説明

FF方式を採用する車両のボデー構造および車両

【課題】FF方式を採用する車両の軽量化とコスト削減に有効なボデー構造を提供する。
【解決手段】車幅方向でサイドミラー92からはみ出さない範囲でサイドボデーからフロントフェンダ部1Aをせり出して前輪トレッドTFを拡大し、フロントサイドメンバ2とロッカレール3のオフセットWを小さくする。ダッシュパネル52の車両後方でフロントサイドメンバ2のクラッシュ部2Aから前輪91の逃し面に沿って延長した湾局部2Bを設け、その湾曲部2Bの端末をロッカレール3の車両前端部に連結する。そしてキャビンの床面を形成するフロアパネル51とダッシュロア部52Aをロッカレール3と湾曲部2Bの下面に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
FF方式を採用する車両の軽量化とコスト削減に有効なボデー構造に関する。
【技術背景】
【0002】
図1は従来のボデー骨格構造のフロント部平面図を示し、図2はその側面図を示す。図1に示すように、通常ボデー1はフロントフェンダ部1Aが車両の最大車両幅(サイドミラー92を除く)に設定され、ほぼ同じ幅でキャビンからリヤフェンダへと連なる。そのため前輪と後輪のトレッドは、タイヤサイズが同じ場合ほぼ同じ寸法になる(図示なし)。また一般的なFF方式を採用する車両の場合、エンジンコンパートメント1Bにはエンジン94とミッション95が横置きに連結され、左右一対のフロントサイドメンバ2(ハッチング部)のクラッシュ部2Aにマウントされる。車両前後方向に伸びるフロントサイドメンバ2は、ダッシュロア部52Aの下面に沿って湾曲部2Bを形成し、延長部2Cがフロントフロアパネル51の下面沿いにフロントフロア・クロスメンバ6まで伸びている。フロントサイドメンバ2の前端は、クラッシュボックス97を介してバンパリンフォースメント96を支えている。左右のフロントサイドメンバ2の湾曲部2Bでは、上方でダッシュ・クロスメンバ7が連結され、下方でサブフレーム93がボルト留めされている。またフロントサイドメンバ2は、前輪91の逃がし面に沿って配設されたトルクボックス8を介してロッカレール3の前端部に繋がっている。ダッシュロア部52Aの上方には、アクセルペダル98などのペダル類が配置される。
【0003】
フロントサイドメンバ2に作用する衝突時の前方入力は、周辺ボデー部材であるトルクボックス8、フロントフロアパネル51およびフロントフロア・クロスメンバ6を介して最終的にロッカレール3へと伝達する。軽荷重の場合、フロントサイドメンバ2のクラッシュ部2Aが潰れることなく、クラッシュボックス97を潰して衝撃エネルギーを吸収する。そして大荷重の場合は、フロントサイドメンバ2のクラッシュ部2Aを潰して衝突エネルギーを吸収しキャビンの変形を回避する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながらフロントフロアパネル51の下部は、フロントサイドメンバ2の延長部2Cが配設された上底構造となり、アクセルヒールポイントPを低く設定できない。そのため車高が増して、車両の重量と空気抵抗の増加が避けられず燃費を悪化させる。また車幅を切詰めた小型車においては、狭いトレッドに対し車高が高くなるため走行安定性を高められない。
【0005】
またクラッシュ部2Aと延長部2C、延長部2Cとロッカレール3にはそれぞれオフセットHおよびオフセットWがあり、衝突時には、水平入力に加え湾曲部2Bおよびトルクボックス8に多大な曲げモーメントが作用する。そのため湾曲部2Bおよびトルクボックス8をはじめとする周辺ボデー部材の強度を高める必要があるが、年々高まる衝突安全性を満たすことは容易でない。そして前輪91の真後ろにロッカレール3が位置するため、変位量の多いオフセットクラッシュの場合、後退する前輪91がロッカレール3の前端部を直撃して変形させる恐れがある。
【0006】
また小型車においては、左右のフロントサイドメンバ2のスパンが狭く、横置きするエンジン94、ミッション95は多大な制約を受ける。そのため車幅の異なる車種間でエンジン94、ミッション95の汎用化が難しく、専用設計によるコストアップが避けられない。また図1に示すように、湾曲部2Bに対しクラッシュ部2Aのスパンを広げる場合が多いが、クラッシュ部2Aが潰れ難くなる。さらに小型車の狭いエンジンコンパートメント1Bにおいては、部品密度が高く、部品の組付け作業性やサービス性の確保が難しい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載のボデー構造は、まずサイドボデーからフロントフェンダ部をせり出して前輪トレッドを拡大し、フロントサイドメンバとロッカレールのオフセットを小さくする。次にダッシュパネルの車両後方でフロントサイドメンバのクラッシュ部から前輪逃し面に沿って延長した湾局部を設け、その湾曲部の端末をフロントピラー直下のロッカレール車両前端部に連結する。そして前記フロントサイドメンバの湾曲部の少なくとも半分以上が、ダッシュロア部も含めたフロア面の車両上方に位置することを特徴とする。
【0008】
