説明

FMCWレーダセンサ、及び、周波数マッチングのための方法

本発明は、FMCWレーダセンサにおける周波数マッチングのための方法であって、レーダセンサにより測定された物体をそれぞれに表し、様々な変調ランプ上で獲得される複数の周波数が、物体の間隔dと速度vとの可能な組み合わせを表す軌跡(g1〜g4)としてd−v空間(26)内に示され、様々な変調ランプ上で測定される物体を識別するために、様々な変調ランプ上で獲得される周波数に対応する軌跡間の一致(T、S)が探索される、上記方法において、最初のステップでは、一致(T)の探索がd−v空間(26)の部分空間(40)に限定され、後続のステップでは、探索がd−v空間の他の範囲へ拡大されるとともに、最初のステップで見出された物体に対応する周波数が隠されることを特徴とする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FMCWレーダセンサにおける周波数マッチングのための方法であって、レーダセンサにより測定された物体をそれぞれに表し、様々な変調ランプ上で獲得される複数の周波数が、物体の間隔dと速度vとの可能な組み合わせを表す軌跡としてd−v空間内に示され、様々な変調ランプ上で測定される物体を識別するために、様々な変調ランプ上で獲得される周波数に対応する軌跡間の一致が探索される、上記方法に関する。
【0002】
本発明はさらに、本方法が実施され例えば車両のための運転者支援システムに適用可能なFMCWレーダセンサに関する。
【背景技術】
【0003】
FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)レーダセンサの動作原理では、送信されるレーダ信号の周波数がランプ形状に変調され、ある物体で反射され再びセンサにより受信される信号が、受信時点に送信される信号の一部と混合される。混合物は、中間周波数要素を含み、その中間周波数要素の周波数は、送信された信号と受信された信号との差分に対応する。この差分は、一方では、信号の往復時間に生じる送信周波数の変化により物体との間隔に依存し、他方では、ドップラー効果により物体の相対速度にも依存する。
【0004】
中間周波数信号は、高速フーリエ変換により周波数スペクトルに分解され、各測定物体は、このスペクトルによって、物体の間隔及び速度(相対速度)に依存する周波数のピークとして表される。しかし、この個別周波数を用いて、物体の実際の間隔及び実際の速度は一意に決定されない。このためにはむしろ、送信された信号の2以上の変調ランプで同一物体を測定する必要があり、その際、この2つの変調ランプは異なる勾配を有する必要がある。
【0005】
2つの周波数のそれぞれは、物体の間隔dと相対速度vとの可能な複数の組み合わせを表す。物体の間隔に対する物体の速度が表示されるd−v空間において、所定の周波数についての間隔と速度との可能な組み合わせの軌跡(geometrischer Ort)は直線であって、この直線の勾配は、変調ランプの勾配に依存する。従って、2つのランプについて、勾配が異なる2つの直線が獲得され、これらの直線の交点、即ち、これら2つの周波数に対応する軌跡の間で一致が生じる点が物体の実際の間隔と実際の速度とを示す。
【0006】
しかし、複数の物体が同時にレーダセンサの測定範囲に存在すると、2つの変調ランプを評価する際に、物体とピークとの対応が一意に決定されなくなる場合がある。2つの物体がある状況では、例えば、d−v空間内で、4つの交点を互いに形成する2組の平行する直線が獲得されるが、これら交点のうちの2点のみが真の物体に対応し、他の交点が所謂見かけ上の物体を表す。
【0007】
一意の結果を得るために、少なくとも1つの第3の変調ランプが必要である。真の物体は、d−v空間内で、3つの異なる周波数ランプ上で獲得される周波数に対応する3つの軌跡の全てが一致することにより検知される。このことは明らかに、3つの周波数に対応する3つの直線の全てが、許容範囲内で、一点で交わることを意味している。この一致の検証は、周波数マッチング(Frequenzmatching)と呼ばれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、ピークの周波数は、限定された精度で決定されるため、真の物体についても、3つの変調ランプに対応する3つの直線が厳密に一点で交わることを期待することができない。むしろ、3つの異なる交点が獲得され、この3つの異なる交点は、いずれにせよ互いに比較的近傍に存在する。従って、物体が絶対的に識別され得るために、一定の許容度が認められる必要がある。しかし、比較的多くの物体が測定される場合に、この許容度は、見かけ上の一致、即ち、真の物体が対応しないミスマッチ(Fehlmatch)をもたらしうる。
【0009】
