説明

ER−患者におけるガンの予後判定のための方法およびツール

本発明は、表10および/または表11から選択される少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個、36個、37個、38個、39個、40個、41個、42個、43個、44個、45個、46個、47個、48個、49個、50個、55個、60個、65個、70個、75個、80個、85個、90個、95個、および、場合により、100個、105個、110個の遺伝子もしくはタンパク質、もしくはセット全体、または、これらの遺伝子によってコードされたタンパク質に対して向けられる抗体(またはその超可変部分)を含むか、または、それらからなる遺伝子セットまたはタンパク質セットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫応答が乳ガン予後の重要な役割を果たすエストロゲン受容体(ER)−患者における乳ガンの効率的な予後(prognosis(prognostic))を得るための方法およびツールに関する。
【背景技術】
【0002】
乳ガン、特に浸潤性腺管ガンは、西洋諸国では女性における最も一般的なガンである。遺伝子プロファイリングに基づくいくつかの予後的なサイン(signature)が明らかにされている。これらの異なるサインのすべてが、腫瘍細胞が増殖する能力を反映する。それらの使用により、低い増殖活性を有する腫瘍と、高い増殖活性を有する腫瘍とを識別すること、すなわち、それぞれ、低い増殖速度によって特徴づけられ、かつ、良好な予後を伴う管腔A型腫瘍と、大きい増殖速度を有し、かつ、不良な予後を伴う基底様腫瘍、ERBB2腫瘍および管腔B型腫瘍を含む別の一群とを識別することが可能である。
【0003】
いくつかの研究が、ヒト腫瘍の成長および再発を制御することにおける適応免疫応答の役割に関して実現されている。ヒト結腸直腸ガンでは、腫瘍浸潤性免疫細胞のインサイチュ分析が有益な予後的ツールとなり得ることが示された。Bates他は、乳腫瘍におけるFOXP3陽性TRの定量が、疾患の予後および進行を評価するために有益であることを示した。したがって、乳ガンの進行の引き金を引き、かつ、特定の分子的サブタイプに依存する生物学的プロセスを調べることが求められており、また、インシリコデータまたは免疫応答を調節するCD4+細胞を研究することのいずれかを使用することによって、乳ガン予後に対する免疫応答の寄与を調べることが求められている。
【0004】
CD4+細胞は、乳腫瘍の微小環境の主要な成分である白血球ファミリーに属する。CD4マーカーがヘルパーT細胞において主に発現され、また、限られたレベルながら、単球/マクロファージおよび樹状細胞において発現される。様々な免疫細胞が、とりわけ乳腫瘍では、腫瘍の成長および拡大において役割を果たしており、また、CD4+細胞が免疫応答の調節において重要な役割を果たしている。
【0005】
さらに、乳ガンの予後および管理が、様々な古典的変数によって、例えば、組織学的なタイプおよび悪性度、腫瘍サイズ、リンパ節の関与、ならびに、腫瘍のホルモン受容体(エストロゲン受容体(ER;ESR1)およびプロゲステロン受容体)およびHER−2(ERBB2)受容体の状態などによって常に影響されていることが知られている。近年では、異なる研究グループにより、臨床結果を予測するいくつかの遺伝子発現サインが特定された。これらの遺伝子発現サインのすべてに対する共通する特徴とは、それらは、主として、さらなる全身的な補助処置を必ずしも必要としない低リスクの患者のより大きい割合を特定し、一方で、高リスクの患者を依然として正しく特定することによって従来の臨床病理学的基準よりも優れていることである。それらはすべてが、同じ臨床的問題に取り組んでいるが、重なりがそのような異なる遺伝子リストの間にはほんのわずかしかないか、または、全くないことは驚くべきことであるかもしれない。このことは、それらの生物学的意味に関する疑問を生じさせている。また、乳ガンは、臨床的に不均一な疾患であることに加えて、ER(ESR1)発現、HER−2(ERBB2)発現によって主に規定されるサブグループに関しては、分子的にもまた不均一であることが繰り返し一貫して明らかにされているが、これらの異なる予後的サインは、これらの異なる分子的サブグループにおいて一度も明瞭に評価および比較されなかった。これはおそらくは、個々の研究の規模が比較的小さく、このことがこれらの発見を統計学的に不安定にしていることに起因した。
【0006】
上皮−間質相互作用が正常な乳腺発達において重要であること、および、乳ガン発生において役割を果たすことが知られている。したがって、原発性腫瘍の成長、乳ガンのサブタイプ決定および転移に関して乳腫瘍の微小環境の影響を調べることが求められている。
【0007】
したがって、ホルモン受容体(エストロゲン受容体(ER;ESR1))の状態に属しない、特定の分子的サブタイプに関与する生物学的プロセスおよび腫瘍マーカーを調べること、特に、HER−2(ERBB2)受容体の分子的サブタイプに関与する生物学的プロセスおよび腫瘍マーカーを調べることもまた求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、CD4+細胞が免疫応答の調節において重要な役割を果たしているER−の患者として特定される患者において、腫瘍(好ましくは、乳腫瘍)の診断(diagnosis(diagnostic))、特に予後を改善するために使用することができる方法およびツールを提供することを目的としている。
【0009】
本発明は、患者の予後を改善し、かつ、最新技術の欠点を示さないが、腫瘍(特に、乳腫瘍)の発達に対する素因を示すすべての患者(これは、ER−として特定される患者を意味するが、ER+の患者およびHER2+/ERBB2患者もまた意味する)の予後を提案することができる方法およびツールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ER−の患者におけるガンの予後(予後、検出、病期決定、予測、発生、攻撃性の段階、モニタリング、予測、および、場合により予防)のために使用される、哺乳動物(好ましくは、ヒト)の、免疫応答に関連する(または関連づけられる)遺伝子またはタンパク質から選択される遺伝子/タンパク質セットに関する。
【0011】
本発明者らは、哺乳動物患者の免疫応答に関連する遺伝子が、ER−患者におけるガンの特異的かつ適切な診断および予後のために使用されうることを思いがけなく発見した。
【0012】
これらの遺伝子は、ER−患者の生検に含まれる腫瘍細胞および/またはリンパ球において高度に発現される。したがって、これらの遺伝子、それらの対応するコードされたタンパク質、およびこれらのタンパク質に向けられる抗体またはその超可変部分は、ER−患者におけるこの病理の重要なマーカーとして使用されうる。
【0013】
したがって、本発明の第1の態様は、表10および/または表11から選択される少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個、36個、37個、38個、39個、40個、41個、42個、43個、44個、45個、46個、47個、48個、49個、50個、55個、60個、65個、70個、75個、80個、85個、90個、95個、および、場合により、100個、105個、110個の遺伝子もしくはタンパク質、もしくはセット全体、および、それらの対応するコードされたタンパク質に対して特異的に向けられる抗体またはその超可変部分を含むか、または、それらからなる遺伝子セットもしくはタンパク質セット(場合により、ER−の患者のガンの効率的な予後だけを対象とする、A.Teschendorff他(genome biology nr8、R157−2007)によって記載されるような1組の遺伝子のうちの1個または複数の遺伝子と組み合わせられる)に関する。
【0014】
好都合には、本発明による遺伝子セットおよびタンパク質セットは、好ましくはアレイに従って、固体担体表面に結合される遺伝子もしくはタンパク質の配列、またはそれらのコードされるタンパク質に対して向けられる抗体(またはその超可変部分)から選択された。
【0015】
本発明はまた、アレイに従って固体担体表面に場合により固定される本発明による遺伝子セット/タンパク質セットと、場合により、(遺伝子セットから選択されるこれらの遺伝子の1つまたは複数の特異的な増幅を可能にする好適なプライマーによる)リアルタイムPCR分析またはタンパク質分析のための他の手段とを含む診断キットまたは診断デバイスに関する。
【0016】
固体担体表面は、ナイロン膜、ニトロセルロース膜、ポリビニリデンジフルオリド、ガラス製スライド、ガラスビーズ、ポリスチレンプレート、ガラス担体上の膜、CD表面またはDVD表面、シリコンチップまたは金チップからなる群から選択することができる。
【0017】
好ましくは、リアルタイムPCR分析のためのこれらの所定の手段が、遺伝子セットの各遺伝子のqRT−PCR(特に、これらの遺伝子の発現分析、過剰発現または過少発現)のための手段である。
【0018】
本発明の別の態様が、本発明による遺伝子セット/タンパク質セットから選択される遺伝子/タンパク質の1つまたは複数を、腫瘍(好ましくは、乳腫瘍)の効率的な診断のために、好ましくは、予後のために、他の遺伝子/タンパク質セットから選択される他の遺伝子/タンパク質と場合により組み合わされて含むマイクロアレイに関する。
【0019】
本発明の別の態様が、下記のモジュールを含む、好ましくはコンピューター化システムであるキットまたはデバイスに関する:
・腫瘍サンプルからの遺伝子発現(またはタンパク質合成)を好ましくは本発明による遺伝子/タンパク質セットに基づいて検出するために構成されるバイオアッセイモジュール、および
・これらの遺伝子の発現(過剰発現または過少発現)(または、対応するコードされたタンパク質の合成)を計算するために、また、腫瘍サンプルについてのリスク評価(悪性腫瘍を発達させるリスク評価)をもたらすために構成されるプロセッサーモジュール。
【0020】
好ましくは、腫瘍サンプルは、対象から採取(摘出)され得る、腫瘍(好ましくは、乳腫瘍)に対する素因または感受性を示す対象から得られる任意のタイプの組織サンプルまたは細胞サンプルである。
【0021】
対象は任意の哺乳物対象が可能であり、好ましくはヒト患者が可能であり、サンプルを、乳ガン、結腸ガン、肺ガン、前立腺ガン、肝細胞ガン、胃ガン、膵臓ガン、子宮頸ガン、卵巣ガン、肝臓ガン、膀胱ガン、尿路のガン、甲状腺ガン、腎臓ガン、ガン腫、メラノーマまたは脳ガンからなる群から選択される組織から得ることができ、好ましくは、腫瘍サンプルは乳腫瘍のサンプルである。
【0022】
好都合には、本発明による遺伝子セットは、好ましくは診断キットまたは診断デバイスにおいて、他のタイプの乳ガン(HER2+、ERBB2、乳ガンタイプ)の効率的な予後のために、他の遺伝子セット/タンパク質セットから選択される他の遺伝子セット/タンパク質セット、好ましくは、表12および/または表13から選択される少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個および、場合により、40個、45個、50個、55個、60個、65個の遺伝子もしくは遺伝子/タンパク質セットのセット全体、もしくは、それらの対応するコードされたタンパク質に対して向けられる抗体およびその超可変部分を含むか、または、それらからなる他の遺伝子/タンパク質セットから選択される他の遺伝子/タンパク質と組み合わせることができる。好ましくは、これらの遺伝子は、腫瘍浸潤に関連する遺伝子である。
【0023】
本発明の別の実施形態によれば、本発明の遺伝子セットは、国際公開WO2006/119593の表3における悪性度3の腫瘍においてアップレギュレーションされた遺伝子として示される遺伝子/タンパク質から選択される少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、35個、40個、45個、50個、55個、60個、65個、70個、75個、80個、85個、90個、95個の遺伝子もしくはセット全体、もしくは、それらの対応するコードされたタンパク質に対して向けられた抗体およびその超可変領域を含むか、または、それらからなる。好ましくは、これらの遺伝子/タンパク質は、増殖に関連づけられる遺伝子/タンパク質である。
【0024】
好ましくは、遺伝子/タンパク質セットは、CCNB1、CCNA2、CDC2、CDC20、MCM2、MYBL2、KPNA2およびSTK6からなる群から選択される少なくとも遺伝子/タンパク質を含む。
【0025】
好ましくは、選択された遺伝子/タンパク質は下記の4つの遺伝子/タンパク質である:一部係属出願による米国特許出願第11/929043号に記載されるような、CCNB1、CDC2、CDC20、MCM2、または、より好ましくは、CDC2、CDC20、MYBL2およびKPNA2。これらの遺伝子/タンパク質配列が好都合には、アレイとして固体担体に結合する。
【0026】
(診断)キットまたはデバイスに存在するこれらの遺伝子/タンパク質はまた、これらの好ましい遺伝子のリアルタイムPCR分析のための手段をさらに含むことができ、好ましくは、リアルタイムPCRのためのこれらの手段はqRT−PCRのための手段であり、配列番号1〜配列番号16のプライマー配列のうちの少なくとも8個の配列を含む。
【0027】
さらに、これらの遺伝子/タンパク質セットはまた、参照用の遺伝子/タンパク質をさらに含むことができ、好ましくは、リアルタイムPCR分析のための4つの参照用遺伝子をさらに含むことができ、これらは、好ましくは、TFRC、GUS、RPLPOおよびTBPの遺伝子からなる群から選択される。
【0028】
これらの参照用遺伝子は、特異的なプライマー配列によって特定され、好ましくは、配列番号17〜配列番号24からなる群から選択されるプライマー配列によって特定される。
【0029】
この遺伝子/タンパク質セットにより、当業者はまた、遺伝子発現悪性度指数(GGI)または再発スコア(RS)を得る(計算する)ことができる。
【0030】
この前記PCT特許出願(WO2006/119593)の内容およびその一部係属出願第11/929043号は参照により本明細書中に組み込まれる。
【0031】
当業者はまた、他の予後的手段(サイン)または遺伝子/タンパク質リスト(ER−の患者およびER+の患者におけるガンの効率的な予後のために使用することができる遺伝子/タンパク質セット)を選択することができ、例えば、下記によって記載される遺伝子/タンパク質セットなどを選択することができる:
Wang他(lancet 365(9460)p.671−679(2005))、Van’t Veer他(Nature 415(6871)p.530−536(2002))、Paik他(Engl.J.Med.,351(27)p.2817−2826(2004))、Teschendorff(Genome Biol.,7(10)R101(2006))、Van De Vijver他(Engl.J.Med.347(25)p.1999−2009(2002))、Perou他(Nature,406,p747−752(2000))、Sotiriou他(PNAS 100(18)p.8414−8423(2003))、Sorlie他(STNO−The Stanford/Norway dataset PNAS,98(19)p.10869−10874(2001))、http://genome−www.stanford.edu/breast.cancer/mopo.clinical/data.shtml
ならびに、アファディン、オーロラA、a−カテニン、b−カテニン、BCL2、サイクリンD1、サイクリンE、サイトケラチン5/6、サイトケラチン8/18、E−カドヘリン、EGFR、HER2(ERBB2)、ERBB3、ERBB4、エストロゲン受容体、FGFR1、FHIT、GATA3、Ki67、ムチン1、P53、P−カドヘリン、プロゲステロン受容体、TACC1、TACC2、TACC3からなる群から選択される少なくとも1つ、2つ、3つまたはそれ以上の遺伝子またはタンパク質、および、場合により、サイトケラチン6、サイトケラチン18、Ang1、オーロラB、BCRP1、カテプシンD、CD10、CD44、CK14、Cox2、FGF2、GATA4、Hifla、MMP9、MTA1、NM23、NRGla、NRG1ベータ、P27、パーキン、PLAU、S100、SCRIBBLE、平滑筋アクチン、THBS1、TIMP1からなる群から選択される1つまたは複数の遺伝子またはタンパク質を含む国際公開WO2005/071419に記載されるような乳ガン予後において使用される発現プロファイリング用タンパク質。
