説明

ESI用カチオン化剤及びそれを用いるSEC/ESIMS測定方法

【課題】 ESI法において、高分子量成分についても、高次の多価イオンを生じにくく、又少ない使用量であっても、難イオン化物質をイオン化するとの効果が充分発揮されるカチオン化剤、及びこのカチオン化剤を用いることを特徴とするSEC/ESIMS測定方法、SEC/ESIMS測定装置を提供する。
【解決手段】 ハロゲン化カリウム及びKOHの混合物、ハロゲン化カリウム、NaOH、KOH、RbOH、並びにCsOHからなる群から選ばれる1種と、水との混合溶液であることを特徴とするESI用カチオン化剤、測定試料をSECカラムに通液してSEC分離を行い、カラムより溶出後の試料と前記カチオン化剤を混合した後、ESI法により試料をイオン化し、イオン化した試料の質量分析を行うことを特徴とするSEC/ESIMS測定方法及びこの測定方法に用いられる測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ESI法(エレクトロスプレーイオン化法)において、合成高分子化合物等の難イオン化物質を、イオン化するために用いられるカチオン化剤に関する。本発明は、さらに、このカチオン化剤を、ESI法によるイオン化に用いることを特徴とするSEC/ESIMS測定方法、及びそのSEC/ESIMS測定方法を実施するためのSEC/ESIMS測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MS法(質量分析法)は、気体状態のイオンをそのイオンの質量(m)と電荷の(z)比(m/z)により分離し検出する方法であり、非常に高感度であり、分子構造や高分子の分子量分布等に関する情報を得ることができる。又、MS法とGPC法(ゲル浸透クロマトグラフィー)との結合は、MS法単独では充分に達成されにくい、高分子化合物の構造や分子量分布等に関するより詳細な情報を得ることができる優れた分析方法として注目されている(Analytical Chemistry, Vol.71, No.21, November 1, 1999; 非特許文献1)。
【0003】
MS法では、測定試料を気体のイオンにする必要があり、そのイオン化の方法としては、ESI法(エレクトロスプレーイオン化法)が例示される。この方法は、試料を水、メタノール等の極性溶媒に溶解し、エレクトロスプレー現象で生じた帯電微細液滴が乾燥する過程で、試料分子が電荷を帯びた気体のイオンとなることを利用した方法であり、具体的には、高電圧(〜5KV)を印加した細い管(内径〜0.1mm)から試料溶液を送り出すことによりエレクトロスプレー現象を起こし、試料をイオン化する。
【0004】
試料溶液の送り出しが高流量の場合、エレクトロスプレー現象は起きにくい。そこで、このような場合でもエレクトロスプレー現象を起こし、試料をイオン化するために窒素ガスや空気等の補助ガスによる噴霧が利用される場合もある(イオンスプレ−法)。本発明におけるESI法には、この補助ガスによる噴霧を利用する場合も含まれる。
【0005】
一方、ESI法では、極性が低い化合物はイオン化されにくい。そこで、このような難イオン化物質(低極性物質)をESI法でイオン化する方法として、NaI等のアルカリ金属塩を、試料溶液中に適量溶解させエレクトロスプレーを行う方法が知られている(非特許文献1)。このNaI等はカチオン化剤と呼ばれている。
【0006】
NaI等の添加により、難イオン化物質であるPMMA等の合成高分子化合物もESI法でイオン化される。その結果、前記のようなMS法とGPC法とを結合した方法であるGPC/ESIMS法による分析が可能となった。NaIは、GPCの移動相であるTHF(テトラヒドロフラン)に可溶であるので、カチオン化剤として広く用いられている。
【0007】
Analytical Chemistry, Vol.71, No.21, November 1, 1999(非特許文献1)には、NaIをカチオン化剤として用い、PMMAについてGPC/ESIMS法で測定した結果が示されている(Figure 2)。しかし、この方法では、高分子量成分になるとより高次の多価イオンが生じやすくなり、スペクトルが複雑になるとの問題があった。なお、高次の多価イオンとは、1分子に付加したNa等のイオンの数が多いイオン(分子)を言う。
【0008】
スペクトルが複雑になると、分子量の推定等の解析が困難になる。そこで、ESI法において、高分子量成分についても、高次の多価イオンが生じにくいカチオン化剤が望まれるようになった。
【0009】
又、質量分析を行う質量分析機のイオン源に、NaI等の不揮発性の化合物を連続的に大量に導入すると、質量分析部への導入細孔が閉塞しやすいとの問題も見出されている。導入細孔が閉塞すると、感度の低下がおこり、さらには測定不能状態となる場合もある。そこで、不揮発性化合物であるカチオン化剤はできる限り少ないことが望まれ、NaI等の従来のカチオン化剤の場合と同等以下の使用量であっても、難イオン化物質をイオン化するとの効果が充分発揮されるカチオン化剤が望まれていた。
