説明

FK506の測定に有用な方法及び組成物

FK506の新規な誘導体が開示される。サンプル中のFK506レベルの測定に有用なこれらの新規な誘導体及び他の誘導体がまた、FK506に特異的な結合タンパク質の存在下で、血中、特に非抽出血中のFK506レベル又は他のマクロフィリン結合性物質レベルの測定に使用するアッセイ方法及びキットとして提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FK506に特異的な結合タンパク質の存在下で、血中、特に非抽出血中のFK506レベル又は他のマクロフィリン結合性物質レベルの測定に使用するアッセイ方法及びキットに関する。この方法は、FK506の誘導体を使用して、FK506に特異的な結合タンパク質からFK506を置換させる。本発明はまた、その特異的な結合タンパク質からFK506を置換させるのに有用な新規な化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
FK506(又はタクロリムス)は、免疫抑制活性を有する環状のポリ−N−メチル化ウンデカペプチドである。FK506は、ストレプトミセス・ツクバエンシス(Streptomyces tsukubaensis)No9993によって産生されるマクロライド免疫抑制剤である。FK506の構造は、次の式1に示される。
【化1】

【0003】
FK506の基本的構造及び免疫学的性質を保持する多数の関連化合物がまた公知である。これらの化合物は、多くの刊行物、例えば、EP 184162、EP 315973、EP 323042、EP 423714、EP 427680、EP 465426、EP 474126、WO 91/13889、WO 91/19495、EP 484936、EP 532088、WO 93/5059などに記載される。
【0004】
FK506化合物は、例えば移植拒絶の防止に使用される。しかしこれらのFK506化合物は、高用量で副作用を起こし、従ってこの化合物の血中濃度を、一定の治療範囲内に保たれなければならない。さらに、バイオアベイラビリティ及び代謝変換速度は患者によって異なる傾向があり、従って投薬量は患者に特異的である。FK506の効力及び毒性のスペクトルは、これらの化合物の血中濃度をモニターする高感度の再現可能な信頼性が高い方法を必要とする。従って、一定間隔でこれらの免疫抑制薬の血中濃度をモニターすることが必要である。ラパマイシン及びシクロスポリンは、移植拒絶反応の防止に使用される他の化合物である。これらの薬物は、単独又は組み合わせて使用され得る。
【0005】
血中に存在するFK506化合物の一部が、FK506−イムノフィリン複合体の形態で存在することが見出されている。イムノフィリンは、シクロスポリン、ラパマイシン又はFK506化合物に結合する細胞内結合タンパク質のファミリーである。イムノフィリンの2つの異なるファミリーが現在公知であり、これは、シクロスポリンに結合するシクロフィリン、並びにラパマイシン(シロリムス(sirolimus))及びその誘導体、例えばエベロリムス(everolimus)及びFK506化合物に結合するマクロフィリン(macrophilin)である。ある種のイムノフィリンの構造が、Walkinshawら、1992、Transplantation Proceedings、24、4(2)、8〜13に記載されている。FK506に結合するマクロフィリンは、FK506結合タンパク質と呼ばれる。今までのところ、FKBP−12、FKBP−12.6、FKBP−13、FKBP−25及びFKBP−52の5つメンバーが報告されている。
【0006】
シクロスポリン、ラパマイシン及びFK506化合物は薬剤として重要なので、それらの血中濃度を測定するための簡便で高感度なアッセイに対する必要性が存在する。
【0007】
FK506に関して、特異的なモノクローナル抗体が開発されており、そしてこの抗体に基づくアッセイ方法が提供されている(WO 95/07468、US 5,532,137)。しかし、利用可能なこれらのアッセイ方法は、最初に血液又は血漿サンプルを溶媒(例えばメタノール)で抽出し、次いで蒸発又は希釈によってこの溶媒を除去してFK506をその結合タンパク質から解放することを必要とする。次いでこの抗体が、サンプルすなわちFK506に添加され、Ab複合体が検出される。特異的なモノクローナル抗体に基づくこのアッセイ方法はよく機能するが、抽出工程及び引き続く溶媒の除去を必要とするために、注意が払われなければ、このアッセイは感度が低くそして正確ではないものになり得る。従ってこのアッセイは、熟練した専門家によって行われなればならず、そして時間のかかる方法である。
【0008】
過剰な濃度のラパマイシンが、FK506をFKBPから置換させることによってFK506の効果を妨げることがインビトロで行われる研究から公知である。Fruman,Davidら、Calcineurin phosphatase activity in T lymphocytes is inhibited by FK 506 and cyclosporin A,PNAS(1992) 89(9)、3683〜90。さらにEP 717850は、結合競合物、すなわちラパマイシンを用いて、FK506をその結合タンパク質から置換させるFK506のアッセイ方法を開示する。従って、抽出工程は必要ではない。しかし、ラパマイシン、FK506及びシクロスポリンは、単独又は組み合わせて使用され得るので、サンプル中の結合競合物の量が制御され得るように、この結合競合物は、免疫抑制薬のうちの1つとは異なる化合物であることが好ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、FK506の誘導体に関する。これらの誘導体は、FK506又はラパマイシンをそのイムノフィリン複合体から置換させる結合競合物として作用し得る。本発明の誘導体はまた、本明細書中で結合競合物と称される。
【0010】
さらに本発明は、血液又は他の流体のサンプル中のFK506濃度又はラパマイシン濃度を決定するアッセイ方法を提供し、この方法は、免疫抑制剤−イムノフィリン複合体からFK506又はラパマイシンを置換させる結合競合物をサンプルに添加し、この薬剤には結合するが、結合競合物にはわずかしか結合しないレセプターを添加し、このレセプター−薬剤複合体をサンプルから分離し、そしてこの薬剤量を決定する工程を含む。
【0011】
本発明の別の局面は、FK506又はラパマイシンをイムノフィリン複合体から置換させるのに有用な試薬及びキットに関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のFK506誘導体は、タクロリムスを誘導体化することによって調製される。この誘導体は、タクロリムスのC−32位及び/又はC−24位のOH基において、エーテル(FK−OR)、エステル
【化2】

