその相補鎖からなるプライマーセット、
【0051】
(6)配列番号129の塩基番号1から700間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドからなるセンスプライマー及び配列番号129の塩基番号701から1691間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドに対して相補的であるオリゴヌクレオチドからなるアンチセンスプライマーのプライマーセットであって、配列番号129におけるセンスプライマーとアンチセンスセンスプライマーの選択位置の間隔が1kb以下である又はセンスプライマーとアンチセンスセンスプライマーにより増幅される増幅産物の大きさが1kb以下である前記プライマーセット又はその相補鎖からなるプライマーセットが含まれるが、好ましいプライマーセットとしては、
【0052】
(7)(i)配列番号8と配列番号9,(ii)配列番号15と配列番号16、配列番号17と配列番号18、配列番号19と配列番号20、配列番号21と配列番号22、配列番号23と配列番号24、配列番号25と配列番号26、配列番号27と配列番号28、配列番号29と配列番号30、配列番号31と配列番号32、又は、配列番号33と配列番号34、(iii)配列番号35と配列番号36、配列番号37と配列番号38、配列番号39と配列番号18、配列番号41と配列番号20、配列番号43と配列番号22、配列番号45と配列番号24、配列番号47と配列番号26、配列番号49と配列番号28、配列番号51と配列番号52、配列番号53と配列番号54、又は、配列番号55と配列番号34、(iv)配列番号61と配列番号62、配列番号63と配列番号64、配列番号65と配列番号66、配列番号67と配列番号68、配列番号69と配列番号70、配列番号71と配列番号72、配列番号73と配列番号74、配列番号75と配列番号76、配列番号77と配列番号78、又は、配列番号79と配列番号80、 (v)配列番号81と配列番号62、配列番号83と配列番号84、配列番号85と配列番号68、配列番号87と配列番号88、配列番号89と配列番号70、配列番号91と配列番号92、配列番号93と配列番号74、配列番号95と配列番号96、配列番号97と配列番号98、又は配列番号99と配列番号100、あるいは、(vi)配列番号131と配列番号82、配列番号132と配列番号62、配列番号133と配列番号64、配列番号134と配列番号66、配列番号135と配列番号68、配列番号136と配列番号70、配列番号137と配列番号72、配列番号138と配列番号74、配列番号139と配列番号76、配列番号140と配列番号78、又は配列番号141と配列番号80で表されるセンスプライマーとアンチセンスプライマーである上記(1)乃至(6)記載のプライマーセット又はその相補鎖からなるプライマーセット
が挙げられる。上記(7)(i)は実施例3(1)、上記(7)(ii)は実施例3(2)、上記(7)(iii)は実施例3(3)、上記(7)(iv)及び(v)は実施例4(2)、上記(7)(vi)は実施例11(1)、(3)において、本発明のポリヌクレオチドの存在を検出するために使用したプライマーセットである。
【0053】
本明細書における融合点とは、EML4遺伝子由来の部分とALK遺伝子由来の部分とが融合した点を意味する。配列番号1における融合点は、第1-1759番の塩基配列を有するポリヌクレオチドと第1760-3926番の塩基配列を有するポリヌクレオチドが融合した点である。配列番号6における融合点は、第1-2242番の塩基配列を有するポリヌクレオチドと第2243-3933番の塩基配列を有するポリヌクレオチドが融合した点である。配列番号4における融合点は、第1-3629番の塩基配列を有するポリヌクレオチドと第3630-3979番の塩基配列を有するポリヌクレオチドが融合した点である。配列番号5における融合点は、第1-579番の塩基配列を有するポリヌクレオチドと第580-853番の塩基配列を有するポリヌクレオチドが融合した点である。配列番号129における融合点は、第1-700番の塩基配列を有するポリヌクレオチドと第701-1691番の塩基配列を有するポリヌクレオチドが融合した点である。
【0054】
本明細書における「ストリンジェントな条件」とは、ハイブリダイゼーションのための条件として、「5×SSPE、5×Denhardt’s液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、200μg/ml鮭精子DNA、42℃オーバーナイト」、洗浄のための条件として、「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」の条件である。「よりストリンジェントな条件」とは、ハイブリダイゼーションのための条件として、「5×SSPE、5×Denhardt’s液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、200μg/ml鮭精子DNA、42℃オーバーナイト」、洗浄のための条件として、「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」の条件である。
【0055】
本発明のプライマーは、本発明のポリヌクレオチドを増幅及び検出するためのプライマーとして利用することが可能である。プライマーとして用いる場合には、通常、15〜40塩基、好ましくは16〜24塩基、更に好ましくは18〜24塩基、特に好ましくは20〜24塩基の鎖長を有する。
【0056】
本発明のプライマーの製造方法は、特に限定されるものではないが、上記本発明のポリヌクレオチドの製造方法における化学合成法によって製造することができる。
【0057】
<本発明の検出方法/検出用キット>
本発明には、本発明ポリヌクレオチドの検出方法及び本発明のポリペプチドの検出方法が含まれる。具体的には、次の工程を含む態様が例示される。すなわち、本発明のポリヌクレオチドの検出方法においては、
(1)被験者から得た試料における、本発明のポリヌクレオチドの存在を検出する工程、である。
【0058】
被験者から得た試料としては、被験者からの採取物(生体から分離した試料)、具体的には、任意の採取された体液(好ましくは血液)、肺胞・気管支洗浄液、生検された試料、喀痰試料を用いるが、好適には、被験者の肺患部の生検試料又は喀痰試料を用いる。試料からゲノムDNAを抽出して用いることができ、またその転写産物(ゲノムが転写及び翻訳される結果生じる産物;例えばmRNA、cDNA、蛋白質)を用いることができる。特にはmRNA又はcDNAを調製して用いることが好ましい。
【0059】
本発明のポリヌクレオチドの検出方法における「ポリヌクレオチドの存在を検出する工程」は、被験者から得た試料のゲノム中の配列番号4(融合点を含むゲノム配列)又は配列番号5(融合点を含むゲノム配列)で表されるポリヌクレオチドの存在を検出すること、あるいは、被験者から得た試料から抽出したゲノムDNAの転写産物(例えばmRNA又はcDNA)を調製し、本発明のポリヌクレオチドv1型(好ましくはEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1)、本発明のポリヌクレオチドv2型(好ましくはEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2)又は本発明のポリヌクレオチドv3型(好ましくはEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv3)に対応するmRNA又はcDNAの存在を検出することにより実施する。
【0060】
ゲノムDNAの抽出は公知の方法で行なうことができ、市販のDNA抽出キットを用いて簡便に行なうことができる。
【0061】
工程(1)における検出工程は公知の遺伝子解析法(例えば遺伝子検出法として常用されるPCR,LCR(Ligase chain reaction),SDA(Strand displacement amplification)、NASBA(Nucleic acid sequence-based amplification)、ICAN(Isothermal and chimeric primer-initiated amplification of nucleic acids)、LAMP(Loop-mediated isothermal amplification)法、TMA法(Gen−Probe’s TMA system)、更にマイクロアレーなど周知の方法)に従って実施することができる。例えば、本発明のポリヌクレオチドにハイブリダイズする核酸をプローブとしたハイブリダイゼーション技術、又は、本発明のポリヌクレオチドにハイブリダイズするDNAをプライマーとした遺伝子増幅技術等を利用する。具体的には、被験者から得た試料由来の核酸、例えばmRNA等を用いて測定する。mRNA量の測定は、本発明のポリヌクレオチド配列を特異的に増幅できるように設計したプライマーを用いて遺伝子増幅反応方法にて測定する。本発明の検出方法に用いられるプライマー、又は、検出用キットに含まれるプライマーは、本発明のポリヌクレオチド配列を特異的に増幅できるものであれば、特には限定されず、本発明のポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて設計する。PCR増幅モニター法におけるプライマー設計は、プライマー設計ソフトウェアPrimer Express (PE Biosystems)などを利用してできる。また、PCR産物のサイズが大きくなると増幅効率が悪くなるため、センスプライマーとアンチセンスプライマーは、mRNA又はcDNAを対象に増幅したときの増幅産物の大きさが1kb以下になるように設定するのが適切である。より具体的には、センスプライマー(5’−プライマー)をEML4をコードする部分(例えば、EML4−ALK融合ポリヌクレオチド(特にはcDNA)のEML4遺伝子領域内の任意の部分)から、アンチセンスプライマー(3’−プライマー)をALKをコードする部分(例えば、EML4−ALK融合ポリヌクレオチド(特にはcDNA)中のALK遺伝子領域内の任意の部分)から設計する。好ましくは、本発明の検出用キットに含まれるプライマーを用い、更に好ましくは、検出用キットに最も好適に含まれるプライマーを用いる。各増幅技術に適した方法によって目的とした遺伝子(全体又はその特異的部分)が増幅されたか否かを確認することができる。例えば、PCR法では、PCR産物をアガロースゲル電気泳動によって分析し、エチジウムブロマイド染色等によって目的とするサイズの増幅断片が得られたか否かを確認できる。目的とするサイズの増幅断片が得られた場合は、被験者から得た試料において、本発明のポリヌクレオチドが存在していたことになる。このように、本発明のポリヌクレオチドの存在を検出することができる。
【0062】
ハイブリダイゼーション技術を利用した検出は、例えば、ノーザンハイブリダイゼーション、ドットブロット法、DNAマイクロアレイ法などを使用して行う。ハイブリダイゼーションに用いるプローブとしては、本発明のポリヌクレオチド又はそれらの相補鎖にストリンジェントな条件下で(好ましくはよりストリンジェントな条件下で)ハイブリダイズする連続した少なくとも32塩基の核酸分子であって、配列番号1で表される塩基配列の第1744番〜第1775番、配列番号6で表される塩基配列の第2227番〜第2258番、配列番号129で表される塩基配列の第685番〜第716番、配列番号4で表される塩基配列の第3614番〜第3645番、配列番号5で表される塩基配列の第564番〜第595番;又はそれらの相補鎖を含むプローブを用いることができる。
【0063】
さらには、RT−PCR等の遺伝子増幅技術を利用することができる。RT−PCR法においては、遺伝子の増幅過程においてPCR増幅モニター(リアルタイムPCR)法(Genome Res.,6(10),986,1996)を用いることにより、本発明のポリヌクレオチドの存在について、より定量的な解析を行うことが可能である。PCR増幅モニター法としては、例えば、ABI PRISM7900(PEバイオシステムズ社)を用いることが出来る。リアルタイムPCRは公知の方法であり、そのための装置およびキットは市販されており、これらを利用して簡便に行える。
【0064】
本発明のポリヌクレオチドによってコードされる融合蛋白質の検出方法においては、
(2)被験者から得た試料における、本発明のポリペプチドの存在を検出する工程、を実施する。
【0065】
このような検出する工程は、被験者から得た試料(例えば、被験者から得た癌組織や細胞)由来の可溶化液を調製し、その中に含まれる本発明のポリペプチド(特には、EML4−ALK融合ポリペプチドv1)を、抗EML4抗体と抗ALK抗体を組み合わせることによる免疫学的測定法又は酵素活性測定法等により実施できる。好適には、本発明のポリペプチド(特には、EML4−ALK融合ポリペプチドv1)に特異的なモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を用いた、酵素免疫測定法、2抗体サンドイッチELISA法、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法、ウェスタンブロッティング法等の手法を用いることができる。
【0066】
より好ましくは、実施例9で示したように、本発明のポリペプチドが存在している可能性のある細胞の細胞抽出液に対し、抗EML4抗体で免疫沈降を行い、その沈降物に対して抗ALK抗体で検出することで本発明のポリペプチドの存在を検出することができる。実施例9の方法において、抗ALK抗体で免疫沈降し、抗EML4抗体で検出するのでも良い。上記の通り、免疫沈降と検出をした後、更には、検出抗体により、検出した蛋白質が目的の本発明のポリペプチドの大きさであることを確認することが好ましい。この検出に用いる抗体は、EML4に関してはエクソン1からエクソン20まで(好ましくは、エクソン1からエクソン13まで、更に好ましくはエクソン1からエクソン6まで)、ALKに関してはエクソン21からエクソン30までの範囲のポリペプチドに特異的に結合できる抗体であればどれでもよく、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよい。
【0067】
本発明のポリヌクレオチド又は本発明のポリペプチドが、被験者から得た試料から検出された場合は、当該被験者は、本発明のポリヌクレオチド陽性の癌を有する対象(患者)であり、本発明の医薬組成物の適用対象となる。
【0068】
本発明の検出用キットには、少なくとも、本発明のポリヌクレオチドを特異的に増幅できるように設計したセンス及びアンチセンスプライマーが含まれる。センス及びアンチセンスプライマーセットは、本発明のポリヌクレオチド増幅用のプライマーとして機能するポリヌクレオチドのセットである。その例として、上記<本発明のプライマーセット>の(1)〜(7)に記載のプライマーセットが挙げられる。(2)〜(7)に記載のプライマーセットが好ましく、より好ましいプライマーセットは(7)のプライマーセットである。
【0069】
本発明の検出用キットに含めることができる他の試薬としては、PCRを行うのに必要な試薬(例えば、Taqポリメラーゼ、ヌクレオチド基質、緩衝液など)などを挙げることができる。
【0070】
<本発明のスクリーニングする方法>
