説明

EPA高濃度含有豆乳類からなる高脂血症の治療または予防剤

【課題】 EPAおよび/またはDHAを高濃度で含有した豆乳類を高脂血症の治療または予防剤として提供すること。
【解決手段】 豆乳の固形分が3%以上の豆乳類に、豆乳類の大豆タンパク質に対して、25%を超える量の、EPAを28%以上含有する精製魚油を添加して、EPA濃度が300〜720mg/100mlとし、容量100〜125mlの1容器にEPAを300〜900mg含む、容器入り豆乳類からなる継続して摂取させるための高脂血症の治療または予防剤。豆乳類が、調整豆乳、豆乳飲料、酸性の豆乳、豆乳を凝固させた豆腐から選ばれる任意の豆乳類である。魚油が、抗酸化剤としてトコフェロールを0.5%以上添加した魚油である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、EPA高濃度含有豆乳類からなる高脂血症の治療または予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
豆乳は豆腐の原料となるほか、最近では機能性食品としてそのまま飲用に供されている。豆乳の製法としては、以下のような方法がある。まず、大豆を水洗し、ゴミ等を除去したのち、約3倍量の常温水に浸漬し、季節により5〜20時間保存し、大豆が吸水、膨潤し、発芽寸前の状態とする。ついで、この膨潤した大豆をミキサー、臼などの磨砕装置に投入し、約5〜6倍量の常温の水を加えて常温で磨砕し、「生ご」(豆汁)を作り、この「生ご」を約3〜15分間加熱したのち、遠心分離機、フィルタープレスなどの固液分離装置により高温のまま固液分離して豆乳とおからを得ている。
【0003】
そして、このようにして得られた豆乳は、にがり、グルコノラクトン、硫酸カルシウムなどの凝固剤を添加することによって豆腐とされたり、そのまま容器等に密封充填して豆乳飲料として提供されている。しかし、豆乳飲料は2−ヘキセナール、数種のサポニンなど少量成分による青草臭、えぐ味などの不快な風味を有することが利用上の最大の障害になっている。そこで、豆乳の風味改善のために乳酸菌で乳酸醗酵することについていろいろな提案がされている。大豆の不快臭のマスキングは大豆本来のこく味や旨味を消してしまうことになり、大豆由来の不快臭、不快味の問題は未だに解決が求められている状況である。
【0004】
ところで、大豆蛋白は、コレステロール低減効果を有することが知られており、豆腐が多く食されているが、什器及び付け汁や薬味類を必要とするので喫食場所は限られてしまう。豆乳飲料を容器等に密封充填し携帯可能にすると、喫食場所を選ばないので、機能性食品として容易に喫食が可能である。
【0005】
これとは別に、近時の予防医学知識の普及にともない病気にかかる前の健康又は半健康の状態で予防的に生理活性を有する天然由来の食品を摂取して、健康を保持しようとする試みが多数の人々により行われている。中でも高度不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)はマグロ、カツオ、サバ、イワシ等の魚類にグリセライドとして少量含まれている天然化合物であるが、近時これら化合物に脳神経賦活作用、血中コレステロール及び脂質低下作用あるいは抗アレルギー作用などの有用な生理活性が次々と明らかにされ、にわかに注目を集め、いわゆる機能性食品としてのみならず、様々な食品への添加が検討されている。
【0006】
DHAやEPAは多価不飽和脂肪酸の一種であって、マグロの脂身、イクラ、ブリ、サバ、サンマ、ウナギ、マイワシ、ニジマス、サケ、アジ等の魚類の油脂(以下魚油という)中に多く含まれている。これらの魚油に含有するEPAやDHAは、生理活性効果として血小板凝集抑制作用、血中中性脂肪低下作用、血中VLDL及びLDLコレステロール低下作用等を有していて、動脈硬化性疾患の予防及び治療効果を有すること、またDHAが欠乏すると記憶学習能が低下することも知られている。このようにEPAやDHAには多くの生理活性効果があるが、一方EPAやDHAを含有する魚油には、特異な臭気があり、EPAは1分子中に20個の炭素と5個の二重結合を持ち、またDHAは1分子中に22個の炭素と6個の二重結合を持っていることから極めて酸化され易く、風味の劣化が起こって不快な臭いや味を呈するようになることも知られている。
