説明

FKI−1366物質およびその製造法

ボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)に属し、FKI−1366物質Aおよび/またはFKI−1366物質Bおよび/またはFKI−1366物質Cを生産する能力を有する微生物(Beauveria sp.FKI−1366、FERM BP−08459)を培地で培養し、培養液中にFKI−1366物質Aおよび/またはFKI−1366物質Bおよび/またはFKI−1366物質Cを蓄積せしめ、該培養物からFKI−1366物質Aおよび/またはFKI−1366物質Bおよび/またはFKI−1366物質Cを採取する。得られたFKI−1366物質A、FKI−1366物質BおよびFKI−1366物質Cまたはそれらの組成物はアゾール系抗真菌剤の活性増強作用を有することから、深在性真菌症をはじめとする多くの真菌感染症に対して、低濃度、短期間で作用し、耐性菌出現頻度の低減、耐性克服に有用であり、医薬品として期待される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、アゾール系抗真菌剤の活性増強作用を有する新規FKI−1366物質およびその製造法に関する。本発明において、FKI−1366物質とはFKI−1366物質A、FKI−1366物質BおよびFKI−1366物質Cを総称したものである。
【背景技術】
真菌感染症の治療に用いられるアゾール系化合物としては、1−[2−(2,4−dichlorobenzyloxy)−2−(2,4−dichlorophenyl)ethyl]imidazole(一般名:ミコナゾール、シグマ社製、米国)、2,4−difluoro−α,α−bis(1H−1,2,4−triazol−1−ylmethyl)benzyl alcohol(一般名:フルコナゾール、アイシーエヌファーマスーティカルズ社製、米国)、および(±)−1−sec−butyl−4−[p−[4−[p−[[(2R,4S)−2−(2,4−dichlorophenyl)−2−(1H−1,2,4−triazol−1−ylmethyl)−1,3−dioxolan−4−yl]methoxy]phenyl]−1−piperazinyl]phenyl]−Δ−1,2,4−triazolin−5−one(一般名:イトラコナゾール、協和発酵社製、日本)等が知られている。
これらの化合物は、真菌感染症の疾患に用いられているポリエン系の(1R,3S,5R,6R,9R、11R,15S,16R,17R,18S,19E,21E,23E,25E,27E,29E,31E,33R,35S,36S,37S−33−(3−amino−3,6−dideoxy−b−D−mannopyranosyloxy)−1,3,5,6,9,11,17,37−octahydroxy−15,16,18−trimethyl−13−oxo−14,39−dioxabicyclo[33.3.1]nonatriaconta−19,21,23,25,27,29,31−heptaene−36−carboxylic acid(一般名:アムホテリシン B、シグマ社製、米国)等と比較して安全性が高く、最も高頻度に使用されている薬剤である(Anaissie E.J.ら、クリニカル インフェクシアス ディジーズ、23巻、964−972、1996年)。
しかしながら最近、これらアゾール系抗真菌剤の長期間または反復投与による耐性菌の出現が問題となっており、安全性が高く、耐性菌の出現頻度の低い薬剤の開発が社会的急務とされている。
また、これまでの抗真菌剤の薬剤開発は、真菌に対し直接、殺菌または静菌的に作用する薬剤の開発が主流であり、既存の抗真菌剤の活性を増強させるという観点からの医薬品の創製は行われていない。
【発明の開示】
HIV感染や血液疾患など、免疫力の低下を伴う疾患では易感染状態が惹起され、日和見感染症として真菌感染症の発生頻度が増加する。またこれら免疫力低下を伴う疾患の多くは重篤で治療期間も長期にわたる。このため、真菌感染症の化学療法も長期間におよぶ場合が多く、現在最も高頻度に使用されているアゾール系抗真菌剤は薬剤耐性の誘導が極めて起こりやすい状態と考えられる。
アゾール系抗真菌剤に対する耐性機構としては、Candida albicansにおいて標的酵素であるP−450 14−α−デメチラーゼの過剰発現やアミノ酸変異による薬剤との親和性の低下(Vanden Bossche H.ら、アンチミクロビアル・エイジェント アンド ケモセラピー、36巻、2602−2610頁、1992年;Sanglard D.ら、アンチミクロビアル・エイジェント アンド ケモセラピー、42巻、241−253頁、1998年)、MSF(Major Faciliator Superfamily)やABC(ATP Binding Cassette)などの多剤排出トランスポータによる細胞内薬剤濃度の低下(Fling M.E.ら、Mol Gen Genet、227巻、318−329頁、1991年;Sanglard D.ら、ミクロビオロジー、143巻、405−416、1997年)が、Saccharomyces cerevisiaeでは、MDR(Multiple Drug Resistant)遺伝子であるPDR16、PDR17により脂質代謝を変化させ、アゾール系化合物に対する耐性を獲得していることなどが報告されている(H.Bart van den Hazelら、ジャーナル・オブ・バイオロジカルケミストリー、274巻、1934−1941、1999年)。
これらのことから、アゾール系抗真菌剤の活性を上昇させる薬剤は、抗真菌剤の投与量を減量させ、投与期間を短縮させることにより耐性菌出現の頻度を低減させることが期待される。また同時に、骨格と作用の異なる薬剤を併用することにより、アゾール系抗真菌剤に対する耐性株に対しても有効となることが期待される。かかる実情において、アゾール系抗真菌剤の活性増強作用を有する薬剤を提供することは、深在性真菌症をはじめとする多くの真菌感染症やアゾール耐性真菌感染症の治療上有用であると考えられる。
本発明の目的は、現在実用化されている抗真菌剤の活性増強作用を有し、深在性真菌症をはじめとする多くの真菌症に対して、低濃度、短期間で作用し、耐性菌出現頻度の低減化を可能にした抗真菌活性増強作用を有するFKI−1366物質A、FKI−1366物質BおよびFKI−1366物質Cで総称されるFKI−1366物質およびその製造法を提供するものである。
上記の目的を実現するために、本発明者らは、微生物の産生する代謝産物について種々研究を続けた結果、新たに土壌から分離したFKI−1366菌株の培養液中に、アゾール系抗真菌剤の活性増強作用を有する物質が生産されることを見い出した。次いで、該培養物から活性物質を分離、精製した結果、後記の式[I]、[II]および[III]で表される化学構造を有する物質をそれぞれ見い出した。これらの式[I]、[II]および[III]で表される物質は従来まったく知られていないことから、本物質をそれぞれFKI−1366物質A、FKI−1366物質BまたはFKI−1366物質Cと称することにした。
本発明は、かかる知見にもとづいて完成されたものであって、下記式[I]

