説明

FECV及びFIPVを区別する為の手段及び方法

本発明は、FECV及びFIPVを区別する為の方法及び手段を提供し、並びに、FIPVが試料中に存在するかどうかを決定する為の方法及び手段を提供する。さらに、スパイクタンパク質をコードするFIPV特異的核酸配列を検出する為のプライマー及びプローブ、FIPVを検出する為の抗体、及び、ネココロナウィルス、好ましくはFIPVに対する免疫応答を引き起こす為の免疫原性組成物及びその使用方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は獣医学的診断の分野に関し、より特には、本発明はネココロナウィルス及びその同定の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ネココロナウィルス(FCoV)は、ネコ、ライオン、トラ、レパード、ジャガー、リンクス、カラカル、チーター、クーガー、及びサーバルを包含するがこれらに限定されない、家畜の及び非家畜のネコ科動物の一般的な病原体である。家畜の複数ネコ環境において、最大で90%のFCoV血清陽性が到達される。FCoVは、イヌコロナウィルス(CCoV)及びブタの伝染性胃腸炎ウィルス(TGEV)の近縁である。2つの血清タイプのFCoVが存在し、I及びII、このうち、血清タイプIが優位であり、FCoV感染の80〜95%を伴う。II型FCoVは、血清型IのFCoV及びCCoVに二重に感染した動物におけるRNA組み換えから推定上結果し、その間に、CCoVスパイク遺伝子又はその一部がFCoVゲノムに組み込まれ、これは明らかにまれに発生する事象である。ネコ腸コロナウイルス(FECV)は、血清型I及び血清型IIの両方について、FCoVの最も一般的な病原型である。FECVは主に腸に限局しており、経口−糞便経路を介して拡がり、及び、非常に伝染性である。FECV感染は一般に不明白に起こる;しかしながら、ときどき、それは、軽度の腸炎などの症状を引き起こす(Haijema et al., 2007)。
【0003】
1970年代のネコ伝染性腹膜炎(FIP)において、ネコにおいて(そのときは)まれであるが重度の疾患が、ネココロナウィルスにより引き起こされると報告され、これがネコ伝染性腹膜炎ウイルスと呼ばれた。FECVと対照的に、FIPVは非常に毒性である(virulent)。FIPV感染は、肉芽腫性(ドライ)又は滲出性(ウェット)であり、及び、進行性であり且つ通常致死性の疾患である。FIPの症状は、若いネコにおける発育障害、跛行、変動する発熱、食欲不振、及び体重喪失を含み、死を結果する(Pedersen 2009)。適応免疫系の劇的な調節異常が、高ガンマグロブリン血症及びリンパ球及び末梢T細胞の枯渇により示されるとおり、FIPの進行に伴う(Haijema et al., 2007)。FECVは腸に限局されるが、FIPVは単球及びマクロファージに感染し及びこれらにおいて複製することができ、複数の臓器が冒されることを伴う全身性疾患を引き起こす。
【0004】
2つの支配的な理論が、FIPVの起源について存在する。「変異仮説」によると、FIPVは、FECVから、感染したネコ科動物におけるデノボ変異により生じ、非常に毒性のFIPウィルスを結果する。FIPVを生じる該変異は同定されていないが、非構造遺伝子3c、7a、又は7b内にあると提案されており(図1参照)、これは未知機能を有するタンパク質をコードする(Vennema et al., 1998, Poland et al., 1996, Kennedy et al., 2001, Pedersen 2009)。それ故に、該3c、7a、又は7b遺伝子における変異又はこれら遺伝子における変異の組み合わせが、該ウィルスの生物学的特性を変化させ、該腸コロナウィルスが単球及びマクロファージに感染することを許し、それにより感染を臓器へ拡大させ及びFIPを引き起こすと考えられている(Pedersen 2009):FECVのFIPVへの遷移。該変異仮説は正式に証明されていない。
【0005】
もう一つの理論によると、2つの異なる株のFECV、毒性株及び無毒性(avirulent)株、が天然の集団において広まりそして、該毒性株により冒されたネコ科動物だけがFIPを発病するであろう(Brown et al., 2009)。Brown et al. (2009)、は、ウィルス配列を、FIPを患うネコから分離し、及び、FECVに感染したが無症状の(健康な)ネコから分離した。系統発生的分析を用いて、彼らは、異なるウィルス配列が病気のネコ及び健康なネコにおいて存在することを発見した。Dye and Siddell (2007)は、FIPを患うネコの空腸から及び肝臓から分離されたネココロナウィルスのウィルス配列を比較した。該変異理論によるとFECVは腸に限局される一方で、FIPV(これはマクロファージ及び単球に感染することができる)は肝臓に存在する。しかしながら、Dye and Siddellは、100%のヌクレオチド同一性を発見し、すなわち、該変異仮説(それによると該肝臓コロナウィルスが変異した空腸コロナウィルスである)に異議を唱えた。彼らは、FIPを患うネコにおいて、同じ毒性のネココロナウィルス株が肝臓及び空腸の両方に存在することを示唆した。
【0006】
以前に、本発明者らは、組織培養に適合された血清タイプIIのコロナウィルスFECV 79−1683及びFIPV 79−1146のスパイクタンパク質における多くの違いを同定した(Rottier et al., 2005)。FIPV79-1146は、該スパイクタンパク質のC末端ドメイン、S2ドメイン、においていくつかの変異を有した。しかしながら、FECV 79-1683及びFIPV 79-1146は、原型的なネココロナウィルスでなく、及びすなわち、多くのネコが感染する血清I型FECV及びFIPVについて代表的なものでない(Pedersen 2009)。第一に、血清II型ネココロナウィルスは、イヌコロナウィルス及びネココロナウィルスのRNA組み換えに由来し、そして、イヌコロナウィルススパイクタンパク質を有する。ネココロナウィルス及びイヌコロナウィルスのスパイクタンパク質は、約45%だけのアミノ酸配列同一性を有する(Motokawa et al., 1996)。第二に、FECV 79-1683及びFIPV 79-1146は、マクロファージ以外の細胞株に組織培養適合されている。FIPVは、単球及びマクロファージにインビボで感染するので、これらの実験室株の指向性は、原型的なネココロナウィルスと異なる。第三に、単球及びマクロファージに感染する血清I型FIPVと異なり、FIPV 79-1146は、全ての一般的な感染経路により、図抜けて毒性である(Pedersen 2009)。第四に、FECV 79-1683は、Pedersenにより彼の最近のレビュー(Pedersen, 2009)において広く議論されているとおり、真のFECVとしての資格を有し得ない。特に、FECV79-1683は、7b遺伝子のほとんどを欠き、これは、FECVの非組織培養適合株に存在する、及び、その3c遺伝子中に有害な変異を有し、それがFIPVに由来したかもしれないことを示唆する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ネココロナウィルス感染症は一般に、血液中の抗体の存在によって示される。FIPV感染症に対する有効な処置又はワクチンは存在しない。FIPを発症するネコは、滲出性FIPの場合は数日又は数週間以内に、乾燥性の又は肉芽腫性のFIPの場合は数か月以内に死ぬ。FIPV株の温度感受性変異体からなる市販入手可能なワクチンは、多くの免疫付与研究において、その防御的有効性を納得できるように証明していない(McArdle et al., 1995; Fehr et al., 1997)。さらに、今日までに、FECVとFIPVとを区別する診断試験は無い。さらに複雑な要因は、FIPの臨床像が非常に変わりやすく、そしてその結果、該疾患を明白に確立されることは容易になされ得ない。診断はしばしば、既往の、臨床の、及び非特異的な検査値に基づく、推定的なものである。FIPVについての特異的な診断試験が無いので、FIPとオーバーラップする症状を有する他の疾患とを区別することもしばしば可能でない。FIPVについての診断試験及びFIPVに対するワクチンの両方が、FIPの進行性及び消耗性の経過の故に、非常に必要とされている。
【0008】
本発明の目的は、FIPVとFECVとを区別する為の手段及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
FIPVが、図2Bにおいて示される通り、FECVに関して、スパイクタンパク質においてアミノ酸位置1049で特定の変化を有することを本発明者らは発見した。
【0010】
それ故に、本発明は、ネコ伝染性腹膜炎ウィルス(FIPV)を同定する為の方法であって、図2Bに示されるとおりのアミノ酸位置1049に対応する位置での、ネココロナウィルススパイクタンパク質のアミノ酸の正体を決定すること、そして、もし該アミノ酸の決定された正体がメチオニンでないならば、該ネココロナウィルスをFIPVとして同定することを含む前記方法を提供する。本発明のこの方法に従い、もし該アミノ酸の決定された正体がメチオニンであるならば、FECVが同定される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ネココロナウィルスRNAゲノムの模式図である。5’部分(左)は、オープンリーディングフレーム(ORF)1a及び1bから得られた複製及び転写機能をコードするプリカーサーを特定する。その下流において、3’末端に向かって、構造タンパク質S(スパイクタンパク質)、E(エンベロープタンパク質)、M(膜タンパク質)、及びN(ヌクレオキャプシッドタンパク質)についての遺伝子、及び、アクセサリータンパク質3a、3b、3c、7a、及び7bについての遺伝子が置かれている。
【図2】A)ネココロナウィルススパイク遺伝子のヌクレオチド配列(ヌクレオチド1-4407)であり、NC_012955(ネココロナウィルスUU10、完全ゲノム)のヌクレオチド配列において定義されたとおりのネココロナウィルスのヌクレオチド20395-24801に対応し、及び、NC_012952(ネココロナウィルスUU8、完全ゲノム)のヌクレオチド配列において定義されたとおりのネココロナウィルスのヌクレオチド20382-24788に対応する。B)YP_003038574及びYP_003038543のアミノ酸配列において定義されたとおりの、ネココロナウィルススパイクタンパク質のアミノ酸配列。
【図3】感染したネコの排泄物から得られた6の臨床試料からの増幅されたRNAのアガロースゲル電気泳動を示す図である。レーンMは分子サイズ標準であり、レーン1〜6は臨床試料であり、及び、レーン7は陰性対照である。
【図4】42の健康なネコから分離された排泄物又は血しょう由来FCoV RNAの部分配列、及び、FIPを確認されたネコの試料から得られた5の部分配列(すなわちQ093501030_326B_4546.scf(白血球由来)、Q093501032_327B_4546.scf(白血球由来)、Q093501036_321S_4546.scf(血清由来)、Q093501038_321A_4546.scf(腹水(ascites)由来)及びQ093501046_K11_019.ab1(白血球由来))のアラインメントを示す図である。B)54のFIPを確認されたネコから分離された病変由来FCoV RNAの部分配列のアラインメントを示す図である。C)FIPを確認されたネコから分離された排泄物由来FCoV RNAの部分配列のアラインメントを示す図である。図4A、B、及びCの右に、分析されたネココロナウィルスのアイデンティティコードが示されている。標的とされたヌクレオチド及び予測されたアミノ酸が矢印により示されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
FIPV又はFECVを同定することにより、毒性(FIPV)タイプネココロナウィルス又は無毒性(FECV)タイプネココロナウィルスの同定が意味される。同定は、該ネココロナウィルスのアミノ酸又は核酸の配列の正体を決定することにより実施される。
【0013】
ネココロナウィルス核酸配列は、ネココロナウィルスの部分であるヌクレオチド、好ましくは(c)DNA又はRNA、又は、例えば逆転写酵素PCR及び/又は増幅を用いることにより、ネココロナウィルスから直接に若しくはプロセシング後に得られるヌクレオチド、好ましくは(c)DNA又はRNA、の鎖を含む。
【0014】
ネココロナウィルススパイクタンパク質は、細胞外ドメインを有するネココロナウィルス膜タンパク質である。該スパイクタンパク質は、コロナウィルスの4つの標準的(canonical)構造タンパク質のひとつであり、及び、感染の間の該ウィルスの細胞への付着及び侵入に関与する。
【0015】
病理学的に確認されたFIPを有するネコの病変からのFIPVが、無症状ネコから得られたFECVと遺伝子的に比較された。FIPの典型的な病変は、種々の内部器官において、主に脾臓、肝臓、肺、腎臓、又は腸間膜リンパ節において示される(化膿性)肉芽腫性((pyo)granulomatous)病変であった。RNAウィルスの高い変異率により、多数の違いが、個々のFECV配列とFIPV配列との間に観察された。しかしながら、47全てのFECVの排泄物又は血しょう分離物において、図2Bに示されたとおりのスパイクタンパク質の位置1049でのアミノ酸がメチオニンである一方で、54のFIPV病変分離物のうち52において、図2Bに示されたとおりの位置1049でのアミノ酸の変化が存在し、その結果、メチオニン以外のこの位置でのアミノ酸を結果した。後に、健康なネコから得られたと分類された5つの配列が、確認されたFIPを有するネコの血液試料から実際に得られたことが発見され(Q093501030_326B_4546.scf、Q093501032_327B_4546.scf、Q093501036_321S_4546.scf、Q093501038_321A_4546.scf、及びQ093501046_K11_019.ab1)、これは図2Bに示されたとおりの位置1049に対応する位置での該アミノ酸の正体が、決定され、及び、健康なネコからのFECV排泄物又は血しょう分離物からの、47の代わりに、42の試料において、メチオニンであると示されたことを意味する。
【0016】