【非特許文献1】Analytical Chemistry, Vol.71, No.21, November 1, 1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ESI法において、合成高分子化合物等の難イオン化物質をイオン化するために用いられるカチオン化剤であって、高分子量成分についても、高次の多価イオンを生じにくく、又少ない使用量であっても、難イオン化物質をイオン化するとの効果が充分発揮される(その結果、質量分析部への導入細孔の閉塞等の問題を生じにくい)カチオン化剤を提供することを課題とする。本発明は、又、このカチオン化剤を用いるSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)/ESIMS測定方法であって、スペクトルが複雑とならず、高分子量成分まで分子量の推定等の解析が容易であり、かつ質量分析部への導入細孔の閉塞等の問題を生じにくく、耐久性のあるSEC/ESIMS測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、合成高分子化合物等の難イオン化物質のESI法によるイオン化に用いられる種々のカチオン化剤について鋭意検討した結果、カチオン化剤として、特定の化合物水溶液を用いることにより、前記の課題が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、ハロゲン化カリウム及びKOHの混合物、ハロゲン化カリウム、NaOH、KOH、RbOH、並びにCsOHからなる群から選ばれる1種と、水との混合溶液であることを特徴とするESI用カチオン化剤を提供する(請求項1)。カチオン化剤に水を含むことにより、イオン化が安定して起こり、スキャン毎のスペクトルの再現性、感度、定量性が向上する。
本発明は、又、より好ましい態様として、以下の構成からなるESI用カチオン化剤を提供する。
【0013】
前記溶液が、KCl及びKOHから選ばれる少なくとも1種の化合物、又はNaOH、と水との混合溶液であることを特徴とするESI用カチオン化剤(請求項2)。前記のESI用カチオン化剤において、中でも、NaOHと水との混合溶液、又はKCl及び/又はKOHと水との混合溶液を使用した場合は、高次の多価イオンがより生じにくく、さらに良好なスペクトルが得られる。とりわけ、NaOH又はKOHと、水との混合溶液のESI用カチオン化剤を用いると、カチオン化の際にアニオン部より生じるOは、バックグランドスペクトルが少なくなり、良好なスペクトルが得られる傾向があり、さらに、ハロゲン化カリウムのカチオン化の際にアニオン部より生じるハロゲン分子よりも質量分析機器の腐食を低減する傾向があることから好ましい。
【0014】
前記カチオン化剤が、水と任意の割合で混合する有機溶媒をさらに含むことを特徴とするESI用カチオン化剤(請求項3)。
ハロゲン化カリウム及びKOHの混合物、ハロゲン化カリウム、NaOH、KOH、RbOH、並びにCsOHからなる群から選ばれる1種と、水との混合溶液における溶媒としては、水に加えて、水と任意の割合で混合する有機溶媒と水との混合溶媒が好ましい。
【0015】
ここで、水と任意の割合で混合する有機溶媒としては、THF、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2−メトキシエタノール、アセトン、ジオキサン等が例示される。中でも、THF、アセトニトリル及びメタノールが、MSスペクトルへの妨害が少なく好ましい。これらの溶媒の2種以上と水を混合した混合溶媒を用いてもよい。
【0016】
前記カチオン化剤が、水を10重量%以上含むことを特徴とするESI用カチオン化剤(請求項4)。
ハロゲン化カリウム及びKOHの混合物、ハロゲン化カリウム、NaOH、KOH、RbOH、並びにCsOHからなる群から選ばれる1種と、水との混合溶液に含まれる水の量としては、10重量%以上が好ましい。10重量%以上とすることにより、ハロゲン化カリウム、NaOH、KOH、RbOH、CsOHを完全に溶解させることが可能で、又、カチオン化剤添加後の移動相中の水分濃度を好ましい範囲とすることができる。
【0017】
カチオン化剤添加後の移動相中の水分濃度としては、カチオン化剤が充分に溶解し、かつ水相と試料を溶解した相が分離しない程度の範囲が好ましく、通常、2〜20重量%程度の範囲が好ましい。2重量%以上とすることにより、イオン化が安定して起こり、スキャン毎のスペクトルの再現性、感度、定量性の向上効果がより大きくなる。又、20重量%以下とすることにより、試料が高分子で極性が低い場合であっても、水相と高分子溶液との相分離がより充分に抑制されるので好ましい。
【0018】
前記のESI用カチオン化剤において、ハロゲン化カリウム及びKOHの合計の濃度、NaOHの濃度、RbOHの濃度、又は、CsOHの濃度が、0.1〜100mM/lであることを特徴とするESI用カチオン化剤(請求項5)。
ESI用カチオン化剤において、ハロゲン化カリウム及びKOHの合計の濃度、NaOHの濃度、RbOHの濃度、又は、CsOHの濃度を、0.1〜100mM/lの範囲とすることにより、移動相中のハロゲン化カリウム、KOH、NaOH、RbOH、CsOHの濃度の制御が容易になるので好ましい。
【0019】
本発明は、さらに前記のESI用カチオン化剤を用いることを特徴としたSEC/ESIMS測定方法を提供する。すなわち、測定試料をカラムに通液してSEC分離を行い、カラムより溶出後の試料を含む移動相に、前記ESI用カチオン化剤を添加した後、ESI法により試料をイオン化し、イオン化された試料の質量分析を行うことを特徴とするSEC/ESIMS測定方法である(請求項6)。
【0020】
SECは試料を分子の大きさにより篩い分けるクロマトグラフィーであり、その中では、GPCが代表的なものとして例示される。請求項7は、この態様に該当するものであり、前記のSEC/ESIMS測定方法であって、SEC分離がGPC分離であることを特徴とするSEC/ESIMS測定方法、すなわちGPC/ESIMS測定方法を提供するものである。
【0021】