【0032】
当業者はまた、国際公開WO2005/021788に記載されるような、乳腫瘍に関連する示差的遺伝子発現の分析のために使用される1つまたは複数の遺伝子を選択することができ、特に、ERBB2、GATA4、CDH15、GRB7、NR1D1、LTA、MAP2、K6、PKM1、PPARBP、PPP1R1B、RPL19、PSB3、LOC148696、NOL3、loc283849、ITGA2B、NFKBIE、PADI2、STAT3、OAS2、CDKL5、STAITGB3、MKI67、PBEF、FADS2、LOX、ITGA2、ESTA1878915/NA、JDPA、NATA、CELSR2、ESTN33243/NA、SCUBE2、ESTH29301/NA、FLJ10193、ESRAの各遺伝子の配列、および、本PCT特許出願の遺伝子セットに記載される他の遺伝子配列またはタンパク質配列を選択することができる。
【0033】
したがって、本発明によるキットまたはデバイスは、好ましくは各タイプの患者群(ER−の患者群、ER2+の患者群、および、HER2+の患者群)だけを対象とする1つ、2つ、3つまたはそれ以上の遺伝子/タンパク質セットを含む場合があり、また、乳ガンのすべてのタイプ(ER+、ER−、HER2+)の効率的な診断(予後)のためのこれらの遺伝子/タンパク質セットの1つまたは複数の遺伝子発現(またはタンパク質合成)のために構成される1つ、2つまたは3つのバイオアッセイモジュールを含むコンピューター化システムであるシステムに含めることができる。このシステムは、好都合には、本発明の選択された遺伝子セットの1つまたは複数と、この遺伝子セットの遺伝子発現を計算するために構成されるプロセッサーモジュール、好ましくは、診断に付される選択された腫瘍サンプルについてのリスク評価をもたらすための遺伝子発現悪性度指数(GGI)を計算するために構成されるプロセッサーモジュールとを含む。
【0034】
好都合には、本発明による遺伝子セットおよびタンパク質セットの分子は(直接的または間接的に)標識される。好ましくは、標識は、検出を行うための、好ましくは、免疫組織化学(IHC)分析、または、当業者によって広く知られているいずれかの他の方法による検出を行うための放射性標識、比色測定標識、酵素標識、生物発光標識、化学発光標識または蛍光標識からなる群から選択される。
【0035】
本発明はまた、下記の工程を含む、哺乳動物対象における、好ましくは、ヒト患者における、好ましくは、少なくともER−の患者におけるガンの予後のための方法に関する:腫瘍サンプル(好ましくは、乳腫瘍サンプル)を哺乳動物対象(好ましくは、ヒト患者)から採取する工程、および、腫瘍サンプルにおける遺伝子発現を、様々な配列(特に、mRNA配列)を本発明による遺伝子/タンパク質セットまたは本発明によるキットもしくはデバイスと接触させることによって測定する工程、および、場合により、この腫瘍サンプルについてのリスク評価を(好ましくは、腫瘍サンプルを、ER−のタイプに含まれる異なるサブタイプとして示し、また、場合により、ER+のタイプおよびHER2+のタイプにおいては、より高リスクであり、患者の処置療法(例えば、特定の化学療法処置または特異的に分子標的化された抗ガン治療(例えば、免疫療法またはホルモン療法など)に調節された処置療法)を必要とするとして示すことによって)もたらす工程。
【0036】
具体的には、本発明はまた、アロマターゼ阻害剤、抗エストロゲン剤、タキサン系薬剤、アントラサイクリン系薬剤、CHOPまたは他の薬物(例えば、Velcade(商標)、5−フルオロウラシル、ビンブラスチン、ゲムシタビン、メトトレキサート、ゴセレリン、イリノテカン、チオテパ、トポテカンまたはトレミフェン、抗EGFR、抗HER2/neu、抗VEGF、RTK阻害剤、抗VEGFR、GRH、抗EGFR/VEGF、HER2/neuおよびEGF−Rまたは抗HER2のような薬物)をとりわけ挙げることができるが、様々な化学療法剤および/もしくは(バイオ)医薬品および/もしくは標的化薬剤の適切な用量ならびに/またはスケジュールを選択するために有用である。
【0037】
本発明の別の態様が、ガン治療における処置された方法または活性な化合物の効率を制御するための方法に関する。実際、様々な乳ガン患者タイプにおけるガンの効率的な予後のために適用される本発明による方法およびツールはまた、このガンに罹患する哺乳動物対象(ヒト患者)に適用された処置の効率的なモニタリングのためにも使用することができる。
【0038】
したがって、本発明の別の態様が、乳腫瘍に罹患する対象(患者)の処置において使用される効率的な化合物による哺乳動物対象(ヒト患者)の処置の前(および後)に、本発明による予後方法を含む方法に関する。このことは、この方法は、前記対象(患者)が処置を受ける前での、患者に適用される(第1の)予後工程と、この処置の後での(第2の)診断工程とを必要とすることを意味する。
【0039】
より具体的には、本発明は、表10および/または表11によるCD10および/またはPLAUのサインを診断として、および/または、好適な医薬品の選択を助けるための使用に関する。
【0040】
この方法は、サンプル対象における遺伝子発現(またはタンパク質合成)の改変が処置後に得られるかを明らかにするために、処置期間中に、または、処置が終了した数週間後もしくは数ヶ月後での処置のモニタリングの期間中に、哺乳動物対象(ヒト患者)に対して数回適用することができる。
【0041】
したがって、本発明の別の態様が、腫瘍(特に、乳腫瘍)に対する抗腫瘍活性のために使用される化合物のスクリーニング方法に関する。この場合、そのような化合物の十分な量が、ガンに罹患する哺乳動物対象(好ましくは、ヒト患者)に投与され、かつ、活性な化合物が哺乳動物対象の遺伝子プロフィル(遺伝子発現またはタンパク質合成)を改変し得るかを特定するために、本発明による予後方法が、前記活性な化合物の投与の前に前記哺乳動物対象に適用され、そして、前記活性な化合物の投与の後で適用される。
【0042】
対象(患者)の遺伝子プロフィル(遺伝子発現またはタンパク質合成)における改変は、活性な化合物の投与前または投与後の得られた腫瘍サンプルが改変されており、(本発明による遺伝子/タンパク質セットによって検出可能である)サンプルにおける異なる遺伝子発現(またはタンパク質合成)をもたらすことを意味する。したがって、この方法は、活性な化合物が哺乳動物対象(特に、ヒト患者)における前記腫瘍(特に、乳腫瘍)の処置において効率的であるかを確認するために適用される。
好都合には、この方法では、この試験方法またはスクリーニング方法に付される活性な化合物は、哺乳動物対象(ヒト患者)の効率的な処置のために回収され、適用される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、中央相関(centered correlation)および平均連結を使用する、クラスター化実験のための樹状図である。
【図2】図2は、サブタイプI乳ガンの患者における転移の危険性を示す。
【図3】図3は、サブタイプI乳ガンの患者における転移の危険性を示す。
【図4】図4は、NKI2(A)、UNC(B)、VDX(C)の3例のデータセットについてのER(ESR1)モジュールスコアと、HER2(ERBB2)モジュールスコアとの間における同時分布を表す。クラスターが、3つの成分を有するガウシアン混合モデルによって確認される。示される楕円は各クラスターのガウシアンの標準偏差の多変量アナログである。
【図5】図5は、ESR−/ERBB2−、ERBB2+およびESR1+/ERBB2−の分子的サブタイプによって階層化された非処置患者についての生存曲線を表す。
【図6】図6は、非処置の乳ガン患者の、母集団(A)における、ならびに、ESR−/ERBB2−サブグループ(B)、ERBB2+サブグループ(C)およびESR1+/ERBB2−サブグループ(D)におけるlog2(一変量生存分析のハザード比(および95%CI))を示すフォレスト(forest)プロットを表す。
【図7】図7は、分子的サブグループの分析における一変量分析において有意であったモジュールスコアのカプラン−マイヤー曲線を表す。モジュールスコアがその33%分位点および66%分位点に従って分けられた。ESR−/ERBB2−サブグループにおけるSTAT1モジュール(A)、ERBB2+サブグループにおけるPLAUモジュール(B)、ERBB2+サブグループにおけるSTAT1モジュール(C)、ESR1+/ERBB2−サブグループにおけるAURKAモジュール(D)。
【図8】図8は、腫瘍浸潤モジュールスコアおよび免疫モジュールスコアの組合せについて、低いスコア、中間スコアおよび高いスコアを有する患者のERB2+サブグループについてのカプラン−マイヤー曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
CD4+細胞を調べることによる免疫応答の調査
本発明者らは、原発性浸潤性腺管ガンから単離されたCD4+細胞のプロファイリングを行っている。非管理下での階層的クラスター化アルゴリズムにより、我々は、免疫応答に関与する経路に関して異なった2つの腫瘍群を区別することができた。これらの免疫経路を考慮して、腫瘍に浸潤するCD4+細胞において示差的に発現する111個の遺伝子が特定され、それらは、乳ガンにおける以前に報告されている遺伝子サインとは実質的に異なる「CD4浸潤腫瘍サイン」(CD4ITS)と呼ばれる遺伝子サインをもたらした。公開されているデータセットに列挙される2600名を越える患者における、CD4ITSと、臨床結果との関係もまた分析した。重要な発見は、CD4ITSが、通常最も不良な予後と関連するER陰性乳ガンの患者において転移の危険性と関連したことであった。
【0045】
材料および方法
患者のサンプル。浸潤性乳管ガンの患者を研究のために募集した。どの患者も、補助的な全身治療を何ら受けていなかった。ヒト乳ガン組織を手術時に得た。
【0046】
患者データセット。合計で2641名の原発性乳ガン患者から得られる腫瘍標本のマイクロアレイ分析によって得られる9つの遺伝子発現データセットを使用した:van de Vijver(2002)、Buyse(2006)、Desmedt(2007)26、Loi(2007)、Sotiriou(2003)、Miller(2005)、Sotiriou(2006)、van’t veer(2002)10およびSorlie(2003)11からのデータセット。
【0047】
CD4+細胞の単離。CD4+細胞を乳管ガンから単離するための手法を確立した。簡単に記載すると、ガン腫サンプルを、外科用メスを使用して機械的に解離した。断片を、サンプルのサイズに依存して20分間〜60分間絶えず撹拌しながら、5%COを伴う37℃のインキュベーターで、x−vivo培地(BioWhittaker)における4型コラゲナーゼ(Worthington)の混合物とともに12ウエル培養ディッシュにおいてインキュベーションした。解離後、消化生成物を、ピストンシリンジを使用してナイロンメッシュでろ過し、x−vivoで洗浄した。CD4+細胞を、Dynal(登録商標)CD4陽性単離キットを製造者の説明書に従って使用して単一細胞懸濁物から単離した。集団の純度をフローサイトメトリーによって調べた。
【0048】
フローサイトメトリー。T CD4+細胞の単離物の品質を確認するために、CD3、CD4およびCD8の表面発現が、フローサイトメトリーによって分析された。この課題のために、細胞のアリコートのビーズを製造者の説明書に従って分離した。簡単に記載すると、5μlのそれぞれの特異的なOItestコンジュゲート化抗体(Beckman Coulter)を、50μlのHAFA緩衝液(フェノールレッド非含有のRPMI1640(BioWhittaker)、3%の不活化FBS、20mMのNaN)に再懸濁された細胞を含有する試験チューブに加えた。チューブをボルテックス撹拌し、光から保護して4℃で30分間インキュベーションした。細胞をPBSで洗浄し、2%パラホルムアルデヒドにおいて固定処理した。蛍光分析をFACSCalibur(BD Biosciences)の使用によって行った。
【0049】
リンパ球からのRNAの単離。RNAを、フェノール/クロロホルム手順をTriPure単離試薬(Roche Applied Science)とともに使用して新鮮なCD4+細胞から抽出した。簡単に記載すると、Tripure(1ml)を、CD4+細胞を含有するそれぞれのチューブに加えた。チューブをボルテックス撹拌し、クロロホルムを加えた。サンプルをPhase Lock Gel(商標)(Expenders)上に置き、15682rcfで遠心分離した。上側の水相を取り除き、新しいチューブに入れた。イソプロパノールおよびグリコーゲンを加え、その後、チューブを遠心分離して、RNAを沈殿させた。RNAペレットを75%エタノールで2回洗浄し、Speedvackを使用して乾燥し、ヌクレアーゼ非含有の水に再懸濁した。RNAの量および品質を、NanodropおよびAgilent Capile Systemを使用してそれぞれ求めた。
【0050】
遺伝子発現分析。10個の、患者の乳ガンを、良好な品質のRNAの十分な量とともに、原発性腫瘍に浸潤する精製されたCD4+細胞から単離した。マイクロアレイ分析を、Affymetrix U133Plus Genechips(Affymetrix)を用いて行った。RNAの2サイクルの増幅、ハイブリダイゼーションおよび走査を標準的なAffymetrixプロトコルに従って行った。画像分析およびプローブ定量を、処理されていない生のプローブ強度データをAffymetrix CELファイルにもたらしたAffymetrixソフトウエアを用いて行った。プログラムRMAを使用して、データを正規化した。
【0051】
統計学的分析。浸潤性腺管ガンから単離されたCD4+細胞の10の発現プロフィルを考慮して、非管理下での階層的クラスター化を確立した。BioCarta経路に基づいて、クラスター間の差を分析した。免疫応答に関連づけられる経路に関与し、かつ、発現レベルにおける有意な差をもたらす遺伝子を選択して、CD4ITSを構成した。CD4ITS指数(CD4ITSI)と呼ばれるスコアを導入して、免疫反応に関連づけられる発現プロフィルと、臨床結果との間における類似性をまとめた。CD4ITSを構成する遺伝子を考慮して、CD4ITSIは、ダウンレギュレーションを受けた遺伝子における遺伝子発現の符号つき平均の和から引かれた、アップレギュレーションを受けた遺伝子における遺伝子発現の符号つき平均の和として定義された。その後、このスコアが、データセットに示されるそれぞれの患者について計算された(n=2641)。データセットは全体で利用されたか、または、患者の腫瘍の異なるサブタイプ、および/もしくは、何らかの治療の施与(非施与)を区別して利用された。コックス比例ハザード法の使用による再発の一変量分析および多変量分析をSPSS(バージョン15.0)で行った。時間に沿った全体の無転移生存率を推定するために、カプラン−マイヤー法を使用した。この課題において、考慮された患者データは、その後、スコアが大きくなる順に並び替えられ、カットオフ点を、患者を2つのグループに分けた75パーセンタイルで定義した。低スコアの患者および高スコアの患者がグループ1およびグループ2にそれぞれ割り当てられた。結果を生存曲線で例示した。
【0052】
結果−腫瘍浸潤CD4+細胞の発現プロフィルがER状態に従って異なる。
マイクロアレイ技術を使用して、10個の乳ガン(すなわち、5個のER+および5個のER−)から単離されたCD4+細胞の遺伝子プロフィルを確立した。これらのプロフィルに関して、非管理下でのクラスター化により、2つの大きなクラスターが明らかにされた(図1を参照のこと)。興味深いことに、これらの2つのクラスターは実際には腫瘍のER状態に対応する。これらのクラスターは、異なるクラスター化法(中心化連結、非中心化連結、完全化連結または平均連結)を使用しても、非常に安定的かつ再現的であった。
【0053】
CD4+(Th1/Th2)の局在化−CD4+浸潤腫瘍サイン(CD4ITS)の生成。
細胞経路を考慮して、乳腫瘍に浸潤するCD4+細胞の発現プロフィルを分割する2つの主要なクラスターの間における差を調べた。これら2つのクラスターの間で異なった37の統計学的に有意な経路が存在した。興味深いことに、そのような経路のうちの31が免疫反応と関連した(表1を参照のこと)。