FECVの該スパイクタンパク質の位置1049での該メチオニンをコードする核酸配列は、図2Aにおいて示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3145、3146、及び/又は3147を有するコドンに対応する。図2Aに示されるとおりの位置1049での該FECVスパイクタンパク質における該メチオニンをコードするヌクレオチド配列は、アデニン−チミン−グアニン(a-t-g)であり、これはウィルスのゲノムRNAにおける配列アデニン−ウリジン−グアニン(a-u-g)に相当する。このヌクレオチドコドンにおける少なくとも1つのヌクレオチドのいずれの置換も、メチオニン以外のアミノ酸を、図2Bに示されたとおりの位置1049でのFECVの該スパイクタンパク質において、結果する。本発明に従い、図2A及び2Bにおいてそれぞれ示されたとおりの、ネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3145、3146、及び/又は3147及びアミノ酸位置1049での該同定されたヌクレオチド及び/又はアミノ酸配列は、FIPVとFECVとを区別する為に用いられる。本発明により、初めて、FECVとFIPVとを区別することを可能にするネココロナウィルスの多型(ポリモルフィズム)が、原型の血清タイプIのFECV及びFIPVにおいて同定された。
【0017】
本発明者はさらに、該スパイクタンパク質における図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049で、FECVに対して特定の変化を有さないFIPVの小さな割合のかなりの部分が、該スパイクタンパク質において図2Bにおいて示されたとおりのアミノ酸位置1051でFECVに対して特定の変化を有することを発見した。これらの場合、この位置でのセリンが置換されているとみえた。すなわち、アミノ酸位置1051での該特定の変化もまた、FIPVを同定する為のアプローチを提供する。
【0018】
それ故に、本発明はまた、ネコ伝染性腹膜炎ウィルス(FIPV)を同定する為の方法であって、図2Bにおいて示されたとおりのアミノ酸位置1051に対応する位置でのネココロナウィルススパイクタンパク質のアミノ酸の正体を決定すること、そして、もし該決定されたアミノ酸の正体がセリンでないならば、該ネココロナウィルスをFIPVと同定することを含む前記方法を提供する。また、ネコ伝染性腹膜炎ウィルス(FIPV)が試料中に存在するかを決定する為の方法であって、該試料がネココロナウィルスを含むかどうかを決定すること、もしネココロナウィルスが存在するならば、図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1051に対応する位置での該ネココロナウィルスのスパイクタンパク質におけるアミノ酸の正体を決定すること、そして、もし該アミノ酸がセリンでないならばFIPVが存在することを決定することを含む前記方法も提供される。
【0019】
病理学的に確認されたFIPを有する97のネコのセットにおいて、97のFIPV病変分離物のうち87において、図2Bに示されたとおりの位置1049でのアミノ酸の変化が存在し、この位置でメチオニン以外のアミノ酸を結果する。図2Bに示されたとおりの位置1049でメチオニンが存在する10のFIPV病変分離物のうち5において、図2Bに示されたとおりの位置1051でのアミノ酸の変化が存在し、この位置でセリン以外のアミノ酸を結果した。FECVのスパイクタンパク質の位置1051での該セリンをコードする核酸配列は、図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3151、3152、及び3153を含むコドンに対応する。セリンは、ヌクレオチドコドンt/u-c-t/u、t/u-c-c、t/u-c-a、t/u-c-g、c-g-t/u、及びc-g-cによりコードされる。これらのコドン以外のヌクレオチド配列を結果する、このヌクレオチドコドンにおける1以上(1又はそれより多く)のヌクレオチドのいずれかの置換が、FECVのスパイクタンパク質において図2Bに示されたとおりの位置1051でセリン以外のアミノ酸を結果する。本発明に従い、それぞれ図2A及び2Bに示されたとおりの、ネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3151、3152、及び/又は3153及びスパイクタンパク質のアミノ酸位置1051のいずれかでの該同定されたヌクレオチド及び/又はアミノ酸配列はまた、FIPVとFECVとを区別する為に用いられる。好ましい実施態様において、図2Bに示されたとおりの位置1051に対応するアミノ酸位置でのセリンの変化は、図2Aにおいて示されたとおりのヌクレオチド位置3151に対応する位置での核酸塩基チミンの核酸塩基グアニンによる置換の結果である。
【0020】
一つの実施態様において、ネココロナウィルスのスパイクタンパク質における図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049及び1051に対応する位置での該アミノ酸の正体が両方とも決定される。両方のこれらのアミノ酸の正体がもし決定されるならば、FIPV及びFECVの区別における高い精度が得られる。一つの実施態様において、図2Bに示されたとおりの位置1049及び1051でのアミノ酸の正体は、一つの試験において決定される。しかしながら、これらアミノ酸の正体を逐次的に決定することも可能である。例えば、最初に、図2Bに示されたとおりの位置1049に対応する位置でのアミノ酸の正体が決定される。もしメチオニンの存在がこの位置で検出されるならば、次に図2Bに示されたとおりの位置1051に対応する位置でのアミノ酸の正体が好ましくは決定される。もしメチオニン以外のアミノ酸の存在がこの位置で検出されるならば、図2Bに示されたとおりの位置1051に対応する位置でのアミノ酸の正体を決定することは省略されうる。しかしながら、この位置でのアミノ酸の正体は、その場合において決定されてもよい。
【0021】
遺伝子アクセス番号NC_012955(ネココロナウィルスUU10、完全ゲノム)において規定されたとおりのヌクレオチド20395-24801及び遺伝子アクセス番号NC_012952(ネココロナウィルスUU8、完全ゲノム)の配列において規定されたとおりのヌクレオチド20382-24788を含むネココロナウィルスのスパイク遺伝子(ヌクレオチド1-4407)の核酸配列が、図2Aに提示される。NC_012955のヌクレオチド20395-24801は、ネココロナウィルススパイクタンパク質(YP_003038574)をコードする。NC_012952のヌクレオチド20382-24788は、ネココロナウィルススパイクタンパク質(YP_003038543)をコードする。すなわち、本明細書を通じて用いられるときに及び図2Aにおいて示されたとおりのスパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド3145、3146、及び3147は、NC_012955の配列において規定されたとおりの完全ゲノムのヌクレオチド23539、23540、及び23541及び/又はNC_012952の配列において定義されたとおりの完全ゲノムのヌクレオチド23526、23527、及び23528に対応する。本明細書を通じて用いられるときの及び図2Aにおいて示されたとおりのスパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド3151、3152、及び3153は、NC_012955の配列において規定されたとおりの完全ゲノムのヌクレオチド23545、23546、及び23547及び/又はNC_012952の配列において定義されたとおりの完全ゲノムのヌクレオチド23532、23533、及び23534に対応する。
【0022】
NC_012955及びNC_012952それぞれの部分翻訳であるYP_003038574及びYP_003038543の配列において定義されたアミノ酸ナンバリングを参照するネココロナウィルススパイクタンパク質のアミノ酸配列が図2Bに提示される。本明細書を通じて用いられるときにアミノ酸位置のナンバリングは、YP_003038574及び/又はYP_003038543において規定されたとおりのアミノ酸位置をいう。
【0023】
当業者は、図2A又は2Bにおいて示されたとおりのヌクレオチド位置3145、3146、及び/又は3147及びアミノ酸位置1049及びヌクレオチド位置3151、3152、及び/又は3153及びアミノ酸位置1051に対応する任意のあるネココロナウィルス配列におけるヌクレオチド位置及びアミノ酸位置を、例えば"Align 2”又は“Bioconductor”などのアラインメントソフトウェアを用いて、同定することができる。
【0024】
FIPの症状は、例えば、腹部内の腹水の蓄積(滲出性FIPにおいてだけ)、発育遅延、食欲不振、発熱、体重喪失、及び下痢を含む。本明細書内上記において示されたとおり、同様の症状は、他の疾患を患うネコによっても観察され、FIPの明確な診断をこれまでは不可能にした。今、ネココロナウィルススパイクタンパク質について多型が同定され、これが試料中のFIPVの存在を決定することを許し、ネコ科動物、例えばネコ、がFIPを患っているかどうかが決定されうる。現在、FIPについての処置は無く、そして該疾患の経過は進行性且つ消耗性であり、不可避的に死を結果するので、該動物がFIPVを有すると示された場合に、該ネコを安楽死させることが決定されうる。加えて、該ネコ又はネコ飼育所所有者は、感染のあり得る拡大を防ぐ為及び/又は誘発する条件、例えばストレスなど、を減少させる為の適切な手段をとりうる。しかしながら、FIPVがネコにおいて不在であると示された場合、ネコ伝染性腹膜炎は、該疾患のあり得る原因として排除されうる。それ故に、その場合、該ネコは安楽死されるべきでないが、診断的アプローチが継続されることができ、そして、該どうぶつは、FIPのものと似ている症状を有するあり得る代わりの疾患についての処置を提供されることができる。そのような処置は、例えば、該疾患のあり得るバクテリア的原因に対して作用するさらなる対症療法又は抗生物質の施与でありうる。
【0025】
それ故に、本発明により、ネコ伝染性腹膜炎ウィルス(FIPV)が、好ましくはネコ科動物から又はネコ科動物と接触した物質からの、試料中に存在するかどうかを決定する為の方法がさらに提供され、該方法は、該試料がネココロナウィルスを含むかどうかを決定すること、そして、もしネココロナウィルスが存在するならば、該ネココロナウィルスのスパイクタンパク質中における図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049及び/又は1051に対応する位置でのアミノ酸の正体を決定すること、そして、もしアミノ酸位置1049での該アミノ酸がメチオニンでないならば及び/又はもしアミノ酸位置1051での該アミノ酸がセリンでないならば、FIPVが存在することを決定することを含む。
【0026】
ネコ腸内コロナウィルス、ネコ伝染性腹膜炎ウィルス、ネココロナウィルス(スパイク)タンパク質、又はネココロナウィルス核酸を含む試料は、任意のネコ科動物から直接的に又は間接的に得られる。そのような試料は例えば、任意のネコ科動物組織又は流体又は排せつ産物から得られる。そのような試料が得られるネコ科動物組織、流体、又は排せつ産物は、FIP病変、血液、白血球、血しょう、血清、唾液、腹水、尿、糞便、皮膚、筋肉、リンパ節、及び肝臓を包含するがこれらに限定されない。ネコ科動物から間接的に得られる本発明に従う試料は、ネコ科動物組織、流体、又は排せつ産物を含む任意の材料を含んでよく、例えば土又はネコスナ(cat litter)を含みうる。本発明の好ましい実施態様において、試料は、FIP病変、排泄物、血液、及び/又は腹水から得られる。より好ましい実施態様において、試料は、白血球から得られる。血液試料は、動物から比較的容易に得られ、そして次に、白血球は血液試料から容易に分離される。本発明者らは、図2Bにおいて示されたとおりのアミノ酸位置1049に対応する位置でのアミノ酸の変化がFIP病変試料において検出されたネコから得られた31の白血球試料のうち29において、該アミノ酸の変化が、該白血球試料においても存在することを発見した。すなわち、アミノ酸の変化の該検出が、ネコ科動物白血球試料において、正確に検出される。
【0027】
ネコ科動物が、ネココロナウィルス感染を患っていると疑われる場合、スパイクタンパク質をコードするネココロナウィルス核酸であって、図2Aに示されたとおりのヌクレオチド位置3145、3146、及び/又は3147及び/又はヌクレオチド位置3151、3152、及び/又は3153を含むところの前記核酸が、該ネコ科動物からの試料において検出されうる。該ネコ科動物からの試料は、ネココロナウィルス核酸又は分離されたネココロナウィルス核酸を含みうる。任意的に、図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3145、3146、及び/又は3147及び/又はヌクレオチド位置3151、3152、及び/又は3153を含むネココロナウィルス核酸は、検出の前に増幅される。本発明に従う試料はさらに、ネココロナウィルス又は、該スパイクタンパク質を包含するがこれに限定されない、ネココロナウィルスタンパク質を含みうる。
【0028】
本発明に従い、図2Bに示されたとおりのネココロナウィルスのアミノ酸位置1049に対応する位置でのメチオニンの存在は、FECVを示し、そして、該位置でのメチオニン以外のいずれかのアミノ酸の存在はFIPVを示す。すなわち、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、及び/又はバリンの、図2Bに示されたとおりのネココロナウィルスのアミノ酸位置1049に対応する位置での存在は、FIPVを示す。本発明の好ましい実施態様において、メチオニン以外の該アミノ酸はロイシンである。図2Bに示されたとおりのネココロナウィルスのアミノ酸位置1051に対応する位置でのセリン以外のいずれかのアミノ酸の存在は、FIPVを示す。すなわち、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、及び/又はバリンの図2Bに示されたとおりのネココロナウィルスのアミノ酸位置1051に対応する位置での存在はFIPVを示す。本発明の好ましい実施態様において、セリン以外の該アミノ酸はアラニンである。
【0029】