請求項6又は請求項7の測定方法では、先ず、測定試料は、SEC装置(クロマトグラフ)に注入され、SECの移動相に溶解され、移動相の溶液としてSECカラムに通液される。GPCの場合移動相としては、THF等が用いられる。SECカラムやその他の測定条件等は、通常のSEC測定と同様な条件を採用することができる。SECカラムに通液された試料は、通常のSEC測定と同様SEC分離され、移動相の溶液としてカラムより、先ず高分子量側が溶出し、時間の経過とともに低分子量側が溶出される。溶出された試料は、その全部又は一部がESI法によりイオン化され、質量分析される。このようにSEC分離された試料を質量分析することにより、分子量やその分布に関するより詳細かつ正確な情報を得ることができる。
【0022】
質量分析前に、試料はESI法によりイオン化されるが、本発明では、そのイオン化のためのカチオン化剤として、ハロゲン化カリウム及びKOHの混合物、ハロゲン化カリウム、NaOH、KOH、RbOH、並びにCsOHからなる群から選ばれる1種と、水との混合溶液(本発明のESI用カチオン化剤)を用いることを特徴とする。試料を溶解した移動相が、SECカラムより溶出した後、ESI法を行うためのESI装置に注入される前に、この移動相に、本発明のESI用カチオン化剤は添加され、混合される(ポストカラム添加法)。又は、ESI装置内に試料を溶解した移動相と、本発明のESI用カチオン化剤が同時に注入されて、ESI装置内で両者が混合されてもよい。例えば、非特許文献1のFigure 1に記載されているような噴霧部が3重管構造になっている装置を用い、最内管にカラムからの溶出液、中管に前記溶液(カチオン化剤)、最外管に補助ガスを流して、ESI装置内に直接噴霧する方法も採用することができる。この方法によれば、本発明のESI用カチオン化剤、すなわち、ハロゲン化カリウム及びKOHの混合物、ハロゲン化カリウム、NaOH、KOH、RbOH、並びにCsOHからなる群から選ばれる1種と、水との混合溶液、に溶解しにくい試料についても分析が容易となるので好ましい。
【0023】
質量分析機のイオン源の、ハロゲン化カリウムやNaOH、KOH、RbOH、CsOHによる汚染を最小限にするためには、本発明のESI用カチオン化剤と移動相との混合が、移動相中に試料が含まれている時期にのみ行われることが、好ましい。移動相中に試料が含まれる時期は、SECカラムに試料が注入された後、ある程度の時間経過後の一時期に限られるので、この時期のみ前記溶液の混合を行うことが好ましい。
【0024】
移動相中のハロゲン化カリウム及びKOHの合計の濃度、NaOHの濃度、RbOHの濃度、又は、CsOHの濃度としては、1μM/l〜10mM/lの範囲が好ましい。1μM/l以上とすることにより難イオン性の高分子量成分のイオン化効果が優れたものとなり、又10mM/l以下とすることにより質量分析装置の導入細孔の閉塞が抑制される。特に、10μM/l〜1mM/lの範囲では、これらの効果が顕著でありより好ましい。又、ESI装置へ注入される移動相の流速としては、0.1〜2.0ml/分の範囲が好ましく、この範囲で、感度が高くS/Nの良いデータが得られる。特に0.1〜0.8ml/分の範囲では、これらの効果が顕著でありより好ましい。請求項8は、この好ましい態様に該当するものであり、前記のSEC/ESIMS測定方法であって、本発明のESI用カチオン化剤、すなわち、ハロゲン化カリウム及びKOHの混合物、ハロゲン化カリウム、NaOH、KOH、RbOH、並びにCsOHからなる群から選ばれる1種と、水との混合溶液を添加後の移動相における、ハロゲン化カリウム及びKOHの合計の濃度、NaOHの濃度、RbOHの濃度、又は、CsOHの濃度が、1μM/l〜10mM/lであり、かつESI法に供せられる試料を含む移動相の流速が0.1〜2.0ml/分であることを特徴とするSEC/ESIMS測定方法を提供するものである。
【0025】
本発明のSEC/ESIMS測定方法は、SEC分析が可能であり、かつ分子内にS及び/又はOを含む化合物に適用可能であり、分子量3000未満の化合物についても分析可能であるが、中でも、従来イオン化が困難とされていた、分子内にS及び/又はOを含む分子量3000〜20,000程度の難イオン化物質、とりわけ、モノマーに由来する構造単位を10〜160有する合成高分子化合物の分析に好適に適用される。このような合成高分子化合物としては、ポリエステル、ポリエーテル、ポリスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリアミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0026】
本発明のSEC/ESIMS測定方法において用いられる移動相としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、クロロホルムなどの炭化水素類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトニトリルなどのニトリル類、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、酢酸エチルなどのエステル類などが挙げられる(請求項9)。従来、水との混合溶媒として移動相に用いられていたアセトニトリル類、アルコール類にも、本発明のカチオン化剤を用いての測定に適用することができ、さらに、本発明者らは、炭化水素類、エーテル類、エステル類などの水と十分に混合しない移動相も、カチオン化の直前に前記カチオン化剤と混合されるのであるから、適用可能であることを見出したのである。
【0027】