実際には、4つの異なる変調ランプにより作動されることが多く、真の物体のための基準は、4つの直線の全てが許容範囲内で、一点で交わるということになる。その場合も、物体の数が多く、従ってスペクトル内のピークの密度が比較的高い場合に特に、ミスマッチが生じる可能性がある。ミスマッチ率は、d−v空間の観察される部分の大きさに比例するが、物体密度が上がりピーク周波数の分散が大きくなるにつれて、不釣合いに増加する。
【0010】
さらに、物体の数が増え変調ランプの数が増えるにつれて必要な計算時間も増加する。少なくとも、2つのランプ上で獲得される周波数を対にして組み合わせる必要があるため、計算時間が、物体の数の少なくとも二乗で増加する。しかし、計算時間のこのような増加は多くの適用に際して問題となる。このことは例えば、車両のための間隔制御システム内でFMCWレーダを使用する際に当てはまる。その場合には、交通状況が十分な精度で追跡され、状況に適った間隔制御が可能となる短い時間間隔で、全ての先行車両の間隔と相対速度とを更新する必要がある。
【0011】
独国特許出願公開第10243811号明細書には、車両のためのFMCWレーダにおける周波数マッチングのための方法が記載されており、この方法では、測定物体の間隔及び相対速度の時間推移が、レーダセンサの複数の測定周期について追跡され、実際の測定周期において、見かけ上の物体の動的値への妥当性の低い「飛躍(Sprung)」に基づいて、ミスマッチが検知される。しかし、この方法も高い計算コストを必要とする。
【0012】
本発明の課題は、計算コストが低く、低いミスマッチ率を有する周波数マッチングのための方法を示すことである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本課題は本発明に基づいて、最初のステップでは、一致の探索がd−v空間の部分空間に限定され、後続のステップでは、探索がd−v空間の他の範囲へ拡大されるとともに、最初のステップで見出された物体に対応する周波数が抑制される(Unterdrueckung)ことにより解決される。
【0014】
周波数マッチング手続きのパラメータに対するミスマッチ率の依存性の厳密な分析は、一致の探索がd−v空間内の比較的狭い範囲に限定される場合に、ミスマッチ率が低下することを示している。物体密度が高い場合にも、殆どの見かけ上の一致は、観察される範囲の外側に存在する。この限定された範囲内で物体が識別された後、対応する周波数、及び、d−v空間内の当該周波数に対応する直線がある程度隠され、残った直線の間で交点が探索される。従って、後続のステップでは、物体密度が低くなるため、更なる一致の探索においてミスマッチ率が明らかに低下する。
【0015】
d−v空間内の観察される範囲の初期の限定によって、同時に、検証される周波数と必要な計算時間との組み合わせの数が著しく低減される。
【0016】
本発明の好適な実施形態及び発展形態は、従属請求項に示される。
【0017】
特に車両の運転者支援システム内でのレーダセンサの適用のための好適な実施形態において、最初のステップでは、一致の探索がd−v空間の部分空間であって、支援機能について特に高い重要性及び/又は妥当性を有する部分空間に限定される。例えば、レーダセンサによりサポートされる支援機能が間隔制御機能である場合に、最初に、直前の先行車との目標間隔を保つために直接的な制御介入が必要となる、d−v空間の所定の範囲に限定することができる。
【0018】
d−v空間を有効に限定するための他の選択肢は、最初に、過去に獲得された結果に基づき高い確率で物体が見込まれる1つ又は複数の部分空間に限定することである。例えば、車両のための運転者支援システムにおいて、典型的に、比較的長い期間に渡って、測定物体の間隔及び相対速度の時間推移が追跡され、トラッキング手続きの枠組みにおいて、過去に獲得された結果を用いて、次の測定周期においてどの間隔及びどの相対速度の範囲に、追跡される物体が存在するかが予測される。従って、最初に、トラッキング手続きに基づき物体の存在が見込まれる点の近傍にある、d−v空間内の比較的狭い範囲に一致の探索を限定することが有利である。
【0019】
他の選択肢は、車両における適用に際して、最初に、静止物体の探索、即ち、その相対速度が自車両の走行速度の値(Betrage)と等しい物体の探索に限定することである。d−v空間の該当する部分空間は、この相対速度の付近の細長い帯状の範囲となる。
【0020】
d−v空間の観察される部分が複数のステップにおいて連続的に限定される場合も、また有利である。その際に、各ステップは、一致の精度をふまえて、又は一致が要求される周波数の数をふまえて、周波数マッチングのための様々な厳しい基準が有効となる部分ステップに分けることができる。例えば、4つの異なるランプ勾配により作動され、従って、d−v空間内で原則的に物体毎に4つの直線が獲得される場合に、最初に、4つの直線の全てが一点で交わる一致を探索し、その後、3つの直線のみが1点で交わる一致を探索することができる。
