説明

EUVLマスクの加工方法

【課題】吸収層56のパターンを精度よく加工することが可能な、EUVLマスク50の加工方法を提供する。
【解決手段】EUVLマスク50における吸収層56に、フッ化キセノンガス71を供給しつつイオンビーム20Aを照射して、吸収層56の黒欠陥60をエッチングするエッチング工程を有するEUVLマスクの加工方法であって、エッチング工程の後に、吸収層56に酸化剤ガス72を供給する酸化剤供給工程を有し、エッチング工程と酸化剤供給工程とを交互に複数回実施することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EUVLマスクの加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの高密度化には、露光光源の短波長化が不可欠である。そのため、波長13.5nmの極端紫外線光を用いたリソグラフィ技術(Extreme Ultra Violet Lithography;EUVL)が開発されている。なお現状では、EUV光を透過するレンズが存在しない。そのためEUVLマスクは、EUV光を反射してレジストを露光する。すなわち、従来のフォトマスクが透過型マスクであるのに対し、図7(b)に示すEUVLマスク50は反射型マスクである。フォトマスクのガラス基板がEUVLマスク50の反射層52に相当し、フォトマスクの遮光層がEUVLマスク50の吸収層56およびその酸化層58に相当する。EUVLマスク50では、反射層52としてMo/Si多層膜が用いられ、吸収層56としてTaBN等のTa化合物が用いられている。なお反射層52と吸収層56との間には、Siキャップ層54aと、CrNからなるバッファ層54bとが形成されている。
【0003】
図7は従来技術による黒欠陥修正技術の説明図であり、図7(a)は部分平面図であり、図7(b)は図7(a)のB−B線における側面断面図である。図7(a)に示すように、EUVLマスク50では、吸収層56および酸化層58が所定パターンからはみ出して、黒欠陥60が形成される場合がある。このようなEUVLマスクを用いてリソグラフィを行うと、黒欠陥60ではEUV光が反射されないため、露光されたウェーハ上のパターンが設計値からずれることになり、デバイス性能の低下または不良や、ずれが大きいときには配線のショートもしくは断線が起こることになる。そのような事態を避けるために、EUVLマスクの黒欠陥の修正技術が特許文献1に開示されている。この技術は、ガス銃から弗化キセノンのようなエッチングガスを供給しながら、イオンビームを選択的に照射して、黒欠陥の除去加工を行うものである。この技術では、ハロゲン系のアシストガスの増速効果により、Mo/Si多層膜へのオーバーエッチを最小限に留めることができる。
【特許文献1】特開2005−260057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ハロゲン化キセノンにより黒欠陥60を除去する過程で、図7に示すように吸収層56が等方的にエッチングされる。これにより、吸収層56の側面がサイドエッチングされて、吸収層56のパターン精度が低下するという問題がある。吸収層56におけるサイドエッチングの形成部分57では、EUV光の吸収性能が低下する。このEUVLマスクを用いてリソグラフィを行うと、露光されたウェーハ上のパターンが設計値からずれることになり、デバイス性能の低下または不良を招くことになる。
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、EUVLマスクの吸収層のパターンを精度よく加工することが可能な、EUVLマスクの加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の問題を解決するために、本発明のEUVLマスクの加工方法は、EUVLマスクにおける吸収層に、ハロゲン化キセノンガスを供給しつつ荷電粒子ビームを照射して、前記吸収層の少なくとも一部をエッチングするエッチング工程を有するEUVLマスクの加工方法であって、前記エッチング工程の後に、前記吸収層に酸化剤を供給する酸化剤供給工程を有し、前記エッチング工程と前記酸化剤供給工程とを交互に複数回実施することを特徴とする。
この発明によれば、エッチング工程において新たに露出した吸収層の側面に、酸化剤供給工程において側面酸化層を形成することができる。なおハロゲン化キセノンガスは、EUVLマスクの吸収層およびその酸化層に対してエッチング選択性を有する。またハロゲン化キセノンガスによる化学的エッチングが等方性エッチングであるのに対し、荷電粒子ビームによる物理的エッチングは異方性エッチングであり、全体として異方性エッチングが支配的となる。そのため次のエッチング工程では、吸収層の側面酸化層を残しつつ、吸収層の上面をエッチングすることができる。また、エッチング工程と酸化剤供給工程とを交互に複数回実施することにより、1回のエッチング工程が短時間になる。これにより、各エッチング工程において新たに露出する吸収層の側面がエッチングされるのを最小限に留めることができる。以上により、吸収層のサイドエッチングを抑制することが可能になり、吸収層のパターンを精度よく加工することができる。