又はカルバメート結合
【化3】

が形成され、これらの位置のどちらか又は両方でFK−506の誘導体を与えるものである。一局面において、C−32及びC−24の両方が誘導体化され、そして別の局面において、この誘導体は、ジ−カルバメート誘導体である。従って本発明の物質は、例えば式2に例示される誘導体であり得る。C−32位のR及びC−24位のR’は、C1〜C25の直鎖状若しくは分枝鎖状のいずれかのアルキル基若しくはアリル基、又は置換されるか若しくは置換されない芳香族基から独立して選択され得る。さらに、アルキル基、アリル基又は芳香族基は、他の官能基、例えばエステル基、エーテル基、アミド基、アシル基、アミン基、ヒドロキシル基、スルホネート基、ホスフェート基、サルフェート基、ホスホネート基などを含み得る。Rは、Hではないかもしれない。R’は、Hであり得る。これらの誘導体の多くは、当該分野で公知である。例えば、U.S.5,665,727を参照のこと。
【0013】
【化4】

【0014】
【化5】

【0015】
本発明の他の局面は、上記の式3に示される。これらのカルバメート誘導体は、C−24位及びC−32位の両方で誘導体化される。R及びR’は、アルキル、アリル、アシル、アリールから独立して選択され得、さらにアルキル基、アリル基又は芳香族基は、他の官能基、例えばエステル基、エーテル基、アミド基、アシル基、スルホネート基、ホスフェート基、サルフェート基、ホスホネート基などを含み得る。Rは、Hであり得る。R’は、Hであり得る。
【0016】
【化6】

