FET型センサを用いたインフルエンザウイルスRNAの検出方法
【課題】インフルエンザウイルス感染症の診断において、型別確定診断を短時間でかつ高感度にて行いうる手段を提供する。
【解決手段】センシング部に標的とするインフルエンザウイルスRNAとハイブリダイゼーションしうる一本鎖核酸が固定化されてなるFET型センサを用いる。該FETセンサに試料溶液を供給することによって、センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、ポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後の浮遊拡散部が蓄積する電荷量を電位変化として検出する。検出された電位変化に基づいて、試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの有無およびその濃度を判定する。
【解決手段】センシング部に標的とするインフルエンザウイルスRNAとハイブリダイゼーションしうる一本鎖核酸が固定化されてなるFET型センサを用いる。該FETセンサに試料溶液を供給することによって、センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、ポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後の浮遊拡散部が蓄積する電荷量を電位変化として検出する。検出された電位変化に基づいて、試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの有無およびその濃度を判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FET型センサを用いたインフルエンザウイルスRNAの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスを病原体とするインフルエンザ感染症は、現代においてもその強烈な伝播力によって大きな流行を繰り返す伝染病であり、社会に莫大な被害を及ぼしている。インフルエンザウイルスは急性の呼吸器感染症を引き起こし、その臨床症状は、急激な発熱、頭痛、関節痛、全身倦怠などの全身症状とともに、鼻汁、咳などの風邪にみられる種々の呼吸器症状および38℃以上の高熱を伴うのが特徴である。健常人では通常1〜2週間程度で治癒するが、乳幼児、高齢者や呼吸器・循環器・腎臓に慢性疾患を持つ患者、糖尿病などの代謝疾患や免疫機能が低下している患者などでは、細菌などによる二次感染や肺炎を併発して死に至る場合も少なくない。また、呼吸器の局所感染にとどまらず、インフルエンザ脳炎・脳症などに代表される重症神経系合併症といった極めて重篤な症例も報告されている。このほか、腹痛、悪心・嘔吐、下痢などの消化器症状がみられることもあり、特に小児では注意を要する。診断する上で注意すべき大きな特徴は、呼吸器症状に比べて、熱その他の全身症状が顕著である点である。
【0003】
従来、インフルエンザウイルス感染症を診断するための手段としては、簡便で低感度のテープ法と、高感度であるが煩雑な遺伝子検査法(遺伝子増幅法)とが存在するものの、簡便迅速で高感度な型別確定診断技術がなく、インフルエンザの重症化や院内感染拡大の危険性を抱えていた。より詳細には、現在、インフルエンザウイルスの確定診断に用いられている遺伝子検査法は、ラボにおける測定仕様となっており、その煩雑性からベッドサイドや外来のようにオンサイトでの患者に対する迅速および個別の診断には適さない。また、感染症の患者の診断は、1種類の感染源に対して多くの検体についてまとめて行うよりも、1検体について連続して多数の候補ウイルス・細菌の存在の有無を判断することが必須である。特に、新型インフルエンザやパンデミックを想定した場合、かような技術はトリアージに必須な診断法である。すなわち、迅速な型別診断による振り分け(トリアージ)こそが、感染症を拡大させるか封じ込めるかの分かれ道になっているにもかかわらず、これを実現するための技術はいまだ開発されていないのが現状である。また、緊急時の院外での診断に対応可能な、バッテリー駆動性のハンディポータブル型機材の開発等の応用的技術の提案も皆無である。
【0004】
ところで、従来、集積回路技術を用いた化学センサとして、電界効果トランジスタ(FET)の原理による種々のセンサが開発されている。このFET型センサは、電気化学的な電位変化を検出するものであり、例えば、水素イオン濃度を検出するものはイオンセンシティブFET(ISFET)と呼ばれている。本発明者らは以前に、このISFETのセンシング部に、試料中の検体と反応もしくは結合し、または検体の反応の触媒となる物質を固定することで、前記反応または結合に基づくイオン濃度の変化を正確に検出しうるFET型センサを提案している(特許文献1を参照)。また、この特許文献1では、当該FET型センサの用途として、ある試料中の検体の有無やその含有量等を正確に検出することや、標的とする塩基配列を検出することなどを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2003/042683号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1の開示によれば、標的とする検体DNAと相補性を有する一本鎖核酸(プローブ)をセンサのセンシング部に固定することで、検体DNAとプローブとのハイブリダイゼーションを高感度に検出することができる、とされている。
【0007】
しかしながら、特許文献1には具体的なDNA固定化のための手法等の開示がない。また、特許文献1には、具体的な実施例等の開示もない。さらには、インフルエンザウイルス感染症の診断の際に必要とされるような型別確定診断を短時間でかつ高感度にて行うことについても何ら開示がなされていない。
【0008】
このように、インフルエンザウイルス感染症の診断において、型別確定診断を短時間でかつ高感度にて行うことを可能とするような技術の開発は、依然として強く望まれているのが現状である。
【0009】
本発明は、従来の技術における上述したような問題に鑑みなされたものであり、インフルエンザウイルス感染症の診断において、型別確定診断を短時間でかつ高感度にて行いうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した従来技術における課題は、以下のものにより解決されうる:
(1)P型またはN型半導体基板の表面側に所定の間隔を置いて形成された、基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部と、
前記入力ダイオード部から浮遊拡散部までの間に形成されるべき導通チャネルの始端および終端にそれぞれ対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定された入力ゲートおよび出力ゲートと、
前記チャネルの中間部に対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたイオン感応膜からなるセンシング部と、
前記浮遊拡散部の、前記チャネルから離れた側に連なる前記基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたリセットゲートと、
前記リセットゲートにおける前記浮遊拡散部から離れた側の前記基板表面部に形成された、基板と逆型の拡散領域からなるリセットダイオード部とを備え、
前記センシング部に、標的とするインフルエンザウイルスRNAとハイブリダイゼーションしうる一本鎖核酸が固定化されてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記試料溶液を前記センシング部に供給する工程と、
前記試料溶液の供給によって前記センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後の前記浮遊拡散部が蓄積する電荷量を電位変化として検出する工程と、
検出された前記電位変化に基づいて、前記試料溶液中の前記インフルエンザウイルスRNAの有無およびその濃度を判定する工程と、
を含む、FET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法;
(2)P型またはN型半導体基板の表面側に所定の間隔を置いて形成された、基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部と、
前記入力ダイオード部から浮遊拡散部までの間に形成されるべき導通チャネルの中間部および終端部にそれぞれ対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定された入力ゲートおよび出力ゲートと、
前記チャネルの入力端に対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたイオン感応膜からなるセンシング部と、
前記浮遊拡散部の、前記チャネルから離れた側に連なる前記基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたリセットゲートと、
前記リセットゲートにおける前記浮遊拡散部から離れた側の前記基板表面部に形成された、基板と逆型の拡散領域からなるリセットダイオード部とを備え、
前記センシング部に、標的とするインフルエンザウイルスRNAとハイブリダイゼーションしうる一本鎖核酸が固定化されてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記試料溶液を前記センシング部に供給する工程と、
前記試料溶液の供給によって前記センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後の前記浮遊拡散部が蓄積する電荷量を電位変化として検出する工程と、
検出された前記電位変化に基づいて、前記試料溶液中の前記インフルエンザウイルスRNAの有無およびその濃度を判定する工程と、
を含む、FET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法;
(3)上記(1)または(2)に記載の検出方法であって、
前記FET型センサを一単位の素子として、これが同一半導体基板上において複数個並列的に形成されてなる並列FET型センサを用い、
この際、前記並列FET型センサにおいて、前記素子の入力ゲートと、リセットゲートおよびリセットダイオードとが、それぞれ、すべての前記素子間に延びる単一の入力ゲートと、単一のリセットゲートおよび単一のリセットダイオードとから共通的に形成されてなる、検出方法;
(4)P型またはN型半導体基板の表面側に所定の間隔を置いて、基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部を形成するとともに、前記浮遊拡散部を第1ドレインと第2ドレインに二分割するとともに、前記入力ダイオード部を前記二分割に対応する部分を有する共通ソースとして、これらのソース−ドレイン間の基板表面部に第1および第2の互いに並列したチャネルが形成されるようにし、
前記第1および第2ドレインを構成する浮遊拡散部の、前記二チャネルと背反する側に、同部と小間隔を置いて、基板と逆型の拡散領域からなる共通リセットダイオードを形成するとともに、前記小間隔内の基板表面上に絶縁膜を介して共通リセットゲートを固定し、
前記第1チャネルの両端に対応した基板表面上の位置に、それぞれ絶縁膜を介して入力ゲートおよび出力ゲートを固定するとともに、同チャネルの中間部に対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介してイオン感応膜からなる第1センシング部を固定し、
前記第2チャネルの中間部、および終端部にそれぞれ対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して入力ゲートおよび出力ゲートをそれぞれ固定するとともに、同チャネルの始端部に対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介してイオン感応膜からなる第2センシング部を固定し、
前記第1および第2センシング部に、標的とするインフルエンザウイルスRNAとハイブリダイゼーションしうる一本鎖核酸が固定化されてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記試料溶液を前記第1および第2センシング部に供給する工程と、
前記試料溶液の供給によって前記第1および第2センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、前記浮遊拡散部の前記第1および第2ドレイン電位リセット後において蓄積する電荷量を電位変化として検出する工程と、
検出された前記電位変化に基づいて、前記試料溶液中の前記インフルエンザウイルスRNAの有無およびその濃度を判定する工程と、
を含む、FET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法;
(5)半導体基板上に、その基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部を所定の間隔で形成し、その間隔内の基板表層部に形成されるベき導通チャネルの中間または始端に対応する基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されかつ表面に露出した金膜を有するセンシング部を備え、
前記センシング部の近傍における基板表面に、少なくとも1個の比較電極が絶縁膜を介して固定されてなり、
前記金膜に前記一本鎖核酸が固定化されてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記センシング部および前記比較電極を含む領域に同一の前記試料溶液を供給する工程と、
前記試料溶液の供給によって前記センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後の前記浮遊拡散部が蓄積する電荷量を、前記比較電極の電位を基準として測定することで、前記一本鎖核酸と前記インフルエンザウイルスRNAとのハイブリダイゼーションの有無を検出する工程と、
を含む、検出方法;
(6)半導体基板上に、その基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部を所定の間隔で形成し、その間隔内の基板表層部に形成されるべき導通チャネルの中間または始端に対応する基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されかつ表面に露出した金膜を有するセンシング部を備え、
前記金膜に前記一本鎖核酸が固定化されてなり、
前記センシング部の上方において、前記金膜の直上に位置する測定電極と、前記金膜に固定化された前記一本鎖核酸に電気的に影響しない距離だけずらして配置された比較電極とが設けられてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記試料溶液を前記センシング部に供給する工程と、
前記測定電極および前記比較電極を下降させて前記試料溶液中に没入させ、かつ前記測定電極が前記金膜に固定化された前記一本鎖核酸とハイブリダイズした前記インフルエンザウイルスRNAの末端を吸着する程度の電位を前記測定電極および前記比較電極に印加し、前記測定電極と接地電位との間に流れる電流を、前記比較電極に流れる電流を基準として測定することで、前記一本鎖核酸と前記インフルエンザウイルスRNAとのハイブリダイゼーションの有無を検出する工程と、
を含む、検出方法;
(7)半導体基板上に、その基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部を所定の間隔で形成し、その間隔内の基板表層部に形成されるべき導通チャネルの中間または始端に対応する基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたイオン感応膜からなるセンシング部を備え、
前記センシング部の近傍における基板表面に、金電極および比較電極を絶縁膜を介して固定するとともに、前記金電極に標的とするインフルエンザウイルスRNAとハイブリダイゼーションしうる一本鎖核酸が固定化されてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記センシング部および前記金電極を含む領域に同一の前記試料溶液を供給する工程と、
前記金電極に固定化された前記一本鎖核酸のハイブリダイゼーションにより形成されるべき二重螺旋間に侵入させるための挿入剤を添加する工程と、
前記金電極に所定の電圧を印加することにより前記二重螺旋間の挿入剤と前記金電極との間に流れる酸化・還元電流に基づいて前記試料溶液のpHを変化させる工程と、
前記pHの変化に応じた深さとなるポテンシャル井戸からの汲み出し電荷量を、前記比較電極の電位を基準として測定することで、前記一本鎖核酸と前記インフルエンザウイルスRNAとのハイブリダイゼーションの有無を検出する工程と、
を含む、検出方法;
(8)上記(5)〜(7)のいずれか1項に記載の検出方法であって、
一対のFET型センサが同一の半導体基板上に併設されてなり、前記一対のFET型センサの周縁を一括して包囲する電気化学的に不活性な外周壁と、前記センサ間を仕切って両端が外周壁に内接する仕切り壁を設けたことにより、それぞれの前記センサ上に供給される前記試料溶液が互いに流通しないように構成されてなるセンサ群を用いることを特徴とする、検出方法。