本発明は、さらに前記の本発明のSEC/ESIMS測定方法を行うためのSEC/ESIMS測定装置も提供する。すなわち、測定試料のSEC分離を行うSEC分離装置、前記ESI用カチオン化剤の貯槽、該貯槽内のカチオン化剤を、前記SEC分離装置より溶出した試料と混合するため送液するカチオン化剤送液手段、前記溶液と混合された試料をイオン化するESI装置、及びイオン化された試料の質量分析を行う質量分析装置を有することを特徴とするSEC/ESIMS測定装置である(請求項10)。
【0028】
ここで、SEC分離装置は、試料を採取するための手段、例えばオートサンプラ、THF等の移動相の貯槽、移動相をカラムに送液するためのポンプ、移動相に溶解した試料を分子の大きさにより篩い分けるためのカラム等を有する。さらに、UV検出器、RI検出器等の検出器を有すると、同時にSECの測定を行うことができる。
【0029】
カチオン化剤送液手段は、送液ポンプ等であって、貯槽内のカチオン化剤、すなわち、ハロゲン化カリウム及びKOHの混合物、ハロゲン化カリウム、NaOH、KOH、RbOH、並びにCsOHからなる群から選ばれる1種と、水との混合溶液を送液し、SEC分離装置より溶出した試料を含む移動相と混合させるためのものである。この混合の方法としては、カラムからの溶出後ESI装置へ注入前の移動相に添加して、混合する方法や、前記の3重管等を用いて試料とともにESI装置内に噴霧される方法等が挙げられる。
【0030】
質量分析に必要な試料は、SECカラムから溶出される試料に比べて、通常、少量でよい。そこで、溶出された試料の一部のみを質量分析に供するように、SECカラムの溶出口とESI装置への試料の注入口を繋ぐ配管の途中に、分岐部を設けてもよい。
【0031】
前記のように、試料がSECカラムより溶出する時期のみに、カチオン化剤、すなわち、ハロゲン化カリウム及びKOHの混合物、ハロゲン化カリウム、NaOH、KOH、RbOH、並びにCsOHからなる群から選ばれる1種と、水との混合溶液の添加、混合を行うことにより質量分析機のイオン源の汚染を最小限にすることができる。そこで、カチオン化剤送液手段が、SEC分離装置による試料の採取に基づいて作動することが好ましい。すなわち、試料がSECカラムより溶出する時期は、オートサンプラ等による試料の採取からある時間経過後の一定の時間に限られるので、この一定の時間にのみ、カチオン化剤送液手段が作動して前記溶液の送液がされるように、カチオン化剤送液手段とオートサンプラ等を連動させ、例えば、採取の一定時間後に送液を開始し、さらにその一定時間後に送液を終了するようにされていることが好ましい。請求項11は、この好ましい態様に該当する。
【発明の効果】
【0032】
本発明のESI用カチオン化剤、すなわちハロゲン化カリウム及びKOHの混合物、ハロゲン化カリウム、NaOH、KOH、RbOH、並びにCsOHからなる群から選ばれる1種と、水との混合溶液を用いてESI法を行うと、合成高分子化合物等の高分子量成分についても、高次の多価イオンを生じにくい。一方、少ない使用量であっても、難イオン化物質、例えば合成高分子化合物等をイオン化するとの効果は充分発揮される。従って、このESI用カチオン化剤を用いて、SEC/ESIMS測定を行うと、高次の多価イオンを生じにくいので、スペクトルが複雑とならず、高分子量成分まで分子量の推定等の解析を容易にする。又、使用量を少なくできるので、質量分析部への導入細孔の閉塞も生じにくい。すなわち、本発明のSEC/ESIMS測定方法は、スペクトルが複雑とならず、又質量分析部への導入細孔の閉塞も生じにくいとの効果を有するものであり、合成高分子化合物等の難イオン化物質の分子構造や分子量分布の解析に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、本発明はこの形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない限り、他の形態への変更も可能である。
【0034】
図1は、本発明のSEC/ESIMS測定方法の一例の流れを示すフロー図である。図1の例で行われるSEC法は、GPC法である。GPC法を行う部分は、移動相であるTHFの貯槽、この貯槽からオートサンプラ部やGPCカラムへTHFを送液するGPC用ポンプ部、測定試料を自動的に注入するためのオートサンプラ部、GPC分離を行うカラム部及びカラムより溶出された移動相中の試料を検出する検出器からなる。
【0035】
測定試料、例えばPMMA等の合成高分子の溶液は、このオートサンプラ部より注入され、移動相であるTHFに溶解される。試料を、手動で注入する場合は、オートサンプラ部は無くても良い。試料の注入量は測定する試料の分子量、分子量分布により最適な値が異なるため、特にその範囲を限定できないが、通常は、試料濃度はおおむね1mg/mlから100mg/ml程度の範囲であり、注入量は100μl以下である。
【0036】
測定試料を溶解したTHFは、オートサンプラ部からカラム部へ通液され、GPC分離が行われる。カラムを恒温に維持するためのカラム恒温槽を用いても良く、高温GPCを行う場合は、専用の恒温槽を用いてもよい。用いられるGPCカラムとしては、流速が0.1ml/分以上流せる疎水性のカラムであればよく特に限定されない。なお、GPC法以外のSEC法の場合は、カラムは疎水性でない場合もある。カラムの本数も測定の目的に応じて、適宜選択される。
【0037】
図1の例では、カラム部でGPC分離された試料を含むTHF溶液は、検出器に通液され、溶出時間に対する試料の溶出量の変化が測定され、GPCクロマトグラムが得られる。検出器としては、UV検出器(UV−VIS検出器)やRI検出器が例示され、そのどちらか一方もしくは両方が使用される。図1の例では、UV検出器とRI検出器の両方が使用されている。分子量分布に関する情報を得るためには、RI検出器が使用される。なお、本発明のSEC/ESIMS測定方法の実施のためには、GPCクロマトグラムを得る必要は必ずしもないので、検出器を用いなくてもよい。
