説明

FBGひずみセンサ

【課題】雰囲気温度に応じた温度補償を行いつつ、小型化することを実現したFBGひずみセンサを提供することを目的とする。
【解決手段】FBGひずみセンサ1は、FBG3が形成された光ファイバ2と、光ファイバ2を被測定部Wに固定するための温度補償部材11とを備えている。光ファイバ2と温度補償部材11とは、これらが当接する全面において接着剤12によって固定されている。一方、温度補償部材11と被測定部Wとは、温度補償部材11の両端部において接着剤13によって固定されている。温度補償部材11は、光ファイバ2の熱膨張係数に対して正負が逆となる値の熱膨張係数を有する材料から形成されており、ひずみ量の測定時において、雰囲気温度に応じたFBG3の熱膨張と光ファイバ2の屈折率変化との影響による反射光L2の波長のシフト量を相殺可能となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被測定物のひずみ量を測定するFBGひずみセンサに係り、特に、測定時の雰囲気温度に応じた温度補償を行うための構成に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ひずみ量を測定するひずみセンサとして、FBG(ファイバ・ブラッグ・グレーティング)を用いたFBGひずみセンサが用いられる。FBGとは、光ファイバのコアの屈折率を軸方向に沿った所定の長さ周期で変化させた回折格子であり、入射光に対して特定の波長(ブラッグ波長)の光のみを反射し、残りの光を透過するという特性を有している。FBGにひずみが発生すると回折格子の長さ周期が変化し、それに伴ってブラッグ波長も変化するため、ブラッグ波長の変化量に基づいてひずみ量を計測することが可能となる。ここで、FBGのブラッグ波長は、雰囲気温度によって変化するという特性も有している。したがって、正確なひずみ量を計測するためには、雰囲気温度に応じた温度補償を行うことが必要となる。
【0003】
例えば特許文献1には、一対のバイメタル部材を用いて温度補償を行うFBG式変換器(FBGひずみセンサ)が開示されている。これによれば、被測定物の表面上の二箇所には、バイメタル部材を被測定物に固定するための固定金具が取り付けられている。固定金具は、被測定物側である下端側が二股状となるように形成されており、この二股の間に光ファイバが通されている。一方、固定金具の上端側における側部には、下方側に開口した略U字状のバイメタル部材の一端が固定されている。バイメタル部材の他端は、二つの固定金具の内側に向かって延びる自由端となっており、一対のバイメタル部材の自由端に光ファイバがそれぞれ固定されている。尚、光ファイバに形成されたFBGは、バイメタル部材の自由端と光ファイバとの二箇所の固定部の間に配置されている。また、バイメタル部材のたわみ方向は、雰囲気温度が上昇すると互いに接近し、雰囲気温度が下降すると互いに離間するように設定されている。すなわち、特許文献1に記載のFBG式変換器は、被測定物とFBGとの間にバイメタル部材を介在させ、雰囲気温度に応じたバイメタル部材のたわみを利用して回折格子の長さ周期を変化させることにより、雰囲気温度に起因するブラッグ波長の変化を相殺するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−287435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のひずみセンサでは、被測定物と光ファイバとの間に固定金具及びバイメタル部材を介在させることを必要としている。固定金具は、光ファイバを通すための二股を下端側に有し、且つ上端側にバイメタルを固定しているため、高さ方向、すなわち被測定物の表面に対して垂直な方向に突出した形状となっている。また、バイメタルは逆向きのU字状となっているため、固定金具の上端部からさらに上方側に突出した状態となっている。すなわち、特許文献1に記載のひずみセンサでは、高さ方向における寸法が必然的に大きくなるため、ひずみセンサを小型化することが困難であるという問題点を有していた。