【0011】
(9)上記(5)〜(8)のいずれか1項に記載の検出方法を行うための、前記FET型センサを含むインフルエンザウイルスRNA検出装置;
(10)上記(9)に記載のインフルエンザウイルスRNA検出装置の、ヒトインフルエンザウイルス型別迅速診断への使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インフルエンザウイルス感染症の診断において、型別確定診断を短時間でかつ高感度にて行いうる手段が提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係るFET型センサを示す断面図(A)およびポテンシャル状態を示す模式図(B)である。
【図2】本発明のFET型センサの各部に電圧を印加しかつ出力電位を検出するタイミングを示す電圧波形図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るFET型センサのポテンシャル状態の推移を示す模式図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るFET型センサを示す断面図(A)およびポテンシャル状態を示す模式図(B)である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るFET型センサのポテンシャル状態の推移を示す模式図である。
【図6】本発明の第1実施形態および第2実施形態に係るFET型センサの複合形式を示す模式的水平断面図である。
【図7】本発明のFET型センサの応用形態の基本構造を示す概略平面および電気回路図である。
【図8】応用形態に係るセンサ構造として構成された電極吊り下げ降下方式を示す部分断面図である。
【図9】イオン感応膜として窒化膜または五酸化タンタル膜を用い、センシング部周辺の金パッドの少なくとも1つに標的インフルエンザウイルスRNAと相補的な一本鎖核酸が固定化されてなる方式のFET型センサの部分断面図である。
【図10】一対のFET型センサを同一の半導体基板上に併設し、その一対のFET型センサの周縁を一括して包囲する電気化学的に不活性な外周壁と、それらのセンサ間を仕切って両端が外周壁に内接する仕切り壁を設けた構造を略示する平面図である。
【図11】実施例で用いたイメージセンサの全体を示す写真である。
【図12】実施例において、イメージセンサの全ピクセルを4つの象限に分割した様子を説明するための説明図である。
【図13】実施例で計測された信号の出力強度を、RNAサンプルの希釈系列におけるインフルエンザウイルスRNAの濃度に対してプロットしたグラフである。なお、当該グラフの横軸は滴下した60μL中のベースサンプル(0.64pfu/60μL)の濃度を1としたときの相対値である。
【図14】実施例において、インフルエンザウイルスRNAサンプルを滴下したときの各象限の出力信号の信号強度をイメージングした写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、FET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法に係る。以下、添付の図面に基づき、本発明の実施の形態を具体的に説明する。より詳細には、以下では、試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法に用いられるFET型センサの構成が相違するいくつかの実施形態に分けて、本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る検出方法に用いられるFET型センサを示す断面図(A)および基本ポテンシャル状態を示す模式図(B)であり、図2は動作状態における各ポテンシャル状態を順次に示す模式図である。図1のAにおいて、1は典型的にはシリコン製のP-型の半導体基板であり、半導体基板1の表側には、互いに所定間隔を置いてN+型拡散層からなる電荷供給部としての入力ダイオード2および浮遊拡散部(FD)3が形成され、さらに浮遊拡散部3から小間隔を置いてリセットダイオード4が形成される。半導体基板1上には、この場合、N+型拡散層上も含めSiO2またはSi3N4からなる絶縁膜5が形成される。
【0016】
入力ダイオード2と浮遊拡散部3との間における半導体基板1の表面部には、次に述べるゲート構造との関連において導通チャネル(n型反転層)が形成され、その結果、入力ダイオード2をソースとし、浮遊拡散部3をドレインとするFET型センサが構成される。絶縁膜5上には、チャネル始端部に対応する入力ダイオード2の隣接位置において入力ゲート6が、またチャネル終端部に対応する浮遊拡散部3の隣接位置において出力ゲート7が、それぞれポリシリコン、またはアルミニウムからなる蒸着層より形成され、さらに浮遊拡散部3とリセットダイオード4との間においてリセットゲート8が同様の蒸着層より形成される。
【0017】
入力ゲート6、出力ゲート7およびリセットゲート8の上面と、これらのゲートを支持したゲート外の絶縁膜5上には、典型的にはSi3N4蒸着層からなる被着膜10が形成される。Si3N4膜はSiO2膜に比べて構造が緻密で、酸素の拡散係数が小さいため、それ自身が入/出力ゲート6、7間に形成する凹部をセンシング部9として、良好なイオン感応膜を構成する。イオン感応膜としてはSi3N4の他、SiO2やAu等も用いることができる。このセンシング部9のイオン感応膜には、検出方法において標的とするインフルエンザウイルスRNAとハイブリダイゼーションしうる一本鎖核酸(プローブ)が、固定化される(図示せず)。ここで、センシング部9のイオン感応膜に固定化される一本鎖核酸(プローブ)の具体的な形態について特に制限はなく、標的とするインフルエンザウイルスRNAとハイブリダイゼーションしうるものが適宜選択されうる。この一本鎖核酸(プローブ)は、DNAであってもRNAであってもよいが、安定性等の観点からは、好ましくはDNAが用いられる。また、一本鎖核酸(プローブ)の塩基長についても特に制限はないが、通常は20〜25塩基程度である。ここで、一本鎖核酸(プローブ)として用いられうるDNAの塩基配列の一例を以下に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
また、センシング部9のイオン感応膜に一本鎖核酸(プローブ)を固定化する具体的な手法についても特に制限はなく、従来公知の常法が好ましく用いられうる。一例として、プローブおよび適当な固定化剤(例えば、6−HHT(6−ヒドロキシ−1−ヘキサンチオール)など)を含む固定化溶液を、センシング部9のイオン感応膜に適量滴下し、乾燥させるという手法が例示されるが、これに限定されることはない。
【0020】
本実施形態において、好ましくは、入力ダイオード2および浮遊拡散部3の外側における半導体基板の表面部には、リーク電流を低減するためのチャネルストッパとして、P-基板よりアクセプタ密度が高く、N+拡散部からなるこれらの入力ダイオード2および浮遊拡散部3のドナー密度と拮抗しうるP+拡散部(図示せず)を設け、入力ダイオード2および浮遊拡散部3から電荷がチャネル外に漏洩するのを防止することができる。
【0021】
なお、半導体基板1の表面において、入力ダイオード2およびリセットダイオード4の外側には、絶縁膜5と同様なシリコン酸化膜等からなる比較的厚いマスク層11が形成され、前述したセンシング部9を形成する蒸着膜10は、このマスク層11にも被さり、さらに被着膜10上にはセンシング部9を除き、例えばリンガラスからなる保護膜12と、その保護膜12上において外表面を面一にした外装膜13が被着形成される。
【0022】
図の左側より、入力ダイオード2、入力ゲート電極6および出力ゲート電極7、浮遊拡散部3、リセットゲート8およびリセットダイオード4の上面には、各々アルミニウム等からなる電極リードが形成され、それらの電極リードを介して測定シーケンスに従った電圧が印加され、または検出(浮遊拡散部3の電位)される。浮遊拡散部3は電極リード端子Voutを、それ自体、同一半導体基板1に組み込むことも可能なソースフォロワ増幅器を含む電位検出および増幅回路14の入力に接続される。
【0023】
続いて、図1に示すようなFET型センサを用いた検出方法の操作について説明する。
【0024】
まず、検出方法の対象であるインフルエンザウイルスRNAを含む疑いのある試料溶液を、FET型センサのセンシング部9に供給する(試料溶液供給工程)。
【0025】
試料溶液供給工程において用いられる試料溶液について特に制限はなく、被験者の体液(唾液、鼻汁、咽頭ぬぐい液、血清など)が好ましく用いられる。また、試料溶液供給工程において試料溶液をFET型センサのセンシング部9に供給するための具体的な手法についても特に制限はなく、通常は適量の試料溶液を滴下すればよい。
【0026】
続いて、試料溶液の供給によってセンシング部9に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後の浮遊拡散部3が蓄積する電荷量を電位変化として検出する(検出工程)。ここで、図2は、検出工程において検出を行なうために、イオン濃度の測定シーケンスに従って上記の各電極リードより各部に電圧を加えるタイミングを示している。
【0027】
図2を参照すれば、検出工程ではまず、供給された試料溶液中に、可変電圧源Erからの参照電圧Vrefを印加し、これを基準とした試料溶液のイオン化によるイオン感応膜電位を生じさせる。
【0028】
センシング部9以外の各部電極リードへの直流電圧の印加回路(図示せず)において、図2に示す初期状態(t0〜t1)では電荷供給部である入力ダイオード2に約5Vの逆バイアス電圧Vinが、また入力ゲート6には直流電圧Vgin(約2V)が印加され、出力ゲート7はVgout=0に維持される。この場合、やや遅れてリセットゲート8に数ミリ秒程度のリセット電圧パルスVgrが印加され、隣接する浮遊拡散部3の電位Voutは、その間Vddに引き寄せられる形でやや上昇するが、ここではその前後における電位の変化(すなわち、蓄積電荷)は存在しないものとする。
【0029】
図1のBは、上記の初期状態における本実施形態のFET型センサの、各部ポテンシャルと電荷量を、図1のAの各部と対応して示しており、入力ダイオード2への逆バイアス電圧Vinが5Vのとき、その部分の残存電荷量Q1は僅かであり、入力ゲート6の直流電圧Vgin(略2.0V)による障壁レベルの下方に止まる。またセンシング部9における参照電圧Vrefは、試料溶液(典型的には水溶液)を介してセンシング部9の直下の半導体基板1の表面の電位を一定にし、これがポテンシャル井戸の深さ(底面レベル)b0を定める初期設定値となるが、この時点ではゲート障壁を越えて流入する電荷は存在しない。
【0030】
次に、時間t1に達すると、入力ダイオード2の逆バイアス電圧Vinを、時間t2に達するまでの数ミリ秒間、1Vに下げる。この逆バイアス電圧Vinの低下は、相対的な電荷供給をもたらし、その貯留上限レベルは約2Vの入力ゲート障壁を越えて、0Vの出力ゲート7による障壁上端の近くに達する。このため、供給された電荷(この場合、電子)は入力ダイオード2、入力ゲート6下方の半導体表面、およびセンシング部9下方の半導体表面におけるポテンシャル井戸にも流入する。この状態(初期電荷供給)は、図3のAに示すとおりである。
【0031】
時間t2に達すると、入力ダイオード2の逆バイアス電圧Vinが5Vに復帰し、数ミリ秒間持続する。図3のBに示すように、電荷Q2のかなりの部分は、電源回路に戻され、センシング部9下方のポテンシャル井戸の上方に溜まっていた電荷は、入力ゲート6による障壁にすりきられて入力ダイオード2に戻り、電源回路への還流に加わり、障壁側部のポテンシャル井戸内には、底面レベルb0の深さに応じた量の電荷が残存する。このポテンシャル井戸に残留した電荷の量は、試料溶液のイオン濃度に従ったセンシング部9の表面電位の変化量に応じたものとなる。
【0032】
なお、センシング部9に供給された試料溶液中のプラスイオン(陽イオン)濃度が高くなると、センシング部9の表面電位が変化し、センシング部9直下の半導体基板1の表面電位は初期設定値より低くなる。その結果、ポテンシャル井戸の底面レベルは、例えば図示のb1まで深くなる。プラスイオン濃度が低くなるか、またはマイナスイオン(陰イオン)の濃度が高くなった場合には、逆に底面レベルが上昇することは明らかである。
【0033】
次に、出力ゲート7に電圧Vgoutを5V印加すると、この出力ゲート7が開いて、予めリセットされていた浮遊拡散部3に電荷が転送される(図3のC)。ここで、浮遊拡散部3の容量をセンシング部9の容量より小さくしておけば、図示するように、浮遊拡散部3の電位変化量は大きくなる。図2において、浮遊拡散部3の電位変化は、その無電荷時の定常電位Voutから、電荷の流入に伴って最初は急勾配で降下し、徐々に緩やかとなってGnd電位に接近した電位で安定する。
【0034】
電荷が転送された後、出力ゲート7に印加する電圧Vgoutが0Vに下がり、出力ゲート7が閉じられる(図3のD)。このようにしてt1〜t3のサイクルを繰り返すと、入力ダイオード2からポテンシャル井戸への電荷供給/入力ゲート6によるすりきり/出力ダイオード7の開放によるポテンシャル井戸残留電荷の浮遊拡散部3への転送というステップが順次実行され、浮遊拡散部3には次々と転送電荷が累積されることになる。
【0035】
この累積電荷量は、大きな電位変化として、図1のAに示す浮遊拡散部3からのVout出力端子より、電位検出および増幅回路に入力されるセンサ出力信号SO(図2)となる。浮遊拡散部3はその電位を読み取られた後、リセットゲート電圧Vgrの印加により隣接するリセットゲート8が開かれるため、+Vdd電位に接続されたリセットダイオード4への導通チャネルを通じて、蓄積電荷を放流し、再び初期電位に設定される(図3のE)。
【0036】
以上のように構成されたFET型センサにおいては、浮遊拡散部3へn回、転送を行った場合、時間累積を行わない場合と比較してn倍になり、ノイズは√n倍にしかならない。よってS/N比は√n倍に上昇し、感度が高くなるのである。したがって、センシング部9の表面電位の変化に基づくセンシング部9直下のポテンシャル井戸の深さの変化が微量であっても、その変化を確実に検出し、試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAとセンシング部9に固定化された一本鎖核酸(プローブ)とのハイブリダイゼーションに基づくイオン濃度の変化を電位変化として高感度に検出することができる。
【0037】
これにより、PCR法によりDNAを増幅させることなく、簡便に、短時間かつ低コストで、試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの有無およびその濃度を判定することができる(判定工程)。
【0038】
さらに、この第1実施形態に係るFET型センサを同一半導体基板1上に複数個含み、それぞれのセンサのセンシング部9に、異なる標的インフルエンザRNAと相補的な一本鎖核酸を各別に固定することにより、一度に複数のハイブリダイゼーションの発生の有無を検出することができ、簡便に、短時間に、試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの有無およびその濃度を判定することも可能である。
【0039】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態に係る検出方法に用いられるFET型センサを示す断面図(A)および基本ポテンシャル状態を示す模式図(B)であり、図5は動作状態における各ポテンシャル状態を順次に示す模式図である。図中、図1および図3と同一部分は同一符号を付して説明を簡略化し、または省略する。
【0040】
第2実施形態に係るFET型センサは、第1実施形態と同様にP-型半導体基板の表面側に所定の間隔を置いて形成された、基板と逆型(すなわち、N+型)の拡散領域からなる入力ダイオード部2および浮遊拡散部3と、リセットダイオード4を有し、浮遊拡散部3とリセットダイオード4との間の絶縁膜5上には同じくリセットゲート8を有することにより、浮遊拡散部3のためのリセットトランジスタを構成したものであるが、入力ダイオード部2と浮遊拡散部3との間の絶縁膜5上の構造が、第1実施形態とは次のように相違する。
【0041】
まず、入力ゲート6'および出力ゲート7'は、入力ダイオード部2から浮遊拡散部3までの間に形成されるべき導通チャネルの中間部および終端部にそれぞれ対応した絶縁膜9上に固定され、両ゲート6'および7'を隣接させるため、比較的細幅で高さを持たせた出力ゲート7'が、比較的広幅の入力ゲート6'の当該隣接側を覆う被着膜10によって、このゲート6'と絶縁された構造となっている。出力ゲート7'は底面が半導体基板1上の絶縁膜5に接するとともに、その上方部が被着膜10および保護膜12を貫通し、上端が外装膜13内に位置する高さを有している。
【0042】
これによって生じた入力ダイオード2と入力ゲート6'との間の基板表面上の位置、すなわち形成されるべき反転チャネルの入力端に対応した位置には、底面をなす絶縁膜5とともにイオン感応膜となる入力ゲート6'側の絶縁膜5と、入力ダイオード2側の被着膜10および保護膜12の断層と、に挟まれて凹部をなすセンシング部9'が形成される。
【0043】
続いて、図2に示すようなFET型センサを用いた検出方法の操作について説明する。
【0044】
