説明

FM−CWレーダ装置および数値補正方法

【課題】安価なAD変換器を用いて、スプリアスの少ないFM−CWレーダ装置を得る。
【解決手段】FM−CWレーダ装置が有するAD変換器に対して正確な試験用電圧を印加した際にAD変換器より出力されたコードと印加した電圧値とを対応付けたテーブルを記憶するADコード補正手段を設ける。そして、ADコード補正手段は、AD変換器より出力されたコードを取得し、取得されたコードと対応付けられた電圧値を出力する。FM−CWレーダ装置は、ADコード補正手段より出力された電圧値を用いて、目的物の相対速度および距離等を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FM−CWレーダ装置および数値補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、自動車等の車両に搭載され、走行車両との車間距離を測定し、衝突防止等を目的とする車載レーダ装置が注目されている。このような車載レーダ装置にあっては、FM−CW(Frequency Modulation − Continuous Wave)レーダ装置が用いられることが多い。
【0003】
FM−CWレーダ装置は、目標物に対して送信した送信波と目標物から反射してきた反射波との周波数の差を用いて、目標物との相対距離および相対速度を算出する。このようなFM−CWレーダ装置は、AD変換機を用いて、送信波と反射波との合成波をデジタル情報に変換し、処理を行う。
【0004】
ここで、衝突防止等を目的とするFM−CWレーダ装置は、直近の数mから200m程度までの広範囲をカバーすることが求められる。また、反射波の電力値は、目標物との距離の4乗に反比例する性質を有する。そのため、FM−CWレーダ装置に使用されるAD変換器は、ダイナミックレンジを広く取ることが求められる。
【0005】
一方、AD変換器は、AD変換器を構成する抵抗回路の精度に起因した変換誤差を有している。そのため、FM−CWレーダ装置は、AD変換器を用いて取得したデジタル情報に対して、FFT(Fast Fourier Transform)処理を実行した場合には、AD変換器が有する誤差に起因したスプリアス(不要波)を検出する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S.A.Hovanessian 「Radar System Design & Analysis」Artech House出版 P.78〜P.81
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来のFM−CWレーダ装置は、広範囲に対して有効な測定を行うためには、分解能が高く、ダイナミックレンジが広いAD変換器を用いる必要がある。しかしながら、そのようなAD変換器は、一般的に高価であり、マイコン等と一体化したカスタムICの実現が難しいという問題点があった。
【0008】
また、上記従来のFM−CWレーダ装置は、スプリアスが検出された場合には、スプリアスと目標物との区別がつかなくなり、誤検出を引き起こすという問題があった。また、スプリアスを減少させるために、トリミング調整等を行った誤差の少ないAD変換器は、一般的に高価であり、マイコン等と一体化したカスタムICの実現が難しいという問題点があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、高価なAD変換器を使用しなくとも、AD変換器の誤差を起因とするスプリアスを防ぎ、広いスプリアスフリーレンジを有するFM−CWレーダ装置および数値補正方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、印加された電圧をデジタル情報にコード化して出力する変換手段と、前記変換手段によって前記出力されたデジタル情報と、前記変換手段に対して印加された前記電圧との線形関係を保つように前記出力されたデジタル情報を補正する補正手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安価なAD変換器を用いた場合にも、スプリアスを防ぐという効果を奏する。また、広いスプリアスフリーレンジを有するFM−CWレーダ装置を得ることができ、マイコン等と一体化したカスタムICの実現を容易にするという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明に関するFM−CWレーダ装置の構成例を示す図である。
【図2】図2は、AD変換器の変換誤差を説明する図である。
【図3】図3は、ADコード補正手段の効果を説明する図である。
【図4】図4は、従来のFM−CWレーダ装置の構成例を示す図である。
【図5】図5は、従来のFM−CWレーダ装置の原理を説明する図である。
【図6】図6は、AD変換器のダイナミックレンジを説明する図である。
【図7】図7は、AD変換器のスプリアスフリーダイナミックレンジを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明にかかるFM−CWレーダ装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
(従来技術適用の問題点)
まず、FM−CWレーダ装置30にかかる既存技術について説明する。既存のFM−CWレーダ装置30は、図4に示すように、変調回路1、発振器2、方向性結合器3、送信アンテナ4、ミキサ6、増幅器7、AD変換器8、周波数分析手段9、目標検出手段10、距離速度算出手段14を有している。
【0015】
以下、既存のFM−CWレーダ装置30を構成する各部の機能を、FM−CWレーダ装置30の処理の流れに沿って説明する。まず、変調回路1は、周波数変調(以下、FMという。)信号を作成し、発振器2へ送信する。次に発振器2は、FM信号で変調された高周波信号を発振し、方向性結合器3を解して送信アンテナ4とミキサ6へ送信する。
【0016】
ここで、目標物が存在する場合、時間遅れを生じた反射波が受信アンテナ5によって受信され、ミキサ6へ送信される。ミキサ6は、反射波と方向性結合器3によって分配された送信波との周波数差を表す信号(以下、ビート信号という。)を作成する。ミキサ6は、作成されたビート信号を増幅器7へ送信する。増幅器7は、ビート信号を増幅し、AD変換器8へ送信する。
【0017】
ここで、AD変換器8は、受信されたビート信号をアナログ信号形式からデジタル信号形式に変換する。次に、AD変換器8は、デジタル信号に変換されたビート信号を周波数分析手段9へと送信する。
【0018】
周波数分析手段9は、デジタル化されたビート信号を受信した場合には、FFT等の処理を用いて、周波数スペクトルを求める。目標検出手段10は、求められた周波数スペクトルのうち、所定の閾値を越えたものを、目的物から反射された反射波を起因とする周波数スペクトルとする。距離速度算出手段14は、目標検出手段10でピックアップされた周波数により、目標物の相対距離および相対速度を算出する。
【0019】
ここで、図5を用いて、FM−CWレーダ装置30が目標物の相対距離および相対速度を算出する方法について説明する。図5は、送信アンテナ4によって送信された送信波の周波数である送信周波数20と、受信アンテナ5によって受信された反射波の周波数である受信周波数21を示している。
【0020】
まず、FM−CWレーダ装置30は、図5に示すように、Tm秒ごとにUPチャープ区間とDOWNチャープ区間とを繰り返すようにして、送信周波数20を変化させる。具体的には、FM−CWレーダ装置30は、UPチャープ区間の間、送信周波数20の周波数を直線的に上昇させる。また、FM−CWレーダ装置30は、DOWNチャープ区間の間、送信周波数20の周波数を直線的に下降させる。
【0021】
ここで、FM−CWレーダ装置30は、測定対象が送信周波数20を反射した場合には、ドップラー効果により送信周波数20とは異なる周波数となった反射波を受信周波数21として受信する。ここで、測定対象がFM−CWレーダ装置30に対して相対速度v、相対距離Rで存在していた場合には、光速をC、送信波長をλ、UPチャープ区間(またはDOWNチャープ区間)の期間をTm、周波数変調幅をΔfとすると、相対速度に相当するドップラー周波数fdは、下式(1)で表すことができる。
【0022】
【数1】