で表されるFKI−1366物質Aを提供するものである。
本発明は、更に下記式[II]

で表されるFKI−1366物質Bを提供するものである。
本発明は、更にまた下記式[III]

で表されるFKI−1366物質Cを提供するものである。
本発明は更にまた、ボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)に属し、FKI−1366物質Aを生産する能力を有する微生物を培地で培養し、培養液中にFKI−1366物質Aを蓄積せしめ、該培養物からFKI−1366物質Aを採取することを特徴とするFKI−1366物質Aの製造法を提供するものである。
本発明は更にまた、ボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)に属し、FKI−1366物質Bを生産する能力を有する微生物を培地で培養し、培養液中にFKI−1366物質Bを蓄積せしめ、該培養物からFKI−1366物質Bを採取することを特徴とするFKI−1366物質Bの製造法を提供するものである。
本発明は更にまた、ボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)に属し、FKI−1366物質Cを生産する能力を有する微生物を培地で培養し、培養液中にFKI−1366物質Cを蓄積せしめ、該培養物からFKI−1366物質Cを採取することを特徴とするFKI−1366物質Cの製造法を提供するものである。
本発明は更にまた、ボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)に属し、FKI−1366物質Aおよび/またはFKI−1366物質Bおよび/またはFKI−1366物質Cを生産する能力を有する微生物を培地で培養し、培養液中にFKI−1366物質Aおよび/またはFKI−1366物質Bおよび/またはFKI−1366物質Cを蓄積せしめ、該培養物からFKI−1366物質Aおよび/またはFKI−1366物質Bおよび/またはFKI−1366物質Cを採取することを特徴とするFKI−1366粗製物およびそれの製造法を提供するものである。
本発明は更にまた、ボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)に属し、FKI−1366物質Aおよび/またはFKI−1366物質Bおよび/またはFKI−1366物質Cを生産する能力を有する微生物がボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)FKI−1366(FERM BP−08459)であるFKI−1366粗製物の製造法を提供するものである。
本発明は更にまた、ボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)に属し、FKI−1366物質A、FKI−1366物質BまたはFKI−1366物質Cを生産する能力を有する微生物を提供するものであり、更に、該微生物はボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)FKI−1366(FERM BP−08459)、およびその変異株を提供するものである。
前記の式[I]、[II]または[III]で表されるFKI−1366物質A、FKI−1366物質BまたはFKI−1366物質Cを生産する能力を有する微生物(以下「FKI−1366物質生産菌」と称する)は、ボーベリア属に属するが、本発明の物質生産能を有するものであればよく、特に制限されることはない。本発明のFKI−1366物質を生産するために使用される菌株の好ましい一例としては、例えば本発明者らによって土壌より新たに分離されたボーベリア エスピー(Beauveria sp.)FKI−1366菌株が挙げられる。本菌株の菌学的性状を示すと以下の通りである。
(1)形態的特徴
本菌株は、バレイショ・ブドウ糖寒天培地、麦芽汁寒天培地、コーンミール寒天培地、三浦寒天培地などで良好に生育し、各種寒天培地で分生子の着生は良好であった。
三浦寒天培地に生育したコロニーを顕微鏡で観察すると、菌糸は無色で隔壁を有しており、分生子形成器官は気菌糸より直立あるいは短い枝(2.8〜4.3×1.8〜2.8μm)から生じ、単独もしくはクラスターを形成する。分生子形成器官の基部は亜球形あるいはフラスコ状に膨らんで、大きさは3.3〜5.6×2.0〜3.3μmとなる。先端は細く伸長し、分生子形成に伴いジグザグ状になり、長さ5〜12μmとなる。分生子は分生子形成器官の小突起上に出芽形成され、球形から亜球形で、無色で大きさ1.8〜3.0×1.8〜2.6μmである。また、気菌糸には棍棒状あるいは不規則に分岐した厚膜胞子が観察される。
(2)各種培地上での培養性状
本菌株を各種寒天培地上で25℃、14日間培養した場合の肉眼的観察結果は下記の通りである。


