説明

FISH法を用いた循環腫瘍細胞中のIGF1R/Chr15を検出するための方法

本発明は、IGF−1R遺伝子を発現している循環腫瘍細胞を含む血液試料の自動FISHアッセイのための方法及びプローブ組成物を開示する。このアッセイは、免疫磁気選択及び蛍光標識後に同定された疑わしい循環腫瘍細胞の遺伝子分析を可能とする。IGF−1R遺伝子座に対する固有の無反復配列プローブと、15番染色体参照プローブとを使用することにより、低レベルのIGF−1R増幅を示した1つの細胞株を含む、異常な数のIGF−1R及びChrシグナルを発現している細胞株が検出された。循環腫瘍細胞におけるIGF−1Rの遺伝子プロファイルを直接調べることが可能であることによって、疾患及び治療に対する患者の反応を評価するための自動化された手段が与えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明者:Brad Foulk and Leon W.M.M.Terstappen
【0002】
(関連出願の相互参照)
本願は、2005年9月20日出願の米国仮特許出願第60/718,676号、及び2008年3月25日出願の同第61/039,162号に基づく優先権を主張する非仮出願である。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、一般的に腫瘍学及び診断イメージングの分野に関する。より詳細には、本発明は、癌の検出に用いられる方法であって、患者の治療レジメンを評価するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0004】
癌患者の治療及び管理を向上させるための努力にも関わらず、癌患者の生存率は多くの癌のタイプで過去20年間、改善されていない。したがって、多くの癌患者は原発腫瘍によって死亡するのではなく、転移によって命を落とすのである。転移とはすなわち、原発腫瘍から分離して身体を通じて時に遠隔部位へと移動する悪性細胞によって多発性の広範囲にわたる腫瘍コロニーが確立されることである。癌における最も成功を収めた治療法は、早期の発見と腫瘍が臓器に留まっている間に外科的に除去することである。癌の早期発見は、特に、子宮頸癌におけるパップスメア、乳癌におけるマンモグラフィー、及び前立腺癌における血清前立腺特異的抗原(PSA)などの適切な診断テストが存在する場合、一部の癌においては実行可能であることが証明されている。しかしながら、早期段階で発見される多くの癌は、外科的切除の前に既に微小転移している。したがって、癌の悪性潜在性の早期かつ正確な判定は、適切な治療法を選択するうえで重要である。
【0005】
最適な治療法は、診断及び予後の情報の組み合わせに基づいたものとなる。正確かつ再現性のある診断テストによって、特定の癌の転移性に関する詳細な情報を得ることが、生存率に関する詳細な情報を与える予後評価とともに求められている。
【0006】
適切に設計された予後テストは、医師にリスク及び生存の可能性についての情報を与えるものであり、ひいては患者に不必要な治療に耐える必要をなくす利点を与えるものである。選択された治療法が予後テストに基づいて効果的であることが分かれば、患者の士気も高まることになる。こうしたテストにともなうコストの削減は、医師に効果のない治療法を変更するための根拠を与えることから重要でありうる。患者の生存に主眼を置いた転移性癌の治療及び検出用の適切に開発された診断及び予後データバンクが、医療に多大な利益をもたらすことは明白である(米国特許第6,063,586号)。
【0007】
原発腫瘍が十分早期に発見されれば、外科手術、放射線若しくは化学療法、又はこれらの治療法の幾つかの組み合わせによってしばしば除去することが可能である。残念ながら、転移性コロニーは検出及び除去が困難であり、すべてのコロニーを完全に治療することはしばしば不可能である。したがって臨床的な観点から言えば、転移とは癌の自然な進行の最終的な事象と考えることができる。更に、転移する能力は、悪性腫瘍を特徴付ける固有の性質である。
【0008】
血液中の完全な腫瘍細胞の検出は、原発腫瘍の切除を行った癌患者において再発する転移性疾患との直接的関連を与えるものである。残念なことに、悪性腫瘍の同じ広がりは、従来の腫瘍の段階判別手順では引き続き見逃されている。最近の研究によって、癌患者の骨髄中の1個の癌細胞の存在は、転移性再発の独立した予後因子であることが示されている(Diel IJ,Kaufman M,Goerner R,Costa SD,Kaul S,Bastert G.「原発性乳癌を有する患者の骨髄中の腫瘍細胞の検出:遠隔転移の予後因子」(Detection of tumor cells in bone marrow of patients with primary breast cancer: a prognostic factor for distant metastasis)J Clin Oncol,10:1534〜1539,1992)。しかしながら、これらの侵襲的手法は、血液中の播種性上皮腫瘍細胞の検出と比較して、日常の又は多数回の臨床検査法としては、望ましくない又は許容されないものと考えられている。
【0009】
腫瘍細胞ばかりではなく、希少細胞又は生体試料からの他の生物学的物質を特徴付けるための方法がこれまでに述べられている(米国特許第6,365,362号)。この2段階の方法は、分析に先立って大量の破片及び他の干渉物質を除去しつつ、標的細胞を確実に取得するための効率的な濃縮化を必要とし、これによりイメージング技術による細胞検査を可能とするものである。この方法は、多パラメーターフローサイトメトリーによる免疫磁気濃縮、顕微鏡法、及び免疫細胞化学分析の要素を独自の自動的な方法で組み合わせたものである。この組み合わせによる方法を使用して血液試料中の上皮細胞を濃縮して計数することで、癌を測定するための手段を与える。
【0010】
こうした2段階の方法は、転移性癌の患者における癌の予後及び生存率の予測に応用される(国際特許出願公開第04076643号)。この方法は、血液中に循環している形態的に完全な癌細胞の存在に基づいて、転移性乳癌患者の循環癌細胞の存在を疾患の進行及び生存率と相関させることが可能である。より詳細には、7.5ミリリットル当たり5個以上の循環腫瘍細胞が存在する場合に、最初の経過観察時の予測値が与えられ、これにより患者の生存率の初期の予後指標を与えるものである。
【0011】