【0006】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、雰囲気温度に応じた温度補償を行いつつ、小型化することを実現したFBGひずみセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るFBGひずみセンサは、被測定部から印加されるひずみ量に応じて、入射光に対する反射光の波長と入射光に対する透過光の波長とを変化させるFBGを有する光ファイバを備え、反射光の波長の変化量または透過光の波長の変化量に基づいて、被測定部のひずみ量を測定するFBGひずみセンサにおいて、一方の面にFBGが固定され、他方の面を被測定部に固定可能な平板状の温度補償部材をさらに備え、温度補償部材は、光ファイバの熱膨張係数に対して正負が逆の値の熱膨張係数を有する材料から形成されることを特徴とするものである。
【0008】
被測定部と光ファイバとの間に、光ファイバの熱膨張係数に対して正負が逆の値の熱膨張係数を有する温度補償部材を設けたので、ひずみ量の測定時における雰囲気温度に起因して発生するFBGの熱膨張が温度補償部材の熱膨張によって相殺されるため、被測定部から印加されるひずみ量を正確に計測することができる。また、被測定部と光ファイバとの間に介在するのは平板状の温度補償部材のみであるため、被測定部の表面に対して垂直な方向における寸法が大きくなることもない。したがって、FBGひずみセンサにおいて、雰囲気温度に応じた温度補償を行いつつ、小型化することが可能となる。
【0009】
温度補償部材の熱膨張係数は、ひずみ量の測定時において光ファイバが熱膨張すること、及びひずみ量の測定時において光ファイバの屈折率が変化することによる反射光の波長の変化量または透過光の波長の変化量を相殺可能であってもよい。雰囲気温度に応じてFBGが熱膨張することの影響に加え、光ファイバの屈折率が雰囲気温度に応じて変化することの影響も相殺されるため、より正確にひずみ量を測定することが可能となる。
【0010】
被測定部に対して温度補償部材を固定可能な一対の取り付け部材をさらに備え、一対の取り付け部材は、FBGの長さ以上の間隔をおいて他方の面に配置されており、FBGは、一方の面において間隔の内側に対応する部位に配置されてもよい。
温度補償部材の熱膨張係数は、負の値であってもよい。
光ファイバ及び温度補償部材は長手方向をそれぞれ有し、温度補償部材の長手方向と光ファイバの長手方向とが互いに沿うように配置されてもよい。
一対の取り付け部材は、温度補償部材の両端部に配置されてもよい。
【0011】
また、上記FBGひずみセンサを用いて車両の衝突を検知する車両用衝突センサであって、車両は複数の被測定部を有し、光ファイバは複数の被測定部に設けられる複数のFBGを有し、複数の被測定部の少なくとも1つから対応するFBGに印加されるひずみ量に基づいて、車両の衝突を検知する車両用衝突センサとしてもよい。一本の光ファイバを車両内に引き回せば、温度補償を行いつつ車両の衝突を複数個所で検知することが可能となるため、簡単な構成で車両用衝突センサを構築することができる。また、車両内の狭い部位にセンサを配置することも容易である。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、FBGを用いたひずみセンサにおいて、雰囲気温度に応じた温度補償を行いつつ、小型化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係るFBGひずみセンサの構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】実施の形態1に係るFBGひずみセンサにおけるFBGの構成を示す概略図である。
【図3】この発明の実施の形態2に係るFBGセンサを用いた車両用衝突センサの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、この発明の実施の形態について添付図に基づいて説明する。
実施の形態1.