【0021】
好適な実施形態において、本方法の最後のステップで、「レストマッチング」が実施され、このレストマッチングでは、従前に隠された周波数のうちの幾つか、例えば、そのピークが特に高い電力を有する周波数が、再び表示される。このようにして、従前のステップで周波数の重畳のために見出せなかった物体も識別される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】FMCWレーダセンサのブロック図である。
【図2】4つの様々な変調ランプ上で測定された1つの物体を示すd−v空間の図である。
【図3】複数の測定物体を示すd−v空間の図である。
【図4】d−v空間の部分空間への限定を解説するための図である。
【図5】本発明にかかる方法の最初のステップにおけるd−v空間の図である。
【図6】図5の部分拡大図である。
【図7】本発明にかかる方法の後続のステップにおける図5のd−v空間の図である。
【図8】本発明にかかる方法の後続のステップにおける図5のd−v空間の図である。
【図9】本発明にかかる方法の後続のステップにおける図5のd−v空間の図である。
【図10】本発明にかかる方法の後続のステップにおける図5のd−v空間の図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、例えば車両のための運転者支援システムの枠組みにおいて、例えば、直前の先行車両との間隔を制御するという目的で先行車両を測定するため等に使用されるようなFMCWレーダセンサのブロック図である。
【0024】
レーダセンサはドライバ10を有し、このドライバ10は、周波数がランプ形状に変調されたレーダ信号を、混合器12を介して送信及び受信ユニット14へと供給する。図1のドライバ10を表すブロック内に象徴的に示されるように、ここでは勾配が異なる4つの周波数ランプの連なりにおいて、ランプ形状の周波数変調が生じ、第1及び第2ランプ、並びに、第3及び第4ランプがそれぞれ、逆方向の同じ勾配を有する。この変調パターンは、レーダセンサの各測定周期で繰り返される。
【0025】
送信及び受信ユニット14により放出されたレーダ光線が、示される例では、例えば潜在的な先行車両である2つの物体16、18で反射する。反射された信号は再び、送信及び受信ユニット14により受信され、混合器12内で、この時点に実際にドライバ10により供給された信号と混合される。混合物は中間周波数信号であり、この中間周波数信号の周波数は、送信された信号と、受信された信号との間の周波数差に依存する。この周波数差自体は、物体の間隔dと、物体の速度v(相対速度)とにも依存する。
【0026】
変換段20では、各変調ランプについての中間周波数信号が、高速フーリエ変換(FFT)によって、そのスペクトルに分解される。このようにして4つの連続する変調ランプについて獲得される周波数スペクトルは、理想的な条件では物体ごとに、物体の間隔及び相対速度、並びに、変調ランプの勾配により決定される周波数kのピークを有する。個々の物体を識別し、物体の間隔及び速度を決定するために、周波数kは周波数マッチングモジュール22内で更に解析される。このために利用される方法を、さらに以下に詳細に解説することにする。
【0027】
周波数マッチングの結果、特に、全測定物体の間隔及び速度がトラッキングモジュール24に供給され、このトラッキングモジュール24は、測定物体の動的データ(間隔及び速度、角度分解型のレーダの場合には更に方位角)の履歴を記録し、従って、物体の時間推移を追跡し、将来的に予測する。トラッキング手続きと呼ばれるこの手続きは、物体ごとに、次の測定周期で見込まれる間隔及び見込まれる速度についての予測値を生成する。この予測値は、周波数マッチングモジュール22内で、周波数マッチング手続きのために必要な計算時間を短縮しミスマッチの頻度を低減させるために利用される。
【0028】
図2は、間隔dが横座標に、速度vが縦座標に示されたd−v空間の図を示している。速度vは、ここでは、レーダセンサを備えた車両自体の速度vに比例する、物体16又は18の相対速度である。正の値の速度vは、物体が自車両から離れていることを意味し、負の値の速度vは、自車両が物体に近づきつつあることを意味する。静止物体、即ち、その絶対速度がゼロである物体についてはv=−vとなる。
【0029】
個別物体は、物体の間隔dを横座標に、また物体の速度vを縦座標に示すd−v空間26において、点28により表される。
【0030】
個別物体がレーダセンサにより測定される場合に、スペクトル内の対応するピークの周波数kには、以下の関係が適用される。