【0038】
図1(a)に示される例では、検出器より流出した試料を含むTHF溶液に、KCl水溶液(カチオン化剤)が添加、混合され、その後ESI装置に供給される。この例では、KCl水溶液が用いられているが、代りにKOH水溶液等を用いても同様である。図1(a)に示すように、この例では、KCl水溶液の添加前に試料を含むTHF溶液の流れは分岐され、この流れの一部のみにKCl水溶液が添加される。例えば、検出器より流出した試料を含むTHF溶液の流れ(通常、0.1〜2.0ml/分程度)を分岐し、0.01ml/分程度の流れのみにKCl水溶液を添加し、ESI装置に供給してもよい。又、この分岐は、KCl水溶液を添加後に行ってもよい。ただし、KCl水溶液を添加後に行う場合は、KCl水溶液を多量に必要とする。
【0039】
図1(b)に示される例では、カラムより溶出した試料を含むTHF溶液は分岐され、一方のみにKCl水溶液(カチオン化剤)が添加、混合され、その後ESI装置に供給され、分岐された残りが、UV検出器及びRI検出器に通液される。例えば、カラムより溶出した流れ0.1〜2.0ml/分程度の中の、0.01ml/分程度のみにKCl水溶液を添加し、ESI装置に供給してもよい。
【0040】
図1の例では、KCl水溶液(カチオン化剤)を注入する注入部は、試料溶液をESI装置に注入する前に設けられている。注入部は、通常ティーブランチ等により構成され、溶出時間等に応じて、カチオン化剤の注入及び注入の停止を、自在にできるようにされている。このような注入部を用いる代りに、3重管等を用いて、試料溶液、補助ガスとともにKCl水溶液をESI装置内に噴射してもよい。
【0041】
KCl水溶液等のカチオン化剤は、カチオン化剤貯槽(KCl水溶液貯槽等)に貯められ、カチオン化剤添加用ポンプ(カチオン化剤送液手段)により前記注入部に送液される。図1に示される装置の例では、カチオン化剤貯槽が3つ設けられており、3種のカチオン化剤をあらかじめセットでき、3種中の任意のカチオン化剤を、任意の時間に任意の量送液できるようにされている。従って、3種までは添加する種類を容易に変更できるので、カチオン化剤の種類の検討等を自動的に行うことも可能である。測定条件について予めプログラムを作成しておくことにより、無人で測定することも可能となる。例えば、3種類のカチオン化剤として、KCl水溶液又はKOH水溶液と本発明に該当しない他のカチオン化剤を用い、本発明の効果を比較例と比較することも容易である。又、KCl水溶液又はKOH水溶液の溶媒やKCl又はKOH濃度を種々変更した種類の組合せにより、溶媒の比較や濃度の影響も容易に測定できる。
【0042】
カチオン化剤添加用ポンプとしては、送液量を任意に変動できるものが好ましく用いられる。このようなポンプを用い、測定初期は添加速度を0ml/分とし、測定中に添加速度を増加させていくことも可能である。
【0043】
図1の例では、カチオン化剤添加用ポンプは、オートサンプラ部からの信号に基づき制御される。すなわち、カチオン化剤の送液のコントロールは予めプログラムされており、オートサンプラからのスタート信号(トリガー)に同期してプログラムが開始され、添加のタイミング、送液量がコントロールされる。
【0044】
GPCによる分析には、通常、数十分以上を要するが、試料が検出される時間はその半分程度であり、カチオン化剤が必要なのは試料の溶出区間のみである。前記のようにカチオン化剤の添加時間と量を制御することにより、質量分析測定の耐久時間(閉塞が起こるまでの時間)を延ばすことが可能であり、好ましい。従って、本発明の測定方法に用いられる装置としては、カチオン化剤の添加時間と量を任意にコントロール可能な装置が好ましい。なお、送液のコントロールの方法は前記の方法の限りではなく、別途コンピュータを用いる方法も可能である。
【0045】
KCl水溶液(カチオン化剤)が混合された試料溶液は、ESI装置に注入されイオン化される。又は、3重管等により、試料とKCl水溶液が同時にESI装置に注入されてもよい。ESI法を行うESI装置やESIの条件としては、カチオン化剤の種類やその溶媒の種類等の前記の条件を除いては、補助ガスやカチオン化剤を使用した従来のESI法と同様な装置や条件を採用できる。
【0046】
ESI法によりイオン化され、気化された試料は、質量分析機によりMS法(質量分析法)に供せられる。MS法としては、高分解能が達成されるFTMS等も好ましく用いることができる。このようにして、測定試料の分子構造や分子量分布についてのより詳細な測定結果を得ることができる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。本発明の範囲は実施例により限定されない。
【0048】
実施例1及び比較例1
[測定試料]
以下の5種のポリマーラボラトリー社製GPC用標準PMMAのTHF溶液を得て、(1):(2):(3):(4):(5)=1:2:1:1:1の比率(容積比)で混合したものを試料とした
(1) PMMA3100の2.2mgを2mlのTHFに溶解したもの。
(2) PMMA6540の5.91mgを12mlのTHFに溶解したもの。
(3) PMMA9400の4.38mgを4mlのTHFに溶解したもの。
(4) PMMA12700の11.57mgを12mlのTHFに溶解したもの。
(5) PMMA29300の2.45mgを2.4mlのTHFに溶解したもの。
【0049】
[カチオン化剤]