表1は、CD4ITSサインに含まれる遺伝子の分類を表す。
「CD4+浸潤腫瘍サイン」(CD4ITS)と呼ばれる遺伝的サインが確立された。この課題に近づくために、有意な差(0.05未満のp値)に基づいてこれら31の免疫経路に関与する遺伝子を選択した。

表2は、基準に従って選択され、かつCD4ITSを構成する108個の遺伝子を表す。
【0054】
乳ガンにおけるCD4ITSおよび結果。CD4ITS指数(CD4ITSI)を、患者および方法の節で記載される式を使用して公的に利用できる乳ガンデータベースにおけるそれぞれの患者について計算した。この指数を、コックス比例ハザードモデルをいくつかデータセットにおいて使用する時間無再発生存分析において臨床結果とのその関連について検定した(n=2641)(結果について、表3を参照のこと)。

この全データセットを考慮して、低い相関が、CD4ITSIと、臨床結果との間において明らかにされ、ハザード比が0.909であった(95%CI、0.840〜0.984;P=0.018)。この結果を考慮して、乳ガンの3つのサブタイプ、すなわち、ESR1− ERBB2−(サブタイプ1または「基底様」)、ERBB2+(サブタイプ2)、および、ESR1+ ERBB2−(サブタイプ3または「管腔」)が、サンプルをこれらのサブタイプに基づいて識別するために区別された。結果は、強い統計学的に有意な相関を、サブタイプ1の乳ガンに関して、CD4ISIと、臨床結果との間において示し、ハザード比が0.733であった(95%CI、0.620〜0.867;P=0.000)。類似した相関が、よりわずかな影響を伴ったが、サブタイプ2に関して示され、ハザード比が0.790であった(95%CI、0.635〜0.982;P=0.033)。相関がサブタイプ3に関しては何ら示されず、ハザード比が0.920であった(95%CI、0.812〜1.042;P=0.187)。
【0055】
さらなる調査をサブタイプ1型乳ガンの患者の間で行うために、また、時間無再発生存を推定するために、カプラン−マイヤー法を使用した。この課題において、患者が、患者および方法の節で記載されるようにCD4ITSに従って階層化された。推定される全体の5年無転移生存率が57.7%(CD4ITSI<75パーセンタイル)および81.8%(CD4ITSI≧75パーセンタイル)であった(図2を参照のこと)。
【0056】
サブタイプ1型乳ガンの処置された患者および非処置の患者に対するCD4ISの予後的値を調べた。CD4ITSの予後的値は、0.673のハザード比(95%CI、0.512〜0.884;P=0.004)を有する処置患者の方が、0.792のハザード比(95%CI、0.638〜0.983;P=0.034)を有する非処置患者よりも強かった(表4を参照のこと)。