図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3145に対応する位置での核酸塩基アデニン(a)、図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3146に対応する位置での核酸塩基チミン(t)、及び、図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3147に対応する位置での核酸塩基グアニン(g)の存在がFECVを示し、及び、図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3145に対応する位置でのアデニン(a)以外のいずれかの核酸塩基、及び/又は、図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3146に対応する位置でのチミン(t)以外のいずれかの核酸塩基、及び/又は、図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3147に対応する位置でのグアニン(g)以外のいずれかの核酸塩基の存在が、FIPVを示す。すなわち、図2Aにおいて示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3145に対応する位置での核酸塩基チミン(t)、及び/又はシトシン(c)、及び/又はグアニン(g)、及び/又は図2Aにおいて示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3146に対応する位置での核酸塩基アデニン(a)、及び/又はシトシン(c)、及び/又はグアニン(g)、及び/又は図2Aにおいて示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3147に対応する位置での核酸塩基アデニン(a)、及び/又はチミン(t)、及び/又はシトシン(c)の存在はFIPVを示す。ネココロナウィルスはRNAウィルスである。それ故に、ヌクレオチドが本明細書内においてチミンとして同定される場合、当業者に知られているとおり、ウラシルも該語によって包含される。
【0030】
それ故に、本発明は、本発明に従う方法を提供し、ここで位置1049での該アミノ酸の正体が、スパイクタンパク質をコードするネココロナウィルス核酸の核酸配列を決定することにより決定され、該核酸は図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子の位置3145、3146、及び/又は3147でのヌクレオチド又は当該位置に対応するヌクレオチドを含む。好ましい実施態様において、図2Aにおいて示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3145に対応する位置でのシトシン又はチミン又はグアニンがFIPVを示し、及び、図2Aにおいて示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3145に対応する位置でのアデニンがFECVを示す。本発明はまた、本発明に従う方法も提供し、ここで位置1051でのアミノ酸の正体が、スパイクタンパク質をコードするネココロナウィルス核酸の核酸配列を決定することにより決定され、該核酸は、図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子の位置3151、3152、及び/又は3153での又は当該位置に対応する位置でのヌクレオチドを含む。
【0031】
コロナウィルスはRNAウィルスである。ウィルスRNAは、当技術分野で既知の方法により分離されそして処理されうる。例えば、RNA試料が細胞又は組織から、回収の時に新鮮に調製されることができ、又はそれらは、試料調製の為に処理されるまで、−70℃で保存される試料から調製されうる。代わりに、組織又は細胞試料は、RNAの品質を保存する条件下で貯蔵されうる。これらの保存条件の例は、例えばホルマリンを用いた固定、RNase阻害剤、例えばRNAsin(Pharmingen)又はRNasecure(Ambion)など、水性溶液、例えばRNAlater(Assuragen)、Hepes-Glutamic acid buffer mediated Organic solvent Protection Effect(HOPE)、及びRCL2(Alphelys)など、並びに非水性溶液、例えばUniversal Molecular Fixative(Sakura Finetek USA Inc.)である。RNAは例えば、Chomczynski and Sacchi (1987)の方法又はBoom et al. (1990)の方法に従い、又は市販入手可能なシステム(例えばRNeasy total RNA isolation kit、QIAGEN、ドイツ、から、又はHigh-Pure-RNA-Isolation-Kit(商標)、Roche Diagnostics、バーゼル、スイス、から)に従い分離されうる。代わりに、又は追加的に、RNAはcDNAへと逆転写される。逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)は例えば、関心のあるRNA配列にハイブリダイズする特異的プライマー及び逆転写酵素を用いて実施される。さらに、RT−PCRは、ランダムプライマー、例えば該RNAに沿ってランダムにハイブリダイズするランダムヘキサマー又はデカマーなど、又はmRNAのポリ(A)テールにハイブリダイズするオリゴd(T)、と逆転写酵素とを用いて実施されうる。
【0032】
ネココロナウィルスから直接に又はRT−PCR後に得られるヌクレオチドの増幅は、任意の核酸増幅方法、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR; Mullis and Faloona, 1987)など、を用いて、又は、増幅反応、例えばリガーゼ連鎖反応(LCR; Barany, 1991)、自己持続配列複製(Self-Sustained Sequence Replication(3SR); Guatelli et al., 1990)、Strand Displacement Amplification(SDA; Walker et al., 1992)、Transcriptional Amplification System(TAS; Kwoh et al, 1989)、Q-Beta Replicase (Lizardi et al., 1988)、Rolling Circle Amplification (RCA; 米国特許番号第5,871,921号)、核酸配列ベース増幅(Nucleic Acid Sequence Based Amplification(NASBA); Compton, 1991)、Cleavase Fragment Length Polymorphism(米国特許第5,719,028号)、Isothermal and Chimeric Primer-initiated Amplification of Nucleic Acid(ICAN)、Ramification-extension Amplification Method(RAM; 米国特許第5,719,028号及び第5,942,391号)など、又は核酸の増幅の為の他の適切な方法を用いて実施されうる。
【0033】
本明細書内において用いられるときに、語「核酸」又は「核酸分子」は、ヌクレオチドの鎖、好ましくはDNA及び/又はRNAを含む。
【0034】
語「プライマー」は、本明細書内において用いられるときに、増幅標的にアニールすることができ、DNAポリメラーゼが付着することを許し、それにより、プライマー伸長産物の合成が誘発される条件下に置かれた場合に、すなわちヌクレオチド及びDNAポリメラーゼなどの重合化の為の剤の存在下且つ適切な温度で、DNA合成の開始点として従事するオリゴヌクレオチドをいう。増幅プライマーは好ましくは、増幅における最大効率の為に一本鎖である。好ましくは、プライマーはオリゴデオキシリボヌクレオチドである。プライマーは、重合化の為の剤の存在下において、伸長産物の合成を刺激するのに十分長くなければならない。該プライマーの正確な長さは、温度及びプライマーの組成(A/T及びG/C含量)を含む多くの因子に依存するであろう。プライマー対は、DNA増幅の分野において、例えばPCR増幅において一般に用いられるとおり、一つのフォワードプライマー及び一つのリバースプライマーからなる。
【0035】
語「プローブ」は、標的核酸配列分析物又はそのcDNA誘導体における相補的配列を認識しそして水素結合された二本鎖を形成するであろう、一本鎖オリゴヌクレオチド配列をいう。結合の検出を容易にするために、特定のアンプリコン検出プローブは、ラベル部分、例えばフルオロフォア、クロモフォア、酵素、又は放射性標識など、を含み、それにより該プローブの該増幅反応の反応産物への結合をモニタリングすることを容易にする。そのような標識は、当技術分野の当業者によく知られており、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、β−ガラクトシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、ストレプトアビジン、ビオチン、ジゴシキゲニン、<35>S、<14>C、<32>P、及び<125>Iを包含する。
【0036】
本発明に従うプライマー又はプローブは、核酸配列、好ましくはDNA及び/又はRNAを含む。該核酸配列はまた、他の種類の核酸構造物、例えばDNA/RNAヘリックス、ペプチド核酸(PNA)、及び/又はロックド核酸(LNA)など、を包含する。従って、語「核酸配列」はまた、天然のヌクレオチドと同じ機能を示す非天然のヌクレオチド、修飾されたヌクレオチド、及び/又は非ヌクレオチドビルディングブロックを含む鎖を包含する。
【0037】
ハイブリダイゼーションは当技術分野において知られており、そして、相補的な一本鎖核酸の、好ましくはストリンジェントな条件下での、結合をいう。語「相補的」又は「配列相補性」もまた当技術分野において知られており、そしてベースペアリングにより非共有結合的に結合されうる2つの核酸ストランドをいう。本明細書内において用いられるときに、「相補的」又は「実質的に相補的」は、2つの核酸配列が少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも約95%の配列相補性を互いに有することを意味する。これは、プライマー及びプローブが、それらの鋳型及び標的核酸にそれぞれ、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするのに十分な相補性を示さなければならないことを意味する。それ故に、該プライマー及びプローブ配列は、該鋳型上の結合領域の正確に相補的な配列を反映する必要は無く、そして、縮重(degenerate)プライマーが用いられうる。例えば、非相補的ヌクレオチド断片が、該プライマーの5’末端に取り付けられてよく、該プライマー配列の残りが該ストランドに相補的である。
【0038】
語「ストリンジェントな条件」は、ハイブリッドの安定性に影響するハイブリダイゼーション条件、例えば温度、塩濃度、pH、ホルムアミド濃度、及び同様なものなど、をいう。これらの条件は、プライマー又はプローブのその標的核酸配列への特異的な結合を最大にし及び非特異的な結合を最小にする為に、経験的に最適化される。用いられるとおりの該語は、プローブ又はプライマーが、他の配列へよりも検出可能に大きな程度(例えばバックグラウンドの少なくとも2倍)で、その標的配列にハイブリダイズするであろう条件、への言及を含む。ストリンジェントな条件は、配列依存的であり、そして、種々の環境において異なるであろう。
【0039】
語「%配列同一性」は、本明細書内において、参照配列における残基と同一である候補アミノ酸配列又は候補核酸配列における残基のパーセンテージであって、該2つの配列を整列化し、そして、もし必要ならば、最大のパーセント同一性を得る為にギャップを導入した後の前記パーセンテージとして定義される。該整列化の為の方法及びコンピュータプログラムは当技術分野でよく知られている。候補配列がこの定義内に入るかどうかを決定する為に用いられ又は適合されうる一つのコンピュータプログラムは、Genentech, Inc.により著作された「Align 2」であり、これは米国著作権局、ワシントン, D.C. 20559におけるユーザー文書に1991年12月10日に提出され、又は、BESTFITプログラムを提供するUWGCG Packageに提出された(Devereux et al., 1984)。
【0040】
図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3145、3146、又は3147及び/又はヌクレオチド位置3151、3152、又は3153に対応するヌクレオチドを含むネココロナウィルス核酸は、該ネココロナウィルス核酸配列の少なくとも一部にハイブリダイズすることができるプライマーを用いて増幅されうる。該プライマーは例えば、図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3055に対応する位置とヌクレオチド位置3669に対応する位置との間のスパイクタンパク質をコードする該ネココロナウィルス核酸配列にハイブリダイズする。該プライマーは好ましくは、9〜50ヌクレオチドの長さ、例えば16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、又は31ヌクレオチドの長さを有する。そのようなプライマーを用いる増幅方法により得られた核酸産物は好ましくは、少なくとも35ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも40ヌクレオチド、さらにより好ましくは少なくとも50ヌクレオチドを含む。
【0041】
それ故に、本発明は、本発明に従う方法であって、さらに、図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3145、3146、及び3147及び/又はヌクレオチド位置3151、3152、及び3153を含む領域若しくは該位置に対応する領域を含むネココロナウィルス核酸分子の少なくとも一部を、図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードするヌクレオチド位置3055に対応する位置とヌクレオチド位置3669に対応する位置との間の該核酸配列の少なくとも一部にハイブリダイズすることができる少なくとも1つのプライマーを用いて増幅することをさらに含む前記方法を提供する。
【0042】
本発明に従う方法における使用の為に好ましいプライマー対は、核酸配列