(3)生理的性状
1)最適生育条件
本菌株の最適生育条件は、pH3.4〜7.9、温度13.2〜30.5℃である。
2)生育の範囲
本菌株の生育範囲は、pH2.4〜9.8、温度7.4〜32.4℃である。
3)好気性、嫌気性の区別
好気性
上記FKI−1366株の形態的特徴、培養性状および生理的性状に基づき、既知菌種との比較を試みた結果、本菌株はボーベリア(Beauveria)属に属する一菌株と同定し、ボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)FKI−1366と命名した。なお、本菌株は、ボーベリア・エスピー FKI−1866(Beauveria sp.FKI−1366)として、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)[AIST Tsukuba Central 6,1−1,Higashi 1−Chome Tsukubashi,Ibaraki−ken,305−8566 Japan]に所在の独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター[International Patent Organism Depositary National Institute of Advanced Industrial Science and Technology]に寄託されている。寄託日は平成15年(2003)8月27日、受託番号はFERM BP−08459である。
本発明で使用されるFKI−1366物質A、FKI−1366物質B、およびFKI−1366物質Cの生産菌としては、前述のボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)FKI−1366菌株があげられるが、菌の一般的性状として菌学上の性状は極めて変異しやすく、一定したものではなく、自然的にあるいは通常行われる紫外線照射、X線照射または変異誘導体剤、例えばN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、2−アミノプリンなどを用いる人工的変異手段により変異することは周知の事実である。それ故、このような人工的変異株は勿論、細胞融合株、遺伝子操作株を含め、ボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)に属し、前記式[I]で表されるFKI−1366物質A、式[II]で表されるFKI−1366物質B、または式[III]で表されるFKI−1366物質Cを生産する菌株は、すべて本発明に使用することができる。
本発明のFKI−1366物質A、FKI−1366物質BまたはFKI−1366物質Cを製造するに当たっては、先ずボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)に属するFKI−1366物質A、FKI−1366物質BまたはFKI−1366物質C生産菌を適当な培地に培養することにより行われる。上記FKI−1366物質A、FKI−1366物質BまたはFKI−1366物質C生産に適した栄養源としては、微生物が同化し得る炭素源、消化し得る窒素源、さらに必要に応じて無機塩、ビタミン等を含有させた栄養培地が用いられる。
上記の同化し得る炭素源としては、グルコース、フルクトース、マルトース、ラクトース、ガラクトース、デキストリン、澱粉等の糖類、大豆油等の植物性油脂類が単独または組み合わせて用いられる。
消化し得る窒素源としては、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆粉、綿実油、コーン・スティープ・リカー、麦芽エキス、カゼイン、アミノ酸、尿素、アンモニウム塩類、硝酸塩類等が単独または組み合わせて用いられる。その他必要に応じてリン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などの塩類、鉄塩、マンガン塩、銅塩、コバルト塩、亜鉛塩等の重金属塩類やビタミン類、その他本FKI−1366物質A、FKI−1366物質BまたはFKI−1366物質Cの生産に好適なものが適宜添加される。