上記に述べた検査の特異性は、検出される細胞数とともに高くなるものであり、検出される細胞数が少ない場合(一般的に5個未満の循環腫瘍細胞)には十分ではない。この問題に対する解決策の1つは、疑わしい癌細胞についての詳細な遺伝子情報を与えることである。したがって、個々の疑わしい癌細胞の多パラメトリック画像サイトメトリー及び多パラメトリック遺伝子解析に血液試料の濃縮化を取り入れた方法であれば、患者のスクリーニング、疾患の再発又は全生存率の評価のための現在の方法を大幅に改善する完全なプロファイル及び確認機構を与えるものと思われる。
【0012】
国際特許出願公開第00/60119号、Meng et al.PNAS 101(25):9393〜9398(2004)、Fehm et al.Clin Can Res 8:2073〜2084(2002)に述べられ、本明細書に援用する蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)は、濃縮後の希少細胞検出における単一モードの分析法として述べられている。上皮細胞の濃縮後、捕捉された細胞を公知のハイブリダイゼーション法によってスクリーニングし、顕微鏡スライド上で画像化する。内在的な技術的変化及び遺伝子情報の十分な確認の不足により、ハイブリダイゼーションパターン単独では、5個未満の標的細胞を含む試料を評価する場合のように、高感度の分析に必要とされるレベルの臨床的信頼度を与えるものではない。更に、FISH分析のこの方法は自動化が困難である。
【0013】
ハイブリダイゼーションに基づいた方法を個々の細胞の分析において免疫細胞化学と組み合わせることについては、これまでに述べられている(米国特許第6,524,798号)。個々の細胞の表現型及び遺伝子型を同時に評価するためには、表現型の特徴がin situハイブリダイゼーションの準備段階後に安定に維持され、検出可能な標識の選択において限定されたものである必要がある。一般的に、従来のin situハイブリダイゼーションアッセイは以下の工程を必要とする。すなわち、(1)熱又はアルカリによる変性、(2)非特異的結合を低減する任意の工程、(3)標的核酸配列への1以上の核酸プローブのハイブリダイゼーション、(4)結合しなかった核酸フラグメントの除去、及び(5)ハイブリダイズしたプローブの検出、である。これらの工程の1以上を行うために使用される試薬(すなわち、メタノール洗浄)によって、後の免疫細胞化学における抗原認識が変化し、標的細胞の位置がわずかに変化するか、標的細胞が完全に除去され、疑わしい細胞の誤った特徴付けがなされる可能性が生ずる。
【0014】
個々に単離された標的細胞の表現型及び遺伝子型の多パラメトリック分析を組み合わせることによって希少な循環細胞を分析することが可能であれば、取得されたあらゆる定量的情報の確認が臨床医に与えられるものと考えられる。これは、極めて少数(1、2、3又は4個)の循環腫瘍細胞(CTC)を用いて病態を評価する場合に特に関連があり、早期の疾患発見の確認を与えるものである。
【0015】
多パラメトリックFISH分析のためのプローブのセット及び方法は、肺癌において述べられている(米国特許出願公開第20030087248号)。患者の膀胱癌を検出するための95%の感度が得られる3つのプローブの組み合わせについても述べられている(米国特許第6,376,188号、及び同第6,174,681号を参照)。これらの方法は、少ない数の標的細胞を評価するための特異性及び感度を欠いており、ひいては病態の早期発見の確証的評価を欠いている。これらの方法はまた、利便のよい自動化の手段を与えるものでもない。
【0016】
最近になって述べられているプローブは、DNAから反復配列を除去することによって無反復配列を与えるものである。この無反復配列プローブは、ブロッキングDNAを使用せず、また望ましくないDNA配列をブロックする必要なくハイブリダイゼーションプローブとして機能する(国際特許出願公開第07/053245号)。
【0017】
高レベルのIGF−1の発現は、IGF−1のレベルが低い患者と比較して、肺癌、乳癌、前立腺癌及び結腸直腸癌のリスクの増大との関連が示されている。更に、in vitro及びin vivoでの腫瘍細胞の維持におけるIGF−1及び/又はIGF−1Rの役割を示す相当な証拠がある。IGF−1Rのレベルは肺(Kaiser et al.,J.Cancer Res.Clin.Oncol.119:665〜668,1993;Moody et al.,Life Sciences 52:1161〜1173,1993;Macauley et al.,Cancer Res.,50:2511〜2517,1990)、乳房(Pollak et al.,Cancer Lett.38:223〜230,1987;Foekens et al.,Cancer Res.49:7002〜7009,1989;Arteaqa et al.,J.Clin.Invest.84:1418〜1423,1989)、前立腺及び結腸(Remaole−Bennet et al.,J.Clin.Endocrinol.Metab.75:609〜616,1992;Guo et al.,Gastroenterol.102:1101〜1108,1992)の腫瘍において上昇している。前立腺上皮におけるIGF−1の脱調節された発現は、形質転換マウスにおいて腫瘍形成を生ずる(DiGiovanni et al.,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 97:3455〜3460,2000)。更に、IGF−1はヒトグリオーマの自己分泌刺激因子と考えられる(Sandberg−Nordqvist et al.,Cancer Res.53(11):2475〜78,1993)一方で、IGF−1はIGF−1Rを過剰発現する線維肉腫の増殖を刺激することが示されている(Butler et al.,Cancer Res.58:3021〜3027,1998)。各種のヒト腫瘍の増殖においてIGF−1/IGF−1Rの相互作用が果たす役割の概説については、Macaulay,Br.J.Cancer,65:311〜20,1992を参照されたい。
【0018】