第1実施形態と同様に、まず、可変電圧源からセンシング部9'内の水溶液に参照電圧Vrefを印加し、センシング部9'の直下の半導体基板1の表面の電位を一定にする。これがポテンシャル井戸入口の初期設定値となる。次に、図2に示すように、入力ゲート6'に適当な直流電圧Vgin(例えば、2.0V)を印加し、その直下の半導体基板1の表面電位を固定するとともに、電荷供給部としての入力ダイオード2に逆バイアス電圧Vin=5Vを、またリセットゲート8に電圧Vgrを印加し、浮遊拡散部3の電位の初期値を設定する。このとき、出力ゲート7'の電圧は0Vである。
【0045】
入力ダイオード2の電圧Vin=5Vは十分な逆バイアスとして、同ゲート内に残留する電荷を図4Bに示すようにごく僅かに抑え、この電荷プールの上端は、センシング部9'のレベルに届かず、したがってセンシング部9'以降には侵入しない。この場合、水溶液中のマイナスイオン濃度が高くなると、センシング部9'の表面電位が変化し、このセンシング部9'の直下の半導体基板1の表面の電位は前記初期設定値b0よりも上がり(図4のBのb2)、逆に、マイナスイオン濃度が低くなるか、またはプラスイオン濃度が高くなると、表面電位はb0よりも下がる(図示せず)。
【0046】
入力ダイオード2に印加する電圧Vinが5Vから1.0Vに下がると、逆バイアスが緩和された分、電荷プール量が多くなり、そのレベルは、この場合センシング部9'直下の基板表面電位b0(ポテンシャル井戸入口レベル)を越え、この入力ダイオード2からの電荷が入力ゲート6'直下のポテンシャル井戸に供給される(図5のA)。
【0047】
再度、入力ダイオード2に印加する電圧Vinが5Vに上がると、センシング部9'直下の表面電位のレベルで電荷がすりきられ、このレベル下におけるポテンシャル井戸の容量分だけ電荷が残存し、それ以外の電荷は入力ダイオード2を経て、当該ダイオード2に残留する分を残し、電源に還流する(図5のB)。この場合も、ポテンシャル井戸に残留した電荷の量はマイナスイオン濃度によって変化し、センシング部9'の表面電位の変化量がこの電荷の量に変換されたことは明らかである。
【0048】
次に、出力ゲート7'に電圧Vgoutが5V印加されると、このゲート7'が開いて、電荷が予めリセット電位に維持された浮遊拡散部3に転送される(図5のC)。
【0049】
この電荷の転送後、出力ゲート7'に印加する電圧Vgoutが0Vに下がり、出力ゲート7が閉じられる(図5のD)。
【0050】
このようにして図5のB〜Dに示す過程を繰り返し行なうことにより、センシング部9'の表面電位の変化量が浮遊拡散部3の電荷量として累積される。そして、浮遊拡散部3に蓄積された電位変化量は、Voutとして、電位検出および増幅回路14に入力され、指示されかつ記録その他の処理に用いられる。
【0051】
浮遊拡散部3はその電位を読み取られた後、リセットゲート電圧Vgrの印加により隣接するリセットゲート8が開かれるため、+Vdd電位に接続されたリセットダイオード4への導通チャネルを通じて、蓄積電荷を放流し、再び初期電位に設定される(図5のE)。
【0052】
以上のように構成されたポテンシャル井戸入口調整型センサにおいても、n回、転送を行った場合、時間累積を行わない場合と比較してS/N比は√n倍に上昇し、感度が高くなることは明らかである。したがって、センシング部9の表面電位の変化に基づくセンシング部9直下のポテンシャル井戸の深さの変化が微量であっても、その変化を確実に検出し、試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAとセンシング部9に固定化された一本鎖核酸(プローブ)とのハイブリダイゼーションに基づくイオン濃度の変化を電位変化として高感度に検出することができる。
【0053】
ここで、図1および図3に示す第1実施形態に係るセンサを想起すると、そのセンサではマイナスイオン濃度が高くなった場合、またはプラスイオン濃度が低くなった場合に、電荷を貯留するポテンシャル井戸の深さが浅くなるかまたは無くなり、したがって、浮遊拡散部3に転送されかつ残留する電荷の量が少なくなるか、または存在しなくなるものであった。
【0054】
一方、第2実施形態においては、入力ダイオード2に隣接したセンシング部9'直下の基板表面電位が上がり、これと隣合った入力ゲート6直下の基板表面電位との差が逆に大きくなり、この入力ゲート6直下部分にポテンシャル井戸を構成せしめたものであり、相対的にマイナスイオン濃度が高い試料に対しては、第1実施形態と比較して検出感度がより高くなるか、または第1実施形態では検出できなかった試料を検出することが可能となるものである。したがって、センシング部9'に標的インフルエンザウイルスRNAと相補的な一本鎖核酸(プローブ)を固定した場合、負に帯電した核酸同士の結合であり、マイナスイオン濃度が高くなるハイブリダイゼーションの発生をより高感度に検出することができる。
【0055】
さらに、この第2実施形態に係るFET型センサを同一半導体基板1上に複数個含み、それぞれのセンサのセンシング部9'に、異なる標的インフルエンザRNAと相補的な一本鎖核酸を各別に固定することにより、一度に複数のハイブリダイゼーションの発生の有無を検出することができ、簡便に、短時間に、試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの有無およびその濃度を判定することも可能である。
【0056】
(その他の実施形態)
上述した第1実施形態および第2実施形態においては、入/出力ゲート間にセンシング部を形成し、リセットトランジスタ機能をも組み込んだ形式(第1形式)のFET型センサと、入/出力ゲートを近接させて出力側に寄せ、入力ダイオード/入力ゲート間にセンシング部を形成し、リセットトランジスタ機能をも組み込んだ形式(第2形式)のFET型センサとを、それぞれ単独で用いた場合、およびそれぞれ同一形式のFET型センサを複数個用いた場合について言及したが、本発明のその他の実施形態として、さらにこれらの複合型ともいうべき形式(第3形式)のFET型センサを形成することができる。
【0057】
この第3形式のFET型センサは、プラスイオンおよびマイナスイオンの双方に渡る測定範囲の広いFET型センサであり、図6はそのセンサ構造の要部水平断面を示しており、図1および図4に示した各FET型センサを並列配置したものであるといえる。よって、それらのものと同一機能を果たす部分については同一の参照数字を付してある。
【0058】
通常はP-型半導体からなる基板1の表面側には、所定の間隔を置いて基板1と逆型(すなわち、N+型)の拡散領域からなる共通入力ダイオード部2と、浮遊拡散部3が形成されるとともに、浮遊拡散部3は第1ドレイン3a(第1形式における浮遊拡散部)と第2ドレイン3b(第2形式における浮遊拡散部)とに二分割され、前記入力ダイオード部2を前記二分割ドレインに対応する部分を有する共通ソースとして、これらのソース−ドレイン間の基板表面部に第1および第2の互いに並列したチャネルが形成されるようになっている。
【0059】
また、第1および第2ドレイン3a、3bを構成する浮遊拡散部3の、前記二チャネルと背反する側には、当該浮遊拡散部3と小間隔を置いて、同じくN+型の拡散領域からなる共通リセットダイオード4が形成されるとともに、その小間隔内の基板絶縁膜(図示せず)上に共通リセットゲート8が固定される。
【0060】
第1チャネルの両端に対応した基板絶縁膜上の位置には、それぞれ第1形式における入力ゲート6および出力ゲート7を固定するとともに、同チャネルの中間部(入/出力ゲート間)に対応した基板絶縁膜上の位置には、イオン感応膜からなるセンシング部9が固定される。結局、この第1チャネル及びリセットトランジスタからなるFET型センサ部の縦断面(例えば、図6のA−A矢視断面)構造は図1のAと同じになる。
【0061】
また、第2チャネルの中間部および終端部に対応した基板絶縁膜上の位置には、第2形式における入力ゲート6'および出力ゲート7'をそれぞれ固定するとともに、同チャネルの始端部(入力ダイオード2/入力ゲート6'間)に対応した基板絶縁膜上には、イオン感応膜からなるセンシング部9'が形成される。このような第2チャネルおよびリセットトランジスタからなるFET型センサ部の縦断面(例えば、図6のB−B矢視断面)構造は図4のAと同じになる。
【0062】
上記のように構成すれば、第1チャネルおよび第2チャネル上の各センシング部9,9'に作用する正/負イオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの電荷汲み出し回数に応じ、前記浮遊拡散部3の第1および第2ドレインが電位リセット後において蓄積する電荷量を、電位変化として検出することができる測定範囲の広いFET型センサが得られる。
【0063】
上述した第3形式の複合型センサの応用形態として、この複合型センサ構造を同一半導体基板上において、複数個形成すれば、これによって試料溶液中の、複数の標的インフルエンザRNAを同時に効率よく検出することができる。
【0064】
なお、上述した第3形式の複合型センサ構造から得られる構造原理として、第1実施形態および第2実施形態において示した第1形式および第2形式のセンサ構造を、その構造ごとに同一半導体基板上に複数配置する場合には、少なくとも入力ダイオードと、リセットゲートおよびリセットダイオードを共通体として、構造および制御を単純化することができる。
【0065】
本発明は以上の実施形態を総括した上で、次のようなセンサの応用構造および測定方法を構成したものである。まず、応用構造の基本形態は図7に模式的に示すとおりである。
【0066】
(応用例1)
図7において、破線円15は前述した半導体基板の表面絶縁層上に形成されたイオン感応膜からなるセンシング部9または9'と、少なくともその周辺を含む基板表面(絶縁膜)の領域を包囲する試料溶液収容範囲である。この範囲15内に含まれるべき(絶縁膜の下に隠れている)ゲート電極や、基板と逆型のダイオードその他の拡散層(この場合、N+層)については、センサ出力に関わる浮遊拡散部3のみを代表的に破線枠で示し、センサ全体像との関係を想起せしめるものとする。
【0067】
Si3N4等のイオン感応膜からなるセンシング部9または9'上には、部分的に金膜(または金膜に準ずる電気化学的安定性と導電性を有する材料の膜;以下同じ)16を形成し、センシング部9または9'の近傍部(図では左側および左下側)には、例えば三個の金パッド(または金パッドに準ずる電気化学的安定性と導電性を有する材料のパッド;以下同じ)17a、17b、17cが固定され、スイッチ18a、18b、18cを介してそれぞれ測定用電圧または比較用電圧を、電池Eroより印加するようになっている。電池Eroの他端子(この場合、マイナス側)は基板Pの裏面、すなわち接地電位に接続される。
【0068】
上記の構造を用いて、標的インフルエンザウイルスRNAと相補的な一本鎖核酸の末端を金膜に固定化するとともに、センシング部および比較電極を含む領域に同一の試料溶液を供給し、試料溶液の供給によってセンシング部9または9'に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後の前記浮遊拡散部が蓄積する電荷量を、比較電極の電位を基準として測定することで、一本鎖核酸と標的インフルエンザウイルスRNAとのハイブリダイゼーションの有無を検出することが可能である。
【0069】
(応用例2)
本発明は、さらなる応用形態に係るセンサ構造として、図8に示すような電極吊り下げ降下方式を構成する。半導体基板1上の少なくともセンシング部(好ましくは半導体の導通チャネルの中間に対応する導通チャネル9)を含む領域を包囲した絶縁膜5上には、周壁15'が、エポキシガラス等の電気化学的に不活性な材料によって立設・形成されている。そして、好ましくは金製の測定電極19aおよび比較電極19bは、リニアスケール等により、測定電極19aがセンシング部9または9'内の金膜16の真上となる位置にもたらされてから、降下して試料溶液内に没入するように構成される。これらの電極は電源Eroによる電圧を、スイッチ20aおよび20bを介して半導体基板1の裏面(接地電位)との間に印加されるか、または、金膜16からEroのマイナス側に直結するためのスイッチ20cをさらに閉じることによって、その際に流れる電流を電流計Aにより測定できるようになっている。
【0070】
上記の変形構造において、金膜16には標的インフルエンザウイルスRNAと相補的な一本鎖核酸の末端を固定化するとともに、試料溶液を周壁15'の範囲内に収容してセンシング部9または9'に供給する。この際、センシング部の上方において、測定電極19aは金膜16の直上に位置するように設けられ、比較電極19bは、金膜16に固定化された一本鎖核酸に電気的に影響しない距離だけずらして配置されている。
【0071】
試料溶液を供給した後にスイッチ20aを閉じることで、試料溶液中に没入した測定電極19aに、適当な電圧(例えば、10mV〜5V)が印加される。これによりハイブリダイズした標的インフルエンザウイルスRNAの自由端末端が測定電極19aに吸着される。これにより、ハイブリダイズした二本鎖核酸は電気的に直結され、電源Eroによる電圧が両端間に印加されることで通電する。次にスイッチ20aを開き、スイッチ20bを閉じて測定電極19aと同レベルの溶液内に位置する比較電極19bに流れる電流を基準値として測定する。
【0072】
したがって、このセンサ構造では、FET型センサ本来のポテンシャル井戸における電荷蓄積量の測定によることは勿論、ハイブリダイズした二本鎖核酸からなる回路の通電電流として測定電極に流れる電流、または接地電位との間の電圧によってもハイブリダイゼーションの有無を検出することができる。
【0073】
(応用例3)
この例では、応用例1で用いたセンサ構造と異なり、図9に示すように、センシング部9"のイオン感応膜として窒化膜または五酸化タンタル膜を用い、その膜上の金パッド(図示せず)は用いない。センシング部9"周辺の金パッド(総括して17で示す)の少なくとも1つには標的インフルエンザウイルスRNAと相補的な一本鎖核酸を固定化する。なお、この例では、試料溶液を収容するための外周壁15'を有するほか、他の構造は応用例1(図7)に示すものと同じである。
【0074】
検出方法の実施においては、センシング部9"および金電極を含む外周壁15'内の領域に試料溶液を供給することにより、その金電極上に固定化された一本鎖核酸に相補的な標的インフルエンザウイルスRNAが存在すれば、ハイブリダイゼーションが生じる。この状態で、ハイブリッド形成された二本鎖核酸があれば、その二重螺旋間に侵入しうる挿入剤、例えば「ヘキスト33258」として市販されているもの21を、試料溶液に添加する。
【0075】
その後、金パッド17に、マイナス側を接地接続された電源Eroの正電圧を、外装膜13上のアルミニウムリード膜22を介して印加すると、挿入剤21は金パッド17と導通した核酸骨格の電気抵抗分だけ降下した電位となるために酸化され、これによって挿入剤21から金パッド17にかけて酸化・還元電流が生じると考えられる。
【0076】
この結果、当該ハイブリッド核酸の近辺で2H++2e=H2の反応が起こり、溶液相全体のpH値は低下する。なお、水溶液中に浮遊した挿入剤21には核酸骨格による電圧はかからず、酸化は実質的に生じないとみなすことができる。同一センサ内、もしくは隣接・配列センサ間に渡って、このようなDNA固定用金パッドは、数10〜数100個配置することができ、どの金パッドに電圧を加えたときにpHが変わったかで、標的RNAの鑑別をすることができる。
【0077】
また、核酸を固定化しない、センシング部周辺の金パッドは比較電極として用いられる。pH値は、pH変化に応じた深さとなるポテンシャル井戸からの汲み出し電荷量を、比較電極の電位を基準として測定され、その測定値は前記一本鎖核酸と標的インフルエンザウイルスRNAとのハイブリダイゼーションの有無の指標となる。
【0078】
さらに、挿入剤21から金パッド17にかけて流れる酸化・還元電流は、電源Eroからの電圧印加回路中に微小電流計(図示せず)を挿入することによっても測定することができる。
【0079】
(応用例4)
本発明はまた、図10に示すように、上記のいずれかの方法を実施するにあたり有利なセンサ構造として、一対のFET型センサ23、24を同一の半導体基板1上に併設し、その一対のFET型センサの周縁を一括して包囲する電気化学的に不活性なアクリルガラス等からなる外周壁25と、それらのセンサ23、24間を仕切って両端が外周壁25に内接する仕切り壁26を設けたものである。
【0080】
これにより、各センサ23、24上に供給される試料溶液が互いに流通しないため、同一基板上で隣接した2つのセンサのうち、一方のセンサのみに標的インフルエンザウイルスRNAと相補的な一本鎖核酸を固定し、他方のセンサには何も固定化せずに同一の試料溶液を用い、当該他方のセンサにより溶液・物性等の経時ドリフトを測定し、このドリフト値を当該一方のセンサの測定値から差し引いて、正確に試料溶液中の標的インフルエンザウイルスRNAと一本鎖核酸とのハイブリダイゼーションを検出することが可能となる。勿論、2つセンサにおいて異なった試料溶液を収容し、互いに影響なく、各別の測定を行うことも可能である。
【0081】
