説明

FRPタンク及びその製造方法

【課題】ドーム状の側部のバースト強度と胴部のバースト強度との双方を両立させるFRPタンク及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ライナ(20)と、ライナ(20)の外周に繊維(F)が巻回されて形成されたフープ層(24)及びヘリカル層(22、23)からなるFRP層(21)と、を備え、FRP層(21)の内側層(210)は、ヘリカル層(22、23)のみで構成されているFRPタンク(1)を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FRPタンク及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池システム等に用いられる高圧ガスを貯蔵するタンクの開発が進んでいる。特に、車載用の燃料電池システムにおいては、強度の確保や軽量化等の観点からライナ(内容器)の外周を繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics;以下、「FRP」という)層で補強したFRPタンクが有力視されている。
【0003】
FRPタンクは、例えば、フィラメント・ワインディング法(以下、「FW法」という)を用いて製造される。FW法においては、熱硬化性樹脂を含浸させた樹脂含浸繊維(以下、単に「繊維」ともいう)をライナの周囲に数層から数十層巻回させたのち加熱して樹脂を熱硬化させFRP層を形成する。
【0004】
FRP層としては、ライナの胴部を補強するためのフープ層と、ライナの胴部とドーム状の側部とを補強するためのヘリカル層とを交互に複数層積層した構造が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−32088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような従来のFRP層の構造は、ドーム状の側部のバースト強度と胴部のバースト強度との双方を両立させるという観点からは、未だ十分ではない。とりわけ、フープ層はライナの周方向における剛性が大きいものの周方向の変形に対する許容度が小さいため、ライナの変形による応力を受けやすいFRP層の内層において繊維破断を生じやすく、これによりFRPタンク全体のバースト強度を低下させてしまうという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、ドーム状の側部のバースト強度と胴部のバースト強度との双方を両立させるFRPタンク及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。すなわち、ライナと、該ライナの外周に繊維が巻回されて形成されたフープ層及びヘリカル層からなるFRP層と、を備え、前記FRP層の内側層は、ヘリカル層のみで構成されているFRPタンクを構成する。
【0009】
上記構成によれば、FRP層はフープ層を備えるために高い周方向の剛性を有する。また、ライナの変形による応力を特に受ける内側層が、周方向の変形に対する許容度の大きいヘリカル層のみで構成されているために、ライナの変形による応力を効率的に分散させることができ、これにより高いバースト強度をも実現することができる。
【0010】
なお、本発明において、「内側層」とは、FRP層の最内層から第N層までの層を示す。ここで、Nは、2以上の整数であり、例えば、FRPタンクに要求される特性(剛性、バースト強度等)やタンクの形状等から導出されるヘリカル層の必要最小層数に基づいて決定することができる。また、「繊維」とは、繊維一本を意味するだけではなく、複数の繊維を撚ってなる繊維束や、さらに複数の繊維束を撚ってなる繊維束をも含む。
【0011】
また、上記構成において、前記FRP層の内側層は、高角度ヘリカル層と、低角度ヘリカル層とが交互に積層されているようにしてもよい。
【0012】
上記構成によれば、FRP層の内側層として周方向の剛性が比較的大きくかつ周方向の許容変形量が大きい高角度ヘリカル層を用いるために、FRP層全体の周方向の剛性をさらに向上させるとともに、高いバースト強度を実現させることができる。
【0013】
なお、本発明において、「高角度ヘリカル層」とは、ドーム状の側部と胴部との境界付近を補強する目的で用いる層であり、ライナの軸心方向に対して50度以上90度未満の角度のヘリカル巻にて巻回されて形成された層を示す。「低角度ヘリカル層」とは、ライナの軸心方向に対して50度未満の角度のヘリカル巻にて巻回されて形成された層を示す。
【0014】