請求項2記載のボデー構造は、請求項1において、せり出したフロントフェンダ部が車幅方向でサイドミラーからはみ出ないことを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の車両は、請求項1もしくは請求項2において、前輪トレッドが後輪トレッドより80mm以上広いことを特徴とする。
【発明の効果】
【00010】
請求項1記載のボデー構造では、アクセルヒールポイントを低く設定できるため、車高を低く抑えられる。そのため車両の重量と空気抵抗の軽減が可能になり燃費を向上させる。また小型車においては、幅広のトレッドと低い車高により走行安定性を高められる。
【0011】
またフロントサイドメンバのクラッシュ部とロッカレールのオフセットが小さいため、衝突時のフロントサイドメンバの湾曲部に作用する曲げモーメントが小さくなる。さらにフロントサイドメンバの湾曲部は、断面の大型化が容易でロッカレールとの結合面も広いため、強度を容易に確保することができる。そのため衝突時にはフロントサイドメンバのクラッシュ部を効率良く潰すことができ、安全性を確保し易い。
【0012】
また前輪とロッカレールがずれて配置されることにより、変位量の多いオフセットクラッシュの場合、後退する前輪がロッカレールの前端部をすり抜けて直撃を回避する。さらに左右のフロントサイドメンバのスパンの拡大は、キャビン幅の異なる車種間でエンジン、ミッションの汎用化によるコスト削減が可能である。また拡大したエンジンコンパートメントにおいては部品密度が低くなり、部品の組付け作業性やサービス性が向上する。
【0013】
請求項2記載のボデー構造では、サイドミラーを目安に運転することで、運転席からは目視できないせり出したフロントフェンダ部の車幅感覚がつかみ易くなる。
【0014】
請求項3記載の車両では、通常フロントフェンダ部だけがサイドボデーからせり出すことになる。そのためリヤフェンダ部も同様にせり出す場合と較べ、縦列駐車や車庫入れといった小回り性能を妨げない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図3は、本発明のボデー全体の平面図を示す。後輪トレッドTRに対して前輪トレッドTFが拡大され、フロントフェンダ部1Aだけがサイドミラー92からはみ出さない程度にサイドボデーからせり出している。以後、この様なボデー形状をH2ボデー(ハンマーヘッド・ボデーの略)と称す。
【0016】
図4は本発明のボデー骨格構造のフロント部平面図を示し、図5はその側面図を示す。図4に示すように、フロントフェンダ部1Aがサイドミラー92からはみ出さない程度にサイドボデーからせり出している。エンジンコンパートメント1Bにはエンジン94とミッション95が従来どおり横置きに連結され、左右一対のフロントサイドメンバ2(ハッチング部)のクラッシュ部2Aにマウントされる。車両前後方向に伸びるフロントサイドメンバ2は、ダッシュパネル52の車両後方で前輪91の逃し面に沿って延長した湾局部2Bを設け、その湾曲部2Bの端末がフロントピラー4の直下にあるロッカレール3の車両前端部に連結している。図5に示すようにフロントサイドメンバ2の前端は、クラッシュボックス97を介してバンパリンフォースメント96を支えており、左右のフロントサイドメンバ2の湾曲部2Bでは、上方でダッシュ・クロスメンバ7が連結され、下方でサブフレーム93がボルト留めされる構造は従来と同様である。キャビンの床面を形成するフロアパネル51とダッシュロア部52Aは、ロッカレール3と湾曲部2Bの下面に設定され、ダッシュロア部52Aの上方にはアクセルペダル98などのペダル類が配置される。
【0017】
フロントサイドメンバ2に作用する衝突時の前方入力は、クラッシュ部2Aから湾曲部2Bを経由して直接ロッカレール3の車両前端部へと伝達する。軽荷重の場合、フロントサイドメンバ2のクラッシュ部2Aが潰れることなく、クラッシュボックス97を潰して衝撃エネルギーを吸収する。そして大荷重の場合は、フロントサイドメンバ2のクラッシュ部2Aを潰して衝突エネルギーを吸収しキャビンの変形を回避する。
【0018】
本発明のボデー構造においては、フロントサイドメンバ2の湾曲部2Bがアクセルペダル98の側部に位置するため、ペダル配置は車両の高さ方向で湾曲部2Bの制約を受けない。そしてキャビンの床面を形成するフロアパネル51とダッシュロア部52Aをロッカレール3と湾曲部2Bの下面に設定することで、キャビンの床面を車両の最低地上高付近まで下げることができる。その結果、限界まで下げられたアクセルヒールポイントPにより車高が低く抑えられ、車両の重量と空気抵抗の軽減が可能になり燃費を向上させる。また幅広のトレッドと低い車高により、小型車の弱点である走行安定性を高められる。
【0019】
またフロントフェンダ部のせり出しによる前輪トレッドの拡大は、クラッシュ部2Aとロッカレール3のオフセットWを小さくする。さらに湾曲部2Bの上面は、高さ方向でペダル配置の制約を受けないため、クラッシュ部2Aとロッカレール3の上面を滑らかに接続でき、オフセットHも小さくする。その結果、衝突時の湾曲部2Bに作用する曲げモーメントが小さくなる。また湾曲部2Bの断面は、高さ方向でペダル配置の制約を受けないため断面を容易に大型化できる。また湾曲部2Bとロッカレール3との結合面が広いため、衝突時の大荷重から応力集中を回避できる。以上のことからフロントサイドメンバ2の湾曲部2Bは、衝突時にクラッシュ部2Aを効率良く潰すための十分な強度が得られ、安全性を確保し易い。