以上、本発明の好ましい実施形態およびその応用例について詳細に説明したが、本発明の他の形態によれば、上述した検出方法を行うためのインフルエンザウイルスRNA検出装置もまた、提供される。この検出装置は、上述したFET型センサを含むものであればその他の具体的な形態について特に制限はなく、当業者によって適宜設計されうる。また、後述する実施例においても示されるように、このインフルエンザウイルス検出装置においては、複数の異なる標的配列に対応するように複数の測定部(例えば、2〜10個など)を含ませることができる。したがって、かような検出装置によれば、複数の異なる標的配列の検出を一度に短時間で(10分程度で)行うことが可能となる。特に、ヒトのインフルエンザ型をベッドサイド等のオンサイトで迅速にかつ確定的に判別することができ、ひいては診断の正確度も向上させうることから、本発明により提供される検出方法および検出装置は、従来提案されている技術に対して非常に高い優位性を有するものであるといえる。なお、言い換えれば、本発明の他の形態により、上述したインフルエンザウイルスRNA検出装置の、ヒトインフルエンザウイルス型別迅速診断への使用なる発明もまた、提供される。
【実施例】
【0082】
以下、実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
(FET型センサ)
本実施例では、上述した第1実施形態の原理を有するFET型センサが32×32=1024ピクセル配置されてなるイメージセンサを用いて標的インフルエンザウイルスRNAの検出を試みた。ここで、本実施例で用いたイメージセンサの全体を示す写真を図11に示す。ここで、センシング部9を構成するイオン感応膜としては、Si3N4の表面に金を3.0×10-3Paの成膜圧力にて20nmの厚みで蒸着したものを用いた。なお、各ピクセルのサイズは40μm×40μmである。
【0084】
また、イメージセンサの1024ピクセルを図12に示すように4つの象限に分割し、各象限に含まれるそれぞれのFET型センサ(ピクセル)には、異なる一本鎖核酸(プローブ)を固定化した。プローブの固定化は、プローブ2μMおよび固定化剤である6−HHT(6−ヒドロキシ−1−ヘキサンチオール)20μMを含む固定化溶液1μLを各象限に滴下することにより行なった。なお、各象限のFET型センサ(ピクセル)に固定化したプローブは以下の通りである。
【0085】
【表2】
【0086】
(インフルエンザウイルスRNAサンプルの調製)
PR-8 H1N1ヒトインフルエンザウイルスのRNAを含む希釈液(0.2% Triton X-100、60%硫安、基準DNA(ウイルスおよびヒト遺伝子以外の配列))を、ウイルスRNA濃度の異なる希釈系列として調製した。調製した各希釈系列について、リアルタイムPCRによりウイルスコピー数を測定した。なお、測定の際の標準コピー数としては、PR-8インフルエンザウイルスのM1遺伝子のcDNAを組み込んだプラスミド(TOPO TA Cloning Kit Dual Promoter pCR II-TOPO Vecter (Invitrogen, USA))による標準コピー数を用いた。なお、コントロール溶液として、インフルエンザウイルスRNAを含まないこと以外は上記と同様の溶液を調製した。
【0087】
(センサを用いた標的インフルエンザウイルスRNAの検出)
まず、上述したFET型センサ(図11および図12に示すもの)の各象限にコントロール溶液を室温にて60μLずつ滴下し、センサが出力する信号を電位として計測した。
【0088】
一方、同一のセンサの各象限に、上記で調製した希釈液のいずれかの濃度の希釈系列を室温にて60μLずつ滴下し、RNAlaterにより固定して、10分間後にセンサが出力する信号を電位として計測した。そして、上記で計測したコントロール溶液についての計測出力(電位)との差分(電位差)として、センサの浮遊拡散部が蓄積した電荷量を算出し、これに基づき滴下サンプル中の標的インフルエンザウイルスRNAの存在の有無およびその量を検出した。なお、上記で調製した希釈液のそれぞれの濃度について、同様の計測を行なった。また、計測信号は画素選択用の水平・垂直CMOSシフトレジスタ(図12)により外部に読み出された。
【0089】
結果を図13に示す。図13は、上記で計測された信号の出力強度を、RNAサンプルの希釈系列におけるインフルエンザウイルスRNAの濃度に対してプロットしたグラフである。なお、図13において、横軸は滴下した60μL中のベースサンプル(0.64pfu/60μL)の濃度を1としたときの相対値である。また、RNAサンプルを滴下したときの各象限の出力信号の信号強度をイメージングした写真を図14に示す。
【0090】
図13および図14に示すように、象限1および象限2の出力信号は、象限3および象限4の出力信号の3倍以上を示すという有意な差が見られ、標的インフルエンザウイルスRNAとこれに相補的なプローブとのハイブリダイゼーションによる出力信号のみが選択的に増幅されて出力されていることが確認された。
【0091】
また、センサの検出限界に対応する象限1および象限2の出力信号の大きさ(下限値)は、サンプル中の標的インフルエンザウイルスRNAのコピー数が数百コピー(例えば、200〜500コピー)程度であるサンプル濃度に対応していた。言い換えれば、本実施例では、ベースサンプルを10,000倍に希釈したサンプルまで、象限間の有意差をもって検出することができた(本センサの雑音レベルは0.7mVである)。
【0092】
このように、本発明に係る検出方法によれば、標的とするインフルエンザウイルス(PR-8:H1N1)のRNAについて、きわめて薄いサンプル濃度であっても、複数のプローブとの反応性を同時に解析することができた。これらの結果は、配置するプローブの種類を増やすことで、多数のインフルエザウイルスRNAの存在の有無およびその量を10分間で同時に解析することが可能であることを示している。
【配列表フリーテキスト】
【0093】
〔配列番号:1〕
ヒトPR-8:H1N1インフルエンザウイルスRNAの検出に用いられるプローブDNAの塩基配列を表す。
〔配列番号:2〕
ヒトPR-8:H1N1インフルエンザウイルスRNAの検出に用いられるプローブDNAの塩基配列を表す。
〔配列番号:3〕
トリインフルエンザウイルスRNAの検出に用いられるプローブDNAの塩基配列を表す。
〔配列番号:4〕
トリインフルエンザウイルスRNAの検出に用いられるプローブDNAの塩基配列を表す。
〔配列番号:5〕
ブタインフルエンザウイルスRNAの検出に用いられるプローブDNAの塩基配列を表す。
〔配列番号:6〕
ブタインフルエンザウイルスRNAの検出に用いられるプローブDNAの塩基配列を表す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、FET型センサを用いたインフルエンザウイルスRNAの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスを病原体とするインフルエンザ感染症は、現代においてもその強烈な伝播力によって大きな流行を繰り返す伝染病であり、社会に莫大な被害を及ぼしている。インフルエンザウイルスは急性の呼吸器感染症を引き起こし、その臨床症状は、急激な発熱、頭痛、関節痛、全身倦怠などの全身症状とともに、鼻汁、咳などの風邪にみられる種々の呼吸器症状および38℃以上の高熱を伴うのが特徴である。健常人では通常1〜2週間程度で治癒するが、乳幼児、高齢者や呼吸器・循環器・腎臓に慢性疾患を持つ患者、糖尿病などの代謝疾患や免疫機能が低下している患者などでは、細菌などによる二次感染や肺炎を併発して死に至る場合も少なくない。また、呼吸器の局所感染にとどまらず、インフルエンザ脳炎・脳症などに代表される重症神経系合併症といった極めて重篤な症例も報告されている。このほか、腹痛、悪心・嘔吐、下痢などの消化器症状がみられることもあり、特に小児では注意を要する。診断する上で注意すべき大きな特徴は、呼吸器症状に比べて、熱その他の全身症状が顕著である点である。
【0003】
従来、インフルエンザウイルス感染症を診断するための手段としては、簡便で低感度のテープ法と、高感度であるが煩雑な遺伝子検査法(遺伝子増幅法)とが存在するものの、簡便迅速で高感度な型別確定診断技術がなく、インフルエンザの重症化や院内感染拡大の危険性を抱えていた。より詳細には、現在、インフルエンザウイルスの確定診断に用いられている遺伝子検査法は、ラボにおける測定仕様となっており、その煩雑性からベッドサイドや外来のようにオンサイトでの患者に対する迅速および個別の診断には適さない。また、感染症の患者の診断は、1種類の感染源に対して多くの検体についてまとめて行うよりも、1検体について連続して多数の候補ウイルス・細菌の存在の有無を判断することが必須である。特に、新型インフルエンザやパンデミックを想定した場合、かような技術はトリアージに必須な診断法である。すなわち、迅速な型別診断による振り分け(トリアージ)こそが、感染症を拡大させるか封じ込めるかの分かれ道になっているにもかかわらず、これを実現するための技術はいまだ開発されていないのが現状である。また、緊急時の院外での診断に対応可能な、バッテリー駆動性のハンディポータブル型機材の開発等の応用的技術の提案も皆無である。
【0004】
ところで、従来、集積回路技術を用いた化学センサとして、電界効果トランジスタ(FET)の原理による種々のセンサが開発されている。このFET型センサは、電気化学的な電位変化を検出するものであり、例えば、水素イオン濃度を検出するものはイオンセンシティブFET(ISFET)と呼ばれている。本発明者らは以前に、このISFETのセンシング部に、試料中の検体と反応もしくは結合し、または検体の反応の触媒となる物質を固定することで、前記反応または結合に基づくイオン濃度の変化を正確に検出しうるFET型センサを提案している(特許文献1を参照)。また、この特許文献1では、当該FET型センサの用途として、ある試料中の検体の有無やその含有量等を正確に検出することや、標的とする塩基配列を検出することなどを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2003/042683号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1の開示によれば、標的とする検体DNAと相補性を有する一本鎖核酸(プローブ)をセンサのセンシング部に固定することで、検体DNAとプローブとのハイブリダイゼーションを高感度に検出することができる、とされている。
【0007】
しかしながら、特許文献1には具体的なDNA固定化のための手法等の開示がない。また、特許文献1には、具体的な実施例等の開示もない。さらには、インフルエンザウイルス感染症の診断の際に必要とされるような型別確定診断を短時間でかつ高感度にて行うことについても何ら開示がなされていない。
【0008】
このように、インフルエンザウイルス感染症の診断において、型別確定診断を短時間でかつ高感度にて行うことを可能とするような技術の開発は、依然として強く望まれているのが現状である。
【0009】
本発明は、従来の技術における上述したような問題に鑑みなされたものであり、インフルエンザウイルス感染症の診断において、型別確定診断を短時間でかつ高感度にて行いうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した従来技術における課題は、以下のものにより解決されうる:
(1)P型またはN型半導体基板の表面側に所定の間隔を置いて形成された、基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部と、
前記入力ダイオード部から浮遊拡散部までの間に形成されるべき導通チャネルの始端および終端にそれぞれ対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定された入力ゲートおよび出力ゲートと、
前記チャネルの中間部に対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたイオン感応膜からなるセンシング部と、
前記浮遊拡散部の、前記チャネルから離れた側に連なる前記基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたリセットゲートと、
前記リセットゲートにおける前記浮遊拡散部から離れた側の前記基板表面部に形成された、基板と逆型の拡散領域からなるリセットダイオード部とを備え、
前記センシング部に、標的とするインフルエンザウイルスRNAとハイブリダイゼーションしうる一本鎖核酸が固定化されてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記試料溶液を前記センシング部に供給する工程と、
前記試料溶液の供給によって前記センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後の前記浮遊拡散部が蓄積する電荷量を電位変化として検出する工程と、
検出された前記電位変化に基づいて、前記試料溶液中の前記インフルエンザウイルスRNAの有無およびその濃度を判定する工程と、
を含む、FET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法;
(2)P型またはN型半導体基板の表面側に所定の間隔を置いて形成された、基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部と、
前記入力ダイオード部から浮遊拡散部までの間に形成されるべき導通チャネルの中間部および終端部にそれぞれ対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定された入力ゲートおよび出力ゲートと、
前記チャネルの入力端に対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたイオン感応膜からなるセンシング部と、
前記浮遊拡散部の、前記チャネルから離れた側に連なる前記基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたリセットゲートと、
前記リセットゲートにおける前記浮遊拡散部から離れた側の前記基板表面部に形成された、基板と逆型の拡散領域からなるリセットダイオード部とを備え、
前記センシング部に、標的とするインフルエンザウイルスRNAとハイブリダイゼーションしうる一本鎖核酸が固定化されてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記試料溶液を前記センシング部に供給する工程と、
前記試料溶液の供給によって前記センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後の前記浮遊拡散部が蓄積する電荷量を電位変化として検出する工程と、
検出された前記電位変化に基づいて、前記試料溶液中の前記インフルエンザウイルスRNAの有無およびその濃度を判定する工程と、
を含む、FET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法;
(3)上記(1)または(2)に記載の検出方法であって、
前記FET型センサを一単位の素子として、これが同一半導体基板上において複数個並列的に形成されてなる並列FET型センサを用い、
この際、前記並列FET型センサにおいて、前記素子の入力ゲートと、リセットゲートおよびリセットダイオードとが、それぞれ、すべての前記素子間に延びる単一の入力ゲートと、単一のリセットゲートおよび単一のリセットダイオードとから共通的に形成されてなる、検出方法;
(4)P型またはN型半導体基板の表面側に所定の間隔を置いて、基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部を形成するとともに、前記浮遊拡散部を第1ドレインと第2ドレインに二分割するとともに、前記入力ダイオード部を前記二分割に対応する部分を有する共通ソースとして、これらのソース−ドレイン間の基板表面部に第1および第2の互いに並列したチャネルが形成されるようにし、
前記第1および第2ドレインを構成する浮遊拡散部の、前記二チャネルと背反する側に、同部と小間隔を置いて、基板と逆型の拡散領域からなる共通リセットダイオードを形成するとともに、前記小間隔内の基板表面上に絶縁膜を介して共通リセットゲートを固定し、
前記第1チャネルの両端に対応した基板表面上の位置に、それぞれ絶縁膜を介して入力ゲートおよび出力ゲートを固定するとともに、同チャネルの中間部に対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介してイオン感応膜からなる第1センシング部を固定し、
前記第2チャネルの中間部、および終端部にそれぞれ対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して入力ゲートおよび出力ゲートをそれぞれ固定するとともに、同チャネルの始端部に対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介してイオン感応膜からなる第2センシング部を固定し、
前記第1および第2センシング部に、標的とするインフルエンザウイルスRNAとハイブリダイゼーションしうる一本鎖核酸が固定化されてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記試料溶液を前記第1および第2センシング部に供給する工程と、
前記試料溶液の供給によって前記第1および第2センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、前記浮遊拡散部の前記第1および第2ドレイン電位リセット後において蓄積する電荷量を電位変化として検出する工程と、
検出された前記電位変化に基づいて、前記試料溶液中の前記インフルエンザウイルスRNAの有無およびその濃度を判定する工程と、