IGF−1R RNAに対するアンチセンス発現ベクター又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いることによって、IGF−1Rとの干渉がIGF−1によって媒介される細胞増殖を阻害することが示されている(例えば、Wraight et al.,Nat.Biotech.18:521〜526,2000を参照)。IGF−1のペプチドアナログ(Pietrzkowski et al.,Cell Growth & Diff.3:199〜205,1992;Pietrzkowski et al.,Mol.Cell.Biol.12:3883〜3889,1992)、又はIGF−1 RNAに対するアンチセンスRNAを発現するベクター(Trojan et al.,Science 259:94〜97,1992)を用いることによっても増殖を阻害することができる。更に、IGF−1Rに対する抗体(Arteaga et al.,Breast Canc.Res.Treatm.22:101〜106,1992;and Kalebic et al.,Cancer Res.54:5531〜34,1994)、及びIGF−1Rのドミナントネガティブ変異体(Prager et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 91:2181〜85,1994;Li et al.,J.Biol.Chem.269:32558〜2564,1994;Jiang et al.,Oncogene 18:6071〜6077,1999)によって癌化した表現型を元に戻し、腫瘍形成を阻害し、転移性の表現型の消失を誘導することができる。
【0019】
IGF−1は、アポトーシスの調節においても重要である。アポトーシスはプログラミングされた細胞死であり、免疫及び神経系の成熟などの広範な発生過程に関与している。発生における役割以外にも、アポトーシスは腫瘍形成に対する重要な細胞保護手段であることが示されている(Williams,Cell 65:1097〜1098,1991;Lane,Nature 362:786〜787,1993)。アポトーシスプログラムの抑制は、悪性腫瘍の発生及び進行に寄与する場合がある。
【0020】
幾つかの研究は、IGF−1Rの発現レベルは臨床転帰と相関があることを示唆している。腫瘍モデルにおいて、IGF−1Rは細胞増殖、生存及び転移を調節し、標的とした治療法への耐性を誘導した。IGF−1Rの阻害によって細胞毒性物質の活性は大幅に高まる(Cohen,B.et al.,Clin.Cancer Res.11(5):2063〜73)。したがってIGF−1Rによるシグナル伝達の阻害は、新たな癌の治療法を開発するための有望な方針であると思われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
CTCの表面上のIGF−IR発現の検出は、癌患者におけるIGF−1R拮抗薬療法の効果の予測と関連付けられている(国際特許出願公開第07/141626号)。しかしながら、この方法では個々の腫瘍細胞の染色体の配列を直接調べることはできない。IGF−1R遺伝子の分析によって、IGF−1Rを発現する個々の腫瘍細胞のアポトーシス又は増殖状態に関する情報が与えられることにより、腫瘍形成のより詳細な評価につながるものと考えられる。
【0022】
更に、IGF−1R及びあらゆる染色体異常の存在の両方を評価可能な方法を、IGF−1Rの表面上での発現を検出することと組み合わせることによって、IGF−1Rを発現している循環腫瘍細胞における異数性のより直接的な指標が与えられるものと考えられる。これにより疾患の進行のより詳細かつ高感度の診断及び評価が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、IGF−1R循環腫瘍細胞における染色体配列を評価するための直接的な方法を提供する。より直接的な分析法は、癌患者におけるIGF−1R療法の効果を予測し、こうした患者におけるより詳細な診断を与えるうえで臨床医を支援するものである。本方法は、a)循環腫瘍細胞を含むことが疑われる混合細胞集団を含む血液試料を患者から得ることと、b)免疫磁気濃縮により上皮細胞の亜集団を単離することと、c)IGF−1R遺伝子の異常を有する循環腫瘍細胞を同定することと、e)循環腫瘍細胞を関連付け、被験者に関する診断、予後又は治療情報を与えることと、を含む。
【0024】
本発明は更に、IGF−1Rを発現している循環腫瘍細胞の存在について患者試料をスクリーニングするためのキットであって、a)磁性コア物質、タンパク質ベースコーティング物質、及び上皮細胞由来の腫瘍細胞に特異的に結合する抗体を有するコーティングされた磁性ナノ粒子であって、その抗体が前記ベースコーティング物質と直接的又は間接的に結合されている磁性ナノ粒子と、b)腫瘍細胞以外の試料成分を排除して分析を行うための細胞色素と、c)染色体の計数及び異数性の検出のためのサテライト計数(satellite enumeration)プローブと、d)IGF−1R遺伝子の遺伝子座を規定することが可能な無反復配列プローブと、を含むキットを更に提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】BAC開始DNAからの反復配列除去DNAプローブの生成を示す概略図。断片化された全ゲノム増幅ライブラリーを変性し、過剰量のCot DNAの存在下で再アニーリングした。二本鎖DNAのDSNによる消化によって一本鎖の固有配列の混合物が得られ、これをプローブ製造の鋳型として使用した。
【図2】IGF−1R遺伝子の同定に使用した2つのクローンの位置を示した図。IGF−1Rプローブは、IGF−1R遺伝子座の周囲の配列を含むBACクローンを選択することによって設計した。
【図3】無反復配列IGF−1R DNAクローンのマッピングを示す図。IGF−1Rクローンを、17番染色体のαサテライトコントロールプローブ(緑)とともに正常なヒト中期染色体(赤)とハイブリダイズさせた。
【図4】15番染色体に対するαサテライトプローブ(SE−15)の画像をIGF−1R遺伝子座において示した図。無反復配列IGF−1Rクローン(赤)はSE−15プローブ(緑)とともにプールされ、正常な中期展開染色体にハイブリダイズした。
【図5】LNCAP細胞(右)及びBT474細胞(左)でのIGF−1Rプローブの構成のハイブリダイゼーションを示す図。
【図6】組み合わせで使用されるプローブの相対位置を示す図。2つのクローンは、参照としてIGF−1Rプローブ(青)を使用してマッピングされた無反復配列の蛍光標識された(赤)プローブである。
【図7】アッセイで使用した蛍光色素のスペクトルを示す図。IGF−1Rに対してはULS DY415を用いた。