また、上記構成において、前記FRP層の外側層は、前記低角度ヘリカル層と、前記フープ層とが交互に積層されているようにしてもよい。
【0015】
上記構成によれば、フープ層によりFRP層全体の周方向の剛性が高めることができる。しかも、上記のとおりFRP層の内側層にてライナの変形応力は分散、吸収される、言い換えれば、FRP層の外側層に配置されたフープ層にかかるライナの変形応力が小さくなるから、周方向の変形に対する許容度の小さいフープ層を用いてもバースト強度を低下させることはない。
【0016】
なお、本発明において「外側層」とは、FRP層の内側層以外の層であり、言い換えれば、FRP層の第N+1層から最外層までの層を示す。
【0017】
また、上記構成において、前記ライナは、円筒上の胴部と、該胴部の少なくとも一方の端部に配置されたドーム状の側部とを備え、前記フープ層は、前記胴部上に積層され、前記高角度ヘリカル層は、前記胴部上及び側部上に積層されているようにしてもよい。
【0018】
上記構成によれば、FRP層の内側層として、周方向の剛性が比較的大きくかつ周方向の許容変形量が大きい高角度ヘリカル層を、バースト強度の向上に対する寄与の大きい胴部の補強にも用いるために、ドーム状の側部と胴部との境界付近を補強するのみならず胴部での高いバースト強度をも実現させることができる。
【0019】
また、本発明の他の構成として、ライナを準備する工程と、前記ライナの外周に繊維をフープ巻及びヘリカル巻にて巻回する巻回工程と、を備え、前記巻回工程は、前記ヘリカル巻にて繊維を所定の層数巻回するまでは、前記フープ巻を行わないFRPタンク製造方法を構成する。
【0020】
上記製造方法により製造されたFRPタンクのFRP層は、内側層がヘリカル層のみで形成される。ライナの変形応力を特に受ける内側層が、周方向の変形に対する許容度の大きいヘリカル層のみで構成されるために、ライナの変形応力を効率的に分散させることができ、これにより高いバースト強度を実現することができる。
【0021】
なお、「所定数」は、例えば、FRPタンクに要求される特性(剛性、バースト強度等)やタンクの形状等から導出されるヘリカル層の必要最小層数に基づいて決定される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ドーム状の側部のバースト強度と胴部のバースト強度との双方を両立させるFRPタンク及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施の形態に係るFRPタンクの構造を示す断面模式図
【図2】本実施の形態に係るFRPタンクを搭載した燃料電池自動車の模式図
【図3】本実施の形態に係るFRPタンク製造装置を示す模式図
【図4】本実施の形態に係るFRP層の断面を示す模式図
【図5】比較例に係る従来のFRP層の断面を示す模式図
【図6】本実施の形態に係るFRP層の歪特性の解析結果を示す図
【図7】比較例に係る従来のFRP層の歪特性の解析結果を示す図
【図8】繊維角度と周方向ヤング率との関係を示す図
【図9】本実施の形態に係るFRP層の歪特性の解析結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態に係るFRPタンク及びその製造方法について説明する。尚、各図面において、同一の部品には同一の符号を付している。
【0025】
(FRPタンクの全体構造)
はじめに、図1を用いて本実施の形態に係るFRPタンクの全体構造を説明する。ここで、図1は、本実施の形態に係るFRPタンクの全体構造を示す断面模式図である。
【0026】
図1に示すように、FRPタンク1は、断面が略楕円体のタンク本体10と、このタンク本体10の長手方向両端部に取り付けられた口金部12とを有する。
【0027】
タンク本体10は、例えば二層構造を有し、内部に貯留空間が形成されるように中空状に構成されたライナ20と、そのライナ20の外面を覆う補強層としてのFRP層21とを有している。貯留空間には、例えば、35MPa〜70MPaの圧縮天然ガスや水素ガス等からなる流体が貯留される。
【0028】
ライナ20は、タンク本体10とほぼ同じ略楕円形状を有し、略円筒状の胴部202と、胴部202の両端に連続するドーム状の側部204とを備えている。側部204には、流体が供給(又は排出)される開口が設けられており、この開口に上述した口金部12が装着され、配管系に接続可能となっている。ライナ20は、ガスバリア性を有し、水素ガス等の外部への透過を抑制する層である。ライナ20は、例えば、金属、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等の硬質樹脂から形成されており、二層以上積層して構成することも可能である。