を含む、FET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法;
(5)半導体基板上に、その基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部を所定の間隔で形成し、その間隔内の基板表層部に形成されるベき導通チャネルの中間または始端に対応する基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されかつ表面に露出した金膜を有するセンシング部を備え、
前記センシング部の近傍における基板表面に、少なくとも1個の比較電極が絶縁膜を介して固定されてなり、
前記金膜に前記一本鎖核酸が固定化されてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記センシング部および前記比較電極を含む領域に同一の前記試料溶液を供給する工程と、
前記試料溶液の供給によって前記センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後の前記浮遊拡散部が蓄積する電荷量を、前記比較電極の電位を基準として測定することで、前記一本鎖核酸と前記インフルエンザウイルスRNAとのハイブリダイゼーションの有無を検出する工程と、
を含む、検出方法;
(6)半導体基板上に、その基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部を所定の間隔で形成し、その間隔内の基板表層部に形成されるべき導通チャネルの中間または始端に対応する基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されかつ表面に露出した金膜を有するセンシング部を備え、
前記金膜に前記一本鎖核酸が固定化されてなり、
前記センシング部の上方において、前記金膜の直上に位置する測定電極と、前記金膜に固定化された前記一本鎖核酸に電気的に影響しない距離だけずらして配置された比較電極とが設けられてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記試料溶液を前記センシング部に供給する工程と、
前記測定電極および前記比較電極を下降させて前記試料溶液中に没入させ、かつ前記測定電極が前記金膜に固定化された前記一本鎖核酸とハイブリダイズした前記インフルエンザウイルスRNAの末端を吸着する程度の電位を前記測定電極および前記比較電極に印加し、前記測定電極と接地電位との間に流れる電流を、前記比較電極に流れる電流を基準として測定することで、前記一本鎖核酸と前記インフルエンザウイルスRNAとのハイブリダイゼーションの有無を検出する工程と、
を含む、検出方法;
(7)半導体基板上に、その基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部を所定の間隔で形成し、その間隔内の基板表層部に形成されるべき導通チャネルの中間または始端に対応する基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたイオン感応膜からなるセンシング部を備え、
前記センシング部の近傍における基板表面に、金電極および比較電極を絶縁膜を介して固定するとともに、前記金電極に標的とするインフルエンザウイルスRNAとハイブリダイゼーションしうる一本鎖核酸が固定化されてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記センシング部および前記金電極を含む領域に同一の前記試料溶液を供給する工程と、
前記金電極に固定化された前記一本鎖核酸のハイブリダイゼーションにより形成されるべき二重螺旋間に侵入させるための挿入剤を添加する工程と、
前記金電極に所定の電圧を印加することにより前記二重螺旋間の挿入剤と前記金電極との間に流れる酸化・還元電流に基づいて前記試料溶液のpHを変化させる工程と、
前記pHの変化に応じた深さとなるポテンシャル井戸からの汲み出し電荷量を、前記比較電極の電位を基準として測定することで、前記一本鎖核酸と前記インフルエンザウイルスRNAとのハイブリダイゼーションの有無を検出する工程と、
を含む、検出方法;
(8)上記(5)〜(7)のいずれか1項に記載の検出方法であって、
一対のFET型センサが同一の半導体基板上に併設されてなり、前記一対のFET型センサの周縁を一括して包囲する電気化学的に不活性な外周壁と、前記センサ間を仕切って両端が外周壁に内接する仕切り壁を設けたことにより、それぞれの前記センサ上に供給される前記試料溶液が互いに流通しないように構成されてなるセンサ群を用いることを特徴とする、検出方法。
【0011】
(9)上記(5)〜(8)のいずれか1項に記載の検出方法を行うための、前記FET型センサを含むインフルエンザウイルスRNA検出装置;
(10)上記(9)に記載のインフルエンザウイルスRNA検出装置の、ヒトインフルエンザウイルス型別迅速診断への使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インフルエンザウイルス感染症の診断において、型別確定診断を短時間でかつ高感度にて行いうる手段が提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係るFET型センサを示す断面図(A)およびポテンシャル状態を示す模式図(B)である。
【図2】本発明のFET型センサの各部に電圧を印加しかつ出力電位を検出するタイミングを示す電圧波形図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るFET型センサのポテンシャル状態の推移を示す模式図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るFET型センサを示す断面図(A)およびポテンシャル状態を示す模式図(B)である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るFET型センサのポテンシャル状態の推移を示す模式図である。
【図6】本発明の第1実施形態および第2実施形態に係るFET型センサの複合形式を示す模式的水平断面図である。
【図7】本発明のFET型センサの応用形態の基本構造を示す概略平面および電気回路図である。
【図8】応用形態に係るセンサ構造として構成された電極吊り下げ降下方式を示す部分断面図である。
【図9】イオン感応膜として窒化膜または五酸化タンタル膜を用い、センシング部周辺の金パッドの少なくとも1つに標的インフルエンザウイルスRNAと相補的な一本鎖核酸が固定化されてなる方式のFET型センサの部分断面図である。
【図10】一対のFET型センサを同一の半導体基板上に併設し、その一対のFET型センサの周縁を一括して包囲する電気化学的に不活性な外周壁と、それらのセンサ間を仕切って両端が外周壁に内接する仕切り壁を設けた構造を略示する平面図である。
【図11】実施例で用いたイメージセンサの全体を示す写真である。
【図12】実施例において、イメージセンサの全ピクセルを4つの象限に分割した様子を説明するための説明図である。
【図13】実施例で計測された信号の出力強度を、RNAサンプルの希釈系列におけるインフルエンザウイルスRNAの濃度に対してプロットしたグラフである。なお、当該グラフの横軸は滴下した60μL中のベースサンプル(0.64pfu/60μL)の濃度を1としたときの相対値である。
【図14】実施例において、インフルエンザウイルスRNAサンプルを滴下したときの各象限の出力信号の信号強度をイメージングした写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、FET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法に係る。以下、添付の図面に基づき、本発明の実施の形態を具体的に説明する。より詳細には、以下では、試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法に用いられるFET型センサの構成が相違するいくつかの実施形態に分けて、本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る検出方法に用いられるFET型センサを示す断面図(A)および基本ポテンシャル状態を示す模式図(B)であり、図2は動作状態における各ポテンシャル状態を順次に示す模式図である。図1のAにおいて、1は典型的にはシリコン製のP-型の半導体基板であり、半導体基板1の表側には、互いに所定間隔を置いてN+型拡散層からなる電荷供給部としての入力ダイオード2および浮遊拡散部(FD)3が形成され、さらに浮遊拡散部3から小間隔を置いてリセットダイオード4が形成される。半導体基板1上には、この場合、N+型拡散層上も含めSiO2またはSi3N4からなる絶縁膜5が形成される。
【0016】
入力ダイオード2と浮遊拡散部3との間における半導体基板1の表面部には、次に述べるゲート構造との関連において導通チャネル(n型反転層)が形成され、その結果、入力ダイオード2をソースとし、浮遊拡散部3をドレインとするFET型センサが構成される。絶縁膜5上には、チャネル始端部に対応する入力ダイオード2の隣接位置において入力ゲート6が、またチャネル終端部に対応する浮遊拡散部3の隣接位置において出力ゲート7が、それぞれポリシリコン、またはアルミニウムからなる蒸着層より形成され、さらに浮遊拡散部3とリセットダイオード4との間においてリセットゲート8が同様の蒸着層より形成される。
【0017】
入力ゲート6、出力ゲート7およびリセットゲート8の上面と、これらのゲートを支持したゲート外の絶縁膜5上には、典型的にはSi3N4蒸着層からなる被着膜10が形成される。Si3N4膜はSiO2膜に比べて構造が緻密で、酸素の拡散係数が小さいため、それ自身が入/出力ゲート6、7間に形成する凹部をセンシング部9として、良好なイオン感応膜を構成する。イオン感応膜としてはSi3N4の他、SiO2やAu等も用いることができる。このセンシング部9のイオン感応膜には、検出方法において標的とするインフルエンザウイルスRNAとハイブリダイゼーションしうる一本鎖核酸(プローブ)が、固定化される(図示せず)。ここで、センシング部9のイオン感応膜に固定化される一本鎖核酸(プローブ)の具体的な形態について特に制限はなく、標的とするインフルエンザウイルスRNAとハイブリダイゼーションしうるものが適宜選択されうる。この一本鎖核酸(プローブ)は、DNAであってもRNAであってもよいが、安定性等の観点からは、好ましくはDNAが用いられる。また、一本鎖核酸(プローブ)の塩基長についても特に制限はないが、通常は20〜25塩基程度である。ここで、一本鎖核酸(プローブ)として用いられうるDNAの塩基配列の一例を以下に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
また、センシング部9のイオン感応膜に一本鎖核酸(プローブ)を固定化する具体的な手法についても特に制限はなく、従来公知の常法が好ましく用いられうる。一例として、プローブおよび適当な固定化剤(例えば、6−HHT(6−ヒドロキシ−1−ヘキサンチオール)など)を含む固定化溶液を、センシング部9のイオン感応膜に適量滴下し、乾燥させるという手法が例示されるが、これに限定されることはない。
【0020】
本実施形態において、好ましくは、入力ダイオード2および浮遊拡散部3の外側における半導体基板の表面部には、リーク電流を低減するためのチャネルストッパとして、P-基板よりアクセプタ密度が高く、N+拡散部からなるこれらの入力ダイオード2および浮遊拡散部3のドナー密度と拮抗しうるP+拡散部(図示せず)を設け、入力ダイオード2および浮遊拡散部3から電荷がチャネル外に漏洩するのを防止することができる。
【0021】
なお、半導体基板1の表面において、入力ダイオード2およびリセットダイオード4の外側には、絶縁膜5と同様なシリコン酸化膜等からなる比較的厚いマスク層11が形成され、前述したセンシング部9を形成する蒸着膜10は、このマスク層11にも被さり、さらに被着膜10上にはセンシング部9を除き、例えばリンガラスからなる保護膜12と、その保護膜12上において外表面を面一にした外装膜13が被着形成される。
【0022】
図の左側より、入力ダイオード2、入力ゲート電極6および出力ゲート電極7、浮遊拡散部3、リセットゲート8およびリセットダイオード4の上面には、各々アルミニウム等からなる電極リードが形成され、それらの電極リードを介して測定シーケンスに従った電圧が印加され、または検出(浮遊拡散部3の電位)される。浮遊拡散部3は電極リード端子Voutを、それ自体、同一半導体基板1に組み込むことも可能なソースフォロワ増幅器を含む電位検出および増幅回路14の入力に接続される。
【0023】
続いて、図1に示すようなFET型センサを用いた検出方法の操作について説明する。
【0024】
まず、検出方法の対象であるインフルエンザウイルスRNAを含む疑いのある試料溶液を、FET型センサのセンシング部9に供給する(試料溶液供給工程)。
【0025】
試料溶液供給工程において用いられる試料溶液について特に制限はなく、被験者の体液(唾液、鼻汁、咽頭ぬぐい液、血清など)が好ましく用いられる。また、試料溶液供給工程において試料溶液をFET型センサのセンシング部9に供給するための具体的な手法についても特に制限はなく、通常は適量の試料溶液を滴下すればよい。
【0026】
続いて、試料溶液の供給によってセンシング部9に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後の浮遊拡散部3が蓄積する電荷量を電位変化として検出する(検出工程)。ここで、図2は、検出工程において検出を行なうために、イオン濃度の測定シーケンスに従って上記の各電極リードより各部に電圧を加えるタイミングを示している。
【0027】
図2を参照すれば、検出工程ではまず、供給された試料溶液中に、可変電圧源Erからの参照電圧Vrefを印加し、これを基準とした試料溶液のイオン化によるイオン感応膜電位を生じさせる。
【0028】
センシング部9以外の各部電極リードへの直流電圧の印加回路(図示せず)において、図2に示す初期状態(t0〜t1)では電荷供給部である入力ダイオード2に約5Vの逆バイアス電圧Vinが、また入力ゲート6には直流電圧Vgin(約2V)が印加され、出力ゲート7はVgout=0に維持される。この場合、やや遅れてリセットゲート8に数ミリ秒程度のリセット電圧パルスVgrが印加され、隣接する浮遊拡散部3の電位Voutは、その間Vddに引き寄せられる形でやや上昇するが、ここではその前後における電位の変化(すなわち、蓄積電荷)は存在しないものとする。
【0029】
図1のBは、上記の初期状態における本実施形態のFET型センサの、各部ポテンシャルと電荷量を、図1のAの各部と対応して示しており、入力ダイオード2への逆バイアス電圧Vinが5Vのとき、その部分の残存電荷量Q1は僅かであり、入力ゲート6の直流電圧Vgin(略2.0V)による障壁レベルの下方に止まる。またセンシング部9における参照電圧Vrefは、試料溶液(典型的には水溶液)を介してセンシング部9の直下の半導体基板1の表面の電位を一定にし、これがポテンシャル井戸の深さ(底面レベル)b0を定める初期設定値となるが、この時点ではゲート障壁を越えて流入する電荷は存在しない。
【0030】
次に、時間t1に達すると、入力ダイオード2の逆バイアス電圧Vinを、時間t2に達するまでの数ミリ秒間、1Vに下げる。この逆バイアス電圧Vinの低下は、相対的な電荷供給をもたらし、その貯留上限レベルは約2Vの入力ゲート障壁を越えて、0Vの出力ゲート7による障壁上端の近くに達する。このため、供給された電荷(この場合、電子)は入力ダイオード2、入力ゲート6下方の半導体表面、およびセンシング部9下方の半導体表面におけるポテンシャル井戸にも流入する。この状態(初期電荷供給)は、図3のAに示すとおりである。
【0031】
時間t2に達すると、入力ダイオード2の逆バイアス電圧Vinが5Vに復帰し、数ミリ秒間持続する。図3のBに示すように、電荷Q2のかなりの部分は、電源回路に戻され、センシング部9下方のポテンシャル井戸の上方に溜まっていた電荷は、入力ゲート6による障壁にすりきられて入力ダイオード2に戻り、電源回路への還流に加わり、障壁側部のポテンシャル井戸内には、底面レベルb0の深さに応じた量の電荷が残存する。このポテンシャル井戸に残留した電荷の量は、試料溶液のイオン濃度に従ったセンシング部9の表面電位の変化量に応じたものとなる。
【0032】
なお、センシング部9に供給された試料溶液中のプラスイオン(陽イオン)濃度が高くなると、センシング部9の表面電位が変化し、センシング部9直下の半導体基板1の表面電位は初期設定値より低くなる。その結果、ポテンシャル井戸の底面レベルは、例えば図示のb1まで深くなる。プラスイオン濃度が低くなるか、またはマイナスイオン(陰イオン)の濃度が高くなった場合には、逆に底面レベルが上昇することは明らかである。
【0033】
次に、出力ゲート7に電圧Vgoutを5V印加すると、この出力ゲート7が開いて、予めリセットされていた浮遊拡散部3に電荷が転送される(図3のC)。ここで、浮遊拡散部3の容量をセンシング部9の容量より小さくしておけば、図示するように、浮遊拡散部3の電位変化量は大きくなる。図2において、浮遊拡散部3の電位変化は、その無電荷時の定常電位Voutから、電荷の流入に伴って最初は急勾配で降下し、徐々に緩やかとなってGnd電位に接近した電位で安定する。