【0017】
特定のカルバメート誘導体は、上記の式4に示される。このカルバメート誘導体は、C−24位及びC−32位の両方で誘導体化される。この例において、R及びR’は同一である。
【0018】
本発明のFK−506誘導体は、当該分野で公知の方法によって調製され得、そしてFK−506又はラパマイシンの結合競合物としてイムノアッセイに有用である。
【0019】
本発明の方法において、FK−506又はラパマイシンの結合競合物がサンプルに添加されて、ありうるFK506又はラパマイシンをその複合体から解放する。この結合競合物は、式2、式3及び式4に示されるFK−506誘導体すなわちアナログである。本発明の方法は、この薬剤には結合するが、結合競合物にはわずかしか結合しないレセプターを使用する。FK506(又は測定される薬剤がラパマイシンの場合にはラパマイシン)を認識し、そしてこれに結合するレセプターは、慣用のアッセイに使用される任意の特異的な結合化合物、例えばポリクローナル、モノクローナル、組換えの抗体又は抗体フラグメントであり得る。モノクローナル抗体が好ましい。
【0020】
一旦FK506が複合体から解放されると、レセプターに結合するFK506量が、任意のアッセイ方法、好ましくはモノクローナル抗体に基づくアッセイ、例えば薬剤が結合に際して抗体すなわちレセプターと競合する能力を測定する競合アッセイ、又は非競合アッセイを用いて決定され得、ラパマイシンに対するアッセイも同様である。競合アッセイは、試験サンプルの存在下及び非存在下で、例えば標識されたFK506(トレーサー)を抗体に対する競合物として好ましくは使用する。このトレーサーは、当該分野で慣用の適切なシグナル、例えば放射性シグナル、蛍光シグナル、発光シグナル又は比色シグナルを提供し得る標識で標識され得る。別法として、例えば固相酵素免疫検定法(ELISA)又は薬剤に対する抗体がそれ自身標識される系において、レセプターに対する競合物は、試験チャンバーの表面上にコーティングされた非標識の薬剤(場合により、抗体を惹起するために使用される薬剤−タンパク質免疫原性接合体)であり得る。この抗体すなわちレセプターは、使用されるアッセイ系如何によるが、試験溶液中で遊離であり得るか、又は試験チャンバー壁上にコーティングされ得る。競合アッセイにおいて、シグナル(例えば、抗体すなわちレセプターに結合したトレーサーの量)は、試験サンプル中の薬剤量に逆比例する。既知濃度のFK506を含む標準溶液を、従来通りにアッセイを標準化するために使用し得、目的の薬剤がラパマイシンの場合も同様である。
【0021】
FK506には結合するが、結合競合物にはわずかしか結合しないレセプターは、FK506と結合競合物との間のレセプター交差反応性の程度が、アッセイの感受性又はアッセイ結果の臨床的意義に有意に影響を及ぼすのに十分ではないことを意味する。結合競合物とFK506との間(及び/又は競合アッセイにおいては結合競合物とトレーサーとの間)の当然許容され得る交差反応性の正確な量は、FK506と比較してイムノフィリンとの結合競合物の相対的親和性に基づいてある程度変化すること、すなわち、親和性が高い程、FK506を置換させるのに必要な濃度は低くなり、そしてより高いレセプターの交差反応性は、従ってアッセイの精度に影響を及ぼすことなく許容され得る。実際には交差反応性の影響は、異なる量の結合競合物を用いて標準曲線を比較することによって最良に判定されること、すなわち一旦、結合競合物の濃度がFK506を置換させるのに最低限の濃度に達すると、結合競合物の濃度がアッセイでの使用に意図された最も高いレベルまで上昇しても、この標準曲線はわずかしか変化しないはずであり、それによって、抗体との存在しうる交差反応性は、このアッセイの状況ではわずかであることを示すものである(このアッセイは、FK506に加えて結合競合物を測定するので、もしも抗体との交差反応性が存在した場合、結合競合物の高濃度の存在は、薬物レベルの観察された測定値をつり上げる傾向にある)。結合競合物の存在下での標準曲線と非存在下での標準曲線間の存在しうる変化の有意性は、標準的な統計学的方法、例えばt−検定を用いて評価され得る。しかし指針として、結合競合物は、FK506よりもはるかに高い濃度で試験サンプル中に通常存在するので、薬剤と結合競合物との間のレセプターの交差反応性は、競合アッセイにおいて緩衝液中で測定される場合に例えば1%未満、好ましくは0.1%未満であるはずである。
【0022】