k=α×d+β×v …(1)
【0031】
数式(1)では、αは変調ランプの勾配に依存する係数である。係数βは、レーダ信号の周波数に比例し、ドップラー効果に基づいて周波数kの速度依存性を決定する。
【0032】
数式(1)は、以下の数式(2)に置換される。
v=−(α/β)×d+(k/β) …(2)
【0033】
数式(2)は、d−v空間内の直線を示している。この直線は、周波数kのピークを生成した物体が有する間隔dと速度vとの全ての組み合わせを示す軌跡である。
【0034】
図2には、このような4つの直線g1〜g4、即ち、変調ランプ毎に1つの直線が示されている。係数αはランプ勾配に依存するため、これら4つの直線もその勾配で区別される。理想的な条件では、測定誤差の影響を考慮せずに、全ての4つの直線g1〜g4が、図2に示されるように厳密に点28で交わる。
【0035】
図3は、11個の物体が同時に測定される場合のd−v空間26を示している。図3は、4つの直線g1〜g4の交点にそれぞれが存在し、ここでは「一致」と呼ばれる11個の点T、S及びNを含む。物体ごとに4つのこのような直線g1〜g4が獲得され、紛らわしくて多様な11=121個の直線の交点が生じるが、その幾つかは、d−v空間の、観察される部分の外側に存在する可能性がある。これら交点のうちの11個のみが、真の物体に対応する。
【0036】
真の物体は、理論的には、全ての4つの直線g1〜g4が同一の点で交わることにより識別される。しかし、実際には、統計的な測定誤差のために、不確実性を伴って凡そ(naehrungsweise)そのようになる。この不確実性のために、4つの所与の直線が一点で交わるかが容易に決定されない場合が多い。このような疑わしいケースは、物体の数が多くなるほど、さらに対応して、d−v空間内に直線がより密集して存在するほど頻繁に生じる。
【0037】
さらに困難なことには、幾つかの場合には、2つのピークが、もはや2つの別々のピークに分けられずd−v空間内で1つの直線により表されるほど、互いに隣接して存在している可能性もある。従って、以下で更に詳細に解説するように、真の物体が、3つの直線のみが交わる1つの点によって表される場合もある。
【0038】
厳密に3つの直線が交わる場合は三重の一致、4つの直線が交わる場合は四重の一致と呼ばれる。
【0039】
周波数マッチングモジュール22内では、d−v空間内の全ての直線が電子的に表される。例えば、各直線を、その一次方程式(2)により表すことが可能であり、kのために、測定された周波数k(最大周波数)がその都度使用される。一致を検知し対応する物体を識別するために、原則的に、平行ではない直線の各組について、少なくとも1つの更なる別の直線と交差しているかどうかが数学的に検証される必要がある。
【0040】
以下に、一致の探索のための演算コストを低減すると共に、「ミスマッチ」の頻度を低減することを可能とする方法について記載する。この「ミスマッチ」は、3つ又は4つの直線が偶然にほぼ同一の点で交わるケースが、この点により示される間隔及び速度の値を有する物体が実際に存在しないにも関わらず、誤って一致として解釈されることにより生じる。
【0041】
この目的のために、最初に、トラッキングモジュール24が、従前の測定周期で獲得された結果に基づいて、従前に測定され追跡された物体の間隔及び速度についての予測値を生成することが想定される。
【0042】
図4には、トラッキングモジュールにより生成される個別物体についてのこのような予測値が、d−v図内の点38により表される。物体の速度が最後の測定周期からどのように変化したかが厳密には不明であるため、この予測にも当然のことながら、ある程度の不確実性がつきまとう。しかし、物体が少なくとも点38の近傍で見出されることが見込まれる。
【0043】
従って、周波数マッチング手続きの最初のステップでは、d―v空間の観察される部分が、部分空間40に限定される。この部分空間40は点38を含み、その大きさは、予測値の、推定される不確実性に対応する。トラッキングモジュール24は、座標d及びvにおけるこの不確実性についての評価値も生成できる。示される例では、部分空間40は、8角形の形態を有する。しかし、部分空間40は、長方形、又は楕円形等の形態を有してもよい。
【0044】
実際の測定周期において、追跡される物体が予想されたように部分空間40内に存在する場合には、4つの対応する直線g1〜g4(又は、ピークが重なる場合には、これら直線のうちの少なくとも3つの直線)が、部分空間40を通っている必要がある。これら直線の、一次方程式における周波数kそれぞれについて、最大値及び最小値が示される。公知の形態及び位置の部分空間40の場合、この最大値及び最小値は、対応する直線が部分空間の端部の少なくとも一点で接するという条件から得られる。
【0045】