【0023】
次に、送信周波数20と受信周波数21との時間差により生じる距離周波数frは、下式(2)で表すことができる。
【0024】
【数2】

【0025】
また、UPチャープ区間でのビート周波数fb1とDOWNチャープ区間でのビート周波数fb2は、下式(3)および式(4)で表すことができる。
【0026】
【数3】

【0027】
【数4】

【0028】
また、距離周波数frは、ドップラー周波数fdよりも大きい場合には、下式(5)で表すことができる。
【0029】
【数5】

【0030】
ここで、式(5)に式(2)を代入すると、FM−CWレーダ装置30から目標物までの相対距離Rを求める式(6)が導出される。
【0031】
【数6】

【0032】
式(6)より、UPチャープ区間でのビート周波数fb1とDOWNチャープ区間でのビート周波数fb2とを用いて、目標物までの距離Rを求めることができる。また、距離周波数frを算出すると、式(1)、式(3)および式(4)を用いて、相対速度vを求めることができる。
【0033】
ここで、ドップラー周波数fdが距離周波数frよりも十分に小さい場合には、FM−CWレーダ装置30と目的物との距離が遠いほどビート周波数fb1およびfb2の周波数は、高くなる。一方、受信周波数21による受信電力Prは、下式(6)で表されるように、FM−CWレーダ装置30と目的物までの距離の4乗に反比例して減衰する。
【0034】
【数7】