【0029】
FRP層21は、容器壁の耐圧強度を確保する層であり、樹脂を含有した状態で固化された繊維により形成されている。本実施形態におけるFRP層21は、繊維が胴部202の位置で周方向に巻回されてなるフープ層と、繊維が側部204及び胴部202の双方の位置でフープ層の繊維に対して交差する方向に巻回されてなるヘリカル層とから構成されている。FRP層21の構造についての詳細は後述する。
【0030】
(FRPタンクの利用例)
次に、図2を参照して、上記FRPタンク1の利用例について説明する。ここで、図2は、本実施の形態に係るFRPタンクを搭載した燃料電池自動車の模式図である。
【0031】
図2に示すように、燃料電池自動車100には、例えば3つのFRPタンク1が車体のリア部に搭載されている。FRPタンク1は、高圧ガスタンクであり、例えば、内部に燃料ガスとしての圧縮天然ガスや水素ガス等を貯蔵している。FRPタンク1は、燃料電池システム2の一部を構成し、ガス供給ライン3を通じて各FRPタンク1から燃料電池4に燃料ガスが供給可能になっている。なお、FRPタンク1は、燃料電池自動車100のみならず、電気自動車、ハイブリッド自動車などの車両のほか、各種移動体(例えば、船舶や飛行機、ロボットなど)や定置設備(住宅、ビル)にも適用できる。
【0032】
(FRPタンク製造装置)
次に、図3を参照しながら、上記FRPタンク1を製造するためのFRPタンク製造装置30について説明する。ここで、図3は、本実施の形態に係るFRPタンク製造装置を示す模式図である。
【0033】
FRPタンク製造装置30は、フィラメント・ワインディング(FW)法によりライナ20の周囲にFRP層21を形成する装置である。FRPタンク製造装置30は、繊維束供給部40と、張力調整器50と、繊維束ガイド60と、回転駆動部70と、制御部80とを備えている。
【0034】
繊維束供給部40には、繊維束f1〜f3が巻き付けられた複数(図3においては3つ)のボビン41a〜41cが備えられている。繊維束供給部40は、制御部80の指令に基づいて、繊維束f1〜f3を張力調整器50に送り出す。
【0035】
本実施の形態においては、繊維束f1〜f3には、繊維に半硬化の熱硬化性樹脂を予め含浸させたプリプレグを用いる。こうしたプリプレグは、予め樹脂が含浸されているので繊維密度のばらつきが少ない。またライナ20への巻き付けの際に樹脂がたれ落ちにくく、FRP層の樹脂ムラが生じることも抑制できる。
【0036】
なお、繊維束f1〜f3としては、プリプレグを用いなくともよい。この場合は、例えば、繊維束供給部40から繊維を送り出した後、熱硬化性の樹脂が貯留された樹脂槽に案内して、繊維束f1〜f3に樹脂槽内の樹脂を含浸させるようにすればよい。
【0037】
なお、繊維は、例えば、金属繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、アルミナ繊維、アラミド繊維、綿等の天然有機繊維などである。これらの中では、カーボン繊維、アラミド繊維が特に好ましく、ここではカーボン繊維を用いられている。また、熱硬化性の樹脂としては、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が用いられる。
【0038】
張力調整器50は、繊維束f1〜f3の張力を測定し、その測定結果を制御部80に出力するとともに、繊維束f1〜f3の張力を調整して繊維束ガイド60に送り出す。
【0039】
繊維束ガイド60は、繊維束f1〜f3を1つに束ねることにより繊維束Fを形成し、これをライナ20に供給する。繊維束ガイド60は、ライナ20の長手方向及びそれに垂直な方向に往復可能であり、かつ、ライナ20に対する角度を変更できるように回転可能な状態で設置されている。
【0040】
ライナ20は、その軸心を中心に回転可能となるように、シャフトを介して回転駆動部70に取り付けられる(ライナを準備する工程)。
【0041】
回転駆動部70は可変速モータを有しており、このモータの回転を、シャフトを介してライナ20に伝達することによってライナ20を回転駆動する。回転駆動部70の回転速度は、制御部80からの指令により自在に調整可能である。加圧ポンプ71は、樹脂含浸繊維層21Aの形成中にライナ20が凹むのを防ぐために、ライナ20の内部を加圧する。
【0042】
ライナ20には、繊維束ガイド60から供給される繊維束Fが所定のパターンで巻き付けられ、複数層からなる樹脂含浸繊維層21Aが形成される(巻回工程)。
【0043】