【0007】
これらのことを考慮して、各種豆乳製品が提供されており、それら先行技術の一例として特許文献1には、豆乳と、豆乳中の大豆蛋白質の重量の約1%〜約25%の高度不飽和油脂とを混合して高度不飽和油脂含有豆乳を得ることを特徴とする高度不飽和油脂強化大豆加工食品の製造方法が記載されており、その詳細な説明によると「豆乳18リットル(蛋白質含量約650g)に均一に分散しうるEPA(DHA)含有液状油脂の量は最大160g(豆乳中の蛋白質の重量に対して約25%)であり、」、「…約25%を超えると上記油脂が豆乳中に均一に分散せずに油分が分離する」と記載されている。
【0008】
他の先行技術として特許文献2には「豆乳とDHA含有魚油とを重量比で1:0.2〜1の割合で混合、撹拌してDHA含有魚油の乳化物を調製し、この乳化物をさらに豆乳で希釈することを特徴とするDHA入り飲用豆乳の製造方法。」が記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開平7−255406号公報
【特許文献2】特開平10−42819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、魚油由来のEPAおよび/またはDHAを高濃度で含有した豆乳類、特に高脂血症に有効でありしかも栄養価の高い豆乳類を高脂血症の治療または予防剤として提供することを目的とする。
【0011】
EPAの必要量は、(財)日本健康・栄養食品協会の摂取量の目安はEPA−TGで750mg/日であり、医薬品では、エチルエステルで1800mg/日であるが、特許文献1に記載された豆乳では、使用した高度不飽和油脂についての記載はないが、通常、食品に使用されるDHA、EPA濃度は高いものでも25%程度であるので、その値にもとづいて換算すると豆乳中のEPA濃度は0.2%程度であり、豆乳のEPA含有量は1日の摂取量としては充分なものとはいえない。実際EPA濃度28%の魚油を固形分8%の豆乳に添加した場合、固形分中の大豆蛋白質を約50%とすると、先行技術ではEPA約280mg/100mlの添加が限界であるが、本発明によればそれを超えるEPAを含ませようとするものである。
【0012】
また、高脂血症と診断される病態にはトリグリセライドのみが上昇する患者、コレステロールのみが上昇する患者、トリグリセライドとコレステロールの両方が上昇する患者がある。したがって、高脂血症に有効な機能性食品を開発する場合、いずれのタイプの患者にも有効であるものが望まれる。
【0013】
大豆蛋白が高コレステロールに有効であること、および、EPAが高トリグリセライドに有効であることは知られているが、実際に機能性食品とするには、酸化しやすく、臭いが問題となるEPAをどのような形でどの程度の濃度添加するか、また、大豆蛋白の濃度はどの程度が必要であるかなどにより有効性、使用しやすさ等が大きく左右される。
【0014】
本発明では高脂血症治療または予防剤としての豆乳を連日摂取するには、摂取可能な1日用量として200ml程度が限界であろうと想定し、そこで本発明は、EPAの1日当たりの摂取量を脂肪酸グリセリドの形で900mg以上として、200ml以下の、あるいは125ml以下の豆乳中に必要な濃度の大豆蛋白及びEPAを含有するものを目指すと共に、豆乳中に適量のEPA含有の精製魚油を分散溶解させた豆乳を継続して摂取させるための高脂血症の治療または予防剤として提供することを課題とする。
併せて、EPAとともに存在するDHAの生理活性にも期待できる豆乳を継続して摂取させるための高脂血症の治療または予防剤として提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を豆乳類の大豆タンパク質に対して、25%を超える量の、EPAを10%以上含有するトリグリセライドまたはエチルエステルを添加することにより解決した。
【0016】