カチオン化剤(KCl水溶液)の調整方法
イオン交換水100mlとアセトニトリル(ATN)100mlを混合して混合溶媒を得る。和光純薬製の試薬特級KClをイオン交換水に溶解し100mM/lに調整する。この溶液を、2mlエッペンドルフではかりとり、前記の混合溶媒に加える。得られたKCl濃度が1mM/lの溶液をカチオン化剤とした。
【0050】
カチオン化剤(KOH水溶液)の調整方法
イオン交換水100mlとアセトニトリル(ATN)100mlを混合して混合溶媒を得る。和光純薬製の試薬特級KOHをイオン交換水に溶解し100mM/lに調整する。この溶液を、2mlエッペンドルフではかりとり、前記の混合溶媒に加える。得られたKOH濃度が1mM/lの溶液をカチオン化剤とした。
【0051】
カチオン化剤(KI水溶液)の調整方法
林純薬製の試薬特級KIをイオン交換水に溶解し、100mM/lに調整した。この溶液を、1mlエッペンドルフではかりとり、100mlのメタノール(MTA)に加える。得られたKI濃度が1mM/lの溶液をカチオン化剤とした。
【0052】
カチオン化剤(NaI水溶液)の調整方法
林純薬製の試薬特級NaIをイオン交換水に溶解し、100mM/lに調整した。この溶液を、1mlエッペンドルフではかりとり、100mlのメタノール(MTA)に加える。得られたNaI濃度が1mM/lの溶液をカチオン化剤とした。
【0053】
前記で得られた試料について、前記の各カチオン化剤(KOH水溶液又はKI水溶液)を用い、GPC/ESIMS測定を行った(実施例1)。又、本発明の有効性を示すために、前記のカチオン化剤(NaI水溶液)を用い、同様な条件でGPC/ESIMS測定を行った(比較例1)。
【0054】
[GPC測定条件]
装置: Agilent社製 1100シリーズLC
カラム: TSKgelSuperHZ(4000×3+3000+2500×2)
6.0mmφ×150mm
移動相: THF
流速 : 0.25ml/分
試料注入量:25.0μl
【0055】
[ESIMS測定条件]
装置: HP社製、LC/MSD
イオン化法: ESI+
スキャンレンジ(m/z):300to3000
スキャン時間:約5秒
スキャンモード:Full
Vcap電圧:5000V
Fragmentor(V):400
乾燥ガス:100℃、13.0l/分
霧化ガス圧:30psi
カチオン化剤のポストカラム添加速度:0.05ml/分
【0056】
[測定結果]
GPC/ESIMS測定は、図1(a)のフローに基づき、各カチオン化剤貯槽に前記の3種のカチオン化剤のそれぞれを入れて行った。又、GPCより溶出した試料の全量(0.25ml/分)を、質量分析(ESIMS法)に供した。
【0057】
GPC法の測定は、それぞれのカチオン化剤について1回、計4回行った。図2に、それぞれの場合についての、220nmのUV検出器によるGPCクロマトグラムを示す(横軸は溶出時間(分))。4回のクロマトグラムは、非常に良く一致しておりGPC測定の再現性は良好である。従って、同一溶出時間には同一成分が溶出していると判断してよい。
【0058】
図3に、溶出時間58分〜60分間の積算平均スペクトルを示す。同一成分が溶出しているにも関わらず、カチオン化剤の異なる各測定で、スペクトルに違いが見られる。NaI水溶液添加のスペクトル(図3(a))は、m/zが小さい側のピークが大きく、一方KCl水溶液添加のスペクトル(図3(c))及びKOH水溶液添加のスペクトル(図3(d))は、m/zが大きい側のピークが大きく、KI水溶液添加のスペクトル(図3(b))はその中間である。m(分子量)は、4回ともほぼ同じと考えられるので、NaI水溶液添加の場合はz(価数)が大きいときに大きなピークが得られ、一方、KCl水溶液やKOH水溶液添加の場合はz(価数)が小さいときに大きなピークが得られることが明らかである。すなわち、図3の結果は、NaI水溶液添加の場合は、高次のイオン(多価イオン)が最も生成しやすく、一方KCl水溶液やKOH水溶液添加の場合は、高次のイオン(多価イオン)が最も生成しにくいことを示している。又、NaI水溶液添加のスペクトル(図3(a))は、KCl水溶液やKOH水溶液添加のスペクトル(図3(c)及び図3(d))と比べて複雑であり、解析が困難であることが示されている。
【0059】
高次のイオンの生成のしやすさを数値的に比較するため、GPC/ESIMSの測定結果に基づき、PMMAの分子サイズ(n数)と多価イオンの検出強度(MSクロマトグラムの面積)との関係をグラフにしたものが図4である。
【0060】
図4より明らかなように、NaI水溶液添加時の2価イオン(図4(a))は、MMA25ユニット程度有する分子が最大強度で検出されているのに対して、KCl水溶液添加時は33ユニット程度の時、KOH水溶液添加時は35ユニット程度の時最大となっている。すなわち、NaI水溶液添加時2価イオンは12〜13ユニットに1個割合でNa+が付加しているのに対して、KCl水溶液添加時は16〜17ユニットに1個の割合で、KOH水溶液添加時は17〜18ユニットに1個の割合でK+が付加していることになる。
【0061】
3価イオン(図4(b))についても、NaI水溶液添加時は、38ユニット程度で最大になり12〜13ユニットに1個付加しており、一方KCl水溶液添加時は59ユニット程度で最大となり、19〜20ユニットに1個付加していることになり、又KOH水溶液添加時は65ユニット程度で最大となり、21〜22ユニットに1個付加していることになる。この結果より、MMAを35ユニット有する分子を考えたとき、NaI水溶液を添加した場合は、主として3価イオンが検出され、一方KCl水溶液やKOH水溶液を添加した場合は、2価イオンが主として検出されることになる。従って、KClやKOHのほうが高次の多価イオンが生じにくく、その結果高分子量成分まで解析容易となることが、実施例、比較例の結果より明らかである。なお、KIについては、NaIとKCl又はKOHの中間的な性能を示す。