kについての所与の変調ランプのために最大値を一度、さらに最小値を一度使用する場合に、部分空間40を間に挟み、部分空間40の端部に接する2つの平行する直線が獲得される。図4では、4つの変調ランプの全てについて、これら直線に、g1min、g1max、g2min、g2max、g3min、g3max、g4min、g4maxが付されている。
【0046】
部分空間40内の物体を見出すために、例えば、最初に第1の変調ランプのためのスペクトル内でピークをなし、かつその周波数kが最小値と最大値との間にあるピークを探索してもよい。その後、対応して、第2の変調ランプのためのスペクトル内でピークをなし、かつその周波数kがランプの最小値と最大値との間に存在するピークを探索し、2つの直線が部分空間40内で交わるかを検証する。その後、2つの残った変調ランプのためのスペクトル内でピークをなし、かつ対応する直線が同一の交点を通るピークを探索できるかを検証する。その際、探索は、周波数kについての最大値と最小値との間の周波数区間に限定することが可能であり、これにより、計算コストが著しく低減される。
【0047】
図4で示される例では、簡潔さのために、部分空間40が直線g1min、g1max、g2min、・・・により直接的に画成されるように選択されている。
【0048】
前述した方法で、実際の測定周期において、比較的少ないコストで、従前の測定周期に測定された物体が再び見出される。図3に示される例では、このような物体のうちの3つが存在し、黒く塗りつぶされた点(一致)Tにより表されている。トラッキングモジュール24により生成された予測値を用いて、これら物体のそれぞれについて対応する部分空間40が定められ、これら部分空間のそれぞれについて、対応する物体の実際の位置及び速度を求めるために一致が探索される。
【0049】
図5には、3つの一致Tのための部分空間40が示されており、部分空間内で四重の一致を示す直線が太く描かれている。
【0050】
図6には、図5のこの部分空間40のうちの1つが拡大して示されている。この部分空間40内で一致を示す直線に、再びg1〜g4が付されている。第1の変調ランプのためのスペクトル内の他のピークに対応し、従って直線g1と平行して延びる直線g1’が、太い点線で記されている。直線g1’と直線g2〜g4との交点も、原則的に、一致のための「候補」として問題になる。Pが付されたこれら交点のうちの一点において、実際には(偶然に)、他の物体に対応する直線g3’との三重の一致が生じているように見える。しかし、この点Pは部分空間40の外に存在し、この一致、及び対応する物体は、いずれにせよ、ここで検討される処理ステップにおいては検知することができない。このことは、(図示されない)12番目の物体が、同一の点Pの近傍を通過する直線g4’を付け加えることで(四重の一致)、該当することになる。
【0051】
前述した方法により、従前にトラッキングモジュール24内で追跡された物体も見出される。この例では、この物体は、図3ではTが付され黒く塗りつぶされた3つの点に対応する。しかし、図3はさらに、静止物体を表す6つの点又は一致S(白)を示している。これらの点は、速度v=−v付近の細長い帯状の範囲内にある。さらに、図3には、斜線を付された2つの一致Nがさらに存在し、この一致Nは、従前には見出されなかった「新しい」物体に対応する。以下に解説する処理ステップは、静止物体及び新しい物体の識別に役立つ。
【0052】
トラッキングから分かった全ての物体(一致T)が部分空間40内で識別された後、これら物体に対応する直線(図5の太い線)が、更なる工程のために隠される。図7は、これらの直線の無いd−v空間26を示している。これにより、全体として存在する交点の数が著しく低減されている。
【0053】
最初に、静止物体を表す一致Sが探索される。このために、全面的に観察されるd−v空間の部分が、先に述べた、速度−v付近の帯状の範囲に対応する部分空間42に限定される。この限定によって再び、各変調ランプについて周波数kの最大値及び最小値が定義されることで、これら最大値と最小値との間に存在する周波数帯域に探索を限定することが可能となり、計算コストが更に低減される。さらに、探索が、部分空間42内の四重の一致に限定される。図7の6つの点Sは全てこのような四重の一致であるため、このステップにおいて、全ての静止物体が見つけられる。
【0054】
次のステップでは、一致Nに対応する新しい物体が探索される。このために、d−v空間全体に(厳密に言えば、理想的には問題となる全てのd−vの対を含む、d−v空間の部分に)探索(の範囲)が拡大され、一致Sに対応する全ての直線が再び隠される。図8は、この直線の無いd−v空間を示している。7つの直線が未だ残っており、2つの点Nのうちの1の点の四重の一致と、他の点Nの三重の一致とを形成している。四重の一致に対応する新しい物体は直接的に検知され、対応する4つの直線が図9に示すように隠される。