すなわち、本発明は、豆乳の固形分が3%以上の豆乳類、より具体的には調整豆乳、豆乳飲料、酸性の豆乳、豆乳を凝固させた豆腐から選ばれる任意の豆乳類に、豆乳類の大豆タンパク質に対して、25%を超える量の、EPAを28%以上含有する精製魚油を添加して、EPA濃度が300〜720mg/100mlとし、容量100〜125mlの1容器にEPAを300〜900mg含む、容器入り豆乳類からなる、高脂血症、より具体的にはトリグリセライドのみが上昇する、コレステロールのみが上昇する、またはトリグリセライドとコレステロールの両方が上昇する、いずれの高脂血症の治療または予防のために継続して摂取させるための高脂血症の治療または予防剤を要旨としている。
【0017】
魚油が、抗酸化剤としてトコフェロールを0.5%以上添加した魚油であり、その場合、本発明は、豆乳の固形分が3%以上の豆乳類、より具体的には調整豆乳、豆乳飲料、酸性の豆乳、豆乳を凝固させた豆腐から選ばれる任意の豆乳類に、豆乳類の大豆タンパク質に対して、25%を超える量の、抗酸化剤としてトコフェロールを0.5%以上添加した、EPAを28%以上含有する精製魚油を添加して、EPA濃度が300〜720mg/100mlとし、容量100〜125mlの1容器にEPAを300〜900mg含む、容器入り豆乳類からなる、高脂血症、より具体的にはトリグリセライドのみが上昇する、コレステロールのみが上昇する、またはトリグリセライドとコレステロールの両方が上昇する、いずれの高脂血症の治療または予防のために継続して摂取させるための高脂血症の治療または予防剤を要旨としている。
【0018】
一連の工程を経て豆乳類を調製し、その後、その豆乳類に魚油を添加し、撹拌することにより製造したものであり、その場合、本発明は、一連の工程を経て豆乳類を調製し、その後、その豆乳類に魚油を添加し、撹拌することにより製造したものであり、豆乳の固形分が3%以上の豆乳類、より具体的には調整豆乳、豆乳飲料、酸性の豆乳、豆乳を凝固させた豆腐から選ばれる任意の豆乳類に、豆乳類の大豆タンパク質に対して、25%を超える量の、必要に応じ抗酸化剤としてトコフェロールを0.5%以上添加した、EPAを28%以上含有する精製魚油を添加して、EPA濃度が300〜720mg/100mlとし、容量100〜125mlの1容器にEPAを300〜900mg含む、容器入り豆乳類からなる、高脂血症、より具体的にはトリグリセライドのみが上昇する、コレステロールのみが上昇する、またはトリグリセライドとコレステロールの両方が上昇する、いずれの高脂血症の治療または予防のために継続して摂取させるための高脂血症の治療または予防剤を要旨としている。
【発明の効果】
【0019】
連日摂取することにより必要な濃度の大豆蛋白及びEPA・DHAを摂取することができる豆乳類を高脂血症の治療または予防剤として提供することができる。
原料として用いる魚油に由来する魚臭を呈することなく、味、香り及び口触り共に良好であり、EPA・DHAの保存性も良好である、EPA・DHAを良質の蛋白源である豆乳類を介して摂取することが可能となるEPA・DHAを含有する豆乳類を高脂血症の治療または予防剤として提供することができる。
さらに、製造段階において、酸素を取り込まないように窒素置換下で乳化したり、空気を取り込まないタイプの撹拌装置を使用することにより、また、第一段階の粗乳化の後、時間を置かずに第二段階の細乳化工程を行うことにより、安定なEPA・DHA高濃度含有豆乳類を高脂血症の治療または予防剤として提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に用いる豆乳類、好ましくは大豆固形分3%以上の豆乳類は、どのような方法により得た物でもよいが、大豆や脱脂大豆から常法により得られる豆乳を用いることができる。脱皮および脱胚乳した大豆を用いるほうが風味の良い豆乳が得られ好ましい。このようにして得られた豆乳はそのままで豆乳飲料として、にがり、グルコノラクトン、硫酸カルシウムなどの凝固剤を添加することによって豆腐として、あるいは乳酸醗酵して発酵豆乳(酸性の豆乳)として用いられる。すなわち、上記の豆乳類が調整豆乳、豆乳飲料、酸性の豆乳、豆乳を凝固させた豆腐から選ばれる任意の豆乳類である。
【0021】
豆乳は、例えば、丸大豆や脱皮大豆を水浸漬するか又はせずに含水状態にて磨砕して「ご」となし、これをろ過等して不溶性画分を除去して得ることができる。好適には、丸大豆、脱皮大豆又は脱皮・脱胚乳大豆を50〜100℃の温水ないし熱水に接触させて温水ないし熱水に溶出する可溶性成分を除いた後磨砕し、磨砕された「ご」をただちに遠心分離機などの固液分離装置に導き、すばやく固液分離し、不溶性画分〔固形分(おから)〕を除去したろ液(豆乳)が適当である。磨砕には、臼、ライカイ機、ミキサーなどの通常の磨砕装置が使用される。得られた豆乳は、135〜150℃、1〜120秒程度の加熱殺菌冷却することができる。