【0007】
また前記酸化剤は、水であることが好ましい。
この発明によれば、吸収層に対して確実に側面酸化層を形成することができる。なおエッチング工程においてハロゲン化キセノンガスを、酸化剤供給工程において水を、それぞれ別々に供給するので、ハロゲン化キセノンガスが水によって分解されるのを防止することができる。
【0008】
また、本発明の他のEUVLマスクの加工方法は、EUVLマスクにおける吸収層に、ハロゲン化キセノンガスを供給しつつ荷電粒子ビームを照射して、前記吸収層の少なくとも一部をエッチングするエッチング工程を有するEUVLマスクの加工方法であって、前記エッチング工程では、前記ハロゲン化キセノンガスとともに酸化剤を供給することを特徴とする。
この発明によれば、新たに露出する吸収層の側面に側面酸化層を形成しつつ、吸収層の上面のエッチングを進行させることが可能になる。すなわち、吸収層の側面を常に酸化層で保護することが可能になり、吸収層のサイドエッチングを確実に防止することができる。これにより、吸収層のパターンを極めて精度よく加工することができる。
【0009】
また前記酸化剤は、オゾンガスであることが好ましい。
この発明によれば、吸収層に対して確実に側面酸化層を形成することができる。またハロゲン化キセノンガスおよび酸化剤を交互に供給する場合と比べて、製造工程を簡略化することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のEUVLマスクの加工方法によれば、吸収層に側面酸化層を形成しつつ吸収層の上面をエッチングすることで、吸収層のサイドエッチングを抑制することが可能になり、吸収層のパターンを精度よく加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
(マスク加工装置)
図1はマスク加工装置の概略構成を示す模式的な斜視図であり、図2は断面図である。図1および図2に示すように、本実施形態のマスク加工装置100は、集束イオンビーム(Focused Ion Beam;FIB)を照射してマスクの欠陥修正を行うものであり、イオンビーム照射系20と、試料ステージ16と、真空室13と、二次荷電粒子検出器18と、ガス銃11とを備えている。真空室13は、内部を所定の真空度まで減圧可能になっており、上記の各構成品はそれらの一部または全部が真空室13内に配置されている。試料ステージ16は、試料Waが載置される試料台14をXY2軸で移動可能に支持している。
【0012】
図1に示すように、イオンビーム照射系20は、集束イオンビーム鏡筒を備えており、真空室13内に配置された試料ステージ16上に載置された試料Waに対してイオンビーム20Aを照射するものである。試料Waは、修正対象であるEUVLマスクからなる。
図2に示すように、イオンビーム照射系20の概略構成は、イオンを発生させるとともに流出させるイオン源21と、イオン源21から引き出されたイオンを集束イオンビームであるイオンビーム20Aに成形するイオン光学系25とを備えている。
【0013】
イオン源21は、例えば、液体ガリウムであり、図示しないフィラメントが設けられていて、フィラメント電源と接続されている。このため、イオン源21は、フィラメントによって熱せられて常に液体状態に保たれ、周辺に生じる電位差によってガリウムイオン(Ga)を放出可能な状態になっている。
【0014】
イオン光学系25は、例えば、イオン源21側から真空室13側に向けて順に、イオンビームを集束するコンデンサーレンズと、イオンビームを絞り込む絞りと、イオンビームの光軸を調整するアライナと、イオンビームを試料に対して集束する対物レンズと、試料上でイオンビームを走査する偏向器とを備えて構成される。
【0015】
また真空室13内には、二次荷電粒子検出器18と、ガス銃11とが設けられている。
二次荷電粒子検出器18は、イオンビーム照射系20から試料Waへイオンビーム20Aが照射された際に、試料Waから発せられる二次電子や二次イオンを検出するものである。
【0016】
ガス銃11は、イオンビーム20Aによるエッチングのエッチングレートを高めるためのエッチングアシストガスや、白欠陥を修正するための吸収層原料用のデポジション用ガス、後述する酸化剤ガス等を、同時または順次に試料Waに供給するものである。このガスの種類は、修正すべき欠陥の種類に応じて、工程ごとに適宜選定することができる。