本発明のスクリーニングする方法には、[1]本発明のポリペプチドを抑制する物質をスクリーニングする方法と、[2]本発明のポリヌクレオチド陽性の癌(好ましくは肺癌)治療剤をスクリーニングする方法とが含まれる。
[1]本発明のポリペプチドを抑制(本発明のポリペプチドの活性及び/又は発現を抑制)する物質をスクリーニングする方法
本発明のポリペプチドを抑制する物質のスクリーニング方法は、下記工程(i)〜(iii)を含む限り、特に限定されるものではない:
(i)本発明のポリペプチド又は本発明のポリペプチドを発現している細胞に試験物質を接触させる工程、
(ii)前記ポリペプチドが抑制されるか否かを分析する工程、及び
(iii)前記ポリペプチドを抑制する物質を選択する工程。
【0071】
好ましくは実施例7(3)〜(4)、実施例8(5)、実施例8(6)、実施例10(3)、又は実施例11(4)、(5)、(8)に記載の方法により本発明のポリペプチドを抑制する物質をスクリーニングすることができる。
【0072】
本スクリーニング方法には、以下の方法が含まれる。
(a)インビトロ(in vitro)型スクリーニング方法;
(1)本発明のポリペプチドに試験物質を接触させる工程、(2)前記ポリペプチドの活性が抑制されるか否かを分析する工程、及び(3)前記ポリペプチドの活性を抑制する物質を選択する工程を含むことを特徴とする前記ポリペプチドの活性を抑制する物質をスクリーニングする方法。
(b)細胞型スクリーニング方法;
(1)本発明のポリペプチドを発現している細胞に試験物質を接触させる工程、(2)前記ポリペプチドの活性が抑制されるか否かを分析する工程、及び(3)前記ポリペプチドの活性を抑制する物質を選択する工程を含むことを特徴とする前記ポリペプチドの活性を抑制する物質をスクリーニングする方法。
(c)発現抑制型スクリーニング方法;
(1)本発明のポリペプチドを発現している細胞に試験物質を接触させる工程、(2)前記ポリペプチドの発現が抑制されるか否かを分析する工程、及び(3)前記ポリペプチドの発現を抑制する物質を選択する工程を含むことを特徴とする前記ポリペプチドの発現を抑制する物質をスクリーニングする方法。
【0073】
各スクリーニング方法について以下に説明する。本発明のポリペプチドを発現している細胞には、本発明のポリペプチドを天然に発現している細胞(例えば、NCI-H2228)と本発明のポリヌクレオチドを含むベクターで細胞を形質転換することにより、本発明のポリペプチドを発現させた細胞とが含まれるが、本発明のポリペプチドを発現している細胞としては、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターで細胞を形質転換することにより、本発明のポリペプチドを発現させた細胞が好ましい。
【0074】
(a)インビトロ型スクリーニング方法
インビトロ型スクリーニング方法には、精製した本発明のポリペプチドに試験物質を添加して接触させ(接触させる工程)、該試験物質により本発明のポリペプチドの活性が抑制されたか否かを、試験物質を接触させなかった場合の本発明のポリペプチドの活性に比較して分析し(分析する工程)、本発明のポリペプチドの活性を抑制する物質(即ち癌治療剤、特には肺癌治療剤)を選択する方法が含まれる。
【0075】
本発明のスクリーニング方法において、各工程は、具体的には、例えば、以下のように実施できる。精製した本発明のポリぺプチドに試験物質を添加し接触させた後、ATPを添加し、該ポリペプチドの活性を測定する。コントロールとして、前記精製したポリぺプチドと試験物質の溶媒(例えばDMSO)とを混合し接触させた後、ATPを添加し該ポリペプチドの活性を測定する。バックグラウンドコントロールとして、ATPを添加しない条件を設定することができる。試験物質により本発明のポリペプチドの活性が抑制されたか否かを分析する。試験物質により本発明のポリペプチドの活性(即ち自己リン酸化活性)が抑制されたか否かは、試験物質による本発明のポリペプチドのチロシンリン酸化レベルの変化を分析することにより判定できる。即ち、溶媒コントロール添加(即ち接触)時に比較し、試験物質添加(即ち接触)時に本発明のポリペプチドの活性(即ち自己リン酸化活性)が抑制されていた場合、その試験物質を、本発明のポリペプチドの活性を抑制する物質(即ち癌治療剤、特には肺癌治療剤)として選択する。上記工程において、ATPを添加する前にペプチド基質を添加して混合すること、及び、本発明のポリペプチドの活性を本発明のポリペプチドのペプチド基質に対するリン酸化活性として分析する(すなわち、試験物質により本発明のポリペプチドの活性が抑制されたか否かを、本発明のポリペプチドによるペプチド基質のリン酸化レベルの試験物質による変化を分析する)以外は上記と同様にして行うスクリーニング方法も本発明のインビトロ型スクリーニング方法に含まれる。本発明のスクリーニングする方法の内、インビトロ型スクリーニング方法としては、実施例7(3)又は実施例11(4)に記載の条件で実施することが好ましい。上記記載の方法で、50%以上活性を抑制する濃度が10μM以下、好ましくは1μM以下、更に好ましくは0.1μM以下のものを本発明のポリペプチドの活性を抑制する物質として選択する。
【0076】
(b)細胞型スクリーニング方法
細胞型スクリーニング方法には、本発明のポリペプチドを発現している細胞と試験物質を混合(即ち添加)して接触させ(接触させる工程)、該試験物質により本発明のポリペプチドの活性が抑制されたか否かを、試験物質を接触させなかった場合の本発明のポリペプチドの活性に比較して分析し(分析する工程)、本発明のポリペプチドの活性を抑制する物質(即ち癌治療剤、特には肺癌治療剤)を選択する方法が含まれる。具体的には、例えば以下のように実施できる。
【0077】
まず、本発明のポリペプチドを発現している細胞と試験物質又は溶媒コントロール(例えばDMSO)とをそれぞれ接触させる。一定時間細胞を培養した後、培養した細胞を溶解して調製した細胞溶解液を用いて、公知のSDS電気泳動法及び抗リン酸化ALK抗体(例えばCell Signaling Technology社)を用いたイムノブロッティングにより本発明のポリペプチドの活性(即ち自己リン酸化活性)を測定することによって、試験物質により本発明のポリペプチドの活性(即ち自己リン酸化活性)が抑制されたか否かを分析する。試験物質により本発明のポリペプチドの活性が抑制されたか否かは、試験物質による本発明のポリペプチドのチロシンリン酸化レベルの変化を分析することにより判定できる。即ち、溶媒コントロール添加(即ち接触)時に比較し、試験物質添加(即ち接触)時に本発明のポリペプチドの活性が抑制されていた場合、その試験物質を、本発明のポリペプチドの活性を抑制する物質(即ち癌治療剤、特には肺癌治療剤)として選択する。本発明のスクリーニングする方法の内、細胞型スクリーニング方法としては、実施例7(4)、実施例10(3)、実施例11(5)又は実施例11(8)に記載の条件で実施することが好ましい。上記記載の方法で、50%以上活性を抑制する濃度が10μM以下、好ましくは1μM以下、更に好ましくは0.1μM以下のものを選択する。
【0078】
(c)発現抑制型スクリーニング方法
発現抑制型スクリーニング方法には、本発明のポリペプチドを発現している細胞と試験物質を混合(即ち添加)して接触させ(接触させる工程)、該試験物質により本発明のポリペプチドの発現が抑制されたか否かを、試験物質を接触させなかった場合の本発明のポリペプチドの発現に比較して分析し(分析する工程)、本発明のポリペプチドの発現を抑制する物質(即ち本発明のポリヌクレオチド陽性の癌治療剤、特には肺癌治療剤)を選択する方法が含まれる。具体的には、例えば以下のように実施できる。
【0079】
本発明のポリペプチドを発現している任意の細胞と試験物質又は溶媒コントロール(例えばDMSO)とをそれぞれ接触させる。培養後、細胞の抽出物を調製し、次いで、抽出物を用いて、試験物質が本発明のポリペプチドの発現を抑制したか否かを分析する。本発明のポリペプチドの発現を抑制したか否かは、本発明のポリペプチドのmRNA又は蛋白質の発現を抑制するか否かにより分析することができる。より具体的には、前記細胞抽出液に存在する本発明のポリペプチドのmRNA又は蛋白質の量を公知の発現量分析方法、例えば、ノーザンブロット法や定量的PCR法又はイムノブロット法やELISA法等で同定する。より具体的には、実施例8(5)や(6)に記載した方法で、本発明のポリペプチドのmRNAやポリペプチドの発現抑制を分析することができる。試験物質により本発明のポリペプチドの発現が抑制されたか否かは、試験物質による本発明のポリペプチドの発現量の変化を分析することにより判定できる。即ち、溶媒コントロール接触時に比較し、試験物質接触時に本発明のポリペプチドの発現量(mRNA又は蛋白質量)が抑制されていた場合、その試験物質を、本発明のポリペプチドの発現を抑制する物質(即ち癌治療剤、特には肺癌治療剤)として選択する。本発明のスクリーニングする方法の内、発現抑制型スクリーニング方法としては、実施例8(5)(6)に記載の条件で実施することが好ましい。上記記載の方法で、50%以上活性を抑制する濃度が10μM以下、好ましくは1μM以下、更に好ましくは0.1μM以下のものを選択する。何れの細胞を用いた場合でも上記抑制活性を有する被検物質を選択することが好ましいが、一つの細胞において上記抑制活性を有する被検物質も選択することができる。
【0080】
[2]本発明のポリヌクレオチド陽性の癌治療剤をスクリーニングする方法
EML4−ALK融合ポリヌクレオチドは癌の原因遺伝子であることが示され(実施例6、実施例11(2))、一部の肺癌患者にEML4−ALK融合ポリヌクレオチドの存在が検出された。更に、本発明のポリペプチドの活性及び/又は発現を抑制することにより足場非依存性の細胞増殖が抑制される(即ち抗癌作用が示される)という本発明者らが見出した新規な知見(実施例8、実施例11)から、本発明のポリペプチドを抑制(本発明のポリペプチドの活性及び/又は発現を抑制)する物質は、癌治療効果を有することがわかった。即ち、本発明のポリペプチドを抑制(本発明のポリペプチドの活性及び/又は発現を抑制)する物質をスクリーニングする方法は、本発明のポリヌクレオチド陽性の癌(好ましくは肺癌)治療剤をスクリーニングする方法として利用できる。即ち、本発明のポリヌクレオチド陽性の癌治療剤をスクリーニングする方法は、上記[1]本発明のポリペプチドを抑制する物質をスクリーニングする方法のi)、ii)及びiii)を含む。
【0081】
本発明のポリヌクレオチド陽性の癌治療剤をスクリーニングする方法では、本発明のポリペプチドを抑制するか否かを分析し、本発明のポリペプチドを抑制する物質を選択した後、選択された試験物質が、本発明のポリヌクレオチド陽性の癌(特には肺癌)治療活性を有することを確認する工程を更に含むことが好ましい。
【0082】
選択された試験物質が、本発明のポリヌクレオチド陽性の癌治療活性を有することを確認する工程;
選択された物質が本発明のポリヌクレオチド陽性の癌(特には肺癌)治療活性を有することを確認する工程としては、公知の評価方法又はそれを改良した方法、例えば、選択された物質の癌(特には肺癌)治療活性を本発明のポリペプチドを発現した培養細胞や腫瘍モデル動物に処置し分析する方法を実施する工程が挙げられる(臨床腫瘍学 セカンドエディション、癌と化学療法社)。
【0083】
選択された物質が本発明のポリヌクレオチド陽性の癌(特には肺癌)治療活性を有することを確認する工程として好ましいのは、ヒト癌(特には肺癌)由来の内在的に本発明のポリペプチドを発現する癌細胞(例えばNCI-H2228)を用いて、(1)選択された試験物質が前記細胞の増殖抑制作用及び/若しくは細胞死誘導作用を有することを確認する工程、(2)選択された試験物質が本発明のポリペプチドを発現させた形質転換細胞の足場非依存的増殖に対する抑制作用を有することを確認する工程、並びに/又は、(3)選択された試験物質が本発明のポリヌクレオチドを発現する細胞をヌードマウスに接種し形成した腫瘍増殖に対する抑制作用を有することを確認する工程である。
【0084】
上記ヌードマウスを用いた方法では、本発明のポリペプチドを内在性に発現する癌細胞(例えばNCI-H2228)や、本発明のポリペプチドの発現により形質転換させた細胞を皮下、皮内、腹腔や各臓器に移植した腫瘍モデル動物である担癌モデル動物(例えば本発明のポリペプチドを発現させたNIH3T3細胞を移植したヌードマウスなど)を用いることができる。
【0085】
好ましくは実施例8(7)〜(9)、実施例11(6)、又は実施例11(9)に記載の方法により本発明のポリヌクレオチド陽性の癌治療剤をスクリーニングすることができる。
【0086】
本発明のスクリーニング法で使用する試験物質としては、特に限定されるものではないが、例えば、市販の化合物(ペプチドを含む)、ケミカルファイルに登録されている種々の公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術(N.Terrett et al., Drug Discov. Today, 4(1):41,1999)によって得られた化合物群、微生物の培養上清、植物や海洋生物由来の天然成分、動物組織抽出物、二重鎖核酸、抗体又は抗体断片、あるいは、本発明のスクリーニング法により選択された化合物(ペプチドを含む)を化学的又は生物学的に修飾した化合物(ペプチドを含む)を挙げることができる。
【0087】
<本発明のポリヌクレオチド陽性の癌治療用医薬組成物及び二重鎖核酸>
本発明には、本発明のポリペプチドを抑制する物質(例えば、本発明のスクリーニングする方法によって得られた物質[例えば、二重鎖核酸(siRNAを含む)、蛋白質(抗体又は抗体断片を含む)、ペプチド、又はそれ以外の化合物])を有効成分とする本発明のポリヌクレオチド陽性の癌治療用医薬組成物が包含される。
【0088】
本発明の医薬組成物における有効成分は、本発明のスクリーニングする方法により選択することができる。本発明のスクリーニングする方法で選択された物質としては、例えば後述の実施例7及び実施例8記載の化合物A〜D及び二重鎖核酸を挙げることができる。また、公知のALK阻害活性を有する低分子化合物(ALK阻害剤)から本発明のスクリーニング方法によって選択した化合物を本発明の医薬組成物における有効成分として用いることができる。ALK阻害剤としては、WO2005/097765、又はWO2005/016894に記載のALK阻害剤を例示することができる。特に、Wan W et al., Blood 107: 1617−1623, 2006.に記載の化合物、WHI−P131(4−(4’−ヒドロキシフェニル)アミノ−6,7−ジメトキシキナゾリン)およびWHI−P154(4−[(3’−ブロモ−4’−ヒドロキシフェニル)アミノ]−6,7−ジメトキシキナゾリン;以下、化合物A)(共にEMD Biosciences社;Marzec M et al., Lab Invest 85: 1544−1554, 2005.)を用いることができる。また、N−[2−(3−クロロフェニル)エチル]−2−[({[4−(トリフルオロメトキシ)フェノキシ]アセチル}アミノ)メチル]−1,3−チアゾール−4−カルボキサミド(WO2005/097765、以下、化合物B)、5−クロロ−N−[2−(イソプロピルスルホニル)フェニル]−N−{2−メトキシ−4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]フェニル}ピリミジン−2,4−ジアミン(WO2005/016894、以下、化合物C)、2−[(5−ブロモ−2−{[2−メトキシ−4−(4−メチルピペラジン−1−イル)フェニル]アミノ}ピリミジン−4−イル)アミノ]−N−メチルベンゼンスルホンアミド(WO2005/016894、以下、化合物D)をALK阻害剤として用いることができる。