図1に、この発明の実施の形態1に係るFBGひずみセンサ1を概略的に示す。FBGひずみセンサ1は、光ファイバ2を利用して被測定部Wに発生するひずみを測定するセンサであって、光ファイバ2の一端側からは、図示しない光源から発せられる光が入射される。また、光ファイバ2は、光源からの入射光に対してブラッグ波長と呼ばれる特定の波長の光を反射するFBG(ファイバ・ブラッグ・グレーティング)3を有しており、FBG3が被測定部Wの上方側に配置されている。
【0015】
ここで、図2を参照すると、光ファイバ2は石英ガラス等から形成されており、図示しない光源からの入射光L1が伝播するコア4と、コア4の外周部を覆うクラッド5とから構成されている。FBG3は、コア4の屈折率を軸方向に沿った長さ周期Λで変化させた回折格子であり、入射光L1に対してブラッグ波長の光のみを反射光L2として反射し、残りの光を透過光L3として透過させる。
【0016】
また、FBG3における長さ周期Λは、反射光L2の波長(ブラッグ波長)を規定する要素の1つとなっており、FBG3に軸方向のひずみが発生して長さ周期Λが変化すると、それに伴ってブラッグ波長も変化する。すなわち、ひずみの発生前後におけるブラッグ波長の変化量、具体的には、反射光L2の中心波長のシフト量に基づいて、FBG3のひずみ量を測定可能となっている。尚、一例として、FBG3は、光ファイバ2のコア4に紫外線等を照射することによって形成される。
【0017】
図1に戻って、FBGひずみセンサ1は、光ファイバ2と被測定部Wとの間に設けられた平板状の温度補償部材11を備えており、光ファイバ2は、温度補償部材11を介して被測定部Wに固定される。温度補償部材11は、図1の矢印Aで示される方向を長手方向とする長方形に形成されており、その一方の面である上部表面11aに光ファイバ2が固定されるとともに、他方の面である下部表面11b側を被測定部Wに固定可能となっている。また、温度補償部材11は、その長手方向(矢印A参照)と光ファイバ2の長手方向とが互いに沿うように配置されており、温度補償部材11の上部表面11aのほぼ中央にFBG3が位置している。
【0018】
光ファイバ2と温度補償部材11の上部表面11aとは、これらが当接する全面で接着剤12によって固定されている。したがって、矢印Aで示す長手方向におけるFBG3の伸縮が、温度補償部材11によって拘束された状態となっている。一方、温度補償部材11の下部表面11bは、被測定部Wの上部表面Waに対し、長手方向に沿った両端部の二箇所で接着剤13によって固定されている。したがって、矢印Aで示す方向において被測定部Wにひずみが発生すると、そのひずみが二箇所の接着剤13を介して温度補償部材11に印加されるようになっている。また、温度補償部材11には光ファイバ2が全面的に接着され、光ファイバ2の伸縮が温度補償部材11によって拘束されているため、被測定部Wから温度補償部材11に印加されたひずみが、そのままFBG3に印加されるようになっている。
【0019】
尚、温度補償部材11の下部表面11bに設けられた接着剤13は、それらの間隔d1がFBG3の長さd2以上となるように配置されており、FBG3は、上部表面11aにおいて接着剤13同士の間隔d1の内側に対応する部位に配置されている。また、これらの接着剤13は、被測定部Wに対して温度補償部材11を固定可能とするものであり、FBGひずみセンサ1における一対の取り付け部材を構成している。
【0020】
温度補償部材11は、負の熱膨張係数を有するガラスを材料として形成されており、FBGひずみセンサ1の周囲温度、いわゆる雰囲気温度が上昇すると収縮し、逆に雰囲気温度が低下すると膨張するという特性を有している。一方、温度補償部材11に固定された光ファイバ2は正の熱膨張係数を有しており、雰囲気温度の上昇に伴って膨張し、逆に雰囲気温度が低下すると収縮するという特性を有している。尚、この実施の形態1に係るFBGひずみセンサ1では、上述したように光ファイバ2が正の値となる熱膨張係数を有し、温度補償部材11が負の値となる熱膨張係数を有するものとして説明するが、これらの熱膨張係数は、その値の正負が互いに逆となればよいものとなっている。すなわち、光ファイバ2が負の値となる熱膨張係数を有している場合においては、温度補償部材11は正の値となる熱膨張係数を有する材料から形成される。
【0021】