と少なくとも70%の配列同一性、好ましくは該核酸配列と少なくとも80%の配列同一性、より好ましくは該核酸配列と少なくとも90%の配列同一性、最も好ましくは該核酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するプライマーと、核酸配列

と少なくとも70%の配列同一性、好ましくは該核酸配列と少なくとも80%の配列同一性、より好ましくは該核酸配列と少なくとも90%の配列同一性、最も好ましくは該核酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するプライマーとを含む。本発明に従う方法における使用の為に好ましい他のプライマー対は、核酸配列

と少なくとも70%の配列同一性、好ましくは該核酸配列と少なくとも80%の配列同一性、より好ましくは該核酸配列と少なくとも90%の配列同一性、最も好ましくは該核酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するプライマーと、核酸配列

と少なくとも70%の配列同一性、好ましくは該核酸配列と少なくとも80%の配列同一性、より好ましくは該核酸配列と少なくとも90%の配列同一性、最も好ましくは該核酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するプライマーとを含む。
【0043】
一つの実施態様において、本発明に従うプライマー対は、核酸配列

と核酸配列

との組み合わせを含み、又は、核酸配列

と核酸配列

との組み合わせを含む。
【0044】
本発明の一つの実施態様において、上記で示されたプライマー対は、ネステッド(nested)PCR反応において用いられる。ネステッドポリメラーゼ連鎖反応において、2つのプライマー対が、逐次のPCR反応において用いられる。第二のプライマー対は、第一のプライマー対を用いた増幅反応において得られた核酸産物又はその部分を増幅する為に用いられる。それ故に、一つの実施態様において、第一のプライマー対を用いて増幅された、増幅された核酸の少なくとも一部が、さらに第二のプライマー対を用いて増幅される。本発明に従う第一のプライマー対は、例えば、核酸配列