【0020】
またフロントフェンダ部1Aのせり出しによる前輪トレッドTFの拡大は、前輪91とロッカレール3の位置のずれをもたらす。そのため変位量の多いオフセットクラッシュの場合、後退する前輪91がロッカレール3の前端部をすり抜けて直撃を回避し、ロッカレール3の前端部の変形を軽減できる。
【0021】
また前輪トレッドTFの拡大は、左右のフロントサイドメンバのスパンの拡大をもたらし、キャビン幅の異なる車種間でエンジン94、ミッション95の汎用化によるコスト削減が可能である。さらに汎用化は、エンジン94、ミッション95のバリエーションを容易に増やすことができ、幅広いユーザーを満足させることができる。そして拡大したエンジンコンパートメント1Bにおいては、部品密度が低くなり部品の組付け作業性やサービス性が向上する。
【0022】
また、せり出したフロントフェンダ部1Aは運転席からは目視できず、通常では車幅感覚がつかみ辛くなる。しかしフロントフェンダ部1Aが車幅方向でサイドミラー92からはみ出ないため、サイドミラー92を目安に運転することができ、対向車とのすれ違いや幅寄せする場合の車幅感覚がつかみ易くなる。
【0023】
また図示しないが、フロントフェンダ部1Aと同様にサイドボデーからリヤフェンダ部をせり出す車両も考えられる。この場合もリヤフロアサイドメンバとロッカレール3のオフセットが小さくなり、後方からの衝突に対して有利なボデー構造で、ラゲージスペースも拡大できる利点がある。しかし後方からの衝突安全性は比較的容易に対策可能であり、小回り性能を損ねてしまう欠点もある。一般的にサイドボデーからフロントフェンダ部1Aをせり出すと、前輪91が路面の泥や小石を跳ね上げ易くなる。そのためサイドボデーからリヤフェンダ部をせり出すとリヤフェンダ部が汚れ易く塗装面を傷つける恐れもある。
【0024】
しかしフロントフェンダ部1Aだけがサイドボデーからせり出すH2ボデー(ハンマーヘッド・ボデーの略)にはメリットが多い(図3参照)。つまり縦列駐車や車庫入れは、通常車両をバックさせての操作になるが、リヤフェンダ部がせり出さないH2ボデーにおいては、小回り性能を妨げない。またリヤフェンダ部の汚れを抑え塗装面を傷つける心配もない。また走行安定性を追及するのであれば後輪トレッドTRも同様に拡大すべきであるが、後輪に較べ前輪荷重が大きいFF方式の車両にあっては、H2ボデーのように前輪トレッドTEだけを拡大しても十分な走行安定性が望める。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来のボデー骨格構造の平面図。(フロントボデー部)
【図2】従来のボデー骨格構造の側面図。(フロントボデー部)
【図3】本発明のボデー平面図(全体)
【図4】本発明のボデー骨格構造の平面図。(フロントボデー部)
【図5】本発明のボデー骨格構造の側面図。(フロントボデー部)
【符号の説明】
1 ボデー、1A フロントフェンダ部、1B エンジンコンパートメント
2 フロントサイドメンバ、2A クラッシュ部、2B 湾曲部
3 ロッカレール
4 フロントピラー
7 ダッシュ・クロスメンバ
51 フロントフロアパネル、51A トンネル部
52 ダッシュパネル、52A ダッシュロア部
91 前輪、92 サイドミラー、93 サブフレーム、94 エンジン、95 ミッション、99 後輪
P アクセルヒールポイント
W オフセット
H オフセット
TF 前輪トレッド
TR 後輪トレッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ)サイドボデーからフロントフェンダ部をせり出して前輪トレッドを拡大し、フロントサイドメンバとロッカレールのオフセットを小さくする。
(ロ)ダッシュパネルの車両後方でフロントサイドメンバのクラッシュ部から前輪逃し面に沿って延長した湾局部を設け、その湾曲部の端末をフロントピラー直下のロッカレール車両前端部に連結する。
(ハ)前記フロントサイドメンバの湾曲部の少なくとも半分以上が、ダッシュロア部も含めたフロア面の車両上方に位置する。
以上の如く構成された、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式を採用する車両のボデー構造。
【請求項2】
請求項1において、せり出したフロントフェンダ部が車幅方向でサイドミラーからはみ出ないボデー構造。
【請求項3】
請求項1もしくは請求項2において、前輪トレッドが後輪トレッドより80mm以上広い車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−255885(P2009−255885A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131342(P2008−131342)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(591245288)
【Fターム(参考)】