カプラン−マイヤー法を上記のように行い、処置患者および非処置患者の間での推定される全体の5年無転移生存率がそれぞれ、48.7%(CD4ITSI<75パーセンタイル)および81.5%(CD4ITSI≧75パーセンタイル);60.9%(CD4ITSI<75パーセンタイル)および81.25%(CD4ITSI≧75パーセンタイル)であった(図3を参照のこと)。
【0057】
CD4ITSおよび他の予後的サイン。サインのロバスト性を推定するために、本発明に従って、本発明者らは、サブタイプ1型乳ガンの処置患者および/または非処置患者に関して、CD4ITSを、発表されている予測的サインに対して、すなわち、Wound12、IGS13、Oncotype14、GGI、Gene70、Gene7615に対して比較している。コックス比例ハザードモデルは、CD4ITSが、0.733のハザード比(95%CI、0.620〜0.867;P=0.000)を有するサブタイプ1型乳ガンの患者の中で統計学的に有意な予測値を有した特有なサインであったことを示した。処置患者および非処置患者を識別すると、CD4ITSの排他的妥当性が処置患者の間で強く保たれる。
【0058】
インシリコ分析による免疫応答および腫瘍浸潤の調査
材料および方法
遺伝子発現データ
遺伝子発現データセットを公開のデータベースまたは著者らのウエブサイトから検索した。本発明者らは、最初の研究によって発表されるような正規化されたデータ(log2(1チャンネルプラットフォームでの強度)またはlog2(2チャンネルプラットフォームでの比率))を使用している。遺伝子発現データの処理は、この研究のメタ分析的枠組みのために何ら必要なかった。
【0059】
プローブの注釈およびマッピング
ハイブリダイゼーションプローブを、RefSeqのバージョン21(2007.01.21)およびEntrezデータベースのバージョン2007.01.21を使用して、Shi他[20]による方法と同様に、(NM)サブセットにおけるRefSeq mRNAに対する配列アラインメントによりEntrez GeneID[19]にマッピングした。多数のプローブを同じGeneIDにマッピングしたとき、特定のデータセットにおいて最も大きい不一致を有するプローブを、そのGeneIDを表すために選択した。
【0060】
プロトタイプに基づく共発現モジュール
本発明者らは、1組のプロトタイプ、すなわち、乳ガン(BC)において様々な特定の生物学的プロセスに関連づけられることが知られている遺伝子を考慮しており、また、それらのそれぞれとともに特異的に共発現するそのような遺伝子を特定することを目的としている。この目的を達成するために、本発明者らは、それぞれの遺伝子について、直接的関連および複合的関連をコンピューター計算した。直接的関連は、遺伝子iと、それぞれのプロトタイプjとの間における線形相関として個々に定義され、これに対して、複合的関連は、遺伝子iと、特徴選択(直交Gram−Schmidt特徴選択[21])によって特定されるような、プロトタイプの最も良好な線形組合せとの間における線形相関として定義される。遺伝子iについて得られる直接的関連および複合的関連のすべてを考慮して、フリードマン検定を、有意に非常に高い関連を特定するために使用した。(プロトタイプjとの)1つだけの直接的関連が残された場合には、遺伝子iがモジュールjに割り当てられ、プロトタイプjに対して「特異的」であるとして留意された。対照的に、最も高い関連が多変量関連またはいくつかの直接的関連を含んでいた場合、遺伝子iはどのモジュールjにも割り当てられず、最も高い関連に関与するすべてのプロトタイプに「関連づけられる」として留意された。相関に対する閾値によって、どのプロトタイプにも相関しなかった遺伝子を棄却することが可能となった。この方法はメタ分析的枠組みにおいて適用され、NKI2データセット(4)およびVDXデータセット(16)からの結果を組み合わせた(581名の患者、表5を参照のこと)。表5は、公表されている遺伝子発現データセットの特徴を表す。一部のサンプルがいくつかの研究において使用されていることに留意すること。下記の研究idはサンプルを共通して有する:NKI/NKI2およびUPP/STK/UNT/TBAGD/TBVDX/TAM。すべての分析のために、本発明者らは、重複した患者を小さいデータセット(例えば、NKI)から除いて、大きいデータセット(例えば、NKI2)のサンプルサイズが小さくなることを避けた。

全手順が補足図1に概略的に示される。1つの特定のプロトタイプとともに共発現する遺伝子を特定するために、本発明者らは、NKI2データセットおよびVDXデータセットに由来する581名の患者のデータセットを使用した。最初に、本発明者らは、Affymetrixプラットフォームと、Agilentプラットフォームとの間における遺伝子の共通部分のみを、上記のようなマッピング手順(プローブの注釈およびマッピングの節を参照のこと)を適用した後で考慮した。本発明者らは下記では、NKI2およびVDXの縮小されたデータセットをこの共通部分の遺伝子発現として示す。下記の手順(これは補足図1に概略的に示される)がNKI2およびVDXの縮小されたデータセットの各遺伝子について行われる:
1 すべての一変量線形モデルを、NKI2およびVDXの縮小されたデータセットにおいて、プロトタイプを説明変数として、遺伝子iを応答変数として使用してフィッティングし、これにより、7対の一変量線形モデルを得た。
2 これら2つのプラットフォームの間での係数推定値におけるばらつきがサンプリング誤差だけに起因するかどうかを調べるために、本発明者らは、各対の係数についての不均一性のストリンジェントな検定[Cochrane、1954;25]を適用した。少なくとも1つの係数が不均一である場合(p値<0.01)、遺伝子iはさらなる分析については棄却された。
3 本発明者らは、遺伝子iが1つだけのプロトタイプによって予測可能であるかを確認するために、すなわち、1つのモデルがそれ以外の候補のすべてよりも有意に良好であるかを確認するために1組の線形モデルを比較した。そうするために、本発明者らは、リーブワンアウト交差検定(LOOCV)誤差を効率的にコンピューター計算するためにPRESS統計学[Allen、1974;22]を使用し、2つのモデルをLOOCV誤差のそれらのベクトルに基づいて比較した。フリードマン検定を使用して、NKI2およびVDXの縮小されたデータセットについての1組の最も良好なモデルを別個に確認した。それぞれの比較のために、2つのp値を、Z変換法[Whitlock、2005]を使用してメタ分析的に組み合わせた。組み合わされたp値が0.05未満であった場合、モデルは、別のモデルよりも著しく良好であると見なされた。コンピューター計算の限界のために、本発明者らは、遺伝子iを予測するためのプロトタイプの可能なすべての組合せを調べることができなかった。対応する多変量線形モデルの平均二乗LOOCV誤差に関する最も良好な1組のプロトタイプのみが、直交Gram−Schmidt特徴選択を使用して確認された[Chen他、1989;21]。この多変量モデルをその1組の一変量モデルに加えて使用した。
4 本発明者らは、1組の最も良好なモデルを検討することによって、1つのプロトタイプに対する遺伝子iの特異性を調べた。1つの一変量モデルだけがこの1組に属した場合、それは、プロトタイプjのみを使用するモデルが、他のプロトタイプに関するモデルのすべてよりも有意に良好であることを意味した。加えて、多変量モデルが、1組の最も良好なモデルに属した場合、それは、この多変量モデルが、プロトタイプjに関するモデルよりも有意に良好でないことを意味した。
5 遺伝子iを、プロトタイプjに対して特異的であることを確認し、モジュールj(これはまた、遺伝子リストjと呼ばれる)に含めた。
モジュールのサイズを小さくするために、本発明者らは、正規化された平均二乗LOOCV誤差に対する0.95の閾値を使用して、特異的な遺伝子を選別した。