【0022】
豆乳を乳酸醗酵する場合、用いる豆乳は、大豆や脱脂大豆から常法により得られる豆乳あるいは乳酸醗酵の制御が容易となり、雑味の少ないすっきりとした製品とすることが豆乳乾燥固形分中の可溶性糖の含有量が1.0重量%以下のものを使用することが適当である。乳酸菌資化性糖類(例えば、オリゴ糖類等)は必ずしも添加する必要はないが、添加することにより乳酸醗酵を促進し風味の優れた乳酸醗酵豆乳を得ることができる。乳酸醗酵に使用する乳酸菌は、通常のヨーグルトに使用されるもの、豆乳の風味改善のために使用される公知の組み合わせの菌種であれば特に限定しない。
たとえばラクトバチルス ブルガリカス(Lactobacillusbulgaricus)、ラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス カゼイ(Lactobacillus casei)、ストレプトコッカス サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス ラクチス(Streptococcuslactis)、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属乳酸菌等の公知の菌種を用いることができる。また、これらの乳酸菌は単独や2種類以上用いることができる。
醗酵方法については、バルクスターターを作って添加することも、凍結濃縮菌や凍結乾燥濃縮菌で直接、豆乳に添加することもできる。添加量は、醗酵温度、醗酵時間で異なるが、例えば、バルクでは0.5〜15%、直接添加する場合は、初発菌濃度が105/ml以上の濃度になるように添加することができる。
【0023】
乳酸醗酵は、醗酵温度20〜50℃で3〜48時間、好ましくは25〜45℃で4〜24時間行うことができる。
醗酵装置は、通常牛乳を原料とする醗酵乳を製造するときに用いるのと同様の装置で行うことができる。
【0024】
上記工程で得た大豆固形分3%以上のろ液(豆乳)、その発酵産物である乳酸醗酵豆乳、あるいは凝固剤で固めた豆腐などに、その大豆蛋白質に対して25%を超えるEPA含有精製魚油を加え、目的とするEPA入り豆乳類を得る。
【0025】
また、ろ液(豆乳)、その発酵産物である乳酸醗酵豆乳、あるいは凝固剤で固めた豆腐などに添加する精製魚油は、EPA・DHA含有率が25%を超えるまで濃縮したものを用いると、より飲料中のEPA濃度を高めることが可能になる。
油脂が加えられた乳酸醗酵豆乳は、撹拌後、冷却し、そのまま充填してソフトタイプのヨーグルト様の乳酸醗酵豆乳とすることや、均質化後、冷却してドリンクヨーグルトタイプの醗酵豆乳とすることができる。必要に応じ、各種フレーバー、色素、安定剤を添加したり、フルーツプレパレーション等を添加して、各種フルーツタイプの製品を作ることもできる。
また、小型容器に充填した後、醗酵した乳酸醗酵豆乳は、そのまま冷却して、ハードタイプのヨーグルト様の乳酸醗酵豆乳とすることができる。この際、醗酵前に予め、各種フレーバー、色素、安定剤等を添加することは自由である。
本発明で用いるトリグリセライドとしては魚油、微生物由来の油脂などが利用でき、エチルエステルは魚油、微生物由来の油脂をエチルエステル化したもの等が利用できる。食品として利用できるものであればその由来は問わない。
【0026】
本発明で用いる魚油は、EPAを10%以上含有する魚油、好ましくはEPAとDHAを合計で25%以上含有する魚油、あるいはEPAを28%以上含有する魚油である。魚油は、精製魚油、EPAおよび/またはDHAの含有量を調整した魚油を用いる。上記の魚油として抗酸化剤としてトコフェロールを0.5%以上添加した魚油を用いることができる。
精製魚油は、イワシなどの原料魚からの魚油を一次精製工程(脱ガム→脱酸→脱色→濾過)を経て原料魚油を得、これを二次精製工程(吸着処理→蒸留→脱臭→抗酸化剤配合)を経て製造されたものである。通常の精製工程に加え、ウインタリング工程を経ることにより、EPA、DHAなど高度不飽和脂肪酸の含有量を高めることができる。