本発明において、この結合競合物は、FK506結合タンパク質、特にFKBP12に結合するFK506の適切な誘導体である化合物である。FK506化合物又はラパマイシン化合物を置換し得るC−32位及び/又はC−24位で誘導体化された任意の適切なFK−506化合物が使用され得、好ましくは式2で示される化合物が使用され得る。例示的な競合物は、式3及び式4に示される。この結合競合物はまた、水をベースとする溶液中でのその溶解度に基づいて選択される。好ましいR及びR’の基又は官能基は、この結合競合物に親水性又は水溶性を与える。このような官能基または機能性基は、1〜50又はそれ以上の原子を有する置換基であり得、そしてホスフェート、スルホネート、サルフェート、アミジン、ホスホネート、カルボキシレート、ヒドロキシル(特にポリオール)、アミン、エーテル、アミドなどを有する基を含み得る。
【0023】
置換試薬を調製するために、本発明のFK−506誘導体を、有機溶媒、例えばメタノールなどに溶解し、そして薬物としてアッセイの置換試薬に配合する。例えば、貯蔵溶液を調製するために、R−24位及び/又はR−32位で誘導体化されたFK−506エステルをメタノールに溶解し、そしてさらにほぼ中性のpHの緩衝液で希釈する。この緩衝液は、キャリヤータンパク質、例えばウシ血清アルブミン、ゼラチン、γグロブリンなど、塩類、防腐剤又は界面活性剤を含み得る。代表的な貯蔵溶液は、FK−506エステルを0.2mM〜2mM有し得る。代表的には、この試薬を作製するために、この貯蔵溶液を貯蔵溶液の緩衝液に類似の緩衝液又は水でマイクロモル範囲、例えば1〜100μMに希釈する。アッセイに使用されるFK−506誘導体対サンプルFK−506の代表的な有効比率は、約200:1であるが、この有効比率は、10〜10,000:1の範囲であり得る。
【0024】
このアッセイにおいて、置換試薬の一部(例えば、1〜200μL)を、FK−506を含む液体サンプルの一部(例えば、1〜200μL)と一緒にする。この溶液、代表的には患者サンプルとしての全血をインキュベートして、FK−506を結合タンパク質から解放する。代表的にはそして使用者の便宜のために、このインキュベーション時間は、約0.5〜5分である。一旦FK−506が結合タンパク質から解放されると、検出に使用される結合パートナー、例えば抗体が接近可能である。
【0025】
好適なFK506化合物の抗体が検出に使用され得、ある特異的な抗体は、EP−A 0 293 892に記載される。競合アッセイが使用されるとき、抗体に対する競合物は、固相、例えばビーズ、紙、試験管、アッセイプレートなどに結合したFK506化合物であり得る。標識されたFK506の誘導体は、酵素標識された誘導体、例えばβガラクトシダーゼ若しくはアルカリホスファターゼで標識されたFK506、又は他で標識された誘導体であり得る。
【0026】
本発明のアッセイ方法は、標準的な生物学的分析装置を用いて迅速かつ簡便に実施して、正確かつ再現可能な結果を与え得る利点を有する。また全血は、抽出を必要とせずに使用され得る。
【0027】
本発明はまた、血中のFK506量を検出するのに好適なアッセイキットを提供し、このキットは、血中のFK506をFK506複合体から置換させるマクロフィリン結合性競合物、及び薬剤には結合するが、このマクロフィリン結合性競合物にはわずかしか結合しない抗体を含む。好ましくは、この抗体は、FK506に特異的なモノクローナル抗体である。
【0028】
同じマクロフィリン結合性競合物が類似の様式で使用されて、ラパマイシンをマクロフィリンから解放し得る。
【0029】
このキットは、適切に標識されたトレーサー、標準物質及び使用説明書をさらに含み得る。トレーサーに対する標識は、任意の好適な標識、例えば放射性標識、蛍光標識、化学発光標識、酵素標識又は比色標識であり得る。簡便のために、このキットの構成成分は、凍結乾燥形態にあり得る。
【実施例】
【0030】
本発明の実施例が、例示の手段としてここで記載されるが、本発明を限定するものではない。変更がアッセイ毎に一貫する限りは、試薬の正確な濃度の変更及び反応条件の変更が許容され得ることを当業者なら認識している。FK506をFK506複合体から解放するための本発明の結合競合物を用いた他のアッセイ系が、本発明の範囲内とみなされる。一旦FK506が複合体から解放されると、任意の従来様式で当然測定され得る。
【0031】
実施例1
FK−506カルバメート誘導体の調製
【化7】