巻回工程は、FRP層の内側層を形成するための第1の巻回工程と、FRP層の外側層を形成するための第2の巻回工程に分かれる。第1の巻回工程においては、繊維束Fは、ライナ20の胴部202及び側部204に高角度ヘリカル巻と低角度ヘリカル巻にて交互に巻回される。第2の巻回工程においては、繊維束Fは、ライナ20の胴部202及び側部204に低角度ヘリカル巻とフープ巻にて交互に巻回される。第1の巻回工程は、巻き始めから巻回数が所定の層数に達するまで実行され、巻回数が所定の層数を超えた後は第2の巻回工程が実行される。
【0044】
なお、本実施の形態においては、所定の層数は、例えば、FRPタンクに要求される特性(剛性、バースト強度等)やタンクの形状等から導出される高角度ヘリカル層の必要最小層数に基づいて決定される。例えば、高角度ヘリカル層の必要最小層数が8層で、高角度ヘリカル巻と低角度ヘリカル巻を1層おきにこの順で実行する場合、所定の層数は16層になる。この場合は、巻き始めから16層目までが第1の巻回工程となり、高角度ヘリカル巻と低角度ヘリカル巻による巻回が交互に実行され、17層目から巻き終わり(例えば60層)までが第2の巻回工程となり、フープ巻と低角度ヘリカル巻とによる巻回が交互に実行される。言い換えれば、高角度ヘリカル巻にて巻回する必要のある層数がすべて巻回された後にはじめて、フープ巻による巻回が行われる。
【0045】
ここで、フープ巻は、繊維束Fをライナ20の胴部202に、ライナ20の軸心に対する繊維束Fの巻付け角度(以下、「繊維角度」ともいう)が実質的に垂直(90度)となるように巻回するものである。一方、ヘリカル巻は、フープ巻に比べて繊維角度が小さいもので、ライナの胴部202に加えてドーム状の側部204を螺旋状に巻回するものである。本実施の形態においては、高角度ヘリカル巻は、繊維角度が50度以上90度未満、より好ましくは、50度以上70度未満である。低角度ヘリカル巻は、繊維角度50度未満、より好ましくは30度以下である。ヘリカル巻における繊維角度は、巻回部の形状及び必要な周方向または軸方向の剛性に応じて層毎に変化させることができる。
【0046】
樹脂含浸繊維層21Aが形成されると、ライナ20は、シャフトから取り外され、例えば、図示しない加熱炉に搬送され、樹脂含浸繊維層21Aの樹脂が熱硬化される(熱硬化工程)。これにより、ライナ20の外側に強度の高いFRP層21を備えたFRPタンク1が製造される。
【0047】
制御部80は、FRPタンク製造装置30の運転を制御する。制御部80は、例えば、繊維束供給部40及び張力調整器50からの繊維の供給、繊維束ガイド60の駆動、ライナ20の回転駆動部70への取り付け、回転駆動部70の回転スピード、巻回後のライナ20の加熱炉への搬送及び加熱炉の温度管理等FRPタンク製造装置30全体を制御するようになっている。
【0048】
(FRP層の構造)
次に、図4乃至図9を参照して、上記FRP製造装置30にて製造されたFRPタンク1のFRP層21の構造を詳細に説明する。
【0049】
図4は、ライナ20の胴部上に形成されたFRP層21の断面を示す模式図である。図4に示すように、FRP層21は、ライナ20の周方向内側に設けられた内側層210と周方向外側に設けられた外側層212とを有している。内側層210は、高角度ヘリカル巻により形成された高角度ヘリカル層22と、低角度ヘリカル巻により形成された低角度ヘリカル層23とが交互に積層している。外側層212は、フープ巻により形成されたフープ層24と、低角度ヘリカル層23とが交互に積層している。言い換えれば、内側層210は、低角度及び高角度ヘリカル層のみで構成され、フープ層を有せず、外側層212は、低角度ヘリカル層とフープ層のみで構成され、高角度ヘリカル層を有しない。
【0050】
一方、図5は、比較例としての従来のライナ90の胴部上に形成されたFRP層91の断面を示す模式図である。図5に示すように、FRP層91には、フープ層94、低角度ヘリカル層93、高角度ヘリカル層92及び低角度ヘリカル層93を一つのパターンとして、最内層からこの順で複数パターンが積層されている。従来のFRP層91では、フープ層94が内側層においても配置されてしまっている。
【0051】
図6は、本実施の形態の上記構造のFRP層21に、ライナ20の変形による所定の応力Pがかかった場合のFEMによる解析結果を示す図である。一方、図7は、比較例にかかる上記従来構造のFRP層91に、ライナ90の変形による上記応力Pがかかった場合のFEMによる解析結果を示す図である。
【0052】
図6及び図7において、横軸は層番号(最内層を1としている)、縦軸は繊維の長手方向(以下、「繊維方向」ともいう)の歪を示している。ここで、繊維方向の歪が最も大きい層が、繊維破断が生じやすい層であり、言い換えれば、繊維方向の歪の最大値が小さければ小さいほど、バースト強度が大きくなる。