精製魚油は、EPAの1日当たりの摂取量の目安である750mg/日を達成することができるように、豆乳類に、その大豆タンパク質に対して25%を超える量を添加して用いる。機能性食品として豆乳を連日摂取するには、摂取可能な1日用量として200ml程度が限界であろうと想定し、EPAの1日当たりの摂取量を脂肪酸グリセリドの形で900mg以上として、200ml以下の、あるいは125ml以下の豆乳中に必要な濃度の大豆蛋白及びEPAを含有するものを目指すと共に、豆乳中に適量のEPA含有の精製魚油を分散溶解させ、栄養価に優れた機能性食品としての豆乳を提供する。生体内での代謝の詳細までは未解明な部分もあるところ、EPAとともに存在するDHAの生理活性にも期待することができ、EPAとDHAを合計で25%以上含有する魚油として用いる。
【0027】
[製造方法]
一連の工程を経て豆乳類を調製し、脱気した上で、魚油を添加する。その際、酸素を取り込まないように窒素置換下で乳化したり、空気を取り込まないタイプの撹拌装置を使用する。乳化は二段階の乳化が好ましく、第一段階の粗乳化の後、時間を置かずに第二段階の細乳化工程を行う。乳化後、加熱殺菌し、充填機にて容器に充填する。
【0028】
本発明の豆乳類とは豆乳を原料とする一連の商品を意味する。豆乳には生の豆乳や生の豆乳を加工した調整豆乳、豆乳飲料と称されるもの、乳酸発酵した発酵豆乳などがある。また、豆乳を原料とする豆腐やその加工品などがある。
本発明の豆乳類を含有する食品とは、もともと豆乳を原料とする食品だけでなく、一部を豆乳類で置き換えて支障のない食品あるいは、豆乳類を入れても問題が生じない食品である。それら食品に本発明の豆乳類を使用することにより、容易にEPAを含む魚油を添加することができる。一部を置換できる食品としては、牛乳、ヨーグルト、乳酸菌飲料、マーガリンなどが例示でき、豆乳を入れても問題が生じない食品としてはパン類、菓子類、ペースト、ソース類などが例示される。
【0029】
一連の工程を経て豆乳類を調整した後、高濃度の魚油を添加しても、乳化工程で酸素を取り込みにくい操作をすることで、酸化安定性を高めることができる。また、粗乳化と細乳化の2段階の乳化を間を空けず速やかに行うことにより、乳化安定性も高めることができる。この乳化方法によると、発酵豆乳などに添加する場合も発酵後の豆乳に無理なく魚油を添加することができる。
【0030】
本発明は、高脂血症の治療または予防剤としての機能性食品において、大豆固形分3%以上の豆乳類(調整豆乳、豆乳飲料、酸性の豆乳、豆乳を凝固させた豆腐など)に、その大豆蛋白質に対して25%を超えるEPA含有精製魚油を添加することによりより効果のあるEPA量を添加することが可能になる。実際EPA濃度28%の魚油を一般的な大豆固形分8%以上の豆乳に添加した場合、従来技術では、EPA約280mg/100mlの添加が限界であるが、本発明によればそれを超えるEPAを含ませることができ、日健栄協で推奨しているEPAの1日当たりの摂取量の目安である750mg/日を達成することが可能となる。
例えば、EPAを900mg/125ml含有する高脂血症用飲料、あるいは900mg/200ml含有するスポーツ用飲料を提供することができる。
ちなみに、日健栄協で推奨しているEPAの1日当たりの摂取量の目安は、750mg/日である。併せて、EPAとともに存在するDHAの生理活性にも期待することができる。
【0031】
本願発明の詳細を実施例で説明する。本願発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例で用いた油脂は、日本水産株式会社製の精製魚油であり、表1の物性で特徴付けられ、その精製魚油は、イワシなどの原料魚からの魚油を一次精製工程(脱ガム→脱酸→脱色→濾過)を経て原料魚油を得、これをウインタリング工程にかけた後、二次精製工程(吸着処理→蒸留→脱臭→抗酸化剤配合)を経て製造されたものである。
【0032】
【表1】

【実施例1】
【0033】
大豆10kgを12時間水に浸漬し、7倍の加水後磨砕する。オカラを分離後、100℃にて加熱脱臭し遠心分離後、液分を冷却し生搾り素豆乳(以下、豆乳)50リットルを得た。