【0061】
モジュールスコア
特異的なデータセットについて、モジュールスコアを、

(式中、xは、データセットのプラットフォームに存在するモジュールにおける遺伝子の発現である。wは、プロトタイプとの関連の符号に依存して、+1または−1のどちらかである。)
として、それぞれのサンプルについてコンピューター計算した。ロバストな尺度化を、1に等しい四分位数間範囲と、0に等しいメジアンとをそれぞれのデータセット内において有するようにそれぞれのモジュールスコアに対して行い、これにより、モジュールスコア間の比較を可能にした。
【0062】
遺伝子オントロジーおよび機能的分析
遺伝子オントロジー分析を、Ingenuity Pathways Analysisツール(Ingenuity Systems、Mountain View、CA、www.ingenuity.com)(遺伝子発現データにおける分子相互作用ネットワークの発見、可視化および調査を可能にするウエブ配信アプリケーション)を使用して実施した。HUGO遺伝子記号、同様にまた、正または負の共発現の目安を含有する、異なるプロトタイプと特異的に関連することが確認された遺伝子の様々なリストが、Ingenuity経路分析にアップロードされ、Ingenuity経路知識ベースに保存される機能的注釈と相関された。
【0063】
クラスター化
異なるデータセットにまたがる分子的サブグループを矛盾なく特定するために、本発明者らは、等しい対角分散をすべてのクラスターについて有するガウス混合モデル[23]にフィッティングすることによって、ER(ESR1)モジュールスコアおよびHER2(ERBB2)モジュールスコアを使用して腫瘍をクラスター化した。本発明者らは、成分の数を調べるためにベイズ情報量基準[24]を使用している。それぞれの腫瘍が、クラスターにおける構成要素の最大事後確率を使用して特定された分子的サブグループの1つに自動的に分類された。
【0064】
関連分析
本発明者らは、ピアソン相関係数を使用してモジュールスコアのペアワイズ相関を推定している。それぞれの相関係数をそれぞれのデータセットについて個々に推定し、母数モデルによる分散逆数重み付け(inverse variance−weighted)法[25]と組み合わせた。加えて、本発明者らは、モジュールスコアと、サブタイプとの間における関連を、クルスカル−ウォリス検定を使用して検定している。本発明者らは、モジュールスコアと、臨床的変数との間における関連を、ウィルコクスン順位和検定を使用して検定している。それぞれの統計学的検定をそれぞれのデータセットについて個々に適用し、p値を、母数モデルによる逆正規(inverse normal)法[29]を使用して組み合わせた。これらの関連分析を母集団および種々の分子的サブグループの両方において行った。
【0065】
生存分析
本発明者らは、非処置患者の無再発生存(RFS)を生存の終点と見なしている。RFSを得ることができなかったとき、本発明者らは無遠隔転移生存(DMFS)データを使用している。生存データのすべてが10年で打ち切られた。生存曲線はカプラン−マイヤー推定値に基づいており、グリーンウッド法が、95%信頼区間をコンピューター計算するために用いられた。2つまたは3つのグループ(サブタイプおよび3元モジュールスコア)の間におけるハザード比が、データセットを層指標として用いるコックス回帰を使用して計算され、したがって、これにより、コホート間における異なる基準ハザード関数が考慮された。臨床的変数およびモジュールスコアについては、ハザード比をそれぞれのデータセットについて個々に推定し、母数モデルによる分散逆数重み付け法[25]と組み合わせた。本発明者らは、最も良好な多変数コックスモデルを特定するためにメタ分析的枠組みにおいて段階的増加特徴選択を使用している。新しい特徴(変数)の包含のための、また、以前に選択された特徴(変数)の排除のために組み合わせたp値(ハザード比についてのワルド検定)に関する有意性閾値が0.05に設定された。
【0066】
予後的遺伝子サインの適用
プラットフォーム間のマッピングが必要であったとき、本発明者らは、GeneIDにマッピングされ得るサインにおける遺伝子を考慮しているだけである。予測スコアを、上記のモジュールスコアについての式に類似する線形結合を使用してそれぞれのサインについてコンピューター計算した。最初の研究からの遺伝子特異的な重み(係数、相関または他の尺度)を、各遺伝子の元々のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションに依存して、+1または−1で変換した。以前に発表されている遺伝子分類子についてのこのコンピューター計算法は、最初のデータセットに対する正式の分類と比較して非常に類似した結果を与え、また、異なるマイクロアレイプラットフォームでの遺伝子サインの適用を可能にした。ロバストな尺度化を、1に等しい四分位数間範囲と、0に等しいメジアンとをそれぞれのデータセット内において有するようにそれぞれの遺伝子サインに対して行って、異なる遺伝子サインの間における比較を可能にした。
【0067】
結果
乳ガンの分子モジュールの明確化
分子モジュールを明らかにするために、本発明者らは、最初に、それぞれの生物学的プロセスについて「プロトタイプ」として作用するための典型的な遺伝子を文献に基づいて選択し、その後、乳ガンにおける種々の生物学的プロセスの根底にあるプロトタイプ遺伝子のそれぞれと特異的に関連する遺伝子のモジュールを作製するために線形モデルの比較を適用している(方法を参照のこと)。選択されたプロトタイプ遺伝子は、AURKA(STK6、7または15として知られている)、PLAU(uPAとして知られている)、STAT1、VEGF、CASP3、ER(ESR1)およびHER2(ERBB2)であった。これらは、増殖、腫瘍浸潤/転移、免疫応答、血管形成、アポトーシスの各表現型、ならびに、ER(ESR1)およびHER2のシグナル伝達をそれぞれ表す。
【0068】
多数のマイクロアレイプラットフォームおよび異なる乳ガン集団にわたって十分に機能する遺伝子を特定するために、本発明者らは、AgilentアレイおよびAffymetrixアレイにおいてそれぞれハイブリダイゼーションしたvan de Vijverらのシリーズ[4]およびWangらのシリーズ[16]に含まれる581名の乳腫瘍サンプルのデータセットを分析することによってこれらの分子モジュールを定義している。それぞれのモジュールスコアが、選ばれたプロトタイプだけについて、正に相関する遺伝子の和および負に相関する遺伝子の和の差によって定義された。遺伝子が2つ以上のプロトタイプと相関した場合、その遺伝子はどのモジュールにも含まれなかった。遺伝子のこれらのリストが補足表1として利用可能である(下記参照)。本発明者らは、その後、合計で2100を越える腫瘍サンプルを含むいくつかの発表されたマイクロアレイデータセットに関してこれらのモジュールスコアのそれぞれをマッピングし、コンピューター計算した(表5を参照のこと)。
これらの分子モジュールの主要な特徴は、それらが、AgilentマイクロアレイプラットフォームおよびAffymetrixマイクロアレイプラットフォームを使用するデータセットにおける選ばれたプロトタイプと一貫して共発現される遺伝子として特定されることであり、また、それらが、臨床的変数および遺伝子注釈を調べることなく特定されることである。
【0069】
分子モジュールに含まれる遺伝子の特徴づけ
分子モジュールを表す遺伝子の7つのリストが、それらの符号と一緒に、機能的注釈の分析のためにIngenuity経路知識データベース(IPKB)にアップロードされた。
【0070】
ER(ESR1)モジュールは469個の遺伝子から構成され、そして、予想されるように、以前のマイクロアレイ研究によって既に報告されているいくつかの管腔遺伝子および基礎的遺伝子(例えば、XBP1、TFF1、TFF3、MYB、GATA3、PGRおよびいくつかのケラチンなど)の共発現によって特徴づけられた。情報が、これらの遺伝子のうちの326個についてはIPKBに見出され、139個が特定の機能(例えば、小分子の生化学、ガン関連の機能、脂質代謝、細胞の運動、細胞の成長および増殖または細胞死など)と有意に関連した。HER2(ERBB2)モジュールは28個の遺伝子を含み、それらのほぼ半数が17q11−22アンプリコンに同一に存在した(例えば、THRA、ITGA3およびPNMTなど)。16個を機能的分析のために使用することができ、15個が下記のオントロジークラスと有意に関連した:ガン関連の機能、細胞間のシグナル伝達、細胞の成長および増殖、分子輸送、ならびに、細胞形態学。増殖モジュール(AURKA)は229個の遺伝子を含み、それらのうちの34個が、以前に報告されたゲノム悪性度指数において示された。143個の遺伝子がIPKBと一致し、それらのうち93個が特定の機能と有意に関連した。予想されるように、これらの遺伝子の大多数、例えば、CCNB1、CCNB2、BIRC5などが、細胞の成長および増殖、ガンおよび細胞周期に関連づけられる機能に関与した。腫瘍浸潤/転移モジュール(PLAU)は、中でもいくつかのメタロプロテイナーゼとともに68個の遺伝子を含んでいた。IPKBをマッピングした55個のうち、46個が様々な機能(例えば、細胞の運動、組織の発達、細胞の発達およびガン関連の機能など)と有意に関連した。免疫応答モジュール(STAT1)は95個の遺伝子を含み、それらのうちの82個に対して行われた機能的分析により、大多数が免疫応答と関連し、その後に、細胞の成長および増殖、細胞シグナル伝達、ならびに、細胞死が続くことが明らかにされた。血管形成モジュール(VEGF)は、ガン、遺伝子発現、脂質代謝および小分子生化学と関連づけられる10個の遺伝子を含み、最後に、アポトーシスモジュール(CASP3)は、タンパク質の合成および分解、ならびに、細胞の組み立ておよび運動と主に関連する9個の遺伝子を含んでいた。
【0071】
これらのプロトタイプのすべてについて、それぞれのプロトタイプに関連づけられる遺伝子のリストは、他のプロトタイプとの相関を考慮に入れて所与のプロトタイプに特異的に関連する遺伝子を表す、ここで示されるリストよりもはるかに長かったことは注目に値する(表6)。

表6は、それぞれのプロトタイプと関連する遺伝子の数を表す。
これらの数字は、所与のプロトタイプと関連づけられる遺伝子の数を表す。すなわち、これらの遺伝子はまた、別のプロトタイプと関連する場合がある。
**これらの数字は、所与のプロトタイプと特異的に関連する遺伝子の数を表す。このことは、これらの遺伝子はこのプロトタイプに関連するだけであり、他のプロトタイプには関連しないことを意味する。
例えば、ケモカインIL8(これは、血管新生促進作用を有することが報告されている)の発現が実際に、VEGFの発現と関連した。しかしながら、その発現はまた、PLAUの発現とも相関したので、これはどのモジュールにも含まれなかった。アポトーシスに関連づけられる遺伝子のBCL2A1、BIRC3、CD2およびCD69は、それらの発現はまたER(ESR1)とも関連したので、アポトーシスモジュールに組み込まれなかった。また、さらなるメタロプロテアーゼがPLAUと関連することが見出され(例えば、MMP1およびMP9など)たが、それらの発現レベルはまた、ER(ESR1)およびSTAT1とも相関したので、浸潤モジュールには含まれなかった。このことは、異なる生物学的プロセスがほぼ確実に、相互に連絡していることを示す。しかし、ここで、本発明者らは、乳ガンの生物学および予後に対するそれらの個々の影響をより良く示すために、それらを「特異的」にすることを望んだ。
【0072】
異なるモジュールに含まれる遺伝子の発現値がさらなる分析のためにモジュールスコアにまとめられた(コンピューター計算に関する詳細については、方法における「モジュールスコア」の節を参照のこと)。
【0073】
ESR1−/ERBB2−、ESR1+/ERBB2−およびERBB2+の分子的サブグループの特定および特徴づけ
本発明者らは、母集団に対する分析、しかもER(ESR1)モジュールおよびHER2モジュールに基づく異なるサブグループにおいても分析を行うことを望んだので、これらの3つの分子的サブグループを定義する必要があった。この目的を達成するために、本発明者らは、ESR1−の患者がいないこと、および、プローブの数が少ないことにそれぞれ起因してMGHデータセットおよびVDX2/TBAGDデータセットを除いて、異なるデータセットにおいて3つの患者群を矛盾なく特定するクラスター化法を使用した。NKI2コホート、VDXコホートおよびUNCコホートについてのクラスターが、一例として図4に示される。
【0074】
分子的サブグループ毎の臨床病理学的特徴を表7に例示する。