【0034】
電荷が転送された後、出力ゲート7に印加する電圧Vgoutが0Vに下がり、出力ゲート7が閉じられる(図3のD)。このようにしてt1〜t3のサイクルを繰り返すと、入力ダイオード2からポテンシャル井戸への電荷供給/入力ゲート6によるすりきり/出力ダイオード7の開放によるポテンシャル井戸残留電荷の浮遊拡散部3への転送というステップが順次実行され、浮遊拡散部3には次々と転送電荷が累積されることになる。
【0035】
この累積電荷量は、大きな電位変化として、図1のAに示す浮遊拡散部3からのVout出力端子より、電位検出および増幅回路に入力されるセンサ出力信号SO(図2)となる。浮遊拡散部3はその電位を読み取られた後、リセットゲート電圧Vgrの印加により隣接するリセットゲート8が開かれるため、+Vdd電位に接続されたリセットダイオード4への導通チャネルを通じて、蓄積電荷を放流し、再び初期電位に設定される(図3のE)。
【0036】
以上のように構成されたFET型センサにおいては、浮遊拡散部3へn回、転送を行った場合、時間累積を行わない場合と比較してn倍になり、ノイズは√n倍にしかならない。よってS/N比は√n倍に上昇し、感度が高くなるのである。したがって、センシング部9の表面電位の変化に基づくセンシング部9直下のポテンシャル井戸の深さの変化が微量であっても、その変化を確実に検出し、試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAとセンシング部9に固定化された一本鎖核酸(プローブ)とのハイブリダイゼーションに基づくイオン濃度の変化を電位変化として高感度に検出することができる。
【0037】
これにより、PCR法によりDNAを増幅させることなく、簡便に、短時間かつ低コストで、試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの有無およびその濃度を判定することができる(判定工程)。
【0038】
さらに、この第1実施形態に係るFET型センサを同一半導体基板1上に複数個含み、それぞれのセンサのセンシング部9に、異なる標的インフルエンザRNAと相補的な一本鎖核酸を各別に固定することにより、一度に複数のハイブリダイゼーションの発生の有無を検出することができ、簡便に、短時間に、試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの有無およびその濃度を判定することも可能である。
【0039】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態に係る検出方法に用いられるFET型センサを示す断面図(A)および基本ポテンシャル状態を示す模式図(B)であり、図5は動作状態における各ポテンシャル状態を順次に示す模式図である。図中、図1および図3と同一部分は同一符号を付して説明を簡略化し、または省略する。
【0040】
第2実施形態に係るFET型センサは、第1実施形態と同様にP-型半導体基板の表面側に所定の間隔を置いて形成された、基板と逆型(すなわち、N+型)の拡散領域からなる入力ダイオード部2および浮遊拡散部3と、リセットダイオード4を有し、浮遊拡散部3とリセットダイオード4との間の絶縁膜5上には同じくリセットゲート8を有することにより、浮遊拡散部3のためのリセットトランジスタを構成したものであるが、入力ダイオード部2と浮遊拡散部3との間の絶縁膜5上の構造が、第1実施形態とは次のように相違する。
【0041】
まず、入力ゲート6'および出力ゲート7'は、入力ダイオード部2から浮遊拡散部3までの間に形成されるべき導通チャネルの中間部および終端部にそれぞれ対応した絶縁膜9上に固定され、両ゲート6'および7'を隣接させるため、比較的細幅で高さを持たせた出力ゲート7'が、比較的広幅の入力ゲート6'の当該隣接側を覆う被着膜10によって、このゲート6'と絶縁された構造となっている。出力ゲート7'は底面が半導体基板1上の絶縁膜5に接するとともに、その上方部が被着膜10および保護膜12を貫通し、上端が外装膜13内に位置する高さを有している。
【0042】
これによって生じた入力ダイオード2と入力ゲート6'との間の基板表面上の位置、すなわち形成されるべき反転チャネルの入力端に対応した位置には、底面をなす絶縁膜5とともにイオン感応膜となる入力ゲート6'側の絶縁膜5と、入力ダイオード2側の被着膜10および保護膜12の断層と、に挟まれて凹部をなすセンシング部9'が形成される。
【0043】
続いて、図2に示すようなFET型センサを用いた検出方法の操作について説明する。
【0044】
第1実施形態と同様に、まず、可変電圧源からセンシング部9'内の水溶液に参照電圧Vrefを印加し、センシング部9'の直下の半導体基板1の表面の電位を一定にする。これがポテンシャル井戸入口の初期設定値となる。次に、図2に示すように、入力ゲート6'に適当な直流電圧Vgin(例えば、2.0V)を印加し、その直下の半導体基板1の表面電位を固定するとともに、電荷供給部としての入力ダイオード2に逆バイアス電圧Vin=5Vを、またリセットゲート8に電圧Vgrを印加し、浮遊拡散部3の電位の初期値を設定する。このとき、出力ゲート7'の電圧は0Vである。
【0045】
入力ダイオード2の電圧Vin=5Vは十分な逆バイアスとして、同ゲート内に残留する電荷を図4Bに示すようにごく僅かに抑え、この電荷プールの上端は、センシング部9'のレベルに届かず、したがってセンシング部9'以降には侵入しない。この場合、水溶液中のマイナスイオン濃度が高くなると、センシング部9'の表面電位が変化し、このセンシング部9'の直下の半導体基板1の表面の電位は前記初期設定値b0よりも上がり(図4のBのb2)、逆に、マイナスイオン濃度が低くなるか、またはプラスイオン濃度が高くなると、表面電位はb0よりも下がる(図示せず)。
【0046】
入力ダイオード2に印加する電圧Vinが5Vから1.0Vに下がると、逆バイアスが緩和された分、電荷プール量が多くなり、そのレベルは、この場合センシング部9'直下の基板表面電位b0(ポテンシャル井戸入口レベル)を越え、この入力ダイオード2からの電荷が入力ゲート6'直下のポテンシャル井戸に供給される(図5のA)。
【0047】
再度、入力ダイオード2に印加する電圧Vinが5Vに上がると、センシング部9'直下の表面電位のレベルで電荷がすりきられ、このレベル下におけるポテンシャル井戸の容量分だけ電荷が残存し、それ以外の電荷は入力ダイオード2を経て、当該ダイオード2に残留する分を残し、電源に還流する(図5のB)。この場合も、ポテンシャル井戸に残留した電荷の量はマイナスイオン濃度によって変化し、センシング部9'の表面電位の変化量がこの電荷の量に変換されたことは明らかである。
【0048】
次に、出力ゲート7'に電圧Vgoutが5V印加されると、このゲート7'が開いて、電荷が予めリセット電位に維持された浮遊拡散部3に転送される(図5のC)。
【0049】
この電荷の転送後、出力ゲート7'に印加する電圧Vgoutが0Vに下がり、出力ゲート7が閉じられる(図5のD)。
【0050】
このようにして図5のB〜Dに示す過程を繰り返し行なうことにより、センシング部9'の表面電位の変化量が浮遊拡散部3の電荷量として累積される。そして、浮遊拡散部3に蓄積された電位変化量は、Voutとして、電位検出および増幅回路14に入力され、指示されかつ記録その他の処理に用いられる。
【0051】
浮遊拡散部3はその電位を読み取られた後、リセットゲート電圧Vgrの印加により隣接するリセットゲート8が開かれるため、+Vdd電位に接続されたリセットダイオード4への導通チャネルを通じて、蓄積電荷を放流し、再び初期電位に設定される(図5のE)。
【0052】
以上のように構成されたポテンシャル井戸入口調整型センサにおいても、n回、転送を行った場合、時間累積を行わない場合と比較してS/N比は√n倍に上昇し、感度が高くなることは明らかである。したがって、センシング部9の表面電位の変化に基づくセンシング部9直下のポテンシャル井戸の深さの変化が微量であっても、その変化を確実に検出し、試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAとセンシング部9に固定化された一本鎖核酸(プローブ)とのハイブリダイゼーションに基づくイオン濃度の変化を電位変化として高感度に検出することができる。
【0053】
ここで、図1および図3に示す第1実施形態に係るセンサを想起すると、そのセンサではマイナスイオン濃度が高くなった場合、またはプラスイオン濃度が低くなった場合に、電荷を貯留するポテンシャル井戸の深さが浅くなるかまたは無くなり、したがって、浮遊拡散部3に転送されかつ残留する電荷の量が少なくなるか、または存在しなくなるものであった。
【0054】
一方、第2実施形態においては、入力ダイオード2に隣接したセンシング部9'直下の基板表面電位が上がり、これと隣合った入力ゲート6直下の基板表面電位との差が逆に大きくなり、この入力ゲート6直下部分にポテンシャル井戸を構成せしめたものであり、相対的にマイナスイオン濃度が高い試料に対しては、第1実施形態と比較して検出感度がより高くなるか、または第1実施形態では検出できなかった試料を検出することが可能となるものである。したがって、センシング部9'に標的インフルエンザウイルスRNAと相補的な一本鎖核酸(プローブ)を固定した場合、負に帯電した核酸同士の結合であり、マイナスイオン濃度が高くなるハイブリダイゼーションの発生をより高感度に検出することができる。
【0055】
さらに、この第2実施形態に係るFET型センサを同一半導体基板1上に複数個含み、それぞれのセンサのセンシング部9'に、異なる標的インフルエンザRNAと相補的な一本鎖核酸を各別に固定することにより、一度に複数のハイブリダイゼーションの発生の有無を検出することができ、簡便に、短時間に、試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの有無およびその濃度を判定することも可能である。
【0056】
(その他の実施形態)
上述した第1実施形態および第2実施形態においては、入/出力ゲート間にセンシング部を形成し、リセットトランジスタ機能をも組み込んだ形式(第1形式)のFET型センサと、入/出力ゲートを近接させて出力側に寄せ、入力ダイオード/入力ゲート間にセンシング部を形成し、リセットトランジスタ機能をも組み込んだ形式(第2形式)のFET型センサとを、それぞれ単独で用いた場合、およびそれぞれ同一形式のFET型センサを複数個用いた場合について言及したが、本発明のその他の実施形態として、さらにこれらの複合型ともいうべき形式(第3形式)のFET型センサを形成することができる。
【0057】
この第3形式のFET型センサは、プラスイオンおよびマイナスイオンの双方に渡る測定範囲の広いFET型センサであり、図6はそのセンサ構造の要部水平断面を示しており、図1および図4に示した各FET型センサを並列配置したものであるといえる。よって、それらのものと同一機能を果たす部分については同一の参照数字を付してある。
【0058】
通常はP-型半導体からなる基板1の表面側には、所定の間隔を置いて基板1と逆型(すなわち、N+型)の拡散領域からなる共通入力ダイオード部2と、浮遊拡散部3が形成されるとともに、浮遊拡散部3は第1ドレイン3a(第1形式における浮遊拡散部)と第2ドレイン3b(第2形式における浮遊拡散部)とに二分割され、前記入力ダイオード部2を前記二分割ドレインに対応する部分を有する共通ソースとして、これらのソース−ドレイン間の基板表面部に第1および第2の互いに並列したチャネルが形成されるようになっている。
【0059】
また、第1および第2ドレイン3a、3bを構成する浮遊拡散部3の、前記二チャネルと背反する側には、当該浮遊拡散部3と小間隔を置いて、同じくN+型の拡散領域からなる共通リセットダイオード4が形成されるとともに、その小間隔内の基板絶縁膜(図示せず)上に共通リセットゲート8が固定される。
【0060】
第1チャネルの両端に対応した基板絶縁膜上の位置には、それぞれ第1形式における入力ゲート6および出力ゲート7を固定するとともに、同チャネルの中間部(入/出力ゲート間)に対応した基板絶縁膜上の位置には、イオン感応膜からなるセンシング部9が固定される。結局、この第1チャネル及びリセットトランジスタからなるFET型センサ部の縦断面(例えば、図6のA−A矢視断面)構造は図1のAと同じになる。
【0061】
また、第2チャネルの中間部および終端部に対応した基板絶縁膜上の位置には、第2形式における入力ゲート6'および出力ゲート7'をそれぞれ固定するとともに、同チャネルの始端部(入力ダイオード2/入力ゲート6'間)に対応した基板絶縁膜上には、イオン感応膜からなるセンシング部9'が形成される。このような第2チャネルおよびリセットトランジスタからなるFET型センサ部の縦断面(例えば、図6のB−B矢視断面)構造は図4のAと同じになる。
【0062】
上記のように構成すれば、第1チャネルおよび第2チャネル上の各センシング部9,9'に作用する正/負イオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの電荷汲み出し回数に応じ、前記浮遊拡散部3の第1および第2ドレインが電位リセット後において蓄積する電荷量を、電位変化として検出することができる測定範囲の広いFET型センサが得られる。
【0063】
上述した第3形式の複合型センサの応用形態として、この複合型センサ構造を同一半導体基板上において、複数個形成すれば、これによって試料溶液中の、複数の標的インフルエンザRNAを同時に効率よく検出することができる。
【0064】
なお、上述した第3形式の複合型センサ構造から得られる構造原理として、第1実施形態および第2実施形態において示した第1形式および第2形式のセンサ構造を、その構造ごとに同一半導体基板上に複数配置する場合には、少なくとも入力ダイオードと、リセットゲートおよびリセットダイオードを共通体として、構造および制御を単純化することができる。
【0065】
本発明は以上の実施形態を総括した上で、次のようなセンサの応用構造および測定方法を構成したものである。まず、応用構造の基本形態は図7に模式的に示すとおりである。
【0066】
(応用例1)
図7において、破線円15は前述した半導体基板の表面絶縁層上に形成されたイオン感応膜からなるセンシング部9または9'と、少なくともその周辺を含む基板表面(絶縁膜)の領域を包囲する試料溶液収容範囲である。この範囲15内に含まれるべき(絶縁膜の下に隠れている)ゲート電極や、基板と逆型のダイオードその他の拡散層(この場合、N+層)については、センサ出力に関わる浮遊拡散部3のみを代表的に破線枠で示し、センサ全体像との関係を想起せしめるものとする。
【0067】
Si3N4等のイオン感応膜からなるセンシング部9または9'上には、部分的に金膜(または金膜に準ずる電気化学的安定性と導電性を有する材料の膜;以下同じ)16を形成し、センシング部9または9'の近傍部(図では左側および左下側)には、例えば三個の金パッド(または金パッドに準ずる電気化学的安定性と導電性を有する材料のパッド;以下同じ)17a、17b、17cが固定され、スイッチ18a、18b、18cを介してそれぞれ測定用電圧または比較用電圧を、電池Eroより印加するようになっている。電池Eroの他端子(この場合、マイナス側)は基板Pの裏面、すなわち接地電位に接続される。
【0068】
上記の構造を用いて、標的インフルエンザウイルスRNAと相補的な一本鎖核酸の末端を金膜に固定化するとともに、センシング部および比較電極を含む領域に同一の試料溶液を供給し、試料溶液の供給によってセンシング部9または9'に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後の前記浮遊拡散部が蓄積する電荷量を、比較電極の電位を基準として測定することで、一本鎖核酸と標的インフルエンザウイルスRNAとのハイブリダイゼーションの有無を検出することが可能である。
【0069】
(応用例2)
本発明は、さらなる応用形態に係るセンサ構造として、図8に示すような電極吊り下げ降下方式を構成する。半導体基板1上の少なくともセンシング部(好ましくは半導体の導通チャネルの中間に対応する導通チャネル9)を含む領域を包囲した絶縁膜5上には、周壁15'が、エポキシガラス等の電気化学的に不活性な材料によって立設・形成されている。そして、好ましくは金製の測定電極19aおよび比較電極19bは、リニアスケール等により、測定電極19aがセンシング部9または9'内の金膜16の真上となる位置にもたらされてから、降下して試料溶液内に没入するように構成される。これらの電極は電源Eroによる電圧を、スイッチ20aおよび20bを介して半導体基板1の裏面(接地電位)との間に印加されるか、または、金膜16からEroのマイナス側に直結するためのスイッチ20cをさらに閉じることによって、その際に流れる電流を電流計Aにより測定できるようになっている。
【0070】
上記の変形構造において、金膜16には標的インフルエンザウイルスRNAと相補的な一本鎖核酸の末端を固定化するとともに、試料溶液を周壁15'の範囲内に収容してセンシング部9または9'に供給する。この際、センシング部の上方において、測定電極19aは金膜16の直上に位置するように設けられ、比較電極19bは、金膜16に固定化された一本鎖核酸に電気的に影響しない距離だけずらして配置されている。
【0071】