このようにして得た豆乳を大豆固形分10%になるよう水で調製し、その豆乳5リットルにEPA含有魚油(EPA28%含有)を1.8%となるように添加し、以下の(1)、(2)に示すホモミキサー、ホモジナイザーを用いて撹拌しEPA含有豆乳(EPA含有0.5%)を得た。
(1)ホモミキサー(予備乳化)
メーカー:特殊機化
タイプ :15H
No. :2775
ヘッド :直径15cm
回転数 :5,000r.p.m 5分間
(2)ホモジナイザー
メーカー:SANWA機械
No. :2282
能力 :500 L/h(中型)
圧力 :150kg(一次100kg+二次50kg)二段式
【実施例2】
【0034】
実施例1と同工程を経て得た豆乳を大豆固形分10%になるよう水で調製し、その豆乳5リットルに、トコフェロール0.5%を添加したEPA28%、DHA12%の魚油を、添加し、ホモミキサー、ホモジナイザーを用いて撹拌しEPA含有豆乳(EPA含有0.5%)を得た。
【0035】
上記のように製造した豆乳をレトルトパックに無菌的に充填し、40℃にて約3週間放置した後官能テストを行ったところ魚臭の発生は認められず問題は無かった。
【実施例3】
【0036】
まず、50〜55℃に加温した水に甘味料、香料等を添加し、最後に豆乳を加える。表2の配合で中性の豆乳および酸性の豆乳それぞれについて精製魚油を添加し、密封し、常温で3ヶ月間保管した。
(2)と(3)については、1バッチ500kg(共通の調合液+魚油)とした場合の、魚油添加量。
【0037】
魚油の酸化安定性について試験した結果、いずれも良好な結果が得られ、官能的には酸性の豆乳類の方が中性の豆乳類と比べ優れていることが確認された。
【0038】
【表2】

【実施例4】
【0039】
動物試験により本発明品の血中コレステロール、トリグリセリド低下作用を検討した。
4週令のSD系雄ラットにて1群6匹の4群を設け、対照群にはコレステロールを0.5%、コール酸ナトリウムを0.25%含む基本飼料にオリーブ油を3.6%添加した飼料と水を、魚油群には基本飼料にEPAを28%、DHAを12%含む魚油を3.6%添加した飼料と水を、豆乳群には対照群と同じ飼料と豆乳を、試験群には対照群と同じ飼料と、EPAを28%、DHAを12%含む魚油を1.8%添加して調製した豆乳(本発明品)を自由摂取させ、2週間後に麻酔下心臓より採血して血漿中の総コレステロール、HDLコレステロール、トリグリセリドを測定した。結果を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
表3に示すとおり、試験群では対照群に比べ、血漿総コレステロール、トリグリセリドが明らかに減少し、また魚油群よりもわずかながら両値が低い傾向が認められた。
【実施例5】
【0042】
ヒト試験により本発明品の血中中性脂肪低下作用の予備試験を行った。
《製造工程》
乳化工程の前に予備乳化の工程を入れることにより、乳化のレベルを向上させ、より乳化安定性に優れた製品を得ることを特徴としている。工程は、豆乳を調整→脱気→予備乳化→乳化→殺菌→充填からなる。まず粒子径60−70μmになる程度に予備乳化した後、粒子径1〜5μmになる程度に本乳化する。(粒子径は島津SALD−200VERにて測定した平均粒子径)
また、EPA魚油は、高度な精製技術で精製したものを使用することにより、保存性、風味に優れた製品を作ることを可能にしている。
【0043】
1)試験内容
(1)対象者:高脂血症傾向者(30代男性『S』1名、40代男性『F』1名)
(2)期間:8週間(2ヶ月間)
(3)摂取量:EPA600mg/200ml(豆乳)を1日1回摂取(摂取時間の制限なし)
(4)備考:食事制限等の生活上の制限は一切なし
2)結果
表4:中脂肪酸値(mg/dl)『S』『F』
【0044】
【表4】

【0045】
《考察》
予備試験の結果、『S』、『F』ともに高脂血症傾向者であるが、8週間(2ヶ月間)、食事制限等の生活上の制限は一切なし条件で、1日1回、摂取時間の制限なく、EPA600mg/200ml(豆乳)を摂取するだけで、中性脂肪値について改善が見られた。
【実施例6】
【0046】
健常ボランティアを用いた臨床試験
《使用サンプル》