ここで、図2を用いて上述したように、FBG3による反射光L2の波長であるブラッグ波長は、FBG3の長さ周期Λによって規定されている。また、ブラッグ波長を規定するもう1つの要素として、光ファイバ2のコア4の屈折率が含まれており、コア4の屈折率も雰囲気温度に応じて変化する。すなわち、FBG3に対して機械的にひずみが印加された場合、反射光L2の波長を規定する要素には、機械的ひずみによる長さ周期Λの変化量の他に、FBG3が雰囲気温度に応じて熱膨張したことによる長さ周期Λの変化量と、雰囲気温度に応じたコア4の屈折率の変化量とが含まれることになる。
【0022】
図1に戻って、温度補償部材11の熱膨張係数は、FBG3が熱膨張することによる反射光L2の波長の変化量と、コア4の屈折率が変化することによる反射光L2の波長の変化量とが、温度補償部材11が熱膨張することによる反射光L2の波長の変化量によって相殺可能となるように設定されている。すなわち、被測定部Wのひずみ量測定時において雰囲気温度が上昇した場合を例としてより具体的に説明すると、雰囲気温度の上昇に応じてFBG3が伸張(矢印B1、B2参照)することによる反射光L2の波長のシフト量と、雰囲気温度の上昇に応じてコア4の屈折率が変化することによる反射光L2の波長のシフト量とは、雰囲気温度に応じて温度補償部材11が収縮(矢印C1、C2参照)することによる反射光L2のシフト量によって相殺可能となっている。したがって、被測定部Wに、光ファイバ2の軸方向に沿ったひずみ(矢印D1、D2参照)が発生している場合、FBG3の伸張とコア4の屈折率の変化とが温度補償部材11の収縮によって相殺されているため、FBG3には被測定部Wのひずみ量のみが印加される状態となっている。尚、温度補償部材11において所望される熱膨張係数は、例えば材料であるガラスの成分の調合等といった製造条件を調整することによって得ることが可能である。
【0023】
次に、この発明の実施の形態1に係るFBGひずみセンサ1を用いて、被測定部Wに発生したひずみを測定する場合の動作について説明する。
図1に示すように、まず、温度補償部材11の下部表面11bにおける両端に塗布された接着剤13により、FBGひずみセンサ1が被測定部Wの上部表面Waに固定される。次いで、光ファイバ2の一端側には、図示しない光源が接続される。また、光ファイバ2の一端側には、光源の他に、FBG3からの反射光L2(図2参照)が入力される図示しない測定器が接続される。この測定器は、被測定部Wでのひずみの発生前後における反射光L2の変化量、すなわち中心波長のシフト量に基づいて、被測定部Wのひずみ量を算出するものである。
【0024】
被測定部WにFBGひずみセンサ1が固定されると、図示しない光源から光ファイバ2に入射光L1が入射される。入射光L1に対し、FBG3はブラッグ波長の光を反射光L2として反射し、残りの光を透過光L3として透過する(図2参照)。このような状態で、図1の矢印D1、D2で示されるように被測定部Wに軸方向Aに沿ったひずみが発生すると、そのひずみが二箇所の接着剤13、温度補償部材11、接着剤12を順次介してFBG3に印加される。被測定部WのひずみがFBG3に印加されてFBG3が伸張すると、FBG3の長さ周期Λ(図2参照)も伸張するため、反射光L2の波長(ブラッグ波長)も変化する。
【0025】
ここで、光ファイバ2は正の熱膨張係数を有しているため、矢印B1、B2で示されるように、ひずみの測定時における雰囲気温度に応じて伸張した状態となっている。また、光ファイバ2のコア4(図2参照)の屈折率も、雰囲気温度に応じて変化した状態となっている。一方、温度補償部材11は、負の熱膨張係数を有しているため、矢印C1、C2で示されるように、雰囲気温度に応じて収縮した状態となっており、その収縮量は、雰囲気温度に起因してFBG3が伸張したことによる反射光L2の波長のシフト量と、コア4の屈折率が変化したことによる反射光L2の波長のシフト量とを相殺するように、反射光L2の波長をシフトさせるものとなっている。したがって、FBG3は、雰囲気温度に対する温度補償が行われた状態、すなわち被測定部WのひずみのみがFBG3に印加された状態となっており、被測定部Wのひずみ量が正確に測定される。
【0026】
このように、被測定部Wと光ファイバ2との間に、光ファイバの熱膨張係数に対して正負が逆の値の熱膨張係数を有する温度補償部材11を設けたので、被測定部Wのひずみ量の測定時における雰囲気温度に起因して発生するFBG3の熱膨張が温度補償部材11の熱膨張によって相殺され、被測定部Wから印加されるひずみ量を正確に計測することができる。また、被測定部Wと光ファイバ2との間に介在するのは平板状の温度補償部材11のみであるため、被測定部Wの表面Waに対して垂直な方向における寸法が大きくなることもない。したがって、FBGひずみセンサ1において、雰囲気温度に応じた温度補償を行いつつ、小型化することが可能となる。
【0027】