と少なくとも70%の配列同一性を有するプライマー及び核酸配列

と少なくとも70%の配列同一性を有するプライマーとを含み、及び、本発明に従う第二のプライマー対は、例えば、核酸配列

と少なくとも70%の配列同一性を有するプライマーと核酸配列

と少なくとも70%の配列同一性を有するプライマーを含む。
【0045】
また、本発明により、好ましくはネコ腸コロナウィルス(FECV)又はネコ伝染性腹膜炎ウィルス(FIPV)を同定する為に、及び/又は、ネココロナウィルス感染症を患うと疑われる動物においてFIPV又はネコ伝染性腹膜炎(FIP)の存在を決定する為に、本発明に従うプライマー対を使用する方法が提供される。
【0046】
ネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子の位置3145、3146、及び/又は3147でのヌクレオチド及び/又は位置3151、3152、及び/又は3153でのヌクレオチドの正体は、当技術分野において知られている任意の方法により決定されうる。これらの方法は、アレル特異的オリゴヌクレオチド(ASO)、核酸配列のシークエンシング(例えばタグ−アレイミニシークエンシング[Fan et al., 2000]若しくはパイロシークエンシング[Fakhrai-Rad et al., 2002])、ブロッキング試薬とのアレル特異的PCR(ASB-PCR、Morlan et al., 2009)、オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ(OLA,Baron et al., 1996)、マススペクトロメトリー(MS、例えばマトリックス支援レーザー脱着/イオン化飛行時間(MALDI-TOF)MS、Crain and McCloskey 1998)、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)、エレクトロニックハイブリダイゼーション、蛍光一本鎖高次構造多型(F-SSCP)分析(Makino et al., 1992)、変性ハイパフォーマンス液体クロマトグラフィー(denaturing high-performance liquid chromatography、DHPLC)、ゲル電気泳動(例えばマイクロプレートアレイ対角ゲル電気泳動[MADGE, Day et al., 1998]及び変性勾配ゲル電気泳動[DGGE, Fischer and Lerman 1980]など)、及びマイクロアレイ分析を包含するがこれらに限定されない。
【0047】
アレル特異的オリゴヌクレオチド(ASO)は、短く且つ特定のRNA又はDNA配列に対して特異的であるフルホロフォア−、クロモフォア−、酵素−、又は放射性−標識されたヌクレオチドプローブである。ASOは例えば、ヌクレオチド変異を有し、そして、この変異を含む核酸配列とハイブリダイズするだけである。図2Aに示されたとおりの位置3145、3146、及び/又は3147及び/又はヌクレオチド位置3151、3152、及び/又は3153でのヌクレオチド又は当該位置に対応するヌクレオチドを含むスパイクタンパク質をコードするネココロナウィルス核酸配列の核酸配列は例えば、図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3145、3146、及び/又は3147及び/又はヌクレオチド位置3151、3152、及び/又は3153に対応するヌクレオチドを含む該ネココロナウィルス核酸配列の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズすることができるプローブを用いて検出される。該プローブは好ましくは、14〜100ヌクレオチド長、好ましくは14、15、16、17、18、19、20、21、22、又はそれより多くのヌクレオチド長を有する。それ故に、一つの実施態様において、図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子の位置3145、3146、及び3147及び/又はヌクレオチド位置3151、3152、及び3153での(又は、に対応する)ヌクレオチドを含むネココロナウィルス核酸配列は、該核酸の少なくとも一部と特異的にハイブリダイズすることができる少なくとも14のヌクレオチド長を有するプローブを用いて検出される。好ましい実施態様において、プローブは、図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3145に対応する位置でシトシン又はチミンを有するネココロナウィルス核酸に特異的にハイブリダイズすることができる。
【0048】
本発明に従う方法において用いられるプローブは、図2Aに示される通りのヌクレオチド位置3145、3146、及び3147及び/又はヌクレオチド位置3151、3152、及び3153に対応するヌクレオチドを含むスパイクタンパク質をコードするネココロナウィルス核酸配列に相補的である。コロナウィルスはRNAウィルスであるので、それらは、当業者が知っているであろうとおり、比較的高い割合の変異を有する。それ故に、ネココロナウィルスの配列は、ネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3145、3146、及び3147及び/又はヌクレオチド位置3151、3152、及び3153の周囲のいくつかのヌクレオチドにおいて異なりうる。当技術分野の当業者は、例えば核酸置換によって、本発明に従うプローブが特定のネココロナウィルスの核酸配列にハイブリダイズすることができるようにし、及び、図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子の位置3145、3146、又は3147及び/又は位置3151、3152、又は3153での(又は、に対応する)ヌクレオチドを検出する為に、該プローブがどのように修正されるかを知っている。
【0049】
本発明に従う方法における使用の為の、図2Aにおいて示されたとおりのヌクレオチド位置3145、3146、及び3147に対応するヌクレオチドを含む好ましいプローブは、RがA又はGである核酸配列5’-CCCARRGCCATAGG-3’と少なくとも70%の配列同一性、好ましくは該核酸配列と少なくとも80%の配列同一性、より好ましくは該核酸配列と少なくとも90%の配列同一性、最も好ましくは該核酸配列と少なくとも95%の配列同一性、を有する配列を含む。一つの実施態様において、本発明は、本発明に従う方法を提供し、ここで該プローブは、配列CCCARRGCCATAGGを含む。また、本発明により、好ましくはネコ腸コロナウィルス(FECV)及び/又はネコ伝染性腹膜炎ウィルス(FIPV)を同定する為に、及び/又はネココロナウィルス感染症を患うと疑われる動物においてネコ伝染性腹膜炎(FIP)の存在を決定する為に、本発明に従うプローブを使用する方法が提供される。
【0050】
ネココロナウィルス核酸配列は、当業者に知られているシークエンシング方法により、好ましくは関連核酸の増幅直後に、決定されうる。これらの方法は例えば、蛍光的に標識されたダイデオキシヌクレオチドターミネーターを用いた直接的二本鎖ヌクレオチドシークエンシング(Smith et al., 1986)、タグ−アレイミニシークエンシング、又はパイロシークエンシングを含む。一般に、そのようなシークエンシング方法は、核酸分離手順によるウィルスゲノム核酸の分離、及び、該分離された核酸の核酸配列の、例えばダイデオキシ鎖ターミネーション方法(Sanger et al., 1977)(任意的にRNAのDNAへの逆転写及び/又は標的核酸の増幅により先行される)による決定を含む。
【0051】
一つの実施態様において、図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3145、3146、及び/又は3147及び/又はヌクレオチド位置3151、3152、及び3153に対応するヌクレオチドを含むネココロナウィルス核酸配列の少なくとも一部がシークエンスされる。
【0052】
オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ(OLA)は、既知のシングルヌクレオチドポリモルフィズムの検出の為の方法である。該方法は、2つの隣接するオリゴヌクレオチドプローブをDNAリガーゼを用いてライゲーションすることに基づき、一方で、それらが相補的なDNA標的にアニールされる。該プローブのひとつは例えば蛍光標識され且つアレル特異的である。典型的には、それぞれのアレルについて一つの、2つの異なって標識されたプローブがある。これらの2つのプローブは、3’末端の最後の塩基での配列においてだけ異なり、すなわちポリモルフィズムの部位で異なる。第二のプローブは、該ポリモルフィズムを有する部位の直下流(3’)の標的DNA配列に相補的であり、すなわち両方のアレルに相補的である一般的なプローブである。このプローブは蛍光標識される必要がない。アレル識別は、DNAリガーゼの、完全にマッチしたプローブを連結する能力により起こる;キャプチャープローブにおける3’ミスマッチが、ライゲーションを妨げるであろう。本発明の方法において、例えば該プローブの一つが、FECVを示す、図2Aに示されたとおりのヌクレオチド位置3145でのアデニンを有するスパイクタンパク質をコードするネココロナウィルス核酸配列に特異的にハイブリダイズすることができるところのオリゴヌクレオチドライゲーションアッセイが用いられる。すなわち、右のプローブの最初のヌクレオチド又は左のプローブの最後のヌクレオチドがチミンである。第二のプローブは一般的なプローブであり、これは、FECV及びFIPV両方の核酸配列にハイブリダイズすることができ、図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子の位置3145の次でスタートし、例えばもし該第二のプローブが右のプローブであるならば位置3146でスタートする。FECVの存在下において、該2つのプローブのライゲーションが可能である一方で、FIPVの存在下において、該2つのプローブのライゲーションは可能でない。本発明の一つの実施態様において、ヌクレオチド位置3145、3146、及び/又は3147を含むスパイクタンパク質をコードするネココロナウィルス核酸配列は、オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ(OLA)を用いて決定される。
【0053】
リアルタイムPCR技術が、ブロッキング試薬が用いられる場合に遺伝子の一つの特異的アレルを検出する為に用いられうる。この技術は、ブロッキング試薬を用いるアレル特異的PCRと呼ばれる(ASB-PCR, Morlan et al., 2009)。該PCR反応の間、ブロッキング剤が該反応混合物に添加されて、一つのアレルの増幅を防ぐ。プライマーの一つ、例えばフォワードプライマー、は変異アレル特異的プライマーとして設計される。他方のプライマーは一般的なプライマーであり、これは両方のアレルとハイブリダイズすることができる。ブロッキング剤(これは3’末端での増幅を防ぐためにホスホリル化される)が次に野生型アレルと特異的に結合するように設計される。該PCR反応の間、該ブロッキング剤は、該変異体特異的プライマーの該野生型アレルへのハイブリダイゼーションを防ぐ。野生型アレルだけの存在下において増幅産物は得られない一方で、変異体アレルだけの存在下において増幅産物が得られる。ASB-PCRにより、例えば、図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3145でアデニンを有する(及びこれはFECVを示す)ネココロナウィルス核酸配列と、該位置でシトシン又はチミンを有するネココロナウィルス核酸配列(これはFIPVを示す)とを区別することができる。例えば、一般的なリバースプライマーと、2つのFIPV核酸特異的プライマーであって、3’末端ヌクレオチドが図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3145に相補的である前記プライマーとからなるプライマーセットが用いられる。これらのFIPV特異的プライマーの一つが、その3’末端でアデニンを有し、及び、他方のプライマーがその3’末端でグアニンを有し、これが、該プライマーが、ヌクレオチド位置3145でそれぞれチミン又はシトシンを有するスパイクタンパク質をコードするネココロナウィルス核酸配列にハイブリダイズすることを可能にする。3’末端でチミンを有するブロッキング剤が用いられてよく、これはヌクレオチド位置3145でアデニンとハイブリダイズすることができる。該プライマーセットを用いて、FIPV核酸配列が存在する場合に増幅が起こるであろう一方で、FECV核酸だけが存在する場合は増幅は起こらないであろう。本発明の好ましい実施態様において、ヌクレオチド位置3145、3146、及び/又は3147及び/又はヌクレオチド位置3151、3152、及び/又は3153を含むスパイクタンパク質をコードするネココロナウィルス核酸配列が、ブロッキング試薬とのアレル特異的PCR(ASB-PCR)を用いて決定される。
【0054】
MALDI-TOF MSを用いて、低量(フェムトモル量)のDNAの検出が達成されうる。2〜2000ヌクレオチドの核酸が、MALDI-TOF MSを用いることにより検出されうる。MSは、種々の核酸断片の混合物を、核酸塩基の質量差の故に、いずれのラベルも使用すること無く分析する為に用いられうる。すなわち、ほとんどの場合、核酸断片の分離は、MS測定の前に必要ない。MALDI-TOF MSを用いて、例えば、ヌクレオチド位置3145での、スパイクタンパク質をコードするネココロナウィルス核酸配列のヌクレオチドがアデニンであるか(これはFECVを示す)、若しくは、シトシン又はチミンであるか(これはFIPVを示す)を決定することが可能である。本発明の一つの実施態様において、ネココロナウィルス核酸配列の少なくとも一部の質量であって、該一部が図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3145、3146、及び/又は3147及び/又はヌクレオチド位置3151、3152、及び/又は3153に対応するヌクレオチドを含むところの前記質量が決定される。好ましい実施態様において、該核酸配列の質量は、マトリックス支援レーザー脱着/イオン化飛行時間マススペクトロメトリー(MALDI-TOF MS)を用いて決定される。
【0055】
図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049及び/又はアミノ酸位置1051でのスパイクタンパク質をコードするネココロナウィルスアミノ酸配列中のアミノ酸の正体は、当技術分野で既知の任意の方法を用いて検出されうる。そのようなアミノ酸は、例えば、抗体又はその機能的等価物、マススペクトロメトリー又はエドマン分解反応を用いて検出されうる。任意的に、コロナウィルスタンパク質は、当技術分野で既知の方法により生成されうる。例えば、コロナウィルスタンパク質は、ゲル電気泳動又はクロマトグラフィー法、例えばアフィニティークロマトグラフィーなど、を用いて精製されうる。
【0056】
抗体の機能的等価物は、種類においては該抗体と少なくとも一つの同じ特性を有するが量においては必ずしもそうでない化合物として定義される。該機能的等価物は、該抗体と、必ずしも同じ程度で結合しないけれども、同じ抗原に結合することができる。抗体の機能的等価物は好ましくは、シングルドメイン抗体、一本鎖抗体、ナノボディ、ユニボディ、又は一本鎖可変断片(scFv)を含む。抗体の機能的等価物は例えば、抗体を、得られる化合物の少なくとも一つの特性(好ましくは抗原結合性)が種類においては本質的に同じであるが、量においては必ずしもそうでないように変更することによって作成される。これは、多くの方法において、例えば、アミノ酸残基が一般的に同様な特性(サイズ、疎水性等)を有する他の残基により置換され、その結果全体的な機能性が重度には影響されないところの保存的アミノ酸置換により行われる。
【0057】
ネココロナウィルススパイクタンパク質を有するネココロナウィルスの免疫原性部分は、少なくとも一つの特性を、ネココロナウィルススパイクタンパク質を有するネココロナウィルスと、種類においては共有するが、量においては必ずしもそうでない部分として定義される。ネココロナウィルススパイクタンパク質の免疫原性部分は、ネココロナウィルススパイクタンパク質と、種類においては同じであるが量においては必ずしもそうでない少なくとも一つの同じ特性を有する部分として定義される。該免疫原性部分は、ネココロナウィルス、好ましくはネコ伝染性腹膜炎ウィルス(FIPV)、に対する免疫応答を動物において好ましくは引き起こすことができる。
【0058】
図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049及び/又はアミノ酸位置1051に対応する、ネココロナウィルススパイクタンパク質アミノ酸配列のアミノ酸は、例えば、図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049及び/又はアミノ酸位置1051を有するネココロナウィルススパイクタンパク質のエピトープに対して、特異的に向けられた抗体又は機能的等価物を用いて検出される。図2Bに示されたとおりの該アミノ酸位置1049及び/又はアミノ酸位置1051は、FECVとFIPVとの区別を可能にする。アミノ酸位置1049でのメチオニンは、FECVを示し、一方で、この位置でのメチオニン以外のいずれかのアミノ酸、好ましくはロイシン、はFIPVを示し、及び、アミノ酸位置1051でのセリン以外のいずれかのアミノ酸、好ましくはアラニン、はFIPVを示す。それ故に、本発明は、本発明に従う方法を提供し、ここで図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049及び/又はアミノ酸位置1051に対応する位置でのネココロナウィルススパイクタンパク質のアミノ酸が、アミノ酸1049及び/又はアミノ酸1051を含むFIPVスパイクタンパク質のエピトープに対して特異的に向けられた抗体又はその機能的等価物を用いることにより検出される。一つの実施態様において、該エピトープは、図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049に対応する位置でメチオニン以外のアミノ酸を有し、且つ/又は、該エピトープは、図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1051に対応する位置でセリン以外のアミノ酸を有する。