FK−506 50mgを、塩化メチレン約0.5mLに溶解した。イソシアノ酢酸エチル約44μL及びトリブチルスズエトキシド42μLを、FK−506溶液に添加し、そして室温で一晩撹拌した。この反応混合物を、塩化メチレン約10mlを用いて分液漏斗に移し、そして脱イオン水約15mlで3回洗浄した。この有機相を、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、そして溶媒を回転蒸発によって除去し、次いで高真空下で乾燥させた。この反応で形成されたFK−506エステルを、カラムクロマトグラフィーを用いてさらに精製した。溶媒を、回転蒸発によって除去した。
【0032】
実施例2
FK−506エステル誘導体の調製
【化8】

FK−506 50mgを、塩化メチレン500μL中のピリジン50μL溶液に溶解した。無水酢酸約12μLをFK−506溶液に添加し、そして室温で2時間撹拌した。この反応混合物を、塩化メチレン約10mLを用いて分液漏斗に移し、そしてNaHCO3(aq)約15mLで3回洗浄した。この有機相を、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、そして溶媒を回転蒸発によって除去し、次いで高真空下で乾燥させた。FK−506残留物を、カラムクロマトグラフィーを用いてさらに単離した。
【0033】
実施例3
FK−506カルバメート前処理溶液の調製
FK−506エステル0.45mg/mLを含む貯蔵溶液を、2つの工程により調製した。1)FK−506カルバメート4mgをメタノール2mLに溶解した。次いで溶解したFK−506カルバメートを、プロテアーゼを含まないウシ血清アルブミン30mg/mL、MgCl2 0.126mg/mL、エチレングリコール0.03mL/mL、PIPES 1.5ナトリウム塩35.14mg/mL、NaCl 50mg/mL及びβ−gal突然変異タンパク質(不活性化βガラクトシダーゼ)、pH6.5を含む緩衝液で1:4.5に希釈して、貯蔵溶液を作製した。次いでこの貯蔵溶液を、FKカルバメート2.7μg/mLを含むように脱イオン水で希釈して、実際に使用できる前処理溶液を作製した。
【0034】
抗FK−506抗体−βガラクトシダーゼ接合体の調製
モノクローナル抗FK−506抗体を、標準的なSMCC(スクシンイミジルトランス−4−(N−マレイミジルメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート)リンカーを用いて、βガラクトシダーゼに接合した。この実際に使用できる抗体接合体溶液は、抗FK−506抗体−βガラクトシダーゼ接合体約7.5μg/mL、プロテアーゼを含まないウシ血清アルブミン30mg/mL、MgCl2 0.126mg/mL、エチレングリコール0.03mL/mL、PIPES 1.5ナトリウム塩35.14mg/mL、NaCl 50mg/mL及びβ−gal突然変異タンパク質(不活性化βガラクトシダーゼ)、pH6.5を含んだ。
【0035】
磁性クロム粒子の調製
FK−506クロム粒子(イムノアッセイの固相)を、FK506−BGG(ウシガンマグロブリン)−デキストラン接合体を作製し、クロム粒子を含むスラリーを調製し、次いでコーティングされた粒子を錠剤化することによって製造した。各々のFK−506錠剤は、FK−506クロムスラリー約2mg、30%ウシ血清アルブミン(BSA)10.5mg、トレハロース二水化物30.4mg及びカーボワックス100μm 3.6mgを含む。
【0036】
ラパマイシン前処理溶液の調製
前処理試薬として役立つラパマイシンをまた調製して、FK−506カルバメートと比較した。最終的に実際に使用できる溶液は、ラパマイシン2.7μg/mLをFK−506カルバメートの代わりに用いた以外はFK−506カルバメートの実際に使用できる溶液と同じ成分及び濃度を有した。