試料溶液を供給した後にスイッチ20aを閉じることで、試料溶液中に没入した測定電極19aに、適当な電圧(例えば、10mV〜5V)が印加される。これによりハイブリダイズした標的インフルエンザウイルスRNAの自由端末端が測定電極19aに吸着される。これにより、ハイブリダイズした二本鎖核酸は電気的に直結され、電源Eroによる電圧が両端間に印加されることで通電する。次にスイッチ20aを開き、スイッチ20bを閉じて測定電極19aと同レベルの溶液内に位置する比較電極19bに流れる電流を基準値として測定する。
【0072】
したがって、このセンサ構造では、FET型センサ本来のポテンシャル井戸における電荷蓄積量の測定によることは勿論、ハイブリダイズした二本鎖核酸からなる回路の通電電流として測定電極に流れる電流、または接地電位との間の電圧によってもハイブリダイゼーションの有無を検出することができる。
【0073】
(応用例3)
この例では、応用例1で用いたセンサ構造と異なり、図9に示すように、センシング部9"のイオン感応膜として窒化膜または五酸化タンタル膜を用い、その膜上の金パッド(図示せず)は用いない。センシング部9"周辺の金パッド(総括して17で示す)の少なくとも1つには標的インフルエンザウイルスRNAと相補的な一本鎖核酸を固定化する。なお、この例では、試料溶液を収容するための外周壁15'を有するほか、他の構造は応用例1(図7)に示すものと同じである。
【0074】
検出方法の実施においては、センシング部9"および金電極を含む外周壁15'内の領域に試料溶液を供給することにより、その金電極上に固定化された一本鎖核酸に相補的な標的インフルエンザウイルスRNAが存在すれば、ハイブリダイゼーションが生じる。この状態で、ハイブリッド形成された二本鎖核酸があれば、その二重螺旋間に侵入しうる挿入剤、例えば「ヘキスト33258」として市販されているもの21を、試料溶液に添加する。
【0075】
その後、金パッド17に、マイナス側を接地接続された電源Eroの正電圧を、外装膜13上のアルミニウムリード膜22を介して印加すると、挿入剤21は金パッド17と導通した核酸骨格の電気抵抗分だけ降下した電位となるために酸化され、これによって挿入剤21から金パッド17にかけて酸化・還元電流が生じると考えられる。
【0076】
この結果、当該ハイブリッド核酸の近辺で2H++2e=H2の反応が起こり、溶液相全体のpH値は低下する。なお、水溶液中に浮遊した挿入剤21には核酸骨格による電圧はかからず、酸化は実質的に生じないとみなすことができる。同一センサ内、もしくは隣接・配列センサ間に渡って、このようなDNA固定用金パッドは、数10〜数100個配置することができ、どの金パッドに電圧を加えたときにpHが変わったかで、標的RNAの鑑別をすることができる。
【0077】
また、核酸を固定化しない、センシング部周辺の金パッドは比較電極として用いられる。pH値は、pH変化に応じた深さとなるポテンシャル井戸からの汲み出し電荷量を、比較電極の電位を基準として測定され、その測定値は前記一本鎖核酸と標的インフルエンザウイルスRNAとのハイブリダイゼーションの有無の指標となる。
【0078】
さらに、挿入剤21から金パッド17にかけて流れる酸化・還元電流は、電源Eroからの電圧印加回路中に微小電流計(図示せず)を挿入することによっても測定することができる。
【0079】
(応用例4)
本発明はまた、図10に示すように、上記のいずれかの方法を実施するにあたり有利なセンサ構造として、一対のFET型センサ23、24を同一の半導体基板1上に併設し、その一対のFET型センサの周縁を一括して包囲する電気化学的に不活性なアクリルガラス等からなる外周壁25と、それらのセンサ23、24間を仕切って両端が外周壁25に内接する仕切り壁26を設けたものである。
【0080】
これにより、各センサ23、24上に供給される試料溶液が互いに流通しないため、同一基板上で隣接した2つのセンサのうち、一方のセンサのみに標的インフルエンザウイルスRNAと相補的な一本鎖核酸を固定し、他方のセンサには何も固定化せずに同一の試料溶液を用い、当該他方のセンサにより溶液・物性等の経時ドリフトを測定し、このドリフト値を当該一方のセンサの測定値から差し引いて、正確に試料溶液中の標的インフルエンザウイルスRNAと一本鎖核酸とのハイブリダイゼーションを検出することが可能となる。勿論、2つセンサにおいて異なった試料溶液を収容し、互いに影響なく、各別の測定を行うことも可能である。
【0081】
以上、本発明の好ましい実施形態およびその応用例について詳細に説明したが、本発明の他の形態によれば、上述した検出方法を行うためのインフルエンザウイルスRNA検出装置もまた、提供される。この検出装置は、上述したFET型センサを含むものであればその他の具体的な形態について特に制限はなく、当業者によって適宜設計されうる。また、後述する実施例においても示されるように、このインフルエンザウイルス検出装置においては、複数の異なる標的配列に対応するように複数の測定部(例えば、2〜10個など)を含ませることができる。したがって、かような検出装置によれば、複数の異なる標的配列の検出を一度に短時間で(10分程度で)行うことが可能となる。特に、ヒトのインフルエンザ型をベッドサイド等のオンサイトで迅速にかつ確定的に判別することができ、ひいては診断の正確度も向上させうることから、本発明により提供される検出方法および検出装置は、従来提案されている技術に対して非常に高い優位性を有するものであるといえる。なお、言い換えれば、本発明の他の形態により、上述したインフルエンザウイルスRNA検出装置の、ヒトインフルエンザウイルス型別迅速診断への使用なる発明もまた、提供される。
【実施例】
【0082】
以下、実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
(FET型センサ)
本実施例では、上述した第1実施形態の原理を有するFET型センサが32×32=1024ピクセル配置されてなるイメージセンサを用いて標的インフルエンザウイルスRNAの検出を試みた。ここで、本実施例で用いたイメージセンサの全体を示す写真を図11に示す。ここで、センシング部9を構成するイオン感応膜としては、Si3N4の表面に金を3.0×10-3Paの成膜圧力にて20nmの厚みで蒸着したものを用いた。なお、各ピクセルのサイズは40μm×40μmである。
【0084】
また、イメージセンサの1024ピクセルを図12に示すように4つの象限に分割し、各象限に含まれるそれぞれのFET型センサ(ピクセル)には、異なる一本鎖核酸(プローブ)を固定化した。プローブの固定化は、プローブ2μMおよび固定化剤である6−HHT(6−ヒドロキシ−1−ヘキサンチオール)20μMを含む固定化溶液1μLを各象限に滴下することにより行なった。なお、各象限のFET型センサ(ピクセル)に固定化したプローブは以下の通りである。
【0085】
【表2】
【0086】
(インフルエンザウイルスRNAサンプルの調製)
PR-8 H1N1ヒトインフルエンザウイルスのRNAを含む希釈液(0.2% Triton X-100、60%硫安、基準DNA(ウイルスおよびヒト遺伝子以外の配列))を、ウイルスRNA濃度の異なる希釈系列として調製した。調製した各希釈系列について、リアルタイムPCRによりウイルスコピー数を測定した。なお、測定の際の標準コピー数としては、PR-8インフルエンザウイルスのM1遺伝子のcDNAを組み込んだプラスミド(TOPO TA Cloning Kit Dual Promoter pCR II-TOPO Vecter (Invitrogen, USA))による標準コピー数を用いた。なお、コントロール溶液として、インフルエンザウイルスRNAを含まないこと以外は上記と同様の溶液を調製した。
【0087】
(センサを用いた標的インフルエンザウイルスRNAの検出)
まず、上述したFET型センサ(図11および図12に示すもの)の各象限にコントロール溶液を室温にて60μLずつ滴下し、センサが出力する信号を電位として計測した。
【0088】
一方、同一のセンサの各象限に、上記で調製した希釈液のいずれかの濃度の希釈系列を室温にて60μLずつ滴下し、RNAlaterにより固定して、10分間後にセンサが出力する信号を電位として計測した。そして、上記で計測したコントロール溶液についての計測出力(電位)との差分(電位差)として、センサの浮遊拡散部が蓄積した電荷量を算出し、これに基づき滴下サンプル中の標的インフルエンザウイルスRNAの存在の有無およびその量を検出した。なお、上記で調製した希釈液のそれぞれの濃度について、同様の計測を行なった。また、計測信号は画素選択用の水平・垂直CMOSシフトレジスタ(図12)により外部に読み出された。
【0089】
結果を図13に示す。図13は、上記で計測された信号の出力強度を、RNAサンプルの希釈系列におけるインフルエンザウイルスRNAの濃度に対してプロットしたグラフである。なお、図13において、横軸は滴下した60μL中のベースサンプル(0.64pfu/60μL)の濃度を1としたときの相対値である。また、RNAサンプルを滴下したときの各象限の出力信号の信号強度をイメージングした写真を図14に示す。
【0090】
図13および図14に示すように、象限1および象限2の出力信号は、象限3および象限4の出力信号の3倍以上を示すという有意な差が見られ、標的インフルエンザウイルスRNAとこれに相補的なプローブとのハイブリダイゼーションによる出力信号のみが選択的に増幅されて出力されていることが確認された。
【0091】
また、センサの検出限界に対応する象限1および象限2の出力信号の大きさ(下限値)は、サンプル中の標的インフルエンザウイルスRNAのコピー数が数百コピー(例えば、200〜500コピー)程度であるサンプル濃度に対応していた。言い換えれば、本実施例では、ベースサンプルを10,000倍に希釈したサンプルまで、象限間の有意差をもって検出することができた(本センサの雑音レベルは0.7mVである)。
【0092】
このように、本発明に係る検出方法によれば、標的とするインフルエンザウイルス(PR-8:H1N1)のRNAについて、きわめて薄いサンプル濃度であっても、複数のプローブとの反応性を同時に解析することができた。これらの結果は、配置するプローブの種類を増やすことで、多数のインフルエザウイルスRNAの存在の有無およびその量を10分間で同時に解析することが可能であることを示している。
【配列表フリーテキスト】
【0093】
〔配列番号:1〕
ヒトPR-8:H1N1インフルエンザウイルスRNAの検出に用いられるプローブDNAの塩基配列を表す。
〔配列番号:2〕
ヒトPR-8:H1N1インフルエンザウイルスRNAの検出に用いられるプローブDNAの塩基配列を表す。
〔配列番号:3〕
トリインフルエンザウイルスRNAの検出に用いられるプローブDNAの塩基配列を表す。
〔配列番号:4〕
トリインフルエンザウイルスRNAの検出に用いられるプローブDNAの塩基配列を表す。
〔配列番号:5〕
ブタインフルエンザウイルスRNAの検出に用いられるプローブDNAの塩基配列を表す。
〔配列番号:6〕
ブタインフルエンザウイルスRNAの検出に用いられるプローブDNAの塩基配列を表す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
P型またはN型半導体基板の表面側に所定の間隔を置いて形成された、基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部と、
前記入力ダイオード部から浮遊拡散部までの間に形成されるべき導通チャネルの始端および終端にそれぞれ対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定された入力ゲートおよび出力ゲートと、
前記チャネルの中間部に対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたイオン感応膜からなるセンシング部と、
前記浮遊拡散部の、前記チャネルから離れた側に連なる前記基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたリセットゲートと、
前記リセットゲートにおける前記浮遊拡散部から離れた側の前記基板表面部に形成された、基板と逆型の拡散領域からなるリセットダイオード部とを備え、
前記センシング部に、標的とするインフルエンザウイルスRNAとハイブリダイゼーションしうる一本鎖核酸が固定化されてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記試料溶液を前記センシング部に供給する工程と、
前記試料溶液の供給によって前記センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後の前記浮遊拡散部が蓄積する電荷量を電位変化として検出する工程と、
検出された前記電位変化に基づいて、前記試料溶液中の前記インフルエンザウイルスRNAの有無およびその濃度を判定する工程と、
を含む、FET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法。
【請求項2】
P型またはN型半導体基板の表面側に所定の間隔を置いて形成された、基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部と、
前記入力ダイオード部から浮遊拡散部までの間に形成されるべき導通チャネルの中間部および終端部にそれぞれ対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定された入力ゲートおよび出力ゲートと、
前記チャネルの入力端に対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたイオン感応膜からなるセンシング部と、
前記浮遊拡散部の、前記チャネルから離れた側に連なる前記基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたリセットゲートと、
前記リセットゲートにおける前記浮遊拡散部から離れた側の前記基板表面部に形成された、基板と逆型の拡散領域からなるリセットダイオード部とを備え、
前記センシング部に、標的とするインフルエンザウイルスRNAとハイブリダイゼーションしうる一本鎖核酸が固定化されてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記試料溶液を前記センシング部に供給する工程と、
前記試料溶液の供給によって前記センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後の前記浮遊拡散部が蓄積する電荷量を電位変化として検出する工程と、
検出された前記電位変化に基づいて、前記試料溶液中の前記インフルエンザウイルスRNAの有無およびその濃度を判定する工程と、
を含む、FET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の検出方法であって、
前記FET型センサを一単位の素子として、これが同一半導体基板上において複数個並列的に形成されてなる並列FET型センサを用い、
この際、前記並列FET型センサにおいて、前記素子の入力ゲートと、リセットゲートおよびリセットダイオードとが、それぞれ、すべての前記素子間に延びる単一の入力ゲートと、単一のリセットゲートおよび単一のリセットダイオードとから共通的に形成されてなる、検出方法。
【請求項4】
P型またはN型半導体基板の表面側に所定の間隔を置いて、基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部を形成するとともに、前記浮遊拡散部を第1ドレインと第2ドレインに二分割するとともに、前記入力ダイオード部を前記二分割に対応する部分を有する共通ソースとして、これらのソース−ドレイン間の基板表面部に第1および第2の互いに並列したチャネルが形成されるようにし、
前記第1および第2ドレインを構成する浮遊拡散部の、前記二チャネルと背反する側に、同部と小間隔を置いて、基板と逆型の拡散領域からなる共通リセットダイオードを形成するとともに、前記小間隔内の基板表面上に絶縁膜を介して共通リセットゲートを固定し、
前記第1チャネルの両端に対応した基板表面上の位置に、それぞれ絶縁膜を介して入力ゲートおよび出力ゲートを固定するとともに、同チャネルの中間部に対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介してイオン感応膜からなる第1センシング部を固定し、
前記第2チャネルの中間部、および終端部にそれぞれ対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して入力ゲートおよび出力ゲートをそれぞれ固定するとともに、同チャネルの始端部に対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介してイオン感応膜からなる第2センシング部を固定し、
前記第1および第2センシング部に、標的とするインフルエンザウイルスRNAとハイブリダイゼーションしうる一本鎖核酸が固定化されてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記試料溶液を前記第1および第2センシング部に供給する工程と、
前記試料溶液の供給によって前記第1および第2センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、前記浮遊拡散部の前記第1および第2ドレイン電位リセット後において蓄積する電荷量を電位変化として検出する工程と、
検出された前記電位変化に基づいて、前記試料溶液中の前記インフルエンザウイルスRNAの有無およびその濃度を判定する工程と、