【0059】
FIPVスパイクタンパク質のエピトープに対して特異的に向けられた抗体又はその機能的等価物であって、そのエピトープが図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049及び/又はアミノ酸位置1051に対応するアミノ酸を有する前記抗体又は等価物は、当技術分野で既知の任意の方法により検出されうる。例えば、該抗体又はその機能的等価物は、フルオロフォア−、クロモフォア−、又は酵素−により標識され、そして、すなわち、例えば蛍光顕微鏡又はスペクトロフォトメトリーにより検出されうる。抗体又は機能的等価物はまた、例えばフルオロフォア−、クロモフォア−、又は酵素−により標識された二次抗体を用いて検出されうる。そのような標識は当技術分野の当業者に周知であり、そして、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、β−ガラクトシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、ストレプトアビジン、ビオチン、又はジゴキシゲニンを包含する。
【0060】
また、本発明により、FIVPスパイクタンパク質のエピトープに対して特異的に向けられた抗体又は機能的等価物であって、該エピトープは、図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049に対応する位置でメチオニン以外のアミノ酸を有する前記抗体又は等価物が提供され、及び、本発明に従う抗体を含む部品及び該抗体を検出する為の手段のキットが提供される。
【0061】
MALDI-TOF MSを用いて、少ない量のアミノ酸配列の検出が達成されうる。MSは、種々のアミノ酸配列の混合物を、いずれの標識の使用無く、アミノ酸配列の質量差異の故に、分析する為に用いられうる。すなわち、ほとんどの場合、アミノ酸配列の分離は、MS測定の前に必要ない。MALDI−TOF MSを用いて、例えば、図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049でメチオニンを有するネココロナウィルスアミノ酸配列と、図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049でメチオニン以外のアミノ酸を有するネココロナウィルスアミノ酸配列とを区別することが可能である。本発明の一つの実施態様において、ネココロナウィルスアミノ酸配列の少なくとも一部の質量であって、前記一部が図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049に対応するアミノ酸を有する前記質量が、決定される。好ましい実施態様において、該アミノ酸配列の質量は、マトリックス支援レーザー脱着/イオン化飛行時間質量分析(MALDI-TOF MS)を用いて決定される。
【0062】
FIPVに対するワクチンの開発は、これまでに成功していない。種々のアプローチが、FIPVに対する防御を誘発するワクチンを提供することに失敗してきた。これらのアプローチは、近縁の異種の生きているコロナウィルス、致死未満量の毒性FIPV、低毒性FIPV、及び(組み換え)ネココロナウィルスサブユニット又はタンパク質によるワクチン接種を包含する。これらのアプローチのいくつかは、ある程度の防御を提供したが、結果は一貫しなかった。ときどき、ワクチン接種は、増大した疾病進行及び死亡を結果しさえした。唯一の現在利用可能なワクチンは、FIPVの温度感受性株に基づき、その有効性は疑わしい(McArdle et al., 1995; Fehr et al., 1997)。
【0063】
今、FECVとFIPVとの間の区別を許す、ネココロナウィルスのスパイクタンパク質における多型が同定されたので、FECVを示す該同定された核酸又はアミノ酸を有するネココロナウィルスを有する免疫原性組成物を開発することが可能である。FECVを表す核酸又はアミノ酸を有するネココロナウィルスを有する免疫原的組成物を用ることで、疾病及び/又は死亡のリスクが無い。というのも、該免疫原的組成物は、毒性のFIPV又はその部分を含まないからである。今、FIPVを示す該同定されたアミノ酸を有するネココロナウィルススパイクタンパク質を含む免疫原性組成物を開発することも可能である。FIPVスパイクタンパク質又はその免疫原的部分を含む免疫原性組成物を用いて、FIPVに対するより良い免疫応答が、分離されたウィルスタンパク質だけが用いられるので増大した疾患進行及び/又は死亡のリスク無く、引き起こされうる。
【0064】
それ故に、一つの実施態様において、本発明は、図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049に対応する位置でメチオニン以外のアミノ酸及び/又はアミノ酸位置1051に対応する位置でセリン以外のアミノ酸を有するネココロナウィルススパイクタンパク質又はその免疫原性部分を含む、又は、図2Aに示されたとおりのヌクレオチド位置3145に対応する位置でシトシン又はチミンを有し及び/又はヌクレオチド位置3151に対応する位置でグアニンを有する、スパイクタンパク質をコードするネココロナウィルス核酸を含む、又は、図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3145に対応する位置でアデニンを有し及び/又は位置3151に対応する位置でチミンを有する核酸を含むネココロナウィルスを含む、又は、図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049に対応する位置でメチオニンを有し及び/又はアミノ酸位置1051に対応する位置でセリンを有するネココロナウィルススパイクタンパク質又はその免疫原性部分を有するネココロナウィルスを含む、又はそれらの任意の組み合わせを含む、免疫原性組成物を提供する。好ましい実施態様において、本発明に従う免疫原性組成物はワクチンとして用いられる。
【0065】
さらに、ネコ科動物において、ネココロナウィルス、好ましくはネコ伝染性腹膜炎ウィルス(FIPV)、に対する免疫応答を引き起こす為の、図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049に対応する位置でメチオニン以外のアミノ酸及び/又はアミノ酸位置1051に対応する位置でセリン以外のアミノ酸を有するネココロナウィルススパイクタンパク質又はその免疫原性部分、又は、図2Aに示されたとおりのヌクレオチド位置3145に対応する位置でシトシン又はチミンを有し及び/又はヌクレオチド位置3151に対応する位置でグアニンを有する、スパイクタンパク質をコードするネココロナウィルス核酸、又は、図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3145に対応する位置でアデニンを有し及び/又は位置3151に対応する位置でチミンを有する核酸を含むネココロナウィルス、又は、図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049に対応する位置でメチオニンを有し及び/又はアミノ酸位置1051に対応する位置でセリンを有するネココロナウィルススパイクタンパク質又はその免疫原性部分を有するネココロナウィルス、又はそれらの任意の組み合わせが提供される。
【0066】
一つの実施態様は、ネコ科動物においてネココロナウィルス、好ましくはネコ伝染性腹膜炎ウィルス(FIPV)、に対する免疫応答を引き起こすための免疫原的組成物又は予防剤を調製する為に、図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049に対応する位置でメチオニン以外のアミノ酸及び/又はアミノ酸位置1051に対応する位置でセリン以外のアミノ酸を有するネココロナウィルススパイクタンパク質又はその免疫原的部分を含む、又は、図2Aに示されたとおりのヌクレオチド位置3145に対応する位置でシトシン又はチミンを有し及び/又はヌクレオチド位置3151に対応する位置でグアニンを有する、スパイクタンパク質をコードするネココロナウィルス核酸を含む、又は、図2Aに示されたとおりのネココロナウィルススパイクタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド位置3145に対応する位置でアデニンを有し及び/又は位置3151に対応する位置でチミンを有する核酸を含むネココロナウィルス、又は、図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049に対応する位置でメチオニンを有し及び/又はアミノ酸位置1051に対応する位置でセリンを有するネココロナウィルススパイクタンパク質又はその免疫原性部分を含むネココロナウィルス、又はそれらの任意の組み合わせを使用する方法を提供する。
【0067】
本発明はさらに以下の実施例において説明される。これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものでないが、本発明を明確にするために従事するだけである。
【0068】
実施例
【実施例1】
【0069】
この実施例において、6の臨床試料(排泄物)が分析された。RNAが、該臨床試料から抽出され、RT−PCRが該抽出されたRNAに適用され、そして、産物が、第1のPCR(第1のラン)の後及びネステッドPCR(第2のラン)の後に、アガロースゲル電気泳動により分析された(図3参照)
【0070】
材料及び方法
ネステッドRT−PCRは、標的点変異を有するFCoVスパイク遺伝子領域を増幅する為に用いられた。ゲノムRNAが、QIAamp Viral RNA Mini Kit及びQiagen RNeasy Mini Kit (Qiagen, Inc.)を用いて、製造者の指示に従い、6の健康なネコの排泄物から抽出された。cDNA合成が、M-MLVリバーストランスクリプターゼ(RT)により実施され、そして次に、Taq DNAポリメラーゼによるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が行なわれた。全ての酵素は、製造者の指示(Promega Corp., マディソン, WI)に従い用いられた。両方の反応が、特異的なプライマーにより刺激された(表1のプライマーを参照)。プライマーは、アクセス番号NC_012955及びNC_012952を有するFCoVゲノム配列を用いて設計された。増幅は、60秒間の94°С、30秒間の50°С、及び1分間の72°Сの30サイクル並びに増幅の終わりで7分間の72°Сでの追加的伸長を用いて実施された。PCR断片が分離され、そして、アガロースゲルから、電気泳動後、Qiagen gel Extractionキット(Qiagen Benelux B.V., Venlo, オランダ)を用いて精製された。シークエンシングは、Base Clear Holding B.V. (ライデン、オランダ)により実施された。
【0071】
結果
第1のPCR後、601-bp断片が、図3のレーン2において見られるとおり、一つの臨床試料においてだけ得られた。PCRの第二ラウンド後、139-bp断片が、ネステッドプライマーが該第一のランのRT−PCRの産物について適用されたときに、増幅された。今、産物は、レーン2においてだけでなく、レーン3、5、及び6において示される増幅されたRNAについても見られる。
【実施例2】
【0072】
この実施例において、47の健康なネコの排泄物及び血しょう試料、54のFIPが確認されたネコの臨床試料、及び14のFIPが確認されたネコの排泄物試料が分析された。
【0073】
材料及び方法
ゲノムRNA抽出、cDNA合成、増幅、及びシークエンシングは、実施例1の材料及び方法に従い実施された。
【0074】
結果
アミノ酸位置1049でメチオニンをコードする核酸配列が、健康なネコからの全て(47/47)の排泄物若しくは血しょう由来FCoVにおいて検出された(図4A)。後で、図4Aが、確認されたFIPを有するネコの試料に由来する5つの配列(Q093501030_326B_4546.scf、Q093501032_327B_4546.scf、Q093501036_321S_4546.scf、Q093501038_321A_4546.scf及びQ093501046_K11_019.ab1)を有することが発見され、これは、健康なネコからの42/42の排泄物若しくは血しょう由来FCoVにおいて、メチオニンがアミノ酸位置1049に存在することを意味した。この配列は、FIPを確認されたネコから増幅された、2/54の病変由来RNA(図4B)及び12/14の排泄物由来RNA(図4C)においても観察された。重要なことに、FIPを確認されたネコからの52/54(96%)の病変由来RNAが、位置3145でAのC又はTへの変更を有し、メチオニンをロイシンに変更する位置1049でのアミノ酸変化をもたらした(図4B)。
【実施例3】
【0075】
私たちは、オランダにおいて獣医学者及び所有者を通じて試料及びネコを集めることを継続した。この実施例において、以下の試料が分析された:
- 352の健康なネコの排泄物試料、
- 89の健康な又はFIPを疑われていないネコの白血球細胞試料、
- 89の健康な又はFIPを疑われていないネコの血しょう試料、
- 56の健康な又はFIPを疑われていないネコの血清試料、
- 97のFIPを確認されたネコのFIP病変試料(腸間膜リンパ節(LN)及び/又は腎臓及び/又は脾臓及び/又は網(omentum)及び/又は肺及び/又はLN及び/又は肝臓及び/又は腹水)、
- 34のFIPを確認されたネコの白血球試料、
- 34のFIPを確認されたネコの血しょう試料、及び
- 15のFIPを確認されたネコの血清試料。
【0076】
材料及び方法
ゲノムRNA抽出、cDNA合成、増幅、及びシークエンシングは、実施例1の材料及び方法に従い実施された。
【0077】
結果
【0078】
健康なネコからの試料
排泄物試料の137/352(39%)がFCoV陽性であった。アミノ酸位置1049でメチオニン及びアミノ酸位置1051でセリンをコードする核酸配列が、健康なネコからの全て(137)の排泄物由来FCoVにおいて検出された。
【0079】
健康な又はFIPを疑われていないネコからの試料
89の健康な又はFIPを疑われていないネコからのEDTA血試料が得られ、そして、白血球(WBC)及び血しょうに分離された。56の健康な又はFIPを疑われていないネコからの血清試料が得られた。
【0080】
20/89の白血球細胞試料、4/89の血しょう試料、及び8/56の血清試料がFCoV陽性であった。全ての4つの血しょう陽性試料はまたWBC画分においても陽性であり、及び、それぞれの動物において、血しょう中の配列はWBCにおけるものと100%同一であった。アミノ酸位置1049でメチオニン及びアミノ酸位置1051でセリンをコードする核酸配列が、FCoVについて陽性と試験された全ての試料において検出された。
【0081】
FIPを確認されたネコからの試料
FIPを確認された97のネコからの全てが研究された。典型的なFIP病変を有する97/97の臓器(腸間膜LN及び/又は腎臓及び/又は脾臓及び/又は網(omentum)及び/又は肺及び/又はLN及び/又は肝臓及び/又は腹水)が、FCoVについて陽性と試験された。
【0082】
FIPを確認されたネコからの病変由来RNAの87/97(90%)が、メチオニンをロイシンに変更する位置1049でのアミノ酸変化を有した。FIPを確認されたネコからの病変由来RNAの5/97(5%)が、セリンをアラニンに変更する位置1051でのアミノ酸変化を有した。位置1051でアラニンが存在した5つの試料全てにおいて、メチオニンが位置1049に存在した。すなわち、FIPを確認されたネコからの病変由来RNAの97のうち92(95%)が、FIPを示すアミノ酸変化を有した一方で、97のうち5(5%)が、FIPを示すアミノ酸変化を有さなかった。
【0083】
該97のFIPを確認されたネコの34から、該動物を安楽死させる前に血液が得られた。血液試料が白血球(バフィーコート)及び血しょうに分離された。EDTA血も得られた、15のFIPを確認されたネコからの血清試料が得られた。
【0084】
WBC:
WBC試料の34/34(100%)がFCoV陽性であった。FIPを確認されたネコからのWBC由来RNAの29/34(85%)において、ロイシンが位置1049で存在し、セリンが位置1051で存在した;29全てについて、臓器試料においてロイシンが位置1049で存在した。WBC試料において位置1049でメチオニンを有する5のネコのうち、2がFIP病変を有する臓器においてこの位置にロイシンを有し、他の3はFIPVを示すアミノ酸変化のいずれも有さなかった。すなわち、臓器材料においてロイシンが位置1049で検出されたFIPネコの31/34(90%)から、ロイシンはまた、この位置でWBCにおいて29/31(94%)の症例においても検出された。
【0085】
血しょう:
血しょう試料の14/34(41%)がFCoV陽性であった。FIPを確認されたネコからの11/34(32%)の血しょう由来RNAにおいて、ロイシンが位置1049に存在し及びセリンが位置1051に存在した。血しょうにおいて位置1049でメチオニンを有する3のFCoV陽性ネコのうち、1つがFIP病変を有する臓器のFCoVのRNAにおけるこの位置でロイシンを有し、他の2つがFIPVを示すアミノ酸変化のいずれも有さなかった。すなわち、臓器材料において位置1049でロイシンが検出された31/34(90%)のFIPネコから、ロイシンもまた11/31(35%)の症例において血しょう中に検出された。
【0086】
血清:
4/15(27%)の血清試料がFCoV陽性であった。FIPを確認されたネコからの2/15(13%)の血清由来RNAにおいて、ロイシンが位置1049に存在し及びセリンが位置1051に存在した。これらのネコのうち15/15(100%)が、臓器由来FCoV RNAにおいて、位置1049でロイシンを有した。
【0087】
【表1】