例えば、ガス銃11からエッチングアシストガスを供給しながら、試料Waにイオンビーム20Aを照射することで、ガスアシストエッチングを行うことができる。これにより、イオンビーム20Aの物理的なスパッタのみによる場合に比べて、試料Waのエッチング速度(エッチングレート)を高めることができる。
また、ガス銃11からデポジション用ガスを供給しながら、試料Waにイオンビーム20Aを照射すれば、ガスアシストデポジションを行うことができる。これにより、試料Wa上に金属や絶縁体の堆積物あるいは成膜物を形成することができる。
【0017】
また、マスク加工装置100は、当該装置を構成する各部を制御する制御装置30を備えている。制御装置30は、イオンビーム照射系20、二次荷電粒子検出器18、および試料ステージ16と電気的に接続されている。また、二次荷電粒子検出器18からの出力に基づき試料Waの映像を表示する表示装置38を備えている。
【0018】
制御装置30は、マスク加工装置100の制御全般を行うものであり、少なくとも、二次荷電粒子検出器18でそれぞれ検出された二次電子もしくは二次イオンである二次荷電粒子40の出力を輝度信号に変換して画像データを生成する画像取得部と、この画像データを表示装置38に出力する表示制御部とを含んでいる。これにより表示装置38は、上述した試料Waの映像を表示できるようになっている。
また、制御装置30は画像処理部を備えている。画像処理部は、生成された画像データに画像処理を施して試料Waの形状情報を取得し、例えば試料Waの正常な形状情報と比較するなどして欠陥を抽出し、欠陥の種類、位置、大きさなどの欠陥情報を取得する。このため制御装置30では、試料Waにイオンビーム20Aを照射した際に発生する二次荷電粒子40の出力を利用して、試料Waの欠陥修正前後の形状を解析することができるようになっている。
また、制御装置30は、ソフトウェアの指令やオペレータの入力に基づいて試料ステージ16を駆動し、試料Waの位置や姿勢を調整する。これにより、試料表面におけるイオンビーム20Aの照射位置を調整できるようになっている。
【0019】
(第1実施形態)
次に、前記マスク加工装置を用いたEUVLマスクの加工方法について説明する。
図3はEUVLマスクの説明図であり、図3(a)は部分平面図であり、図3(b)は図3(a)のA−A線における側面断面図である。図3(b)に示すように、EUVLマスク50は、石英等の基板(不図示)の表面全体に形成されたEUV光を反射する反射層52と、反射層52の表面に所定パターンに形成されたSiキャップ層54a、バッファ層54bおよび吸収層56を備えている。反射層52は、約4nmのMo層および約3nmのSi層を交互に40層程度に積層したものである。
【0020】
反射層52の表面には、Siキャップ層54aと、CrNからなるバッファ層54bとが形成されている。バッファ層54bの表面には、吸収層56が形成されている。吸収層56は、EUV光を吸収するTaBNやTaGeN等のTa化合物で構成されている。なお吸収層56の表面(および側面)を安定化させるため、吸収層56の表面(および側面)に酸化層58が形成されている。なおSiキャップ層は10nm程度、CrNバッファ層54bは10〜20nm程度、吸収層56は40〜50nm程度、酸化層は20〜30nm程度の厚さに形成されている。
【0021】
このEUVLマスク50に対して、波長13.5nmのEUV光を照射すると、吸収層56および酸化層58の形成領域ではEUV光が吸収され、反射層52の露出領域ではEUV光が反射される。反射されたEUV光をレジストに照射することにより、レジストを所定パターンに露光することができる。
【0022】
(EUVLマスクの加工方法)
ところで図3(a)に示すように、吸収層56および酸化層58が所定パターンからはみ出して黒欠陥60が形成される場合がある。このようなEUVLマスクを用いてリソグラフィを行うと、黒欠陥60ではEUV光が反射されないため、露光されたウェーハ上のパターンが設計値からずれることになり、デバイス性能の低下または不良や、ずれが大きいときには配線のショートもしくは断線が起こることになる。そこで、上述したマスク加工装置を用いて黒欠陥を除去する加工を行う。
【0023】
まず、図1に示すマスク加工装置における真空室13の試料台14上に、試料WaとしてEUVLマスクを載置する。次に真空室13の内部を減圧する。
次に、EUVLマスクの欠陥情報を取得する観察工程を行う。観察工程では、ガス銃11からのガス供給を停止した状態で、イオンビーム照射系20からEUVLマスクに対して、エッチングが起こらない程度の出力のイオンビーム20Aを照射する。これにより、図2に示すようにEUVLマスクの吸収層から二次荷電粒子40が放射され、放出された二次荷電粒子40が二次荷電粒子検出器18によって検出される。