また、温度補償部材11の熱膨張係数を、ひずみ量測定時における雰囲気温度に応じて光ファイバ2が熱膨張することによる反射光L2の波長の変化量、及びひずみ量の測定時における雰囲気温度に応じて光ファイバ2の屈折率が変化することによる反射光L2の波長の変化量を相殺可能となるように設定したので、被測定部Wのひずみ量がより正確に測定される。
【0028】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2に係るFBGひずみセンサについて説明する。この実施の形態2に係るFBGひずみセンサは、車両の衝突を検知する車両用衝突センサとして適用されたものである。尚、以下に説明する実施の形態において、図1、2に示される符号と同一の符号は同一または同様な構成要素であるので、その詳細な説明は省略する。
図3に示すように、車両用衝突センサ21は、例えばエアバッグ等の機器を作動させるために車両30の衝突を検知するものであって、車両30は、例えばボディー31の前部、中間部及び後部における両側等、複数の箇所に被測定部Wを有している。
【0029】
また、ボディー31の内部には、各被測定部Wを通るように一本の光ファイバ2が引き回されており、光ファイバ2は、各被測定部Wに対応する複数の箇所に、実施の形態1と同様のFBG3を有している。各FBG3は、被測定部Wに張り付けられた温度補償部材11に固定されており、FBG3と温度補償部材11とがセンサ部22を形成している。各センサ部22は、図1に示されるFBGひずみセンサ1と同様の構成を有するものである。すなわち、車両用衝突センサ21は、実施の形態1におけるFBGひずみセンサ1をボディー31の各被測定部Wにそれぞれ設置し、それらを一本の光ファイバ2を介して接続したものである。尚、光ファイバ2の一端には、図示しない光源と、ブラッグ波長の変化を検知する図示しない検知部とが接続されている。また、検知部は、車両30の図示しない制御部に電気的に接続されており、制御部に対してブラッグ波長の検知結果を出力可能となっている。
【0030】
以上のように構成される車両用衝突センサ21において、車両30が衝突を起こして各被測定部Wの少なくとも一箇所がひずむと、ひずんだ箇所に対応するFBG3におけるブラッグ波長の変化が検知される。図示しない制御部は、ブラッグ波長が変化したことを示す信号が入力されると、車両30が衝突したと判定してエアバッグ等を作動させる。尚、車両用衝突センサ21では、実施の形態1におけるFBGひずみセンサ1と同様に、雰囲気温度に対する温度補償が行われるため、車両30内の温度変化に起因して誤作動を起こすこともない。
【0031】
このように、FBG3及び温度補償部材11を複数として車両30内の複数の被測定部Wに配置したので、一本の光ファイバ2を車両30内に引き回すだけで、温度補償を行いつつ車両30の衝突を検知することが可能となるため、簡単な構成で車両用衝突センサ21を構築することができる。また、各センサ部は、実施の形態1と同様に小型化することが可能であるため、車両30内の狭い場所にも容易に設置することができる。
【0032】
実施の形態1、2における各センサは、FBG3からの反射光L2の波長の変化量に基づいて被測定部Wのひずみ量を測定するように構成されたが、この構成に限定されるものではなく、透過光L3の波長の変化量に基づいてひずみ量を測定することも可能である。すなわち、透過光L3は、光ファイバ2に入射される入射光L1から反射光L2を除いたものとなるため、透過光L3からブラッグ波長のシフト量を求めることも可能となっている。したがって、透過光L3に基づいてひずみ量を測定するように構成した場合においても、実施の形態1、2と同様の効果を得ることができる。尚、被測定部Wのひずみ量を透過光L3に基づいて測定する場合には光ファイバ2の一端側に光源が接続され、他端側に測定器が接続される。
【0033】
実施の形態1、2における温度補償部材11は、図1の矢印Aで示される方向を長手方向とする長方形に形成されているが、温度補償部材11の形状を限定するものではない。被測定部Wのひずみ量をFBG3に印加可能であればよく、例えば、長手方向を有さない正方形や円形等の形状とすること、あるいはその他の多角形や棒状等の形状とすることも可能である。
【0034】
実施の形態1における被測定部Wは矩形の部材として図1に示されているが、被測定部Wの形状を限定するものではなく、また、本発明に係るFBGひずみセンサが被測定部Wを含むことに限定するものでもない。本発明は、被測定部に固定可能なFBGひずみセンサに関するものであり、被測定部に固定される前の状態にあるFBGひずみセンサであってもよい。