【図8】IGF−1Rプローブにより評価した7つの細胞株の画像であり、プローブが染色体異常を検出可能であることを示している。
【図9】CellTracks装置から取得された画像のスコア判定が可能であることを示す図。CellTracks装置からの画像を標準的な蛍光顕微鏡と比較したもの。
【図10】FISHの結果のスコア判定に使用したFISHソフトウェアからのスクリーンショットの画像。上列はCTCの走査、CK+;DAPI+/CD45−及びCTCからの画像を示す。下列は、異常な数のIGF−1R及び15番染色体のプローブを示すCTCを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、異常な遺伝子プロファイルを有する腫瘍細胞においてIGF−1Rを検出するために、免疫磁気濃縮及び画像分析を蛍光In Situハイブリダイゼーション(FISH)と組み合わせて用いて循環腫瘍細胞の単離及び同定を行うものである。
【0027】
このため、CellTracksシステムでは、全血液試料中に存在するあらゆる上皮細胞を高度に濃縮及び凝縮するための免疫磁気選択及び分離を用いている。捕捉された細胞は、白血球特異的マーカー及び1以上の腫瘍細胞特異的蛍光モノクローナル抗体によって検出可能に標識することによって、捕捉されたCTCの同定及び計数、並びに混在する非標的細胞からの機器又は視認による明確な区別を可能とする。このアッセイは、低腫瘍量の早期段階においても7.5〜30mLの血液当たり1又は2個の上皮細胞という非常に高い感度で腫瘍細胞の検出を可能とするものである。本発明の実施形態は、CellTracksシステムに限定されるものではなく、同等の感度及び特異性を有するすべての単離及び画像化プロトコールを含むものである。
【0028】
DNAは固有の配列と反復配列とを含んでいる。反復配列は染色体の全体にわたって存在し、これらの反復配列の外側の特異的領域又は固有配列を標的としたin situハイブリダイゼーションなどのハイブリダイゼーション反応と干渉する可能性がある。染色体、遺伝子又はDNA配列上の特異的配列の存在、量、及び位置を特定するには、ハイブリダイゼーションプローブが対象とする位置にのみハイブリダイズすることが重要である。ハイブリダイゼーションプローブ混合物中の反復配列の存在は結合の特異性を低下させるものであり、反復配列をプローブから除去するか、プローブが標的上の反復配列とハイブリダイズすることを防止するための方法が必要となる。例えば、Cot−1 DNAは、反復配列へのプローブの結合を防止するために、ハイブリダイゼーションの際にしばしば加えられる(米国特許第5,447,841号及び同第6,596,479号)。
【0029】
反復配列除去DNAプローブの生成の一般的な図を図1に示す。デオキシリボ核酸分子を選択的に切断する二本鎖特異的ヌクレアーゼ(DSN)(本明細書に援用する米国特許出願公開第2005/0164216号及び米国特許第6,541,204号)は、一本鎖DNAと比較して核酸の二本鎖ポリヌクレオチドを選択的に切断し、試料混合物から非標的二本鎖DNAを除去する手段を与えるものである。ポリヌクレオチドの二本鎖形態を選択的に消化するこれらのヌクレアーゼの能力は、固有の標的特異的プローブを作製するうえで使用できる可能性があり、ブロッキングDNAの干渉作用を防止し、速やかで効率的かつ費用効率の高い製造を可能とする手段を与えるものである。
【0030】
開始DNAは通常、複数のDNAセグメントを含む1以上のDNA配列の形態のものである。プローブ組成物の製造における個々の開始物質の最初の供給源については、直接標識したプローブの製造において述べられている(米国特許第6,569,626号)。開始ポリヌクレオチドの供給源は、組織から精製され、酵素処理(制限酵素)、ポリメラーゼ、限定的DNアーゼI消化、限定的マングビーンヌクレアーゼ消化、超音波処理、DNAの剪断などの任意の公知の方法を用いて150kb〜200kbのセグメントに断片化することが最適である。これらのセグメント化されたフラグメントの一部は、特定の固有な標的配列の1以上のDNAセグメントの少なくとも一部分と相補的なものとなる。
【0031】
個々のDNAは、プラスミド構築体へのクローニングなどの一般的に知られる方法によって増殖させた後、細菌にトランスフェクトされる。
【0032】
クローニングされたフラグメントを増殖させた後、単離されたフラグメントを表わす個々のコロニーを、対象とする配列の少なくとも一部を含むものとして同定する。同定は、ハイブリダイゼーション、PCR、又は市販のライブラリーの確立されたデータベースを検索するなどの公知の方法によって行われる。選択されたコロニーをそれぞれ増殖させることによって、染色体上の標的配列のセグメントと少なくとも部分的に相補的な固有のフラグメントを有する単離されたプラスミド構築体を得る(すなわち、BACクローン)。
【0033】
クローニングされた対象フラグメントを増殖及び単離した後、フラグメントから反復ポリヌクレオチド配列を除去する。全遺伝子増幅法(WGA)を用いて、単離されたプラスミド構築体からフラグメントを200〜500bpのセグメントとして増幅する。増幅後、最初に95℃に加熱して二本鎖ポリヌクレオチドを一本鎖の状態に変性し、次いで65℃に冷却して反復配列を選択的に再びアニーリングさせることによって、Cot−1 DNAをWGAライブラリープールと合わせる。次いで最適な二本鎖特異的ヌクレアーゼ(DSN)条件下で二本鎖特異的ヌクレアーゼを加えることによって、残りの一本鎖セグメントには影響を与えずに、完全に一致した核酸二本鎖を有するデオキシリボ核酸分子を選択的に切断する。二本鎖核酸の選択的な切断は、DNA−DNA二本鎖及びDNA−RNA二本鎖を酵素で消化することによって行われる。カムチャッカガニ(米国特許出願第10/845,366号)及びエビ(米国特許第6,541,204号)から単離されたDSNは、二本鎖構造を除去するものである。エンドヌクレアーゼ特異的なヌクレアーゼの使用により、二本鎖DNAの主鎖のホスホジエステル結合が加水分解されることで、ヌクレオチド配列に特異的でなく、したがって対象とするほとんどの標的に適用が可能であるという利点が得られる。DSNによる消化によって、残りの一本鎖ポリヌクレオチドの続く増幅を行うために核酸二本鎖の相当量を除去することができる。得られた消化産物は、染色体上の固有の標的配列の部分に相当する一本鎖DNA、一定量の未消化の二本鎖DNA、及び消化された塩基対を含んでいる。未消化のDNAは、消化されたDNA及びDSNから遠心分離によって分離される(すなわち、スピンカラムクロマトグラフィー)。この混合物を直ちに使用するか、あるいは標識及びin situハイブリダイゼーションといった後の使用のために精製した組成物の増幅の前又は後に80℃で保存する。増幅後、得られた標的プローブ配列をPCRによって増幅し、純度90%〜99%の標的プローブ配列及び指定された反復配列除去DNAを得る。