【0088】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネコ伝染性腹膜炎ウィルス(FIPV)が試料中に存在するかどうかを決定するための方法であって、該試料がネココロナウィルスを含むかどうかを決定すること、そして、もしネココロナウィルスが存在するならば、該ネココロナウィルスのスパイクタンパク質中の図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049に対応する位置でのアミノ酸の正体を決定すること、そして、該アミノ酸がメチオニンでないならば、FIPVが存在すると決定することを含む、前記方法。
【請求項2】
位置1049での該アミノ酸の正体が、スパイクタンパク質をコードするネココロナウィルス核酸の核酸配列を決定することにより決定され、該核酸が図2Aに示されたとおりの位置3145、3146、及び/又は3147でのヌクレオチド又は当該位置に対応するヌクレオチドを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
メチオニン以外の該アミノ酸がロイシンである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
図2Aに示されたとおりのヌクレオチド位置3145、3146、及び3147を含む領域又は当該位置に対応する領域を含むネココロナウィルス核酸分子の少なくとも一部を、図2Aに示されたとおりのヌクレオチド位置3055に対応する位置とヌクレオチド位置3669に対応する位置との間の該核酸配列の少なくとも一部にハイブリダイズすることができる少なくとも1つのプライマーを用いて増幅することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
ネコ伝染性腹膜炎ウィルス(FIPV)が試料中に存在するかどうかを決定するための方法であって、該試料がネココロナウィルスを含むかどうかを決定すること、そして、もしネココロナウィルスが存在するならば、該ネココロナウィルスのスパイクタンパク質中の図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1051に対応する位置でのアミノ酸の正体を決定すること、そして、もし該アミノ酸がセリンでないならば、FIPVが存在すると決定することを含む、前記方法。
【請求項6】
該ネココロナウィルスのスパイクタンパク質中の図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1051に対応する位置でのアミノ酸の正体を決定すること、そして、もし該アミノ酸がセリンでないならば、FIPVが存在すると決定することをさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
位置1051での該アミノ酸の正体が、スパイクタンパク質をコードするネココロナウィルス核酸の核酸配列を決定することにより決定され、該核酸が図2Aに示されたとおりの位置3151、3152、及び/又は3153でのヌクレオチド又は当該位置に対応するヌクレオチドを含む、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
セリン以外の該アミノ酸がアラニンである、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
図2Aに示されたとおりのヌクレオチド位置3151、3152、及び3153を含む領域若しくは当該ヌクレオチド位置に対応する領域を含むネココロナウィルス核酸分子の少なくとも一部を、図2Aに示されたとおりのヌクレオチド位置3055に対応する位置とヌクレオチド位置3669に対応する位置との間の該核酸配列の少なくとも一部にハイブリダイズすることができる少なくとも1つのプライマーを用いて増幅することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
該少なくとも1つのプライマーが表1に記載されたプライマーから選択されたものである、請求項4又は9に記載の方法。
【請求項11】