【0089】
本発明の医薬組成物の有効成分として例示される二重鎖核酸は、二重鎖の核酸(RNA又はDNA)部分と、好ましくはセンス鎖及びアンチセンス鎖の3’末端のオーバーハングとからなり、RNAiを誘導する。RNAiは進化的に保存された現象で、RNaseIIIエンドヌクレアーゼによって生じる21〜23塩基の二重鎖核酸を介して起こる(Genes Dev. 15, 485−490, 2001)。3’側のオーバーハングはそれぞれ1又は2塩基の任意の核酸であるが、2塩基が好ましい。なお、前記塩基数(21〜23塩基)は、オーバーハングを含むセンス鎖又はアンチセンス鎖の各々の塩基数である。また、センス鎖及びアンチセンス鎖は、同じ塩基数であることもできるし、異なる塩基数であることもできるが、同じ塩基数であることが好ましい。
【0090】
二重鎖核酸の3’側オーバーハングを構成するリボ核酸としては、例えば、U(ウリジン)、A(アデノシン)、G(グアノシン)、又はC(シチジン)を用いることができ、3’側のオーバーハングを構成するデオキシリボ核酸としては、例えば、dT(デオキシチミジン)、dA(デオキシアデノシン)、dG(デオキシグアノシン)、又はdC(デオキシシチジン)を用いることができる。
【0091】
本発明の医薬組成物の有効成分として用いることのできる二重鎖核酸は、二重鎖部分が配列番号1の第1743番から第1761番、第1744番から第1762番、第1750番から第1768番、第1753番から第1771番、第1756番から第1774番又は第1757番から第1775番に記載の塩基に基づいて設計される、本発明のポリペプチドの発現抑制活性を有する二重鎖核酸(以下、本発明の二重鎖核酸と称する)であり、そのような二重鎖核酸の好ましい態様としては、実施例8に記載のsiRNA−1〜siRNA−6(即ち、二重鎖の一方の鎖が配列番号111、もう一方の鎖が配列番号112で表される塩基配列からなる二重鎖核酸、二重鎖の一方の鎖が配列番号113、もう一方の鎖が配列番号114で表される塩基配列からなる二重鎖核酸、二重鎖の一方の鎖が配列番号115、もう一方の鎖が配列番号116で表される塩基配列からなる二重鎖核酸、二重鎖の一方の鎖が配列番号117、もう一方の鎖が配列番号118で表される塩基配列からなる二重鎖核酸、二重鎖の一方の鎖が配列番号119、もう一方の鎖が配列番号120で表される塩基配列からなる二重鎖核酸、二重鎖の一方の鎖が配列番号121、もう一方の鎖が配列番号122で表される塩基配列からなる二重鎖核酸)が挙げられる。本発明の二重鎖核酸は、常法(例えば、J. Am. Chem. Soc., 120, 11820−11821, 1998; 及びMethods, 23, 206−217, 2001)により製造することができる。また、二重鎖核酸を委託製造する会社(例えば、RNAi社)は、当業者によく知られており、二重鎖核酸の製造に利用できる。上記siRNA−1〜siRNA−6はsiRNA配列設計システム(商用siDirect(登録商標)、RNAi社)により、そのターゲット配列が本発明のポリペプチドに特異的であることが確認された。
【0092】
siRNA−1〜siRNA−6がターゲットとするDNA塩基配列(配列番号1の第1743番から第1761番、第1744番から第1762番、第1750番から第1768番、第1753番から第1771番、第1756番から第1774番又は第1757番から第1775番に記載の塩基)に基づいて本発明の二重鎖核酸を設計することができ、このような二重鎖核酸は、上記siRNA−1〜siRNA−6と同様に本発明のポリペプチドを抑制する。例えば、二重鎖部分が、上記ターゲットDNA塩基配列をそのまま全てRNA配列に変換したRNA塩基配列からなる、siRNAを設計することができ、また任意の一部をRNAに変換したDNAとRNAのキメラ型二重鎖核酸(同一鎖にRNAとDNAが含まれる)を設計することもできる。更に、一方の鎖がDNAでありもう一方の鎖がRNAであるハイブリッド型二重鎖核酸を設計、製造し用いることができる。なお、本明細書において、DNA塩基配列をRNA塩基配列に変換するとは、DNA塩基配列におけるdTをUに変換し、それ以外の塩基、すなわち、dA、dG、及びdCを、それぞれ、A、G、及びCに変換することを意味する。
【0093】
本発明の二重鎖核酸は、本発明のポリペプチドを発現している細胞の足場非依存性の増殖に対して抑制作用を示した(実施例8(7))ことから、本発明のポリヌクレオチド陽性の癌治療用医薬組成物の有効成分として用いることができる。
【0094】
なお、本発明のポリヌクレオチド陽性の癌治療効果があることの確認は、当業者に公知の方法、あるいは、それを改良した方法を用いることにより実施することができる(上記「選択された試験物質が本発明のポリヌクレオチド陽性の癌治療活性を有することを確認する工程」参照)。
【0095】
本発明のポリペプチドを抑制する物質(例えば、本発明のスクリーニング方法により得られた物質[例えば、二重鎖核酸、蛋白質(抗体又は抗体断片を含む)、ペプチド、又はそれ以外の化合物])を有効成分とする製剤は、前記有効成分のタイプに応じて、それらの製剤化に通常用いられる薬理学上許容される担体、賦形剤、及び/又はその他の添加剤を用いて、医薬組成物として調製することができる。
【0096】
投与としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、又は経口用液剤などによる経口投与、あるいは、静注(点滴を含む)、筋注、若しくは皮下注などの注射剤、坐剤、経皮投与剤、又は経粘膜投与剤などによる非経口投与を挙げることができる。特に胃で消化されるペプチドにあっては、静注等の非経口投与が好ましい。
【0097】
経口投与のための固体組成物においては、1又はそれ以上の活性物質と、少なくとも一つの不活性な希釈剤、例えば、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどと混合することができる。前記組成物は、常法に従って、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えば、滑沢剤、崩壊剤、安定化剤、又は溶解若しくは溶解補助剤などを含有することができる。錠剤又は丸剤は、必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質などのフィルムで被覆することができる。
【0098】
経口のための液体組成物は、例えば、乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、又はエリキシル剤を含むことができ、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば、精製水又はエタノールを含むことができる。前記組成物は、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えば、湿潤剤、懸濁剤、甘味剤、芳香剤、又は防腐剤を含有することができる。
【0099】
非経口のための注射剤としては、無菌の水性若しくは非水性の溶液剤、懸濁剤、又は乳濁剤を含むことができる。水溶性の溶液剤又は懸濁剤には、希釈剤として、例えば、注射用蒸留水又は生理用食塩水などを含むことができる。非水溶性の溶液剤又は懸濁剤の希釈剤としては、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(例えば、オリーブ油)、アルコール類(例えば、エタノール)、又はポリソルベート80等を含むことができる。前記組成物は、更に湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解若しくは溶解補助剤、又は防腐剤などを含むことができる。前記組成物は、例えば、バクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合、又は照射によって無菌化することができる。また、無菌の固体組成物を製造し、使用の際に、無菌水又はその他の無菌用注射用媒体に溶解し、使用することもできる。
【0100】
投与量は、有効成分すなわち本発明のスクリーニングする方法により得られた物質の活性の強さ、症状、投与対象の年齢、又は性別等を考慮して、適宜決定することができる。好ましくは、腫瘍付近の血中濃度又は腫瘍内濃度が薬剤が本発明のポリペプチドの活性又は発現を50%抑制する濃度の3〜30倍、例えば、10倍になるような量で、投与量は経路によって算出することができる。例えば、経口投与の場合、その投与量は、通常、成人(体重60kgとして)において、1日につき約0.1〜100mg、好ましくは0.1〜50mgである。非経口投与の場合、注射剤の形では、1日につき0.01〜50mg、好ましくは0.01〜10mgである。
【0101】
本発明の医薬組成物による治療対象は、本発明のポリヌクレオチド及び/又は本発明のポリペプチドの存在が検出された被験者(即ち、本発明のポリヌクレオチド陽性の癌患者)である。EML4−ALK融合ポリヌクレオチドによって癌化した細胞が本発明のポリペプチドを抑制する物質により死滅することから、本発明のポリペプチドを抑制する物質が本発明のポリヌクレオチド陽性の癌(特には肺癌)の有効な治療剤になる。
【実施例】
【0102】
以下、実施例によって本発明を詳述するが、本発明は該実施例によって限定されるものではない。なお、特に断りがない場合は、公知の方法に従って実施可能である。また、市販の試薬やキット等を用いる場合には市販品の指示書に従って実施可能である。
【0103】
全長ALK cDNAはSt. Jude Children’s Research HospitalのSteve Morris博士より供与していただいた。また本研究プロジェクトは自治医科大学遺伝子解析研究倫理審査委員会により認可された。
【0104】
抗リン酸化ALK抗体は、Cell Signaling Technology社のものを、抗ALK抗体は、NEOMARKERS社ものを用いた。
【0105】
[実施例1] EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1の単離
(1)cDNAライブラリーの構築
インフォームドコンセントが得られた62才男性の肺腺癌切除検体より、RNA精製キット(RNeasy Miniカラム;Qiagen社)によりRNAを抽出し、逆転写酵素(PowerScript Reverse Transcriptase)とプライマー(配列番号42のオリゴヌクレオチドおよびCDS primer IIA)(全てClontech社)を用いてcDNAを合成した。さらにプライマー(5’−PCR primer IIA;Clontech社)とポリメラーゼ(PrimeSTAR HSDNAポリメラーゼ;タカラバイオ)を用いたポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction (PCR))(98℃10秒、68℃6分を17サイクル)により完全長cDNAを選択的に増幅した後、cDNAの両端にBstXIアダプター(インビトロジェン社)を結合させた。得られたcDNAをレトロウィルスプラスミドに結合させ、大腸菌DH10B(インビトロジェン社)に導入することでレトロウィルスプラスミドライブラリーを構築した。その結果、計150万コロニー形成ユニットを超えるクローン数からなるプラスミドライブラリーを構築することに成功した。
【0106】
(2)フォーカス形成アッセイ
上述のライブラリーのプラスミド2μgをパッケージング用プラスミド各0.5μg(pGP、pE−eco、共にタカラバイオ)と共にトランスフェクション試薬を用いてBOSC23パッケージング細胞に導入した。導入2日後の培養上清を、組み換えレトロウィルスライブラリー溶液として回収し、ポリブレン(polybrene;Sigma社)を4μg/mlの濃度で添加した後、マウス3T3細胞にMOI(multiplicity of infection)0.1の濃度で添加した。2日後に3T3細胞の培養上清をDMEM−F12培地(インビトロジェン社)に5%牛血清(インビトロジェン社)および2mM L−グルタミンを添加したものに交換し、さらに2週間培養を続けることで10種類以上の形質転換フォーカスを得た。それぞれの3T3細胞クローンを単離した後別々に培養を続け、各クローンのゲノムDNAを抽出した。該ゲノムDNA10ngを鋳型として、5’−PCR primer IIAプライマー及びDNAポリメラーゼ(PrimeStar HS DNAポリメラーゼ;タカラバイオ)を用いてPCR(98℃10秒、68℃6分を30サイクル)を行い、各3T3クローンに組み込まれたウィルスのcDNAを増幅回収し、pT7Blue−2ベクターにクローニングした。
【0107】
得られたcDNAの一つは3926塩基対の長さを持ち、新規な1059残基の蛋白質(配列番号2)をコードする単一のオープンリーディングフレーム(配列番号1の第271−3447塩基)を有していた(配列番号1)。本明細書では、配列番号2で表されるポリペプチドをEML4−ALK融合ポリペプチドv1と称し、配列番号2で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1と称している。配列番号2のアミノ末端側の約半分(配列番号2の1−496アミノ酸残基)はEML4(GenBank accession no. NM_019063)の1−496残基と完全に一致しており、一方カルボキシル末端側の約半分(配列番号2の497−1059残基)はALK( GenBank accession no. AB209477)のアミノ酸配列と完全に一致した。また配列番号1の塩基配列も35−1759塩基が、既報のヒトEML4 cDNAの1−1725塩基と99.9%一致しており、配列番号1の1760−3677塩基がヒトALK cDNAの3613−5530塩基と99.9%一致していた。なおそれぞれの配列中僅かに既報塩基配列と異なる箇所があるが、いずれも蛋白質のアミノ酸置換には結びつかないため、遺伝子配列多型である可能性が示唆された。以上より配列番号1で表されるcDNAは、EML4 cDNAの一部とALK cDNAの一部との融合cDNAと考えられた。なお、配列番号1には、ALKのチロシンキナーゼドメインが含まれていた。
【0108】
[実施例2] EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1の確認
ヒトにおいてEML4とALK遺伝子はどちらも2番染色体の短腕上にマップされ反対向き(head−to−headの方向)に位置している。配列番号1のポリヌクレオチドが作られるためには、EML4遺伝子エクソン13の下流イントロンとALK遺伝子のエクソン21の上流イントロンにおいてゲノムがそれぞれ切断され、片方が逆位となって再結合する必要がある。このことを直接証明するために、配列番号40(EML4遺伝子エクソン13の3’末端のセンス側に設計)及び配列番号36(ALK遺伝子エクソン21内のアンチセンス側に設計)で表される塩基配列のプライマーを用いて、患者ゲノムDNA(ID 33)およびコントロールゲノムDNA(健常女性(46,XX)末梢血単核球ゲノムDNA)を鋳型としてDNAポリメラーゼ(LA Taq polymerase;タカラバイオ)を用いてPCR(94℃1分の後、98℃20秒、68℃9分を40サイクル)を行った。