【0034】
得られたプローブを本発明で実施される方法で使用する。本発明で述べる反復配列除去DNAは、疑わしいCTCのIGF−1R遺伝子に適用されるFISHのようなin situハイブリダイゼーションに有用である。本発明で述べる反復配列除去プローブを使用することにより競合的結合の必要性がなくなり、反応の特異性が高くなると同時に結合に必要とされるプローブの量が低減される。
【0035】
免疫磁気標識した細胞の再分析
染色体の異数性は、遺伝子疾患、特に癌と関連している。特にin situハイブリダイゼーション(ISH)の使用によって、これらの染色体異常を検出する診断方法が知られている。組織又は細胞試料に対するISH及び免疫細胞化学(ICC)の適用は確立されているが、単一細胞に対してISH及びICCによる同時分析を行うための診断的に効果的な方法を確立することが大きく望まれている。個々の細胞におけるこれらの染色体異常が癌細胞のIGF−1R遺伝子座に関連していることから、本発明は、費用効果が高くかつ特異性の高い手段を用いてこれらの染色体異常の検出を可能とするものである。
【0036】
本発明の一態様では、濃縮及び免疫細胞化学(ICC)分析の後に希少細胞を更に処理する。例えば、上皮細胞などの循環希少細胞を疑わしい癌細胞として同定する(米国特許第6,365,362号、同第6,645,731号、及び米国特許出願第11/202,875号を援用する)。疑わしい細胞を、特異的な細胞抗原及び核酸標識によって特定する。これらの疑わしい細胞におけるIGF−1Rの確認を、特定された疑わしい細胞内の染色体の変化(すなわち、異数性)を評価するために用いられる染色体及び/又は遺伝子を規定する特異的な固有の標的配列の発現によって判定する。したがって、本発明の一実施形態は、ICC染色と、これに続く、遺伝子又は遺伝子群に結合可能なサテライト計数プローブ(satellite enumeration probe)(SE)及び固有配列プローブを用いた蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)による確認との組み合わせを含む。
【0037】
本方法は、CellTracks(登録商標)AutoPrep(登録商標)、及びCellTracks(登録商標)Analyzer IIシステム(ベリデックス社(Veridex, LLC))によって与えられ、米国特許第6,365,362号に更に述べられるような、循環腫瘍細胞の免疫磁気濃縮及び蛍光イメージング後の高い特異性を提供するものである。一方法は、疾患の段階とは無関係に1個又はそれよりも多いCTCをIGF−IR陽性癌細胞として指定することによって、ある試料をCTC陽性と呼ぶための閾値を下げることを可能にする。本発明の一実施形態は、治療標的としてのIGF−1Rの有無を検出することによって、正しい治療法の選択を行うための手段を与える。
【0038】
そのため、血液試料処理のための自動化かつ標準化された一方法は、ICCによる循環上皮細胞の同定を可能とする。分画化された血液試料から吸引された血漿を、標的細胞集団(すなわち、EpCAM陽性)に特異的な抗体と結合させた磁性流体試薬と合わせる。これらの細胞を外部から印加した磁場によって免疫磁気的に回収することで、非標識細胞の分離及び除去が可能である。
【0039】
標的細胞を分離した後、これを使い捨てカートリッジに注入して画像表示装置(米国特許第6,790,366号及び同第6,890,426号)を用いた画像分析を行う。この装置は、後のICCイメージングのために標識された細胞を、チャンバの光学的に透明な表面に沿って配向させるような磁場を作用させるように設計されている。
【0040】
ICCイメージングの後、疑わしい細胞を適当なアルゴリズムを用いて同定する。疑わしい細胞の画像は、提示された疑わしい細胞の性状について最終的な判断を下す使用者に対して提示される。疑わしい細胞の画像、及びチャンバの光学的に透明な観測表面に沿った細胞の相対的位置を記録して、後の使用のためにアーカイブ化しておく。
【0041】
ICCイメージング単独では、5個未満のCTCを含む血液試料の臨床的重要性を評価するための、あるいは疑わしい癌細胞についての詳細な遺伝子情報を与えるための特異性を欠いていることから、個々の疑わしい細胞について後に分析を行って完全なプロファイルを得て、選択された疑わしい腫瘍細胞がスクリーニング、疾患の再発率及び全生存率を評価するといった診断分析に使用可能であることを確認する必要がある。
【0042】
FISHは、DNAの融解温度よりも高い温度と、ICC標識と適合性のない試薬を必要とする。ICC及びDNA標識の多くは、何らかのシグナルが処理の際に失われてしまい、FISH法を通じて使用することはできない。したがって、FISH分析の対象となる細胞として特定された細胞をその位置で追跡することができない。したがって、ICC画像が得られた後、光学的に透明な観測表面に沿った細胞の位置が、後の遺伝子分析(FISH)及びICC標識が失われる他の種類の分析を行うために維持されるような検出方法が求められている。これは、ICC画像が得られた後に、細胞が失われないようにして、又は表面に沿って大きく動かないようにして細胞を光学的に透明な表面上に固定することによってある程度実現される。
【0043】
そのため、FISH試薬の添加後、カートリッジを、固定された細胞を有する表面がホットプレートと接触するようにしてホットプレート上に置く。アッセイの種類に応じて、2〜48時間で行われる異なる温度サイクルでホットプレートをプログラミングする。温度サイクルの終了後、余分なFISH試薬をカートリッジから取り除く。カートリッジにDNA標識を含んだ緩衝溶液を充填して、固定された細胞の核を可視化する。使用されるDNA標識に応じて、標識はカートリッジ内に残るか、あるいは染色後にカートリッジから洗い流される。
【0044】