【0062】
図5に、溶出時間が51分から51.5分(高分子量域)の積算平均スペクトルを示す。KCl水溶液やKOH水溶液添加時はピーク強度が大きく、又ピーク間隔のはっきりしたスペクトルが得られている(図5(c)及び図5(d))が、NaI水溶液添加時は、ピーク強度が小さく(図5(a))、このデータからの各種解析は困難である。KIはその中間的な性能を示している(図5(b))。すなわち、NaI水溶液添加時は、高分子量域では明確なMSスペクトルを得ることが困難であるが、KCl水溶液やKOH水溶液添加時はこのような問題がなく、高分子量域においても解析の容易な測定結果が得られる。
【0063】
実施例2
下記のカチオン化剤を用いた以外は、実施例1と同様な条件でGPC/ESIMS測定を行った。その結果得られたトータルイオンクロマトグラフィーを図6に示す。
【0064】
カチオン化剤1(KCl溶液、水:アセトニトリル=5:95)の調整方法
イオン交換水4mlとアセトニトリル(ATN)95mlを混合して混合溶媒を得る。和光純薬製の試薬特級KClをイオン交換水に溶解し100mM/lに調整する。この溶液を、1mlエッペンドルフではかりとり、前記の混合溶媒に加える。得られたKCl濃度が1mM/lの溶液をカチオン化剤1とした。
【0065】
カチオン化剤2(KCl溶液、水:アセトニトリル=50:50)の調整方法
イオン交換水49mlとアセトニトリル(ATN)50mlを混合して混合溶媒を得る。その後は、カチオン化剤1の調整方法と同様にして、KCl濃度が1mM/lのカチオン化剤2を得た。
【0066】
カチオン化剤3(KCl溶液、水:アセトニトリル=95:5)の調整方法
イオン交換水94mlとアセトニトリル(ATN)5mlを混合して混合溶媒を得る。その後は、カチオン化剤1の調整方法と同様にして、KCl濃度が1mM/lのカチオン化剤3を得た。
【0067】
溶媒中の水の含有量が10重量%未満であるカチオン化剤1を用いた場合(図6(a))と比べて、溶媒中の水の含有量が10重量%以上であるカチオン化剤2を用いた場合(図6(b))、又はカチオン化剤3を用いた場合(図6(c))は、図6から明らかなように、トータルイオンクロマトグラフィーの感度が高く且つ滑らかであり、スキャン毎のスペクトルの感度、再現性、定量性が優れている。
【0068】
実施例3及び比較例2
[測定試料]
以下の5種のポリマーラボラトリー社製GPC用標準PMMAのTHF溶液を得て、(1):(2):(3):(4):(5)=1:1:1:1:1の比率(容積比)で混合したものを試料とした
(1) PMMA3100の1.24mgを1.2mlのTHFに溶解したもの。
(2) PMMA6540の1.02mgを1.0mlのTHFに溶解したもの。
(3) PMMA9400の1.07mgを1.1mlのTHFに溶解したもの。
(4) PMMA12700の1.59mgを1.6mlのTHFに溶解したもの。
(5) PMMA29300の1.16mgを1.2mlのTHFに溶解したもの。
【0069】
[カチオン化剤]
カチオン化剤(NaOH水溶液)の調整方法
イオン交換水100mlとアセトニトリル(ATN)100mlを混合して混合溶媒を得る。和光純薬製の試薬特級NaOHをイオン交換水に溶解し100mM/lに調整する。この溶液を、2mlエッペンドルフではかりとり、前記の混合溶媒に加える。得られたNaOH濃度が1mM/lの溶液をカチオン化剤とした。
【0070】
カチオン化剤(NaI水溶液)の調整方法
イオン交換水100mlとアセトニトリル(ATN)100mlを混合して混合溶媒を得る。和光純薬製の試薬特級NaIをイオン交換水に溶解し100mM/lに調整する。この溶液を、2mlエッペンドルフではかりとり、前記の混合溶媒に加える。得られたNaI濃度が1mM/lの溶液をカチオン化剤とした。
【0071】
前記で得られた試料について、前記の各カチオン化剤を用い、以下に示す測定条件で、GPC/ESIMS測定を行った。
前記で得られた試料について、カチオン化剤(NaOH水溶液)を用い、GPC/ESIMS測定を行った(実施例3)。又、本発明の有効性を示すために、カチオン化剤(NaI水溶液)を用い、同様な条件でGPC/ESIMS測定を行った(比較例2)。
【0072】
[GPC測定条件]
カラムを、TSKgelSuperHZ 4.6mmφ×150mm(4000×4+3000+2500×2)とした以外は、実施例1と同条件。
[ESIMS測定条件]
Vcap電圧を4500Vとし、カチオン化剤のポストカラム添加速度を0.05ml/分とした以外は、実施例1と同条件。
【0073】
[測定及び測定結果]
GPC法の測定は、実施例1と同様に、それぞれのカチオン化剤について1回、計2回行った。図7に、溶出時間58分〜59分間の積算平均スペクトルを示す。実施例1の場合と同様に、同一成分が溶出しているにも関わらず、カチオン化剤の異なる各測定で、スペクトルに違いが見られる。NaI水溶液添加のスペクトル(図7(a))は、m/zが小さい側のピークが大きく、一方NaOH水溶液添加のスペクトル(図3(b))は、m/zが大きい側のピークが大きい。m(分子量)は、両測定ともほぼ同じと考えられるので、NaI水溶液添加の場合はz(価数)が大きいときに大きなピークが得られ、一方、NaOH水溶液添加の場合はz(価数)が小さいときに大きなピークが得られることが明らかである。すなわち、図7の結果は、NaI水溶液添加の場合は、高次のイオン(多価イオン)が生成しやすく、一方NaOH水溶液添加の場合は、高次のイオン(多価イオン)が生成しにくいことを示している。実施例1におけるNaIとKOHの関係と同様に、高次のイオンの生成しやすいNaIはNaOHに比べて高分子量成分のスペクトルが複雑になり解析が困難になる。