【0109】
その結果、図1に示すように本患者ゲノムDNAにおいてのみ約4kbpのPCR産物が得られた。すなわち予測通りゲノムレベルでEML4遺伝子とALK遺伝子のイントロンが一旦切断された後、逆位となって再結合していることが確認された。またこの約4kbpのPCR産物をpT7Blue−2ベクター(Novagen社)にクローニングし、全塩基配列を決定したところ、EML4遺伝子エクソン13より下流約3.6kbpの箇所と、ALK遺伝子エクソン21より上流297bpの箇所でそれぞれ切断が生じていることが明らかになった。塩基配列を配列番号4に示す。配列番号4はEML4遺伝子とALK遺伝子の融合点を含むゲノム配列である。
【0110】
[実施例3]臨床検体でのEML4−ALK融合ポリヌクレオチドのスクリーニング
(1)cDNAを用いたEML4−ALK融合ポリヌクレオチドの検出
本実施例1及び2に用いた症例(ID33)を含む33例の臨床検体(非小細胞肺癌切除標本)および健常者(46,XX)1例の末梢血単核球よりcDNAを合成した。
【0111】
EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1のcDNAを検出する目的で、上記臨床検体及び健常者より作製したcDNAを基質として、配列番号8及び配列番号9で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして、定量的PCRキット(QuantiTect SYBR Green;Qiagen社)を用いたPCR(94℃ 15秒、60℃ 30秒、72℃ 1分を50サイクル)を行った。同じ検体を用い、コントロールとしてグリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase;以下GAPDH)遺伝子cDNAのPCR増幅を試みた。GAPDH cDNAの検出のためには、配列番号10及び配列番号11で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いた。サイズマーカーDNA(Marker; 50bp ladder, インビトロジェン社)とともに、増幅した各サンプルを電気泳動した。その結果、図2上段に示すように、ID33を含む計3例の症例においてEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1のcDNA断片が検出された。なお。解析した全例においてGAPDH cDNAの増幅が明瞭に確認された(図2下段)。なおID20およびID39の症例で同定されたPCR産物の塩基配列を解析した結果、ID33のものと全く同じ配列(EML4遺伝子とALK遺伝子の融合点を含む247bp;配列番号14)である事が確認された。すなわち非小細胞肺癌症例33例の解析の結果、9.1%の症例(3/33例)においてEML4遺伝子とALK遺伝子との融合が生じていることが確認された。
【0112】
肺癌の原因の一つとして、EGFR遺伝子の変異が知られている。上記解析した33例の検体において、公知の方法に従いEGFR遺伝子塩基配列異常の有無を解析したところ、6例においてエクソン19の部分欠失が確認された。EGFR遺伝子変異を有する症例とEML4−ALK融合ポリヌクレオチド陽性症例は異なったサブグループであった。即ち、EML4−ALK融合ポリヌクレオチド陽性の肺癌患者には、EGFR遺伝子変異による肺癌の治療剤である既存の治療剤は有効ではないと予想される。
【0113】
また、全長ALK遺伝子が存在しているか否かを上記解析した33例の検体において調べたところ、8例において存在していることが分かった。この8例のうち7例はEML4−ALK融合ポリヌクレオチドが存在していない検体であった。即ち、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドが陽性であった3例中2例では全長ALK遺伝子は存在していなかった。
【0114】
さらに、上述と同様の方法で、別の非小細胞肺癌症例42例の解析を行ったところ、4.8%の症例(2/42例)でID33、ID20及びID39の症例で検出されたPCR産物よりも大きい約1kbpのPCR産物が得られた。これをpT7Blue−2ベクターにクローニングして塩基配列を解析した結果、EML4遺伝子のエキソン13ではなく、EML4遺伝子のエキソン20とALK遺伝子のエキソン21が融合したものであった(配列番号3)。つまり、融合しているALK遺伝子断片は同じだが、EML4遺伝子の切断点が異なるものであった。配列番号3で見出されたEML4遺伝子とALK遺伝子の融合点を含む、EML4遺伝子エキソン1〜20とALK遺伝子のエキソン21〜30の融合遺伝子のcDNA配列を配列番号6に、コードされるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号7に示す。本明細書では、配列番号7で表されるポリペプチドをEML4−ALK融合ポリペプチドv2と称し、配列番号7で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2と称している。ここで作製したEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2cDNA部分断片をクローニングしたプラスミドを、EML4−ALKv2 partial/pT7Blue−2と命名した。
【0115】
(2)ゲノムDNAを用いたEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1の検出
実施例2のように、被験者の臨床検体(特には肺組織)から抽出したゲノムDNAサンプルを用いて、PCRにより、被験者から得た試料中のEML4−ALK融合ポリヌクレオチドの存在を検出できることが分かった。そこで、下記の通り、種々のプライマーを用いて、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1の検出を試みた。上記で作製した約4kbpのPCR産物をクローニングしたpT7Blue−2ベクターを鋳型として1ng用い、プライマーセット(配列番号15と配列番号16、配列番号17と配列番号18、配列番号19と配列番号20、配列番号21と配列番号22、配列番号23と配列番号24、配列番号25と配列番号26、配列番号27と配列番号28、配列番号29と配列番号30、配列番号31と配列番号32、及び、配列番号33と配列番号34)をそれぞれ用いて、DNAポリメラーゼ(rTaq DNA polymerase;タカラバイオ)によりPCR反応(94℃15秒、55℃30秒、72℃1分を30サイクル)を行った。その結果、それぞれ期待されるサイズ(約270から380bp)の単一のDNA断片が増幅された。以上から、臨床検体から抽出したゲノムDNAを鋳型としてEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1の存在を特異的に検出すると考えられる種々のプライマーセットを用いてPCRを行うことにより、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1の存在を検出可能であることが明らかとなった。
【0116】
(3)ゲノムDNAを用いたEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2の検出
EML4エクソン20内に配列番号35で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをセンスプライマーとして、ALKエクソン21内のアンチセンス側に配列番号36で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをアンチセンスプライマーとしてそれぞれ設計した。これらを用いて、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2のcDNAが検出された患者(ID#KL−3121)のゲノムDNAを鋳型として、DNAポリメラーゼ(LA Taq polymerase;タカラバイオ)を用いてPCR (94℃1分の後、98℃20秒、68℃6分を40サイクル)を行ったところ、約850bpのPCR産物が得られた。そのPCR産物をpT7Blue−2ベクターにクローニングして塩基配列を決定し、配列番号5で示す853bpの配列を得た。その配列を解析したところ、EML4エクソン20の3’末端の35bpと、EML4エクソン20より下流のイントロン配列の544bpがALKエクソン21より上流のイントロン配列の233bpと、ALKエクソン21の5’末端の41bpと繋がったものであった。つまり、この患者のゲノム上で、EML4エクソン20より下流544bpの箇所と、ALKエクソン21より上流233bpの箇所でそれぞれゲノムの切断が生じていることが明らかになった。上記で作製した853bpのPCR産物をクローニングしたpT7Blue−2ベクターを鋳型として1ng用い、プライマーセット(配列番号37と配列番号38、配列番号39と配列番号18、配列番号41と配列番号20、配列番号43と配列番号22、配列番号45と配列番号24、配列番号47と配列番号26、配列番号49と配列番号28、配列番号51と配列番号52、配列番号53と配列番号54、及び配列番号55と配列番号34)をそれぞれ用いて、実施例3(2)と同じ条件でPCR反応を行った。その結果、それぞれ期待されるサイズ(約270から380bp)の単一のDNA断片が増幅された。以上から、臨床検体から抽出したゲノムDNAを鋳型としてEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2を特異的に検出すると考えられるプライマーセットを用いることによりEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2の存在が検出可能であることが明らかとなった。
【0117】
[実施例4]EML4−ALK融合ポリヌクレオチドmRNAの検出法
(1)EML4−ALK融合ポリペプチドv1発現ベクターの構築及びEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2のクローニング
EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1が正方向にクローニングされたクローン(これをEML4−ALKv1/pT7Blue−2と命名)について、さらに制限酵素EcoRI及びSalIで消化することによりインサートを取り出し、pMXS(JBC 275,24945−24952,2000)のEcoRI−SalIサイトにサブクローニングした。これをEML4−ALKv1/pMXSと命名した。また、EML4−ALKv1/pT7Blue−2プラスミドを鋳型として配列番号59及び配列番号60で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとしてDNAポリメラーゼ(PrimeStar HS DNAポリメラーゼ)を用いてPCR(98℃ 10秒、68℃5分を25サイクル)行い、両端に制限酵素EcoRIで認識されるサイトを持つcDNA(配列番号1の第277番〜第3450番)を増幅した。これをEcoRIで消化した後、N末端にFLAGタグを付加して発現できるように改変した発現ベクターpcDNA3のEcoRIサイトに挿入し、N末端にFLAGタグが付加されたEML4−ALK融合ポリペプチドv1(以下、FLAG−EML4−ALKv1)の発現プラスミド(FLAG−EML4−ALKv1/pcDNA3)を作製した。また、さらにこのベクターから制限酵素HindIII及びXbaIによる消化によりFLAG−EML4−ALKv1のcDNAを取り出し、両端を平滑末端にした後、EcoRI−NotI−BamHI adaptor(タカラバイオ)を両端にライゲーションさせ、挿入cDNAと細胞表面抗原CD8を同時に発現可能なベクター(bicistronicvector pMX−iresCD8;J. Biol. Chem. 2001年, 276巻, p.39012−39020)のEcoRIサイトに挿入して、FLAG−EML4−ALKv1とCD8の両方を発現するベクターを作製した。これをFLAG−EML4−ALKv1/pMX−iresCD8と命名した。
【0118】
EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2を以下の通りクローニングした。
EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2のEML4をコードするポリヌクレオチド断片を取得する鋳型として、"Genomics", (US), 2000, Vol. 68, p. 348-350を参考にpT7Blue−2にクローニングしたEML4全長ポリヌクレオチドを用い、EML4遺伝子エクソン1の開始コドンATGの5’末端側に制限酵素EcoRIの切断配列を付加した配列番号57で表されるオリゴヌクレオチドと、EML4遺伝子エクソン20の3’末端20塩基に対するアンチセンス配列の5’末端側にALK遺伝子エクソン21の5’末端のアンチセンス配列10塩基を融合した塩基配列からなる配列番号58で表されるオリゴヌクレオチドをそれぞれセンス、アンチセンスプライマーとして、DNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA polymerase;タカラバイオ)を用いてPCR(94℃20秒、60℃30秒、72℃1分を25サイクル)を行い、約2260bpのPCR産物を得た。これをPCR産物Aとした。
【0119】
一方、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2のALKポリヌクレオチド断片を取得する鋳型として、本実施例4(1)で製造したEML4−ALKv1/pT7Blue−2を用い、ALK遺伝子エクソン21の5’末端のセンス配列20塩基の5’末端側にEML4遺伝子エクソン20の3’末端のセンス配列10塩基が融合した塩基配列からなる配列番号101で表されるオリゴヌクレオチドと、ALK遺伝子エクソン30に存在する停止コドンを含む部位のアンチセンス配列の5’末端側に制限酵素XbaIの切断配列を付加した配列番号102で表されるオリゴヌクレオチドをそれぞれセンス、アンチセンスプライマーとして、PCR産物Aを取得したのと同じ条件でPCRを行い、約1700bpのPCR産物を得た。これをPCR産物Bとした。
【0120】
上記のPCR産物AとBを混ぜ、DNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA polymerase;タカラバイオ)を用いて、アニーリングと伸張反応(94℃1分、55℃30秒、72℃2分30秒)を3サイクル行い、約4000bpの産物を得た。この産物をTOPO TA Cloningキット(インビトロジェン社)を用いてpCR2.1−TOPOベクターにTAクローニングして塩基配列を解析した結果、配列番号6に示す、EML4遺伝子の開始コドンATGからエキソン20までの2242塩基と、ALK遺伝子エキソン21からエキソン30の停止コドンまでの1691塩基からなる融合ポリヌクレオチドを取得した。
【0121】
(2)EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1及びv2のmRNAを検出する方法
EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1の鋳型として上述の(1)のFLAG−EML4−ALKv1/pMX−iresCD8を、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2の鋳型として実施例3のEML4−ALKv2 partial/pT7Blue−2を1ng用い、プライマーセット(EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1用;配列番号61と配列番号62、配列番号63と配列番号64、配列番号65と配列番号66、配列番号67と配列番号68、配列番号69と配列番号70、配列番号71と配列番号72、配列番号73と配列番号74、配列番号75と配列番号76、配列番号77と配列番号78、及び配列番号79と配列番号80のプライマーセット)、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2用;配列番号81と配列番号62、配列番号83と配列番号84、配列番号85と配列番号68、配列番号87と配列番号88、配列番号89と配列番号70、配列番号91と配列番号92、配列番号93と配列番号74、配列番号95と配列番号96、配列番号97と配列番号98、及び配列番号99と配列番号100のプライマーセット)をそれぞれを用いて、DNAポリメラーゼ(rTaq DNA polymerase;タカラバイオ)によりPCR(94℃15秒、55℃30秒、72℃1分を30サイクル)を行った。その結果、全てのプライマーセットにおいて、それぞれ期待されるサイズ(約260から350bp)の単一のDNA断片が増幅された。以上の結果から、被験者から得た試料から抽出したmRNAを鋳型としてRT−PCRを本実施例に従って行うことにより、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドのv1及び/又はv2の存在を検出することが可能であることが確認された。
【0122】
以上実施例3及び4(2)の結果から、被験者から得た臨床検体より作製したcDNA又はゲノムDNAのいずれを用いても、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1及びv2の存在が検出できることがわかった。このことは、本発明のポリヌクレオチドを有している患者を選定することが可能であることを示しており、本発明のポリペプチド及び/又はポリヌクレオチド抑制剤を投与する患者を事前に選定し治療するという、テーラーメード医療が実践可能であることを示している。
【0123】
[実施例5]喀痰中に存在するEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1の検出
(1)FLAG−EML4−ALKv1発現マウスBA/F3細胞の作製
FLAG−EML4−ALKv1/pMX−iresCD8及び空ベクター(pMX−iresCD8)を用いて実施例1(1)と同様の方法で組み換えレトロウィルスを作製し、マウスリンパ系細胞株BA/F3細胞に感染させた。細胞分離用磁気ビーズ試薬及び精製カラム(CD8に対する磁気ビーズ結合モノクローナル抗体とMiniMACS純化カラム;共にMiltenyi Biotec社)を用いて、細胞表面CD8発現細胞を簡便に純化した。
【0124】
(2)喀痰でのEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1の検出
健常人の喀痰に上記EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1を発現したBA/F3細胞(以下、v1発現BA/F3細胞)を0個/mL、10個/mL、100個/mL、1000個/mL、10000個/mLになるよう混合した後、常法によりcDNAを合成した。喀痰中のEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1の存在を上記cDNAを基質として、配列番号8及び配列番号9で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして定量的PCRキット(QuantiTect SYBR Green;Qiagen社)を用いたPCR反応(50℃ 2分、95℃ 15分、さらに以下の反応を40サイクル(94℃ 15秒、60℃ 30秒、72℃ 1分))を行いPCR産物を得た。その結果、0個/mL以外の全ての場合においてEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1の存在を確認できた。
【0125】
これまで肺がんの診断には喀痰を試料とした病理細胞診が重要な診断手法であった。これは喀痰中の細胞の異形性から肺がんを診断するものであるが、喀痰中に多くの肺がん細胞が存在しないと信頼性良い診断は不可能であった。しかしそのような症例は既に進行期の肺がんであることが殆どであり有効な肺がんの早期診断は不可能に近かった。上記発明により喀痰中にEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1が存在すれば、微量であってもPCRにより検出できることがわかった。
【0126】
[実施例6]EML4−ALK融合ポリペプチドv1の形質転換能及び腫瘍形成能の検討
(1)EML4−ALK融合ポリペプチドv1の解析
EML4−ALKv1/pMXSを基質として変異導入キット(QuickChange Site−Directed Mutagenesisキット;Stratagene社)を用いてEML4−ALK融合ポリペプチドv1の589番目のアミノ酸(ATP結合部位)であるリジン残基をメチオニンに置換したEML4−ALK(K589M)/pMXSを作製した。反応には配列番号103及び104からなるオリゴヌクレオチドを使用した。ALK cDNA(Morris,SW at al, Science. 1994 Mar 4;263(5151):1281−4)は定法に従いレトロウィルスベクターpMXSにクローニングした(ALK/pMXSと命名した)。
【0127】
上記EML4−ALKv1/pMXS、ALK/pMXS、EML4−ALK(K589M)/pMXS発現プラスミドおよびcDNAを挿入しない空ベクター(pMXS)をリン酸カルシウム法で3T3繊維芽細胞に導入し21日間培養したところ、図3上段にあるようにEML4−ALK融合ポリペプチドv1発現ベクターを導入した場合に限り多数の形質転換フォーカスが観察された。スケールバーは100μmを示す。また同じ導入3T3細胞をヌードマウスの皮下に5×10個ずつ接種し20日観察したところ、やはりEML4−ALK融合ポリペプチドv1発現細胞においてのみ腫瘍が形成された。また腫瘍形成数(Tumor formation)(3T3細胞接種箇所数と、そのうち何カ所に腫瘍が形成されたか)は以下の通りであった。全長ALK発現細胞の腫瘍形成数は8個中0個であり、EML4−ALK融合ポリペプチドv1発現細胞は8個中8個であった。また、EML4−ALK(K589M)発現細胞の腫瘍形成数は8個中0個だった。これらの結果から、全長ALKポリペプチドを発現させても腫瘍形成能は無く、EML4−ALK融合ポリペプチドv1が腫瘍形成能があることからEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1は癌の原因遺伝子であることが示された。また、EML4−ALKの腫瘍形成能はEML4−ALK(K589M)では観察されなかったことから腫瘍形成能はキナーゼ活性に依存していると考えられた。以下、EML4−ALK融合ポリペプチドv1発現プラスミドを導入し、EML4−ALK融合ポリペプチドv1を発現させた3T3細胞をv1発現3T3細胞と称する。
【0128】
(2)EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1の各種欠失変異体の解析
EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1のEML4部分の各種欠失変異体(ΔBasic欠失変異体(EML4−ALK融合ポリペプチドv1の31−140番目のアミノ酸を欠失)、ΔHELP欠失変異体(EML4−ALK融合ポリペプチドv1の220−296番目のアミノ酸を欠失)、ΔWD欠失変異体(EML4−ALK融合ポリペプチドv1の305−475番目のアミノ酸を欠失))を、クローニングキット(ExSite PCR−based Site−Directed Mutagenesis;Stratagene社)を用いてFLAG−EML4−ALKv1/pMX−iresCD8を鋳型にしたPCR反応により作製した。これら欠失変異体プラスミドを用いて実施例1と同様の方法でレトロウィルス溶液を作製し、感染3T3細胞を得た。これら各感染細胞をヌードマウスの皮下に接種し腫瘍形成を検討したところ、ΔHELP欠失変異体及びΔWD欠失変異体発現3T3細胞において腫瘍が形成された。ΔBasic欠失変異体、ΔHELP欠失変異体、ΔWD欠失変異体をそれぞれ発現した3T3細胞の腫瘍形成数はそれぞれ8個中0個、8個中7個、8個中8個であった。ΔBasic欠失変異体では腫瘍形成が観察されなかったことから、EML4−ALK融合ポリペプチドv1の31−140番目のアミノ酸が腫瘍形成に重要であることが示された。EML4−ALK融合ポリペプチドv2もEML4−ALK融合ポリペプチドv1と同様に上記31−140番目のアミノ酸及びALKキナーゼ領域を含んでいると考えられることから、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2は、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1と同様に3T3細胞に対する形質転換及び腫瘍形成能を有するポリペプチドをコードする癌の原因遺伝子であると考えられた。
【0129】
[実施例7]EML4−ALK融合ポリペプチド抑制剤のスクリーニング方法
(1)EML4−ALK融合ポリペプチドv1の取得
v1発現BA/F3細胞(実施例5(1))を10%仔牛胎児血清を含むRPMI1640培地にて培養し2.7×10個の細胞を得た。PBSにて3回洗浄後、細胞を溶解液(50mM Tris・HCl(pH7.4)、150mM NaCl、1%Triton X100、5mM EDTA、5mM EGTA、1mM NaVO、1mM DTT、プロテアーゼ抑制剤カクテルcomplete)にて溶解した。遠心後得られた上清中に存在するEML4−ALK融合ポリペプチドv1を抗フラッグM2抗体アフィニティゲル(ANTI−FLAG M2 Affinity Gel;SIGMA−ALDRICH社)を用いて製品情報に記載された方法に従って精製した。洗浄及び溶出はそれぞれ洗浄液(50mM Tris・HCl(pH7.4)、250mM NaCl、0.05%Brij35、1mM EDTA、1mM EGTA、1mM NaVO、1mM DTT、complete)、溶出液(50mM Tris・HCl(pH7.4)、150mM NaCl、0.05%Brij35、1mM DTT、0.5mg/mL FLAG peptide)を使用した。溶出液に対して抗ALK抗体及び抗フラッグM2抗体(SIGMA−ALDRICH社)を用いたイムノブロッティングならびに銀染色を行い、約130kDaのEML4−ALK融合ポリペプチドv1を検出した。この方法によりEML4−ALK融合ポリペプチドv1の取得が可能であることが示された。
【0130】
(2)EML4−ALK融合ポリペプチドv1のインビトロキナーゼ活性の検出
上記で精製したEML4−ALK融合ポリペプチドv1を反応液(15mM Tris・HCl(pH7.4)、0.25mM MgCl、0.01%Tween−20、2mM DTT)にて希釈後、ATP未添加及びATP20μM添加後それぞれ室温にて1時間反応した。その後、ALKの1604番目のチロシン残基がリン酸化されたものを特異的に認識する抗リン酸化ALK抗体及び抗ALK抗体を用いたイムノブロッティングにより自己リン酸化したEML4−ALK融合ポリペプチドv1及びEML4−ALK融合ポリペプチドv1の検出を行い、画像解析システム(VersaDoc Imaging System;Bio−Rad社)により定量化した。リン酸化量は自己リン酸化EML4−ALK融合ポリペプチドv1のカウントをEML4−ALK融合ポリペプチドv1のカウントで除して補正算出した。その結果、ATP添加条件において約130kDaの位置にEML4−ALK融合ポリペプチドv1の自己リン酸化のバンドが検出され、このリン酸化量はATP未添加に比べて約205倍増加していた。
【0131】
また、ペプチド基質に対するリン酸化活性をキナーゼ活性検出キット(HTRF KinEASE−TK;Cisbio社)を用いて検討した。キット同封のTK Substrate 1を基質に用い、ATP未添加及びATP100μM添加後それぞれ室温にて1時間反応し、キット推奨に従いHTRFのカウントを検出した結果、ATP未添加に対しATP添加ではHTRFのカウント(即ちペプチド基質のリン酸化)が約12倍増加していることが明らかとなった。以上のように、抗リン酸化ALK抗体やキナーゼ活性検出キットを用いることにより、EML4−ALK融合ポリペプチドv1のインビトロキナーゼ活性を検出することが可能であった。
【0132】
(3)EML4−ALK融合ポリペプチドv1インビトロキナーゼ活性に対する化合物の抑制作用
EML4−ALK融合ポリペプチドv1のインビトロキナーゼ活性に対する化合物A〜Dの抑制作用を抗リン酸化ALK抗体及び上記キナーゼ活性検出キットを用いて検討した。各化合物を最終濃度10μM又は10nMになるようEML4−ALK融合ポリペプチドv1を含む反応液中に添加し、ついで、ATPを添加又は添加せずに反応させた。その他は、上述の(2)の方法に従って行った。化合物非存在下でのATP未添加及び添加時のリン酸化のカウントをそれぞれ100%抑制、0%抑制として、化合物によるEML4−ALK融合ポリペプチドv1のキナーゼ活性の抑制%を以下の式より算出した。
【0133】
[化合物によるキナーゼ活性抑制(%)]=(1−[化合物添加ATP添加時のリン酸化のカウント−化合物未添加ATP未添加時のリン酸化のカウント]/[化合物未添加ATP添加時のリン酸化のカウント−化合物未添加ATP未添加時のリン酸化のカウント])×100
【0134】
その結果、精製EML4−ALK融合ポリペプチドv1の自己ならびにペプチド基質に対するリン酸化活性を化合物A〜Dが抑制すること見出した(表1)。化合物A及びBを、EML4−ALK融合ポリペプチドv1の活性を50%以上抑制する濃度が10μM以下の物質として、化合物C及びDを50%以上EML4−ALK融合ポリペプチドv1の活性を抑制する濃度が0.1μM以下の物質として選択することができた。
【0135】
【表1】

【0136】
以上より、EML4−ALK融合ポリペプチドを取得しインビトロキナーゼ活性を指標とすることで、本発明のポリペプチドの活性を抑制する物質のスクリーニング(インビトロ型スクリーニング)が可能であることが示された。
【0137】
(4)細胞内自己リン酸化に対するEML4−ALK融合ポリペプチドv1抑制剤の抑制作用
(4−1)BA/F3細胞