【0024】
制御装置30は、二次荷電粒子検出器18による二次荷電粒子の検出状態に基づいてEUVLマスクの画像データを取得する。制御装置30では、この画像データと、正常なEUVLマスク上に形成される吸収層パターンの画像データとを比較することによって、黒欠陥の位置や大きさなどの欠陥情報を取得することができる。
また、この画像データは表示装置38に拡大表示される。そのため、マスク加工装置100のオペレータは、表示装置38を通して黒欠陥およびその近傍の様子を観察することができる。
【0025】
次に、EUVLマスクの黒欠陥を除去する欠陥修正工程を行う。
図4および図5は、本実施形態に係るEUVLマスクの加工方法における黒欠陥修正工程の工程図である。なお図4および図5では、図面を見やすくするため、EUVLマスクのSiキャップ層およびバッファ層の記載を省略している。まず図4(a)に示すように、ガス銃11からエッチングアシストガス71を供給するとともに、イオンビーム照射系20からイオンビーム20Aを照射して、黒欠陥60をエッチングする(第1エッチング工程)。
【0026】
エッチングアシストガス(以下、単に「アシストガス」という。)71は、吸収層56を構成するTa化合物をエッチングしうるガスであり、フッ化キセノン(XeF)や塩素(Cl2)等のハロゲン系のガスを採用することが可能である。本実施形態では、アシストガスとしてフッ化キセノンガスを採用する。アシストガスを供給することによりエッチングレートを向上させることが可能になるため、EUVLマスクの反射層がイオンビーム20Aによりオーバーエッチングされるのを防止することができる。
【0027】
またイオンビーム20Aは、10〜30kVの加速電圧を印加して、黒欠陥60の範囲のみに照射する。必要に応じて、イオンビーム20Aの照射位置を移動させながら、黒欠陥60の全体にイオンビーム20Aを照射する。
【0028】
第1エッチング工程では、イオンビーム20Aによる物理的エッチングと、アシストガス71による化学的エッチングとの相互作用により、酸化層58および吸収層56をエッチングする。ここでは、まず上面の酸化層58が除去されて吸収層56が露出する。なお、アシストガスによる化学的エッチングが等方性エッチングであるのに対し、イオンビーム20Aによる物理的エッチングは異方性エッチングであり、全体として異方性エッチングが支配的となる。そのため、吸収層56の上面の酸化層58のみが除去され、側面の酸化層は残留する。
【0029】
さらに第1エッチング工程では、吸収層56がエッチングされてその側面が露出する。上述したように、アシストガス71による化学的エッチングは等方性エッチングであるため、第1エッチング工程を長時間継続すると、露出した吸収層56の側面がサイドエッチングされる。その結果、図7(b)に示すようなアンダーカット57が発生することになる。そこで本実施形態では、吸収層56の一部がエッチングされた段階で第1エッチング工程を終了する。このように、第1エッチング工程を短時間とすることで、新たに露出する吸収層56の側面がサイドエッチングされるのを最小限に留めることができる。
【0030】
次に図4(b)に示すように、ガス銃11から酸化剤ガス72を供給する(第1酸化剤供給工程)。酸化剤ガスは、酸素原子を含むガスであり、好ましくは水酸基を含むガスである。このような酸化剤ガスとして、本実施形態では水(HO)を採用する。また水酸基を含む材料としてアルコールを採用することも可能である。なお真空室の内部は減圧されているので、液体の水を供給しても直ちに蒸発して水蒸気になる。なお、第1酸化剤供給工程ではイオンビームを照射しない。
第1酸化剤供給工程では、酸化剤ガス72により、新たに露出した吸収層56のうち、少なくとも吸収層56の側面を酸化する。具体的には、吸収層56の側面を酸化して側面酸化層56bを形成するとともに、吸収層56の上面を酸化して上面酸化層56aを形成する。
【0031】
次に図5(c)に示すように、ガス銃11からアシストガス71を供給するとともに、イオンビーム照射系20からイオンビーム20Aを照射して、黒欠陥60をエッチングする(第2エッチング工程)。その具体的な内容は第1エッチング工程と同様である。第2エッチング工程でも異方性エッチングが支配的となるため、側面酸化層56bが残留しつつ、上面酸化層56aが除去されて吸収層56の上面が露出する。
【0032】