次に、カートリッジをCellTracks(登録商標)Analyzer IIシステムに戻して2度目の走査を行う。最初のICCイメージ分析の際に上面に存在した細胞は固定されているため、同じ細胞がカートリッジ内部の同じ相対位置に依然存在している。イメージングシステム(CellTracks(登録商標)Analyzer IIシステム)に対するカートリッジの移動量を評価するため、2回目の走査の画像内の核の位置を最初のICC走査の画像内の核の位置と比較する。これらの画像の互いに対する移動量をたたみ込みアルゴリズムを用いて求める。この移動量が求められた後、対象とする特定の細胞をそのICC画像に基づいてリストから選択し、2回目の走査のFISH後にカートリッジの表面上で再度位置決定することができる。次いで選択されたFISHプローブの蛍光画像が取得される。
【実施例】
【0045】
実施例1−IGF−1R/Chr 15 FISHアッセイ用のプローブセットの開発
このアッセイでは2つのタイプのプローブが必要とされる。1つ目のタイプはサテライト計数(satellite enumeration)(SE)プローブである。このプローブは、染色体の動原体付近のサテライト(反復)配列に結合し、染色体の計数及び異数性の検出に用いられる。2つ目のタイプは、固有配列プローブである。その名前が示す通り、このプローブは遺伝子などの固有配列に結合する。バイオインフォーマティックスを用いることで、固有配列プローブをゲノムの任意の位置に対して設計することができる。固有配列プローブは、通常、プローブの非特異的結合を生じうるAlu又はKpn反復配列のような反復要素を含んでいる。非特異的結合の抑制は、ハイブリダイゼーションにおいて非標識のブロッキングDNAを組み込むことによって通常行われる。ブロッキングDNAは、固有配列とサテライトプローブとのハイブリダイゼーションと干渉することが示されている。本発明の方法は、プローブのより速やかかつより明確なハイブリダイゼーションを可能とする無反復配列プローブの使用によってこの工程を省略するものであり、ブロッキングDNAを使用するという短所を克服したものである。
【0046】
バイオインフォーマティックスを用いることで、IGF−1R遺伝子座の周囲の配列を含む細菌人工染色体(BAC)クローンを選択することにより、IGF−1Rプローブを設計することができる。図2の図は、IGF−1R遺伝子に対する2つのクローンの位置を示している。BAC DNAを増殖させ、Qiagen Large Constructキットを使用して単離した。クローンを特異性についてFISHマッピングした後、述べられたプロトコールに従って反復配列を取り除いた。図2において、赤で示した「A」及び「B」は、IGF−1R遺伝子座の周囲の2つのクローンを表わしている。緑の領域は15番染色体上のサテライト計数プローブ(SE−15)を表わしている。
【0047】
各IGF−1Rクローンをマッピングしてその機能を確認した。両方のクローンについて増幅した無反復配列DNAを超音波処理し、ULS−PlatinumBright 550(クレアテック・ダイアグノスティクス社(Kreatech Diagnostics))によって標識した。図3に示されるように、IGF−1Rクローン(赤)を17番染色体のαサテライトコントロールプローブ(緑)とともに正常なヒト中期染色体とハイブリダイズした。いずれのクローンも適当なサイズの末端動原体染色体(areocentric chromosome)のq末端上に明るいシグナルを与えた。他の染色体上で無反復配列クローンのクロスハイブリダイゼーションは認められなかった。
【0048】
15番染色体に対するαサテライトプローブ(SE−15)を、IGF−1R遺伝子座に対する参照プローブとしての使用について評価した。図4に示されるように、無反復配列IGF−1RクローンA及びB(赤)は、SE−15動原体プローブ(緑)とともにプールされ、正常な中期展開染色体とハイブリダイズした。以下の画像は、IGF−1R及びSE15プローブが正しい染色体にマッピングされ、強いシグナルを与えたことを明らかに示すものである。
【0049】
実施例2−IGF−1R/SE−15プローブの構成の細胞株評価
15番染色体に対するαサテライトプローブとIGF−1RクローンA及びB(IGF−1R/SE−15)との組み合わせを、遺伝子異常の評価について試験した。IGF−1R/SE−15プローブの構成を複数の細胞株に使用して、プローブが異数性又は遺伝子増幅/欠失を検出できるかどうかを調べた。A549(肺)、BT474(乳房)、PC3(前立腺)、LNCAP(前立腺)、H1299(肺)、及びMCF7(乳房)細胞株をこの構成で試験した。図5の画像は、LNCAPが4個のSE−15のコピーと4個のIGF−1Rのコピーを有していることを示しており、遺伝子増幅のない異数性を示している。試験を行った残りの5つの細胞株では、他の染色体に対するSE−15プローブのクロスハイブリダイゼーションが認められた。BT 474細胞は2〜3個のIGF−1Rのコピーと多数のSE−15のシグナルを含み、クロスハイブリダイゼーションを示した。他の細胞株では、異なる量のSE−15プローブのクロスハイブリダイゼーションが認められた。クロスハイブリダイゼーションの程度は細胞株及び試験した正常なドナー間で異なったため、このクロスハイブリダイゼーションはドナーごとの変動によるものと考えられる。
【0050】
SE−15のクロスハイブリダイゼーションの問題を解決するため、IGF−1R/SE−15プローブを、15番染色体上の他の位置の遺伝子座に対する固有配列プローブによって再構成した。これは固有配列プローブであることから、SE−15のようなαサテライトプローブを使用した場合に生じうるクロスハイブリダイゼーションの問題を生ずることなく、15番染色体の特異的領域に結合するはずである。15番染色体のIGF−1Rと同じ腕上の動原体の付近に位置する2つの隣接したクローンを15番染色体のq1領域内で選択した。図6の図は、この構成で用いたプローブの相対位置を示している。これら2つのクローンは無反復配列のプロトコールに従って作製し、蛍光標識(赤)した。IGF−1Rプローブ(青)をマッピングの参照用として用いた。画像に示されるように、クローンChr 15 Aは誤った染色体にマッピングされた。クローンChr 15 Bは15番染色体に正しくマッピングされたため、IGF−1Rに対する参照プローブとして更に評価を行った。
【0051】