【0037】
実施例4
FK506アッセイ
FK506の測定は、ACMIAとして公知であり、そして以前の特許(US 5147529、US 5128103、US5158871、US4661408、US 5151348、US 5302532、US 5422284、US 5447870、US 5434051)に記載されたアッセイフォーマットを使用した。FK506方法の原理及び操作は次の通りであった。本発明に記載されたFK506カルバメートを含む前処理試薬を、Dimension(登録商標)化学RxL/HM機器の反応容器に添加した。次に、FK506を含む全血35μLを添加した。この全血を超音波サンプルプローブと最初に混合することによって、この全血を標準カップから採取した。このFK506カルバメート前処理溶液との全血サンプルの混合により、全血を確実に溶解し、そしてFK506カルバメート分子によって、FK506分子に結合したタンパク質をその結合部位から確実に置換させた。従って解放されたFK506分子は、この反応混合物中で抗FK506抗体に接近可能であった。次に、抗FK506抗体−βガラクトシダーゼ接合体(80μL)を添加し、そしてサンプル中でFK506と反応させた。固定されたFK506−BGG(ウシγグロブリン)−デキストランを含むクロム粒子(75μL)を添加し、そして未反応の接合体を結合させた。このFK506に結合した抗FK506抗体−βガラクトシダーゼ接合体はクロムに結合せず上清に残留し、上記の反応混合物に磁場を印加して溶液とクロム粒子とを分離した。このFK506に結合した接合体を、上清を反応容器から測光用キュベットに移し、そしてクロロフェノールレッド−β−D−ガラクトピラノシド(CPRG)の存在下でこの接合体の酵素的速度(enzymatic rate)を測定することによって検出した。この速度を、577nm及び700nmの二色で(bichromatically)測定した。この方法の図解を、以下の図に与える。FK506カルバメートで前処理をした場合としなかった場合を比較して図1のように代表的な校正曲線で示される。
【0038】
実施例5
異なる前処理措置の比較
FK506 0、5、10、20及び30ng/mLを含むFK506標準液を測定するために、FK506カルバメート、ラパマイシン又は前処理希釈液を用いて、DIMENSION(登録商標)アッセイ用の前処理溶液を作製した。別のセットのFK506標準液をまた、Syva EMIT(登録商標)前処理溶液で処理した。(サンプル200μLをメタノール200μLで抽出し、次いで混合物中のタンパク質を、硫酸銅溶液50μLで沈殿させた。遠心分離した上清をサンプルとして用いた。)Syva EMIT(登録商標)試薬で処理されなかった標準液を、FK506カルバメート、ラパマイシン又は単に前処理希釈液で各々前処理し、そしてACMIAアッセイを用いてDIMENSION(登録商標)臨床化学分析機器で分析した。Syva EMIT(登録商標)試薬で前処理された標準液を、前処理溶液として前処理希釈液のみを含む試薬カートリッジを用いてDIMENSION(登録商標)機器でACMIAアッセイによって試験した。以下の表は、これらの前処理アプローチを試験することによって得られた結果を示す。
【0039】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】FK506カルバメートで前処理した場合又はしなかった場合のDIMENSION(登録商標)アッセイの代表的な校正曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
【化1】