【0035】
ここで、式(6)のPtは送信周波数20による電力、Gtは送信アンテナ4の送信アンテナ利得、Grは、受信アンテナ5の受信アンテナ利得、σは、前方車両等の目的物の散乱断面積を示す。
【0036】
一般的に、目的物が一つしかない状況はまれであり、通常は複数の目的物が存在する。そのため、例えば図6に示すように、FM−CWレーダ装置30から近距離にある目的物と、遠距離にある目的物で異なった周波数ピークが発生する。また、FM−CWレーダ装置30から目的物までの距離の差が開くほど、ピークレベルの差が大きくなり、遠距離に存在する目的物の散乱断面積が小さいと、さらに差が大きくなる。
【0037】
したがって、受信信号を取り込むAD変換器8には、広いダイナミックレンジが要求される。AD変換器8は、ビット数が多いほどダイナミックレンジが広く、変換速度も速い。しかし、そのようなAD変換器8は、一般的に高価となる。ここで、図7に示すように、AD変換器8は、ダイナミックレンジが広い場合でも、リニアリティが悪い場合には、スプリアスが発生する。そのため、AD変換器8は、スプリアスフリーダイナミックレンジが広いことが望ましい。
【0038】
FM−CWレーダ装置30は、スプリアスが発生した場合には、複数の目標物が発生した場合と区別がつかなくなり、誤検出を引き起こす。しかし、リニアリティがよいAD変換器8は、一般的に高価となる。そのため、マイコン等と一体化したカスタムICの実現が困難であった。
【0039】
実施の形態1.
次に、本発明にかかるFM−CWレーダ装置30について説明する。なお、従来と同じ部分については説明を省略する。図1に示すように、FM−CWレーダ装置30は、AD変換器8のリニアリティ誤差を補正するADコード補正手段12、受信信号とテスト信号とを切り替えるスイッチ11、テスト信号源13、を既存のFM−CWレーダ装置30に付加している。
【0040】
スイッチ11は、受信信号とテスト信号とを切り替える。また、テスト信号源13は、出荷前の検査時にFM−CWレーダ装置30のスイッチ11に結線され、検査終了時に取り外される。テスト信号源13は、AD変換器8に印加することができる最小電圧から最大電圧までの電圧をAD変換器8に対して正確に加えることができる。
【0041】
ADコード補正手段12は、AD変換器8に印加された電圧値と、AD変換器8から出力されたデジタル信号とを対応付けたテーブルを記憶する。また、ADコード補正手段12は、AD変換器8からデジタル信号を受信した場合には、記憶されたテーブルを用いて、AD変換器8から出力されたデジタル信号と対応付けられた電圧値を出力する。
【0042】
従来のFM−CWレーダ装置30は、AD変換器8によってコード化された電圧値と一定の値との積を、AD変換器8に印加された電圧値としていた。例えば、図2に示した場合には、FM−CWレーダ装置30は、AD変換器8によってコード化された電圧値に5mVを掛け合わせた値をAD変換器8に印加された電圧の値としていた。
【0043】
しかし、AD変換器8は、製品ごとに異なった変換誤差を有している。そのため、図2に示すように、AD変換器8に印加された電圧と、AD変換器8が出力するコードとのリニアリティがくずれてしまう。
【0044】
そこで、本発明に係るFM−CWレーダ装置30は、AD変換器8に対して、一定間隔の正確な電圧を外部から印加し、印加された電圧とAD変換器8が出力したコードとの関係を取得する。具体的には、FM−CWレーダ装置30は、検査時にテスト信号源13を用いて、AD変換器8に対して正確な電圧を、AD変換器8が許容する最小電圧から最大電圧まで印加する。そして、図2の(2)に示すように、FM−CWレーダ装置30は、印加された電圧とAD変換器8が出力したコードとを対応付けたテーブルを、ADコード補正手段に記憶する。
【0045】
通常の動作時には、AD変換器8は、増幅器7から出力される受信信号をスイッチ11を経由して取得する。そして、AD変換器8は、取得された受信信号、すなわち印加された電圧をデジタルコードに変換し、ADコード補正手段12へ送信する。ADコード補正手段12は、記憶されたテーブルを参照し、AD変換器8から送信されたコードと対応付けられた電圧値を周波数分析手段9へ送信する。