培養するに当たり、発泡が激しいときには、必要に応じて動物油、植物油、シリコン等、界面活性剤等の消泡剤を添加してもよい。上記の培養は、上記栄養源を含有すれば、培地は液体でも固体でもよいが、通常は液体培地を用い、培養するのがよい。少量生産の場合にはフラスコを用いる培養が好適である。目的物質を大量に工業生産するには、他の発酵生産物と同様に通気攪拌培養するのが好ましい。
培養を大きなタンクで行う場合は、生産工程において、菌の生育遅延を防止するため、はじめに比較的少量の培地に生産菌を接種培養した後、次に培養物を大きなタンクに移して、そこで生産培養するのが好ましい。この場合、前培養に使用する培地および生産培養に使用する培地の組成は、両者とも同一であってもよいし、必要があれば両者を変えてもよい。
培養を通気攪拌条件で行う場合は、例えばプロペラやその他機械による攪拌、ファメーターの回転または振とう、ポンプ処理、空気の吹き込み等、既知の方法が適宜使用される。通気用の空気は滅菌したものを使用する。
培養温度は、本FKI−1366物質A、FKI−1366物質BまたはFKI−1366物質Cの生産菌が本FKI−1366物質A、FKI−1366物質BまたはFKI−1366物質Cを生産する範囲内で適宜変更し得るが、通常は20〜30度、好ましくは27度前後で培養するのが良い。培養pHは、通常は5〜8、好ましくは7前後で培養するのがよい。培養時間は条件によってもことなるが、通常は4〜7日程度である。
このようにして得られた本FKI−1366物質A、FKI−1366物質BまたはFKI−1366物質Cは、培養菌体および培養濾液に存在する。培養物から目的とするFKI−1633物質A、FKI−1633物質BまたはFKI−1633物質Cを採取するには、全培養液をアセトンなどの水混和性有機溶媒で抽出し、抽出液を減圧下有機溶媒で留去後、続いて残渣を酢酸エチル等の水不混和性有機溶媒で抽出することによって行われる。
上記の抽出法に加え、脂溶性物質の採取に用いられる公知の方法、例えば吸着クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、遠心向流分配クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等を適宜組み合わせ、あるいは繰り返すことにより、FKI−1366物質A、FKI−1366物質BまたはFKI−1366物質Cを分離、精製することができる。
次に、本発明のFKI−1366物質A、FKI−1366物質BまたはFKI−1366物質Cの理化学的性状について述べる。
FKI−1366物質A
(1)性状 :白色粉末、
(2)分子量 :769(高速原子衝撃質量分析による)、
(3)分子式 :C4455
(4)比旋光度:[α]26=+9.0(C=0.1、メタノール)、
(5)紫外部吸収スペクトル:メタノール中で測定した紫外部吸収スペクトルは第1図に示すとおりであり、213nm(ε=26000)付近に極大吸収を示す、
(6)赤外部吸収スペクトル:臭化カリウム錠剤法で測定した赤外部吸収スペクトルは第2図に示すとおりであり、2966、2875、1743、1662、1456、1261、1203、1105cm−1に特徴的な吸収帯を有する、
(7)プロトン核磁気共鳴スペクトル:Varian Japan社製、核磁気共鳴スペクトロメータを用いて測定したプロトン核磁気共鳴スペクトル(重クロロホルム中で測定)は、第3図に示すとおりである、
(8)13C核磁気共鳴スペクトル:Varian Japan社製、核磁気共鳴スペクトロメータを用いて測定した核磁気共鳴スペクトル(重クロロホルム中で測定)は、第4図に示すとおりである、
(9)溶媒に対する溶解性:DMSO、メタノール、クロロホルム、酢酸エチルに可溶、水、n−ヘキサンに不溶、
(10)呈色反応:リンモリブデン酸に陽性、
(11)酸性、中性、塩基性の区別:中性物質
以上、FKI−1366物質Aの各種理化学的性状やスペクトルデータを詳細に検討した結果、本FKI−1366物質Aは下記式[I]で表される化学構造であることが決定された。