表7は、生存分析のために考慮された非処置の乳ガン患者について分子的サブグループ毎の臨床病理学的特徴を表す。予想されるように、ESR1−/ERBB2−サブグループおよびESR1+/ERBB2−サブグループにおける腫瘍の圧倒的多数は、ER(ESR1)タンパク質状態についてそれぞれ陰性および陽性であった。これに反して、ERBB2+サブグループは、ER(ESR1)タンパク質状態に関して腫瘍の混合物によって構成された。これら3つの分子的サブグループの生存曲線をこのメタ分析の非処置患者のすべてにわたって比較したとき、本発明者らは、他者[27〜31]によって既に報告されているように、分子的サブグループの間における差を認めた。実際、ESR1+/ERBB2−から得られる生存曲線はそれ以外の2つとは著しく異なっていた(ESR1−/ERBB2−についてはp=0.03、ERBB2+についてはp=0.003)。しかしながら、生存における差が、ESR1−/ERBB2−サブグループと、ERBB2+サブグループとの間において何ら認められなかった(p=0.56;図5を参照のこと)。
【0075】
臨床病理学的パラメーターと、分子モジュールスコアとの間における関連
2180名の患者についての情報を調査することを、本発明者らは、異なるモジュールスコアの間に何らかの関連が存在したかどうかを調べることによって開始した。1つの興味深い発見が、例えば、一方では増殖モジュールスコアと、他方では血管形成モジュールスコアおよび腫瘍浸潤モジュールスコアとの間における正の相関および負の相関であった。これらの関連は、異なる分子的サブグループの全体を通して保存され、最も高い相関がESR1−/ERBB2−サブグループにおいて認められた。すべての結果を補足表2(下記を参照のこと)に示す。
補足表2は下記の4つの表を示す:母集団からの2180名の処置された乳ガン患者および非処の置乳ガン患者(A)、ESR1−/ERBB2サブグループからの319名のガン患者(B)、ERBB2+サブグループからの252名の患者(C)、ならびに、ESR1+/ERBB2−サブグループからの1610名の患者(D)のモジュールスコアの間におけるペアワイズ−ピアソン相関係数のメタ推定量。
【0076】
本発明者らはさらに、モジュールスコアと、十分に確立された臨床病理学的パラメーター(例えば、年齢、腫瘍サイズ、節の状態、組織学的悪性度、および、免疫組織化学(IHC)またはリガンド結合アッセイのどちらかによって定義されるER(ESR1)状態など)との間における関連を特徴づけようと努めた。意味のある関連が見出され、これにより、モジュールスコアの妥当性が立証された。例えば、非常に有意な関連が、ER(ESR1)/増殖モジュールスコアと、ER(ESR1)タンパク質状態/組織学的悪性度との間において認められた。本発明者らはまた、それほど知られていない関連または新しい関連(例えば、組織学的悪性度モジュール値と、血管形成モジュール値との間における関連、免疫応答モジュール値と、アポトーシスモジュール値との間における関連など)を認めた。同じ関連がまた、節の関与について報告された。しかしながら、本発明者らは、浸潤モジュール値と、臨床病理学的マーカーとの間には関連を何ら認めなかった。これらの関連を異なる分子的サブグループにおいて調べたとき、本発明者らは、類似した関連をESR1+/ERBB2−サブグループにおいて見出した。この場合、1つの大きな違いが、母集団では認められなかった、ERBB2モジュールスコアと、組織学的悪性度との間における非常に有意な相関であった。これに反して、あまり有意でない関連がそれ以外の2つサブグループにおいて報告された。これらの結果を補足表3(下記を参照のこと)にまとめる。
補足表3は下記の4つの表を示す:母集団(A)、ESR1−/ERBB2サブグループ(B)、ERBB2+サブグループ(C)およびESR1+/ERBB2−サブグループ(D)についての、モジュールスコアと、臨床病理学的パラメーターとの間における関連。「+」符号は変数間における正の関連を表し、p値が0.01〜0.05の間に含まれる場合には(+)であり、0.01〜0.001の間に含まれる場合には(++)であり、0.001未満の場合には(+++)である。「−」符号は変数間における負の関連を表し、p値が0.01〜0.05の間に含まれる場合には(−)であり、0.01〜0.001の間に含まれる場合には(−−)である。
【0077】
分子モジュール、臨床病理学的パラメーターおよび予後
これらのモジュールスコアの予後値を疾患の自然史に関連して評価するために、本発明者らは、1235個の腫瘍サンプルを含む非処置の乳ガン患者のみを考慮した。その目的のために、本発明者らは、十分に確立された臨床病理学的変数、同様にまた、本研究において定義される分子モジュールを含む7.4年の平均追跡調査とともに、全身的に処置されていない患者に対する無再発生存についての一変量分析および多変量分析の両方を行った。これらの分析は、これらの3つのサブグループの患者の経時的な生存における違いを考慮に入れるために分子的サブグループに従って階層化された(図5を参照のこと)。
【0078】
一変量モデルにおいて、ほとんどすべての「十分に確立された」臨床病理学的パラメーター、すなわち、腫瘍サイズ、組織学的悪性度および節浸潤が、臨床結果と有意に関連した。分子モジュールの中で、増殖、血管形成および免疫応答はまた、無再発生存との統計学的に有意な関連を示した。節の関与を伴う患者の割合が少ないこと(6.7%、1225個中83個)を考えると、節の状態についての生存分析の結果は、注意して解釈しなければならない。この一変量分析の結果を図6に例示し、補足表4(下記を参照のこと)においてより詳しく示す。
補足表4は、非処置の乳ガン患者の分子的サブグループ毎の異なる遺伝子分類子の一変量分析に対応する。すべてのサインがここでは、連続変数であると見なされる。GENE70=70遺伝子のサイン[10、4];GENE76=76遺伝子のサイン[16、17];P53=p53のサイン[8];WOUND=傷害応答サイン[12、18];GGI=ゲノム悪性度指数[9];ONCOTYPE=21遺伝子の再発スコア[14];IGS:186遺伝子の「浸潤性」遺伝子サイン[13]。
【0079】
多変量分析(n=775)において、増殖[HR=2.48(1.88〜3.28)、p=2×10−10]、腫瘍浸潤[1.41(1.16〜1.72)、p=7×10−4]、免疫応答[HR=0.72(0.59〜0.87)、p=6×10−4]、アポトーシス[HR=1.18(1.00〜1.38)、p=0.05]、組織学的悪性度[HR=1.80(1.12〜2.88)、p=0.02]が無再発生存(RFS)と有意に関連し、増殖モジュールが分子モジュールの中で最も大きいHRおよび最も有意なp値を示した。
【0080】
本発明者らがプロトタイプ遺伝子だけを考慮したとき、成績は、それらのそれぞれのモジュールと比較してそれほど顕著ではなかった。このことは、共発現した遺伝子をモジュールスコアに平均化することは、1つだけの遺伝子の発現レベルよりも安定しており、また、プラットフォーム間の比較に対する依存性が低いことを示唆している。
【0081】
ESR1−/ESR2−、ESR1+/ERBB2−およびERBB2+の分子的サブグループにおける分子モジュールスコア、臨床病理学的パラメーターおよび予後
モジュールおよび臨床病理学的パラメーターの予後値を上記で定義した分子的サブグループに従って調べたとき、我々は、高リスクのESR1−/ERBB2−のサブ集団(n=189)において、免疫応答モジュールのみが一変量分析および多変量分析の両方で臨床結果との有意な関連を示したことを確認した[HR=0.70(0.50〜0.98)、p=0.04](図6〜図7、および補足表4)。
【0082】
興味深いことに、ほとんどすべてのER(ESR1)陰性腫瘍が高い増殖モジュールスコアを示したので、増殖モジュールはその有意性を失っていた。
【0083】
ESR1+/ERBB2−のサブ集団(n=531)において、年齢、腫瘍サイズおよび組織学的悪性度が、HER2(ERBB2)モジュール、増殖モジュールおよび血管形成モジュールとともに、RFSと関連した。多変量分析において、増殖モジュール[HR=2.68(2.02〜3.55)、p=9×10−12]および組織学的悪性度[HR=2.00(1.18〜3.37)、p=0.01]だけが依然として有意のままであり、増殖モジュールが最も大きいHRおよび最も有意なp値を有した。
【0084】
ERBB2+の腫瘍(n=126)において、節の状態、腫瘍浸潤、血管形成および免疫応答のモジュールまたはスコアが、一変量モデルではRFSと有意に関連し、これに対して、腫瘍浸潤モジュール[HR=2.07(1.32〜3.25)、p=0.001]および免疫応答モジュール[HR=0.56(0.36〜0.86)、p=0.009]だけが依然として、多変量モデルではRFSと有意に関連したままであった。その後、本発明者らは、分類を改善するために、これらの2つの変数を組み合わせようと努めた。+1および−1の重みを腫瘍浸潤モジュールおよび免疫応答モジュールの組合せにおいてそれぞれ使用した。しかしながら、本発明者らは、この単純な組合せが、図8に示されるように、予後に関するERBB2+サブグループにおける患者の分類を著しく改善しなかったことを観察した。
【0085】
分子モジュールを使用する予後的遺伝子発現サインの詳細な分析
いくつかの発表されている予後的サイン(10、4、16、17、12、18、9、14、8、13)に含まれる個々の遺伝子の生物学的意味を調べるために、本発明者らは、これらのサインに含まれるそれぞれの個々の遺伝子がどの分子的カテゴリーに属するかを明らかにするために、線形モデルの同じ比較をいくつかの予後的サインに対して適用した。表8は、特定のプロトタイプに関連づけられるそれぞれのサインの遺伝子の割合、または、特異的に関連するそれぞれのサインの遺伝子の割合(括弧内の値)を例示する。

表8は、7つのプロトタイプによる遺伝子発現予後的サインの分析を表す。数字は、特定のプロトタイプに関連づけられるそれぞれのリストの遺伝子の割合、または、特定のプロトタイプに特異的に関連するそれぞれのリストの遺伝子の割合(括弧内の値)を表す。GENE70=70遺伝子のサイン[10、4];GENE76=76遺伝子のサイン[16、17];P53=p53のサイン[8];WOUND=傷害応答サイン[12、18];GGI=ゲノム悪性度指数[9];ONCOTYPE=21遺伝子の再発スコア[14];IGS:186遺伝子の「浸潤性」遺伝子サイン[13]。
【0086】
この分析によって、本研究で調べられたそれぞれのサインにおける遺伝子の半分を越えるものが増殖プロトタイプと統計学的に関連したことが明らかになった。また、特異的な関連の割合、すなわち、1つのプロトタイプと関連し、それ以外のプロトタイプとは関連しないことの割合が非常に高いことがまた、AURKAについては報告され、このことはいくつかの予後的サインにおける増殖の重要性を強調している。
【0087】
その後、本発明者らは、上記で報告されている予後的遺伝子サインの3つについて、すなわち、70遺伝子[10、4]、76遺伝子[16、17]およびゲノム悪性度[9]について、「詳細に分析された」サインのそれぞれの分子モジュールの予後値を元々の予後値と比較することによって工程をさらに進めた。そうするために、本発明者らは、これらのサインが、最初のアルゴリズムおよびマイクロアレイプラットフォームを使用してコンピューター計算された非処置の原発性乳ガン患者のTRANSBIG独立妥当性確認シリーズを使用している[5、26]。このことはまた、この集団がこれらのサインのどの展開のためにも使用されなかったという利点を提供した。本発明者らは、プロトタイプの1つと特異的に関連した元々のサインからの遺伝子の一群について無遠隔転移生存についてのハザード比を、元々のサインに関して得られるハザード比と比較した。興味深いことに、図8に示されるように、増殖モジュールの成績が、3つの調べられたサインのすべてについて元々のサインと等しかった。このことは、増殖が原動力となり得ることを示唆する。
【0088】
本発明者らはさらに、表13および/または表12に記載のCD10および/またはPLAUのサインが、化学療法(アントラサイクリン)に対する抵抗性と相関することを見出した。
【0089】
本発明者らは、診断として、および/または、好適な医薬品の選択を助けるためにCD10および/またはPLAUのサインを使用する。
【0090】
異なる分子的サブグループにおける予後的サインの影響の評価
乳ガンのどの分子的サブグループがこれらの予後的サインから利益を受け得るかを調べるために、本発明者らは、ER(ESR1)の分子モジュールスコアおよびHER2(ERBB2)の分子モジュールスコアによって定義される異なる分子的サブグループにおいて上記で報告される異なる遺伝子サインの予後的影響を分析した。異なる遺伝子サインを生じさせるための的確なアルゴリズムを、異なるマイクロアレイプラットフォームには適用することができないので、本発明者らは、それぞれの最初の刊行物において報告された関連の方向を使用して、モジュールスコアについて行われたように分類子をコンピューター計算することを決めた。符号つき平均は元々のアルゴリズムよりも効率的でないかもしれないという事実が懸念されたので、本発明者らは、最初の刊行物での同じ比較研究を行い、元々のスコアおよび修正されたスコアが非常に相関したこと、および、それらの成績が非常に類似していたことを見出した。ほとんどの予測子が多くの場合、単峰型分布を使用して最も良く記載されるので、また、二分化された結果変数を使用することは、有意なバイアスを、異なる予後的サインを比較する際に持ち込むことがあるので、本発明者らはここでは、異なるサインを連続変数と見なした。また、ロバストな尺度化の適用を行った場合、異なるサインが互いに比較され得ることにも留意しなければならない。
【0091】
分子的サブグループによるこれらのサインの予後力の分析は、これらの予測子の開発において使用されなかった患者に対してだけ行われたが、これらのサインの成績は、ESR1+/ERBB2−サブグループの患者に限定されるようであったことを示した(表9)。実際、異なるサインはそれ以外の2つの分子的サブグループにおいて全く情報をもたらさなかった。