【0046】
ここで、図3は、ADコード補正手段12を用いた効果を説明する図である。AD変換器8は、製品ごとに異なる変換誤差を有している。そのため、FM−CWレーダ装置30は、AD変換器8が変換した情報を補正しなかった場合には、AD変換器8が変換した情報の誤差によってスプリアスを生じさせてしまう。
【0047】
具体的には、AD変換器8は、変換誤差を有しているため、図3の(1)および(2)に示すように、印加する電圧の一例として正弦波を印加した場合には、変換結果にゆがみを生じさせてしまう。そのため、FM−CWレーダ装置30は、AD変換器8が出力したコードに対して補正を行わずにFFT処理を実行した場合には、図3の(3)に示す様に、ゆがみを起因としたスプリアスを生じさせてしまう。
【0048】
一方、FM−CWレーダ装置30は、ADコード補正手段12を用いて、AD変換器8が出力したコードを補正した場合には、図3の(4)に示すようにゆがみを補正することができる。そのため、FM−CWレーダ装置30は、AD変換器8が出力したコードを補正し、補正されたコードに対してFFT処理を実行した場合には、図3の(5)に示すように、スプリアスを解消することができる。
【0049】
以上説明したように、本発明によれば、FM−CWレーダ装置30に対して、AD変換器8が有する変換誤差を補正するADコード補正手段12を設けることにより、安価なAD変換器を用いた場合にも、スプリアスを防ぐという効果を奏する。そのため、マイコン等と一体化したカスタムICの実現を容易にし、低価格化を実現するという効果を奏する。
【0050】
また、本発明によれば、FM−CWレーダ装置30に対して、AD変換器8が有する変換誤差を補正するADコード補正手段12を設けることにより、トリミング調整等を行っていない安価なAD変換器であっても、スプリアスを防ぎ、スプリアスフリーダイナミックレンジの特性を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、本発明にかかるFM−CWレーダ装置30は、AD変換器8が有する変換誤差を起因としたスプリアスが問題となるに有用であり、特に、衝突防止用の車載FM−CWレーダ装置として好適である。
【符号の説明】
【0052】
1 変調回路、2 発振機、3 方向性結合器、4 送信アンテナ、5 受信アンテナ、6 ミキサ、7 増幅器、8 AD変換器、9 周波数分析手段、10 目的検出手段、11 スイッチ、12 ADコード補正手段、13 テスト信号源、20 送信周波数、21 受信周波数。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加された電圧を離散的な数値にコード化して出力する変換手段と、
前記変換手段によって前記出力された数値と、前記変換手段に対して印加された前記電圧との線形関係を保つように前記出力された数値を補正する補正手段と、
を備えることを特徴とするFM−CWレーダ装置。
【請求項2】
前記補正手段は、試験用の電圧を前記変換手段に印加して出力された前記離散的な数値を前記試験用の電圧の値と対応付けて記憶し、前記変更手段によって前記出力された数値と対応付けられて記憶された前記電圧の値をコード化して出力することを特徴とする請求項1に記載のFM−CWレーダ装置。
【請求項3】
印加された電圧を離散的な数値にコード化して出力する変換装置によって出力された数値と、前記変換装置に対して印加された前記電圧との線形関係を保つように前記出力されたデジタル情報を補正することを特徴とする数値補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−276372(P2010−276372A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126682(P2009−126682)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】