FKI−1366物質B
(1)性状 :白色粉末、
(2)分子量 :735(高速原子衝撃質量分析による)、
(3)分子式 :C4157
(4)比旋光度:[α]26=+18.4(C=0.1、メタノール)、
(5)紫外部吸収スペクトル:メタノール中で測定した紫外部吸収スペクトルは第5図に示すとおりであり、208nm(ε=30500)付近に特徴的な吸収極大を示す、
(6)赤外部吸収スペクトル:臭化カリウム錠剤法で測定した赤外部吸収スペクトルは第6図に示すとおりであり、2964、2873、1743、1664、1456、1261、1201、1101cm−1に特徴的な吸収帯を有する、
(7)プロトン核磁気共鳴スペクトル:Varian Japan社製、核磁気共鳴スペクトロメータを用いて測定したプロトン核磁気共鳴スペクトル(重クロロホルム中で測定)は、第7図に示すとおりである、
(8)13C核磁気共鳴スペクトル:Varian Japan社製、核磁気共鳴スペクトロメータを用いて測定した核磁気共鳴スペクトル(重クロロホルム中で測定)は、第8図に示すとおりである、
(9)溶媒に対する溶解性:DMSO、メタノール、クロロホルム、酢酸エチルに可溶、水、n−ヘキサンに不溶、
(10)呈色反応:リンモリブデン酸に陽性、
(11)酸性、中性、塩基性の区別:中性物質。
以上、FKI−1366物質Bの各種理化学的性状やスペクトルデータを詳細に検討した結果、本FKI−1366物質Bは下記式[II]で表される化学構造であることが決定された。

FKI−1366物質C
(1)性状 :白色粉末、
(2)分子量 :797(高速原子衝撃質量分析による)、
(3)分子式 :C4659
(4)比旋光度:[α]26=+31.4(C=0.1、メタノール)、
(5)紫外部吸収スペクトル:メタノール中で測定した紫外部吸収スペクトルは、第9図に示すとおりであり、208nm(ε=11200)付近に特徴的な吸収極大を示す、
(6)赤外部吸収スペクトル:臭化カリウム錠剤法で測定した赤外部吸収スペクトルは、第10図に示すとおりであり、2962、2873、1743、1662、1484、1261、1203、1101cm−1に特徴的な吸収帯を有する、
(7)プロトン核磁気共鳴スペクトル:Varian Japan社製、核磁気共鳴スペクトルメータを用いて測定したプロトン核磁気共鳴スペクトル(重クロロホルム中で測定)は、第11図に示すとおりである、
(8)13C核磁気共鳴スペクトル:Varian Japan社製、核磁気共鳴スペクトロメータを用いて測定した核磁気共鳴スペクトル(重クロロホルム中で測定)は、第12図に示すとおりである、
(9)溶媒に対する溶解性:DMSO、メタノール、クロロホルム、酢酸エチルに可溶、水、n−ヘキサンに不溶、
(10)呈色反応:リンモリブデン酸に陽性、
(11)酸性、中性、塩基性の区別:中性物質。
以上、FKI−1366物質Cの各種理化学的性状やスペクトルデータを詳細に検討した結果、本FKI−1366物質Cは下記式[III]で表される化学構造であることが決定された。