と少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含む分離された若しくは組み換えの核酸配列と

と少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含む分離された若しくは組み換えの核酸配列とを含むプライマー対。
【請求項12】

と少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含む分離された若しくは組み換えの核酸配列と

と少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含む分離された若しくは組み換えの核酸配列とを含むプライマー対。
【請求項13】
図2Aに示されたとおりの位置3145、3146、及び3147でのヌクレオチド若しくは当該位置に対応するヌクレオチドを含むネココロナウィルス核酸の少なくとも一部と特異的にハイブリダイズすることができる、又は、図2Aに示されたとおりの位置3151、3152、及び3153でのヌクレオチド若しくは当該位置に対応するヌクレオチドを含むネココロナウィルス核酸の少なくとも一部と特異的にハイブリダイズすることができる、少なくとも14ヌクレオチド長を有するプローブを用いて、該核酸配列が検出され、該一部が少なくとも14ヌクレオチド長を有する、請求項2〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】

と少なくとも70%の配列同一性を有する核酸配列を含む、14〜100ヌクレオチド長を有するプローブ。
【請求項15】
ネココロナウィルス核酸配列の少なくとも一部をシークエンシングすることをさらに含み、該一部が、図2Aに示されたとおりのヌクレオチド位置3145、3146、及び/又は3147に対応するヌクレオチド又はヌクレオチド位置3151、3152、及び/又は3153に対応するヌクレオチドを含む、請求項2〜10又は13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
ネココロナウィルススパイクタンパク質の図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049又は1051に対応する位置でのアミノ酸が、FIPVスパイクタンパク質のエピトープに対して特異的に向けられた抗体又はその機能的等価物を用いることにより検出され、該エピトープが、図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049に対応する位置でメチオニン以外のアミノ酸又はアミノ酸位置1051に対応する位置でセリン以外のアミノ酸を含む、請求項1、3、5、6、又は8に記載の方法。
【請求項17】
FIPVスパイクタンパク質のエピトープに対して特異的に向けられた抗体又は機能的等価物であって、該エピトープが、図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1049に対応する位置でメチオニン以外のアミノ酸を含み、又は、該エピトープが図2Bに示されたとおりのアミノ酸位置1051に対応する位置でセリン以外のアミノ酸を含む、前記抗体又は機能的等価物。
【請求項18】
図2Bに示されたとおりの、アミノ酸位置1049に対応する位置でメチオニン以外のアミノ酸を有し及び/又はアミノ酸位置1051に対応する位置でセリン以外のアミノ酸を有するネココロナウィルススパイクタンパク質若しくはその免疫原性部分、又は
図2Aに示されたとおりの、ヌクレオチド位置3145に対応する位置でシトシン若しくはチミンを有し及び/又はヌクレオチド位置3151に対応する位置でグアニンを有する、スパイクタンパク質をコードするネココロナウィルス核酸、又は
図2Aに示されたとおりの、ヌクレオチド位置3145に対応する位置でアデニンを有し及び/又はヌクレオチド位置3151に対応する位置でチミンを有する核酸を含むネココロナウィルス、又は
図2Bに示されたとおりの、アミノ酸位置1049に対応する位置でメチオニンを有し及び/又はアミノ酸位置1051に対応する位置でセリンを有するネココロナウィルススパイクタンパク質又はその免疫原性部分を含むネココロナウィルス、又は
それらの組み合わせ
を含む免疫原性組成物。
【請求項19】
図2Bに示されたとおりの、アミノ酸位置1049に対応する位置でメチオニン以外のアミノ酸を有し及び/又はアミノ酸位置1051に対応する位置でセリン以外のアミノ酸を有するネココロナウィルススパイクタンパク質若しくはその免疫原性部分、又は
図2Aに示されたとおりの、ヌクレオチド位置3145に対応する位置でシトシン若しくはチミンを有し及び/又はヌクレオチド位置3151に対応する位置でグアニンを有する、スパイクタンパク質をコードするネココロナウィルス核酸、又は
図2Aに示されたとおりの、ヌクレオチド位置3145に対応する位置でアデニンを有し及び/又はヌクレオチド位置3151に対応する位置でチミンを有する核酸を含むネココロナウィルス、又は
図2Bに示されたとおりの、アミノ酸位置1049に対応する位置でメチオニンを有し及び/又はアミノ酸位置1051に対応する位置でセリンを有するネココロナウィルススパイクタンパク質又はその免疫原性部分を含むネココロナウィルス、又は
それらの組み合わせを、
ネコ科動物においてネココロナウィルス、好ましくはネコ伝染性腹膜炎ウィルス(FIPV)に対する免疫応答を引き起こす為の免疫原性組成物又は予防剤の調製の為に使用する方法。


【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図2−5】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図4−4】
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【図4−5】
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【図4−6】
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【公表番号】特表2013−516983(P2013−516983A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548908(P2012−548908)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【国際出願番号】PCT/NL2011/050027
【国際公開番号】WO2011/087366
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(509163824)ユニベルシテイト ユトレヒト ホールディング ビー.ブイ. (3)
【Fターム(参考)】