【0092】
乳ガン(BC)細胞と、それらの間質成分との間でのインビボ相互作用:遺伝子発現における変化の分析
本発明者らは、Allinenおよび共同研究者ら(2004)によって記載されるプロトコルを間質細胞の単離のために適合化し、腫瘍上皮細胞(EpCAM陽性)、白血球(CD45陽性)、筋線維芽細胞(CD10陽性)および内皮細胞の4つの異なる細胞サブ集団を分離および単離することを成し遂げている。本発明者らはまた、いくつかのRNA増幅/標識化プロトコルを本発明者らの遺伝子発現実験のために試験している。
【0093】
今日まで、筋線維芽細胞(CD10)が28の乳腫瘍および4つの正常な組織から単離および精製された。遺伝子発現分析を、Affymetrix GeneChip(登録商標)Human Genome U133 Plus2.0アレイを使用して行った。生存分析を、1200名を越える全身処置されていない乳ガン患者を含む12の公表されているマイクロアレイデータセットを使用して行った。
【0094】
乳腫瘍の筋線維芽細胞間質細胞は、正常な乳房組織から単離された筋線維芽細胞間質細胞に対する変化した遺伝子発現パターンを示した(表12および表13を参照のこと)。示差的に発現する遺伝子のいくつかが細胞外マトリックスの形成/分解および血管形成と関連することが見出される一方で、いくつかの他の遺伝子の機能は依然として、大部分が不明のままである。
【0095】
非管理下での階層的クラスター化分析では、乳腫瘍の筋線維芽細胞が、ER、HER2状態および腫瘍分化に基づいて乳ガンの分子的ポートレートを要約する4つの主要なサブグループにクラスター化された。
【0096】
腫瘍の発現プロファイリング研究と同様に、中間悪性度の腫瘍から単離されたBC筋線維芽細胞は明確な遺伝子発現パターンを示さないが、高分化腫瘍および低分化腫瘍にそれぞれ由来する遺伝子発現プロフィルと類似する遺伝子発現プロフィルの混合を示した。
【0097】
BC組織に対して正常組織から単離された筋線維芽細胞から明らかになる間質の遺伝子発現サインは、臨床結果との統計学的に有意な関連を示した。間質サインの高い発現レベルを有する乳腫瘍は、より不良な予後と有意に関連した(HR 1.55;CI 1.20〜1.99;p=5.57×10−4)。この関連が、臨床的に高リスクのHER2+サブタイプ内において主に観測された。興味深いことに、間質サインの発現レベルが高いHER2+腫瘍、および、間質サインの発現レベルが低いHER2+腫瘍は、45%および85%の無遠隔転移生存率を5年の追跡調査でそれぞれ示した(HR 2.53;CI 1.31〜4.90;p=5.29×10−3)。
【0098】
予備的結果から、乳ガン発生および乳ガンサブタイプ決定における腫瘍上皮−間質細胞相互作用の重要性が強調される。そのうえ、この重要性は、特にHER2+サブタイプ内での腫瘍伝播における間質細胞の役割を示し、また、新規な治療戦略を開発するための基礎を提供する。
【0099】
本研究において、本発明者らは、乳ガンにおいて以前に記載されたいくつかの生物学的プロセス、すなわち、増殖、腫瘍浸潤、免疫応答、血管形成、アポトーシス、ならびに、エストロゲンおよびHER2(ERBB2)のシグナル伝達を表す分子モジュールを開発した。乳ガンをその分子的成分に詳しく分析することによって、本発明者らはこの疾患の性質を単純化したが、本研究は、乳ガンに関与する主要な生物学的プロセスおよび予後に対するそれらの影響を理解することに関するたくさんの情報をもたらした。
【0100】
本発明者らは、最初に、分子モジュールを表す遺伝子の7つのリストを特定した。最多数の遺伝子を含むモジュールがER(ESR1)モジュールであった(468個の遺伝子)。乳ガンの分子的分類に関するいくつかの刊行物は乳ガンのエストロゲン受容体の状態を発現サブグループの主たる識別子として繰り返し一貫して特定しているので[27、28、29、30]、これは驚くことではなかった。最多数の遺伝子を伴う第2のリストが、増殖モジュールに関連づけられるリストであった(228個の遺伝子)。これは、Sotiriou他[30]によって以前に報告された発見と一致している。これらの長いリストとは対照的に、血管形成、アポトーシスおよびHER2(ERBB2)シグナル伝達を反映するモジュールは、非常に限定された数の遺伝子とともに終わっただけであった(それぞれ、13個、9個および27個の遺伝子)。このことは、これらのモジュールと関連する多くの遺伝子はER(ESR1)または増殖(AURKA)とも関連し、したがって、他の分子モジュールの開発において保持されなかったという事実によって部分的に説明することができる。
【0101】
この分子モジュールの機能的分析ではまた、興味深い情報が明らかにされた。予想されたように、これらのモジュールに含まれる多くの遺伝子は、選ばれた生物学的プロセスと関連することが知られていた。しかし、多くの他の遺伝子(これらは時にはモジュールの半数以上を表す)は、乳ガンに関連づけられることが未だ報告されていなかったか、または、別の生物学的表現型と関連することが以前に報告されていた。
【0102】
従来の臨床病理学的マーカーと、種々の分子モジュールとの間における関係を調べることにより、ER(ESR1)モジュールと、患者の年齢との間における正の関連、すなわち、ER(ESR1)のタンパク質レベルについてこれまでしばしば報告されている関連[31]、同様にまた、ER(ESR1)状態との正の関連が明らかにされた。このことは、ER(ESR1)のタンパク質レベルおよび発現レベルの間における非常に良好な相関を強調する。
【0103】
興味深いことに、本発明者らは、正の関連を、HER2(ERBB2)モジュールと、ER(ESR1)タンパク質発現状態との間において認めた。内分泌療法の臨床効力がHER2(ERBB2)の増幅または過剰発現の存在によって損なわれ得ることが示唆されているので[32、33、34、35、36]、ER(ESR1)およびHER2(ERBB2)の相互関係が乳ガンの管理において重要な役割を有するようになってきている。HER2(ERBB2)の増幅/過剰発現は一般に、ER(ESR1)の発現と逆相関するので、この相関の正確な範囲が最近になってやっと、HER2(ERBB2)試験についての2つの標準化されたFDA承認の方法を使用して、3655個の乳ガン腫瘍の大きなシリーズにおいてLal他[37]によって報告されている。興味深いことに、Lal他は、HER2(ERBB2)陽性腫瘍のほとんど半数(49.1%)がER(ESR1)を依然として発現したことを報告した。このことは、HER2(ERBB2)モジュール陽性腫瘍が陽性のER(ESR1)タンパク質状態と関連するという今回の発見を裏付けている。
【0104】
本発明者らは、腫瘍浸潤モジュール(PLAU)と、臨床病理学的マーカーとの間には関連を何ら認めなかった。このことは、リンパ節およびホルモン受容体が陽性である乳ガンにおけるPLAUのmRNA発現を調べたLeissner他[38]によって発表された研究と一致している。
【0105】
血管形成モジュールに関しては、Bolat他もまた、正の相関を、VEGFと、腫瘍サイズとの間において認めたのだが、興味深いことに、この発見は、侵襲性小葉ガンではなく、侵襲性腺管ガンに限定されるようであった[39]。
【0106】
73名の乳ガン患者を含む研究において、Widchwendter他は、高いSTAT1活性化が、広く知られている予後マーカーに依存しない良好な予後の有意な予測子であったこと、および、STAT1活性化と相関した唯一のパラメーターが節の状態であったこと、すなわち、LN陰性患者に由来する腫瘍の大多数が高いSTAT1活性化と関連したことを見出した[40]。このことは、本発明者らもまた報告したことである。この観測結果は、節陰性の患者および高いSTAT1がより良好な予後と関連するという事実と一致している。
【0107】
乳ガンは、臨床的に不均一な疾患である。いくつかのグループが乳ガンの異なる分子的サブクラスを一貫して特定しており、この場合、基底様(ほとんどがER(ESR1)陰性およびHER2(ERBB2)陰性)サブグループおよびHER2(ERBB2)(ほとんどがERBB2増幅型)サブグループが、最も短い無再発の全体的生存を示し、これに対して、管腔様タイプ(エストロゲン受容体陽性)腫瘍がより好都合な臨床結果を有した([41]にまとめられる)。本発明者らは、これらのサブグループが乳ガン疾患の異なるタイプを表すという事実をもはや無視することができないので、本発明者らは、同じ分析を、主要な識別子によって、すなわち、ER(ESR1)およびHER2(ERBB2)によって特定される3つのサブグループにおいて行った。
【0108】
ESR1+/ERBB2−サブグループにおいて、増殖モジュールおよび組織学的悪性度は、多変量分析において依然として生存と関連したままであった2つの変数であり、増殖モジュールが最も有意なp値を有していた。このことは、2つの臨床的に異なったESR1陽性の分子的サブグループがゲノム悪性度によって定義され得るという発見と一致している[6]。ERBB2+サブグループでは、腫瘍浸潤および免疫応答が、腫瘍の進行と関連する主なプロセスであるように思われた。この発見は、PLAUのmRNA発現がHER2(ERBB2)陽性腫瘍における強力な予後指標であったこと[42]を裏付けている。
【0109】
第3のサブグループ(ESR1−/ERBB2−)において、免疫応答のみが、予後を予測するように思われた。ホルモン受容体およびHER2(ERBB2)を発現しない腫瘍(これは一般には「三重陰性」腫瘍または「基底様」腫瘍と呼ばれる)はより攻撃的であることが報告されている。それらの三重陰性の状態を考えると、これらの患者は、乳ガンのために現在用いることができる従来の標的化された治療(例えば、内分泌治療またはERBB2標的化治療など)により処置することができず、このため、化学療法が唯一の武器として残されている。
これに関連して、数人の著者らが、化学療法がこの疾患のこのサブタイプではより効率的であり得ることを示唆している[43、44]。しかしながら、最適な化学療法様式を明確にすることは依然として議論の余地を残している。BRCA1経路の活性がこれらの腫瘍の多くでは損なわれるようであるので、また、BRCA1がDNA修復および細胞周期チェックポイントにおいて機能するので、一部の著者らは、これらの腫瘍は、DNA損傷の化学療法に対する感受性と関連し得ること、そしてまた、紡錘体毒に対する抵抗性と関連し得ることを示唆している[49]。本研究において、本発明者らは、損なわれた免疫応答が(この特定のサブグループの患者において)遠隔転移の発達とつながり得ることを示した。実際、免疫モジュールの高い発現レベル(表10および表11)が、一変量レベルおよび多変量レベルの両方で、有意により良好な結果と関連した。
【0110】
STAT1が、インターフェロン−γ(IFN−γ)およびその抗腫瘍効果を活性化することにおいて特に重要であることが示されている。増殖および生存を阻害することに加えて、IFN−γは、部分的にはMHCタンパク質のSTAT1依存的発現を高めることによって腫瘍細胞の免疫原性を高める[46]。この観測結果に基づいて、また、腫瘍における弱められたSTAT1シグナル伝達はその悪性挙動と相関し得るという事実に基づいて、Lynch他は近年、STAT1によって媒介される遺伝子転写を高めることが、ガン治療に対する効果的な取り組みとなり得ることを主張した[47]。したがって、Lynch他は5120個の化合物をスクリーニングし、STAT1媒介による遺伝子活性化を一層高め、その結果IFNの最大有効濃度により認められる1つの分子、すなわち、2−(1,8−ナフチリジン−2−イル)フェノールを特定した。STAT1活性化は、生存促進(pro−survival)遺伝子の抑制およびアポトーシス遺伝子の活性化を介して細胞毒性剤に応答して腫瘍細胞を殺すことにおける重要な要素であるように思われるので、その活性化は、化学療法を受ける患者において、特に、ほとんどの治療的取り組みが、細胞死を非特異的な様式で誘導する細胞毒性剤に頼るこれらのESR1−/ERBB2−の患者においては特に重要であり得る。
【0111】
本発明者らが、それらの生物学的意味をより良く理解するために、文献に今までに報告された主な予後的遺伝子サインを詳しく調べたとき、本発明者らは、これらの予後的遺伝子サインはすべてが、増殖に関連づけられる遺伝子の著しい割合によって構成されたことを認めた。本発明者らが、独立した患者シリーズにおいて、元々のサインをそれらの分子モジュールと比較したときにもまた、本発明者らは、元々のサインに含まれる増殖遺伝子がその予後的成績を取り戻すことができたことを認めた。このことは、増殖に関連づけられる遺伝子がいくつかの既存の予後的遺伝子発現サインの一般的な共通点であると思われるという事実を強調する。細胞周期の脱調節における欠陥が乳ガンの基本的特徴であるので、これらの遺伝子が乳ガン予後に関与することは驚くことではない。いくつかの研究では、細胞周期および増殖関連遺伝子の増大した発現が、不良な結果と相関したことが実際に示された([48]に総説される)。当然のことながら、分析された集団または使用されたプラットフォームにおける違いのために、的確な増殖関連遺伝子には違いがある。増殖関連の細胞マーカーの使用は新しいことではなく、例えば、Ki67およびPCNAのタンパク質発現レベルが何十年間にわたって予後的マーカーとして既に使用されているが、遺伝子発現のプロファイリング研究により、増殖を、より客観的な自動化された定量的方法を使用して測定することが、それほど定量的でないアッセイ(例えば、免疫組織化学など)と比較して、よりロバストであり得ることが示唆された。
【0112】
種々の乳ガンサブタイプに従って今までに報告された主な遺伝子サインの予後的能力を調べることによって、本発明者らは、これらのサインの予後力が、エストロゲン受容体陽性の患者によって構成されるESR1+/ERBB2−の分子的サブグループに限定されたことを認めている。このことは下記の発見と一致している:1)増殖がこれらのサインの主たる一因であると思われるという発見、および、2)ESR1+/ERBB2−サブグループが、広い範囲の増殖値を示す唯一の分子的サブグループであるという発見。
【0113】
この発見はまた、さらなる予後的マーカーが、それ以外の2つの分子的サブグループについては、より具体的には、不良な予後および限定された治療選択肢と関連するESR1−/ERBB2−サブグループについては必要であることを強調する。したがって、本発明者らは、免疫応答を調べることによって、この特定のサブグループの患者における機構が、これらの腫瘍をより良く理解するために、また、効率的な標的化された治療を開発するために役立ち得ると考えている。
【0114】
結論として言えば、乳ガンに関与する主な生物学的機構を表す分子モジュールを特定することによって、本発明者らは、種々の予後的サインの生物学的基礎をより良く特徴づけることができ、また、種々の腫瘍を進行させる機構を理解することができた。真に個人に合わせた医療に向けて一歩前進するために、これらの発見は、新しい臨床ゲノムモデルを定義するために、また、特定の分子的サブグループにおける新しい標的を特定するために役立ち得る。
【0115】
