【0055】
物体の識別のために四重の一致が必要である場合には、第2の点Nを見つけることができない。しかし、図7と図9を比較した場合に、この点Nにおいても、本来は四重の一致が存在したことが分かる。この一致は、この点Nと、点Sのうちの1点(図7の最も右に存在する点S)を通った直線が隠されたことにより見失われている。
【0056】
一方では一致Sの探索が、他方では一致Nの探索が反対の順序で行なわれれば、即ち、最初に点Nが探索され、対応する直線が隠された後に点Tが探索されれば、2つの点Nが物体として識別されるが、代わりに、点Tのうちの1点が物体として検知されなくなる。その限りにおいて、前述した方法は、ある程度探索ステップの順序に依存しており、結果として、順序を不適切に選択した場合には、ミスマッチが生じ、又は真の物体が見落とされる可能性がある。
【0057】
本方法の順序の依存性を緩和するために、前述したステップの後に、「レストマッチング」と呼ばれる更なる別のステップが続く。このレストマッチングでは、以前に隠された直線のうちの少なくとも幾つかが、図10に示されるように再び表示される。これらは、ここでは特に、四重の一致のために欠けている直線に対して平行の直線である。これにより、残っている点N内で、失われた四重の一致が再び形成され、この点が真の物体と同定されうる。
【0058】
この処理方法は、以下の考察に基づいている。ミスマッチは典型的に、4つの異なる物体に対応する4つの直線が偶然に(十分な精度で)一点で交わり、この点において、実際には存在しない更なる別の物体が存在するとみなされることによって生じる。ここで記載される方法の場合、直線は、自身と対応する点が物体として同定されると直ぐに隠されるため、通常は、存在する全ての物体が検知された後には、直線はもはや残らない。しかし、ここで示される例のように、一点で交わる直線が未だ3つ残っている場合、このことは、この交点が真の物体に対応する可能性があり、4番目の直線が偶然にも従前に検知された他の点を通っていたので欠落していることを示唆している。物理的には、このことは、この2つの点に対応するピークが、該当する変調ランプのスペクトル内で、ほとんど同一周波数で重なり、従って2つの別のピークに区別されないので、d−v空間内で2つの点が直線をある程度「共有する」必要があることを意味している。
【0059】
このような場合、2つのピークの重畳から生じたピークが比較的際立っている、即ち、この周波数では、受信されたレーダ信号の比較的高い電力が集中することが想定される。従って、このようなピークの重畳にも関わらず全ての存在する物体を検知するために、レストマッチングにおいて、特に電力の強いピークに対応する直線が再び表示されることが有利である。このようにして、一方では、実際に存在する全ての物体を普通に検知し、他方では、望まないミスマッチを可能な限り防止する、というバランスが達成される。
【0060】
前述した方法では、最初のステップで、トラッキングモジュール24の処理結果として、既知の物体の予測される位置を示唆する結果が既に存在することが前提とされる。レーダセンサの作動の際において、このようなトラッキング物体が未だ存在しない場合には、従って、このステップは実施されない。この特別な場合に、本方法は、静止物体(一致S)の探索を始め、全ての移動物体を新しい物体(一致N)として最初に同定する。
【0061】
しかし、更なる別の実施形態において、同定過程において、各支援機能(例えば間隔制御)に特に関連する間隔範囲及び/又は相対速度範囲をカバーする、d−v空間の部分空間を設定することも可能である。
【0062】
探索ステップ及びその際に利用される探索基準の数及び順序をふまえて、本法を多様に変更することが可能である。例えば、物体の検知のために、四重の一致に代えて、三重の一致でも十分であることが有利でありうる。
【0063】
ランプ勾配の異なるN個の変調ランプによりレーダが作動する一般的な場合について、現在では、探索ステップの以下の順序が特に有利であると見なされる。
1.N重の一致によるトラッキング物体の探索
2.(N−1)重の一致によるトラッキング物体の探索
3.N重の一致による静止物体の探索
4.N重の一致による新しい物体の探索
5.(N−1)重の一致による静止物体の探索
6.(N−1)重の一致による新しい物体の探索
7.レストマッチング


【特許請求の範囲】
【請求項1】
FMCWレーダセンサにおける周波数マッチングのための方法であって、前記レーダセンサにより測定された物体(16、18)をそれぞれに表し、様々な変調ランプ上で獲得される複数の周波数(k)が、前記物体の間隔dと速度vとの可能な組み合わせを表す軌跡(g1〜g4)としてd−v空間(26)内に示され、前記様々な変調ランプ上で測定される前記物体を識別するために、前記様々な変調ランプ上で獲得される周波数(k)に対応する前記軌跡間の一致(T、S、N)が探索される、前記方法において、