さらに第2エッチング工程では、吸収層56がエッチングされる。ここでアシストガス71は、酸化層および吸収層に対してエッチング選択性を有し、酸化層のエッチングレートより吸収層のエッチングレートが大きくなる。吸収層56の上半部には側面酸化層56bが形成されているので、上半部の側面をサイドエッチングすることなく、下半部の上面のみをエッチングすることができる。また第1エッチング工程と同様に第2エッチング工程を短時間とすることで、新たに露出する吸収層56の下半部の側面がサイドエッチングされるのを最小限に留めることができる。
【0033】
次に図5(d)に示すように、ガス銃11から酸化剤ガス72を照射する(第2酸化剤供給工程)。その具体的な内容は、第1酸化剤供給工程と同様である。第2酸化剤供給工程では、酸化剤ガス72により、新たに露出した吸収層56の表面のうち少なくとも吸収層56の側面を酸化して、側面酸化層56cを形成する。
このように、エッチング工程および酸化剤供給工程を交互に複数回実施する。例えば、エッチング工程および酸化剤供給工程を1分間ずつ交互に実施する。
【0034】
本実施形態では、第1および第2エッチング工程により黒欠陥を全て除去したが、より多くのエッチング工程を経て黒欠陥を除去することが望ましい。この場合でも、エッチング工程と酸化剤供給工程とを交互に実施することは言うまでもない。これにより、1回のエッチング工程を極めて短時間とすることが可能になり、新たに露出する吸収層56の側面がサイドエッチングされるのを防止することができる。
また、最後のエッチング工程の後にも酸化剤供給工程を実施することが望ましい。これにより、図5(d)に示すように、黒欠陥が除去された吸収層56の側面全体に側面酸化層56b,56cを形成することが可能になり、吸収層56をフッ化キセノンに耐性のある酸化層で保護して、フッ化キセノンによるサイドエッチングを抑えることができる。
【0035】
以上に詳述したように、図4に示す本実施形態に係るEUVLマスクの加工方法では、フッ化キセノンガスを供給しつつイオンビームを照射して、吸収層56の黒欠陥60をエッチングするエッチング工程の後に、吸収層56に酸化剤ガス72を供給する酸化剤供給工程を有し、エッチング工程と酸化剤供給工程とを交互に複数回実施する構成とした。
この構成によれば、エッチング工程において新たに露出した吸収層56の側面に、酸化剤供給工程において側面酸化層56bを形成することができる。なおフッ化キセノンガスは、EUVLマスクの吸収層およびその酸化層に対してエッチング選択性を有する。またフッ化キセノンガスによる化学的エッチングが等方性エッチングであるのに対し、イオンビームによる物理的エッチングは異方性エッチングであり、全体として異方性エッチングが支配的となる。そのため次のエッチング工程では、吸収層56の側面酸化層56bを残しつつ、吸収層56の上面をエッチングすることができる。また、エッチング工程と酸化剤供給工程とを交互に複数回実施することにより、1回のエッチング工程が短時間になる。これにより、各エッチング工程において新たに露出する吸収層56の側面がサイドエッチングされるのを最小限に留めることができる。以上により、吸収層56のサイドエッチングを抑制することが可能になり、吸収層56のパターンを精度よく加工することができる。
【0036】
特に本実施形態では、エッチング工程においてフッ化キセノンガス71を、酸化剤供給工程において酸化剤ガス72を、それぞれ別々に供給する構成とした。この構成によれば、同時供給した場合にフッ化キセノンガス71を分解する酸化剤ガス72を採用することも可能になる。例えば、水酸基を有する水やアルコール等の物質は、フッ化キセノンガス71と同時供給した場合にフッ化キセノンガス71を分解する。しかしながら、水酸基を有する物質は、吸収層56に局所的に付着して酸化作用を発揮するため、少量で有効な酸化剤として機能する。本実施形態では、このような酸化剤ガス72を採用することで、吸収層56の側面に確実に側面酸化層56bを形成することができる。したがって、吸収層56のサイドエッチングを抑制することが可能になり、吸収層56のパターンを極めて精度よく加工することができる。
【0037】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係るEUVLマスクの加工方法について説明する。第2実施形態では、エッチング工程においてフッ化キセノンガスとともに酸化剤を同時供給する点で、第1実施形態と相違している。なお第1実施形態と同様の構成となる部分については、その詳細な説明を省略する。
【0038】
図6は、本実施形態に係るEUVLマスクの加工方法における黒欠陥修正工程の工程図である。なお図6では、図面を見やすくするため、EUVLマスクのSiキャップ層およびバッファ層の記載を省略している。図6(a)に示すように、黒欠陥修正工程では、フッ化キセノンガス71を供給しつつイオンビーム20Aを照射して、吸収層56および酸化層58の黒欠陥60をエッチングするエッチング工程を行う。ここでは、酸化層58に続けて吸収層56がエッチングされる。