【0116】



【配列表フリーテキスト】
【0117】
配列番号1及び2は、プライマーMYBL2の配列である。
配列番号3及び4は、プライマーCCNA2の配列である。
配列番号5及び6は、プライマーSTK6の配列である。
配列番号7及び8は、プライマーKPNA2の配列である。
配列番号9及び10は、プライマーCCNB1の配列である。
配列番号11及び12は、プライマーCDC2の配列である。
配列番号13及び14は、プライマーCDC20の配列である。
配列番号15及び16は、プライマーMCM2の配列である。
配列番号17及び18は、プライマーGUSBの配列である。
配列番号19及び20は、プライマーTBPの配列である。
配列番号21及び22は、プライマーRPLP0の配列である。
配列番号23及び24は、プライマーTFRCの配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表10および/または表11から選択される少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個、36個、37個、38個、39個、40個、41個、42個、43個、44個、45個、46個、47個、48個、49個、50個、55個、60個、65個、70個、75個、80個、85個、90個、95個、および、場合により、100個、105個、110個の遺伝子もしくはタンパク質、もしくはセット全体、または、これらの遺伝子によってコードされたタンパク質に対して向けられる抗体(またはその超可変部分)を含むか、または、それらからなる遺伝子セットまたはタンパク質セット。
【請求項2】
遺伝子もしくはタンパク質の配列または抗体は、アレイのような固体担体表面に結合される、請求項1に記載の遺伝子セットまたはタンパク質セット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の遺伝子セットまたはタンパク質セットと、場合により、リアルタイムPCR分析またはタンパク質分析のための他の手段とを含む診断キットまたは診断デバイス。
【請求項4】
リアルタイムPCRのための手段は、qRT−PCRのための手段である、請求項3に記載のキットまたはデバイス。
【請求項5】
表12および/または表13から選択される少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個、および、場合により、40個、45個、50個、55個、60個、65個の遺伝子もしくはタンパク質、もしくはセット全体、または、これらの遺伝子によってコードされたタンパク質に対して向けられる抗体またはその超可変部分を含むか、または、それらからなる遺伝子のセットまたはタンパク質のセットをさらに含む、請求項3または4に記載のキットまたはデバイス。
【請求項6】
国際公開WO2006/119593の表3における悪性度3の腫瘍においてアップレギュレーションされた遺伝子/タンパク質として示される遺伝子またはタンパク質から選択される少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個、36個、37個、38個、39個、40個、41個、42個、43個、44個、45個、46個、47個、48個、49個、50個、55個、60個、65個、70個、75個、80個、85個、90個、95個の遺伝子もしくはタンパク質、もしくはセット全体、または、これらの遺伝子によってコードされたタンパク質に対して向けられた抗体またはその超可変部分を含むか、または、それらからなる遺伝子のセットまたはタンパク質のセットをさらに含む、請求項3〜5のいずれかに記載のキットまたはデバイス。
【請求項7】
遺伝子は、増殖に関連づけられる遺伝子であり、好ましくは、CCNB1、CCNA2、CDC2、CDC20、MCM2、MYBL2、KPNA2およびSTK6からなる群から選択される、より好ましくは、CDC2、CDC20、MYBL2およびKPNA2である、請求項6に記載のキットまたはデバイス。
【請求項8】
好ましくは、TFRC、GUS、RPLPOおよびTBPからなる群から選択される、1個以上の参照用の遺伝子をさらに含む、請求項3〜7のいずれかに記載のキットまたはデバイス。
【請求項9】
− 腫瘍サンプルからの遺伝子発現またはタンパク質合成を、請求項1または2に記載の遺伝子セットまたはタンパク質セット、および、場合により、請求項4〜8に記載のキットに含まれる遺伝子セットまたはタンパク質セットに基づいて検出するために構成されるバイオアッセイモジュール、および
− これらの遺伝子の発現またはタンパク質合成を計算するために、および、腫瘍サンプルについてのリスク評価をもたらすために構成されるプロセッサーモジュール
を含むコンピューター化システムである、請求項3〜8のいずれかに記載のキットまたはデバイス。
【請求項10】
腫瘍サンプルは乳腫瘍のサンプルである、請求項9に記載のキットまたはデバイス。
【請求項11】
表11および/または表13から選択される少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個、36個、37個、38個、39個、40個、41個、42個、43個、44個、45個、46個、47個、48個、49個、50個、55個、60個、65個、70個、75個、80個、85個、90個、95個の遺伝子もしくはタンパク質、もしくはセット全体、または、これらの遺伝子にコードされたタンパク質に対して向けられる抗体またはその超可変部分を含むか、または、それらからなる遺伝子セットまたはタンパク質セット。
【請求項12】
哺乳動物対象における、好ましくは、ヒト患者における、好ましくは、少なくともER−のヒト患者におけるガンの予後のための方法であって、腫瘍サンプル、好ましくは、乳腫瘍サンプルを、哺乳動物対象から採取する工程、および、腫瘍サンプルにおける遺伝子発現またはタンパク質合成を、この腫瘍サンプルから得られたヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列と、請求項1または2または11に記載の遺伝子セットまたはタンパク質セット、あるいは請求項3〜10に記載のキットまたはデバイスと接触させることによって測定する工程、および、場合により、腫瘍サンプルについてのリスク評価を、ER−のタイプ、および、場合により、HER2+のタイプおよび/またはER+のタイプに含まれる異なるサブタイプとして腫瘍サンプルを指定することによって、腫瘍サンプルについてのリスク評価をもたらす工程を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−537659(P2010−537659A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523521(P2010−523521)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【国際出願番号】PCT/EP2008/061828
【国際公開番号】WO2009/030770
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(510041278)ユニヴェルシテ リブル ドゥ ブリュッセル (12)
【Fターム(参考)】