上記したように、本発明のFKI−1366物質A、FKI−1366物質BまたはFKI−1366物質Cの各種理化学的性状について詳述したが、このような性質に一致する化合物はこれまで報告されておらず、それ故、FKI−1366物質A、FKI−1366物質B、およびFKI−1366物質Cは新規物質であると決定した。
次に、本発明のFKI−1366物質A、FKI−1366物質BまたはFKI−1366物質Cのアゾール系抗真菌剤の活性増強作用について以下に述べる。
試験菌としては、Candida albicans ATCC64548、フルコナゾール耐性Candida albicans ATCC64550およびAspergillus niger ATCC6275を用いた。またアゾール系抗真菌剤としては、ミコナゾール(miconazole)及びフルコナゾール(fluconazole)を使用した。
Candida albicans ATCC64548およびATCC64550株に対するアゾール系抗真菌剤の活性増強作用は、酵母感受性試験法ナショナル コミティー フォー クリニカル スタンダード(National Committee for Clinical Standard;NCCLS)標準法M27−Aに従った。すなわち、接種菌液は各菌株をYM(0.5%イーストエキストラクト、0.5%マルト エキストラクト、0.5%ペプトン、1%グルコース、1.5%アガー)寒天培地上に塗りひろげ、35度で36時間培養することにより生育した直径1mm以上のコロニーを5個採取し、5mlの生理食塩水に懸濁させた後、さらに生理食塩水で希釈しMcFarland透過度0.5に調整したものを使用した。そして、96穴プラスチックプレート(米国、コーニング社製、3599)にあらかじめRPMI1640培地70μlを添加し、これに終濃度0.06μg/ml〜400μg/mlになるよう調製したミコナゾールまはたフルコナゾール溶液20μlを加え、さらに終濃度0.5、1.0および2.0μg/mlとなるように調製したFKI−1366物質A、FKI−1366物質BまたはFKI−1366物質Cを10μl添加した後、接種菌液100μlを加え、35度で24時間静置培養した。24時間後の630nmの吸光度をマイクロプレートリーダ(米国、Bio−TEK INSTRUMENTS.Inc.,Elx808)で測定し、各培養条件における各検定菌の成育を50%に阻害するアゾール系抗真菌剤の濃度(IC50)を算出し、FKI−1366物質A、FKI−1366物質BまたはFKI−1366物質Cの無添加時のIC50値を1.0とした場合の比率を増強活性とした。
また、Aspergillus niger ATCC6275に対する増強活性は、分生子形成糸状菌に対する薬剤感受性検査NCCLS提案法(M38−P)に従った。すなわち、Aspergillus niger ATCC6275の接種菌液は、その胞子をOD530nmの値が0.09〜0.11になるよう生理食塩水に懸濁し、これをさらにRPMI1640培地で100倍希釈したものを接種菌液とした。そして、蛍光測定用96穴プラスチックプレート(米国、コーニング社製、3904)にあらかじめRPMI1640培地70μlを添加し、これに終濃度1.0μg/ml〜400μg/mlになるよう調製したミコナゾールまたはフルコナゾール溶液20μlを加え、さらに終濃度2.5、5.0および10μg/mlとなるように調製したFKI−1366物質A、FKI−1366物質BまたはFKI−1366物質Cを10μl添加した後、接種菌液80μlを加えた。これに呈色試薬であるAlamarBlue液(旭ガラス社製、日本国)を20μl添加し、35度で24時間静置培養した。24時間後にCytoFluor4000(日本パーセプティブ社製、日本国)を使用し、励起波長530nm、蛍光波長590nmで蛍光強度を測定し、各培養条件における各検定菌の成育を50%に阻害するアゾール系抗真菌剤の濃度(IC50)を算出し、FKI−1366物質無添加時のIC50値を1.0とした場合の比率を増強活性とした。
アゾール系抗真菌剤としてミコナゾール(miconazole)を用いた場合の結果を第1表に示した。なお、表中の記号*はA.niger ATCC6275株を用いた場合のFKI−1366物質A、FKI−1366物質BまたはFKI−1366物質Cの濃度を示す。


アゾール系抗真菌剤としてフルコナゾール(fluconazole)を用いた場合の結果を第2表に示した。なお、表中の記号*はA.niger ATCC6275株を用いた場合のFKI−1366物質A、FKI−1366物質BまたはFKI−1366物質Cの濃度を示す。