【0039】
このエッチング工程では、ガス銃11から、フッ化キセノンガス71とともに酸化剤ガス72を供給する。酸化剤ガス72は酸素原子を含むガスであって、イオンビーム20Aの照射により活性酸素を発生させるガスである。また酸化剤ガス72は、フッ化キセノンとともに供給されるので、フッ化キセノンを分解しないことが必要である。このような酸化剤ガスとして、本実施形態ではオゾンガス(O)を採用する。なおリモートプラズマにより活性化した酸素ガスを供給してもよい。これにより、新たに露出する吸収層56の側面に側面酸化層56bを形成しつつ、吸収層56の上面のエッチングを進行させることが可能になる。すなわち、吸収層56の側面を常に側面酸化層56bで保護することが可能になり、吸収層56の側面がサイドエッチングされるのを確実に防止することができる。
このエッチング工程を継続して実施し、図6(b)に示すように、黒欠陥60の全体を除去する。なお吸収層56の側面全体に側面酸化層56bが形成された状態で、エッチング工程を終了することができる。
【0040】
以上に詳述したように、図6に示す本実施形態に係るEUVLマスクの加工方法では、フッ化キセノンガス71を供給しつつイオンビーム20Aを照射して吸収層56の黒欠陥60をエッチングするエッチング工程において、フッ化キセノンガス71とともに酸化剤ガス72を供給する構成とした。
この構成によれば、吸収層56の上面をエッチングする際に、その側面を常に側面酸化層56bで保護することが可能になり、吸収層56の側面がサイドエッチングされるのを確実に防止することができる。これにより、吸収層56のパターンを極めて精度よく加工することができる。またフッ化キセノンガス71および酸化剤ガス72を交互に供給する場合と比べて、製造工程を簡略化することができる。
【0041】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な材料や層構成などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態ではEUVLマスクに照射する荷電粒子ビームとしてイオンビームを採用したが、電子ビームを採用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】マスク加工装置の概略構成を示す模式的な斜視図である。
【図2】マスク加工装置の概略構成を示す模式的な断面図である。
【図3】(a)はEUVLマスクの部分平面図であり、(b)は(a)のA−A線における側面断面図である。
【図4】第1実施形態に係るEUVLマスクの加工方法における黒欠陥修正工程の工程図である。
【図5】第1実施形態に係るEUVLマスクの加工方法における黒欠陥修正工程の工程図である。
【図6】第2実施形態に係るEUVLマスクの加工方法における黒欠陥修正工程の工程図である。
【図7】従来技術に係るEUVLマスクの加工方法における黒欠陥修正工程の工程図である。
【符号の説明】
【0043】
20A…イオンビーム(荷電粒子ビーム) 50…EUVLマスク 56…吸収層 60…黒欠陥 71…フッ化キセノンガス 72…酸化剤ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
EUVLマスクにおける吸収層に、ハロゲン化キセノンガスを供給しつつ荷電粒子ビームを照射して、前記吸収層の少なくとも一部をエッチングするエッチング工程を有するEUVLマスクの加工方法であって、
前記エッチング工程の後に、前記吸収層に酸化剤を供給する酸化剤供給工程を有し、
前記エッチング工程と前記酸化剤供給工程とを交互に複数回実施することを特徴とするEUVLマスクの加工方法。
【請求項2】
前記酸化剤は、水であることを特徴とする請求項1に記載のEUVLマスクの加工方法。
【請求項3】
EUVLマスクにおける吸収層に、ハロゲン化キセノンガスを供給しつつ荷電粒子ビームを照射して、前記吸収層の少なくとも一部をエッチングするエッチング工程を有するEUVLマスクの加工方法であって、
前記エッチング工程では、前記ハロゲン化キセノンガスとともに酸化剤を供給することを特徴とするEUVLマスクの加工方法。
【請求項4】
前記酸化剤は、オゾンガスであることを特徴とする請求項3に記載のEUVLマスクの加工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−210805(P2009−210805A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53592(P2008−53592)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】