エイコサペンタエン酸・ドコサヘキサエン酸(以下EPA・DHA)含有精製魚油を配合した発酵豆乳(1本125ml、1本当たりEPA900mg,DHA350mg配合)を使用した。使用したサンプルの栄養組成、原料配合は表5、表6に示した通りである。発酵豆乳は不二製油株式会社製、EPA・DHA含有精製油脂は日本水産株式会社製の市販品を使用した。
《対象者》
血清トリグリセリド値が150mg/dl以上あるいは血清総コレステロール値が200mg/dl以上の健常な生活を行っているボランティア11名(平均年齢41.9±8.5歳、男11名)を対象とした。
《試験方法》
上記ボランティアに、エイコサペンタエン酸・ドコサヘキサエン酸(以下EPA・DHA)含有精製魚油を配合した飲料(1本125ml、1本当たりEPA900mg,DHA350mg配合)を1日1本、3ヶ月間飲用させ、12週間摂取前後の血清脂質の変化について検討した。
《結果》
血清総コレステロールは摂取開始時の231±31mg/dl(平均値±標準偏差、以下同じ)から12週後に211±36.4mg/dlと8.7%減少した(図1)。また、血清トリグリセライドも開始時の236.8±88.2mg/dlから12週後に156.8±56.4mg/dlへと33.8%減少した(図2)。一方、期間中問題となる副作用もなく、脱落例もなかった。これらの結果から、このEPA含有発酵豆乳は継続飲用が可能であり、血清脂質の高値者の健康管理に有用な食品であると考えられた。
【0047】
【表5】

【0048】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0049】
豆乳の固形分が3%以上の豆乳類に、豆乳類の大豆タンパク質に対して、25%を超える量の、EPAを28%以上含有する精製魚油を添加して、EPA濃度が300〜720mg/100mlとし、容量100〜125mlの1容器にEPAを300〜900mg含む、容器入り豆乳類からなる継続して摂取させるための高脂血症の治療または予防剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例6の試験における総コレステロールの推移を示す図面である。
【図2】実施例6の試験におけるトリグリセライドの推移を示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
豆乳の固形分が3%以上の豆乳類に、豆乳類の大豆タンパク質に対して、25%を超える量の、EPAを28%以上含有する精製魚油を添加して、EPA濃度が300〜720mg/100mlとし、容量100〜125mlの1容器にEPAを300〜900mg含む、容器入り豆乳類からなる継続して摂取させるための高脂血症の治療または予防剤。
【請求項2】
豆乳類が、調整豆乳、豆乳飲料、酸性の豆乳、豆乳を凝固させた豆腐から選ばれる任意
の豆乳類である請求項1に記載の高脂血症の治療または予防剤。
【請求項3】
魚油が、抗酸化剤としてトコフェロールを0.5%以上添加した魚油である請求項1または2に記載の高脂血症の治療または予防剤。
【請求項4】
一連の工程を経て豆乳類を調製し、その後、その豆乳類に魚油を添加し、撹拌すること
により製造したものである請求項1、2または3に記載の高脂血症の治療または予防剤。
【請求項5】
高脂血症が、トリグリセライドのみが上昇する、コレステロールのみが上昇する、またはトリグリセライドとコレステロールの両方が上昇する高脂血症である請求項1ないし4のいずれか一項に記載の高脂血症の治療または予防剤。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−201785(P2008−201785A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59537(P2008−59537)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【分割の表示】特願2002−540584(P2002−540584)の分割
【原出願日】平成13年11月12日(2001.11.12)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【Fターム(参考)】