以上のように、本発明による物質は、C.albicans ATCC64548株、fluconazole耐性C.albicans ATCC64550株、Aspergillus niger ATCC6275株に対し、アゾール系抗真菌剤の活性増強作用を有することから、深在性真菌症をはじめとする多くの真菌感染症に対して、低濃度、短期間で作用し、耐性菌出現頻度の低減および耐性克服に対し有用である。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明のFKI−1366物質Aの紫外部吸収スペクトル(メタノール中)を示したものである。
第2図は本発明のFKI−1366物質Aの赤外部吸収スペクトル(KBr法)を示したものである。
第3図は本発明のFKI−1366物質Aのプロトン核磁気共鳴スペクトル(重クロロホルム中)を示したものである。
第4図は本発明のFKI−1366物質Aの13C核磁気共鳴スペクトル(重クロロホルム中)を示したものである。
第5図は本発明のFKI−1366物質Bの紫外部吸収スペクトル(メタノール中)を示したものである。
第6図は本発明のFKI−1366物質Bの赤外部吸収スペクトル(KBr法)を示したものである。
第7図は本発明のFKI−1366物質Bのプロトン核磁気共鳴スペクトル(重クロロホルム中)を示したものである。
第8図は本発明のFKI−1366物質Bの13C核磁気共鳴スペクトル(重クロロホルム中)を示したものである。
第9図は本発明のFKI−1366物質Cの紫外部吸収スペクトル(メタノール中)を示したものである。
第10図は本発明のFKI−1366物質Cの赤外部吸収スペクトル(KBr法)を示したものである。
第11図は本発明のFKI−1366物質Cのプロトン核磁気共鳴スペクトル(重クロロホルム中)を示したものである。
第12図は本発明のFKI−1366物質Cの13C核磁気共鳴スペクトル(重クロロホルム中)を示したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
次に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれのみに限定されるものではない。
500ml容三角フラスコ1本にGP培地(グルコース2.0%、酵母エキス0.2%、硫酸マグネシウム七水和物0.05%、ポリペプトン0.5%、リン酸水素カリウム0.1%、寒天0.1%、pH6.0)を100ml仕込み、綿栓後、蒸気滅菌し、寒天培地上に生育させたボーベリア・エスピー FKI−1366菌株(Beauveria sp.FKI−1366、FERM BP−08459)を白金耳にて無菌的に接種し、27度で72時間振とう培養した。そして、それを種培養液として、グリセロール3.0%、オートミール2.0%、ドライ イースト1.0%、リン酸−水素カリウム1.0%、リン酸水素−ナトリウム1.0%、塩化マグネシウム六水和物0.05%(pH無調整)を7.5L容ジャー(丸菱バイオエンジ社製、日本国)2基に各4L仕込み、蒸気滅菌後、種培養した培養液40mlを無菌的に移植し、培養温度27度、回転数200rpm、通気量2.5L/minで6日間通気攪拌培養した。得られた全培養液に5Lのアセトンを加え良く攪拌し、セライトろ過したろ液を減圧濃縮した。これを再び酢酸エチルで抽出後、減圧濃縮して粗製物9.6gを得た。
次にこの粗製物4.5gを少量のメタノールに溶解し、40%アセトニトリル水で平衡化したODS樹脂(ODS−7515−12A、センシュー科学社製、日本国)によるカラムクロマトグラフィーに供した。溶出は1Lの40%アセトニトリル水、次いで同量の60%アセトニトリル水、80%アセトニトリル水、100%アセトニトリル水で段階溶出し、それぞれ50mlずつ分取した。FKI−1366物質A、FKI−1366物質BおよびFKI−1366物質Cが含まれる80%アセトニトリル水溶出画分のフラクション5番から20番を集め、アセトニトリルを留去した後、水層画分を酢酸エチルで抽出し、それを減圧乾固し粗製物1.1gを得た。
次にこの粗製物556mgを高速液体クロマトグラフィーにより分離精製した。装置はPU−980ガリバーシステム(日本分光社製、日本国)を用い、カラムはPEGASIK ODS(20φ×250mm、センシュー科学社製、日本国)を用い、移動相溶媒は85%アセトニトリル水を用い、検出はUV210nm、流速6ml/分で行った。本条件下において保持時間28分、29分および42分であるFKI−1366物質A、FKI−1366物質BおよびFKI−1366物質Cをそれぞれ分取し、各溶出液を減圧濃縮して残った水層を酢酸エチルで抽出することにより、FKI−1366物質Aを15.9mg、FKI−1366物質Bを28.9mg、およびFKI−1366物質Cを6.9mgをそれぞれ得た。さらに、得られたFKI−1366物質A、FKI−1366物質BおよびFKI−1366物質Cをそれぞれ同じ条件で再分取し、上記と同様にして抽出することにより、最終的にFKI−1366物質Aが8.6mg、FKI−1366物質Bが11.5mg、およびFKI−1366物質Cが3.2mg得られた。
産業上の利用分野
以上のことから、本発明によるFKI−1366物質A、FKI−1366物質BおよびFKI−1366物質Cは、C.albicans ATCC64548株、fluconazole耐性C.albicans ATCC64550株、Aspergillus niger ATCC6275株に対し、アゾール系抗真菌剤の活性増強作用を有する。これらのことから、本発明の物質は深在性真菌症をはじめとする多くの真菌感染症に対して、低濃度、短期間で作用し、耐性菌出現頻度の低減および耐性克服に有用であり、医薬品として期待される。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[I]