【0053】
図6と図7との比較から、本実施の形態のFRP層21の構造は、従来例のFRP層91の構造に比べて、バースト強度が格段に向上していることが分かる。すなわち、本実施の形態のFRP層21の場合には、図6に示すように、繊維方向の歪が各層において分散され、これにより繊維方向の歪の最大値が低く抑えられている(0.011未満)。これに対し、従来例のFRP層91の場合には、図7に示すように、繊維方向の歪が内側の数層に集中しそのため繊維方向の歪の最大値が高い領域(0.011〜0.012)ができてしまっている。上述したとおり、繊維方向の歪の最大値が小さければ小さいほど、バースト強度が大きくなるから、繊維方向の歪が分散され最大値が低く抑えられている本実施の形態のFRP層21のほうが、各段にバースト強度が高いといえる。
【0054】
これは、FRP層21の内側層210に、周方向の変形許容量の小さいフープ層24を用いず、周方向の変形許容量の大きいヘリカル層22、23を集中させたことによるものである。従来のFRP層91では、内側の層に周方向の変形許容量の小さいフープ層94が形成されているので、ここにライナ90の変形応力が集中してしまっている。ライナの変形は例えば、充填時の充填圧による変形である。
【0055】
またフープ層24をFRP層21の外側層212に集中して形成したので、胴部のバースト強度も担保されている。しかも、図8の繊維角度と周方向ヤング率との関係に示すように、高角度ヘリカル層22(繊維角度50度以上の層)は、周方向のヤング率も比較的大きく維持されている。そのため、高角度ヘリカル層をライナ20の側部204の補強のみならずライナ202の胴部の補強にも用いることで、胴部のバースト強度をより高めることができる。すなわち、ドーム状の側部のバースト強度と胴部のバースト強度との双方を両立させることができる。
【0056】
なお、上記FRP層21の構造により、薄肉化も可能になる。図9は、図6の解析結果と同じ条件で、層を3層減らした場合のFEMの解析結果である。同図から分かるように、FRP層21を薄肉化しても、図7の従来例の解析結果と比較して、繊維方向の歪の最大値を低く抑えることができる。すなわち、必要なバースト強度を得つつも、FRP層21全体の層数を減らして薄肉化を実現することが可能になる。
【符号の説明】
【0057】
1……FRPタンク、2……燃料電池システム、3……ガス供給ライン、4……燃料電池、10……タンク本体、12……口金部、20……ライナ、202……胴部、204……側部、21……FRP層、210……内側層、212……外側層、21A……樹脂含浸繊維層、22……高角度ヘリカル層、23……低角度ヘリカル層、24……フープ層、30……FRPタンク製造装置、40……繊維束供給部、50……張力調整器、60……繊維束ガイド、70……回転駆動部、71……加圧ポンプ、80……制御部、90……ライナ、91……FRP層、92……高角度ヘリカル層、93……低角度ヘリカル層、94……フープ層、100……燃料電池自動車、f1…繊維束、f2…繊維束、f3…繊維束、F…繊維束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライナと、該ライナの外周に繊維が巻回されて形成されたフープ層及びヘリカル層からなるFRP層と、を備え、
前記FRP層の内側層は、ヘリカル層のみで構成されているFRPタンク。
【請求項2】
前記FRP層の内側層は、高角度ヘリカル層と、低角度ヘリカル層とが交互に積層されている請求項1に記載のFRPタンク。
【請求項3】
前記FRP層の外側層は、前記低角度ヘリカル層と、前記フープ層とが交互に積層されている請求項2に記載のFRPタンク。
【請求項4】
前記ライナは、円筒上の胴部と、該胴部の少なくとも一方の端部に配置されたドーム状の側部とを備え、
前記フープ層は、前記胴部上に積層され、前記高角度ヘリカル層は、前記胴部上及び側部上に積層されている請求項3に記載のFRPタンク。
【請求項5】
ライナを準備する工程と、前記ライナの外周に繊維をフープ巻及びヘリカル巻にて巻回する巻回工程と、を備え、
前記巻回工程は、前記ヘリカル巻にて繊維を所定の層数巻回するまでは、前記フープ巻を行わないFRPタンク製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−249147(P2010−249147A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95795(P2009−95795)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】