v1発現BA/F3細胞(実施例5(1))の培養液に化合物A(1μM、5μM、10μM)を添加及び未添加の条件で3時間培養した。また、FLAGが付加されるようにEML4−ALK(K589M)を組み込んだpMX-iresCD8ベクターを用いて、FLAG−EML4−ALKv1(K589M)発現BA/F3細胞を作製し培養した。これらを培養後、細胞数を計測し抗リン酸化ALK抗体を用いたイムノブロッティングによりEML4−ALK融合ポリペプチドv1のチロシンリン酸化レベルを測定した。また同じメンブレンについて、抗FLAGタグ抗体(Eastman Kodak社)によるイムノブロッティング解析を行い、FLAG付加EML4−ALK融合ポリペプチドv1の総蛋白量を測定した。図4上段にあるように、v1発現BA/F3細胞においてEML4−ALK融合ポリペプチドv1のチロシンリン酸化レベルが検出されたが、EML4−ALK(K589M)を発現させた場合ではチロシンリン酸化は検出されなかった。このことは、BA/F3細胞で検出されたEML4−ALK融合ポリペプチドv1のチロシンリン酸化がEML4−ALK融合ポリペプチドv1自身による自己リン酸化であることを示している。また、化合物Aが細胞内のEML4−ALK融合ポリペプチドv1の自己リン酸化を濃度依存性に抑制することを確認した。なお、全てのサンプル中のEML4−ALK融合ポリペプチドv1の蛋白発現量自体はほぼ一定であることが示された(図4下段)。
【0138】
細胞内自己リン酸化に対する化合物B〜Dの抑制効果を上記と同様に試験した。ただし、化合物添加後の培養時間は6時間とし、EML4−ALK融合ポリペプチドv1の総蛋白量は抗ALK抗体を用いて測定した。また、実施例7(2)と同様に定量化してリン酸化量を算出した。また、化合物Aについても本条件で実験し定量化してリン酸化量を算出した。抑制率は化合物未添加(化合物の溶媒であるDMSO添加)時の値を対照(抑制率0%)として化合物添加時のリン酸化量から算出した。各化合物はBA/F3細胞内のEML4−ALK融合ポリペプチドv1のキナーゼ活性を明らかに抑制した(表2)。化合物A及びBを50%以上EML4−ALK融合ポリペプチドv1の活性を抑制する濃度が10μM以下の物質として、化合物C及びDを50%以上EML4−ALK融合ポリペプチドv1の活性を抑制する濃度が0.1μM以下の物質として選択することができ、本発明のポリペプチドの活性を抑制する物質のスクリーニング(細胞型スクリーニング)が可能であることが示された。
【0139】
(4−2)3T3細胞
v1発現3T3細胞(実施例6(1))に化合物A〜Dを10μM又は10nM濃度で添加して4時間培養した以外は、(4−1)と同様にEML4−ALK融合ポリペプチドv1のチロシンリン酸化量及びEML4−ALK融合ポリペプチドv1の総蛋白質量を測定し各化合物の細胞内キナーゼ活性抑制率を算出した。各化合物はv1発現3T3細胞内のEML4−ALK融合ポリペプチドv1のキナーゼ活性を明らかに抑制した(表2)。本発明の細胞型スクリーニング方法における、本発明のポリペプチドを発現している細胞として、BA/F3細胞や3T3細胞などの種々の細胞が利用できることがわかった。
【0140】
【表2】

【0141】
以上より、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1を発現した細胞の細胞内自己リン酸化を指標とすることでEML4−ALK融合ポリペプチドのキナーゼ活性抑制化合物の取得が可能であることが示された。
【0142】
[実施例8]EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1を発現した細胞に対するEML4−ALK融合ポリペプチド抑制剤の増殖抑制作用
(1)v1発現BA/F3細胞の増殖能
CD8蛋白質のみを発現するBA/F3細胞(実施例5(1))、CD8と共にALK、EML4−ALK融合ポリペプチドv1(実施例5(1))又はキナーゼ失活型EML4−ALK(K589M)を発現するBA/F3細胞の増殖を、増殖因子であるIL−3の存在下又は非存在下で8×10個から培養したときの経時的な細胞数の変化をカウントした。結果を図5に示す。v1発現BA/F3細胞は、IL−3の有無にかかわらず増殖が可能であった。しかしCD8のみを発現するBA/F3細胞の場合はIL−3存在下では増殖したもののIL−3を除くと急速に死滅した。このことはEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1が癌遺伝子としての活性を有していることを示している。また、全長ヒトALK発現細胞や、キナーゼ失活型EML4−ALK(K589M)発現BA/F3細胞も同様にIL−3非存在下では死滅した。これらの結果は、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1を発現することにより、増殖因子非存在下でも細胞が増殖能を獲得すること、さらにその増殖能はEML4−ALK融合ポリペプチドv1のキナーゼ活性に依存していることを示している。全長ALKを発現するBA/F3細胞は、実施例5(1)に準じて得た。
【0143】
(2)v1発現BA/F3細胞に対するEML4−ALK融合ポリペプチド抑制剤の増殖抑制作用
次に、EML4−ALK融合ポリペプチドv1を発現することでIL−3非依存性に増殖可能になったBA/F3細胞に対してEML4−ALK融合ポリペプチドv1を抑制する物質である化合物Aを添加して、細胞増殖への影響を検討した。まずIL−3存在下で増殖するCD8発現コントロールBA/F3細胞に対して1μM、5μM又は10μMの化合物Aを添加し又は添加しない(0μM)条件で細胞増殖を計測したところ、図6(a)にあるように僅かな増殖抑制は認められるものの細胞は増殖可能であった。一方v1発現BA/F3細胞がIL−3非存在下で増殖している状態で化合物Aを添加すると、図6(b)に示すように、化合物Aの濃度依存性に細胞増殖が著明に抑制され細胞死が誘導された。すなわちEML4−ALK融合ポリヌクレオチド(癌遺伝子)依存性に増殖している細胞がEML4−ALK融合ポリペプチドv1抑制剤によって細胞死に至ることが確認された。
【0144】
(3)EML4−ALK融合ポリペプチドv1及び全長ALKポリペプチド発現細胞に対するEML4−ALK融合ポリペプチド抑制剤の足場非依存的細胞増殖抑制作用
足場非依存的な細胞増殖の測定(コロニー法など)は、化合物の抗癌作用(薬理効果)を検討する系として知られている(臨床腫瘍学 セカンドエディション、癌と化学療法社)。コロニー法に変わる細胞非接着性の増殖を測定する方法として、以下のようなスフェロイドプレートを用いる方法がある。
【0145】
96ウェルスフェロイドプレート(スミロンセルタイトスフェロイド96U;住友ベークライト)に、v1発現3T3細胞(実施例6(1))、及び内在的に全長ALKポリペプチドを発現しており、EML4-ALK融合ポリヌクレオチドを内在的に発現していないヒト神経膠腫細胞の一つであるU−87MG細胞を、1ウェル当り3000細胞となるように10%牛胎児血清を含む培地(v1発現3T3細胞はDMEM、U−87MGはRPMI1640)で播種した。5%CO存在下、37℃にて一晩培養後、化合物AとBは最終濃度10μM、化合物CとDは最終濃度10nM、及びネガティブコントロールとして化合物の溶媒であるDMSOを化合物と同濃度になるように添加した。同時に薬剤未添加の細胞数も測定した(Day0とする)。その後、5%CO存在下、37℃で3日間培養し、細胞数測定試薬(CellTiter−GloTMLuminescent Cell Viability Assay;Promega社)を添加し20分撹拌した後、発光測定装置(ML3000 microtiter plate luminometer; Dynatech Laboratories社)を用いて測定した(Day3とする)。その結果、全ての化合物はv1発現3T3細胞に対して増殖抑制活性を示し、一方、U−87MG細胞に対してはほとんど抑制活性を示さなかった。Day0、Day3の細胞数をそれぞれ100%抑制、0%抑制として化合物の抑制率を算出した(表3)。
【0146】
【表3】

【0147】
以上の結果から、化合物A〜DはEML4−ALK融合ポリペプチドv1のキナーゼ活性を抑制することにより、v1発現3T3細胞の足場非依存的細胞増殖を抑制したことが示された。さらに全長ALKポリペプチドを発現するU−87MG細胞の足場非依存的細胞増殖をこれら化合物は抑制できないことが明らかとなった。この結果は、EML4−ALK融合ポリペプチドを発現する癌細胞や腫瘍の増殖をEML4−ALK融合ポリペプチド抑制剤が抑制できることを示している。
【0148】
(4)EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1に対するsiRNAの作製
EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1の一つである配列番号1の融合部分に100%相同性を示しEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1の発現抑制作用が期待されるsiRNA(siRNA−1〜siRNA−6)として、配列番号111,113,115,117,119,又は121で示した塩基配列からなるセンス鎖と配列番号112,114,116,118,120,又は122で示した塩基配列からなるアンチセンス鎖により構成されるsiRNAを作製した。また、配列番号1のALK遺伝子由来の部分に100%相同性を示しALK遺伝子の発現抑制作用が期待されるsiRNA(siRNA−7,siRNA−8)として、配列番号123又は125で示した塩基配列からなるセンス鎖と配列番号124又は126で示した塩基配列からなるアンチセンス鎖により構成されるsiRNAをsiRNA配列設計システム(商用siDirect(登録商標)、RNAi社)により設計し作製した。siRNA−1〜siRNA−8に対応する塩基配列が、配列番号1、ALK遺伝子以外のポリヌクレオチドに100%の相同性を示さないことをsiRNA配列設計システム(商用siDirect(登録商標)、RNAi社)により確認した。非特異的なsiRNAの影響を検討する対照実験のために、哺乳類細胞に存在しない塩基配列に対応するsiRNA(siRNA−9)として、配列番号127で示した塩基配列からなるセンス鎖と配列番号128の塩基配列からなるアンチセンス鎖により構成されるsiRNAを作製した。siRNA−1は配列番号111(センス鎖)と配列番号112(アンチセンス鎖)をアニールしたものになり、siRNA−2以下も同様である(図7)。
【0149】
(5)EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1及び全長ALK発現細胞に対するsiRNAの導入によるEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1及びALK遺伝子のmRNA発現抑制作用
v1発現3T3細胞及びU−87MG細胞をそれぞれ50,000個及び150、000個になるよう12ウェルプレート(IWAKI;アサヒテクノグラス)に播種した。4時間後、siRNA−1〜siRNA−9をトランスフェクション試薬(Lipofectamine RNAiMax;インビトロジェン社)を用いて、添付指示書に従い終濃度20nMになるように調製し導入した。また、コントロールとしてsiRNA未導入の条件も準備した。72時間経過後に培地を除去した後、総RNAの抽出し、cDNAを作製した。
【0150】
v1発現3T3細胞内のEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1のmRNA発現量及び及びU−87MG細胞内のALK遺伝子のmRNA発現量を上記cDNAを鋳型とした定量的PCR試薬(Power SYBR Green PCR Master Mix;Applied Biosystems社)にて定量した(PCR反応は95℃10分インキュベーションした後、95℃15秒、60℃60秒からなるサイクルを45サイクルし、その後95℃15秒、60℃15秒、95℃15秒を1サイクル行い終了とした)。また、発現量の補正のため、v1発現3T3細胞に対してはマウスサイクロフィリンB遺伝子を、U−87MG細胞に対してはヒトGAPDH遺伝子の発現量を同様に定量した。解析はシークエンスディテクター(ABI PRISM 7900 Sequence Detection System;Perkin−Elmer Applied Biosystems社)を用いて行った。
【0151】
EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1の一つである配列番号1で表されるポリヌクレオチド、マウスサイクロフィリンB遺伝子、ヒトALK遺伝子、及びヒトGAPDH遺伝子を特異的に認識するプライマーセットは、それぞれ配列番号44と48、配列番号50と56、配列番号44と48、配列番号12と13で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして用いた。また、各mRNA発現量算出の標準曲線を得るために、配列番号1で表されるポリヌクレオチド、ヒトALK遺伝子及びヒトGAPDH遺伝子に対してはヒトゲノムDNA(クロンテック社)を、マウスサイクロフィリンB遺伝子に対してはマウスゲノムDNA(クロンテック社)を鋳型として、前記プライマーセットを用いて同条件のPCRを行った。尚、配列番号1で表されるポリヌクレオチドの検出にはヒトALKポリヌクレオチドのエクソン29に対応するプライマーセットを用いているため、ヒトゲノムDNAを用いて標準曲線を得ることが可能である。各試料における配列番号1で表されるポリヌクレオチド及びヒトALK遺伝子発現量は、マウスサイクロフィリンB遺伝子及びヒトGAPDH遺伝子の発現量で補正し補正発現量とした。さらに、siRNA未導入時の配列番号1で表されるポリヌクレオチド及びヒトALK遺伝子補正発現量をそれぞれ100%としたときの、各siRNA導入時の配列番号1で表されるポリヌクレオチド及びヒトALK遺伝子補正発現量の相対的発現量を求め発現抑制率を算出した(表4)。
【0152】
その結果、配列番号1で表されるポリヌクレオチドに対応するsiRNAであるsiRNA−1〜siRNA−8は配列番号1で表されるポリヌクレオチドの発現を50%以上抑制した。ヒトALK遺伝子についてはヒトALK遺伝子に対応するsiRNAであるsiRNA−7及びsiRNA−8が50%以上の抑制を示した。ネガティブコントロールのsiRNA−9は配列番号1で表されるポリヌクレオチド及びヒトALK遺伝子に対して強い発現抑制作用を示さなかった。これにより、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドの発現を抑制する物質をスクリーニングすることが可能であることが確認された。
【0153】
【表4】

【0154】
(6)v1発現3T3細胞におけるsiRNAのEML4−ALK融合ポリペプチドv1発現抑制並びに自己リン酸化抑制作用
実施例8(5)と同様の方法でv1発現3T3細胞50,000個を12ウェルプレートに播種し、4時間後、siRNA−1〜siRNA−9を導入した。また、コントロールとしてsiRNA未導入の条件も準備した。導入から72時間経過後に培地を除去し、実施例7(4)と同様の方法で細胞内のEML4−ALK融合ポリペプチドv1の自己リン酸化及びEML4−ALK融合ポリペプチドv1の蛋白質量を定量化した。また各測定サンプル中の総蛋白質がそろっていることを確認するために抗アクチン抗体(SIGMA−ALDRICH社)でアクチン蛋白質量も定量した。siRNA−1〜siRNA−8はv1発現3T3細胞内のEML4−ALK融合ポリペプチドv1の発現及びキナーゼ活性を明らかに抑制した。