【0035】
実施の形態1、2における温度補償部材11は、FBG3が熱膨張することによる反射光L2の波長のシフト量と、コア4の屈折率が変化することによる反射光L2の波長のシフト量とを相殺可能となっているが、これらのシフト量の双方を完全に相殺することに限定するものではない。温度補償部材11の熱膨張係数と光ファイバ2の熱膨張係数との正負が互いに逆となっていれば、温度補償部材11の熱膨張は、雰囲気温度の変化に起因した反射光L2の波長のシフトを打ち消す方向に作用する。より好ましい構成としての温度補償部材11の熱膨張係数は、上述したようにFBG3の熱膨張の影響及びコア4の屈折率変化の影響の双方を完全に打ち消す、つまり相殺するものとなる。
【0036】
実施の形態1、2における温度補償部材11は、その両端部に塗布された一対の接着剤13によって被測定部Wに固定されたが、温度補償部材11と被測定部Wとの固定を接着によって行うこと、及びこれらの固定を温度補償部材の両端部となる二箇所で行うことに限定するものではない。被測定部Wに生じるひずみが温度補償部材11に印加されるように固定できればよく、例えば溶接等の他の固定方法を用いることや、両端部以外の部位を含む二箇所以上で固定することも可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 FBGひずみセンサ、2 光ファイバ、3 FBG、11 温度補償部材、11a 上部表面(温度補償部材の一方の面)、11b 下部表面(温度補償部材の他方の面)、13 接着剤(取り付け部材)、21 車両用衝突センサ、30 車両、A (光ファイバ及び温度補償部材の)長手方向、d1 取り付け部材の間隔、d2 FBGの長さ、L1 入射光、L2 反射光、W 被測定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定部から印加されるひずみ量に応じて、入射光に対する反射光の波長と前記入射光に対する透過光の波長とを変化させるFBGを有する光ファイバを備え、
前記反射光の波長の変化量または前記透過光の波長の変化量に基づいて、前記被測定部の前記ひずみ量を測定するFBGひずみセンサにおいて、
一方の面に前記FBGが固定され、他方の面を前記被測定部に固定可能な平板状の温度補償部材をさらに備え、
前記温度補償部材は、前記光ファイバの熱膨張係数に対して正負が逆の値の熱膨張係数を有する材料から形成されることを特徴とするFBGひずみセンサ。
【請求項2】
前記温度補償部材の熱膨張係数は、
前記ひずみ量の測定時において前記光ファイバが熱膨張すること、及び
前記ひずみ量の測定時において前記光ファイバの屈折率が変化すること
による前記反射光の波長の変化量または前記透過光の波長の変化量を相殺可能である請求項1に記載のFBGひずみセンサ。
【請求項3】
前記被測定部に対して前記温度補償部材を固定可能な一対の取り付け部材をさらに備え、
前記一対の取り付け部材は、前記FBGの長さ以上の間隔をおいて前記他方の面に配置されており、
前記FBGは、前記一方の面において前記間隔の内側に対応する部位に配置される請求項1または2に記載のFBGひずみセンサ。
【請求項4】
前記温度補償部材の熱膨張係数は、負の値である請求項1〜3のいずれか一項に記載のFBGひずみセンサ。
【請求項5】
前記光ファイバ及び前記温度補償部材は長手方向をそれぞれ有し、
前記温度補償部材の長手方向と前記光ファイバの長手方向とが互いに沿うように配置される請求項1〜4のいずれか一項に記載のFBGひずみセンサ。
【請求項6】
前記一対の取り付け部材は、前記温度補償部材の両端部に配置される請求項1〜5のいずれか一項に記載のFBGひずみセンサ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のFBGひずみセンサを用いて車両の衝突を検知する車両用衝突センサであって、
前記車両は複数の被測定部を有し、
前記光ファイバは前記複数の被測定部に設けられる複数のFBGを有し、
前記複数の被測定部の少なくとも1つから対応する前記FBGに印加されるひずみ量に基づいて、前記車両の衝突を検知する車両用衝突センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−202684(P2012−202684A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64263(P2011−64263)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】