図7は、これらのプローブに対する標識として使用した蛍光色素のスペクトルを示している。ULS−550色素(クレアテック・ダイアグノスティクス社(Kreatech Diagnostics))をChr 15プローブに対して選択し、ULS DY415をIGF−1Rに対して使用した。
【0052】
各プローブ構成の最適濃度は、最良のシグナル/ノイズ測定値を与える最も明るいシグナルに基づいたものである。ハイブリダイゼーションミックスは、50%ホルムアミド、1×SSC、10%硫酸デキストラン、10%Kreaboost、及び異なる濃度のプローブからなる。CellTracksカートリッジ内に固定された白血球に一晩FISHを行い、24%ホルムアミド及び0.1×SSCを用いてストリンジェンシー洗浄を行った。シグナル及びバックグラウンド強度は、10個の細胞の蛍光画像を取得し、最も明るいピクセルの強度(シグナル)を細胞核内の複数のランダムなピクセルの平均強度(ノイズ)で割ることによって測定した。試験した濃度及びその濃度におけるシグナル/ノイズ比(SNR)を表Iに示した。最適濃度はIGF1R及びChr 15の両者について4ng/μLであった。
【表1】

【0053】
実施例3−ドナー試料からのプローブの構成の評価
反応に4ng/μLの各プローブの使用を含むアッセイの最適条件を得た後、プローブの構成を、3人の異なるドナーから得た全部で350個のSD45/CK細胞(白血球)で評価し、CellTracks−FISHシステムを使用して分析した。各標的のコピー数のスコアを求め、結果を以下の表に示した。FISHシグナルは、CellTracks−FISHシステムによって再位置決定した細胞の95%よりも多くの細胞においてスコアを判定することができた。
【0054】
表IIは3人のドナーからの結果を示す。予想されたIGF1Rの2個のコピーは、3人のドナーで調べた白血球の87%、81%、及び93%で認められた。IGF1Rについては、白血球の75%以上が白血球1個当たり2個のドットという予想された結果を示し、評価を行った白血球の85%よりも多くのものがスコア判定可能であることが予想された。3人のドナーで、調べた白血球の91%、97%、及び93%において予想どおりChr 15の2個のコピーが認められた。そのため、我々は、白血球の80%以上が予想された2個のドットを示し、評価を行った白血球の85%よりも多くのものがスコア判定可能でなければならないという品質管理仕様を設定した。データは、選択された他のプローブを用いて同様に得たデータと符合していた。
【表2】

【0055】
実施例4−染色体異常の検出
7つの細胞株を最適化されたIGF−1Rプローブによってアッセイすることによって、プローブが染色体異常を検出可能であることを実証した。図8に示されるように、各顕微鏡画像は、多数の細胞を観察した場合に見られるIGF−1Rシグナル(青)及びChr 15シグナル(赤)を通常のカウントとともに示している。調べたすべての細胞株が、IGF−1R及びChr 15プローブの双方の余分なコピーを有していた。コピー数の増加の多くは、両方のプローブについて同様の増加であり、遺伝子増幅ではなく異数性によるものであることを示すものである。この例外は、Chr 15プローブに対して1〜2個の余分なIGF−1Rのコピーが一貫して認められたMCF7細胞株であり、低レベルの遺伝子増幅を示すものである。試験した細胞株で高いレベルのIGF−1R遺伝子の増幅を示したものはなかった。
【0056】
実施例5−自動化CellTracks装置と標準的な蛍光顕微鏡との比較
CellTracks装置が自動分析において有用な画像を取得することが可能であることを実証するため、同じカートリッジからの細胞の画像をCellTracks−FISH装置及び標準的な蛍光顕微鏡の両方を用いて取得した。図9は、典型的なPC3−9細胞及びコントロールとしての白血球の画像を示す。図は、CellTracks装置からの画像が、顕微鏡からの画像と少なくとも同程度に良好であることを示している。顕微鏡で撮影したPC3−9細胞のChr15画像は、やや焦点がぼやけた2個のドットを示している(白い矢印)。これに対して、CellTracks装置は複数の焦点面内で画像を撮影し、すべてのドットの焦点が合った合成画像を形成するため、容易な解釈が可能である。典型的なPC3−9細胞では、4〜6個のChr 15のコピー及び3〜5個のIGF−1Rのコピーが認められた。
【0057】
CellTracks−FISHシステムは液体試料の自動IGF−1R分析に理想的なプラットフォームである。図10は、カートリッジ内における濃縮及び固定後の選択された細胞の典型的なスクリーンショット画像を示している。画像の上列はCTC走査による元の画像を示し、この細胞がCK/DAPI/CD45であり、したがって疑わしいCTCであることを示している。画像の下列はFISH装置によって取得したものであり、このCTCが異常な数のIGF−1R及びChr 15プローブを有していることを示している。FISHソフトウェアは結果のスコア判定を行い、診断解釈のための情報を与えるものである。これにより、患者試料からのCTCを血液から濃縮し、カートリッジ内に固定し、CellTracksシステムでFISH法を用いて分析することが可能であることが示された。
【0058】
幾つかの学術論文、米国特許及び米国特許出願を上記に引用した。上記の各引用文献の主題を、その全体が本明細書に記載されているものとまったく同様に本明細書に援用するものである。
【0059】
以上、本発明の特定の好ましい実施形態について述べ、具体的に例示したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものではない。本発明には本発明の趣旨を逸脱することなく様々な改変を行うことが可能であり、本発明の完全な範囲は以下の特許請求の範囲において定義されるものである。
【0060】
〔実施の態様〕
(1) 患者試料からの循環腫瘍細胞におけるIGF−1R遺伝子異常を評価するための方法であって、
a.循環腫瘍細胞を含むことが疑われる混合細胞集団を含む血液試料を患者から得ることと、
b.免疫磁気濃縮により、上皮細胞の亜集団を単離することと、
c.疑わしい循環腫瘍細胞を同定することと、
d.前記疑わしい循環腫瘍細胞を、染色体異常を検出可能なIGF−1R無反復配列プローブの構成とハイブリダイズさせることと、を含む、方法。
(2) 前記免疫磁気濃縮が、
a.他の集団を実質的に排除して、前記試料を、疑わしい循環腫瘍細胞と特異的に結合するリガンドに結合されたコロイド状免疫磁性粒子と混合することと、