【0155】
(7)v1発現3T3細胞及び全長ALK発現細胞におけるsiRNAの増殖抑制作用
各siRNAを先に96ウェルスフェロイドプレートに添加し、その後、v1発現3T3細胞及びU−87MG細胞を播き3日間培養する以外は実施例8(3)と同様の方法でsiRNA導入及び未添加条件での細胞増殖抑制率を算出した。
【0156】
この結果を表5に示す。実施例8(6)でEML4−ALK融合ポリペプチドv1の発現及びキナーゼ活性を抑制することが示されたsiRNA(siRNA−1〜siRNA−8)は、それぞれv1発現3T3細胞の足場非依存的増殖を強く抑制した。siRNA−1,siRNA−3,siRNA−4,又はsiRNA−5を導入したv1発現3T3細胞の測定時(Day3)の細胞数はsiRNA導入日(Day0)の細胞数より低かったため増殖抑制率が100%を超える結果となり、細胞死が誘導されていると考えられた。一方、siRNA−7及びsiRNA−8は実施例8(5)でALK遺伝子の発現を抑制することが示されたが、全長ALKを発現するU−87MG細胞に対して増殖抑制は示さなかった。尚、siRNA−1〜siRNA−6はU−87MG細胞の増殖抑制は示さず、また、ネガティブコントロールのsiRNA−9はv1発現3T3細胞及びU−87MG細胞の増殖抑制は示さなかった。
【0157】
【表5】

【0158】
以上の結果から、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1の一つである配列番号1で表されるポリヌクレオチドを発現する癌細胞に対応するsiRNAを導入することにより、mRNA発現が抑制され、その結果としてEML4−ALK融合ポリペプチドの低下、さらには自己リン酸化活性が抑制され癌細胞の増殖が抑制されることが明らかとなった。また、全長ALKを発現する癌細胞に対してはALKの発現を抑制しても増殖阻害は起こらなかった。以上の結果より、EML4−ALK融合ポリヌクレオチド陽性の癌患者に対し、配列番号1で表されるポリヌクレオチドに対するsiRNA、例えばsiRNA−1〜siRNA−8は、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドを発現する腫瘍に対する治療薬として有用であることが明らかとなった。
【0159】
(8)v1発現3T3細胞に対するEML4−ALK融合ポリペプチド抑制剤の抗腫瘍試験
PBSに懸濁したv1発現3T3細胞3×10個を5週齡の雄性BALB/cヌードマウス(日本チャールズリバー社)の背部皮下に注射して植えつけた。植付け7日後にEML4−ALK融合ポリペプチド抑制剤である(表1〜3)化合物Cの投与を開始した。試験は溶媒群および化合物C群各4匹で行い、10% 1−メチル−2−ピロリドン(1−methyl−2−pyrrolidinone)(SIGMA−ALDRICH社)/90% ポリエチレングリコール300(polyethylene glycol 300)(Fluka社)の組成の溶媒に化合物Cを溶解し、10mg/kgを経口投与した。投与は14日間1日1回行い、体重および腫瘍径を隔日で測定した。腫瘍体積の算出には以下の式を用いた。
[腫瘍体積(mm)]=[腫瘍の長径(mm)]×[腫瘍の短径(mm)]×0.5
【0160】
化合物投与開始日および投与終了日の溶媒群の腫瘍体積をそれぞれ100%抑制、0%抑制として化合物Cの抑制率を算出した。結果、化合物Cはv1発現3T3細胞(腫瘍)の増殖を103%抑制した。
【0161】
下記以外は、同様に化合物Dの抗腫瘍作用を検討した。植付け6日後に化合物Dの投与を開始し、投与は10日間1日1回行い、腫瘍径を測定した。化合物Dはv1発現3T3細胞(腫瘍)の増殖を101%抑制した。
【0162】
(9)v1発現3T3腫瘍に対するEML4−ALK融合ポリペプチド抑制剤反復投与によるキナーゼ抑制作用
下記以外は実施例8(8)と同様にして、化合物Cのキナーゼ抑制作用を観察した。v1発現3T3細胞1×10個を植えつけ、植付け13日後に化合物Cの投与を開始した。試験は溶媒群および化合物C群各3匹で行い、投与は3日間1日1回行い、最終投与4時間後に解剖して腫瘍を摘出した。その後、組織から蛋白質抽出液を調製し、抗リン酸化ALK抗体を用いたイムノブロッティングを行った。結果、化合物C群では溶媒群に比べ腫瘍内のEML4−ALK融合ポリペプチドv1のチロシン自己リン酸化が有意に減少していた。この結果から上記動物モデルにおける化合物Cの抗腫瘍作用が腫瘍内のEML4−ALK融合ポリペプチドv1のキナーゼ抑制作用に基づくことが確認された。
【0163】
[実施例9]EML4−ALK融合ポリペプチドv1の検出
細胞中のEML4−ALK融合ポリペプチドv1を検出する方法を以下の通り構築した。v1発現3T3細胞及びU−87MG細胞を培養した。PBSにて3回洗浄後、細胞を溶解液(実施例7(1))にて溶解した。遠心後得られた上清蛋白質4mgに対して抗EML4抗体(Cell Signaling社)を添加し4℃にて一晩反応させた。その後、プロテインGビーズ(Protein G Sepharose 4 Fast Flow;GE Healthcare社)を添加し2時間免疫沈降を行った。遠心後に沈降物を洗浄液(実施例7(1))にて3回洗浄し、SDS溶解液にて沈殿物を懸濁した。この上清に対して抗ALK抗体を用いたイムノブロッティングを行った。結果、v1発現3T3細胞の免疫沈降物では、EML4−ALK融合ポリペプチドv1が検出されたが、U−87MG細胞では検出されなかった。以上の結果から、抗EML4抗体及び抗ALK抗体を組み合わせて用いることで、EML4−ALK融合ポリペプチドv1を発現している癌細胞や癌組織中のEML4−ALK融合ポリペプチドv1の存在を検出することが可能となり、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv1陽性癌患者を判定することが可能であることが明らかとなった。
【0164】
[実施例10] EML4−ALK融合ポリペプチドv2の解析
(1)EML4−ALK融合ポリペプチドv2の発現ベクターの構築
実施例4の(1)で製造したEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2の一つである配列番号6のポリヌクレオチドをクローニングしたpCR2.1−TOPOベクターを用いて、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2の開始コドンの5’末端側に制限酵素HindIIIの切断配列を組み込んだベクター(EML4−ALKv2/pCR2.1)を作製した。
【0165】
EML4−ALKv2/pCR2.1を制限酵素HindIIIで消化して、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2を切り出して両端を平滑末端にした後、アダプター(EcoRI−NotI−BamHI adaptor;タカラバイオ社)を両端にライゲーションさせ、レトロウィルスベクターpMXSのEcoRIサイトに挿入した。これをEML4−ALKv2/pMXSと命名した。
【0166】
また、EML4−ALKv2/pCR2.1を制限酵素HindIIIとXbaIで消化して、切り出した断片を、N末端にFLAGタグを付加して発現できるように改変した発現ベクターpcDNA3のHindIII/XbaIサイトに挿入し、N末端にFLAGタグが付加されたEML4−ALK融合ポリペプチドv2の発現プラスミド(FLAG−EML4−ALKv2/pcDNA3)を作製した。
【0167】
(2)EML4−ALK融合ポリペプチドv2の腫瘍形成能
FLAG−EML4−ALKv2/pcDNA3(実施例10(1))を、トランスフェクション試薬(FuGENE HD;Roche Diagnostics社)を用いて、添付マニュアルに従って3T3繊維芽細胞に導入した。選択薬剤ゼオシン(Zeocin)を80μg/mLにより、EML4−ALK融合ポリペプチドv2を安定に発現した3T3細胞を樹立した。EML4−ALK融合ポリペプチドv2の発現は、抗ALK抗体及び抗リン酸化ALK抗体を用いたイムノブロッティングにより確認した。この細胞をv2発現3T3細胞と称する。PBSに懸濁したv2発現3T3細胞2×10個を5週齡の雄性BALB/cヌードマウス(日本チャールズリバー社)の背部皮下に注射して植えつけた。植付け後15日間観察したところ、図3下段に示すv1発現3T3細胞の結果と同様に、v2発現3T3細胞でも、4例中4例全てに明らかな腫瘍形成が確認できた。
【0168】
以上の結果より、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv2の一つである配列番号6で表されるポリヌクレオチドは、3T3細胞に対する腫瘍形成能を有するポリペプチドをコードする癌の原因遺伝子であることが確認できた。
【0169】
(3)EML4−ALK融合ポリペプチドv2の細胞内自己リン酸化活性を抑制する物質のスクリーニング
1ウェル当り1×10細胞となるように10%牛胎児血清を含むDMEM培地で、コラーゲンIコート24ウェルプレート(IWAKI社)に播種した293EBNA細胞(インビトロジェン社)に、トランスフェクション試薬(Lipofectamin2000;インビトロジェン社)を用いて、FLAG−EML4−ALKv2/pc DNA3(実施例10(1))又はコントールとしてpcDNA3(空ベクター)を100ng導入した。20時間培養した後、化合物C,D又はDMSOをそれぞれ添加して4時間培養して細胞を回収した。抗ALK抗体及び抗リン酸化ALK抗体を用いたイムノブロッティングにより、EML4−ALK融合ポリペプチドv2の蛋白質発現及びチロシンリン酸化レベルを測定した。
【0170】
その結果、抗ALK抗体を用いたイムノブロッティングでは、EML4−ALK融合ポリペプチドv2として予想される約160kDaの位置にバンドが確認でき、全てのサンプル中のEML4−ALK融合ポリペプチドv2の蛋白発現量自体がほぼ一定であることが示された。また、抗リン酸化ALK抗体を用いたイムノブロッティングでも同じ位置にバンドが確認できた。実施例7(2)と同様に定量化してリン酸化量を算出した。化合物によるリン酸化の抑制率は、化合物未添加(化合物の溶媒であるDMSO添加)時の値を抑制率0%として、また、空ベクターのpcDNA3導入した時の値を抑制率100%として、各化合物添加時のリン酸化量から算出した。その結果、各化合物は293EBNA細胞内のEML4−ALK融合ポリペプチドv2のキナーゼ活性を明らかに抑制した(表6)。また、v2発現3T3細胞(実施例10(2))に化合物A〜D、又はDMSOを10μM又は10nM濃度で添加して実施例7(4−2)と同様にEML4−ALK融合ポリペプチドv2のチロシンリン酸化量及びEML4−ALK融合ポリペプチドv2の総蛋白質量を測定し、各化合物の細胞内キナーゼ活性抑制率を算出した。各化合物はv2発現3T3細胞内のEML4−ALK融合ポリペプチドv2のキナーゼ活性を明らかに抑制した(表6)。
【0171】
化合物A及びBを50%以上EML4−ALK融合ポリペプチドv2の活性を抑制する濃度が10μM以下の物質として、化合物C及びDを50%以上EML4−ALK融合ポリペプチドv2の活性を抑制する濃度が0.1μM以下の物質として選択することができ、EML4−ALK融合ポリペプチドv1と同様に、EML4−ALK融合ポリペプチドv2を用いても、本発明のポリペプチドの活性を抑制する物質のスクリーニング(細胞型スクリーニング)が可能であることが確認された。
【0172】
【表6】

【0173】
(4)EML4−ALK融合ポリペプチドv2発現細胞に対するEML4−ALK融合ポリペプチド抑制剤の足場非依存的細胞増殖抑制作用
v2発現3T3細胞(実施例10(2))を用いて、実施例8(3)と同様の方法で実施した。その結果、全ての化合物はv2発現3T3細胞に対して増殖抑制活性を示した。Day0、Day3の細胞数をそれぞれ100%抑制、0%抑制として化合物の抑制率を算出した(表7)。
【0174】
【表7】

【0175】
以上の結果から、化合物A〜DはEML4−ALK融合ポリペプチドv2のキナーゼ活性を抑制することにより、v2発現3T3細胞の足場非依存的細胞増殖を抑制したことが示された。
【0176】
[実施例11] 本発明のポリペプチドv3型の解析
(1)臨床検体でのEML4−ALK融合ポリヌクレオチド3の検出と遺伝子の単離
実施例3(1)の肺癌臨床検体由来75例のcDNAおよび定量的PCRキットを用い、配列番号131及び配列番号82で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして、PCR(50℃ 2分、95℃ 15分の後、94℃ 15秒、60℃ 30秒、72℃ 90秒を50サイクル)を行った。その結果、2例において、EML4-ALK融合ポリヌクレオチドv1及びEML4-ALK融合ポリヌクレオチドv2とは異なる融合点を有する、EML4遺伝子の一部とALK遺伝子の一部とが融合した515bp(配列番号86)及び548bp(配列番号90)の配列が増幅されたことがわかった。
【0177】
上記のPCR産物陽性の患者由来cDNAを鋳型として、配列番号94及び配列番号46で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして、DNAポリメラーゼ(PrimeStar HS DNAポリメラーゼ)を用いてPCR(98℃ 10秒、68℃ 6分を35サイクル)行い、増幅産物をpT7Blue−2にクローニングしたところ、EML4遺伝子の開始コドンATGからイントロン6の一部までの700塩基と、ALK遺伝子エキソン21からエキソン30の停止コドンまでの1691塩基からなる新規なポリヌクレオチド(配列番号129)が取得できた。これによりコードされる配列を配列番号130に示す。本明細書では、配列番号130で表されるポリペプチドをEML4−ALK融合ポリペプチドv3と称し、配列番号130で表されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv3と称している。配列番号129で表されるcDNAをクローニングしたプラスミドを、EML4−ALKv3/pT7Blue−2と命名した。
【0178】
(2)EML4−ALK融合ポリペプチドv3の腫瘍形成能の検討
EML4−ALKv3/pT7Blue−2より実施例4(1)の方法に従い、EML4−ALK融合ポリペプチドv3発現ベクター(EML4−ALKv3/pMXSと命名)を構築した。また、実施例4の方法に従い、EML4−ALKv3/pT7Blue−2を利用して、N末端にFLAGタグが付加されたEML4−ALKv3とCD8の両方を発現するベクター(FLAG−EML4−ALKv3/pMX−iresCD8と命名)を構築した。
【0179】
上記のEML4−ALKv3/pMXSを導入した3T3細胞をヌードマウスの皮下に5×10個ずつ接種し20日後には腫瘍形成が確認された。EML4−ALK融合ポリペプチドv3が腫瘍形成能を持っていたことからEML4−ALK融合ポリヌクレオチドv3の一つである配列番号129で表されるポリヌクレオチドは癌の原因遺伝子であることが示された。以下、EML4−ALK融合ポリペプチドv3発現プラスミドを導入し、EML4−ALK融合ポリペプチドv3を発現している3T3細胞をv3発現3T3細胞と称する。