を含む、FET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法。
【請求項5】
半導体基板上に、その基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部を所定の間隔で形成し、その間隔内の基板表層部に形成されるベき導通チャネルの中間または始端に対応する基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されかつ表面に露出した金膜を有するセンシング部を備え、
前記センシング部の近傍における基板表面に、少なくとも1個の比較電極が絶縁膜を介して固定されてなり、
前記金膜に前記一本鎖核酸が固定化されてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記センシング部および前記比較電極を含む領域に同一の前記試料溶液を供給する工程と、
前記試料溶液の供給によって前記センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後の前記浮遊拡散部が蓄積する電荷量を、前記比較電極の電位を基準として測定することで、前記一本鎖核酸と前記インフルエンザウイルスRNAとのハイブリダイゼーションの有無を検出する工程と、
を含む、検出方法。
【請求項6】
半導体基板上に、その基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部を所定の間隔で形成し、その間隔内の基板表層部に形成されるべき導通チャネルの中間または始端に対応する基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されかつ表面に露出した金膜を有するセンシング部を備え、
前記金膜に前記一本鎖核酸が固定化されてなり、
前記センシング部の上方において、前記金膜の直上に位置する測定電極と、前記金膜に固定化された前記一本鎖核酸に電気的に影響しない距離だけずらして配置された比較電極とが設けられてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記試料溶液を前記センシング部に供給する工程と、
前記測定電極および前記比較電極を下降させて前記試料溶液中に没入させ、かつ前記測定電極が前記金膜に固定化された前記一本鎖核酸とハイブリダイズした前記インフルエンザウイルスRNAの末端を吸着する程度の電位を前記測定電極および前記比較電極に印加し、前記測定電極と接地電位との間に流れる電流を、前記比較電極に流れる電流を基準として測定することで、前記一本鎖核酸と前記インフルエンザウイルスRNAとのハイブリダイゼーションの有無を検出する工程と、
を含む、検出方法。
【請求項7】
半導体基板上に、その基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部を所定の間隔で形成し、その間隔内の基板表層部に形成されるべき導通チャネルの中間または始端に対応する基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたイオン感応膜からなるセンシング部を備え、
前記センシング部の近傍における基板表面に、金電極および比較電極を絶縁膜を介して固定するとともに、前記金電極に標的とするインフルエンザウイルスRNAとハイブリダイゼーションしうる一本鎖核酸が固定化されてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記センシング部および前記金電極を含む領域に同一の前記試料溶液を供給する工程と、
前記金電極に固定化された前記一本鎖核酸のハイブリダイゼーションにより形成されるべき二重螺旋間に侵入させるための挿入剤を添加する工程と、
前記金電極に所定の電圧を印加することにより前記二重螺旋間の挿入剤と前記金電極との間に流れる酸化・還元電流に基づいて前記試料溶液のpHを変化させる工程と、
前記pHの変化に応じた深さとなるポテンシャル井戸からの汲み出し電荷量を、前記比較電極の電位を基準として測定することで、前記一本鎖核酸と前記インフルエンザウイルスRNAとのハイブリダイゼーションの有無を検出する工程と、
を含む、検出方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の検出方法であって、
一対のFET型センサが同一の半導体基板上に併設されてなり、前記一対のFET型センサの周縁を一括して包囲する電気化学的に不活性な外周壁と、前記センサ間を仕切って両端が外周壁に内接する仕切り壁を設けたことにより、それぞれの前記センサ上に供給される前記試料溶液が互いに流通しないように構成されてなるセンサ群を用いることを特徴とする、検出方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1項に記載の検出方法を行うための、前記FET型センサを含むインフルエンザウイルスRNA検出装置。
【請求項10】
請求項9に記載のインフルエンザウイルスRNA検出装置の、ヒトインフルエンザウイルス型別迅速診断への使用。
【請求項1】
P型またはN型半導体基板の表面側に所定の間隔を置いて形成された、基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部と、
前記入力ダイオード部から浮遊拡散部までの間に形成されるべき導通チャネルの始端および終端にそれぞれ対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定された入力ゲートおよび出力ゲートと、
前記チャネルの中間部に対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたイオン感応膜からなるセンシング部と、
前記浮遊拡散部の、前記チャネルから離れた側に連なる前記基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたリセットゲートと、
前記リセットゲートにおける前記浮遊拡散部から離れた側の前記基板表面部に形成された、基板と逆型の拡散領域からなるリセットダイオード部とを備え、
前記センシング部に、標的とするインフルエンザウイルスRNAとハイブリダイゼーションしうる一本鎖核酸が固定化されてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記試料溶液を前記センシング部に供給する工程と、
前記試料溶液の供給によって前記センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後の前記浮遊拡散部が蓄積する電荷量を電位変化として検出する工程と、
検出された前記電位変化に基づいて、前記試料溶液中の前記インフルエンザウイルスRNAの有無およびその濃度を判定する工程と、
を含む、FET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法。
【請求項2】
P型またはN型半導体基板の表面側に所定の間隔を置いて形成された、基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部と、
前記入力ダイオード部から浮遊拡散部までの間に形成されるべき導通チャネルの中間部および終端部にそれぞれ対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定された入力ゲートおよび出力ゲートと、
前記チャネルの入力端に対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたイオン感応膜からなるセンシング部と、
前記浮遊拡散部の、前記チャネルから離れた側に連なる前記基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたリセットゲートと、
前記リセットゲートにおける前記浮遊拡散部から離れた側の前記基板表面部に形成された、基板と逆型の拡散領域からなるリセットダイオード部とを備え、
前記センシング部に、標的とするインフルエンザウイルスRNAとハイブリダイゼーションしうる一本鎖核酸が固定化されてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記試料溶液を前記センシング部に供給する工程と、
前記試料溶液の供給によって前記センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後の前記浮遊拡散部が蓄積する電荷量を電位変化として検出する工程と、
検出された前記電位変化に基づいて、前記試料溶液中の前記インフルエンザウイルスRNAの有無およびその濃度を判定する工程と、
を含む、FET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の検出方法であって、
前記FET型センサを一単位の素子として、これが同一半導体基板上において複数個並列的に形成されてなる並列FET型センサを用い、
この際、前記並列FET型センサにおいて、前記素子の入力ゲートと、リセットゲートおよびリセットダイオードとが、それぞれ、すべての前記素子間に延びる単一の入力ゲートと、単一のリセットゲートおよび単一のリセットダイオードとから共通的に形成されてなる、検出方法。
【請求項4】
P型またはN型半導体基板の表面側に所定の間隔を置いて、基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部を形成するとともに、前記浮遊拡散部を第1ドレインと第2ドレインに二分割するとともに、前記入力ダイオード部を前記二分割に対応する部分を有する共通ソースとして、これらのソース−ドレイン間の基板表面部に第1および第2の互いに並列したチャネルが形成されるようにし、
前記第1および第2ドレインを構成する浮遊拡散部の、前記二チャネルと背反する側に、同部と小間隔を置いて、基板と逆型の拡散領域からなる共通リセットダイオードを形成するとともに、前記小間隔内の基板表面上に絶縁膜を介して共通リセットゲートを固定し、
前記第1チャネルの両端に対応した基板表面上の位置に、それぞれ絶縁膜を介して入力ゲートおよび出力ゲートを固定するとともに、同チャネルの中間部に対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介してイオン感応膜からなる第1センシング部を固定し、
前記第2チャネルの中間部、および終端部にそれぞれ対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して入力ゲートおよび出力ゲートをそれぞれ固定するとともに、同チャネルの始端部に対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介してイオン感応膜からなる第2センシング部を固定し、
前記第1および第2センシング部に、標的とするインフルエンザウイルスRNAとハイブリダイゼーションしうる一本鎖核酸が固定化されてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記試料溶液を前記第1および第2センシング部に供給する工程と、
前記試料溶液の供給によって前記第1および第2センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、前記浮遊拡散部の前記第1および第2ドレイン電位リセット後において蓄積する電荷量を電位変化として検出する工程と、
検出された前記電位変化に基づいて、前記試料溶液中の前記インフルエンザウイルスRNAの有無およびその濃度を判定する工程と、
を含む、FET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法。
【請求項5】
半導体基板上に、その基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部を所定の間隔で形成し、その間隔内の基板表層部に形成されるベき導通チャネルの中間または始端に対応する基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されかつ表面に露出した金膜を有するセンシング部を備え、
前記センシング部の近傍における基板表面に、少なくとも1個の比較電極が絶縁膜を介して固定されてなり、
前記金膜に前記一本鎖核酸が固定化されてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記センシング部および前記比較電極を含む領域に同一の前記試料溶液を供給する工程と、
前記試料溶液の供給によって前記センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後の前記浮遊拡散部が蓄積する電荷量を、前記比較電極の電位を基準として測定することで、前記一本鎖核酸と前記インフルエンザウイルスRNAとのハイブリダイゼーションの有無を検出する工程と、
を含む、検出方法。
【請求項6】
半導体基板上に、その基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部を所定の間隔で形成し、その間隔内の基板表層部に形成されるべき導通チャネルの中間または始端に対応する基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されかつ表面に露出した金膜を有するセンシング部を備え、
前記金膜に前記一本鎖核酸が固定化されてなり、
前記センシング部の上方において、前記金膜の直上に位置する測定電極と、前記金膜に固定化された前記一本鎖核酸に電気的に影響しない距離だけずらして配置された比較電極とが設けられてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記試料溶液を前記センシング部に供給する工程と、
前記測定電極および前記比較電極を下降させて前記試料溶液中に没入させ、かつ前記測定電極が前記金膜に固定化された前記一本鎖核酸とハイブリダイズした前記インフルエンザウイルスRNAの末端を吸着する程度の電位を前記測定電極および前記比較電極に印加し、前記測定電極と接地電位との間に流れる電流を、前記比較電極に流れる電流を基準として測定することで、前記一本鎖核酸と前記インフルエンザウイルスRNAとのハイブリダイゼーションの有無を検出する工程と、
を含む、検出方法。
【請求項7】
半導体基板上に、その基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部および浮遊拡散部を所定の間隔で形成し、その間隔内の基板表層部に形成されるべき導通チャネルの中間または始端に対応する基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたイオン感応膜からなるセンシング部を備え、
前記センシング部の近傍における基板表面に、金電極および比較電極を絶縁膜を介して固定するとともに、前記金電極に標的とするインフルエンザウイルスRNAとハイブリダイゼーションしうる一本鎖核酸が固定化されてなるFET型センサを用いた試料溶液中のインフルエンザウイルスRNAの検出方法であって、
前記センシング部および前記金電極を含む領域に同一の前記試料溶液を供給する工程と、
前記金電極に固定化された前記一本鎖核酸のハイブリダイゼーションにより形成されるべき二重螺旋間に侵入させるための挿入剤を添加する工程と、
前記金電極に所定の電圧を印加することにより前記二重螺旋間の挿入剤と前記金電極との間に流れる酸化・還元電流に基づいて前記試料溶液のpHを変化させる工程と、
前記pHの変化に応じた深さとなるポテンシャル井戸からの汲み出し電荷量を、前記比較電極の電位を基準として測定することで、前記一本鎖核酸と前記インフルエンザウイルスRNAとのハイブリダイゼーションの有無を検出する工程と、
を含む、検出方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の検出方法であって、
一対のFET型センサが同一の半導体基板上に併設されてなり、前記一対のFET型センサの周縁を一括して包囲する電気化学的に不活性な外周壁と、前記センサ間を仕切って両端が外周壁に内接する仕切り壁を設けたことにより、それぞれの前記センサ上に供給される前記試料溶液が互いに流通しないように構成されてなるセンサ群を用いることを特徴とする、検出方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1項に記載の検出方法を行うための、前記FET型センサを含むインフルエンザウイルスRNA検出装置。
【請求項10】
請求項9に記載のインフルエンザウイルスRNA検出装置の、ヒトインフルエンザウイルス型別迅速診断への使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−50426(P2013−50426A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189768(P2011−189768)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第20回日本バイオイメージング学会学術集会要旨集
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第20回日本バイオイメージング学会学術集会要旨集
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
[ Back to top ]