【0074】
実施例1に倣い、高次のイオンの生成のしやすさを数値的に比較するため、GPC/ESIMSの測定結果に基づき、PMMAの分子サイズ(n数)と多価イオンの検出強度(MSクロマトグラムの面積)との関係をグラフにしたものが図8である。図8より明らかなように、NaI水溶液添加時の3価イオン(図8)は、MMA47ユニット程度を有する分子が最大強度で検出されているのに対して、NaOH水溶液添加時は56ユニット程度の時、最大となっている。すなわち、NaI水溶液添加時3価イオンは16〜17ユニットに1個割合でNaが付加しているのに対して、NaOH水溶液添加時は18〜19ユニットに1個の割合で、Na+が付加していることになる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明のGPC/ESIMS測定の流れを示すフロー図である
【図2】実施例1、比較例1で得られたGPCクロマトグラムである。
【図3】実施例1、比較例1で得られた、GPC/ESIMS測定により得られたMSスペクトルである。
【図4】分子サイズと多価イオンの検出強度の関係を示すグラフである。
【図5】実施例1、比較例1で得られた、GPC/ESIMS測定により得られたMSスペクトルである。
【図6】実施例2で得られた、トータルイオンクロマトグラムである。
【図7】実施例3、比較例2で得られた、GPC/ESIMS測定により得られたMSスペクトルである。
【図8】実施例3、比較例2における、分子サイズと多価イオンの検出強度の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化カリウム及びKOHの混合物、ハロゲン化カリウム、NaOH、KOH、RbOH、並びにCsOHからなる群から選ばれる1種と、水との混合溶液であることを特徴とするESI用カチオン化剤。
【請求項2】
前記溶液が、KCl及びKOHから選ばれる少なくとも1種の化合物、又はNaOH、と水との混合溶液であることを特徴とする請求項1に記載のESI用カチオン化剤。
【請求項3】
前記カチオン化剤が、水と任意の割合で混合する有機溶媒をさらに含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のESI用カチオン化剤。
【請求項4】
前記カチオン化剤が、水を10重量%以上含むことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のESI用カチオン化剤。
【請求項5】
前記カチオン化剤において、ハロゲン化カリウム及びKOHの合計の濃度、NaOHの濃度、RbOHの濃度、又は、CsOHの濃度が、0.1〜100mM/lであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のESI用カチオン化剤。
【請求項6】
測定試料をカラムに通液してSEC分離を行い、カラムより溶出後の試料を含む移動相に、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のESI用カチオン化剤を添加した後、ESI法により試料をイオン化し、イオン化された試料の質量分析を行うことを特徴とするSEC/ESIMS測定方法。
【請求項7】
SEC分離がGPC分離であることを特徴とする請求項6に記載のSEC/ESIMS測定方法。
【請求項8】
前記ESI用カチオン化剤を添加した後の移動相における、ハロゲン化カリウム及びKOHの合計の濃度、NaOHの濃度、RbOHの濃度、又は、CsOHの濃度が、1μM/l〜10mM/lであり、かつESI法に供せられる試料を含む移動相の流速が0.1〜2.0ml/分であることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のSEC/ESIMS測定方法。
【請求項9】
移動相が、炭化水素類、エーテル類、ニトリル類、アルコール類、エステル類からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒であることを特徴とする請求項6ないし請求項8のいずれかに記載のSEC/ESIMS測定方法。
【請求項10】
測定試料のSEC分離を行うSEC分離装置、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のESI用カチオン化剤の貯槽、該貯槽内のカチオン化剤を、前記SEC分離装置より溶出した試料と混合するため送液するカチオン化剤送液手段、前記溶液と混合された試料をイオン化するESI装置、及びイオン化された試料の質量分析を行う質量分析装置を有することを特徴とするSEC/ESIMS測定装置。
【請求項11】
カチオン化剤送液手段が、SEC分離装置による試料の採取時期に基づいて作動することを特徴とする請求項10に記載のSEC/ESIMS測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−53131(P2006−53131A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−201981(P2005−201981)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】