b.前記試料−免疫磁性粒子の混合物を高勾配の磁場にさらすことによって、免疫磁性粒子が結合した腫瘍細胞が濃縮された分離された細胞画分を生成することと、を含む、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記表現型プロファイルが、多パラメーターフローサイトメトリー、免疫蛍光顕微鏡法、レーザー走査サイトメトリー、明視野ベースの画像分析法、毛管容量測定法、スペクトル画像分析法、手動細胞分析、自動細胞分析、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される方法によって求められる、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記表現型プロファイルが、自動免疫蛍光細胞分析法によって求められる、実施態様3に記載の方法。
(5) 前記プローブの構成が、前記IGF−1R遺伝子座の周囲のクローン配列と、クロスハイブリダイゼーションを生じないαサテライトプローブとからなる、実施態様1に記載の方法。
(6) 前記クローン配列が、細菌人工染色体クローンから選択される、実施態様4に記載の方法。
(7) 前記αサテライトプローブが、SE−17、SE−15、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、実施態様5に記載の方法。
(8) 前記αサテライトプローブが、15番染色体のq1領域に対する特異性を有する、実施態様5に記載の方法。
(9) 前記疑わしい標的細胞をハイブリダイズすることが、前記患者の診断、予後、又は治療情報を与える、実施態様1に記載の方法。
(10) 患者試料からの循環腫瘍細胞におけるIGF−1R遺伝子異常を判定するためのキットであって、
a.反復配列を除去した、前記IGF−1R遺伝子座の周囲のポリヌクレオチドプローブ配列と、
b.クロスハイブリダイゼーションを生じないαサテライトプローブと、
c.前記(a)及び(b)に結合された標識部分と、を含む、キット。
【0061】
(11) 二本鎖特異的ヌクレアーゼで消化することによって、前記ポリヌクレオチドプローブ配列から前記反復配列を除去する、実施態様10に記載のキット。
(12) 前記標識部分が、白金ベースの配位結合によって結合された蛍光色素分子である、実施態様10に記載のキット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者試料からの循環腫瘍細胞におけるIGF−1R遺伝子異常を評価するための方法であって、
a.循環腫瘍細胞を含むことが疑われる混合細胞集団を含む血液試料を患者から得ることと、
b.免疫磁気濃縮により、上皮細胞の亜集団を単離することと、
c.疑わしい循環腫瘍細胞を同定することと、
d.前記疑わしい循環腫瘍細胞を、染色体異常を検出可能なIGF−1R無反復配列プローブの構成とハイブリダイズさせることと、を含む、方法。
【請求項2】
前記免疫磁気濃縮が、
a.他の集団を実質的に排除して、前記試料を、疑わしい循環腫瘍細胞と特異的に結合するリガンドに結合されたコロイド状免疫磁性粒子と混合することと、
b.前記試料−免疫磁性粒子の混合物を高勾配の磁場にさらすことによって、免疫磁性粒子が結合した腫瘍細胞が濃縮された分離された細胞画分を生成することと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記表現型プロファイルが、多パラメーターフローサイトメトリー、免疫蛍光顕微鏡法、レーザー走査サイトメトリー、明視野ベースの画像分析法、毛管容量測定法、スペクトル画像分析法、手動細胞分析、自動細胞分析、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される方法によって求められる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記表現型プロファイルが、自動免疫蛍光細胞分析法によって求められる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記プローブの構成が、前記IGF−1R遺伝子座の周囲のクローン配列と、クロスハイブリダイゼーションを生じないαサテライトプローブとからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記クローン配列が、細菌人工染色体クローンから選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記αサテライトプローブが、SE−17、SE−15、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記αサテライトプローブが、15番染色体のq1領域に対する特異性を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記疑わしい標的細胞をハイブリダイズすることが、前記患者の診断、予後、又は治療情報を与える、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
患者試料からの循環腫瘍細胞におけるIGF−1R遺伝子異常を判定するためのキットであって、
a.反復配列を除去した、前記IGF−1R遺伝子座の周囲のポリヌクレオチドプローブ配列と、
b.クロスハイブリダイゼーションを生じないαサテライトプローブと、
c.前記(a)及び(b)に結合された標識部分と、を含む、キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−515109(P2011−515109A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−502015(P2011−502015)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【国際出願番号】PCT/US2009/038226
【国際公開番号】WO2009/120767
【国際公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(505060347)ベリデックス・エルエルシー (43)
【氏名又は名称原語表記】Veridex,LLC
【住所又は居所原語表記】33 Technology Drive,Warren,NJ 07059,U.S.A.
【Fターム(参考)】