最初のステップでは、前記一致(T)の探索が前記d−v空間(26)の部分空間(40、42)に限定され、後続のステップでは、前記探索が前記d−v空間の他の範囲へ拡大されるとともに、前記最初のステップで見出された前記物体に対応する前記周波数(k)が隠されることを特徴とする方法。
【請求項2】
検知された前記物体の前記間隔及び前記速度がトラッキングモジュール(24)により追跡され将来的に予測され、前記部分空間(40)は、追跡される物体の前記予測される間隔及び前記予測される速度を示す少なくとも1つの点(38)の近傍であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記最初のステップの後に、様々な探索基準により一致が探索される複数の連続するステップが続くことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記探索基準は、前記部分空間(40、42)の選択において区別されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記最初のステップに続くステップのための探索基準では、限定された間隔区間及び/又は限定された速度区間により定められる部分空間(42)内で一致(S)が探索されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
車両に組み込まれたレーダセンサのための方法であって、前記d−v空間内に前記物体(16、18)の相対速度が表され、前記部分空間(42)は、前記車両の前記速度と同じである相対速度の近傍の限定された速度区間により定められることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
N個の様々な周波数ランプにより作動するレーダセンサのための方法であって、前記方法の1以上のステップでは、前記N個の変調ランプ上で獲得される周波数(k)の全ての一致が探索されることを特徴とする、請求項3から6のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
N個の様々な周波数ランプにより作動するレーダセンサのための方法であって、前記方法の1以上のステップでは、N−1個の様々な変調ランプ上で獲得される周波数(k)の一致が探索されることを特徴とする、請求項3から7のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法の最後のステップがレストマッチング・ステップであり、前記レストマッチング・ステップでは、前記従前のステップで考慮されていない周波数(k)のうちの少なくとも1つが前記一致の探索で再び考慮されることを特徴とする、請求項3から8のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
スペクトルの電力密度が所定の閾値を超える周波数が再び考慮されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のうちいずれか1項に記載の方法が実施されるFMCWレーダセンサ。
【請求項12】
マイクロコンピュータのマイクロプロセッサ、特に、前記周波数マッチング・モジュール(22)のマイクロプロセッサに、請求項1から10のうちいずれか1項に記載の方法を実行させるためのプログラムコード手段を備えたコンピュータプログラム。
【請求項13】
マイクロコンピュータのマイクロプロセッサ、特に、前記周波数マッチング・モジュール(22)のマイクロプロセッサに、請求項1から10のうちいずれか1項に記載の方法を実行させるためのプログラムコード手段を格納したコンピュータ読取可能なデータ記憶媒体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−522999(P2012−522999A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503935(P2012−503935)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051951
【国際公開番号】WO2010/115651
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(501125231)ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (329)
【Fターム(参考)】