【0180】
(3)EMLA−ALK融合ポリヌクレオチドv3のmRNAを検出する方法
鋳型としてEML4−ALKv3を発現するプラスミドを1ng用い、プライマーセットとして配列番号132と配列番号62、配列番号133と配列番号64、配列番号134と配列番号66、配列番号135と配列番号68、配列番号136と配列番号70、配列番号137と配列番号72、配列番号138と配列番号74、配列番号139と配列番号76、配列番号140と配列番号78、及び配列番号141と配列番号80のプライマーセットをそれぞれ用いて、DNAポリメラーゼ(rTaq DNA polymerase;タカラバイオ)によりPCR(94℃15秒、55℃30秒、72℃1分を30サイクル)を行った。その結果、全てのプライマーセットにおいて、それぞれ期待されるサイズの単一のDNA断片が増幅された。以上の結果から、被験者から得た試料から抽出したmRNAを鋳型としてRT−PCRを本実施例に従って行うことにより、EML4−ALK融合ポリヌクレオチドv3の存在を検出することが可能であることがわかった。
【0181】
(4)EML4−ALK融合ポリペプチドv3抑制剤のスクリーニング
FLAG−EML4−ALKv3/pMX−iresCD8を利用して、実施例1、実施例5(1)及び実施例7(1)の方法に従い、EML4−ALK融合ポリペプチドv3を取得した。
【0182】
実施例7(2)の方法により、上記で精製したEML4−ALK融合ポリペプチドv3のインビトロキナーゼ活性を検出することが可能であった。EML4−ALK融合ポリペプチドv3のインビトロキナーゼ活性に対する化合物A〜Dの抑制作用を実施例7(3)の方法により試験した。その結果、精製EML4−ALK融合ポリペプチドv3の自己リン酸化活性及びペプチド基質に対するリン酸化活性を化合物A〜Dが抑制すること見出した(表8)。これらの化合物をEML4−ALK融合ポリペプチドv3を抑制する物質として選択することができた。
【0183】
【表8】

【0184】
以上より、EML4−ALK融合ポリペプチドv3を取得しインビトロキナーゼ活性を指標とすることで、本発明のポリペプチドの活性を抑制する物質のスクリーニング(インビトロ型スクリーニング)が可能であることが示された。
【0185】
(5)EML4−ALK融合ポリペプチドv3の細胞内自己リン酸化活性を抑制する物質のスクリーニング
v3発現3T3細胞(実施例11(2))にDMSO(コントロール)又は化合物A〜Dを10μM又は10nM濃度で添加して実施例7(4−2)と同様にEML4−ALK融合ポリペプチドv3のチロシンリン酸化量及びEML4−ALK融合ポリペプチドv3の総蛋白質量を測定し、各化合物の細胞内キナーゼ活性抑制率を算出した。抗ALK抗体を用いたイムノブロッティングでは、EML4−ALK融合ポリペプチドv3として予想される約90kDaの位置に全てのサンプルでほぼ一定量のバンドが確認できた。また、抗リン酸化ALK抗体を用いたイムノブロッティングでも同じ位置にバンドが確認できた。
【0186】
各化合物はv3発現3T3細胞内のEML4−ALK融合ポリペプチドv3のキナーゼ活性を明らかに抑制した(表9)。EML4−ALK融合ポリペプチドv3を用いて、本発明のポリペプチドの活性を抑制する物質のスクリーニング(細胞型スクリーニング)が可能であることがわかった。
【0187】
【表9】

【0188】
(6)v3発現3T3細胞に対するEML4−ALK融合ポリペプチド抑制剤の足場非依存的細胞増殖抑制作用
v3発現3T3細胞(実施例11(2))を用いて、実施例8(3)と同様の方法でEML4−ALK融合ポリペプチド抑制剤(化合物A〜D)の足場非依存的細胞増殖抑制作用を試験した。その結果、全ての化合物はv3発現3T3細胞に対して増殖抑制活性を示した(表10)。
【0189】
【表10】

【0190】
以上の結果から、化合物A〜DはEML4−ALK融合ポリペプチドv3のキナーゼ活性を抑制することにより、v3発現3T3細胞の足場非依存的細胞増殖を抑制したことが示された。
【0191】
(7)NCI−H2228細胞での本発明のポリヌクレオチドv3型mRNAの発現とクローニング
ヒト非小細胞肺癌細胞株NCI−H2228細胞(アメリカンタイプカルチャーコレクション)の全RNAから逆転写反応により作製したcDNAを鋳型として、配列番号94及び配列番号46で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーとして、DNAポリメラーゼ(PrimeSTAR HSDNAポリメラーゼ;タカラバイオ)を用いてPCR(98℃10秒、68℃4分を35サイクル)を行った。さらに、得られたPCR産物の一部を鋳型として、EML4遺伝子の開始コドンATGの5’末端側に制限酵素HindIIIの切断配列を付加した配列番号105で表されるオリゴヌクレオチドと、ALK遺伝子の終始コドンTGAの3’末端側に制限酵素XbaIの切断配列を付加した配列番号106で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーとして、DNAポリメラーゼ(PrimeSTAR HSDNAポリメラーゼ;タカラバイオ)を用いてPCR(98℃10秒、68℃4分を35サイクル)を行い、約2400bpのPCR産物を得た。この産物をTOPO TA Cloningキット(インビトロジェン社)を用いてpCR2.1−TOPOベクターにTAクローニングして塩基配列を解析した。その結果、2種類のポリヌクレオチドを同定した。一つは、配列番号129(実施例11(1))とは4塩基(配列番号129の第685番、903番、2000番、2115番)異なる配列からなる2391塩基(配列番号107)であった。配列番号107で表されるポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド(配列番号108)は、配列番号130で表されるポリペプチドとは、3アミノ酸(配列番号130の第229番、667番、705番)異なっていた。他方は、EML4遺伝子の開始コドンATGからエキソン6までの667塩基とALK遺伝子エキソン21からエキソン30の停止コドンまでの1691塩基からなる2358塩基(配列番号109)であった。この配列は、配列番号129とは、3塩基(配列番号129の第903番、2000番、2115番)の置換があり、33塩基(配列番号129の第668番〜700番)の欠失がある点で異なっていた。配列番号109で表されるポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド(配列番号110)は、配列番号130で表されるポリペプチドとは、2アミノ酸の置換(配列番号130の第667番、705番)及び11アミノ酸(配列番号130の第223番〜233番)の欠失がある配列からなるポリペプチドであり、配列番号130で表されるポリペプチドと98.4%の同一性を示していた。これらのALK遺伝子由来の部分は、ALK遺伝子としてGenbankに登録されているNM_004304の配列(4080番〜5770番)と1塩基違いであった。この違いによるアミノ酸置換は起こらない。このことから、肺癌患者において同定したポリヌクレオチド(配列番号129)とNCI-H2228からクローニングしたポリヌクレオチド(配列番号107)のALK遺伝子部分の違いは遺伝子配列多型である可能性が示唆された。
【0192】
なお、NCI-H2228細胞には、EML4−ALK融合ポリペプチドv1又はEML4−ALK融合ポリペプチドv2をコードするポリヌクレオチドはいずれも発現していなかった。
【0193】
(8)NCI-H2228細胞での本発明のポリペプチドv3型の自己リン酸化活性を抑制する物質のスクリーニング
NCI-H2228細胞にDMSO(コントロール)又は化合物Cを最終濃度100nMとなるように添加して実施例11(5)と同様に融合ポリペプチドのチロシンリン酸化量を測定し、化合物Cの自己リン酸化活性抑制率を算出した。化合物CはNCI-H2228細胞内の本発明のポリペプチドv3型のキナーゼ活性を81%抑制した。以上より、NCI-H2228細胞の自己リン酸化を指標とすることで本発明のポリペプチドの活性を抑制する物質のスクリーニング(細胞型スクリーニング)が可能であることが明らかとなった。
【0194】
(9)NCI-H2228細胞に対するEML4−ALK融合ポリペプチド抑制剤の足場非依存的細胞増殖抑制作用
NCI-H2228細胞にDMSO(コントロール)又は化合物A〜Dを最終濃度10μM又は10nMとなるように添加して5日間培養した以外は実施例8(3)と同様の方法で実施した。その結果、化合物A〜Dの化合物はNCI-H2228細胞に対して増殖抑制活性を示した。Day0、Day5の細胞数をそれぞれ100%抑制、0%抑制として化合物の抑制率を算出した(表11)。
【0195】
【表11】

【0196】
化合物A〜Dはヒト非小細胞肺癌細胞株NCI-H2228細胞で発現する本発明のポリペプチドv3型の自己リン酸化(キナーゼ)活性を抑制することにより、NCI-H2228細胞の足場非依存的細胞増殖を抑制したことが示された。以上の結果より、本発明のポリヌクレオチド陽性の肺癌患者に対し、本発明のポリペプチドの抑制剤が本発明のポリヌクレオチドを発現する肺癌に対する治療薬として有用であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0197】
本発明のポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、該発現ベクターで形質転換された細胞は、本発明のポリペプチドを抑制する物質(即ち、本発明のポリヌクレオチド陽性の癌治療剤)のスクリーニングに有用である。本発明のポリヌクレオチド又は蛋白質の検出方法は、本明細書の融合遺伝子陽性の癌患者の判定に有用である。本発明の検出用キット及びプライマーセットは前記検出方法に用いることができる。本発明のポリヌクレオチドもまたそれ自体、プローブとして及びコントロールテンプレートとして検出方法に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2、配列番号7又は配列番号130で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、キナーゼ活性を有するポリペプチド、あるいは、配列番号2、配列番号7又は配列番号130で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもキナーゼ活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
配列番号2、配列番号7又は配列番号130で表されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を含み、しかもキナーゼ活性を有するポリペプチド。
【請求項3】
配列番号2、配列番号7又は配列番号130で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項4に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項6】
請求項5に記載の発現ベクターで形質転換された細胞。
【請求項7】
ポリペプチドの発現に適した条件下で請求項6に記載の形質転換された細胞を培養すること、及び前記ポリペプチドを細胞から回収することを含んでなる、請求項1乃至請求項3のポリペプチドの製造方法。
【請求項8】
(1)請求項1乃至請求項3に記載のポリペプチド又は前記ポリペプチドを発現している細胞に試験物質を接触させる工程、(2)前記ポリペプチドが抑制されるか否かを分析する工程、及び(3)前記ポリペプチドを抑制する物質を選択する工程を含むことを特徴とする前記ポリペプチドを抑制する物質をスクリーニングする方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項3に記載のポリペプチドを抑制する物質がEML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子陽性の癌の治療剤である、請求項8のスクリーニングする方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項3に記載のポリペプチドを抑制する物質を含有する、EML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子陽性の癌治療用医薬組成物。
【請求項11】
請求項1乃至請求項3に記載のポリペプチドを抑制する物質が、5−クロロ−N−[2−(イソプロピルスルホニル)フェニル]−N−{2−メトキシ−4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]フェニル}ピリミジン−2,4−ジアミン又は2−[(5−ブロモ−2−{[2−メトキシ−4−(4−メチルピペラジン−1−イル)フェニル]アミノ}ピリミジン−4−イル)アミノ]−N−メチルベンゼンスルホンアミドである請求項10に記載のEML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子陽性の癌治療用医薬組成物。
【請求項12】
二重鎖部分が配列番号1の第1743番から第1761番、第1744番から第1762番、第1750番から第1768番、第1753番から第1771番、第1756番から第1774番又は第1757番から第1775番に記載の塩基に基づいて設計される、請求項1乃至請求項3に記載のポリペプチドの発現抑制活性を有する二重鎖核酸。
【請求項13】
請求項12に記載の二重鎖核酸を有効成分とする、EML4遺伝子とALK遺伝子との融合遺伝子陽性の癌治療用医薬組成物。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−100783(P2009−100783A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35918(P2009−35918)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【分割の表示】特願2007−265917(P2007−265917)の分割
【原出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.電子通信回線での刊行物投稿論文発表 刊行物名:Nature 号数:448,561−566(2 August 2007) 電気通信回線掲載日:2007年7月11日 掲載アドレス:http://www.nature.com/journal/vaop/ncurrent/pdf/nature05945.pdf http://www.nature.com/journal/vaop/ncurrent/suppinfo/nature05945.html 2.刊行物名:第66回 日本癌学会学術総会記事 講演番号:0−455 刊行物発行日:2007年8月25日 3.刊行物名:第66回 日本癌学会学術総会記事 講演番号:ML10 刊行物発行日:2007年8月25日 4.刊行物名:第65回 日本癌学会学術総会記事 講演番号:0−324 刊行物発行日:2006年8月28日
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【出願人】(507073398)株式会社CureGene (2)
【Fターム(参考)】