(式中、Rは、アルキル、アリール、アリルで、各々25個未満の炭素を有し、そして、R’は、アルキル、アリール、アリルで、各々25個未満の炭素を有するか又はHである)
を有する化合物又はその溶媒和物。
【請求項2】
R又はR’が、エステル官能基、エーテル官能基、アミド官能基、ホスフェート官能基、スルホネート官能基、サルフェート官能基、アミジン官能基、ホスホネート官能基又はカルボキシレート官能基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基をさらに包含する、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式:
【化2】

(式中、Rは、アルキル、アリール、アリルで、各々25個未満の炭素を有し、そしてR’は、アルキル、アリール、アリルで、各々25個未満の炭素を有するか又はHである)を有する化合物又はその溶媒和物。
【請求項4】
R又はR’が、エステル官能基、エーテル官能基、アミド官能基、ホスフェート官能基、スルホネート官能基、サルフェート官能基、アミジン官能基、ホスホネート官能基、アミン官能基、ヒドロキシル官能基又はカルボキシレート官能基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基をさらに包含する、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
R又はR’がエチルである、請求項3に記載の化合物。
【請求項6】
下記式:
【化3】

(式中、Rは、アルキル、アリール、アリル、カルボニル、カルボキシレート、アミド、エステル、ホスホネート、ホスフェート、スルホネート、サルフェート、アミジン、カルバメートであり、そしてR’は、アルキル、アリール、アリル、カルボニル、カルボキシレート、アミド、エステル、ホスホネート、ホスフェート、スルホネート、サルフェート、アミジン、カルバメート又はHである)
の有効量を包含するアッセイ試薬。
【請求項7】
請求項1に記載の式の結合競合物をサンプルに添加し、この薬学的組成物には結合するが、結合競合物にはわずかしか結合しないレセプターを添加し、このレセプター−薬学的組成物を検出し、そしてこの薬学的組成物の量を測定することを包含する、サンプル中のマクロフィリン結合性薬学的組成物の存在を測定する方法。
【請求項8】
薬学的組成物が、ラパマイシン(シロリムス)、エベロリムス又はタクロリムス(FK506)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項3に記載の式の結合競合物をサンプルに添加し、この薬学的組成物には結合するが、結合競合物にはわずかしか結合しないレセプターを添加し、このレセプター−薬学的組成物を検出し、そしてこの薬学的組成物の量を測定することを包含する、サンプル中のマクロフィリン結合性薬学的組成物の存在を測定する方法。
【請求項10】
薬学的組成物が、ラパマイシン(シロリムス)、エベロリムス又はタクロリムス(FK506)である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
R又はR’がエチルである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項6に記載の式の結合競合物をサンプルに添加し、この薬学的組成物には結合するが、結合競合物にはわずかしか結合しないレセプターを添加し、このレセプター−薬学的組成物を検出し、そしてこの薬学的組成物の量を測定することを包含する、サンプル中のマクロフィリン結合性薬学的組成物の存在を測定する方法。
【請求項13】
薬学的組成物が、ラパマイシン(シロリムス)、エベロリムス又はタクロリムス(FK506)である、請求項12に記載の方法。

【公表番号】特表2007−512340(P2007−512340A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541358(P2006−541358)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【国際出願番号】PCT/US2004/038640
【国際公開番号】WO2005/052542
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(500029718)デイド・ベーリング・インコーポレイテッド (20)
【氏名又は名称原語表記】DADE BEHRING INC.
【Fターム(参考)】