で表されるFKI−1366物質A。
【請求項2】
下記式[II]

で表されるFKI−1366物質B。
【請求項3】
下記式[III]

で表されるFKI−1366物質C。
【請求項4】
特に下記式[I]

で表されるFKI−1366物質A、及び特に下記式[II]

で表されるFKI−1366物質B、並びに特に下記[III]

で表されるFKI−1366物質CからなるFKI−1366粗製物。
【請求項5】
ボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)に属し、FKI−1366物質Aを生産する能力を有する微生物を培地で培養し、培養液中にFKI−1366物質Aを蓄積せしめ、該培養物からFKI−1366物質Aを採取することを特徴とするFKI−1366物質Aの製造法。
【請求項6】
ボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)に属し、FKI−1366物質Bを生産する能力を有する微生物を培地で培養し、培養液中にFKI−1366物質Bを蓄積せしめ、該培養物からFKI−1366物質Bを採取することを特徴とするFKI−1366物質Bの製造法。
【請求項7】
ボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)に属し、FKI−1366物質Cを生産する能力を有する微生物を培地で培養し、培養液中にFKI−1366物質Cを蓄積せしめ、該培養物からFKI−1366物質Cを採取することを特徴とするFKI−1366物質Cの製造法。
【請求項8】
ボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)に属し、FKI−1366物質Aおよび/またはFKI−1366物質Bおよび/またはFKI−1366物質Cを生産する能力を有する微生物を培地で培養し、培養液中にFKI−1366物質Aおよび/またはFKI−1366物質Bおよび/またはFKI−1366物質Cを蓄積せしめ、該培養物からFKI−1366物質Aおよび/またはFKI−1366物質Bおよび/またはFKI−1366物質Cを採取することを特徴とするFKI−1366粗製物の製造法。
【請求項9】
ボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)に属し、FKI−1366物質Aおよび/またはFKI−1366物質Bおよび/またはFKI−1366物質Cを生産する能力を有するボーベリア・エスピー FKI−1366(FERM BP−08459)である請求の範囲8に従うFKI−1366粗製物の製造法。
【請求項10】
ボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)FKI−1366(FERM BP−08459)。
【請求項11】
ボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)に属し、請求項1に従うFKI−1366物質Aを生産する能力を有する微生物。
【請求項12】
ボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)に属し、請求項2に従うFKI−1366物質Bを生産する能力を有する微生物。
【請求項13】
ボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)に属し、請求項3に従うFKI−1366物質Cを生産する能力を有する微生物。
【請求項14】
ボーベリア・エスピー(Beauveria sp.)に属し、FKI−1366物質Aおよび/またはFKI−1366物質Bおよび/またはFKI−1366物質Cを生産する能力を有するボーベリア・エスピー FKI−1366(FERM BP−08459)である請求の範囲4に従うFKI−1366粗製物を生産する能力を有する微生物。

【国際公開番号】WO2005/023788
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【発行日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508750(P2005−508750)
【国際出願番号】PCT/JP2003/011053
【国際出願日】平成15年8月29日(2003.8.29)
【出願人】(390027214)社団法人北里研究所 (20)
【Fターム(参考)】